撥水性基材、熱交換器、及び撥水性基材の製造方法
【課題】基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する撥水性基材を提供する。
【解決手段】撥水性基材10は、表面に疎水性を有する基材からなる。基材の表面には、多数の突起12を含む凹凸部が形成されている。凹凸部は、凹部の断面が75nm〜100nmの範囲に含まれる幅寸法Dとなるように形成されている。
【解決手段】撥水性基材10は、表面に疎水性を有する基材からなる。基材の表面には、多数の突起12を含む凹凸部が形成されている。凹凸部は、凹部の断面が75nm〜100nmの範囲に含まれる幅寸法Dとなるように形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性を有する撥水性基材、この撥水性基材を備える熱交換器、及び撥水性基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に撥水性を与えるために、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1によれば、ジオール類の混在量が溶液中のすべての金属アルコキシドの合計固形分に対し0.5〜30wt%であるコーティング溶液をガラス基板表面に被覆し、加熱焼成して微細な凹凸状表層を有するゾルゲル膜を形成し、このゾルゲル膜上に撥水膜層を被覆形成することで、耐摩耗性及び耐光性能を向上して長期的に撥水性能を発揮するガラスを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−281132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の撥水性を有するガラスは、ガラス表面に滴下された水滴等をその表面から滑らせる場合には、水滴等の滑落させることにおいて良好な性能を発揮し得る。しかしながら、特許文献1に記載のガラスでは、低温流体に触れる場合、例えば、当該ガラスによって構成された伝熱管の内部を低温の熱媒体が流れるときに伝熱管の表面に凝縮水が発生する場合には、凝縮水を良好な撥水することができないという問題があった。例えば、特許文献1に記載の技術では、ガラスに形成される撥水膜層の凹凸部において各凹部内で発生する凝縮水が互いに繋がり大きな水の膜となって形成されていくため、撥水膜層の表面が広く濡れるようになる。したがって、凝縮水の良好な撥水性が得られず、凝縮水を滑落させ難いものとなっていた。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する撥水性基材、この撥水性基材を備える熱交換器、及び撥水性基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用することができる。すなわち、請求項1は、表面に疎水性を有する基材からなる撥水性基材に係る発明であって、
基材の表面には、多数の凹凸部が形成されており、
凹凸部には、疎水性被膜が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、疎水性被膜が形成される凹凸部により、基材表面に発生する凝縮水を基材表面に付着する状態から浮き上がらせるため、凹部に停滞する状態を回避できる。このように、凹部の外に押し出された水滴を外部からの力、例えば風圧等によって容易に移動させて除去することができる。また、凹部に停滞する状態を回避できるため、従来の基材に見られるように隣り合う凹部のそれぞれに溜まった凝縮水が凹部の外で互いに繋がり、大きな水の膜となって形成されることを防止することもできる。したがって、基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する撥水性基材を提供できる。
【0008】
請求項2によると、請求項1に記載の撥水性基材の凹凸部は、凹部断面の幅寸法が75nm〜100nmの範囲のものを含むように形成されることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、隣り合う凸部間に上記幅寸法を満たす凹部が形成されることにより、凹部に発生した凝縮水は、水滴の成長とともに凸部の底部側から先端側に向けて押し出されるようになる。このように、凹部の外に押し出された水滴を外部からの力、例えば風圧等によって、さらに容易に移動させることができる。また、凹部に停滞する状態を回避できるため、従来の基材に見られるように隣り合う凹部のそれぞれに溜まった凝縮水が凹部の外で互いに繋がり、大きな水の膜となって形成されることを確実に防止することもできる。したがって、基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する撥水性基材を提供できる。
【0010】
請求項6の熱交換器に係る発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の撥水性基材を、内部に冷媒が流れるチューブまたは当該チューブと一体に設けられるフィンを形成する部材に用いることを特徴とする。この発明によれば、フィンやチューブに形成された撥水性基材により、凹部に発生した凝縮水は、水滴の成長とともに凸部の底部側から先端側に向けて押し出されるようになり、凹部に停滞する状態を回避するこことができる。したがって、基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する熱交換器を提供できる。さらに、このような熱交換器によれば、凝縮水の凍結を抑止することができるので、熱交換器の本来機能を継続的に発揮できる状態を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る疎水性被膜が形成された撥水性基材の一部を示す模式図である。
【図2】第1実施形態の撥水性基材において、凝縮水が発生した際の撥水作用を説明するための模式図である。
【図3】第2工程後の基材の表面形状を走査型電子顕微鏡で撮影した拡大写真である。
【図4】基材表面と単分子膜との結合状態を説明するための図である。
【図5】FAS17を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図6】ODSを含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図7】C3を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図8】C6を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図9】C10を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図10】C12を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図11】FAS3を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図12】FAS13を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図13】第1実施形態の撥水性基材で形成されるフィンまたはチューブを備える熱交換器の斜視図である。
【図14】図13の熱交換器について着霜、除霜を繰り返したときの着霜時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明を適用する第1実施形態について図1〜図14を参照して説明する。図1は第1実施形態に係る疎水性被膜が形成された撥水性基材10の一部を示す模式図である。図2(a)〜(c)は、撥水性基材10において、凝縮水が発生した際の撥水作用を説明するための模式図である。
【0013】
図1及び図2に記載する撥水性基材10は、本発明に係る撥水性基材の一例であり、この形態のみに限定されるものではない。図1に示すように、撥水性基材10は、基部11の表面から突出する無数の突起12を備えている。突起12は、基部11の表面からの突出高さがHである花弁状構造となっている。無数の突起12は、撥水性基材10に形成される花弁構造を構成し、撥水性基材10の表面に凹凸面を形成する。
【0014】
隣り合う突起12は、所定の範囲に含まれる寸法D離れている。すなわち、隣り合う突起12間には、凹部が形成され、この凹部は、その断面が75nm〜100nmの範囲に含まれる幅寸法Dとなるように形成されている。幅寸法Dは、隣り合う突起12の根元部間の距離でもある。突起12は、基部11の表面に形成される凸部を形成し、その断面が厚み寸法Pとなるように形成されている。さらに突起12の太さに相当する厚み寸法Pは、凹部の幅寸法D以下に設定されている。
【0015】
なお、図1は、撥水性基材10の表面における詳細な構造を理解しやすくするために、模式的に表した図であり、実際の構造よりも単純化して示している。例えば、隣り合う突起12の先端側は互いに交差したり重なったりする場合があり、突起12は基部11からまっすぐに延びずに、湾曲するように延びたり、折曲がって延びたりする場合がある。
【0016】
図1に示すように、突起12及び基部11の表面には、疎水性被膜13によって無数の毛状部が形成されている。疎水性被膜13は、例えばフッ素系の膜剤であり、基材表面に発生する凝縮水を表面に付着する状態から浮き上がらせ、例えば風圧等によって容易に表面から取り除くことができる超撥水性の被膜を構成する。ここでいう疎水性とは、基材表面に風等の外力が作用した場合に基材表面上の水が移動可能な程度に、基材表面において水を浮き上がらせることができる性質のことであり、疎水性被膜とはこのような性質をもつ被膜のことである。
【0017】
撥水性基材10が有する疎水性被膜13は、花弁状構造を備える凹凸部の表面に存在し、水滴を浮き上がらせる作用を奏する疎水膜により形成される。疎水膜は、フッ素系の膜剤の一例である長鎖フッ化炭素鎖、長鎖アルキル鎖等を有する有機シランとして、例えば、長鎖フッ化炭素鎖CF3(CF2)7−を有するフッ化アルキルシランCF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3が撥水性基材10の一例としてのアルミニウム表面と反応、化学結合して薄膜を形成する。また、フッ化アルキルシランは、下記の構造を有するフッ化アルキルシラン基を含むことが好ましい。
CF3(CF2)nCH2CH2−Si(OR)3
RはCH3、C2H5、CH2CH2CH3である。なお、n=3〜9である。
【0018】
このように疎水性被膜が形成された撥水性基材10の表面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した拡大写真を図3に示す。なお、これらの電子顕微鏡写真ではアルキル鎖は観察されていない。
【0019】
