説明

改善されたマレイン酸無水物触媒およびその製造方法

本発明は、(i)バナジウム、リン、および随意のプロモーター元素を含有する触媒前駆体粉末を作製すること;(ii)触媒前駆体粉末を熱処理により活性化触媒に転換すること;および(iii)活性化触媒を所望の形状に圧縮して、バナジウム/リン酸化物触媒を形成することにより、バナジウム/リン酸化物触媒を製造するための方法を提供する。このバナジウム/リン酸化物触媒は、炭化水素フィード流を接触酸化することにより、マレイン酸無水物の製造において使用され得る。

【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
適用不能
【連邦政府支援の研究または開発に関する記載】
【0002】
適用不能
【技術分野】
【0003】
本発明は、バナジウム/リン酸化物触媒、このような触媒の製造方法、およびマレイン酸無水物の製造におけるこの触媒の使用に関する。
【背景技術】
【0004】
マレイン酸無水物は、合成樹脂などの多数の製品の製造における原材料として使用され得、一般にn−ブタンの接触酸化により製造され得る。この酸化に対する推奨の触媒は、通常、バナジウム、リン、酸素成分(VPO)、および場合によってはプロモーター成分を含有する触媒である。
【0005】
これらのVPO触媒は、一般に、五価バナジウムを四価状態まで還元して、リン酸水素バナジルおよび場合によってはプロモーター成分を含有する触媒前駆体の形成に好適な条件下でバナジウム含有化合物をリン含有化合物および場合によってはプロモーター成分含有化合物と接触させることにより製造される。次に、触媒前駆体は、回収され、通常、ダイ中で圧縮することにより錠剤またはペレットなどの賦型体に成形され得る。潤滑剤も通常、打錠もしくはペレット化工程の助剤として組み込まれる。次に、ペレットまたは錠剤を焼成にかけて、触媒前駆体がピロリン酸バナジルを含有する活性触媒に変換され得る。
【0006】
プロモーター成分に加えて、VPO触媒は、参照によりこの明細書中に全体で組み込まれている、(特許文献1)に開示されているように触媒の細孔構造を制御するために蒸気圧の高い添加物を更に添加することにより製造され得る。この参考文献で開示されている添加物は、ポリエチレンオキシド、アジピン酸、クエン酸、シュウ酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、このような酸のエステル、ナフタレン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、セルロース材料、モノサッカライド、ポリサッカライド、水素化植物油、ワックス、およびゼラチンを含む。これらの添加物を使用する一つの欠点は、高温での可燃性材料の取り扱いにおいて必要とされる処理時間の増加および過酷な制御のために、触媒を不活性化し、ストリッピングまたは脱水し、触媒の生産性を低下させる可能性のある高温での熱処理によって、添加物が通常ストリッピングガスの使用により触媒から除去されるということである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5,275,996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、コストを低下させ、ならびに/もしくはこのような触媒の活性、選択性、および生産性を向上させるために、新しい改善されたVPO触媒と、および新旧のVPO触媒の製造方法を規定する、努力が継続的に行われている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一つの態様においては、非芳香族炭化水素を酸化して、マレイン酸無水物を製造するのに有用であるバナジウム/リン酸化物触媒を製造する方法によって、当分野におけるこれらおよび他のニーズに対応している。この方法は、アルコールを含む媒体中でバナジウム化合物をリン化合物と混合することにより、触媒前駆体粉末を作製し、混合物を乾燥すること、触媒前駆体粉末を圧縮下で触媒前駆体スラグに成形すること、熱処理により触媒前駆体スラグを活性化触媒に転換すること、および活性化触媒を圧縮下で予め決められた形状に成形して、バナジウム/リン酸化物触媒を製造することの段階を含む。また、予め決められた形状に成形する前に活性化触媒を溶剤除去性細孔形成剤により処理しても、酸化物触媒内での生成物および反応物ガスを迅速に内部および外部拡散するために高濃度の細孔を含有するバナジウム/リン酸化物触媒を提供し得る。
【0010】
前出は、以降の本発明の詳細な説明がよく理解され得るように本発明の特徴および技術的利点をやや幅広く概述した。本発明の特許請求の範囲の主題を形成する本発明の更なる特徴および利点をこの明細書中でこれ以降述べる。本発明の同一の目的を実施するために他の構造物を設計もしくは設計するための基盤として開示される概念および具体的な態様を容易に使用し得るということを当業者ならば認識すべきである。このような同等な構成物は、添付の特許請求の範囲で説明されているような本発明の精神および範囲から逸脱するものでないということを当業者ならば認識すべきである。
【0011】
本発明の好ましい態様を詳細に説明するために、添付の図面が参照される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】細孔形成剤の使用および不使用の場合の細孔直径に対するパーセント累積圧入容積を示す。
【図2】細孔形成剤の使用および不使用の場合の細孔直径に対する累積圧入容積を示す。
【図3】細孔形成剤の使用および不使用の場合の細孔直径に対する差分圧入量の対数を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
