擁壁
【課題】H形鋼杭が曲がって打ち込まれたり、打ち込み高さ(杭上端高さ)に誤差があっても、容易かつ安価に施工でき、信頼性にも優れた擁壁を得ること。
【解決手段】該擁壁パネルを結合手段によってH形鋼杭に結合する擁壁であって、結合手段を、擁壁パネル背面の所定位置に、先端部に設けられたボルト孔を露出して埋め込まれたアンカーと、後端部にボルト孔を、先端部に雄ねじを有する引張ボルトと、左右両端部にボルト孔を有する受部材とで構成する。アンカーと引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し引張ボルトを擁壁パネルの背面からH形鋼杭の面と直角方向に突出配置する。受部材をその左右両端部のボルト孔が前記H形鋼杭の両側に露出するように該H形鋼杭の裏面に配置すると共に、そのH形鋼杭の両側に露出したボルト孔のそれぞれに前記引張ボルト先端部を挿通してナットで締め付ける。
【解決手段】該擁壁パネルを結合手段によってH形鋼杭に結合する擁壁であって、結合手段を、擁壁パネル背面の所定位置に、先端部に設けられたボルト孔を露出して埋め込まれたアンカーと、後端部にボルト孔を、先端部に雄ねじを有する引張ボルトと、左右両端部にボルト孔を有する受部材とで構成する。アンカーと引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し引張ボルトを擁壁パネルの背面からH形鋼杭の面と直角方向に突出配置する。受部材をその左右両端部のボルト孔が前記H形鋼杭の両側に露出するように該H形鋼杭の裏面に配置すると共に、そのH形鋼杭の両側に露出したボルト孔のそれぞれに前記引張ボルト先端部を挿通してナットで締め付ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差のある地形の段差部分に構築されたり、河岸又は海岸の護岸として構築される擁壁に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、所定間隔で打ち込んだ複数のH形鋼杭と、該H形鋼杭の前面に沿って連続して設けたプレキャストコンクリート製の擁壁パネルから成り、該擁壁パネルは結合手段によって前記H形鋼杭に結合支持される擁壁(護岸)が開示されている。
この擁壁の結合手段は、頭繋ぎ材又は腹起し材を、前記H形鋼杭の頭部を連結して設け、前記擁壁パネルの背面上部に背面方向に突出する掛止部を設け、該掛止部を前記頭繋ぎ材又は腹起し材に結合するものである。
【特許文献1】特開2005−54476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の擁壁は、H形鋼杭が真っ直ぐに、所定の高さまで打ち込まれていれば良いのであるが、曲がって打ち込まれたり、打ち込み高さ(杭上端高さ)に誤差があると、頭繋ぎ材又は腹起し材を現場溶接を用いて取り付けなければならない。現場溶接は、作業手間、コストがかかるばかりでなく、信頼性にも問題がある。
現実には、H形鋼杭を真っ直ぐに、所定の高さまで打ち込むのはほとんど不可能であるので、頭繋ぎ材又は腹起し材を設けるために作業手間、コストがかかり、信頼性にも欠けるという問題があった。
また、頭繋ぎ材又は腹起し材は擁壁の全長に亘って必要であるので、多くの鋼材を有し、コスト高であるという問題もあった。
本発明は、H形鋼杭が曲がって打ち込まれたり、打ち込み高さ(杭上端高さ)に誤差があっても、容易かつ安価に施工でき、信頼性にも優れた擁壁を開発するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、
所定間隔で打ち込んだ複数のH形鋼杭と、該H形鋼杭の前面に沿って連続して設けたプレキャストコンクリート製の擁壁パネルとを有し、該擁壁パネルは結合手段によって前記H形鋼杭に結合され、
該結合手段は、前記擁壁パネル背面の所定位置に、先端部に設けられたボルト孔を露出して埋め込まれたアンカーと、後端部にボルト孔を、先端部に雄ねじを有する引張ボルトと、左右両端部にボルト孔を有する受部材とを有し、
前記アンカーと前記引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し前記引張ボルトを前記擁壁パネルの背面から前記H形鋼杭の面と直角方向に突出配置し、
