説明

改善されたエネルギー密度を有する非水性電気化学電池

【課題】本発明は、リチウム金属箔アノードと、活物質として二硫化鉄を含むカソード被覆とを含む非水性電池を提供する。
【解決手段】カソード被覆は、カソード電流コレクタとして機能する金属基質の少なくとも1つの面に塗布される。特に、本発明の電池は、高速放電について改善された性能を有し、驚くべきことに、アノードのアンダーバランス状態で達成される。本発明の電池は、1.0以下のアノード対カソードのインプットを有する。本発明者らは、合金リチウム箔と併せて用いられる固有の新規なカソード被覆用配合物によって、カソード被覆の固形分の体積を約10%増加させるだけで、体積及び重量の両方についての電池のエネルギー密度を、20%から25%まで改善できることを、予期せずに見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムがアノード活物質であり、二硫化鉄又は黄鉄鉱がカソード活物質である電池のような非水性電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム金属負極(アノード)と黄鉄鉱又は二硫化鉄正極(カソード)との電気化学対は、長い間、理論的高エネルギー対として認識されてきた。以下、「黄鉄鉱」及び「二硫化鉄」は互換的に使用される。リチウム金属は、あらゆる金属の中で最低の密度を有し、2062ミリアンペア・時/立方センチメートル(mAh/cm3)の体積エネルギー密度及び3861.7ミリアンペア・時/グラム(mAh/g)の重量エネルギー密度を有する。黄鉄鉱は、四電子還元を受ける能力の結果として、有利なエネルギー機会を提供し、4307mAh/cm3の体積エネルギー密度及び893.58mAh/gの重量エネルギー密度を有する。
【0003】
しかしながら、この特定の電気化学対を用いて、商業的に実現可能な電池を達成するには、多くの課題が存在する。1つの主要な課題は、如何にして電池の内体積を効率的に使用するかということである。この電気化学系は、放電時及び付随する反応生成物の形成時に、体積増加をもたらすことが知られている。したがって、この体積増加を吸収するために、電池設計により、十分な空隙体積を組み込むことが必要である。さらに、電池の放電効率が増大するにつれて、付加的な反応生成物が生成されて体積の段階的増加を生じ、この体積増加は、該電池内に十分な空隙体積を組み込むことによって吸収しなければならなくなることが認識されることになる。
【0004】
カソードの密度を増大させることによって電池のエネルギー密度を改善する試みは、さらなる課題を呈する。第1に、カソードの密度の増加により、反応生成物を収めるのに、この電極内の空隙体積が少なくなり、電池内に代替的な空隙箇所を設ける必要が生じることが認識される。さらに、被覆された電極材料に印加されるカレンダ加工力を増大させることでカソードの高密度化を行うと、カソード電流コレクタとして機能する金属箔基質に延伸を生じることになる。こうした延伸により、被覆層の均一性が損なわれることになり、しわが寄ったり、ひびが入ったり、最終的に該被覆層の全て又は一部が基質から分離されたりすることになる。
【0005】
電池の放電効率及び電池容量を改善しながら、リチウム/二硫化鉄の電気化学対についての反応生成物に関する体積増加を吸収するために、非反応性の内部電池成分が占める体積を可能な限り最小限にすべきであることが理解される。この点に関し、リチウム箔が十分に導電性であるので、リチウム金属箔をアノードとして使用することによって、別個にアノード電流コレクタを設ける必要がなくなる。しかしながら、リチウム箔の引張り強度は比較的低いものであり、その結果として、引き伸ばされたり、薄くなったりすることがあり、アノード容量が減少した局所的な領域を生じさせる。顕著な場合には、薄くなることが、リチウム・アノード内で断絶が生じる程度まで悪化することがある。より厚いリチウム箔、別箇のアノード電流コレクタ、及び還元領域又は非イオン性輸送領域をもつリチウム・アノードを有する電池の設計を含む、リチウム箔の脆弱性の問題に対する種々の解決法が提案されてきた。これらの解決法は、一般的には、電池内においてアノードのオーバーバランスをもたらすものであり、効率的ではなく、体積測定上満足のいくものでもない。