説明

摩擦材の熱処理方法

【課題】曲面状の外周摩擦面の表層に従来に比べ短時間でスコーチ処理膜が設けられ、且つ、その外周摩擦面を従来の加熱装置に比べ均一に加熱させると共に摩擦材の熱処理毎におけるそのスコーチ処理膜の厚みのバラツキを従来に比べ少なくさせる摩擦材の熱処理方法を提供する。
【解決手段】スコーチ処理膜76をライニング46の外周面46aにレーザ光54を照射することにより設けるためエネルギー集中度が比較的高いレーザ光54が外周面46aに照射されるので従来に比べ短時間でスコーチ処理膜76が設けられる。レーザ光54は、レーザ光源62の位置からレーザ光54が照射される位置までの距離が異なっても距離的に減衰しないので従来の加熱装置に比べ均一に外周面46a全体を加熱できる。また、スコーチ処理工程P3ではレーザ光54の出力条件によって外周面46aを所定温度で加熱でき従来に比べスコーチ処理膜76の厚みのバラツキを少なくできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周摩擦面を加熱してその外周摩擦面の表層から結合剤を予め分解させたスコーチ処理膜をその外周摩擦面に設けるための摩擦材の熱処理方法に関し、特にその外周摩擦面の表面を従来の摩擦材の熱処理方法に比較して短時間、且つ均一に加熱させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
摩擦材は、例えば繊維基材、充填材等の基材などが熱硬化性樹脂製の結合剤により結合されたものであり、例えば特許文献1乃至4に示すように、その摩擦材は、車輪と一体的に回転する円板状のディスクに押し付けられるディスクブレーキのブレーキパッドとして使用されたり、回転ドラムの内周面に押し付けられるドラムブレーキのブレーキシューとして使用される。
【0003】
上記のような摩擦材において例えば特許文献1、2に示すように、車両走行時に回転している上記円板状のディスクに摩擦材が押し付けられるとその摩擦材における上記ディスクとの摩擦面の表面温度が上昇して、所定温度を超えるとその摩擦材の表層の結合剤が分解されてその摩擦材の摩擦面からガスが発生する。このような摩擦材の摩擦面から発生するガスは、摩擦材の摩擦係数を低下させてブレーキの効きを悪くする原因となる。そのため、特許文献1、2では、回転するディスクに押し付けられる摩擦材の摩擦面は、摩擦材すなわちブレーキパッドの製造時に例えばガスバーナー等の加熱装置によりその摩擦面の表面を加熱してその摩擦面の表層からガス発生成分である結合剤を予め分解させる熱処理すなわちスコーチ処理が施され、その摩擦面の表面温度が上昇しても上記ガスを発生しない熱処理層すなわちスコーチ処理層をその摩擦面の表層に設けるようになっている。
【0004】
また、上記のような摩擦材の熱処理方法において、例えば特許文献2の第1図、第2図に示すように、平面状の摩擦面を有する摩擦材5bの摩擦面全体を略均一に加熱するために、加熱装置であるガスバーナー2の熱源3から摩擦材5bの摩擦面までの距離を略一定にしている。これにより、摩擦材5bの摩擦面の表層全体に斑なくスコーチ処理層が設けられるので、車両走行中においてブレーキの使用頻度が増えても制動時のブレーキの効きの悪化が防止される。
【0005】
また、上記のような摩擦材において例えば特許文献3、4に示すように、車両に搭載された初期状態のブレーキの効きを向上させるために車両走行時に回転している上記円板状のディスクに押し付けられられる摩擦材の摩擦面をその摩擦材の製造時に例えばガスバーナー等の加熱装置により熱処理すなわちスコーチ処理することがある。上記摩擦材の摩擦面がスコーチ処理されることによって、その摩擦面の表面に結合剤等の樹脂成分が浮き出てその摩擦面の表面の摩擦係数が熱処理前よりも上昇する熱処理膜すなわちスコーチ処理膜がその摩擦面の表面に生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−50671号公報
【特許文献2】特開平02−292534号公報
【特許文献3】特開2007−71353号公報
