説明

改ざん防止インキ組成物及び改ざん防止印刷物並びに改ざん防止インキ組成物の製造方法。

【課題】 灯油、軽油及び合成イソパラフィン等の低極性の有機溶剤に接触した場合においても極めて短時間に滲出し、改ざん痕跡を容易に確認することができるとともに、紙への染料の裏ぬけがない改ざん防止インキ組成物及び改ざん防止印刷物並びに改ざん防止インキ組成物の製造方法を得る。
【解決手段】 本発明は、着色剤とワニスとを少なくとも含んで成る改ざん防止インキ組成物であって、着色剤が、水に不溶で、かつ、有機溶剤に可溶な色材と炭化水素樹脂とを含んでなり、ワニスが、着色剤を溶解しないことを特徴とする改ざん防止インキ組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油溶性材料により着色した炭化水素樹脂をインキに配合することによって、印紙、切手、証紙等の有価証券並びに各種証明書及び重要書類等の改ざん防止性の優れたインキ及び印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
印紙、切手等の有価証券並びに各種証明書及び重要書類等の印刷物に使用されるインキは、有機溶剤等による改ざんを防止するため、用紙やインキに有機溶剤が接触した場合に変色又は滲み等が生じる材料を配合し、当該印刷物が有機溶剤等に接触した場合には、印刷物に使用したインキや用紙等が変色することによって改ざんを防止する方法がある。
【0003】
上記特性を持つインキの例としては、結合剤マトリックスを形成することのできる少なくとも1つの化合物と、有機溶剤及び/又は他の化学物質に対して感受性を有する少なくとも1つの染料とを含み、結合剤マトリックスを形成する化合物が、重合作用及び/又は架橋作用によって固体の結合剤マトリックスを形成することのできる化合物から選択されることを特徴とする滲出性インクがある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
上記特性を持つインキの例として、本出願人は、ビヒクルに水不溶性、かつ、有機溶剤可溶型の油溶性染料と顔料を配合させることによって、有機溶剤等に接触した場合に変色する効果を有する変色効果インキを提案している(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
また、本出願人は、ビヒクルに水不溶性、かつ、有機溶剤可溶型の油溶性染料と顔料を配合させることによって、有機溶剤と接触させる場合における変色の色差が、JIS表色系に基づくΔE20以上の色差を有する変色効果インキを提案している(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表平11−510548号公報
【特許文献2】特開2009−149788号公報
【特許文献3】特開2009−149789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1は、樹脂等が三次元に架橋しているため、高極性の有機溶剤であるアセトン、エタノール、キシレン等により滲みが生じることを特徴とするものであり、低極性の有機溶剤である灯油、アロマオイル、合成イソパラフィン等による滲出性に乏しく、低極性の有機溶剤による改ざんの有無を確認しにくいという問題があった。
【0008】
また、特許文献1、特許文献2及び特許文献3の発明は、油溶性染料を直接ワニスと混合しているため、印刷後に当該染料が紙に浸透するという、いわゆる「裏抜け」が発生するおそれがあり、外見上好ましくないという問題があった。
【0009】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、炭化水素樹脂を油溶性染料により着色した着色剤をワニスと混合させることによって、灯油、軽油、合成イソパラフィン等の低極性の有機溶剤に接触した場合においても極めて短時間に滲出し、改ざん痕跡を容易に確認することができるとともに、紙への染料又は蛍光増白剤の裏抜けがない改ざん防止インキ組成物及び改ざん防止印刷物並びに改ざん防止インキ組成物の製造方法に関するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の改ざん防止インキ組成物は、着色剤と、ワニスとを少なくとも含んで成る改ざん防止インキ組成物であって、着色剤が、水に不溶で、かつ、有機溶剤に可溶な色材と炭化水素樹脂とを含んで成り、ワニスが着色剤を溶解しないことを特徴とする改ざん防止インキ組成物である。
