説明

撮像用18F又は11C標識アルキルチオフェニルグアニジン

本発明は、以下の式(I)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物を提供する。かかる化合物は中枢神経系受容体の撮像に使用することができる。
【化1】
式中、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R2及びR4は、R2及びR4の少なくとも一方が[11C]−C1-4アルキル又は[18F]−C1-4フルオロアルキルであることを条件として、各々独立にC1-4アルキル、[11C]−C1-4アルキル及び[18F]−C1-4フルオロアルキルから選択され、R3はハロである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医用撮像分野、特に陽電子放射線断層撮影(PET)に関するものであり、中枢神経系(CNS)受容体の撮像のための化合物及び方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体はグルタミン酸作動性受容体の主要なサブタイプの一つであり、長期抑圧、長期増強及び発達期神経可塑性に中心的な役割を果たしていることが広く認められている。NMDA受容体の過剰活性化又は長期刺激に少なくとも部分的に起因するNMDA誘発興奮毒性は、脳卒中、頭部又は脊髄外傷、てんかん、アルツハイマー病及びハンチントン病のような多くの中枢神経系(CNS)疾患で見いだされている。PETを用いたインビボでのNMDA受容体イオンチャネル部位の研究のための放射性リガンドの候補として数多くの化合物が検討されている。しかし、かかる化合物の大半には、血液脳関門の通過性に乏しい又は非特異的結合が高いという問題があった。
【0003】
国際公開第94/27591号には、ある種の置換グアニジン及びそれらの治療のための用途が記載されている。国際公開第2004/007440号には、放射性標識グアニジン誘導体並びにそれらの中枢神経系(CNS)受容体の撮像のための用途が記載されており、これらの誘導体は、合成後に複雑な高速液体クロマトグラフィー(HPLC)精製を必要とし、しかも、約45分もの比較的長い調製時間を要するにもかかわらず低乃至中程度の収率しか得られないことが判明している。したがって、全収率、調製時間及び精製の簡単さに関して改善された標識化学が必要とされている。さらに、走査時間を延ばし、かかるトレーサの有効性を高めるため、NMDA受容体用の追加の放射性リガンドが必要とされている。
【特許文献1】国際公開第94/27591号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2004/007440号パンフレット
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
そこで、本発明の一態様では、次の式(I)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物を提供する。
【0005】
【化1】

式中、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R2及びR4は、R2及びR4の少なくとも一方が[11C]−C1-4アルキル又は[18F]−C1-4フルオロアルキルであることを条件として、各々独立にC1-4アルキル、[11C]−C1-4アルキル及び[18F]−C1-4フルオロアルキルから選択され、R3はハロである
1は好ましくは水素又はメチルであり、さらに好ましくはメチルである。
【0006】
2及びR4の一方は好ましくは−11CH3、−11CH2CH3、−11CH2CH2CH3、−CH218F、−CH2CH218F又は−CH2CH2CH218Fであり、さらに好ましくは−11CH3又は−CH218Fであり、もう一方のR2又はR4基は好ましくはメチルである。
【0007】
3は好ましくは−SR2基に対してパラ位でフェニル環に結合していて、好ましい態様ではR3はクロロである。
【0008】
−SR4基は、好ましくはグアニジン橋に対してメタ位でフェニル環に結合している。
【0009】
したがって、本発明の好ましい態様では、次の式(Ia)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物を提供する。
【0010】
【化2】

式中、R1、R2、R3及びR4は式(I)の化合物について定義した通りである。
【0011】
式(I)の最も好ましい化合物としては、
N−(2−クロロ−5−[18F]フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、
N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロエチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、
N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−[18F]フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、
N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−(2−[18F]フルオロエチルチオ))−フェニル−N′−メチルグアニジン、
N−(2−クロロ−5−[11C]メチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、
N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−[11C]メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、
N−(2−クロロ−5−[11C]エチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、及び
N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−[11C]エチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン
又はこれらの塩もしくは溶媒和化合物が挙げられる。
【0012】
本発明の好適な塩としては、生理学的に許容される酸付加塩、例えば塩酸、臭化水素酸、リン酸、メタリン酸、硝酸及び硫酸などの鉱酸から誘導される塩、並びに酒石酸、トリフルオロ酢酸、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、フマル酸、安息香酸、グリコール酸、グルコン酸、コハク酸、メタンスルホン酸及びp−トルエンスルホン酸などの有機酸から誘導される塩が挙げられる。
【0013】
以下で例証する通り、式(I)及び(Ia)の化合物はNMDA受容体の放射性リガンドとしての用途を有する。したがって、本発明の別の態様では、PETのようなインビボ診断又は撮像法に用いるための上述の式(I)又は(Ia)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物を提供する。好適には、上述の式(I)又は(Ia)の化合物は、健常者におけるNMDA受容体の撮像に用いることができる。
【0014】
式(I)又は(Ia)の化合物或いはそれらの塩又は溶媒和化合物はNMDA受容体のインビボでの撮像に有用であり、そのため、脳卒中、頭部又は脊髄外傷、てんかん、アルツハイマー病又はハンチントン病のようなNMDA介在性疾患の診断に有用性をもつ。そこで、本発明は、NMDA介在性疾患のインビボ診断又は撮像用の放射性医薬品の製造における式(I)又は(Ia)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物の使用も提供する。
【0015】
本発明は、また、式(I)又は(Ia)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物を投与することを含んでなる、被検体、好ましくはヒトにおけるNMDA介在性疾患のインビボ診断又は撮像法も提供する。この方法は、脳卒中、頭部又は脊髄外傷、てんかん、アルツハイマー病又はハンチントン病のインビボ診断又は撮像に特に好適である。
【0016】
式(I)又は(Ia)の化合物或いはそれらの塩は、好ましくは、本発明の化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含む放射性医薬製剤として投与される。「放射性医薬製剤」とは、本発明では、式(I)又は(Ia)の化合物或いはそれらの塩を、ヒトへの投与に適した形態で含む製剤と定義される。投与は、好ましくは製剤を水溶液として注射することによって行われる。かかる製剤は、他の成分、例えば緩衝剤、薬学的に許容される可溶化剤(例えばシクロデキストリン又はPluronic、Tweenもしくはリン脂質のような界面活性剤)、薬学的に許容される安定剤又は酸化防止剤(例えばアスコルビン酸、ゲンチジン酸又はp−アミノ安息香酸))を適宜含んでいてもよい。
【0017】
式(I)又は(Ia)の化合物或いはそれらの塩の用量は、投与する化合物の種類、患者の体重その他の医師に自明の変数によって左右される。一般に用量は0.1nmol/kg〜50nmol/kgの範囲であり、好ましくは1nmol/kg〜5nmol/kgの範囲である。
【0018】
式(I)又は(Ia)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物は、以下の式(II)の化合物から、(i)すべてのチオール保護基の除去、及び(ii)塩基存在下、適当な溶媒中での適当なアルキルハライド[11C]−C1-4アルキルX又は[18F]−C1-4フルオロアルキル−Y(式中、X及びYは各々独立にハロ、好ましくはクロロ、ヨード又はブロモであるか、或いはアリール又はアルキルスルホネート、例えばトシレート、トリフレート又はメシレートのような他の適当な脱離基である。)との反応によって製造することができる。
【0019】
【化3】

