説明

改変されたシアノバクテリア

その発現および/またはコード領域配列の点で改変された関心対象の遺伝子を含む、改変された光合成独立栄養細菌を開示する。関心対象の遺伝子の改変は、その細菌における所望の産物の産生を、関心対象の遺伝子に関して改変されていない光合成独立栄養細菌における所望の産物の産生量に比して増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援に関する条項の付記
本発明は、米国エネルギー省(US Department of Energy)により授与された助成金DE-FG03-01ER15251号の下で政府支援を受けて行われた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0002】
関連出願の相互参照
本出願は、「Modified Cyanobacteria」と題する2006年10月20日に出願された米国仮特許出願第60/853,285号の優先権を主張し、その全開示内容は参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【0003】
A.発明の分野
本発明は概して、細菌学の分野に関する。ある局面において、本発明は、所望の産物を産生するように関心対象の遺伝子が過剰発現された、下方制御された、導入された、欠失させられた、または改変された、改変された光合成独立栄養細菌を対象とする。所望の産物は、バイオ燃料、バイオプラスチック、動物飼料添加物、栄養補助食品、食品添加物、肥料などに加工することができる。
【背景技術】
【0004】
B.背景
世界が今日直面している2つの課題には、地球温暖化の一因である二酸化炭素による環境の進行中の汚染と、化石燃料などの世界の天然エネルギー資源の消費の増加が挙げられる。化石燃料の消費の増加は二酸化炭素大気汚染の増加と相関するという、問題となるサイクルが存在する。
【0005】
例えば、米国は化石燃料の燃焼によって毎年17億トンの二酸化炭素を発生させていると推定されている(米国特許出願公開第2002/0072109号を参照)。これも、70〜80億トン/年と推定される、地球全体での化石燃料消費による二酸化炭素の発生に比べると色あせて見える(Marland et al. 2006)。二酸化炭素大気汚染の増加は地球温暖化の進展を招く恐れがあり、これはひいては洪水、干魃(drught)、熱波、ハリケーン、トルネードなどといった極端な天候状況の頻度および激しさを増大させる恐れがある。地球温暖化のその他の帰結には、農業生産量の変化、種の絶滅、および病原媒介物の範囲の拡大が含まれうる。
【0006】
二酸化炭素レメディエーションのための方法が複数提案されている。例えば、米国特許出願公開第2002/0072109号は、化石燃料を動力源とする発電機の排出物中の炭素含有化合物の濃度を低下させることのできる、発生現場での生物学的封鎖システム(on-site biological sequestration system)を開示している。このシステムは、太陽光光子に照らされる封じ込めチャンバー(containment chamber)内に配置される成長表面に付着させた藻類およびシアノバクテリアなどの光合成微生物を用いる。シアノバクテリアは、化石燃料を動力源とする発電機によって生成される二酸化炭素を取り込んで利用する。
【0007】
第二の課題については、世界のエネルギー需要は増加しつづけており、そのことは再生不能な化石燃料によるエネルギー供給の需要を高めている。エネルギーの代替的な供給源が最近開発されている。例えば、トウモロコシ、ダイズ、アマニ、ナタネ、サトウキビおよびパーム油などの農産物が現在のところ、バイオ燃料の生産に用いるために栽培されている。また、農産業、住宅産業および林業などの産業からの生分解性副産物をバイオエネルギーの生産のために用いることもできる。例えば、藁、材木、堆肥、米、殻、下水汚物、生分解性廃棄物および残飯を、嫌気性消化(anareobic digestion)を通じてバイオガスに変換することができる。しかし、CO2の拡散および封鎖、成長時期ならびに年間を通じての太陽エネルギー集積に関する制約のために、植物による生産は太陽エネルギーのバイオマスおよびバイオ燃料への変換の収率が低い。より高い効率での太陽エネルギー変換が、藻類およびシアノバクテリアによって達成される。
【0008】
エタノールの生産のために生きた生物を用いるための方法も記載されている。例えば、Mullerらに対する米国特許第4,242,455号は、デンプン顆粒および/またはセルロースチップ、ファイバーなどの糖質ポリマー粒子の水性スラリーを強い無機酸で酸性化して、発酵可能な糖を形成させる連続工程を記載している。続いて、少なくとも二種のサッカロミセス(Saccharomyces)株を用いて、発酵可能な糖をエタノールへと発酵させる。Chibataらに対する米国特許第4,350,765号は、固定化したサッカロミセスまたはザイモモナス(Zymomonas)と発酵性糖を含む栄養培養液とを用いることによって、高濃度のエタノールを生産する方法を記載している。Arcuriらに対する米国特許第4,413,058号は、連続リアクターカラム内に微生物を入れて前記カラムに水性糖の流れを通過させることによってエタノールを生産するために用いられる、ザイモモナスモビリス(Zymomonas mobilis)株を記載している。
【0009】
Hartleyらに対するPCT出願国際公開公報第88/09379号は、セロビオースおよびペントースを含む広範囲にわたる糖を発酵させることによってエタノールを産生する、通性嫌気性好熱菌株の使用を記載している。これらの細菌株は乳酸デヒドロゲナーゼに突然変異を有する。その結果として、通常であれば嫌気性条件下で乳酸を産生すると考えられるこれらの菌株は、その代わりにエタノールを産生する。
【0010】
米国特許出願公開第2002/0042111号は、エタノールの生産のために用いることのできる、遺伝的に改変されたシアノバクテリアを記載している。このシアノバクテリアは、ザイモモナスモビリスのプラスミドpLOI295から得られた、ピルビン酸デカルボキシラーゼ(pdc)酵素およびアルコールデヒドロゲナーゼ(adh)酵素をコードするDNA断片を含む構築物を含む。
【発明の概要】
【0011】
本発明は、所望の産物の産生を増加させるために、関心対象の遺伝子の配列または発現レベルが導入される、欠失させられる、および/または変更されるように改変された光合成独立栄養細菌を提供することにより、当技術分野における不備を克服する。所望の産物は、バイオ燃料、バイオプラスチック、動物飼料添加物、価値の高い色素もしくは抗酸化物質、または有機肥料といった、いくつかの有用な産物へと加工することが可能である。
【0012】
本発明の1つの態様は、その発現が変更された、および/またはその遺伝子産物の機能が変えられた1つまたは複数の関心対象の遺伝子を含む、改変された光合成独立栄養細菌であって、その結果、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現が変更されていない光合成独立栄養細菌における1つまたは複数の産物の量に比して、その細菌における脂肪酸、脂質カロテノイド、他のイソプレノイド、糖質、タンパク質、バイオガスまたはそれらの組み合わせからなる群より選択される1つまたは複数の産物の産生の増加がもたらされる、改変された光合成独立栄養細菌に関する。もう1つの態様においては、1つまたは複数の遺伝子に複数の変更が導入され、ここで複数の変更は全体として、所望の産物の産生を増加させる。改変された光合成独立栄養細菌は、二酸化炭素を取り込んで固定する種類のものでありうる。ある局面において、改変された光合成独立栄養細菌はさらに、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌による二酸化炭素の取り込みおよび固定の量に比して、二酸化炭素の取り込みおよび固定が増加しているとして定義される。
【0013】
関心対象の遺伝子の発現を、遺伝子の上方制御または下方制御を引き起こすように変更してもよい。もう1つの態様において、発現を、内因性遺伝子の変更、内因性遺伝子の欠失、または内因性遺伝子の制御配列の改変によって変更してもよい。さらにもう1つの態様において、関心対象の遺伝子を、1つまたは複数の改変されていない遺伝子に対する1つまたは複数のトランスジェニック配列の付加によって変更してもよい。
【0014】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる「天然の(native)光合成独立栄養細菌」という用語は、自然界に見いだされ、かつ本発明に開示された様式で変更された遺伝子機能を有しない、光合成独立栄養細菌のことを指す。しかし、当然ながら、所望の産物の産生を増加させるために以前に変更された細菌を入手することによって本発明を実施することも可能である。これらの以前の変更には、細菌に対して加えられた任意の操作が含まれうる。
【0015】
本発明の本光合成独立栄養細菌は、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現が変更されていない光合成独立栄養細菌における1つまたは複数の産物の量に比して、細菌における1つまたは複数の所望の産物の産生の増加をもたらす変更が、子孫に伝えられる限りは、最初に変更された細菌であってもよく、または任意の世代の子孫であってもよい。
【0016】
本発明と関連して用いることのできる光合成独立栄養細菌の非限定的な例には、シアノバクテリア、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、ヘリオバクテリア、光合成アシドバクテリア、紅色硫黄細菌または紅色非硫黄細菌が含まれる。ある局面において、改変された光合成独立栄養細菌はシアノバクテリアである。シアノバクテリアは、クロオコッカス目(Chroococcale)、ネンジュモ目(Nostocale)、ユレモ目(Oscillatoriale)、プレウロカプサ目(Pleurocapsale)、原核緑色植物(Prochlorophyte)またはスティゴネマ目(Stigonematale)のものでありうる。クロオコッカス目には、アファノカプサ(Aphanocapsa)、アファノテーケ(Aphanothece)、カマエシフォン(Chamaesiphon)、クロオコッカス(Chroococcus)、クロコスフェラ(Crocosphaera)、シアノバクテリア(Cyanobacterium)、シアノビウム(Cyanobium)、シアノテーケ(Cyanothece)、ダクティロコッコプシス(Dactylococcopsis)、グロエオバクター(Gloeobacter)、グロエオカプサ(Gloeocapsa)、グロエオテーケ(Gloeothece)、エウハロテーケ(Euhalothece)、ハロテーケ(Halothece)、ヨハネスバプティスチア(Johannesbaptistia)、メリスモペディア(Merismopedia)、ミクロキスティス(Microcystis)、ラブドデルマ(Rhabdoderma)、シネココッカス(Synechococcus)およびシネコシスティス(Synechocystis)、およびテルモシネココッカス(Thermosynechococcus)からなる群より選択される種が含まれうる。ネンジュモ目には、コレオデスミウム(Coleodesmium)、フレミエラ(Fremyella)、ミクロケーテ(Microchaete)、レキシア(Rexia)、スピリレスティス(Spirirestis)、トリポスリックス(Tolypothrix)、アナベナ(Anabaena)、アナベノプシス(Anabaenopsis)、アファニゾメノン(Aphanizomenon)、アウロシラ(Aulosira)、シアノスピラ(Cyanospira)、シリンドロスペルモプシス(Cylindrospermopsis)、シリンドロスペルムム(Cylindrospermum)、ノデュラリア(Nodularia)、ネンジュモ(Nostoc)、リケリア(Richelia)、カロスリックス(Calothrix)、グロエオトリキア(Gloeotrichia)、およびスキトネマ(Scytonema)からなる群より選択される種が含まれうる。ユレモ目には、アルスロスピラ(Arthrospira)、ゲイトレリネマ(Geitlerinema)、ハロミクロネマ(Halomicronema)、ハロスピルリナ(Halospirulina)、カタグニメネ(Katagnymene)、レプトリンビャ(Leptolyngbya)、リムノスリックス(Limnothrix)、リンビャ(Lyngbya)、ミクロコレウス(Microcoleus)、ユレモ(Oscillatoria)、フォルミディウム(Phormidium)、プランクトトリコイデス(Planktothricoides)、プランクトスリックス(Planktothrix)、プレクトネマ(Plectonema)、リムノスリックス(Limnothrix)、シュードアナベナ(Pseudanabaena)、スキゾスリックス(Schizothrix)、スピルリナ(Spirulina)、シンプロカ(Symploca)、トリコデスミウム(Trichodesmium)、およびチコネマ(Tychonema)からなる群より選択される種が含まれうる。プレウロカプサ目には、クロオコッキディオプシス(Chroococcidiopsis)、デルモカルパ(Dermocarpa)、デルモカルペラ(Dermocarpella)、ミクソサルキナ(Myxosarcina)、プレウロカプサ(Pleurocapsa)、スタニエリア(Stanieria)、およびキセノコッカス(Xenococcus)からなる群より選択される種が含まれうる。原核緑色植物には、プロクロロン(Prochloron)、プロクロロコッカス(Prochlorococcus)およびプロクロロスリックス(Prochlorothrix)からなる群より選択される種が含まれうる。スティゴネマ目には、カプソシラ(Capsosira)、クロログロエオプシス(Chlorogloeopsis)、フィッシェレラ(Fischerella)、ハパロシフォン(Hapalosiphon)、マスチゴクラドプシス(Mastigocladopsis)、マスチゴクラドゥス(Mastigocladus)、ノストクホプシス(Nostochopsis)、スティゴネマ(Stigonema)、シンフィオネマ(Symphyonema)、シンフィオネモプシス(Symphyonemopsis)、ウメザキア(Umezakia)、およびウェスティエロプシス(Westiellopsis)からなる群より選択される種が含まれうる。ある局面において、シアノバクテリアは、シネコシスティス菌種PCC 6803またはテルモシネココッカスエロンガタス(Thermosynechococcus elongatus)BP-1株である。
【0017】
