説明

摩擦攪拌接合用ツール

【課題】攪拌棒とショルダー部材とが別体に構成されている摩擦攪拌接合用ツールにおいて、所定の固定強度を確保しつつ簡単且つ安価に構成されるとともに攪拌棒の交換作業や位置変更作業等を容易且つ迅速に行なうことができるようにする。
【解決手段】攪拌棒16の外周面には軸心と直交する方向に対して垂直な平坦面30が設けられ、その平坦面30にロックねじ18の先端面が面接触するように当接させられることにより、攪拌棒16がショルダー部材12に対して回転不能に一体的に固定されるため、単一のロックねじ18で所定の固定強度を安定して確保することが可能で、簡単且つ安価に構成できるとともに、攪拌棒16の交換作業や位置変更作業等を容易且つ迅速に行なうことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦攪拌接合用ツールに係り、特に、摩擦攪拌に用いられる攪拌棒がショルダー部材に螺合されてロックねじにより着脱可能に固定されて使用される形式の摩擦攪拌接合用ツールの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合用ツールを中心線まわりに回転駆動しつつ、その摩擦攪拌接合用ツールの先端突出部を被接合部材に押圧することにより、摩擦熱でその被接合部材を軟化させるとともにその先端突出部を被接合部材内に没入させ、その先端突出部により被接合部材の接合部位を攪拌して混ぜ合わせて接合する摩擦攪拌接合技術が知られている。特許文献1に記載の技術はその一例で、先端突出部を含めて超硬合金にて一体に構成されている摩擦攪拌接合用ツールが用いられている。
【0003】
一方、特許文献2には、(a) 後端から先端まで中心線O上を貫通する貫通穴が設けられるとともに、その貫通穴の少なくとも一部にめねじが形成されたショルダー部材と、(b) 軸方向の少なくとも一部におねじが設けられ、後端の工具係止部を介して軸心まわりに回転させられることにより前記めねじに螺合されるとともに、前端部が前記ショルダー部材の先端から突き出すようにそのショルダー部材に配設される攪拌棒と、(c) 前記ショルダー部材に前記貫通穴と直交するように形成されたねじ穴に螺合され、前記攪拌棒に当接させられることにより、その攪拌棒をそのショルダー部材に対して着脱可能に一体的に固定するロックねじと、を有する摩擦攪拌接合用ツールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−199281号公報
【特許文献2】特開2004−291057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の摩擦攪拌接合用ツールは、ショルダー部分を含めて高価な超硬合金にて構成されているため、製造コストが高くなるという問題があった。一方、特許文献2において摩擦攪拌に供される攪拌棒のみを超硬合金にて構成し、ショルダー部材については安価なダイス鋼等を用いることが考えられるが、特許文献2に記載の技術は、攪拌棒の突出量を被接合部材の板厚等に応じて極め細かく調整できるようにするためのもので、攪拌棒を軸心まわりのどの位置でも固定できるようになっている。このため、所定の固定強度を確保するために多数のロックねじが必要で、部品点数が多くてコスト高になるとともに、攪拌棒の交換作業や位置変更作業等が面倒で時間が掛かるという問題があった。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、摩擦攪拌に用いられる攪拌棒とショルダー部材とが別体に構成され、別々の材質にて構成することができる摩擦攪拌接合用ツールにおいて、所定の固定強度を確保しつつ簡単且つ安価に構成されるとともに攪拌棒の交換作業や位置変更作業等を容易且つ迅速に行なうことができるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、(a) 後端から先端まで中心線O上を貫通する貫通穴が設けられるとともに、その貫通穴の少なくとも一部にめねじが形成されたショルダー部材と、(b) 軸方向の少なくとも一部におねじが設けられ、後端の工具係止部を介して軸心まわりに回転させられることにより前記めねじに螺合されるとともに、前端部が前記ショルダー部材の先端から突き出すようにそのショルダー部材に配設される攪拌棒と、(c) 前記ショルダー部材に前記貫通穴と直交するように形成されたねじ穴に螺合され、前記攪拌棒に当接させられることにより、その攪拌棒をそのショルダー部材に対して着脱可能に一体的に固定するロックねじと、を有する摩擦攪拌接合用ツールにおいて、(d) 