説明

摺動性組成物および摺動製品

【課題】ガラスラン,ウェザーストリップ等の摺動製品の圧接部に用いられる摺動性組成物において、単にガラス部材に対する摺動性を付与するだけでなく、低い曲げ弾性率(柔軟性),摺動耐久性を確保し、摺動製品の諸特性(ガラスシール性等)を高める。
【解決手段】少なくとも結晶性オレフィン系樹脂から成るオレフィン系樹脂材料に対し、カーボンブラック5wt%〜30wt%(好ましくは10wt%〜30wt%),無機充填剤10wt%〜30wt%,シリコーン系化合物5wt%〜20wt%を配合した複合材料を結晶化して摺動性組成物をする。この摺動性組成物は、例えば、摺動製品10の圧接部2における少なくともガラス5との接触面側に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂等の高分子成分を含む複合材料から成りガラス部材に対して摺動性を有する摺動性組成物に関するものであり、また、前記摺動性組成物を用いた例えば自動車のグラスラン,ウェザーストリップ等の摺動製品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
樹脂等の高分子成分を含む複合材料から成りガラス部材に対して摺動性を有する摺動性組成物は、例えば自動車のグラスラン,ウェザーストリップ等の摺動製品における圧接部(リップ部等)に適用され、その高分子材料としてはエチレン−プロピレン−ジエン共重合体(以下、EPDMと称する)等のゴム成分やオレフィン系樹脂等が挙げられる。
【0003】
摺動製品としては、例えば熱可塑性エラストマー組成物等から成るものであって、適用対象(グラスランの場合はドアパネル等)に取り付けるための基部と、その基部に設けられガラス部材(窓ガラス等)に対し弾性(柔軟性)を有して圧接しガラスシール性を保持する圧接部と、を備えたものが知られ、前記の摺動性組成物は該圧接部の接触面等に適用(例えば熱可塑性エラストマー組成物と摺動性組成物とを積層した構造で適用)されている。また、摺動性組成物の表面(摺動する側の表面)に小凸部(摺動性組成物中の固形粒子に起因する凸部)から成る粗面部が形成されたウェザーストリップが知られている。このような摺動製品によれば、自動車の窓ガラス等に対して十分な摺動性を有し、その摺動抵抗の増加を抑制でき弾性も得られるとされている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−48007号公報(例えば、段落[0007],[0008],[0036]等参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、一般的な摺動製品に適用されている摺動性組成物において、摺動性を有するものは曲げ弾性率が高く(例えば一般的なグラスラン等の基部と比較して極めて曲げ弾性率が高く)、圧接部に適用した場合には該圧接部の曲げ弾性率が高いことから、柔軟性が大きく損なわれていた。このように摺動性組成物の曲げ弾性率が圧接部の曲げ弾性率と比較して非常に高い場合(柔軟性が低い場合)、例えば摺動製品を組み付ける場合、車のパネルの3次元的な構造に追従できないことから、圧接部に波打ち現象を引き起こし易く、結果的に摺動製品の諸特性(ガラスシール性等)を損なう恐れもある。これは、圧接部における基材の柔軟性が前記の積層された摺動性組成物によって奪われ、追従できないためである。
【0005】
また、前記のように形成された小凸部は摺動耐久性(耐摩耗性)が低いため、摺動性を長期間保持するために、圧接部に対し摺動性組成物を厚く形成する必要がある。この場合、摺動性組成物自体は厚くなるに連れて曲げ弾性率が更に高く成るため、その摺動製品の諸特性も更に低下してしまうこととなる。
【0006】
したがって、摺動性組成物においては、前記のように単にガラス部材に対する摺動性を付与するだけでなく、低い曲げ弾性率(柔軟性),摺動耐久性を確保し、摺動製品の諸特性(ガラスシール性等)を高めることが要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記課題に基づいてなされたものであり、請求項1記載の発明は、少なくとも結晶性ポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン系樹脂材料と、カーボンブラック5wt%〜30wt%と、少なくともシリカを含む無機充填剤10wt%〜30wt%と、シリコーン化合物5wt%〜20wt%と、