説明

改善された貯蔵安定性を有する水性ポリウレタン分散体

【課題】溶媒およびNMPを含まず、ヒドラジンを使用せずに製造され、40℃で6週間以上の貯蔵安定性を有するポリウレタン分散体を提供する。
【解決手段】a)ポリイソシアネート、b)500〜6000のMnを有するポリオール、c)62〜500のMnを有するポリオール、d)イオン基又はイオン基形成性基を含む化合物、e)500未満のMnを有するポリアミン、f)所望により、32〜145のMnを有するモノアルコールおよびg)所望により147未満のMnを有するモノアミンを含み、f)及びg)の少なくとも1つが使用され、ポリウレタン分散体の樹脂に基づいて、f)および/またはg)の割合が0.4質量%〜1.26質量%であり、c)の割合が5.5質量%超〜22質量%であり、ポリウレタン分散体のハードセグメント割合が55質量%〜85質量%であるヒドラジン非含有水性ポリウレタン分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高いハードセグメント割合および改善された貯蔵安定性を有する水性ポリウレタン分散体、その製造方法およびそれから製造される被覆組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶媒の放出を減少させる目的で、水性被覆組成物が溶剤型系の代わりに使用されることが増えている。水性被膜形成結合剤の重要な種類は、ポリウレタン分散体である。無溶媒ポリウレタン分散体(以下、PUDと称する)は、アセトン法およびプレポリマー混合法の両方によって入手できる。
【0003】
多くのポリウレタンにおいて、N−メチルピロリドン(NMP)は、イソシアネート基に対して不活性であり、そのためプレポリマー生成の間に粘度を低下させるのに適しているので、溶媒として使用される。さらにNMPは、PUD化学において使用されることが多い高融点ジメチロールプロピオン酸を溶解することができる。NMPの使用により、経済的に許容可能な反応時間内でポリウレタン骨格に組み込まれるカルボキシレート基の形態で十分な数の親水性中心が存在することが確実になる。しかしながら、NMPは、胎児毒性物質として分類されているので、この溶媒に対する代替物が必要とされる。
【0004】
62g/mol〜500g/molの平均分子量Mnを有するジオールに基づき5質量%超のジオール含有量および55質量%〜85質量%のハードセグメント含有量を有するイオン的に親水性化されたポリウレタン分散体を製造する際、蒸留によって除去され得る溶媒(例えば、アセトンまたはメチルエチルケトン)とNMPを定量的に置換する試みによれば、鎖延長工程において発癌性ヒドラジンの使用に先立ち、不適当な貯蔵安定性を有する生成物が生じた。分散体から得られる被膜における改善された耐黄変性を実現するために、ヒドラジンは、NMP含有ポリウレタン分散体および無溶媒ポリウレタン分散体の両方の合成に広く使用される。ヒドラジンによる分散体粒子、特に非常に硬いポリウレタンを含む分散体粒子の安定性は、従来観察されていなかった。
【0005】
EP-A 801 086は、遊離アミンを含まないFDAに準拠したポリウレタン分散体を特許請求する。これは、モノアミンおよびポリアミンを有するイソシアネート官能性(NCO)プレポリマーを鎖延長することによって達成される。分散体の製造のために必要なNCOプレポリマーは、0.1質量%〜5.0質量%の、111〜1250のOH価を有するジオールを含み、しかも、次に続く鎖延長は、例えば、床被覆の皮膜のような多くの領域における要求を満たさない低レベルの硬度しか有さない。
【0006】
DE19930961A1は、N−メチルピロリドンを含み、おそらく水和ヒドラジンも含み得るウレタン分散体を記載する。N−メチルピロリドンは、これらの分散体から非常に苦労してしか取り出すことができない。DE102005019397A1は、ドイツ特許法第3条(2) No.1による先行出願である。DE102005019397A1に記載されている改善された被膜形成特性を有するポリウレタン分散体は、水和ヒドラジンを含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、溶媒およびNMPを含まず、ヒドラジンを使用せずに製造され、40℃で少なくとも6週間の貯蔵安定性を有するイオン的に親水性化されたポリウレタン分散体を提供することである。本発明によるポリウレタン分散体に基づく被覆組成物およびそれらから生成される被膜はまた、良好な耐薬品性および耐水性を有し、90秒を超える振子硬度(pendulum hardness)も有する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