前記攪拌棒は超硬合金にて構成されているとともに、その外周面には所定の硬質被膜がコーティングされている一方、(e) その攪拌棒の外周面には軸心と直交する方向に対して垂直な平坦面が設けられ、その平坦面に前記ロックねじの先端面が面接触するように当接させられることにより、その攪拌棒が前記ショルダー部材に対して回転不能に一体的に固定されるようになっており、(f) その攪拌棒は、軸心まわりの回転に伴って前記平坦面が離散的に前記ロックねじに対面させられる軸方向に離間した複数位置で、そのロックねじにより固定可能とされることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいて、(a) 前記ねじ穴は、前記貫通穴のうち前記めねじが設けられた部分に形成されている一方、(b) 前記攪拌棒には、前記おねじが設けられた部分にそのおねじを分断するように前記平坦面がその攪拌棒の軸方向に設けられており、(c) その攪拌棒は、前記ロックねじが前記平坦面に当接させられることにより、その平坦面と反対側の前記おねじが設けられた部分が前記めねじに押圧されて一体的に固定されることを特徴とする。
【0009】
第3発明は、第1発明または第2発明の摩擦攪拌接合用ツールにおいて、(a) 前記平坦面は前記攪拌棒の軸心まわりの1箇所に軸方向に延びるように一つ設けられているだけで、その平坦面に前記ロックねじが当接させられることによりその攪拌棒が前記ショルダー部材に一体的に固定されるようになっており、(b) 前記攪拌棒は、軸方向において前記おねじのリードの整数倍だけ移動した位置で前記平坦面が前記ロックねじに対面させられ、そのロックねじにより固定可能とされることを特徴とする。
【0010】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの摩擦攪拌接合用ツールにおいて、前記攪拌棒には、全長に亘って前記おねじが設けられているとともに、そのおねじを分断するように全長に亘って前記平坦面がその攪拌棒の軸方向に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
このような摩擦攪拌接合用ツールにおいては、摩擦攪拌に用いられる攪拌棒とショルダー部材とが別体に構成されており、攪拌棒は超硬合金にて構成されているとともにその外周面には所定の硬質被膜がコーティングされているため、優れた耐摩耗性が得られて工具寿命が大幅に向上する一方、ショルダー部材については例えば工具鋼(ダイス鋼など)等の安価な材料を採用できるとともに、攪拌棒の摩耗や損傷時には攪拌棒だけを交換すれば良いため、工具全体の必要コストが大幅に節減される。
【0012】
また、本発明では、攪拌棒の外周面に軸心と直交する方向に対して垂直な平坦面が設けられ、その平坦面にロックねじの先端面が面接触するように当接させられることにより、攪拌棒がショルダー部材に対して回転不能に一体的に固定されるため、少ないロックねじで所定の固定強度を安定して確保することが可能で、簡単且つ安価に構成できるとともに、攪拌棒の交換作業や位置変更作業等を容易且つ迅速に行なうことができる。攪拌棒は、軸心まわりの回転に伴って平坦面が離散的にロックねじに対面させられる軸方向に離間した複数位置で、そのロックねじにより固定可能とされるため、前記特許文献2のように攪拌棒の突出寸法を連続的にきめ細かく調整することはできないものの、おねじのリード等に応じて定まる所定の寸法ずつ突出寸法を変更することが可能で、被接合部材の板厚等に応じて突出寸法を適切に調整できる。
【0013】
第2発明では、めねじが設けられた部分にねじ穴が形成されてロックねじが螺合され、攪拌棒のおねじが設けられた部分にそのおねじを分断するように設けられた平坦面に当接させられることにより、その平坦面と反対側のおねじがめねじに押圧されることにより、攪拌棒がショルダー部材に対して一体的に固定されるため、おねじとめねじとの噛み合いにより高い固定強度が容易に得られる。
【0014】
第3発明では、攪拌棒の軸心まわりの1箇所に軸方向に延びるように単一の平坦面が設けられ、その平坦面にロックねじが当接させられることにより攪拌棒がショルダー部材に一体的に固定されるため、複数の平坦面を設ける場合に比較して一層簡単且つ安価に構成されるとともに、おねじによって攪拌する場合にはその攪拌作用が良好に維持される。
【0015】
