説明

撥水撥油性包装用材料及びその製造方法

【課題】パーフロロオクタン酸を含まない環境対応型フッ素系撥水撥油剤が開発されているが、このフッ素系撥水撥油剤は、撥油性能が低下し、脱酸素剤の包装紙等で新たな問題となっている。パーフロロオクタン酸を含まない環境対応型フッ素系撥水撥油剤を使用し、キット法による撥油度試験でキットナンバー10以上の撥油性能を有する撥水撥油紙を提供する。
【解決手段】紙基材の表面に、イソシアネート系の硬化剤を原液に対して1〜8重量%添加したウレタン系又は塩化酢酸ビニール系のインキをグラビア印刷、フレキソ印刷又はオフセット印刷の何れかを適用してコーティングし、次いで、パーフロロオクタン酸を含まない環境対応型フッ素系撥水撥油剤を、グラビア印刷を適用してコーティングし、二層コーティングすることで解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の鮮度保持のため、食品と共包される脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤の包装用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に繊維、紙、不織布、皮革等に撥水撥油性能を付与する場合、フッ素系撥水撥油剤(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照。)が利用されている。そして、撥水撥油性能が必要な紙の製造には、抄紙工程でフッ素系撥水撥油剤を練りこむ内添加法、紙基材をフッ素系撥水撥油剤とポリビニールアルコールを混合してサイズプレスで浸透させる浸透法(例えば、特許文献2参照。)、紙基材表面にフッ素系撥水撥油剤をグラビア印刷するコーティング法等が知られている。
【0003】
食品の鮮度保持のための脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤の包装用材料は、前記の方法で、通気性紙基材である紙繊維の表面に、液体の表面張力より小さい表面張力を有するパーフロロアルキル酸をコーティングすることで、紙に撥水撥油性能を付与したものである。また、フッ素系素材に替わる撥水撥油剤として、アクリル樹脂、スチレン・ブタジエン共重合体及びポリエステルを含有する撥水撥油紙(例えば、特許文献3参照。)等が開示されている。
【0004】
近年、フッ素系撥水撥油剤に含まれるパーフロロオクタン酸等パーフロロアルキル基の炭素数が7個以上のパーフロロカルボン酸の人体への影響を懸念する指摘があり、パーフロロオクタン酸を含まない環境対応型フッ素系撥水撥油剤が開発されている。この環境対応型フッ素系撥水撥油剤は、パーフロロアルキル基の炭素数を5以下としたパーフロロカルボン酸であり、コーティング層中のフッ素含有量が低下することに起因した表面張力の増大により、前記の従来処理方法ではキット法による撥油度試験(JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.41)で、キットナンバー10以上の撥油性能が出ないという新たな問題が生起している。
【0005】
【非特許文献1】紙パルプ技術タイムス第49巻(2006)第8号
【特許文献1】特開平10−291570号公報
【特許文献2】特開2007−154369号公報
【特許文献3】特開2004−76189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来使用されているフッ素系撥水撥油剤には微量のパーフロロオクタン酸が含まれているが、このパーフロロオクタン酸は化学的にきわめて安定な物質であり、自然界では分解されず、人体への影響を懸念する指摘がある。この問題を解決するために、パーフロロオクタン酸を含まない環境対応型フッ素系撥水撥油剤として、パーフロロアルキル基の炭素数が5以下のパーフロロカルボン酸を含むものが開発されている。しかしながら、パーフロロオクタン酸を含まない低分子量化した環境対応型フッ素系撥水撥油剤を用いて、前記の従来法による撥水撥油処理を行なった場合、撥水性能や通気性には問題がないものの、キット法による撥油度試験で、キットナンバー10以上の撥油性能が出ないという新たな問題が生起している。
【0007】
本発明は、通気性紙基材にパーフロロオクタン酸を含まない環境対応型フッ素系撥水撥油剤を使用した場合であっても、紙基材表面にキット法による撥油度試験でキットナンバー10以上の撥油性能を有する、食品と共包される脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤の包装用材料を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、鋭意研究の結果、従来の撥水撥油剤の単層コーティング法ではなく、前処理としてウレタン系又は塩化酢酸ビニール系の透明インキをコーティングする撥水撥油性包装用材料を発明するに至った。すなわち、第1次加工として通気性紙基材の表面に、イソシアネート系の硬化剤を原液に対して1〜8%添加したウレタン系又は塩化酢酸ビニール系の透明インキをグラビア印刷、フレキソ印刷又はオフセット印刷の何れかを適用してコーティングし、次いで第2次加工として、パーフロロオクタン酸を含まない環境対応型フッ素系撥水撥油剤をグラビア印刷、サイズプレスコーティング又はディッピングの何れかを適用してコーティングし、紙基材にウレタン系又は塩化酢酸ビニール系の透明インキと環境対応型フッ素系撥水撥油剤とを2層コーティングすることで解決した。