【0011】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物における色材は、油溶性染料及び/又は蛍光増白剤であることを特徴とする改ざん防止インキ組成物である。
【0012】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物における油溶性染料は、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アンスラキノン系、メチン系、フタロシアニン系及びトリアリルメタン系から成る群から選択される少なくとも一種の染料から成る改ざん防止インキ組成物である。
【0013】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物における蛍光増白剤は、クマリン系、ナフタルイミド系、オキサゾール系及びチオフェン系から成る群から選択される少なくとも一種の化合物から成る改ざん防止インキ組成物である。
【0014】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物における炭化水素樹脂は、脂肪族系炭化水素樹脂、シクロペンタジエン樹脂、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ロジン系石油樹脂及び水素化石油樹脂から成る群から選択される少なくとも一種の樹脂から成る改ざん防止インキ組成物である。
【0015】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物におけるワニスは、水溶性の熱可塑性樹脂又は紫外線硬化樹脂から成る改ざん防止インキ組成物である。
【0016】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物は、着色剤の色材と炭化水素樹脂とが、改ざん防止インキ組成物に対する重量%において、色材が0.5重量%から5.0重量%であり、炭化水素樹脂が1.0重量%から25.0重量%で含んで成る改ざん防止インキ組成物である。
【0017】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物における着色剤は、改ざん防止インキ組成物に対して1.5重量%から30.0重量%含まれて成る改ざん防止インキ組成物である。
【0018】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物を製造する方法は、炭化水素樹脂を加熱して溶融させる溶融工程と、溶融した炭化水素樹脂に、水に不溶で、かつ、有機溶剤に可溶な色材と炭化水素樹脂を混合する混合工程と、混合物を冷却して固化させた後に粉砕して、着色剤を得る粉砕工程と、着色剤と、着色剤を溶解しないワニスに混合して、ワニス中に分散させる分散工程と、を含んで成ることを特徴とする改ざん防止インキ組成物を製造する方法である。
【0019】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物を製造する方法は、色材が油溶性染料及び/又は蛍光増白剤であることを特徴とする改ざん防止インキ組成物を製造する方法である。
【0020】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物を製造する方法は、油溶性染料が、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アンスラキノン系、メチン系、フタロシアニン系及びトリアリルメタン系から成る群から選択される少なくとも一種の染料から成る改ざん防止インキ組成物を製造する方法である。
【0021】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物を製造する方法は、蛍光増白剤が、クマリン系、ナフタルイミド系、オキサゾール系及びチオフェン系から成る群から選択される少なくとも一種の化合物から成る改ざん防止インキ組成物を製造する方法である。
