説明

支保構造

【課題】腐食や劣化がほとんど発生しない支保構造を提供する。
【解決手段】上載荷重を支持させる支保構造2であって、支保構造の軸方向の主要部材となる複数の芯材3A−3Eと、芯材同士を連結させる接続部材4,・・・とを備えている。
また、芯材及び接続部材は、セメントと、ポゾラン系反応粒子と、最大粒度径が2.5mm以下の骨材粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント質マトリックスに、繊維を全容積の1〜4%混入して得られる繊維補強セメント系混合材料によって製作される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下空洞やトンネルなどで掘削面などを支持させたり、桟橋や足場などで上載荷重を支持させたりするための支保構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤を掘削してトンネルなどを構築する際に、その内壁面の形状に合わせて支保工(支保構造)を設置することが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
通常、この支保工には、鋼製のH形鋼材が使用されるが、特許文献1では、トンネル掘削機によって後から掘削ができるように、繊維補強コンクリートによって製作された支保工を使用する発明が開示されている。
【0004】
一方、原子力施設や放射性物質を貯蔵する施設は、非常に長い期間にわたって使用されるものであり、可能な限り腐食や劣化しない部材によって構築されることが望まれる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4322412号公報
【特許文献2】特許第4059635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された支保工は、主要部材となる支保部材はトンネル掘削機によって切削が可能な材料によって製作されているが、支保部材間はボルトなどの鋼材によって連結されている。
【0007】
これは、ボルトなどの小さいものであれば、トンネル掘削機によって切削する際の支障にならないためであるが、原子力施設などを構築するに際しては、接続部材に至るまで腐食や劣化の少ない材料が望まれる。
【0008】
また、一般的に、鉄筋コンクリート中の鉄筋は、アルカリ性のセメントによって腐食の進行が抑えられているが、原子力施設の構築に際しては、低アルカリセメントが使用されることがあり、鉄筋やH形鋼材などが腐食しやすくなるという問題がある。
【0009】
そこで、本発明は、腐食や劣化がほとんど発生しない支保構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の支保構造は、上載荷重を支持させる支保構造であって、前記支保構造の軸方向の主要部材となる複数の芯材と、前記芯材同士を連結させる接続部材とを備え、前記芯材及び前記接続部材は、セメントと、ポゾラン系反応粒子と、最大粒度径が2.5mm以下の骨材粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント質マトリックスに、繊維を全容積の1〜4%混入して得られる繊維補強セメント系混合材料によって製作されることを特徴とする。
【0011】
また、前記芯材は、平行なフランジとフランジ間を繋ぐウエブとによって断面視略H字形状に形成されており、前記芯材の端部には、前記両方のフランジから内側に向けてそれぞれ突出される係止部が形成され、前記接続部材には前記係止部に係合させる張出部が形成された構成とすることができる。
【発明の効果】
【0012】
このように構成された本発明の支保構造は、主要部材となる芯材と芯材同士を連結させる接続部材の両方が繊維補強セメント系混合材料によって形成されている。
【0013】
このため、支保構造のすべてが腐食や劣化が起こり難い材料によって形成されることになり、構造物の使用可能期間を大幅に延ばすことができる。特に、低アルカリセメントが使用される構造物であっても腐食や劣化を抑えることができるので、原子力施設にも適用することが可能になる。
【0014】
また、H字形状の芯材の端部に係合させる形状の接続部材であれば、簡単に芯材間に装着して芯材同士を連結させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態の支保構造によって支持される地下空間の構成を説明する断面図である。
【図2】支保構造の主要部材となる芯材の構成を説明する斜視図である。
【図3】芯材同士を連結させる接続部材の構成を説明する斜視図である。
【図4】支保構造の連結箇所の構成を説明する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、岩盤や地盤などを掘削して構築される地下空間1の断面図である。このような地下空間1は、例えば原子力施設や放射性物質を貯蔵する空間として使用される。
【0018】
この地下空間1は、例えば図1に示すように断面視略馬蹄形に掘削され、その内壁面11に沿って支保構造2が構築される。この支保構造2は、例えば図1の紙面奥行き方向に間隔を置いて設置される。
【0019】