を配合した複合材料を成形加工して成る組成物であって、ガラス部材に対し弾性を有して圧接しガラスシール性を付与することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ポリオレフィン系樹脂材料は、非結晶性ポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の発明において、前記の無機充填剤は、層状結晶性充填剤を含むことを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1〜3記載の発明において、前記の無機充填剤は、前記シリカと層状結晶性充填剤との結合化合物が含まれていることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1〜4記載の発明において、前記のシリカは10wt%以上であることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項1〜5記載の発明において、前記のカーボンブラックの平均粒子径は40nm以上であることを特徴とする。
【0013】
請求項7記載の発明は、車体パネルに組みつけられる基部と、その基部に設けられガラス部材に対して弾性を有して圧接する圧接部と、を備え熱可塑性エラストマー組成物から成る摺動製品であって、前記の圧接部のうち少なくともガラス部材に接する面に、請求項1〜6の何れかに記載の摺動性組成物を形成したことを特徴とする。
【0014】
請求項8記載の発明は、請求項7記載の発明において、前記の摺動性組成物は、曲げ弾性率が350MPa以下であることを特徴とする。
【0015】
請求項9記載の発明は、請求項7または8記載の発明において、前記の摺動性組成物は、JIS K 6253に準拠した硬度(D)が40〜60の範囲内であることを特徴とする。
【0016】
請求項1〜9記載の発明のように、ポリオレフィン系樹脂材料に対し比較的多量のカーボンブラックが配合された複合材料は、そのカーボンブラックの配合量に応じて結晶化(オレフィン系樹脂材料の結晶化)が抑制される。このように結晶化が抑制されると、摺動製品分野の基準でカーボンブラックが配合されたものと比較して、機械的強度が抑えられ曲げ弾性率が低くなる(柔軟になる)。無機充填剤中のシリカは、シラノール基で覆われた構造であるためシリコーンオイル成分を保持し、摺動耐久性の向上に寄与するものであると共に、ポリオレフィン系樹脂材料の結晶化を促進する作用を有するものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜9記載の発明によれば、カーボンブラックによる結晶化が阻害された領域と、シリカによる結晶化が促進された領域と、が混在した摺動性組成物となる。これにより、摺動性と共に低い曲げ弾性率(柔軟性),摺動耐久性を確保することができ、摺動製品として良好な諸特性(ガラスシール性等)を付与することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本実施形態は、少なくとも結晶性オレフィン系樹脂から成るオレフィン系樹脂材料と、カーボンブラックと、少なくともシリカから成る無機充填剤と、シリコーン化合物と、が配合された複合材料を結晶化して成る摺動性組成物に関するものである。前記の複合材料におけるカーボンブラックにおいては、摺動製品分野の基準では比較的多量の配合量とする。より具体的には、前記のオレフィン系樹脂材料に対し、カーボンブラック5wt%〜30wt%(好ましくは10wt%〜30wt%),無機充填剤10wt%〜30wt%,シリコーン系化合物5wt%〜20wt%を配合したものである。
【0019】
このように、意図的に比較的多量のカーボンブラックを配合およびシリカを配合した複合材料において結晶化(オレフィン系樹脂材料の結晶化)すると、その複合材料はカーボンブラックにより結晶化が阻害されると共に、シリカにより結晶化が促進されることとなる。これにより得られた摺動性組成物は摺動性を有すると共に、低い曲げ弾性率(柔軟性)を有するものとなる。また、摺動耐久性も十分良好となり、グラスラン,ウェザーストリップ等の摺動製品に適用した場合には、リップ部等の圧接部によるガラスシール性が良好なものとなる。
【0020】
本実施の形態の摺動性組成物においては、以下に示すようなオレフィン系樹脂材料,カーボンブラック,無機充填剤,シリコーン系化合物等を適宜配合して得た複合材料を用い、その複合材料を混練し所望の形状に結晶化して得られる。