【特許文献4】特開2008−309174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来の摩擦材の熱処理方法は、上記摩擦材の摩擦面が曲面状の場合例えばドラムブレーキ用の摩擦材のように摩擦材の摩擦面が有底円筒状の回転ドラムの内周面に接触させるために円弧状の曲面である場合において、ガスバーナ等の加熱装置で上記のような平面状の摩擦面を加熱するように曲面状の外周摩擦面を加熱すると、その加熱装置の熱源からその外周摩擦面までの距離がその外周摩擦面の表面部分においてそれぞれ異なりその加熱装置の熱源によって摩擦材の外周摩擦面を略均一に加熱することができないという問題があった。例えば、円弧状に曲成された帯板状の摩擦材すなわちドラムブレーキ用の摩擦材の場合、上記加熱装置により外周摩擦面が加熱されるとその摩擦材の中央部から端部に向かうにつれてその外周摩擦面の表面温度が低くなる。
【0008】
このため、従来において、曲面状の外周摩擦面を有する摩擦材例えばドラムブレーキ用の摩擦材は、例えば、その外周摩擦面を上記のような加熱装置による加熱に替えて、その摩擦材を車両搭載後の車両状態で回転ドラムの内周面に摩擦材の外周摩擦面を摺接させることによる摩擦熱でその外周摩擦面の表面を加熱処理していた。
【0009】
しかしながら、上記摩擦熱による加熱では、上記外周摩擦面の温度上昇が遅くその外周摩擦面にスコーチ処理膜を設けるのに比較的長い処理時間を必要とする問題があった。また、摩擦材の外周摩擦面を回転ドラムの内周面に押し付けた状態でその回転ドラムを高速で回転させてその摩擦材の外周摩擦面を加熱するので、摩擦材の外周摩擦面の表面温度を所定温度に加熱するためには他の部品の要因例えばその摩擦材の外周摩擦面が押し付けられる回転ドラムの内周面の摩擦係数等の要因が関係するので摩擦熱によって加熱される摩擦材の外周摩擦面の表面温度を摩擦材を熱処理する毎に一定に設定することが難しく、摩擦材の熱処理においてその外周摩擦面の表層に設けられるスコーチ処理膜の厚みにバラツキが生じ易いという問題があった。
【0010】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであって、その目的とするところは、曲面状の外周摩擦面の表層に従来に比較して短時間でスコーチ処理膜が設けられ、且つ、その外周摩擦面を従来の加熱装置に比べ均一に加熱させると共に摩擦材の熱処理毎におけるそのスコーチ処理膜の厚みのバラツキを従来に比較して少なくさせる摩擦材の熱処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するための請求項1に係る発明の要旨とするところは、基材が熱硬化性樹脂製の結合剤により結合された摩擦材の外周摩擦面の表面に、その外周摩擦面を加熱しその外周摩擦面の表層から前記結合剤を予め分解させたスコーチ処理膜を設ける摩擦材の熱処理方法であって、(a) 前記スコーチ処理膜は、前記摩擦材の表面にレーザ光を照射することによって設けられたものである。
【0012】
また、請求項2に係る発明の要旨とするところは、請求項1に係る発明において、前記摩擦材は、円弧形状に曲成された板状のシューリムの外周面に一体的に固着されるブレーキシューのライニングである。
【0013】
また、請求項3に係る発明の要旨とするところは、請求項2に係る発明において、レーザ光源からのレーザ光の前記摩擦材の外周摩擦面上の照射点を一方向に振動させ、その一方向に振動させられた照射線を前記摩擦材の表面においてその照射線に直交する方向に前記ブレーキシューを相対移動させることにある。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明の摩擦材の熱処理方法によれば、前記スコーチ処理膜が、前記摩擦材の表面にレーザ光を照射することによって設けられたものであるため、エネルギー集中度が比較的高いレーザ光が前記外周摩擦面に照射されることによりその外周摩擦面の表面の温度上昇が好適に早くなりその外周摩擦面の表層に従来に比較して短時間でスコーチ処理膜が設けられる。また、前記レーザ光は、そのレーザ光が出力される位置からそのレーザ光が照射されるその摩擦材の表面までの距離がその外周摩擦面の表面部分においてそれぞれ異なっても距離的に減衰しないので、前記レーザ光の出力条件によってそのレーザ光が照射された部分を所定温度で加熱することができそのレーザ光を前記外周摩擦面全体に照射することによりその外周摩擦面を従来の加熱装置に比較して均一に加熱することができる。また、前記摩擦材の熱処理方法では、前記レーザ光の出力条件によって前記外周摩擦面を所定温度で加熱することができ従来のように前記外周摩擦面を加熱する際にその外周摩擦面に押し付けられる他の部品等の要因がなくなるので、前記摩擦材を熱処理する毎のその外周摩擦面の加熱条件を一定できその外周摩擦面の表層に設けられる前記スコーチ処理膜の厚みのバラツキを従来に比較して少なくすることができる。