【発明の効果】
【0009】
本発明の撥水撥油性包装用材料は前記方法を用いた場合、環境対応型フッ素系撥水撥水油処理剤の表面張力性能に加え、イソシアネート系硬化剤で架橋反応させたウレタン系又は塩化酢酸ビニール系の透明インキの耐溶剤性との相乗効果により溶剤成分の浸透を抑える効果が増し、キット法による撥油度試験でキットナンバー10以上の高い撥油性能及び高い撥水性能を通気性紙基材に付与できる。
【0010】
また、通気性紙基材の加工面にはフッ素濃度が高い層ができ、加工面の反対面には浸透により一部のフッ素系撥水撥油剤が拡散して撥水撥油性能が生起しているものの、撥水撥油性能は弱く、加工面の反対面に関しては、従来の加工方法より容易に貼り合わせ等の2次的な加工が容易になるという利点も有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、前記のパーフロロオクタン酸を含まない環境対応型フッ素系撥水撥油剤の特に撥油性能の低下の問題を解決するものであり、以下実施するための最良の形態を説明する。
【0012】
本発明の脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤用包装用材料の構造を図1に示す。通気性紙基材1の片側加工面にウレタン系又は塩化酢酸ビニール系の透明インキを、グラビア印刷、フレキソ印刷又はオフセット印刷の何れかを適用してコーティングし、硬化のためのエージングを行なった後、フッ素系撥水撥油剤をグラビア印刷、サイズプレスコーティング又はディッピングの何れかを適用してコーティングする二層コーティングにより、コーティング膜厚が薄くしても高い撥水撥油性能を有することを可能にした。
【0013】
通気性紙基材1は、通常紙の鏡面側に注意書等の文字印刷されており、コーティング処理はこの鏡面側に、文字が読み取れるように透明樹脂を用いて行なう。
【0014】
コーティングするウレタン系又は塩化酢酸ビニール系透明インキは、原液に対して1〜8重量%のイソシアネート系の硬化剤を添加し、このイソシアネート系硬化剤を添加したウレタン系又は塩化酢酸ビニール系インキに対して重量比1:1の割合で溶剤希釈してコーティング液とする。コーティングには、グラビア印刷、フレキソ印刷又はオフセット印刷の何れかを適用し、ラインスピード50〜200m/分、乾燥温度50〜180℃の条件で行なう。
【0015】
通気性紙基材1にウレタン系又は塩化酢酸ビニール系透明インキをコーティング、乾燥した後、8hr以上自然環境下に放置してエージングする。この間ウレタン系又は塩化酢酸ビニール系透明インキはイソシアネート系硬化剤による架橋反応が進行し、硬化する。ウレタン系又は塩化酢酸ビニール系透明インキ原液に対してイソシアネート系硬化剤の添加量が1%未満では硬化反応が不足し、十分な塗膜物性が得られない。又8%を超えると硬化反応が早すぎて未反応硬化剤の含有量が多くなるため、ブロッキング現象等の問題が発生する。従って、コーティングするウレタン系又は塩化酢酸ビニール系透明インキは、原液に対して1〜8重量%のイソシアネート系の硬化剤を添加し、気温等気候の変化に応じ、硬化安定化のためのエージングが8hr以上となるように調製する。
【0016】
次いで、エージングが完了したウレタン系又は塩化酢酸ビニール系透明インキ層2の上に重ねて、フッ素系撥水撥油剤を、グラビア印刷を適用してコーティングする。
【0017】
フッ素系撥水撥油剤は原液に対して消泡剤を0.01〜0.1%の範囲で添加し、この混合液を重量比1:9の割合で無水エタノールにより希釈しコーティング液とする。フッ素系撥水撥油剤のコーティングは、グラビア印刷を適用し、ラインスピード50〜200m/分、乾燥温度は80〜200℃の条件で行なう。
【0018】
フッ素系撥水撥油剤のコーティング後は、20〜70℃に保たれた室で約21日間安定化のためのエージング処理を行ない、食品の鮮度保持のための脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤の包装用材料が完成する。このエージングが14日未満ではキット法による撥油度試験で、キットナンバー10以上の撥油性能が得られない。また、撥油性能は約21日で飽和する。
【0019】
前記の撥水撥油性包装用材料は、非処理面に通気性を有するポリオレフィンフィルムをラミネート加工し、食品の鮮度保持のための脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤を包装して包装体が完成する。
【実施例1】
【0020】