金属リチウム箔は比較的高価な材料であるため、電池内で過剰のリチウムを使用することは、費用もかかる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、放電中に生じた反応生成物の体積増加を吸収することができ、増大したエネルギー密度及び放電効率を有する非水性リチウム/二硫化鉄電池への必要性がある。さらに、カソード被覆層の均一性を犠牲にすることなく、電流コレクタ基質に対する良好な接着性をもつ高密度のカソードを有する、こうした非水性電池への必要性がある。さらに、アノードの完全性を犠牲にすることなく、カソードに対するアノードの電池バランスを減少させる非水性電池への必要性がある。
本発明は、さらに添付の図面に関連してさらに説明される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、リチウム金属箔アノードと、活物質として二硫化鉄を含むカソード被覆とを含む非水性電池に関し、ここで該被覆は、カソード電流コレクタとして機能する金属基質の少なくとも1つの面に塗布される。特に、本発明の電池は、高速放電について改善された性能を有し、驚くべきことに、アノードのアンダーバランス状態で達成される。換言すれば、本発明の電池は、本明細書で定義される意味で、1.0以下のアノード対カソードのインプット比を有する。本発明者らは、固有の新規なカソード被覆用配合物によって、カソード被覆の固形分の体積を約10%増加させるだけで、体積及び重量の両方についての電池のエネルギー密度を、20%から25%まで改善できることを、思いがけず見出した。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】アノード及びカソード、並びに境界面の電極幅を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の電池のカソード被覆用配合物は、リチウム金属箔アノードと併せて使用することができる。リチウム金属は、リチウム・アルミニウム合金であってもよい。リチウム・アルミニウム合金のアルミニウム含量は、0.1重量パーセントから2.0重量パーセントまでとすることができる。幾つかの実施形態において、アルミニウム含量は、0.1パーセントから0.9パーセントまでの間である。別の実施形態において、リチウム箔アノード材料のアルミニウム含量は、0.5パーセントである。このような合金は、例として、米国ノースカロライナ州、Kings Mountain所在のChemetall Foote Corporationから市販されている。本発明者らは、アルミニウム合金リチウムを、以下に説明されるカソード・スラリー配合物と併せて使用することにより、電池内のリチウム量を最小限にすることが可能になることを見出した。合金リチウムが、強度を増加させる。例えば、電極が、ゼリーロール電極組立体と共に巻き付けられた本発明の電池においては、約0.5重量パーセントのアルミニウムを含むリチウム・アルミニウム合金を用いることで、強度が増加され、材料の伸びは、30.5cm(12.0インチ)の初期アノード長さと比較して、0.5パーセントより少ない。これは、電池が放電される時に、巻き付けられた電極ストリップの長さに沿ってアノードの不連続性が最小限になり、電池の性能全体の改善に寄与することを意味する。本発明者らはまた、合金リチウム・アノードの電解質内の有機溶媒との初期反応時に形成する固体の電解質界面膜(又はSEI)が、合金されていないリチウム・アノードを用いて形成するSEI膜よりも小さいイオン輸送抵抗を示すことも観察した。
【0010】
溶媒内に被覆成分を含むスラリーを電流コレクタに塗布することによって、本発明の電池のカソード被覆を形成することができる。スラリーは、二硫化鉄、炭素材料のような導電性材料、及び任意に他の添加剤を含む。新規なスラリー配合は、より高い密度のカソード、1.0以下のアノード対カソードのインプット比、及び電池エネルギー密度の増加を可能にする。これらの物は、電池の放電効率、カソードの完全性、又は金属箔基質への乾燥カソード・スラリーの接着性を犠牲にすることなく、達成される。本発明者らは、カソード被覆内の導電性添加剤を適切に選択することにより、用いられる溶媒の量を減少させ、最終的な電極被覆内の空隙体積を減少させ、より高密度のカソードをもたらすことを可能にすることを見出した。本発明者らはまた、特定のスリップ試剤及びレオロジー変性剤を組み込むことによって、所望のカソード多孔率及び被覆厚さを達成するために必要なカレンダ加工力を最小限にでき、さらに本発明の電池のアノード対カソードのインプット比を可能にすることを見出した。
