説明

撮像装置

【課題】小さな視線走査光学素子を用いることが可能であり、視線走査光学素子によるモーメント変動を抑制し、撮像装置の姿勢を安定させることで高分解撮像ができる撮像装置を提供する。
【解決手段】被写体からの入射光を検出する検出器5と、入射光の焦点を検出器5上の位置に合わせる光学系(2,3)と、光学系(2,3)の射出瞳側に配置され、撮像装置1の移動に起因する入射光の焦点の位置の移動を修正する視線走査光学素子4とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被写体に対して相対的に移動しながら撮像を行う撮像装置の発明に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、被写体に対して相対的に移動する航空機等の移動体に搭載された撮像装置から地表面等の被写体を撮像する方法として、撮像系の手前(被写体側)に配置された走査鏡(ガルバノミラー)を往復運動させるIMC(Image Motion Compensation)撮像方法があった(特許文献1)。このIMC撮像方法によって、画像流れを防ぎ、所望のSNRを得る露光時間を確保していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第3,687,035号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたIMC撮像方法では、撮像系の手前に走査鏡を配置したために、撮像光学開口径(入射瞳径)と同サイズの大型の走査鏡が必要となる。このような大型の走査鏡(ガルバノミラー)を往復運動させるために、撮像装置及び移動体へ与えるモーメント変動が大きく撮像装置の姿勢が不安定となり、その結果、被写体に対する視線ブレが生じ高分解能撮像を妨げるという課題があった。
【0005】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、小さな走査鏡(視線走査光学素子)を用いることが可能であり、走査鏡によるモーメント変動を抑制し、撮像装置の姿勢を安定させることで高分解撮像ができる撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る撮像装置は、被写体からの入射光を検出する検出器と、入射光の焦点を検出器上の位置に合わせる光学系と、光学系の射出瞳側に配置され、撮像装置の移動に起因する入射光の焦点の位置の移動を修正する視線走査光学素子とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
この発明によれば、視線走査光学素子が光学系の射出瞳側に配置されているために、小さな視線走査光学素子を用いることが可能であり、視線走査光学素子によるモーメント変動を抑制し、撮像装置の姿勢を安定させることで高分解撮像ができる撮像装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】この発明の実施の形態1に係る撮像装置の構成図である。
【図2】この発明の実施の形態2に係る撮像装置の構成図である。
【図3】この発明の実施の形態3に係る撮像装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態1.
図1にこの発明の実施の形態1に係る撮像装置の構成図を示す。
図1は、地表面に位置する被写体9に対して相対的に移動する航空機等の移動体に搭載された撮像装置1から被写体9を撮像する場合を示している。撮像装置1は、図1における左方向に対地速度Vで移動している。図1における距離GSDは、被写体9における撮像装置1の画像ピッチdに対応する地表面上の撮像距離(Ground Sampling Distance)を示す。
【0010】
被写体9の露光始めの時刻における撮像装置1の位置が図1中の実線(撮像装置1)によって模式的に示されている。視線6は、この露光始めの時刻における撮像装置1から被写体9への視線を示す。
被写体9の露光終わりの時刻における撮像装置1の位置が図1中の点線(撮像装置1´)によって模式的に示されている。視線7は、露光終わりの時刻における撮像装置1´から被写体9への視線を示す。
【0011】
図1中、Hは撮影高度、Lは移動体が露光時間内に移動した距離、Aは露光時間内における被写体側の視線振れ角、及び、A´は視線走査光学素子4による検出器5側の視線振れ角を示す。
【0012】
図1に示したように、実施の形態1における撮像装置1は、対物光学系(光学系)2、リレー光学系(光学系)3、視線走査光学素子4及び検出器5を備える。
対物光学系2は、少なくとも1つの被写体側のレンズから構成される。リレー光学系3は、後述の検出器5側のレンズである。対物光学系2及びリレー光学系3は光学系を構成する。
【0013】
視線走査光学素子4は、対物光学系2及びリレー光学系3から構成される光学系の射出瞳側に配置され、撮像装置1の移動に起因する入射光の焦点の位置の移動を修正する。具体的には、視線走査光学素子4は、リレー光学系3を通過した光の進行方向を変化させることによって、被写体9と撮像装置1との間の相対的な位置の移動による光の進行方向の変動をキャンセルする。
視線走査光学素子4は、反射鏡であり、所謂ガルバノミラーと同様な往復回転をしてもよい。この往復回転は、周期が撮像装置1の露光時間と同じであり、図1の矢印Xで示す方向の回転である。視線走査光学素子4がこのように往復回転をすることによって、露光開始時刻から露光終了時刻までに渡り、地表面上の同一の被写体9からの光が検出器5の同一の画素ピッチに到達することとなる。
この発明の視線走査光学素子4は、光学系の射出瞳径側に配置されるように構成されているため、視線走査光学素子4の反射面の径を光学系の射出瞳径と同じ大きさにできるという効果がある。
【0014】
検出器5は、量子効率η、画素ピッチdの特性を備えており、被写体9からの入射光を検出する。検出器5の画素位置8は露光開始時刻の検出器5上での被写体9の像位置である。
【0015】
露光終了時刻での撮像装置1´では、視線走査光学素子4を駆動させない場合、被写体9からの光は、検出器5上の8´で示す位置に到着する。従って、視線走査光学素子4を駆動させない場合には、地表面上の被写体9からの光を検出器5が検出する位置は、露光時間の始めと終わりとで相違することとなる。
【0016】
視線走査光学素子4は、この相違を修正するように往復回転する。以下、相違を修正するための具体的な制御方法について説明する。
【0017】
画素ピッチdに相当する地表面の撮像距離であるGSDが撮像光学系の地表分解能となる。この時撮像光学系に必要な焦点距離fは、撮影高度H、画素ピッチd及びGSDを用いて以下の数式(1)で与えられる。


