説明

撮影レンズ

【課題】 NDフィルタを湾曲させた場合に、湾曲のカール方向によって反射光が結像する条件が発生することを防止する。
【解決手段】 NDフィルタ23は像面側の光軸に直交する面上に、全方位に対し同じ曲率を有する凸球面23aを有し、点線で示すように像面側に配置された光学素子で反射された反射光が、NDフィルタ23の像面側の面で更に反射した後に、像面で結像することなく発散するようにされている。
NDフィルタ23は球面の外周部にフランジ部23bを有しており、フランジ部23bをフィルタ保持枠21の開口部に接着剤31により接着固定することにより、NDフィルタ23の歪みによるゴーストの発生が防止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カメラ等に用いる撮影レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
撮影レンズを通り撮像素子や撮影フィルムが配置された像面に到達する光量を減衰させたり、所謂絞りの小絞り回折現象を防止したりするために、一般にNDフィルタと称される光学フィルタが使用されている。NDフィルタは光学系内に配置された絞り装置の絞り羽根に貼り付けられて、絞り開口の少なくとも一部を覆うように用いられる。また、撮像のぼけ味を改善する目的で、複数枚の絞り羽根を使用した虹彩絞りでは、NDフィルタが絞り羽根とは独立して光路内に進退できる構造が採用されている。
【0003】
このような撮影レンズにおいて、平行平板として形成されたNDフィルタを通過して、このNDフィルタよりも像面側に設けられた光学素子で反射した光が、更にNDフィルタの像面側の面で反射を生じ、像面で結像する可能性がある。この場合に、この反射光により形成された像は所謂ゴーストとなり、撮影画像の画質を劣化させる。
【0004】
このようなNDフィルタでの光の反射を軽減するために、NDフィルタを湾曲させてNDフィルタでの反射光が、像面で結像しないようにすることが、例えば特許文献1に開示されている。また、NDフィルタの一部を湾曲させたものを絞り羽根に貼り付けた例えば特許文献2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−186318号公報
【特許文献2】特開平3−145631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、NDフィルタを湾曲させた場合に、湾曲のカール方向によって反射光が結像する条件が発生することになる。また、通常のNDフィルタは0.1mm程度の厚みのフィルム状であるため、特許文献2のような固定方法ではNDフィルタ形状に歪みを生じ易く、効果を安定して得られないという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、上述の課題を解消し、光学フィルタにより反射光を外方に反射し、安定したゴースト防止効果が得られる撮影レンズを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための本発明に係る撮影レンズは、レンズを通過する光量を減衰させる光学フィルタと、該光学フィルタよりも像面側に設けた光学素子とを有し、前記光学フィルタの像面側の光軸に直交する面は凸球面とし、該凸球面は前記光学素子で反射した反射光が前記光学フィルタの像面側の面で更に反射した後に、前記像面で結像しないように外方に進むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る撮影レンズによれば、光学フィルタの凸球面を有することにより安定したゴースト防止効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の絞りユニットを搭載するズームレンズ鏡筒の分解斜視図である。
【図2】絞りユニットの斜視図である。
【図3】NDフィルタの断面図である。
【図4】実施例2のNDフィルタ形状の底面図、断面図である。
【図5】実施例3のNDフィルタ形状の底面図、断面図である。
【図6】実施例4のNDフィルタ形状の底面図、断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明を図示の実施例に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0012】
図1は実施例の絞りユニットを搭載する撮影レンズの分解斜視図、図2は絞りユニットの斜視図である。