【0022】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物を製造する方法は、炭化水素樹脂が脂肪族系炭化水素樹脂、シクロペンタジエン樹脂、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ロジン系石油樹脂及び水素化石油樹脂から成る群から選択される少なくとも一種の樹脂から成る改ざん防止インキ組成物を製造する方法である。
【0023】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物を製造する方法は、ワニスが水溶性の熱可塑性樹脂又は紫外線硬化樹脂から成る改ざん防止インキ組成物を製造する方法である。
【0024】
また、本発明の改ざん防止印刷物は、前述の改ざん防止インキ組成物を用いて印刷された改ざん防止印刷物である。
【発明の効果】
【0025】
本発明の改ざん防止インキ組成物は、低極性の有機溶剤である軽油、灯油等に接触した場合でも、瞬時に滲出するため、消印や割印等の消去による印刷物の改ざんを防止することができる。
【0026】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物は、色材により着色した炭化水素樹脂を使用しているため、紙への染料又は蛍光増白剤の裏抜けを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の改ざん防止インキ組成物の製造工程を示す一例図。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載における技術的思想の範囲内であれば、その他の色々な実施の形態が含まれる。
【0029】
本発明の改ざん防止インキ組成物は、炭化水素樹脂を加熱して溶融し、水不溶性で、かつ、有機溶剤可溶型の色材を混合して着色し、冷却して固化した着色剤を粉砕してワニスに分散したことを特徴としている。なお、本発明における着色は、有色のみならず、半透明又は透明による着色をも含む。
【0030】
(着色剤)
本発明に使用される着色剤は、水に不溶で、かつ、有機溶剤に可溶な色材と炭化水素樹脂とを含んでなり、着色剤が、ワニスに対して溶解しないことを特徴とする。着色剤がワニスに溶解する場合は、印刷物の色彩に影響を与えるとともに、滲出効果が低減する。着色剤は、加熱して溶融した炭化水素樹脂に色材を混合して着色し、冷却後に固化した混合物を粉砕して得たものである。炭化水素樹脂を溶融させて色材と混合するのは、あらかじめ炭化水素樹脂と色材を混合することによって、色材がワニスに溶解することを防止するためである。また、炭化水素樹脂を有機溶剤により溶解して色材を混合することも考えられるが、使用した有機溶剤の揮発成分をすべて除去することは困難であり、有機溶剤の残留成分によって、色材が溶出するおそれがある。なお、着色剤の配合量は、1.5重量%以上30.0重量%以下であることが好ましい。1.5重量%以下では、滲出効果を視認しにくいからである。また、30.0重量%以上配合した場合は、インキの粘度が高くなり、インキの流動特性に影響を与えるおそれがある。
【0031】
(色材)
着色剤に使用する色材は、水不溶性で、かつ、有機溶剤に可溶な色材を使用し、炭化水素樹脂に溶解する油溶性の公知の材料を使用することができる。例えば、染料であれば、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アンス(ト)ラキノン系、メチン系、フタロシアニン系又はトリアリルメタン系の染料を使用することができる。また、蛍光増白剤としては、クマリン系、ナフタルイミド系、オキサゾール系又はチオフェン系の化合物を使用することができる。
【0032】
また、使用する色材は、少なくとも一種類でも可能であるが、二種類以上使用することが好ましい。一種類では、公知の有機溶剤のすべてに反応させることが困難な場合もあるからである。また、各種有機溶剤に対する溶解度が異なる二種類以上の色材料を組み合わせることによって、特定の有機溶剤による印刷物の改ざん行為に対し、二種類以上の色彩の滲出を印刷物に付与することができるため、印刷物の改ざん防止効果を向上させることができる。なお、滲出を視認しやすい色彩としては、赤系、青系の染料であるが、これに限定されるものではなく、インキの色により適宜設計すればよい。また、染料と蛍光増白剤は、混合して使用することも可能であり、この場合には、染料の滲出を視認することができるとともに、紫外線による蛍光を視認することができる。また、色材の配合量は、改ざん防止インキ組成物に対し、0.5重量%から5重量%である。0.5重量%以下では、有機溶剤に接触した場合における滲出の視認が困難だからである。5重量%以上の場合は、印刷物の色彩に影響を与えるおそれがある。