【0015】
請求項2に係る発明の摩擦材の熱処理方法によれば、前記摩擦材は、円弧形状に曲成された板状のシューリムの外周面に一体的に固着されるブレーキシューのライニングであるため、従来のように、前記外周摩擦面を加熱するために前記ライニングの外周摩擦面を回転ドラムの内周面に押し付けた状態でその回転ドラムを高速で回転させる必要がなくなり、従来に比較して安全に前記外周摩擦面を加熱することができる。
【0016】
請求項3に係る発明の摩擦材の熱処理方法によれば、レーザ光源からのレーザ光の前記摩擦材の外周摩擦面上の照射点を一方向に振動させ、その一方向に振動させられた照射線が前記摩擦材の表面においてその照射線に直交する方向に前記ブレーキシューを相対移動させられるため、好適に前記ライニングの外周面全体に均一に前記レーザ光が比較的早く照射させられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明が適用されたディオサーボ型ドラムブレーキを示す正面図である。
【図2】図1のブレーキシューを製造する際に使用されるレーザー加熱装置を説明する図である。
【図3】図2のIII-III視断面図である。
【図4】図2のIV-IV視面図である。
【図5】ブレーキシューを製造する製造工程を説明する工程図である。
【図6】ブレーキシュー本体においてそのシューリムの外周面にライニングが積み重ねられた状態を示す図である。
【図7】ライニングの外周面にレーザ光が照射された後の状態を示す、図3のライニングの表層部分の拡大図である。
【図8】本発明の他の実施例で使用されるレーザー加熱装置を説明する図である。
【図9】本発明の他の実施例で使用されるレーザー加熱装置を説明する図である。
【図10】図9のX-X視面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施例を図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0019】
図1は、本発明の一実施例のパーキングブレーキ用ドラムブレーキ(以下、ドラムブレーキという)10が中央部に備えられたデュオサーボ型のドラムインディスクブレーキ12のハット型ディスクおよびキャリパ等を取り外した正面図である。上記ハット型ディスクは、図に示されていない円板状外周部と有底円筒状中央部とによって構成され、その円板状外周部はディスクブレーキの摩擦板として機能し、有底円筒状中央部は回転ドラムとして機能している。また、図1の2点鎖線で示す円は、その回転ドラムの外周面14を示している。
【0020】
ドラムブレーキ10には、略円板形状を成し、たとえば図示しない車軸管、アクスルハウジング、サスペンション装置などの車体側部材すなわち非回転部材に一体的に固設されたバッキングプレート16が備えられている。
【0021】
また、ドラムブレーキ10には、バッキングプレート16の左右の外周部に凸側が外側になる姿勢で互いに接近離間可能に略対称的に配設された円弧形状の一対のブレーキシュー18,20と、その一対のブレーキシュー18,20の一端部すなわち図1の上端部の間において位置固定に設けられたアンカー22と、そのアンカー22と一対のブレーキシュー18,20との間に張設され一対のブレーキシュー18,20の一端部を互いに接近する方向に常時付勢する一対のリターンスプリング24,26と、一対のブレーキシュー18,20の上端部間に架け渡された長手板状のストラット28と、一対のブレーキシュー18,20の他端部すなわち図1の下端部の間に介在させられてアジャストホイール30aの回転に伴って全長が変化させられることによりシュー間隙を調節する間隙調節装置30と、それら下端部間に張設されてそれら下端部を互いに接近する方向に常時付勢して間隙調節装置30を長手方向に挟圧するための中間部分がコイル状のスプリング32と、一対のブレーキシュー18,20の中央部に配設されたシューホールドダウン装置34,36とが備えられている。
