説明

撓み噛合い式歯車装置及びそれに用いられる外歯歯車等の製造方法

【課題】外歯歯車を構成する外歯の変形の影響を低減可能とする。
【解決手段】起振体104と、外歯歯車120と、減速用内歯歯車130Aと、出力用内歯歯車130Bと、を備えた撓み噛合い式歯車装置100において、外歯歯車120が減速用内歯歯車130A、出力用内歯歯車130Bの内歯128A、128Bとそれぞれ噛合する第1、第2外歯124A、124Bを互いの歯筋方向Yに隣接して備え、第1、第2外歯124A、124Bはそれぞれ、歯筋方向Yに隣接する外歯に対向する内端部IEと内端部IE以外の中央部Cとを有し、内端部IEの歯丈h1が中央部Cの歯丈h2よりも小さくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撓み噛合い式歯車装置及びそれに用いられる外歯歯車等の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示す撓み噛合い式歯車装置は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した第1内歯歯車と、該第1内歯歯車に並設され前記外歯歯車と内接噛合する剛性を有した第2内歯歯車と、を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−299765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の撓み噛合い式歯車装置においては、第1内歯歯車と第2内歯歯車との間に筒形状の外歯歯車が介されることで、第1内歯歯車と第2内歯歯車との間で動力伝達がなされる。このため、外歯歯車の外歯のうち、第1内歯歯車の内歯と噛合する部分と、第2内歯歯車の内歯と噛合する部分とには、互いに異なる方向の荷重がかかるので、外歯が歯筋方向で変形するおそれがでてくる。
【0005】
そこで、本発明は、前記の問題点を解決するべくなされたもので、外歯歯車を構成する外歯の変形の影響を低減可能な撓み噛合い式歯車装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した第1内歯歯車と、該第1内歯歯車に並設され前記外歯歯車と内接噛合する剛性を有した第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、前記外歯歯車が前記第1、第2内歯歯車の内歯とそれぞれ噛合する第1、第2外歯を互いの歯筋方向に隣接して備え、該第1、第2外歯はそれぞれ、前記歯筋方向に隣接する外歯に対向する第1の部分と該第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有し、該第1の部分の歯丈および歯厚の少なくとも一方が該第2の部分のそれよりも小さくされていることにより、前記課題を解決したものである。
【0007】
本発明においては、外歯歯車が互いの歯筋方向に隣接する第1、第2外歯を備える。そして、第1、第2外歯はそれぞれ、歯筋方向に隣接する外歯に対向する第1の部分と第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有している。このとき、第1の部分の歯丈および歯厚の少なくとも一方が第2の部分のそれよりも小さくされている。第1、第2外歯は、内歯との噛合により歯厚方向に変形してずれた状態となろうとするが、第1の部分の歯丈が短くされていることで、当該第1の部分で第2の部分の歯先に相当する部分が存在しない。若しくは、歯厚が小さくされていることで、第1の部分における歯厚の第2の部分における歯厚に対する減少分で歯厚方向の変形量を吸収することができる。このため、第1、第2外歯の歯筋方向に対する変形が生じても第1、第2外歯と内歯歯車の内歯の片当たりを低減することが可能となる。
【0008】