第4発明では、攪拌棒の全長に亘っておねじが設けられているとともに、そのおねじを分断するように全長に亘って平坦面が設けられているため、攪拌棒が簡単且つ安価に構成されるとともに、おねじの存在で攪拌作用が良好に得られる一方、ショルダー部材から突き出す前端部が摩耗或いは損傷した場合には、その前端部分を切断除去するとともにロックねじを緩めて攪拌棒を回転させて前進させることにより、攪拌棒をロックねじでロックできる範囲で何回も使用できて経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例である摩擦攪拌接合用ツールを示す図で、(a) は斜視図、(b) は(a) を中心線Oに沿って切断した断面図、(c) は中心線Oに対して直角な方向から見た断面図、(d) は(c) におけるID−ID断面図、(e) は(c) におけるIE−IE断面図である。
【図2】図1の摩擦攪拌接合用ツールを用いて一対の被接合部材を摩擦攪拌接合する際の接合方法の一例を説明する図で、(a) は斜視図、(b) は(a) におけるIIB −IIB 断面の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の摩擦攪拌接合用ツールは、中心線Oまわりに回転駆動されつつ前記攪拌棒のうち前記ショルダー部材の先端から突き出す突出部が被接合部材に押圧されることにより、摩擦熱で該被接合部材を軟化させるとともに該突出部が該被接合部材内に没入させられ、該突出部により該被接合部材の接合部位を攪拌して混ぜ合わせて接合するように用いられ、例えばアルミニウム合金やマグネシウム合金などの比較的軟質の板材を接合する場合に好適に用いられる。また、スポット溶接のように断続的に1点ずつ接合する場合でも、所定の接合線に沿って連続的に接合する場合でも使用できる。接合線に沿って連続的に接合する態様は、一対の被接合部材の端縁を突き合わせて、その突合せ部分を接合する場合の他、一対の被接合部材の端部を重ね合わせ、その重ね合わせ部分を摩擦攪拌接合する場合でも良い。
【0018】
攪拌棒は超硬合金にて構成され、被接合部材の材質等に応じて所定の硬質被膜がコーティングされる。硬質被膜としては、TiNやTiCN、TiAlN、CrN等の化合物被膜やDLC(Diamond Like Carbon ;ダイヤモンド状カーボン)膜、ダイヤモンド被膜等が好適に用いられる。攪拌棒がショルダー部材から突き出す前端部分(突出部)は摩擦攪拌に用いられるため、摩擦攪拌に適した凹凸形状等の異形断面とすることが望ましく、例えばおねじを攪拌棒の前端まで形成して、そのおねじで攪拌するように構成される。おねじは、例えば摩擦攪拌接合時の工具回転方向と反対方向にねじれていて、被接合部材を先端側へ流動攪拌するように構成されるが、工具回転方向と同じ回転方向にねじれていて、被接合部材を手前に引き込むように流動攪拌するようになっていても良い。
【0019】
貫通穴と直交するねじ穴およびロックねじは1つであっても良いが、例えばショルダー部材の中心線Oまわりに等角度間隔で複数設けることもできる。ねじ穴だけ複数設け、攪拌棒の外周面に設けられた単一の平坦面に対向するねじ穴にロックねじを螺合して攪拌棒を複数の回転位相で固定できるようにしても良い。攪拌棒の軸心まわりに等角度間隔で複数の平坦面を設け、その複数の平坦面に対して複数のロックねじをそれぞれ当接させて攪拌棒を固定することもできる。ロックねじは1つで、複数の平坦面の何れかに当接させて固定することもできる。中心線O方向に離間して複数のねじ穴を設け、複数のロックねじを螺合して攪拌棒を固定することもできるなど、種々の態様が可能である。
【0020】
第2発明では、貫通穴のめねじが設けられた部分にねじ穴が形成されるとともに、攪拌棒のおねじが設けられた部分に平坦面が設けられているが、第1発明の実施に際しては、貫通穴のめねじ以外の部分にねじ穴を設けたり、攪拌棒のおねじ以外の部分に平坦面を設けたりすることもできる。第4発明では、攪拌棒の全長におねじが設けられるとともに平坦面が形成されているが、攪拌棒の一部だけにおねじや平坦面が設けられても良いし、そのおねじおよび平坦面を別々の場所に設けることもできるなど、種々の態様が可能である。
【0021】
攪拌棒の後端に設けられる工具係止部は、後端面の軸心上に設けられる六角穴や四角穴等の角穴、或いは後端面から軸心に沿って突き出す六角柱や四角柱等の角柱などである。
【0022】