式中、R2及びR4の一方は水素、又はベンジルのようなチオール保護基であって、もう一方が水素、C1-4アルキル、又はベンジルのようなチオール保護基であり、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R3はハロである。
【0020】
このアルキルハライドとの反応は、好ましくは、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン又はアセトニトリルのような適当な溶媒中で、塩基、好ましくは炭酸カリウム、水酸化カリウム又は水素化ナトリウムのような無機塩基、或いはトリアルキルアミン(例えばトリエチルアミンなど)、ジイソプロピルエチルアミン又はジメチルアミノピリジンのような有機塩基の存在下で実施される。
【0021】
式(II)の化合物は、式(I)のPETトレーサの製造のための中間体として有用であり、この化合物自体が本発明の一態様をなす。
【0022】
本発明の別の態様では、以下の式(I)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物の製造方法であって、以下の式(II)の化合物の反応を(i)すべてのチオール保護基の除去、及び(ii)塩基存在下、適当な溶媒中での適当なアルキルハライド[11C]−C1-4アルキルX又は[18F]−C1-4フルオロアルキル−Y(式中、X及びYは各々独立にハロ、好ましくはクロロ、ヨード又はブロモ、或いはアリール又はアルキルスルホネート、例えばトシレート、トリフレート又はメシレートのような他の適当な脱離基である。)との反応によって行うことを含んでなる方法も提供する。
【0023】
【化4】

式(I)中、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R2及びR4は、R2及びR4の少なくとも一方が[11C]−C1-4アルキル又は[18F]−C1-4フルオロアルキルであることを条件として、各々独立にC1-4アルキル、[11C]−C1-4アルキル及び[18F]−C1-4フルオロアルキルから選択され、R3はハロである。
【0024】
【化5】

式(II)中、R2及びR4の一方は水素、又はベンジルのようなチオール保護基であって、もう一方が水素、C1-4アルキル、又はベンジルのようなチオール保護基であり、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R3はハロである。
【0025】
本発明のさらに別の態様では、上述の式(II)の化合物を含んでなる、放射性医薬製剤製造用のキットを提供する。キットの使用に当たっては、上述の方法を用いて式(II)の化合物を対応する式(I)の化合物へと転化させる。
【0026】
2が水素又はチオール保護基である式(II)の化合物は、以下の式(III)の化合物又はその塩から、以下の式(IV)の化合物との反応によって製造することができる。
【0027】
【化6】

式中、R3はハロであり、P1は後述のチオール保護基である。
【0028】
【化7】

式中、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R4は、所望の式(II)の化合物について定義した通りである。式(III)の化合物と式(IV)の化合物とのカップリングは、無溶媒で或いはクロロベンゼン、トルエン又はキシレンのような高沸点非プロトン性溶媒の存在下で実施できる。この反応は昇温下、例えば50〜200℃、好ましくは約160℃で実施できる。反応後、保護基P1を以下で説明する通り除去すればよい。
【0029】
チオール基による適当な保護及び脱保護の方法論に関しては、例えばProtecting Groups in Organic Synthesis(Theodora W. Greene and Peter G. M. Wuts, published by John Wiley & Sons Inc.)を参照されたい。適当なチオール保護基としては、ベンジル又はp−メトキシベンジルのようなアリールアルキル基が挙げられるが、これらは、放射性標識段階を実施する前に、AlCl3のようなルイス酸などの酸処理によって除去することができる。
【0030】
式(III)の化合物と式(IV)の化合物からの式(II)の化合物の合成を以下のスキーム1に示す。
【0031】
【化8】

式(III)及び(IV)の化合物は、市販の出発材料から、スキーム1及び実施例に記載したのと同様の方法を用いて製造することができる。
【0032】
4が水素又はチオール保護基である式(II)の化合物は、以下の式(V)の化合物から、以下の式(VI)との反応によって製造することができる。
【0033】
【化9】