驚くべきことに、例えば、32g/mol〜145g/molの平均分子量Mnを有するモノアルコールおよび/または147g/mol未満の平均分子量Mnを有するモノアミンg)のような、イソシアネートに関して単官能基である成分を使用することによって、この目的を達成することができる。
【0009】
従って、本発明は、
a)1種またはそれ以上のポリイソシアネート、
b)500〜6000g/molの平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のポリオール、
c)62〜500g/molの平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のポリオール、
d)イオン基またはイオン基を形成することができる基を含む1種またはそれ以上の化合物、
e)500g/mol未満の平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のポリアミン、
f)必要に応じて、32〜145g/molの平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のモノアルコールおよび
g)必要に応じて147g/mol未満の平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のモノアミン
を含み、f)およびg)の少なくとも1つが使用され、ポリウレタン分散体(I)の樹脂に基づいて測定した場合、f)および/またはg)の割合が0.4質量%〜1.26質量%であり、成分c)の割合が5.5質量%超〜22質量%であり、かつポリウレタン分散体のハードセグメント割合が55質量%〜85質量%である、ヒドラジン非含有水性ポリウレタン分散体(I)を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
好ましくは、本発明のポリウレタン分散体(I)の樹脂は、5質量%〜22質量%、好ましくは7質量%〜20質量%、特に好ましくは9質量%〜17質量%の成分c)含有量、55質量%〜85質量%、好ましくは58質量%〜80質量%、特に好ましくは60質量%〜75質量%のハードセグメント(HS)含有量を有し、固体の量に基づいて、イソシアネートの量は、35質量%〜55質量%、好ましくは38質量%〜50質量%、特に好ましくは40質量%〜48質量%である。固体樹脂の酸価は、11〜30mgKOH/g固体樹脂、好ましくは13〜28mgKOH/g固体樹脂、特に好ましくは15〜27mgKOH/g固体樹脂である。
【0011】
ハードセグメント含有量は、以下のように計算される:
【数1】

【0012】
本発明のポリウレタン分散体は、0.9質量%以下、好ましくは0.5質量%以下の有機溶媒を含む。さらに、本発明のポリウレタン分散体は、N−メチルピロリドン(NMP)を含まない。
【0013】
成分a)は、ポリウレタン化学において典型的に使用されるポリイソシアネート、例えば、式R1(NCO)2(式中、R1は4〜12個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素基、6〜15個の炭素原子を有する脂環式炭化水素基、6〜15個の炭素原子を有する芳香族炭化水素基または7〜15個の炭素原子を有する芳香脂肪族炭化水素基である)で示されるジイソシアネートを、適切に含む。好ましいジイソシアネートの例は、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、4,4'−ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4'−ジイソシアナトジフェニルメタン、2,4−ジイソシアナトトルエン、2,6−ジイソシアナトトルエンまたはα,α,α',α'−テトラメチル−m−又はp−キシリレンジイソシアネートおよび上述のジイソシアネートの混合物である。特に好ましいジイソシアネートは、1−イソシアナト−3,3,5−トリメチル−5−イソシアナトメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート)および4,4'−ジイソシアナトジシクロヘキシルメタンである。
【0014】
ポリウレタンにおいてある程度の分枝または架橋を確実にするために、必要に応じて、例えば3および/またはそれ以上の官能性を有するイソシアネート少量を使用することができる。使用されるポリイソシアネートの量は、その官能性によって決定され、NCOプレポリマーが撹拌可能および分散可能なままであるように計算されるべきである。このようなイソシアネートは、例えば、いくつかのイソシアネート基が、イソシアヌレート基、ビウレット基、アロファネート基、ウレトジオン基またはカルボジイミド基を形成するために誘導体化されるような方法で、二官能性イソシアネートを互いに反応させることによって得られる。イオン基、すなわち水性2成分(2K)PU被覆材料において架橋剤として典型的に使用される種類を用いて親水性化されたこれらポリイソシアネートも、適している。このようなイソシアネートの例は、EP-A 510 438に記載されており、この特許出願では、ポリイソシアネートをOH官能性カルボキシル化合物と反応させている。さらに、親水性化されたポリイソシアネートは、ポリイソシアネートと硫酸基を有するイソシアネート反応性化合物とを反応させることによって得られる。この種のポリイソシアネートは、例えば3を超える高官能価を有し得る。
