説明

擬似位相整合素子の製造方法及び擬似位相整合素子

【課題】使用する治具の精度を必要以上に高くしなくても、基板を均一に負荷する。
【解決手段】基板31に結晶軸反転領域を周期的に形成した擬似位相整合素子を製造する方法である。基板31に当接する凸部32aa,32baを周期的に形成した対をなす荷重付与治具32a,32bを、一方の荷重付与治具32aに形成した凸部32aa間に他方の荷重付与治具32bに形成した凸部32baが位置するように、基板31を挟んで対向配置する。所定温度に加熱したこれら対をなす荷重付与治具32a,32bで、基板31を挟んで基板31に曲げ応力を与えることで、基板31に結晶軸反転領域を周期的に形成する。
【効果】荷重付与治具に形成する凸部を高い精度で製作しなくても、基板に均一の荷重を付与することができる。また、基板に圧縮荷重を作用させる従来方法と比べて、小さい荷重で基板に結晶軸反転領域を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基本となる波長のビームから所望の波長のビームを得ることができる擬似位相整合素子を製造する方法、及びこの方法を使用して製造した擬似位相整合素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
位相整合がとれていない素子の場合、一方端から基本となるビームを入射させると、波長を変換されたビームは、図3(b)の破線で示すように周期的に強弱を繰り返す。これに対し、擬似位相整合素子の場合、波長を変換されたビームは、図3(b)に実線で示すように、常に強度を増加させることができ、深紫外線等の所望の波長のビームを得ることができる。
【0003】
この擬似位相整合素子は、図3に示すように、水晶等の基板1に所望の波長に応じた所定形状の結晶軸反転領域1aを、コヒーレンス長の2倍の長さの周期で形成した構成である。
【0004】
例えば特許文献1、2では、表面に所望の波長変換を実現する周期で段差加工11aを施した基板11を、対をなすヒータブロック12a,12bで挟んで、応力印加装置13により一軸性垂直応力を印加して基板に結晶軸反転領域を形成している(図4参照)。なお、図4中の14は、対をなすヒータブロック12a,12bの温度を制御する制御装置である。
【0005】
しかしながら、特許文献1、2に記載された方法の場合、段差加工11aを施しているのは基板11の一方のみで、他方は平面であるため、基板11には圧縮応力のみが作用し、結晶軸反転領域を形成するには大きな力が必要になる。この際、基板11への応力印加が過度になると、基板11が破損する可能性があるので、高い精度で応力印加を行う必要がある。
【0006】
また、基板11に施す段差加工11aの高さが相違すると、基板11を均一に加圧することができず、所望の波長に応じた所定形状の結晶軸反転領域が得られなくなって、歩留まりが低下するので、高い精度で段差加工11aを行う必要がある。
【0007】
また、特許文献3では、シリコンウェハ等の基板21に形成した絶縁層22に、転写型23に設けたパターン23aを転写し、パターン23aが転写された絶縁層側と基板21の反絶縁層側に高電圧パルスを印加し、結晶軸反転領域を形成している(図5参照)。
【0008】
なお、図5中の24aは絶縁層22に転写されたパターン22a側に配置した電極、24bは基板21の反絶縁層側に配置した電極である。また、25は電源、26はOリング、27は液体電極である。
【0009】
この特許文献3に記載された方法は、転写型23のパターン23aを基板21に形成した絶縁層22に転写し、この絶縁層22に転写したパターン22a側と基板21の反絶縁層側に高電圧パルスを印加して結晶軸反転領域を形成するので、変換する波長ごとに転写型を用意する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−279612号公報
【特許文献2】特開2004−279613号公報
【特許文献3】特開2008−58763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明が解決しようとする問題点は、特許文献1、2に記載された方法では、製造に大きな力が必要であり、かつ、所望の波長に応じた所定形状の結晶軸反転領域を得るには、基板に施す応力の印加精度や段差の製作精度を高くする必要があるという点である。
【0012】
また、特許文献3に記載された方法では、変換する波長ごとに転写型を用意する必要があるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の擬似位相整合素子の製造方法は、
基板に結晶軸反転領域を周期的に形成した擬似位相整合素子を製造する際に、使用する治具の精度を必要以上に高くしなくても、基板を均一に負荷することができるようにするために、
前記基板に当接する凸部を周期的に形成した対をなす荷重付与治具を、一方の荷重付与治具に形成した凸部間に他方の荷重付与治具に形成した凸部が位置するように、前記基板を挟んで対向配置し、
所定温度に加熱したこれら対をなす荷重付与治具で、前記基板を挟んで基板に曲げ応力を与えることで、基板に結晶軸反転領域を周期的に形成することを最も主要な特徴としている。
【0014】
上記の本発明では、一方の荷重付与治具に形成した凸部間に他方の荷重付与治具に形成した凸部を位置させた対をなす荷重付与治具で、基板を挟んで基板に荷重を付与するので、基板を挟む両側の荷重付与治具による荷重負荷点が同一線上になく、基板に曲げ応力が作用するようになる。
【0015】
従って、荷重付与治具の凸部の製作精度を必要以上に高くしなくても、基板に均一の荷重を付与することができる。また、一方が平面形状の治具を用いて荷重を付与して、基板に圧縮荷重を作用させる従来方法と比べ、小さい荷重で基板に結晶軸反転領域を周期的に形成することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、一方の荷重付与治具に形成した凸部間に他方の荷重付与治具に形成した凸部を位置させた状態で基板に荷重を付与するので、基板に曲げ応力が作用し、前記凸部を高い精度で製作しなくても、基板に均一の荷重を付与することができる。
【0017】