式中、R1は水素又はC1-4アルキルであり、P2は上述のチオール保護基である。
【0034】
【化10】

式中、R3はハロであり、R2は所望の式(II)の化合物について定義した通りである。式(V)の化合物と式(VI)の化合物のカップリングは、式(III)の化合物と式(IV)の化合物とのカップリングについて説明したのと同様に実施できる。反応後に、P2を上述の通り除去すればよい。
【0035】
この式(V)の化合物と式(VI)の化合物からの式(II)の化合物の合成を以下のスキーム2に示す。
【0036】
【化11】

式(V)及び(VI)の化合物は、市販の出発材料から、スキーム2及び実施例に記載したのと同様の方法を用いて製造することができる。
【実施例】
【0037】
以下の実施例によって本発明についてさらに説明するが、実施例では以下の略号を用いた。
HPLC:高速液体クロマトグラフィー
UV:紫外線
TLC:薄層クロマトグラフィー
EtOAc:酢酸エチル
IR:赤外線
min:分。
【0038】
実施例1:N−(2−クロロ−5−フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
実施例1(i):3−アミノ−4−クロロベンゼンチオールの合成
【0039】
【化12】

10ml濃塩酸中の塩化スズ(II)(11.260g、59.40mmol)の冷却溶液(0℃)に、4−クロロ−3−ニトロ−ベンゼンスルホニルクロリド(1.690g、6.60mmol)を数回に分けてゆっくりと添加した。得られた懸濁液を冷却したまま15分間攪拌してから、混合物を1時間加熱還流した。混合物を室温に冷却した後、水(100ml)で希釈し、NaHCO3で慎重に中和した。水相をクロロホルム(4×50ml)で抽出して有機相を分離し、Na2SO4で乾燥した。溶媒を減圧除去して、明黄色の固形物を得た。1:1クロロホルム/ヘキサンを移動相として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで、白色固体の3−アミノ−4−クロロベンゼンチオールを得た(0.632g、60%)。
【0040】
1H NMR δ(CDCl3)7.08(d,1H,│J│=8.5Hz,Ar−H),6.67(d,1H,│J│=2.0Hz,Ar−H),6.59(dd,1H,│J│=8.5 and 2.0Hz,Ar−H),4.03(br s,2H,NH2),3.37(s,1H,SH)。
【0041】
実施例1(ii):(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−アニリン及び(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−アニリンHCl塩の合成
【0042】
【化13】

無水テトラヒドロフラン(THF)(15ml)中の3−アミノ−4−クロロベンゼンチオール(0.630g、3.92mmol)の冷却溶液(0℃)に、n−ブチルリチウム(ヘキサン中1.6M、2.45ml、3.92mmol)を加え、反応混合物を迅速に攪拌した。この混合物に臭化ベンジル(0.47ml、3.92mmol)をゆっくりと添加し、反応混合物を迅速に攪拌し、約1時間かけて室温に温めた。溶媒を減圧除去して粗生成物を得て、これを、1:1ジクロロメタン/ヘキサンを移動相として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。明白色固体の(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−アニリンを単離した(0.805g、82%)。
【0043】
1H NMR δ(CDCl3)7.26(m,3H,フェニルH),7.22(br m,2H,フェニルH),7.09(d,1H,│J│=8.3Hz),6.66(d,1H,│J│=1.9Hz),6.61(dd,1H,│J│=8.3 and 1.9Hz),4.04(s,2H,CH2),4.03(br s,2H,NH2)。
【0044】
無水ジエチルエーテル(10ml)中の(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−アニリン(0.805g、3.21mmol)の冷却溶液(0℃)に、ジエチルエーテル(1M、5.0ml、5mmol)中の無水塩酸の溶液をゆっくりと添加した。得られた沈殿を濾過して単離し、ジエチルエーテル(2×5ml)で洗浄し、減圧乾燥した。
【0045】
白色固体の(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−アニリンHCl塩がほぼ定量的な収率で得られた(0.865g、94%)。
【0046】
実施例1(iii):メチル−(3−メチルチオ−フェニル)−シアナミドの合成
【0047】
【化14】

無水ジエチルエーテル(10ml)中の3−メチルチオ−アニリン(1.850g、13.30mmol)の冷却溶液(0℃)に、臭化シアノゲン(0.704g、6.65mmol)のジエチルエーテル溶液(10ml)を加えた。なお、臭化シアノゲンは毒性が非常に強いので注意を要する。得られた溶液を、室温で一晩攪拌した。得られた混合物を濾過して沈殿を除去し、ジエチルエーテル濾液を、1MのHCl(20ml)及び食塩水(20ml)で洗浄してから、溶媒を減圧除去して油状黄色残渣を得た。95:5ジクロロメタン/酢酸エチルを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで粗生成物を精製して、ほぼ無色の油状物の(3−メチルチオ−フェニル)−シアナミドを得たが、これは放置すると結晶化した(0.570g、52%)。
【0048】
火力乾燥したシュレンクフラスコに、窒素雰囲気中で、水素化ナトリウム(60%鉱油溶液、0.14g、3.5mmol)、3−メチルスルファニル−フェニル−シアナミド(0.493g、3.00mmol)及び無水THF(5ml)を仕込んだ。混合物を迅速に攪拌し、70℃に約0.5時間加熱した。室温まで冷却したところで、ヨードメタン(0.37ml、6.00mmol)を滴下し、混合物を室温で一晩攪拌した。得られた無色透明の溶液を減圧濃縮してから、水(30ml)及びジエチルエーテル(40ml)を加えた。有機相を分離し、Na2SO4で乾燥し、ジエチルエーテル溶媒を減圧除去して粗残留物を得た。ジクロロメタンを移動相として用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで標記化合物の薄黄色油状物を得た(0.388g、73%)。
【0049】
1H NMR δ(CDCl3)7.26(m,1H,Ar−H),6.96(m,2H,Ar−H),6.81(m,1H,Ar−H),3.31(s,3H,NCH3),2.48(s,3H,SCH3)。
【0050】
実施例1(iv):N−(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンHCl塩の合成
【0051】
【化15】

