説明

支承構造

【課題】支承の小型化及びこれを載置部する下部構造のコンパクト化を図ることができる支承構造を提供する。
【解決手段】2つの築造物間に架設される長尺構造物を支持する支承構造。前記構造物の一方の端部に配設される水平面内回転可能な第1可動支承1と、前記構造物の他方の端部に配設され、当該構造物の長手方向に移動可能な第2可動支承2とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は支承構造に関する。さらに詳しくは、2つの築造物間に架設される構造物を支持する支承構造に関する。
【背景技術】
【0002】
2つの建物(築造物)の間に架設される渡り廊下、連絡橋、屋根などの構造物を支持するため、さらには2つの橋脚(築造物)の間に架設される橋梁を支持するために種々の支承構造が用いられている。
【0003】
例えば特許文献1には、図12に示されるように、2つのビル間に架設される橋梁などの上部構造100の一端(可動端側)を支持する構造物(下部構造)101の端縁に水平面内の全方向に移動可能な可動支承102を2セット配置し、他端(固定端側)を支持する構造物(下部構造)103の端縁に固定支承104を2セット配置し、地震力が入力した際に、主として可動支承102により前記橋梁などの上部構造100の変位を許容したり、当該上部構造100の浮き上がりを防止したりする支承構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−96208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図12に示されるような支承構造の場合、地震や暴風などによって上部構造100に対して直角方向の水平力が発生すると、固定支承104の負担すべき水平力qはモーメントを負担する必要があるため、当該上部構造100全体の水平力をQy、固定支承104の中心から上部構造100の軸方向中心までの距離をL、2つの固定支承104間の距離をWとすると、
q=Qy×L/W
となって、上部構造100の軸方向の長さが長ければ長いほど大きな水平力を負担する必要がある。したがって、上部構造100の軸方向の長さが長くなると、固定支承が大型化し、またかかる固定支承を載置する下部構造103の載置部103aも大型化せざるを得ないという問題がある。
【0006】
また、上部構造100の軸方向に直交する方向の相対変位の吸収を、可動支承102を構成する上沓及び下沓の相対すべりで行うため、可動支承102の、上部構造100の軸方向に直交する方向の寸法が大型化し、またかかる可動支承を載置する下部構造101の載置部101aも大型化せざるを得ないという問題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、支承の小型化及びこれを載置する下部構造のコンパクト化を図ることができる支承構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の支承構造は、2つの築造物間に架設される長尺構造物を支持する支承構造であって、
前記構造物の一方の端部に配設される水平面内回転可能な第1可動支承と、
前記構造物の他方の端部に配設され、当該構造物の長手方向に移動可能な第2可動支承と
を備えたことを特徴としている。
【0009】
本発明の支承構造では、長尺構造物の長手方向軸に直交する方向の相対変位を当該長尺構造物の回転により吸収することができるので、可動端側支承(第2可動支承)の、長尺構造物の長手方向軸に直交する方向の寸法を小さくすることができる。これにより、前記可動端側支承を受ける建物の載置部(下部構造)の、長尺構造物の長手方向軸に直交する方向の寸法も小さくすることができる。その結果、材料費や施工費を削減することができるとともに、コンパクト化を図ることができる。
また、長尺構造物の長手方向軸に直交する方向の水平力は、第1可動支承が水平面内において回転可能な構造であるので、モーメントのつりあいを考慮する必要がなく、せん断力だけを考慮すればよいので、固定端における支承の寸法の小型化及びそれを受ける建物の載置部の小型化を図ることができる。
【0010】
前記第2可動支承が、前記構造物の幅方向に沿って配設された一対の可動支承からなることが好ましい。
前記第1可動支承の、前記構造物の幅方向の両側に水平面内全方向移動可能な第3可動支承が配設されていることが好ましい。
【0011】
前記構造物の一方の端部側の鉛直荷重が、前記第3可動支承だけで支持されることが好ましい。