一つの態様は、炭化水素の接触酸化、特にC炭化水素のマレイン酸無水物への接触酸化において有効なバナジウム/リン酸化物触媒を製造するための方法を含む。驚くべきことには、この方法により製造される触媒を使用すると、n−ブタンまたは他の炭化水素のマレイン酸無水物への変換における活性および生産性の増大が達成され得るということを見出した。加えて、このバナジウム/リン酸化物触媒は、従来の方法により製造される触媒と比較して、最終の化学的性質において良好な均一性を呈し得る。
【0014】
このバナジウム/リン酸化物触媒は、少なくとも約15m/gのB.E.T.表面積、約4.0から約4.5の平均のバナジウム酸化状態、少なくとも約0.15cm/gの全細孔容積、約1.0と約2.0g/cmの間の正規化された見掛けの賦型体密度、少なくとも約4ポンドの破砕強度、および約1.0から約1.2のリン:バナジウム原子比を有する賦型体を含んでなる。この触媒は、触媒前駆体を活性化して、活性化触媒を製造すること、活性化触媒を溶剤除去性細孔形成剤により場合によっては処理すること、活性化触媒を予め決められた形状に成形すること、適切な溶剤により賦型された触媒から随意の細孔形成剤を除去すること、および中程度の温度で乾燥して、バナジウム/リン酸化物触媒を製造することを含む方法により製造され得る。
【0015】
本発明の目的には、用語「収率」は、反応器の中に導入される炭化水素のフィード原料のモル数に対する得られるマレイン酸無水物のモル数の比に100を掛けたものを意味し、モルパーセントと表される。
【0016】
用語「選択性」は、反応もしくは変換された炭化水素フィード原料のモル数に対する得られるマレイン酸無水物のモル数の比に100を掛けたものを意味し、モルパーセントと表される。
【0017】
用語「変換率」は、反応器の中に導入される炭化水素のフィード原料のモル数に対する反応した炭化水素フィード原料のモル数の比に100を掛けたものを意味し、モルパーセントと表される。
【0018】
用語「重量/重量生産性」は、時間当り単位触媒当り製造されるマレイン酸無水物の重量を意味する。
【0019】
用語「重量/面積生産性」は、時間当り触媒のB.E.T.展開の単位表面積当り製造されるマレイン酸無水物の重量を意味する。
【0020】
用語「空間速度」または「ガス空間速度」または「GHSV」は、標準(273K、14.7psig)の立方センチメートルで表わした時間当りのガスフィードの容積流量を立方センチメートルで表したバルク触媒容積で割ったものを意味し、cm/cm/時間または時−1と表される。
【0021】
用語「触媒重量に対するガス流容積比」は、ガスが流れる触媒床の重量に対する炭化水素と空気または酸素を含有するガスの体積流量の比を意味し、g/cc・分で表される。
【0022】
使用に好適な触媒前駆体は、参照によりこの明細書中に全体で組み込まれている、米国特許第5,137,860号および第5,364,824号に述べられているものにしたがって製造され得る。一般に、触媒前駆体は、式
VO(M)HPO・aHO・b(P2/cO)・n(有機物)
により表される。式中、Mは、元素周期律表のIA、IB、IIA、IIB、IIIA、IIIB、IVA、IVB、VA、VB、VIA、VIB、およびVIIIA族の元素と、これらの混合物から選択される少なくとも1つのプロモーター元素であり;mは0から約0.2の数であり;aは少なくとも約0.5の数であり;bは約0.9から約1.3のP/V原子比をもたらすように採られる数であり;cはリンの酸化数を表す数であって、5という値を有し;およびnは挿入された(intercalated)または吸蔵された(occluded)有機物成分の重量%を表すように採られる数である。
【0023】
この触媒前駆体は、実質的に五価のバナジウム含有化合物および五価のリン含有化合物をアルコール媒体の中に導入して、触媒前駆体スラリーを形成することにより製造され得る。バナジウムおよびリン含有化合物は、アルコール媒体に同時もしくは順次の任意の好都合な方法で添加され得る。バナジウムおよびリン含有化合物をアルコール媒体の中に導入して、触媒前駆体スラリーを形成した後、所望ならば青色溶液またはスラリーを得るまで攪拌しながら混合物を好ましくは加熱することにより、バナジウムの少なくとも一部の+4の原子価状態への還元を行う。一般に、スラリーを還流温度において約4時間から約20時間の範囲の時間加熱することで充分である。
【0024】
バナジウム/リン酸化物触媒中でバナジウム源として使用され得る五価バナジウム含有化合物は、五酸化バナジウムまたはメタバナジン酸アンモニウム、オキシトリハロゲン化バナジウム、およびアルキルカルボン酸バナジウムなどのバナジウム塩を含む。これらの化合物のうちで、五酸化バナジウムが好ましい。
【0025】
バナジウム/リン酸化物触媒におけるリン源として有用な五価リン含有化合物は、リン
酸、五酸化リンまたは五塩化リンなどのペルハロゲン化リンを含む。これらのリン化合物のうちで、リン酸および五酸化リンが好ましい。
【0026】
触媒前駆体の製造で使用されるアルコールは好ましくは無水であり、ある態様においては、バナジウム化合物の添加時もしくは混合および加熱時のいずれかでバナジウムの少なくとも一部を+4の原子価状態まで還元する能力がある。加えて、このアルコールはリン化合物の溶剤であり、リン化合物に対して比較的非反応性である。好ましくは、このアルコールは触媒前駆体に対する溶剤でない。触媒前駆体がアルコール媒体に可溶である場合には、アルコールの一部を除去することにより前駆体の沈澱が容易に誘起され得る。好適なアルコールは、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール(イソブチルアルコール)、2−ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、4−メチル−2−ペンタノール、および1,2−エタンジオール(エチレングリコール)などの一級および二級アルコールを含む。これらのアルコールのうちで、イソブチルアルコール(IBA)が好ましい。
【0027】