【0022】
一対のブレーキシュー18,20は、何れも、バッキングプレート16の板面と略平行な平板状を成し且つ図1に示す正面図において全体が円弧形状に湾曲したシューウェブ38,40と、それらの円弧形状を成す外周側端縁に沿って断面が略T字状を成すように一体的に固設された円弧形状に曲成される帯板状のシューリム42,44と、それらシューリム42,44の外周面に接着剤などで一体的に固着されたライニング(摩擦材)46,48とを備えてそれぞれ構成されている。また、ブレーキシュー18の一端部には、平板状のブレーキレバー50の基端部がピン52により回動可能に連結されており、ブレーキレバー50の基端部であってピン52に近い部分は、ストラット28のブレーキシュー18側の端部に切り欠かれた切欠面28aにシューウェブ38と共に係合させられている。また、図示されていないがブレーキレバー50の先端部には、パーキングブレーキケーブルが連結されている。
【0023】
ライニング46,48は、例えば、スチール繊維、黄銅繊維、銅繊維、アラミド繊維、アクリル繊維、フェノール繊維、アルミナシリカ繊維、ロックウール、チタン酸カリウム繊維などの繊維基材、金属粉、無機粉末などの充填材等の基材がフェノール樹脂やエポキシ樹脂、メラミン樹脂、カシュー樹脂などの熱硬化性樹脂やゴム組成物を含む結合剤により結合され帯板形状に加熱硬化されたものであり、そのライニング46,48の外周面(外周摩擦面)46a,48aはドラムブレーキ10の制動時に回転ドラムの内周面と摺接するために円弧形状に曲成されている。また、ライニング46,48の内周面46b,48bとシューリム42,44の外周面42a,44aとを固着させる上記接着剤は、例えば、通常、衝撃や曲げに強く、剥離に対する強い抵抗力を備えた、フェノール樹脂を主剤とするフェノール樹脂系接着剤、エポキシ樹脂を主剤とするエポキシ樹脂系接着剤などの熱硬化性樹脂接着剤が用いられる。
【0024】
ここで、ブレーキシュー18,20を製造する際においてそのブレーキシュー18,20のライニング46,48の外周面46a,48aにレーザ光54を均等な照射密度で照射してその外周面46a,48aの表面を加熱して結合剤の表面を分解させるスコーチ処理(焦熱処理)するレーザー加熱装置56を図2乃至図4を参照して説明する。また、一対のブレーキシュー18,20は、相互に略同様に構成されているので、以下においては一方のブレーキシューであるブレーキシュー18を用いてレーザー加熱装置56を説明する。
【0025】
レーザー加熱装置56は、図2乃至図4に示すように、シューリム42の内周面42bを支持する支持面58aを備えてブレーキシュー18を支持する支持治具58と、その支持治具58の支持面58aに対向する押圧面60aを備えてその押圧面60aを支持治具58側に接近させブレーキシュー18を支持治具58の支持面58a上に固定させる固定部材60と、その固定部材60おいて固定部材60からブレーキシュー18のライニング46の外周面46aだけが露出するように貫通された図示されていない貫通穴と、例えばYAGレーザ発振器等からなるレーザ光源62と、そのレーザ光源62から発せられたレーザ光54を反射させてブレーキシュー18のライニング46の外周面46aに照射するミラー64と、そのミラー64の角度θ1を変化させることによってレーザ光54の照射点66をブレーキシュー18のライニング46の長手方向(一方向)Aに振動させる偏向装置68と、その偏向装置68により振動させたレーザ光54の照射点66によってライニング46の外周面46a上に線状に照射される照射線70をそのライニング46の外周面46a上においてその照射線70に直交する方向すなわちライニング46の幅方向Bに支持治具58を移動させるアクチュエータ72とを備えている。
【0026】
