説明

攪拌翼およびバイオリアクタ

【課題】装置内を効果的に攪拌しつつランニングコストを低減できる攪拌翼及びバイオリアクタの提供。
【解決手段】回転軸周りに複数の翼部を有すると共に、液中で浮上するガスを上記翼部で捕集し、上記捕集したガスの浮力により上記回転軸周りに回転して上記液中を攪拌する攪拌翼であって、上記翼部は、上記回転する方向の一方側に設けられて上記ガスを捕集する第1ガス捕集部と、上記回転する方向の他方側に設けられて上記ガスを捕集する第2ガス捕集部とを有し、上記複数ある翼部のうちの、第1の翼部の上記第1ガス捕集部と、第2の翼部の上記第2ガス捕集部とを互いに連通させて上記捕集したガスをバイパスするバイパス管を有するという構成を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌翼およびバイオリアクタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、バイオマス原料を糖化し、それを酵母(微生物)を用いて発酵することにより、エタノールを生産する装置(バイオリアクタ)が開示されている。この酵母を用いる装置では、エタノールを生産する工程において液中に二酸化炭素が発生する。
このように、微生物の反応を利用して有用物質を大量生産したり、特定の物質を変換したりするバイオリアクタは、効率良く、大量に、処理対象物を処理する必要性から、装置の大型化が進んでいる。装置が大型になると、装置内における処理対象物を微生物全体に偏りなく供給して反応効率を高める必要があるので、装置内の攪拌・混合が非常に重要となる。
【0003】
従来の攪拌の方式としては、エアリフト型、強制攪拌型、強制循環型、曝気型が挙げられる。
エアリフト型は、液中のガスで装置内の液体を液面より持ち上げ(エアリフト効果)、持ち上げた液体を再び装置内に流入させることで、液体を循環して攪拌を行う方式である(例えば下記特許文献2参照)。なお、このエアリフト効果には、微生物が発生するガス(エタノールを生産する場合には二酸化炭素)を利用する場合もある。一方、強制攪拌型は、電力を用いてインペラを液中で回転させ、装置内の攪拌を行う方式である。また、強制循環型は、ポンプによって液体を循環させ、装置内の攪拌を行う方式である。そして、曝気型は、装置の底部からガス(装置内環境に応じて、空気、酸素、窒素等が用いられる)の気泡を発生させ、その気泡の上昇によって液体を流動させて装置内の攪拌を行う方式である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−325577号公報
【特許文献2】特開2006−136783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、エアリフト型は、液体を循環できるものの、必ずしも効果的な攪拌が達成できる訳ではない。すなわち、エアリフト効果は、液体を装置内の液面よりも上部に持ち上げるだけなので、この液体を装置内へ分散流入させたとしても、装置内の一部、特に装置底部は攪拌されない場合があり、装置全体を効果的に攪拌することは難しい。なお、装置内に分散流入させる箇所を多くすれば、効果的な攪拌が可能となるかもしれないが、配管の配置が複雑になることや、多数の配管のそれぞれに均等に流量配分するのが困難になること等の理由から、現実的ではない。
【0006】
また、強制攪拌型、強制循環型、曝気型では、攪拌に用いる電力消費量が増大するというランニングコストの問題がある。特に大量処理を前提とするバイオリアクタでは、水深が10m以上となることも珍しくないため、その水深に見合う仕事をするために大量の電力を必要とする。また、この攪拌のために用いたエネルギーは、装置内で仕事をするわけではないので、廃熱として捨てられることが多く、熱量が無駄になるばかりか、冷却のための装置が別途必要となる場合がある。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、装置内を効果的に攪拌しつつランニングコストを低減できる攪拌翼及びバイオリアクタの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、回転軸周りに複数の翼部を有すると共に、液中で浮上するガスを上記翼部で捕集し、上記捕集したガスの浮力により上記回転軸周りに回転して上記液中を攪拌する攪拌翼であって、上記翼部は、上記回転する方向の一方側に設けられて上記ガスを捕集する第1ガス捕集部と、上記回転する方向の他方側に設けられて上記ガスを捕集する第2ガス捕集部とを有し、上記複数ある翼部のうちの、第1の翼部の上記第1ガス捕集部と、第2の翼部の上記第2ガス捕集部とを互いに連通させて上記捕集したガスをバイパスするバイパス管を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、液中で浮上するガスを翼部で捕集し、そのガスの浮力を動力に利用して攪拌翼を動かす。