説明

改善された光ファイバ・ケーブル・コーティング

【課題】 二重コーティング光ファイバ・ケーブルを空気吹込み実装に対して最適化すること。
【解決手段】 可能性のある実装温度の全範囲、例えば0〜45℃にわたって、両方のコーティングの弾性特性が所望の範囲内に制御される。内側コーティングの材料は、−15℃好ましくは−25℃よりも下のTgを有し、外側コーティングの材料は、60℃好ましくは75℃よりも上のTgを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ・ケーブルおよび光ファイバ・ケーブル用のポリマー・コーティング材料に関する。より詳細には、本発明は、マイクロダクト実装で使用されかつ空気吹込み実装に適合した光ファイバ・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
商業的に使用される光ファイバは、ガラス・プリフォームからガラス・ファイバを引き抜き、かつそのファイバにコーティング材料を塗布して製造される。コーティングは、初期ファイバ表面のどんな種類の汚染または接触も防ぐために引抜き後直ちに塗布される。最も広く使用されるコーティング材料は、UV硬化可能なポリマーである。二重コーティング光ファイバは、通常、比較的軟質のポリマーの第1の(主)層と、高い強度および耐摩耗性を与えるより高弾性率ポリマーの第2の(副)層とをガラス・ファイバにコーティングして作られる。
【0003】
光ファイバまたは、一般に、複数の光ファイバにポリマー材料を上塗りして、光ファイバ・ケーブルが形成される。マイクロダクト実装用に設計されたケーブルで使用される光ファイバ・ケーブルには、特別な考慮が必要である。マイクロダクト実装が光ファイバ・ケーブルの吹込みを伴うとき、特にそうである。空気吹込みファイバ実装では、予め取り付けられたケーブル管を通して粘性空気流で光ファイバ・ケーブルを推進させる。この技術を使用すると、光ファイバ・ケーブルは、どちらかといえばケーブル長さに沿って分布した正味の力で、空気の流れと共に同時にダクト中に機械的に「押し込まれる」。有利なことは、実装の簡単さおよび適応性に加えて、ファイバ破損すなわち過剰応力が最小限になることである。
【0004】
一般的な実装では、ケーブル実装経路は、保護用の外側ダクトの内側に個々の内側サブダクトの束を備える。プレナム、立ち上り管、一般用途および屋外用途で使用するために、様々なダクト形式を使用し、特別に適合させることができる。内側サブダクトは、小さく例えば直径0.25インチであるかもしれないし、または大きなファイバ数の多いケーブルでは最大2インチであるかもしれない。この説明では、この内側サブダクトをマイクロダクトと呼び、マイクロダクトの組立品をマイクロダクト管と呼ぶ。
【0005】
言及したように、マイクロダクトに実装される光ファイバ・ケーブルは、ただ1つの光ファイバかまたは、1つまたは複数の小さな光ファイバ・ケーブル(一般に2〜24本の光ファイバを有する)を備えることができる。例えば3〜8本の光ファイバを有する組立品では、ファイバは、規則正しい幾何学的パターンで配列されて、テープまたはリボンを形成してもよい。大容量システムでは、光ファイバ・ケーブルは、円形または楕円形の束になった積重ねファイバ・リボンを備えてもよい。2002年3月9日に出願された米国特許出願番号10/233,719を参照されたい。大抵の場合、光ファイバ・ケーブルは、マイクロダクトへの実装に特に適合した物理的特性を有するように設計され、そして、好ましい場合には、空気吹込み実装を使用して実装される。
【0006】
光ファイバ空気吹込み実装の成功は、例えばマイクロダクト・ケーブルの直径、マイクロダクトの直径、マイクロダクト材料の摩擦特性、空気流速度、空気圧力、垂直立ち上りの量、管の障害物、管の不連続などのいくつかの条件に依存する。これらのパラメータは、ほとんどマイクロダクトの物理的な設計および空気吹込みツールの性質と関係がある。
【0007】
光ファイバ・ケーブルの特性が空気吹込み実装に影響を及ぼすことはすでに認められている。これまで、ケーブル表面の特性が関心の対象であった。最も多く引用され、またケーブルの設計で考慮される特性は、ケーブル表面の摩擦である。知られている目的は、マイクロダクト・ケーブルがマイクロダクト内を容易に滑動できるように低摩擦表面を有することである。しかし、同時に、マイクロダクトを通してマイクロダクト・ケーブルを送るために、空気の流れに対して十分な動的空気抵抗を実現するように被覆表面に十分な粗さを有することが望ましい。この要求は、マイクロダクト・ケーブルを覆う被覆の表面摩擦についての微妙な設計バランスを暗示する。マイクロダクト・ケーブル被覆材料はポリマーであり、ポリマーは一般に非常に滑らかな表面を与える。ポリマーに固体微粒子を加えて表面を改質する提案がなされた。例えば米国特許第5,533,164号、同第5,851,450号を参照されたい。
【0008】
