説明

摘み鋏

【課題】
片手しか使えない場合は、一方の手で鋏を持って操作すると、切断すべき対象物を他方
の手で捕捉できないため、小形・軽量の物などは、刃先に触れると移動して切断できない。
【解決手段】
周知の和式鋏や洋式鋏に於いて、鞘の前端部によって刃先を露出することなく覆うため
の一対の鞘を、双方の刃の背側から被せて、各鞘の後部をボルトなどの留具を用いて回動
自在に取付ける。双方の鞘の前端部は、夫々の刃先を覆って向かい合って対峙しており、
刃の開閉と連動して鞘も開閉動作するが、双方の鞘の前端部が開いている時に、その間隙
に入れた対象物を、鋏を閉じる手の動作によって、刃先に触れることなく挟んで摘む。そ
の後の更に閉じる手の動作で、鞘の内側で刃先が閉じて咬み合い切断する。以上の、対象
物を摘んで切断するという、複合した動作を片手のみで行えるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的な布・紙・フィルムなどの素材や、その加工品(袋など)の、切断に
使用するための鋏に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、これらの切断に使用する鋏みは、各種の和式鋏や洋式鋏などの、周知の鋏が
あり、両手が使える健常者の場合は、これらの鋏を一方の手で持って操作し、他方の手で
切断すべき対象物を把持できるので、通常の作業・動作に於いて問題は無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−167139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
片方の手の運動機能を失った人の場合は、小型・軽量で滑り易いポリ袋などの対象物に、切り込みを設けるなどの場合は、使える方の手で鋏を持つと、対象物を手で捕捉できないため、刃先に触れただけで対象物は容易に移動し(逃げる)、片手のみの切断は容易でない。又、両手が健常な人でも、対象物が、手が届かない場合(高い所や狭い所に在る場合)は、手で把持出来ないため、片手だけの作業は困難となる。
【0005】
更に、一般的に鋏の刃先は鋭利に尖っており、衣服のポケットに入れて携帯する場合な
どは、指を傷付ける恐れがあり、又、幼児などの年少者が手に触れる場合も、露出した刃
先は危険である。このために、刃先が露出しない安全な鋏が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に於ける、周知の和式鋏(にぎり鋏)を用いた事例につて以下に述べる。刃先を
露出することなく覆うための鞘であり、その前端部形状は、刃先の外形より突出した長さ
と縦幅の大きさとし、その断面形状はU字溝形とした、烏の嘴の如き形状と強度からなる
一対の鞘を用意する。この鞘を夫々の刃の背側から被せて刃先を覆って設け、各鞘の後部
をボルトなどの留具を用いて回動自在に取付ける。更に、回動する鞘の前端が、常に刃先
を覆う方向に押圧するバネ性機構を、各鞘の後端部に設けた構成とする。
【0007】
以上の構成の鋏に於いて、双方の鞘の外側を手で握ることにより、刃と鞘は連動して開
閉動作し、双方の鞘の前端部は、刃先を覆って互いに向い合って開き対峙しており、その
間隙に切断すべき対象物を入れて後、手で握る力を加えて行くと、双方の鞘前端部が閉じ
られて、対象物は刃に触れることなく挟んで摘まれる。その後、更に握る力を加えると、
刃が閉じる動作の妨げにならないように鞘は回動し、その鞘の内側で双方の刃先が閉じて
咬み合い対象物を切断する。以上の動作により、片手のみの操作で対象物を摘んで切断で
きる。しかもその切断後も、握る力を抜くまでは対象物を摘んで離さない。更に、刃が開
閉動作する全ての状態に於いて、鞘の前端部が常に刃先を露出することなく覆っていて、
怪我の恐れが無く安全である。
【0008】
本発明の第2の手段は、上記の鞘の前端部形状を、対象物をより摘み易くする為のもの
であり、例えば、卓上などに置かれている対象物を摘むには、一方の鞘前端を対象物の下
の間隙に滑り込ませる必要があり、それには、先端がピンセットの如く薄い形状である事
が望ましい。このため一方の鞘前端部の縦幅形状は、覆った刃先より突出させる縦幅を、