前記受部材をその左右両端部のボルト孔が前記H形鋼杭の両側に露出するように該H形鋼杭の裏面に配置すると共に、
そのH形鋼杭の両側に露出したボルト孔のそれぞれに前記引張ボルト先端部を挿通してナットで締め付けるものであることを特徴とする擁壁である。
【0005】
アンカーと引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し引張ボルトを擁壁パネルの背面から突出配置するとき、引張ボルトの方向はアンカーに対して自由に角度調整できる。このため、H形鋼杭の向きが曲がっていても、引張ボルトを、曲がったH形鋼杭の面と直角方向に突出配置することが可能となる。これにより、引張ボルトを受部材にしっかりと結合でき、擁壁パネルが背面の土圧に対して確実に抵抗できるようになる。
【0006】
本発明において、H形鋼杭を前記擁壁パネルの継目に位置せしめ、前記アンカーを前記擁壁パネルの左右両端部に設けることができる。
このようにすると、1本のH形鋼杭で隣り合う2枚の擁壁パネルのそれぞれの端部を支持できるので、H形鋼杭の数が擁壁パネルの数より1本多い数ですみ、合理的なものとなる。
【0007】
本発明において、前記受部材のボルト孔を、水平方向に長くなっている長穴とすることができる。
このようにすることで、H形鋼杭の向きが著しく曲がっている場合にも対応することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の擁壁は、アンカーと引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し引張ボルトを擁壁パネルの背面から突出配置するとき、引張ボルトの方向はアンカーに対して自由に角度調整できるので、H形鋼杭の向きが曲がっていても、引張ボルトを、曲がったH形鋼杭の面と直角方向に突出配置し、結合手段でH形鋼杭と擁壁パネルをしっかりと結合することが可能となり、これにより、擁壁パネルが背面の土圧に対して確実に抵抗できるようになる。
また、結合手段は、H形鋼杭の頭部に設ける必要がないので、H形鋼杭の打ち込み高さに誤差があっても問題ない。
さらに、結合手段で使用する鋼材の量は比較的僅かで、現場溶接も必要ないので、低コストで施工でき、信頼性にも優れるものである。
【実施例】
【0009】
図1〜4に実施例の擁壁を示す。この擁壁は、H形鋼杭1、擁壁パネル2及び結合手段3からなる。結合手段3はアンカー4(図5)、引張ボルト7(図8)、受部材11(図11)などからなる。
【0010】
H形鋼杭は、適宜な所定間隔(例えば2m間隔)で、高い方の地盤の土圧に耐えられるように、低い方の地盤面よりも十分深く打ち込まれる。擁壁パネル2はプレキャストコンクリート製で、図1に示すように、H形鋼杭1の前面に沿って連続して設けられる。この場合は、H形鋼杭1が擁壁パネル2の継目2aに位置するようになっている。またこの場合は、擁壁パネル2は捨てコンクリート16の上に支持されているが、このような地業に限らず、例えばH形鋼杭の前面に鉄板、鋼材などの支持材を溶接などで張り出し固定し、その支持材上で擁壁パネルを支持させることもできる。擁壁パネル2の所定位置にはアンカー4が埋め込まれている。この所定位置とは、平面視においてH形鋼杭の両側となる位置で、側面視においては所望の高さに所望の段数設けることができる。この場合は、平面視において擁壁パネル2の左右両端部であり、側面視において上下2段に設けている。
【0011】
アンカー4は、図5に示すように、金属(鉄)製の板状部材で、先端部に上下方向に貫通するボルト穴5を有し、後端部は碇着部6となっており、図4に示すように、後端部の碇着部6が擁壁パネル2に埋め込まれ、先端部のボルト穴5が擁壁パネル2の背面に露出している。なお、図5において、上段は平面、下段は側面を示している。後端部の碇着部6は、軸方向に沿って中央に切り込みが入れられ、その両側部分が上下反対方向に曲げられている。これにより、アンカー4に引張力が生じた場合アンカーが擁壁パネルから抜け難いようになっている。
【0012】
