説明

摩擦伝動ベルト及び摩擦伝動ベルトの製造方法

【課題】注水時にも伝達性能の低下が少なく、また注水時と通常時との伝達性能の差が少なく、しかも優れた耐磨耗性、耐粘着磨耗性を備えたVリブドベルトを提供する。
【解決手段】Vリブドベルト1は、カバー帆布5からなる伸張部2と、コードよりなる心線3を埋設した接着層4と、その下側に弾性体層である圧縮部6からなっている。この圧縮部6は、ベルト長手方向に延びる断面略三角形である台形の複数のリブを有している。そして少なくともリブ側面9を、表面処理が施されていない短繊維を配合したゴム組成物で構成し、しかも該表面に、短繊維の脱落による空孔及び/又は短繊維とゴムとの間隙などの穴8が存在することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は動力伝動に用いられる摩擦伝動ベルトに関し、詳しくは被水時でも優れた伝達性、静音性を有し、しかも通常時との伝達性能の差が少ない摩擦伝動ベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ゴム工業分野、なかでも自動車用部品の高機能、高性能化が望まれている。そのような状況の中で、通常走行時に限らず、注水走行時においても高い伝達性能を有する動力伝動ベルトが求められている。また静粛化についても厳しい要求があり、特に駆動装置においてはエンジン音以外の音は異音とされるため、ベルト発音対策についても要請がある。
【0003】
動力伝動ベルト駆動装置における異音としては、回転変動の大きな条件や高負荷条件において発生するスリップ音や、圧縮ゴム層が粘着摩耗を起こし、その結果リブ間の溝底に付着した粘着ゴムにより発生する騒音が知られている。また、雨天走行時などにおいてエンジンルーム内に水が入り、ベルトとプーリの間に水が付着することによって発生するスリップ音についても問題となっている。
【0004】
近年、優れた耐オゾン性、耐熱性、耐寒性を有しているとともに比較的に安価で、脱ハロゲンという要求を満たすエチレン・α−オレフィンゴムで製造された動力伝動ベルトが注目されているが、汎用的に用いられているクロロプレンゴムに比べると水濡れ性に劣ることから、注水時に伝達性能が低下したり、スリップによる異音が発生し易いといった問題があった。ここでいうスリップによる異音とは、エチレン・α−オレフィンゴムが水をはじき易いことから、被水時にベルト−プーリ間に水が均一に浸入せず、水が入った部分は摩擦係数が低下し、水が入らなかった部分は摩擦係数が低下して、ベルトがスティックすることに因るスティック−スリップ音である。
【0005】
注水時におけるスリップ対策としては、タルク等のパウダーを圧縮ゴム層表面に塗布したり、ベルト張力を高めてスリップ率を小さくする試みがなされている。また特定繊維(パラ系アラミド繊維)を配合したゴム組成物で圧縮ゴム層を形成するといった提案もある。(特許文献1参照)
【特許文献1】特開平07−151191号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、パウダー塗布に関しては作業工程増によるコストアップとなるとともに、経時的にベルト表面のパウダーが剥がれ落ちてスリップ抑制効果が低下するといった問題があった。一方、初期にベルト張力を高く設定した場合、ベルトの摩耗や心線の伸び等でベルトの張力が徐々に低下していき、経時的にスリップが起こりやすくなるといった問題が指摘されている。またパラ系アラミド繊維を配合したベルトにあっては吸水性能が低く、水膜除去効果が充分とは言えない。
【0007】
上記問題に鑑みて鋭意研究を重ねた結果、本発明を提案するものであり、その目的とするところは、被水時でも優れた伝達性、静音性を有し、しかも通常時との伝達性能の差が少なく、耐摩耗性、対粘着性を備えた摩擦伝動ベルト及び該摩擦伝動ベルトの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、表面処理が施されていない短繊維を配合したゴム組成物で摩擦伝動面を構成した摩擦伝動ベルトであって、該表面に、短繊維の脱落による空孔及び/又は短繊維とゴムとの間隙が存在することを特徴とする。また前記摩擦伝動ベルトであって、短繊維がポリアミド短繊維である;ゴム組成物がエチレン・α−オレフィンゴム組成物である;ゴム組成物は表面処理を施した綿短繊維を配合してなる;ゴム組成物は表面処理を施したポリアミド短繊維を配合してなる;摩擦伝動ベルトが、伸張部とベルト周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部を有し、ベルト長手方向に沿って心線を埋設したVリブドベルトである発明である。