【0018】
検出器5上で地表面のGSDを分解する結像性能を得るのに必要な撮像光学系の入射瞳径Enpは、撮像波長λ、撮影高度H及びGSDを用いて以下の数式(2)で与えられる。


【0019】
数式(1)及び(2)より撮像光学系のFナンバー(F.n)は以下の数式(3)で与えられる。


【0020】
分光放射輝度L(λ)の地表面を撮像する時、検出器5における露光時間tにおいて検出器5で発生する光電子数Eは以下の数式(4)で与えられる。


数式(4)中、hはプランク定数を、cは光速を示す。
【0021】
画像で生じるノイズはショットノイズが支配的と仮定した場合、画像SNRは数式(4)より以下の数式(5)で与えられる。


【0022】
撮影高度H、検出器量子効率η、検出器画素ピッチd、地表面の分光放射輝度L(λ)、及び目標画像SNRが与えられた時、必要な検出器5の露光時間tは数式(5)より数式(6)で与えられる。


【0023】
数式(6)の露光時間t内での移動体の進行による被写体側の視線振れ角Aは、撮影高度H及び対地速度Vを用いて以下の数式(7)で与えられる。


Aが小さいときには、この数式(7)はtanA≒Aと近似できる。
【0024】
一方、数式(6)で与えられた検出器5の露光時間t内での移動体の対地移動距離Lは以下の数式(8)で与えられる。


【0025】
L>GSDの場合、図1における視線走査光学素子4を駆動させない場合、被写体9の像は検出器5上の画素位置8から8´へ移動し、像流れが発生する。像流れを防止するために移動体の移動に伴い、視線走査光学素子4を回転させて被写体9の像位置を露光時間中常に検出器5上の画素位置8へ結像させる修正を行う。この時、撮像光学系の入射瞳は対物光学系2にあり、射出瞳はリレー光学系3により瞳倍率βpの実像を持つ様にする。また、視線走査光学素子4は射出瞳上、又はその付近に配置する。この時の射出瞳径Expは以下の数式(9)で与えられる。