所望ならば、随意のプロモーター元素を固体、固体の懸濁物または溶液として触媒前駆体スラリーに添加し得る。プロモーター元素源としての役目をし得るプロモーター化合物は、金属ハライド、金属アルコキシド、および金属カルボキシレートを含む。これらの化合物のうちで、金属カルボキシレートが好ましい。金属塩に好適なカルボキシレートは、ホルメート、アセテート、プロピオネート、ブチレート、イソブチレート、ペンタノエート、ヘキサノエート、ヘプタノエート、オクタノエート、ノナノエート、デカノエート、および2−エチルヘキサノエートを含む。これらのカルボキシレートのうちで、2−エチルヘキサノエートが好ましい。一つの態様において、プロモーター元素は、Mo、Nb、Cr、Feまたはこれらの組み合わせ物を含んでなる。
【0028】
プロモーター元素は、アルコール、エステル、芳香族、およびアルカンの溶液の金属2−エチルヘキサノエートとして触媒前駆体スラリーに添加され得る。これらの溶剤のうちで、イソブチルアルコール、イソブチルイソブチレート、デカン、およびミネラルスピリッツは、好ましいけれども限定的ではない推奨の溶剤を構成する。一つの態様においては、金属2−エチルヘキサノエートは、20重量パーセント以下の量で好適な溶剤に溶解され、その後でスラリーに添加される。
【0029】
プロモーターの金属2−エチルヘキサノエートは、室温から触媒前駆体スラリー混合物の還流温度の範囲のスラリー温度において還流の前、間、もしくは後でバナジウム・酸化リン触媒前駆体スラリーに添加され得る。これらの添加時期のうちでは、還流時期の間と、40℃未満のスラリー温度における時期が好ましい。プロモーター源は、一般に、リン化合物と反応性であるために、バナジウム化合物が反応によりVPO化合物まで実質的に消費されるまで、好ましくは反応系から引き離される。そうでなければ、ある態様においては、P/V比は最適以上に増加され得る。理論により限定されるのではないが、このような増加は、バナジウム化合物の反応を完結させる目的のものである。それゆえ、一つの製造方法は「ポスト」法と呼ばれ、この場合には最初にバナジウム化合物が実質的に使い尽くされるまで、バナジウム化合物を若干過剰のリン化合物と、例えば1.05から1.20のP/V比で高温で反応させ;その後プロモーター源化合物を残存リン化合物と反応させて、触媒前駆体中にプロモーターを組み込む。バナジウムとリン化合物の間の反応は、任意の好適な温度で行われ得る。ある態様においては、この反応は、約90°と約120℃の間の範囲の温度で、便宜的には大気圧での還流温度で行われ得る。次に、この反応混合物は、プロモーター源を添加するために40℃以下まで冷却され得る。
【0030】
もう一つの態様においては、1.05から1.15のP/V比を用い約90℃と約12
0℃の間の範囲の温度でこのバナジウム化合物とリン化合物を反応させ;プロモーター源と、場合によっては更なる増分のリン酸を添加するために40℃以下まで反応混合物を冷却し;次に前駆体構造の中にプロモーター化合物を組み込むために、約90℃と約120℃の範囲の温度まで反応系を再度加熱する。
【0031】
バナジウム還元を行う過程の間、触媒前駆体が生成し、随意のプロモーター元素を含有する微粉砕された沈澱としてアルコール媒体から沈澱する。触媒前駆体沈澱は、約50℃以下まで冷却した後、濾過、遠心分離、およびデカンテーションを含む当業者に周知の慣用の方法により回収され得る。得られる触媒前駆体粉末は、溶液を乾燥まで加熱することにより触媒前駆体を回収した場合に通常得られるケーキ化残渣と対照的に、乾燥後粉末状の自由流動性の稠度を有する。
【0032】
アルコールと触媒活性のバナジウム部位との反応を回避するために、乾燥は、乾燥窒素などの低酸素もしくは無酸素含量の雰囲気中で行われ得る。触媒前駆体の沈澱は、例えば約110℃から約150℃の比較的穏やかな温度で乾燥され、約200℃から約275℃の範囲の温度で「後乾燥」処理(焙焼)にかけられ得る。一つの態様においては、後乾燥処理は、触媒前駆体の粉末を後乾燥温度範囲において不活性ガス中で流動化することにより行われる。所望の温度に達したならば、触媒床は、好適な時間、例えば30分間から2時間その温度に保持され得、その後空気/蒸気混合物が好ましくは漸増的に最大約10から約30%の酸素まで導入され、その後触媒床が不活性雰囲気中で室温まで冷却される。
【0033】
得られる触媒前駆体粉末は、下記のガスおよび熱処理により活性化触媒に直接的に転換されるが、好ましい態様は、触媒前駆体粉末をプレスまたはダイ中で最初に圧縮して、触媒前駆体スラグを製造することを包含する。このスラグは、約1.20g/cmから約1.70g/cmの、好ましくは約1.40g/cmから約1.60g/cmの測定された密度まで円筒、立方体または球などの任意の所望の型または形に圧縮され得る。触媒前駆体スラグは、少なくとも約1/16インチから約1/8インチの、好ましくは少なくとも約5/32インチから約1/2インチの最小主要寸法を有し得る。結合剤および/または潤滑剤は、所望ならば前駆体スラグの全重量基準で約2から約6%の、もしくは約0から約10%の、もしくは約2から約6重量%の量で添加され得、でんぷん、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、およびグラファイトを含み得る。
【0034】
次に、触媒前駆体の粉末もしくはスラグは、時には焼成と呼ばれる一連のガスおよび熱処理を用いる制御された方法の一連の段階により活性化触媒に転換され得る。理論により限定されるのではないが、このような転換は優れた触媒を製造するのに好ましい。この転換は、(1)初期の熱上げ段階、(2)急速な熱上げ段階、および(3)維持/仕上げ段階の3つの制御された段階で行われ得る。
【0035】
一つの態様においては、参照によりこの明細書中に全体で組み込まれている、米国特許第5,137,860号で述べられているように、触媒前駆体スラグを3段階で熱処理して、活性化触媒が製造される。活性化により製造される活性化触媒は、式
(VO)(M)・b(P2/cO)
