説明

摩擦撹拌接合システム及び摩擦撹拌接合方法

【課題】処理負担を軽減しつつ、接合状態の可否を精度良く判断することができる摩擦撹拌接合システム及び摩擦撹拌接合方法を提供する。
【解決手段】摩擦撹拌接合システム1では、電力検出センサ104からの測定用の出力信号Sのうち、回転ツール3が突き合わせ部分Lに押し込まれたときに対応するS2部分と、回転ツール3が突き合わせ部分Lから引き上げられたときに対応するS4部分とを予め設定された閾値と比較し、これに基づいて測定用の出力信号Sの異常の有無を判断する。このように、摩擦撹拌接合システム1では、単一の物理量をモニタリングし、かつ摩擦撹拌接合の開始から完了までの期間のうち、システムに供給される有効電力の変動が顕著な部分を抽出して異常の有無を判断しているので、処理負担を軽減しつつ、接合部Wの接合状態の可否を精度良く判断できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦撹拌接合システム及び摩擦撹拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の接合方法として、摩擦撹拌接合(FSW:Friction Stir Welding)が知られている。摩擦撹拌接合では、接合しようとする金属材を接合部において対向させる。そして、回転ツールの先端に設けられたプローブを接合部に押し込んで回転させ、摩擦熱による塑性流動によって2つの金属材を接合する。
【0003】
摩擦撹拌接合方法に関する技術として、例えば特許文献1に記載の摩擦撹拌接合方法がある。この従来の摩擦撹拌接合方法では、接合対象物から回転ツールに加わる抵抗力が極大となった時刻を、プローブが接合部に完全に押し込まれた時刻であるとみなし、この時刻において回転ツールの移動を開始するようにしている。
【特許文献1】特開2006−334639号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の摩擦撹拌接合方法にも示されるように、摩擦撹拌接合によって形成される接合部の接合状態の可否は、摩擦撹拌接合システムの動作条件に依存し、特に、接合対象物に直接接触する回転ツールの動作に大きく左右される。そこで、接合状態の可否を精度良く判断するため、動作中の回転ツールにかかる荷重、歪み量、振動といった複数の物理量を常時モニタリングすることが考えられる。しかしながら、複数の物理量を常時モニタリングすると、センサの数が増加し、解析ルーチンも複雑化してしまうという問題がある。
【0005】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、処理負担を軽減しつつ、接合状態の可否を精度良く判断することができる摩擦撹拌接合システム及び摩擦撹拌接合方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題の解決のため、本願発明者は、鋭意研究を重ねる過程で、接合を行う際に摩擦撹拌接合システムで消費されるエネルギーの変動量に着目した。その結果、摩擦撹拌接合システムで消費されるエネルギー量は、システムにかかる負荷に依存しており、摩擦撹拌接合の開始時、すなわち、回転ツールが金属材の当接部分に押し込まれたときに急峻なピークが生じ、摩擦撹拌接合中はほぼ一定のレベルを保つことが分かった。また、摩擦撹拌接合が完了して回転ツールが当接部分から引き上げられたときにわずかなピークが生じ、その後急激に落ち込んでわずかなディップを生じた後、摩擦撹拌接合開始前のレベルに戻ることが分かった。
【0007】
そこで、本願発明者は、摩擦撹拌接合の開始から完了までの期間のうち、エネルギー量の変動が顕著な部分について異常の有無を判断すれば、摩擦撹拌接合の全期間にわたって複数の物理量を処理せずとも接合状態の可否を精度良く判断することができるとの知見を得て本発明を想到するに至った。
【0008】
