説明

撥水性コーティング剤およびこれを用いた耐久性を有する撥水性コーティング膜の形成方法

【課題】本発明は耐久性に優れた撥水性コーティング剤および当該コーティング膜を得ることにある。
【解決手段】3官能性シラン化合物/2官能性有機スズ化合物の添加モル比が1/1〜700/1の範囲であることを特徴とする撥水性コーティング剤。
撥水性コーティング剤において、置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物と炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物からなり、3官能性シラン化合物と2官能性有機スズ化合物が特定のモル比率からなる組成物であって、さらに当該撥水性コーティング剤を基板に塗布したのち、室温下で自然乾燥によって硬化させてなる形成方法を用いている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性コーティング剤ならびに該撥水性コーティング剤を用いた耐久性を有する撥水性コーティング膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の撥水性コーティング剤および撥水性コーティング膜は、各種基板表面に雨水などによる汚れを防ぐことを目的に、表面エネルギーを小さくすることができるフッ素系やシリコーン系からなるコーティング剤が用いられ、とくに耐久性を向上させるためには各種基板表面に撥水性コーティング剤を塗布したのちに、熱や紫外線などの活性光線照射を施すことによる架橋を行わせる方法が行われてきた。
【0003】
フッ素系コーティング剤としては、フッ素化アルキル基(Rf基)を含む物質が知られている。このような物質の特徴は表面だけにRf基を存在させればよいが、耐摩耗性のような耐久性に劣る。
【0004】
また、耐久性向上を目的にアクリル系紫外線硬化性樹脂とフッ素系表面改質剤からなるコーティング剤処理を施して撥水性および耐摩耗性に優れる表面を有する材料の製造方法なども提案されている。しかし、特殊な処理装置を必要とし、大型基板や異型基板材料への適用が困難であるなどといった汎用性に欠けるという課題を抱えている。
【0005】
一方、シリコーン系コーティング剤としては、両末端にシラノール基やアクリル基を有するジメチルシリコーン化合物などからなる硬化性材料が知られている。これらの材料の特徴は3次元架橋構造を有しており、表面のみならず内部まで組成物が硬化した構造となっているために、優れた耐摩耗性を有している。しかし、該組成物においても基板に対する濡れ性が劣るため、均一な表面を得ることが困難である、さらには、紫外線照射装置のような特殊な設備を有するといった課題がある。
【0006】
また、表面に撥水性材料からなる突起を形成させることによる撥水性表面を得ることも提案されているが、これも耐摩耗性に劣り、耐久性に欠けるのみならず、光沢性を低下させる欠点を有しているため、とくに意匠性を重要視する用途には好ましくない。
【0007】
特殊な設備を必要とせず、塗装面の艶出し保存剤として、湿気硬化性オルガノポリシロキサン、有機錫化合物、揮発性ジメチルポリシロキサンとオルガノポリシロキサン油からなる組成物が知られているが、かかるコーティング剤は長期にわたる表面の防汚性を維持できないという不具合がる。
【0008】
また、長期にわたる性能維持を図り、かつ特殊な設備を必要としないコーティング剤として、湿気硬化性シリコーンオリゴマーと硬化触媒と両末端型反応性シリコーンオイルをある特定の割合で含んでなるコーティング剤が提案されているが、基板に対する濡れ性が劣り、均一な表面特性を得にくいという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−148902号公報
【特許文献2】特開平10−36771号公報
【特許文献3】特開平11−269287号公報
【特許文献4】特開2006−346900号公報
【特許文献5】特開2008−75021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような従来の欠点に鑑み、撥水性に加えて、耐久性にも優れた、撥水性コーティング剤を提供することを目的としている。
【0011】
さらに、本発明は、特殊な処理装置を必要とせずに硬化が可能であり、得られた膜は耐久性を有する撥水性コーティング膜の形成方法を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物と炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物からなる組成物であって、3官能性シラン化合物/2官能性有機スズ化合物のモル比が1/1〜700/1の範囲であることを特徴とする撥水性コーティング剤を見出した。
【0013】