通気性紙基材として、坪量40g/mの純白紙(洋紙)を用い、大日本インキ株式会社製エクステンダーFを含むウレタン系インキ、ユニビアAを紙基材鏡面側にグラビア印刷機で印刷コーティングし、常温で8hr及び24hrエージングした。次いで旭硝子株式会社製環境対応型フッ素系撥水撥油剤AG−E060を1kgに消泡剤として信越化学株式会社製KM−72を0.05g添加し、この混合液を無水エタノール9kgで希釈し、コーティング液とした。このコーティング液をグラビア印刷機でコーティングし、45℃で21日間エージングして食品の鮮度保持のための脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤の包装に使用する撥水撥油紙を調製した。この撥水撥油紙を、キット法による撥油度試験した結果、キットナンバー12と極めて高性能の撥油性能が確認できた。また、JISP8110、JISP8111に規定される撥水度試験(水滴下法、R8以上が合格ラインの撥水性能)でR10と高い撥水性能を確認した。更に、ガーレー透気度試験法(一定面積を空気100mlが通過する時間で示す)で6.0secの通気性が確保でき、高性能の通気性を有する撥水撥油紙の製造が可能であることを確認した。実施例を比較例とともに表1に示す。
【実施例2】
【0021】
通気性紙基材として、坪量50g/mの奉書紙(和紙)を用い、大日本インキ株式会社製塩化酢酸ビニール系インキCVL−SPを紙基材鏡面側にグラビア印刷機で印刷コーティングし、常温で24hr硬化のためのエージングを行なった。次いで旭硝子株式会社製環境対応型フッ素系撥水撥油剤AG−E060を1kgに消泡剤として信越化学株式会社製KM−72を0.05g添加し、この混合液を無水エタノール9kgで希釈し、コーティング液とした。このコーティング液をグラビア印刷機でコーティングした後、45℃で14、21日間エージングして食品の鮮度保持のための脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤の包装に使用する撥水撥油紙を調製した。この撥水撥油紙を、キット法による撥油度試験した結果、キットナンバー12と極めて高性能の撥油性能が確認できた。またガーレー透気度試験法で6.0sec/100mlの通気性が確保でき、高性能の通気性を有する撥水撥油紙の製造が可能であることを確認した。また、JISP8110、JISP8111に規定される撥水試験でR10と高い撥水性能を確認した。更に、ガーレー透気度試験法で6.0secの通気性が確保でき、高性能の通気性を有する撥水撥油紙の製造が可能であることを確認した。実施例を比較例とともに表1に示す。
【0022】
【表1】

(表1挿入)
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤用包装用材料の構造を示す図である。
【図2】内添加法又は浸透法による従来品の脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤用包装用材料の構造を示す図である。
【図3】パーフロロオクタン酸を含む従来品の脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤用包装用材料の構造を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 通気性紙基材
2 ウレタン系又は塩化酢酸ビニール系透明インキコーティング層
3 フッ素系撥水撥油剤コーティング層
4 内添加法又は浸透法でフッ素系撥水撥油剤を含有させた撥水撥油紙
5 パーフロロオクタン酸を含むフッ素系撥水撥油剤コーティング層
6 印刷文字




【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性紙基材の少なくとも片側表面に、先ずイソシアネート系硬化剤を使用したウレタン系又は塩化酢酸ビニール系の透明インキをコーティングし、次いでそのウレタン系又は塩化酢酸ビニール系透明インキ層の上にフッ素系撥水撥油剤をコーティングした二層コーティングを特徴とする食品の鮮度保持のための脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤の包装用材料。
【請求項2】
通気性基材シートにイソシアネート系硬化剤を原液に対して1〜8重量%添加したウレタン系又は塩化酢酸ビニール系の透明インキをグラビア印刷、フレキソ印刷又はオフセット印刷の何れかを適用してコーティングし、乾燥後8hr以上硬化のためのエージングを行なった後、フッ素系撥水撥油剤を、グラビア印刷を適用してコーティングし、乾燥後14日以上安定化のためのエージングを行なう請求項1記載の食品の鮮度保持のための脱酸素剤、エタノール蒸散剤又は吸湿剤の包装用材料の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−191407(P2009−191407A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34188(P2008−34188)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【出願人】(599049808)株式会社フジコー (4)
【Fターム(参考)】