説明

支持点回転角度を考慮可能なワイヤーハーネスの変形解析システム

【課題】ワイヤーハーネスの支持点にかかる力によって支持点が回転することを考慮したワイヤーハーネス解析システムの提供。
【解決手段】支点間ベクトルデータを算出して出力可能なベクトル算出手段7を備え、各構成要素の条件をガタツキ角度算出手段82へ指示可能な入力指示手段6を備え、複数の構成要素毎に各要素の変更可能な条件データa乃至g及び固定端座標における支持クランプデータcが予め記憶される回帰式記憶手段81を備え、ベクトル算出手段7が算出した支点間ベクトルデータを入力すると共に、入力指示手段6により選択された条件データa乃至g及び支持クランプデータcを回帰式記憶手段81から取得し、固定端座標W1における支持クランプのガタツキ角度を算出可能な回帰式を予め定められ、この回帰式に入力された各データを挿入してガタツキ角度を算出するガタツキ角度算出手段82を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車や家電製品などの電気系統を必要とする機器の製造工程において、電気系統の配線を行う線状柔軟物、例えばワイヤーハーネスを効率よく結線させるために、仮想空間でワイヤーハーネスを評価する際に用いるワイヤーハーネスの変形解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品等の内部に配設される電気系統の配線は、ワイヤーハーネスによって結線されるのが一般的である。このワイヤーハーネスは、長細い線状であり、且つ柔軟性を有する線状柔軟物である。
そして、ワイヤーハーネスの結線においては、結線作業を円滑に行うためにワイヤーハーネスに予め余分な長さを持たせておいたり、ワイヤーハーネス取り回しのためのワイヤーハーネス支持部を考慮することが必要である。この支持部の考慮や、余分な長さをどの程度持たせておくか等を考慮することで、製造コストを押さえながら取り付け作業を容易にすることが出来るので、製造コスト及び製造工程に要する時間を最小にすることが求められている。
【0003】
従来は、ワイヤーハーネスを模したモデルを三次元仮想空間に形成してグラフィック表示させ、所定部位を高速箇所として固定し、自由端側を移動させた際にFEM解析によって各部位の変形を三次元仮想空間に逐次表示させていた。
図8及び図9は、ワイヤーハーネス等の線状柔軟物を、有限要素法を用いるFEM解析を用いてその変形状態を解析する『柔軟物の変形解析装置』(特開2005−038398、以下、従来例1という。)である。
従来例1では、図8及び図9に表すように、柔軟物であるワイヤーハーネス105の特定部位であるコネクタ107を移動した際に、移動に伴うワイヤーハーネス105が変形することとなるが、従来例1の柔軟物の変形解析装置は、このワイヤーハーネス105の変形過程をFEM解析により解析して画像表示装置101の画面101aに表示していた。
一方、ワイヤーハーネス105の物性データ、形状データ及び拘束条件が入力部101bであるキーボード102やマウス103あるいは記憶媒体の読取機104によって予め入力条件として入力されていた。
また、ワイヤーハーネス105を表示するにあたり、画面101a上の三次元仮想空間にワイヤーハーネス105部位の三次元形状を模したグラフィック表示を行う画像表示手段110を設けてあった。さらに、コネクタ107から所定距離離れた部位をクランプ106によって拘束されているワイヤーハーネス105のコネクタ107部位が画面101a上で指示されて移動させられるとその移動位置を三次元座標値として認識する座標値認識手段111を設けてある。そして、座標値認識手段111は、マウス3によるコネクタ107の移動指示に伴う指示位置の移動経路を逐次サンプリングしてその三次元座標値を保持するトラッキング部111aを備え、また、トラッキング部111aの保持したトラッキングデータを基に三次元空間でのコネクタ107部位の移動量を算出して所定の移動量毎にその移動位置の三次元座標値データを出力する座標値出力部11bを備えていた。