により表される組成に相当する。式中、Mは、元素周期律表のIA、IB、IIA、IIB、IIIA、IIIB、IVA、IVB、VA、VB、VIA、VIB、およびVIIIA族の元素と、これらの混合物から選択される少なくとも1つのプロモーター元素であり;mは0から約0.2の数であり;bは約1.0から約1.3のP/V原子比をもたらすように採られる数であり;およびcはリンの酸化数を表す数であって、5という値を有する。このバナジウムの酸化状態は、約4.0と約4.5の間、好ましくは約4.06と約4.30の間にある。
【0036】
活性化触媒は、上記の式により表されるように、約1.0から約1.3の、好ましくは約1.0から約1.2の、最も好ましくは約1.05から約1.15のリン:バナジウム(リン/バナジウムまたはP/V)原子比を有すると示されるが、実際のP/V原子比は、約0.9もの低い値から約1.3までの記述された値の範囲にあり得る。プロモーター元素が活性化触媒の成分として存在する場合には、プロモーター元素:バナジウムの全原子比(プロモーター元素/バナジウムまたはM/V)は、約0.0001から約0.2の、好ましくは約0.0005から約0.1の、最も好ましくは約0.001から約0.05の範囲にあり得る。活性化触媒は、増大した触媒活性と、マレイン酸無水物への優れた選択性および収率を呈し得る。溶剤で除去可能な細孔変成剤を使用して、下記に述べるように触媒内に高分率の細孔を生成させることにより、活性の更なる増大がもたらされ得る。
【0037】
初期の熱上げ段階においては、触媒前駆体スラグを空気、蒸気、不活性ガス、およびこれらの混合物から選択される雰囲気中で任意の便宜的な熱上げ速度で加熱し得る。ある態様においては、触媒前駆体スラグを約300℃であり得る相転換開始温度を超えない温度まで加熱し得る。一般に、初期の熱上げ段階に好適な温度は、約200°から約300℃の、あるいは約250°から約275℃の温度の範囲にある。
【0038】
初期の熱上げ段階において所望の温度に達した後、初期の熱上げ段階で達した温度に触媒前駆体を維持しながら、初めに選択された雰囲気(これが分子状酸素と蒸気を含有しないか、ならびに/もしくは急速な熱上げ段階に所望の組成と異なる組成を有する場合には)を分子状酸素/蒸気含有雰囲気により置き換え得る。このような雰囲気は、場合によっては不活性ガスを含有し得、式
(O(HO)(IG)
により便宜的に表され得る。式中、IGは不活性ガスであり、x、y、およびzは分子状酸素/蒸気含有雰囲気中のO、HO、およびIG成分モル%(または容積%)を表し;xは0モル%以上であるが100モル%未満の値を有し;yは0モル%以上であるが100モル%未満の値を有し;zは分子状酸素/蒸気含有雰囲気の残余を表す値を有する。ある態様においては、この雰囲気は、分子状酸素および水の少なくとも一部を含有し得る(蒸気として)。式により示されるようなこのような雰囲気中の不活性ガスの存在は随意である。分子状酸素/蒸気含有雰囲気中での使用に好適な不活性ガスの非限定的な例は、(分子状)窒素、ヘリウム、アルゴンなどを含み、窒素が一般に好ましい。
【0039】
分子状酸素/蒸気含有雰囲気が提供されたならば、触媒前駆体スラグを急速な熱上げ段階にかけ得る。急速な熱上げ段階においては、1分間当り約2℃(℃/分)から約12℃/分の、好ましくは約4℃/分から約8℃/分のプログラムされた速度で触媒前駆体スラグから水和水を無くするか、もしくは除去するのに有効な値まで、初期の熱上げ段階の温度を上昇する。一般に、約340℃から約450℃の、あるいは少なくとも約350℃、あるいは約375℃から約425℃の温度が好適である。
【0040】
急速な熱上げ段階の後、触媒前駆体を維持/仕上げ段階にかけ得る。維持/仕上げ段階においては、分子状酸素/蒸気含有雰囲気を維持しながら、350℃以上であるが550℃未満の、好ましくは約375℃から約450℃の、最も好ましくは約400℃の約425℃の値に温度を調整し得る。次に、調整された温度は、初めに分子状酸素/蒸気含有雰囲気中で約+4.0から約+4.5の、もしくは単純には約4.0から約4.5のバナジウム酸化状態をもたらすのに有効な時間維持され、その後非酸化性蒸気含有雰囲気中で触媒前駆体から活性触媒の変換を完結して、活性化触媒を与えるのに有効な時間維持される。また、非酸化性蒸気含有雰囲気は、分子状酸素/蒸気含有雰囲気に類似の方法で、不活性ガスを場合によっては含有し得、窒素が一般に好ましい不活性ガスである。
【0041】
非酸化性蒸気含有雰囲気は、必ずしも分子状酸素を全く含まないものである必要がないということを理解すべきである。しかしながら、一つの態様においては、このような雰囲気は、好ましくは分子状酸素を実質的に含まない。したがって、分子状酸素は、バナジウムの更なる酸化を約+4.0から約+4.5の所望の酸化状態を超えて引き起こすのに、特に約+4.5の最大の所望の酸化状態を超えて引き起こすのに有効でない量で存在し得る。一般に、分子状酸素は、非酸化性蒸気含有雰囲気の約0.5モル%を超えない量で存在し得る。
【0042】
約+4.0から約+4.5の所望のバナジウム酸化状態をもたらすために調整された温度を非酸化性蒸気含有雰囲気中で維持する好適な時間は、急速な熱上げ段階時に得られるバナジウム酸化状態にある程度依存し得る。翻って、バナジウム酸化状態は、記載の急速な熱上げ段階温度において触媒前駆体を分子状酸素/蒸気含有雰囲気に暴露する時間にある程度依存し得る。一つの態様においては、約0.25時間から約2時間の時間が好適であり、約0.5時間から約1時間の時間が好ましい。
【0043】
所望ならば24時間以上までの長い時間が使用され得るが、調整された温度を非酸化性蒸気含有雰囲気中で維持する好適な時間は、少なくとも1時間であり、約3時間から約10時間の時間が好ましく、約6時間の時間が最も好ましい。
【0044】
