説明

撮影装置

【課題】ローパスフィルタの機能を有する低コストの撮影装置を提供することを目的とする。
【解決手段】撮影光学系により結像された被写体像を撮像素子で捉えて画像信号を生成する撮影装置において、手ぶれを検出する検出部と、撮影光学系の光軸と撮像素子を相対的に偏倚させる偏倚機構と、偏倚機構に、撮像素子により所定の高周波成分が減衰した画像信号を生成させるためのローパスフィルタとしての動作を行わさせるとともに、偏倚機構に、検出部による手ぶれ検出結果に基づいて手ぶれを補正するための動作を行わせる偏倚機構制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮影光学系により結像された被写体像を撮像素子で捉えて画像信号を生成する撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラを中心とする撮影装置や、このような撮影装置を構成する様々な素子に関する技術が急速に発展してきている。こうした撮影装置には通常CCD撮像素子等の撮像素子が内蔵されその撮像素子で被写体像を捉えて画像信号が生成されるが、撮像素子には多数の受光素子が配列されており、それら多数の受光素子の配列ピッチと関係する所定の空間周波数を超える高空間周波成分が含まれているとその高空間周波成分が折り返しノイズとなって画像上に現れ、画質を劣化させてしまうことになる。これを避けるために、こうした撮影装置には、撮像素子の前面に、被写体像中の、ノイズとなって現れる高空間周波成分をカットする、光学的なローパスフィルタが配備されていることが多い。このローパスフィルタには、従来より、水晶の複屈折を利用した水晶型ローパスフィルタが利用されているが、コスト低減化の一環としてローパスフィルタにも低コスト化が求められており、このようなローパスフィルタを低コストで実現する工夫の一つとして、ガラスなどでできた平行平面板を被写体光の光路上に設けてその平行平面板を微小振動させることによりローパスフィルタとしての機能を発揮させ、水晶型ローパスフィルタに比べてコストダウンを計ることが試みられている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開2004−94131号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1記載のローパスフィルタは、ローパスフィルタ用としてのみ用いられる平行平面板やこの平行平面板を微小振動させるためのアクチュエータおよび駆動回路を設けることが必要になるため、従来の水晶型ローパスフィルタに対するコストダウン効果が低い。
【0004】
本発明は、上記事情に鑑み、ローパスフィルタの機能を有する低コストの撮影装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するための本発明の撮影装置は、撮影光学系により結像された被写体像を撮像素子で捉えて画像信号を生成する撮影装置において、
手ぶれを検出する検出部と、
上記撮影光学系の光軸と上記撮像素子を相対的に偏倚させる偏倚機構と、
上記偏倚機構に、上記撮像素子により所定の高周波成分が減衰した画像信号を生成させるためのローパスフィルタとしての動作を行わさせるとともに、上記偏倚機構に、上記検出部による手ぶれ検出結果に基づいて手ぶれを補正するための動作を行わせる偏倚機構制御部とを備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明の撮影装置は、手ぶれを補正する機構を利用して被写体の結像位置を変化させることにより、所定の高周波成分をカットするローパスフィルタとしての動作を行わさせるため、従来の水晶型ローパスフィルタや特許文献1記載の平行平面板を利用したローパスフィルタに比べ、ローパスフィルタを設けることに伴う付加的な装置をあまり必要とせず、ローパスフィルタの機能を有する低コストの撮影装置が実現できる。さらに、本発明の撮影装置では、ローパスフィルタとしての動作を行わさせる際に、撮影光学系の光軸と上記撮像素子を相対的に偏倚させたときの偏倚量を変化させることにより、ローパスフィルタのカットオフ振動数を撮影意図や撮影条件に合わせて変更できる。
【0007】