関心対象の遺伝子が、その発現レベルの点で変更される、欠失させられる、または導入される、いくつかの態様において、改変された光合成独立栄養細菌はさらに、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌による脂質産生の量に比して、1つまたは複数の脂質の産生が増加しているとして定義される。改変された光合成独立栄養細菌はさらに、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌の脂質含有量に比して、脂質含有量が増加しているとして定義されうる。脂質含有量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100%もしくはそれ以上、またはこれらの点のいずれかの間に導き出せる任意の範囲もしくは整数の分だけ増加させることができる。さらに、脂質含有量は、当業者に公知の方法によって算出された生物の理論上の乾燥重量の、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98もしくは99%、またはこれらの点のいずれかの間に導き出せる任意の範囲もしくは整数でありうる。過剰発現させることができ、かつ脂質産生または脂質含有量の増加を導くことができる関心対象の遺伝子には、プラスチド中で小胞を誘導するタンパク質1(vesicle-inducing protein in plastids 1)(VIPP1)の遺伝子(sll0617)、類似のpspA型遺伝子s1r1188、チラコイド膜の形成および組成のために重要なyidCおよびoxaIに対する類似性を有するs1r1471遺伝子、アセチル-CoAカルボキシラーゼ遺伝子(sll0728、slr0435、sll0053およびsll0336)、トランスアセチラーゼ遺伝子、脂肪酸生合成遺伝子fabD(slr2023)、fabH(slr1511)、fabF(sll1069およびslr1332)、fabG(slr0886)、fabZ(sll1605)およびfabI(slr1051)、フィブリルまたはチラコイド膜に随伴する疎水性実体を覆うタンパク質をコードするプラストグロブリン/フィブリリン遺伝子(slr1024およびsll1568)、デサチュラーゼ遺伝子、1-アシルグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼをコードするsll1848、またはslr2060などのリン脂質グリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子が含まれうる。膜の脂質含有量を、膜内のタンパク質を認識するプロテアーゼの過剰発現(ftsH遺伝子sll1463、slr0228、slr1390およびslr1604、clpB遺伝子slr0156およびslr1641、ならびにclpP遺伝子slr0542、sll0534およびslr0165を含む)によって、または脂質産生のために用いられる固定酸素の量を増加させるための代謝エンジニアリング(例えば、PEPカルボキシラーゼ遺伝子であるsll0920、およびクエン酸シンターゼ遺伝子であるsll0401の下方制御、ならびに/またはグリコーゲン生合成に関与するslr1176、ポリヒドロキシ酪酸の形成および代謝に関与するslr1829/1830、ならびにシアノフィシンの形成および代謝に関与するslr2001/2002を含む、貯蔵化合物の合成に関与する遺伝子の欠失による)によって、増大させてもよい。その上、生物によって産生される脂質の種類を、トリグリセリドの形成を可能にする遺伝子(酵母(LRO1)もしくはアラビドプシス(Arabidopsis)(TAG1)由来のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼなど)の導入、あるいは糖脂質、スルホリピドおよびリン脂質の形成、または脂肪酸の飽和度を質的もしくは量的に変更させる遺伝子の導入によって変更することもできる。シネコシスティスにおける脂肪酸の不飽和化は、DesA(Slr1350)、DesB(Sll1441)、DesC(Sll0541)およびDesD(Sll0262)によって触媒され、対応する遺伝子の発現の調節は脂肪酸不飽和化レベルを調整し、それがひいては細胞の温度耐性を調整する。チラコイド膜形成の経路調節または調節に関与する遺伝子の発現の差異も、脂質含有量の増加またはバイオ燃料の価値の増大を導くと考えられる。ある態様において、関心対象の遺伝子には、シネコシスティス菌種PCC 6803のsll0336、sll0728、sll1568、sll1848、slr2060、sll0617、slr1471、sll1463、slr0228、slr1024、slr1390、slr1604、slr0156、slr1641、slr0542、slr0165、slr0435、sll0053、slr2023、slr1511、sll1069、slr1332、slr0886、sll1605、slr1051、slr1176、slr1188、slr1024、sll1568、slr1829、slr1830、slr2001、slr2002、slr1350、sll1441、sll0541、sll0262、sll0920、sll0401およびsll0534が含まれる。当業者は、これらの遺伝子の相同体が他の光合成独立栄養細菌に存在することを理解すると考えられる。また、これらの相同体を、そのような種において変更すること、導入すること、または欠失させることもできる。その上、トリアシルグリセロール合成を可能にする遺伝子の導入により、細胞における脂質の種類を改変することもできる。トリアシルグリセロール過剰産生は、収集して単離することができる、細胞中の脂質体(lipid body)の合成を導く場合がある。
【0018】
いかなる特定の理論にも拘束されることはないが、トリアシルグリセロールは、ホスファチジン酸(sll1848の産物)からのリン酸の除去によってジアシルグリセロールが生じ、続いてジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼによってもう1つのアシル基が付加されることによって形成される。ホスファチジン酸からのリン酸の除去を担う酵素はホスファチジン酸ホスファターゼであり、これはシネコシスティスではおそらくsll0545によってコードされる。この遺伝子を、高トリグリセリド株(ロドコッカスオパカス(Rhodococcus opacus)など)由来のホスファチジン酸ホスファターゼとともに過剰発現させることができる。トリグリセリドを形成させるために、酵母由来のLRO1または他の系由来の重要なジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼを導入してよい。LRO1は真核生物におけるレシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子と類似しており、指数増殖中の酵母におけるトリグリセリド合成の大半を媒介する。相同体が脂肪種子植物に存在しており、この酵素に対するアシル供与体はリン脂質である場合がある。加えて、アシル-CoAをアシル供与体として用いる可能性の高い、アラビドプシス(Arabidopsis)由来のジアシルグリセロールアシルトランスフェラーゼ(TAG1座位からのcDNA)を導入することもできる。このようにして、シネコシスティスにおけるトリグリセリド形成を最大限にすることができる。原核生物では、産生されたトリグリセリドは通常、タンパク質/リン脂質単層に囲まれた小さな脂質液滴である植物の脂肪種子における油体と同じように、細胞質封入体として貯蔵される。それらは、少量(1〜2%)のリン脂質およびタンパク質を伴う本質的には純粋なトリグリセリドであり、膜で形成される。
【0019】
関心対象の遺伝子が、その発現レベルの点で変更される、欠失させられる、または導入される、いくつかの態様において、改変された光合成独立栄養細菌はさらに、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌によるカロテノイドまたは他のイソプレノイドの産生の量に比して、1つまたは複数のカロテノイドまたは他のイソプレノイドの産生が増加しているとして定義される。改変された光合成独立栄養細菌はさらに、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌のカロテノイドまたは他のイソプレノイドの含有量に比して、カロテノイドまたは他のイソプレノイドの含有量が増加しているとして定義されうる。カロテノイドの非限定的な例には、β-カロテン、ゼアキサンチン、ミキソキサントフィル、ミキソール(myxol)、エキネノン(echinenone)およびそれらの生合成中間体が含まれる。他のイソプレノイドの非限定的な例には、イソプレン、トコフェロールおよびそれらの生合成中間体が含まれる。カロテノイド含有量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100%もしくはそれ以上、またはこれらの点のいずれかの間に導き出せる任意の範囲もしくは整数の分だけ増加させることができる。さらに、カロテノイド含有量は、当業者に公知の方法によって算出された生物の理論上の乾燥重量の、1、2、3、4、5、6, 7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98もしくは99%、またはこれらの点のいずれかの間に導き出せる任意の範囲もしくは整数でありうる。生物における任意の他のイソプレノイドの含有量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100%もしくはそれ以上、またはこれらの点のいずれかの間に導き出せる任意の範囲もしくは整数の分だけ増加させることができる。さらに、天然の生物では産生されない場合があるいくつかのイソプレノイドを、本明細書で開示した方法を介して、改変された生物において産生させることができる。任意のイソプレノイドの含有量は、当業者に公知の方法によって算出された生物の理論上の乾燥重量の、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98もしくは99%、またはこれらの点のいずれかの間に導き出せる任意の範囲もしくは整数でありうる。改変することができ、かつカロテノイド産生またはカロテノイド含有量における発現の変化を導くことのできる関心対象の遺伝子は、カロテノイド前駆体であるC5化合物IPPおよびDMAPPを発現するかその産生を調節する遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のslr0348);イソペンテニル二リン酸イソメラーゼを発現するかその産生を調節する遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のsll1556);crtP遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のslr1254);crtQ遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のslr0940);crtD遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のslr1293);crtLdiox遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のsll0254);およびcrtR遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のsll1468)でありうる。イソプレンを合成する潜在能力のあるシネコシスティスを得るためには、関心対象の遺伝子は、シネコシスティスの中へ、強力なプロモーターの下に導入された、ポプラ変種などの植物由来のイソプレンシンターゼ遺伝子またはその相同体であってよい。当業者は、これらの遺伝子の相同体が他の光合成独立栄養細菌にも存在することを理解するであろう。また、これらの相同体を、そのような種において過剰発現させるか、または変更できる。
【0020】
関心対象の遺伝子がその発現レベルの点で変更される、欠失させられる、または導入される、いくつかの態様において、改変された光合成独立栄養細菌はさらに、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌による糖質産生の量に比して、1つまたは複数の糖質の産生が増加しているとして定義される。改変された光合成独立栄養細菌はさらに、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌の糖質含有量に比して、糖質含有量が増加しているとして定義されうる。生物における糖質の含有量は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98、99、100%もしくはそれ以上、またはこれらの点のいずれかの間に導き出せる任意の範囲もしくは整数の分だけ増加させることができる。さらに、天然の生物では産生されない場合があるいくつかの糖質を、本明細書で開示した方法を介して、改変された生物において産生させることもできる。生物において産生される糖質のうち任意の1つまたは複数の含有量は、個別的に、または他の糖質と共同で、当業者に公知の方法によって算出された生物の理論上の乾燥重量の、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、96、97、98もしくは99%、またはこれらの点のいずれかの間に導き出せる任意の範囲もしくは整数でありうる。糖質の非限定的な例には、単糖ならびに単糖リン酸エステル(monosaccharide phosphate)(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、キシルロース-5-リン酸、リブロース-5-リン酸、リボース-5-リン酸、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、セドヘプツロース-7-リン酸、エリトロース-4-リン酸、セドヘプツロース-二リン酸およびフルクトース-二リン酸)、二糖(例えば、スクロース)、オリゴ糖(例えば、フルクト-オリゴ糖およびマンナン-オリゴ糖)ならびに多糖(例えば、グリコーゲンおよびその誘導体)が含まれる。当業者は、グリコーゲンシンセターゼおよびグリコーゲン分枝酵素の遺伝子を、糖質がグリコーゲンには変換不能であるが、むしろポリ乳酸(PLA)、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)もしくは別のポリヒドロキシアルカノアート(PHA)または脂質もしくは他のバイオ燃料には変化されるような様式で突然変異させうること(例えば、挿入または欠失)を理解すると考えられる。または、遺伝子は、中心的な炭素代謝に関与するものであってもよい。
【0021】
ある局面において、関心対象の遺伝子は構成的プロモーターと機能的に連結される。構成的プロモーターの非限定的な例には、psbDII、psbA3およびpsbA2プロモーターが含まれる。関心対象の遺伝子を誘導性プロモーターと機能的に連結させることもできる。誘導性プロモーターの非限定的な例には、nirA、isiAB、petE、nrsRS、nrsABCDおよびndhF3プロモーターが含まれる。複数の遺伝子を同一のプロモーターの制御下に導入することができる。
【0022】
本発明のもう1つの態様においては、光合成独立栄養細菌からの所望の産物の産生を増加させる方法が開示される。本方法は、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能を変更して、光合成独立栄養細菌における1つもしくは複数の産物または1つもしくは複数の関心対象の遺伝子の産生の増加をもたらす段階を含むことができ、ここで前記変更は、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現が変更されていない光合成独立栄養細菌によって産生される産物の量に比して、1つまたは複数の産物の産生の増加をもたらす。本方法は、所望の産物を増加した量で産生させるのに適した条件下で、光合成独立栄養細菌を増殖させる段階をさらに含みうる。これには、温度(温度の時間的および空間的な変動を含む)、窒素レベル(硝酸塩、亜硝酸塩、有機アミン、アンモニアなどの形での、窒素の具体的な化学的構成を含む)、二酸化炭素レベル、光強度、露光時間(またはより一般的に光強度の時間的調整)、光波長(光強度のスペクトル上の調整)、光の分布(光強度の空間的調整)、リンレベル、硫黄レベル(有機硫黄、硫酸塩その他といった種々の形態の硫黄の具体的レベルを含む)、ミネラルレベル(鉄、マグネシウム、マンガン、亜鉛その他といった個々の金属の具体的レベルを含む)、混合率(時間または位置の関数としての混合の調整を含む)、細菌密度(どの程度早く細菌を回収して、特定の定常状態の細胞密度を結果的に得るか)ならびに栄養分流入の速度および時間的調整(炭素、窒素、硫黄、リン、ミネラルその他)、さらには細菌の増殖速度および組成にとって重要な環境のその他の局面の最適化が含まれてもよい。光合成独立栄養細菌は、二酸化炭素を取り込んで固定する種類のものでありうる。関心対象の遺伝子の発現レベルの調整、および/または天然の遺伝子の欠失、および/または外来性遺伝子の導入は、関心対象の遺伝子の発現レベルの変更および/または天然の遺伝子の欠失および/または外来性遺伝子の導入を有しない光合成独立栄養細菌による二酸化炭素の取り込みおよび固定の量に比して、二酸化炭素の取り込みおよび固定を増加させることができる。所望の産物は、脂質(もしくは脂質の混合物)、糖質(もしくは糖質の混合物)、糖質の糖組成物全般、カロテノイド(もしくはカロテノイドの混合物、例えば、β-カロテン、ゼアキサンチン、ミオキソキサントフィル(myoxoxanthophyll)、ミキソール、エキネノンおよびそれらの生合成中間体)、別のイソプレノイド(もしくはイソプレノイドの混合物)、タンパク質(もしくはタンパク質の混合物)、タンパク質のアミノ酸組成物全般、または貯蔵産物シアノフィシン(および関連化合物)でありうる(しかしそれらに限定されない)。タンパク質の場合には、タンパク質の特定の混合物を、動物飼料の目的で、ワクチン、または価値の高い他のタンパク質製品を作り出すために、最適化して製造してもよい。また、特定のタンパク質を、それらが所望の産物の混入物となるかまたはその収量を減少させる場合には、細胞内のレベルで下方制御させることもできる。本方法はさらに、所望の産物をバイオ燃料に加工する段階を含むことができる。バイオ燃料の非限定的な例には、バイオディーゼル、バイオアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノールおよびブタノール)ならびにバイオガス(水素、イソプレン、メタン、エタン、プロパンおよびブタン)が含まれる。他の局面において、本方法は、所望の産物をバイオプラスチックへと加工する段階を含むことができる。バイオプラスチックの非限定的な例には、ポリ乳酸(PLA)、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)またはポリ-3-ヒドロキシアルカノアート(PHA)が含まれる。所望の産物は動物飼料添加物または有機肥料へと加工することが可能である。