次に、活性化触媒を顆粒化し、溶剤除去性細孔形成剤により場合によっては処理し、プレスまたはダイ中で予め決められた形状に更に圧縮して、賦型体触媒が製造され得る。所望のサイズの顆粒を通す孔を有する保持型ふるいと組み合わせて操作されるミルナイフの機械的作用により、活性化触媒の顆粒への顆粒化を行い得る。一つの態様においては、顆粒は、1/16”から1/8”の孔を有するふるいを通すことにより製造されるように、サイズで200μmから1mmのオーダーである。
【0045】
次に、この顆粒を溶剤除去性細孔形成剤と場合によっては混合し得る。溶剤除去性細孔形成剤を使用することにより、触媒内の細孔の実質的な容積を獲得し得る。加えて、細孔の生成においては温和な条件を使用するので、触媒の活性内部表面における活性に悪影響を及ぼさずに所望の細孔サイズ分布を実現し得る。
【0046】
混合物が顆粒の全重量基準で約6%と約16%の間の、好ましくは約8%と約12重量%の間の細孔形成剤を含有するように、溶剤除去性細孔形成剤を顆粒に添加し得る。
【0047】
添加され得る溶剤除去性細孔形成剤は、カルボン酸、カルボン酸無水物、エステル、アルコール、ポリオール、炭水化物、ケトン、ワックス、芳香族炭化水素(例えば、ナフタレン)、ポリマー(例えば、ポリスチレン、ポリビニルアルコール(PVA))またはこれらの組み合わせ物を含む。ある態様においては、細孔形成剤は、圧密および打錠時に通常使用する温度において固体であり、リン酸バナジウム触媒と負の化学的相互作用を行わない。
【0048】
一つの態様においては、溶剤除去性細孔形成剤は、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタン、トリメチロールプロパン、マレイン酸無水物、ポリエチレンオキシドまたはこれらの組み合わせ物である。ある態様においては、溶剤除去性細孔形成剤は1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタンである。
【0049】
溶剤除去性細孔形成剤を添加することによって、最終の賦型体触媒内の生成物および反応物ガスの迅速な内部拡散が可能となる。理論により限定されるのではないが、大きい細孔は、これらのガスの分布に対する流れの主要路を構成し、反応ガスに対して触媒の活性表面への接近経路と、触媒の微細な細孔からの生成物ガスの出口を提供する。更には、理
論により限定されるのではないが、ガスのこの迅速な交換によって、C炭化水素のマレイン酸無水物への接触酸化において触媒の更なる内部表面を最大限に有効使用することが可能となる。それゆえ、この触媒は、生産性を犠牲にせずに、触媒床中での低圧力低下を生じる更に大きな錠剤もしくはペレットに成形され得る。図1−3は、細孔形成剤の不使用の場合と比べて細孔形成剤の利点を図示する。
【0050】
この触媒は、商用反応器での使用に満足し得る破砕強度も呈し得る。重力および他の圧密力は、触媒床中で大きな圧力低下を生じ得る、粉末の形に多孔質の触媒体を破砕する傾向がある。理論により限定されるのではないが、不適切な破砕強度は、一般に、触媒体の低い見掛け密度と関連する。全細孔容積が大きく、マクロ細孔の比率が大きいにも拘わらず、このバナジウム/リン酸化物触媒は、約1.0と約2.0g/cmの間の範囲の実質的な正規化された見掛け賦型体密度と、少なくとも約4ポンドの、あるいは少なくとも約6ポンドから約10ポンドの破砕強度を呈することが判っていた。正規化された見掛け賦型体密度は、触媒の固相が全くバナジウム/リン酸化物触媒から構成されている、測定された見掛け密度と同一であるということを理解すべきである。固相が異物を含有する場合には、正規化された見掛けの密度は、触媒体中のVPOの重量分率に対して測定された見掛けの密度を調整することにより定義され得る。このように、
=正規化された見掛け賦型体密度;
=測定された見掛け賦型体密度;
x=触媒体中の重量分率VPO;
ならば
=axである。
異物が存在しない場合、正規化された(ならびに測定された)見掛けの賦型体密度は約1.25g/cmと約2.0g/cmの間にある。
【0051】
次に、顆粒および随意の溶剤除去性細孔形成剤混合物は、ペレット、錠剤、球、立方体または他の賦型体などの予め決められた形状にプレスまたはダイ中で圧縮され得る。このペレットまたは賦型体は、少なくとも約1/8インチの、少なくとも約5/32インチから1/2インチの主要寸法と、それゆえ賦型体触媒当り少なくとも約0.02cmの、好ましくは少なくとも約0.03cmの、更に好ましくは少なくとも約0.05cmの容積を有する、混合粒子状バナジウム/酸化リン構造と随意の溶剤除去性細孔形成剤の構造体を含有する。
【0052】
ある態様においては、適当な溶剤を賦型体触媒に施すことにより、溶剤除去性細孔形成剤を賦型体触媒から除去し得る。例えば、例えば触媒を適当な溶剤中である時間少なくとも一度浸漬および/または洗浄することにより、溶剤除去性細孔形成剤を触媒から除去し得る。浸漬時間は、特定の溶剤除去性細孔形成剤/溶剤の組み合わせに依存するが、一般に、約2時間から約24時間、あるいは約6時間から約8時間、あるいは約6時間から約24時間の範囲にあり得る。使用され得る溶剤の量は、溶剤:賦型体の約1:2から2:1重量比の範囲にあり得る。溶剤除去性細孔形成剤は、触媒を溶剤の連続流中で洗浄することによっても賦型体触媒から除去され得る。再度、洗浄の量は、特定の溶剤除去性細孔形成剤/溶剤組み合わせに依存し得る。
【0053】
溶剤除去性細孔形成剤を可溶化し得るいかなる溶剤も使用され得る。例えば、この溶剤は、メタノールまたはエタノールなどの1つ以上の低分子量アルコール、アセトンまたはメチルエチルケトンなどのケトン、超臨界CO、および/またはエチルアセテートなどのエステルを含み得る。例えば、ある態様は、エタノール、メタノール、メチルエチルケトン、エチルアセテート、アセトン、超臨界COまたはこれらの組み合わせ物を含んでなる溶剤を含む。
【0054】
溶剤除去性細孔形成剤を除去した後、炭素の実質的な残渣、灰分または吸着された有機種は、最高の実現可能な触媒活性を可能とする触媒の内部表面に残留し得ない。更には、溶剤除去性細孔形成剤は、蒸留または抽出などの任意の好適な手段により溶剤から回収され得る。