また、本発明の撮影装置は、上記偏倚機構が、手ぶれを補正するための動作のみを行う第1の偏倚機構と、少なくともローパスフィルタとしての動作を行う第2の偏倚機構とを有するものであってもよい。
【0008】
手ぶれを補正するための動作のみを行う偏倚機構にさらに新たな偏倚機構を加えることによりローパスフィルタとして機能させると、ローパスフィルタの機能を発揮する偏倚機構は、ローパスフィルタとして動作することに適した構造を備えることができ、手ぶれ補正の機能とローパスフィルタの機能を兼ね備えている場合に比べて、より高速かつ高精度な駆動を行うローパスフィルタが実現される。この場合、ローパスフィルタ用として新たな偏倚機構を必要とするが、特許文献1記載のローパスフィルタと、それとは全く別の構成の手ぶれ機構との双方を組み込むよりは、同一の光学部材等を偏倚させればより小型化、低コスト化となる。
【0009】
また、第1の偏倚機構と第2の偏倚機構とを有する本発明の撮影装置は、上記第1の偏倚機構がボイスコイルモータを備えたものであり、上記第2の偏倚機構が圧電バイモルフを備えたものであってもよい。
【0010】
光軸に対する垂直な方向の直線運動を与える駆動装置としてボイスコイルモータは、手ぶれ補正に必要とされる周波数領域の振動を発生するのに適している。さらにボイスコイルモータは、瞬発力と持久力の点で優れており、手ぶれ補正の性能を高めるとともにその性能を長い期間持続させることができる。また圧電バイモルフは、ローパスフィルタとして機能するために必要とされる、手ぶれ補正の周波数よりもさらに高い周波数領域の振動を発生するのに適している。その上、圧電バイモルフは、構造が単純で製造が容易であり、さらに消費電力が少なく熱や電磁的雑音が発生しにくい駆動装置であるため、無駄な電力を消費を抑える省エネルギーのローパスフィルタが実現される。
【0011】
また、本発明の撮影装置は、上記検出部が、手ぶれ補正のための第1の周波数領域の揺れを検出するとともにローパスフィルタのための第2の周波数成分の振動を検出するものであって、
上記偏倚機構は、上記検出部が上記第2の周波数成分の所定量以上の振動を検出したときは、ローパスフィルタとしての動作を停止するものであってもよい。
【0012】
ローパスフィルタとして減衰させる高周波成分が、すでに手ぶれによる揺れの中に存在している時に、さらにローパスフィルタとしての機能を発揮させると、過剰に振動させることになる。本発明の撮影装置は、このような場合、ローパスフィルタとしての機能を停止させるため、このような過剰な振動を防止することができる。
【0013】
また、本発明の撮影装置は、上記偏倚機構が、上記撮像光学系を構成する光学素子を光軸と交わる方向に偏倚させるものであってもよい。
【0014】
また、手ぶれを補正するための動作のみを行う第1の偏倚機構と、少なくともローパスフィルタとしての動作を行う第2の偏倚機構とを有する本発明の撮影装置は、上記第2の偏倚機構と上記第1の偏倚機構の両方を動作させて手ぶれの補正を行う制御手段を有する
ものであってもよく、また、上記第1の偏倚機構が上記第2の偏倚機構よりもストロークが大きいアクチュエータを用いるものであってもよく、また、上記第2の偏倚機構が上記第1の偏倚機構よりも応答速度が高速な系で構成されているものであってもよい。
【0015】
第1の偏倚機構を手ぶれ補正に用いることに加えて、ローパスフィルタとしての動作を行うこともできる第2の偏倚機構を手ぶれ補正に用いることによって、手ぶれ補正の精度を向上させることができる。また、第1の偏倚機構が第2の偏倚機構よりもストロークが大きいアクチュエータを用いることにより、第1の偏倚機構を、ストロークの大きな手ぶれを補正することに特化させることができ、また、第1の偏倚機構よりも応答速度が高速な系で構成された第2の偏倚機構を用いることにより、第2の偏倚機構を高速な手ぶれを補正することに特化させることができ、手ぶれ補正の精度を一段と向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の撮影装置によれば、低コストでローパスフィルタの機能を備えることができる。また、請求項6〜8記載の構成をとることによって、第1の偏倚機構を、ストロークの大きな手ぶれを補正することに特化させることができるとともに、第2の偏倚機構を高速な手ぶれを補正することに特化させることができる。又両方の機構を組み合わせて使用するなどによって更に良好な手ぶれ補正を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[第一実施形態]