火力乾燥し、磁気攪拌子を入れた10ml丸底フラスコに、メチル−(3−メチルチオ−フェニル)−シアナミド(0.185g、1.04mmol)と(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−アニリンHCl塩(0.297g、1.04mmol)を加えた。フラスコを脱気し、窒素で3回充填してから、フラスコを窒素雰囲気中で密封し、160℃に3時間加熱した。室温まで冷却したところで、淡黄色の残留物を最低限の量のジクロロメタン(0.5〜1ml)に取り、ジクロロメタン中のメタノール溶液の0〜10%勾配を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。溶媒を高真空下で減圧除去して、標記化合物のガラス状白色固体を得た(0.357g、74%)。
【0052】
1H NMR δ(d6−DMSO)9.70(br s,1H,NH),8.01(br s,1H,NH),7.39−7.08(m,11H,Ar−H),7.09(m,1H,Ar−H),4.24(s,2H,CH2),3.39(s,3H,N−CH3),2.45(s,3H,S−CH3)。
【0053】
実施例1(v):N−(2−クロロ−5−メルカプト)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンHCl塩の合成
【0054】
【化16】

火力乾燥したシュレンクフラスコに、窒素雰囲気中で、塩化アルミニウム(0.293g、2.20mmol)及び無水トルエン(5ml)を加えた。得られた懸濁液に、攪拌しながらN−(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンHCl塩(0.250g、0.54mmol)のトルエン溶液を加え、反応混合物を室温で2時間迅速に攪拌した。得られた混合物をメタノール(5ml)で希釈して、無色の均一溶液を得た。溶媒を減圧除去して、無色残留物を得て、これをジクロロメタン(3ml)に加えて濾過し、濾液を、ジクロロメタン中のメタノール溶液の0〜10%の勾配を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。標記化合物のガラス状白色固体(0.130g、64%)を単離した。
【0055】
2CO3のアセトン溶液の存在下でHCl塩を加熱することによって遊離塩基の試料を製造し、ジクロロメタン中のメタノール溶液の0〜10%の勾配を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。
【0056】
1H NMR δ(CDCl3)7.29(br s,1H,Ar−H),7.28(m,1H,Ar−H),7.13(m,2H,Ar−H),7.11(d m,1H,Ar−H),7.06(dd,1H,Ar−H),7.01(d m,1H,Ar−H),3.48(br s,1H,SH),3.36(s,3H,NCH3),2.49(s,3H,SCH3)。
【0057】
実施例1(vi):N−(2−クロロ−5−フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
【0058】
【化17】

火力乾燥したシュレンクフラスコに、窒素雰囲気中で、N−(2−クロロ−5−メルカプト)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンHCl塩(0.037g、0.10mmol)、トリエチルアミン(0.020g、0.20mmol)及び無水ジクロロメタン(2〜3ml)を加え、氷浴で0℃に冷却した。フルオロブロモメタンガスを暗色反応混合物に30秒間吹き込んでから、反応系を徐々に室温まで温めた。2時間後、得られた淡黄色溶液を、減圧濃縮し、粗残留物を得て、再度ジクロロメタン(1ml)に溶解して、ジクロロメタン中のメタノール溶液の0〜10%の勾配を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製した。高真空で溶媒を減圧除去して、標記化合物の薄黄色油状物を得た(0.024g、68%)。
【0059】
1H NMR δ(CDCl3)7.32(m,2H,Ar−H),7.20(m,1H,Ar−H),7.17(m,1H,Ar−H),7.16−7.06(m,2H,Ar−H),7.04(m,1H,Ar−H),5.71(d,2H,│J│=52.8Hz,CH2F),3.41(s,3H,N−CH3),2.50(s,3H,S−CH3)。
【0060】
実施例2:N−(2−クロロ−5−[18F]フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン
18F]フルオロブロモメタンをハロアルキル化剤として使用し、無水アセトニトリルを溶媒として使用し、炭酸セシウムを塩基として使用した以外は、実施例1(vi)と同様の方法で標記化合物を製造した。生成物の同定は、実施例1(vi)で製造した標準試料とN−(2−クロロ−5−[18F]フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンとのHPLC共溶出によって確認した。
【0061】
HPLC法
HPLC分析条件を試験したところ、前駆体であるN−(2−クロロ−5−チオ)フェニル−N′−3′−(メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンと、参照標準であるN−(2−クロロ−5−フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンとの最も効率的なクロマトグラフィー分離は以下の通りであった:5μ−Luna C−18(2)カラム(250×4.6mm)、MP55/45アセトニトリル/0.01M(NH42HPO4、流速1ml/分、UV254nm。N−(2−クロロ−5−フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの保持時間が9.70分であったのに対して、N−(2−クロロ−5−チオ)フェニル−N′−3′−(メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン前駆体の保持時間は20.0分であった。
【0062】
実施例3:N−(2−クロロ−5−(2−フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
【0063】
【化18】

