説明

摩擦を低減する方法

本発明は、少なくとも2つの物体の間の摩擦を低減する方法を対象とする。本発明の方法は、共有結合したコーティングを有する前述の少なくとも2つの固形体の少なくとも1つの固形体の表面を提供する工程であって、当該表面が前述の少なくとも2つの固形体のもう一方に接触しており、前述のコーティングが少なくとも1種のポリマーを含む、工程と、当該コーティング上に液体を供給する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つの物体の間の摩擦を低減する方法を対象とする。
【背景技術】
【0002】
2つの物体が相対的に摺動する場合、この摺動に対する抵抗を摩擦と呼ぶ。したがって、摩擦は、1つの対象物の表面が別の対象物の表面と接触しているときの動きに抵抗する力である。摩擦のレベル、すなわち、計測に基づいて算出された摩擦係数は、操作条件、両方の対象物の表面の相互作用、および環境に応じて変化する。摩擦は、連続的に動く装置において、エネルギーを浪費するために非常に迷惑なものであり得る。このエネルギー損失の大部分は熱として現れるが、ごく一部は、摺動する表面からの物質の損失を引き起こし、ひいては、これがさらなる浪費の原因となり、すなわち、メカニズム全体の摩耗の原因となる。
【0003】
様々な対象物の、相互作用する表面の間の摩擦を許容可能な値まで低減するために、慣習的に潤滑剤が適用される。摩擦を低減し、長期間にわたってこの特性を維持し、それによってメンテナンス費用を減らす新規の潤滑剤の開発に、非常に興味が持たれている。
【0004】
従来の潤滑剤は、相対運動において部品同士の接触を防ぎ、それによって摩擦および摩耗を低減する。通常は、潤滑剤として原油由来のオイルが使用される。多くの場合、様々な化学添加剤を潤滑油に添加することが望ましい。そのような添加剤としては、粘度指数向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、耐摩耗添加剤および摩擦低減添加剤、並びに分散剤が挙げられる。通常、潤滑剤は、約90%の基油および10%未満の添加剤を含有する。
【0005】
潤滑剤は、必ずしも液体である必要はない。非液体潤滑剤としては、グリース、粉末(例えば、乾燥グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:polytetrafluorethylene)、二硫化モリブデン、タルク、窒化ホウ素)、PTFEテープ、エアクッションなど、が挙げられる。
【0006】
潤滑剤は、一般的に、摩擦の量を大幅に減少させるが、添加剤の存在下においてでさえ、常に所望するレベルの摩擦低減を提供するわけではない。したがって、潤滑剤の不具合が生じ得る。そのため、依然として、より高いレベルでの固体対象物間の摩擦低減を可能にする方法および新規のタイプの潤滑剤が、当技術分野において必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、このニーズを満たすことであり、並びに2つ以上の固形体の間の摩擦を低減することができ、同時に、摩耗を防ぐかまたは少なくとも最小限に抑える方法を提供することである。
【0008】
この目的は、高分子コーティングと液体との特定の組み合わせを用いることによって満たされ得るということが見出された。
【0009】
したがって、本発明の第一の態様は、
−共有結合したコーティングを少なくとも2つの固形体の少なくとも1つの固形体の表面に提供する工程であって、当該表面が前述の少なくとも2つの固形体のもう一方に接触しており、前述のコーティングが少なくとも1種のポリマーを含む、工程と、
−当該コーティング上に液体を提供する工程と
を含む、前述の少なくとも2つの固形体の間の摩擦を低減する方法を対象とする。
【0010】
驚くべきことに、本発明者らは、コーティングおよび液体が、それらがお互いに可動接点にある場合、2つの物体の間の摩擦を低減することにおいて相乗的に機能するということ、すなわち、コーティングと液体の組み合わせが、2つの様々な対象物の間において、コーティングまたは液体単独の摩擦低減効果の合計に基づいて予想されるよりも低い摩擦を生じるということを見出した。
【0011】
当該コーティングは、持続的に少なくとも1つの固形体の表面に結合し得る。したがって、摩擦係数の低下および望ましい摩擦状態は、長期間維持され得る。
【0012】
当該コーティングが少なくとも1つの固形体の表面に施用されていれば、任意の所望の時に液体を添加することによって、持続的に摩擦特性の低下を誘起することができる。さらに、当該摩擦特性は、当該液体を除去することにより(例えば、エバポレーション、溶媒抽出などにより)、任意の所望の時に元に戻すことができる。
【0013】
コーティングは 様々な液体と相互作用し得る様々なポリマーを含み得る。したがって、摩擦を低減するために、既存の液体環境(例えば、生物医学的環境など)に適合するようにコーティングを調整することができる。
【0014】
好ましくは、当該コーティングは、液体との強い化学的および/または物理的な相互作用を有する。理論によって束縛されることを望むものではないが、コーティングと液体との組み合わせは、低粘性であるがいくぶん固定化された、潤滑性を改善する層を提供するものと考えられる。
【0015】