以下、手ぶれ補正機構をローパスフィルタとして兼用する本発明の撮影装置の一実施形態を第一実施形態として説明する。本実施形態の撮影装置は、手ぶれ補正機構をローパスフィルタとして兼用するデジタルカメラである。
【0018】
図1は、本発明の撮影装置の一実施形態であるデジタルカメラを前面斜め上から見た外観斜視図である。
【0019】
図1に示すように、このデジタルカメラ100Aの前面中央部には、撮影レンズ101が備えられている。また、このデジタルカメラ100Aの前面上部には、光学式ファインダ対物窓102および補助光発光部103が備えられている。さらに、このデジタルカメラ100の上面には、スライド式の電源スイッチ104およびレリーズスイッチ105が備えられている。
【0020】
図2は、図1に外観斜視図を示したデジタルカメラの概略構成図である。
【0021】
本実施形態のデジタルカメラ100Aでは、図2の左方から被写体光が入射し、シャッタ112が開いている場合は、レンズ1、レンズ2および後述する手ぶれ補正用レンズ3を経て、CCD4に結像する。本来撮影光学系には複数のレンズが配備されているが、この図2では、このような複数のレンズをレンズ1、レンズ2および後述する手ぶれ補正用レンズ3Aとして模式的に示している。シャッタ112は、制御部120からの信号に基づいて、シャッタモータ112aにより駆動され、シャッタのオン、オフを行う。また、手ぶれ補正用レンズ3Aは、制御部120Aからの信号に基づいて作動する駆動回路30Aによってボイスコイルモータ31Aが駆動されることにより、被写体光が入射する方向に対する垂直な平面内を移動する。図2においては、この移動可能な平面内のうち上下方向に動く様子が、図中に矢印で示されている。
【0022】
レリーズスイッチ105が押されて撮影が行われる際に手ぶれが起きるとその手ぶれは、角速度センサ5によって検出される。図2に示すようにこの角速度センサ5は2つ備えられており、一つは光軸に垂直な平面内のうち上下方向の手ぶれを検出する角速度センサ5であり、もう一つは水平方向の手ぶれを検出する角速度センサ5である。検出された手ぶれは制御部120Aに伝えられ、この手ぶれの影響を消すため制御部120Aからの指示によって手ぶれ補正用レンズ3Aが、CCD4に結像する被写体像がずれないように移動する。このような手ぶれ補正機能に加え、本実施形態のデジタルカメラ100Aでは、制御部120Aが駆動回路30Aを通じて手ぶれ補正用レンズ3Aが微小振動を起こすようにボイスコイルモータ31Aを駆動させる機構を持つ。この微小振動の周期は、撮影の際の露光時間に比べてはるかに短く、このため、この微小振動によって同じ被写体像が、結像位置をずらして重なり合ってCCD4に結像し、その結果、この微小振動の振幅に対応した空間的な所定のカットオフ周波数以上の高周波成分が減衰した画像信号が生成される。本実施形態のデジタルカメラ100Aは、このような機構により、手ぶれを補正する機能に加え、高周波成分が減衰したローパスフィルタとしても機能する。このときのカットオフ周波数は、微小振動の振幅を変化することで、撮影意図や撮影条件に合わせて変更できる。
【0023】
図3は、図1に外観を示し図2に概略構成図を示したデジタルカメラの手ぶれ補正レンズの駆動部分を表す模式図である。
【0024】
手ぶれ補正用レンズ3Aを支えるレンズ枠301Aがレンズベース302A上に備えられ、このレンズベース302Aに近接して2つのボイスコイルモータ31Aが設けられている。この2つのボイスコイルモータ31Aのうち、レンズベース302Aの上部に備えられているボイスコイルモータ31Aが、図において矢印Aで示すようにレンズベース302Aを上下方向に駆動することにより、レンズベース302Aがこの上下方向に移動する。さらに図においてレンズベース302Aの左側に備えられているもう1つのボイスコイルモータ31Aが、レンズベース302Aを図において矢印Bで示すように水平方向に駆動することにより、レンズベース302Aがこの水平方向に移動する。本実施形態のデジタルカメラ100Aは、このような機構により、手ぶれを補正するとともに、手ぶれ補正用レンズ3Aに、撮影の際の露光時間に比べてはるかに短い周期の微小振動を起こさせ、ローパスフィルタとしても機能する。このようにデジタルカメラ100Aは、手ぶれを補正する機構を利用してローパスフィルタとしての動作を行わさせるため、従来の水晶型ローパスフィルタや特許文献1記載の平行平面板を利用したローパスフィルタに比べ、ローパスフィルタを設けることに伴う付加的な装置を必要とせず、ローパスフィルタの機能を有する低コストのデジタルカメラが実現できる。