【0011】
導電性炭素添加剤は、合成黒鉛及びアセチレンブラックの混合物を含むことができる。本発明者らは、高度に結晶性であり、極めて異方性の特性を有する合成黒鉛を組み込むことによって、特定の有益な効果を達成できることを見出した。この黒鉛(以下、「高度に結晶性の合成黒鉛」と呼ぶ)は、中ないし低程度の表面積及び構造を有する粉末をもたらし、さらに高純度レベルを有する。好適な高度に結晶性の合成黒鉛は、薄い小板の形態とすることができる。小板は、ほぼ平坦にしてもよく、又はアーチ形若しくはカップ形状のように湾曲させてもよい。湾曲した小板は、カソード被覆に強度を加え、カソードの導電性を改善する傾向がある。中ないし低程度の表面積及び構造は、以下に定められるBET及びDBP値に関連付けられる。より大きな表面積及び構造を有する炭素は、溶媒を保持し、最終的に被覆の欠陥をもたらす傾向がある。好適な高度に結晶性の合成黒鉛は、0.1%の最大不純物又は灰レベル、9マイクロメートル(μm)の平均粒度、およそ10m2/gのBET表面積、及び190%のn−フタル酸ジブチル(DBP)油吸収比を有する。BET比表面積は、表面積をマルチポイント窒素ガス吸着と関連付ける、ASTM D6556によるBrunauer−Emmet−Taylor法によって測定される比表面積である。DBP値は、ASTM D2414に従って測定される。こうした高度に結晶性の合成黒鉛は、Timcal Graphite(米国オハイオ州Westlake所在)からTIMREX(登録商標)MX−15として市販されている。TIMREX(登録商標)MX−15は、0.01パーセントから0.2パーセントまでの不純物レベル、3.0μmから11.0μmまでの平均粒度、3.0m2/gから11.0m2/gまでのBET表面積、及び160パーセントから200パーセントまでのDBP比を有する。膨張した合成黒鉛のような他の高度に結晶性の合成黒鉛を用いることもできる。
好適なアセチレンブラックの例は、米国テキサス州Woodlands所在のChevron Phillips Chemical Company LPから市販されている55%圧縮アセチレンブラックのSHAWINIGAN BLACK(登録商標)ABC55である。
【0012】
1つの実施形態においては、スラリー配合物内の導電性炭素添加剤の量は、全固形分の7.0体積パーセントから11.0体積パーセントまでであり、別の実施形態においては、導電性炭素の量は、全固形分の10.0体積パーセントから10.5体積パーセントまでである。ここで用いられる「固形分」及び「固形パーセント」は、溶媒を考慮しない乾燥カソード被覆用配合物を指し、「湿潤状態含有量」及び「湿潤パーセント」は、用いられる溶媒を考慮したカソード被覆用配合物を指す。本発明者らはさらに、高レベルの高度に結晶性の合成黒鉛及び低レベルのアセチレンブラックを用いることによって、電極を処理する際に困難さを増大させる、望ましくない被覆の溶媒保持力を全体的に減少させ得ることを見出した。このことは、電解質の溶媒保持力をも減少させ、高速の放電性能を改善することができる。例えば、湿及び乾の両方をベースとし又は固形ベースで、高度に結晶性の合成黒鉛の体積が、アセチレンブラックの体積を上回っていてもよい。同じく湿及び乾の両方をベースとし又は固形ベースで、高度に結晶性の合成黒鉛の体積が、アセチレンブラックの体積の少なくとも2倍である場合に、処理をさらに改善することができる。以下の実施例1に開示されるようなカソード製造プロセスにおいて、例えば、高度に結晶性の合成黒鉛の固形分体積パーセントが約7.39であり、アセチレンブラックの固形分体積パーセントが約3.05である場合など、高度に結晶性の合成黒鉛の固形分体積パーセントが7.0から7.5までの間であることが有利であり、アセチレンブラックの固形分体積パーセントが3.0から3.5までの間である。固形分重量パーセントにおいて、こうしたプロセスの場合は、アセチレンブラックは、1.0パーセントから3.0パーセントまでであることが有利であり、高度に結晶性の合成黒鉛は、3.0重量パーセントから6.0重量パーセントまでであることが有利である。