また、本発明撥水性コーティング剤は、基材表面に塗布後、特殊な硬化処理装置などを必要とせず、室温条件下に放置するのみで容易に硬化することを特徴とする耐久性を有する撥水性コーティング膜の形成方法を提供する。
【0014】
本発明における置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物としては、下記一般式(1)で表わされるシラン化合物が挙げられる。
Si(OR (1)
(ここで、Rは置換もしくは非置換の炭化水素基、ORは加水分解性基である)。
【0015】
である置換もしくは非置換の炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0016】
において、非置換のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、iso-プロピル、ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、iso-ペンチル、sec-ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、iso-オクチル、2-エチルヘキシルなどの炭素数1〜8のアルキル基が挙げられる。
【0017】
また、Rにおいて、非置換のアルケニル基としては、熱や水分に対する安定性が高く、かつ入手が容易なことからビニル基が好ましく用いられる。
【0018】
において、非置換のシクロアルキル基としては、シクロペンチル、シクロヘキシルなどの炭化水素基が挙げられる。
【0019】
において、非置換のアリール基としては、フェニル、トリル、キシリルなどの炭化水素基が挙げられる。
【0020】
において、非置換のアラルキル基としては、ベンジル、フェネチル、メチルベンジルなどの炭化水素基が挙げられる。
【0021】
において、置換の炭化水素基としては、上記の非置換の炭化水素基の水素原子を、置換基で置換したものが挙げられ、置換基の例としては、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素などのハロゲン原子やシアノ基などの窒素原子を含む置換基、さらにはメトキシ、エトキシ、プロポキシなどの酸素原子を含む置換基などが挙げられる。置換基は同一であっても、異なっていてもよく、また、2個以上置換されていてもよい。
【0022】
のうち、撥水性と硬度のバランスが優れる炭化水素基としては、アルキル基、アラルキル基、アリール基が好ましく、中でも、炭素数1〜3のアルキル基やアラルキル基が好ましい。もっとも好ましい炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、プロピルやビニルなどの炭化水素基が挙げられる。
【0023】
次に、加水分解性基であるORについて述べる。ORとしては、加水分解が可能な官能基であれば、とくに限定されるものではないが、加水分解の容易さ、すなわち空気中の水分によって容易に加水分解反応が可能であるとの観点から、炭素数1〜4のアシルオキシ基やアルコキシ基が好ましく用いられる。
【0024】
中でも、室温下放置による処理を考慮すれば、加水分解性に優れるアシルオキシ基が好ましく、さらには、加水分解後の揮発性等から、アセトキシ基が最も好ましい加水分解性基として挙げられる。
【0025】
本発明における一般式(1)で表わされる3官能性シラン化合物の具体的な代表化合物例としては、メチルトリアセトキシシラン、エチルトリアセトキシシラン、プロピルトリアセトキシシラン、iso-プロピルトリアセトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、iso-プロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、iso-プロピルトリエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリプロピオノキシシラン、エチルトリプロピオノキシシラン、プロピルトリプロピオノキシシラン、iso-プロピルトリプロピオノキシシラン、ビニルトリプロピオノキシシラン、フェニルトリプロピオノキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、iso-プロピルトリプロポキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリブトキシシラン、iso-プロピルトリブトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、フェニルトリブトキシシランなどが挙げられる。
【0026】
これらの3官能性シラン化合物は、それぞれ単独で用いることも可能であるが、硬度や撥水性のバランスを高める目的で、2種以上のシラン化合物を併用して使用することも可能である。
【0027】