【0025】
図4は、手ぶれの波形、手ぶれを補正する手ぶれ補正波形、ローパスフィルタとしての効果を出すためのローパス効果波形、手ぶれ補正波形とローパス効果波形の合成波形、および画像の揺れの具体例を表す図である。
【0026】
以下では、この図4に示されている図4(a)〜図4(e)を参照しながら、本実施形態のデジタルカメラ100Aが手ぶれの補正、およびローパスフィルタとしての機能するために発生する波形について説明する。尚ここでは、図示および説明の簡便のため、図3の矢印A方向(あるいは、矢印B方向)に振動する一次元的な振動部分について説明する。
【0027】
図4(a)は、手ぶれの波形の一例、図4(b)はこの手ぶれを補正するための手ぶれ補正波形を、縦軸に角速度、横軸に時間をとって表した図である。
【0028】
図4(a)で表されるような波形の手ぶれが起きると、この手ぶれを角速度センサ5が検出して制御部120Aに伝える。そして、制御部120Aが駆動回路30Aを通じてボイスコイルモータ31Aを駆動させ、図4(b)で表されるように手ぶれの影響を消すため図4(a)の波形とは逆符号の振幅を持つ波形で記述される角速度で、手ぶれ補正用レンズ3Aを移動させる。
【0029】
図4(c)は、ローパスフィルタとしての効果を出すための微小振幅のローパス効果波形を表す図である。
【0030】
この微小振幅のローパス効果波形は、撮影の際の露光時間に比べてはるかに短い周期の微小振動をしており、このような微小振動する被写体像がCCD4に結像した結果、CCD4がこの微小振動の振幅に対応した空間的なカットオフ周波数以上の高周波成分が減衰した画像信号を生成することになり、高周波成分が減衰したローパスフィルタとしての機能が発揮される。
【0031】
図4(d)は、図4(b)の手ぶれ補正波形と図4(c)ローパス効果波形を合成した合成波形を表す図である。
【0032】
ローパスフィルタを働かせて高周波成分を減衰させる撮影の際に、手ぶれが発生する場合には、ローパスフィルタを働かせることと手ぶれの補正とを同時に行う必要がある。このような場合は、図4(d)に示すように手ぶれ補正波形とローパス効果波形を合成した合成波形で表される角速度で手ぶれ補正用レンズ3Aを偏倚させて、手ぶれの影響を補正すると同時にローパスフィルタも機能させる。
【0033】
図4(e)は、図4(d)の波形で表される角速度で手ぶれ補正用レンズ3Aを偏倚させて撮影をおこなった時の画像の揺れを表す図である。
【0034】
手ぶれの影響が手ぶれ補正波形で相殺されて、ローパス効果波形だけが残るため、露光時間tで撮影した画像中ではこの露光時間tの間のローパス効果波形の振動が画像の揺れとして反映され、このローパス効果波形の振幅に対応した空間的な高周波成分が減衰した画像が得られる。
【0035】
次に、手ぶれの波形の中にすでにローパスフィルタとして減衰させるべき高周波成分が含まれている場合の処理の方法について説明する。
【0036】
図5は、手ぶれ波形の中にすでに高周波成分が含まれている場合の処理の方法を示すフローチャートである。
【0037】
ローパスフィルタとして減衰させるべき高周波成分が、すでに手ぶれによる揺れの中に存在している時に、さらにローパスフィルタとしての機能を発揮させると、過剰に振動させることになる。そこで本実施形態のデジタルカメラ100Aでは、角速度センサ5が、手ぶれによる揺れの中に、ローパスフィルタとして減衰させるべき高周波成分を所定量以上検出した場合は、ステップS1でYesが選択され、ローパス効果波形を発生させることを停止する。手ぶれによる揺れの中に、ローパスフィルタとして減衰させるべき高周波成分を所定量以上検出しない場合は、ステップS1でNoが選択され、ローパス効果波形を発生させる。