第1可動支承が、上面に円形の凹部を有する下沓と、前記凹部内に挿入可能な円形の凸部を有する上沓とを備えており、前記上沓は、その凸部の先端面が前記凹部の底面から所定距離だけ離間するように配設されたものとすることができる。
【0012】
第1可動支承が、上面に円形の凹部を有する下沓と、前記凹部内に挿入可能な円形の凸部を有する上沓とを備えており、前記凸部の先端面と前記凹部の底面との間にすべり部材が配設されたものとすることができる。
【0013】
前記凸部が、根元側の径小部と先端側の径大部とからなっており、下沓の凹部内に挿入して配設された径大部の上方への移動を規制するストッパーが、当該下沓の凹部の開口縁に設けられていることが好ましい。
【0014】
前記ストッパーがL字状部材からなり、当該L字状部材の一方の辺が前記下沓の凹部の開口縁から凹部中心方向に突出するように、L字状部材の他方の辺が前記凹部の外周上端に固定されたものとすることができる。
【0015】
前記下沓の凹部の内周面と、前記上沓の凸部の外周面とに、互いに対向する環状の滑り部材を摺動可能に設けることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の支承構造によれば、支承の小型化及びこれを載置部する下部構造のコンパクト化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)は本発明の支承構造の一実施の形態の側面説明図であり、(b)はA矢視図であり、(c)はB矢視図である。
【図2】(a)は図1に示される支承構造における固定端側の第1可動支承の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。
【図3】固定端側を3箇所で支持する場合における不具合を説明する図である。
【図4】(a)は図1に示される支承構造における固定端側の第3可動支承の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。
【図5】(a)は図1に示される支承構造における可動端側の第2可動支承の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。
【図6】(a)は支承構造の回転前の上沓の配置を説明する図であり、(b)は同じく下沓の配置を説明する図である。
【図7】(a)は支承構造の回転前の上沓及び下沓の組合せ配置を説明する図であり、(b)は回転後における上部構造の変位を説明する図である。
【図8】(a)は第1可動支承の他の例の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。
【図9】(a)は図2に示される第1可動支承の変形例の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。
【図10】(a)は図8に示される第1可動支承の変形例の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。
【図11】(a)は図5に示される第2可動支承の変形例の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。
【図12】(a)は従来の支承構造の平面説明図であり、(b)は同側面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の支承構造の実施の形態を詳細に説明する。
図1の(a)は本発明の支承構造の一実施の形態の側面説明図であり、(b)はA矢視図であり、(c)はB矢視図である。
【0019】
支承構造は、所定距離を隔てて隣接する2つの建物(築造物)B1、B2の間に架設される渡り廊下や連絡橋などの長尺の上部構造(構造物)Uを支持するものであり、第1可動支承1と、第2可動支承2a、2bと、第3可動支承3a、3bとを備えている。
【0020】
第1可動支承1は、上部構造Uの一方の端部(固定端。図1において左側端部)に配設され、水平面内において回転可能である。第2可動支承2a、2bは、上部構造Uの他方の端部(可動端。図1において右側端部)に配設され、当該上部構造Uの長手方向(軸方向)に移動可能である。また、第3可動支承3a、3bは、前記第1可動支承1の、上部構造Uの幅方向両側(図1の(c)において、第1可動支承1を真ん中にして上下)に配設され、水平面内において全方向に移動可能である。以下、各可動支承について順に説明する。
【0021】
第1可動支承1は、上部構造Uの軸線上、すなわち上部構造Uの幅方向の中央に配設されている。第1可動支承1は、図2に示されるように、上部構造Uの下面に固定される上沓4と、当該上部構造Uからの荷重を受ける建物B1の載置部(下部構造)5に固定される下沓6とからなっている。