また、翼部の回転方向両側にガス捕集部を設け、液中で大量のガスを捕集する。そして、捕集したガスを、複数の翼部のうちの第1の翼部の第1ガス捕集部と第2の翼部の第2ガス捕集部との間でバイパスさせ、両翼に作用するガスの浮力を不均衡にさせることにより、回転軸周りのモーメント(トルク)を生じさせて攪拌(回転)する動力を得る。この攪拌翼の動きを液体の循環として利用することで攪拌を行う。
【0009】
また、本発明においては、上記バイパス管は、上記回転軸を挟んで互いに逆側に設けられている上記第1の翼部の上記第1ガス捕集部と上記第2の翼部の上記第2ガス捕集部とを互いに連通させるという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、第1ガス捕集部あるいは第2ガス捕集部において捕集したガスを、回転軸を挟んでバイパスさせることで、回転軸を挟んで両側の翼部に作用するトルクの相殺を抑制することができる。これにより、攪拌翼が、回転軸周りに効率よく回転する。
【0010】
また、本発明においては、上記第1ガス捕集部は、上記第2ガス捕集部よりも上記ガスを捕集する容量が大きいという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、第1ガス捕集部が第2ガス捕集部より容量が大きくなるので、捕集したガスの浮力を不均衡にさせることができる。さらに、第1ガス捕集部は、第2ガス捕集部からバイパスしてきたガスを溢れなく捕集することができ、大きなトルクを得ることができる。
【0011】
また、本発明においては、上記バイパス管は、上記第1の翼部が上記第2の翼部よりも上方となる高さ関係のときに、上記第2の翼部の上記第2ガス捕集部で捕集した上記ガスをその浮力により、上記第1の翼部の上記第1ガス捕集部に流通させる形状を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、第1の翼部が第2の翼部よりも上方となる高さ関係のときに、容量の小さい第2ガス捕集部で捕集したガスが、その浮力により自動的に、容量の大きい第1ガス捕集部に移送される。これにより、回転方向片側に大きなトルクを得ることができる。
【0012】
また、本発明においては、上記バイパス管は、上記第1の翼部が上記第2の翼部よりも下方となる高さ関係のときに、上記第1の翼部の上記第1ガス捕集部で捕集した上記ガスをその浮力により、上記第2の翼部の上記第2ガス捕集部に流通させない逆流防止部を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、第1の翼部が第2の翼部よりも下方となる高さ関係のときに、容量の大きい第1ガス捕集部で捕集したガスが、その浮力により自動的に、容量の小さい第2ガス捕集部に移送されないようにする。これにより、トルクの相殺を抑制した、効率の良い回転が可能となる。
【0013】
また、本発明においては、上記逆流防止部は、上記第1の翼部の上記第1ガス捕集部に連通する端部が、上記第1ガス捕集部内に所定長さ突出した上記バイパス管の形状であるという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、バイパス管の端部を第1ガス捕集部内に所定長さ突出させると、突出させない場合と比べて、捕集したガスがバイパス管を介して逆流しにくくなる。また、このようにバイパス管の端部の形状で逆流防止部を構成することで、別途、逆流防止弁等を設けることがなく、コスト安に寄与することができる。
【0014】
また、本発明においては、上記複数の翼部は、上記回転軸周りに等間隔で奇数配置されているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、複数の翼部の配置が回転軸を挟んで対称とならない位置関係とすることができるため、捕集したガスの浮力を不均衡にしてトルクを生じさせることができる。
【0015】
また、本発明においては、上記回転軸は、水平方向に延在しているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、捕集したガスの浮力を、翼部で効率良くトルクに変換して回転することができる。