【0009】
また本発明は、表面処理が施されていない短繊維を配合したゴム組成物で摩擦伝動部を構成した後、研磨して摩擦伝動面を形成すると共に、摩擦伝動面に短繊維の脱落による空孔及び/又は短繊維とゴムとの間隙を生じせしめることを特徴とする摩擦伝動ベルトの製造方法である。更に前記摩擦伝動ベルトの製造方法であって、短繊維がポリアミド短繊維;ゴム組成物がエチレン・α−オレフィンゴム組成物である;ゴム組成物は表面処理を施した綿短繊維を配合してなる;ゴム組成物は表面処理を施したポリアミド短繊維を配合してなる;摩擦伝動ベルトが、伸張部とベルト周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部を有し、ベルト長手方向に沿って心線を埋設したVリブドベルトである発明である。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、少なくとも摩擦伝動面を特定組成のゴム組成物で構成することで、表面に存在する空孔や間隙に水を取り込むことができるため、注水時における伝達性、静音性を向上させると共に、通常時との伝達性能の差が少ないVリブドベルトが得られる。また該短繊維としてポリアミド短繊維を選択することで、短繊維の分散性がよく比較的均一に穴を存在させることができると共に、耐磨耗性、耐粘着磨耗性に優れるといった特徴がある。更にゴムとしてエチレン・α−オレフィンゴムを選択することで、ハロゲンを含有せず環境に負荷を与えない。そして表面処理を施したポリアミド短繊維を併用することで耐摩耗性を向上させることができ、表面処理を施した綿短繊維を併用することで、注水時における伝達性、静音性を向上させることができる。また本発明によれば前記摩擦伝動ベルトを簡便に製造できるといった利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1に本発明に係る摩擦伝動ベルトの一実施例としてVリブドベルトの断面斜視図を示す。Vリブドベルト1は、カバー帆布5からなる伸張部と、コードよりなる心線3を埋設した接着層4、その下側に圧縮部6を配置した構成からなっている。この圧縮部6は、ベルト長手方向に延びる断面略三角形である台形の複数のリブを有しており、リブが摩擦伝動部、リブ側面9が摩擦伝動面となる。
【0012】
前記リブの少なくともリブ側面9は、表面処理が施されていない短繊維を配合したゴム組成物で構成されている。そして、該表面には多数の穴8が存在しており、この穴8は表面処理を施されていない短繊維の脱落により生じた空孔及び/又は表面処理を施されていない短繊維とゴムとの間の空隙である。
【0013】
図面をもとに具体的に説明すると、図2は表面処理を施していないポリアミド短繊維10を配合したリブ表面(研磨面)状態を示す図であり、図3は表面処理を施したポリアミド短繊維20を配合したリブ表面(研磨面)状態を示す図である。図2,3共に、リブ側面9にポリアミド短繊維10,20が突出しており、該突出部が一定方向(研磨方向)に流れている。そして図2ではリブ側表面9に、ポリアミド短繊維10とゴムとの間隙8Aやポリアミド短繊維10の抜け落ちた空孔8Bなどの穴8が多数存在しており、注水時において該穴8が水を取り込み、動力伝達性能の低下やスリップ発生を抑制する効果を奏すると考えられる。一方、図3ではポリアミド短繊維20とゴムとの間隙やポリアミド短繊維20の抜け落ちた空孔が見られず、注水時の伝達性や静音性などの向上効果が期待できない。
【0014】
ここでいう表面処理とは、ゴムとの接着性を向上させる処理である。即ち、本発明では短繊維を表面処理しないことで、ゴムと短繊維との接着力を適度に低く維持し、例えば、研磨処理などによる外的応力によって、短繊維を脱落させたり、短繊維とゴムとの間に空隙を生じさせたりすることにより穴8が生じるものである。そして摩擦伝動面、即ちプーリとの接触部をこのように構成することで、該穴8に水を取り込むことができ、注水時の動力伝達性の低下やスリップの発生を抑制する効果がある。
【0015】