また、支保構造2は、地下空間1の底面12の一方の側縁から周方向に延設され、他方の側縁まで内壁面11の形状に合わせて連続して形成される。ここで、この内壁面11の周方向を支保構造2の軸方向と呼ぶ。
【0020】
この支保構造2は、軸方向の主要部材となる複数の芯材3A−3Eと、それらの芯材同士を連結させる接続部材4,・・・とによって主に構成される。ここで、芯材3A−3Eは、内壁面11の形状に合わせて成形される以外は、略同じ形態になるため、図2,4では、芯材3としてまとめて説明する。
【0021】
この芯材3は、図2,4に示すように、平行に配置される板状のフランジ31,31と、フランジ31,31間を略中央で繋ぐ板状のウエブ32とによって断面視略H字形状に成形される。
【0022】
また、芯材3の端部には、図2に示すように、両方のフランジ31,31から内側に向けてそれぞれ突出される係止部33,・・・が形成される。すなわち、係止部33は、フランジ31の端部に、フランジ31と連続して側面視が略L字形状になるように形成される。
【0023】
また、この係止部33は、ウエブ32を挟んで両側に形成される。このため、芯材3の端部には、4箇所の引っ掛かり可能な突条が形成されることになる。
【0024】
一方、接続部材4は、図3に示すように、断面視略H字形状に形成される。すなわち、四角柱状の中実の本体部42と、図3においてその上面及び下面から突出される張出部41,・・・とを備えている。
【0025】
この張出部41は、上面及び下面においてそれらの側縁に沿ってそれぞれ延設される。また、各面に平行に延設される張出部41,41の間隔は、係止部33の厚さ(芯材3の軸方向長さ)の略2倍に設定される。
【0026】
そして、図4に示すように、芯材3の端部に設けられた係止部33に、接続部材4の張出部41を係合させる。すなわち、芯材3,3の端部同士を突き合わせ、側方からウエブ32の側面に向けて接続部材4を嵌入させると、係止部33に張出部41が係合されて、芯材3,3同士が連結される。
【0027】
この接続部材4,4は、図4に示すように、芯材3のウエブ32の両側に配置される。また、接続部材4,4は、芯材3の軸方向に作用する引張り力やフランジ31,31間方向に作用するせん断力に対して、抵抗部材として確実に機能させることができる。
【0028】
さらに、ウエブ32を挟んで芯材3の両側に接続部材4,4が配置されることによって、対称性が高まり偏心が起こり難くなるうえに、芯材3,3同士を強固に連結させることができる。
【0029】
そして、このような芯材3及び接続部材4は、腐食や劣化がほとんど生じることがない繊維補強セメント系混合材料によって成形することができる。
【0030】
この繊維補強セメント系混合材料は、セメントと、骨材粒子と、ポゾラン系反応粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント系マトリックスに、繊維を混入して製造する。
【0031】
ここで、前記骨材粒子には、最大粒度径が3.0mm以下、好ましくは2.5mm以下の硅砂等の骨材粉体を使用する。また、ポゾラン系反応粒子には、粒子径が15μm以下のものを使用する。例えば、粒子径が0.01〜0.5μmの活性度の高いポゾラン系反応粒子としてシリカヒューム等を使用し、粒子径が0.1〜15μmの活性度の低いポゾラン系反応粒子としてフライアッシュや高炉スラグ等を使用する。これらの活性度の異なるポゾラン系反応粒子は、混合したり、単独で使用したりすることができる。また、前記分散剤は、流動性を高めるために高性能減水剤など少なくとも1種類を使用する。
【0032】
また、繊維には、炭素繊維やアラミド繊維などの合成樹脂繊維を使用することができる。炭素繊維は、化学的、電気化学的に反応することがなく、錆びることがない安定した材料であるため、繊維補強セメント系材料の耐久性を高めることができる。
【0033】
例えば直径が0.08〜0.2mm程度で、長さが8〜12mm程度の形状の炭素繊維を、製造される繊維補強セメント系混合材料の全容積の1〜2%程度の量を混入させる。
【0034】
このような配合で製造される炭素繊維補強セメント系混合材料によって形成された部材は、圧縮強度が200〜220N/mm2、曲げ引張強度が40〜45N/mm2、割裂引張強度が15〜90N/mm2、透気係数が2.5×10-18m2、塩分拡散係数が0.0019cm2/年、弾性係数が50〜55GPaの特性を有する。
【0035】
また、繊維として、例えば直径が0.1〜0.3mm程度で、長さが10〜30mm程度の形状の引張り降伏応力度が2600〜2800N/mm2の鋼繊維を使用することもできる。この鋼繊維は、製造される繊維補強セメント系混合材料の全容積の1〜4%程度の量を混入させる。
【0036】
このような配合で製造される鋼繊維補強セメント系混合材料によって形成された部材は、圧縮強度が150〜200N/mm2、曲げ引張強度が25〜45N/mm2、割裂引張強度が10〜25N/mm2、透水係数が4.0×10-17cm/sec、塩分拡散係数が0.0019cm2/年、弾性係数が50〜55GPaの特性を有する。すなわち、繊維が鋼繊維であっても、非常に耐久性が高い劣化し難い材料となる。
【0037】