【0016】
また、本発明においては、処理対象物を液中で生物学的に処理し、該処理において液中にガスが生じるバイオリアクタであって、上記液中を攪拌する攪拌翼として、先に記載の攪拌翼を有するバイオリアクタを採用する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、回転軸周りに複数の翼部を有すると共に、液中で浮上するガスを上記翼部で捕集し、上記捕集したガスの浮力により上記回転軸周りに回転して上記液中を攪拌する攪拌翼であって、上記翼部は、上記回転する方向の一方側に設けられて上記ガスを捕集する第1ガス捕集部と、上記回転する方向の他方側に設けられて上記ガスを捕集する第2ガス捕集部とを有し、上記複数ある翼部のうちの、第1の翼部の上記第1ガス捕集部と、第2の翼部の上記第2ガス捕集部とを互いに連通させて上記捕集したガスをバイパスするバイパス管を有するという構成を採用して、液中で浮上するガスを翼部で捕集し、そのガスの浮力を動力に利用して攪拌翼を動かす。また、翼部の回転方向両側にガス捕集部を設け、液中で大量のガスを捕集する。そして、捕集したガスを、複数の翼部のうちの第1の翼部の第1ガス捕集部と第2の翼部の第2ガス捕集部との間でバイパスさせ、両翼に作用するガスの浮力を不均衡にさせることにより、回転軸周りのモーメント(トルク)を生じさせて攪拌(回転)する動力を得る。この攪拌翼の動きを液体の循環として利用することで攪拌を行う。
したがって、本発明では、装置内を効果的に攪拌し、且つ、ランニングコストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態におけるバイオリアクタの構成を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態における攪拌翼を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における翼部の第1ガス捕集部を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態における翼部の第2ガス捕集部を示す斜視図である。
【図5】本発明の実施形態における攪拌翼の要部構成を説明するための正面図である。
【図6】図5における攪拌翼の平面図である。
【図7】図5における線視A−A断面図である。
【図8】図7における線視B−B断面図である。
【図9】図5における線視C−C断面図である。
【図10】図9における線視D−D断面図である。
【図11】本発明の実施形態におけるバイパス管の作用を説明する図である。
【図12】本発明の実施形態における攪拌翼の動作を説明する図である。
【図13】本発明の実施形態における攪拌翼の動作を説明する図である。
【図14】本発明の実施形態における攪拌翼の動作を説明する図である。
【図15】本発明の別実施形態におけるバイオリアクタの構成を示す図である。
【図16】本発明の別実施形態における攪拌翼の構成を示す正面図である。
【図17】図16における線視E−E断面図である。
【図18】図17における線視F−F断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態の攪拌翼及びバイオリアクタの構成について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態におけるバイオリアクタの構成を示す正面図である。図2は、本発明の実施形態における攪拌翼を示す斜視図である。図3は、本発明の実施形態における翼部の第1ガス捕集部を示す斜視図である。図4は、本発明の実施形態における翼部の第2ガス捕集部を示す斜視図である。
【0020】
また、図5は、本発明の実施形態における攪拌翼の要部構成を説明するための正面図である。なお、図5では、図1における2枚の翼部(翼部30a及び翼部30d)と、この2枚の翼部の間に設けられたバイパス管40aとを抜き出して示している。
図6は、図5における攪拌翼の平面図である。図7は、図5における線視A−A断面図である。図8は、図7における線視B−B断面図である。図9は、図5における線視C−C断面図である。図10は、図9における線視D−D断面図である。
【0021】
図1に示すように、バイオリアクタ1は、微生物が存在する液中で処理対象物を生物学的に処理・反応させることで、有用物質の生産、特定の物質の変換等を行う装置である。