【0023】
光合成独立栄養細菌にとって適した増殖条件には、本明細書の全体を通して記載されたもの、および当業者に公知であるものが含まれる。1つの態様において、例えば、適した増殖条件には、細菌に二酸化炭素の供給源を与えることが含まれる。二酸化炭素の供給源はさまざまでありうる。1つの態様において、供給源は排煙(flue gas)から得られる。もう1つの態様において、二酸化炭素の供給源は大気でありうる。適した増殖条件には、細菌に固定窒素の供給源を与えることが含まれうる。固定窒素の供給源はさまざまでありうる。1つの態様において、供給源は地下水、アンモニア、硝酸ナトリウムまたは硝酸アンモニウムから得られる。光合成独立栄養細菌に与えられる二酸化炭素の量は、0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15もしくは20%の間またはそれ以上でありえ、ここで%は培養物に与えられるガス中のCO2の分圧のことを指す。光合成細菌に与えられる固定窒素の量は、培地中で0.01、0.02、0.03、0.04、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90もしくは95mMの間またはそれ以上でありうる。適した増殖条件には、細菌を、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、55、60、65、70、80、90℃もしくはそれ以上、またはそれらの中に導き出せる任意の範囲もしくは整数の中にある温度範囲で増殖させることが含まれうる。ある局面において、温度範囲は10〜55℃である。適した増殖条件にはまた、光合成独立栄養細菌を光(例えば、日光)に曝すことも含まれうる。
【0024】
本発明のもう1つの態様は、所望の産物を光合成独立栄養細菌から産生させるための方法を含む。本方法は、1つもしくは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能の変更が光合成独立栄養細菌における1つもしくは複数の産物または1つもしくは複数の関心対象の遺伝子の産生の増加をもたらし、そのことが1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現が変更されていない光合成独立栄養細菌によって産生される所望の産物の量に比して所望の産物の産生の増加をもたらすような、本発明の、または本発明の方法によって作製された、改変された光合成独立栄養細菌を入手する段階;光合成独立栄養細菌を、所望の産物を産生させるのに適した条件下で増殖させる段階;および所望の産物を単離する段階を含みうる。光合成独立栄養細菌は、二酸化炭素を取り込んで固定する種類のものでありうる。関心対象の遺伝子の発現レベルの改変、および/または天然の遺伝子の欠失、および/または外来性遺伝子の導入は、関心対象の遺伝子の発現レベルが改変されていない、ならびに/または天然の遺伝子の欠失および/もしくは導入された外来性遺伝子を保有しない光合成独立栄養細菌による二酸化炭素の取り込みおよび固定の量に比して、二酸化炭素の取り込みおよび固定を増加させることができる。所望の産物の非限定的な例には、脂質、糖質、カロテノイド、他のイソプレノイド、色素、抗酸化物質、他の二次代謝産物、タンパク質またはそれらの混合物が含まれる。単離段階の非限定的な例には、本明細書の全体を通して記載されたもの、および当業者に公知であるものが含まれる。非限定的な例には、有機溶媒を用いた抽出、超臨界条件下の無害な化学物質(例えば、CO2または水)を用いた抽出、または二相分配による抽出が含まれる。本方法はさらに、本明細書に記載された方法および当業者に公知であるものによって、所望の産物をバイオ燃料、バイオプラスチック、カロテノイド、動物飼料または肥料へと加工する段階を含みうる。
【0025】
本発明のもう1つの態様は、二酸化炭素を固定する方法を含む。本方法は、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能の変更が、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現が変更されていない光合成独立栄養細菌による二酸化炭素の取り込みおよび固定の量に比して二酸化炭素の取り込みおよび固定の増加をもたらすような、二酸化炭素を取り込んで固定することのできる、本発明の、または本発明の方法によって作製された改変された光合成独立栄養細菌を入手する段階;光合成独立栄養細菌を、二酸化炭素を取り込んで固定するのに適した条件下で増殖させる段階;および、二酸化炭素の供給源を改変された光合成独立栄養細菌に与える段階を含み、ここで供給源からの二酸化炭素の少なくとも一部分は、改変された光合成独立栄養細菌によって固定される。二酸化炭素の供給源の非限定的な源は、排煙、大気CO2または他のCO2供給源でありうる。本方法はさらに、排煙中の二酸化炭素の少なくとも一部分を固定する段階を含みうる。
【0026】
本明細書中で考察した任意の態様を、本発明の任意の方法または組成物に対して実行しうること、またはその反対も可能であると企図される。さらに、本発明の組成物を、本発明の方法を達成するために用いることもできる。
【0027】
特許請求の範囲および/または本明細書における「1つの(a)」または「1つの(an)」という用語の使用は、「1つ(one)」を意味してもよいが、それは「1つまたは複数の」、「少なくとも1つの」および「1つまたは1つを上回る」という意味とも矛盾しない。
【0028】
特許請求の範囲および/または本明細書中に見いだされる「1つまたは複数の」という語句は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上と定義される。
【0029】
「1つまたは複数の産物」という語句は、単一のクラス内の複数の産物(すなわち、2つもしくはそれ以上の脂質;2つもしくはそれ以上のバイオガス)、複数のクラス内の単一の産物(すなわち、1つの脂質、1つの脂肪酸、1つの糖質、その他)、またはそれらの組み合わせでありうる。
【0030】
例えば遺伝子発現に関連しての、「変更された(altered)」という用語は、(a)発現の上方制御または下方制御;(b)天然に存在する遺伝子の変更(例えば、誘導性プロモーター構築物などによる);(c)内因性遺伝子における突然変異;トランスジェニック構築物(すなわち、導入遺伝子)(異なる生物に天然に存在するもの、または突然変異したもの)による変更;(d)それらの組み合わせ、その他を含む、任意の種類の変更のことを含む。
【0031】
本出願の全体を通して、「約(about)」および「およそ(approximately)」という用語は、ある値が、その値を決定するために用いられるデバイス、方法に関する固有の誤差変動、または試験被験体の間に存在する変動を含むことを指し示している。1つの非限定的な態様において、これらの用語は、10%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは1%以内、および最も好ましくは0.5%以内であると定義される。
【0032】
特許請求の範囲における「または(or)」という用語の使用は、選択肢のみを指すこと、または選択肢が相互に排反的であることが明示的に指示されている場合を除き、「および/または(and/or)」を意味して用いられるが、その開示は選択肢のみと「および/または」とを指す定義をも支持する。
【0033】
本明細書および特許請求の範囲において用いられる場合、単語「含む(comprising)」(および、含む、の任意の形態、例えば「含む(comprise)」および「含む(comprises)」など)、「有する(having)」(および、有する、の任意の形態、例えば「有する(have)」および「有する(has)」など)、「含む(including)」(および、含む、の任意の形態、例えば「含む(includes)」および「含む(include)」など)、または「含む(containing)」(および、含む、の任意の形態、例えば「含む(contains)」および「含む(contain)」など)は、包括的であるかまたは限度を設定せず、列挙されていない追加的な要素または方法の段階を除外するものではない。
【0034】
本発明のその他の目的、特徴および利点は、以下の詳細な説明から明らかになると考えられる。しかし、当業者にはこの詳細な説明から、本発明の精神および範囲内にあるさまざまな変化および改変が明らかになると考えられるため、詳細な説明および具体的な例は、本発明の具体的な態様を指し示してはいるものの、例示として与えられているのに過ぎないことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
以下の図面は本明細書の一部を構成しており、本発明のある局面をさらに実証するために含められる。本発明は、これらの図面の1つまたは複数を、本明細書に提示された具体的な態様の詳細な説明と組み合わせて参照することによって、より良く理解されるであろう。
【図1】糖リン酸標準物質およびシネコシスティス抽出物のLC/MS。LC溶出時間がX軸であり、特定の糖リン酸を表す糖リン酸質量がY軸である。Z軸はMSシグナルの強度を表している。A.濃度20μMの糖リン酸標準物質。B.特定の糖リン酸の質量をモニターしている、光混合栄養的に(photomixotrophically)増殖させたシネコシスティス野生型培養物からの細胞抽出物に関するLC/MS。いくつかの中間体は抽出物中にかなりの濃度で存在したが、他のものは本質的に検出不能であったことに注目されたい。
【図2】MS/MSによるLC/MSピークの検証の例。第1のMSのうち259 m/zピークを選択しており、この図に提示されたシグナルは第2のMSによる97 m/z(リン酸)シグナルの強度である。LC溶出時間をX軸上にプロットしている。
【図3】光混合栄養的に増殖させたシネコシスティス培養物の13Cグルコース標識下での3-ホスホグリセリン酸(3PG)アイソトポマーの動的分布。ゼロ時点で、0.5mMの13C-グルコースを添加した。試料をさまざまな時点で回収し、3PGの質量分布(標識されていない質量(185)、質量+1、質量+2、質量+3)を分析した。
【図4】MSシグナルの面積に対しての代謝産物濃度の検定。複数の異なる濃度の標準物質を細胞抽出物に添加した。抽出物中の対応する代謝産物の濃度は、横座標との交点の絶対値である。G6P:○;3PG:●;PEP:△。
【図5】標識グルコースの添加後の光混合栄養条件下での増殖時間の関数としての、細胞からの抽出物中のヘキソース-6-リン酸(G6P+F6P)、ホスホグリセリン酸(3PG+2PG)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)およびセドヘプツロース-7-リン酸(S7P)のプールの同位体の分布。0.5mMの13Cグルコースをゼロ時点で添加した。アイソトポマーはX軸上で質量に従って分離される(左から右の順に:標識されていない質量、質量+1、質量+2、その他)。データは3回の実験の平均であった。標準偏差分析により、5%を上回る相対強度の変化は有意であることが示された。
【図6】標識された炭酸水素塩の添加後の光混合栄養条件下での増殖時間の関数としての、細胞からの抽出物中のヘキソース-6-リン酸(G6P+F6P)、ホスホグリセリン酸(3PG+2PG)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)およびセドヘプツロース-7-リン酸(S7P)のプールの同位体の分布。0.5mMの標識されていないグルコースおよび5mMのNaH13CO3をゼロ時点で添加した。アイソトポマーはX軸上で質量に従って分離される(左から右の順に:標識されていない質量、質量+1、質量+2、その他)。データは3回の実験の平均であった。標準偏差分析により、5%を上回る相対強度の変化は有意であることが示された。
【図7】25μMアトラジンの存在下における光混合栄養条件下での増殖時間の関数としての、細胞からの抽出物中のヘキソース-6-リン酸(G6P+F6P)、ホスホグリセリン酸(3PG+2PG)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)およびセドヘプツロース-7-リン酸(S7P)のプールの同位体の分布。0.5mMの13Cグルコースをゼロ時点で添加した。アイソトポマーはX軸上で質量に従って分離される(左から右の順に:標識されていない質量、質量+1、質量+2、その他)。データは3回の実験の平均であった。標準偏差分析により、5%を上回る相対強度の変化は有意であることが示された。
【図8】野生型の非分裂性-図8Aおよび分裂性-図8Bのシネコシスティス菌種PCC 6803シアノバクテリア細胞の透過型電子顕微鏡写真。どちらのステージでも、最も周辺にあるチラコイド膜ペアの列(白楔形)は、細胞質膜の近傍の部位で収束する。カルボキシソーム(黒楔形)、PHA顆粒(星印)、脂質体(白矢印)および隔壁(黒矢印)が認められる。図8C〜Fは、チラコイド膜生合成に関与するタンパク質をコードするVIPP1遺伝子を過剰発現する、シネコシスティス菌種PCC 6803シアノバクテリアの突然変異株の電子顕微鏡写真である。図8C チラコイド膜の量は有意に増加し、密着した膜(白星印)は個別のチラコイドシートへと分岐しようとしているように見える(白矢印)。図8D 図8Cの拡大像。図8E この突然変異株に特有なチラコイド膜(黒楔形)と密接なつながりのあるラメラ構造(黒星印)の存在を示している。図8F 図8Eの拡大像。スケールバー=200nm。
【図9】0.04%ナイルブルー(図9A)による12時間のインビボ染色後のシネコシスティス菌種PCC 6803細胞。画像は、488nmで励起して560〜620nmで検出する共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて(図9A〜D)、または落射蛍光光学顕微鏡(図9E〜F)を用いて得た。図9A 標準的なBG-11培地中で培養した指数期初期にある野生型細胞。図9B N制限(N-limited)培地(1.67mM硝酸塩)中で培養した定常期の野生型細胞。図9C NaNO3(16.7mM)を10mM NH4Clに置き換えた改変BG-11培地中で培養した指数期初期の野生型細胞。図9D 指数期中期にあるPS II欠如/オキシダーゼ欠如細胞。図9E 指数期中期にあるオキシダーゼ欠如細胞。図9F.指数期中期にあるNDH-1欠如細胞。PSII欠如/オキシダーゼ欠如培養物を除き、培養物はすべて光合成独立栄養的に増殖させた。バーサイズ:1μm。
【図10】5mMグルコースの存在下で光混合栄養的に増殖させたPSII欠如/オキシダーゼ欠如株を除き、光合成独立栄養条件下で増殖させた、指数期初期にあるシネコシスティス菌種PCC 6803株の超微細構造。図10A 野生型;図10B オキシダーゼ欠如株;図10C PS II欠如/オキシダーゼ欠如株;図10D N欠乏後の野生型。比較的大きい白い空間は、薄切片の調製中に洗い流されたPHAのためである。バーサイズ200nm。
【図11】光混合栄養条件下で増殖させたPS II欠如/オキシダーゼ欠如株から単離してGC/MSによって分析した全細胞メタノリシス産物(図11A)。2つの主要なピークが検出された。ピーク1および2のGC/MSフィンガープリントはそれぞれ図11B〜Cに提示されている。ピーク1の質量断片下パターンは、PHBのメタノリシス産物である3-ヒドロキシ酪酸メチルエステルのそれと合致し(図11B)、ピーク2の質量パターンからは、長期的メタノリシス後に、グルコースまたはグリコーゲンの考えられる分解産物であるレブリン酸メチルエステルの形成が示唆された(図11C)。
【図12】ACC複合体を併せてコードする、シネコシスティス由来の増幅されたaccA、accB、accCおよびaccD遺伝子に相当するPCR産物。
【図13】すべてのacc遺伝子を、シネコシスティスゲノムのpsbA2座位への挿入用に設計された隣接領域とともに含む、プラスミド構築物。隣のゲルは、複数の形質転換体が所望のプラスミドを保有したことを例証している。
【図14】シネコシスティスのVIPP-1過剰発現突然変異体を作製するために用いた構築物のプラスミド地図。VIPP-1遺伝子のこのコピーを、psbA3プロモーターの下に挿入した。
【発明を実施するための形態】
【0036】
詳細な説明
上述した通り、二酸化炭素による環境の汚染を伴う進行中の問題がある。地球全体での化石燃料消費による二酸化炭素の発生は70〜80億トン/年と推定されている(Marland et al. 2006)。さらに、統計は、世界の化石燃料資源の消費が絶えず増加していることを示している。二酸化炭素汚染の量を減少させるため、および代替的なエネルギー源を使用するための方法が現在存在するものの、これらの方法は往々にして費用がかかり、非効率的である。
【0037】