光ファイバ・ケーブルを形成するために使用される材料の内部特性には、あまり注意が向けられなかった。しかし、本出願者等は、この内部特性も空気吹込み実装の成功に大いに関係することを発見した。マイクロダクトが単純な直線行程でなく、ダクト中を通過するケーブルの進行を妨げるかもしれない曲がり角および他の不規則を有する場合に、特にそうである。空気吹込み実装では、光ファイバ・ケーブル材料の弾性特性が、特に重要である。ケーブルを形成するコーティングが二重コーティングであるとき、すなわち2つのケーブル材料が使用される場合、この重要性が拡大される。
【特許文献1】米国特許出願番号10/233,719
【特許文献2】米国特許第5,533,164号
【特許文献3】米国特許第5,851,450号
【特許文献4】米国特許第4,956,198号
【特許文献5】米国特許第5,139,872号
【特許文献6】米国特許第5,352,712号
【特許文献7】米国特許第4,374,161号
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本出願者等は、二重コーティング光ファイバ・ケーブルの弾性特性が空気吹込み実装にとって重要であること、および弾性特性に対する温度の効果を認めた。商業的成功のために、広い範囲の実装温度にわたって空気吹込み実装法が有効であることが必要である。推奨範囲は0℃から45℃である。本発明に従って、二重コーティング・ケーブルの両方のコーティングの弾性特性は、可能性のある実装温度の全範囲に関して、所望の範囲内に制御される。内側ケーブル・コーティングの材料は、−15℃好ましくは−25℃より下のTを有する。外側ケーブル・コーティングの材料は、60℃好ましくは75℃より上のTを有する。好ましい実施形態では、コーティング材料は、狭い遷移範囲を有する。これによって、本発明の目標を実現する弾性曲線のより広い平らな領域が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下は、高ケーブル布線速度のケーブル布線光ファイバを説明し、コーティングは、優れた品質のものであり、空気吹込み実装のための改善された特性を有する。この説明でケーブル材料を塗布するために使用される方法は、コーティング材料をプレポリマーとして塗布し、かつUV光を使用してプレポリマーを硬化させるものである。他のコーティング方法が知られており、また使用することができる。例えば、光ファイバ・ケーブル・コーティングは、押し出しを使用して作ることができる。
【0011】
光ファイバ・ケーブルに内側コーティングおよび外側コーティングをコーティングすることができる。二重コーティングは、縦並びで、または同時に塗布する(2区画および二重金型アプリケータを使用して)。縦並び方法では、第1のコーティング層を塗布し、硬化させ、そして硬化された第1の層の上に第2のコーティング層を塗布し、硬化させる。同時二重コーティング配列では、両方のコーティングをプレポリマー状態で塗布し、そして同時に硬化させる。
【0012】
UV硬化ケーブル材料では、プレポリマー材料はUV硬化可能なポリアクリラートである。このポリマーは、高い引抜き速度で完全硬化を可能にするように、UV硬化放射すなわち一般に範囲200〜400nmの波長に対して十分に透明である。アルキル置換シリコーンおよびシルセスキオキサン、脂肪族ポリアクリラート、ポリメタクリラートおよびビニルエーテルのような他の透明なコーティング材料もUV硬化コーティングとして使用されている。例えば、S.A.Shama、E.S.Poklackl、J.M.Zimmerman、「Ultraviolet−curable cationic vinyl ether polyurethane coating composition」、米国特許第4,956,198号(1990);S.C.Lapin、A.C.Levy、「Vinyl ether based optical fiber coatings」、米国特許第5,139,872号(1992);P.J.Shustack、「Ultraviolet radiation−curable coatings for optical fibers」、米国特許第5,352,712号(1994)を参照されたい。UV硬化可能材料を使用するコーティング技術は、特に光ファイバに関して相当に開発されている。また、硬化に可視光すなわち範囲400〜600nmの光を使用するコーティングも使用することができる。
【0013】
図1は、複数の光ファイバに二重ケーブル・コーティングを塗布するためのケーブル布線装置の模式的な図示である。光ファイバはコーティングされたファイバ、通常二重コーティング・ファイバである。この装置は完全縦並び配列であり、第1および第2のコーティングが直列型のプロセスで連続的に塗布され硬化される。光ファイバ・スプール11が示され、このスプール11が4本の光ファイバを編成リール12に送り、それから案内リール13によってコーティング部に巻き取られる。ファイバは、23で示され、この点で、ケーブルに望ましい構成に編成される。図示の配列では、4本のファイバが使用される。一般的な編成はリボン構成である。しかし、他の配列、例えば束を使用することができる。それから、光ファイバは、全体的に24で示すプレポリマー・コーティング・アプリケータを通過する。このアプリケータは、主コーティング・プレポリマー26を含むチャンバ25を有する。第1のコーティング・チャンバから液体をコーティングされたファイバが、金型31を通って出てくる。それから、コーティングされたファイバ34はUVランプ35で表される硬化段に進む。