本発明に係る摩擦撹拌接合システムは、金属材の端面同士の当接部分に押し込んだ回転ツールを回転させることにより、当接部分に沿って接合部を形成する摩擦撹拌接合システムであって、摩擦撹拌接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を検出する物理量検出手段と、物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、回転ツールが当接部分に押し込まれたときに対応する第1の部分と、回転ツールが当接部分から引き上げられたときに対応する第2の部分とをそれぞれ抽出する出力信号抽出手段と、出力信号抽出手段によって抽出された第1の部分及び第2の部分と予め設定された閾値との比較に基づいて、測定用の出力信号の異常の有無を判断する異常判断出段と、異常判断手段による判断結果に基づいて、接合部の接合状態の可否を判断する接合状態判断手段と、を備えたことを特徴としている。
【0009】
この摩擦撹拌接合システムでは、摩擦撹拌接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を物理量検出手段によって検出する。そして、物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、回転ツールが当接部分に押し込まれたときに対応する第1の部分と、回転ツールが当接部分から引き上げられたときに対応する第2の部分とを予め設定された閾値と比較し、これに基づいて測定用の出力信号の異常の有無を判断する。このように、この摩擦撹拌接合システムでは、単一の物理量をモニタリングし、かつ摩擦撹拌接合の開始から完了までの期間のうち、エネルギー量の変動が顕著な部分を抽出して異常の有無を判断しているので、処理負担を軽減しつつ、接合状態の可否を精度良く判断することができる。
【0010】
また、予め取得した基準用の出力信号から抽出された第1の部分の上管理限界値及び下管理限界値を算出する第1算出手段と、予め取得した基準用の出力信号から抽出された第2の部分からその移動平均を減算して得られる差分信号の標準偏差を整数倍して得られる正規化値を算出する第2算出手段と、を更に備え、異常判断手段は、測定用の出力信号における第1の部分が上管理限界と下管理限界との間に収まっているか否かに基づいて、第1の部分の異常の有無を判断する第1異常判断手段と、測定用の出力信号における第2の部分からその移動平均を減算して得られる差分信号が正規化値を超えるか否かに基づいて、第2の部分の異常の有無を判断する第2異常判断手段と、を備えたことが好ましい。
【0011】
上管理限界値と下管理限界値とは、基準用の出力信号の第1の部分について標準偏差を算出し、これを標準偏差を整数倍して得られる正規化値を基準用の出力信号の第1の部分に加算及び減算してそれぞれ得られる値である。これらの閾値は、基準用の出力信号の第1の部分の波形に沿って一定の数値幅を持って設定されるので、回転ツールが当接部分に押し込まれたときに急峻な立ち上がりを示す測定用の出力信号の第1の部分の異常の有無を容易に判断することができる。一方、測定用の出力信号の第2の部分については、その移動平均を差分した差分信号を用いて異常の有無を判断する。これにより、回転ツールが当接部分から引き上げられたときに測定用の出力信号の第2の部分に生じるわずかなピーク及びディップを捉え、第2の部分の異常の有無を容易に判断することができる。
【0012】
また、本発明に係る摩擦撹拌接合方法は、金属材の端面同士の当接部分に押し込んだ回転ツールを回転させることにより、当接部分に沿って接合部を形成する摩擦撹拌接合方法であって、摩擦撹拌接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を物理量検出手段によって検出する物理量検出ステップと、物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、回転ツールが当接部分に押し込まれたときに対応する第1の部分と、回転ツールが当接部分から引き上げられたときに対応する第2の部分とをそれぞれ抽出する出力信号抽出ステップと、第1の部分及び第2の部分と予め設定された閾値との比較に基づいて、測定用の出力信号の異常の有無を判断する異常判断ステップと、異常判断ステップでの判断結果に基づいて、接合部の接合状態の可否を判断する接合状態判断ステップと、を備えたことを特徴としている。
【0013】