本出願人の発明は、当技術分野における現在の不備を克服する。例えば、本発明は、その配列もしくは発現レベルの点で改変された、および/または欠失させられた、および/または外来性の供給源から導入された、関心対象の遺伝子を含むように改変された光合成独立栄養細菌、ならびにこれらの細菌を用いる対応する方法を開示し、ここで関心対象の遺伝子の配列もしくは発現レベルの改変、または導入もしくは欠失は、関心対象の遺伝子を変更するように改変されていない光合成独立栄養細菌における所望の産物の量に比して、細菌における所望の産物(例えば、脂質、カロテノイド、別のイソプレノイド、例えばイソプレンもしくはトコフェロールなど、別の二次代謝産物、糖質、シアノフィシン、またはタンパク質)の産生を増加させる。改変された光合成独立栄養細菌は、二酸化炭素を取り込んで固定する種類のものでありうる。ある局面において、関心対象の遺伝子の発現もしくは配列の変更、または関心対象の遺伝子の欠失もしくは導入は、関心対象の遺伝子を変更するように改変されていない光合成独立栄養細菌による二酸化炭素の取り込みおよび固定の量に比して、二酸化炭素の取り込みおよび固定を増加させることもできる。
【0038】
本発明の上記およびその他の局面を、以下の項でさらに詳細に説明する。
【0039】
A.光合成独立栄養細菌
光合成独立栄養細菌には、光をエネルギー源として用いて養分を合成することのできる細菌が含まれる。光合成独立栄養生物はまた、二酸化炭素をその主な炭素供給源として用いることもできる。本発明の文脈において用いられうる光合成独立栄養細菌の非限定的な例には、シアノバクテリア、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、ヘリオバクテリア、光合成アシドバクテリア、紅色硫黄細菌、および紅色非硫黄細菌が含まれる。特定の態様において、光合成独立栄養細菌はシアノバクテリアである。
【0040】
1.シアノバクテリア
一般に、シアノバクテリアは、地球上のいくつかの生育環境で見いだすことが可能である。例えば、この種の細菌は、海洋、淡水、岩肌および土壌で発見されている。典型的には、シアノバクテリアには、単細胞性、コロニー性および糸状の形態が含まれる。いくつかの糸状コロニーは、栄養細胞(vegetative cell)および光合成細胞へと分化する能力を示す。場合によっては、固定窒素が低濃度である時には、酵素ニトロゲナーゼ(窒素固定のために用いられる)を含む、厚い壁を持つヘテロシストを形成することができる。ヘテロシストを形成する種は、窒素固定のために分化しており、窒素ガスを、後にタンパク質および核酸へと変換されうるアンモニア(NH3)、亜硝酸イオン(NO2-)または硝酸イオン(NO3-)の形で固定することができる。シアノバクテリアは典型的には、グラム陰性として染色される厚い細胞壁を含む。
【0041】
シアノバクテリアの細胞構造、構成、機能および生化学の検討は多くの研究の主題となってきた。1960年代初期から1980年代までに至る研究によって、多くのシアノバクテリア種の一般的な細胞内構成に関する知見が得られ、集光性アンテナ、フィコビリソーム(Gantt and Conti 1969;Edwards and Gantt 1971;Bryant et al. 1979)、ポリリン酸体、シアノフィシン顆粒、ポリヒドロキシアルカノアート(PHA)顆粒(Jensen and Sicko 1971)、カルボキシソーム/多面小体、脂質体、チラコイド中心、DNA含有領域(Asato and Ginoza 1973;Roberts and Koths 1976)およびリボソーム(Ris and Singh 1961)といった、いくつかの細胞構造が同定されている。
【0042】
例えば、シアノバクテリアは、光合成に働く高度に組織化された内膜系を含む。シアノバクテリアにおける光合成は一般に、水を電子供与体として用い、酸素を副産物として生成する。シアノバクテリアは二酸化炭素を取り込んで、それを還元して、糖質、脂質および他の炭素含有副産物を形成することができる。ほとんどのシアノバクテリアにおいて、光合成機構は内膜系(すなわち、チラコイド膜)に組み込まれている。
【0043】
千を上回るさまざまなシアノバクテリア種が知られている。例えば、シアノバクテリアは、少なくとも以下の目、クロオコッカス目、ネンジュモ目、ユレモ目、プレウロカプサ目、原核緑色植物またはスティゴネマ目に分類することができる。クロオコッカス目のシアノバクテリア属の非限定的な例には、アファノカプサ属、アファノテーケ属、カマエシフォン属、クロオコッカス属、クロコスフェラ属、シアノバクテリア属、シアノビウム属、シアノテーケ属、ダクティロコッコプシス属、グロエオバクター属、グロエオカプサ属、グロエオテーケ属、エウハロテーケ属、ハロテーケ属、ヨハネスバプティスチア属、メリスモペディア属、ミクロキスティス属、ラブドデルマ属、シネココッカス属、シネコシスティス属およびテルモシネココッカス属が含まれる。ネンジュモ目のシアノバクテリア属の非限定的な例には、コレオデスミウム属、フレミエラ属、ミクロケーテ属、レキシア属、スピリレスティス属、トリポスリックス属、アナベナ属、アナベノプシス属、アファニゾメノン属、アウロシラ属、シアノスピラ属、シリンドロスペルモプシス属、シリンドロスペルムム属、ノデュラリア属、ネンジュモ属、リケリア属、カロスリックス属、グロエオトリキア属、およびスキトネマ属が含まれる。ユレモ目のシアノバクテリア属の非限定的な例には、アルスロスピラ属、ゲイトレリネマ属、ハロミクロネマ属、ハロスピルリナ属、カタグニメネ属、レプトリンビャ属、リムノスリックス属、リンビャ属、ミクロコレウス属、ユレモ属、フォルミディウム属、プランクトトリコイデス属、プランクトスリックス属、プレクトネマ属、リムノスリックス属、シュードアナベナ属、スキゾスリックス属、スピルリナ属、シンプロカ属、トリコデスミウム属、およびチコネマ属が含まれる。プレウロカプサ目のシアノバクテリア属の非限定的な例には、クロオコッキディオプシス属、デルモカルパ属、デルモカルペラ属、ミクソサルキナ属、プレウロカプサ属、スタニエリア属、およびキセノコッカス属が含まれる。原核緑色植物のシアノバクテリア属の非限定的な例には、プロクロロン属、プロクロロコッカス属およびプロクロロスリックス属が含まれる。スティゴネマ目のシアノバクテリア属の非限定的な例には、カプソシラ属、クロログロエオプシス属、フィッシェレラ属、ハパロシフォン属、マスチゴクラドプシス属、マスチゴクラドゥス属、ノストクホプシス属、スティゴネマ属、シンフィオネマ属、シンフィオネモプシス属、ウメザキア属、およびウェスティエロプシス属が含まれる。
【0044】
本明細書の全体を通じて特定されるシアノバクテリア種、および当業者に公知であるものは、本発明の文脈において有用であると企図される。あくまでも例示に過ぎないが、以下の項では、シアノバクテリアの2つの具体的な種:シネコシスティス菌種PCC 6803およびテルモシネココッカスエロンガタス菌種BP-1についての詳細な説明を行う。
【0045】
2.シネコシスティス菌種PCC 6803
シネコシスティス菌種PCC 6803は、非常に望ましい分子遺伝学的、生理学的および形態学的な特徴の独特な組み合わせを呈する、単細胞生物である。例えば、この種は、自然発生的に形質転換が起きうり、二重相同組換え(double-homologous recombination)によってそのゲノム中に外来性DNAを組み込み、多くの異なる生理的条件(例えば、光合成独立栄養性/混合栄養性/従属栄養性)の下で増殖し、かつ比較的小さい(直径1.5μm前後)(Van de Meene et al. 2005、これは参照により組み入れられる)。その全ゲノムの配列が決定されており(Kaneko et al. 1996)、他の細菌群に相同体のないオープンリーディングフレームが高いパーセンテージで見いだされている。シネコシスティス菌種PCC 6803は、American Type Culture Collection、アクセッション番号ATCC 27184(Rippka et al., 1979、これは参照により組み入れられる)から入手可能である。
【0046】
3.テルモシネココッカスエロンガタス菌種BP-1
テルモシネココッカスエロンガタス菌種BP-1は、温泉中に生育する単細胞の好熱性シアノバクテリアであり、至適増殖温度はおよそ55℃である(Nakamura et al. 2002、これは参照により組み入れられる)。この細菌の全ゲノムの配列が決定されている。そのゲノムは、2,593,857塩基対の環状染色体を含む。タンパク質をコードする可能性のある合計2,475個の遺伝子、一セットのrRNA遺伝子、42種のtRNA種に相当する42個のtRNA遺伝子、および低分子構造RNAに対する4個の遺伝子が予想されている。
【0047】
B.関心対象の遺伝子
本発明の好ましい局面において、関心対象の遺伝子には、配列もしくは発現レベルが変更された、欠失させられた、または導入された場合に、関心対象の遺伝子に関して改変されていない細菌における所望の産物の産生の量に比して、細菌における所望の産物(例えば、脂質、水素またはアルコールなどの別の燃料、カロテノイド、イソプレンまたはトコフェロールなどの別のイソプレノイド、糖質、シアノフィシンまたはタンパク質)の産生を増加させるものが含まれる。ある局面において、関心対象の遺伝子は、配列もしくは発現レベルが変更された、欠失させられた、または導入された場合に、関心対象の遺伝子に関して改変されていない細菌による二酸化炭素の取り込みおよび固定の量に比して、二酸化炭素の取り込みおよび固定を増加させることもできる。
【0048】
ある局面において、関心対象の遺伝子には、関心対象の遺伝子がその配列もしくは発現レベルの点で変更され、欠失させられ、または導入される場合に、その発現レベルの変更、欠失または導入が細菌細胞における脂質の産生を増加させることのできるものが含まれる。その発現レベルの変更、欠失または導入は、細菌細胞の脂質含有量を増加させることができる。そのような遺伝子の非限定的な例には、以下のものが含まれる:プラスチド中で小胞を誘導するタンパク質1(vesicle-inducing protein in plastids 1)(VIPP1)の遺伝子(sll0617)、類似のpspA型遺伝子slr1188、チラコイド膜の形成および組成のために重要なyidCおよびoxaIに対する類似性を有するslr1471遺伝子、アセチル-CoAカルボキシラーゼ遺伝子(sll0728、slr0435、sll0053およびsll0336)、脂肪酸生合成遺伝子fabD(slr2023)、fabH(slr1511)、fabF(sll1069およびslr1332)、fabG(slr0886)、fabZ(sll1605)およびfabI(slr1051)、フィブリルまたはチラコイド膜に随伴する疎水性実体を覆うタンパク質をコードするプラストグロブリン/フィブリリン遺伝子(slr1024およびsll1568)、1-アシルグリセロール-3-リン酸アシルトランスフェラーゼをコードするsll1848、またはslr2060などのリン脂質-グリセロールアシルトランスフェラーゼ遺伝子。膜の脂質含有量を、膜内のタンパク質を認識するプロテアーゼの過剰発現(ftsH遺伝子sll1463、slr0228、slr1390およびslr1604、clpB遺伝子slr0156およびslr1641、ならびにclpP遺伝子slr0542、sll0534およびslr0165を含む)によって、および脂質産生のために用いられる固定炭素の量を増加させるための代謝エンジニアリング(例えば、PEPカルボキシラーゼ遺伝子であるsll0920、およびクエン酸シンターゼ遺伝子であるsll0401の下方制御、ならびに/または、グリコーゲン生合成に関与するslr1176、ポリヒドロキシ酪酸の形成および代謝に関与するslr1829/1830、ならびにシアノフィシンの形成および代謝に関与するslr2001/2002を含む、貯蔵化合物の合成に関与する遺伝子の欠失による)によって、増大させることもできる。以上に特定した名称はシネコシスティスに関するものであるが、他のシアノバクテリアにも相同体が存在しており、それらは本発明の文脈において用いられるものと企図されている。
【0049】
他の局面において、関心対象の遺伝子は、細菌細胞におけるカロテノイドまたは他のイソプレノイドのレベルの変更を呈するように改変してもよい。改変により、細菌細胞のカロテノイドまたは他のイソプレノイドの含有量を増加させることができる。カロテノイドの非限定的な例には、β-カロテン、ゼアキサンチン、ミキソキサントフィル、ミキソール、エキネノン、およびそれらの生合成中間体が含まれる。他のイソプレノイドの非限定的な例には、イソプレン、トコフェロール、およびそれらの生合成中間体が含まれる。そのような遺伝子の非限定的な例には、以下のものが含まれる:カロテノイド前駆体であるC5化合物IPPおよびDMAPPを発現するかその産生を調節する遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のslr0348);イソペンテニル二リン酸イソメラーゼを発現するかその産生を調節する遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のsll1556);crtP遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のslr1254);crtQ遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のslr0940);crtD遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のslr1293);crtLdiox遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のsll0254);およびcrtR遺伝子(例えば、シネコシスティス菌種PCC 6803由来のsll1468)。以上に特定した名称はシネコシスティスに関するものであるが、他のシアノバクテリアにも相同体が存在しており、それらは本発明の文脈において用いられるものと企図されている。また、植物などの他の生物由来の遺伝子(例えば、イソプレンシンターゼ)も、本発明との関連で用いられるものとして企図される。
【0050】
追加的な局面において、関心対象の遺伝子の配列もしくは発現の変更、および/または遺伝子の欠失もしくは導入は、細菌細胞における糖質の産生およびレベルを大きく改変することが可能である。遺伝子の発現の変更および/または欠失もしくは導入は、細菌細胞の糖質含有量を改変することが可能である。そのような遺伝子には、過剰発現させた場合に、細菌細胞の糖質(例えば、単糖ならびに単糖リン酸(例えば、グルコース、フルクトース、キシルロース-5-リン酸、リブロース-5-リン酸、リボース-5-リン酸、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、セドヘプツロース-7-リン酸、エリトロース-4-リン酸、セドヘプツロース-二リン酸およびフルクトース-二リン酸))、二糖(例えば、スクロース)、オリゴ糖(例えば、フルクト-オリゴ糖およびマンナン-オリゴ糖)ならびに多糖(例えば、グリコーゲンおよびその誘導体))の産生、または細菌細胞の糖質含有量を改変するものが含まれる。そのような遺伝子の非限定的な例には、以下のものが含まれる:グリコーゲンシンセターゼを発現する遺伝子;およびグリコーゲン分枝酵素を発現する遺伝子)。当業者は、糖質がグリコーゲンとして貯蔵されるよりもむしろポリ乳酸(PLA)、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸(PHB)、ポリヒドロキシアルカノアート(PHA)または脂質に変換されるような様式で、グリコーゲンシンセターゼおよびグリコーゲン分枝酵素の遺伝子を突然変異させること(例えば、挿入または欠失)ができることを理解すると考えられる。
【0051】
本出願に記載された遺伝子およびコードされるタンパク質は、当業者は認識しているであろうが、GenBankおよびCyanoBaseのデータベース中で入手可能であり、それらにはwww.ncbi.nlm.nih.gov/sites/entrezおよびhttp://bacteria.kazusa.or.jp/cyanobase/のウェブサイトを介して利用できる。本明細書の全体を通して、シネコシスティス菌種PCC 6803(菌株:PCC 6803)という生物のさまざまな遺伝子、例えばsll0617が記載される。この命名法、例えば「sll0617」は、各々の遺伝子に関する代替的な別名または座位タグのことを指し、上記のデータベースを介して完全な遺伝子配列を入手するために用いることができる。例えば、「sll0617」という用語を「シネコシスティス菌種PCC 6803」という用語を組み合わせて、上記のNCBIウェブサイトを介して利用できるGenBankデータベースに問い合わせを行い、遺伝子情報および全遺伝子配列へのリンクを得ることができる。そのオープンリーディングフレームを含む、完全に注釈づけがなされたシネコシスティスのゲノムを、上記のCyanoBaseウェブサイトを介して利用できる。このアプローチは当業者には直ちに認められると考えられる。
【0052】
C.関心対象の遺伝子の発現の調整