次に、撥水性基材10に凝縮水が発生したときの撥水効果について説明する。例えば、撥水性基材10の表面において空気が冷却されて凝縮水が生じると、図2(a)に示すように、凝縮水が集まった水滴20が突起12間の凹部に形成される疎水性被膜13の表面に発生する。さらに凝縮水が発生すると、図2(b)に示すように、水滴20は大きくなって凹部全体を埋めるように広がる水滴21となる。そして、凹部を埋め尽くす水滴21は、図2(c)に示すように、突起12の上方にせり出し、図2(c)に示す水滴22のように、表面張力で球状になり、突起12の表面の疎水性被膜13上に軽く乗ったような状態となる。この状態の遷移は、図2(c)の状態の水滴22に関する表面エネルギーが図2(b)の状態の水滴21に関する表面エネルギーよりも小さく、水滴の状態は表面エネルギーが小さくなる方向に遷移する傾向にあるから、とも考えられる。
【0020】
この状態では、水滴22は、まだ小さく、撥水性基材10の表面における疎水性被膜13が形成されていない部分において、または表面に存在する例えば水酸基の有する極性の影響等により、撥水性基材10の表面にある程度の吸引力で引き付けられることになり、撥水性基材10の表面から滑落しにくい状態に維持されている。
【0021】
さらに、図2(c)に示す状態からさらに凝縮水が発生すると、図2(c)の水滴22はさらに大きくなって突起12の外で複数の突起12にまたがるように大きくせり出し、表面張力でさらに大きな球状の水滴23(図1に図示)になり、複数の突起12の表面に軽く乗ったような状態となる。この状態まで水滴が大きくなると、水滴23と疎水性被膜13との接触面積が小さく、水滴23に加えられる撥水性基材10の吸引力も小さくなる。このように、凝縮水から変化した水滴23と基材表面との間には、空気層が形成されるようになる。このような状態になるため、水滴23は、風圧や振動等の外力によって撥水性基材10の表面から滑りやすくなり、容易に取り除かれるようになる。
【0022】
また、撥水性基材10上の実際の凝縮水は、突起12間に形成される凹部の複数にほぼ同時に発生するため、各凹部において上記に説明するように、それぞれの水滴が変化して突起12の外側に浮き上がる。そして、隣り合う複数の凹部にまたがる水滴が一つの水滴として複数の突起12の外側で球状に成長するようになる。
【0023】
次に、発明者らが、凹部の幅寸法Dを50nm、75nm、100nm、150nm、200nmのそれぞれに設定した試験用基材を作製し、各試験用基材について強制的に凝縮水を発生させ、その挙動を検証した結果を説明する。この試験用基材は、平板状の基材に対して、ナノインプリント加工を施し、レール状の微細な凹凸面を形成することにより作製した。なお、凸部をなす突起の厚み寸法Pは、凹部の幅寸法Dに等しくなるように作製し、突起の深さは200nmに設定した。また、平板状の試験用基材の裏面にペルチェを接合し、ペルチェ素子によって試験用基材を冷却することにより基材表面に凝縮水を強制的に発生させた。
【0024】
発明者らは、基材表面に凝縮水を発生させてから所定時間、基材表面をビデオ撮影して、水滴の変化の様子を観察したところ、幅寸法Dが50nm、150nm、200nmである各試験用基材においては、時間が経過するにつれて、基材表面上の近接する水滴同士が合体を繰り返し、その直径が大きくなっていくとともに、その形状がきれいな球状ではないことを確認した。これは、時間経過とともに大きくなった水滴が撥水効果によるものではなく、基材表面にいわゆる「濡れた状態」で存在することを示している。
【0025】
一方、幅寸法Dが75nm、100nmである各試験用基材においては、時間が経過しても、水滴が、「飛び跳ね」、「消滅」、「発生」を繰り返し、基材表面上の水滴の直径があまり変化しないことが確認できた。また、最初の凝縮水発生から9分後の状態と12分後の状態とで、基材表面上の水滴の大きさに差がなく、その形状がきれいな球状であることを確認した。これは、撥水効果により、発生する水滴が風圧等が作用すれば、容易に除去可能な状態で存在していることを示している。
【0026】
以上の試験結果からも、撥水性基材10における隣接する突起12間に形成される凹部は、その断面が75nm〜100nmの範囲に含まれる幅寸法Dとなるように形成されることが好ましいと思われる。
【0027】
次に、撥水性基材10の作製方法の例を説明する。本実施形態では、撥水性基材は、以下の第1工程〜第3工程に示す第1の方法によって作製した。
(第1工程:ベーマイト処理)
アルミニウム製板材をアセトンに浸漬して表面清浄化を行い、沸騰する純水中に5分以上、浸漬させた。次に、取り出したアルミ板を冷却後、超純水を吹きかけて洗浄し、窒素ガスを吹きかけて乾燥させた。これにより、アルミ板表面に水酸基を生成させた。なお、沸騰水中にジエタノールアミン等のアミン類を添加してもよい。ベーマイト処理は、アルミニウム製板材を水蒸気に暴露することによっても行うことができる。
【0028】
アルミ板をベーマイト化した目的は2つある。1つはベーマイト化することによりアルミ板の表面に水酸基を形成し、続く第2工程において単分子膜形成試薬と水酸基が反応し、強固な結合を形成させるためである。
【0029】
2つめはベーマイト化の過程で表面がエッチングされ、非常に微細な板状からなる花弁状構造が形成されるためである。この花弁状構造は、基材表面に対して垂直な任意の断面において、図1の符号12を付した針状構造になっている。このベーマイト処理後のアルミ板を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した像を(写真)を、図3(a),(b)に示す。花弁状構造を構成する板状構造の上端部が、このSEM像の明領域として観察されている。このSEM像からの解析結果から粗さの解析をしたところ、凹部の間隔(幅寸法)が50〜100nmとなる凹凸面を確認できた。
(第2工程:製膜処理)
ODS(octadecyltrimethoxysilane)25mMの水飽和キシレン溶液に、第1工程にて表面をベーマイト化したアルミ板を室温(20℃)で2日浸積した。
(第3工程:製膜処理の後処理)
第2工程にて製膜処理を行ったアルミ板をアセトンにて洗浄した後、80℃にて1時間乾燥させた。
【0030】
以上の工程により、アルミ板表面に、アルキル基を有するC18H37Si(O−)3の単分子膜(アルキル単分子膜)からなる撥水膜が形成された撥水性基材を作製した。なお、上記第3工程は省略することもできる。
【0031】
このように構成された撥水性基材は、図1に模式的に示す撥水性基材10の構造を有する。この撥水性基材10においては、突起12が上記第1工程により形成され、疎水性被膜13(C18H37Si(O−)3単分子膜)が上記第2工程により形成された。
【0032】
このようにして形成した撥水性基材は高い撥水性を有しており、水平面からの角度を30°に傾斜させて配置した基材に凝縮水を発生させると、凝縮水の直径が0.5mmとなったときに滑落した。
【0033】
また、本発明に係る撥水性基材では、発生する霜に対しても高い滑落性能を発揮し、基材表面に霜発生が起きる時間を遅らせることができた。
【0034】
また、撥水性基材は、以下の第2の方法によっても作成することができる。
【0035】
第2の方法では、第2工程における製膜材料を変更して撥水性基材を作製した。すなわち、まず、第1工程までは上記第1の方法と同様の工程を経たアルミ板を準備した。
(第2工程:製膜処理)
FAS17(perfluorodecyltriethoxylsilane)25mMの水飽和1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(F6xy)溶液に、第1工程にて表面をベーマイト化した基材を室温(20℃)で2日浸積した。なお、FAS17(perfluorodecyltrimethoxylsilane)を用いても同様な結果が得られる。
【0036】
上記第2工程の後、上記第1の方法の第3工程と同様の処理を行い、アルミ板表面に、フルオロアルキル基を有するC8F17C2H4Si(O−)3の単分子膜(フッ化アルキルシラン単分子膜)からなる撥水膜が形成された撥水性基材を作製した。なお、第3工程は省略することもできる。
【0037】
このようにして作成された撥水性基材は、第1の方法にて作成した撥水性基材と同等の撥水性を示した。
【0038】
また、撥水性基材は、以下の第3の方法によっても作成することができる。
【0039】
第3の方法では、以下の第1工程〜第3工程を経て撥水性基材を作製する。
(第1工程:ベーマイト化基材作製工程)
ベーマイト化基材作製工程は、アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる所定の温度の水に約5分間浸漬して、アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成する工程である。
(第2工程:FAS被覆工程)
FAS(フッ化アルキルシラン)被覆工程は、FASを含む溶液にベーマイト化基材を浸漬してベーマイト化基材にFAS被覆を形成する工程である。
(第3工程:熱処理工程)
熱処理工程は、第2工程でFAS被覆されたベーマイト化基材を、真空中または窒素雰囲気中で100℃〜300度の範囲に含まれる所定の温度に加熱する工程である。この熱処理工程では、一定温度で30分以上ベーマイト化基材を加熱する。
【0040】
また、熱処理工程は、室温における相対湿度が5%未満である低湿度雰囲気でベーマイト化基材を加熱することが好ましい。
【0041】
また、撥水性基材は、以下の第4の方法によっても作成することができる。
【0042】
第4の方法では、以下の第1工程、第2工程を経て撥水性基材を作製する。
(第1工程:ベーマイト化基材作製工程)
ベーマイト化基材作製工程は、アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる所定の温度の水に浸漬して、アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成する工程である。
(第2工程:FAS被覆工程)
FAS被覆工程は、FASを含む気体とベーマイト化基材とを接触させた状態で、100℃〜300度の範囲に含まれる所定の温度に加熱して、ベーマイト化基材にFAS被覆を形成する工程である。この第2工程は、加熱気化させたFAS蒸気にベーマイト化基材をさらす蒸気暴露工程である。
【0043】
また、第4の方法の第2工程の代わりに、FASを含む溶液にベーマイト化基材を浸漬させた状態で、還流を行うようにしてもよい。この還流工程により、ベーマイト化基材は溶媒沸点の高温にさらされる。この工程によれば、液浸漬と熱処理の両方が実施されるので、基材表面と疎水性被膜13との間に強固な結合力を構築できる。
【0044】
次に、第3の方法、第4の方法等に伴う熱処理による効果について説明する。図4に示すように、基材表面にベーマイト被覆を行う処理(ベーマイト化処理)により、疎水膜を構成する単分子膜と基材表面(基材の凹凸部の表面)との結合は、水素結合によって構成される。この水素結合は、水が基材表面に付着した場合、その状態に耐えるための結合力が強くない。したがって、水が基材表面に付着すると、水素結合間に水分子が侵入して、水素結合が破壊され、基材表面から単分子膜がまとめて剥離するようになる。
【0045】