本実施形態のバイオリアクタ1は、バイオマス原料を処理対象物とし、バイオマス原料をアルコール発酵させる酵母を液中に有する構成となっている。アルコール発酵は、グルコースやショ糖等の糖分を分解して、エタノールと二酸化炭素とを生成する代謝反応であり、この反応によりバイオリアクタ1の装置内の液中全体にガスG(二酸化炭素)が発生する。
【0022】
バイオリアクタ1は、微生物の反応によって装置全体に略均一に発生するガスGを利用して、装置内の液体を攪拌する攪拌翼10を有する(図1及び図2参照)。攪拌翼10は、液中で回転自在に軸支される回転軸20と、回転軸20の周りに複数設けられて浮上するガスGを捕集する翼部30とを有する。また、回転軸20は、内部に中空空間21を有する円筒形状を有し、その中空空間21には、バイパス管40(後述)が複数配設されている。これら攪拌翼10の各構成部は、回転を円滑にさせるため、軽量のプラスチック材から形成されている。
【0023】
回転軸20は、水平方向(図1において紙面垂直方向)に延びる軸周りに回転自在に軸支されており、翼部30により捕集したガスGの浮力を、効率良くトルクに変換して回転できるような構成となっている。
翼部30は、浮上するガスGを効果的に捕集すべく、回転軸20の軸心に直交する半径方向に対し、回転方向の一方(反時計回り)側に所定角度で傾いた形状となっている。また、翼部30は、図6に示すように、バイオリアクタ1の装置内の全体を効果的に攪拌できるように、装置内の幅と略同一の幅を有する。
【0024】
翼部30は、回転軸20の外周部に等間隔で奇数配置され、本実施形態では、回転軸20周りに計5枚配置されている。翼部30を等間隔に奇数配置すると、翼部30が回転軸20を挟んで対称とならない位置関係とすることができ、図6に示すように、液中の全体から浮上するガスGを捕集する際に、有効となる下方に向く翼部30の面積が回転軸20を挟んで等しくならないため、捕集したガスGの浮力を不均衡にして回転軸20周りのモーメント(トルク)を生じさせることができる。
なお、翼部30には、図1に示す左側から時計回りの順に、30a、30b、30c、30d、30eの符号を付し、それらの符号を用いて以下説明する場合がある。
【0025】
翼部30は、回転方向の一方(反時計回り)側に設けられて液中で浮上するガスGを捕集する第1ガス捕集部31と、回転方向の他方(時計回り)側に設けられて液中で浮上するガスGを捕集する第2ガス捕集部32とを有する。この翼部30は、回転方向両側にガス捕集部を備えて、駆動源となる大量のガスGを捕集する構成となっている。
この第1ガス捕集部31と第2ガス捕集部32とを備える翼部30は、図7(あるいは図9)に示すように、断面視で略W字形状(あるいは略M字形状)を呈する。
【0026】
第1ガス捕集部31は、図3に示すように、翼部30の反時計回り側中央部に、その全長に亘って設けられた溝である。第1ガス捕集部31は、図7に示す断面視では円形を、図8に示す断面視では台形を呈している。
一方の第2ガス捕集部32は、図4、図9及び図10に示すように、翼部30の時計回り側両端部(第1ガス捕集部31の裏側両脇)に、その全長に亘って設けられた一対の溝である。第2ガス捕集部32は、翼部30の幅方向において対向する両辺をそれぞれ屈曲させて時計回り側に所定距離延在させることで形成される。
【0027】
第1ガス捕集部31は、第2ガス捕集部32よりもガスGを捕集する容量が大きくなるように構成されている。この構成により、第1ガス捕集部31が第2ガス捕集部32よりもガスGを大量に捕集でき、図5のように翼部30aの第1ガス捕集部31と翼部30dの第2ガス捕集部32とが、略均等に浮上するガスGを同時に捕集した場合であっても、捕集したガスGの浮力を、回転軸20を挟んで不均衡にさせることができるため、トルクを生じさせることができる。さらに、この構成により、第1ガス捕集部31は、第2ガス捕集部32から、後述するバイパス管40を介してバイパスしてきたガスGを溢れなく捕集することができ、大きなトルクを得ることができる。
【0028】
次に、バイパス管40の構成について説明する。
図1(あるいは図5)に示すように、複数の翼部30のうちの第1の翼部(例えば翼部30a)の第1ガス捕集部31と第2の翼部(例えば翼部30d)の第2ガス捕集部32とは、バイパス管40により互いに連通しており、捕集したガスGがそれらの間を行き来できる構成となっている。
【0029】