とくに、硬度と撥水性の両性能を満足させ得るとの観点、および比較的短時間にタック性のない硬化膜を得ることが可能となることから、エチルトリアセトキシシラン化合物がもっとも好ましく用いられる。
【0028】
本発明に用いられる3官能性シラン化合物は、塗料としての安定性、硬化後塗膜の撥水性向上の観点から、コーティング剤としては実質的には加水分解されずに含有されていることが好ましい。
【0029】
本発明における炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物とは、下記一般式(2)で表わされる有機スズ化合物が挙げられる。
Sn(OR (2)
(ここで、R、Rは炭素数2〜12の炭化水素基、ORは加水分解性基である)。
【0030】
炭素数2〜12の炭化水素基としては、アルキル基やアリール基が挙げられるが、安全性の観点から、アルキル基が好ましい。中でも、取り扱い易さ、および入手の容易さなどから、ブチル基やオクチル基が最も好ましく用いられる。
【0031】
次に、加水分解性基であるORについて述べる。ORとしては、加水分解性を有する置換基であれば、とくに限定されるものではないが、加水分解反応性の観点からアシルオキシ基が好ましい。
【0032】
アシルオキシ基としては、室温環境下で空気中水分による加水分解が容易であり、かつ商業的に入手が可能なことからアセトキシ基、およびラウロキシ基が好ましい。
【0033】
本発明における一般式(2)で表わされる2官能性有機スズ化合物の具体的な代表化合物例としては、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクチレート、ジオクチルスズジアセテート、ジオクチルスズジラウレート、ジオクチルスズジオクチレート、ジブチルスズマレート、ジオクチルスズマレートなどが挙げられる。
【0034】
これらの2官能性有機スズ化合物は、1種または2種以上を併用して使用することも可能である。
【0035】
本発明における2官能性有機スズ化合物は、有機スズ化合物の加水分解反応促進と3官能性シラン化合物加水分解物の硬化反応促進をバランス良く進行させる目的で、アセトキシ基とラウロキシ基を有する有機スズ化合物の併用が好ましい。
【0036】
本発明コーティング剤における一般式(1)と一般式(2)の添加モル比は、コーティング膜の撥水性、透明性、製膜性、硬度などの要求諸特性と硬化時の温度、湿度や硬化時間などの硬化条件によって決められるべきであるが、少なくとも、一般式(1)化合物/一般式(2)化合物の添加モル比は1/1〜700/1であることが必要である。
【0037】
すなわち、添加モル比が1/1未満では、均一なコーティング膜の生成が困難であり、光沢に優れた膜を得ることができない。また、添加モル比が700/1を越えると、未反応官能基が多くなる。すなわち、硬化が不十分となるため、硬度が劣り、粘着性のある塗膜にしかならないという欠点を有し、さらには撥水性も低下する。
【0038】
本発明における、より好ましい添加モル比としては、撥水性と硬度のバランスがもっとも得られやすいことから、3/1〜200/1、さらに好ましくは4/1〜100/1の添加モル比が好ましい。
【0039】
本発明コーティング膜は、撥水性が高く、高い硬度を有することから、通常は人の手や指、さらには布やペーパー類などで擦すられることが多い基板の最外層に適用されることが、好ましい実施態様である。
【0040】
本発明組成物は、一般式(1)と一般式(2)を必須成分とするが、これらの成分以外に、2官能性シラン化合物や4官能性シラン化合物、さらには無機の酸化物微粒子などを添加混合することも可能である。
【0041】
とくに、柔軟性をさらに高める目的には、本発明組成物に2官能性シラン化合物の添加使用が好ましい。なお、2官能性シラン化合物における有機基としては、3官能性シラン化合物との共縮合性の観点から、炭素数は1〜3のアルキル基またはアルケニル基、およびその混合系が好ましく用いられる。さらに、加水分解性や加水分解生成物の揮発性の関係から、加水分解性基としては、3官能性シラン化合物と同様の官能基が好ましく用いられる。
【0042】
前記の添加可能な2官能性シラン化合物の具体的な代表化合物例としては、ジメチルジアセトキシシラン、メチルエチルジアセトキシシラン、メチルプロピルジアセトキシシラン、メチルイソプロピルジアセトキシシラン、メチルビニルジアセトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルイソプロピルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、メチルイソプロピルジエトキシシラン、メチルビニルジエトキシシラン、ジメチルジプロピオノキシシラン、メチルエチルジプロピオノキシシラン、メチルプロピルジプロピオノキシシラン、メチルイソプロピルジプロピオノキシシラン、メチルビニルジプロピオノキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