そこで、第3の方法、第4の方法等では、さらに熱処理が実施されるため、疎水膜を構成する単分子膜と基材表面(基材の凹凸部の表面)との結合は、共有結合による強固な化学結合が支配的になる。この共有結合は、水が基材表面に付着した場合、その状態に耐え得る結合力を有する。したがって、水が基材表面に付着しても、共有結合が容易に破壊されることはなく、図4の右端に示す状態を維持することができる。
【0046】
発明者らが、いくつかの状態の基材表面(FAS17を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた基材)に対して行った流水試験前後の水滴接触角の変化を、図5を参照して説明する。図5において、白塗りの棒グラフのそれぞれは、流水試験を行う前の接触角を示している。網掛けの棒グラフのそれぞれは、流水試験を行った後の接触角を示している。流水試験は、以下のようにして実施する。試験試料を水を入れた容器に沈め、容器の水面に毎分300mlの流水を落下して供給する。これを90時間継続した後、容器から基材を取り出し、基材表面に付着する水滴の接触角を測定する。
【0047】
左端の「加熱なし」と記載された棒グラフは、上記の熱処理を行わない基材表面上の水滴の接触角であり、接触角は流水試験後に大きく低下し、撥水効果に関して耐久性の劣化が確認された。次に、左から2番目〜5番目の「80℃」、「100℃」、「200℃」、「300℃」(すべて大気中)と記載された各棒グラフは、FAS17を含む溶液に浸漬後、大気中で、各温度で熱処理した基材表面上の水滴の接触角である。この場合も接触角は流水試験後に大きく低下し、撥水効果に関して耐久性の劣化が確認された。「300℃」で大気中にて熱処理した試料について、X線光電子分光法によって流水試験前後の試料表面の組成分析を行った結果、フッ素の原子濃度[F]とアルミニウムの原子濃度[Al]の比である[F]/[Al]が、流水試験前は2.7であったのに対して、流水試験後は0.2に減少した。この[F]/[Al]の減少は、流水試験によって基材表面からFASが脱離してFASの被覆量が減少したことを示しており、流水試験による撥水効果の劣化が上述の通りFAS膜の剥離に因ることを表している。
【0048】
次に、左から6番目〜8番目の棒グラフは、FAS17を含む溶液に浸漬後、それぞれ「100℃」、「150℃」、「200℃」で真空にて加熱した場合(第3の方法)の水滴の接触角である。この場合は、前述のパターンとは異なり、接触角は流水試験後にあまり低下せず、撥水効果に関しても耐久性の劣化が抑制されることが確認された。この撥水効果の流水に対する耐久性の向上は、ベーマイト表面とFASとの共有結合化をもたらす脱水縮合反応が、大気中においては水分(水蒸気)の存在によって阻害されるが、低湿度である真空雰囲気においては促進されたことに因るものと推定される。
【0049】
また、左から9番目〜11番目の棒グラフは、FAS17を含む溶液に浸漬後、それぞれ窒素雰囲気中(室温における相対湿度が5%未満)で「100℃」、「150℃」、「200℃」に加熱した場合の水滴の接触角である。この場合は、「加熱なし」等の前述のパターンとは異なり、接触角は流水試験後にあまり低下せず、撥水効果に関しても耐久性の劣化が抑制されることが確認された。窒素雰囲気中での熱処理を用いた場合には、蒸気暴露工程よりも優れた耐久性が得られる。特に処理温度150℃の場合は流水試験後でも水滴接触角が150度を超えており、超撥水性が維持されており、撥水効果の劣化が最も抑制され、流水に対する耐久性が最も良好な膜ができる。
【0050】
窒素雰囲気を用いた場合も、前述の真空雰囲気を用いた場合と同様に、雰囲気中の水分が少なかったため、脱水縮合反応が促進されたと推定される。さらに、窒素雰囲気を用いた場合に前述の真空雰囲気を用いた場合よりも流水に対する耐久性が良好な膜が得られたのは、真空雰囲気を用いた場合には熱処理前の真空引き時あるいは熱処理時の真空雰囲気中にて少量のFAS分子がベーマイトから脱着し膜密度の低い欠陥部位が形成されたのに対して、窒素雰囲気中ではFAS分子の脱着量がより少なく欠陥部位が少なかったことに因ると推定される。窒素雰囲気中のみならず、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素等のガス雰囲気中においても、水分量が少ない低湿度雰囲気中であれば、同様の効果を得ることができる。
【0051】
最後に、右端の棒グラフは、「150℃」で蒸気暴露した場合(第4の方法)の水滴の接触角であり、この場合も、接触角は流水試験後にあまり低下せず、撥水効果に関しても耐久性の劣化が抑制されることが確認された。この結果は、前述したように、疎水膜を構成する単分子膜と基材表面(基材の凹凸部の表面)との間に構築された共有結合によるものと考えられる。
【0052】
さらに発明者らが、いくつかの状態の基材表面(ODSを含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた基材)に対して行った流水試験前後の水滴接触角の変化を、図6を参照して説明する。図6においても、上述した図5に示す接触角の変化と同様に結果が確認できる。
【0053】
また、撥水性基材は、以下の第5の方法によっても作成することができる。
【0054】
第5の方法では、以下の第1工程〜第3工程を経て撥水性基材を作製する。
(第1工程:ベーマイト化基材作製工程)
ベーマイト化基材作製工程は、アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる所定の温度の水に約5分間浸漬して、アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成する工程である。
(第2工程:アルキルシラン被覆工程)
アルキルシラン被覆工程は、アルコキシアルキルシランを含む溶液にベーマイト化基材を浸漬してベーマイト化基材にアルキルシラン被覆を形成する工程である。
【0055】
具体的なアルコキシアルキルシランとしてはpropyltrimethoxysirane(本願ではC3と略称する)、hexyltrimethoxysirane(本願ではC6と略称する)、decyltrimethoxysirane(本願ではC10と略称する)、dodecyltrimethoxysirane(本願ではC12と略称する)の5mM水飽和キシレン溶液に第1工程にて表面をベーマイト化したアルミ板を室温(20℃)で2日浸積した。
(第3工程:熱処理工程)
熱処理工程は、第2工程でアルキルシラン被覆されたベーマイト化基材を、真空中または窒素雰囲気中で100℃〜300℃の範囲に含まれる所定の温度に加熱する工程である。この熱処理工程では、一定温度で30分以上ベーマイト化基材を加熱した。
【0056】
このようにして作製したアルキルシラン被膜撥水膜の初期接触角を測定後、前記の流水試験を行い、その接触角を測定した。それぞれのアルキルシラン被膜撥水膜の流水試験前後の接触角変化を図7、図8、図9、図10に示す。いずれもFAS17、ODSの例と同じく真空中熱処理、窒素中熱処理での流水試験後の接触角低下が少なくなり向上が認められた。
【0057】
また、撥水性基材は、以下の第6の方法によっても作成することができる。
【0058】
第6の方法では、以下の第1工程〜第3工程を経て撥水性基材を作製する。
(第1工程:ベーマイト化基材作製工程)
ベーマイト化基材作製工程は、アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる所定の温度の水に約5分間浸漬して、アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成する工程である。
(第2工程:FAS被覆工程)
FAS(フッ化アルキルシラン)被覆工程は、FASを含む溶液にベーマイト化基材を浸漬してベーマイト化基材にFAS被覆を形成する工程である。具体的なFASとしてはperfluorooctyltrimethoxylsilane(C6F13C2H2Si(OCH3)3、本願ではFAS13と略称する)、perfluorhexyltrimethoxylsilane(C4F9C2H2Si(OCH3)3、本願ではFAS9と略称する)の25mM水飽和水飽和1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(F6xy)溶液に第1工程にて表面をベーマイト化したアルミ板を室温(20℃)で2日浸積した。
(第3工程:熱処理工程)
熱処理工程は、第2工程でFAS被覆されたベーマイト化基材を、真空中または窒素雰囲気中で100℃〜300℃の範囲に含まれる所定の温度に加熱する工程である。この熱処理工程では、一定温度で30分以上ベーマイト化基材を加熱した。
【0059】
このようにして作製したアルキルシラン被膜撥水膜の初期接触角を測定後、前述の流水試験を行い、その接触角を測定した。それぞれのアルキルシラン被膜撥水膜の流水試験前後の接触角変化を図11、図12に示す。いずれもFAS17、ODSの例と同じく真空中熱処理、窒素中熱処理での流水試験後の接触角低下が少なくなり向上が認められた。
【0060】
溶液浸漬の後に窒素中熱処理を施した場合には、水との振盪によって予めアルコキシシラン基を加水分解してシラノール基に変化させてから用いているため、熱処理時に水分を導入する必要がない。したがって、蒸気暴露工程よりも脱水縮合反応を促進させることが可能である。以上から、溶液浸漬工程の後、窒素雰囲気中にて150℃で熱処理を施した場合には、蒸気暴露工程を用いた場合よりも、流水試験による撥水性の劣化が少ない、高い耐久性を有する膜を作製することができる。また、本願の溶液浸漬工程、及び窒素雰囲気中での熱処理工程は、高圧条件に耐え得る反応容器が必要な蒸気処理工程に対して、装置及び工程がより簡易であるため生産上有用である。
【0061】
次に、撥水性基材10を適用した熱交換器100について説明する。図13は、撥水性基材10で形成されるフィンまたはチューブを備える熱交換器100の斜視図である。熱交換器100は、例えば、車両用空調装置の冷凍サイクルにおいて空調用空気を冷却する蒸発器に適用することができる。
【0062】
熱交換器100は、図13に示すように、熱交換コア部110と、この熱交換コア部110に接続される一対のヘッダタンク120とを備えている。熱交換コア部110は、複数積層される断面扁平状のチューブ111と、各チューブ111の間に介在され、チューブ111に一体に設けられる波形のフィン112とを備えている。チューブ111は、内部を熱媒体としての冷媒が流通する管部材であり、各チューブ111の両先端部は、一対のヘッダタンク120内部にそれぞれ連通するように接続されている。また、フィン112は、薄肉の帯板材から波状に形成されて伝熱面を形成する伝熱部材であり、チューブ111にろう付け等により一体に接合されている。チューブ111及びフィン112の少なくとも一方は、撥水性基材10を用いて形成されている。
【0063】