【0022】
下沓6は、平面視矩形状であり、上面に円形の凹部7を有している。また、上沓4も平面視矩形状であり、その下面に前記下沓6の凹部7内に挿入可能な円形の凸部8を有している。前記円形の凹部7の内径及び前記円形の凸部8の外径は、当該凸部8を凹部7内に挿入したときに凸部8の外周面と凹部7の内周面との間に所定の隙間c1が形成されるように設定されている。凸部8の外周面と凹部7の内周面には、互いに対向する環状のすべり材10a、10bがそれぞれ配設されている。図2では、分かり易くするためにすべり材10a、10b間には比較的大きな隙間が描かれているが、実際は両すべり材10a、10b間にはわずかな隙間(例えば、半径方向に1〜3mm程度の隙間)しか存在していない。これにより、上沓4は下沓6に対して面内方向の移動は規制されるが、水平面内において回転可能である。すべり材10a、10bは、例えばPTFEなどの合成樹脂や、ステンレス製の薄板(磨き板)などで作製することができる。
【0023】
本実施の形態では、上沓4の凸部8の先端面8aが、下沓6の凹部7の底面7aから所定距離tだけ離間するように配設されている。このため、第1可動支承1を介して上部構造Uからの荷重が下部構造である載置部5に伝達されることはない。上部構造Uからの荷重は、後に詳述する2つの第3可動支承3a、3bを介して載置部5に伝達される。
【0024】
以下、中央の第1可動支承1に鉛直荷重を負担させない場合のメリットについて説明する。
例えば、図1の(b)に示されるように、上部構造Uの柱Pが4隅の4箇所に設けられていると仮定する。図1の(b)のA矢視図における支承部より上階層及び屋根の鉛直荷重をWaとし、図1の(c)のB矢視図における支承部と同階層の鉛直荷重をWbとすると、各可動支承が負担すべき鉛直荷重は、図1の(c)において寸法c、d及びeで示される支承配置に応じて、
第1可動支承1の負担すべき鉛直荷重=Wb×d/(4×e)
第3可動支承3aの負担すべき鉛直荷重=Wa/4+Wb×(d/4+c)/(2×e)
第3可動支承3bの負担すべき鉛直荷重=Wa/4+Wb×(d/4+c)/(2×e)
となり、計算が煩雑である。
【0025】
また、固定端側に3つの支承を配置すると、支承を構成する上沓や下沓の製作誤差や、現場工事における施工誤差により、3箇所のすべてで上部構造Uを支持することができないことがある。すなわち、図3の(a)に示されるように、中央の可動支承1が上部構造Uと非接触になり両側の2箇所で当該上部構造Uを支持する場合や、図3の(b)に示されるように、端の可動支承3aが上部構造Uと非接触になり残りの2箇所で当該上部構造Uを支持する場合が起こる。これらの場合は、前述した設計値以上の鉛直荷重が上部構造Uを支持する支承に負荷される可能性があるので、安全を確保するために安全率を大きく見込んだ設計が必要となり、材料費などが嵩んでしまう。
【0026】
これに対し、固定端側中央の第1可動支承1に鉛直荷重を負担させないことにより、各可動支承が負担すべき鉛直荷重は、支承配置寸法c、d及びeに拘わらず容易に算出することができる。すなわち、
第1可動支承1の負担すべき鉛直荷重=0(ゼロ)
第3可動支承3aの負担すべき鉛直荷重=(Wa+Wb)/4
第3可動支承3bの負担すべき鉛直荷重=(Wa+Wb)/4
となり、算出が容易である。
【0027】
また、第3可動支承3a、3bには、偏荷重による想定外の過大な反力が発生することがなく、ほぼ設計値どおりの鉛直荷重が負荷されるため安全率を大きくとる必要がなくなる。その結果、過大な安全設計により材料費などが嵩むのを抑えることができる。
【0028】
第3可動支承3a、3bは、図4に示されるように、それぞれ上部構造Uの下面に固定される上沓14と、当該上部構造Uからの荷重を受ける建物B1の載置部(下部構造)5に固定される下沓16とからなっている。
【0029】
下沓16は、平面視矩形状であり、上面に円形の凹部17を有している。また、上沓14も平面視矩形状である。上沓14の下面には、ステンレス製の薄板からなるスライドプレート13が配設されており、このスライドプレート13の表面には摩擦抵抗を小さくして滑り性を向上させるために研磨されている。前記下沓16の凹部17内には、その底面から順にゴムなどの弾性体15、ステンレス製などの鋼材17a、及びPTFE製の薄板からなるすべり材18が配設されている。鋼材17aは、すべり材18を保持するための部材であり、このすべり材18の上面に前記スライドプレート13が摺動可能に配設されている。これにより、上沓14は、下沓16に対して水平面内の全方向に移動可能である。