貫通穴に設けられるめねじは、所定の固定強度を得る上で例えば20mm以上の長さを有し、それよりも長い攪拌棒のおねじが20mm以上の範囲に亘って螺合されるようにすることが望ましい。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である摩擦攪拌接合用ツール10を示す図で、(a) は斜視図、(b) は(a) を中心線Oに沿って切断した断面図、(c) は中心線Oに対して直角な方向から見た断面図、(d) は(c) におけるID−ID断面図、(e) は(c) におけるIE−IE断面図である。この摩擦攪拌接合用ツール10は、大径部および小径部を有する段付き円柱形状のショルダー部材12と、全長に亘って外周面におねじ14が設けられた攪拌棒16とから成り、攪拌棒16はロックねじ18によりショルダー部材12に対して回転不能に一体的に固定されている。ショルダー部材12は、合金工具鋼(本実施例ではSKD11)にて構成されており、その後端から先端まで中心線O上を貫通するように貫通穴20が設けられているとともに、その貫通穴20の全域にめねじが22が形成されており、そのめねじ22に攪拌棒16が螺合されている。
【0024】
攪拌棒16の後端面には、工具係止部として軸心上に六角穴24が設けられており、その六角穴24に工具が係止されて軸心まわりに回転駆動されることにより、前端部16aがショルダー部材12の先端から所定寸法だけ突き出すようにめねじ22に対する螺合位置が調整される。本実施例の摩擦攪拌接合用ツール10は、ショルダー部材12の後端側(図1(c) における右側)から見て中心線Oの右まわりに回転駆動されることにより摩擦攪拌接合を行なうもので、おねじ14およびめねじ22は左ねじであり、本実施例ではM4×0.7のねじが設けられている。攪拌棒16のショルダー部材12の先端から突き出す前端部16aは、摩擦攪拌に使用される突出部として機能する部分で、回転方向と反対ねじれのおねじ14が設けられることにより、図2の(b) に示すように攪拌棒16に接する部分を先端側へ流動させるように攪拌する。この攪拌棒16は、超硬合金にて構成されているとともに、その外周面には被接合部材40、42(図2参照)の材質等に応じてTiAlN、CrN等の硬質被膜がコーティングされている。図1の(a) 〜(e) の各図におけるショルダー部材12の中心線Oは、攪拌棒16の軸心と略一致する。
【0025】
前記ショルダー部材12には、その先端側の小径部に前記貫通穴20と直交するようにねじ穴26が形成されており、そのねじ穴26に前記ロックねじ18が螺合されている。このロックねじ18の後端面にも、工具係止部として軸心上に六角穴28が設けられており、その六角穴28に工具が係止されて軸心まわりに回転駆動されることにより、ねじ穴26に螺合されて攪拌棒16に当接させられ、その攪拌棒16をショルダー部材12に対して着脱可能に一体的に固定している。ねじ穴26は、ショルダー部材12の先端から10mm〜20mm程度の範囲内に設けられており、攪拌棒16がショルダー部材12から突き出す近傍部分を適切に固定することができる。
【0026】
一方、攪拌棒16には、軸心と直交する方向に対して垂直な平坦面30が軸心まわりの1箇所におねじ14を分断するように設けられており、ロックねじ18の先端面がその平坦面30に面接触させられることにより、ロックねじ18による攪拌棒16の固定状態が安定して維持されるとともに、平坦面30と反対側においておねじ14がめねじ22と噛み合うように高い固定強度で固定される。平坦面30は、攪拌棒16の軸方向の全長に亘って設けられており、軸心まわりに1回転させられる毎に1リードずつ軸方向へ変位しつつ平坦面30がロックねじ18と離散的に対面させられ、そのロックねじ18により固定可能とされる。これにより、攪拌棒16の前端部16aの突出寸法を、おねじ14の1リード(本実施例では0.7mm)ずつ異なる寸法に調整でき、被接合部材40、42の板厚寸法等に応じて適宜変更できる。また、前端部16aに摩耗や損傷が生じた場合には、その前端部16aを切断除去するとともに、攪拌棒16を回転駆動して同じ寸法だけショルダー部材12の先端面から突出させることにより、ロックねじ18で攪拌棒16を固定できる範囲で攪拌棒16を何度も使用できる。本実施例の攪拌棒16の全長は約50mmであり、残りが20mm程度となるまでショルダー部材12から順次前方へ突出させて摩擦攪拌に使用できる。
【0027】