そして、認識されたコネクタ107の移動位置の三次元座標値データに応答して、FEM解析により特定部位の移動に伴って初期状態のワイヤーハーネス105の各部位がどの様に変形するのを解析して変形解析モデルを逐次作成する変形解析手段112を備えていた。この解析にあたっては、予め入力されているワイヤーハーネス105の物性データ、形状データ及び拘束条件を参照して計算されていた。
変形解析手段112によってFEM解析された移動後のワイヤーハーネス105は、画像表示手段110が解析された変形解析モデルとして、ワイヤーハーネス105の三次元形状を模したグラフィック表示を画面101aに表示させていた。
【0004】
しかしながら、上記従来例1では、ワイヤーハーネス105を移動する際の先端にあるコネクタ107は、常に水平方向に向いて移動されることとなる。また、ワイヤーハーネス105の基部となる拘束元も常に一定の方向で設定され、拘束時の遊びとなるガタツキを考慮せずにワイヤーハーネス105をFEM解析によってその変形を解析しており、実際にワイヤーハーネス105を実際の自動車等に取り付ける際のモデル解析としては不十分であった。
【0005】
そこで、従来例2として説明する『線条構造物の配線設計支援方法、その装置及びそのプログラム』(特開2005−242426)では、線条構造物であるワイヤーハーネス201を複数の梁要素が連続的に結合された弾性体として有限要素モデルを作成してFEM解析が行われた。そして、梁要素の連接点である節点のうち、クランプ状態が比較的緩くガタツキとなる回転自由度が与えられた所定節点では、そのガタツキ角度θだけ回転自由度がFEM解析時の要素として与えられて解析がなされた。
【特許文献1】特開2005−038398号 公報
【特許文献2】特開2005−242426号 公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来例2では、ガタツキ角度は例えば5度というような予め定める所定値であって、予め定められる所定値を持って計算されている。そして、このガタツキ角度は、ワイヤーハーネスの内部を構成する電線種類や電線数、及び、外部保護材の種類が変化しても変えておらず、常に所定値が用いられた。
しかしながら実際のワイヤーハーネスでは、拘束部のガタツキは、ワイヤーハーネスを構成する電線種類や電線数、及び、外部保護材の物理特性とによって変化する。これに伴いガタツキ角度も変化してしまうが、従来例2ではガタツキ角度という要素は考慮されているものの、この角度がワイヤーハーネスを構成する電線種類や電線数、及び、外部保護材とによって変化することまでは考慮されていなかったので、正確なガタツキ角度を考慮した計算が成されていないという問題点を有した。
また、拘束部に用いている拘束手段の強度や柔軟性によっては、該拘束部に所定以上の荷重が加わったときに拘束手段が変形してガタツキ角度が変化してしまうが、従来例2ではこの拘束手段自身の変形によるガタツキ角度は考慮されていなかった。
【0007】
この発明は、上記問題点を鑑み、ワイヤーハーネスの拘束部に生じるガタツキ角度を考慮する際に、ワイヤーハーネスの構成及び拘束具の変形等物理特性をも加味したワイヤーハーネスの経路予測方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこでこの発明では、ワイヤーハーネスの構成や支持クランプの種別による拘束条件の変化するガタツキ角度を算出してFEM解析可能とさせるために、ワイヤーハーネスに特定部位を定め、ワイヤーハーネスの支持点を基点としてワイヤーハーネス各部位の移動に伴う変形過程をFEM解析を用いて解析し、移動後のワイヤーハーネスの変形を解析可能なワイヤーハーネスの変形解析システムであって、入力支持されるワイヤーハーネスの固定端座標から移動端座標へのベクトルを支点間ベクトルデータとして算出可能なベクトル算出手段を備え、ワイヤーハーネスを構成する複数の構成要素毎に各構成要素の変更可能な条件データ及び固定端座標における支持クランプデータが予め記憶される回帰式記憶手段を備え、記憶手段に記憶された条件を選択する入力手段を備え、入力手段により選択された記憶手段の記憶する各構成要素の条件データ、及び、ベクトル算出手段が算出した支点間ベクトルデータ、並びに、支持クランプデータが入力され、各データによるワイヤーハーネスの固定端座標における支持クランプのガタツキ角度を算出可能な回帰式を予め定められ、入力された各データを回帰式に当てはめてガタツキ角度を算出可能なガタツキ角度算出手段を備え、ワイヤーハーネスの構成及びクランプの構成により変化するワイヤーハーネスの支持点部分のガタツキ角度をFEM解析の解析条件として使用可能なことを特徴とする支持点回転角度を考慮可能なワイヤーハーネスの変形解析システムを提供する。