この摩擦撹拌方法では、摩擦撹拌接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を物理量検出手段によって検出する。そして、物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、回転ツールが当接部分に押し込まれたときに対応する第1の部分と、回転ツールが当接部分から引き上げられたときに対応する第2の部分とを予め設定された閾値と比較し、これに基づいて側絵地用の出力信号の異常の有無を判断する。このように、この摩擦撹拌接合システムでは、単一の物理量をモニタリングし、かつ摩擦撹拌接合の開始から完了までの期間のうち、エネルギー量の変動が顕著な部分を抽出して異常の有無を判断しているので、処理負担を軽減しつつ、接合状態の可否を精度良く判断することができる。
【0014】
また、予め取得した基準用の出力信号から抽出された第1の部分の上管理限界値及び下管理限界値を算出する第1算出ステップと、予め取得した基準用の出力信号から抽出された第2の部分からその移動平均を減算して得られる差分信号の標準偏差を整数倍して得られる正規化値を算出する第2算出ステップと、を更に備え、異常判断ステップは、測定用の出力信号における第1の部分が上管理限界と下管理限界との間に収まっているか否かに基づいて、第1の部分の異常の有無を判断する第1異常判断ステップと、測定用の出力信号における第2の部分からその移動平均を減算して得られる差分信号が正規化値を超えるか否かに基づいて、第2の部分の異常の有無を判断する第2異常判断ステップと、を備えたことが好ましい。
【0015】
これにより、回転ツールが当接部分に押し込まれたときに急峻な立ち上がりを示す測定用の出力信号の第1の部分の異常の有無を容易に判断することができる。また、回転ツールが当接部分から引き上げられたときに測定用の出力信号の第2の部分に生じるわずかなピーク及びディップを捉え、第2の部分の異常の有無を容易に判断することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る摩擦撹拌接合システム及び摩擦撹拌接合方法によれば、処理負担を軽減しつつ、接合状態の可否を精度良く判断することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る摩擦撹拌接合システム及び摩擦撹拌接合方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る摩擦撹拌接合システムの一実施形態による金属材の摩擦撹拌接合の様子を示した図である。図1に示すように、摩擦撹拌接合システム1は、接合対象である金属材2a,2bの上方に配置された回転ツール3を備えている。回転ツール3は、略円柱状をなす金属材であり、回転ツール3の先端中央には、回転ツール3の胴体部分の直径よりも小径の略円柱状のプローブ4が設けられている。
【0019】
摩擦撹拌接合を行うにあたり、摩擦撹拌接合システム1は、まず、回転ツール3を所定の回転速度で回転させる。そして、この回転ツール3を金属材2a,2bに向かって下降させ、プローブ4が金属材2a,2bにおける端面同士の突き合わせ部分(当接部分)Lに没入するように、回転ツール3を突き合わせ部分Lの一端側に押し込む。
【0020】
次に、摩擦撹拌接合システム1は、図2に示すように、回転ツール3を突き合わせ部分Lに沿って移動させる。これにより、回転ツール3のプローブ4と金属材2a,2bとの間で摩擦熱が生じ、この摩擦熱による塑性流動によって突き合わせ部分Lに接合部Wが順次形成される。回転ツール3が突き合わせ部分Lの他端側まで到達した後、図3に示すように、回転ツール3を上昇させ、プローブ4を突き合わせ部分Lから引き上げる。その後、回転ツール3の回転が停止して処理が終了する。
【0021】
このような摩擦撹拌接合システム1は、図4に示すように、機能的な構成要素として、システム電源101と、駆動モータ102と、送り装置103と、電力検出センサ(物理量検出手段)104と、出力信号抽出部(出力信号抽出手段)105と、出力信号判断部(第1異常判断手段,第2異常判断手段、第1算出手段、第2算出手段)106と、接合状態判断部(接合状態判断手段)107と、判断結果格納部108と、停止制御部109とを備えている。
【0022】
システム電源101は、外部電源201から供給される電力を、駆動モータ102や送り装置103等に分配する部分である。駆動モータ102は、回転ツール3に軸周りの回転力を付加する部分である。駆動モータ102は、図示しない連結手段によって回転ツール3に連結され、回転ツール3を例えば600rpmの回転速度で回転させる。
【0023】