熱交換器100においては、冷凍サイクル内で減圧されて低温低圧となった冷媒が複数のチューブ111内を流通し、空調用空気が各チューブ111の外側および各フィン112の周囲を通過し、冷媒によって冷却されるようになっている。空調用空気が冷却される際に、空調用空気の温度が空気中に含まれる水蒸気の露点温度を下回ると、水蒸気は凝縮水となって熱交換コア部110のチューブ111及びフィン112の表面に付着する。この凝縮水の付着状態が続くと、熱交換コア部110を通過する空調空気の通気抵抗が増加し、凝縮水による熱抵抗が上昇するため、熱交換器100における熱交換性能が低下する。さらには、凝縮水は、凍結温度以下となると凍結して熱交換コア部110の表面に霜となって付着することになる。
【0064】
そこで熱交換器100は、チューブ111及びフィン112の少なくとも一方が撥水性基材10によって形成されているため、撥水性基材10で形成された部材に付着した凝縮水は、前述した撥水作用により、凹凸部の表面から浮き上がり、複数の突起12をまたがるような大きな水滴23となって、当該部材の表面に存在する(図1参照)。この状態で、空調用空気が熱交換コア部110を通過しようとすると、その風圧によって、水滴23は押し流されるので、熱交換コア部110から速やかに取り除かれることになる。このように凝縮水が発生した場合でも、凝縮水は撥水性基材10の表面に長く留まらないため、チューブ111内を流れる低温冷媒によって冷やされても熱交換器のフロストを回避できるのである。
【0065】
次に、発明者らが、本実施形態に係る熱交換器(本実施形態品)と、従来の熱交換器(従来品)とについて、フロスト抑制効果の検証を行った比較実験の結果を説明する。図14は、熱交換器100及び従来の熱交換器において、着霜、除霜を繰り返した試験を実施したときの着霜時間を示したグラフである。図14(a)は本実施形態品、(b)は従来品における試験結果を示す。本実施形態品は、フィン表面に疎水性被膜13を備ええ、従来品は、フィン表面に従来から知られる親水性の被膜を備え、本実施形態における疎水性被膜13を備えないものである。
【0066】
実験条件は、
・着霜運転時において、
空気側条件として
乾球温度=2±0.3℃、湿球温度=1±0.3℃、
前面風速=0.8±0.01m/s、
冷媒側条件として
冷媒入口温度=−7.4±0.6℃、冷媒流量=10±0.5L/MIN、
・除霜運転時において、
空気側条件として
前面風速=0m/s、
冷媒側条件として
冷媒入口温度=13±2℃、冷媒流量=2±0.5L/MIN、
・試験サイクル
着霜条件で熱交換器の通風抵抗が100Paまで上昇した時点で終了し、除霜運転6分とし、
以下、繰り返すものとしとした。
【0067】
本実施形態品では、従来品に対して凝縮水の除去を促進できるので、凝縮水が熱交換コア部110に停滞し難い。したがって、本実施形態品は、従来品に比べ、着霜して熱交換コア部110の通風抵抗が所定値(ここでは、100Pa)に達するまでの時間を大きく低減することができる。
【0068】
以下に、第1実施形態がもたらす作用効果を説明する。第1実施形態によれば、撥水性基材10は、表面に疎水性を有する基材からなる。当該基材の表面には、多数の突起12を含む凹凸部が形成されている。凹凸部は、凹部の断面が75nm〜100nmの範囲に含まれる幅寸法Dとなるように形成されている。
【0069】
上記幅寸法Dを満たさない従来の基材表面に凝縮水が発生するような条件下においては、凝縮水は、凹凸部の凹部底面に発生して、当該箇所に停滞し、凹部底面に長く接触する状態になることがある。この場合、凝縮水は、凹部底面から引き続き冷却されるため、凍結することがある。凍結すると、基材表面での熱交換作用が低下することになり、本来の機能を発揮できない状態になる。
【0070】
そこで、撥水性基材10の構成によれば、隣り合う突起12間が上記幅寸法Dを満たすことにより、凹凸部の凹部底面に発生した凝縮水は、水滴の成長とともに突起12の底部側から先端側に向けて押し出されるようになり、凹部に停滞し続けない。したがって、凹部の外に押し出された水滴は、外部からの力、例えば風圧等によって、容易に移動して除去することができる。また、凹部底面に発生した凝縮水が突起12の底部側から先端側に向けて押し出される作用によって、従来の基材に見られるように隣り合う凹部のそれぞれに溜まった凝縮水が凹部の外側で互いに繋がり、大きな水の膜となって形成されることを防止することができる。
【0071】
また、疎水性被膜13は、針状構造が形成される凹凸面をFAS17またはフッ化アルキルシランで覆う膜により形成される。このようにFAS17またはフッ化アルキルシランで覆われる疎水性被膜が形成されていることにより、針状構造を有する凹凸面とフッ化アルキルシランの疎水性とを併せ持つ接触面の形成により、凝縮水を基材表面から滑落させる効果を高めることができる。
【0072】
また、撥水性基材10の凹凸部の表面と疎水性被膜13は、共有結合によって結合されている。これによれば、凹凸部の表面と疎水性被膜13との間に強固な結合力を構築できるため、耐久性に優れた基材表面を提供できる。
【0073】
また、撥水性基材10の凹凸部には、ベーマイトが被覆されている。これによれば、撥水性基材10の表面には、AlOOHまたはAl2O3・H2Oの組成で示されるアルミナ1水和物であるベーマイトが被覆されているため、化学的安定性が高い基材表面を提供できる。
【0074】
また、撥水性基材10は、熱交換器100のチューブ111またはフィン112を形成する部材として用いられる。この構成によれば、チューブ111の表面またはフィン112の表面に突起12、さらには疎水性被膜13が形成されることになり、熱交換器100の発生する凝縮水を風圧等によって各部の表面から容易に取り除くことができるので、凝縮水の凍結回避、凍結による通風抵抗増加の防止が図れ、熱交換器100の機能を確実に発揮させることができる。したがって、熱交換器100の性能維持、寿命確保等に貢献することができる。
【0075】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0076】
上記実施形態においては、撥水性基材10の表面には、多数の突起12によって構成される針状構造による凹凸部が形成されている。さらに撥水性基材10には、多数の突起12が突出する基部11に、針状構造による凹凸部よりも大きな寸法の第1の凹凸部が形成されていてもよい。この場合、針状構造による凹凸部は第2の凹凸部と定義し、第1の凹凸部の表面に第2の凹凸部が形成されることになる。なお、第1の凹凸部は、上記の第1の方法〜第4の方法における第1工程の前に、予めアルミニウム製板材の表面に形成すればよい。
【0077】
また、上記実施形態においては、疎水性被膜として、ODS,FAS17等を用いて単分子膜を形成したが、それら以外の試薬で単分子膜を形成してもよいし、単分子膜以外の疎水性被膜を形成してもよい。また、単分子膜の構造中に親水性を示す官能基は極力除外することが望ましい。なお、疎水性被膜として、アルキル基、フルオロアルキル基のような疎水性の官能基が含まれていると高い疎水性を発現させることができる。
【0078】
また、上記実施形態に記載の第3の方法の変形例としては、熱処理を施した場合に比べて基材表面と単分子膜との結合強度は低下するが、第3工程(熱処理工程)の代わりに、FAS被覆されたベーマイト化基材を、時間をかけて常温で自然乾燥するようにしてもよい。
【0079】
また、凹凸面の作製方法は、上述した各方法に限定されず、基材の表面形状を変化させうる様々な手法を採用することができる。
【0080】
また、上記実施形態では基材としてアルミニウム製板材を用いる構成を例示したが、アルミニウム製板材以外にも銅板や鉄板など、様々な金属やそれらの酸化物を用いることができる。また、基材は金属に限定されず、例えば樹脂で形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10…撥水性基材
11…基部
12…突起(凹凸部)
13…疎水性被膜
100…熱交換器
111…チューブ
112…フィン
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水性を有する撥水性基材、この撥水性基材を備える熱交換器、及び撥水性基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に撥水性を与えるために、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。特許文献1によれば、ジオール類の混在量が溶液中のすべての金属アルコキシドの合計固形分に対し0.5〜30wt%であるコーティング溶液をガラス基板表面に被覆し、加熱焼成して微細な凹凸状表層を有するゾルゲル膜を形成し、このゾルゲル膜上に撥水膜層を被覆形成することで、耐摩耗性及び耐光性能を向上して長期的に撥水性能を発揮するガラスを提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−281132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の撥水性を有するガラスは、ガラス表面に滴下された水滴等をその表面から滑らせる場合には、水滴等の滑落させることにおいて良好な性能を発揮し得る。しかしながら、特許文献1に記載のガラスでは、低温流体に触れる場合、例えば、当該ガラスによって構成された伝熱管の内部を低温の熱媒体が流れるときに伝熱管の表面に凝縮水が発生する場合には、凝縮水を良好な撥水することができないという問題があった。例えば、特許文献1に記載の技術では、ガラスに形成される撥水膜層の凹凸部において各凹部内で発生する凝縮水が互いに繋がり大きな水の膜となって形成されていくため、撥水膜層の表面が広く濡れるようになる。したがって、凝縮水の良好な撥水性が得られず、凝縮水を滑落させ難いものとなっていた。
【0005】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する撥水性基材、この撥水性基材を備える熱交換器、及び撥水性基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、下記の技術的手段を採用することができる。すなわち、請求項1は、表面に疎水性を有する基材からなる撥水性基材に係る発明であって、
基材の表面には、多数の凹凸部が形成されており、
凹凸部には、疎水性被膜が形成されていることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、疎水性被膜が形成される凹凸部により、基材表面に発生する凝縮水を基材表面に付着する状態から浮き上がらせるため、凹部に停滞する状態を回避できる。このように、凹部の外に押し出された水滴を外部からの力、例えば風圧等によって容易に移動させて除去することができる。また、凹部に停滞する状態を回避できるため、従来の基材に見られるように隣り合う凹部のそれぞれに溜まった凝縮水が凹部の外で互いに繋がり、大きな水の膜となって形成されることを防止することもできる。したがって、基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する撥水性基材を提供できる。
【0008】