【0009】
この発明にかかるワイヤーハーネスの変形解析システムでは、ガタツキ角度算出手段が、入力指示手段により選択指示に基づき回帰式記憶手段に記憶されているワイヤーハーネスの構成要素毎の条件データ及び指示クランプデータを読み出す。更に、ガタツキ角度算出手段は、ベクトル算出手段は算出した支点間ベクトルデータを入力する。そして、ガタツキ角度算出手段では、予め定められた回帰式にこれら条件を代入し、ワイヤーハーネスの支持点におけるガタツキ角度を算出する。
【発明の効果】
【0010】
従ってこの発明では、ワイヤーハーネスの変形解析において、ワイヤーハーネスを拘束している支持点の支持手段が持つ特性によるガタツキ角度を考慮可能となるので、ワイヤーハーネスの変形をFEM解析を用いて行う際に、より実際の作業状況に近い解析が可能となる。
【実施例1】
【0011】
以下に、この発明の実施例を、図面に基づき説明する。図1はこの発明の実施例を表す説明図であり、図2はこの発明の実施例の構成を表すブロック説明図であり、図3はワイヤーハーネスの状態を表す説明図であり、図4はワイヤーハーネスWの支持点を回転させた状態を表す説明図であり、図5はこの発明の実施例を表すフローチャートである。
【0012】
1はこの発明の実施例であるワイヤーハーネスの変形解析システムである。ワイヤーハーネスの変形解析システム1(以下、単に解析システム1という。)は、外見的装置構成そのものは従来と何ら変わりなく、実際に演算等の処理を行うコンピュータ装置である解析装置本体2と、表示手段である液晶等の表示ディスプレイ3と、解析条件等を入力指示するためのキーボードやマウスなどによって構成される入力手段4とからなる。
【0013】
表示ディスプレイ3は、解析装置本体2から出力される表示すべき情報に基づいて画像を表示可能であり、従来の表示ディスプレイと何ら変わりない構成である。そして、解析装置本体2には表示ディスプレイ3に表示させるためのグラフィックス表示手段を備え所謂グラフィックスボード等を装着するか、コンピュータ装置のマザーボードに備わってるグラフィックスチップを用いて表示データを表示ディスプレイ3に出力するが、従来のグラフィックス表示手段と何ら変わりないので詳説はせず、単に解析装置本体2から表示データを出力して表示ディスプレイ3へ表示させる等と表現する。
【0014】
入力手段4もやはり表示ディスプレイ3同様に従来のキーボードやマウスと何ら変わることはなく、またタッチパネル等の他の手段を用いても良い。そして、入力手段4との情報の授受を行うためのインターフェースを備えているが、コンピュータを用いた装置では通常備わる手段であり通常行われる動作であり、特に従来と異なる特殊な事ではないので、単に入力手段4による入力指示等と記載する。
【0015】
解析装置本体2は、図2に表すように、ガタツキ角度反映手段5、解析条件入力手段6、ベクトル算出手段7、回帰式演算手段8、クランプ種入力手段9、FEM解析手段10、及び、解析結果表示手段11を備える。そして回帰式演算手段8は、ワイヤーハーネスWの物理条件が予め記憶されており記憶された条件を選択的に読み出し可能な回帰式記憶部81と、予め記憶される回帰式に種々条件を当てはめて演算を行うガタツキ角度算出手段82とを備える。
尚、上記各手段5乃至11は、解析装置本体2を構成するコンピュータシステムによって実現されており、実際にはCPUによる演算、CPUの演算に際して必要となるRAMやこれらを一体の装置とするマザーボード等によって行われ、回帰式演算手段8に備える回帰式記憶部81はハードディスク等の記憶手段によって行われるものである。