当該コーティングはポリマーを含む。好ましくは、このポリマーは有機ポリマーである。当該ポリマーは、好適には、ホモポリマーまたはコポリマー、例えばブロックコポリマーなど、であり得る。ポリマーおよび/またはコポリマーの混合物もしくはブレンドも、当該コーティングにおいて使用することができる。当該ポリマーは、親水性または疎水性であり得る。好ましくは、疎水性コーティングは、疎水性の液体と組み合わされ、親水性コーティングは、親水性の液体と組み合わされる。一例として、より疎水性の液体、例えば、オイルまたはある特定の炭化水素またはシリコーンオイルなどが使用される場合、当該ポリマーは、好ましくは疎水性を有する。多種多様の好適なポリマーが使用され得る。
【0016】
固形体の表面に共有結合するために、本発明のポリマーは、少なくとも1種の官能基を有し得る。好適な官能基は、例えば、酸、アシルハロゲン、アクリレート、アルコール、アルデヒド、アルケン、アルキン、アミン、アジド、カルボキシル、シアニド、エポキシド、ハロゲン、イミン、イソシアネート、ケトン、シラン、チオール、ビニル、およびビニルエーテルから成る群から選択することができる。
【0017】
好適な疎水性ポリマーの例としては、ポリシロキサン、ペルフルオロポリエーテルおよび他のフルオロポリマー、ポリスチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリオキシブチレン、(水素化された)ポリイソプレンもしくはポリブタジエン、ポリビニルクロリド、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラヒドロフラン(PTHF:polytetrahydrofuran)、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスルホン、ポリビニルエーテル、およびポリ(プロピレンオキシド)、並びにそれらのコポリマーが挙げられる。
【0018】
好適な親水性ポリマーの例としては、ポリオキサゾリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリエチレンオキシド−コ−ポリプロピレンオキシドブロックコポリマー、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(N,N−ジアルキルアクリルアミド)、ポリアシルアルキレンイミン、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、例えば、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA:hydroxyethyl methacrylate)、ヒドロキシエチルアクリレート、およびヒドロキシプロピルアクリレートの(ホモ)ポリマーなど、ポリオール、並びに上記のポリマーの2種以上の共重合性混合物、天然ポリマー、例えば、多糖およびポリペプチドなど、並びにそれらのコポリマー、並びに必要に応じて多価イオン性分子、例えば、ポリアリルアンモニウム、ポリエチレンイミン、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、ポリアニリン、スルホン化ポリアニリン、ポリピロール、およびポリピリジニウムなど、ポリチオフェン−酢酸、ポリスチレンスルホン酸、両性イオン分子のポリマーおよびコポリマー、並びに高分子電解質が挙げられる。
【0019】
物体の表面へのポリマーの共有結合は、国際公開第2007/021180号に記載されているようにして実現することができる。なお、これによって当該刊行物は、参照により本明細書に組み込まれる。したがって、従来の湿式の化学技術に加えて、化学真空蒸着(CVD:Chemical Vapour Deposition)、プラズマ蒸着、プラズマアシストグラフト化、またはプラズマ重合などの技術を使用することができる。
【0020】
好ましい実施形態において、当該ポリマーは、湿式の化学技術によって物体の表面に付着される。当該ポリマー材料は、好適には、1モノマーあたり比較的高濃度のペンダント型反応性部分、例えば、1モノマーあたり少なくとも0.3のペンダント型反応性部分、好ましくは1モノマーあたり少なくとも0.5のペンダント型反応性部分、さらにより好ましくは1モノマーあたり少なくとも1つのペンダント型反応性部分を含む。当該ペンダント型反応性部分は、好ましくはカルボキシル部分である。さらに、好ましくは、当該ポリマーが施用される物体の表面をアミン基によって官能基化する。さらにより好ましくは、当該ポリマー材料は、ポリ(アクリル酸)ポリマーまたはそれらの誘導体であり、当該ポリマーが施用される物体の表面を3−アミノプロピルトリアルコキシシランによって官能基化する。
【0021】
当該液体は、当該コーティングが2つ以上のポリマー層を有する場合に、コーティングによって、より良好に保持されることが見出された。異なるポリマー層は、お互いに共有結合していてもよいし、または共有結合していなくてもよい。当該異なるポリマー層は、異なるポリマーまたは同一のポリマーを含んでいてもよい。
【0022】
有利には、当該コーティングは、1μm未満の膜厚を有し得る。好ましくは、当該コーティングは、100nm未満の膜厚を有し得る。したがって、本発明により摩擦において満足できる低下を得るには、ごく少量のコーティング材料で十分である。さらに、比較的薄い層は、固形体の表面に対してより良好に付着するということが見出された。その上、薄膜を有することにより、当該固形体が、その特徴的特性を維持しつつ、表面特性だけが変更されるという利点がある。通常、当該コーティングの膜厚は、少なくとも5nmである。