【0033】
(炭化水素樹脂)
着色剤に使用する炭化水素樹脂は、後述するワニスに溶解しなければ特に限定されず、脂肪族系炭化水素樹脂、シクロペンタジエン樹脂、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ロジン系石油樹脂及び水素化石油樹脂等の公知の炭化水素樹脂を使用することができる。なお、前述した色材との着色性において好ましいのは、水素化石油樹脂、脂肪族系炭化水素樹脂である。また、使用する炭化水素樹脂は、少なくとも一種類でも可能であるが、二種類以上使用することが好ましい。一種類では、公知の有機溶剤のすべてに反応させることが困難な場合もあるからである。さらに、炭化水素樹脂の軟化点は、特に限定されるものではないが、70℃以上150℃以下であることが好ましい。70℃以下の場合は、印刷時における摩擦熱の影響により炭化水素樹脂が溶融するおそれがある。150℃以上の場合は、加熱作業を行う際に人体へ悪影響を与えるおそれがある。また、炭化水素樹脂の配合量は、改ざん防止インキ組成物に対して、1.0重量%から25.0重量%である。1.0重量%以下では、インキ粘度が低くなり、印刷適性上好ましくないからである。25.0重量%以上の場合は、インキ粘度が高くなるため、インキ化が困難となる。
【0034】
(ワニス)
着色剤を分散するワニスは、着色剤が溶解しなければ特に限定されず、公知のワニスを使用することができる。一例として、紫外線硬化型オフセットインキと水性グラビアインキとして使用するワニスについて説明する。
【0035】
(紫外線硬化型オフセットインキのワニス)
紫外線硬化型オフセットインキのワニス成分としては、炭化水素樹脂と色材が溶解しなければ特に限定されず、単官能アクリレートモノマー(例えば、ECH変性フェノキシアクリレート等)、2官能アクリレートモノマー(例えば、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコール等)を使用することができる。
【0036】
(水性グラビアインキのワニス)
また、水性グラビアインキのワニス成分としては、炭化水素樹脂と色材が溶解しなければ特に限定されず、公知のワニス成分を使用することが可能であり、水溶性樹脂や水分散性樹脂、その中間的なハイドロゾル型樹脂等を使用することができる。具体的には、シェラック、ロジン変性マレイン酸樹脂、スチレン−アクリル酸樹脂、アクリル酸エステル−アクリル酸樹脂、スチレン−マレイン酸樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ウレタン変性アクリル酸樹脂、水溶性ウレタン、水溶性ポリエステル樹脂の単独か、又はこれらの混合物から成る樹脂、水溶性樹脂を保護コロイドとするコロイド状水性樹脂等が挙げられる。
【0037】
また、本発明の改ざん防止インキ組成物は、必要に応じて顔料、消泡剤、分散剤及び潤滑剤等を添加することができる。
【0038】
(改ざん防止インキ組成物の作製工程)
本発明の改ざん防止インキ組成物の作製方法は、図1に示すように、炭化水素樹脂を加熱して溶融させる溶融工程と、溶融した炭化水素樹脂に、水に不溶で、かつ、有機溶剤に可溶な色材と炭化水素樹脂を混合する混合工程と、混合物を冷却して固化させた後に粉砕して着色剤を得る粉砕工程と、着色剤を着色剤が溶解されないワニスに混合してワニス中に分散させる分散工程から成る。
【0039】
溶融工程は、ホットプレート又はマントルヒータ等の公知の加熱機を使用し、使用する炭化水素樹脂の軟化点まで加熱して、炭化水素樹脂を溶融する。
【0040】
混合工程は、溶融した炭化水素樹脂をかくはん機で混合することができる程度にまで温度が低下した後に、ミキサー、ディゾルバー等の公知のかくはん機を使用して、溶融した炭化水素樹脂と色材を均一に混合する。
【0041】
粉砕工程は、混合工程終了後に室温下において炭化水素樹脂と色材の混合物を冷却して固化し、固化した混合物を乾式アトライター、ボールミル及び振動ミル等の公知の粉砕機を使用して300μm以下に粉砕して着色剤を得る。300μm以上の場合は、着色剤のワニスに対する分散性の低下及びインキの流動性の低下等を招くからである。