、メチルエチルジプロポキシシラン、メチルプロピルジプロポキシシラン、メチルイソプロピルジプロポキシシラン、メチルビニルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、メチルエチルジブトキシシラン、メチルプロピルジブトキシシラン、メチルイソプロピルジブトキシシラン、メチルビニルジブトキシシラン、ジエチルジアセトキシシラン、ジプロピルジアセトキシシラン、ジイソプロピルジトリアセトキシシラン、ジビニルジアセトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジビニルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジビニルジエトキシシラン、ジエチルジプロピオノキシシラン、ジプロピルジプロピオノキシシラン、ジイソプロピルジプロピオノキシシラン、ジビニルジプロピオノキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジプロピルジプロポキシシラン、ジイソプロピルジプロポキシシラン、ジビニルジプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジプロピルジブトキシシラン、ジイソプロピルジブトキシシラン、ジビニルジブトキシシランなどが挙げられる。
【0043】
また、基板との密着性や硬度をさらに高める目的で4官能性シラン化合物を併用することも可能である。かかる添加可能な4官能性シラン化合物の具体的な代表化合物例としては、テトラアセトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラsec-ブトキシシランなどが挙げられる。
【0044】
また、コーティング剤の基板への濡れ性、塗膜の平滑性を高める目的で、各種レベリング剤を含有させることも可能である。
【0045】
レベリング剤としては、フッ素系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤、高分子エーテル系レベリング剤、ノニオン系レベリング剤などのなかから選ばれた1種以上を含有することが好ましい。
【0046】
とくに、塗膜の撥水性を低下させずに、界面活性効果を高めることが可能な材料として、フッ素系界面活性剤が好ましく用いられ、たとえばメガファックF-554(DIC社製)、あるいはサーフロンS-242 (AGCセイミケミカル社製)などが好ましく用いられる界面活性剤として挙げられる。
【0047】
また、レベリング剤の添加量は、コーティング剤100重量部に対して、0.001〜1重量部であることが望ましい。0.001重量部未満の場合は、レベリング剤の添加効果が得られず、1重量部を越える場合はレベリング剤が表面にブリードアウトして、表面がべとついたり、硬度が低下したりする傾向にある。
【0048】
本発明コーティング剤は、通常、溶剤等で希釈されて使用されるが、室温下では液状である一般式(1)および一般式(2)を使用することで、無溶剤型コーティング剤として使用することもできる。しかし、無溶剤型コーティング剤は、架橋反応性が高いという長所がある半面、少量の吸収した水分等によって、時間経過とともに塗料の粘度上昇が激しく起こり、取り扱いが困難となる傾向にある。その結果、性能にばらつきを生じることとなるため、通常は溶剤等で希釈されて用いられることが望ましい。
【0049】
また、その溶剤による希釈度は塗装方法や要求特性によって定められるべきものであるが、通常は1wt%〜50wt%の固形分で使用される。さらに好ましくは3wt%〜45wt%、もっとも好ましくは5wt%〜35wt%の固形分で用いられる。固形分が1wt%を下回ると、基板表面全体に十分な厚みで被覆することが難しくなり、その結果、十分な耐摩耗性を有する撥水性を得ることが困難となる。また、50wt%を越えると、塗料の安定性を保つことが困難となるばかりか、均一な厚みの塗膜を得ることも困難となる。
【0050】
使用可能な溶剤としては、コーティング剤の保存安定性、再現性良くコーティング膜の特性を確保するために、3官能性シラン化合物と2官能性有機スズ化合物が安定して保存可能な材料系であれば、特に制限されないが、とくに本発明コーティング剤は室温下で用いることを特徴とすることから、沸点が室温以上、150℃以下の材料で、揮発性の高い材料が好ましい。代表的溶剤系としては、エーテル系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、ケトン系、ハロゲン化物系などが挙げられる。
【0051】