そして、上述したような繊維補強セメント系混合材料を使用した場合は、充分に引張強度などが確保できるので、腐食する可能性のある鉄筋を配置する必要がない。
【0038】
次に、本実施の形態の支保構造2が設けられる地下空間1の構築方法について説明する。
【0039】
まず、工場において、上述した繊維補強セメント系混合材料を使用して、芯材3A−3E及び接続部材4,・・・を製作する。そして、製作された芯材3A−3E及び接続部材4,・・・を、地下空間1を構築する現場まで搬送する。
【0040】
一方、放射性物質を貯蔵するための地下空間1を構築する現場では、岩盤の掘削がおこなわれる。この掘削は、例えば図1に示した馬蹄形の頂上付近からおこなわれる。
【0041】
例えば、芯材3E,3D,3Dを配置する位置の岩盤を半円状に掘削し、芯材3E,3D,3Dを掘削面(内壁面11)に沿って配置し、芯材3E,3D間に接続部材4を嵌入する。
【0042】
この接続部材4,4の嵌入によって、芯材3E,3D,3D間が連結され、アーチ状の支保工が形成される。また、このような芯材3E,3D,3Dの配置は、図1の紙面奥行き方向に一定の間隔を置いておこなわれる。
【0043】
さらに、芯材3E,3D,3Dの内側面側や奥行き方向に配置された芯材3E,3E(3D,3D)間には、低アルカリセメントを主成分とするモルタルを吹き付ける。
【0044】
このように低アルカリセメントが芯材3E,3D,3Dや接続部材4の周囲に吹き付けられても、上述した繊維補強セメント系混合材料によって成形された部材であれば、腐食や劣化が起きる心配がない。
【0045】
続いて、岩盤を順次、掘り下げていき、芯材3C,3B,3A及び接続部材4,・・・を適宜、設置していく。また、芯材3C,3B,3A及び接続部材4,・・・の周囲には上述したようにモルタルを吹き付ける。
【0046】
このようにして構築された地下空間1は、腐食や劣化の心配がほとんどいらない部材によってすべて構築されているので、長期間使用することになる放射性物質を貯蔵する施設に適している。
【0047】
すなわち、本実施の形態の支保構造2は、主要部材となる芯材3と芯材3,3同士を連結させる接続部材4の両方が繊維補強セメント系混合材料によって形成されている。
【0048】
このため、支保構造2のすべてが腐食や劣化が起こり難い材料によって形成されることになり、構造物の使用可能期間を大幅に延ばすことができる。特に、低アルカリセメントが使用される構造物であっても腐食や劣化を抑えることができるので、原子力施設にも適用することが可能になる。
【0049】
また、上記した繊維補強セメント系混合材料は、鋼材と同等又はそれ以上の非常に強度が高い材料であるため、鋼材が腐食しやすい箇所で鋼材に代えて使用することができる。
【0050】
さらに、H字形状の芯材3の端部に係合させる形状の接続部材4であれば、簡単に芯材3,3間に装着して芯材3,3同士を連結させることができる。
【0051】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0052】
例えば、前記実施の形態では、断面視略H字形状の芯材3について説明したが、これに限定されるものではなく、断面視略I字形状若しくは断面視略コ字形状又は四角柱状などに上記繊維補強セメント系混合材料を使って芯材を成形することができる。また、その際に使用する接続部材の形状は、芯材の形状に合わせて変更すればよい。
【0053】
さらに、前記実施の形態では、地下空間1の支保構造2について説明したが、これに限定されるものではなく、桟橋の橋脚など塩水によって腐食しやすい環境で使用される支保構造にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
2 支保構造
3 芯材
3A−3E 芯材
31 フランジ
32 ウエブ
33 係止部
4 接続部材
41 張出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上載荷重を支持させる支保構造であって、
前記支保構造の軸方向の主要部材となる複数の芯材と、
前記芯材同士を連結させる接続部材とを備え、
前記芯材及び前記接続部材は、セメントと、ポゾラン系反応粒子と、最大粒度径が2.5mm以下の骨材粒子と、分散剤とを含有する組成物を水と混合することにより得られるセメント質マトリックスに、繊維を全容積の1〜4%混入して得られる繊維補強セメント系混合材料によって製作されることを特徴とする支保構造。
【請求項2】
前記芯材は、平行なフランジとフランジ間を繋ぐウエブとによって断面視略H字形状に形成されており、前記芯材の端部には、前記両方のフランジから内側に向けてそれぞれ突出される係止部が形成され、前記接続部材には前記係止部に係合させる張出部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の支保構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−36637(P2012−36637A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177613(P2010−177613)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】