図6、7にアンカーの他例を示す。図6は上段に平面、下段に側面を示し、図7は平面を示している。図6のアンカー4は金属製の板状部材で、先端部にボルト穴5を有し、後端部は碇着部6となっている。碇着部6は丸棒を軸線と直角方向に溶接したもので、これによりアンカーが擁壁パネルから抜け難くなっている。図7のアンカー4は金属製の棒状部材(丸棒)で、先端部にボルト穴5を有し、後端部は碇着部6となっている。ボルト穴5は丸棒の先端を丸環状に加工したもので、碇着部6は丸棒の後端を軸線と直角方向に曲げて形成している。
このように、本発明におけるアンカーは、先端部にボルト孔を有し、擁壁パネルから抜け難いものであればよい。
【0013】
アンカー4には、図2、4に示すように、引張ボルト7が取り付けられる。図8(上段が平面、下段が側面、先端部側は省略)に示すように、引張ボルト7の後端部8は、ボルト本体の後端に2枚の板状部材を上下から挟み込むようにして溶接固定したもので、これら2枚の板状部材には上下方向に貫通するボルト孔9が同じ位置に設けられている。アンカー4のボルト孔5と、引張ボルト7のボルト孔9を合わせ、ボルト13をこれらボルト孔に挿入し、ナット14で締め付けてアンカー4と引張ボルト7を結合する。この際、アンカーの軸線と引張ボルトの軸線は自由に傾けて結合することができるので、図2のようにH形鋼杭が曲がって打ち込まれた場合でも、引張ボルトの軸線をH形鋼杭の面1aに直角になるようにすることができる。
引張ボルト7の先端部10には雄ねじが形成されているが、雄ねじは引張ボルトの全長に亘って形成してもよい。
【0014】
図9、10に引張ボルトの他例を示す。図9は上段に平面、下段に側面を示し、図10は平面を示しており、全て先端部側は省略している。図9の引張ボルト7の後端部8は、ボルト本体の後端に1枚の板状部材を下から溶接固定したもので、この板状部材には上下方向に貫通するボルト孔9が設けられている。図10の引張ボルト7の後端部8は、ボルトの後端を丸環状に加工し、上下方向に貫通するボルト孔9を形成している。
このように、本発明における引張ボルトは、その後端に種々の方法によってボルト孔を設けることができる。
【0015】
図2に示すように、受部材11(図11)を、その左右両端部のボルト孔12がH形鋼杭1の左右両側に露出するようにH形鋼杭1の裏面に配置すると共に、そのH形鋼杭1の両側に露出したボルト孔12の各々に、引張ボルト先端部10を挿通し、ナット15で締め付ける。これにより、擁壁パネル2は背面方向に引っ張られ、背面に作用する高い方の地盤の土圧に対抗することができる。引張ボルト7の軸線はH形鋼杭1の面1aに直角であるので、受部材11の軸線とも直角となり、引張ボルト7と受部材11をしっかりと固定でき、確実に土圧に対抗することができる。
この場合、図11に示すように、受部材11はL形鋼(いわゆる「アングル」)で、その垂直面の両端部に、水平方向に長くなっている長穴であるボルト孔12が水平方向に貫通して設けられている。なお、図11において、左側は正面、右側はボルト孔12部分の断面を示している。
【0016】
図12に受部材の他例を示す。同図においても、左側は正面、右側はボルト孔12部分の断面を示している。この受板材11はコ字形鋼(いわゆる「チャンネル」で、その垂直面の両端部に、水平方向に長くなっている長穴であるボルト孔12が水平方向に貫通して設けられている。このように、受部材は水平方向に貫通するボルト孔を設けることができ、かつ引張ボルトに作用する引張力を支えることができるものであればどのようなものでもよいが、L形鋼、コ字形鋼、H形鋼、I形鋼などの鋼材とするのが最も適当である。
【0017】
擁壁パネル2の裏側には、高い方の地盤の土砂が埋め戻されるので、図2〜4のように、擁壁パネル背面とH形鋼杭前面の間に隙間があっても、その隙間には土砂が充填され、擁壁パネルが背面側に変位するおそれはないが、場合によっては、擁壁パネル背面とH形鋼杭前面の隙間に、適当なパッキンを設けることもできる。パッキンとしては、例えば土嚢袋に未硬化のモルタルやコンクリートを詰めたもの(自在に変形可能)を擁壁パネル背面とH形鋼杭前面の隙間に入れ込んで使用することができる。土嚢袋の内部のモルタルなどが硬化することでパッキンとして作用し、擁壁パネルが背面側に変位するのが完全に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例の擁壁の平面図である。