エーテル系溶剤としては、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジアミルエーテルなど、脂肪族炭化水素系溶剤としては、n-ヘキサン、n-ヘプタン、n-オクタン、iso-オクタンなど、芳香族炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレンなど、エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチルなど、ケトン系溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど、およびこれらのハロゲン化物などが、具体的溶剤として挙げられる。
【0052】
これらの溶剤は、単独でも混合で用いても何ら問題はなく、基板に対する濡れ性を制御が容易なことから、アイソパーEなどの石油系溶剤も好ましく用いられる。
【0053】
本発明コーティング剤は、置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物と炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物、および必要に応じて溶剤を含む組成物を、実質的に水分を吸収させることなく、混合させて用いられるものである。
【0054】
ここで、実質的に水分を吸収させることなくとは、所定量の置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物と炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物を、意識的に水分を添加、あるいは吸収させることなく溶剤と撹拌混合させた後に、コーティング剤として使用に供することを意味する。
【0055】
本発明において、置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物と炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物、および必要に応じて添加された溶剤からなるコーティング剤は、基板に塗布したのち、室温下で自然乾燥によって硬化させるのみで十分な撥水性を有するコーティング膜となる。
【0056】
本発明におけるコーティング剤の硬化反応機構は、完全に解明するに至ってはいないが、空気中の水分を吸収した後、加水分解反応を受け、脱水縮合反応が進行することによって、撥水性に優れる3次元構造を有するコーティング膜が得られたものと推定している。
【0057】
また、硬化後の本発明コーティング膜が如何なる構造を有しているかについても解明するに至ってはいないが、コーティング膜が優れた光沢を有し、また優れた撥水性と耐久性を有することから、その構造は高度に3次元架橋した構造を有しているものと推定される。
【0058】
本発明のコーティング剤は、室温下で十分に硬化を進めることが可能であるが、硬化時間を短縮させるために、加熱すること、あるいは風を当てて、溶剤揮発を促進することも好ましい実施態様である。また、光沢を損なうことなく、撥水性を高める施策として湿度の高い環境下で処理することが好ましい。
【0059】
湿度の高い環境を付与する方法としては、溶剤揮発/硬化時の環境雰囲気を、50%RH、より好ましくは60%RH以上、さらに好ましくは65%RH以上の湿度環境下に保つことが好ましい。他の方法としては、水分を吸収させた布などで塗膜表面を覆い、水分を供給することも、好ましく用いられる。
【0060】
湿度を高める手段としては、床に水や温水を張る方法や、水のミストを散布することも簡便で、かつ有効な方法として挙げられる。また、水分を吸収させた布を使用する方法においては、塗膜中への水分供給をスムーズに行わせるために、温水を含浸させた布を用いる方法、さらには水とアルコールなどの有機溶剤の混合物を含んだ布を用いることも、好ましい実施態様である。
【0061】
また、温度としては溶媒が揮発可能な温度であれば十分であるが、通常は5℃以上、できれば10℃以上が実用的であることから、好ましい温度条件として推奨される。さらに、ほこり付着などによる表面欠陥を防ぐためには、早い乾燥を行わせることが好ましく、できるだけ高い温度と大きい風量を施すこともできる。
【0062】
こうして得られる撥水性コーティング膜は、表面エネルギーが低い状態となり、優れた撥水性を有している。また、コーティング膜は高度に3次元架橋されたものであるため、撥水性に加えて、高硬度で優れた耐摩耗性や耐候性を有する。
【0063】
形成したコーティング膜の厚みは、0.005μm〜10μmであることが好ましい。0.005
μm未満の場合は、撥水性および光沢性が不十分となる傾向にある。また、10μmを越える場合は、均一な塗膜を得ることが困難となる。とくに意匠性の高い成型品へのコーティングにおいては、光の干渉効果による虹模様発生を防止するために、0.01μm〜0.1μmが好ましい。
【0064】