バイパス管40は、複数設けられ、回転軸20を挟んで互いに逆側に設けられている第1の翼部の第1ガス捕集部31と第2の翼部の第2ガス捕集部32との間を、回転軸20を貫通して直線的に連通させる流路を形成する。なお、各バイパス管40は、回転軸20内で軸方向(奥行き方向)においてズレて交差配置されており、全体で五芒星(ペンタグラム)の形状を呈する(図1参照)。
【0030】
本実施形態では、翼部30aの第1ガス捕集部31と翼部30dの第2ガス捕集部32との間にはバイパス管40aが、翼部30bの第1ガス捕集部31と翼部30eの第2ガス捕集部32との間にはバイパス管40bが、翼部30cの第1ガス捕集部31と翼部30aの第2ガス捕集部32との間にはバイパス管40cが、翼部30dの第1ガス捕集部31と翼部30bの第2ガス捕集部32との間にはバイパス管40dが、翼部30eの第1ガス捕集部31と翼部30cの第2ガス捕集部32との間にはバイパス管40eが、設けられる。
【0031】
各バイパス管40は、接続位置が異なるが、同一の構成をなす。このため、以下では、そのうちのバイパス管40aに着目して説明する。バイパス管40aは、図6に示すように、管部材40a1及び管部材40a2から構成される。
管部材40a1及び管部材40a2は、2つの溝で構成される第2ガス捕集部32と1つの溝で構成される第1ガス捕集部31とを連通させるべく、一対となって設けられている。
【0032】
具体的には、翼部30dの付け根側であって、第2ガス捕集部32の一方側の底溝に対応する位置には管部材40a1の一端部が、第2ガス捕集部32の他方側の底溝に対応する位置には管部材40a2の一端部が、回転軸20の周面に面一で露出するように設けられている(図4、図9及び図10参照)。
一方の、管部材40a1及び管部材40a2の両他端部は、翼部30aの付け根部側の第1ガス捕集部31内であって、その内部空間に浮く形で、回転軸20の周面から所定長さ突出して設けられている(図3、図7及び図8参照)。
【0033】
このように構成されたバイパス管40aの作用を、図11を参照して説明する。
図11(a)は、翼部30aが翼部30dよりも上方となる高さ関係のときのバイパス管40aの作用を説明する図である。図11(b)は、翼部30aが翼部30dよりも下方となる高さ関係のときのバイパス管40aの作用を説明する図である。
【0034】
図11(a)における姿勢では、液中で浮上するガスGが、翼部30aの第1ガス捕集部31及び翼部30dの第2ガス捕集部32の両者に堰き止められ捕集されることとなる。
翼部30dにおいて捕集されたガスGは、第2ガス捕集部32の両溝に移動してから上昇し、バイパス管40a(管部材40a1及び管部材40a2)の一端部が設けられている付け根部に到達する。
【0035】
付け根部に到達したガスGは、その浮力により、バイパス管40aの一端部から流入し、傾斜したバイパス管40a内部を通過して、翼部30aの第1ガス捕集部31内に突出するバイパス管40a(管部材40a1及び管部材40a2)の他端部から流出する。
翼部30aの第1ガス捕集部31は、自身で捕集したガスG、さらには、バイパス管40aを介して翼部30dの第2ガス捕集部32からバイパスしてきたガスGの両者を捕集する。また、第1ガス捕集部31は、両者のガスGを捕集できるだけの容量を有している。
【0036】
第1ガス捕集部31で大量のガスGを捕集した翼部30aには、ガスGの浮力により上方に大きな力が作用する。一方の翼部30dには、第2ガス捕集部32で捕集したガスGが順次自動的に翼部30a側に移送されるため、実質的にガスGが溜まらず、ガスGにより上方に作用する力はゼロもしくは微力となる。
すなわち、バイパス管40aは、回転軸20を挟んで両側の翼部30において捕集したガスGの浮力を不均衡、さらには翼部30a側(左側)にのみ作用にさせ、回転軸20を挟んで作用するトルクの相殺を抑制する。このため、時計回りに大きなトルクが働き、攪拌翼10全体(各翼部30及び回転軸20)が時計回りに回転することで、液中が攪拌されることとなる。
【0037】
一方、図11(b)における姿勢では、液中で浮上するガスGが、翼部30aの第1ガス捕集部31のみに堰き止められ捕集される。
なお、第2ガス捕集部32の先端には壁がなく開状態となっているため、翼部30dの第2ガス捕集部32に入ったガスGは、第2ガス捕集部32に捕集されることなく、先端から上方に抜けていく。
翼部30aにおいて捕集されたガスGは、第1ガス捕集部31の溝に沿って上昇し、付け根部近傍の角部に溜まり、その浮力により翼部30aを上方に持ち上げる力を作用させる。
【0038】