そして、解析装置本体2は、表示ディスプレイ3へ表示信号を出力可能であり、また、入力手段4から指示情報等を入力可能である。
【0016】
解析編集手段5は、FEM解析手段10によるFEM解析に先立ち、ワイヤーハーネスWの拘束部分を、ワイヤーハーネスWの構成条件や拘束部のクランプ種別等から、拘束部分の角度を変更させる手段である。解析編集手段5は、ガタツキ角度算出手段82が算出したガタツキ角度分だけワイヤーハーネスWの基点側支持点W1および移動端側支持点W2を回転させた状態の角度条件と置き換えて回帰式記憶部81に記憶させる。この解析編集手段5により、従来ワイヤーハーネスWを解析する際に、基点側支持点W1および移動端側支持点W2は、X軸方向の向きに固定されている状態で解析されていたのに対し、ワイヤーハーネスWの解析条件である条件データに基づいて基点側支持点W1および移動端側支持点W2が位置されたときに、基点側支持点W1および移動端側支持点W2が条件データの物理的な特性によってどれだけ回転されるか、即ち、どれだけのガタツキを持って支持されるかを算出可能となる。
【0017】
解析条件入力手段6は、ワイヤーハーネスWを解析する際にワイヤーハーネスWの物理的な構成上検討を入力されて指示される手段であり、入力手段4であるキーボードやマウスにより直接ワイヤーハーネスWの構成条件を選択されて入力される。解析条件入力手段6は、これら条件を一時的に記憶可能であり、入力された条件に対応して回帰式演算手段8の回帰式記憶部81に記憶された条件を読み出し、FEM解析手段10に該条件を入力させFEM解析を行わせる。
【0018】
ベクトル算出手段7は、入力手段4により指示されるワイヤーハーネスWの基点となる拘束部である支持点の座標と、移動させてクランプさせる他の支持点の座標とを入力指示され、入力指示された両支点間のベクトルを算出する手段である。
【0019】
ここで、図3に表すワイヤーハーネスWの説明図に基づき、実施例をより具体的に説明する。
図3に表すワイヤーハーネスWは、W1が基点側の支持点であり、W2が終点側となる移動されてクランプされる移動端側支持点である。従来のワイヤーハーネスの変形解析では、支持点W1の支持及びワイヤーハーネスWの伸びる方向は、白抜き矢印に表されるX軸方向であり、同様に移動端側支持点W2の支持及びワイヤーハーネスWの伸びる方向は支持点W1同様にX軸方向であった。
ベクトル算出手段7は、この基点側の支持点W1及び移動端側支持点W2がマウスやキーボード等の入力手段4から入力されると、ベクトル算出手段7へ入力され、ベクトル算出手段7では基点側の支持点W1から移動端側支持点W2へのベクトルを演算する。このベクトルの演算式やその手法は既に行われているものであり、特に詳説はしない。そして具体的には、演算式は回帰式記憶部81に記憶されており、ベクトル算出手段7が実行されると、回帰式記憶部81から演算式を読み込み、この式に支持点W1及びW2の位置を代入して演算する。演算した結果は支点間ベクトルデータgとして一時的に記憶させておく。この記憶はRAM(図示せず)に行わせても良く、また回帰式記憶部81に行わせても良い。尚、ベクトル算出手段7が演算する際に必要とする記憶手段は、別途設けても良い。
ベクトル算出手段7による演算結果は、解析条件入力手段6により指示されるワイヤーハーネスWの構成条件(物理的な条件であり、電線本数や保護材の種類、直径等である)等と合わせてガタツキ角度算出手段82によるガタツキ角度の算出に用いられる。
【0020】
回帰式演算手段8は、回帰式記憶部81及びガタツキ角度算出手段82とからなる。
回帰式記憶部81は、コンピュータシステムのハードディスク(図示せず)に種々の情報を記憶可能である。回帰式記憶部81に記憶される情報は、ガタツキ角度を反映させてFEM解析を行わせるワイヤーハーネスWの物理的な構成要素である条件データであり、具体的には、ガタツキ角度を算出するに際して必要となるワイヤーハーネスWの支持点W1及びW2間の長さ情報aと、ワイヤーハーネスWを構成する電線の種別を表す線種情報bと、支持点W1及びW2の支持点を構成するクランプ種情報cと、ワイヤーハーネスWを長さ方向と直角に切断したときの直径情報dと、ワイヤーハーネスWを構成する電線を束ねて被覆している保護材の種別を表す保護材種別情報e、ワイヤーハーネスWを構成している電線数情報fである。また、これらに併せて、ベクトル算出手段7が算出した支点間ベクトルデータgもベクトル算出手段7の指示により記憶される。さらに、回帰式記憶部81には、ガタツキ角度を算出するための回帰式hを記憶する。この回帰式は、ガタツキ角度算出手段82によって読み出され、回帰式に前記記憶された条件データを代入して算出する。