請求項2によると、請求項1に記載の撥水性基材の凹凸部は、凹部断面の幅寸法が75nm〜100nmの範囲のものを含むように形成されることを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、隣り合う凸部間に上記幅寸法を満たす凹部が形成されることにより、凹部に発生した凝縮水は、水滴の成長とともに凸部の底部側から先端側に向けて押し出されるようになる。このように、凹部の外に押し出された水滴を外部からの力、例えば風圧等によって、さらに容易に移動させることができる。また、凹部に停滞する状態を回避できるため、従来の基材に見られるように隣り合う凹部のそれぞれに溜まった凝縮水が凹部の外で互いに繋がり、大きな水の膜となって形成されることを確実に防止することもできる。したがって、基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する撥水性基材を提供できる。
【0010】
請求項6の熱交換器に係る発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の撥水性基材を、内部に冷媒が流れるチューブまたは当該チューブと一体に設けられるフィンを形成する部材に用いることを特徴とする。この発明によれば、フィンやチューブに形成された撥水性基材により、凹部に発生した凝縮水は、水滴の成長とともに凸部の底部側から先端側に向けて押し出されるようになり、凹部に停滞する状態を回避するこことができる。したがって、基材の表面に発生する凝縮水に対して、良好な撥水性能を発揮する熱交換器を提供できる。さらに、このような熱交換器によれば、凝縮水の凍結を抑止することができるので、熱交換器の本来機能を継続的に発揮できる状態を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る疎水性被膜が形成された撥水性基材の一部を示す模式図である。
【図2】第1実施形態の撥水性基材において、凝縮水が発生した際の撥水作用を説明するための模式図である。
【図3】第2工程後の基材の表面形状を走査型電子顕微鏡で撮影した拡大写真である。
【図4】基材表面と単分子膜との結合状態を説明するための図である。
【図5】FAS17を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図6】ODSを含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図7】C3を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図8】C6を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図9】C10を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図10】C12を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図11】FAS3を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図12】FAS13を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた撥水性基材について、流水試験を行った場合の水滴の接触角の変化を示したグラフである。
【図13】第1実施形態の撥水性基材で形成されるフィンまたはチューブを備える熱交換器の斜視図である。
【図14】図13の熱交換器について着霜、除霜を繰り返したときの着霜時間を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
以下、本発明を適用する第1実施形態について図1〜図14を参照して説明する。図1は第1実施形態に係る疎水性被膜が形成された撥水性基材10の一部を示す模式図である。図2(a)〜(c)は、撥水性基材10において、凝縮水が発生した際の撥水作用を説明するための模式図である。
【0013】
図1及び図2に記載する撥水性基材10は、本発明に係る撥水性基材の一例であり、この形態のみに限定されるものではない。図1に示すように、撥水性基材10は、基部11の表面から突出する無数の突起12を備えている。突起12は、基部11の表面からの突出高さがHである花弁状構造となっている。無数の突起12は、撥水性基材10に形成される花弁構造を構成し、撥水性基材10の表面に凹凸面を形成する。
【0014】
隣り合う突起12は、所定の範囲に含まれる寸法D離れている。すなわち、隣り合う突起12間には、凹部が形成され、この凹部は、その断面が75nm〜100nmの範囲に含まれる幅寸法Dとなるように形成されている。幅寸法Dは、隣り合う突起12の根元部間の距離でもある。突起12は、基部11の表面に形成される凸部を形成し、その断面が厚み寸法Pとなるように形成されている。さらに突起12の太さに相当する厚み寸法Pは、凹部の幅寸法D以下に設定されている。
【0015】
なお、図1は、撥水性基材10の表面における詳細な構造を理解しやすくするために、模式的に表した図であり、実際の構造よりも単純化して示している。例えば、隣り合う突起12の先端側は互いに交差したり重なったりする場合があり、突起12は基部11からまっすぐに延びずに、湾曲するように延びたり、折曲がって延びたりする場合がある。
【0016】
図1に示すように、突起12及び基部11の表面には、疎水性被膜13によって無数の毛状部が形成されている。疎水性被膜13は、例えばフッ素系の膜剤であり、基材表面に発生する凝縮水を表面に付着する状態から浮き上がらせ、例えば風圧等によって容易に表面から取り除くことができる超撥水性の被膜を構成する。ここでいう疎水性とは、基材表面に風等の外力が作用した場合に基材表面上の水が移動可能な程度に、基材表面において水を浮き上がらせることができる性質のことであり、疎水性被膜とはこのような性質をもつ被膜のことである。
【0017】
撥水性基材10が有する疎水性被膜13は、花弁状構造を備える凹凸部の表面に存在し、水滴を浮き上がらせる作用を奏する疎水膜により形成される。疎水膜は、フッ素系の膜剤の一例である長鎖フッ化炭素鎖、長鎖アルキル鎖等を有する有機シランとして、例えば、長鎖フッ化炭素鎖CF3(CF2)7−を有するフッ化アルキルシランCF3(CF2)7CH2CH2Si(OCH3)3が撥水性基材10の一例としてのアルミニウム表面と反応、化学結合して薄膜を形成する。また、フッ化アルキルシランは、下記の構造を有するフッ化アルキルシラン基を含むことが好ましい。
CF3(CF2)nCH2CH2−Si(OR)3
RはCH3、C2H5、CH2CH2CH3である。なお、n=3〜9である。
【0018】
このように疎水性被膜が形成された撥水性基材10の表面形状を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した拡大写真を図3に示す。なお、これらの電子顕微鏡写真ではアルキル鎖は観察されていない。
【0019】
次に、撥水性基材10に凝縮水が発生したときの撥水効果について説明する。例えば、撥水性基材10の表面において空気が冷却されて凝縮水が生じると、図2(a)に示すように、凝縮水が集まった水滴20が突起12間の凹部に形成される疎水性被膜13の表面に発生する。さらに凝縮水が発生すると、図2(b)に示すように、水滴20は大きくなって凹部全体を埋めるように広がる水滴21となる。そして、凹部を埋め尽くす水滴21は、図2(c)に示すように、突起12の上方にせり出し、図2(c)に示す水滴22のように、表面張力で球状になり、突起12の表面の疎水性被膜13上に軽く乗ったような状態となる。この状態の遷移は、図2(c)の状態の水滴22に関する表面エネルギーが図2(b)の状態の水滴21に関する表面エネルギーよりも小さく、水滴の状態は表面エネルギーが小さくなる方向に遷移する傾向にあるから、とも考えられる。
【0020】
この状態では、水滴22は、まだ小さく、撥水性基材10の表面における疎水性被膜13が形成されていない部分において、または表面に存在する例えば水酸基の有する極性の影響等により、撥水性基材10の表面にある程度の吸引力で引き付けられることになり、撥水性基材10の表面から滑落しにくい状態に維持されている。
【0021】
さらに、図2(c)に示す状態からさらに凝縮水が発生すると、図2(c)の水滴22はさらに大きくなって突起12の外で複数の突起12にまたがるように大きくせり出し、表面張力でさらに大きな球状の水滴23(図1に図示)になり、複数の突起12の表面に軽く乗ったような状態となる。この状態まで水滴が大きくなると、水滴23と疎水性被膜13との接触面積が小さく、水滴23に加えられる撥水性基材10の吸引力も小さくなる。このように、凝縮水から変化した水滴23と基材表面との間には、空気層が形成されるようになる。このような状態になるため、水滴23は、風圧や振動等の外力によって撥水性基材10の表面から滑りやすくなり、容易に取り除かれるようになる。
【0022】
また、撥水性基材10上の実際の凝縮水は、突起12間に形成される凹部の複数にほぼ同時に発生するため、各凹部において上記に説明するように、それぞれの水滴が変化して突起12の外側に浮き上がる。そして、隣り合う複数の凹部にまたがる水滴が一つの水滴として複数の突起12の外側で球状に成長するようになる。
【0023】
次に、発明者らが、凹部の幅寸法Dを50nm、75nm、100nm、150nm、200nmのそれぞれに設定した試験用基材を作製し、各試験用基材について強制的に凝縮水を発生させ、その挙動を検証した結果を説明する。この試験用基材は、平板状の基材に対して、ナノインプリント加工を施し、レール状の微細な凹凸面を形成することにより作製した。なお、凸部をなす突起の厚み寸法Pは、凹部の幅寸法Dに等しくなるように作製し、突起の深さは200nmに設定した。また、平板状の試験用基材の裏面にペルチェを接合し、ペルチェ素子によって試験用基材を冷却することにより基材表面に凝縮水を強制的に発生させた。
【0024】
発明者らは、基材表面に凝縮水を発生させてから所定時間、基材表面をビデオ撮影して、水滴の変化の様子を観察したところ、幅寸法Dが50nm、150nm、200nmである各試験用基材においては、時間が経過するにつれて、基材表面上の近接する水滴同士が合体を繰り返し、その直径が大きくなっていくとともに、その形状がきれいな球状ではないことを確認した。これは、時間経過とともに大きくなった水滴が撥水効果によるものではなく、基材表面にいわゆる「濡れた状態」で存在することを示している。
【0025】
一方、幅寸法Dが75nm、100nmである各試験用基材においては、時間が経過しても、水滴が、「飛び跳ね」、「消滅」、「発生」を繰り返し、基材表面上の水滴の直径があまり変化しないことが確認できた。また、最初の凝縮水発生から9分後の状態と12分後の状態とで、基材表面上の水滴の大きさに差がなく、その形状がきれいな球状であることを確認した。これは、撥水効果により、発生する水滴が風圧等が作用すれば、容易に除去可能な状態で存在していることを示している。
【0026】
以上の試験結果からも、撥水性基材10における隣接する突起12間に形成される凹部は、その断面が75nm〜100nmの範囲に含まれる幅寸法Dとなるように形成されることが好ましいと思われる。