【0014】
第1のコーティングおよび硬化作業工程からの光ファイバ34は、適切なプーリ37、38によって第2にコーティング作業工程に送られる。望ましい場合には、この2つの作業工程を並べて、コーティング段間に必要な案内プーリを減らすことができる。他の選択肢に、第1段後のケーブルを保存用のドラムに巻き取ることがある。外側コーティングに異なった組成を予定する場合、この選択肢が有用であるかもしれない。
【0015】
それから、光ファイバ・ケーブルは第2のコーティング段に入る。第2のコーティング段は、44で全体的に示すプレポリマー・アプリケータ、プレポリマー容器45、および出口金型51を備える。プレポリマーをコーティングされたファイバ54は、副コーティングを硬化させるUV硬化ランプ55にさらされる。UVコーティングが好ましいが、適切である場合には、他の種類のコーティングおよび硬化放射を使用することができる。二重コーティング・ファイバは、ドラム57に巻き取られる。図1は、概略の説明図である。商業的な装置は、いくつかのまたはもっと多くの案内リールおよび巻取りリールを有することもある。巻取りリールは、ケーブル作業工程の速度を制御する。マイクロステップ割送り装置(図示しない)で制御されるステップ・モータが、巻取りリールを制御する。
よく知られているように、第1および第2の金型とプレポリマーの流体動力学との組合せによって、コーティング厚さが制御される。ファイバおよび上塗りの同心性を保つために、ファイバはコーティング・カップの中の中心、特に出口金型21および41の中心に位置付けされるのが望ましい。商業的な装置は、一般に、ファイバの位置合わせを制御するプーリを有する。2つの金型自体の流体力学上の圧力が、ファイバを中心に位置決めするのを手助けする。
【0016】
図示の装置は縦並びコーティング/硬化装置を示すが、二重コーティング・アプリケータを使用して、二重ケーブル材料を塗布することができる。この実施形態では、同じ作業工程で両方のプレポリマーが塗布され硬化される。
光ファイバ・ケーブル用のコーティング材料は、一般に、UV光触媒が加えられたウレタン、アクリラート、またはウレタン−アクリラートである。二重コーティング・ケーブルでは、材料の使用可能な幅広い選択肢がある。商業的な実施では、両方のコーティング材料がアクリラートであることもある。
【0017】
コーティング・アプリケータ24、44はこの図では開放で示されている。そして、開放の(加圧されていない)アプリケータ・カップは有用な選択肢である。しかし、一般的な商業的な引抜き装置では、アプリケータ・カップは閉じられており、ただ1つの開口または入口金型はファイバ組立品のカップへの通過を可能にすることができるだけのちょうどの大きさである。コーティング流体中で圧力が保持されている。例えば50〜250psiのこの圧力は、塗布されたコーティング中に形成される泡を減少させるのに役立つ。一般的なコーティング・カップおよび金型の詳細は、Geying他の米国特許第4,374,161号に与えられている。
【0018】
様々なケーブル材料を用いた光ファイバ・ケーブルの実際の空気吹込み実装の経験を通して、本出願者等は、光ファイバ・ケーブルの吹込み性能はコーティング材料の弾性特性に強く依存すること、および弾性係数E’の損失係数E”に対する比が大きいときこの性能は改善されることを発見した。この比は、ガラス遷移ゾーンの両端部で最大になる。また、本出願者等は、この比が最大になる点は、使用される2つのコーティングで異なるはずであることを示した。実装温度が両方のコーティングで同じであると仮定すると、コーティング・システムの2つの成分の遷移領域を相当に離すことが必要になる。主コーティングの遷移は、実装温度よりも下で起こるのが望ましいが、一方で、外側コーティングの遷移は実装温度よりも上で起こるべきである。一般的な実装では、温度は0℃から45℃までの間である。他の範囲を選ぶことができるが、一般に、設計のための実装温度範囲は少なくとも20℃である。このことは、2つのコーティングのガラス遷移温度が、少なくとも20℃より一般的には45℃離れていなければならないことを意味する。実際には、プロセス設計者にとって今や使用可能な本発明の教示によって、さらに、内側コーティングが弾性領域の平坦域に十分入りかつ副コーティングがガラス領域に十分入っているとき吹込み性能がよくなるという知識によって、少なくとも70℃の違いが好ましい。
【0019】