回帰式記憶部81に記憶される回帰式hは、各座標軸X、Y、Zそれぞれについてガタツキ角度を算出可能であり、予め実物のワイヤーハーネスWを用いて前記条件データを変更しながらワイヤーハーネスWを基点側支持点W1を固定し移動端側支持点W2を移動させてテストを行い、ワイヤーハーネスWの支持点W1におけるガタツキ角度の発生にそれぞれの条件データがどの程度寄与するかを測定し、それぞれの条件データの寄与度に係数を与えた近似式を算出して求めたものである。この回帰式hは、基点側支持点W1と移動端側支持点W2とでは異なるので、それぞれの支持点W1および支持点W2毎に用意されており、それぞれの支持点W1および支持点W2毎にガタツキ角度が算出されることとなる。この実施例では、例えば基点側支持点W1では、図6に表すような回帰式を用いるが、その他の回帰式であってもよく、実測されるガタツキ角度に近いガタツキ角度を算出可能であればどのような形態であってもよい。
【0021】
また、各条件データは解析条件入力手段6がそれぞれを選択可能に表示ディスプレイ3に一覧表示させ、入力手段4によって選択入力させ、選択された値を回帰式記憶部81から読み出してガタツキ角度算出手段82へ出力させ、ガタツキ角度算出手段82がその値を回帰式に代入して演算を行うように形成する。例えば長さ情報aでは、入力された長さを入力手段4のキーボードから直接入力しその値を用いてもよいが、この実施例では、解析条件入力手段6が表示ディスプレイ3に長さ情報aの長さを選択可能に一覧表を表示させ、入力手段4のマウスをクリックすることで該表から値を選択可能に形成する。従って、一覧表に表示する値は予め回帰式記憶部81に記憶されており、解析条件入力手段6がこれを表示ディスプレイ3に表示させて選択させ、その値を回帰式記憶部81から読み出し、ガタツキ角度算出手段82によって回帰式に代入演算させるように形成している。
【0022】
また線種情報bは、ワイヤーハーネスWを構成する素線である電線がその太さや被覆する外皮等によって堅さ等の物理特性が異なっているのでこれらを表す値であり、ワイヤーハーネスWを構成する種々の素線の情報が予め回帰式記憶部81に記憶されており、長さ情報aと同様、表示ディスプレイ3に表示されて選択されることで回帰式hに代入可能である。この線種情報bは、作業者が印刷された一覧表などから読み取り、入力手段4によって直接入力してもよく、この場合には、解析条件入力手段6が入力された値を一時的に回帰式記憶部81等に記憶させ、ガタツキ角度算出手段82が演算する際に回帰式hへ代入させればよい。
【0023】
同様に電線数情報fも想定される本数が例えば「1」から「30」まで予め回帰式記憶部81に記憶されており、前記同様表示ディスプレイ3に表示させて所望数を選択させ、ガタツキ角度算出手段82の演算の際にその値を回帰式記憶部81から読み出して代入させる。この電線数情報fも入力手段4によってその数を直接入力するようにしてもよく、この場合には、入力されて数がそのまま一時的に回帰式記憶部81等の記憶手段へ演算時使用する電線数情報fとして記憶されて使用されればよい。
【0024】
クランプ種情報cも同様であり、予め想定されるクランプの種類毎に「Type1」乃至「Type9」というように定められており、回帰式記憶部81に想定されるクランプの種類に対応してワイヤーハーネスWを拘束する寄与度を数値化して記憶されている。そして、前記同様表示ディスプレイ3に表示されて選択させ、選択したクランプの種類に対応して記憶されている寄与度を表す数値をクランプ種情報cとして読み出し回帰式hの演算に用いる。このクランプ種情報cも、直接その値を入力して用いてもよい。