火力乾燥し、磁気攪拌子を入れたシュレンクフラスコに、N−(2−クロロ−5−メルカプト)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンHCl塩(0.030g、0.08mmol)、炭酸カリウム(0.022g、0.16mmol)、無水アセトン(2ml)を仕込んだ。アセトン(1ml)中の2−フルオロエチルトシレート(0.017g、0.080mmol)の溶液を上記混合物に加え、反応系を窒素雰囲気中で3日間加熱乾留した。室温まで冷却した後、溶媒を減圧除去し、残留物をジクロロメタン(1ml)に再度溶解した。ジクロロメタン中のメタノール溶液の0〜10%の勾配を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーで精製して、標記化合物の薄黄色油状物を得た(0.021g、68%)。
【0064】
1H NMR δ(CDCl3)7.30(m,2H,Ar−H),7.19(br m,1H,Ar−H),7.13(br m,3H,Ar−H),6.94(m,1H,Ar−H),4.53(dt、2H,│J│=6.6 and 47.0Hz、CH2F),3.41(s,3H,N−CH3),3.12(dt、2H,│J│=6.6 and 20.5Hz),2.51(s,3H,S−CH3)。
【0065】
実施例4:N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
2−[18F]フルオロエチルトシレートをハロアルキル化剤として使用し、無水アセトニトリル/エタノールの1:2混合物を溶媒として使用し、炭酸セシウムを塩基として使用した以外は、実施例3と同様の方法で標記化合物を製造した。生成物の同定は、実施例3で製造した標準試料とN−(2−クロロ−5−[18F]フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンのHPLC共溶出によって確認した。
【0066】
HPLC法
HPLC分析条件を試験したところ、前駆体であるN−(2−クロロ−5−チオ)フェニル−N′−3′−(メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンと、参照標準であるN−(2−クロロ−5−(2−フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンとの最も効率的なクロマトグラフィー分離は以下の通りであった:5μ−Luna C−18(2)カラム(250×4.6mm)、MP55/45アセトニトリル/0.01M(NH42HPO4、流速1ml/分、UV254nm。N−(2−クロロ−5−フルオロエチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの保持時間が9.40分であったのに対して、N−(2−クロロ−5−チオ)フェニル−N′−3′−(メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン前駆体の保持時間は20.0分であった。
【0067】
実施例5:N−(2−クロロ−5−(2−[11C]エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
2−[11C]ヨードエタンをハロアルキル化剤として使用した以外は、実施例6と同様の方法で標記化合物を製造した。
【0068】
実施例6:N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
【0069】
【化19】