【0027】
次に、撥水性基材10の作製方法の例を説明する。本実施形態では、撥水性基材は、以下の第1工程〜第3工程に示す第1の方法によって作製した。
(第1工程:ベーマイト処理)
アルミニウム製板材をアセトンに浸漬して表面清浄化を行い、沸騰する純水中に5分以上、浸漬させた。次に、取り出したアルミ板を冷却後、超純水を吹きかけて洗浄し、窒素ガスを吹きかけて乾燥させた。これにより、アルミ板表面に水酸基を生成させた。なお、沸騰水中にジエタノールアミン等のアミン類を添加してもよい。ベーマイト処理は、アルミニウム製板材を水蒸気に暴露することによっても行うことができる。
【0028】
アルミ板をベーマイト化した目的は2つある。1つはベーマイト化することによりアルミ板の表面に水酸基を形成し、続く第2工程において単分子膜形成試薬と水酸基が反応し、強固な結合を形成させるためである。
【0029】
2つめはベーマイト化の過程で表面がエッチングされ、非常に微細な板状からなる花弁状構造が形成されるためである。この花弁状構造は、基材表面に対して垂直な任意の断面において、図1の符号12を付した針状構造になっている。このベーマイト処理後のアルミ板を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した像を(写真)を、図3(a),(b)に示す。花弁状構造を構成する板状構造の上端部が、このSEM像の明領域として観察されている。このSEM像からの解析結果から粗さの解析をしたところ、凹部の間隔(幅寸法)が50〜100nmとなる凹凸面を確認できた。
(第2工程:製膜処理)
ODS(octadecyltrimethoxysilane)25mMの水飽和キシレン溶液に、第1工程にて表面をベーマイト化したアルミ板を室温(20℃)で2日浸積した。
(第3工程:製膜処理の後処理)
第2工程にて製膜処理を行ったアルミ板をアセトンにて洗浄した後、80℃にて1時間乾燥させた。
【0030】
以上の工程により、アルミ板表面に、アルキル基を有するC18H37Si(O−)3の単分子膜(アルキル単分子膜)からなる撥水膜が形成された撥水性基材を作製した。なお、上記第3工程は省略することもできる。
【0031】
このように構成された撥水性基材は、図1に模式的に示す撥水性基材10の構造を有する。この撥水性基材10においては、突起12が上記第1工程により形成され、疎水性被膜13(C18H37Si(O−)3単分子膜)が上記第2工程により形成された。
【0032】
このようにして形成した撥水性基材は高い撥水性を有しており、水平面からの角度を30°に傾斜させて配置した基材に凝縮水を発生させると、凝縮水の直径が0.5mmとなったときに滑落した。
【0033】
また、本発明に係る撥水性基材では、発生する霜に対しても高い滑落性能を発揮し、基材表面に霜発生が起きる時間を遅らせることができた。
【0034】
また、撥水性基材は、以下の第2の方法によっても作成することができる。
【0035】
第2の方法では、第2工程における製膜材料を変更して撥水性基材を作製した。すなわち、まず、第1工程までは上記第1の方法と同様の工程を経たアルミ板を準備した。
(第2工程:製膜処理)
FAS17(perfluorodecyltriethoxylsilane)25mMの水飽和1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(F6xy)溶液に、第1工程にて表面をベーマイト化した基材を室温(20℃)で2日浸積した。なお、FAS17(perfluorodecyltrimethoxylsilane)を用いても同様な結果が得られる。
【0036】
上記第2工程の後、上記第1の方法の第3工程と同様の処理を行い、アルミ板表面に、フルオロアルキル基を有するC8F17C2H4Si(O−)3の単分子膜(フッ化アルキルシラン単分子膜)からなる撥水膜が形成された撥水性基材を作製した。なお、第3工程は省略することもできる。
【0037】
このようにして作成された撥水性基材は、第1の方法にて作成した撥水性基材と同等の撥水性を示した。
【0038】
また、撥水性基材は、以下の第3の方法によっても作成することができる。
【0039】
第3の方法では、以下の第1工程〜第3工程を経て撥水性基材を作製する。
(第1工程:ベーマイト化基材作製工程)
ベーマイト化基材作製工程は、アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる所定の温度の水に約5分間浸漬して、アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成する工程である。
(第2工程:FAS被覆工程)
FAS(フッ化アルキルシラン)被覆工程は、FASを含む溶液にベーマイト化基材を浸漬してベーマイト化基材にFAS被覆を形成する工程である。
(第3工程:熱処理工程)
熱処理工程は、第2工程でFAS被覆されたベーマイト化基材を、真空中または窒素雰囲気中で100℃〜300度の範囲に含まれる所定の温度に加熱する工程である。この熱処理工程では、一定温度で30分以上ベーマイト化基材を加熱する。
【0040】
また、熱処理工程は、室温における相対湿度が5%未満である低湿度雰囲気でベーマイト化基材を加熱することが好ましい。
【0041】
また、撥水性基材は、以下の第4の方法によっても作成することができる。
【0042】
第4の方法では、以下の第1工程、第2工程を経て撥水性基材を作製する。
(第1工程:ベーマイト化基材作製工程)
ベーマイト化基材作製工程は、アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる所定の温度の水に浸漬して、アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成する工程である。
(第2工程:FAS被覆工程)
FAS被覆工程は、FASを含む気体とベーマイト化基材とを接触させた状態で、100℃〜300度の範囲に含まれる所定の温度に加熱して、ベーマイト化基材にFAS被覆を形成する工程である。この第2工程は、加熱気化させたFAS蒸気にベーマイト化基材をさらす蒸気暴露工程である。
【0043】
また、第4の方法の第2工程の代わりに、FASを含む溶液にベーマイト化基材を浸漬させた状態で、還流を行うようにしてもよい。この還流工程により、ベーマイト化基材は溶媒沸点の高温にさらされる。この工程によれば、液浸漬と熱処理の両方が実施されるので、基材表面と疎水性被膜13との間に強固な結合力を構築できる。
【0044】
次に、第3の方法、第4の方法等に伴う熱処理による効果について説明する。図4に示すように、基材表面にベーマイト被覆を行う処理(ベーマイト化処理)により、疎水膜を構成する単分子膜と基材表面(基材の凹凸部の表面)との結合は、水素結合によって構成される。この水素結合は、水が基材表面に付着した場合、その状態に耐えるための結合力が強くない。したがって、水が基材表面に付着すると、水素結合間に水分子が侵入して、水素結合が破壊され、基材表面から単分子膜がまとめて剥離するようになる。
【0045】
そこで、第3の方法、第4の方法等では、さらに熱処理が実施されるため、疎水膜を構成する単分子膜と基材表面(基材の凹凸部の表面)との結合は、共有結合による強固な化学結合が支配的になる。この共有結合は、水が基材表面に付着した場合、その状態に耐え得る結合力を有する。したがって、水が基材表面に付着しても、共有結合が容易に破壊されることはなく、図4の右端に示す状態を維持することができる。
【0046】
発明者らが、いくつかの状態の基材表面(FAS17を含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた基材)に対して行った流水試験前後の水滴接触角の変化を、図5を参照して説明する。図5において、白塗りの棒グラフのそれぞれは、流水試験を行う前の接触角を示している。網掛けの棒グラフのそれぞれは、流水試験を行った後の接触角を示している。流水試験は、以下のようにして実施する。試験試料を水を入れた容器に沈め、容器の水面に毎分300mlの流水を落下して供給する。これを90時間継続した後、容器から基材を取り出し、基材表面に付着する水滴の接触角を測定する。
【0047】
左端の「加熱なし」と記載された棒グラフは、上記の熱処理を行わない基材表面上の水滴の接触角であり、接触角は流水試験後に大きく低下し、撥水効果に関して耐久性の劣化が確認された。次に、左から2番目〜5番目の「80℃」、「100℃」、「200℃」、「300℃」(すべて大気中)と記載された各棒グラフは、FAS17を含む溶液に浸漬後、大気中で、各温度で熱処理した基材表面上の水滴の接触角である。この場合も接触角は流水試験後に大きく低下し、撥水効果に関して耐久性の劣化が確認された。「300℃」で大気中にて熱処理した試料について、X線光電子分光法によって流水試験前後の試料表面の組成分析を行った結果、フッ素の原子濃度[F]とアルミニウムの原子濃度[Al]の比である[F]/[Al]が、流水試験前は2.7であったのに対して、流水試験後は0.2に減少した。この[F]/[Al]の減少は、流水試験によって基材表面からFASが脱離してFASの被覆量が減少したことを示しており、流水試験による撥水効果の劣化が上述の通りFAS膜の剥離に因ることを表している。
【0048】
次に、左から6番目〜8番目の棒グラフは、FAS17を含む溶液に浸漬後、それぞれ「100℃」、「150℃」、「200℃」で真空にて加熱した場合(第3の方法)の水滴の接触角である。この場合は、前述のパターンとは異なり、接触角は流水試験後にあまり低下せず、撥水効果に関しても耐久性の劣化が抑制されることが確認された。この撥水効果の流水に対する耐久性の向上は、ベーマイト表面とFASとの共有結合化をもたらす脱水縮合反応が、大気中においては水分(水蒸気)の存在によって阻害されるが、低湿度である真空雰囲気においては促進されたことに因るものと推定される。
【0049】
また、左から9番目〜11番目の棒グラフは、FAS17を含む溶液に浸漬後、それぞれ窒素雰囲気中(室温における相対湿度が5%未満)で「100℃」、「150℃」、「200℃」に加熱した場合の水滴の接触角である。この場合は、「加熱なし」等の前述のパターンとは異なり、接触角は流水試験後にあまり低下せず、撥水効果に関しても耐久性の劣化が抑制されることが確認された。窒素雰囲気中での熱処理を用いた場合には、蒸気暴露工程よりも優れた耐久性が得られる。特に処理温度150℃の場合は流水試験後でも水滴接触角が150度を超えており、超撥水性が維持されており、撥水効果の劣化が最も抑制され、流水に対する耐久性が最も良好な膜ができる。
【0050】
窒素雰囲気を用いた場合も、前述の真空雰囲気を用いた場合と同様に、雰囲気中の水分が少なかったため、脱水縮合反応が促進されたと推定される。さらに、窒素雰囲気を用いた場合に前述の真空雰囲気を用いた場合よりも流水に対する耐久性が良好な膜が得られたのは、真空雰囲気を用いた場合には熱処理前の真空引き時あるいは熱処理時の真空雰囲気中にて少量のFAS分子がベーマイトから脱着し膜密度の低い欠陥部位が形成されたのに対して、窒素雰囲気中ではFAS分子の脱着量がより少なく欠陥部位が少なかったことに因ると推定される。窒素雰囲気中のみならず、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス、水素等のガス雰囲気中においても、水分量が少ない低湿度雰囲気中であれば、同様の効果を得ることができる。