【0015】
適当な高分子ポリオールb)は、500〜6000g/mol、好ましくは500〜3000g/mol、特に好ましくは650〜2500g/molの分子量範囲(Mn)を有する。OH官能価は、少なくとも1.8〜3、好ましくは1.9〜2.2、特に好ましくは1.92〜2.0である。ポリオールは、例えば、ポリエステル、プロピレンオキシドおよび/またはテトラヒドロフランに基づいたポリエーテル、ポリカーボネート、ポリエステルカーボネート、ポリアセタール、ポリオレフィン、ポリアクリレートならびにポリシロキサンである。ポリエステル、ポリエーテル、ポリエステルカーボネートおよびポリカーボネートの使用が好ましい。1.92〜2.0のOH官能価を有する、ポリエステル、ポリエーテル、ポリエステルカーボネートおよびポリカーボネートが特に好ましい。記載された高分子ポリオールb)の混合物もまた、適している。
【0016】
さらに、上述のポリオールb)との混合物において、例えば、EP-A 0 017 199(10頁27行〜11頁31行)に記載されているように、少なくとも二官能性ポリール化合物を用いて、乾燥および/もしくは非乾燥脂肪酸ならびに/または油のエステル化またはエステル交換反応生成物によって得られる脂肪酸含有ポリエステルb1)を使用することも可能である。使用されるポリール化合物は、好ましくは、例えばペンタエリスリトールのような四官能性のヒドロキシル成分である。
【0017】
同様に、ポリールb1)として、ひまし油を酸触媒下で熱曝露に付すことによって得られ、EP-A 0 709 414(2頁37〜40行)に記載されている、部分脱水ひまし油が適している。
【0018】
同様に、ポリオールb1)として、DE-A 19930961(2頁46〜54行;2頁67行〜3頁3行)に開示されているポリオールが適している。このドイツ特許出願においては、例えば、オレイン酸、ラウリン酸、リノール酸またはリノレン酸のような、8〜30個の炭素原子を有する、脂肪族および脂環式モノカルボン酸をグリセロールび存在下でひまし油と反応させる。
【0019】
さらに、ポリオールb1)として、異なるトリグリセリドまたは2つ以上の異なるトリグリセリドとのひまし油のエステル交換反応生成物が適している。この場合、混合物のモル組成物は、最終生成物の平均OH官能価が2であるように計算される。
【0020】
成分b1)としては、OH基に関して平均二官能性であり、かつグリセロールまたはトリメチロールプロパン単位を含む、脂肪酸含有成分が特に好ましい。これに関連して、ひまし油とは異なるさらなる油との、ひまし油の平均OH官能価が2であるエステル交換反応生成物が特に非常に好ましい。脂肪酸含有ポリエステルb1)は、好ましくは650〜2500g/molのMnおよび1.9〜2のOH官能価を有するポリオールb)とともに使用される。脂肪酸含有ポリエステルb1)は、650〜2500g/molのMnを有し、1.92〜2のOH官能価を有し、エステル、エーテル、カーボネートまたはカーボネートエステルの群から選択されるポリオールb)とともに使用されることが特に好ましい。
【0021】
好ましくは、本発明のポリウレタン分散体(I)は、(I)に基づいて、15質量%〜45質量%、好ましくは20質量%〜42質量%、特に好ましくは25質量%〜40質量%の量の成分b)のみを含む。
【0022】
本発明のさらなる態様において、本発明のポリウレタン分散体(I)は、成分b)およびb1)を含み、その総量は、成分a)〜g)の樹脂の総量に基づいて測定して、45質量%以下であり、ポリウレタン分散体(I)の樹脂の総量に基づいた成分b1)の量は、10質量%〜30質量%、好ましくは15質量%〜25質量%である。この場合、ポリウレタン分散体(I)の樹脂の総量に基づいた成分b)の量は、15質量%〜35質量%、好ましくは20質量%〜30質量%である。
【0023】