送り装置103は、回転ツール3の移動を制御する装置である。送り装置103は、摩擦撹拌接合の開始の際に、回転ツール3を金属材2a,2bに対して下降させる。そして、送り装置103は、回転ツール3を金属材2a,2bの突き合わせ部分Lに沿って移動させた後、回転ツール3を金属材2a,2bに対して上昇させる。突き合わせ部分Lに対する回転ツール3の移動速度は、例えば600mm/minに設定される。
【0024】
電力検出センサ104は、システム電源がオン状態となり、摩擦撹拌接合が開始されてから完了するまでの間、外部電源201からシステム電源101に供給される有効電力を検出する部分である。電力検出センサ104は、検出した有効電力に対応する出力信号を出力信号抽出部105に順次出力する。
【0025】
図5は、電力検出センサ104からの測定用の出力信号の波形パターンの一例を示す図である。電力検出センサ104によって検出される有効電力は、摩擦撹拌接合システム1にかかる負荷に比例して増減するものであり、摩擦撹拌接合が正常な状態でなされたか否かを示す指標として用いられる。図5に示す例では、測定用の出力信号Sは、時刻t0においてシステム電源101がオン状態となり、駆動モータ102による回転ツール3の回転が開始すると、一定のレベルに上昇する(S1部分)。
【0026】
次に、測定用の出力信号Sは、時刻t1において、回転する回転ツール3のプローブ4が金属材2a,2bの突き合わせ部分Lの一端に押し込まれる際に急峻に立ち上がり(S2部分)、その後、時刻t2から時刻t3にかけて回転ツール3が突き合わせ部分Lに沿って移動する間、S1部分よりも高いレベルでほぼ一定に維持される(S3部分)。時刻t3において回転ツール3が突き合わせ部分Lの他端に到達し、回転ツール3が金属材2a,2bから引き上げられる際、測定用の出力信号Sにはわずかなピークが生じると共に、その後急激に落ち込んでわずかなディップを生じた後、元のレベルに戻る(S4部分)。その後、システム電源101がオフ状態となると、ほぼ0レベルになる(S5部分)。
【0027】
出力信号抽出部105は、電力検出センサ104から取得した測定用の出力信号Sの波形パターンのうち、回転ツール3が突き合わせ部分Lに押し込まれたときに対応するS2部分(第1の部分)と、回転ツールが突き合わせ部分Lから引き上げられたときに対応するS4部分(第2の部分)とをそれぞれ抽出する。出力信号抽出部105は、抽出した波形パターンを出力信号判断部106に出力する。
【0028】
出力信号判断部106は、出力信号抽出部105から出力される出力信号の波形をモニタリングし、その異常の有無を判断する部分である。より具体的には、出力信号判断部106は、まず、測定用の出力信号SのS2部分について、管理限界を用いた波形解析を行う。この波形解析にあたっては、予め基準用の金属材(図示せず)について摩擦撹拌接合を実行する。そして、電力検出センサ104から出力される基準用の出力信号の波形パターンを取得し、この基準用の出力信号の波形パターンのS2部分及びS4部分を抽出しておく。
【0029】
次に、基準用の出力信号の波形パターンにおけるS2部分の出力値の移動平均を求め、移動平均化後の波形パターンに含まれる各出力値を、その標準偏差σに基づいて正規化する。そして、図6に示すように、標準偏差σを3倍して得られる正規化値を移動平均値に加算したもの(+3σ)を上管理限界とし、正規化値を移動平均値から減算したもの(−3σ)を下管理限界とする。上管理限界の波形パターンA1と、下管理限界の波形パターンA2との間には、所定の数値幅をもって許容領域が設定される。
【0030】
出力信号判断部106は、図7(a)に示すように、測定用の出力信号SのS2部分が、上管理限界の波形パターンA1と下管理限界の波形パターンA2との間に収まっている場合には、S2部分に異常が無いと判断する。また、出力信号判断部106は、図7(b)に示すように、測定用の出力信号SのS2部分が、上管理限界の波形パターンA1と下管理限界の波形パターンA2との間に収まっていない場合には、S2部分に異常があると判断する。
【0031】
出力信号判断部106は、判断結果を示す判断結果情報を生成し、接合状態判断部107に出力する。出力信号判断部106は、S2部分に異常がある旨の判断結果情報を生成した場合には、その判断結果情報を停止制御部109にも併せて出力する。
【0032】