【0038】
このように状況に応じてローパスフィルタとしての機能を停止させるため、過剰な振動を防止し、さらに不要な動作を省いて電力コストを下げて省エネ化を実現することができる。
[第二実施形態]
以下、手ぶれを補正するための動作のみを行う偏倚機構にさらに新たな機構を加えることで、ローパスフィルタとしての機能も有する本発明の撮影装置の一実施形態を第二実施形態として説明する。本実施形態の撮影装置は、手ぶれ補正機構にローパスフィルタとしての機構が加えられたデジタルカメラである。このデジタルカメラ100Bの外観は、図1で示されているデジタルカメラ100Aの外観と同じであり、従ってこのデジタルカメラ100Bの外観は、図1を参照することとし、このデジタルカメラ100Bの外観の図示は省略する。
【0039】
図6は、手ぶれを補正するための動作のみを行う偏倚機構にローパスフィルタとしての機構が加えられたデジタルカメラの構成概略図である。
【0040】
図6のデジタルカメラ100Bの構成概略図において、図2に概略構成図を示したデジタルカメラ100Aの、図面上の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して示し、同一の構成要素についての重複説明は省略する。図6において、図2に示した概略構成図中の構成要素と異なる構成要素は、補正用レンズとこのレンズを駆動するための構成要素であり、以下ではこれらの構成要素について説明する。
【0041】
手ぶれ補正用レンズ3Bは、制御部120Bからの信号に基づいて作動する駆動回路30Bによってボイスコイルモータ31Bが駆動されて、被写体光が入射する方向に対する垂直な平面内を移動する構成になっている。このボイスコイルモータ31Bの駆動により手ぶれの補正が行われる。さらにデジタルカメラ100Bにおいては、模式的に示す圧電バイモルフ32Bが備えられ、この圧電バイモルフ32Bの駆動によって手ぶれ補正用レンズ3Bが被写体光が入射する方向に対する垂直な平面内において、撮影の際の露光時間に比べてはるかに短い周期の微小振動を起こす。その結果CCD4が、この微小振動の振幅に対応した空間的なカットオフ周波数以上の高周波成分が減衰した画像信号を生成し、ローパスフィルタとしての機能が発揮される。このときのカットオフ周波数は、微小振動の振幅を変化することで、撮影意図や撮影条件に合わせて変更できる。このような圧電バイモルフ32Bの駆動の制御は、駆動回路34Bを介して制御部120Bによって行われる。図6においては、これらボイスコイルモータ31Bと圧電バイモルフ32Bの2つの駆動装置が手ぶれ補正用レンズ3Bを駆動する方向のうち、矢印で示すように上下方向に動く様子が表されている。
【0042】
図7は、図6に概略構成図を示したデジタルカメラの手ぶれ補正レンズの駆動部分を表す模式図である。
【0043】
手ぶれ補正用レンズ3Bを支えるレンズ枠301Bがレンズ台303B上に備えられ、さらにこのレンズ台303Bは、レンズベース302B上に備えられている。このレンズベース302Bに近接して2つのボイスコイルモータ31Bが設けられている。この2つのボイスコイルモータ31Bのうち、レンズベース302Bの上部に備えられているボイスコイルモータ31Bが、レンズベース302Bを、図において矢印Aで示すように上下方向に駆動することにより、レンズベース302Bがこの上下方向に移動する。さらに図においてレンズベース302Bの左側に備えられているもう1つのボイスコイルモータ31Bが、レンズベース302Bを、図において矢印Bで示すように水平方向に駆動することにより、レンズベース302Bがこの水平方向に移動する。
【0044】