短繊維としては、ポリアミド、ポリエステル、綿、アラミドなどからなる短繊維が挙げられるが、ゴムへの分散性がよく比較的均一に穴8を生じさせることが可能で、かつ適度な短繊維由来の接着性を有するポリアミド短繊維が好ましい。ポリアミド短繊維としては、6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン等を挙げることができる。短繊維はその長さが0.5〜6mmのものが好ましく、またその太さは5〜10デニールのものが好ましい。0.5mm未満では、研磨時に表面に存在する短繊維が全て脱落し、耐磨耗性が低下する恐れがある。一方、6mmを超えると、表面処理を施していないことから、ゴムへの分散不良など作業性に難が見られる。またその配合量はゴム100重量部に対して1〜50重量部であることが望ましく、1重量部未満の場合は効果に乏しく、50重量部を超えるとゴムへの分散性に難があり、ベルト耐久寿命が低下するなどの不具合がある。
【0016】
尚、摩擦伝動面を構成するゴム組成物は、表面処理を施していない短繊維を複数種併用したり、表面処理を施していない短繊維に加えて表面処理を施した短繊維を用いたりすることができる。具体的には、表面処理を施した綿短繊維を併用した場合、綿が吸水性に優れることから、注水時の更なる伝達性能の向上、発音抑制効果が期待できる。また表面処理を施したポリアミド短繊維を併用した場合、耐摩耗性の向上を狙うことができる。
【0017】
表面処理としては例えば以下のような処理が挙げられる。
短繊維をレゾルシン・ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスを混合したRFL液で処理する。この場合、レゾルシンとホルマリンのモル比は3/1〜1/3にすることが接着力を高める上で好適である。また、RFL液はレゾルシン・ホルマリン初期縮合物とゴムラテックスの固形分質量比が1/1〜1/5で、かつRFL液の固形分付着量が3〜10質量%であることがRFL液による接着力の効果を高める上で好ましい。ゴムラテックスとしては、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、クロロスルフォン化ポリエチレン、水素化ニトリルゴム、エピクロルヒドリン、天然ゴム、SBR、クロロプレンゴム、オレフィン−ビニルエステル共重合体、EPDM等のラテックスが挙げられる。尚、接着処理を施す際の処理液の温度は5〜40°Cに調節し、また浸漬時間は0.5〜30秒であり、200〜250°Cに調節したオーブンに1〜3分間通して熱処理される。
【0018】
尚、場合に応じて以下の前処理や後処理を施すことが好ましい。
例えば、イソシアネートやエポキシ樹脂などを含有する処理液で前処理することができる。この処理を行うことで該処理液が短繊維内部まで浸透してフィラメントの接着性が改善される。
また、上記RFL処理に加えオーバーコート処理することも可能である。ゴム配合物をトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、メチルエチルケトンなどの脂肪族ケトンから選ばれた、ゴム配合物の良溶媒となる溶剤に溶かしたゴム糊に浸漬しオーバーコート処理する。浸漬時間は0.5〜30秒であり、80〜200°Cに調節したオーブンに1〜3分間通して熱処理される。
【0019】
このような摩擦伝動面を構成するゴム組成物のうち、原料ゴムは、天然ゴム、ブチルゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、エチレン−プロピレンゴム、アルキル化クロロスルフォン化ポリエチレン、水素化ニトリルゴム、水素化ニトリルゴムと不飽和カルボン酸金属塩との混合ポリマー、エチレン−α−オレフィンゴム等のゴム材の単独、またはこれらの混合物が使用される。なかでもエチレン・α−オレフィンゴムはSP値が低く(例えばエチレン−プロピレン−ジエン共重合体のSP値は、約8.0[cal1/2・cm−3/2])水濡れ性に劣ることから、原料ゴムとしてエチレン・α−オレフィンゴムを選択した場合、本発明の効果が顕著に見られる。尚、SP値は、凝集エネルギー密度CED(1ccのものを蒸発させるのに要するエネルギー量)の平方根で定義される溶解性パラメーターである。
【0020】
エチレン・α−オレフィンゴムとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、オクテンなど)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体であり、具体的にはエチレン−プロピレンゴム(EPM)やエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(EPDM)などのゴムをいう。上記ジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。このうちEPDMは耐熱性や耐寒性に優れるという特性を有しており、耐熱・耐寒性能の高い伝動ベルトを得ることができる。このEPDMはヨウ素価が3〜40のものが用いられる。ヨウ素価が3未満であると、ゴム組成物の加硫が十分でなく摩耗や粘着の問題が発生し、またヨウ素価が40を超えると、ゴム組成物のスコーチが短くなって扱い難くなり、耐熱性が悪くなるものである。