刃先を露出させない限度に狭くした形状として、狭い間隙への挿入を容易にし、他方の鞘
前端部の縦幅形状は、覆った刃先より大きく突出させた幅の広い縦幅形状として、対象物
の摘み易さを維持したものである。
【0009】
本発明の第3の手段は、摘む対象物の形状・素材に適応させた鞘の前端部形状としたも
ので、例えば、対象分野が紙や布やフィルムなどの形状・素材の場合は、雑食性に富む
烏の嘴の如き汎用的形状の鞘とし、又、対象分野が薄くて柔らかい布や水草の如き形状・
素材の場合は、鴨の嘴の如き扁平形状とし、更に、対象分野が、細い枝の如き棒状の形状・素材分野の場合は、鷹の嘴の如き鉤形状とし、これら各分野の鞘の中から、扱う対象物に適した形状を選んで交換して使用することにより、応用性を拡げたものである。
【0010】
本発明の第4の手段は、上記一対の鞘を、加圧すると屈曲・変形する柔軟で弾力性を有
したゴム等の如き素材で構成し、更に、その前端の正面部には、草食動物である兎などの
唇の如き裂け目を設けた形状とし、これらの鞘を双方の刃の背側から被せて設け、鞘内部
のU字溝底面を、刃の背面に接着剤等によって、固着して取付けた構成とする。本構成に
より、双方の刃と鞘は手で握る力によって開閉し、開いた鞘前端部の間隙に入れた対象物
は、刃先には触れることなく柔軟素材からなる鞘前端の縁によって摘まれる。更に握る力
を強めることによって、双方の鞘前端部は更に閉じられ、正面部の裂け目から両側に拡げ
て屈曲し、覆った刃の閉じる動作の妨げにならないように変形して、その鞘の内側で双方
の刃先が咬み合って対象物を切断する。その切断後も、握る力を抜くまでは対象物を摘ん
で離さない。
【0011】
以上の柔軟素材を用いた鞘の構成によって、対象物を摘みその後で切断するという動作
を、片方の手のみで実行出来て、しかも、鞘によって刃先は常に覆われていて安全である。更に、鞘柔軟素材を用いることによって、鞘前端部の形が、当接する対象物の形状に柔軟に適応変形することによって、鞘前端部を適応させるための各種形状を不要とし、更に、鞘を回動させないために、そのための留具を不要としている。
【0012】
尚、以上の構成手段は、事例として和式鋏を用いた場合について述べたが、他の洋式鋏
等を用いる場合でも、同様機能を容易に実現できる事は勿論である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の摘み鋏による第1の効果は、刃先を覆って刃に取付けた鞘により、対象物を刃
先に触れさせることなく摘む動作と、摘んだ対象物を切断する動作とを、片手のみの操作
で可能とした事であり、第2の効果は、夫々の刃の如何なる状態に於いても、常に刃先を
露出させない安全性を具現したことである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示す図で、(A)は全体側面図、(B)はそのA−A断面図。
【図2】各動作の状態説明図で、(A)は対象物を摘んだ状態、(B)は対象物を切断している状態、(C)は鞘の前端部を大きく拡げた状態の図。
【図3】洋式鋏による他の実施例を示す図。
【図4】各種の鞘の形状を示す図で、(A1と2)は烏の嘴形状の鞘、(B1と2)は鷹の嘴形状の鞘、(C1と2)は鴨の嘴形状の鞘。
【図5】柔軟性の素材を用いた実例を示す図で、(A1と2)は対象物を摘んだ状態、(B1と2)は対象物を切断している状態の図。
【符号の説明】
【0015】
6は、対象物の一部分。
10は、和式鋏の刃を開く方向に働くバネ性部。
11、12は和式鋏の各々の刃。
13、14は洋式鋏の各々の刃で、15は、一方のハンドル部。
21、22は和式鋏の各々の鞘で、21a、22aはバネ性部。
23、24は洋式鋏の夫々の鞘で、23a、24aはバネ性部。
25a、25bは烏の嘴形状の鞘。
26a、26bは鷹の嘴形状の鞘。
27a、27bは鴨の嘴形状の鞘
28a、28bは柔軟素材からなる鞘で、29a、29bはその前端部の裂け目。
31、32、33、34は刃と鞘を回動自在に取付ける留め具。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例について図面を用いて説明する。
【0017】
図1(A)は全体図で、2枚の刃11と12を、バネ性材の結合部10で結合した周知