本発明の態様は、本発明の光合成独立栄養細菌の内部の特定の関心対象の遺伝子の発現レベルを調整するための方法および組成物を含む。関心対象の遺伝子を、その配列または発現レベルの点で改変し、かつ/または欠失させ、かつ/または外来性の供給源から導入してもよい。このことにより、対応する所望の遺伝子産物(例えば、タンパク質または酵素)の調整された産生、ならびに/またはそのような遺伝子産物に関係する経路の調整(例えば、増加した量の対応する遺伝子産物および/または遺伝子産物と関係する代謝経路の構成要素を得るために、関心対象の遺伝子を増加または過剰発現させること)を導くことが可能である。本発明の態様は、1つまたは複数の遺伝子に導入された複数の変更を含んでもよく、ここで複数の変更は共同で、所望の産物の産生を増加させる。
【0053】
1.組換え発現系
ある態様において、遺伝子産物および/または遺伝子産物と関係する代謝経路の構成要素は、組換え発現系(例えば、本発明の組換え光合成独立栄養細菌)を用いて合成される。一般に、このことは、所望の遺伝子産物(例えば、脂質、糖質、カロテノイドまたはシアノフィシンの形成を導くもの)をコードするDNAを適切な調節領域の制御下に置くこと、本発明の光合成独立栄養細菌(すなわち、宿主)においてタンパク質を発現させること、および必要に応じて発現された遺伝子産物または遺伝子産物と関係する経路の産物を単離することを伴う。これにより、遺伝子によってコードされるタンパク質を増加した量で発現させることが可能になる。これは、宿主内の遺伝子のコピー数を増加させること、宿主内のプロモーター領域の結合強度を高めること、またはプロモーターの置き換えによって実現することができる。遺伝子の変更のためのその他の機序には、発現低下、欠失、異なる生物からの遺伝子の挿入、またはその配列もしくは調節タンパク質の変化が含まれる。
【0054】
典型的には、遺伝子産物に関するDNA配列を、プロモーターを含むベクター(例えば、プラスミド)中にクローニングまたはサブクローニングし、それを続いて細菌に形質転換して適切なDNA領域の組み込みを導き、細菌が遺伝子産物を発現するようにさせる。調節配列を本発明の細菌のゲノム中に挿入することもできる(例えば、関心対象の遺伝子産物をコードする遺伝子と機能的に結びついた異種調節配列)。あるいは、天然の調節過程を刺激することによってタンパク質発現を増加させる特定の条件または特定の物質に宿主を曝露することによって、内因性プロモーターまたは調節機構を刺激してもよい。
【0055】
シアノバクテリアに対する遺伝子/発現挿入のために用いられることの多い方法は、二重相同組換えによってゲノム中に構築物を組み込むことを含む(例えば、Li et al. (1993);Williams (1998);Grigorieva et al. (1982)を参照)。これらは参照により組み入れられる)。ある態様において、二重相同組換えは、シアノバクテリアのゲノムと配列同一性のある2つの領域を有する構築物を用いて遺伝子の中断または欠失を導入するために用いることができる。
【0056】
a.核酸
本明細書に提供された情報を用いることで、本発明の光合成独立栄養細菌によって過剰発現される核酸を、当業者に公知の標準的な方法を用いて調製することができる。例えば、タンパク質をコードする核酸をクローニングするか、またはポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などのインビトロでの方法によって増幅することができる。さまざまなクローニング方法論およびインビトロ増幅方法論が当業者に周知である。当業者をインビトロ増幅方法へと導くのに十分な手法の例については、Berger、SambrookおよびAusubel、ならびに米国特許第4,683,202号;Innis (1990);The Journal of NIH Research (1991);Kwoh et al. (1989) ;Guatelli et al., (1990);Lomell et al., (1989);Landegren et al., (1988);Van Brunt (1990);Wu and Wallace, (1989);およびBarringer et al. (1990)に記載がある。
【0057】
本発明の所望の産物をコードする核酸を、クローニングおよび適切な配列の制限により、または、Narangら(1979)のホスホトリエステル法;Brownら(1979)のホスホジエステル法;Beaucageら(1981)のジエチルホスホルアミダイト法;および米国特許第4,458,066号の固体支持体法といった方法による直接的な化学合成によって調製することもできる。
【0058】
核酸は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などのDNA増幅法を用いてクローニングすることが可能である。すなわち、例えば、1つの制限部位を含むセンスプライマーと別の制限部位を含むアンチセンスプライマーを用いて、核酸配列または部分配列をPCR増幅する。これにより、所望の配列または部分配列をコードし、かつ末端に制限部位を有する核酸が生じると考えられる。この核酸をその後、第2の分子をコードしかつ適切な対応する制限部位を有する核酸を含むベクター中に、容易に連結させることができる。適したPCRプライマーは配列情報を用いて当業者により決定可能であり、代表的なプライマーは本明細書に提示されている。適切な制限部位を、特定部位の突然変異誘発により、所望のタンパク質またはタンパク質部分配列をコードする核酸に付加することもできる。標準的な方法に従って、所望の配列または部分配列を含むプラスミドを適切な制限エンドヌクレアーゼによって切断し、その後第2の分子をコードするベクター中に連結させる。
【0059】
化学合成は、典型的には一本鎖核酸を生じさせる。これを、相補配列とのハイブリダイゼーションによって、または一本鎖をテンプレートとして用いるDNAポリメラーゼによる重合化によって、二本鎖DNAに変換してもよい。当業者は、DNAの化学合成には限界がある場合があり、長い配列は短い配列の連結によって入手してもよいことを認識していると考えられる。あるいは、部分配列をクローニングし、適切な部分配列を適切な制限酵素を用いて切断してもよい。その後、断片を連結させて所望のDNA配列を作製してもよい。
【0060】
b.ベクター
「ベクター」という用語は、本発明の光合成独立栄養細菌に導入し、そこでゲノム中に組み込ませ、複製させ、および/または過剰発現させるために、核酸配列をその中に挿入することができる担体核酸分子を指して用いられる。核酸配列は「外因性」であってもよく、これはベクターが導入される細菌にとってそれが外因性であること、または配列は細菌における配列と相同であるが、その配列が通常は認められない細菌細胞の核酸内部の位置にあることを意味する。ベクターには、プラスミド、コスミド、ウイルス(バクテリオファージ、動物ウイルスおよび植物ウイルス)ならびに人工染色体(例えば、YAC)が含まれる。当業者は、標準的な組換え手法を通じてベクターを構築する能力を十分に備えていると考えられる(例えば、Maniatis et al., 1989およびAusubel et al., 1994を参照。いずれも参照により本明細書に組み入れられる)。
【0061】
「発現ベクター」という用語は、転写されうるRNAをコードする核酸を含む、任意の種類の遺伝子の構築物のことを指す。場合によっては、RNA分子はその後タンパク質、ポリペプチドまたはペプチドへと翻訳される。また別の場合には、これらの配列は翻訳されず、これは例えば、アンチセンス分子またはリボザイムの作製の場合である。発現ベクターは種々の「制御配列」を含むことができ、これは特定の宿主細胞中で機能的に結合したコード配列の転写のために、およびおそらくは翻訳のためにも必要な核酸配列のことを指す。転写および翻訳を司る制御配列に加えて、ベクターおよび発現ベクターが、他の機能を果たす核酸配列を含んでもよく、それについては以下に述べる。
【0062】
上述の通り、発現させようとする所望の産物をコードする核酸を、各細菌細胞にとって適切な発現制御配列と機能的に連結させることができる。これには、本明細書の全体を通して記載されたもののような調節配列、リボソーム結合部位および転写終結シグナルが含まれうる。
【0063】
i.調節配列
本発明の組換え光合成独立栄養細菌の設計は、形質させる細菌の選択および/または発現させようとする特定のタンパク質といった要因に依存する場合がある。適切な調節エレメントの使用は、本発明の種々の宿主細胞におけるポリペプチドの変更されたレベルでの発現を可能にすることができる。調節配列は当業者に公知である(例えば、Goeddel (1990);Berger and Kimmel, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology 152 Academic Press, Inc., San Diego, Calif.;Sambrook et al. (1989)を参照)。
【0064】
例えば、所望の産物を、高レベルでの連続的発現のために構成的プロモーターと機能的に連結させることができる。あるいは、誘導性および/または組織特異的プロモーターを利用することもできる。本発明の文脈において用いることのできる、そのようなプロモーターの非限定的な例には、psbDII、psbA3およびpsbA2プロモーターといった構成的プロモーターが含まれる。例えば、Lagardeら(2000)は、カロテノイド生合成に関与する遺伝子を過剰発現させるためのシネコシスティス菌種PCC 6803株におけるpsbA2プロモーターの使用について詳細な記載を行っており、Heら(1999)には、psbA3プロモーターの使用についての詳細な記載がある。これらの参考文献における情報は参照により組み入れられる。誘導性プロモーターの非限定的な例には、nirA、isiAB、petE、nrsBACD、nrsABおよびndhF3プロモーターが含まれる(Aichi et al. (2001);Vinnemeier et al. (1998);Zhang et al (1994);Lopez-Maury et al. (2002);McGinn et al. (2003)を参照。これらはすべて参照により組み入れられる)。
【0065】
「プロモーター」とは、転写の開始および速度を制御する核酸配列の一領域である制御配列である。これには、RNAポリメラーゼおよび他の転写因子などの調節性のタンパク質および分子が結合して、核酸配列の特異的な転写を開始させることのできる、遺伝因子が含まれうる。「機能的に配置された」「機能的に連結された」「制御下にある」および「転写制御下にある」という語句は、プロモーターが、核酸配列に対して、その配列の転写開始および/または発現を制御する上で正しい機能的な位置および/または向きにあることを意味する。
【0066】
プロモーターは一般に、RNA合成のための開始部位の位置を特定する働きをする配列を含む。別のプロモーターエレメントは転写開始の頻度を調節する。典型的には、これらは開始部位の最大で100bp上流の領域に位置するが、多くのプロモーターは開始部位の下流にも機能性エレメントを含むことが示されている。コード配列をプロモーターの「制御下」に置くためには、転写リーディングフレームの転写開始部位の5'末端を、選択したプロモーターの「下流」(すなわち、3'側)に配置する。この「上流」プロモーターがDNAの転写を賦活し、コードされたRNAの発現を促す。
【0067】
プロモーターエレメント間の間隔は自由度が高いことが多く、このためプロモーター機能は、エレメントが相互に移動するかまたは順序が逆になった場合でも保たれる。プロモーターに応じて、個々のエレメントは転写活性化に関して協同的に作用することも独立して作用することもありうるように思われる。プロモーターは、核酸配列の転写活性化に関与するシス作用性調節配列のことを指す「エンハンサー」とともに用いても、用いなくてもよい。
【0068】
プロモーターは、コードセグメントおよび/またはエクソンの上流に位置する5'非コード配列を単離することによって入手しうるような、核酸配列に自然下で付随するものでもよい。このようなプロモーターは「内因性」と称することができる。同様に、エンハンサーが核酸配列に自然下で付随し、その配列の下流または上流に位置するものでもよい。あるいは、コード核酸セグメントを、組換えプロモーター、または天然の環境にある核酸配列には通常付随していないプロモーターのことを指す異種プロモーターの制御下に置くことにより、ある種の利点が得られると考えられる。同じく、組換え型のまたは異種性のエンハンサー、オペレーターまたは他の調節配列とは、天然の環境にある核酸配列には通常付随しないエンハンサー、オペレーターまたは他の調節配列のことを指す。そのようなプロモーター、エンハンサー、オペレーターまたは他の調節配列には、他の遺伝子のプロモーター、エンハンサー、オペレーターまたは他の調節配列、および任意の他のウイルスまたは原核細胞もしくは真核細胞から単離されたプロモーター、エンハンサー、オペレーターまたは他の調節配列、および「天然に存在」しないプロモーター、エンハンサー、オペレーターまたは他の調節配列、すなわち異なる転写調節領域の異なるエレメントおよび/または発現を変化させる突然変異を含むものが含まれてもよい。
【0069】
当然ながら、本発明の光合成独立栄養細菌におけるDNAセグメントの発現を有効に導くプロモーター、エンハンサー、オペレーターまたは他の調節配列を用いることが重要と考えられる。分子生物学の当業者は一般に、タンパク質発現のためのプロモーター、エンハンサー、オペレーターまたは他の調節配列の使用について把握している(例えば、Sambrookら 2001を参照)。用いられるプロモーターは、構成的なもの、条件特異的なもの、誘導性のもの、および/または、例えば所望の産物の大量生産に有利であるなど、導入されたDNAセグメントの変更された発現を導く適切な条件下で有用なものであってよい。プロモーターは異種性でも内因性でもよい。
【0070】
ii.開始シグナル
コード配列の効率的な翻訳のために特定の開始シグナルが必要な可能性がある。これらのシグナルには、ATGもしくはGTG開始コドン、およびリボソーム結合部位などの隣接配列が含まれる。ATGまたはGTG開始コドンおよびリボソーム結合部位などの隣接配列を含む外因性翻訳制御シグナルを与えることが必要な場合もある。当業者は容易にこれを判断して必要なシグナルを用意することができると考えられる。遺伝子の全コード領域を確実に翻訳させるためには、開始コドンが所望のコード配列のリーディングフレームと「インフレーム」になければならないことは周知である。外因性翻訳制御シグナルおよび開始コドンは天然のものでも合成したものでもありうる。発現の効率を、適切な転写エンハンサーエレメントを含めることによって高めてもよい。
【0071】
iii.マルチクローニング部位
ベクターはマルチクローニング部位(MCS)を含むことができる。これは複数の制限酵素部位を含む核酸領域であり、その任意のものを標準的な組換え技術と併せて用いることでベクターを消化するために使用することができる(例えば、Carbonelli et al., 1999, Levenson et al., 1998およびCocea, 1997を参照。これらは参照により本明細書に組み入れられる)。「制限酵素消化」とは、核酸分子の特定の部位のみに働く酵素による核酸分子の触媒性切断を指す。これらの制限酵素の多くは市販されている。そのような酵素の使用は当業者に広く理解されている。ベクターは、外因性配列をベクターと連結させることを可能にするために、MCS内部に切れ目を入れる制限酵素を用いた線状化または断片化を受けることが多い。「連結」とは、2つの核酸断片間にホスホジエステル結合を形成させる過程を指し、この2つは互いに連続していても連続していなくてもよい。制限酵素および連結反応を伴う手法は、組換え技術の当業者には周知である。
【0072】
iv.スプライシング部位
転写された真核生物RNA分子の大部分はRNAスプライシングを受けて、イントロンが一次転写物から除去されると考えられる。真核生物配列を含むベクターは一般に、タンパク質発現のための転写物のcDNA(mRNAのコピー)を含むと考えられる(例えば、Chandler et al., 1997を参照。これは参照により本明細書に組み入れられる)。
【0073】
v.終結シグナル
本発明のベクターまたは構築物は、少なくとも1つの終結シグナルを含みうる。「終結シグナル」または「ターミネーター」は、RNAポリメラーゼによるRNA転写物の特異的終結に関与するDNA配列で構成される。このため、ある態様においては、RNA転写物の産生を終了させる終結シグナルを企図している。望ましいメッセージレベルを達成するために、ターミネーターをインビボで用いることができる。
【0074】
本発明における使用を企図しているターミネーターには、例えば、遺伝子の終結配列、例えばrho依存性ターミネーターおよびrho非依存性ターミネーターなどを非限定的に含む、本明細書に記載されるかまたは当業者に公知である、任意の公知の転写ターミネーターが含まれる。ある態様において、終結シグナルは、配列短縮などのために転写可能な配列または翻訳可能な配列を欠いたものでもよい。