【0023】
好ましい実施形態において、表面に共有結合したポリ(アクリル酸)ポリマー(またはその誘導体)は、第一級または第二級アミン部分のどちらかを含む疎水性または親水性ポリマーのどちらかとの反応によって改質される。一例として、これらに限定されるわけではないが、このために、アミノ官能基化ポリエチレングリコールを用いてもよい。このようにして、2つのポリマー層を含むコーティングを作製する。別の実施形態では、コーティングされたポリマー層(単数または複数)の事後改質が実現され得る。
【0024】
好ましくは、当該コーティングは、ポリ(アクリル酸)ポリマー(PAA:poly(acrylic acid))またはその誘導体を含む。そのようなコーティングは、液体としての水と組み合わせた場合に、摩擦において著しい減少を生じる。この組み合わせでは、ポリ(アクリル酸)ポリマーの強力な吸収特性のために、水がコーティングによって非常によく保持されることが見出された。コーティングと水との組み合わせを有する物体の表面に限られた量の水を施せば、使用者が濡れることもなく、濡れていると感じることもない。この2つの特性(濡れているとは思えないが、濡れが保持されている)が、この組み合わせを非常に魅力的にしている。
【0025】
親水性ポリマーの場合、当該コーティングにおけるポリマーの数平均分子量は、好適には、少なくとも2,000g/mol、好ましくは少なくとも5,000g/mol、より好ましくは10,000〜2,000,000g/molの範囲であり得る。疎水性ポリマーの場合、当該コーティングにおけるポリマーの数平均分子量は、好適には、少なくとも500g/mol、好ましくは2,000〜50,000g/molの範囲、より好ましくは5,000〜10,000g/molの範囲であり得る。
【0026】
当該液体は、好ましくは疎水性または親水性である。当該液体は、潤滑剤であってもよい。本発明の方法における好適な液体の例としては、水、水性媒体、有機流動体、シリコーン流動体、これらの混和性の組み合わせ、またはこれらの液体を含む溶液が挙げられる。
【0027】
著しい摩擦の減少を生じる、ポリマーと液体との好ましい組み合わせの例としては、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)と水または水性媒体、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)とシリコーンオイル、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)とC〜C20アルカン、ポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)と水または水性媒体、ポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)とシリコーンオイル、ポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)とC〜C20アルカン、ポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)と水または水性媒体、ポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)とシリコーンオイル、ポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)とC〜C20アルカン、ポリオレフィン(および/またはその1種以上の誘導体)と水または水性媒体、ポリオレフィン(および/またはその1種以上の誘導体)とシリコーンオイル、ポリオレフィン(および/またはその1種以上の誘導体)とC〜C20アルカンが挙げられる。好適なC〜C20アルカンとしては、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、およびオクタデカンが挙げられる。好適なポリオレフィンとしては、ポリエチレンおよびポリプロピレンが挙げられる。
【0028】
ポリマーと液体との特に好ましい組み合わせは、PAA(および/またはその1種以上の誘導体)と水(または水性媒体)、ポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)と水(または水性媒体)、ポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)とシリコーンオイル、ポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)とシリコーンオイル、ポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)とドデカン、ポリエチレン(および/またはその1種以上の誘導体)とシリコーンオイル、およびポリエチレン(および/またはその1種以上の誘導体)とドデカンである。
【0029】
ポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)、ポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)、またはポリオレフィン(それのおよび/または1つ以上誘導体)が、PAA(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上に提供されている場合に、良好な結果が得られた。
【0030】
したがって、好ましい実施形態において、コーティングと液体の以下の組み合わせ:ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングと水または水性媒体、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングとシリコーンオイル、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリエチレングリコール(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングとC〜C20アルカン、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングと水または水性媒体、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングとシリコーンオイル、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリシロキサン(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングとC〜C20アルカン、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリオレフィン(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングと水または水性媒体、ポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリオレフィン(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングとシリコーンオイル、並びにポリ(アクリル酸)ポリマー(および/またはその1種以上の誘導体)の層の上にポリオレフィン(および/またはその1種以上の誘導体)の層を含むコーティングとC〜C20アルカン、を施用する。
【0031】
本発明のコーティングと組み合わされる液体の量は変化し得る。それぞれの液体に対し、当該コーティングの最大積載量におおよそ等しい量を使用することが好ましい。通常、コーティングと組み合わされる液体の量は、乾燥コーティング1グラムあたり0.05〜10gの範囲、好ましくは乾燥コーティング1グラムあたり0.1〜5g、より好ましくは乾燥コーティング1グラムあたり0.2〜1gの範囲であろう。
【0032】
当該少なくとも2つの固形体は、同一または異なる材料によるものであってもよい。好適には、当該少なくとも2つの固形体は、プラスチック、金属、合金、ガラス、織物、金属酸化物、セラミック、木材、生体組織(皮膚)、および粘膜から成る群から選択される1種以上の材料を含む。コーティングされたガラスおよびシリコーンゴムによってそれぞれ作製された2つの固形体、並びにコーティングされた織物およびシリコーンゴムによってそれぞれ作製された2つの固形体を用いた場合に優れた結果が得られた。
【0033】
当該少なくとも2つの固形体の1つ以上の固形体の表面は、好適な結合分子を介してポリマーを固形体に共有結合させるために改質された表面であり得る。通常は、当該物体の表面は、酸、アシルハロゲン、アクリレート、アルコール、アルデヒド、アルケン、アルキン、アミン、アジド、カルボキシル、シアニド、エポキシド、ハロゲン、イミン、イソシアネート、ケトン、シラン、チオール、ビニル、およびビニルエーテルから成る群から好適に選択することができる有機化合物によって改質することができる。好適な結合分子としては、アミノプロピルトリアルコキシシラン、アミノプロピルトリクロロシラン、およびヘテロ官能性シランベースのカップリング剤が挙げられる。
【0034】
本発明の方法は、例えば、織物と皮膚との間の摩擦を減らすためにスポーツウエアにおいて、人工雪とスキー用具との間の摩擦を減らすために人工雪のスキーコースに対して、皮膚との摩擦を低減するために床擦れ患者用のブランケットおよびパジャマのような衣服に、生体組織との摩擦を減らすためにカテーテル、ガイドワイヤ、内視鏡、および他の医療用具に、並びに他の用途にも使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】乾燥状態における接触圧力98kPaでの摺動速度およびプレート表面に対する最大摩擦係数fmaxを示す。
【図2】乾燥状態における接触圧力29kPaでの摺動速度およびプレート表面に対する最大摩擦係数fmaxを示す。
【図3】水の存在下における接触圧力98kPaでの摺動速度およびプレート表面に対する最大摩擦係数fmaxを示す。
【図4】水の存在下における接触圧力29kPaでの摺動速度およびプレート表面に対する最大摩擦係数fmaxを示す。
【図5】結果を示す。
【図6】摩擦係数を示す。
【図7】液体として水を用いて得られた摩擦係数を示す。
【実施例1】
【0036】