の和式鋏(にぎり鋏)であり、結合部10のバネ力により、双方の刃先は図示の如く通常
は開かれている。この和式鋏の刃11と12の夫々の背側から、2つの鞘21と22を、
被せて設ける(一方の鞘22は、内部の刃12が見えるように切欠いて描いており、その
破断面を斜線で示している)。他方の図(B)は、図(A)のA−A断面であり、鞘の断面形状は図示の如くU字溝形状で、その溝幅は2枚の刃が重なって収納できる横幅である。この鞘の前端部形状は、刃先を露出させること無く覆うために、図示の如く刃先外形より突出させた長さと縦幅形状であり、この鞘の後部を、留具31と32を用いて、刃11と12に回動自在に取付ける。この構成により、鞘全体は刃と連動して開閉し、且つ、鞘の前端部は刃先を覆いながら留具を支点として回動する。この回動する鞘の前端部は、鞘の後端部に設けたバネ性部21aと21bによって、常に刃先を覆う方向に、回動支点を介して押圧されている。
【0018】
次に、本鋏の動作を図1と図2を用いて説明する。先ず図1で向い合って開いている鞘
21と22の前端部の間隙に、対象物6を入れて、図2(A)の双方のB⇒点を握って加
圧すると、図示の如く両方の鞘21と22の前端部が閉じて、対象物6を挟んで摘む(こ
の時、双方の刃先11と12はまだ開いた状態である)。この後、双方のB⇒を握る力を
強めて行くと、刃が閉じる動作の妨げにならないように鞘は回動し、図2(B)に示す如
く鞘21と22の内側で双方の刃先が閉じて咬み合い、対象物6は切断される。更に、握
る力を抜くまで鞘の前端は対象物を摘んで放さない。以上の説明の如く、これらの動作は
全て片手のみで行える、と共に、動作・非動作中の如何なる状態に於いても、常に刃先は、鞘前端部によって覆われていて安全である。
【0019】
尚、対象物を双方の鞘前端部の間に入れる際に、対象物が大きくて、鞘前端の開口間隔
が不十分な場合は、図2(C)で示す鞘21の後端のバネ性部21a(C⇒点)を指で押
圧すると、支点31を介して鞘21が回動し、その前端部が図示の如く開き、開口間隔を
通常よりも拡げる事ができる。
【0020】
上記一対の鞘の前端部形状は、図1(A)に示す如く、双方の大きさ形状が異なったも
のとしており、これは、置かれている対象物を摘み上げる場合に、片方の鞘の前端部を対
象物の下に滑り込ませる必要があり、そのためにはピンセットの如く先端形状が薄い事が
望ましいため、図1(A)に示す如く、一方の鞘22の前端部は、鞘の目的である刃先を
覆って露出させない限度に、刃先より突出させている縦幅を狭く(薄い)ものとする。こ
れにより、向かい合う双方の鞘先端の間隔が広くなって、対象物に接し難くなるため、他
方の鞘21は、対象物により触れ易い形状とするために、刃先より突出させた前端部の縦
幅を広く(大きく)した形状としている。
【0021】
鳥類の嘴形状は、夫々が主とする餌の、形状・素材に適応した嘴形状としている如く、
本鋏に於いても、扱う各種の対象物に適応した鞘の前端形状とすべく、必要に応じた交換
を可能とする。その第1は、最も一般的な対象物である紙や布やフィルムなどの、形状・
素材分野に対応させる汎用的な形状としては、図4(A1)(A2)に示す鞘25a・25bの如き、雑食性に富んだ烏の嘴に似た流線形状とし、その第2は、対象物が薄くて柔らかい布や水草の如き形状・素材分野に対しては、図4(B1)(B2)に示す鞘26a・26bの如き、水草等を餌とする鴨の嘴の如き扁平形状とし、その第3は、対象物が枝の如き棒状の形状・素材分野に対しては、図4(C1)(C2)に示す鞘27a・27bの如き、鷹の嘴の如き鉤形とし、これらの各一対の鞘を、扱う対象物に応じて交換して使用する。尚、その交換方法は、鞘全体を留具により交換する方法や、又は、嵌合構造により前端部分のみを差し替えて交換する方式も容易である。
【0022】
次に、上記一対の鞘と目的を同じとしながら、使用する素材が異なる他の実施例につい
て、図5を用いて説明する。(A1)と(B1)は側面図で、(A2)と(B2)はそれらの正面図である。一対の鞘28aと28bの素材は、加圧すると屈曲・変形する柔軟で弾力性を有したゴム等の如きものであり、外形は(A1)に示す如き形状で、刃先を露出することなく覆う長さと縦幅の大きさとし、前端部の正面には、例えば、(A2)に示す如き形状の裂け目(スリット)29a・29bを設けてあり、鞘の断面はU字溝形状である。これら一対の鞘を、刃11と12の背側から被せて設けて、鞘内部の溝底面を刃の背面に、接着剤等によって固着して取付ける。