さらにデジタルカメラ100Bにおいては、2つの圧電バイモルフ32Bを備えており、1つの圧電バイモルフ32Bは、レンズ枠301Bの上側に設けられており、もう1つの圧電バイモルフ32Bは、図においてレンズ台303Bの右側に設けられている。この2つの圧電バイモルフ32Bのうち、レンズ枠301Bの上側に備えられている圧電バイモルフ32Bが、レンズ枠301Bを図の矢印Cで示す上下方向に駆動することによって、レンズ枠301Bが、この上下方向に移動する。このときレンズ枠301Bの下側に備えられているアーム33Bが、レンズ枠301Bの上側に備えられている圧電バイモルフ32Bの動きに合わせて同じようにこの上下方向にしなって湾曲する。さらにレンズ台303Bの右側に設けられているもう1つの圧電バイモルフ32Bが、レンズ台303Bを図の矢印Dで示す水平方向に駆動することによって、レンズ台303Bがこの水平方向に移動する。このときレンズ台303Bの左側に備えられているアーム33Bが、レンズ台303Bの右側に備えられている圧電バイモルフ32Bの動きに合わせて同じようにこの水平方向にしなって湾曲する。このような2つの圧電バイモルフ32Bの駆動と2つのアーム33Bの湾曲によって、手ぶれ補正用レンズ3Bが被写体光が入射する方向に対する垂直な平面内において微小振動を起こす。以下では、圧電バイモルフ32Bの駆動とアーム33Bの湾曲をによって手ぶれ補正用レンズ3Bが移動する様子を、水平方向のうち右方向に移動する場合を例にとって説明する。
【0045】
図8は、手ぶれ補正用レンズが、水平方向のうち右方向に移動する様子を表す模式図である。
【0046】
図8の模式図において、図7に示す手ぶれ補正レンズの駆動部分を表す模式図の、図面上の構成要素と同一の構成要素には同一の符号を付して示し、同一の構成要素についての重複説明は省略する。
【0047】
図8(a)は、手ぶれ補正用レンズが、レンズ台の左右に備えられているアームと圧電バイモルフの中心に位置している状態、図8(b)は、圧電バイモルフ32Bの駆動によって手ぶれ補正用レンズが、図8(a)よりも右方向に移動した状態を表す図である。
【0048】
レンズ台303Bの右側に備えられている圧電バイモルフ32Bが、図8(b)において矢印Eで示す右方向にレンズ台303Bを駆動すると、レンズ台303Bの左側に備えられているアーム33Bが、図8(b)において矢印Fで示すように矢印Eと同じ右方向にしなって湾曲する。この結果、図8(b)において矢印Gで示すように手ぶれ補正用レンズがレンズ台303Bごと右方向に移動する。
【0049】
このようにボイスコイルモータ31Bが手ぶれ補正用レンズ3Bを移動させる機構に加えて、圧電バイモルフ32Bが手ぶれ補正用レンズ3Bを移動させる機構を備えることで、ローパスフィルタの機能を発揮する偏倚機構は、ローパスフィルタとして動作することに適した構造を備えることができ、手ぶれ補正の機能とローパスフィルタの機能を兼ね備えている場合に比べて、より高速かつ高精度な駆動を行うローパスフィルタが実現される。また、ボイスコイルモータ31Bは手ぶれ補正に必要とされる周波数領域の振動を発生するのに適しており、一方、圧電バイモルフ32Bは、ローパスフィルタとして機能させるために必要とされる、手ぶれ補正の周波数よりももっと高い周波数領域の振動を発生するのに適しており、これらの駆動装置を用いることで、手ぶれ補正の性能、およびローパスフィルタとしての性能を高めることができる。
【0050】
さらに、ボイスコイルモータ31Bと圧電バイモルフ33Bの両方を手ぶれ補正に用いることもできる。圧電バイモルフ33Bを用いた本実施形態の偏倚機構のようなローパスフィルタを機能を持つ偏倚機構を、手ぶれ補正にも用いることによって、手ぶれ補正の精度を向上させることができる。また、ボイスコイルモータ31Bは、圧電バイモルフ32Bよりもストロークが大きいアクチュエータであり、ストロークの大きな手ぶれを補正することに適している。また、圧電バイモルフ32Bは、ボイスコイルモータ31Bよりも応答速度が高速であり、高速な手ぶれを補正することに適している。
【0051】
手ぶれの補正のための手ぶれ補正波形、ローパスフィルタのためのローパス効果波形については、これらの波を発生させるための駆動装置がそれぞれボイスコイルモータ31Bおよび圧電バイモルフ32Bであり、このような互いに異なる2つの駆動装置を用いている点を除けば、図4で具体例を挙げて説明した効果と同じ効果を生じるため、ここでは重複説明は省略する。また、手ぶれの波形中にすでに高周波成分が含まれている場合の処理についても、図5においてフローチャートを用いて説明した処理と同じであり、ここでは重複説明は省略する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の撮影装置の一実施形態であるデジタルカメラを前面斜め上から見た外観斜視図である。