62〜500g/mol、好ましくは62〜400g/mol、特に好ましくは90〜300g/molの分子量範囲(Mn)を有する低分子量ポリオールc)は、ポリウレタン化学において典型的に使用される二官能性アルコール(例えば、エタンジオール、1,2−および1,3−プロパンジオール、1,2−、1,3−および1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチルペンタン−1,5−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、1,2−および1,4−シクロへキサンジオール、2−エチル−3−プロピルペンタンジオール、2,4−ジメチルペンタンジオール、2−エチル−2−ブチルプロパンジオール)、エーテル酸素含有ジオール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールまたはポリブチレングリコール、N−置換エタノールアミン)ならびにこれらの混合物である。好ましいポリオールc)は、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、3−メチルペンタン−1,5−ジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、1,2−および1,4−シクロへキサンジオールならびにN−置換エタノールアミンである。特に好ましいポリオールc)は、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールおよびN−置換エタノールアミンである。
【0024】
3以上の官能価を有する前述の分子量範囲のアルコールは、ポリマー溶液が撹拌可能なままであるような量で、同様に使用され得る。この種の成分としては、トリメチロールプロパン、グリセロールおよびペンタエリスリトールが挙げられる。
【0025】
さらに、上述のポリオールc)との混合物において、例えば、EP-A 0 017 199(10頁27行〜11頁31行)に記載されているように、少なくとも二官能性ポリール化合物を用いて、乾燥および/もしくは非乾燥脂肪酸ならびに/または油のエステル化またはエステル交換反応生成物によって得られる、500g/mol未満の分子量を有する脂肪酸含有ポリエステルc1)を使用することも可能である。使用されるポリオール化合物は、好ましくは、例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロールまたはペンタエリスリトールのような三官能性および四官能性のヒドロキシル成分である。
【0026】
成分c)およびc1)の量は、ポリウレタン分散体(I)の樹脂に関して測定して、その総量が、5質量%〜22質量%、好ましくは7質量%〜20質量%、特に好ましくは9質量%〜17質量%であるように計算される。c)とc1)との比は、100:0〜20:80、好ましくは100:0〜30:70、特に好ましくは100:0〜40:60の範囲である。
【0027】
1つの好ましい態様において、成分c)のみを、ポリウレタン分散体(I)の樹脂に基づいて測定して、5質量%〜22質量%、好ましくは7質量%〜20質量%、特に好ましくは9質量%〜17質量%の量で使用する。
【0028】
適当な成分d)は、イオン基を含むか、またはイオン基を形成することができる低分子量化合物(例えば、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ヒドロキシピバリン酸)、(メタ)アクリル酸およびポリアミンの反応生成物(例えば、DE-A 19750186、2頁52〜57行)またはスルホン酸基を含むポリオール成分(例えば、2−ブテンジオールとの亜硫酸水素ナトリウムのプロポキシル化付加物のような)またはEP-A 0 364 331(6頁1〜6行)に記載されていて、かつスルホイソフタル酸の塩から生成されるポリエステルである。
【0029】
カルボン酸基含有成分が好ましい。ジメチロールプロピオン酸が特に好ましい。
【0030】
陰イオン性分散体に適した中和成分は、公知の第三級アミン、アンモニアおよびアルカリ金属水酸化物である。
【0031】
NCOプレポリマーは、好ましくは非イオン性親水化剤を含まない。
【0032】
適当な鎖延長剤e)としては、500g/mol未満の分子量Mnを有するポリアミン(例えば、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、2−メチルペンタン−1,5−ジアミン、イソホロンジアミン、4,4'−ジアミノジシクロヘキシルメタン、ピペラジン、N2−メチルジエチレントリアミンまたはジエチレントリアミン)が挙げられる。ジアミン、例えば、エチレンジアミン、2−メチルペンタン−1,5−ジアミンまたはイソホロンジアミンが好ましい。
【0033】