レーザー加熱装置56では、図2に示すようにブレーキシュー18が支持治具58に装着され、その後レーザー加熱装置56に備えられた図示されていない起動釦が操作されることにより、偏向装置68およびアクチュエータ72が始動してレーザ光源62から照射されるレーザ光54の照射点66が例えばライニング18の長手方向Aおよび幅方向Bの一端部である角部に配置されるようにミラー64が所定回動位置に回動すると共に支持治具58が所定位置に移動する。次いで、レーザ光源62からレーザ光54がライニング46の外周面46aの角部上に照射されると共に、そのレーザ光源62からのレーザ光54が照射されている間においてミラー64が図2に示すように往復回動し且つ支持治具58が図3に示すように往復移動することにより、レーザ光54の照射点66がライニング46の外周面46a上でそのライニング46の長手方向Aおよびライニング46の幅方向Bに移動すなわちライニング46の外周面46a上全体に移動させられてライニング46の外周面46a全体にレーザ光54が照射され加熱してスコーチ処理が施される。
【0027】
レーザー加熱装置56おいては、レーザ光54はエネルギー集中度が比較的高くライニング46の外周面46aに照射される照射面積は小さいが、偏向装置68およびアクチュエータ72を駆動させることによりレーザ光54の照射点66をライニング46の外周面46a上全体に移動させてレーザ光54をライニング46の外周面46a全体に照射するものである。また、レーザー加熱装置56によるライニング46の外周面46aへのレーザ光54の照射状態おいて、レーザ光源62からのレーザ光54の出力は略一定であり、偏向装置68によるレーザ光54の振動の周期は略一定であり、アクチュエータ72による支持治具58の移動速度は略一定であるため、レーザー加熱装置58によって加熱されるライニング46の外周面46aにおける各部分の単位面積あたりの熱量が略一定になる。さらに、上記レーザ光源62からのレーザ光54の出力条件、偏向装置68のよるレーザ光54の振動の周期、アクチュエータ72による支持治具58の移動速度を変化させることにより、レーザー加熱装置56によって加熱されるライニング46の外周面46aの単位面積あたりの熱量が自由に変化させられる。
【0028】
ここで、ブレーキシュー18を製造する製造工程P1乃至P4を図5の工程図を用いて説明する。図5の接着剤塗布工程P1では、溶接等によりシューウェブ38およびシューリム42が固定されたブレーキシュー本体74におけるそのシューリム42の外周面42aと、ライニング46の内周面46bとの一方または両方に接着剤が塗布され、必要に応じて乾燥炉内においてその塗布された接着剤が熱風乾燥される。
【0029】
次いで、図5の加熱接着工程P2では、図示されていない治具に支持されたブレーキシュー本体74おいてそのシューリム42の外周面42a上にライニング46が図6に示すように積み重ねられ、図示されていない押圧装置によりライニング46がシューリム42側に押圧されることによってブレーキシュー本体72のシューリム42の外周面42aにライニング46の内周面46bが押圧される。このシューリム42の外周面42aにライニング46の内周面46bが押圧された押圧状態において、図示されていない加熱装置によってシューリム42の内周面42bが急速に加熱されて接着剤が熱溶解されてシューリム42の外周面42aとライニング46の内周面46bとが隙間なく相互に接着される。
【0030】
次いで、スコーチ処理工程P3では、図2に示すようにブレーキシュー18がレーザー加熱装置56の支持治具58に装着され、レーザー加熱装置56のレーザ光源62から発せられたレーザ光54がミラー64に反射してそのライニング46の外周面46aの一部に照射される。図4に示すように、レーザ光源62からのレーザ光54のライニング46の外周面46a上の照射点66は偏向装置68によってそのライニング46の長手方向Aに往復振動させられ、その長手方向Aに振動させられたレーザ光52の照射線70がライニング46の外周面46aにおいてその照射線70に直交する方向すなわちそのライニング46の幅方向Bにアクチュエータ72によってブレーキシュー18が移動させられるので、そのレーザ光54の照射点66がライニング46の外周面46a上全体に移動させられレーザ光54がライニング46の外周面46a全体に照射される。
【0031】