このとき、翼部30aが翼部30dよりも下方となる高さ関係であるため、第1ガス捕集部31で捕集したガスGが、その浮力により自動的にバイパス管40aを介して、第2ガス捕集部32に移送される(逆流する)ことが懸念される。
しかし、バイパス管40a(管部材40a1及び管部材40a2)の他端部は、第1ガス捕集部31内に所定長さ突出した形状となっているため、その他端部の開口位置が、捕集したガスGで形成される液面より下方に位置することとなり、結果、ガスGの逆流を防止する逆流防止弁(逆流防止部)の作用を奏することとなる。
【0039】
続いて、図12〜図14を参照して、本実施形態の攪拌翼10の全体の動作について説明する。
図12及び図13は、攪拌翼10の動作を、時間の経過に合わせて順に示した図であり、図12(a)、図12(b)、図12(c)、次に、図13(a)、図13(b)、図13(c)の順に攪拌翼10の姿勢が変化する。なお、図12及び図13においては、視認性の向上を図るため有効に作用するバイパス管40の一部のみを示している。
図14は、攪拌翼10の回転により、捕集されたガスGが水面近傍に達して、大気中へ開放される様子を示す。
【0040】
図12(a)〜図12(c)における姿勢では、翼部30aが翼部30dよりも上方となる高さ関係となっており、さらに、翼部30bが翼部30eよりも上方となる高さ関係となっている。
この姿勢のとき、液中で浮上するガスGは、翼部30aの第1ガス捕集部31及び翼部30dの第2ガス捕集部32の両者、さらに、翼部30bの第1ガス捕集部31及び翼部30eの第2ガス捕集部32の両者に堰き止められ捕集される。
【0041】
翼部30dの第2ガス捕集部32において捕集されたガスGは、バイパス管40aのバイパス作用により、翼部30aの第1ガス捕集部31に移送される。また、翼部30eの第2ガス捕集部32において捕集されたガスGは、バイパス管40bのバイパス作用により、翼部30bの第1ガス捕集部31に移送される。
上記のようなガスGの移送により、回転軸20の左側(翼部30a及び翼部30b)に大きな浮力が作用し、回転軸20の右側(翼部30d及び翼部30e)に浮力がほぼ作用しない状態を形成することができる。したがって、攪拌翼10は、トルクの相殺を抑制した効果的な回転が可能となる。
【0042】
図13(a)〜図13(c)における姿勢では、翼部30aが翼部30dよりも上方となる高さ関係となっており、また、翼部30eが翼部30cよりも下方となる高さ関係となっている。
この姿勢のとき、液中で浮上するガスGは、翼部30aの第1ガス捕集部31及び翼部30dの第2ガス捕集部32の両者、さらに、翼部30eの第1ガス捕集部31に堰き止められ捕集される。なお、翼部30cの第2ガス捕集部32には、ガスGが捕集されることなく、先端から上方に抜けていく。
【0043】
翼部30dの第2ガス捕集部32において捕集されたガスGは、バイパス管40aのバイパス作用により、翼部30aの第1ガス捕集部31に移送される。一方、翼部30eの第1ガス捕集部31において捕集されたガスGは、バイパス管40eの逆流防止作用により、翼部30cの第2ガス捕集部32に移送されずに、翼部30eの第1ガス捕集部31に溜まる。
上記のようなガスGの移送により、回転軸20の左側(翼部30a及び翼部30e)に大きな浮力が作用し、回転軸20の右側(翼部30c及び翼部30d)に浮力がほぼ作用しない状態を形成することができる。したがって、攪拌翼10は、トルクの相殺を抑制した効果的な回転が可能となる。
【0044】
なお、最終的に、翼部30aの第1ガス捕集部31に捕集されたガスGは、図14に示す姿勢のときに、翼部30aの先端から抜けた後、水面近傍に達して、大気中へ開放されることとなる。
【0045】
このように、本実施形態の攪拌翼10では、5枚の翼部30全てが図11で説明した関係を有するため、時計回りのトルクが常に発生し、装置内の略全ての空間を翼部30が定期的に通過するので、装置内全体が効果的に攪拌され、反応に寄与しない部位を最小限にすることができる。
【0046】
したがって、上述した本実施形態によれば、バイオリアクタ1の液中で浮上するガスGを翼部30で捕集し、この捕集したガスGの浮力により回転軸20周りに回転して液中を攪拌する攪拌翼10を用いることによって、装置内を効果的に攪拌し、且つ、電力を消費する動力が不要となり、ランニングコストを低減することができる。
【0047】