適当な成分f)は、1〜18個、好ましくは1〜12個、特に好ましくは1〜8個の炭素原子を有する単官能性アルコールを含む。これら単官能性アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、第1級ブタノール、第2級ブタノール、n−ヘキサノールおよびその異性体、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、1−オクタノール、1−ドデカノール、1−ヘキサデカノール、ラウリルアルコールならびにステアリルアルコールが挙げられる。好ましい成分f)として、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、第1級ブタノール、第2級ブタノール、n−ヘキサノールおよびその異性体、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルならびにジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。特に好ましい成分f)は、n−ブタノール、n−ヘキサノール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコールモノブチルエーテルまたはエチレングリコールモノメチルエーテルである。
【0034】
適当なモノアミンg)は、147g/mol未満の分子量を有するもの、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、n−ブチルアミン、ジブチルアミン、2−アミノブタン、1−アミノペンタン、2−アミノペンタン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、1−アミノ−2−プロパノール、3−アミノ−1−プロパノール、2−アミノ−1−ブタノール、5−アミノ−1−ペンタノール)である。好ましいモノアミンg)としては、n−ブチルアミン、2−アミノブタン、1−アミノペンタン、2−アミノペンタン、エタノールアミンまたはジエタノールアミンが挙げられる。特に好ましい成分g)は、n−ブチルアミンまたはジエタノールアミンである。
【0035】
ポリウレタン分散体(I)を製造するために適当な溶媒としては、大気圧下100℃未満で沸騰し、イソシアネート反応基を含まず、かつ水可溶性でもある溶媒を含む。さらに、その溶媒は、製造された分散体から蒸留によって除去できなければならない。そのような溶媒の例は、アセトン、メチルエチルケトン、tert−ブチルメチルエーテルまたはテトラヒドロフランである。溶媒としてメチルエチルケトンまたはアセトンを使用することが好ましく、アセトンを使用することが特に好ましい。
【0036】
溶媒の量は、分散工程の前にプレポリマーが、重量で66%〜98%の割合を占めるように選択される。
【0037】
同様に、本発明は、
I)ポリウレタン分散体がヒドラジンを添加せずに製造され、ここで
I.1)まず第1の工程において、成分a)、b)、c)およびd)を反応させることにより、大気圧下で100℃未満の沸点を有する溶媒中に66%〜98%の濃度のNCOレポリマー溶液を得、
I.2)第2の工程において、NCOプレポリマーI.1)を、分散の前、その間またはその後に生じるイオン基の少なくとも部分的な中和によって、水中に分散させ、
I.3)第3の工程において、成分e)を用いて鎖延長し、そして
I.4)第4の工程において、溶媒を蒸留によって除去する
(ただし、成分f)は、工程I.1)において使用され、および/または成分g)は、工程I.3)において使用され、好ましくは成分f)は、工程I.1)において使用され、そして成分g)は、工程I.3)において使用され、特に好ましくは成分f)のみが工程I.1)において使用される)
ことを特徴とする、本発明の水性ポリウレタン分散体の製造方法を提供する。
【0038】
本発明のポリウレタン分散体を製造するための方法の工程I.1)において、NCOプレポリマーは、2.3未満のNCO官能価を有すべきである。溶媒は、例えば、66%〜98%濃度溶液、好ましくは75%〜95%濃度溶液を形成するような量で、プレポリマー化の前、その間またはその後に添加され得る。潜在的イオン基を中和するために必要とされる中和剤は、反応の開始時にすでに存在し得るが、分散水に添加されない場合、調製済みのプレポリマーに遅れることなく添加されるべきである。あるいは、中和アミンの量は、分散する前に有機相と水相との間で分離され得る。
【0039】
方法の工程I.2)において、分散操作が行われ、十分な剪断条件下で、樹脂に水を添加する工程または逆に水に樹脂を添加する工程のいずれかを含む。
【0040】
第3工程I.3)において、鎖延長が実施される。水溶液の形態で、窒素含有イソシアネート反応性成分e)およびg)の量は、25%〜105%、好ましくは50%〜100%、特に好ましくは55%〜90%のイソシアネート基が反応によって理論的に消費され得るように計算される。アミンe)およびg)はまた、プレポリマーを調製するために使用される溶媒中の溶液として分散体に添加され得る。残存する任意のイソシアネート基は、存在する水と反応し、それによって鎖を延長する。溶媒の完全な蒸留による除去が、好ましくは真空下で行われ、第4工程I.4)を形成する。