この違いに加えて、絶対値が関係する。すなわち、主コーティングは、0℃よりも下のガラス遷移温度Tを示すべきであり、本発明の目的のためには0℃よりも少なくとも15℃下、すなわち−15℃よりも下のガラス遷移温度Tを示すべきであり、また副コーティングは45℃よりも上のガラス遷移温度T、また好ましくは45℃よりも少なくとも15℃上、すなわち60℃よりも上のガラス遷移温度Tを有すべきである。この説明の目的のために、ガラス遷移温度Tは、遷移曲線の中央の点である。
【0020】
コーティングの代表的な組合せを図2に示す。Mpaの単位で、弾性Eを温度に対してプロットする。曲線51は主コーティングを表し、曲線52は副コーティングを表す。弾性状態からガラス状態への遷移が図示のところで起こる場合、本発明の目的は満たされる。
【0021】
図3は、主コーティング61および副コーティング62に関する1/tanδ対温度のプロットから得られたガラス遷移温度を示す。
【0022】
本発明の要求条件を満たすコーティング材料の例は、次のものである。
主コーティング 副コーティング
例1 DSM Desotech DU-1002 DSM Desotech 850-975
例2 DSM Desotech DU-0001 DSM Desotech 850-975 これらの材料のT値は、次の通りである。
DSM Desotech DU-1002: -45℃
DSM Desotech DU-0001: -18℃
DSM Desotech 850-975: 80℃
【0023】
上の例2のケーブルの性能データを得て、主コーティングの代わりに同じ副コーティング材料をコーティングされたケーブルと比較した。ケーブルは、主コーティングおよび副コーティングをコーティングされた4本ファイバ・ケーブルであった。DSM Desotech DU−0001の代わりに用いたコーティング材料は、Tが30℃の9D7−544であった。実装は、50cmドラムに巻かれた3.5IDダクトを通る550メートルの経路である。性能データを図4に示す。黒塗りの正方形で表すデータ点41は、DSM Desotech 850−975を上塗りされた9D7−544のものである。白抜きの三角形で表すデータ点42は、例2の組合せである。実装速度の点から、優位は、例2のケーブルを使用して得られることが明らかである。
【0024】
前述の説明で、光ファイバ・ケーブルは内側コーティングおよび外側コーティングをコーティングされる。当業者には当然明らかなことであるが、追加のコーティングを使用することもできる。このコーティングは、通常、コーティングされたガラス光ファイバの上に塗布される。しかし、光ファイバはプラスチックであってもよい。
【0025】
詳細な説明の締めくくるに当たって、留意すべきことであるが、本発明の原理から実質的に逸脱することなく、好ましい実施形態に対して多くの変更および修正を加えることができることは当業者には明らかであろう。そのような変形、修正および均等物全ては、特許請求の範囲で明らかにするような本発明の範囲内にあるものとしてここに含めるものとする。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】ファイバ・ケーブル・コーティング装置を示す模式図である。
【図2】本発明に従って作られた二重コーティング光ファイバ・ケーブルの内側および外側コーティングの弾性曲線を示す模式図である。
【図3】図2で使用された材料のガラス遷移温度Tを示す模式図である。
【図4】性能データを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ・ケーブルであって、
a.少なくとも1つのコーティングされた光ファイバと、
b.前記光ファイバに塗布された第1のポリマー・コーティングと、
c.前記第1のポリマー・コーティングに塗布された第2のポリマー・コーティングと、を備え、
前記第1のポリマー・コーティングのガラス遷移温度Tと前記第2のポリマー・コーティングのTとが少なくとも75℃離れていることを特徴とする光ファイバ・ケーブル。
【請求項2】
前記第1のコーティングのガラス遷移温度が−15℃よりも下である、請求項1に記載の光ファイバ・ケーブル。
【請求項3】
前記第2のコーティングのガラス遷移温度が60℃よりも上である、請求項2に記載の光ファイバ・ケーブル。
【請求項4】
マイクロダクト中に光ファイバを実装する方法であって、前記光ファイバが、流れる空気を使用して前記マイクロダクトを通して送られ、前記光ファイバ・ケーブルが、
a.少なくとも1つのコーティングされた光ファイバと、
b.前記光ファイバに塗布された第1のポリマー・コーティングと、
c.前記第1のポリマー・コーティングに塗布された第2のポリマー・コーティングと、を備え、
前記第1のポリマー・コーティングのガラス遷移温度Tと前記第2のポリマー・コーティングのTとが少なくとも75℃離れていることを特徴とする方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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