磁気攪拌子を入れた丸底フラスコに、ナトリウムメトキシド(1.4mg、26.6μmol)、N−(2−クロロ−5−メルカプト)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンHCl塩(5.0mg、13.3μmol)及び無水メタノール(1ml)を加えた。反応混合物を、窒素雰囲気中で5分間迅速に攪拌してから、混合物をさらにヨードメタン(1.8μl、30μmol)で処理した。室温で15分間攪拌した後、溶媒を減圧除去し、残留物をHPLCで分析した。
【0070】
実施例7:N−(2−クロロ−5−[11C]メチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
11C]ヨードメタンをメチル化剤として使用した以外は、実施例6と同様の方法で標記化合物を製造した。
【0071】
実施例8:N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
実施例8(i):2−クロロ−5−(メチルチオ)アニリン塩酸塩の合成
t−ブタノール(20mL)中の2−クロロ−5−(メチルチオ)安息香酸(5g、24.67mmol)の溶液に、攪拌しながら、トリエチルアミン(5.25mL、37.8mmol)を加えた。短時間攪拌した後、ジフェニルリン酸アジド(6mL、27.60mmol)を、滴下した。反応混合物を徐々に加熱して、6時間加熱還流し、室温に冷却した。溶媒を減圧除去し、粗反応混合物をテトラヒドロフラン(12.5mL)に溶解し、その後、12.5mLトリフルオロ酢酸(1:1)を加えた。反応混合物を6時間加熱還流し、室温に冷却後、溶媒を蒸発させた。反応混合物を、氷水浴で冷却しながら、NaOH(25%)で処理して、pHを12とした。生成物を酢酸エチル(4×25mL)で繰返し抽出し、有機層を水(10mL)で洗浄した。抽出物を一つにまとめ、MgSO4で乾燥し、減圧濃縮して、黄色油状物を得た。生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン/EtOAc勾配)で精製し、回収した試料をエーテルに溶解し、HCl/エーテル(10mL、1M)で処理して白色結晶を得た。標記生成物は白色固体であった(3.73g、87%収率)。融点:180−181℃、TLC:ヘキサン/EtOAc(9:1)、Rf=0.51、MS(CI) m/e 174(M+1 for C78ClNS) and m/e 191(M+NH3)、1H NMR(CDCl3)δ(ppm)7.2−6.7(m,3H,Ar−H)、2.5(s,3H,S−CH3)。
【0072】
実施例8(ii):3−(ベンジルチオ)アニリンの合成
水(4ml)中の水酸化ナトリウム(2.1g、52.5mmol)溶液を氷浴で冷却しながら攪拌し、これに、エタノール(20ml)中の3−アミノチオフェノール(4.8g、38.4mmol)の溶液を滴下し、その後、エタノール(5ml)中の塩化ベンジル(5g、39.5mmol)溶液を加えた。添加後、反応混合物を室温で4時間攪拌して、白色沈殿を有する褐色溶液を得た。濾過で沈殿を除去した後、濾液を濃縮して、残留物をジクロロメタン(40ml)に加えた。このジクロロメタン溶液を、水酸化ナトリウム水溶液で3回(0.5M、3×40ml)、水で1回(40ml)洗浄した。MgSO4で乾燥し、濾過した後、ジクロロメタン溶液を減圧濃縮し、粗生成物である濃黄色の油状物を得た。この粗生成物を、フラッシュクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン/CH2Cl2、0−100%)でさらに精製して3−(ベンジルチオ)アニリン(6.77g、82%)の薄黄色油状物を得たが、これを室温で放置すると固化して白色固体となった。薄層クロマトグラフィー:ジクロロメタン、Rf=0.37、1H NMR(CDCl3)δ(ppm)6.6−7.4(m,9H,Ar−H)、4.15(s,2H,S−CH2)。
【0073】
実施例8(iii):3−(ベンジルチオ)フェニルシアナミドの合成
無水ジエチルエーテル(10ml)中の臭化シアノゲン(1.42g、13.4mmol)の溶液を、無水ジエチルエーテル(25ml)中の3−(ベンジルチオ)アニリン(4.6g、21.4mmol)の溶液に0〜4℃で攪拌しながらゆっくりと添加した。添加後、反応混合物を室温で12時間攪拌したところ、白色沈殿を有する褐色溶液を得た。沈殿を濾別し、濾液をHCl水溶液(1M、3×40ml)で洗浄し、さらに食塩水(40ml)で洗浄した。エーテル溶液をMgSO4で乾燥し、濾過し、減圧濃縮して、黄色油状粗生成物を得た。この粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、CH2Cl2/EtOAc、0〜20%)でさらに精製して3−(ベンジルチオ)フェニルシアナミド(2.82g、収率55%)の白色固体を得た。TLC:ジクロロメタン/EtOAc(93:7)、Rf=0.64、1H NMR(CDCl3)δ(ppm)7.2−6.7(m,9H,Ar−H)、4.12(s,2H,S−CH2).IR(KBr):3178cm-1(第二級N−H)、3023−3085cm-1(C−H芳香族伸縮)、2227cm-1(CN)。
【0074】
実施例8(iv):3−(ベンジルチオ)フェニル−N−メチルシアナミドの合成
アセトニトリル(8mL)中の3−(ベンジルチオ)フェニルシアナミド(0.80g、3.33mmol)の溶液に、ジイソプロピルエチルアミン(0.65g、5.0mmol)を加え、その後、ヨウ化メチル(0.94g、6.66mmol)を加えた。反応混合物を、80〜85℃で、3時間還流させた。溶媒の除去後、残留物をジクロロメタン(40ml)に加え、有機溶液を水(40ml)で洗浄した。MgSO4で乾燥、濾過後に、ジクロロメタン溶液を減圧濃縮して、粗生成物の黄色油状物を得た。この粗生成物をカラムクロマトグラフィー(SiO2、ヘキサン/CH2Cl2、50%〜100%)で精製して、3−(ベンジルチオ)フェニル−N−メチルシアナミドの薄黄色油状物を得た(0.67、収率80%)。CH2Cl2、Rf=0.45、1H NMR(CDCl3)δ(ppm)7.3−6.8(m,9H,Ar−H)、4.06(s,S−CH2、2H)、3.57(s,3H,N−CH3)。
【0075】
実施例8(v):N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−3′−(ベンジルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
水冷却器を装着した25mlフラスコを乾燥し、このフラスコに、3−(ベンジルチオ)フェニル−N−メチルシアナミド(0.65g、2.56mmol)、2−クロロ−5−(メチルチオ)アニリン塩酸塩(0.54g、2.56mmol)及び1mlのクロロベンゼンを加えた。次に、フラスコに窒素ガスを吹き込み、攪拌しながら150℃に3時間加熱した。反応混合物を室温に冷却した。減圧下でクロロベンゼンを除去すると、粗生成物である粘稠なガラス状油が残った。この粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、CH2Cl2/MeOH、0−20%)で精製して、グアニジン塩酸塩(0.9g、収率85%)を固形分として得た。薄層クロマトグラフィー:CH2Cl2/MeOH(9:1)、Rf=0.34、1HNMR(CDCl3)δ(ppm)6.8−7.3(m,12H,Ar−H)、4.06(s,S−CH2、2H)、3.57(s,3H,N−CH3)、2.35(s,3H,S−CH3)。
【0076】
実施例8(vi):N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−3′−チオフェニル−N′−メチルグアニジンの合成
乾燥した25mlフラスコに、窒素保護下で、三塩化アルミニウム(125mg、0.94mmol)を加え、次に、トルエン(2ml)中のN−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−3′−(ベンジルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン(100mg、0.23mmol)の溶液を滴下した。混合物を、窒素雰囲気中で、室温で一晩攪拌した。反応を酢酸(0.5ml)で奪活し、減圧濃縮して、粗生成物の粘稠油を得た。粗生成物をフラッシュクロマトグラフィー(SiO2、CH2Cl2/MeOH、0−20%)で精製して、標記生成物(70mg、収率96%)のガラス状固形物を得た。TLC:CH2Cl2/MeOH(9:1)、Rf=0.14、1HNMR(CDCl3)δ(ppm)6.8−7.3(m,7H,Ar−H)、3.35(s,3H,N−CH3)、2.4(s,3H,S−CH3)。
【0077】
実施例8(vii):N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
HPLC法
HPLC分析条件を試験したところ、前駆体であるN−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−3′−チオフェニル−N′−メチルグアニジン及びN−(2−クロロ−5−チオ)フェニル−N′−3′−(メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンと、参照標準であるN−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−3′−(メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンとの最も効率的なクロマトグラフィー分離は以下の通りであった:μ−Bondapak C−18カラム(300×7.8mm)、MP60/40アセトニトリル/0.05M(NH42HPO4、流速2ml/分、UV254nm。N−(2−クロロ−5−メチルチオ)フェニル−N′−(3−メチルチオ)フェニル−N′−メチルグアニジンの保持時間が11.81分であったのに対して、3′−デスメチルチオ−及び5−デスメチルチオ前駆体の保持時間は、それぞれ、6.65分及び6.01分であった。
【0078】
N,N−ジメチルホルムアミド又は無水エタノール(250〜350μl)中にN−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−3−チオフェニル−N′−メチルグアニジン(0.5〜0.8mg)及びカリウムブトキシド(0.5−1.0mg、前駆体に対して2〜4当量)を含む溶液に、ヨウ化メチル(0.3〜0.6mg、前駆体に対して1〜2当量)を加えた。得られた混合物を室温で5分間攪拌し、その後、100μlのHPLC移動相(0.05Mの(NH42HPO4)を加えて奪活した。反応混合物を分取し、分析用のHPLCカラムに注入した。HPLC分析で得られた結果から、溶媒として使用したのがN,N−ジメチルホルムアミドであっても、エタノールであっても、検討したすべての実験で標記の生成物が75%を超える収率で精製されたこと、化学反応は十全かつ一貫して進行したこと、標記の生成物とそのデスメチルチオ前駆体との間の分離効率はホットケミストリーでの準調製用分離に十分であったことが判明した。
【0079】
実施例9:N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−[11C]メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの合成
11C]CO2を水素化リチウムアルミニウムを用いて還元し、その後、ヨウ化水素酸を用いてヨウ化し、蒸留することによって製造した[11C]ヨウ化メチルを、N,N−ジメチルホルムアミド(300μl)中にN−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−3−チオフェニル−N′−メチルグアニジン(0.5mg)とカリウムブトキシド(0.8mg)を含む溶液が入ったバイアル瓶に入れた。標識のための化学反応を、室温で5分間実施し、反応混合物を、100μlのHPLCの移動相(0.05M(NH42HPO4)を加えることによって奪活した。反応混合物から試料を分取し、放射活性HPLCシステムに注入した。分析は、実施例8で使用したクロマトグラフィー条件と同じ条件を用いて実施した。保持時間11.81分で溶出した放射能ピークが標記生成物であることは、同一分析条件で非放射性参照標準との共溶出によって確認した。[11C]ヨウ化メチルに基づく標記生成物の崩壊補正放射化学収率は90%超であった。[11C]CO2から開始した放射合成の合計時間は、サイクロトロン照射終了後20分以内であった。
【0080】
生体実験例
N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの体内分布データ
材料及び方法
N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンは実施例4(合成製剤:0.9%w/v生理食塩水中約3%エタノール)にしたがって製造し、その放射化学純度は約99%であり、注射時の比放射能は4〜16GBq/nmolであった。体内分布及び血液データは、成熟雄スプラーグドーリー(SD)ラット11匹(体重26〜329g、平均±標準偏差=300±18g)から得た。N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンを、イソフルラン麻酔下で、各ラットの尾静脈に直接注射した。次に、各ラットを麻酔から覚ました。注射後所定の時点で、ラットを麻酔下で頸椎脱臼によって屠殺し、脳及び体組織試料を迅速に採取した。
【0081】
体内分布
データは2回の合成標品を用いて得た。ラットに、尾静脈から直接静脈注射を行うことによって、平均約86MBq(実験1日目は85.3MBq、実験2日目は87.3MBq)、容積0.20ml(合成製剤:約3%アルコール)を投与した。同時に注射したN−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの量は0.7〜2.9nmol/kgの範囲とした。方法の詳細並びに試料の処理及び計数方法については、Hume et al., Nucl. Med. Biol.(1991)18: 339−351を参照されたい。データは注射放射能及び体重について以下の通り正規化した。
【0082】
「取込単位」=(cpm/g湿重量組織)・(注射cpm/g体重)-1
結果
放射能濃度のデータも、表1(末梢組織)及び表2(脳)で照合してある。代謝実験は行わなかったので、全放射能のどの程度の割合が、親N−(2−クロロ−5−(2−[18F]))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンに付随する標識を反映しているのかは不明である。なお、血液及び血漿試料は、死後に、心臓心室から採取した。
【0083】
体内分布
データを表1にまとめて示す。試料として採取した組織のうち、骨格筋、皮膚及び精巣は初期含量が約0.4取込単位と少なく、この傾向は実験を通して続いた。骨は、初期取込み量が1.4と高かったが、90分間の実験で約0.8に下がり、脱フッ素化の形跡はみられなかった。初期取込み量が高かったのは肺(約30取込単位)で、この値は90分で2取込単位まで急激に減少した。同様のプロファイルが腎臓及び心臓で観察された。ゆっくりとした放射能の低下は肝臓、脾臓及び腸でみられた。
【0084】
表1
N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン静注後の経過時間の関数としての、ラットの末梢機関及び体液中の放射能分布。血液の容積に関しては未補正である。データの単位は「取込単位」である。組織は以下の番号で示す。1:骨、2:骨格筋、3:皮膚、4:尿、5:脂肪、6:精巣、7:小腸、8:小腸内容物、9:大腸、10:大腸内容物、11:脾臓、12:肝臓、13:腎臓、14:胃、15:肺、16:心臓(心室)。比較ため、同じ試料時間での血漿データ(17)も示す。
【0085】
【表1】