このように、レーザ光54がライニング46の外周面46aに照射されてその外周面46aが加熱されると、図7に示すようにその外周面46aの表面温度が急速に上昇してライニング46の外周面46aの表層46c中に含まれる熱硬化性樹脂から成る結合剤が分解されその外周面46aの表層46cがスコーチ処理膜76に変質させられる。
【0032】
その後、レーザー加熱装置56から固定部材60が取り外されてブレーキシュー18が支持治具58から取り出される。最後に、図5の検査工程P4において、上記ブレーキシュー18が検査されてブレーキシュー18の製造工程P1乃至P4が終了する。
【0033】
以上のように製造されたブレーキシュー18、20を備えるドラムブレーキ10は、ブレーキシュー18,20のライニング46,48の外周面46a,48aの表面がスコーチ処理膜76に変質されているので、ドラムブレーキ10が車両に搭載された初期状態でブレーキの効きが確保される。
【0034】
本実施例のライニング46のスコーチ処理工程P3によれば、スコーチ処理膜76が、ライニング46の外周面46aにレーザ光54を照射することによって設けられたものであるため、エネルギー集中度が比較的高いレーザ光54がライニング46の外周面46aに照射されることによりその外周面46aの表面の温度上昇が好適に早くなり、その外周面46aの表層46cに従来ライニングの外周面とブレーキドラムの内周面との摺接により発生する摩擦熱によってそのライニングの外周面を加熱する熱処理方法に比較して短時間でスコーチ処理膜76が設けられる。また、レーザ光54は、そのレーザ光54が出力されるレーザ光源62の位置からそのレーザ光54が照射されるそのライニング46の外周面46aまでの距離がその外周面46aの表面部分においてそれぞれ異なっても距離的に減衰しないので、レーザ光54の出力条件によってそのレーザ光54が照射された部分を所定温度で加熱することができそのレーザ光54を外周面46a全体に照射することによりその外周面46aを従来のガスバーナ等の加熱装置に比較して略均一に加熱することができる。また、ライニング46のスコーチ処理工程P3では、レーザ光54の出力条件によってライニング46の外周面46aを所定温度で加熱することができ従来のようにライニングの外周面を加熱する際にその外周面に押し付けられる回転ドラムの内周面の摩擦係数の要因等がなくなるので、ブレーキシュー18を熱処理する毎のそのライニング46の外周面46aの加熱条件を一定できその外周面46aの表層46cに設けられるスコーチ処理膜76の厚みのバラツキを従来ライニングの外周面とブレーキドラムの内周面との摺接により発生する摩擦熱によってそのライニングの外周面を加熱する熱処理方法に比較して少なくすることができる。
【0035】
また、本実施例のライニング46のスコーチ処理工程P3によれば、レーザ光54をライニング46の外周面46aに照射することによりそのライニング46の外周面46aを加熱するので、従来のようにライニング46の外周面46aを加熱するためにそのライニング46の外周面46aを回転ドラムの内周面に押し付けた状態でその回転ドラムを高速で回転させる必要がなくなり、従来に比較して安全にライニング46の外周面46aを加熱することができる。
【0036】
また、本実施例のライニング46のスコーチ処理工程P3によれば、レーザ光源62からのレーザ光54のライニング46の外周面46aの照射点66をライニング46の長手方向Aに振動させ、その長手方向Aに振動させられた照射線70がライニング46の外周面46aにおいてその照射線70に直交する方向すなわちライニング46の幅方向Bにブレーキシュー18を相対移動させられるため、好適にライニング46の外周面46a全体に均一にレーザ光54が比較的早く照射させられる。
【実施例2】
【0037】
また、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の他の実施例において実施例相互間で共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【0038】
本実施例のライニング46のスコーチ処理工程P3は、実施例1のレーザー加熱装置56と異なるレーザー加熱装置78を使用する以外は実施例1のスコーチ処理工程P3と略同様であって、図8乃至図10はそのレーザー加熱装置78を説明する図である。
【0039】
