説明

摩擦材

【課題】 表面焼き処理(スコーチ処理)を必要としない、ブレーキパッドなどに用いられる摩擦材を提供する。
【解決手段】 摩擦調整材とバインダー樹脂および必要に応じて繊維基材を含む摩擦材用組成物を加熱加圧成形して得られた、(A)層及び(B)層からなる二層構造の摩擦材であって、前記(A)層が相手材と接する表面層であり、かつバインダー樹脂を除く有機材料の含有量が0〜12容量%の摩擦材用組成物の造粒物を加熱加圧成形してなる層であることを特徴とする摩擦材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摩擦材に関し、さらに詳しくは表面焼きの処理を必要としない摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブレーキパッドなどに用いられる摩擦材においては、摩擦特性における初期の効力向上およびフェード時の摩擦係数低下の対策のため摩擦材の表面を火炎や燃焼ガスあるいは赤熱させた鉄板などに接触させ最表面の有機成分を燃焼除去する表面焼き(スコーチ)が一般に実施されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、この表面焼きにおいては、加圧成形後、研摩され寸法を整えた摩擦材表面を炎などを用いて焼くため摩擦材側面の亀裂や摩擦面のフクレなどの不具合が発生する問題がある。
【0004】
この問題を解決するために、特別な表面焼き用治具を用いた表面焼き方法(例えば、特許文献2参照)が開示されているが、余計なコストや工数の発生は免れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−136971号公報
【特許文献2】特開2008−138275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情のもとで、表面焼き処理(スコーチ処理)を必要としない、ブレーキパッドなどに用いられる摩擦材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、摩擦調整材とバインダー樹脂および必要に応じて繊維基材を含む摩擦材用組成物を加熱加圧成形して得られた摩擦材を、(A)層と(B)層からなる二層構造とし、かつ相手材との摺動面である(A)層を、バインダー樹脂を除く有機材料の含有量が特定の範囲にある摩擦材用組成物の造粒物を用いて形成することにより、その目的を達成し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1) 摩擦調整材とバインダー樹脂および必要に応じて繊維基材を含む摩擦材用組成物を加熱加圧成形して得られた、(A)層及び(B)層からなる二層構造の摩擦材であって、前記(A)層が相手材と接する表面層であり、かつバインダー樹脂を除く有機材料の含有量が0〜12容量%の摩擦材用組成物の造粒物を加熱加圧成形してなる層であることを特徴とする摩擦材、
(2) (A)層の厚さが0.5〜2mmである、上記(1)項に記載の摩擦材、
(3) (A)層を形成する造粒物の平均粒径が300〜1500μmである、上記(1)または(2)項に記載の摩擦材、
(4) (A)層を構成する造粒物が流動層を使用して得られたものである、上記(1)〜(3)項のいずれか1項に記載の摩擦材、
(5) (B)層が、乾式混合物または造粒物からなる摩擦材用組成物を加熱加圧成形してなる層である、上記(1)〜(4)項のいずれか1項に記載の摩擦材、および
(6) 造粒物が、流動層を使用して得られた平均粒径300〜1500μmのものである、上記(5)項に記載の摩擦材、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、表面焼き処理(スコーチ処理)を必要としない、ブレーキパッドなどに用いられる摩擦材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例及び比較例で得られた二層構造の成形体の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の摩擦材は、摩擦調整材とバインダー樹脂および必要に応じて繊維基材を含む摩擦材用組成物を加熱加圧成形して得られた、(A)層及び(B)層からなる二層構造の摩擦材であって、前記(A)層が相手材と接する表面層であり、かつバインダー樹脂を除く有機材料の含有量が0〜12容量%の摩擦材用組成物の造粒物を加熱加圧成形してなる層であることを特徴とする。