【0025】
直径情報dも同様であり、予め想定されるワイヤーハーネスWの直径を回帰式記憶部81に記憶されており、解析条件入力手段6がこの記憶されている直径を表示ディスプレイ3に表示させ、入力手段4によって選択入力され、選択された直径を回帰式記憶部81から読み出し、ガタツキ角度算出手段82へ出力する。なお、直径情報dは、直接入力手段4のキーボードから数値を入力し、その値を一時的に回帰式記憶部81等の記憶手段に記憶させ、回帰式記憶部81の演算時に読み出して用いるようにしてもよく、この実施例でも直接入力させるように形成している。
【0026】
保護材種別情報eも同様であり、保護材の種類によってワイヤーハーネスWの動きが拘束されるので、予め想定されるワイヤーハーネスWを被覆している保護材の種類を特定する情報であり、回帰式記憶部81に想定される保護材の種類に対応してその寄与度を数値化して種々記憶されている。そして、解析条件入力手段6がこの記憶されている種類を表示ディスプレイ3に表示させ、入力手段4によって選択入力させ、選択された保護材の種類と対応して記憶されている寄与度を表す数値を回帰式記憶部81から読み出し、ガタツキ角度算出手段82へ出力する。
【0027】
この実施例では、ワイヤーハーネスWの支持点W1及びW2間の長さ情報a、ワイヤーハーネスWを構成する電線の種別を表す線種情報b、支持点W1及びW2の支持点を構成するクランプ種情報c、ワイヤーハーネスWの直径情報d、ワイヤーハーネスWの保護材の種別を表す保護材種別情報e、ワイヤーハーネスWを構成している電線数情報fが、それぞれワイヤーハーネスWの支持点W1および支持点W2のガタツキ角度に寄与する要因であり条件データとして用いたが、これらのうち寄与度の低いものを削減する等して回帰式hとなる近似式を用いて演算するようにしてもよい。
【0028】
なお、この実施例では、クランプ種情報cおよび保護材種別情報e以外の条件データは、入力手段4の備えるキーボードから実数値として入力して用い、一時的に回帰式記憶部81等の記憶手段に記憶させておき、ガタツキ角度算出手段82の演算時にガタツキ角度算出手段82へ出力するように形成し、クランプ種情報cおよび保護材種別情報eは、表示ディスプレイ3に入力手段4の備えるマウスによって選択可能に表示させ、その中から選択されたものと対応して回帰式記憶部81に記憶された拘束寄与度を表す数値を読み出し、ガタツキ角度算出手段82の演算時にガタツキ角度算出手段82へ出力するように形成する。従って、クランプ種情報cおよび保護材種別情報eの選択を行わせるための手段は、数値を直接入力させる手段である解析条件入力手段6とは別のクランプ種入力手段9として用意したが、クランプ種入力手段9と解析条件入力手段6を併せて一つの手段としてもよい。
具体的には、クランプ種入力手段9では、図7(a)に表すようにクランプ種情報cおよび保護材種別情報eを、それぞれ選択可能なものとして表示ディスプレイ3に表示させて入力手段4のマウスのクリック動作によって選択させ、選択させた値に対応して回帰式記憶部81に記憶されるデータを、ガタツキ角度算出手段82の演算時に読み出し、図7(b)に表すように、例えばZ軸のガタツキ角度の算出を行う回帰式hの所定箇所(図中の下線表示部)に代入させて演算させるように形成するのである。
【0029】
そして、ガタツキ角度算出手段82では、解析条件入力手段6およびクランプ種入力手段9によって条件データの入力が完了すると回帰式記憶部81に記憶されている回帰式hを読み出し、条件データが回帰式hへ代入されてガタツキ角度を算出可能である。
ガタツキ角度を算出するための回帰式は、前記した通りX、Y,Zそれぞれの軸周りによって異なる計算式として回帰式記憶部81に記憶されている。ガタツキ角度算出手段82では、演算に際し、前記条件データを回帰式記憶部81から読み出すとともに、ベクトル算出手段7によって算出された支点間ベクトルデータgも読み出し、回帰式hへ代入してガタツキ角度を算出可能である。