【0041】
溶媒を含まない分散体の固形分は、25質量%〜65質量%である。30質量%〜50質量%の固形分が好ましく、34質量%〜45質量%の固形分が特に好ましい。
【0042】
更に、本発明は、本発明のポリウレタン分散体を含む被覆組成物を提供する。
【0043】
得られた本発明のポリウレタン分散体を含む被覆組成物は、物理的に乾燥する1成分(1K)システムまたは2成分(2K)システムとして適用され得る。
【0044】
従って、本発明はまた、1Kシステムにおける結合剤または2Kシステムにおける結合剤構成成分としての、本発明のポリウレタン分散体の使用を提供する。
【0045】
2Kシステムの場合、本発明の分散体は、好ましくは当業者に公知の親水性および/または疎水性の塗料ポリイソシアネートにより硬化される。塗料ポリイソシアネートを使用するとき、ポリイソシアネートと分散体との効果的な混合を達成するために、更なる量の共溶媒でそれらを希釈する必要があり得る。ここで適当な溶媒は、イソシアネート基に対して不活性な溶媒、例えば、エチルグリコールジメチルエーテル、トリエチルグリコールジメチルエーテル、ジエチルグリコールジメチルエーテル、Proglyde(登録商標)DMM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)、酢酸ブチルまたは酢酸メトキシブチルである。
【0046】
融合(凝集)剤を用いて調剤した後、本発明の被覆組成物は、任意の所望の基材(例えば、木材、金属、プラスチック、紙、革、織物、フェルト、ガラスまたは無機質基材)およびすでに被覆された基材に適用され得る。1つの特に好ましい適用は、木材、プラスチックまたは開孔無機的基材上に被膜を生成するための水性被覆組成物として本発明のポリウレタン分散体を使用することである。
【0047】
本発明はまた、少なくとも1つの被膜が、本発明のポリウレタン分散体を含む被覆組成物を適用することによって生成されることを特徴とする、1以上の被膜を有する基材を提供する。
【0048】
適当な融合剤の例としては、OH単官能性のエチレン−グリコールエーテルもしくはプロピレン−グリコールエーテルまたはこのようなエーテルの混合物が挙げられる。このようなOH単官能性のエチレン−グリコールエーテルまたはプロピレン−グリコールエーテルの例は、エチルグリコールメチルエーテル、エチルグリコールエチルエーテル、ジエチルグリコールエチルエーテル、ジエチルグリコールメチルエーテル、トリエチルグリコールメチルエーテル、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルまたはプロピレングリコールブチルエーテルである。さらに適当な融合剤としては、エチルグリコールジメチルエーテル、トリエチルグリコールジメチルエーテル、ジエチルグリコールジメチルエーテルおよびProglyde(登録商標)DMM(ジプロピレングリコールジメチルエーテル)が挙げられる。エチルグリコールメチルエーテル、ブチルグリコール、ブチルジグリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルおよびプロピレングリコールモノブチルエーテルが好ましい。
【0049】
本発明の被覆組成物は、そのままで、あるいは例えば充填剤および顔料のような被覆技術で公知の助剤および補助剤と組み合わせて、使用され得る。
【0050】
本発明のポリウレタン分散体を含む被覆組成物は、例えば、延展、注入、ナイフ塗布、注入、射出、スピンコート、圧延または浸漬のような公知の方法に適用され得る。
【実施例】
【0051】
用いた成分
【表1】

【0052】
分散体1(本発明)
205.5gのポリエステル(アジピン酸、1,6−ヘキサンジオール;OH価66mgKOH/g)、19gのジメチロールプロピオン酸および58.0gの1,6−ヘキサンジオールを真空下110℃で脱水した。次いで、この混合物を55℃に冷却し、124.2gのアセトンおよび226.9gのDesmodur(登録商標)Iと順次混合し、NCO含有量が3.9質量%(理論NCO含有量4.0%)に達するまで還流下で沸騰させた。温度を再度55℃に調節し、透明溶液を12.9gのトリエチルアミンと混合し、十分に撹拌した。全中和プレポリマー溶液(55℃)を、30℃の温度にした646gの水に、激しく撹拌して分散させた。続いて分散体を5分間撹拌し、その後、8.0gのエチレンジアミンおよび5.2gの26%濃度NH3水溶液を72.0gの水に溶解した溶液を5分間に亘って添加した。その後、アセトンを真空下(120mbar)40℃で留去した。残存イソシアネート基の反応のために、NCO基がIR分光法によって検出されなくなるまで、バッチを40℃で撹拌した。分散体を30℃に冷却した後、240μm急速濾過器に通して濾過した。