【0042】
分散工程は、ロールミル等の公知の練肉機を使用し、着色剤を色材と炭化水素樹脂とを溶解しないワニスに混合して、ワニス中に分散させる。なお、必要に応じて、顔料及び助剤等を混合して練和する。
【0043】
(改ざん防止印刷物)
本発明の改ざん防止印刷物は、前述した改ざん防止インキにより基材上に文字、図形、記号等を印刷して作製する。作製した改ざん防止印刷物は、有機溶剤と接触した場合に、改ざん防止インキに配合されている炭化水素樹脂が溶解し、炭化水素樹脂を着色した油溶性染料や蛍光増白剤が滲出する。例えば、赤色系の油溶性染料を使用した場合は、赤色が滲出する。青系の油溶性染料を使用した場合には、青色が滲出する。また、蛍光増白剤を使用した場合は、紫外線を照射して滲出した蛍光増白剤を確認することができる。一方、ワニス等は、有機溶剤に対して不溶であるため変色・滲出しない。よって、滲出の有無により、改ざんの有無を確認することができる。
【0044】
本発明の改ざん防止印刷物の基材は、コート紙、上質紙等の公知の紙を使用することができる。
【0045】
本発明の改ざん防止印刷物の印刷方式は、特に限定されるものではなく、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式、スクリーン印刷方式及びフレキソ印刷方式等の公知の印刷方式を使用することができる。
【0046】
なお、有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン及びキシレン等といった芳香族炭化水素類、ガソリン、軽油、灯油、ベンジン、パラフィン及びミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素類、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、クロロホルム等といったハロゲン化炭化水素類、アセトン、アセトニトリル、ジイソブチルケトン、ジエチルケトン及びジプロピルケトン等といったケトン類、酢酸エチル及び酢酸ブチル等の酢酸エステル類等の公知の有機溶剤が挙げられる。なお、特に反応しやすいのは、アロマオイル、灯油、合成イソパラフィンである。
【実施例1】
【0047】
以下、本発明の改ざん防止インキについて具体的な実施例を挙げ、詳細に説明する。なお、本実施例については、滲出を視認しやすくするため、染料に赤色系と青色系を用いたが、前述したとおり、染料については、これに限定されるものではない。
【0048】
(製造例1)
水に不溶で、かつ、有機溶剤に可溶な色材と炭化水素樹脂とを含む着色剤の製造。
【0049】
色材にジスアゾ系油溶性染料(赤色系染料:有本化学工業(株)製)20重量部、炭化水素樹脂として水素化炭化水素樹脂(荒川化学工業(株)製)80重量部を使用し、溶融工程において水素化炭化水素樹脂を140℃に加熱して溶融し、溶融した水素化炭化水素樹脂が130℃にまで低下した後に、混合工程においてジスアゾ系油溶性染料を添加して混合物を作製した。混合物は、室温下で冷却して固化した後、粉砕工程により粉砕して着色剤(A)を得た。
【0050】
着色剤Aと同様な方法により、アンス(ト)ラキノン系油溶性染料(青色系染料:有本化学工業(株)製)、クマリン系蛍光増白剤(日本化薬(株)製)を使用して着色剤(A)から(A)を得た。これらをまとめた代表例を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
改ざん防止インキ組成物の製造
【0053】
一例として、本発明の改ざん防止インキ組成物をUV硬化型オフセットインキとして製造した例について説明する。着色剤として、表1のAを25重量部、ワニスを65重量部、顔料にフタロシアニンブルー6重量部、光重合開始剤4重量部を加え、三本ロールミルにより練和して改ざん防止インキ組成物(IA)を得た。
【0054】
同様な方法により改ざん防止インキ組成物(IA)から(IA)を得た。これらをまとめたものを表2に示す。
【0055】
【表2】

【0056】
本発明の改ざん防止インキとの有機溶剤に対する滲出を比較するため、比較例のインキを例示する。
【0057】
(比較インキWの製造例)