本発明コーティング剤の基板への塗布方法は、とくに制限されることはないが、ディッピング塗装、流し塗り法、スプレー塗装、刷毛塗り法、スピンコート法などに加えて、塗料を含浸させた布による転写塗布法などが挙げられる。塗装方法は基板の大きさ、形状などによって適宜、選択されるべきであるが、中でも、成型品のような異型な形状を有する物品には、スプレー塗装や塗料を含浸させた布による転写塗布法が塗膜の塗り斑発生を抑制し、非塗布部分をなくすことができることから好ましい。
【0065】
光沢に優れた均一な塗膜を得るために、塗布後に布などで不要な塗料を拭きとることも好ましく用いられる。とくに、光沢と撥水性の両性能を得る目的で、不要な塗料の拭きとり時に、まず、水分を吸収させた布を用いて拭きとり、さらにそののちに、通常の布などで不要な塗料を拭きとる、二段階式の拭きとり方法も好ましく用いられる。とくに冬季の気温が低い時には温水を吸収させた布を用いることも好ましい。
【0066】
本発明における撥水性は、水の接触角を測定して行った。接触角は、FACE社製“自動接触角計”CA-Z型を用いて測定した。
【0067】
本発明における撥水性に優れるコーティング膜とは、水の接触角が80度以上を有する膜である。90度以上を有している膜はさらに好ましい。すなわち、コーティング膜の接触角が80度未満の場合は、雨水や浄水、さらには酒類などの液体物質が、膜表面に付着して、乾燥した場合、雨染み、あるいは水焼け等と呼ばれる表面外観不良を起こしやすいという問題がある。
【0068】
また、本発明における撥水性の耐久性とは、長期間の使用に耐える性能を保有しているかどうかを判断するために行った。優れた耐久性とは、具体的には一カ月間の屋外曝露試験後に、その接触角保持率が85%以上、さらに好ましくは90%以上を有していることを意味している。
【発明の効果】
【0069】
以上の説明から明らかなように、本発明にあっては次に列挙する効果が得られる。
(1)置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物と炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物からなる組成物であって、3官能性シラン化合物/2官能性有機スズ化合物の添加モル比が1/1〜700/1の範囲から構成される組成物であって、各種基材の表面に耐久性に優れた撥水性を有する表面層を形成することができる。
【0070】
(2)前記(1)のコーティング剤の硬化は、コーティング剤を基板に塗布したのちに、特殊な処理装置を必要とせず、室温環境下で自然乾燥するのみで、十分に達成可能であるため、低コストで、異型な形状を有する基板や大型基板にも、容易に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0071】
本発明の撥水性コーティング剤は、高い撥水性に加えて、耐久性に優れることを特徴としている。
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0072】
(1)評価方法
(a)光沢性
コーティング膜を施した基板に光線を当てて、肉眼にて表面反射による光沢度合いを調べた。良好なものを○、光沢性が不十分なものを×とした。
(b)接触角
FACE社製“自動接触角計”CA-Z型を用いて、接触角を測定した。
(c)耐摩耗性
人の親指の爪先で、塗膜表面を擦り、傷の発生状況を調べた。
○:全く傷が認められない。
△:少し凹み状の跡が認められるが、実用上は大きな支障とはならない。
×:太い傷が認められ、外観上、欠点となる跡が認められる。
(d)耐久性
南向きストッカーの屋上に一カ月間、曝露試験した後の接触角を測定し、接触角の保持率(%)を測定した。
【実施例1】
【0073】
(実験例1〜8)、(比較例1〜4)
(1)コーティング剤調整
回転子を備えたビーカーにジブチルエーテル38.2gを秤量し、さらにエチルトリアセトキシシラン93.8gを添加したのち、ビーカー上部をカバーした状態で30分間室温にて撹拌を行い、均一溶液(A液)を得た。
次いで、同様にしてジブチルスズジアセテート1.2gをジブチルエーテル46.8gに添加・溶解させた均一溶液(B液)を調整した。
得られたA液とB液をそれぞれ表1に示した量を試薬瓶に添加混合し、密閉状態で十分に手振り撹拌混合を行ったのち、一昼夜、室温にて保管した液をコーティング剤とした。
(2)コーティング塗膜調整
被塗装基板としては、透明ガラス板を用い、コーティング剤を流し塗り法にて塗布し、一週間、解放状態で自然乾燥させて、硬化塗膜とした。
(3)評価結果
得られたコーティング膜の評価結果を表1に示す。表1より、本発明コーティング剤によって得られたコーティング膜は非常に優れた撥水性と撥水性の耐久性に優れていることが明らかとなった。
【実施例2】
【0074】
実施例1中の実験例5におけるジブチルスズジアセテートを、ジブチルスズジアセテートとジブチルスズジラウレートの等モル量に変更する以外は、すべて同様に行った。得られたコーティング膜の光沢性は○、接触角は97度、耐摩耗性は○であった。
【実施例3】
【0075】