この実施例では、続いてアミノプロピルトリメトキシシラン結合基およびポリ(アクリル酸)ポリマーをガラス表面に共有結合させることによりガラス表面を改質する方法について説明する。
【0037】
予備洗浄したガラス基材を、イソプロピルアルコール中における5%の3−アミノプロピルトリメトキシシランの新鮮なコーティング液に浸し、超音波浴において20分間超音波処理した。当該基材を水で十分に洗浄し(3回)、その後オーブンにて60℃で1時間乾燥した。このようにして官能基化した基材を、ポリ(アクリル酸)ポリマー(Mwは1,080,000;Mnは135,000)の水溶液(0.5wt%)に浸漬し、オーブンで減圧下(<100mbar)において100℃で4時間乾燥した。物理吸着していて化学的に結合はしていないポリ(アクリル酸)ポリマーを除去するために、当該基材を水で十分に洗浄した(3回)。コーティング表面の水の接触角測定では、70〜80度の前進接触角が示され、予備洗浄されたガラス基材の前進接触角は、洗浄方法に応じて20〜40度の間であることが示された。
【実施例2】
【0038】
この実施例では、続いてアミノプロピルトリメトキシシラン結合基、ポリ(アクリル酸)ポリマー、およびアミノ官能基化ポリエチレングリコール(PEG 5000;Mwは5,400;Mnは5,000)をガラス表面に共有結合させることによりガラス表面を改質する方法について説明する。
【0039】
実施例1に記載されているようにして調製したポリ(アクリル酸)ポリマー改質ガラス基材を用い、さらに、当該ガラス基材を1%の単官能基化されたアミノ−PEG5000水溶液に浸漬し、オーブンで減圧下(<100mbar)において120℃で1時間乾燥した。物理吸着していて化学的には結合していないPEG5000を除去するために、当該基材を水で十分に洗浄した(3回)。コーティング表面における水の接触角測定では、20度未満の前進接触角が示された。
【実施例3】
【0040】
この実施例では、実施例1および2のコーティングされたガラス表面を用いてトライボロジー評価を実施する。
【0041】
トライボロジー評価は、プレート上でピンを往復運動させる試験装置を用いて実施した。この構成は、専用ガラス支持ユニットが構築されている市販の摩擦計PLINT TE67において実現した。
【0042】
操作条件:
全ての実験は、大気中において室温で実施した。実験室の湿度および温度は、それぞれ20〜40%RHおよび19〜22℃の間で変化した。FIFA08/05−01試験方法の「皮膚/表面摩擦の決定法(Determination of Skin/Surface Friction)」に従い、最良の皮膚基材としてシリコンスキン(Silicon Skin)L7350を選択して、このシリコンゴムをトライボロジー評価に使用する。
【0043】
他の条件:
往復ストロークの長さは、すべての実験において40mmに設定した。実験1回あたり10ストロークを実施した(左から右に5回および右から左に5回)。往復ストローク中の最大速度は、1、10、または62mm/sであった。垂直荷重は、試料ホルダーの質量または追加の静荷重によって、それぞれ、29および98kPaの垂直力となるように負荷した。
【0044】
試験は、液体として脱塩水を用いる場合と用いない場合の両方において実施した。第一の状態は、水を用いた状態であり、第二の状態は、乾燥した状態である。乾燥状態の結果は図1および2に示し、「水を用いた」状態の結果は図3および4に示す。使用される、ガラスなる用語は、コーティングなしの予備洗浄したガラス基材を意味し、一方、+PAAおよび+PEGなる用語は、PAA(実施例1)のコーティングを有するガラス基材並びにPAAのコーティングに加えてPEG5000の層(実施例2)を有するガラス基材を表す。
【0045】
摩擦係数は、測定された摩擦力および負荷された垂直力に基づいて、μ=Fw/Fnにより計算する。
【0046】
図1に、乾燥状態における接触圧力98kPaでの摺動速度およびプレート表面に対する最大摩擦係数fmaxを示す。
図2に、乾燥状態における接触圧力29kPaでの摺動速度およびプレート表面に対する最大摩擦係数fmaxを示す。
図3に、水の存在下における接触圧力98kPaでの摺動速度およびプレート表面に対する最大摩擦係数fmaxを示す。
図4に、水の存在下における接触圧力29kPaでの摺動速度およびプレート表面に対する最大摩擦係数fmaxを示す。
【0047】
図1−4から、液体の不在下では、計算された最大摩擦係数は、様々な状況に関係なくすべて0.7より大きいことが観察され得る。水は、それ自体は有効な潤滑剤であるとは知られていないが、水の存在下では、計算された最大摩擦係数は、水の添加から予想され得るように、コーティングされていないガラス基材においていくぶん低い。しかしながら、PAAまたはPEGコーティングのどちらかを有するガラス基材では、計算された係数は、実質的により低く、すなわち、予想されなかった大幅な低下が観測される。これらの結果は、液体の協力におけるコーティングポリマーの大きな相乗的性能を示している。特に、29kPaの垂直圧力が負荷されている状況において、往復ストローク中の最大速度に関係なく、最大の相乗的性能が観察された。
【実施例4】
【0048】
この実施例では、トライボロジー評価は、実施例2からのコーティングされたガラス表面を用いて実施する。
【0049】