【0013】
ズームレンズ鏡筒の撮影光学系は、物体側から順に凸凹凸凸の第1群の固定レンズ群、第2群の変倍レンズ群、第3群のアフォーカルレンズ群、第4群のフォーカスレンズ群を配列したリアフォーカスズーム光学系である。第1群の固定レンズ群は保持する1群鏡筒1に保持され、1群鏡筒1は固定鏡筒2に固定されている。第2群である変倍レンズ群は2群保持枠3は固定鏡筒2の内側に収容されて保持され、2群保持枠3にはスリーブ部3aとU溝部3bが設けられている。
【0014】
スリーブ部3aとU溝部3bは、それぞれ固定鏡筒2に光軸方向に沿って設けられたガイドバー4、5に移動可能に係合しており、これらのガイドバー4、5により2群保持枠3が案内されて、光軸方向に移動可能とされている。2群保持枠3には図示しないラック部材が取り付けられており、このラック部材はステッピングモータから成るズームモータ6の出力ねじ部に噛合している。ズームモータ6が回転すると、出力ねじ部とラックとの作用により、2群保持枠3が光軸方向に駆動される。
【0015】
第3群のアフォーカルレンズ群、絞りユニット7は3群鏡筒8に固定されている。第4群のコンペンセータレンズ及びフォーカスレンズを兼ねたフォーカスレンズ群は4群保持枠9に保持され、4群保持枠9にはスリーブ部9aとU溝部9bが設けられている。スリーブ部9aとU溝部9bはそれぞれ、ホルダ鏡筒10に光軸方向に沿って設けられたガイドバー11、12に移動可能に係合されており、ガイドバー11、12により4群保持枠9は光軸方向に案内されて移動可能とされている。
【0016】
4群保持枠9の上部及び側部には、略角筒状の空芯コイル13が固定されており、コイル13の空芯部分は光軸に沿う方向に設けられている。ホルダ鏡筒10には、ヨーク14、15及びマグネット16が固定保持され、ヨーク14はコ字状に光軸に沿う方向に延びた構成とされ、その内側にマグネット16が保持されている。ヨーク14にはコイル13の空芯部分が挿通されており、コイル13とヨーク14、マグネット16とは所定の間隔で離間している。マグネット16は光軸に直交する方向に磁化されており、光軸に沿う方向に延在されている。ヨーク14のコ字状の形状の開放側先端にはヨーク15が保持されている、コイル13、ヨーク14、15及びマグネット16によりボイスコイルモータである駆動手段が構成される。コイル13に通電すると、ヨーク14、15及びマグネット16により構成される磁気回路の作用によって、4群保持枠9が光軸方向に駆動される。
【0017】
絞りユニット7は駆動部7aによって複数枚の絞り羽根を開閉駆動して光量を調整する虹彩絞りである。絞りユニット7には、図2に示すようにフィルタ保持枠21が取り付けられており、フィルタ保持枠21はギア連動されたアーム22の操作により、光軸と直交方向に回動するようになっている。
【0018】
フィルタ保持枠21には、レンズを通過する光量を減衰させる複数の光学フィルタが光路に設けられ、光学フィルタはアフォーカル光束部に配置されている。具体的には、例えば濃度の異なるNDフィルタ23、24が接着固定されており、NDフィルタなしの位置と合わせて、3位置の開口部による切換機構が設けられている。このフィルタ保持枠21は絞りユニット7に設けられたばね付勢部材25とフィルタ保持枠21に設けられた3個の凹部21aにより、アーム22の操作で3ポジションの切換えが行われる。
【0019】
先の3つの位置には、それぞれフォトインタラプタ26、27、28が配置されており、フィルタ保持枠21に設けられた遮光部21c、21d、21eがそれぞれを遮光することで、フィルタ保持枠21がどの開口部に対して作動しているかが検知される。
【0020】
図3はNDフィルタ23の断面図であり、NDフィルタ24においても同様である。NDフィルタ23は像面側の光軸に直交する面上に、全方位に対し同じ曲率を有する凸球面23aを有している。つまり、この凸球面23aは点線で示すように像面側に配置されたレンズや撮像素子等から成る光学素子で反射された反射光が、NDフィルタ23の像面側の面で更に反射した後に、像面で結像することなく外方に発散するようにされている。
【0021】
また、NDフィルタ23は凸球面23aの外周部に光軸直交面に平行なフランジ部23bが設けられており、NDフィルタ23の歪みの発生が防止されている。NDフィルタ23のフランジ部23bのみをフィルタ保持枠21の開口部に接着剤31により接着固定することにより、接着剤31の硬化による応力が曲率面に及ぶことが防止されており、NDフィルタ23の歪みによるゴーストの発生が防止される。