そして、このような摩擦攪拌接合用ツール10は、例えば図2に示すように、中心線Oの右まわりに回転駆動されつつ攪拌棒16の前端部(突出部)16aが一対の被接合部材40、42の接合部位に押圧されることにより、摩擦熱でその被接合部材40、42を軟化させるとともに前端部16aがその被接合部材40、42内に没入させられ、軟化部分を前端部16aのおねじ14により攪拌して混ぜ合わせて接合する。図2は、一対の被接合部材40、42の端縁を突き合わせて接合する場合で、(a) は斜視図、(b) は接合部位の拡大断面図であり、被接合部材40、42は支持台46上に載置されており、摩擦攪拌接合用ツール10と支持台46との間で挟圧されて摩擦攪拌接合される。
【0028】
図2のの符号44は、軟化させられるとともにその後の冷却で硬化した或いは硬化する接合領域で、(b) から明らかなように、接合領域44のうち攪拌棒16の近傍に位置する攪拌流動部は、おねじ14の作用で攪拌棒16の前端側(図2(b) の下方)へ流動させられる。攪拌棒16の前端側へ流動した攪拌流動部は、その後外周側から上昇させられるとともに、ショルダー部材12の先端面に当たって内側へ流動させられ、矢印で示すように円を描くように対流させられる。この対流攪拌を促進するため、ショルダー部材12の先端面を、例えば中心側程凹んだ中凹形状とすることもできるなど、種々の態様が可能である。これにより、一対の被接合部材40、42の接合領域44が良好に攪拌されて両者が混ざり合い、冷却して硬化することにより強固に一体的に接合される。この摩擦攪拌接合は、軟化して接合される接合領域44が被接合部材40、42の裏面にまで達しないように行われる。攪拌棒16の前端部16aの突出寸法は、このように摩擦攪拌接合が適切に行なわれるように、被接合部材40、42の板厚等に応じて適宜調整される。
【0029】
また、一対の被接合部材40、42の突合せ部を連続的に接合するため、摩擦攪拌接合用ツール10は、攪拌棒16の前端部16aが接合領域44内に没入させられた状態で、中心線Oまわりに回転駆動されつつ、突合せ部によって表される接合線Lに沿って矢印A方向へ直線的に移動させられる。その場合に、必要に応じて摩擦攪拌接合用ツール10を中心線Oまわりに回転駆動しつつ接合線Lを跨いで旋回(公転)させるようにして、接合処理を行うこともできる。
【0030】
ここで、本実施例の摩擦攪拌接合用ツール10は、摩擦攪拌に用いられる攪拌棒16とショルダー部材12とが別体に構成されており、攪拌棒16は超硬合金にて構成されているとともにその外周面には所定の硬質被膜がコーティングされているため、優れた耐摩耗性が得られて工具寿命が大幅に向上する一方、ショルダー部材12は安価な合金工具鋼にて構成されているとともに、攪拌棒16の摩耗や損傷時には攪拌棒16だけを交換すれば良いため、工具全体の必要コストが大幅に節減される。
【0031】
また、攪拌棒16の外周面には軸心と直交する方向に対して垂直な平坦面30が設けられ、その平坦面30にロックねじ18の先端面が面接触するように当接させられることにより、攪拌棒16がショルダー部材12に対して回転不能に一体的に固定されるため、単一のロックねじ18で所定の固定強度を安定して確保することが可能で、簡単且つ安価に構成できるとともに、攪拌棒16の交換作業や位置変更作業等を容易且つ迅速に行なうことができる。
【0032】
攪拌棒16は、軸心まわりの回転に伴って平坦面30が離散的にロックねじ18に対面させられる軸方向に離間した複数位置で、そのロックねじ18により固定可能とされるため、前記特許文献2のように攪拌棒16の突出寸法を連続的にきめ細かく調整することはできないものの、おねじ14のリードと同じ寸法ずつ突出寸法を変更できるため、被接合部材40、42の板厚等に応じて突出寸法を適切に調整できる。また、前端部16aが摩耗したり損傷したりした場合には、その前端部16aを切断除去するとともにロックねじ18を緩めて攪拌棒16を回転させて前進させることにより、同じ攪拌棒16を複数回使用することが可能で、経済的である。
【0033】
また、本実施例では、めねじ22が設けられた部分にねじ穴26が形成されてロックねじ18が螺合され、攪拌棒16のおねじ14が設けられた部分にそのおねじ14を分断するように設けられた平坦面30に当接させられることにより、その平坦面30と反対側のおねじ14がめねじ22に押圧されることにより、攪拌棒16がショルダー部材12に対して一体的に固定されるため、おねじ14とめねじ22との噛み合いにより高い固定強度が容易に得られる。
【0034】