【0013】
カソード・スラリー配合物は、電極の処理を助ける少なくとも1つのレオロジー調整剤をさらに含むことができる。本発明者らは、剪断応力に対して高い感応性を有するこうした調整剤を含むカソード・スラリーが、高密度のカソード及び低いアノード対カソードのインプット比をさらに可能にすることを見出した。こうした調整剤の例は、乱されていない状態でスラリーの粘度を保持する際にスラリーを助けるが、該スラリーが比較的高い剪断力に曝される場合には該スラリーの粘度を下げるというものである。スラリーを保持タンクから電極基質に運搬するプロセスの際に、高い剪断力に遭遇することがある。剪断力が取り除かれた場合に、スラリーが比較的高い粘度に戻るのをさらに助ける時に、電流コレクタへのスラリーの適用をさらに増大させることができる。本発明者らは、ヒュームド・シリカを本発明の電池のカソード・スラリーに組み込むことにより、上述の剪断力感応性がもたらされることを見出した。シリカは、例えば、0.70mmol/gから0.80mmol/gといった、0.5mmol/gから1.0mmol/gまでの間のシラノール基表面濃度を有することができる。スラリー配合物内に組み込まれた固形分の0.2重量パーセントから0.6重量パーセントまでの量で、ヒュームド・シリカを添加することができる。シリカの嵩密度は、35.0g/リットルから50.0g/リットルまでとすることができる。好適なヒュームド・シリカ添加剤の例は、ドイツ国デュッセルドルフ所在のDegussa AGから市販されている、AEROSIL(登録商標)200である。AEROSIL(登録商標)200は、45.0g/リットルから50.0g/リットルまでの嵩密度を有し、ヒュームド・シリカが、固形分の0.3重量パーセントを構成するスラリー配合物に使用されてきた。他のレオロジー調整剤は、ポリエチレン・オキシド(例えば、米国ミシガン州Midland所在のDow Chemical CompanyからのPOLYOX(登録商標)WSR−205)及び高塩基性カルシウム・スルホネート(例えば、米国コネチカット州ノーウォーク所在のKing Industries社のK−STAY(登録商標)501)を含む。
【0014】
スリップ剤を、カソード・スラリー配合物内の添加剤として使用することもできる。微粉化TEFLON(登録商標)又は微粉化ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、スリップ剤の例である。2.0μmから4.0μmまでの平均粒度及び12.0μmの最大粒度を有する微粉化PTFEが、被覆配合物において容易に分散され、1.0NPIRIグリンドから1.5NPIRIグリンドまでに処理された。ここで、NPIRIは、National Printing Ink Research Instituteを表す。以下の実施例に開示されるようなカソード製造プロセスにおいて、微粉化PTFEは、スラリー内の固形分の全重量の0.2重量パーセントから0.6重量パーセントまでを構成することができる。好適な微粉化PTFEは、Micro Powders Inc.によって製造され、米国オハイオ州クリーブランド所在のDar−Tech Inc.によって販売されているFLUO HT、及び米国デラウェア州ウィルミントン所在のE.I.du Pont de Nemours and CompanyからのPOLYMIST TEFLON(登録商標)粉末である。他のスリップ剤は、Micro Powders,Inc.によって製造され、米国オハイオ州クリーブランド所在のDar−Tech Inc.によって販売されているSUPERSLIP 6520のような微粉末ワックスを含む。
【0015】
ここに用いられるアノード対カソードのインプット比は、次のように計算することができる: 直線インチあたりのアノード容量:
(箔厚さ)×(界面電極幅)×(1直線インチ)×(20℃におけるリチウム箔の密度)×(リチウム・エネルギー密度、3861.7mAh/g)。