【0055】
次に、このペレットもしくは他の賦型体触媒を約45℃から約75℃の温度範囲で約1時間から約24時間の範囲の時間乾燥して、バナジウム/リン酸化物触媒が製造され得る。
【0056】
製造されるバナジウム/リン酸化物触媒は、非芳香族炭化水素のマレイン酸無水物への変換に種々の反応器中で有用であり得る。この触媒は、錠剤、ペレットなどの形で固定床反応器中で、もしくは流動床または移動床反応器中で約300ミクロン未満の粒子サイズを有する粉砕された触媒粒子を用いて使用され得る。
【0057】
一つの態様においては、このバナジウム/リン酸化物触媒を固定床(管状)の熱交換器タイプ反応器で使用する。このような反応器の管は、鉄、ステンレススチール、炭素鋼、ニッケル、および/またはガラスから構築され得、約0.635cm(0.25インチ)から約3.81cm(1.5インチ)の直径と、約15.24cm(6インチ)から約609.6cm(20フィート)以上の長さまで変わり得る。比較的一定の温度の反応器表面と、熱を反応器から伝導するある媒体を有することが望ましい。理論により限定されるのではないが、このような媒体は温度制御を助ける。このような媒体の非限定的な例は、ウッドメタル、溶融イオウ、水銀、溶融鉛、および共融塩浴を含む。管を取り囲む金属が温度調整体として作用する金属ブロック反応器も使用され得る。
【0058】
非芳香族炭化水素をマレイン酸無水物に変換する反応は、空気または分子状酸素で富化された空気などの分子状酸素含有ガス(分子状酸素を含む)と混和された、直鎖中に(もしくは環状構造中に)少なくとも4個の炭素を有する炭化水素をバナジウム/リン酸化物触媒と高温で単に接触させることを含み得る。炭化水素と分子状酸素に加えて、窒素および蒸気などの他のガスが反応物フィード流中に存在するか、もしくは反応物フィード流に添加され得る。ある態様においては、炭化水素を、約1モルパーセントから約10モルパーセント炭化水素の濃度で分子状酸素含有ガス、好ましくは空気と混合し、約100時−1から約4,000時−1の空間速度および約300℃と約600℃の間の温度で、好ましくは1、500時−1および約325℃から約425℃でバナジウム/リン酸化物触媒と接触して、優れたマレイン酸無水物の収率および選択性が得られる。
【0059】
この反応は、大気圧、大気圧以上の圧力または大気以下の圧力で行われ得る。ある態様においては、この反応は大気圧で、もしくは大気圧近傍で行われ得る。一般に、約1.013×10−2kPa−ゲージ(14.7psig、1気圧)から約3.45×10−2kPa−ゲージ(50psig)の圧力が便宜的に使用され得る。
【0060】
4から10個の炭素原子を有する多数の非芳香族炭化水素を本発明の方法により製造される触媒を用いてマレイン酸無水物に変換し得る。ある態様においては、この炭化水素は、4個以上の炭素原子を直鎖または環中に含有し得る。例として、飽和炭化水素のn−ブタンはマレイン酸無水物への変換に満足であるが、イソブタン(2−メチルプロパン)は存在こそ有害ではないが、満足ではない。n−ブタンに加えて、直鎖中に少なくとも4個の炭素原子を有する炭化水素鎖が飽和炭化水素分子中に存在する限り、他の好適な飽和炭化水素は、n−ブタンの添加または無添加の場合でも、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、およびこれらの混合物を含む。
【0061】
不飽和炭化水素も本発明の賦型触媒構造体を用いるマレイン酸無水物への変換に好適で
ある。好適な不飽和炭化水素は、直鎖中に少なくとも4個の炭素原子を有する必須炭化水素鎖が飽和炭化水素分子中に存在する限り、ブテンの添加または無添加の場合でも、ブテン(1−ブテンおよび2−ブテン)、1,3−ブタジエン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、およびこれらの混合物を含む。
【0062】
シクロペンタンおよびシクロペンテンなどの環状化合物もバナジウム/リン酸化物触媒を用いるマレイン酸無水物への変換に満足なフィード材料である。
【0063】
前述のフィード原料のうちで、n−ブタンが好ましい飽和炭化水素であり、ブテンが好ましい不飽和炭化水素であり、n−ブタンがすべてのフィード原料のうちで最も好ましい。前述のフィード原料は純粋な物質でなくともよいが、工業品グレードの炭化水素であり得るということを特記する。
【0064】
ある態様においては、フィード原料が4個以上の炭素原子を含有する炭化水素である場合には、小量のシトラコン酸無水物(メチルマレイン酸無水物)も生成し得るが、前述の好適なフィード原料の酸化からの主要生成物はマレイン酸無水物である。バナジウム/リン酸化物触媒を使用することにより製造されるマレイン酸無水物は、いかなる好適な手段によっても回収され得る。例えば、直接的に凝縮することにより、もしくは好適な媒体中での吸収し、その後でマレイン酸無水物を分離し、精製することにより、マレイン酸無水物を回収し得る。
【0065】
本発明の明快な理解を促進するために、本発明を実施する現行で既知の最良の方法を例示する次の具体的な実施例を詳述する。しかしながら、本発明の適用の詳細な説明は、好ましい態様を示す一方で、単なる例示として与えられるものであり、当業者には本発明の精神内での種々の変更および改変はこの詳細な説明から明白となるので、本発明を限定するものと解釈されるべきでないということを理解すべきである。
【実施例】
【0066】
実施例1