次に、出力信号判断部106は、測定用の出力信号SのS4部分について、差分信号を用いた波形解析を行う。この波形解析の一例を図8に示す。図8(a)は、測定用の出力信号SのS4部分の波形パターンを拡大して示す図である。出力信号判断部106は、図8(b)に示すように、取得したS4部分の波形パターンの出力値の移動平均を求める。
【0033】
次に、出力信号判断部106は、図8(a)に示したS4部分の波形パターンに含まれる出力値から、図8(b)に示した移動平均化後の波形パターンP1に含まれる出力値を減算する。これにより、図8(c)に示すように、0レベルを中心とする差分信号の波形パターンP2が得られる。差分信号の波形パターンP2の異常の有無を判断する閾値としては、例えば基準用の出力信号のS4部分に含まれる出力値からその移動平均を減算して得られる差分信号の標準偏差σを3倍して得られる正規化値±3σが用いられる。
【0034】
出力信号判断部106は、差分信号の波形パターンP2に含まれる出力値が、閾値±3σに収まっている場合には、測定用の出力信号SのS4部分に異常が無いと判断する。また、出力信号判断部106は、差分信号の波形パターンP2に含まれる出力値のうち、閾値±3σを超える値が一つでも存在する場合には、測定用の出力信号SのS4部分に異常があると判断する。出力信号判断部106は、判断結果を示す判断結果情報を生成し、接合状態判断部107に出力する。
【0035】
接合状態判断部107は、出力信号判断部106による判断結果に基づいて、金属材2a,2bにおける接合部Wの接合状態の可否を判断する部分である。接合状態判断部107は、測定用の出力信号SのS2部分及びS4部分の双方について、異常が無い旨の判断結果を受け取った場合には、接合部Wの接合状態が可である旨の判断結果情報を判断結果格納部108に出力する。一方、接合状態判断部107は、測定用の出力信号SのS2部分及びS4部分の少なくとも一方に異常がある旨の判断結果受け取った場合には、接合部Wの接合状態が不可である旨の判断結果情報を判断結果格納部108に出力する。
【0036】
判断結果格納部108は、接合部Wの接合状態についての判断結果を格納する部分である。図9は、判断結果格納部108に格納される情報の一例を示す図である。図9に示す例では、金属材2a,2bの接合体の製品No.「00001」、「00002」等と関連付けて、接合状態の判断結果情報「OK」「NG」が格納されている。
【0037】
停止制御部109は、摩擦撹拌接合システム1の緊急停止に関する制御を行う部分である。停止制御部109は、測定用の出力信号SのS2部分に異常がある旨の判断結果情報を出力信号判断部106から受け取った場合に、送り装置103及び駆動モータ102を直ちに停止させる。
【0038】
続いて、摩擦撹拌接合システム1の動作について説明する。図10は、摩擦撹拌接合システム1の動作を示すフローチャートである。
【0039】
図10に示すように、摩擦撹拌接合システム1のシステム電源101がオン状態となり、ユーザによる所定の操作がなされると、駆動モータ102による回転ツール3の回転が開始される(ステップS01)。次に、回転ツール3が金属材2a,2bに向かって下降し、回転ツール3のプローブ4が金属材2a,2bの突き合わせ部分Lの一端側に押し込まれる(ステップS02)。
【0040】
回転ツール3の押し込みの際、電力検出センサ104からの測定用の出力信号SのS2部分について、異常の有無が判断される(ステップS03)。ステップS03において、測定用の出力信号のS2部分に異常があると判断された場合、送り装置103及び駆動モータ102が直ちに停止される(ステップS09)。測定用の出力信号SのS2部分に異常が無いと判断された場合、送り装置103により、回転ツール3が金属材2a,2bの突き合わせ部分Lに沿って移動する(ステップS04)。これにより、突き合わせ部分Lに接合部Wが順次形成される。
【0041】
回転ツール3が突き合わせ部分Lの他端側に到達した後、回転ツール3が上昇し、回転ツール3のプローブ4が突き合わせ部分Lの他端側から引き上げられる(ステップS05)。回転ツール3の引き上げの際、電力検出センサ104からの出力信号のS4部分について、異常の有無が判断される(ステップS06)。
【0042】
ステップS06の後、測定用の出力信号SのS2部分及びS4部分についての異常の有無の判断結果から、金属材2a,2bの接合部Wの接合状態の可否が判断される(ステップS07)。判断結果は、金属材2a,2bの接合体の製品No.と関連付けられて格納される(ステップS08)。