【0053】
ポリウレタン分散体の特徴:
平均粒径: 65nm
pH(20℃)(10%濃度水溶液): 7.8
ハードセグメント含有量: 60%
酸価(固体樹脂に基づいて) 15.5mgKOH/g
【0054】
分散体2(本発明)
205.5gのポリエステル(アジピン酸、1,6−ヘキサンジオール;OH価66mgKOH/g)、19gのジメチロールプロピオン酸および58.0gの1,6−ヘキサンジオールを真空下110℃で脱水した。次いで、この混合物を55℃に冷却し、124.2gのアセトンおよび226.9gのDesmodur(登録商標)Iと順次混合し、NCO含有量が3.9質量%(理論NCO含有量4.0%)に達するまで還流下で沸騰させた。温度を再度55℃に調節し、透明溶液を12.9gのトリエチルアミンと混合し、十分に撹拌した。全中和プレポリマー溶液(55℃)を、30℃の温度にした646gの水に、激しく撹拌して分散させた。続いて分散体を5分間撹拌し、その後、8.0gのエチレンジアミンおよび5.8gのブチルアミンを72.0gの水に溶解した溶液を5分間に亘って添加した。その後、アセトンを真空下(120mbar)40℃で留去した。残存イソシアネート基の反応のために、NCOがIR分光法によって検出されなくなるまで、バッチを40℃で撹拌した。分散体を30℃に冷却した後、240μm急速濾過器に通して濾過した。
【0055】
ポリウレタン分散体の特徴:
平均粒径: 55nm
pH(20℃)(10%濃度水溶液): 8.0
ハードセグメント含有量: 60%
酸価(固体樹脂に基づいて) 15.5mgKOH/g
【0056】
分散体3(本発明)
、340.8gのDesmophen(登録商標)C1200、33.0gのジメチロールプロピオン酸、62.0gのネオペンチルグリコール、1.9gのエチレングリコールモノブチルエーテルおよび18.2gのRewomid(登録商標)DC212Sの241.1gのアセトン中混合物を70℃に加熱し、407.0gのDesmodur(登録商標)Wを添加した。次いで24.8gのトリエチルアミンを添加し、混合物を、NCO含有量が3.4%になるまで70℃で撹拌した。900gのこの溶液を、30℃の温度で供給された977gの水に、激しく撹拌して分散させた。分散後、5分間撹拌を続け、その後、5分間に亘って、100gの水中の8.0gのジエチレントリアミンおよび11.2gのエチレンジアミンの溶液を添加した。さらに10分後、アセトンを真空下で留去した。分散体を30℃に冷却した後、240μm急速濾過器に通して濾過した。
【0057】
ポリウレタン分散体の特徴:
平均粒径(LCS): 49nm
pH(20℃): 8.2
固形分: 35%
酸価(固体樹脂に基づいて):16.0mgKOH/g
【0058】
(比較分散体4)
205.5gのポリエステル(アジピン酸、1,6−ヘキサンジオール;OH価66mgKOH/g)、19gのジメチロールプロピオン酸および58.0gの1,6−ヘキサンジオールを真空下110℃で脱水した。次いで、この混合物を55℃に冷却し、124.2gのアセトンおよび226.9gのDesmodur(登録商標)Iと順次混合し、NCO含有量が3.9質量%(理論NCO含有量4.0%)に達するまで還流下で沸騰させた。温度を再度55℃に調節し、透明溶液を12.9gのトリエチルアミンと混合し、十分に撹拌した。全中和プレポリマー溶液(55℃)を、30℃の温度にした646gの水も激しく撹拌して分散させた。続いて、分散体を5分間撹拌し、その後、10.3gのエチレンジアミンを90gの水に溶解した溶液を5分間に亘って添加した。その後、アセトンを真空下(120mbar)40℃で留去した。残存イソシアネート基の反応のために、NCOがIR分光法によって検出されなくなるまで、バッチを40℃で撹拌した。分散体を30℃に冷却した後、240μm急速濾過器に通して濾過した。
平均粒径: 65nm
pH(20℃)(10%濃度水溶液): 7.8
ハードセグメント含有量: 60%
【0059】
比較分散体5
340.8gのDesmophen(登録商標)C1200、33.0gのジメチロールプロピオン酸、62.9gのネオペンチルグリコールおよび18.2gのRewomid(登録商標)DC212Sの241.1gのアセトン中混合物を70℃に加熱し、407.0gのDesmodur(登録商標)Wを添加した。次いで、24.8gのトリエチルアミンを添加し、混合物を、NCO含有量が3.4%になるまで70℃で撹拌した。900gのこの溶液を、30℃の温度で供給した977gの水中に、激しく撹拌して分散させた。分散後、5分間撹拌を続け、その後、5分間に亘って、の8.0gのジエチレントリアミンおよび11.2gのエチレンジアミンの100gの水中溶液を添加した。さらに10分後、アセトンを真空下で留除去した。分散体を30℃に冷却した後、240μm急速濾過器に通して濾過した。