尚、この実施例では、ガタツキ角度算出手段82はガタツキ角度の算出を行うだけであるが、ガタツキ角度反映手段5の行う基点側支持点W1および移動端側支持点W2の位置における角度情報を修正する作用を持たせて、ガタツキ角度反映手段5と併せた手段としてもよく、この場合には、ガタツキ角度反映手段5を設けなくともよい。
【0030】
FEM解析手段10は、従来同様のFEM解析可能な手段であるので詳細な説明は省略する。なおFEM解析手段10は、ガタツキ角度算出手段82の算出したX、Y,Zの各軸周りのガタツキ角度をFEM解析データとして入力可能に形成し、従来同様のワイヤーハーネスWの物理的な条件は、解析条件入力手段6によって入力された数値を直接、あるいは、一時的に記憶されている回帰式記憶部81等の記憶手段から入力可能に形成され、これらのデータに基づき、ワイヤーハーネスWの変形解析が可能である。
【0031】
解析結果表示手段11は、FEM解析手段10により解析されたワイヤーハーネスWの解析結果を入力し、解析された結果に基づいてワイヤーハーネスWを表示ディスプレイ3に表示可能なCADデータとして生成して表示ディスプレイ3に表示させる。解析結果表示手段11による表示ディスプレイ3への表示に際しては、別途設けるCADシステム(図示せず)が基点側支持点W1および移動端側支持点W2をガタツキ角度に基づいて回転された状態を反映したワイヤーハーネスWの仮想表示画像をCADシステムが生成できるように、FEM解析手段10によってデータが出力されており、CADシステムが生成したワイヤーハーネスWの状態を表示ディスプレイ3に表示させる。
【0032】
上記のように形成する変形解析システム1の解析状態を、フローチャートを表す図5に沿って説明する。
まず、解析条件入力ステップS1が実行される。解析条件入力ステップS1では、解析条件入力手段6によって入力される長さ情報a、線種情報b、直径情報d、電線数情報fの条件データを入力手段4によって直接数値としてや、表示ディスプレイ3に表示させた選択種から選択させる等して入力させるステップである。解析条件入力ステップS1に続けては、ベクトル算出ステップS2が実行される。
【0033】
ベクトル算出ステップS2は、ベクトル算出手段7が、入力手段4により指示される基点側支持点W1の座標と、移動端側支持点W2の座標とを入力し、入力指示された両支点間のベクトルを算出する。算出されるベクトルは、基点側支持点W1から移動端側支持点W2へのベクトルとして算出される。ベクトル算出ステップS2に続けてはクランプ種入力ステップS3が実行される。
【0034】
クランプ種入力ステップS3では、クランプ種入力手段9によって表示ディスプレイ3に表示させたクランプ種および保護材種から、入力手段4によって選択させ、選択させたクランプ種および保護材種と対応して回帰式記憶部81に記憶されているクランプ種情報cおよび保護材種別情報eを読み出し、ガタツキ角度算出手段82へ出力させるステップである。クランプ種入力ステップS3に続けては、ガタツキ角度算出ステップS4が実行される。
【0035】
ガタツキ角度算出ステップS4では、解析条件入力ステップS1およびベクトル算出ステップS2並びにクランプ種入力ステップS3によって選択あるいは算出された長さ情報a、線種情報b、クランプ種情報c、直径情報d、保護材種別情報e、電線数情報f、支点間ベクトルデータgを、回帰式記憶部81に記憶されている回帰式hに代入し、各軸周りの回転角度であるガタツキ角度をガタツキ角度算出手段82に算出させるステップである。ガタツキ角度算出ステップS4に続けてはクランプ角編集ステップS5が実行される。
【0036】
クランプ角編集ステップS5では、ガタツキ角度反映手段5に、ガタツキ角度算出手段82が算出したガタツキ角度に基づいて基点側支持点W1および移動端側支持点W2の角度を、基点側支持点W1および移動端側支持点W2の方向として変更させるステップである。これにより、支持点のガタツキ角度を考慮しない従来の変形解析システムにおける支持点の方向がX軸方向に固定されていた場合とは異なり、実際にクランプのガタツキを考慮した基点側支持点W1および移動端側支持点W2の情報を得ることができ、実際のワイヤーハーネスWの状況により近いワイヤーハーネスWの仮想解析が可能となる情報を反映させている。