なお、このような効果は、起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した第1内歯歯車と、該第1内歯歯車に並設され前記外歯歯車と内接噛合する剛性を有した第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、前記第1、第2内歯歯車の内歯はそれぞれ、歯筋方向に隣接する内歯に対向する第1の部分と該第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有し、該第1の部分は歯丈および歯厚の少なくとも一方が該第2の部分のそれよりも小さくされている場合でも同様に、外歯と内歯の片当たりの低減として、得ることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、外歯歯車を構成する外歯の変形の影響を低減することが可能となる。即ち、外歯と内歯との噛合いによる応力の集中を小さくでき、結果的に撓み噛合い式歯車装置の長寿命化を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の第1実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置の全体構成の一例を示す分解斜視図
【図2】同じく全体構成の一例を示す断面図
【図3】同じく起振体を表す図
【図4】同じく第1、第2外歯の形状を説明するための概略図
【図5】同じく外歯歯車の製造手順を示す概略図
【図6】本発明の第2実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置の第1、第2外歯の形状を説明するための概略図
【図7】本発明の第3実施形態に係る撓み噛合い式歯車装置の第1、第2外歯の形状を説明するための概略図
【図8】第1、第2外歯のバリエーションを示す概略図
【図9】課題を説明するための概略図
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の第1実施形態の一例を詳細に説明する。なお、図4では、外歯の歯丈の変化の様子を理解を容易とするために誇張して示している。
【0012】
最初に、本実施形態の全体構成について、主に図1〜図4を用いて概略的に説明する。
【0013】
撓み噛合い式歯車装置100は、起振体104と、起振体104の外周に配置され起振体104の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車120A、120Bと、外歯歯車120Aが内接噛合する剛性を有した減速用内歯歯車130A(第1内歯歯車)と、減速用内歯歯車130Aに並設され外歯歯車120Bと内接噛合する剛性を有した出力用内歯歯車130B(第2内歯歯車)と、を備えている。そして、外歯歯車120A、120B(単に外歯歯車120とも称す)は、減速用内歯歯車130A、出力用内歯歯車130B(単に内歯歯車130とも称す)の内歯128A、128B(単に内歯128とも称する)とそれぞれ噛合する第1、第2外歯124A、124B(単に外歯124とも称する)を互いの歯筋方向Yに隣接して備えている。更に、第1、第2外歯124A、124Bはそれぞれ、歯筋方向Yに隣接する外歯(第1外歯124Aに対しては第2外歯124B、第2外歯124Bに対しては第1外歯124A)に対向する内端部IE(第1の部分)と内端部IE以外の中央部C(第2の部分)とを少なくとも有している。その上、内端部IEの歯丈h1が中央部Cの歯丈h2よりも小さくされている。
【0014】
以下、各構成要素について詳細に説明を行う。
【0015】
起振体104は、図3(A)、(B)に示す如く、柱形状であり、中央に図示しない入力軸が挿入される入力軸孔106が形成されている。入力軸が挿入され回転した際に、起振体104が入力軸と一体で回転するように、入力軸孔106にはキー溝108が設けられている。起振体104は、偏心(偏心量L)した位置を中心とする一定の曲率半径r1による長軸方向pの噛合い範囲FAで外歯歯車120と内歯歯車130との噛合い状態を実現するように、複数の曲率半径を組み合わせた形状とされている。
【0016】
起振体軸受110A、110B(単に起振体軸受110とも称する)は、図2に示す如く、起振体104の外側と外歯歯車120の内側との間に配置される軸受である。図2に示す如く、起振体軸受110A(110B)は、内輪112と、保持器114A(114B)、転動体としてのころ116A(116B)と、外輪118A(118B)と、から構成される。内輪112の内側は起振体104と当接して、内輪112は起振体104と一体で変形しながら回転する。外輪118A(118B)は、ころ116A(116B)の外側に配置される。外輪118A(118B)は、起振体104の回転により撓み変形し、その外側に配置される外歯歯車120を変形させる。
【0017】