直線インチあたりのカソード容量:
(最終カソード被覆厚さ)×(界面電極幅)×1インチ×(カソード乾燥混合物密度)×(最終カソード充填百分率)×(乾燥重量パーセントFeS2)×(パーセント純度FeS2)×(FeS2エネルギー密度、893.58mAh/g)。
アノード/カソードのインプット比=直線インチあたりのアノード容量/直線インチあたりのカソード容量。
【0016】
ここに用いられる「界面電極幅」は、カソードとアノードとの間の界面積を共有する長さの寸法である。図1に例が示され、ここで「A」と表記された寸法が、界面電極幅である。「最終カソード被覆厚さ」は、カソードの何らかのカレンダ加工操作又は他の高密度化処理後の被覆厚さを指す。「最終カソード充填百分率」は、何らかのカレンダ加工操作又は他の高密度化処理後の固形分体積百分率を指し、100%から、カソードの何らかのカレンダ加工操作又は他の高密度化処理後の空隙体積百分率を減じたものに等しい。「カソード乾燥混合物密度」は、カソード被覆の固形成分の添加剤密度を指す。
【0017】
本発明の電池のカソード被覆内に結合剤を含ませることができる。好適な結合剤の例は、スチレン−エチレン/ブチレン−スチレン(SEBS)ブロック・コポリマーである。このような1つの好適なブロック・コポリマーは、米国テキサス州ヒューストン所在のKraton PolymersからKRATON(登録商標)G1651として市販されている。他の結合剤及び結合剤の組み合わせを用いることもできる。
スラリーを形成するために、カソード配合物内に溶媒を含ませる。安定化1,1,2−トリクロロエチレンのような有機溶媒は、SEBSが結合剤として用いられる際に溶媒として用いるのに適している。水性溶媒を含む他の溶媒を用いることもできる。溶媒の選択は、使用される結合剤にある程度左右される。例えば、ポリアクリルアミド、及びカルボキシル化スチレン−ブタジエン及びスチレン−アクリレートのうちの少なくとも1つのコポリマーなどのラテックス結合剤を、溶媒としての水と共に用いることができる。
【実施例1】
【0018】
アノード活物質としてのリチウム及びカソード活物質としての黄鉄鉱を含むR6(AA)サイズの電気化学電池が、本発明に従って次のように構築された。
厚さ0.254mm(0.001インチ)×幅43.7mm(1.72インチ)のアルミニウム箔の連続ストリップが、カソード電流コレクタ及びカソード被覆のための基質として準備された。アルミニウム箔は、油を除去し、基質表面への被覆の接着を改善するように、両面が火炎洗浄された、完全な標準的硬質合金1145−H19アルミニウムであった。
【0019】
カソード被覆・スラリーは、表1に列挙される乾燥成分を用いて調整された。
表1

【0020】
FeS2、すなわちChemetallから入手可能な95重量パーセントの純度レベルを有するバッテリ等級の黄鉄鉱を、230メッシュ・スクリーンによってふるいにかけ、62μmより大きい寸法を有する粒子を除去した。アセチレンブラックは、ABC55 SHAWINIGAN BLACK(登録商標)であった。黒鉛は、TIMREX(登録商標)MX−15であった。ヒュームド・シリカは、AEROSIL(登録商標)200であった。PTFEは、FLUO HTであった。結合剤は、KRATON(登録商標)G1651であった。ふるいにかけられた黄鉄鉱、アセチレンブラック、黒鉛、及びヒュームド・シリカを計量し、高速ディスク混合器を用いて、1,1,2−トリクロロエチレン溶媒と混合した。これらの成分が完全に濡らされ、配合された後、ポリマー結合剤が混合器に添加され、均一に溶解するまで配合された。次いで、微粉化PTFEが混合物及び組み込まれた追加の溶媒内に配合され、ブルックフィールド形粘度計を用いて測定されるような、2900センチポアズから4100センチポアズまでの範囲の所望の粘度を達成した。
【0021】
ロール被覆操作の際に、スラリーをアルミニウム・ストリップ基質の両面に塗布し、ウェブ(機械)方向に基質の両面の1つの縁部に沿って被覆されていないバンド(図1に示される塗布なし区域1を残した。カソード電流コレクタストリップの両面上に、厚さ0.1435mm(0.00565インチ)×幅40.8mm(1.605インチ)まで、湿潤状態の被覆を塗布した。乾燥後、カレンダ加工によって、カソード被覆を高密度化させ、厚さ0.0254mm(0.001インチ)の基質の両面上に、該被覆を約0.0800mm(0.00315インチ)まで減少させた。結果として得られたカソード被覆は、約64%の固形物パックを有していた。