【0051】
最後に、右端の棒グラフは、「150℃」で蒸気暴露した場合(第4の方法)の水滴の接触角であり、この場合も、接触角は流水試験後にあまり低下せず、撥水効果に関しても耐久性の劣化が抑制されることが確認された。この結果は、前述したように、疎水膜を構成する単分子膜と基材表面(基材の凹凸部の表面)との間に構築された共有結合によるものと考えられる。
【0052】
さらに発明者らが、いくつかの状態の基材表面(ODSを含む溶液を用いた被覆工程を経て得られた基材)に対して行った流水試験前後の水滴接触角の変化を、図6を参照して説明する。図6においても、上述した図5に示す接触角の変化と同様に結果が確認できる。
【0053】
また、撥水性基材は、以下の第5の方法によっても作成することができる。
【0054】
第5の方法では、以下の第1工程〜第3工程を経て撥水性基材を作製する。
(第1工程:ベーマイト化基材作製工程)
ベーマイト化基材作製工程は、アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる所定の温度の水に約5分間浸漬して、アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成する工程である。
(第2工程:アルキルシラン被覆工程)
アルキルシラン被覆工程は、アルコキシアルキルシランを含む溶液にベーマイト化基材を浸漬してベーマイト化基材にアルキルシラン被覆を形成する工程である。
【0055】
具体的なアルコキシアルキルシランとしてはpropyltrimethoxysirane(本願ではC3と略称する)、hexyltrimethoxysirane(本願ではC6と略称する)、decyltrimethoxysirane(本願ではC10と略称する)、dodecyltrimethoxysirane(本願ではC12と略称する)の5mM水飽和キシレン溶液に第1工程にて表面をベーマイト化したアルミ板を室温(20℃)で2日浸積した。
(第3工程:熱処理工程)
熱処理工程は、第2工程でアルキルシラン被覆されたベーマイト化基材を、真空中または窒素雰囲気中で100℃〜300℃の範囲に含まれる所定の温度に加熱する工程である。この熱処理工程では、一定温度で30分以上ベーマイト化基材を加熱した。
【0056】
このようにして作製したアルキルシラン被膜撥水膜の初期接触角を測定後、前記の流水試験を行い、その接触角を測定した。それぞれのアルキルシラン被膜撥水膜の流水試験前後の接触角変化を図7、図8、図9、図10に示す。いずれもFAS17、ODSの例と同じく真空中熱処理、窒素中熱処理での流水試験後の接触角低下が少なくなり向上が認められた。
【0057】
また、撥水性基材は、以下の第6の方法によっても作成することができる。
【0058】
第6の方法では、以下の第1工程〜第3工程を経て撥水性基材を作製する。
(第1工程:ベーマイト化基材作製工程)
ベーマイト化基材作製工程は、アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる所定の温度の水に約5分間浸漬して、アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成する工程である。
(第2工程:FAS被覆工程)
FAS(フッ化アルキルシラン)被覆工程は、FASを含む溶液にベーマイト化基材を浸漬してベーマイト化基材にFAS被覆を形成する工程である。具体的なFASとしてはperfluorooctyltrimethoxylsilane(C6F13C2H2Si(OCH3)3、本願ではFAS13と略称する)、perfluorhexyltrimethoxylsilane(C4F9C2H2Si(OCH3)3、本願ではFAS9と略称する)の25mM水飽和水飽和1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン(F6xy)溶液に第1工程にて表面をベーマイト化したアルミ板を室温(20℃)で2日浸積した。
(第3工程:熱処理工程)
熱処理工程は、第2工程でFAS被覆されたベーマイト化基材を、真空中または窒素雰囲気中で100℃〜300℃の範囲に含まれる所定の温度に加熱する工程である。この熱処理工程では、一定温度で30分以上ベーマイト化基材を加熱した。
【0059】
このようにして作製したアルキルシラン被膜撥水膜の初期接触角を測定後、前述の流水試験を行い、その接触角を測定した。それぞれのアルキルシラン被膜撥水膜の流水試験前後の接触角変化を図11、図12に示す。いずれもFAS17、ODSの例と同じく真空中熱処理、窒素中熱処理での流水試験後の接触角低下が少なくなり向上が認められた。
【0060】
溶液浸漬の後に窒素中熱処理を施した場合には、水との振盪によって予めアルコキシシラン基を加水分解してシラノール基に変化させてから用いているため、熱処理時に水分を導入する必要がない。したがって、蒸気暴露工程よりも脱水縮合反応を促進させることが可能である。以上から、溶液浸漬工程の後、窒素雰囲気中にて150℃で熱処理を施した場合には、蒸気暴露工程を用いた場合よりも、流水試験による撥水性の劣化が少ない、高い耐久性を有する膜を作製することができる。また、本願の溶液浸漬工程、及び窒素雰囲気中での熱処理工程は、高圧条件に耐え得る反応容器が必要な蒸気処理工程に対して、装置及び工程がより簡易であるため生産上有用である。
【0061】
次に、撥水性基材10を適用した熱交換器100について説明する。図13は、撥水性基材10で形成されるフィンまたはチューブを備える熱交換器100の斜視図である。熱交換器100は、例えば、車両用空調装置の冷凍サイクルにおいて空調用空気を冷却する蒸発器に適用することができる。
【0062】
熱交換器100は、図13に示すように、熱交換コア部110と、この熱交換コア部110に接続される一対のヘッダタンク120とを備えている。熱交換コア部110は、複数積層される断面扁平状のチューブ111と、各チューブ111の間に介在され、チューブ111に一体に設けられる波形のフィン112とを備えている。チューブ111は、内部を熱媒体としての冷媒が流通する管部材であり、各チューブ111の両先端部は、一対のヘッダタンク120内部にそれぞれ連通するように接続されている。また、フィン112は、薄肉の帯板材から波状に形成されて伝熱面を形成する伝熱部材であり、チューブ111にろう付け等により一体に接合されている。チューブ111及びフィン112の少なくとも一方は、撥水性基材10を用いて形成されている。
【0063】
熱交換器100においては、冷凍サイクル内で減圧されて低温低圧となった冷媒が複数のチューブ111内を流通し、空調用空気が各チューブ111の外側および各フィン112の周囲を通過し、冷媒によって冷却されるようになっている。空調用空気が冷却される際に、空調用空気の温度が空気中に含まれる水蒸気の露点温度を下回ると、水蒸気は凝縮水となって熱交換コア部110のチューブ111及びフィン112の表面に付着する。この凝縮水の付着状態が続くと、熱交換コア部110を通過する空調空気の通気抵抗が増加し、凝縮水による熱抵抗が上昇するため、熱交換器100における熱交換性能が低下する。さらには、凝縮水は、凍結温度以下となると凍結して熱交換コア部110の表面に霜となって付着することになる。
【0064】
そこで熱交換器100は、チューブ111及びフィン112の少なくとも一方が撥水性基材10によって形成されているため、撥水性基材10で形成された部材に付着した凝縮水は、前述した撥水作用により、凹凸部の表面から浮き上がり、複数の突起12をまたがるような大きな水滴23となって、当該部材の表面に存在する(図1参照)。この状態で、空調用空気が熱交換コア部110を通過しようとすると、その風圧によって、水滴23は押し流されるので、熱交換コア部110から速やかに取り除かれることになる。このように凝縮水が発生した場合でも、凝縮水は撥水性基材10の表面に長く留まらないため、チューブ111内を流れる低温冷媒によって冷やされても熱交換器のフロストを回避できるのである。
【0065】
次に、発明者らが、本実施形態に係る熱交換器(本実施形態品)と、従来の熱交換器(従来品)とについて、フロスト抑制効果の検証を行った比較実験の結果を説明する。図14は、熱交換器100及び従来の熱交換器において、着霜、除霜を繰り返した試験を実施したときの着霜時間を示したグラフである。図14(a)は本実施形態品、(b)は従来品における試験結果を示す。本実施形態品は、フィン表面に疎水性被膜13を備ええ、従来品は、フィン表面に従来から知られる親水性の被膜を備え、本実施形態における疎水性被膜13を備えないものである。
【0066】
実験条件は、
・着霜運転時において、
空気側条件として
乾球温度=2±0.3℃、湿球温度=1±0.3℃、
前面風速=0.8±0.01m/s、
冷媒側条件として
冷媒入口温度=−7.4±0.6℃、冷媒流量=10±0.5L/MIN、
・除霜運転時において、
空気側条件として
前面風速=0m/s、
冷媒側条件として
冷媒入口温度=13±2℃、冷媒流量=2±0.5L/MIN、
・試験サイクル
着霜条件で熱交換器の通風抵抗が100Paまで上昇した時点で終了し、除霜運転6分とし、
以下、繰り返すものとしとした。
【0067】
本実施形態品では、従来品に対して凝縮水の除去を促進できるので、凝縮水が熱交換コア部110に停滞し難い。したがって、本実施形態品は、従来品に比べ、着霜して熱交換コア部110の通風抵抗が所定値(ここでは、100Pa)に達するまでの時間を大きく低減することができる。
【0068】
以下に、第1実施形態がもたらす作用効果を説明する。第1実施形態によれば、撥水性基材10は、表面に疎水性を有する基材からなる。当該基材の表面には、多数の突起12を含む凹凸部が形成されている。凹凸部は、凹部の断面が75nm〜100nmの範囲に含まれる幅寸法Dとなるように形成されている。
【0069】
上記幅寸法Dを満たさない従来の基材表面に凝縮水が発生するような条件下においては、凝縮水は、凹凸部の凹部底面に発生して、当該箇所に停滞し、凹部底面に長く接触する状態になることがある。この場合、凝縮水は、凹部底面から引き続き冷却されるため、凍結することがある。凍結すると、基材表面での熱交換作用が低下することになり、本来の機能を発揮できない状態になる。
【0070】
そこで、撥水性基材10の構成によれば、隣り合う突起12間が上記幅寸法Dを満たすことにより、凹凸部の凹部底面に発生した凝縮水は、水滴の成長とともに突起12の底部側から先端側に向けて押し出されるようになり、凹部に停滞し続けない。したがって、凹部の外に押し出された水滴は、外部からの力、例えば風圧等によって、容易に移動して除去することができる。また、凹部底面に発生した凝縮水が突起12の底部側から先端側に向けて押し出される作用によって、従来の基材に見られるように隣り合う凹部のそれぞれに溜まった凝縮水が凹部の外側で互いに繋がり、大きな水の膜となって形成されることを防止することができる。