外歯歯車120は、図1、図2、図4に示す如く、基部材122と、外歯124と、から構成される。基部材122は、可撓性を有した筒状部材であり、起振体軸受110の外側に配置される。第1外歯124Aと第2外歯124Bとは軸方向Oに分割された形態であるが、それぞれを支持する基部材122が一体とされ共通とされている。このため、起振体104の偏心量Lは、同位相で第1外歯124Aと第2外歯124Bに伝えられる。なお、図4で方向Xが歯厚方向、方向Yが歯筋方向(歯幅方向でもあり、軸方向Oと一致)、方向Zが歯丈方向を示している。
【0018】
第1、第2外歯124A、124Bは、互いの歯筋方向Yに隣接して成形されている。外歯124は、理論噛合を実現するようにトロコイド曲線に基づいて歯形が決定され、歯丈h及び歯厚tが定められている。ここで、外歯124A(124B)は、図4に示す如く、歯筋方向Yで、外歯124B(124A)と対向する対向面124AA(124BA)側の端部(内端部IE)と、外端面124AB(124BB)側の端部(外端部OE)と、内端部IEと外端部OEとのあいだの中央部Cと、で構成されている。即ち、本実施形態では、内端部IEが第1の部分に、中央部Cが第2の部分とされている。
【0019】
第1外歯124Aは、図4の一点鎖線で示す部分124ACを合わせることで理論噛合を実現する歯形(基準歯形と称する)を構成し、その基準歯形から部分124ACのない内端部IEの歯先部分の面取りをした(第1外歯124Aと第2外歯124Bとの間に略V字型の溝を設けた)形状とされている。即ち、第1外歯124A(第2外歯124B)の対向面124AA(124BA)の歯丈h1は、中央部Cの歯丈h2に比べて小さくされている。ただし、歯丈h1における対向面124AA(124BA)の歯厚t1は中央部Cにおける歯厚t2と同等とされている(ここでの同等とは、意図して変更せずに形成した際に得られる同一性をいうものとする)。そして、図4に示す如く、歯丈hの変化は内端部IEから中央部Cに亘り連続的になされており、且つ歯丈hの変化が直線的になされている。このような形状は、切削部材などで容易に形成することが可能である。なお、部分124ACの大きさは、外歯124にかかる負荷の大きさに従い決定される。
【0020】
減速用内歯歯車130Aは、剛性を有した部材で形成されている。減速用内歯歯車130Aは、外歯歯車120Aの第1外歯124Aの歯数よりもi(i=2、4、・・・)枚だけ多い歯数を備える。減速用内歯歯車130Aには、図示しないケーシングがボルト孔132Aを介して固定される。そして、減速用内歯歯車130Aは、外歯歯車120Aと噛合することによって、起振体104の回転の減速に寄与する。減速用内歯歯車130Aの内歯128Aは、トロコイド曲線に基づいた第1外歯124Aに理論噛合するように成形されている。
【0021】
一方、出力用内歯歯車130Bも、減速用内歯歯車130Aと同様に、剛性を有した部材で形成されている。出力用内歯歯車130Bは、外歯歯車120Bの第2外歯124Bの歯数と同一の内歯128Bの歯数を備える(等速伝達)。なお、出力用内歯歯車130Bには、図示しない出力軸がボルト孔132Bを介して取り付けられて、外歯歯車120Bの自転と同一の回転が外部に出力される。
【0022】
次に、外歯歯車120の製造手順について、図5を用いて説明する。なお、この図に示す外歯124の形状は、理解しやすいように誇張したものであり、実際の歯丈hの形状は、図1に示す如くであり、歯丈hの変化は極めて微小とされている。
【0023】
まず、外歯歯車120の母材である(筒形状の)ワークBKを用意する(図5(A))。
【0024】
次に、切削部材で第1、第2外歯124A、124Bの内端部IEの構成をし、その内端部IEの歯丈h1が中央部Cの歯丈h2と比べて小さくなるように、ワークBKの軸方向Oの中央部分に、溝DTを(その外周に沿って)形成する(図5(B))。即ち、ワークBKをいわば鼓型に形成する。同時に、第1外歯124Aと第2外歯124Bの対向面124AA(124BA)も形成される。
【0025】
次に、溝DTが形成されたワークBK(の外周)に、ホブカッターなどで歯切りを行い、外歯歯車120の第1、第2外歯124A、124Bを形成する(図5(C))。
【0026】
このように、第1、第2外歯124A、124Bに対しては、歯筋方向Yに対して歯厚tを同等にして変化させていないため、第1、第2外歯124A、124Bの形成が容易である。
【0027】
次に、撓み噛合い式歯車装置100の動作について、主に図2を用いて説明する。
【0028】
図示しない入力軸の回転により、起振体104が回転すると、その回転状態に応じて、起振体軸受110Aを介して、外歯歯車120Aが撓み変形する。同時に、外歯歯車120Bも、起振体軸受110Bを介して、外歯歯車120Aと同位相で撓み変形する。