トライボロジー評価は、実施例3に記載されているようにして、異なる液体、すなわち、水、シリコーンオイル、およびドデカンを用いて並行して実施する。往復ストローク中の最大速度は10mm/sであった。垂直荷重は、29kPaの垂直力となるように、試料ホルダーの質量によって負荷した。
【0050】
図5に結果を示す。やはり、コーティングそれ自体は、得られた摩擦係数に対して、(主な)影響力を有していない。液体のみの添加では、シリコーンオイルの場合を除いて、多くの場合、いくぶん摩擦係数が低下する。しかしながら、液体とコーティングとの組み合わせでは、摩擦係数が相乗的に低下する。これは、摩擦係数において観察される低下が、液体それ自体の存在によっても、コーティングそれ自体の存在によっても説明できず、相乗的に減少を生じるコーティングと液体潤滑剤との特定の組み合わせによるものであることを明確に示している。
【実施例5】
【0051】
この実施例では、ガラス基材上のポリ(アクリル酸)ポリマーの上のコーティングに、市販のアミノ含有シリコーンポリマーが一体化されている。PAA−コーティングガラス基材を、アミノ含有シリコーンポリマーWacker1650を含有するトルエン溶液により被覆し、その後、Nを流しながら120℃で加熱することによりトルエンを蒸発除去する。続いて、当該コーティングされたガラス基材を、室温においてそれぞれトルエンおよび水で洗浄し、その後、60℃で乾燥する。
【0052】
トライボロジー評価は、実施例3に記載されているように、異なる液体、すなわち、水、シリコーンオイル、およびドデカンを用いて並行して実施する。往復ストローク中の最大速度は10mm/sであった。垂直荷重は、29kPaの垂直力となるように、試料ホルダーの質量によって負荷した。
【0053】
実施例4のように、摩擦係数への相乗的影響について、様々な潤滑剤を試験する。図6において観察され得るように、コーティングとしてシリコーンポリマーを使用することにより、使用される潤滑剤の性質に関係なく、摩擦係数は低下するであろう。コーティングしていないガラス基材を用いる場合、潤滑剤として水およびドデカンを使用することにより、摩擦が減少するであろうが、PAA−シリコーンポリマーでコーティングされたガラス基材では、相乗効果が観察される。潤滑剤としてシリコーンオイルを使用する場合も、摩擦低減に関するこの相乗効果が観察されるが、裸のガラス基材に対する影響は無い。
【実施例6】
【0054】
この実施例では、ガラス基板をポリ(アクリル酸)でコーティングし、続いてアミノ−官能基化ポリエチレン(PE:polyethylene)またはオクタデシルアミンのどちらかによってコーティングする。PEトップ層の調製は、難溶性のPEポリマーの沈殿を防ぐためにトルエン溶液を加熱すること以外は、シリコーントップ層に対する実施例5に記載の手順に従って実現する。オクタデカントップ層の構築は、トルエンの代わりにテトラヒドロフラン(THF:tetrahydrofuran)を必要とする。PAA改質ガラス基材をオクタデカン含有THFに浸漬し、その後、当該基材を加熱する。
【0055】
実施例5に記載されているようにして、トライボロジー評価を実施する。
【0056】
図7に、液体として水を用いて得られた摩擦係数を示す。液体としてシリコーンオイルおよびドデカンを用いた場合の、PEでコーティングしたガラス基材の摩擦係数も示す。
【0057】
上述され得るように、PEトップ層を有するガラスのコーティングでは、コーティングされていないガラス基材と比較してかなり低い摩擦係数が観察され、コーティングされていないガラスの摩擦抵抗の方が実質的に高いため、液体とコーティングとの組み合わせの相乗的な影響が再び示されている。この相乗効果は、PEコーティングとシリコーンオイル液体による状況において最適に示されており、コーティングを有しない場合には液体としてシリコーンオイルを適用しても摩擦係数の低下は示されないが、一方で、コーティングを有する場合には、実質的な低下が観察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2つの固形体の間の摩擦を低減する方法であって、
−共有結合したコーティングを前記少なくとも2つの固形体の少なくとも1つの固形体の表面に提供する工程であって、前記表面が前記少なくとも2つの固形体のもう一方に接触しており、前記コーティングが少なくとも1種のポリマーを含む、工程と、
−前記コーティング上に液体を供給する工程と
を含む方法。
【請求項2】
前記コーティングおよび前記液体が、両方とも親水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーが、ポリオキサゾリン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリエチレンオキシド−コ−ポリプロピレンオキシドブロックコポリマー、ポリ(ビニルエーテル)、ポリ(N,N−ジアルキルアクリルアミド)、高分子電解質、ポリアシルアルキレンイミン、ポリヒドロキシアルキルアクリレート、ポリオール、多糖、ポリペプチド、多価イオン性ポリマー、ポリエチレンイミン、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウム、ポリアニリン、スルホン化ポリアニリン、ポリピロール、ポリピリジニウム、ポリチオフェン−酢酸、ポリスチレンスルホン酸、両性イオン分子のポリマー、並びにそれらの混合物およびコポリマーから成る群から選択される、請求項1または2のいずれか1項に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングが、ポリ(アクリル酸)またはそれらの誘導体を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記コーティングがポリエチレングリコールを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記コーティングが、少なくとも5,000g/molの数平均分子量を有するポリエチレングリコールを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記コーティングが疎水性である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリマーが、ポリシロキサン、フルオロポリマー、ポリスチレン、ポリオキシプロピレン、ポリビニルアセテート、ポリオキシブチレン、(水素化された)ポリイソプレンもしくはポリブタジエン、ポリビニルクロリド、ポリアルキルアクリレート、ポリアルキルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラヒドロフラン、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリスルホン、ポリビニルエーテル、ポリ(プロピレンオキシド)、並びにそれらの混合物およびコポリマーから成る群から選択される、請求項1または7に記載の方法。
【請求項9】
前記コーティングが、少なくとも2つのポリマー層を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティングが、1μm以下、好ましくは500nm以下、より好ましくは100nm以下の膜厚を有する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記液体が水または水性媒体である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記液体が、有機化合物である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項13】
前記液体が、シリコーン流動体である、請求項7または8に記載の方法。
【請求項14】
前記液体の量が、乾燥コーティング1グラムあたり0.05〜10gの範囲、好ましくは乾燥コーティング1グラムあたり0.1〜5g、より好ましくは乾燥コーティングの0.2〜1グラムの範囲である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも2つの固形体が、同じ材料であるかまたは異なる材料によるものである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも2つの固形体が、プラスチック、金属、合金、ガラス、織物、金属酸化物、セラミック、木材、生体組織(皮膚)、粘膜、およびそれらの組み合わせから成る群から選択される1種以上の材料を含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリマーおよび前記液体が、ポリ(アクリル酸)ポリマーまたはその誘導体と水または水性媒体、ポリ(アクリル酸)ポリマーまたはそれらの誘導体とシリコーンオイル、ポリ(アクリル酸)ポリマーまたはその誘導体とC〜C20アルカン、ポリエチレングリコールまたはその誘導体と水または水性媒体、ポリエチレングリコールまたはその誘導体とシリコーンオイル、ポリエチレングリコールまたはその誘導体とC〜C20アルカン、ポリシロキサンまたはその誘導体と水または水性媒体、ポリシロキサンまたはその誘導体とシリコーンオイル、ポリシロキサンまたはその誘導体とC〜C20アルカン、ポリオレフィンまたはその誘導体と水または水性媒体、ポリオレフィンまたはその誘導体とシリコーンオイル、ポリオレフィンまたはその誘導体とC〜C20アルカンから成る群から選択される、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記コーティングが、少なくとも2つの層を含み、第一の層は、ポリ(アクリル酸)ポリマーまたはその誘導体を含み、前記第一の層の上の第二の層は、請求項17で定義されるようなポリマーを含む、請求項17に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−538106(P2010−538106A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−522837(P2010−522837)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【国際出願番号】PCT/NL2008/050569
【国際公開番号】WO2009/028939
【国際公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(508353293)ネーデルランツ オルガニサティー フォール トゥーゲパストナトゥールヴェテンシャッペリーク オンデルズーク テーエンオー (41)
【Fターム(参考)】