クランプ角編集ステップS5に続けてはFEM解析ステップS6が実行される。
【0037】
FEM解析ステップS6では、従来同様、FEM解析手段10によってFEM解析が行われる。その際、FEM解析手段10がガタツキ角度算出手段82の算出したガタツキ角度を反映した情報を解析条件入力手段6およびクランプ種入力手段9並びにガタツキ角度反映手段5から入力し、FEM解析が行われる。FEM解析ステップS6に続けては表示ステップS7が実行される。
【0038】
表示ステップS7では、FEM解析ステップS6によって解析されたワイヤーハーネスWの状態を、解析結果表示手段11によって表示ディスプレイ3へ表示させるステップである。
【0039】
そして上記のように表示されるワイヤーハーネスWは、図4に表すように、基点側支持点W1および移動端側支持点W2が回転された状態であり、ワイヤーハーネスW各部の位置もこれら回転を考慮した上で解析された位置となっている。
【産業上の利用可能性】
【0040】
この発明は、自動車や家電製品等に用いるワイヤーハーネスの仮想空間における解析に用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】この発明の実施例を表す説明図
【図2】この発明の実施例の構成を表すブロック説明図
【図3】ワイヤーハーネスの状態を表す説明図
【図4】ワイヤーハーネスWの支持点を回転させた状態を表す説明図
【図5】発明の実施例を表すフローチャート
【図6】回帰式を表す説明図
【図7】回帰式への代入状態を説明する模式図
【図8】従来例を表す説明図
【図9】従来例を表す説明図
【符号の説明】
【0042】
W ワイヤーハーネス
W1 基点側支持点
W2 移動端側支持点
a 長さ情報
b 線種情報
c クランプ種情報
d 直径情報
e 保護材種別情報
f 電線数情報
g 支点間ベクトルデータ
h 回帰式
S1 解析条件入力ステップ
S2 ベクトル算出ステップ
S3 クランプ種入力ステップ
S4 ガタツキ角度算出ステップ
S5 ガタツキ角度出力ステップ
S6 FEM解析ステップ
S7 表示ステップ
1 ワイヤーハーネスの変形解析システム
2 解析装置本体
3 表示ディスプレイ
4 入力手段
5 ガタツキ角度反映手段
6 解析条件入力手段
7 ベクトル算出手段
8 回帰式演算手段
81 回帰式記憶部
82 ガタツキ角度算出手段
9 クランプ種入力手段
10 FEM解析手段
11 解析結果表示手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーハーネスに特定部位を定め、ワイヤーハーネスの支持点を基点としてワイヤーハーネス各部位の移動に伴う変形をFEM解析を用いて解析し、移動後のワイヤーハーネスの変形状態を解析可能なワイヤーハーネスの変形解析システムであって、
入力指示されるワイヤーハーネスの固定端座標から移動端座標へのベクトルを支点間ベクトルデータとして算出し出力可能なベクトル算出手段を備え、
各構成要素の条件を選択可能であり、選択した条件をガタツキ角度算出手段へ指示可能な入力指示手段を備え、
ワイヤーハーネスを構成する複数の構成要素毎に各構成要素の変更可能な条件データ及び固定端座標における支持クランプデータが予め記憶される回帰式記憶手段を備え、
ベクトル算出手段が算出した支点間ベクトルデータを入力すると共に、入力指示手段により選択された各構成要素の条件データ及び支持クランプデータを回帰式記憶手段から取得し、各データによるワイヤーハーネスの固定端座標における支持クランプのガタツキ角度を算出可能な回帰式を予め定められ、この回帰式に入力された各データを挿入してガタツキ角度を算出可能なガタツキ角度算出手段を備え、
ワイヤーハーネスの構成及びクランプの構成により変化するワイヤーハーネスの支持点部分のガタツキ角度をFEM解析の解析条件として使用可能なことを特徴とする支持点回転角度を考慮可能なワイヤーハーネスの変形解析システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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