【0021】
[オレフィン系樹脂材料]
オレフィン系樹脂材料に含まれる結晶性オレフィン系樹脂としては、例えばエチレンの単独重合体,プロピレンの単独共重合体や、エチレン,プロピレン等を主体とする結晶性の共重合体等の一般的に知られているもの(市販品等)を適宜適用することができる。具体例として、高密度ポリエチレン,低密度ポリエチレン,エチレン・ブテン‐1共重合体の結晶性エチレン系共重合体,アイソタクチックポリプロピレン,プロピレン‐エチレン共重合体,プロピレン・ブテン‐1共重合体,プロピレン・エチレン・ブテン‐1三元共重合体等が挙げられ、好ましくはポリプロピレン系重合体が挙げられる。また、前記の各結晶性オレフィン系樹脂の何れかを単独で用いても良く、2種類以上を適宜組み合わせて用いても良い。
【0022】
前記の結晶性オレフィン系樹脂の他に、非結晶性オレフィン系樹脂が含まれても良い。この場合、単に結晶性オレフィン系樹脂のみが含まれている場合と比較して、摺動性組成物の加工性や弾性を設定し易くなる。この非結晶性オレフィン系樹脂としては、例えばα‐オレフィンの単独重合体や2種類以上の共重合体等を挙げることができる。ただし、共重合体の場合には、その主成分(実施例の非結晶性オレフィンの共重合体では、プロピレン・1‐ブテン)となるα‐オレフィン単位が、アタクチック構造で結合しているものを使用する。具体例としては、アタクチックポリ‐1‐ブテン等の単独重合体や、ポリプロピレン(50モル%以上含有)と他のα‐オレフィン(エチレン,1‐ブテン,1‐ペンテン,1‐ヘキセン,4‐メチル‐1‐ペンテン,1‐オクテン,1‐デセン等)との共重合体や、1‐ブテン(50モル%以上含有)と他のα‐オレフィン(エチレン,プロピレン,1‐ペンテン,1‐ヘキセン,4‐メチル‐1‐ペンテン,1‐オクテン,1‐デセン等)との共重合体等を挙げることができる。また、前記の各共重合体は、それぞれ単独で用いても良く、2種類以上を適宜組み合わせて用いても良い。特に好ましくは、アタクチックポリプロピレン(プロピレン含有量50モル%以上)とエチレンとの共重合体や、プロピレンと1‐ブテンとの共重合体が挙げられる。
【0023】
以上示したようなオレフィン系樹脂材料の好ましい配合量としては、例えば約30wt%〜約70wt%の範囲(好ましくは40wt%〜60wt%)の範囲が挙げられるが、目的とする摺動性組成物の特性を大きく損なわない程度であれば適宜用いることができる。
【0024】
[カーボンブラック]
カーボンブラックにおいては、一般的に知られているもの(市販品等)を適宜適用することができ、例えばオイルファーネス法等によって製造されたものが挙げられる。また、好ましくは、平均粒子径が約40nm以上(後述の実施例では41nm)のものを用いたり、オレフィン系樹脂材料に対する配合量を約5wt%〜約30%(より好ましくは、約10wt%〜約30wt%)とすることが挙げられるが、目的とする摺動性組成物の特性を大きく損なわない程度であれば適宜変更して用いることができる。なお、平均粒子径が小さ過ぎる場合(例えば、平均粒子径26nm程度のものより小さい場合)や配合量が少な過ぎる場合(例えば、配合量5wt%未満の場合)には、オレフィン系樹脂材料の結晶化阻害作用が弱まり、曲げ弾性率が高くなることから、柔軟性が悪くなる。また、該配合量が多過ぎる場合(例えば、配合量35wt%以上の場合)には、複合材料中における分散性が悪化(分散不良)するだけでなく、結晶化阻害作用が強過ぎて脆弱なものとなってしまうため、摺動性組成物の諸特性(摺動耐久性等)に影響を及ぼす可能性がある。
【0025】
[無機充填剤]
無機充填剤においては、少なくとも、前記オレフィン系樹脂材料の結晶化に寄与する核剤として機能するシリカを含むものを用いる。
【0026】
シリカにおいては、一般的に知られているもの(市販品等)を適宜適用することができ、例えば湿式シリカ(例えば、トクヤマ社製のトクシール),球状シリカ(例えば、トクヤマ社製のエクセリカ),多孔質シリカ(例えば、旭ガラス社製のサンフェア,鈴木油脂工業社製のゴッドボール,東海化学工業所社製のマイクロイド)等が挙げられる。
【0027】
シリカは、外表面や内部がシラノール基(Si‐OH)で覆われていることから、内部にシリコーン化合物等が保持され易くなる。このため、例えば押出し加工時のいわゆるメヤニ現象(押出し成形機の口金縁等に発生するメヤニ)が抑制されると共に、摺動耐久性が高められる。