【0012】
[摩擦材用組成物]
本発明の摩擦材に用いる摩擦材用組成物は、摩擦調整材とバインダー樹脂および必要に応じて繊維基材を含む組成物である。ただし繊維基材は必ずしも含まなくても良い。
【0013】
(摩擦調整材)
当該摩擦材用組成物に含まれる摩擦調整材としては特に制限はなく、例えば潤滑材としての黒鉛やフッ化黒鉛;硫化スズ、二硫化タングステン等の金属硫化物;窒化硼素などを挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、アルミナ、シリカ、マグネシア、ジルコニア、酸化鉄などの金属酸化物;ケイ酸ジルコニウム;炭化ケイ素;銅、黄銅、亜鉛、鉄などの金属粉末類やチタン酸塩粉末等の無機摩擦調整材、NBR、SBR、タイヤトレッドなどのゴムダストや、カシューダストなど有機ダスト等の有機摩擦調整材を挙げることができる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
さらには、摩擦調整材や補強材などとして、粘土鉱物を含有させることができる。この粘土鉱物としては、例えばカオリン、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母などが挙げられる。また、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウムなどを含有させることができる。
【0015】
(バインダー樹脂)
当該摩擦材用組成物に含まれるバインダー樹脂としては特に制限はなく、例えばポリベンゾオキサジン樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂および縮合多環芳香族炭化水素樹脂などの熱硬化型樹脂を挙げることができ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
<ポリベンゾオキサジン樹脂>
このポリベンゾオキサジン樹脂は、分子内にジヒドロベンゾオキサジン環を有する熱硬化型樹脂であって、例えばフェノール性水酸基を有する化合物と、1級アミン類と、ホルムアルデヒド類とを縮合反応させることにより製造することができる。
【0017】
前記フェノール性水酸基を有する化合物としてはビスフェノールAを、1級アミン類としてはアニリンを、ホルムアルデヒド類としてはホルマリン、パラホルムアルデヒド、トリオキサンなどを好ましく用いることができる。
【0018】
<フェノール樹脂>
フェノール樹脂としては、ノボラック型、レゾール型のいずれであってもよいが、レゾール型の場合、硬化触媒として酸触媒を必要とするため、機器の腐食などの観点から、ノボラック型が好ましい。ノボラック型フェノール樹脂の場合、硬化剤としては、通常ヘキサメチレンテトラミンが用いられるが、前記のポリベンゾオキサジン樹脂と併用する場合には、ヘキサメチレンテトラミンなどの硬化触媒を用いなくてもよい。
【0019】
このフェノール樹脂としては、ストレートフェノール樹脂や、ゴムなどによる各種変性フェノール樹脂など、いずれも用いることができる。
【0020】
<エポキシ樹脂>
エポキシ樹脂としては、得られる複合材料の性能の観点から、ビスフェノールのグリシジルエーテル型のエポキシ樹脂が好適である。
【0021】
上記ビスフェノールとしては、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどが挙げられる。これらのエポキシ樹脂の場合、硬化剤としてアミン系硬化剤や、酸無水物系硬化剤などが用いられ、また硬化促進剤として、イミダゾール系硬化促進剤などが用いられる。
【0022】
<縮合多環芳香族炭化水素樹脂>