【0026】
視線走査光学素子4による検出器5側の視線振れ角A´は、瞳倍率βpと被写体9側の視線振れ角Aを用いて以下の数式(10)の通りに関連付けられる。


【0027】
以上の数式(1)から数式(10)が、この実施の形態1におけるIMC撮像を関連付ける式である。即ち、露光時間を上記数式(1)から数式(6)により与えられる露光時間tとし、その間、視線走査光学素子4による検出器5側の視線振れ角をLに応じて上記数式(7)から数式(10)で与えられるA´とするように、視線走査光学素子4の回転を制御する。
【0028】
数式(5)に数式(3)及び数式(4)を代入すると以下の数式(11)が得られる。



この数式(11)により、必要なSNRを得るための最小入射瞳径が決定され、従来のIMC撮影方式では、視線走査光学素子を一定以上の大きさとする必要があった。
この発明では、数式(9)における瞳倍率βpを縮小倍率(|βp|<1)とする事で射出瞳径<入射瞳径としている。瞳倍率βpが縮小倍率を持つ事により入射瞳径と同サイズの走査鏡を用いる従来のIMC撮像方法に比べ視線走査光学素子4を小型化でき、視線走査光学素子4駆動時のモーメント変動を従来と比べ小さくできるため移動体の姿勢が安定し、視線ブレによる画像ブレを低減できる。
【0029】
また、視線走査光学素子4の小型化及びそれに伴う軽量化によって、走査駆動系の小型化、軽量化、および駆動電力の省力化ができコストダウンが可能になる。また移動体の搭載スペースに制限があり従来のIMC撮像系では搭載できなかった光学系も走査鏡を小型化する事により空いたスペースを撮像光学系の大口径化に割り振れば同一の移動体で従来のIMC撮像系よりも高分解能の光学システムを打ち上げる事が可能になる。
【0030】
以上より、実施の形態1に係る画像撮影装置1は、被写体からの入射光を検出する検出器5と、入射光の焦点を検出器5上の位置に合わせる光学系と、光学系の射出瞳側に配置され、撮像装置1の移動に起因する入射光の焦点の位置の移動を修正する視線走査光学素子4とを備えるように構成した。このため、視線走査光学素子4が光学系の射出瞳側に配置されるために、小さな視線走査光学素子4を用いることが可能となり、視線走査光学素子4のモーメント変動を抑制し、撮像装置1の姿勢を安定させることで地表分解能が高い撮像装置を提供することができる。
【0031】
また、実施の形態1によれば、光学系における射出瞳径は、光学系における入射瞳径よりも小さい構成にしたので、視線走査光学素子4の大きさを小さくすることができる。
【0032】
また、実施の形態1によれば、視線走査光学素子を、光学系の光軸に垂直な軸周りに往復回転するガルバノミラーで構成したので、視線走査光学素子4の大きさを小さくすることができる。
【0033】
実施の形態2.
上記実施の形態1では、視線走査光学素子4は、反射鏡(平行平面版による平面ミラー)である例を説明したが、これに限らず、一定の角速度で回転するポリゴンミラーであってもよい。以下、実施の形態2にて、ポリゴンミラーを用いる例について説明する。
【0034】
図2は、実施の形態2に係る撮像装置の構成図である。図2に示したように、実施の形態2に係る撮像装置1は、対物光学系2、リレー光学系3、検出器5及びポリゴンミラー14を備える。このうち、対物光学系2、リレー光学系3及び検出器5の機能は、上記実施の形態1において説明した機能と同様である。
【0035】
図2の一点鎖線31は、撮像光学系の光軸を示す。直線32は、地表面からの入射光を示す。
ポリゴンミラー14の形状は、正多角形であればよい。好適には正6角形である。ポリゴンミラー14は、図2において矢印Yで示すように一定の角速度で回転する。ポリゴンミラー14がこのような運動をすることによって、露光時間の始めの時点から露光時間が終了した時点までに渡り、地表面上における同一の被写体9(図2にて不図示)からの光が検出器5上の同一の画素ピッチに到達することとなる。
ポリゴンミラー14を備えることによって、平面鏡をガルバノミラーの様に往復運動させる場合に比べ、モーメント変動をさらに少なくでき移動体の姿勢安定度を高める事ができるという効果がある。