【0021】
上記ゴムの架橋には、硫黄や有機過酸化物が使用される。有機過酸化物としては具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1.1−t−ブチルペロキシ−3.3.5−トリメチルシクロヘキサン、2.5−ジ−メチル−2.5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン、2.5−ジ−メチル−2.5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン−3、ビス(t−ブチルペロキシジ−イソプロピル)ベンゼン、2.5−ジ−メチル−2.5−ジ(ベンゾイルペロキシ)ヘキサン、t−ブチルペロキシベンゾアート、t−ブチルペロキシ−2−エチル−ヘキシルカーボネートが挙げられる。この有機過酸化物は、単独もしくは混合物として、通常エチレン−α−オレフィンゴム100重量部に対して1〜8重量部の範囲で使用される。
【0022】
また加硫促進剤を配合しても良い。加硫促進剤としてはチアゾール系、チウラム系、スルフェンアミド系の加硫促進剤が例示でき、チアゾール系加硫促進剤としては、具体的に2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトチアゾリン、ジベンドチアジル・ジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩等があり、チウラム系加硫促進剤としては、具体的にテトラメチルチウラム・モノスルフィド、テトラメチルチウラム・ジスルフィド、テトラエチルチウラム・ジスルフィド、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラム・ジスルフィド等があり、またスルフェンアミド系加硫促進剤としては、具体的にN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等がある。また、他の加硫促進剤としては、ビスマレイミド、エチレンチオウレアなども使用できる。これら加硫促進剤は単独で使用してもよいし、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
【0023】
また、架橋助剤(co−agent)を配合することによって、架橋度を上げて粘着摩耗等の問題を防止することができる。架橋助剤として挙げられるものとしては、TIAC、TAC、1,2ポリブタジエン、不飽和カルボン酸の金属塩、オキシム類、グアニジン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N−N’−m−フェニレンビスマレイミド、硫黄など通常、有機過酸化物架橋に用いるものであるが、なかでもN−N’−m−フェニレンビスマレイミドが好ましい。その配合量はゴム成分100重量部に対して、0.5〜10重量部が望ましく、0.5質量部未満では添加による効果が顕著でなく、10質量部を超えると引裂き力や接着力が低下するといった不具合がある。
【0024】
そして、それ以外に必要に応じてカーボンブラック、シリカのような増強剤、炭酸カルシウム、タルクのような充填剤、可塑剤、安定剤、加工助剤、着色剤のような通常のゴム配合物に使用されるものが使用される。
【0025】
尚、ベルト本体の少なくとも摩擦伝動面(リブ側面9)を上述の如きゴム組成物で構成することを本発明の必須条件としてあげているが、いうまでもなくベルト本体を構成するゴム組成物全てを該ゴム組成物で構成することが可能である。また圧縮部6全体を該ゴム組成物、接着層4を別のゴム組成物で構成してもよい。接着層4は上述の如き原料ゴム、配合剤を用いたゴム組成物で構成することができるが、接着性を考慮すると短繊維は混入しないほうが好ましい。
【0026】
心線3は、ポリエステル繊維、ポリトリメチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ガラス繊維、アラミド繊維などを材料とする撚コードが使用できる。ガラス繊維の組成は、Eガラス、Sガラス(高強度ガラス)のいずれでもよく、フィラメントの太さ及びフィラメントの集束本数及びストランド本数に制限されない。