レーザー加熱装置78は、図8乃至図10に示すように、シューリム42の内周面42bを支持する支持面80aを備えてブレーキシュー18を支持する支持治具80と、その支持治具80の支持面80aに対向する押圧面82aを備えてその押圧面82aを支持治具80側に接近させブレーキシュー18を支持治具80の支持面80a上に固定させる固定部材82と、その固定部材82おいて固定部材82からブレーキシュー18のライニング46の外周面46aだけが露出するように貫通された図示されていない貫通穴と、実施例1と同様のレーザ光源62と、実施例1と同様のミラー64と、そのミラー64の角度θ2を変化させることによってレーザ光54の照射点84をブレーキシュー18のライニング46の幅方向(一方向)Bに振動させる偏向装置86と、その偏向装置86により振動させたレーザ光54の照射点84によってライニング46の外周面46a上に線状に照射される照射線88をそのライニング46の外周面46a上においてその照射線88に直交する方向すなわちライニング46の長手方向Aに支持治具80を軸心C回りに回動させる治具回動装置90とを備えている。
【0040】
レーザー加熱装置78では、図9に示すようにブレーキシュー18が支持治具80に装着され、その後レーザー加熱装置78に備えられた図示されていない起動釦が操作されることにより、偏向装置86および治具回動装置90が始動してレーザ光源62から照射されるレーザ光54の照射点84が例えばライニング46の長手方向Aおよび幅方向Bの一端部である角部に配置されるようにミラー64が所定回動位置に回動すると共に支持治具80が所定回動位置に回動する。次いで、レーザ光源62からレーザ光54がライニング46の外周面46aの角部上に照射されると共に、そのレーザ光源62からのレーザ光54が照射されている間においてミラー64が図8に示すように往復回動し且つ支持治具80が図9に示すように軸心C回りに回動することにより、レーザ光54の照射点84がライニング46の外周面46a上でそのライニング46の幅方向Bおよびライニング46の長手方向Aに移動すなわちライニング46の外周面46a上全体に移動させられてそのライニング46の外周面46aの表面にレーザ光54が照射され加熱してスコーチ処理が施される。
【0041】
レーザー加熱装置78においては、レーザ光54はエネルギー集中度が比較的高くライニング46の外周面46aに照射される照射面積は小さいが、偏向装置86および治具回動装置90を駆動させることによりレーザ光54の照射点84をライニング46の外周面46a上全体に移動させてレーザ光54をライニング46の外周面46a全体に照射するものである。また、レーザー加熱装置78によるライニング46の外周面46aへのレーザ光54の照射状態おいて、レーザ光源62からのレーザ光54の出力は略一定であり、偏向装置86によるレーザ光54の振動の周期は略一定であり、治具回動装置90による支持治具80の軸心C回りの回動速度は略一定であるため、レーザー加熱装置78によって加熱されるライニング46の外周面46aにおける各部分の単位面積あたりの熱量が略一定になる。さらに、上記レーザ光源62からのレーザ光54の出力条件、偏向装置86のよるレーザ光54の振動の周期、治具回動装置90による支持治具78の軸心C回りの回動速度を変化させることにより、レーザー加熱装置78によって加熱されるライニング46の外周面46aの単位面積あたりの熱量が自由に変化させられる。
【0042】
以上のように構成されるレーザー加熱装置78を使用することによってスコーチ処理工程P3では、図10に示すように、レーザ光源62からのレーザ光54のライニング46の外周面46a上の照射点84が偏向装置86によってそのライニング46の幅方向Bに往復振動させられ、その幅方向Bに振動させられたレーザ光54の照射線88がライニング46の外周面46aにおいてその照射線88に直交する方向すなわちそのライニング46の長手方向Aに治具回動装置90により支持治具80が回動することによってブレーキシュー18が移動させられるので、そのレーザ光54の照射点84がライニング46の外周面46a上全体に移動させられレーザ光54がライニング46の外周面46a全体に照射される。
【0043】