【0022】
厚さ0.152mm(0.006インチ)×幅39.0mm(1.535インチ)の、0.5重量パーセントでアルミニウムと合金されたリチウム金属箔のストリップが、アノード用に準備された。厚さ0.051mm(0.002インチ)のニッケル・メッキ・スチール箔から作られたアノード・タブが切り取られ、巻き付ける前に、30.5cm(12.00インチ)のアノード長さに対応する所定の間隔で、リチウム箔ウェブに加圧接合された。
Celgard 2400としてCelgard Corporationから入手可能な25μmの厚さの微孔性ポリプロピレン・フィルムでできた2つのロールが、2つの層の各々に1つ準備された。
【0023】
アノード、カソード、及びセパレータが、自動巻取機を用いて、連続ウェブから電極組立体(ゼリーロール)内に一緒に巻き付けられた。各々のゼリーロールを巻き付ける際に、アノード・ストリップの前に、カソード・ストリップが、巻き付けマンドレルに導入された。カソード・ストリップの被覆された領域のほんの一部がアノードの先端及び両側を超えて延びるように、カソード及びアノード・ストリップが位置合わせされた。電極ストリップ及びセパレータは、アノード・タブが所定位置に達するまで巻き付けられた。アノード・ストリップ上のタブの間隔に基づいて、カソード、アノード及びセパレータ・ストリップが切り取られ、所望のカソード及びアノード長さを有するゼリーロールを生成した。ポリプロピレン・フィルムのストリップが、ゼリーロールの末端に供給され、13.3mm(0.525インチ)の所定のゼリーロール直径が達成されるまで、オーバーラップとして該ゼリーロールの周りに巻き付けられた。オーバーラップ・フィルムが切り取られ、端部がゼリーロールにヒートシールされた。
ゼリーロールが缶に挿入された。各々のゼリーロールが形成された時に、ゼリーロールの一端から延びるアノード・タブが、半径方向外側に折り曲げられ、次に該ゼリーロールの側部に沿って折り曲げられた。タブとは反対側のゼリーロールの端部から延びるカソード・ストリップの被覆されていない縁部は、星状円錐体の形態で内側にクリンプ加工された。13.9mm(0.548インチ)の缶本体の外径を有する、厚さ0.254mm(0.010インチ)のニッケル・メッキ・スチール缶の底部に、プラスチック絶縁ディスクが配置された。アノード・タブを底部にし、ゼリーロールの側部に沿った状態で、各々のゼリーロールが缶に挿入された。
【0024】
アノード対カソードのインプット比が、次のように求められた。
直線インチあたりのカソード容量=(厚さ0.0063インチ)×(幅1.535インチ)×(1.0インチ)×(16.387cm3/インチ3)×(4.1555gm/cm3のカソード密度)×(0.64の固体物パック)×(0.92の乾燥カソードにおけるFeS2)×(0.95のFeS2純度)×(893.58mAh/gm)=329mAh/直線インチ。
直線インチあたりのアノード容量=(厚さ0.006インチ)×(幅1.535インチ)×(1.0インチ)×(16.387cm3/インチ3)×(0.534gm/cm3のリチウム密度)×(3861.7mAh/gm)=311mAh/直線インチ。
アノード対カソードのインプット比=311/329=0.95。
1.6グラムの電解質が、各々の電池に添加された。電解質は、63.05重量パーセントの1,3−ジオキソラン、27.63重量パーセントの1,2−ジメトキシエタン、0.18重量パーセントの3,5−ジメチルイソオキサゾール、及び9.14重量パーセントのヨウ化リチウムを含んでいた。従来の電池組立体及び閉鎖方法を用いて、電池を完成させ、予備放電法が続く。
実施例1の電池の特徴が、下記の表2に要約される。
【実施例2】
【0025】