【0027】
前記心線3は接着処理を施されることが望ましく、例えば(1)未処理コードをエポキシ化合物やイソシアネート化合物から選ばれた処理液を入れたタンクに含浸してプレディップした後、(2)160〜200℃に温度設定した乾燥炉に30〜600秒間通して乾燥し、(3)続いてRFL液からなる接着液を入れたタンクに浸漬し、(4)210〜260℃に温度設定した延伸熱固定処理器に30〜600秒間通し−1〜3%延伸して延伸処理コードとする、ことができる。
【0028】
この前処理液で使用するイソシアネート化合物としては、例えば4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン2,4−ジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ポリアリールポリイソシアネート(例えば商品名としてPAPIがある)等がある。このイソシアネート化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
【0029】
また、上記イソシアネート化合物にフェノール類、第3級アルコール類、第2級アルコール類等のブロック化剤を反応させてポリイソシアネートのイソシアネート基をブロック化したブロック化ポリイソシアネートも使用可能である。
【0030】
エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールや、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコールとエピクロルヒドリンのようなハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物や、レゾルシン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルメタン、フェノール.ホルムアルデヒド樹脂、レゾルシン.ホルムアルデヒド樹脂等の多価フェノール類やハロゲン含有エポキシ化合物との反応生成物などである。上記エポキシ化合物はトルエン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に混合して使用される。
【0031】
RFL処理液はレゾルシンとホルムアルデヒドの初期縮合物をゴムラテックスと混合したものであり、この場合レゾルシンとホルムアルデヒドのモル比は1:2〜2:1にすることが接着力を高める上で好適である。モル比が1/2未満では、レゾルシン−ホルムアルデヒド樹脂の三次元化反応が進み過ぎてゲル化し、一方2/1を超えると、逆にレゾルシンとホルムアルデヒドの反応があまり進まないため、接着力が低下する。またゴムラテックスとしては、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジン三元共重合体、水素化ニトリルゴム、クロロプレンゴム、ニトリルゴムなどがあげられる。
【0032】
尚、レゾルシン−ホルムアルデヒドの初期縮合物と上記ゴムラテックスの固形分質量比は1:2〜1:8が好ましく、この範囲を維持すれば接着力を高める上で好適である。上記の比が1/2未満の場合には、レゾルシン−ホルムアルデヒドの樹脂分が多くなり、RFL皮膜が固くなり動的な接着が悪くなり、他方1/8を超えると、レゾルシン−ホルムアルデヒドの樹脂分が少なくなるため、RFL皮膜が柔らかくなり、接着力が低下する。
【0033】
更に、上記RFL液には加硫促進剤や加硫剤を添加してもよく、添加する加硫促進剤は、含硫黄加硫促進剤であり、具体的には2−メルカプトベンゾチアゾール(M)やその塩類(例えば、亜鉛塩、ナトリウム塩、シクロヘキシルアミン塩等)ジベンゾチアジルジスルフィド(DM)等のチアゾール類、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド(CZ)等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムモノスルフィド(TS)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TT)、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド(TRA)等のチウラム類、ジ−n−ブチルジチオカルバミン酸ナトリウム(TP)、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(PZ)ジエチルジメチルジチオカルバミン酸亜鉛(EZ)等のジチオカルバミン酸塩類等がある。