【0029】
外歯歯車120が起振体104で撓み変形されることにより、噛合い範囲FAで、外歯124が半径方向外側に移動して、内歯歯車130の内歯128に噛合する。
【0030】
噛合に際して、第1外歯124Aには、第2外歯124Bと異なる負荷(方向と大きさ)が加わる。しかし、起振体軸受110A、110Bは、内輪112を除いて、軸方向Oで、減速用内歯歯車130Aと噛合する第1外歯124Aに対する部分と、出力用内歯歯車130Bと噛合する第2外歯124Bに対する部分とに分離されている。このため、減速用内歯歯車130Aと第1外歯124Aとの噛合を原因とするころ116Bのスキュー、及び出力用内歯歯車130Bと第2外歯124Bとの噛合を原因とするころ116Aのスキュー、のそれぞれが防止されている。
【0031】
更に、外歯124は、軸方向Oにおいて、減速用内歯歯車130Aの噛合する部分(第1外歯124A)と出力用内歯歯車130Bの噛合する部分(第2外歯124B)に分割されている。このため、外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとが噛合する際に、仮に第2外歯124Bに変形などがあってもその変形で第1外歯124Aに変形を生じることがない。同様に、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとが噛合する際に、仮に第1外歯124Aに変形などがあってもその変形で第2外歯124Bに変形を生じることがない。つまり、外歯124を分割しておくことで、一方の外歯124A(124B)の変形で他方の外歯124B(124A)を変形させてその噛合関係を悪化させるといった伝達トルクの低下を防ぐことができる。
【0032】
更に、外歯歯車120を介して減速用内歯歯車130Aから出力用内歯歯車130Bへのトルクの伝達により、外歯歯車120の外歯124がその歯筋方向Yに対して変形しても(図9)、第1、第2外歯124A、124Bの内端部IEの歯丈h1が短くされている。このため、内歯128と外歯124との片当たりを低減することができる。
【0033】
外歯歯車120Aと減速用内歯歯車130Aとの噛合位置は、起振体104の長軸方向pの移動に伴い回転移動する。ここで、起振体104が1回転すると、外歯歯車120Aは減速用内歯歯車130Aとの歯数差だけ、回転位相が遅れる。つまり、減速用内歯歯車130Aによる減速比は((外歯歯車120Aの歯数−減速用内歯歯車130Aの歯数)/外歯歯車120Aの歯数)として求めることができる。
【0034】
外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとは共に歯数が同一であるので、外歯歯車120Bと出力用内歯歯車130Bとは互いに噛合する部分が移動することなく、同一の歯同士で噛合することとなる。このため、出力用内歯歯車130Bから外歯歯車120Bの自転と同一の回転が出力される。結果として、出力用内歯歯車130Bからは、起振体104の回転を減速用内歯歯車130Aによる減速比に基づいて減速した出力を取り出すことができる。
【0035】
本実施形態においては、外歯歯車120が互いの歯筋方向Yに隣接する第1、第2外歯124A、124Bを備える。そして、第1、第2外歯124A、124Bはそれぞれ、歯筋方向Yに隣接する外歯(第1外歯124Aに対しては第2外歯124B、第2外歯124Bに対しては第1外歯124A)に対向する内端部IE(第1の部分)と中央部Cと外端部OEとを有している。このとき、内端部IEの歯丈h1が中央部Cの歯丈h2よりも小さくされている。ここで、図9(A)は外歯124と内歯128との噛合い前、図9(B)は外歯124と内歯128との噛合い時を模式的に示した図である。図9(B)で示す如く、外歯124(124A、124B)は、内歯128(128A、128B)との噛合により歯厚方向Xに変形してずれた状態になろうとするが、内端部IE(図9(B)の点線領域)の歯丈h1が短くされていることで、当該内端部IEで中央部Cの歯先に相当する部分124AC(図4参照)が存在しない。このため、外歯124の歯筋方向Yに対する変形が生じても外歯124と内歯128の片当たりを低減することが可能となる。
【0036】
また、本実施形態においては、外歯歯車120を製造する際に、歯筋方向Yに対する外歯124の歯厚tを変更するような加工を行わないので、簡易的に外歯124を形成することができる。
【0037】