縮合多環芳香族炭化水素樹脂(通称コプナ樹脂)としては特に制限はなく、従来公知のコプナ樹脂を挙げることができる。具体的には、ナフタレン、アセナフテン、フェナントレン、アントラセン、ピレンおよびそれらのアルキル置換体などの縮合多環芳香族炭化水素と、架橋剤として少なくとも2個のヒドロキシメチル基またはハロメチル基で置換された芳香族炭化水素化合物、好ましくはジヒドロキシメチルベンゼン(キシリレングリコール)、ジヒドロキシメチルキシレン、トリヒドロキシメチルベンゼン、ジヒドロキシメチルナフタレンなどのヒドロキシメチル化合物とを、酸触媒の存在下で反応させて得られる縮合多環芳香族炭化水素樹脂を挙げることができる。
【0023】
このようなコプナ樹脂は、耐摩耗性及び耐熱性に優れる硬化物を与える熱硬化型樹脂である。しかし、前記コプナ樹脂は、硬化触媒として酸触媒を用いるため、機器の腐食などの問題がある。したがって、酸触媒を用いず、ヘキサメチレンテトラミンなどを硬化触媒とするフェノール核を導入したコプナ樹脂が好ましい。
【0024】
(繊維基材)
当該摩擦材用組成物に含まれる繊維基材としては、特に制限はなく、有機繊維および無機繊維のいずれも用いることができる。有機繊維としては、高強度の芳香族ポリアミド繊維(アラミド繊維;デュポン社製、商品名「ケブラー」など)、耐炎化アクリル繊維、ポリイミド繊維、ポリアクリレート繊維、ポリエステル繊維などを挙げることができる。一方、無機繊維としては、チタン酸カリウム繊維、バサルト繊維、炭化珪素繊維、ガラス繊維、炭素繊維、ワラストナイトなどの他、アルミナシリカ系繊維などのセラミック繊維、ステンレス繊維、銅繊維、黄銅繊維、ニッケル繊維、鉄繊維などの金属繊維等を挙げることができる。これらの繊維状物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
本発明の摩擦材は、前記の各成分を含む摩擦材用組成物を加熱加圧成形して得られた、(A)層および(B)層からなる二層構造体である。
【0026】
[(A)層]
本発明の摩擦材における(A)層は、相手材との摺動面となる層であって、バインダー樹脂を除く有機材料の含有量が0〜12容量%の摩擦材用組成物の造粒物を加熱加圧成形してなる層である。
【0027】
前記のバインダー樹脂を除く有機材料の含有量とは、前述した摩擦調整材の中のゴムダストやカシューダストなどの有機摩擦調整材と、繊維基材の中の有機繊維との合計含有量を指す。
【0028】
本発明においては、(A)層を形成する摩擦材用組成物中の前記有機材料の含有量が12容量%を超えると、初期の摩擦特性の低下や、フェード時の摩擦係数の低下が生じるおそれがある。該有機材料の好ましい含有量は、0〜12容量%、より好ましい含有量は0〜10容量%である。
【0029】
(造粒物の作製)
当該(A)層は、有機材料の含有量が前述した範囲にある摩擦材用組成物の造粒物を加熱加圧成形して形成することが必要である。
【0030】
前記摩擦材用組成物の造粒方法としては、例えば流動層を使用した造粒物作製方法および攪拌造粒による造粒物の作製方法のいずれも採用することができる。
【0031】
流動層を使用した造粒物の作製方法としては、例えば原材料を高速攪拌型混合機を用いて乾式混合することにより混合物を調製したのち、これを流動層に供給し、ポリビニルアルコール水溶液などの造粒用結合液を噴霧して造粒を行う。造粒物は、熱風循環式乾燥機内で、30〜90℃程度の温度で15〜180分間程度乾燥処理することにより、所望の造粒物が得られる。
【0032】
この造粒に使用する流動層造粒機としては、下部から吹き込まれる気体によって、流動層を形成し得る造粒機であればよく、特に制限されず、従来公知の各種流動層造粒機、例えば通常流動層造粒機、循環流型流動層造粒機、強制循環流型流動層造粒機、噴流層造粒機などいずれも用いることができる。
【0033】
一方、攪拌造粒による造粒物の作製方法としては、例えば原材料を高速攪拌型混合機を用いて乾式混合することにより混合物を調製したのち、これを高速攪拌造粒機に供し、水などの造粒用結合液を添加して造粒を行う。造粒物は、熱風循環式乾燥機内で、30〜90℃程度の温度で15〜180分間程度乾燥処理することにより、所望の造粒物が得られる。
【0034】
本発明においては、当該(A)層を形成する造粒物としては、熱成形時の成形性(造粒物の破壊されやすさ)の観点から、攪拌造粒による造粒物よりも、流動層を使用した造粒物の方が好ましい。
【0035】