【0034】
また、加硫剤としては、硫黄、金属酸化物(酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化鉛)、過酸化物等があり、上記加硫促進剤と併用する。
【0035】
上記心線3を用いたVリブドベルト1は、Vリブドベルトを2%伸張させるのに必要な引張力が100〜250N/リブ、更に好ましくは130〜210N/リブとすることが好ましく、このような引張力であると、たとえリブゴム磨耗等によりベルト伸びが発生した場合でも、急激な張力低下を引き起こすことなく、安定した張力が維持できる。250N/リブを超えるとベルト伸び時に急激な張力低下が見られ、100N/リブ未満であると心線伸びによるベルト張力低下が大きくなる。
【0036】
またベルトに147N/5本コードの初荷重をかけ、100℃雰囲気下30分放置した後に発生したベルト乾熱時収縮力が50〜150N/5本コードである特性を付与すると、ベルト伸びが発生しても張力を自己調整可能であり、オートテンショナーを設置しなくともベルトスリップ率が小さくてベルト寿命が長いものを得ることができる。ベルト乾熱時収縮力が50N未満の場合には、ベルト張力を調整する性能に乏しく、スリップ率が高くなる傾向がある。また、ベルト乾熱時収縮力が150Nを越える場合には、ベルト長さの経時収縮が大きくなる傾向がある上に、スリップ率が小さくなる効果は小さい。
【0037】
カバー帆布5は、織物、編物、不織布などから選択される繊維基材である。構成する繊維素材としては、公知公用のものが使用できるが、例えば綿、麻等の天然繊維や、金属繊維、ガラス繊維等の無機繊維、そしてポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリフロルエチレン、ポリアクリル、ポリビニルアルコール、全芳香族ポリエステル、アラミド等の有機繊維が挙げられる。織物の場合は、これらの糸を平織、綾織、朱子織等することにより製織される。
【0038】
上記カバー帆布5は、公知技術に従ってRFL液に浸漬することが好ましい。またRFL液に浸漬後、未加硫ゴムをカバー帆布5に擦り込むフリクションを行ったり、ゴムを溶剤に溶かしたソーキング液に浸漬処理することができる。尚、RFL液には適宜カーボンブラック液を混合して処理反を黒染めしたり、公知の界面活性剤を0.1〜5.0質量%加えてもよい。
【0039】
尚、Vリブドベルト1は、前記構成に限定されず、例えば接着層4を配置しないVリブドベルトや、背面にカバー帆布5を貼着せずゴムを露出させたVリブドベルトなども本発明の技術範囲に属する。
【0040】
カバー帆布5を貼着しない場合は、伸張部2を短繊維を含有するゴム組成物で形成することが望ましい。また背面駆動時の異音を抑制すべく、背表面に凹凸パターンを設けることができる。凹凸パターンとしては、編布パターン、織布パターン、スダレ織布パターンなどを挙げることができるが、最も好ましくは織物パターンである。また接着層4を配置しない場合、心線3は伸張部2と圧縮部6の境界領域でベルト本体に埋設されることになる。この時、心線3とベルト本体との接着性を考慮すると、圧縮部6は短繊維を含有しないゴム組成物で構成することが望ましい。
【0041】
上記Vリブドベルトの製造方法は以下の通りである。まず、円筒状の成形ドラムの周面に必要に応じて1〜複数枚のカバー帆布と接着層を構成する接着ゴムシートとを巻き付けた後、この上にコードからなる心線を螺旋状にスピニングし、更に圧縮部(摩擦伝動部)を構成する圧縮ゴムシートを順次巻き付けて積層体を得た後、加硫してスリーブを得る。
【0042】
次に、スリーブを駆動ロールと従動ロールに掛架され所定の張力下で走行させ、更に回転させた研削ホイールを走行中の加硫スリーブに当接するように移動してスリーブの圧縮部表面に3〜100個の複数の溝状部を一度に研磨し、摩擦伝動面を形成すると共に該摩擦伝動面に短繊維の脱落による空孔及び/又は短繊維とゴムとの間隙を生じせしめる。このようにして得られたスリーブを駆動ロールと従動ロールから取り外し、該スリーブを他の駆動ロールと従動ロールに掛架して走行させ、カッターによって所定に幅に切断して個々のVリブドベルトに仕上げる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を具体的な実施例を伴って説明する。
【0044】