本実施例のライニング46のスコーチ処理工程P3によれば、レーザ光源62からのレーザ光54のライニング46の外周面46aの照射点84をライニング46の幅方向Bに振動させ、その幅方向Bに振動させられた照射線88がライニング46の外周面46aにおいてその照射線88に直交する方向すなわちライニング46の長手方向Aにブレーキシュー18を相対移動させられるため、好適にライニング46の外周面46a全体に均一にレーザ光54が比較的早く照射させられる。
【0044】
以上、本発明の一実施例を図面に基づいて説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0045】
たとえば、本実施例において、レーザ光54を照射することによってライニング46の外周面46aが略均一に加熱されたが、本発明の摩擦材はブレーキシュー18,20のライニング46,48に限定されるものではなく摩擦材であればどのような摩擦材例えば他のブレーキやクラッチ等の摩擦材でも適用することができる。
【0046】
また、本実施例のライニング46のスコーチ処理工程P3において、レーザ光源62から発せられたレーザ光54は、ミラー64に反射しそのミラー64を偏向装置68,86によって例えば第1軸心回りに所定回動範囲内で回動させてライニング46の長手方向A或いは幅方向Bのいずれか一方向にだけ移動させていたが、例えばその偏向装置68,86にミラー64を上記第1軸心に直交する第2軸心回りに回動する機能を追加してミラー64に反射したレーザ光54をライニング46の長手方向Aおよび幅方向Bに移動させてライニング46の外周面46a全体に照射するようにしても良い。すなわち、レーザ光54をライニング46の外周面46a全体に照射するためにどのような装置が用いられても良い。
【0047】
また、本実施例のレーザー加熱装置56,78では、レーザ光54を発生させる装置として固体レーザであるYAGレーザが使用されたが他のレーザ光発生装置が使用されても良い。たとえば、気体レーザである炭酸ガスレーザが使用されても良い。
【0048】
また、前述の実施例では、レーザ光源62からライニング46の外周面46aまでのレーザ光54の経路にミラー64を備えた偏向装置68,86が設けられていたが、他の光学的走査装置が設けられていても良い。
【0049】
その他一々例示はしないが、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
18、20:ブレーキシュー
42、44:シューリム
42a、44a:外周面
46、48:ライニング(摩擦材)
46a、48a:外周面(外周摩擦面)
46c:表層
54:レーザ光
62:レーザ光源
66、84:照射点
70、88:照射線
76:スコーチ処理膜
P3:スコーチ処理工程(熱処理方法)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材が熱硬化性樹脂製の結合剤により結合された摩擦材の外周摩擦面の表面に、該外周摩擦面を加熱し該外周摩擦面の表層から前記結合剤を予め分解させたスコーチ処理膜を設ける摩擦材の熱処理方法であって、
前記スコーチ処理膜を、前記摩擦材の表面にレーザ光を照射することによって設けることを特徴とする摩擦材の熱処理方法。
【請求項2】
前記摩擦材は、円弧形状に曲成された板状のシューリムの外周面に一体的に固着されるブレーキシューのライニングであることを特徴とする請求項1の摩擦材の熱処理方法。
【請求項3】
レーザ光源からのレーザ光の前記摩擦材の外周摩擦面上の照射点を一方向に振動させ、該一方向に振動させられた照射線を前記摩擦材の表面において該照射線に直交する方向に前記ブレーキシューを相対移動させることを特徴とする請求項2の摩擦材の熱処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−107685(P2012−107685A)
【公開日】平成24年6月7日(2012.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−256332(P2010−256332)
【出願日】平成22年11月16日(2010.11.16)
【出願人】(390005670)豊生ブレーキ工業株式会社 (104)
【Fターム(参考)】