【0028】
オレフィン系樹脂材料に対するシリカの好ましい配合量としては、約10wt%〜約30wt%の範囲が挙げられるが、目的とする摺動性組成物の特性を大きく損なわない程度であれば適宜用いることができる。例えば、シリカの配合量が多過ぎる場合、前記のメヤニ現象(白色系のメヤニ等)が発生し易く摺動製品の外観性を悪化させると共に、曲げ弾性率が高くなり柔軟性が悪化する可能性がある。また、前記の配合量が少な過ぎる場合には、シリコーン化合物が保持され難くなり、前記のメヤニ現象(液状のメヤニ等)も発生し易くなる。
【0029】
シリカの好ましい粒径としては、前記のように結晶化に寄与する核剤としての機能の他に、取り扱い性を考慮すると、約1μm〜約100μmの範囲が挙げられるが、目的とする摺動性組成物の特性を大きく損なわない程度であれば適宜用いることができる。
【0030】
また、シリカと共にカオリン,タルク,マイカ,スメクタイト等の板状,鱗片状の層状結晶性充填剤を適宜組み合わせた無機充填剤であっても良い。この場合、層状結晶性充填剤により摺動性組成物の表面に微細な粗面が形成されるため、圧接部と被摺動対象(ガラス等)との接触面積が小さくなり、摺動耐久性がより向上する可能性がある。さらに、外観が艶消し黒色となることから、折れ皺が目立たなくなる等の効果もある。
【0031】
無機充填剤中にシリカが約10wt%〜約30wt%の範囲で含まれている場合、層状結晶性充填剤の好ましい配合量としては、約0wt%〜約20wt%の範囲が挙げられるが、目的とする摺動性組成物の特性を大きく損なわない程度であれば適宜用いることができる。例えば、層状結晶性充填剤の配合量が多過ぎる場合、前記のメヤニ現象が発生し易くなると共に、摺動製品の表面が荒れ脆弱となることから、摺動耐久性が低下する可能性がある。
【0032】
また、シリカと層状結晶性充填剤との結合化合物、例えば球状シリカと板状カオリンとの結合化合物(例えば、HOFFMAN MINERAL社製のシリチン;シリカ68wt%〜84wt%,カオリン15wt%〜25wt%)から成る無機充填剤は、シリカによりシリコーン化合物を摺動性組成物中に保持する効果を有すると共に、適度な表面粗さによって接触面積が小さくなる効果を有し、摺動耐久性が長時間確保される。オレフィン系樹脂材料に対する結合化合物の配合量としては、約10wt%〜約30wt%の範囲が挙げられるが、目的とする摺動性組成物の特性を大きく損なわない程度であれば適宜用いることができる。例えば、配合量が多過ぎる場合には、前記のメヤニ現象(白色系のメヤニ等)が発生し易く摺動製品の外観性を悪化させると共に、曲げ弾性率が高くなり柔軟性が悪化する可能性がある。また、前記の配合量が少な過ぎる場合には、シリコーン化合物が保持され難くなり、前記のメヤニ現象(液状のメヤニ等)も発生し易くなる。
【0033】
[シリコーン化合物]
シリコーン化合物においては、一般的に知られているもの(市販品等)を適宜適用することができ、例えばジメチルシリコーンオイル,メチルフェニルシリコーンオイル,シリコーンゲル(いわゆる、ガム状シリコーン)等のシリコーンオイルが挙げられ(具体例としては、信越化学社製のKF96,KF50,KE72BSや、GE東芝シリコーン社製のTSF451,TSF456,TSF3051等)、何れか1種類または複数の種類のものを組み合わせて用いても良い。また、好ましくは、粘度が約100cps〜100000cpsを用いたり、オレフィン系樹脂材料に対する配合量を約5wt%〜約20wt%とすることが挙げられるが、目的とする摺動性組成物の特性を大きく損なわない程度であれば適宜変更して用いることができる。なお、シリコーン化合物の配合量が少な過ぎる場合には摺動耐久性が低くなってしまう。また、前記の配合量が多過ぎる場合には前記のメヤニ現象(液状のメヤニ等)が発生し易くなり、そのメヤニが摺動製品表面に付着し外観性を悪化させてしまう可能性がある。
【0034】
[その他]
以上示した各種成分の他には、液状ポリマー(液状ゴム),酸化防止剤,老化防止剤,脱水剤,熱安定剤,光安定剤,紫外線吸収剤,摺動性パウダー(例えば、PMMA,フッ素樹脂(テフロン(登録商標)等)系パウダー,アクリル系パウダー,シリコーンゴムパウダー,シリコーン樹脂パウダー,ポリカーボネート系パウダー,超高分子系ポリエチレンパウダー等),防雲剤,アンチブロッキング剤,スリップ剤,分散剤,難燃剤,帯電防止剤,導電性付与剤,粘着付与剤,架橋助剤,着色剤(酸化チタン等),金属粉末(フェライト等),ガラス繊維,炭素繊維,有機繊維(アラミド繊維等),複合繊維,ガラスバルーン,ガラスフレーク,グラファイト,カーボンナノチューブ,フラーレン,黒粉体,各種ゴム,有機発泡剤,熱膨張カプセル,ワックス,再生ゴム等が挙げられ、何れか1種類または複数の種類のものを組み合わせ、目的とする摺動製品の特性を大きく損なわない程度であれば適宜用いることができる。