このようにして得られた造粒物の平均粒径(中位径D50)は製造プロセスにおけるハンドリングの良さの観点から、300〜1500μm程度が好ましく、500〜1300μmがより好ましい。また、当該(A)層の厚さは、効果の有効性の観点から、0.5〜2mmであることが好ましく、0.5〜1.5mmであることがより好ましい。
【0036】
[(B)層]
本発明の摩擦材における(B)層を形成する摩擦材用組成物においては、前述した(A)層のように有機材料の含有量を制御する必要がなく、通常の組成、例えば有機繊維及びゴムダストやカシューダストなどの有機摩擦調整材を通常の量で含む組成物であってもよい。また、その形態についても特に制限はなく、造粒物であってもよいし、単なる攪拌混合による乾式混合物であってもよいが取り扱いの容易さの観点から造粒物が好ましく、特に流動層を使用した造粒物であることが好ましい。造粒物である場合、その平均粒径(中位径D50)は成形性の観点から、300〜1500μm程度が好ましく、500〜1300μmがより好ましい。また、当該(B)層の厚さは、効果とコストの観点から、摩擦材の設計寸法に従い、1.5mm以上であることが好ましく、5.0mm以上であることがより好ましい。
【0037】
[摩擦材の作製]
前述のようにして調製した(A)層形成用の摩擦材用組成物からなる造粒物(A)、および(B)層形成用摩擦材用組成物からなる乾式混合物(B)または造粒物(B)を用い、以下に示す方法に従い摩擦材を作製する。
【0038】
まず、熱成形型に前記造粒物(A)を投入したのち、乾式混合物(B)または造粒物(B)を投入し、次いで予め接着剤を塗布したプレッシャプレートを重ね、温度130〜190℃程度、圧力10〜100MPa程度の条件で1〜30分間程度加熱加圧成形を行う。なお、乾式混合物(B)を用いる場合、該混合物(B)を常温で、10〜30MPa程度にて5〜30秒間程度予備成形を行ったのち、熱成形型に投入することが好ましい。
【0039】
得られた成形体を、必要に応じて160〜300℃程度の温度で1〜10時間程度アフターキュア処理を行ったのち、所定の寸法に研摩することで、本発明の摩擦材を作製することができる。
【0040】
このようにして得られた本発明の摩擦材は、スコーチ処理を施さなくても、初期の摩擦特性に優れると共に、フェード時の摩擦係数が高いなどの特徴を有している。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、各例で得られた摩擦材について、下記の試験を行い、その性能を評価した。
【0042】
<摩擦試験>
成形した摩擦材から試験片を切り出し試験片摩擦試験機を使用して、JASO−C406−82に準拠して摩擦性能試験を行い効力およびフェードの平均摩擦係数、摩擦材摩耗量を求めた。
【0043】
実施例1
(1)流動層造粒による造粒物(A)の調製
表1に示す配合例No.1の組成を用い、下記の方法による流動層造粒により、流動層造粒物(A)を調製した。
【0044】
まず、表1に示す配合例No.1の組成(容量%)となるように各成分を、高速攪拌型混合機[深江パウテック社製、機種名「ハイフレックスグラル」]により乾式混合して、混合物を得た。バインダー樹脂(フェノール樹脂)を除く有機材料(カシューダストとアラミドパルプ)の含有量は表1に示すように0容量%であった。次いで、この混合物を、流動層造粒機[フロイント産業社製、機種名「SFC−MINI」]の流動層に供し、造粒用結合液として、ポリビニルアルコール(PVA)6質量%水溶液を噴霧して造粒した。
【0045】
次に、この流動層造粒物を、熱風循環式乾燥機[ヤマト科学社製、機種名「DN610H」]内で、105℃にて、60分間乾燥処理して、表1に示すように中位径D50が600μmである流動層造粒物(A)を得た。
なお流動層造粒機の運転条件は、次のとおりである。
流動空気温度 :70℃
ロータ回転速度 :600rpm
アジテータ回転速度 :400rpm
原材料混合物投入量 :800g
成形体のPVA含有濃度:2質量%
【0046】
また、流動層造粒物(A)の中位径D50は、JIS Z 8801に準じた網ふるいを用いて、JIS Z 8815のふるい分け試験を行うことにより測定した。
【0047】
(2)流動層造粒物(B)の調製
表1に示す配合例No.3の組成を用い、流動層造粒機(前出)を用いて、流動層造粒物(B)を調製した。
【0048】
(3)摩擦材の作製