【0043】
以上説明したように、摩擦撹拌接合システム1では、摩擦撹拌接合の開始から完了までの間、システムに供給される有効電力の変化を電力検出センサ104によって検出する。そして、電力検出センサ104から取得した測定用の出力信号Sのうち、回転ツール3が突き合わせ部分Lに押し込まれたときに対応するS2部分と、回転ツール3が突き合わせ部分Lから引き上げられたときに対応するS4部分とを予め設定された閾値と比較し、これに基づいて測定用の出力信号Sの異常の有無を判断する。このように、摩擦撹拌接合システム1では、単一の物理量である有効電力をモニタリングし、かつ摩擦撹拌接合の開始から完了までの期間のうち、システムに供給される有効電力の変動が顕著な部分を抽出して異常の有無を判断しているので、処理負担を軽減しつつ、接合部Wの接合状態の可否を精度良く判断することができる。
【0044】
また、摩擦撹拌接合システム1では、測定用の出力信号SのS2部分の異常判断については、基準用の出力信号から算出した上管理限界値及び下管理限界値を所定の閾値として用い、S4部分の異常判断については、基準用の出力信号のS4部分に含まれる出力値の標準偏差σを整数倍して得られる正規化値(±3σ)を所定の閾値として用いている。
【0045】
上管理限界値と下管理限界値とは、基準用の出力信号の波形に沿って一定の数値幅を持って設定されるため、急峻な波形となる測定用の出力信号SのS2部分の異常の有無を容易に判断することができる。また、移動平均の差分処理は、バンドパスフィルタの機能と等価であり、測定用の出力信号SのS4部分に含まれる種々の周波数のうち、異常の有無に関する特定の周波数のみを取り出すことができる。これにより、回転ツールが突き合わせ部分から引き上げられたときに測定用の出力信号の第2の部分に生じるわずかなピーク及びディップを精度良く捉え、第2の部分の異常の有無を容易に判断することができる。
【0046】
また、摩擦撹拌接合システム1では、出力信号判断部106によって測定用の出力信号SのS2部分に異常があると判断された場合に、停止制御部109によって送り装置103及び駆動モータ102が直ちに停止するようになっている。回転ツール3を金属材2a,2bの突き合わせ部分Lに押し込む時点で摩擦撹拌接合システム1の異常が認められた場合に、その場で摩擦撹拌接合を中断することで、異常の要因が把握し易くなる。また、送り装置103や駆動モータ102の軸折れなど、異常がある状態で摩擦撹拌接合を継続することによって発生し得る二次的な異常を防止できる。
【0047】
さらに、摩擦撹拌接合システム1では、接合部Wの接合状態の判断結果を、金属材2a,2bの接合体の製品No.と関連付けて格納している。これにより、金属材2a,2bを用いた製品のトレーサビリティ(追跡可能性)を確立することが可能となる。
【0048】
本発明は、上記実施形態に限られるものではない。上述した実施形態では、平板の端部同士の摩擦撹拌を例示したが、本発明は、例えばフレア継手やT継手といった各種の継手にも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合システムによる金属材の摩擦撹拌接合の工程を示した図である。
【図2】図1の後続の工程を示した図である。
【図3】図2の後続の工程を示した図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る摩擦撹拌接合システムの機能的な構成要素を示した図である。
【図5】電力検出センサからの測定用の出力信号の波形パターンの一例を示した図である。
【図6】基準用の出力信号の波形パターンのS2部分から算出した上管理限界及び下管理限界の波形パターンの一例を示した図である。
【図7】測定用の出力信号S2部分における異常の有無の判断の一例を示した図である。
【図8】測定用の出力信号S4部分における異常の有無の判断の一例を示した図である。
【図9】判断結果格納部に格納される情報の一例を示した図である。
【図10】図4に示した摩擦撹拌接合システムの動作を示したフローチャートである。
【符号の説明】
【0050】