【0075】
vi.複製起点
ベクターを本発明の細菌細胞内で増やすために、ベクターに、複製がそこで開始される特異的な核酸配列である1つまたは複数の複製起点部位(しばしば「ori」と呼ばれる)を含めることができる。
【0076】
vii.選択マーカーおよびスクリーニング用マーカー
本発明のある態様において、本発明の核酸構築物を含む細菌細胞は、発現ベクターにマーカーを含めることにより、インビトロまたはインビボで同定することができる。そのようなマーカーは、発現ベクターを含む細胞の容易な同定を可能にする識別可能な変化を細胞に付与すると考えられる。一般に、選択マーカーとは、選択を可能にする性質を付与するもののことである。陽性選択マーカーとはマーカーの存在によってその選択が可能になるものであり、一方、陰性選択マーカーとはその存在によってその選択が妨げられるもののことである。陽性選択マーカーの一例は薬剤耐性マーカーである。
【0077】
通常、薬剤選択マーカーを含めることは形質転換体のクローニングおよび同定に役立ち、例えば、クロラムフェニコール、エリスロマイシン、ゲンタマイシン(gentimycin)、スペクチノマイシン、ストレプトマイシン、ゼオシンおよびカナマイシンに対する耐性を付与する遺伝子は、有用な選択マーカーである。栄養要求体が、それが欠いている遺伝子によって機能的に補完される補完アプローチも用いられる。形質転換体を条件の実行に基づいて識別することを可能にする表現型を付与するマーカーに加えて、比色蛍光分析に基礎を置くGFPおよびYFPなどのスクリーニング用マーカーを含む、別の種類のマーカーも企図している。さらに、ルシフェラーゼを用いるマーカーをレポーター遺伝子として利用することもできる。当業者は、免疫マーカーを、おそらくはFACS分析と組み合わせて用いるやり方も把握していると考えられる。用いられるマーカーは、それが遺伝子産物をコードする核酸と同時に発現されうる限り、重要ではないと考えられる。選択マーカーおよびスクリーニング用マーカーのそのほかの例は当業者に周知である。
【0078】
viii.ベクターの非限定的な例
ある態様においては、本発明の光合成独立栄養細菌細胞の形質転換に用いるためのプラスミドベクターを企図している。一般に自殺(suicide)プラスミドベクターが用いられ、この場合、関心対象の遺伝子または構築物を保有する所望のプラスミド配列が光合成独立栄養細菌宿主内では複製せず、二重相同組換えによって宿主ゲノム中に組み込まれるように強制される。このプラスミドベクターが複製するのは大腸菌(Escherichia coli)中である。このベクターは通常、大腸菌において認識される複製部位、ならびに大腸菌および光合成独立栄養細菌細胞の両方の形質転換細胞における表現型選択を提供することを可能にする標識配列を保有する。
【0079】
加えて、宿主微生物との適合性があるレプリコンおよび制御配列を含むファージベクターを、形質転換ベクターとして、これらの宿主とともに用いることもできる。例えば、ファージラムダGEM(商標)-11を組換えファージベクターの作製に利用し、それを宿主細胞の形質転換に用いることができる。
【0080】
さらなる有用なプラスミドベクターには、タンパク質過剰発現に適したpETベクター、ならびに後の精製および分離または切断のためのHisタグおよびStrepタグを含むアフィニティータグを有する翻訳融合物を含むベクターが含まれる。他の適した融合タンパク質には、β-ガラクトシダーゼ、ユビキチンなどを有するものがある。
【0081】
c.光合成独立栄養細菌への核酸の導入
シネコシスティス菌種PCC 6803は自然に形質転換可能であり、効率的なDNA取り込みおよびゲノム中への組み込みを可能にするための処理を必要としないが、本発明の光合成独立栄養細菌の形質転換を目的とする核酸送達のための適した方法には、核酸(例えば、DNA)をそのような細菌に導入することができる、本明細書に記載したような、または当業者に公知であるような、事実上あらゆる方法が含まれうる。このような方法には、自発的な形質転換による、または標準的な形質転換方法による(Sambrook et al. 2001);エクスビボでのトランスフェクションによる(Wilson et al., 1989, Nabel et al, 1989);マイクロインジェクション(Harland and Weintraub, 1985;米国特許第5,789,215号、これは参照により本明細書に組み入れられる)を含む注入による(米国特許第5,994,624号、第5,981,274号、第5,945,100号、第5,780,448号、第5,736,524号、第5,702,932号、第5,656,610号、第5,589,466号および第5,580,859号、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる);エレクトロポレーションによる(米国特許第5,384,253号、これは参照により本明細書に組み入れられる;Tur-Kaspa et al., 1986;Potter et al., 1984);リン酸カルシウム沈降による(Graham and Van Der Eb, 1973;Chen and Okayama, 1987;Rippe et al., 1990);DEAE-デキストランを用いた後にポリエチレングリコールを用いることによる(Gopal, 1985);直接的な超音波ローディングによる(Fechheimer et al., 1987);リポソームを介したトランスフェクション(Nicolau and Sene, 1982;Fraley et al., 1979;Nicolau et al., 1987;Wong et al., 1980;Kaneda et al., 1989;Kato et al., 1991)および受容体を介したトランスフェクションによる(Wu and Wu, 1987;Wu and Wu, 1988);微粒子銃法による(PCT出願国際公開公報第94/09699号および同第95/06128号;米国特許第5,610,042号;同第5,322,783号、同第5,563,055号、同第5,550,318号、同第5,538,877号および同第5,538,880号、これらはそれぞれ参照により本明細書に組み入れられる)およびそのような方法の任意の組み合わせによる、DNAの直接的送達が含まれるが、それらに限定されるわけではない。これらのような手法の適用を通じて、本発明の光合成独立栄養細菌を安定的に形質転換させることができる。
【0082】
2.突然変異誘発
突然変異誘発は、遺伝子発現の精査および操作のための強力な手段でありうる。これはまた、遺伝子のフィードバック調節を軽減するため、および/または競合経路を排除もしくは下方制御するためなどに用いることもできる。用いられる場合、突然変異誘発は、さまざまな標準的な突然変異誘発手順によって達成されると考えられる。突然変異は、生物の数量または構造に変化が起こる過程である。突然変異は、単一の遺伝子、遺伝子の塊または染色体全体のヌクレオチド配列の改変を伴いうる。単一の遺伝子における変化は、DNA配列内部の単一ヌクレオチド塩基の除去、付加または置換を伴う点突然変異の帰結であってもよく、またはそれらは多数のヌクレオチドの挿入または欠失を伴う変化の帰結であってもよい。
【0083】
突然変異は、特定のターゲティング方法の使用により部位特異的でありうる。また、突然変異は、DNA複製の忠実度の誤り、またはゲノム内部での転移性遺伝因子(トランスポゾン)の移動といった事象の結果として自然発生的に起こりうる。それらはまた、化学的または物理的な突然変異原に対する曝露後にも誘導される。そのような突然変異誘導因子には、電離放射線、紫外光、ならびに多種多様な化学物質、例えばアルキル化剤および多環芳香族炭化水素などが含まれ、それらはすべて直接的または間接的に核酸と相互作用することができる(一般に何らかの代謝的生体内変換の後に)。そのような環境因子によって誘導されたDNA傷害は、影響を受けたDNAが複製または修復された場合に、塩基配列の改変を招くことがあり、それ故に突然変異を招くことがある。
【0084】
a.特定部位の突然変異誘発
構造により導かれる(structure-guided)部位特異的突然変異誘発は、遺伝子発現の精査および操作のための強力な手段である。この手法は、選択したDNAへの1つまたは複数のヌクレオチド配列の変化の導入による配列変異体の調製および検査をもたらす。
【0085】
部位特異的突然変異誘発には、所望の突然変異のDNA配列をコードする特異的オリゴヌクレオチド配列、ならびに十分な数の隣接した改変されていないヌクレオチドを用いる。このようにして、掛け渡された欠失接合部の両側で安定な二重鎖を形成するために十分なサイズおよび複雑さを備えたプライマー配列が得られる。約17〜25ヌクレオチド長のプライマーが好ましく、この場合は配列の接合部の両側の約5〜10残基が変更される。
【0086】
この手法は典型的には、一本鎖および二本鎖の双方の形態で存在するバクテリオファージベクターを用いる。特定部位の突然変異誘発に有用なベクターには、M13ファージなどのベクターが含まれる。これらのファージベクターは市販されており、それらの使用は当業者に一般に周知である。二本鎖プラスミドも特定部位の突然変異誘発に慣例的に用いられており、この場合は関心対象の遺伝子をファージからプラスミドに移行させる段階が不要となる。
【0087】
一般的にはまず、所望のタンパク質または遺伝因子をコードするDNA配列をその配列内に含む、一本鎖ベクターを入手するか、二本鎖ベクターの2つの鎖を融解させる。その後、合成的に調製した、所望の突然変異配列を保有するオリゴヌクレオチドプライマーを、ハイブリダイゼーション条件を選択する際のミスマッチの度合いを考慮に入れた上で、一本鎖DNA調製物とアニーリングさせる。突然変異を保有する鎖の合成を完了させるために、ハイブリダイズした産物を大腸菌ポリメラーゼI(クレノウ断片)などのDNA重合酵素に曝す。このようにして、一方の鎖が突然変異していない元の配列をコードし、第2の鎖が所望の突然変異を保有している、ヘテロ二重鎖が形成される。その後、このヘテロ二重鎖ベクターを用いて、本発明の光合成独立栄養細菌細胞を形質転換させる。突然変異した配列配置を保有する組換えベクターを含むクローンを選択することができる。
【0088】
タンパク質の所与の残基の機能的意義および情報量に関する包括的情報は、19種のアミノ酸置換のすべてを調べる飽和突然変異誘発によって最大限得ることができる。このアプローチの短所は、多残基飽和突然変異誘発(コンビナトリアル突然変異誘発)の統合的管理が非常に困難なことである(Warren et al., 1996, 1996;Zeng et al., 1996;Burton and Barbas, 1994;Yelton et al., 1995;1995;Hilton et al., 1996)。数百もの、おそらくは数千もの部位特異的突然変異体を試験しなければならない。しかし、改良された手法は突然変異体の作製および迅速スクリーニングをはるかにより簡単明瞭なものとしており、これは所望の特性を有する突然変異体のストリンジェントな機能的選択方式が得られる場合に特にそうである。「ウォークスルー(walk-through)」突然変異誘発の説明については、米国特許第5,798,208号および第5,830,650号も参照のこと。
【0089】
特定部位の突然変異誘発の他の方法は、米国特許第5,220,007号;同第5,284,760号;同第5,354,670号;同第5,366,878号;同第5,389,514号;同第5,635,377号;および同第5,789,166号に開示されている。
【0090】
b.ランダム突然変異誘発
i.挿入突然変異誘発
挿入突然変異誘発は、公知のDNA断片の挿入を介した遺伝子の不活性化に基づく。これは何らかの種類のDNA断片の挿入を伴うため、生じる突然変異は概して、機能獲得型の突然変異よりはむしろ機能喪失型の突然変異である。しかし、機能獲得型突然変異を生じる挿入の例もいくつかある(Oppenheimer et al. 1991)。挿入突然変異誘発は、細菌およびショウジョウバエにおいて非常に成功しており(Cooley et al., 1988)、トウモロコシ(Schmidt et al., 1987);アラビドプシス(Marks et al., 1991;Koncz et al., 1990);およびキンギョソウ属(Antirrhinum)(Sommer et al., 1990)などの植物における強力な手段となっている。遺伝子操作された細菌の作製のために遺伝子ノックアウトを作ることができる。遺伝子を「ノックアウトすること」は、コードされる遺伝子産物の産生を減少させることまたは消失させることを含むと広義に解釈されるべきである。したがって、遺伝子ノックアウトは、例えば、特定部位の突然変異、挿入突然変異誘発、フレームシフト突然変異、または遺伝子もしくはその遺伝子の発現を制御する調節領域の全体もしくは一部の欠失によって作ることが可能である。
【0091】
転移性遺伝因子とは、細胞のゲノム中の1つの場所から別の場所へと移動(転移)することができるDNA配列である。最初に確認された転移因子は、トウモロコシ(Zea mays)の活性化/解離因子であった。それ以来、それらは原核生物および真核生物の双方の広範囲にわたる生物で同定されている。
【0092】
ゲノム中の転移因子は、標的部位重複(target site duplication)と呼ばれる、転移時に重複化された短いDNA配列の直列反復配列(direct repeat)に挟まれていることを特徴とする。事実上すべての転移因子が、その種類および転移機序にかかわらず、そのような重複をその挿入部位に作り出す。重複する塩基の数が一定の場合もあれば、各々の転移事象で異なる場合もある。ほとんどの転移因子は逆方向反復配列をその末端に有する。これらの末端の逆方向反復配列は、数塩基長から数百塩基長までの任意のものであり、多くの場合にはそれらが転移のために必要なことが知られている。
【0093】
原核生物の転移因子は大腸菌およびグラム陰性菌で最も研究されているが、グラム陽性菌にも存在する。それらは一般に、約2kbp長未満である場合には挿入配列と呼ばれ、それよりも長い場合にはトランスポゾンと呼ばれる。転移によって複製するμ(mu)およびD108などのバクテリオファージは、第3の種類の転移因子を構成する。各々の種類の因子は、それ自体の転移のために必要な少なくとも1つのポリペプチドとしてトランスポザーゼをコードする。トランスポゾンは、転移と関係のない機能をコードする遺伝子、例えば抗生物質耐性遺伝子をさらに含むことが多い。
【0094】
トランスポゾンはその構造に従って2つのクラスに分類することができる。第1に、複合(compound)トランスポゾンまたは混成(composite)トランスポゾンは、通常は逆向きになっている挿入配列エレメントのコピーを各末端に有する。これらのトランスポゾンは、その末端ISエレメントの1つによってコードされるトランスポザーゼを必要とする。第2のクラスのトランスポゾンは約30塩基対の末端の反復配列を有し、ISエレメント由来の配列は含まない。
【0095】
転移は通常、保存的であるか複製的であるかのいずれかであるが、場合によってはその両方でありうる。複製的転移では、転移性因子の1つのコピーは供与部位に存続し、別のものが標的部位に挿入される。保存的転移では、転移性因子が1つの部位から切り出されて別の部位に挿入される。
【0096】
RNA中間体を介して転移するエレメントはしばしばレトロトランスポゾンと呼ばれ、それらの最も特徴的な特性は、それらが逆転写酵素活性を有すると考えられているポリペプチドをコードする点である。レトロトランスポゾンには2つの種類がある。あるものは、それらが長い直列反復配列である長末端反復配列(LTR)を有するという点で、レトロウイルスの組み込まれたプロウイルスDNAに類似している。これらのレトロトランスポゾンとプロウイルスとの間の類似性は、そのコード能力にも及ぶ。それらはレトロウイルスのgag遺伝子およびpol遺伝子と関連のある配列を含んでおり、このことはそれらがレトロウイルスの生活環と関連のある機序で転移することを示唆する。第2の種類のレトロトランスポゾンは末端の反復配列を有さない。それらもgag様およびpol様のポリペプチドをコードし、RNA中間体の逆転写によって転移するが、これを行うのはそれまたはレトロウイルス様エレメントとは異なる機序によってである。逆転写による転移は複製的な過程であり、供与部位からのエレメントの切り出しを必要としない。
【0097】
転移因子は自然発生的な突然変異の重要な原因であり、遺伝子およびゲノムが進化する様式に影響を及ぼしてきた。それらは、遺伝子をその内部への挿入によって不活性化させることができ、そのトランスポザーゼの活性を通じて直接的に、またはゲノムのあちこちに散在するエレメントのコピー間の組換えの結果として間接的に、全体的な染色体再配列を引き起こすこともできる。転移因子は切り出しを非常に不正確に行うことが多く、付加または欠失される塩基の数が3の倍数であるならば、変更された遺伝子産物をコードするアレルを生じさせる場合がある。
【0098】