【0030】
第2可動支承2a、2bは、図5に示されるように、それぞれ上部構造Uの下面に固定される上沓24と、当該上部構造Uからの荷重を受ける建物B2の載置部(下部構造)11に固定される下沓26とからなっている。
【0031】
下沓26は、平面視矩形状であり、上面に長手方向に沿って凸条21が形成されている。また、上沓24も平面視矩形状であり、その下面には上部構造Uの軸方向に沿って凹溝22が形成されている。凹溝22の幅w1は、凸条21の幅w2よりも大きくなるように設定されており、下沓26の凸条21は上沓24の凹溝22内に挿入可能である。下沓26の凸条21を上沓24の凹溝22内に挿入した際に、当該凸条21の側面21aと凹溝22の側面22aとの間には隙間c2が形成される。
【0032】
前記凹溝22天井面22b(上沓24が図5に示されるように配置された場合において上に位置する面のこと。凹溝22の開放面が上を向くように上沓24が配置された場合は底面となる)には、円形の凹部23が形成されている。
【0033】
下沓26の凸条21の上面には、ステンレス製の薄板からなるスライドプレート25が配設されており、このスライドプレート25の表面には摩擦抵抗を小さくして滑り性を向上させるために研磨されている。また、前記上沓24の凹部23内には、その天井面から順にゴムなどの弾性体27、ステンレス製などの鋼材28、及びPTFE製の薄板からなるすべり材29が配設されている。鋼材28は、すべり材29を保持するための部材であり、このすべり材29が前記スライドプレート25の上面に摺動可能に配設されている。これにより、上沓24は、下沓26に対して上部構造Uの長手方向に沿って移動可能である。また、水平面内における上沓24と下沓26の相対回転は前記隙間c2により可能である。
【0034】
つぎに前述した実施の形態を用いて建物間の相対変位を吸収するメカニズムについて、図6〜7を参照しつつ説明する。
図6の(a)は支承構造の回転前の上沓の配置を説明する図であり、(b)は同じく下沓の配置を説明する図である。また、図7の(a)は支承構造の回転前の上沓及び下沓の組合せ配置を説明する図である。
【0035】
上部構造Uの固定端側の端部には、3つの可動支承が配設されている。具体的には、中央の第1可動支承1の両側に第3可動支承3a、3bが配設されている。第1可動支承1は、前述したように水平面内において回転可能であり、第3可動支承3a、3bは水平面内において全方向に移動可能である。
【0036】
一方、上部構造Uの可動端側の端部には、2つの第2可動支承2a、2bが当該上部構造Uの幅方向両端付近に配設されている。第2可動支承2a、2bは、前述したように上部構造Uの長手方向に移動可能である。
【0037】
ここで、2つの建物B1、B2が図7において上下方向にd1、左右方向にd2だけ相対移動したとする。このとき、第1可動支承1が水平面内において回転可能であり、且つ、第3可動支承3a、3bが水平面内において全方向に移動可能であるので、前記上下方向の移動は上部構造Uの回転により吸収することができる。また、左右方向の移動は、上部構造Uの長手方向に移動可能な第2可動支承2a、2bにより吸収することができる。
【0038】
本実施形態では、このように上部構造Uの長手方向軸に直交する方向の相対変位を当該上部構造Uの回転により吸収することができるので、可動端側支承の、上部構造Uの長手方向軸に直交する方向の寸法を小さくすることができる。これにより、前記可動端側支承を受ける建物の載置部(下部構造)の、上部構造Uの長手方向軸に直交する方向の寸法も小さくすることができる。その結果、材料費や施工費を削減することができるとともに、省スペース化を図ることができる。
【0039】
また、上部構造Uの長手方向軸に直交する方向の水平力は、第1可動支承1が水平面内において回転可能な構造であるので、モーメントのつりあいを考慮する必要がなく、せん断力だけを考慮すればよいので、固定端における支承の寸法の小型化及びそれを受ける建物の載置部の小型化を図ることができる。
【0040】
図8の(a)は第1可動支承の他の例の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。図8に示される第1可動支承31は、図2に示される第1可動支承1と異なり上部構造Uからの鉛直荷重を負担する構成になっている。
【0041】
第1可動支承31は、上部構造Uの下面に固定される上沓34と、当該上部構造Uからの荷重を受ける建物の載置部(下部構造)に固定される下沓36とからなっている。