また、基板への結晶軸反転領域の形成が、一方が平面形状の治具を用いて荷重を付与して、基板に垂直方向の圧縮荷重を作用させる従来方法と比べて、小さい荷重で行うことができるのと共に、反転領域の面方向の拡がりを抑え、かつ、直線的な反転領域の境界を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の擬似位相整合素子の製造方法を説明する図である。
【図2】本発明の擬似位相整合素子の製造方法に使用する荷重付与治具の他の例を示した図である。
【図3】擬似位相整合素子の説明図で、(a)は斜視図、(b)は波長変換の説明図である。
【図4】特許文献1、2に記載された方法の概略説明図で、(a)は全体図、(b)は要部拡大図である。
【図5】(a)〜(d)は特許文献3に記載された方法を、順を追って説明する概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
本発明では、使用する治具の精度を必要以上に高くしなくても、基板を均一に負荷するという目的を、一方の荷重付与治具に形成した凸部間に他方の荷重付与治具に形成した凸部を位置させることで実現した。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態を、図1を用いて詳細に説明する。
図1は本発明の擬似位相整合素子の製造方法を説明する図である。
【0021】
図1において、31は、α−石英からβ−石英ヘの分極反転温度が1atmの場合に573℃である、例えば厚さが1mmのドフィーネ双晶(ツイン)を形成し得る誘電体、具体的には水晶等の基板である。本発明方法では、この基板31に結晶軸反転領域を周期的に形成した本発明の擬似位相整合素子を、以下のようにして製造する。
【0022】
32a,32bは前記基板31の表裏面に当接させて基板31を負荷する、例えば頂角が60°で、頂点のR(アール)が5μmの山型の凸部32aa,32baを、例えば9μmの同一周期で形成した対をなす荷重付与治具である。前記基板31のモース硬度が7であることから、モース硬度が6のステンレスによって製作している。
【0023】
前記対をなす荷重付与治具32a,32bは、図1に示すように、一方の荷重付与治具32aに形成した凸部32aaの中間位置に、他方の荷重付与治具32bに形成した凸部32baが位置するように、前記基板31を挟んで対向配置する。
【0024】
そして、図示省略した加熱制御装置により例えば573℃に加熱したこれら対をなす荷重付与治具32a,32bで、前記基板31を表裏面から挟み、基板31の前記凸部32aa,32baが当接する位置に最大主応力が40N/mm2の曲げ応力を10分間与える。
【0025】
これにより、基板31の前記凸部32aa,32baが当接する9μmの周期で、双晶間で極性軸の反転が起こり、この双晶の周期配列で擬似位相整合を実現することができる。また、外部応力に対して2つの双晶間に弾性エネルギー差が生じるため、適切な結晶方位を選んで応力を印加することで、人工的に双晶、すなわち結晶軸反転領域を形成することができる。つまり、本発明方法では、結晶軸を反転させたい領域により、荷重付与治具32a,32bに形成する凸部32aa,32baの周期を決定する。
【0026】
上記本発明によれば、基板31を挟む両側の荷重付与治具32a,32bによる荷重負荷点が同一線上になく、基板に曲げ応力が作用するようになる。従って、荷重付与治具32a,32bに形成する凸部32aa,32baの製作精度を必要以上に高くしなくても、基板31に均一の荷重を付与することができる。
【0027】
また、一方が平面形状の治具を用いて荷重を付与して、基板に圧縮荷重を作用させる従来方法と比べ、小さい荷重で基板31に結晶軸反転領域を周期的に形成することができる。ちなみに、特許文献1、2で提案された従来方法により上記実施例と同じ基板に同様の結晶軸反転領域を形成する場合は、本発明方法の5倍の200N/mm2の曲げ応力を与える必要がある。
【0028】
なお、基板31の材質が異なる場合は、荷重付与治具32a,32bの加熱温度は当該基板31の分極反転温度とすることは言うまでもない。また、基板31の厚さが異なる場合も基板31に付加する最大主応力や負荷時間も最適に決定すべきことは言うまでもない。
【0029】
発明者らの実験によれば、水晶の基板31の場合、荷重付与治具32a,32bの加熱温度は400〜650℃の範囲、また基板31に負荷する最大主応力は20〜100N/mm2、負荷時間は5〜15分間の範囲で適宜決定することにより、結晶軸反転領域を形成することができた。
【0030】
本発明は、前記の例に限るものではなく、各請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0031】
例えば、荷重付与治具32a,32bに形成する凸部32aa,32baの形状は、付加する荷重を小さくする観点からは、図1に示したような山型とすることが望ましい。しかしながら、基板31を挟む凸部32aa,32baの間で圧縮応力を生じない周期的な配置であれば、図2に示すような側面視矩形状等、どのような形状でも良い。
【符号の説明】
【0032】
31 基板
32a,32b 荷重付与治具
32aa,32ba 凸部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に結晶軸反転領域を周期的に形成した擬似位相整合素子を製造する方法であって、
前記基板に当接する凸部を周期的に形成した対をなす荷重付与治具を、一方の荷重付与治具に形成した凸部間に他方の荷重付与治具に形成した凸部が位置するように、前記基板を挟んで対向配置し、
所定温度に加熱したこれら対をなす荷重付与治具で、前記基板を挟んで基板に曲げ応力を与えることで、基板に結晶軸反転領域を周期的に形成することを特徴とする擬似位相整合素子の製造方法。
【請求項2】
前記荷重付与治具に形成する凸部は、山型であることを特徴とする請求項1に記載の擬似位相整合素子の製造方法。
【請求項3】
前記基板が、ドフィーネ双晶を形成する誘電体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の擬似位相整合素子の製造方法。
【請求項4】
基板に結晶軸反転領域を周期的に形成した擬似位相整合素子であって、
請求項1〜3の何れかに記載の方法により製造したことを特徴とする擬似位相整合素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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