【0035】
[製法]
本実施形態の摺動性組成物においては、オレフィン系樹脂材料,カーボンブラック,無機充填剤,シリコーン系化合物等を配合し混練して複合材料を得、所望の形状で成形加工して摺動製品が得られる方法であれば、摺動製品の分野で用いられている手法(混練機,二軸押出し成形機等を用いた手法)を適宜適用することができる。前記の複合材料に係る混練には種々のミキサーを適用することができ、例えばラボプラストミル等のバッチ式ミキサーや二軸押出し式の成形機(例えば、混練しながら押出し成形可能なもの)等が挙げられる。
【0036】
これら製法により、前記の摺動性組成物を押出し成形して成る圧接部と、熱可塑性エラストマー組成物を架橋して成る基部と、を構成した自動車用グラスラン,ウェザーストリップ等の摺動製品を得ることができる。
【0037】
[摺動製品]
本実施形態の摺動性組成物においては、例えば自動車用のグラスラン,ウェザーストリップのように圧接部を有する摺動製品に適宜適用することができ、その一例として図1の概略図に示すような断面形状のグラスラン10が挙げられる。この図1においては、横断面略コ字状で長尺の基部1と、その基部1の内壁から突出した複数個(図中では4個)のリップ状の圧接部2と、が設けられている。符号3は、基部1の外壁から突出した係止爪部を示すものであり、車体パネル4に組みつけられたグラスラン10が該車体パネル4から抜けないようにするためのものである。前記の圧接部2における少なくともガラス5との接触面側は摺動性組成物6により形成されている。このような構成によれば、圧接部2(摺動性組成物6)がガラス5に対し弾性を有して摺動自在に圧接し、ガラスシール性が保持される。
【0038】
このような摺動製品に適用される摺動性組成物においては、例えば曲げ弾性率350MPa以下、硬度(JIS K 6253に準拠した硬度(D))40〜65の範囲内にすることが挙げられるが、それぞれ目的とする摺動製品の特性を大きく損なわない程度であれば適宜設定しても良い。
【実施例】
【0039】
次に、本実施形態に基づいて種々の複合材料を得、その複合材料から成る各摺動性組成物の特性を調べた。
【0040】
[検証]
まず、結晶性ポリオレフィン樹脂として結晶性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー社製のE‐200GP)、非結晶性ポリオレフィン樹脂としてプロピレン・1‐ブテン共重合体(宇部興産社製のUBETAC APAO UT2780)、カーボンブラック(旭カーボン社製の旭♯50(平均粒子径85nm);以下、カーボンAと称する)を用い、下記表1に示すように配合し混練して種々の複合材料M1〜M11を得た。次に、D20−10型ラボブラストミル一軸押出し機(東洋精機製作所製,20Φ)を用いて(押出し加工条件;シリンダー前段の温度180℃,シリンダー中段の温度190℃,シリンダー後段の温度200℃,ヘッドの温度200℃,口金形状2mm×10mm,回転速度50rpm)、前記の各複合材料M1〜M11をそれぞれ押出し加工することにより、種々の摺動性祖生物S1〜S11を作製した。そして、摺動性組成物S1〜S11の硬度(D)(JIS K 6253),曲げ弾性率(JIS K 7171)をそれぞれ調べ、その結果を下記表2に示した。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
前記表2に示すように、カーボンAが配合されていない複合材料M1〜M3を用いた摺動性組成物S1〜S3は、摺動製品の圧接部(例えば、ウェザーストリップのリップ部等)に適用した場合を想定すると、たとえ適度な硬度を有するもの(硬度(D)が約40〜60程度)であっても、曲げ弾性率が高くなり過ぎることが判った。一方、比較的多量のカーボンAが配合された複合材料M4〜M11を用いた摺動性組成物S4〜S11の場合、カーボンAの配合量が増加するに連れて曲げ弾性率が低く抑えられ、十分適度な硬度が得られた。このようにカーボンAの配合量増加に伴って曲げ弾性率が低くなる理由は、そのカーボンAによってポリオレフィン系樹脂材料の結晶化が抑制されたものと考えられる。また、十分な弾性を有し、摺動製品の圧接部に好適であることが読み取れる。