比較対照となるR6サイズのLi/FeS2電池が、実施例1に使用されたものと同じ製造プロセスを用いて製造された。比較対照電池の特徴が、下記の表2に要約される。実施例1の電池は、本発明に直接関係しない多数の点で、比較対照電池と異なっていた。実施例1において、缶の直径は、0.13mm(0.005インチ)だけ大きく、予備放電中に消費された容量の量はより小さく、電極幅は、実施例1において0.38mm(0.015インチ)だけ大きいものであった。
【実施例3】
【0026】
実施例1及び実施例2の電池が、1000ミリアンペアで、1.0ボルトまで連続的に放電された。結果が、表3に要約される。
表3は、本発明に従って製造された電池が、比較対照電池よりも約35パーセント多いい放電容量をもたらしたことを示す。別箇の試験は、この増加の11パーセント未満が、実施例1からの電池の予備放電中に消費される容量の減少、及びおそらくプロセス変動の結果生じる他の小さな相違に起因していることを示した。実施例1の電池におけるより大きな電極幅は、約1パーセントの入力容量の増加をもたらした。実施例1の電池におけるより大きい缶直径は、約2.4%の入力容量の増加を占めた。このことは、これらの他の相違に起因していない実施例2の電池と比較して、実施例1の電池において実際の放電容量の約20パーセントの増加を残すことになる。
【0027】
表2

【0028】
表3

【0029】
上記の実施例1は、本発明の1つの実施形態である。以下のもののいずれかに限られるものではないが、種々の修正をなすことができる。電池は、角柱のような他の形状を有することもできる。電極ストリップは、少なくともカソードが湾曲した状態で、一緒に他の形態に組み立てることができる。例えば、少なくともカソードを巻き付け、渦巻状に巻き、アーチ状に曲げ、折り曲げ、折り目をつけ、又はヒンジ取り付けすることができ、或いはアノード及びカソードの両方を織り合わせることができる。他のカソード被覆パターンを用いることもできる。例えば、電流コレクタ基質の両方の主面の全てを被覆することができ、又は電気的接触が、電流コレクタと他の電池構成要素との間の電気的接触が、どこで、どのようになされるかによって、塗布なし(被覆されていない)領域を、一方又は両方の面上に、カソードの一方又は両方の長い縁部或いは一方又は両方の端部上に配置することができる。付加的なばねを用いて又は用いずに圧力によって、或いは溶接のような締結によって、電極と他の電池成分との間の電気的接触をなすことができ、ストリップ又はワイヤのような導電性金属リードは、用いても、用いなくてもよい。電極は、電池のサイズ及び設計によって、別のサイズ及び形状を有することができる。種々のタイプの電流コレクタ(例えば、形態及び材料)を用いることができる。カソード材料を電流コレクタに塗布するために、代替的な方法を用いることもできる。例えば、スロット付きダイ又は別の従来の被覆方法を用いて。材料を被覆することができ、或いは電極ストリップを製造するために、埋め込み方法又は他の従来の方法を用いて、カソード材料をスクリーン状に拡張された金属又は有孔電流コレクタと組み合わせることができる。レオロジー調整剤、スリップ剤、及び結合剤として別の材料を使用することができ、他の材料をカソード・スラリーに添加して、製造工程、放電性能、保存寿命又は他の電池特性を改善することができる。本発明の電池の実施形態は、これらの変更及び他の変更を組み入れることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード組立体を含み、前記カソード組立体が、2つの主面を有する金属カソード電流コレクタと、前記2つの主面の少なくとも一方の上に配置された、カソード被覆とからなり、該被覆が二硫化鉄を含み、アルミニウムと合金化された金属リチウム・アノードをさらに備え、前記アノード対カソードのインプット比が、1.0以下であることを特徴とする電気化学電池。
【請求項2】
前記アノードが、1.0重量パーセントより少ないアルミニウムを含むことを特徴とする請求項1に記載の電池。
【請求項3】
前記アノードが、0.1重量パーセントから0.9重量パーセントまでの間のアルミニウムを含むことを特徴とする請求項2に記載の電池。
【請求項4】
前記アノードが、0.5重量パーセントのアルミニウムを含むことを特徴とする請求項3に記載の電池。
【請求項5】
前記カソード被覆が、43パーセントより少ない空隙容量をさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項6】