【図2】図1に外観斜視図を示したデジタルカメラの概略構成図である。
【図3】図1に外観を示し図2に概略構成図を示したデジタルカメラの手ぶれ補正レンズの駆動部分を表す模式図である。
【図4】手ぶれの波形、手ぶれを補正する手ぶれ補正波形、ローパスフィルタとしての効果を出すためのローパス効果波形、手ぶれ補正波形とローパス効果波形の合成波形、および画像の揺れの具体例を表す図である。
【図5】手ぶれ波形の中にすでに高周波成分が含まれている場合の処理の方法を示すフローチャートである。
【図6】手ぶれを補正するための動作のみを行う偏倚機構にローパスフィルタとしての機構が加えられたデジタルカメラの構成概略図である。
【図7】図6に概略構成図を示したデジタルカメラの手ぶれ補正レンズの駆動部分を表す模式図である。
【図8】手ぶれ補正用レンズが、水平方向のうち右方向に移動する様子を表す模式図である。
【符号の説明】
【0053】
1 レンズ
2 レンズ
3A,3B 手ぶれ補正用レンズ
4 CCD
5 角速度センサ
30A、30B 駆動回路
31A,31B ボイスコイルモータ
32B 圧電バイモルフ
33B アーム
34B 駆動回路
100 デジタルカメラ
101 撮影レンズ
102 光学式ファインダ対物窓
103 補助光発光部
104 電源スイッチ
105 レリーズスイッチ
112 シャッタ
112a シャッタモータ
120A,120B 制御部
301A、301B レンズ枠
302A、302B レンズベース
303B レンズ台

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮影光学系により結像された被写体像を撮像素子で捉えて画像信号を生成する撮影装置において、
手ぶれを検出する検出部と、
前記撮影光学系の光軸と前記撮像素子を相対的に偏倚させる偏倚機構と、
前記偏倚機構に、前記撮像素子により所定の高周波成分が減衰した画像信号を生成させるためのローパスフィルタとしての動作を行わさせるとともに、前記偏倚機構に、前記検出部による手ぶれ検出結果に基づいて手ぶれを補正するための動作を行わせる偏倚機構制御部とを備えたことを特徴とする撮影装置。
【請求項2】
前記偏倚機構が、手ぶれを補正するための動作のみを行う第1の偏倚機構と、少なくともローパスフィルタとしての動作を行う第2の偏倚機構とを有するものであることを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項3】
前記第1の偏倚機構がボイスコイルモータを備えたものであり、前記第2の偏倚機構が圧電バイモルフを備えたものであることを特徴とする請求項2記載の撮影装置。
【請求項4】
前記検出部が、手ぶれ補正のための第1の周波数領域の揺れを検出するとともにローパスフィルタのための第2の周波数成分の振動を検出するものであって、
前記偏倚機構は、前記検出部が前記第2の周波数成分の所定量以上の振動を検出したときは、ローパスフィルタとしての動作を停止するものであることを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項5】
前記偏倚機構が、前記撮像光学系を構成する光学素子を光軸と交わる方向に偏倚させるものであることを特徴とする請求項1記載の撮影装置。
【請求項6】
前記第2の偏倚機構と前記第1の偏倚機構の両方を動作させて手ぶれの補正を行う制御手段を有する請求項2記載の撮影装置。
【請求項7】
前記第1の偏倚機構は、前記第2の偏倚機構よりもストロークが大きいアクチュエータを用いることを特徴とする請求項2又は6記載の撮影装置。
【請求項8】
前記第2の偏倚機構は前記第1の偏倚機構よりも応答速度が高速な系で構成されていることを特徴とする請求項2又は6記載の撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−101452(P2006−101452A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−288146(P2004−288146)
【出願日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】