転移因子はそれ自体、通常とは異なる様式で進化する場合がある。もしそれらが他のDNA配列と同じように遺伝したのであれば、1つの種におけるエレメントのコピーは、より遠縁の種におけるコピーよりも、より近縁の種におけるコピーの方に、より類似しているはずである。これは必ずしもそうではなく、このことは転移因子が時に1つの種から別の種に水平伝達されることを示唆する。
【0099】
ii.化学的突然変異誘発
化学的突然変異誘発には、さまざまな度合いの表現型の重症度を伴う広範囲にわたる突然変異型アレルを見いだせる能力、および容易であり、かつ実施に費用がかからないなどのいくつかの利点がある。発がん性化学物質の大部分はDNAに突然変異を生じさせる。ベンゾ[a]ピレン、N-アセトキシ-2-アセチルアミノフルオレンおよびアフラトキシンB1(aflotoxin B1)は、細菌細胞および哺乳動物細胞においてGCからTAへの転換を引き起こす。ベンゾ[a]ピレンはまた、ATからTAなどの塩基置換も生じさせることができる。N-ニトロソ化合物はGCからATへの塩基転位を生じさせる。n-ニトロソ尿素に対する曝露によって誘導されるチミンのO4位のアルキル化は、TAからCGへの塩基転位をもたらす。
【0100】
変異原性と発がん性との間の高い相関が、細菌系における突然変異体を迅速にアッセイするAmes試験の背景にある基礎をなす仮定であり(McCann et al., 1975)、ミクロソームのシトクロムP450を含むラット肝臓ホモジネートが併せて添加されることで、必要な場合に突然変異原の代謝活性化をもたらす。
【0101】
脊椎動物では、いくつかの発がん物質がras原がん遺伝子における突然変異を生じさせることが見いだされている。N-ニトロソ-N-メチル尿素はラットにおいて乳癌、前立腺癌および他の癌を誘発させ、腫瘍の大半はHa-rasがん遺伝子のコドン12の第2の位置でGからAへの塩基転位を示す。ベンゾ[a]ピレンにより誘発された皮膚腫瘍は、Ha-ras遺伝子の第2のコドンにAからTへの形質転換を含む。
【0102】
iii.放射線突然変異誘発
生体分子の完全性は電離放射線によって損なわれる。入射エネルギーの吸着はイオンおよびフリーラジカルの形成、ならびにある種の共有結合の分解を招く。放射線損傷に対する感受性は、分子の間で、および同じ分子の異なる結晶形態の間で大きく変動するように思われる。これは総蓄積線量に依存し、かつ線量率にも依存する(ひとたびフリーラジカルが存在すれば、それらが引き起こす分子損傷はそれらの自然拡散速度に依存し、それ故に実時間に依存する)。損傷は、試料をできるだけ非放射性にすることにより、減少かつ制御される。
【0103】
電離放射線はDNA損傷および細胞死滅を引き起こし、これは一般に線量率に比例する。電離放射線は、DNAとの直接的な相互作用によるか、またはDNA損傷を招くフリーラジカル種の形成を通じて、複数の生物学的影響を誘導すると仮定されている(Hall, 1988)。これらの影響には、遺伝子突然変異、悪性形質転換および細胞死滅が含まれる。電離放射線はいくつかの原核細胞および下等真核細胞においてある種のDNA修復遺伝子の発現を誘導することが実証されているが、哺乳動物遺伝子の発現の調節に対する電離放射線の影響についてはほとんどわかっていない(Borek, 1985)。いくつかの研究により、哺乳動物細胞の放射線照射後のタンパク質合成のパターンの変化が記載されている。例えば、ヒト悪性黒色腫細胞の電離放射線処理は、いくつかの未同定タンパク質の誘導と関係がある(Boothman et al., 1989)。ラットREF52細胞における、サイクリンおよび同時に調節されるポリペプチドの合成は、電離放射線により抑制されるが、がん遺伝子で形質転換したREF52細胞株では抑制されない(Lambert and Borek, 1988)。他の研究では、ある種の増殖因子またはサイトカインが、X線により誘発されるDNA損傷に関与する場合があることが示されている。これに関しては、放射線照射後に内皮細胞から血小板由来の増殖因子が放出される(Witte, et al., 1989)。
【0104】
「電離放射線」には、十分なエネルギーを有するか、または電離(電子の獲得または喪失)を生じさせる核相互作用を介して十分なエネルギーを生成することのできる粒子または光子を含む放射線が含まれる。例示的かつ好ましい電離放射線は、X線である。所与の細胞において必要な電離放射線の量は一般に、その細胞の性質に依存する。典型的には、発現を誘導する有効な線量は、細胞損傷または細胞死を直接的に引き起こす電離放射線の線量よりも少ない。放射線の有効量を決定するための手段は当技術分野で周知である。
【0105】
iv.インビトロでの突然変異誘発のスキャニング
ランダム突然変異誘発を、エラープローン(error prone)PCRを用いて導入してもよい(Cadwell and Joyce, 1992)。突然変異誘発の割合は、テンプレートの希釈物を用いて多数のチューブ内でPCRを行うことによって、高めてもよい。
【0106】
1つの特に有用な突然変異誘発の手法は、多数の残基を個別的にアミノ酸アラニンによって置換し、タンパク質のコンフォメーションにおける大規模な撹乱のリスクを最小限に抑えながら、側鎖相互作用を失うことの影響を決定することができる、アラニンスキャニング突然変異誘発(alanine scanning mutagenesis)である(Cunningham et al., 1989)。
【0107】
近年、ごく微量のタンパク質を用いてリガンド結合の平衡定数を見積もるための手法が開発されている(Blackburn et al., 1991;米国特許第5,221,605号および同第5,238,808号)。少量の材料を用いて機能的アッセイを行う能力を利用して、抗体の飽和突然変異誘発(saturation mutagenesis)のための非常に効率的なインビトロでの方法論を開発することができる。19種のアミノ酸置換のすべてをこのようにして高い効率で作製して分析できるため、今では飽和突然変異誘発を関心対象の多数の残基に対して行うことが可能であり、この過程はインビトロでの飽和突然変異誘発のスキャニングと記載することができる(Burks et al., 1997)。
【0108】
インビトロでの飽和突然変異誘発のスキャニングは、以下を含む、大量の構造-機能情報を入手するための迅速な方法を提供する:(i)リガンド結合特異性を調整する残基の同定、(ii)所定の位置で、活性を保持させるアミノ酸および活性を消失させるものの同定に基づく、リガンド結合のより良い理解、(iii)活性部位またはタンパク質サブドメインの全体的な可塑性の評価、(iv)結合の増大をもたらすアミノ酸置換の同定。
【0109】
v.断片化および再構築によるランダム突然変異誘発
提示されたポリペプチドのライブラリーを作製するための方法は、米国特許第5,380,721号に記載されている。本方法は、ポリヌクレオチドライブラリーのメンバーを入手して、ポリヌクレオチドをプールして断片化し、それから断片を再形成させ、PCR増幅を行い、それによって断片の相同組換えを行わせて、組換えポリヌクレオチドの混ぜられたプールを形成させることを含む。
【0110】
D.代謝フラックスのモニタリング
物質が代謝経路を通じて加工される速度のことである代謝フラックスは、細胞代謝の基本的な測定規準である。例えば、クエン酸回路に対する脂肪酸生合成経路に対して代謝フラックスを測定することは、特定の経路の相対的重要性を判定するために役立ち、生体反応ネットワーク分析および代謝エンジニアリングのために必須である重要な量的データを提供する(Fernie et al., 2005;Klapa et al., 2003;Sauer, 2004)。
【0111】
糖質が脂肪酸生合成経路を含むほとんどの他の経路に対する前駆体代謝産物を与え、かつ主要なエネルギー源であることから、糖質代謝は生物の生理機能の中核である(White, 2000)。シネコシスティス菌種PCC 6803などのシアノバクテリアは、それらが解糖およびペントースリン酸経路の両方によるグルコース分解のための遺伝子を有し(Nakamura et al., 1998)、かつペントースリン酸経路と共通する多くの段階を有するカルビン-ベンソン-バッシャム回路を介したCO2固定を行うため、特に複雑な中心的代謝経路を有する。
【0112】
シネコシスティス菌種PCC 6803の従属栄養性(暗所で5mMグルコースとともに)および光混合栄養性(明所で5mMグルコースとともに)培養物における中心的な糖質代謝経路を通じての全体的な代謝フラックスが、安定的な最終産物における同位体分布によって決定されている(Yang et al., 2002a;Yang et al., 2002b;Yang et al., 2002c)。安定的な同位体標識基質を添加し、質量分析(MS)または核磁気共鳴(NMR)分析法によって検出可能なアミノ酸の標識パターンから、細胞内代謝産物プールにおける最終的な同位体の集積度を導き出す。その結果得られたデータは、細胞内フラックスを計算するために用いられる大量の情報を与える。この分析は多くの速度を同時に概算することを可能にするが、この種の分析にはいくつか欠点がある:(i)これは定常的な培養物に対して用いられ、動的なフラックス速度は得られない;(ii)この分析は、すべての分析物および経路/反応が正確に判明していることを必要とする;および(iii)データ処理が複雑であり、すべての実験条件下では有効でない可能性のある仮定を必要とする。これは、複雑で絡み合った経路をモデル化する場合には特にアーチファクトを招く場合がある(van Winden et al., 2005)。
【0113】
これらの潜在的な欠点を考慮すれば、中心的な糖質代謝の構成部分を分析するための簡単で客観的な方法が望まれる。このため、本発明者らは、個々の反応をより直接的に、かつ時間の関数としてモニターすることのできるアプローチを開発した。糖リン酸などの細胞内の中心的な代謝産物は、例えば、酵素アッセイ、HPLC(Bhattacharya et al., 1995;Groussac et al., 2000)、CE/MS(Soga et al., 2002)、GC/MS(Fiehn et al., 2000;Roessner et al., 2000)およびLC/MS(Buchholz et al., 2001;Buchholz et al., 2002;Mashego et al., 2004;van Dam et al., 2002)などの広範囲にわたる手法を用いてモニターすることが可能である。Buchholzら(2001)は、LC-ESI-MSを用いた、大腸菌Kl2における解糖中間体の細胞内濃度の定量のための方法を開発している。この方法によれば、少しの試料容量で、異なる糖リン酸を並行して同定かつ定量することが可能である。代謝フラックスの分析に関して、MS検出法の最も決定的な利点は、それらが13Cの追跡を可能にし、それによって細胞内代謝産物の標識パターンを決定することができる点にある。最近、van Windenら(2005)は、大腸菌培養物からの標識されていないおよび13C標識された中心的な代謝中間体をLC/MSにより直接測定している。
【0114】
本発明者らは、13C標識された代謝中間体の集積度を時間の関数として直接測定するために、LC/MS法と13C追跡法との組み合わせを用いた。本発明者らは、この方法により、異なる増殖条件下での糖リン酸間の相互変換速度の綿密な分析を可能にしたため、代謝フラックスネットワークおよび代謝フラックスの動態に関する詳細な情報を得ることが可能であった。
【0115】
D.所望の産物の回収
場合によっては、発現された所望の産物を回収することが望まれる。ひとたび発現されれば、所望の産物を、硫酸アンモニウム沈降、アフィニティーカラム、カラムクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、溶媒抽出、分子ふるいなどを含む、当技術分野の標準的な手順に従って精製することができる(概要については、R. Scopes, (1982) Protein Purification, Springer-Verlag, N.Y.;Deutscher (1990) Methods in Enzymology Vol. 182: Guide to Protein Purification., Academic Press, Inc. N.Y.を参照)。
【0116】
ある局面において、所望の産物の回収における最初の段階は、細胞を可溶化または破壊することを含みうる。当業者に公知である可能な可溶化法を用いることができ、これには熱処理、超音波処理、機械的摩滅、加圧および急激な除圧、不活性媒質の添加により補助される摩滅および破壊、エレクトロポレーション、ならびにアルカリまたは酸処理が含まれる。ひとたび破壊されれば、細胞可溶化物を、脂質を基にした産物に対する直接的な溶媒または超臨界CO2抽出に供することができる(例えば、Serrano-Carreon et al. (2002);Nobre et al. (2006);Topal et al. (2006)を参照。これらはすべて参照により組み入れられる)。または、所望の産物を二相分配系によって単離することもできる(例えば、Rito-Palomares (2004);Cisneros et al. (2004);Serrano-Carreon et al. (2002)を参照。これらはすべて参照により組み入れられる)。
【0117】
E.変更された発現を決定するためのアッセイ法
本発明の光合成独立栄養細菌は、本明細書の全体を通して記載される方法を用いることにより、所望の産物の変更されたレベルを呈しうることを企図している。「変更された」または「改変された」には、細菌における所望の産物の天然の発現に比して異なるレベルでの発現が含まれる。関心対象の遺伝子は、その配列もしくは発現レベルの点で改変させることおよび/もしくは欠失させること、ならびに/または外来性の供給源から導入してもよい。これは、対応する所望の遺伝子産物(例えば、タンパク質もしくは酵素)の産生の調整、ならびに/またはそのような遺伝子産物と関係する経路の調整(例えば、関心対象の遺伝子を増加または過剰発現させて、対応する遺伝子産物および/もしくは遺伝子産物と関連のある代謝経路の構成要素の量の増加を得ること)を招きうる。そのような変更は、放射標識、蛍光標識、染色、質量分析、酵素活性測定および/またはタンパク質精製を含む、さまざまな方法によって評価することができる。簡単で直接的な方法には、SDS/PAGEおよびタンパク質染色またはウエスタンブロット法に続いて、その結果得られたゲルまたはブロットの濃度測定スキャニングなどの定量分析を行うことを伴うものが含まれる。天然の細菌におけるレベルとの比較による所望の産物のレベルの特異的上昇は過剰発現を指し示し、細菌細胞によって産生される、例えばゲル上に視認しうる他のタンパク質に対しての特定の所望の産物の相対的存在量も同様である。
【0118】
F.光合成独立栄養細菌に関する増殖/培養条件
本発明の光合成独立栄養細菌を増殖させることを介した所望の産物の大規模生産は、バッチ培養法または連続培養法のいずれによっても行うことが可能である。古典的なバッチ培養法は、培地の組成を培養の開始時に設定し、かつ培養過程中に人工的変更に曝さない閉鎖系である。したがって、培養過程の開始時に培地に所望の1つまたは複数の生物を接種し、系に何も添加せずに増殖または代謝活動を起こさせる。しかし、典型的には、「バッチ」培養は炭素供給源の添加に関してのバッチであり、pHおよび酸素濃度のような要因を制御するための取り組みが行われることが多い。バッチ系では、系の代謝産物およびバイオマス組成は培養を終了する時点まで絶えず変化する。バッチ培養物の内部では、細胞は、静的誘導期から高増殖の対数期および最終的には増殖速度が低下または停止する静止期を経て平穏化する。処理されない場合、静止期の細胞はついには死滅すると考えられる。対数期の細胞はしばしば、いくつかの系の最終産物または中間体の大量の産生を担う。静止期または指数期後期の産生は他の系で得ることができる。標準的バッチ系に対する1つの変形物は流加系(Fed-Batch system)であり、これは培養が進行する際に基質を徐々に添加することを除き、典型的なバッチ系を含む。流加系は、異化産物抑制が細胞の代謝を阻害する傾向がある場合、および培地中に限定された量の基質があることが望ましい場合に有用である。バッチ培養法および流加培養法は一般的であってかつ当該技術分野で周知であり、その例は、Thomas D. Brock in Biotechnology: A Textbook of Industrial Microbiology, Second Edition (1989) Sinauer Associates, Inc., Sunderland, Mass.またはDeshpande, Mukund V., Appl. Biochem. Biotechnol., 36, 227, (1992)に記載があり、これらは参照により組み入れられる。
【0119】