流動層造粒物(B)は、常温にて、20MPaで10秒間、予備成形したものを用いた。
【0049】
まず、熱成形型に前記(1)で得た流動層造粒物(A)を投入したのち、前記の予備成形した流動層造粒物(B)を投入した。次いで予め接着剤を塗布したプレッシャプレートを重ね、温度150℃、圧力40MPaの条件で5分間加熱加圧成形を行った。
【0050】
次に、得られた成形体を、250℃にて、3時間熱処理した。このようにして得られた成形体の断面模式図を図1に示す。成形体10は、プレッシャプレート1上に(B)層2が設けられ、この(B)層2上に、相手材との摺動面となる(A)層3が設けられた構造を有している。
【0051】
この成形体を、所定の寸法に研摩して実施例1の摩擦材(サイズ35mm×13mm×12mm)を得た。得られた摩擦材の摩擦試験結果を表2に示す。
【0052】
実施例2
(1)攪拌造粒による造粒物(A)の調製
表1に示す配合例No.2の組成を用い、下記の方法による攪拌造粒により、攪拌造粒物(A)を調製した。
【0053】
まず、表1に示す配合例No.2の組成(容量%)となるように各成分を、高速攪拌型混合機(前出)により乾式混合して、各混合物を得た。バインダー樹脂(フェノール樹脂)を除く有機材料(カシューダストとアラミドパルプ)の含有量は表1に示すように10容量%であった。次いで、この各混合物を、高速攪拌型造粒機[深江パウテック社製、機種名「ハイフレックスグラル」]に供し、造粒用結合液として水を添加して造粒した。
【0054】
次に、この攪拌造粒物を、熱風循環式乾燥機(前出)内で、105℃にて、60分間乾燥処理して、表1に示すように中位径D50が1200μmである攪拌造粒物(A)を得た。
なお、高速攪拌型造粒機の運転条件は、次のとおりである。
アジテータ回転速度 :500rpm
チョッパ回転速度 :1000rpm
原材料混合物投入量 :800g
結合液投入量 :150g
【0055】
(2)流動層造粒物(B)の調製
実施例1(2)と同様に実施し、流動層造粒物(B)を調製した。
(3)摩擦材の作製
実施例1(3)において、流動層造粒物(A)の代わりに、攪拌造粒物(A)を用いた以外は、実施例1(3)と同様な操作を行い、摩擦材を作製した。得られた摩擦材の摩擦試験結果を表2に示す。
【0056】
[比較例]
比較例1
(1)流動層造粒による造粒物(A)の調製
表1に示す配合例No.3の組成を用い、流動層造粒機(前出)を用いて、流動層造粒物(A)を調製した。バインダー樹脂(フェノール樹脂)を除く有機材料(カシューダストとアラミドパルプ)の含有量は表1に示すように、15容量%であった。
(2)流動層造粒物(B)の調製
実施例1(2)と同様に実施し、流動層造粒物(B)を調整した。
(3)摩擦材の作製
上記(1)で得られた流動層造粒物(A)および上記(2)で得られた流動層造粒物(B)は、常温にて、20MPaで10秒間、予備成形したものを用いた。
【0057】
まず、熱成形型に、前記の予備成形した流動層造粒物(A)を投入したのち、前記の予備成形した流動層造粒物(B)を投入した。次いで、予め接着剤を塗布したプレッシャプレートを重ね、温度150℃、圧力40MPaの条件で5分間加熱圧縮成形を行ったのち、実施例1(3)と同様な操作を行い、摩擦材を作製した。得られた摩擦材の摩擦試験結果を表2に示す。
【0058】
比較例2
(1)攪拌造粒による造粒物(A)の調製
表1に示す配合例No.4の組成を用い、高速攪拌型混合機(前出)を用いて乾式混合したのち、これを高速攪拌型混合機(前出)に供し、攪拌造粒物(A)を調製した。バインダー樹脂(フェノール樹脂)を除く有機材料(カシューダストとアラミドパルプ)の含有量は表1に示すように25容量%であった。
(2)流動層造粒物(B)の調製
実施例1(2)と同様に実施し、流動層造粒物(B)を調製した。
(3)摩擦材の作製
比較例1(3)において、流動層造粒物(A)の代わりに、攪拌造粒物(A)を用いた以外は、比較例1(3)と同様な操作を行い、摩擦材を作製した。得られた摩擦材の摩擦試験結果を表2に示す。
【0059】
比較例3〜7
比較例3〜7は、(A)層の材料として、本発明における造粒物の代りに乾式混合物を用いた実験例である。
(1)乾式混合物(A)の調製