【図2】実施例の擁壁の平面詳細図である。
【図3】実施例の擁壁の断面図である。
【図4】実施例の擁壁の断面詳細図である。
【図5】アンカーの一例の説明図である。
【図6】アンカーの他の一例の説明図である。
【図7】アンカーの他の一例の説明図である。
【図8】引張ボルトの一例の部分説明図である。
【図9】引張ボルトの他の一例の部分説明図である。
【図10】引張ボルトの他の一例の部分説明図である。
【図11】受部材の一例の説明図である。
【図12】受部材の他の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1 H形鋼杭
2 擁壁パネル
3 結合手段
4 アンカー
5 ボルト穴
6 碇着部
7 引張ボルト
8 後端部
9 ボルト孔
10 先端部
11 受部材
12 ボルト孔
13 ボルト
14 ナット
15 ナット
16 捨てコンクリート
【技術分野】
【0001】
本発明は、段差のある地形の段差部分に構築されたり、河岸又は海岸の護岸として構築される擁壁に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、所定間隔で打ち込んだ複数のH形鋼杭と、該H形鋼杭の前面に沿って連続して設けたプレキャストコンクリート製の擁壁パネルから成り、該擁壁パネルは結合手段によって前記H形鋼杭に結合支持される擁壁(護岸)が開示されている。
この擁壁の結合手段は、頭繋ぎ材又は腹起し材を、前記H形鋼杭の頭部を連結して設け、前記擁壁パネルの背面上部に背面方向に突出する掛止部を設け、該掛止部を前記頭繋ぎ材又は腹起し材に結合するものである。
【特許文献1】特開2005−54476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記特許文献1の擁壁は、H形鋼杭が真っ直ぐに、所定の高さまで打ち込まれていれば良いのであるが、曲がって打ち込まれたり、打ち込み高さ(杭上端高さ)に誤差があると、頭繋ぎ材又は腹起し材を現場溶接を用いて取り付けなければならない。現場溶接は、作業手間、コストがかかるばかりでなく、信頼性にも問題がある。
現実には、H形鋼杭を真っ直ぐに、所定の高さまで打ち込むのはほとんど不可能であるので、頭繋ぎ材又は腹起し材を設けるために作業手間、コストがかかり、信頼性にも欠けるという問題があった。
また、頭繋ぎ材又は腹起し材は擁壁の全長に亘って必要であるので、多くの鋼材を有し、コスト高であるという問題もあった。
本発明は、H形鋼杭が曲がって打ち込まれたり、打ち込み高さ(杭上端高さ)に誤差があっても、容易かつ安価に施工でき、信頼性にも優れた擁壁を開発するためになされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、
所定間隔で打ち込んだ複数のH形鋼杭と、該H形鋼杭の前面に沿って連続して設けたプレキャストコンクリート製の擁壁パネルとを有し、該擁壁パネルは結合手段によって前記H形鋼杭に結合され、
該結合手段は、前記擁壁パネル背面の所定位置に、先端部に設けられたボルト孔を露出して埋め込まれたアンカーと、後端部にボルト孔を、先端部に雄ねじを有する引張ボルトと、左右両端部にボルト孔を有する受部材とを有し、
前記アンカーと前記引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し前記引張ボルトを前記擁壁パネルの背面から前記H形鋼杭の面と直角方向に突出配置し、
前記受部材をその左右両端部のボルト孔が前記H形鋼杭の両側に露出するように該H形鋼杭の裏面に配置すると共に、
そのH形鋼杭の両側に露出したボルト孔のそれぞれに前記引張ボルト先端部を挿通してナットで締め付けるものであることを特徴とする擁壁である。
【0005】