【0042】
下沓36は、平面視矩形状であり、上面に円形の第1凹部37aを有しており、この第1凹部37aの底面に当該第1凹部37aよりも小径の第2凹部37bを有している。また、上沓34も平面視矩形状であり、その下面に前記下沓36の第1凹部37a内に挿入可能な円形の凸部38を有している。前記円形の第1凹部37aの内径及び前記円形の凸部38の外径は、当該凸部38を第1凹部37a内に挿入したときに凸部38の外周面と第1凹部37aの内周面との間に所定の隙間c3が形成されるように設定されている。凸部38の外周面と第1凹部37aの内周面には、互いに対向する環状のすべり材40a、40bがそれぞれ配設されている。すべり材40a、40bは、例えばPTFEなどの合成樹脂や、ステンレス製の薄板(磨き板)などで作製することができる。
【0043】
上沓34の下面には、ステンレス製の薄板からなるスライドプレート33が配設されており、このスライドプレート33の表面には摩擦抵抗を小さくして滑り性を向上させるために研磨されている。前記下沓36の第2凹部37b内には、その底面から順にゴムなどの弾性体45、ステンレス製などの鋼材47、及びPTFE製の薄板からなるすべり材48が配設されている。鋼材47は、すべり材48を保持するための部材であり、このすべり材48の上面に前記スライドプレート33が摺動可能に配設されている。これにより、上沓34は、下沓36に対して水平面内において回転可能であるが、水平方向の移動は拘束される。
【0044】
図8に示されるように鉛直荷重を負担する可動支承を固定端側に用いると、当該固定端側では上部構造Uの端部が3箇所で支持されることになるため、前述したような計算(支承が負担すべき鉛直荷重の計算)の煩雑さや安全を見込んだ過大設計という問題があるが、支承の製作精度や施工精度を向上させることでこれらの問題をある程度解消することが可能である。
【0045】
図9の(a)は図2に示される第1可動支承1の変形例の平面説明図であり、(b)は同断面説明図である。この変形例に係る第1可動支承51は、上部構造Uの上揚力を支持可能な構成となっている。
【0046】
第1可動支承51は、図9に示されるように、上部構造Uの下面に固定される上沓54と、当該上部構造Uからの荷重を受ける建物の載置部(下部構造)に固定される下沓56とからなっている。
【0047】
下沓56は、平面視矩形状であり、上面に円形の凹部57を有している。また、上沓54も平面視矩形状であり、その下面に前記下沓56の凹部57内に挿入可能な円形の凸部58を有している。本変形例では、この凸部58が、根元側の径小部58aと、先端側の径大部58bとからなっている。
【0048】
前記円形の凹部57の内径及び前記径大部58bの外径は、当該径大部58bを凹部57内に挿入したときに径大部58bの外周面と凹部57の内周面との間に所定の隙間c4が形成されるように設定されている。径大部58bの外周面と凹部57の内周面には、互いに対向する環状のすべり材60a、60bがそれぞれ配設されている。これにより、上沓54は下沓56に対して面内方向の移動は規制されるが、水平面内において回転可能である。
【0049】
本変形例では、下沓56の凹部57の開口縁に、当該凹部57内に挿入して配設された上沓54の径大部58bの上方への移動を規制するストッパー61が設けられている。このストッパー61は、断面L字状の部材からなり、当該L字状部材の一方の辺61aが前記下沓56の凹部57の開口縁から凹部中心方向に突出するように、L字状部材の他方の辺61bがボルト62により下沓56の側面56aに固定されている。上沓54の径大部58bに係合可能なストッパー61を設けることで、上部構造Uの上揚力を支持することができる。
【0050】
このような上揚力を支持することができるストッパーは、他の可動支承にも適用することができる。
図10は、図8に示される第1可動支承31にストッパーを適応した例を示している。この例においても、断面L字状の部材からなるストッパー71を、その一方の辺71aが下沓76の凹部77の開口縁から凹部中心方向に突出するように、L字状部材の他方の辺71bがボルト72により下沓76の側面76aに固定されている。上沓74の径大部78bに係合可能なストッパー71を設けることで、上部構造Uの上揚力を支持することができる。
【0051】