【0071】
また、疎水性被膜13は、針状構造が形成される凹凸面をFAS17またはフッ化アルキルシランで覆う膜により形成される。このようにFAS17またはフッ化アルキルシランで覆われる疎水性被膜が形成されていることにより、針状構造を有する凹凸面とフッ化アルキルシランの疎水性とを併せ持つ接触面の形成により、凝縮水を基材表面から滑落させる効果を高めることができる。
【0072】
また、撥水性基材10の凹凸部の表面と疎水性被膜13は、共有結合によって結合されている。これによれば、凹凸部の表面と疎水性被膜13との間に強固な結合力を構築できるため、耐久性に優れた基材表面を提供できる。
【0073】
また、撥水性基材10の凹凸部には、ベーマイトが被覆されている。これによれば、撥水性基材10の表面には、AlOOHまたはAl2O3・H2Oの組成で示されるアルミナ1水和物であるベーマイトが被覆されているため、化学的安定性が高い基材表面を提供できる。
【0074】
また、撥水性基材10は、熱交換器100のチューブ111またはフィン112を形成する部材として用いられる。この構成によれば、チューブ111の表面またはフィン112の表面に突起12、さらには疎水性被膜13が形成されることになり、熱交換器100の発生する凝縮水を風圧等によって各部の表面から容易に取り除くことができるので、凝縮水の凍結回避、凍結による通風抵抗増加の防止が図れ、熱交換器100の機能を確実に発揮させることができる。したがって、熱交換器100の性能維持、寿命確保等に貢献することができる。
【0075】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。上記実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
【0076】
上記実施形態においては、撥水性基材10の表面には、多数の突起12によって構成される針状構造による凹凸部が形成されている。さらに撥水性基材10には、多数の突起12が突出する基部11に、針状構造による凹凸部よりも大きな寸法の第1の凹凸部が形成されていてもよい。この場合、針状構造による凹凸部は第2の凹凸部と定義し、第1の凹凸部の表面に第2の凹凸部が形成されることになる。なお、第1の凹凸部は、上記の第1の方法〜第4の方法における第1工程の前に、予めアルミニウム製板材の表面に形成すればよい。
【0077】
また、上記実施形態においては、疎水性被膜として、ODS,FAS17等を用いて単分子膜を形成したが、それら以外の試薬で単分子膜を形成してもよいし、単分子膜以外の疎水性被膜を形成してもよい。また、単分子膜の構造中に親水性を示す官能基は極力除外することが望ましい。なお、疎水性被膜として、アルキル基、フルオロアルキル基のような疎水性の官能基が含まれていると高い疎水性を発現させることができる。
【0078】
また、上記実施形態に記載の第3の方法の変形例としては、熱処理を施した場合に比べて基材表面と単分子膜との結合強度は低下するが、第3工程(熱処理工程)の代わりに、FAS被覆されたベーマイト化基材を、時間をかけて常温で自然乾燥するようにしてもよい。
【0079】
また、凹凸面の作製方法は、上述した各方法に限定されず、基材の表面形状を変化させうる様々な手法を採用することができる。
【0080】
また、上記実施形態では基材としてアルミニウム製板材を用いる構成を例示したが、アルミニウム製板材以外にも銅板や鉄板など、様々な金属やそれらの酸化物を用いることができる。また、基材は金属に限定されず、例えば樹脂で形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10…撥水性基材
11…基部
12…突起(凹凸部)
13…疎水性被膜
100…熱交換器
111…チューブ
112…フィン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に疎水性を有する基材からなる撥水性基材であって、
前記基材の表面には、多数の凹凸部が形成されており、
前記凹凸部には、疎水性被膜が形成されていることを特徴とする撥水性基材。
【請求項2】
前記凹凸部は、凹部断面の幅寸法が75nm〜100nmの範囲のものを含むように形成されることを特徴とする請求項1に記載の撥水性基材。
【請求項3】
前記疎水性被膜は、アルキルシランまたはフッ化アルキルシランからなる分子膜によって構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の撥水性基材。
【請求項4】
前記凹凸部の表面と前記疎水性被膜は、共有結合によって結合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の撥水性基材。
【請求項5】
前記凹凸部は、アルミ酸化物であるベーマイトで構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の撥水性基材。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の撥水性基材を、内部に冷媒が流れるチューブまたは当該チューブと一体に設けられるフィンを形成する部材に用いることを特徴とする熱交換器。
【請求項7】
アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる温度の水あるいは水蒸気に接触させて、前記アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成するベーマイト化基材作製工程と、
アルキルシランまたはフッ化アルキルシランを含む溶液に前記ベーマイト化基材を浸漬して前記ベーマイト化基材にアルキルシランまたはフッ化アルキルシラン被覆を形成する被覆工程と、
前記アルキルシランまたはフッ化アルキルシラン被覆された前記ベーマイト化基材を100℃〜300℃の範囲に含まれる温度に加熱する熱処理工程と、を有することを特徴とする撥水性基材の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理工程は、室温における相対湿度が5%未満である低湿度雰囲気で前記ベーマイト化基材を前記加熱することを特徴とする請求項7に記載の撥水性基材の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程は、窒素雰囲気、不活性ガス雰囲気、または真空雰囲気で前記ベーマイト化基材を前記加熱することを特徴とする請求項7に記載の撥水性基材の製造方法。
【請求項10】
アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる温度の水あるいは水蒸気に接触させて、前記アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成するベーマイト化基材作製工程と、
アルキルシランまたはフッ化アルキルシランを含む気体と前記ベーマイト化基材とを接触させながら、100℃〜300℃の範囲に含まれる温度に加熱して、前記ベーマイト化基材に被覆を形成する被覆工程と、を有することを特徴とする撥水性基材の製造方法。
【請求項1】
表面に疎水性を有する基材からなる撥水性基材であって、
前記基材の表面には、多数の凹凸部が形成されており、
前記凹凸部には、疎水性被膜が形成されていることを特徴とする撥水性基材。
【請求項2】
前記凹凸部は、凹部断面の幅寸法が75nm〜100nmの範囲のものを含むように形成されることを特徴とする請求項1に記載の撥水性基材。
【請求項3】
前記疎水性被膜は、アルキルシランまたはフッ化アルキルシランからなる分子膜によって構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の撥水性基材。
【請求項4】
前記凹凸部の表面と前記疎水性被膜は、共有結合によって結合されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の撥水性基材。
【請求項5】
前記凹凸部は、アルミ酸化物であるベーマイトで構成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の撥水性基材。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の撥水性基材を、内部に冷媒が流れるチューブまたは当該チューブと一体に設けられるフィンを形成する部材に用いることを特徴とする熱交換器。
【請求項7】
アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる温度の水あるいは水蒸気に接触させて、前記アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成するベーマイト化基材作製工程と、
アルキルシランまたはフッ化アルキルシランを含む溶液に前記ベーマイト化基材を浸漬して前記ベーマイト化基材にアルキルシランまたはフッ化アルキルシラン被覆を形成する被覆工程と、
前記アルキルシランまたはフッ化アルキルシラン被覆された前記ベーマイト化基材を100℃〜300℃の範囲に含まれる温度に加熱する熱処理工程と、を有することを特徴とする撥水性基材の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理工程は、室温における相対湿度が5%未満である低湿度雰囲気で前記ベーマイト化基材を前記加熱することを特徴とする請求項7に記載の撥水性基材の製造方法。
【請求項9】
前記熱処理工程は、窒素雰囲気、不活性ガス雰囲気、または真空雰囲気で前記ベーマイト化基材を前記加熱することを特徴とする請求項7に記載の撥水性基材の製造方法。
【請求項10】
アルミニウム製基材を80℃〜200℃の範囲に含まれる温度の水あるいは水蒸気に接触させて、前記アルミニウム製基材の表面にベーマイトを形成するベーマイト化基材作製工程と、
アルキルシランまたはフッ化アルキルシランを含む気体と前記ベーマイト化基材とを接触させながら、100℃〜300℃の範囲に含まれる温度に加熱して、前記ベーマイト化基材に被覆を形成する被覆工程と、を有することを特徴とする撥水性基材の製造方法。
【図1】
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【図2】
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【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図3】
【公開番号】特開2013−36733(P2013−36733A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−156769(P2012−156769)
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
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