アンカーと引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し引張ボルトを擁壁パネルの背面から突出配置するとき、引張ボルトの方向はアンカーに対して自由に角度調整できる。このため、H形鋼杭の向きが曲がっていても、引張ボルトを、曲がったH形鋼杭の面と直角方向に突出配置することが可能となる。これにより、引張ボルトを受部材にしっかりと結合でき、擁壁パネルが背面の土圧に対して確実に抵抗できるようになる。
【0006】
本発明において、H形鋼杭を前記擁壁パネルの継目に位置せしめ、前記アンカーを前記擁壁パネルの左右両端部に設けることができる。
このようにすると、1本のH形鋼杭で隣り合う2枚の擁壁パネルのそれぞれの端部を支持できるので、H形鋼杭の数が擁壁パネルの数より1本多い数ですみ、合理的なものとなる。
【0007】
本発明において、前記受部材のボルト孔を、水平方向に長くなっている長穴とすることができる。
このようにすることで、H形鋼杭の向きが著しく曲がっている場合にも対応することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の擁壁は、アンカーと引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し引張ボルトを擁壁パネルの背面から突出配置するとき、引張ボルトの方向はアンカーに対して自由に角度調整できるので、H形鋼杭の向きが曲がっていても、引張ボルトを、曲がったH形鋼杭の面と直角方向に突出配置し、結合手段でH形鋼杭と擁壁パネルをしっかりと結合することが可能となり、これにより、擁壁パネルが背面の土圧に対して確実に抵抗できるようになる。
また、結合手段は、H形鋼杭の頭部に設ける必要がないので、H形鋼杭の打ち込み高さに誤差があっても問題ない。
さらに、結合手段で使用する鋼材の量は比較的僅かで、現場溶接も必要ないので、低コストで施工でき、信頼性にも優れるものである。
【実施例】
【0009】
図1〜4に実施例の擁壁を示す。この擁壁は、H形鋼杭1、擁壁パネル2及び結合手段3からなる。結合手段3はアンカー4(図5)、引張ボルト7(図8)、受部材11(図11)などからなる。
【0010】
H形鋼杭は、適宜な所定間隔(例えば2m間隔)で、高い方の地盤の土圧に耐えられるように、低い方の地盤面よりも十分深く打ち込まれる。擁壁パネル2はプレキャストコンクリート製で、図1に示すように、H形鋼杭1の前面に沿って連続して設けられる。この場合は、H形鋼杭1が擁壁パネル2の継目2aに位置するようになっている。またこの場合は、擁壁パネル2は捨てコンクリート16の上に支持されているが、このような地業に限らず、例えばH形鋼杭の前面に鉄板、鋼材などの支持材を溶接などで張り出し固定し、その支持材上で擁壁パネルを支持させることもできる。擁壁パネル2の所定位置にはアンカー4が埋め込まれている。この所定位置とは、平面視においてH形鋼杭の両側となる位置で、側面視においては所望の高さに所望の段数設けることができる。この場合は、平面視において擁壁パネル2の左右両端部であり、側面視において上下2段に設けている。
【0011】
アンカー4は、図5に示すように、金属(鉄)製の板状部材で、先端部に上下方向に貫通するボルト穴5を有し、後端部は碇着部6となっており、図4に示すように、後端部の碇着部6が擁壁パネル2に埋め込まれ、先端部のボルト穴5が擁壁パネル2の背面に露出している。なお、図5において、上段は平面、下段は側面を示している。後端部の碇着部6は、軸方向に沿って中央に切り込みが入れられ、その両側部分が上下反対方向に曲げられている。これにより、アンカー4に引張力が生じた場合アンカーが擁壁パネルから抜け難いようになっている。
【0012】
図6、7にアンカーの他例を示す。図6は上段に平面、下段に側面を示し、図7は平面を示している。図6のアンカー4は金属製の板状部材で、先端部にボルト穴5を有し、後端部は碇着部6となっている。碇着部6は丸棒を軸線と直角方向に溶接したもので、これによりアンカーが擁壁パネルから抜け難くなっている。図7のアンカー4は金属製の棒状部材(丸棒)で、先端部にボルト穴5を有し、後端部は碇着部6となっている。ボルト穴5は丸棒の先端を丸環状に加工したもので、碇着部6は丸棒の後端を軸線と直角方向に曲げて形成している。