また、本実施形態においては、歯丈hの変化が内端部IEから中央部Cに亘り連続的になされており、且つ歯丈hの変化が直線的になされている。このため、図5(B)で示したV字型の溝DTの形成が、切削部材の簡略な制御で極めて容易に行うことができる。
【0038】
即ち、本実施形態によれば、外歯124の変形の影響を低減することが可能となる。即ち、外歯124と内歯128の噛合いによる応力の集中を小さくでき、結果的に撓み噛合い式歯車装置100の長寿命化を促進することができる。また、従来であれば片当たりで生じていた応力の集中によるロスを、本実施形態では伝達トルクの増大に結びつけることができる。
【0039】
本発明について第1実施形態を挙げて説明したが、本発明は第1実施形態に限定されるものではない。即ち本発明の要旨を逸脱しない範囲においての改良並びに設計の変更が可能なことは言うまでも無い。
【0040】
例えば第1実施形態においては、外歯124の内端部IEが中央部Cに比べて歯丈h1が小さく、且つ歯厚t1が同等とされていたが、本発明はこれに限定されずに、外歯の内端部IEが中央部Cに比べて歯丈hと歯厚tの両方が小さくされていてもよい。
【0041】
或いは、図6に示す第2実施形態の如くであってもよい。第2実施形態では、外歯224の内端部IEが中央部Cに比べて、歯筋方向Yで歯丈hが同等とされ、且つ歯厚tが小さく(薄く)されている。その歯厚tを薄くする形態としては、図6の一点鎖線で示すように歯先の歯厚tを主に薄くするようにしてもよいし、図6の二点鎖線で示すように歯元から歯先までの全体を薄くするようにしてもよい。このような外歯224を採用することで、内端部IEにおける歯厚tの中央部Cにおける歯厚tに対する減少分で歯厚方向Xの変形量を吸収することができる。このため、第1実施形態のように外歯224と内歯との片当たりを低減することが可能となる。なお、実線で示されているのが第1実施形態でも説明した基準歯形である。
【0042】
或いは、図7の第3実施形態の如くであってもよい。第3実施形態では、第1、第2外歯324A、324Bの歯筋方向Yの外側の端部(外端部OE)の歯厚が、第1、第2外歯324A、324Bの歯厚tのうちで最大とされている。図7では基準歯形の対向面324AAの面内で歯厚tが丁度ゼロとされている。このため、外歯324の基部材322に平行な断面では、外歯324が略3角形とされている(対向面の面内にある程度の歯厚tがあり、結果的に外歯の断面が略台形とされていてもよい)。なお、一点鎖線で示されているのが第1実施形態でも説明した基準歯形である。即ち、本実施形態では、外端部OEで歯厚tが基準歯形の歯厚よりも厚くされている。
【0043】
即ち、第3実施形態においては、内端部IEでは歯厚tが小さい(狭い)ので、上記実施形態と同様に外歯324と内歯との片当たりを低減できる。それと共に、外端部OEが外歯324のうちで最大の歯厚tなので外歯324と内歯との噛合において外歯324の歯幅全体を有効に利用することができる。更に、その外端部OEの歯厚tが基準歯形の歯厚よりも厚くされているので、噛合いの無負荷時には外端部OE付近で、負荷がかかる際にはその負荷に応じて中央部Cから内端部IEの間で理想的な噛合いを実現できる。即ち、バックラッシュを小さくでき、外歯324と内歯との噛合率が向上し、回転角度の伝達誤差を低減することが可能となる。
【0044】
なお、第3実施形態においては、第1、第2外歯324A、324Bの(歯筋方向Yにおける)内端部IEに対する同じ第1、第2外歯内のもう一方の端部(外端部OE)の歯厚がそれぞれ、第1、第2外歯324A、324Bの歯厚tのうちで最大とされていたが、本発明はこれに限定されず、第1、第2外歯のいずれかのみが第3実施形態で示された歯形であってもよい。
【0045】
また、第1実施形態においては、図8(A)に示す如く外歯124の歯丈hの変化が内端部IEから中央部Cに亘り連続的になされ、且つ歯丈hの変化が直線的になされていたが、本発明はこれに限定されない。例えば、図8(B)のように歯丈hの変化がほぼ2つの直線で近似できてもよいし、図(C)のように歯丈hの変化が曲線で近似できてもよい。或いは、図8(D)のように内端部IEで段差を生ずるように、歯丈hの変化が内端部IEから中央部Cに亘り連続していない形状とされていてもよい。
【0046】
また、本実施形態においては、外歯にトロコイド曲線に基づいた歯形を用いて、その理論噛合を実現する歯形を基準歯形としたが、本発明はこれに限定されない。外歯は、円弧歯形でもよいし、その他の歯形を用いてもよい。そして、内歯は、外歯に対応した歯形を用いることができる。
【0047】