図11は、図5に示される第2可動支承2にストッパーを適応した例を示している。この例においても、断面L字状の部材からなるストッパー81を、その一方の辺81aが下沓86の凸条82先端の幅広部83の下方に突出するように、L字状部材の他方の辺81bがボルト84により上沓85の側面85aに固定されている。下沓86の幅広部83に係合可能なストッパー81を設けることで、上部構造Uの上揚力を支持することができる。
【0052】
前述した各実施の形態において、弾性体又は鉛直方向若しくは水平方向の隙間を設けることによって、上部構造Uの撓みなどによる傾き(鉛直面内の全方向回転)を吸収することができる。
【0053】
〔その他の変形例〕
なお、本発明の支承構造は前述した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
例えば、前述した実施の形態では、「上沓」と称する部材を渡り廊下などの上部構造に固定し、「下沓」と称する部材を建物の載置部に固定しているが、上下を逆にして、「上沓」と称する部材を建物の載置部に固定し、「下沓」と称する部材を上部構造に固定することも可能である。
また、用いる可動支承の数やその配置、さらにはその寸法は、支持する上部構造の種類や規模に応じて適宜選定することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 第1可動支承
2a 第2可動支承
2b 第2可動支承
3a 第3可動支承
3b 第3可動支承
4 上沓
5 載置部(固定端側)
6 下沓
7 凹部
8 凸部
10a すべり材
10b すべり材
11 載置部(可動端側)
13 スライドプレート
14 上沓
15 弾性体
16 下沓
18 すべり材
21 凸条
22 凹溝
23 凹部
24 上沓
25 スライドプレート
26 下沓
27 弾性体
29 すべり材
31 第1可動支承
33 スライドプレート
34 上沓
36 下沓
37a 第1凹部
37b 第2凹部
38 凸部
40a すべり材
40b すべり材
45 弾性体
48 すべり材
61 ストッパー
71 ストッパー
81 ストッパー
B1 建物
B2 建物
U 上部構造



【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの築造物間に架設される長尺構造物を支持する支承構造であって、
前記構造物の一方の端部に配設される水平面内回転可能な第1可動支承と、
前記構造物の他方の端部に配設され、当該構造物の長手方向に移動可能な第2可動支承と
を備えたことを特徴とする支承構造。
【請求項2】
前記第2可動支承が、前記構造物の幅方向に沿って配設された一対の可動支承からなる請求項1に記載の支承構造。
【請求項3】
前記第1可動支承の、前記構造物の幅方向の両側に水平面内全方向移動可能な第3可動支承が配設されている請求項1又は請求項2に記載の支承構造。
【請求項4】
前記構造物の一方の端部側の鉛直荷重が、前記第3可動支承だけで支持される請求項3に記載の支承構造。
【請求項5】
第1可動支承が、上面に円形の凹部を有する下沓と、前記凹部内に挿入可能な円形の凸部を有する上沓とを備えており、前記上沓は、その凸部の先端面が前記凹部の底面から所定距離だけ離間するように配設されている請求項4に記載の支承構造。
【請求項6】
第1可動支承が、上面に円形の凹部を有する下沓と、前記凹部内に挿入可能な円形の凸部を有する上沓とを備えており、前記凸部の先端面と前記凹部の底面との間にすべり部材が配設されている請求項3に記載の支承構造。
【請求項7】
前記凸部が、根元側の径小部と先端側の径大部とからなっており、下沓の凹部内に挿入して配設された径大部の上方への移動を規制するストッパーが、当該下沓の凹部の開口縁に設けられている請求項5又は請求項6に記載の支承構造。
【請求項8】
前記ストッパーがL字状部材からなり、当該L字状部材の一方の辺が前記下沓の凹部の開口縁から凹部中心方向に突出するように、L字状部材の他方の辺が前記凹部の外周上端に固定されている請求項7に記載の支承構造。
【請求項9】
前記下沓の凹部の内周面と、前記上沓の凸部の外周面とに、互いに対向する環状の滑り部材が摺動可能に設けられている請求項5〜8のいずれかに記載の支承構造。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−219942(P2011−219942A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87888(P2010−87888)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000229737)日本ピラー工業株式会社 (337)
【Fターム(参考)】