また、本実施例では、攪拌棒16の軸心まわりの1箇所に軸方向に延びるように単一の平坦面30が設けられ、その平坦面30にロックねじが当接させられることにより攪拌棒16がショルダー部材12に一体的に固定されるため、複数の平坦面を設ける場合に比較して一層簡単且つ安価に構成されるとともに、おねじ14による攪拌作用が良好に維持される。
【0035】
また、本実施例では、攪拌棒16の全長に亘っておねじ14が設けられているとともに、そのおねじ14を分断するように全長に亘って平坦面30が設けられているため、攪拌棒16が簡単且つ安価に構成されるとともに、おねじ14の存在で攪拌作用が良好に得られる一方、ショルダー部材12から突き出す前端部16aが摩耗或いは損傷した場合には、その前端部16aを切断除去するとともにロックねじ18を緩めて攪拌棒16を回転させて前進させることにより、攪拌棒16をロックねじ18でロックできる範囲で何回も使用できて経済的である。
【0036】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0037】
10:摩擦攪拌接合用ツール 12:ショルダー部材 16:攪拌棒 16a:前端部 18:ロックねじ 20:貫通穴 24:六角穴(工具係止部) 26:ねじ穴 30:平坦面 O:中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後端から先端まで中心線O上を貫通する貫通穴が設けられるとともに、該貫通穴の少なくとも一部にめねじが形成されたショルダー部材と、
軸方向の少なくとも一部におねじが設けられ、後端の工具係止部を介して軸心まわりに回転させられることにより前記めねじに螺合されるとともに、前端部が前記ショルダー部材の先端から突き出すように該ショルダー部材に配設される攪拌棒と、
前記ショルダー部材に前記貫通穴と直交するように形成されたねじ穴に螺合され、前記攪拌棒に当接させられることにより、該攪拌棒を該ショルダー部材に対して着脱可能に一体的に固定するロックねじと、
を有する摩擦攪拌接合用ツールにおいて、
前記攪拌棒は超硬合金にて構成されているとともに、その外周面には所定の硬質被膜がコーティングされている一方、
該攪拌棒の外周面には軸心と直交する方向に対して垂直な平坦面が設けられ、該平坦面に前記ロックねじの先端面が面接触するように当接させられることにより、該攪拌棒が前記ショルダー部材に対して回転不能に一体的に固定されるようになっており、
該攪拌棒は、軸心まわりの回転に伴って前記平坦面が離散的に前記ロックねじに対面させられる軸方向に離間した複数位置で、該ロックねじにより固定可能とされる
ことを特徴とする摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項2】
前記ねじ穴は、前記貫通穴のうち前記めねじが設けられた部分に形成されている一方、
前記攪拌棒には、前記おねじが設けられた部分に該おねじを分断するように前記平坦面が該攪拌棒の軸方向に設けられており、
該攪拌棒は、前記ロックねじが前記平坦面に当接させられることにより、該平坦面と反対側の前記おねじが設けられた部分が前記めねじに押圧されて一体的に固定される
ことを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項3】
前記平坦面は前記攪拌棒の軸心まわりの1箇所に軸方向に延びるように一つ設けられているだけで、該平坦面に前記ロックねじが当接させられることによりその攪拌棒が前記ショルダー部材に一体的に固定されるようになっており、
前記攪拌棒は、軸方向において前記おねじのリードの整数倍だけ移動した位置で前記平坦面が前記ロックねじに対面させられ、該ロックねじにより固定可能とされる
ことを特徴とする請求項1または2に記載の摩擦攪拌接合用ツール。
【請求項4】
前記攪拌棒には、全長に亘って前記おねじが設けられているとともに、該おねじを分断するように全長に亘って前記平坦面が該攪拌棒の軸方向に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の摩擦攪拌接合用ツール。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−264479(P2010−264479A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117651(P2009−117651)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】