また、本実施形態によれば、翼部30が、回転する方向の一方側に設けられてガスGを捕集する第1ガス捕集部31と、回転する方向の他方側に設けられてガスGを捕集する第2ガス捕集部32とを有し、複数ある翼部30のうちの、第1の翼部(例えば翼部30a)の第1ガス捕集部31と、第2の翼部(例えば翼部30d)の第2ガス捕集部32とを互いに連通させて捕集したガスGをバイパスするバイパス管40を有するという構成を採用し、翼部30の回転方向両側にガス捕集部を設けて液中で大量のガスGを捕集して、その捕集したガスGを、複数の翼部30のうちの第1の翼部の第1ガス捕集部31と第2の翼部の第2ガス捕集部32との間でバイパスさせ、両翼に作用するガスGの浮力を不均衡にさせることにより、効果的に回転軸20周りのモーメント(トルク)を生じさせて攪拌(回転)する動力を得ることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、バイパス管40が、回転軸20を挟んで互いに逆側に設けられている第1の翼部の第1ガス捕集部31と第2の翼部の第2ガス捕集部32とを互いに連通させるよう構成され、第2ガス捕集部32において捕集したガスGを、回転軸20を挟んで逆側にある第1ガス捕集部31にバイパスさせることにより、回転軸20を挟んで両側の翼部30に作用するトルクの相殺を抑制でき、効率のよい回転を実現できる。
【0049】
また、本実施形態によれば、第1ガス捕集部31が、第2ガス捕集部32よりもガスGを捕集する容量が大きいという構成を採用し、捕集したガスGによる浮力を両翼で不均衡にさせ、さらに、第1ガス捕集部31が第2ガス捕集部32からバイパスしてきたガスGを溢れなく捕集することができるため、大きなトルクを得ることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、バイパス管40が、第1の翼部が第2の翼部よりも上方となる高さ関係のときに、第2の翼部の第2ガス捕集部32で捕集したガスGをその浮力により、第1の翼部の第1ガス捕集部31に流通させる形状を有するという構成を採用し、容量の小さい第2ガス捕集部32で捕集したガスGを、その浮力により自動的に、容量の大きい第1ガス捕集部31に移送させることで、回転方向片側(時計回り)に大きなトルクを得ることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、バイパス管40が、第1の翼部が第2の翼部よりも下方となる高さ関係のときに、第1の翼部の第1ガス捕集部31で捕集したガスGをその浮力により、第2の翼部の第2ガス捕集部32に流通させない逆流防止部を有するという構成を採用し、容量の大きい第1ガス捕集部31で捕集したガスGが、その浮力により自動的に、容量の小さい第2ガス捕集部32に移送されないようにすることで、トルクの相殺を抑制した、効率の良い回転が可能となる。
【0052】
また、本実施形態によれば、逆流防止部が、第1の翼部の第1ガス捕集部31に連通する端部が、第1ガス捕集部31内に所定長さ突出したバイパス管40の形状であるという構成を採用し、バイパス管40の端部の長さで逆流防止部を構成することで、別途、逆流防止弁等を設けることがなく、コスト安に寄与することができる。
【0053】
また、本実施形態によれば、複数の翼部が、回転軸20周りに等間隔で奇数配置されているという構成を採用することによって、複数の翼部の配置が回転軸20を挟んで対称とならない位置関係とすることができるため、捕集したガスGの浮力を不均衡にしてトルクを生じさせることができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、回転軸20が、水平方向に延在しているという構成を採用することによって、本実施形態では、捕集したガスGの浮力を、翼部30で効率良くトルクに変換して回転することができる。
【0055】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0056】
例えば、上記実施形態では、バイオリアクタ1に対して攪拌翼10が1つだけ設けられる構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
一例として、図15に示す別実施形態のように、バイオリアクタ1に小型の攪拌翼10を複数設ければ、ガスGが攪拌翼10の動作に寄与しない装置内の部位を減じることが可能となる。
【0057】
また、例えば、上記実施形態では、翼部30の第1ガス捕集部31の形状は、図8に示すようにB−B断面視で台形であると説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、ガスGの発生量等に応じて細部を設計変更することにより、ガス捕集量の増加、すなわち、より大きなトルクを得ることが可能となる。