前記空隙容量が、36パーセントから42パーセントまでであることを特徴とする請求項5に記載の電池。
【請求項7】
前記カソード被覆が、合成黒鉛をさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項8】
前記合成黒鉛が、高度に結晶性の合成黒鉛であることを特徴とする請求項7に記載の電池。
【請求項9】
前記高度に結晶性の合成黒鉛が、3.0μmから11.0μmまでの平均粒度、3.0m2/gから11.0m2/gまでのBET表面積、及び160パーセントから200パーセントまでのDBPを有することを特徴とする請求項8に記載の電池。
【請求項10】
前記カソード被覆が、アセチレンブラックをさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項11】
前記カソード被覆が、微粉化ポリテトラフルオロエチレン粉末をさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項12】
前記カソード被覆が、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン・ブロック・コポリマーをさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項13】
前記カソード被覆が、ヒュームド・シリカをさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項14】
前記カソード被覆が、該カソード被覆の全固形分に基づいて、合計7.0パーセントから11.0パーセントまでの合成黒鉛及びアセチレンブラックをさらに含むことを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項15】
前記合成黒鉛及び前記アセチレンブラックが、合わせて、前記カソード被覆の前記全固形分のうちの10.0体積パーセントから10.5体積パーセントまでの間を含むこと特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項16】
前記合成黒鉛の固形分体積パーセントが、前記アセチレンブラックの固形分体積パーセントの少なくとも2倍であることを特徴とする請求項14又は請求項15に記載の電池。
【請求項17】
前記電池が、前記カソード組立体及び前記アノードからなる電極組立体をさらに備え、少なくとも該カソード組立体が湾曲していることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。
【請求項18】
前記アノードが湾曲していることを特徴とする請求項17に記載の電池。
【請求項19】
前記カソード組立体及び前記アノードが、螺旋状巻き付け構成であることを特徴とする請求項18に記載の電池。
【請求項20】
前記カソード被覆内の全固形分の総重量に基づいた、前記カソードの対応量が、次の成分、すなわち90.0パーセントから94.0パーセントまでの二硫化鉄、1.0パーセントから3.0パーセントまでのアセチレンブラック、3.0パーセントから6.0パーセントまでの合成黒鉛、0.2パーセントから0.6パーセントまでのポリテトラフルオロエチレン、0.2パーセントから0.6パーセントまでのシリカ、及び1.5パーセントから3.0パーセントまでのSEBSブロック・コポリマーからなることを特徴とする前記請求項のいずれかに記載の電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−54255(P2012−54255A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−274361(P2011−274361)
【出願日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【分割の表示】特願2004−512221(P2004−512221)の分割
【原出願日】平成15年6月5日(2003.6.5)
【出願人】(397043422)エバレデイ バツテリ カンパニー インコーポレーテツド (123)
【Fターム(参考)】