このように、本発明におけるアンカーは、先端部にボルト孔を有し、擁壁パネルから抜け難いものであればよい。
【0013】
アンカー4には、図2、4に示すように、引張ボルト7が取り付けられる。図8(上段が平面、下段が側面、先端部側は省略)に示すように、引張ボルト7の後端部8は、ボルト本体の後端に2枚の板状部材を上下から挟み込むようにして溶接固定したもので、これら2枚の板状部材には上下方向に貫通するボルト孔9が同じ位置に設けられている。アンカー4のボルト孔5と、引張ボルト7のボルト孔9を合わせ、ボルト13をこれらボルト孔に挿入し、ナット14で締め付けてアンカー4と引張ボルト7を結合する。この際、アンカーの軸線と引張ボルトの軸線は自由に傾けて結合することができるので、図2のようにH形鋼杭が曲がって打ち込まれた場合でも、引張ボルトの軸線をH形鋼杭の面1aに直角になるようにすることができる。
引張ボルト7の先端部10には雄ねじが形成されているが、雄ねじは引張ボルトの全長に亘って形成してもよい。
【0014】
図9、10に引張ボルトの他例を示す。図9は上段に平面、下段に側面を示し、図10は平面を示しており、全て先端部側は省略している。図9の引張ボルト7の後端部8は、ボルト本体の後端に1枚の板状部材を下から溶接固定したもので、この板状部材には上下方向に貫通するボルト孔9が設けられている。図10の引張ボルト7の後端部8は、ボルトの後端を丸環状に加工し、上下方向に貫通するボルト孔9を形成している。
このように、本発明における引張ボルトは、その後端に種々の方法によってボルト孔を設けることができる。
【0015】
図2に示すように、受部材11(図11)を、その左右両端部のボルト孔12がH形鋼杭1の左右両側に露出するようにH形鋼杭1の裏面に配置すると共に、そのH形鋼杭1の両側に露出したボルト孔12の各々に、引張ボルト先端部10を挿通し、ナット15で締め付ける。これにより、擁壁パネル2は背面方向に引っ張られ、背面に作用する高い方の地盤の土圧に対抗することができる。引張ボルト7の軸線はH形鋼杭1の面1aに直角であるので、受部材11の軸線とも直角となり、引張ボルト7と受部材11をしっかりと固定でき、確実に土圧に対抗することができる。
この場合、図11に示すように、受部材11はL形鋼(いわゆる「アングル」)で、その垂直面の両端部に、水平方向に長くなっている長穴であるボルト孔12が水平方向に貫通して設けられている。なお、図11において、左側は正面、右側はボルト孔12部分の断面を示している。
【0016】
図12に受部材の他例を示す。同図においても、左側は正面、右側はボルト孔12部分の断面を示している。この受板材11はコ字形鋼(いわゆる「チャンネル」で、その垂直面の両端部に、水平方向に長くなっている長穴であるボルト孔12が水平方向に貫通して設けられている。このように、受部材は水平方向に貫通するボルト孔を設けることができ、かつ引張ボルトに作用する引張力を支えることができるものであればどのようなものでもよいが、L形鋼、コ字形鋼、H形鋼、I形鋼などの鋼材とするのが最も適当である。
【0017】
擁壁パネル2の裏側には、高い方の地盤の土砂が埋め戻されるので、図2〜4のように、擁壁パネル背面とH形鋼杭前面の間に隙間があっても、その隙間には土砂が充填され、擁壁パネルが背面側に変位するおそれはないが、場合によっては、擁壁パネル背面とH形鋼杭前面の隙間に、適当なパッキンを設けることもできる。パッキンとしては、例えば土嚢袋に未硬化のモルタルやコンクリートを詰めたもの(自在に変形可能)を擁壁パネル背面とH形鋼杭前面の隙間に入れ込んで使用することができる。土嚢袋の内部のモルタルなどが硬化することでパッキンとして作用し、擁壁パネルが背面側に変位するのが完全に防止される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例の擁壁の平面図である。
【図2】実施例の擁壁の平面詳細図である。
【図3】実施例の擁壁の断面図である。
【図4】実施例の擁壁の断面詳細図である。
【図5】アンカーの一例の説明図である。
【図6】アンカーの他の一例の説明図である。
【図7】アンカーの他の一例の説明図である。
【図8】引張ボルトの一例の部分説明図である。