一例として、第1ガス捕集部31を、図16〜図18に示す別実施形態のように、E−E断面視では同じく円形であるが、F−F断面視では台形でなく円形(円弧)とする構成を採用してもよい。この構成によれば、第1ガス捕集部31の形状が、長球を半分にしたような形状となるので、上記実施形態よりもガス捕集量が増加し、攪拌力を向上させることができる。
【0058】
また、例えば、上記実施形態では、攪拌翼10が5枚の翼部30を有する構成について説明したが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、例えば、翼部30が5枚よりも多い構成であってもよい。翼部30が多いと、回転のためのトルクが安定するが、一方で液体との摩擦が増えてトルクが減少するので、装置内のガス発生量や容量等を鑑みて、実験的に翼部30の枚数を決定するのが好ましい。
【0059】
また、例えば、上記説明に用いた図においては、バイパス管40の構成がわかり易いように、バイパス管40及び回転軸20を含む円筒部の比率を大きくして示している。この円筒部は、装置内の反応に寄与しないので、実際には可能な限り小さく構成するのが好ましい。
【符号の説明】
【0060】
1…バイオリアクタ、10…攪拌翼、20…回転軸、30…翼部、31…第1ガス捕集部、32…第2ガス捕集部、40…バイパス管、G…ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸周りに複数の翼部を有すると共に、液中で浮上するガスを前記翼部で捕集し、前記捕集したガスの浮力により前記回転軸周りに回転して前記液中を攪拌する攪拌翼であって、
前記翼部は、前記回転する方向の一方側に設けられて前記ガスを捕集する第1ガス捕集部と、前記回転する方向の他方側に設けられて前記ガスを捕集する第2ガス捕集部とを有し、
前記複数ある翼部のうちの、第1の翼部の前記第1ガス捕集部と、第2の翼部の前記第2ガス捕集部とを互いに連通させて前記捕集したガスをバイパスするバイパス管を有することを特徴とする攪拌翼。
【請求項2】
前記バイパス管は、前記回転軸を挟んで互いに逆側に設けられている前記第1の翼部の前記第1ガス捕集部と前記第2の翼部の前記第2ガス捕集部とを互いに連通させることを特徴とする請求項1に記載の攪拌翼。
【請求項3】
前記第1ガス捕集部は、前記第2ガス捕集部よりも前記ガスを捕集する容量が大きいことを特徴とする請求項1または2に記載の攪拌翼。
【請求項4】
前記バイパス管は、前記第1の翼部が前記第2の翼部よりも上方となる高さ関係のときに、前記第2の翼部の前記第2ガス捕集部で捕集した前記ガスをその浮力により、前記第1の翼部の前記第1ガス捕集部に流通させる形状を有することを特徴とする請求項3に記載の攪拌翼。
【請求項5】
前記バイパス管は、前記第1の翼部が前記第2の翼部よりも下方となる高さ関係のときに、前記第1の翼部の前記第1ガス捕集部で捕集した前記ガスをその浮力により、前記第2の翼部の前記第2ガス捕集部に流通させない逆流防止部を有することを特徴とする請求項4に記載の攪拌翼。
【請求項6】
前記逆流防止部は、前記第1の翼部の前記第1ガス捕集部に連通する端部が、前記第1ガス捕集部内に所定長さ突出した前記バイパス管の形状であることを特徴とする請求項5に記載の攪拌翼。
【請求項7】
前記複数の翼部は、前記回転軸周りに等間隔で奇数配置されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の攪拌翼。
【請求項8】
前記回転軸は、水平方向に延在していることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の攪拌翼。
【請求項9】
処理対象物を液中で生物学的に処理し、該処理において液中にガスが生じるバイオリアクタであって、
前記液中を攪拌する攪拌翼として、請求項1〜8のいずれか一項に記載の攪拌翼を有することを特徴とするバイオリアクタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−101835(P2011−101835A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−257079(P2009−257079)
【出願日】平成21年11月10日(2009.11.10)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】