また、上記実施形態においては、外歯の第1の部分を内端部IEとし第2の部分を中央部Cとしたが、本発明はこれに限定されず、第2の部分が中央部Cと外端部OEとを含んでいてもよい。
【0048】
また、上記実施形態においては、外歯の外端部OEについては歯形の修整を行っていないが、本発明はこれに限定されず、外歯の外端部OEを内端部IEと同様に修整してもよい(例えば、一般的にクラウニングやレリービングなどという歯筋修整を用いてもよい)。つまり、内端部IE(第1の部分)よりも歯丈または歯厚の大きい部分(例えば、中央部C)があれば、それ以外の部分(例えば外端部OE)の歯丈や歯厚の小さい部分があってもよい。この場合に、同部分(外端部OE)の歯丈や歯厚は内端部IEより小さくされていてもよい。
【0049】
また、上記実施形態においては、外歯の隣接する内端部IEを互いに同一の形態で修整していたが、本発明はこれに限定されず、2つの外歯で互いに異なる形態で修整してもよい。
【0050】
また、上記実施形態においては、外歯歯車の外歯の歯筋を修整していたが、本発明はこれに限定されず、内歯を修整してもよい。即ち、内歯歯車の内歯がそれぞれ、歯筋方向に隣接する内歯に対向する第1の部分と該第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有し、該第1の部分は歯丈および歯厚の少なくとも一方が該第2の部分のそれよりも小さくされていてもよい。その際の内歯の第1の部分と第2の部分についての関係は、上記実施形態で示した外歯における関係を適用してもよい。また、内歯歯車の製造方法においては、内歯歯車の内歯はそれぞれ、歯筋方向に隣接する内歯に対向する第1の部分と該第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有し、該第1の部分の歯丈が該第2の部分の歯丈と比べて小さい構成であって、前記第1、第2内歯歯車の母材であるワークの軸方向の内側端部の面取りを行う工程と、該面取りが行われたワーク(の内周)に歯切りを行うことで前記第1、第2内歯歯車の内歯を形成する工程と、を含むこととしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、筒形状の外歯歯車を必須構成要件とする撓み噛合い式歯車装置に対して広く適用可能である。
【符号の説明】
【0052】
100…撓み噛合い式歯車装置
104…起振体
110、110A、110B…起振体軸受
112…内輪
114A、114B…保持器
116A、116B…ころ
118A、118B…外輪
120、120A、120B、220A、220B、320A、320B…外歯歯車
122、222、322…基部材
124、124A、124B、224、224A、224B、324、324A、324B、424A、424B、524A、524B、624A、624B…外歯
124AA、124BA、224AA、224BA、324AA、324BA…対向面
124AB、124BB、224AB、224BB、324AB、324BB…外端面
128、128A、128B…内歯
130、130A…減速用内歯歯車(内歯歯車)
130B…出力用内歯歯車
132A、132B…ボルト孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した第1内歯歯車と、該第1内歯歯車に並設され前記外歯歯車と内接噛合する剛性を有した第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、
前記外歯歯車が前記第1、第2内歯歯車の内歯とそれぞれ噛合する第1、第2外歯を互いの歯筋方向に隣接して備え、
該第1、第2外歯はそれぞれ、前記歯筋方向に隣接する外歯に対向する第1の部分と該第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有し、
該第1の部分の歯丈および歯厚の少なくとも一方が該第2の部分のそれよりも小さくされていることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記第1の部分は前記第2の部分に比べて前記歯丈が小さく、且つ前記歯厚が同等とされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記歯丈の変化が前記第1の部分から前記第2の部分に亘り連続的になされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記歯丈の変化が直線的になされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項5】