【0044】
[実施例]
まず、結晶性ポリオレフィン樹脂として前記の結晶性ポリプロピレン樹脂、非結晶性ポリオレフィン樹脂として前記のプロピレン・1‐ブテン共重合体、カーボンブラックとしてカーボンA,その他2種類(旭カーボン社製の旭♯60H(平均粒子径41nm),旭♯70(平均粒子径26nm),;以下、カーボンB,Cと称する)、無機充填剤としてシリカ(日本シリカ工業社製のニップシールER),カオリン(土屋カオリン社製のカオリン),タルク(松村産業社製のクラウンタルクPP),マイカ(コープケミカル社製のMK‐300),スメクタイト(コープケミカル社製のルーセンタイトSWN),シリカと層状結晶性充填剤との結合化合物(HOFFMAN MINERAL社製のシリチン)、シリコーン化合物(信越化学社製のKF96‐1000csとKE76BSとが1:1の割合で混合されたもの)、をそれぞれ下記表3に示す配合で用い、ラボブラストミル(東洋精機製作所製の密閉式ミキサ13600)にて混練(混練条件;チャンバー温度200℃,ロータ回転数100rpm)し、その混練物が215℃に達した時点で排出することにより、各複合材料M12〜M35を得た。
【0045】
また、前記のポリオレフィン系樹脂材料の代わりに熱可塑性エラストマー、シリコーン樹脂粒子(モメンテイブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン社製のトスパール(平均粒子径12μm)を5wt%、信越化学社製のアクリルシリコーン樹脂パウダーX‐22‐8171を5wt%)、前記のカーボンA、前記のシリカ、シリコーン化合物(信越化学社製のKF96‐1000cs)、をそれぞれ下記表3に示す配合で用い、前記複合材料M12〜M35と同様の製法により混練して各複合材料M36,M37を得た。
【0046】
なお、前記の各摺動性組成物M12〜M37は、下記表3に示す各種材料の他に、添加剤としてステアリン酸(日本油脂社製のステアリン酸)1wt%,酸化カルシウム(井上石灰社製のベスタ♯20)3wt%,酸化防止剤(チバスペシャリティケミカル社製のIrganox1010)1wt%を配合したものとする。
【0047】
前記の熱可塑性エラストマーにおいては、前記の結晶性ポリプロピレン樹脂60wt%、EPDM(ダウケミカル社製のノーデルIP‐4760P)20wt%、架橋剤としてアルキルフェノール系樹脂(田岡化学社製のタッキロール)2wt%、架橋助剤として塩化錫(日本化学産業社製の第1塩化錫)0.5wt%、添加剤として酸化亜鉛(三井金属工業社製の酸化亜鉛)1wt%,前記のステアリン酸1wt%,前記の酸化防止剤0.5wt%、プロセスオイル(JOMO社製のP300)、を用いた。そして、まず架橋剤以外の各種成分をラボプラストミル(東洋精機社製の密閉式ミキサーB600)に投入し15分間混練(チャンバー設定温度160℃,ロータ回転数80rpm)した後、該架橋剤を投入し更に混練(チャンバー設定温度220℃,ロータ回転数100rpm)しながら加温して動的架橋させ、その架橋物が230℃に達した時点でラボプラストミルから取り出して得た。
【0048】
【表3】

【0049】
次に、前記の各複合材料M12〜M37を用い、前記の検証と同じ製法により押出し加工して摺動性組成物の試料S12〜S37をそれぞれ作製し、その加工性(押出し加工性),硬度(D),曲げ弾性率(柔軟性),摺動耐久性,摺動性(摺動時の異音発生の有無)を調べ、その結果を下記表4に示した。
【0050】
<押出し加工性(「メヤニ」の有無)>
まず、前記の検証と同じ製法に基づいて、各複合材料M1〜M37をそれぞれ押出し加工することにより、長さ300mmの試料S12〜S37をそれぞれ5時間連続で作製し続け、口金の「メヤニ」の有無を観測した。なお、後述の表4中の押出し加工性の欄において、記号「◎」は「メヤニ」が全く観られなかった場合、記号「○」は「メヤニ」が若干観られたが成形体への付着は観られなかった場合、記号「△」は「メヤニ」が観られ2〜5時間経過時の成形体において付着が観られた場合、記号「×」は「メヤニ」が観られ0〜2時間経過時の成形体において付着が観られた場合であったものとする。
【0051】
<硬度>
JIS K 6253に準拠して、各試料S12〜S37の硬度をタイプDのデュロメータにより測定した。
【0052】
<曲げ弾性率(柔軟性)>