参照によりこの明細書中に全体で組み込まれている、米国特許第5,137,860号の実施例1にしたがって触媒前駆体を作製した。パドル型攪拌機、温度計、加熱マントル、および還流コンデンサーを取り付けた12リットルの丸底フラスコ中に9,000mLのイソブチルアルコール、378.3g(4.20モル)のシュウ酸(C)、および848.4g(4.66モル)の五酸化バナジウム(V)を装填した。この攪拌した混合物に997.6g(10.76モル)のリン酸(HPO、105.7重量%)を添加した。得られた混合物を約16時間還流して、明るい青色混合物を得た。ほぼ25%(2.2L)のイソブチルアルコールを1時間にわたって留去した後、この混合物を冷却し、ほぼ50%の残存するイソブチルアルコールをデカンテーションにより除去した。次に、得られた濃縮スラリーを平らなせともの皿に定量的に移し、窒素中110°−150℃で24時間乾燥した。その後、この乾燥された材料を空気中250°−260℃でほぼ5時間加熱して、黒褐色の触媒前駆体粉末を得た。
【0067】
3.0重量%のグラファイトを含有するようにこの触媒前駆体粉末をブレンドし、適当なダイおよびパンチを設けたStokes512回転打錠機で圧縮し、1/2インチの直径、0.10−0.12の厚さ、および約1.50g/cmの密度を有する触媒前駆体の円筒形のスラグを製造した。
【0068】
次に、米国特許第5,137,860号の教示にしたがって触媒前駆体スラグを活性化した。ほぼ40%の空間率のステンレススチールを有するステンレススチールのメッシュふるいから形成される30.48cm×30.48cm×2.54cmのトレー上に触媒
前駆体スラグを置き、ボックスオーブン中に入れた。次に、室温(ほぼ25℃)から275℃の初期の熱上げ段階においてはこのスラグを空気中で熱上げ速度を制御せずに加熱した。その後、急速な熱上げ段階においては50モル%空気/50モル%蒸気の雰囲気中で4℃/分のプログラムした速度で425℃まで温度を上昇させた。維持/仕上げ段階においては最初は急速な熱上げ段階雰囲気中で1時間、その後50モル%窒素/50モル%蒸気の雰囲気中で6時間425℃で温度を維持した。
【0069】
次に、18メッシュふるいを通るように活性化触媒を顆粒化し、ステアリン酸とブレンドして、10重量%のステアリン酸を含有する混合物を作製し、圧縮して、長手方向の表面中にエッチングされた3つの等距離の溝を有する1/4インチの三葉状ペレットを作製した。次に、窒素ガスによりパージされたボックスオーブンの中にこのペレットを入れ、このペレットをほぼ240℃で1時間加熱することにより、このステアリン酸を三葉状ペレットから除去した。次に、オーブン中の雰囲気を50容積パーセントの窒素および50容積パーセントの蒸気に変え、空気を3段階でほぼ60分にわたって段階的に増加させて、[25:25:50]容積パーセントの[空気:窒素:蒸気]のガス組成を得た。温度をこの雰囲気中でほぼ60分間240℃に維持した。
【0070】
合成空気(21モル%酸素/71モル%ヘリウム)中2.0±0.2モル%のn−ブタン、1.034×10−2kPa−ゲージ(15.0psig)の入口圧力、および1,500のGHSVの標準化された反応条件の組でバナジウム/リン酸化物触媒ペレットを性能試験した。触媒ペレット(12.0g)を内径1.092cm×長さ30.48cm(内径0.43インチ×長さ1フィート)の反応器に装填して、ほぼ長さ15.24cm(6インチ)の触媒床を提供した。次に、触媒ペレットを85±2モル%のn−ブタン変換率で約100時間運転し、57.9%のマレイン酸無水物収率を得た。
【0071】
比較例1
実施例1で述べた方法にしたがって触媒前駆体粉末を作製した。10.0重量%のグラファイトを含有するようにこの触媒前駆体粉末をブレンドし、適当なダイおよびパンチを設けたStokes512回転打錠機で圧縮し、1/2インチの直径、0.10−0.12の厚さ、および約1.30−1.40g/cmの密度を有する触媒前駆体のスラグを製造した。次に、このスラグを1mm未満の粒子に顆粒化し、次に錠剤化して、長手方向の表面中にエッチングされた3つの等距離の溝を有する1/4インチの三葉状ペレットを作製した。
【0072】
次に、窒素ガスによりパージされたボックスオーブンの中にこのペレットを入れ、このペレットをほぼ240℃で1時間加熱することにより、このステアリン酸を三葉状ペレットから除去した。次に、オーブン中の雰囲気を50容積パーセントの窒素および50容積パーセントの蒸気に変え、空気を3段階でほぼ60分にわたって段階的に増加させて、[25:25:50]容積パーセントの[空気:窒素:蒸気]のガス組成を得た。温度をこの雰囲気中でほぼ60分間240℃に維持した。
【0073】
次に、実施例1の活性化手順と同様に1/4インチの三葉状ペレットを活性化した。冷却後、三葉状ペレットを実施例1で述べたように性能試験し、56.8%のマレイン酸無水物収率を得た。
【0074】
実施例2
実施例1で述べた方法にしたがって触媒前駆体粉末を作製した。次に、3重量%のグラファイトを含有するようにこの触媒前駆体粉末をブレンドし、適当なダイおよびパンチを設けたStokes512回転打錠機で圧縮し、1/2インチの直径、0.10−0.12の厚さ、および約1.50g/cmの密度を有する触媒前駆体のスラグを製造した。
【0075】
触媒前駆体スラグを実施例1で述べた熱処理により活性化した。次に、18メッシュふるいを通るように活性化触媒を顆粒化し、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチルエタン)とブレンドして、10重量パーセントの1,1,1−トリス(ヒドロキシメチルエタン)を含有する混合物を得た。次に、この混合物を圧縮して、1/4インチ直径の三葉状ペレットを作製した。次に、1:1.5のペレット:アセトン比でペレットをアセトン浴に22.5時間沈めることにより、この1,1,1−トリス(ヒドロキシメチルエタン)を三葉状ペレットから除去した。このペレットを取り出し、アセトンにより更に洗浄し、次に60℃で18時間乾燥した。
【0076】
次に、三葉状ペレットを実施例1で述べた方法にしたがって性能試験し、61.9%のマレイン酸無水物収率を得た。
【0077】
比較例2