請求項1において、少なくとも、
前記第1外歯または前記第2外歯の歯筋方向外側の端部の歯厚が、前記第1外歯または第2外歯の歯厚のうちで最大とされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項6】
起振体と、該起振体の外周に配置され該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した第1内歯歯車と、該第1内歯歯車に並設され前記外歯歯車と内接噛合する剛性を有した第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置において、
前記第1、第2内歯歯車の内歯はそれぞれ、歯筋方向に隣接する内歯に対向する第1の部分と該第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有し、
該第1の部分は歯丈および歯厚の少なくとも一方が該第2の部分のそれよりも小さくされていることを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記第1の部分は前記第2の部分に比べて前記歯丈が小さく、且つ前記歯厚が同等とされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記歯丈の変化が前記第1の部分から前記第2の部分に亘り連続的になされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項9】
請求項8において、
前記歯丈の変化が直線的になされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項10】
請求項6において、少なくとも、
前記第1内歯歯車または前記第2内歯歯車の内歯の歯筋方向外側の端部の歯厚が、前記第1内歯歯車または第2内歯歯車の内歯の歯厚のうちで最大とされている
ことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置。
【請求項11】
起振体と、該起振体の外周に配置され、該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した第1内歯歯車と、該第1内歯歯車に並設され前記外歯歯車と内接噛合する剛性を有した第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置に用いられる外歯歯車の製造方法において、
前記外歯歯車は前記第1、第2内歯歯車の内歯とそれぞれ噛合する第1、第2外歯を互いの歯筋方向に隣接して備え、該第1、第2外歯はそれぞれ、前記歯筋方向に隣接する外歯に対向する第1の部分と該第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有し、該第1の部分の歯丈が該第2の部分の歯丈と比べて小さい構成であって、
前記外歯歯車の母材であるワークの軸方向の中央部分に溝を形成する工程と、
該溝が形成されたワークに歯切りを行うことで前記第1、第2外歯を形成する工程と、
を含むことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置に用いられる外歯歯車の製造方法。
【請求項12】
起振体と、該起振体の外周に配置され、該起振体の回転により撓み変形される可撓性を有した筒形状の外歯歯車と、該外歯歯車が内接噛合する剛性を有した第1内歯歯車と、該第1内歯歯車に並設され前記外歯歯車と内接噛合する剛性を有した第2内歯歯車と、を備えた撓み噛合い式歯車装置に用いられる第1、第2内歯歯車の製造方法において、
前記第1、第2内歯歯車の内歯はそれぞれ、歯筋方向に隣接する内歯に対向する第1の部分と該第1の部分以外の第2の部分とを少なくとも有し、該第1の部分の歯丈が該第2の部分の歯丈と比べて小さい構成であって、
前記第1、第2内歯歯車の母材であるワークの軸方向の内側端部の面取りを行う工程と、
該面取りが行われたワークに歯切りを行うことで前記第1、第2内歯歯車の内歯を形成する工程と、
を含むことを特徴とする撓み噛合い式歯車装置に用いられる第1、第2内歯歯車の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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