脳内分布
データを表2にまとめて示す。いずれの組織も、放射性リガンド静注2分後に約4取込単位という比較的高い初期取込み量を示した。活性はその後次第に低減し、放射性リガンド静注90分後に約0.4取込単位となった。小脳に比して弱い信号が海馬及び皮質で得られ、最初の40分間で約0.8から1.3に上昇し、その後90分までに1まで減少した。
【0086】
N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの末梢からのクリアランスは、腎臓から尿の経路並びに腸の経路で進行した。ラット脳は、N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンの静注後の最も早い試料採取時点(2分)で、高い取込みを示した。示差的な不均一性の検出は受容体が生理的に「閉鎖」又は休止状態にあったため困難であった。小脳の保持率は約60分後に最低となったが、小脳の放射能と比較してデータを表示したところ、弱い信号が海馬(NMDA受容体密度が高いことが知られている領域。Bowery et al.,(1988) Br. J. Pharmacol. 93: 944−954参照)でみられた。
【0087】
表2
N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロ−エチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン静注後の経過時間の関数としての、ラットの脳組織中の放射能分布。データの単位は「取込単位」である。アステリスク(*)は、各時間点でのラット2〜3匹の平均値であることを示す。n=3については、平均±標準偏差を示す。他の値は、いずれも各時間点についてラット1匹を使用したものである。組織は以下の番号で示す。1:嗅脳、2:嗅内皮質、3:視床下部、4:視床、5:前頭前野、6:線条体、7:体性感覚皮質、8:海馬、9:後頭皮質、10:下丘、11:上丘、12:橋延髄体、13小脳。この表でも、血液のデータ(18)との比較のため、血漿データ(17)も示す。
【0088】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(I)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物。
【化1】