JIS K 7171に準拠して、各試料S12〜S37の曲げ弾性率を測定した。
【0053】
<摺動耐久性>
まず、前記の検証と同じ製法に基づいて、短冊状((7.0mm±0.5mm)×(120mm±0.5mm)×(0.7mm±0.5mm))の試料S12〜S37を作製した。次に、図2の概略図に示すように、支持台(試験台)21上に試料20(試料S12〜S37)を固定し、ガラス部材22の端部(JIS R 3211に準拠した自動車窓ガラスに相当するR10球面を有する端部)22aを29.4Nの荷重で圧接させた。この状態で、試料20表面(ガラス部材22が摺動する面)に泥水(ダスト:水=1:3の混合液)を滴下しながら、そのガラス部材22を水平方向(試料20の長手方向;図示矢印23方向)に対して摺動(ストローク;100±0.5mm、サイクル;60回/分、温度雰囲気;25℃)させ、その摺動による試料20の磨耗状況を観測した。この観測では、前記の摺動による試料20の磨耗が400μmに達した際におけるガラス部材22のストローク回数を測定した。
【0054】
<摺動性(低級音発生の有無)>
まず、前記の摺動耐久性試験のように作製した各試料S12〜S37をそれぞれ短冊状((3.0mm±0.5mm)×(10mm±0.5mm)×(0.7mm±0.5mm))に打ち抜いて試料片を得た。次に、図3A(正面図),B(側面図)の概略図に示すように、試料片30を治具31に固定させ、その試料片30をガラス部材(JIS R 3211に準拠した自動車窓ガラスに相当する部材)32に対して9.8Nの荷重で圧接させる。この状態で、ガラス部材32における試料片30表面が摺動する面に対し泥水(火山灰(JIS標準粉体,関東ローム):水=1:3の混合液)を滴下しながら、治具31を水平方向(試料片30の長手方向;図示矢印方向)に対して摺動(ストローク;100±0.5mm、サイクル;60回/分、温度雰囲気;25℃)させ、その摺動による低級音の発生の有無を観測した。なお、後述の表4中の異音発生の有無の欄において、「有り」は低級音が発生しなかった場合、「無し」は低級音が発生しなかった場合であったものとする。
【0055】
【表4】

【0056】
表4の結果から、それぞれ以下に示すことが読み取れる。
【0057】
[熱可塑性エラストマー等を配合した場合(比較例)]
熱可塑性エラストマーに対し比較的多量のカーボンブラックが配合された試料S36,S37は、摺動製品の圧接部に適用した場合を想定すると十分適度な硬度であり、柔軟性,摺動性が良好であったが、たとえシリコーン樹脂粒子,カーボンブラック等を配合したものであっても、摺動耐久性が極めて低くなってしまうことを確認できた。また、シリコーン樹脂粒子を配合した試料S37においては、押出し加工性も極めて低くなることを読み取れる。
【0058】
[ポリオレフィン系樹脂材料等を配合した場合(比較例)]
ポリオレフィン系樹脂材料に対し比較的多量のカーボンブラックが配合された試料のうち、該ポリオレフィン系樹脂材料中に結晶性ポリオレフィン樹脂が含まれていない試料S35は、摺動耐久性,摺動性が低いことを確認できた。
【0059】
前記のポリオレフィン系樹脂材料が結晶性ポリオレフィン樹脂を含む試料S27〜S34は、試料S36,S37と比較して、良好な摺動耐久性が得られる傾向を有する。しかしながら、摺動製品の観点によると、無機充填剤の配合量が過少の試料S27,S29は摺動耐久性が低く、該配合量が過多の試料S28,S30は摺動性も低くなることを確認できた。また、無機充填剤の配合量が多くなるに連れて、柔軟性が低下する傾向となることも読み取れる。
【0060】
前記の無機充填剤の配合量が適量であっても、シリコーン化合物の配合量が過少または配合されていない試料S31,S32は摺動耐久性,摺動性が低いことを確認できた。また、該シリコーン化合物の配合量が過多の試料S33は、柔軟性,摺動耐久性,摺動性が良好であるが、押出し加工性が極めて低いことを確認できた。
【0061】
[ポリオレフィン系樹脂材料等を配合した場合(実施例)]
一方、カーボンブラック5wt%〜30wt%,無機充填剤10wt%〜30wt%,シリコーン系化合物5wt%〜20wt%を配合した試料S12〜S26は、摺動製品の観点において適度な硬度を有すると共に、良好な押出し加工性,柔軟性,摺動耐久性,摺動性が得られた。
【0062】