1…摩擦撹拌接合システム、2a,2b…金属材、3…回転ツール、104…電力検出センサ(物理量検出手段)、105…出力信号抽出部(出力信号抽出手段)、106…出力信号判断部(第1異常判断手段、第2異常判断手段、第1算出手段、第2算出手段)、107…接合状態判断部(接合状態判断手段)、L…突き合わせ部分、S…測定用の出力信号、W…接合部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材の端面同士の当接部分に押し込んだ回転ツールを回転させることにより、前記当接部分に沿って接合部を形成する摩擦撹拌接合システムであって、
摩擦撹拌接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を検出する物理量検出手段と、
前記物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、前記回転ツールが前記当接部分に押し込まれたときに対応する第1の部分と、前記回転ツールが前記当接部分から引き上げられたときに対応する第2の部分とをそれぞれ抽出する出力信号抽出手段と、
前記出力信号抽出手段によって抽出された前記第1の部分及び前記第2の部分と予め設定された閾値との比較に基づいて、前記測定用の出力信号の異常の有無を判断する異常判断出段と、
前記異常判断手段による判断結果に基づいて、前記接合部の接合状態の可否を判断する接合状態判断手段と、
を備えたことを特徴とする摩擦撹拌接合システム。
【請求項2】
予め取得した基準用の出力信号から抽出された前記第1の部分の上管理限界値及び下管理限界値を算出する第1算出手段と、
予め取得した基準用の出力信号から抽出された前記第2の部分からその移動平均を減算して得られる差分信号の標準偏差を整数倍して得られる正規化値を算出する第2算出手段と、を更に備え、
前記異常判断手段は、
前記測定用の出力信号における前記第1の部分が前記上管理限界と前記下管理限界との間に収まっているか否かに基づいて、前記第1の部分の異常の有無を判断する第1異常判断手段と、
前記測定用の出力信号における前記第2の部分からその移動平均を減算して得られる差分信号が前記正規化値を超えるか否かに基づいて、前記第2の部分の異常の有無を判断する第2異常判断手段と、を備えたことを特徴とする請求項1記載の摩擦撹拌接合システム。
【請求項3】
金属材の端面同士の当接部分に押し込んだ回転ツールを回転させることにより、前記当接部分に沿って接合部を形成する摩擦撹拌接合方法であって、
摩擦撹拌接合の開始から完了までの間、システムに供給されるエネルギー量に関する物理量の変化を物理量検出手段によって検出する物理量検出ステップと、
前記物理量検出手段から取得した測定用の出力信号のうち、前記回転ツールが前記当接部分に押し込まれたときに対応する第1の部分と、前記回転ツールが前記当接部分から引き上げられたときに対応する第2の部分とをそれぞれ抽出する出力信号抽出ステップと、
前記第1の部分及び前記第2の部分と予め設定された閾値との比較に基づいて、前記測定用の出力信号の異常の有無を判断する異常判断ステップと、
前記異常判断ステップでの判断結果に基づいて、前記接合部の接合状態の可否を判断する接合状態判断ステップと、
を備えたことを特徴とする摩擦撹拌接合方法。
【請求項4】
予め取得した基準用の出力信号から抽出された前記第1の部分の上管理限界値及び下管理限界値を算出する第1算出ステップと、
予め取得した基準用の出力信号から抽出された前記第2の部分からその移動平均を減算して得られる差分信号の標準偏差を整数倍して得られる正規化値を算出する第2算出ステップと、を更に備え、
前記異常判断ステップは、
前記測定用の出力信号における前記第1の部分が前記上管理限界と前記下管理限界との間に収まっているか否かに基づいて、前記第1の部分の異常の有無を判断する第1異常判断ステップと、
前記測定用の出力信号における前記第2の部分からその移動平均を減算して得られる差分信号が前記正規化値を超えるか否かに基づいて、前記第2の部分の異常の有無を判断する第2異常判断ステップと、を備えたことを特徴とする請求項3記載の摩擦撹拌接合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−82952(P2009−82952A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−254900(P2007−254900)
【出願日】平成19年9月28日(2007.9.28)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】