式中、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R2及びR4は、R2及びR4の少なくとも一方が[11C]−C1-4アルキル又は[18F]−C1-4フルオロアルキルであることを条件として、各々独立にC1-4アルキル、[11C]−C1-4アルキル及び[18F]−C1-4フルオロアルキルから選択され、R3はハロである。
【請求項2】
次の式(Ia)である、請求項1記載の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物。
【化2】

式中、R1、R2、R3及びR4は請求項1で定義した通りである。
【請求項3】
N−(2−クロロ−5−[18F]フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、N−(2−クロロ−5−(2−[18F]フルオロエチルチオ))−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−[18F]フルオロメチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−(2−[18F]フルオロエチルチオ))−フェニル−N′−メチルグアニジン、N−(2−クロロ−5−[11C]メチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、N−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−[11C]メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、N−(2−クロロ−5−[11C]エチルチオ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン及びN−(2−クロロ−5−メチルチオ)−フェニル−N′−(3−[11C]エチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジンから選択される請求項1又は請求項2記載の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物。
【請求項4】
PETのようなインビボ診断又は撮像法に用いるための請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の化合物。
【請求項5】
NMDA介在性疾患のインビボ診断又は撮像用の放射性医薬品の製造における請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の化合物の使用。
【請求項6】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の化合物と薬学的に許容される賦形剤とを含んでなる放射性医薬製剤。
【請求項7】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の化合物を投与することを含んでなる、被検体、好ましくはヒトにおけるNMDA介在性疾患のインビボ診断又は撮像方法。
【請求項8】
次の式(II)の化合物又はその塩。
【化3】

式中、R2及びR4の一方は水素、又はベンジルのようなチオール保護基であって、もう一方が水素、C1-4アルキル、又はベンジルのようなチオール保護基であり、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R3はハロである。
【請求項9】
N−(5−ベンジルチオ−2−クロロ)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、N−(2−クロロ−5−メルカプト)−フェニル−N′−(3−メチルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン、N−(2−クロロ−5−(メチルチオ)−フェニル−N′−3′−(ベンジルチオ)−フェニル−N′−メチルグアニジン及びN−(2−クロロ−5−(メチルチオ)−フェニル−N′−3′−チオフェニル−N′−メチルグアニジンから選択される請求項8記載の式(II)の化合物又はその塩。
【請求項10】
以下の式(I)の化合物又はその塩もしくは溶媒和化合物の製造方法であって、以下の式(II)の化合物の反応を(i)すべてのチオール保護基の除去、及び(ii)塩基存在下、適当な溶媒中での適当なアルキルハライド[11C]−C1-4アルキルX又は[18F]−C1-4フルオロアルキル−Y(式中、X及びYは各々独立にハロ、好ましくはクロロ、ヨード又はブロモ、或いはアリール又はアルキルスルホネート、例えばトシレート、トリフレート又はメシレートのような他の適当な脱離基である。)との反応によって行うことを含んでなる方法。
【化4】

式(I)中、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R2及びR4は、R2及びR4の少なくとも一方が[11C]−C1-4アルキル又は[18F]−C1-4フルオロアルキルであることを条件として、各々独立にC1-4アルキル、[11C]−C1-4アルキル及び[18F]−C1-4フルオロアルキルから選択され、R3はハロである。
【化5】

式(II)中、R2及びR4の一方は水素、又はベンジルのようなチオール保護基であって、もう一方が水素、C1-4アルキル、又はベンジルのようなチオール保護基であり、R1は水素又はC1-4アルキルであり、R3はハロである。
【請求項11】
請求項8又は請求項9記載の式(II)の化合物を含んでなる、放射性医薬製剤製造用のキット。

【公表番号】特表2008−546755(P2008−546755A)
【公表日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−517597(P2008−517597)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002315
【国際公開番号】WO2006/136846
【国際公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(504000591)ハマースミス・イメイネット・リミテッド (26)
【氏名又は名称原語表記】Hammersmith Imanet Ltd
【Fターム(参考)】