実施例1で述べた方法にしたがって触媒前駆体粉末を作製した。次に、10.0重量%のグラファイトを含有するようにこの触媒前駆体粉末をブレンドし、適当なダイおよびパンチを設けたStokes512回転打錠機で圧縮し、1/2インチの直径、0.10−0.12の厚さ、および約1.30−1.40g/cmの密度を有する触媒前駆体のスラグを製造した。次に、このスラグを1mm未満の粒子に顆粒化し、次に錠剤化して、長手方向の表面中にエッチングされた3つの等距離の溝を有する1/4インチの三葉状ペレットを作製した。
【0078】
次に、1:1.5のペレット:アセトン比でペレットをアセトンに22.5時間入れることにより、この1,1,1−トリス(ヒドロキシメチルエタン)を三葉状ペレットから除去した。次に、このペレットを取り出し、アセトンにより更に洗浄し、次に60℃で18時間乾燥した。
【0079】
次に、実施例1の活性化手順と同様にこの三葉状ペレットを活性化した。冷却後、三葉状ペレットを実施例1で述べた方法にしたがって性能試験し、58.8%のマレイン酸無水物収率を得た。
【0080】
上記の結果から、打錠前に触媒前駆体スラグを活性化することは、バナジウム/リン酸化物触媒の性能を改善するということが判る。触媒の性能は、活性化触媒前駆体スラグを溶剤除去性細孔形成剤により打錠前に処理することにより更に改善され得る。打錠前に錠剤よりも低密度である触媒前駆体スラグを活性化することによって、スラグを均一にガスおよび熱処理することが可能となり、均一な化学的性質と、したがって改善された選択性を呈するバナジウム/リン酸化物触媒が得られると考えられる。
【0081】
本発明の種々の態様の作製および使用を上記に詳述してきたが、本発明は、広範で多様な特定の文脈で具現化可能な多数の応用可能な発明的な概念を提供するということを評価すべきである。この明細書中で述べられる特定な態様は、本発明の作製および使用のための特定な方法を単に例示するものにすぎず、本発明の範囲を限定するものでない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アルコールを含む媒体中でバナジウム化合物をリン化合物と混合し、混合物を乾燥することにより、触媒前駆体粉末を作製すること;
(b)触媒前駆体粉末を圧縮下で触媒前駆体スラグに成形すること;
(c)触媒前駆体スラグを3つの制御された段階で加熱することにより、触媒前駆体スラグを活性化触媒に転換すること;および
(d)活性化触媒を圧縮下で予め決められた形状に成形して、バナジウム/リン酸化物触媒を製造すること
を含んでなるバナジウム/リン酸化物触媒を製造する方法。
【請求項2】
段階(d)の前に活性化触媒を顆粒化し、次に活性化触媒の全重量基準で約6%と約16重量%の間の細孔形成剤濃度をもたらすのに充分な比率で溶剤除去性細孔形成剤と混合する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
溶剤除去性細孔形成剤が段階(e)バナジウム/リン酸化物触媒に溶剤を施すことにより除去される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
溶剤除去性細孔形成剤がトリメチロールプロパン、マレイン酸無水物、ポリエチレンオキシド、1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタンまたはこれらの組み合わせ物である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
溶剤除去性細孔形成剤が1,1,1−トリス(ヒドロキシメチル)エタンである、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
溶剤がエタノール、メタノール、メチルエチルケトン、エチルアセテート、アセトン、超臨界COまたはこれらの組み合わせ物を含んでなる、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
予め決められた形状がペレットである、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
バナジウムとリン、および随意のプロモーター元素を含む触媒前駆体スラグを3つの制御された段階で活性化触媒に転換し、活性化触媒を顆粒化して顆粒を製造し、顆粒を予め決められた形状に賦型してバナジウム/リン酸化物触媒を成形することにより製造される、バナジウム/リン酸化物触媒と炭化水素を約300℃と約600℃の間の温度で接触させることを含んでなる、炭化水素を酸化するための方法。
【請求項9】
溶剤除去性細孔形成剤が顆粒と混合される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
炭化水素が直鎖中に4個の炭素を有する炭化水素である、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
炭化水素がn−ブタンである、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法により製造されるバナジウム/リン酸化物触媒。
【請求項13】
触媒がMo、Nb、Cr、Feまたはこれらの組み合わせ物を含むプロモーター元素を含んでなる、請求項12に記載の触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−502424(P2010−502424A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−526834(P2009−526834)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/076747
【国際公開番号】WO2008/030714
【国際公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【出願人】(505318547)ハンツマン ペトロケミカル コーポレイション (17)
【Fターム(参考)】