【0022】
フィルタ保持枠21のNDフィルタ23を取り付ける開口部には面取り21fがなされており、NDフィルタ23の凸球面23aとなる曲率面部のみに光束が入射するようにすることにより、フランジ部23bによるゴーストの発生を防止できる。
【実施例2】
【0023】
図4は実施例2のNDフィルタの(a)底面図、(b)断面図である。NDフィルタ23は実施例1と同様に、像面側に光軸に直交する面上に全方位に対し同じ曲率を有する凸球面23aを有している。また、NDフィルタ23のフランジ部23bには全周に被写体側に突出するリブ状の補強部23cが設けられており、NDフィルタ23の歪みが防止されている。
【0024】
フィルタ保持枠21の開口部の周囲の3個所には位置決め用凸部21gが設けられており、NDフィルタ23はこの位置決め用凸部21gにより位置決めされている。これらの位置決め用凸部21gに接するフランジ部23bの3個所において、フィルタ保持枠21に接着固定することにより、接着剤31の硬化による応力が凸球面23aの曲率面に及ぶことが防止され、NDフィルタ23の歪みによるゴーストの発生を防止できる。
【実施例3】
【0025】
図5は実施例3のNDフィルタの(a)底面図、(b)断面図である。NDフィルタ23が像面側に光軸に直交する面上に凸球面23aを有していることは、実施例1、2と同様である。また、フランジ部23bに補強部23cが形成されていることは実施例2と同様である。
【0026】
円形のNDフィルタ23のフランジ部23bから3方向に、帯状部23dが外側に延在されており、これらの帯状部23dの先端部が位置決め用凸部21gに接するようにされている。この帯状部23dの先端をフィルタ保持枠21に接着剤31により固定している。
【実施例4】
【0027】
図6は実施例4のNDフィルタの(a)底面図、(b)断面図である。面積の広いNDフィルタ23が使用され、凸球面23aの外周部に硬質の遮光塗装32が施されている。この遮光塗装32はフィルタ保持枠を兼ねており、遮光塗装32によりNDフィルタ23の凸球面23aのみに光線を透過する構成とされている。
【0028】
上述の説明では、本発明の好ましい実施例について述べたが、本発明はこれらの実施例に限定されないことは云うまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0029】
7 絞りユニット
21 フィルタ保持枠
22 アーム
23 NDフィルタ
23a 凸球面
23b フランジ部
23c 補強部
23d 帯状部
31 接着剤
32 遮光塗装

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンズを通過する光量を減衰させる光学フィルタと、該光学フィルタよりも像面側に設けた光学素子とを有し、前記光学フィルタの像面側の光軸に直交する面は凸球面とし、該凸球面は前記光学素子で反射した反射光が前記光学フィルタの像面側の面で更に反射した後に、前記像面で結像しないように外方に進むことを特徴とする撮影レンズ。
【請求項2】
前記凸球面は全方位に対し同じ曲率を有することを特徴とする請求項1に記載の撮影レンズ。
【請求項3】
前記光学フィルタは光軸と直交方向に移動可能な駆動手段を有し、光路に出し入れ可能であることを特徴とする請求項1に記載の撮影レンズ。
【請求項4】
前記光学フィルタはアフォーカル光束部に設けたことを特徴とする請求項1に記載の撮影レンズ。
【請求項5】
絞り羽根を開閉駆動して光量を調整する絞りユニットを有し、前記光学フィルタは前記絞りユニットにおいて、前記絞り羽根とは別の駆動手段により作動することを特徴とする請求項3に記載の撮影レンズ。
【請求項6】
前記光学フィルタは前記凸球面の外周部にフランジ部を有することを特徴とする請求項1に記載の撮影レンズ。
【請求項7】
前記光学フィルタはNDフィルタとしたことを特徴とする請求項1に記載の撮影レンズ。
【請求項8】
請求項1〜5の何れか1つに記載の撮影レンズを有することを特徴とするレンズ鏡筒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−282026(P2010−282026A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135270(P2009−135270)
【出願日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】