【図9】引張ボルトの他の一例の部分説明図である。
【図10】引張ボルトの他の一例の部分説明図である。
【図11】受部材の一例の説明図である。
【図12】受部材の他の一例の説明図である。
【符号の説明】
【0019】
1 H形鋼杭
2 擁壁パネル
3 結合手段
4 アンカー
5 ボルト穴
6 碇着部
7 引張ボルト
8 後端部
9 ボルト孔
10 先端部
11 受部材
12 ボルト孔
13 ボルト
14 ナット
15 ナット
16 捨てコンクリート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定間隔で打ち込んだ複数のH形鋼杭と、該H形鋼杭の前面に沿って連続して設けたプレキャストコンクリート製の擁壁パネルとを有し、該擁壁パネルは結合手段によって前記H形鋼杭に結合され、
該結合手段は、前記擁壁パネル背面の所定位置に、先端部に設けられたボルト孔を露出して埋め込まれたアンカーと、後端部にボルト孔を、先端部に雄ねじを有する引張ボルトと、左右両端部にボルト孔を有する受部材とを有し、
前記アンカーと前記引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し前記引張ボルトを前記擁壁パネルの背面から前記H形鋼杭の面と直角方向に突出配置し、
前記受部材をその左右両端部のボルト孔が前記H形鋼杭の両側に露出するように該H形鋼杭の裏面に配置すると共に、
そのH形鋼杭の両側に露出したボルト孔のそれぞれに前記引張ボルト先端部を挿通してナットで締め付けるものであることを特徴とする擁壁。
【請求項2】
前記H形鋼杭が前記擁壁パネルの継目に位置し、前記アンカーが前記擁壁パネルの左右両端部に設けられている請求項1に記載の擁壁。
【請求項3】
前記受部材のボルト孔が水平方向に長くなっている長穴である請求項1又は2に記載の擁壁。
【請求項1】
所定間隔で打ち込んだ複数のH形鋼杭と、該H形鋼杭の前面に沿って連続して設けたプレキャストコンクリート製の擁壁パネルとを有し、該擁壁パネルは結合手段によって前記H形鋼杭に結合され、
該結合手段は、前記擁壁パネル背面の所定位置に、先端部に設けられたボルト孔を露出して埋め込まれたアンカーと、後端部にボルト孔を、先端部に雄ねじを有する引張ボルトと、左右両端部にボルト孔を有する受部材とを有し、
前記アンカーと前記引張ボルトの双方のボルト孔を合わせてボルト・ナットで結合し前記引張ボルトを前記擁壁パネルの背面から前記H形鋼杭の面と直角方向に突出配置し、
前記受部材をその左右両端部のボルト孔が前記H形鋼杭の両側に露出するように該H形鋼杭の裏面に配置すると共に、
そのH形鋼杭の両側に露出したボルト孔のそれぞれに前記引張ボルト先端部を挿通してナットで締め付けるものであることを特徴とする擁壁。
【請求項2】
前記H形鋼杭が前記擁壁パネルの継目に位置し、前記アンカーが前記擁壁パネルの左右両端部に設けられている請求項1に記載の擁壁。
【請求項3】
前記受部材のボルト孔が水平方向に長くなっている長穴である請求項1又は2に記載の擁壁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
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【図4】
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【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2009−162029(P2009−162029A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2726(P2008−2726)
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(597100147)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【出願人】(597100147)
【Fターム(参考)】
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