実施例2における基板として、以下に述べる塗装ブリキ板を用いる以外は、すべて同様に行った。得られたコーティング膜は、光沢性、接触角、耐摩耗性に優れるのみならず、密着性も良好であった。なお、密着性は、はがね刃で碁盤目模様を入れた後に、粘着テープテストで塗膜剥離の有無を調べた。
【0076】
(1)被塗装基板作成方法
厚さ0.3mmのブリキ板にプライマーとしてイサム塗料(株)製のLVプラサフをスプレー塗装し、ベースコートとして同じくイサム塗料(株)製のミラノ2K(黒色)をスプレー塗装し、さらにトップコート層として、イサム塗料(株)製のミラノ2KコモクリアNo.1を、同様にスプレー塗装した。いずれの塗装も各層が常温保管で、指触乾燥後に重ね塗りにて塗布し、トップコート層塗布後、一昼夜以上経過したものをコーティング膜用の被塗装基板として使用した。
【実施例4】
【0077】
(1)コーティング剤調整
回転子を備えたビーカーにエチルトリアセトキシシラン6.01gを秤量し、さらにジブチルエーテル2.45gを添加・混合した。次いで、ジブチルスズジアセテート0.12gを添加混合し、密閉状態で約一カ月間、室温保存した液をコーティング剤とした。
【0078】
(2)コーティング塗膜調整
被塗装基板としては、直径が約40mmのアルミカップ6号容器を用い、コーティング剤を約1g注入し、一週間、解放状態で自然乾燥させて、コーティング塗膜を得た。
【0079】
(3)評価結果
得られた塗膜は、光沢性 ○、接触角114度、耐摩耗性 ○、および密着性も良好であった。
【0080】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明コーティング剤は、各種基板表面の撥水性向上に有用である。とくに、本発明コーティング剤を用いて得られたコーティング膜は耐久性に優れることから、電車、自動車、バスなどの乗り物の窓などのガラス面、ホイールなどの金属面、さらにはボディなどの塗装面やバンパーなどの樹脂面、あるいはビルや一般家屋の外壁、窓ガラスなどにも適用が可能である。また、撥水性に加えて、高い表面硬度を有することから、耐久性に優れた湿し水不要の印刷版への応用も可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物と炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物からなる組成物であって、3官能性シラン化合物/2官能性有機スズ化合物の添加モル比が1/1〜700/1の範囲であることを特徴とする撥水性コーティング剤。
【請求項2】
3官能性シラン化合物が、下記一般式(1)で表わされるシラン化合物からなる請求項1に記載の撥水性コーティング剤。
Si(OR (1)
(ここで、Rは置換もしくは非置換の炭化水素基、ORは加水分解性基である)。
【請求項3】
3官能性シラン化合物の炭化水素基であるRが炭素数1〜8のアルキル基、もしくはアラルキル基であり、Rが炭素数1〜4のアシルオキシ、もしくはアルコキシである請求項2に記載の撥水性コーティング剤。
【請求項4】
であるアルキル基がメチル、エチル、プロピル、もしくはアラルキル基がビニルから選ばれる一種以上である請求項3に記載の撥水性コーティング剤。
【請求項5】
2官能性有機スズ化合物における炭素数2〜12の炭化水素基がブチル基またはオクチル基である請求項1に記載の撥水性コーティング剤。
【請求項6】
2官能性有機スズ化合物の官能基が炭素数2〜13のアシルオキシ基からなる加水分解性官能基である請求項1、または請求項5に記載の撥水性コーティング剤。
【請求項7】
2官能性有機スズ化合物の炭素数2〜13のアシルオキシ基がアセトキシ基またはラウロキシ基である請求項6に記載の撥水性コーティング剤。
【請求項8】
2官能性有機スズ化合物がアセトキシ基を有する有機スズ化合物とラウロキシ基を有する有機スズ化合物の混合物である請求項7に記載の撥水性コーティング剤。
【請求項9】
置換もしくは非置換の炭化水素基を有する3官能性シラン化合物と炭素数2〜12の炭化水素基を有する2官能性有機スズ化合物からなり、かつ3官能性シラン化合物/2官能性有機スズ化合物の添加モル比が1/1〜700/1からなる組成物であって、該撥水性コーティング剤を基板に塗布したのち、室温下で自然乾燥によって硬化させてなることを特徴とする耐久性を有する撥水性コーティング膜の形成方法。



【公開番号】特開2012−136613(P2012−136613A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−289166(P2010−289166)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(710014203)
【出願人】(509130321)株式会社アーバンリーフ (2)
【出願人】(304054781)ティ−エ−ケミカル株式会社 (3)
【Fターム(参考)】