表1に示す配合に従いゴム組成物を調整し、バンバリーミキサーで混練後、カレンダーロールにてロール温度30°C、シート厚み1.0mmで圧延したところ、実施例、比較例ともに穴開きのない良好なシートが連続的に圧延可能であり、作業性、加工性などに問題がないことが判った。
【0045】
次に、該ゴム組成物を用いてVリブドベルトを作製した。Vリブドベルトの構成としては、ポリエステル繊維のロープからなる心線を接着層内に埋設し、その上側に伸張部としてゴム付綿帆布を2プライ積層し、他方接着層の下側に設けた圧縮部に3個のリブをベルト長手方向に配したものである。ここで圧縮部を表1に示すゴム組成物から調製し、バンバリーミキサーで混練後、カレンダーロールで圧延したものを用いた。圧縮部に含まれる短繊維はベルト幅方向に配向していた。また接着層は表1に示すゴム組成物から短繊維を除いた配合で調製したゴム組成物である。尚、短繊維の表面処理としては、RFL溶液で接着処理を行った。
【0046】
【表1】

【0047】
ベルトの製造方法としては、まずフラットな円筒モールドに2プライのゴム付綿帆布を巻いた後、接着層を構成する接着ゴムシートを巻き付けて心線をスピニングする。そして圧縮部を構成する圧縮ゴムシートを配置した後、該圧縮ゴムシートの上に加硫用ジャケットを挿入する。次いで、成形モールドを加硫缶内に入れ、加硫した後、筒状の加硫スリーブをモールドから取り出し、該スリーブの圧縮部をグラインダーによってリブに成形し、成形体から個々のベルトに切断する工程からなっている。
【0048】
このようにして得られたVリブドベルトの物性、並びに耐熱屈曲性試験、粘着摩耗走行試験、耐寒走行試験および伝達性能走行試験の結果を表2に示す。尚、表中のMDとは列理平行、CMDとは列理直角を意味する。また実施例3及び比較例1のリブ側表面をSEMにて確認したところ、それぞれ図2,3に示すような状態であることが確認できた。
【0049】
耐熱屈曲性試験の評価に用いた走行試験機は、駆動プーリ(直径60mm)、アイドラープーリ(直径50mm)、従動プーリ(直径50mm)、テンションプーリ(直径50mm)、そしてアイドラープーリ(直径50mm)とを順に配置したものである。試験機の各プーリにVリブドベルトを掛架し、ベルトのアイドラープーリへの巻き付け角度を90°にし、雰囲気温度130℃、駆動プーリの回転数が3300rpm、ベルト張力が800N/リブになるように駆動プーリに荷重を付与し、500時間走行させた後、心線に達する亀裂の発生の有無を調べた。
【0050】
粘着摩耗走行試験では、各Vリブドベルトを室温下で駆動プーリ(直径120mm)従動プーリ(直径120mm)これにアイドラープーリ(直径45mm)に設置し、従動プーリに負荷12馬力、アイドラープーリの取付け荷重8.3kgf、回転数800で48時間走行させた後、ベルト表面に生じる粘着摩耗の有無を目視で確認した。また走行試験前後のベルト重量を測定し、ベルト重量減量(走行前ベルト重量−走行後ベルト重量)を走行前ベルト重量で除したものを、粘着走行試験による摩耗率として算出した。
【0051】
また、耐寒走行試験の評価方法は、駆動プーリ(直径140mm)と従動プーリ(直径45mm)と背面アイドラプーリ(直径75mm)にベルトを掛架し、従動プーリに85kgfの荷重を与て、−40°Cの雰囲気下で回転数700で18時間放置後、1分間走行させ、その後2分間停止し、これを繰り返してベルトに亀裂が入るまでの時間(100時間打ち切り)を測定した。
【0052】
更に、伝達性能試験では、各Vリブドベルトを室温下で駆動プーリ(直径80mm)従動プーリ(直径110mm)に設置し、15kgfの荷重を掛け、従動プーリの負荷を0から増加させてベルトが2%スリップするときのトルクを測定した。この伝達性能試験では、乾燥時の伝達性能及び水を60cc/min垂らした注水時の伝達性能の評価を行った。
【0053】
【表2】

【0054】
図2〜4より、表面処理を施していない短繊維を配合した実施例3,4では、短繊維が抜け落ちた空孔や短繊維とゴムとの間隙が多数見受けられるが、表面処理を施した短繊維のみ配合した比較例1では空孔や間隙が殆ど見られないことが判った。
【0055】