【0036】
上記実施の形態1での説明と同様に、実施の形態2に係るポリゴンミラー14の一辺は、入射瞳径よりも小さい射出瞳径と同じにすることができるという効果がある。
【0037】
以上より、実施の形態2に係る撮像装置1は、視線走査光学素子が光学系の光軸31に垂直な軸周りに回転するポリゴンミラー14であるように構成した。このため、回転モーメントの変動を抑制し、撮像装置1の姿勢を安定させることで地表分解能が高い撮像装置を提供することができる。
【0038】
実施の形態3.
上記実施の形態1では、視線走査光学素子4は、反射鏡(平行平面版による平面ミラー)である例を説明したが、これに限らず、屈折光学素子を用いてもよい。以下、実施の形態3にて、屈折光学素子を用いる例について説明する。
【0039】
図3は、実施の形態3に係る撮像装置1の構成図である。図3に示したように、実施の形態3に係る撮像装置1は、対物光学系2、リレー光学系3、検出器5及び走査レンズ24を備える。このうち、対物光学系2、リレー光学系3及び検出器5の機能は、上記実施の形態1において説明した機能と同様である。
図3の一点鎖線31は、撮像光学系の光軸を示す。直線32は、地表面からの入射光を示す。
【0040】
走査レンズ24は、例えば、屈折力の小さいレンズであり、図3に示すようにリレー光学系3と検出器5との間に配置される。図3に矢印Zで示すように走査レンズ24を光軸31に垂直な方向に移動(往復並進)させることにより、リレー光学系3を通過した光の屈折角度が修正される。これによって、移動体が被写体に対して相対的に移動する場合に、同一の被写体9(図3にて不図示)の像を常に検出器5の同一ピッチに結像させる事ができる。
【0041】
以上より、実施の形態3に係る撮像装置1は、視線走査光学素子が光学系の光軸31に垂直な方向に往復並進する走査レンズ24であるように構成した。このため、回転モーメントの変動を抑制し、撮像装置1の姿勢を安定させることで地表分解能が高い撮像装置を提供することができる。
【0042】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0043】
1,1´ 撮像装置、2 対物光学系(光学系)、3 リレー光学系(光学系)、4 視線走査光学素子、5 検出器、14 ポリゴンミラー、24 走査レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被写体に対して相対的に移動しながら撮像を行う撮像装置において、
前記被写体からの入射光を検出する検出器と、
前記入射光の焦点を前記検出器上の位置に合わせる光学系と、
前記光学系の射出瞳側に配置され、前記撮像装置の移動に起因する前記入射光の焦点の位置の移動を修正する視線走査光学素子と
を備えることを特徴とする撮像装置。
【請求項2】
前記光学系における射出瞳径は、前記光学系における入射瞳径よりも小さいことを特徴とする請求項1記載の撮像装置。
【請求項3】
前記視線走査光学素子は、前記光学系の光軸に垂直な軸周りに往復回転するガルバノミラーであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の撮像装置。
【請求項4】
前記視線走査光学素子は、前記光学系の光軸に垂直な軸周りに回転するポリゴンミラーであることを特徴とする請求項1または請求項2記載の撮像装置。
【請求項5】
前記視線走査光学素子は、前記光学系の光軸に垂直な方向に往復並進するレンズである事を特徴とする請求項1または請求項2記載の撮像装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−24968(P2013−24968A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−157723(P2011−157723)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】