また、無機充填剤においては、試料S12,S13のようにシリカにのみから成るものでも良く、例えば試料S14〜S20のように、シリカおよび他の層状結晶性充填剤から成るものや、結合化合物から成るものでも良いことが読み取れる。さらに、ポリオレフィン系樹脂材料においては、試料S21のように単に結晶性ポリオレフィン樹脂から成るものでも良いことが読み取れる。
【0063】
なお、試料S12〜S26に着目すると、カーボンブラック配合量10wt%〜30wt%,平均粒子径40nm以上の試料S12〜S24は比較的良好な結果が得られ、例えば試料S25はカーボンブラックの配合量が比較的少なく柔軟性が若干劣り、試料S26はカーボンブラックの平均粒子径が比較的小さく柔軟性,押出し加工性が若干劣るが、これら試料S25,S26であってもそれぞれ摺動製品として十分適用できる可能性がある。例えば、押出し加工時の条件を適宜設定することにより、前記の劣っている点を改善できるものと言える。
【0064】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【0065】
例えば、実施例では、試料S12〜S26等を用いて検証し説明したが、ウェザーストリップ,グラスラン等の摺動製品分野の技術常識に基づいて、ポリオレフィン系樹脂材料,カーボンブラック,無機充填剤,シリコーン系化合物以外の各種添加剤の配合量や種類等を適宜変更しても、実施例同様の作用効果が得られることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施形態の摺動性組成物を適用できる摺動製品の一例を説明するための概略図。
【図2】本実施例の摺動耐久性の観測方法を説明するための概略図。
【図3】本実施例の摺動性の観測方法を説明するための概略図。
【符号の説明】
【0067】
1…基部
2…圧接部
3…係止爪部
4…車体パネル
5…ガラス部材
6…摺動性組成物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも結晶性ポリオレフィン樹脂を含むポリオレフィン系樹脂材料と、カーボンブラック5wt%〜30wt%と、少なくともシリカを含む無機充填剤10wt%〜30wt%と、シリコーン化合物5wt%〜20wt%と、を配合した複合材料を成形加工して成る組成物であって、
ガラス部材に対し弾性を有して圧接しガラスシール性を付与することを特徴とする摺動性組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂材料は、非結晶性ポリオレフィン樹脂を含むことを特徴とする請求項1記載の摺動性組成物。
【請求項3】
前記の無機充填剤は、層状結晶性充填剤を含むことを特徴とする請求項1または2記載の摺動性組成物。
【請求項4】
前記の無機充填剤は、前記シリカと層状結晶性充填剤との結合化合物が含まれていることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の摺動性組成物。
【請求項5】
前記のシリカは10wt%以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の摺動性組成物。
【請求項6】
前記のカーボンブラックの平均粒子径は40nm以上であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の摺動性組成物。
【請求項7】
車体パネルに組みつけられる基部と、その基部に設けられガラス部材に対して弾性を有する圧接部と、を備え熱可塑性エラストマー組成物から成る摺動製品であって、
前記の圧接部のうち少なくともガラス部材に接する面に、請求項1〜6の何れかに記載の摺動性組成物を形成したことを特徴とする摺動製品。
【請求項8】
前記の摺動性組成物は、曲げ弾性率が350MPa以下であることを特徴とする請求項7記載の摺動製品。
【請求項9】
前記の摺動性組成物は、JIS K 6253に準拠した硬度(D)が40〜60の範囲内であることを特徴とする請求項7または8記載の摺動製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−24310(P2010−24310A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−185793(P2008−185793)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(000158840)鬼怒川ゴム工業株式会社 (171)
【Fターム(参考)】