比較例Wのインキは、溶融工程、混合工程、粉砕工程による着色剤の製造過程を行わず、単に色材と樹脂をワニスに練和したものである。色材には、アンス(ト)ラキノン系油溶性染料(青色系染料:有本化学工業(株)製)2重量部、光重合開始剤4重量部、樹脂10重量部、ワニス84重量部を加え、三本ロールミルにより練和して比較インキ(W)を得た。
【0058】
(比較インキWの製造例)
比較例Wのインキは、溶融工程、混合工程、粉砕工程による着色剤の製造過程を行わず、単に色材をワニスに練和したものである。色材には、アンス(ト)ラキノン系油溶性染料(青色系染料:有本化学工業(株)製)4重量部、光重合開始剤4重量部、ワニス92重量部を加え、三本ロールミルにより練和して比較インキ(W)を得た。
【0059】
(滲出性評価)
前述の改ざん防止インキ組成物と比較インキ組成物を、市販の印刷機を使用してオフセット印刷により上質紙に印刷を行った。印刷後、紫外線を照射してインキ皮膜を硬化させた。なお、紫外線照射は、80W/cmのメタルハライドランプ1灯で、照射量40mJ/cm程度(アイグラフィックス(株)製、PFUV−A1、365nm用ヘッド使用)とした。前記印刷物は、合成イソパラフィン、石油ベンジン、灯油、アロマオイルを用いて、5秒間浸漬させ、印刷物の変化を目視で評価した結果を表3に示す。
【0060】
【表3】

【0061】
表3を用いて、改ざん防止インキ組成物IAからIA、比較インキWとWについて検証する。なお、評価の基準は、以下のようにした。
◎:印刷物の滲出が顕著。
○:印刷物の滲出が若干見受けられる傾向。
×:印刷物の滲出が乏しく、浸漬前の水準と同等の外観。
【0062】
前述の印刷物を目視で評価した結果、インキIAにより印刷された印刷物は、合成イソパラフィン、石油ベンジン、灯油及びアロマオイルに5秒間浸漬することによって、印刷物が赤色に滲出することを確認した。また、インキIAにより印刷された印刷物は、青色に滲出することを確認した。さらに、インキIAにより印刷された印刷物に対して紫外線を照射した場合は、印刷物から滲出した蛍光を確認することができた。
【0063】
一方、比較インキWとWは、石油ベンジンに対して滲出が若干見受けられたが、合成イソパラフィン、アロマオイル及び灯油については、滲出効果が乏しく、浸漬前の水準と略同等の外観であった。
【0064】
(裏抜け性評価)
また、インキの裏抜け性の評価用として、改ざん防止インキ組成物と比較インキ組成物を、市販の印刷機を使用してオフセット印刷により上質紙Kから上質紙Kに印刷した。印刷後、紫外線を照射してインキ皮膜を硬化させた。紫外線照射は、80W/cmのメタルハライドランプ1灯で、照射量40mJ/cm程度(アイグラフィックス(株)製、PFUV−A1、365nm用ヘッド使用)とした。印刷物の評価は、前述の紫外線照射により硬化させた印刷物を常温において保存し、印刷物の紙への裏抜けを目視で評価した。評価結果については、表4に示す。なお、裏抜けの評価を適正に行うため、上質紙の坪量と厚さを測定した。
【0065】
【表4】

【0066】
表4を用いて、上記製造例2、上記比較例について検証する。なお、評価の基準は、以下のようにした。
◎:紙への染料の裏抜けが乏しく、白紙と同等の外観。
○:紙への染料の裏抜けが若干見受けられる傾向。
×:紙への染料の裏抜けが顕著であり、印刷画像と同等の外観。
【0067】
前述の印刷物の裏面を目視で評価した結果、インキIAからインキIAにより印刷した印刷物は、染料による裏抜けを確認することができなかった。
【0068】
一方、比較インキWは、青色染料による上質紙Kから上質紙Kにおいて裏抜けが若干見受けられた。なお、比較Wにおいては、青色染料による上質紙Kから上質紙Kにおいて裏抜けが顕著であり、印刷画像と同等の外観となった。
【0069】
前述の滲出性評価及び裏抜け性評価により、従来技術と比較して滲出性の良好であり、紙への裏抜けを生じない改ざん防止インキ組成物であることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤とワニスとを少なくとも含んで成る改ざん防止インキ組成物であって、
前記着色剤が、水に不溶で、かつ、有機溶剤に可溶な色材と炭化水素樹脂とを含んで成り、
前記ワニスが、前記着色剤を溶解しないことを特徴とする改ざん防止インキ組成物。
【請求項2】
前記色材が、油溶性染料及び/又は蛍光増白剤であることを特徴とする請求項1記載の改ざん防止インキ組成物。
【請求項3】