【0060】
ポリウレタン分散体の特徴:
平均粒径(LCS): 51nm
pH(20℃): 8.3
固形分: 35%
【0061】
貯蔵安定性
【表2】

【0062】
本発明は、例示の目的で、以上のとおり詳細に記載したが、このような詳細な記載は、例示の目的のためだけであることが理解されるべきであり、かつ特許請求の範囲によって限定され得る場合を除いて、本発明の精神および範囲から逸脱しないで当業者によって本明細書中で変更がなされ得ることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)1種またはそれ以上のポリイソシアネート、
b)500〜6000g/molの平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のポリオール、
c)62〜500g/molの平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のポリオール、
d)イオン基またはイオン基を形成することができる基を含む1種またはそれ以上の化合物、
e)500g/mol未満の平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のポリアミン、
f)必要に応じて、32〜145g/molの平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のモノアルコールおよび
g)必要に応じて147g/mol未満の平均分子量Mnを有する1種またはそれ以上のモノアミン
を含み、f)およびg)の少なくとも1つが使用され、ポリウレタン分散体(I)の樹脂に基づいて測定した場合、f)および/またはg)の割合が少なくとも0.4質量%〜1.26質量%であり、成分c)の割合が5.5質量%超〜22質量%であり、かつポリウレタン分散体のハードセグメント割合が55質量%〜85質量%である、ヒドラジン非含有水性ポリウレタン分散体(I)。
【請求項2】
前記分散体が成分b)を15質量%〜45質量%の量で含む、請求項1に記載の水性ポリウレタン分散体(I)。
【請求項3】
ポリオールb)が脂肪酸含有ポリエステルb1)を含む、請求項1に記載の水性ポリウレタン分散体(I)。
【請求項4】
前記脂肪酸含有ポリエステルb1)が、OH基に関して平均して二官能性であり、かつグリセロールまたはトリメチロールプロパン単位を含む脂肪酸含有成分を有する、請求項3に記載の水性ポリウレタン分散体(I)。
【請求項5】
請求項1に記載のヒドラジン非含有水性ポリウレタン分散体を製造するための方法であって、
I.1)成分a)、b)、c)およびd)を反応させることにより、大気圧下で100℃未満の沸点を有する溶媒中に66%〜98%の濃度でNCOプレポリマー溶液を調製する工程、
I.2)分散の前、間または後に生じるイオン基の少なくとも部分的な中和によって、水中に該NCOプレポリマーI.1)を分散させる工程、
I.3)成分e)を用いて該NCOプレポリマーを鎖延長する工程および
I.4)該溶媒を除去するために生じた分散体を蒸留する工程
(ただし、成分f)は、工程I.1)において使用されるか、または成分g)は、工程I.3)において使用される)を含む、方法。
【請求項6】
成分f)が工程I.1)において使用され、そして成分g)が工程I.3)において使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
成分f)が工程I.1)において使用される、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
請求項1に記載のヒドラジン非含有水性ポリウレタン分散体を含む、被覆組成物。
【請求項9】
結合剤として請求項1に記載のヒドラジン非含有水性ポリウレタン分散体を含む、1成分(1K)システム。
【請求項10】
結合剤として請求項1に記載のヒドラジン非含有水性ポリウレタン分散体を含む、2成分(2K)システム。
【請求項11】
請求項1に記載のヒドラジン非含有水性ポリウレタン分散体を含む、木材、プラスチックまたは開孔無機質基材上に被膜を生成するための水性被覆組成物。
【請求項12】
少なくとも1つの被膜が、請求項8に記載の被覆組成物を適用することによって形成される、1以上の被膜を有する基材。

【公開番号】特開2007−277561(P2007−277561A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−103454(P2007−103454)
【出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】