また表2の走行試験の結果より、接着処理を施したポリアミド短繊維のみ配合した比較例1では、乾燥時の伝達トルクは高いものの注水時の伝達トルクが極端に低く、注水による伝達性能の著しい低下が知見された。また、接着処理を施した綿短繊維と接着処理を施したポリアミド短繊維を併用した比較例2は、注水時の伝達性能が充分とは言えず、また磨耗率が高く、耐摩耗性に劣ることが確認された。一方、実施例においては、耐熱屈曲性、耐磨耗性、耐寒性は実使用上の要求を満足しており、注水時においても伝達性能の低下が少なく、しかも注水時と通常時の伝達性能の差が小さいVリブドベルトであることが判明した。なかでも接着処理を施したポリアミド短繊維を併用した実施例1,2では耐摩耗性が高く、また接着処理を施した綿短繊維を併用した実施例4では注水時と通常時の伝達性能の差がより小さくなることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明にかかるVリブドベルトは自動車用あるいは一般産業用の駆動装置などに装着できる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明に係るVリブドベルトの断面斜視図である。
【図2】表面処理を施していないポリアミド短繊維を配合したリブ表面状態を示す図である。
【図3】表面処理を施したポリアミド短繊維を配合したリブ表面状態を示す図である。
【符号の説明】
【0058】
1 Vリブドベルト(摩擦伝動ベルト)
2 伸張部
3 心線
4 接着層
5 カバー帆布
6 圧縮部(摩擦伝動部)
8 穴
9 リブ側面(摩擦伝動面)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面処理が施されていない短繊維を配合したゴム組成物で摩擦伝動面を構成した摩擦伝動ベルトであって、
該表面に、短繊維の脱落による空孔及び/又は短繊維とゴムとの間隙が存在することを特徴とする摩擦伝動ベルト。
【請求項2】
短繊維がポリアミド短繊維である請求項1記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項3】
ゴム組成物がエチレン・α−オレフィンゴム組成物である請求項1又は2記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項4】
ゴム組成物は表面処理を施した綿短繊維を配合してなる請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項5】
ゴム組成物は表面処理を施したポリアミド短繊維を配合してなる請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項6】
摩擦伝動ベルトが、伸張部とベルト周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部を有し、ベルト長手方向に沿って心線を埋設したVリブドベルトである請求項1〜5のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項7】
表面処理が施されていない短繊維を配合したゴム組成物で摩擦伝動部を構成した後、研磨して摩擦伝動面を形成すると共に該摩擦伝動面に短繊維の脱落による空孔及び/又は短繊維とゴムとの間隙を生じせしめることを特徴とする摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項8】
短繊維がポリアミド短繊維である請求項7記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項9】
ゴム組成物がエチレン・α−オレフィンゴム組成物である請求項7又は8記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項10】
ゴム組成物は表面処理を施した綿短繊維を配合してなる請求項7〜9のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルトの製造方法。
【請求項11】
ゴム組成物は表面処理を施したポリアミド短繊維を配合してなる請求項7〜10のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルト。
【請求項12】
摩擦伝動ベルトが、伸張部とベルト周方向に延びる複数のリブを有する圧縮部を有し、ベルト長手方向に沿って心線を埋設したVリブドベルトである請求項7〜11のいずれか1項に記載の摩擦伝動ベルト。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−64015(P2006−64015A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−244550(P2004−244550)
【出願日】平成16年8月25日(2004.8.25)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】