前記油溶性染料が、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アンスラキノン系、メチン系、フタロシアニン系及びトリアリルメタン系から成る群から選択される少なくとも一種の染料から成る請求項2記載の改ざん防止インキ組成物。
【請求項4】
前記蛍光増白剤が、クマリン系、ナフタルイミド系、オキサゾール系及びチオフェン系から成る群から選択される少なくとも一種の化合物から成る請求項2記載の改ざん防止インキ組成物。
【請求項5】
前記炭化水素樹脂が、脂肪族系炭化水素樹脂、シクロペンタジエン樹脂、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ロジン系石油樹脂及び水素化石油樹脂から成る群から選択される少なくとも一種の樹脂から成る請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の改ざん防止インキ組成物。
【請求項6】
前記ワニスが、水溶性の熱可塑性樹脂又は紫外線硬化樹脂から成る請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の改ざん防止インキ組成物。
【請求項7】
前記着色剤が、前記色材と前記炭化水素樹脂とを、改ざん防止インキ組成物に対する重量%において、色材が0.5重量%から5.0重量%であり、炭化水素樹脂が1.0重量%から25.0重量%で含んで成る請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の改ざん防止インキ組成物。
【請求項8】
前記着色剤が、前記改ざん防止インキ組成物に対して1.5重量%から30重量%含まれて成る請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の改ざん防止インキ組成物。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の改ざん防止インキ組成物を製造する方法であって、
炭化水素樹脂を加熱して溶融させる溶融工程と、
前記溶融した炭化水素樹脂に、水に不溶で、かつ、有機溶剤に可溶な色材と炭化水素樹脂を混合する混合工程と、
前記混合物を冷却して固化させた後に粉砕して、着色剤を得る粉砕工程と、
前記着色剤を、前記着色剤を溶解しないワニスに混合して、ワニス中に分散させる分散工程とを含んで成ることを特徴とする改ざん防止インキ組成物を製造する方法。
【請求項10】
前記色材が、油溶性染料及び/又は蛍光増白剤であることを特徴とする請求項9記載の改ざん防止インキ組成物を製造する方法。
【請求項11】
前記油溶性染料が、モノアゾ系、ジスアゾ系、金属錯塩型モノアゾ系、アンスラキノン系、メチン系、フタロシアニン系及びトリアリルメタン系から成る群から選択される少なくとも一種の染料から成る請求項10に記載の改ざん防止インキ組成物を製造する方法。
【請求項12】
前記蛍光増白剤が、クマリン系、ナフタルイミド系、オキサゾール系及びチオフェン系から成る群から選択される少なくとも一種の化合物から成る請求項10記載の改ざん防止インキ組成物を製造する方法。
【請求項13】
前記炭化水素樹脂が、脂肪族系炭化水素樹脂、シクロペンタジエン樹脂、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、ロジン系石油樹脂及び水素化石油樹脂から成る群から選択される少なくとも一種の樹脂から成る請求項9乃至請求項12のいずれか1項記載の改ざん防止インキ組成物を製造する方法。
【請求項14】
前記ワニスが、水溶性の熱可塑性樹脂又は紫外線硬化樹脂から成る請求項9乃至請求項13のいずれか1項記載の改ざん防止インキ組成物を製造する方法。
【請求項15】
請求項1乃至請求項8のいずれか1項の記載の改ざん防止インキ組成物を用いて印刷された印刷物。

【図1】
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【公開番号】特開2011−225693(P2011−225693A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95827(P2010−95827)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】