表1に示す配合例No.5、6、7、8、9の組成を用い、高速攪拌型混合機(前出)を用いて、比較例3、4、5、6、7における乾式混合物(A)を調製した。
(2)流動層造粒物(B)の調製
実施例1(2)と同様にして、比較例3、4、5および6では表1の配合例No.3の組成を用い、比較例7では表1の配合例No.9の組成を用いて流動層造粒物(B)を調製した。
(3)摩擦材の作製
上記(1)で得られた各乾式混合物(A)および上記(2)で得られた各流動層造粒物(B)は、それぞれ常温にて、20MPaで10秒間、予備成形したものを用いた。
【0060】
まず、熱成形型に、前記の予備成形した乾式混合物(A)を投入したのち、前記の予備成形した流動層造粒物(B)を投入した。次いで、予め接着剤を塗布したプレッシャプレートを重ね、温度150℃、圧力40MPaの条件で5分間加熱圧縮成形を行った。
【0061】
次に、得られた各成形体を、250℃にて、3時間熱処理したのち、所定の寸法に研摩して比較例3〜7の各摩擦材を得た。なお、比較例7の摩擦材はマットバーナーを使用して表面焼きを行った。得られた各摩擦材の摩擦試験結果を表2に示す。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
本件発明の摩擦材は、(A)層及び(B)層からなり、相手材と接する表面層の(A)層が、バインダー樹脂を除く有機材料の含有量が0〜12容量%である摩擦材用組成物の造粒物を加熱加圧成形してなる層であることを特徴とするものであるが、表2から明らかなように、本件発明の実施例1〜2の摩擦材は、(A)層の造粒物中のバインダー樹脂を除く有機材料の含有量が12容量%を超える比較例1および2の摩擦材に比べて、平均摩擦係数、フェード摩擦係数および摩擦材摩耗量の全てにおいて優れている。
【0065】
また(A)層が造粒物ではなく、乾式混合物からなる比較例3〜6の摩擦材は成形不可または摩擦試験不可であり、比較例7の摩擦材は表面焼きを行うことにより、成形および摩擦試験を行うことができたが、実施例1および2の摩擦材に比べて、摩擦摩耗量が大きかった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の摩擦材は、表面焼き処理(スコーチ処理)を必要としない摩擦材であって、ブレーキパッドなどに用いられる。
【符号の説明】
【0067】
1 プレッシャプレート
2 (B)層
3 (A)層
10 成形体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦調整材とバインダー樹脂および必要に応じて繊維基材を含む摩擦材用組成物を加熱加圧成形して得られた、(A)層及び(B)層からなる二層構造の摩擦材であって、前記(A)層が相手材と接する表面層であり、かつバインダー樹脂を除く有機材料の含有量が0〜12容量%の摩擦材用組成物の造粒物を加熱加圧成形してなる層であることを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
(A)層の厚さが0.5〜2mmである、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
(A)層を形成する造粒物の平均粒径が300〜1500μmである、請求項1または2に記載の摩擦材。
【請求項4】
(A)層を構成する造粒物が流動層を使用して得られたものである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項5】
(B)層が、乾式混合物または造粒物からなる摩擦材用組成物を加熱加圧成形してなる層である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦材。
【請求項6】
造粒物が、流動層を使用して得られた平均粒径300〜1500μmのものである、請求項5に記載の摩擦材。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−122111(P2011−122111A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282640(P2009−282640)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】