【0023】
更に、この鞘の動作・作用について図5を用いて説明する。双方の鞘28aと28bが
開口している時に、その間隙に対象物6を入れた後、両方の鞘の外側B⇒付近を手で握って、弱く加圧すると、鞘前端部が閉じられて対象物6を挟んで摘み、図5(A1)(A2)に示す状態となる。この時点では対象物6を挟んだ圧力が小さいために、図(A1)(A2)に示す如く、対象物を鞘前端縁の屈曲・変形は少なく、双方の刃先はまだ開いている。この後、手で握る力を強めると、図5(B1)(B2)に示す状態となり、鞘の正面部の裂け目から両側に拡げて屈曲して、覆った刃の閉じる動作の妨げにならないように変形し、その鞘の内側で双方の刃先が閉じて咬み合って対象物を切断する。その切断後も、握る力を抜くまでは対象物を摘んで離さない。以上の柔軟素材を用いた構成・機能によって、対象物を摘んで切断する動作を片手のみで実行できると共に、そのときに対象物に当接する鞘前端部の形状が、柔軟に適応変形することによる特長と共に、鞘を回動させるための留具を不要としている。
【0024】
図3は、洋式鋏を用いた実施例を示したもので、2枚の刃13と14を留め具4で回動
自在に取付け、夫々の刃を開閉動作させるためのハンドル15(一方のハンドルは省略し、図示していない)に、手の指を入れて操作する周知の洋式鋏であり、前記、和式鋏で用いた一対の鞘と、目的構成を同様とした一対の鞘23と24を、夫々の刃13と14の背側から被せて刃先を覆って設け、各鞘の後部を、留具33と34を用いて回動自在に取付けた構成により、刃の開閉動作と連動して夫々の鞘の前端部が開閉し、刃先を覆った双方の鞘の前端部で対象物を摘み、その後に、鞘の内側で双方の刃先が咬み合って対象物を切断するもので、これらの動作を片手のみで行える。以上の基本的な動作・機能は、前述の和式鋏を用いた場合と全く同様である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前端部の形状を、刃先を露出させずに覆う大きさとするために、刃先の外形より突出し
た長さと縦幅の形状とし、断面はU字溝形状とした、一対の鞘を用意し、これらを向い合
う刃の背側から被せて設け、各鞘の後部をボルトなどの留具を用いて、回動自在に取付け、更に、回動する鞘が常に刃を覆う方向に押圧するバネ性機構を設けた構成により、対象物を刃先に触れることなく鞘で摘み、切断時には鞘が回動して妨げとならない、ことを特徴とする摘み鋏。
【請求項2】
上記一対の鞘に於いて、一方の前端部の縦幅形状は、覆った刃先よりも突出した縦幅を、刃先を露出させない限度に狭くした形状として、狭い間隙への挿入を容易にし、他方の前端部の縦幅形状は、覆った刃先よりも大きく突出させた幅の広い縦幅形状として、対象物をより摘み易くした、請求項1記載の摘み鋏。
【請求項3】
上記一対の鞘に於いて、鞘の前端部形状が、烏の嘴の如き流線形状や、鴨の嘴の如き扁
平形状や、鷹の嘴の如き鉤形状などとした、各種形状からなる夫々一対の鞘とし、扱う対
象物に適応した前端部形状の物を選び、鞘全体か又は前端部分のみを、交換可能とした請
求項1記載の摘み鋏。
【請求項4】
上記一対の鞘に於ける、鞘の構成素材に、加圧すると屈曲・変形する柔軟で弾力性を有
したゴム材等を用いたものとし、その前端の正面部に、兎の唇の如き裂け目を備えた形状
として、これらの鞘を双方の刃の背側から被せて、鞘内部のU字溝底面を刃の背面に固着
して設けた構成により、対象物を刃先に触れることなく鞘で摘み、切断時には鞘が屈曲・
変形して妨げとならない、ことを特徴とする請求項1記載の摘み鋏。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−5663(P2012−5663A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−144434(P2010−144434)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(710006839)
【Fターム(参考)】