あるいは、連続培養は、既定の培養培地をバイオリアクターに連続的に添加し、同時に等量の馴化培地を加工のために除去する開放系である。連続培養は一般に、細胞を、細胞が主として対数期増殖にある、一定の高い液相密度に維持する。あるいは、連続培養を固定化した細胞を用いて行ってもよく、ここでは炭素および栄養分を連続的に添加して、価値のある産物、副生成物または廃棄物を細胞塊から連続的に除去される。細胞の固定化は、天然および/または合成材料から構成される広範囲にわたる固体支持体を用いて行ってもよい。
【0120】
G.光合成独立栄養細菌の増殖および処理のための系
本発明のある局面においては、光合成独立栄養細菌を大規模生産系で増殖させることができる。そのような1つの系は、Willem F.J. Vermaas and Bruce E. Rittmannによる、"System and Method for Growing Cells"と題された、2006年10月20日またはその前後に提出された米国仮特許出願第60/862,366号、およびWillem F.J. Vermaas and Bruce E. Rittmannによる、"System and Method for Growing Photosynthetic Cells"と題された2007年10月20日またはその前後に提出されたPCT出願第__号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。
【0121】
H.所望の産物の加工
ある局面において、所望の産物(例えば、脂質、カロテノイド、糖質またはシアノフィシン)を、以下によって入手することができる:(i)1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現のレベルが変更されている改変された光合成独立栄養細菌を入手すること、ここで1つまたは複数の遺伝子の発現の変更は、1つまたは複数の遺伝子の発現のレベルが変更されていない光合成独立栄養細菌によって産生される1つまたは複数の所望の産物の量に比して、1つまたは複数の所望の産物の産生を増加させる;(ii)光合成独立栄養細菌を、所望の産物を産生させるのに適した条件下で増殖させること;および(iii)所望の産物を単離すること。単離された産物は、いくつかの異なる産物へとさらに加工することが可能である。その非限定的な例には、バイオ燃料、バイオプラスチック、動物飼料添加物および有機肥料が含まれる。
【0122】
バイオ燃料に関して、本発明の方法によって生産された脂質および糖質を、バイオディーゼルおよびバイオガスへとさらに加工することができる。バイオディーゼルは、石油を基にしたディーゼル燃料と同様の様式で用いることができる液体燃料源である。バイオディーゼル産物は、エステル交換反応として知られる手順で、グリセロールをメタノールまたはエタノールなどの短鎖アルコールで置き換えることによって合成することが可能である。エステル交換反応過程は典型的には、室温でメタノール(50%過剰)とNaOH(100%過剰)を混合し、続いて脂質/油と激しく混合して、グリセロールを沈降させることを伴う(バイオディーゼル混合物の約15%)。上清がバイオディーゼルであり、メチル化脂肪酸とメタノールとの混合物を含み、NaOH触媒はグリセロール画分に溶解したままである。産業的には、エステルを水洗、真空乾燥および濾過からなる浄化または精製の過程に送ることができる。エステル交換反応による加工はメタノール、エタノール、イソプロピルアルコールまたはブタノールを用いて行うことが可能である。触媒は水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムでありうる。メタノール/油のモル比は反応の効率に大きく影響し、メチルエステルプラントの至適サイズにとって重要な意義があることが示されている。代替的な方法には、超臨界流体メタノール法、または超音波リアクターおよび当業者に公知の他の方法の使用が含まれる(例えば、Aresta (2005);Saka et al. (2006)を参照。これらは参照により組み入れられる)。
【0123】
バイオガスは、本発明の方法によって得られた糖質を用いて、当業者に公知の方法によって調製することができる。例えば、そのような方法およびプロトコールの非限定的な例は、Gongら(1999)によって説明されている。あくまでも例示に過ぎないが、グルコース酸化が還元性等価物の形成のために用いられ、それをヒドロゲナーゼによるシアノバクテリアにおけるプロトンから水素への還元のために用いることができる(Nandi et al. (1998)、これは参照により組み入れられる)。もう1つの非限定的な例には、光生物学的水素(photobiohydrogen)生成が含まれる(Prince et al.(2005)、これは参照により組み入れられる)。
【0124】
バイオプラスチックは、本発明の方法によって得られた糖質を用いて、当業者に公知の方法によって調製することが可能である。例えば、シアノバクテリアにおけるPHAレベル(PHB)は、還元条件に移すと数倍に上昇し、グルコースの添加はさらなる上昇を招く。バイオプラスチック産生の非限定的な例は、Taroncherら(2000)に記載されている。さらに、シアノバクテリアは天然にはポリ乳酸を作らないものの、大腸菌に対して開発された原理に従い、適正な酵素を用いてそれらを改変することが可能である(Zhou et al.(2005)、これは参照により組み入れられる)。
【0125】
所望の産物の加工に対して代替的または追加的に、本発明の改変された光合成独立栄養細菌を、細菌に供給された二酸化炭素を固定するために用いることができる。これは例えば、二酸化炭素の供給源からの二酸化炭素を減少または除去させるという点で有利な可能性がある(例えば、排煙中の二酸化炭素の量を減少させる)。これを行うために用いることのできる非限定的な系は、Willem F.J. Vermaas and Bruce E. Rittmannによる、"System and Method for Growing Cells"と題された、2006年10月20日またはその前後に提出された米国仮特許出願第60/862,366号、およびWillem F.J. Vermaas and Bruce E. Rittmannによる、"System and Method for Growing Photosynthetic Cells"と題された、2007年10月20日またはその前後に提出されたPCT出願第__号に記載されており、これらは参照により本明細書に組み入れられる。
【0126】
実施例
以下の実施例は、本発明のある非限定的な局面を実証するために含められる。実施例で開示された手法が、本発明の実施において十分に機能することが本発明者らによって発見された手法を表していることは、当業者には理解されるはずである。しかし、当業者は本開示に鑑みて、開示された具体的な態様に多くの変化を加えることができ、それでも本発明の精神および範囲を逸脱することなく同様なまたは類似した結果を得ることができることを理解するはずである。
【0127】
実施例1
脂質含有量を増加させるための改変されたシネコシスティス菌種PCC 6803
シアノバクテリアのシネコシスティス菌種PCC 6803を、VIPP1遺伝子sll0617を過剰発現させるために改変した。vipp1遺伝子(sll0617)の高い発現レベルを達成するために、それをシネコシスティスpsbA3遺伝子(sll1867)の構成的天然のプロモーター下にクローニングした。vipp1遺伝子は、pA3lhcgA3プラスミド(He et al. 1999)のスペクチノマイシン類似体における、天然のpsbA3遺伝子の上流領域(287bp)と下流領域(394bp)との間にクローニングされた;その結果得られたプラスミドはHighvipp1と命名され、図14に図式的に提示されている。vipp1(sll0617)遺伝子の配列をCyanoBaseから入手し、2つのプライマーを、vipp1遺伝子の804bp、vipp1遺伝子の開始コドンの上流15bp、およびvipp1遺伝子の終止コドンの下流18bpに対応するシネコシスティスのゲノムの837bp断片を増幅するために構築した。プライマーの配列は、

であった。小文字は、第1および第2のプライマーに対するそれぞれBspHIおよびNsiIの一意的な制限部位の導入のためのヌクレオチド塩基改変を指し示している。増幅されたvipp1断片およびpA3lhcgA3由来のスペクチノマイシン耐性カセットをそれぞれ(BspHI、NsiI)および(NcoI、PstI)で消化した。連結後に、大腸菌の形質転換をエレクトロポレーションによって行い、形質転換後に細胞を室温でプレーティングした;プラスミドシークエンシングによって示された完全長vipp1遺伝子を有する大腸菌形質転換体が首尾良く得られたのは、細胞をエレクトロポレーション後のすべての段階で室温(37℃ではなく)でインキュベートした場合のみであった。
【0128】
シネコシスティス菌種PCC 6803の形質転換
シネコシスティスを、(Vermaas et al. 1987)に従って、Highvipp1プラスミド(図14)により形質転換させた。キメラ性vipp1遺伝子を有するシネコシスティス形質転換体をスペクチノマイシン耐性によって選択し、形質転換体の再画線培養(restreak)に対してスペクチノマイシン濃度を高めることを利用して、単一コロニーの完全分離を得た。シネコシスティスゲノムの所望の部位への完全長vipp1遺伝子のゲノム組み込みを検証するために、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、psbA3遺伝子の末端上流配列とT1T2ターミネーター配列の開始部との間の断片を増幅した。上流psbA3遺伝子の末端配列は

であり、T1T2ターミネーター配列の開始部にマッピングされたプライマーの配列は

であった。第1のプライマーは、増幅されたキメラ性vipp1遺伝子の順方向DNAシークエンシングのために、後者のプライマーは逆方向DNAシークエンシングのために用いた。
【0129】
以下に説明し、表1および図8に示されているように、この遺伝子の過剰発現は、シネコシスティス菌種PCC 6803シアノバクテリアにおける脂質含有量を乾燥重量のほぼ50%まで増加させた。sll0617遺伝子はpsbA3プロモーター下に配置されていた。シネコシスティス細胞を30℃で50μmol光子m-2s-1で増殖させた。脂質抽出は標準的な方法を介して行った(例えば、Tasaka et al. 1996を参照)。
【0130】
(表1)倍加時間(h)および乾燥重量での脂質の割合(%)、真水でのストレス無負荷条件
別に指示する場合を除き、菌株は野生型である。

1)過程における損失のために過小評価している可能性が高い
2)同時に単離された不純物のために過大評価している可能性が高い
[1] Sato et al., BBA 572 (1979) 19-28
[2] Vermaas lab, 未刊行
[3] Ben-Amotz et al., J. Phycol. 21 (1985) 72-81
【0131】
実施例2
シネコシスティス菌種PCC 6803の中心的な糖質代謝経路を通じての代謝フラックスの動態分析、およびaccABCD過剰発現による脂肪酸生合成の亢進
1.材料および方法
化学物質
標準物質として用いた化学物質(グルコース-6-リン酸(G6P)、フルクトース-6-リン酸(F6P)、フルクトース-1,6-二リン酸(FBP)、グリセルアルデヒド-3-リン酸(GAP)、ジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)、3-ホスホグリセリン酸(3PG)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、6-ホスホグルコン酸(6PG)、リボース-5-リン酸(R5P), リブロース-5-リン酸(Ru5P)、リブロース-1,5-二リン酸(RuBP)およびエリトロース-4-リン酸(E4P))は、Sigma(St. Louis, MO)から購入した。均一に13C標識したD-グルコース(U-13C6-D-グルコース)は、Cambridge Isotope Laboratories, Inc.(Andover, MA)から入手した。すべての溶液にMilli-Q級の水(Millipore, Van Nuys, CA)を用いた。
【0132】
増殖条件および13C-グルコース標識
シネコシスティス菌種PCC 6803株の野生型、ならびにホスホフルクトキナーゼおよび/またはグルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼを欠く突然変異体を、5mM TES[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸]-NaOH(pH 8.0)で緩衝化したBG-11中にて大気下で30℃で培養した。光混合栄養性および光合成従属栄養性の増殖に関しては、増殖培地に5mMグルコースを補充した。光合成従属栄養性増殖のためには、PS IIを通じての電子伝達を阻止する25μMの除草剤アトラジンを培地に添加した。培養物を白色光により50μmol光子m-2s-1の強度で照明し、120rpmの撹拌速度で振盪した。培養物の増殖は、Shimadzu UV-160分光光度計を用いて、730nmでの光学密度を測定することによってモニターした。
【0133】
13C標識のために、指数増殖期後期にある細胞(OD730=l.0)を、1mMグルコースを補充したBG-11培地中に40倍に希釈した。細胞密度がOD730=0.5に達した時点で、0.5mM 13Cグルコースまたは5mM 13C NaHCO3(標識した炭酸水素塩を0.5mMの標識されていないグルコースとともに添加した)を培養物に添加し、培養物を通常の培養条件下でインキュベートし続けた。ゼロ時点で標識したグルコースまたは炭酸水素塩を添加した後、さまざまな時点で試料を採取した。
【0134】
試料の調製
標識したシネコシスティス菌種PCC 6803(OD730=0.5)培養物から、標識の添加後の特定の時点で100mlのアリコートを取り出し、ガラス製マイクロファイバーフィルター(FG/B、Whatman)を通す濾過によって培養物アリコートを迅速に収集して、残留培地を除くために35mlの水で洗浄した。細胞の付いたフィルターを直ちに20mlの冷メタノール(-40℃)中に入れ、反応を停止させるためにこれらの条件下で30分間インキュベートした。続いて、代謝産物の抽出のために、このメタノール/フィルター/細胞混合物を70℃で6分間インキュベートした。フィルターを廃棄した後に、メタノールをN2下にて4℃で蒸発させた。最後に、残った粉末を0.25mlの水に溶解させた。Optima TLX 120超遠心分離器(Beckman)による280,000g(80,000rpm)での1時間の超遠心処理の後に、清澄な上清を新たなチューブに移し、-70℃で保存した。
【0135】
HPLC分離
HPLCは多孔質グラファイトカーボンHypercarbカラム(100×2.1mm、5mm、Thermo-Electronic, Bellefonte, PA)を用いて行った。さらに、主カラムを保護するためにHypercarbガードカラム(10×2.1mm)を用いた。二成分勾配(binary gradient)を流速0.125ml min-1で、Beckman HPLCシステムを用いて適用した。注入容積は50μlとした。溶媒Aは12mM酢酸アンモニウム水溶液であり、溶媒Bは水であった。分離のために適用した勾配は、最初の20分間における溶媒Bの60%から100%までの直線的な増加であった。このレベルを5分間保った後、次の2分間で再びBを60%に減少させた。カラムを再平衡化させるためにこのレベルを10分間保った。
【0136】
カラム後のT型分配器を用いてメタノールを流速0.125ml min-1で注入してHPLC溶出液と合流させ、続いて混合物をESIインターフェースを介して質量分析計に導き入れた。
【0137】
質量分析
MS分析は、ABI 365三連四重極質量分析計(Applied Biosystems/MDS Sciex)を用いて行った。窒素をシースガスおよび衝突ガスの両方として用いた。データの収集および分析はAnalystソフトウエア(Applied Biosystems/MDS Sciex)を用いて実施した。
【0138】
MS実験に関する至適パラメーターは、シリンジポンプを用いて種々の標準物質を10μl min-1の速度で直接注入することにより、完全スキャンモードで決定した。標準G6P(5μM G6P、メタノール:12mM 酢酸アンモニウム(50:50%、v/v)中)を用いて調整した調整パラメーターをMSおよびMS/MS検出のために用いた。以下のESIパラメーターを用いた:加熱キャピラリーの温度:300℃;エレクトロスプレーキャピラリー電圧:4.2kV;カーテンガス:8psi;フォーカス電圧:100V。他のパラメーターはいずれも自動調整によって決定した。
【0139】
中間体およびそれらのアイソトポマーの濃度を定量するためにはQ1マルチプルイオンモードを用いた。化学物質の同定または同一性の確認のためにはMS/MSモードを用いた。
【0140】
代謝産物の同定および定量
試料中の代謝産物は、それらの保持時間、m/z、特異的断片化パターンに従って、さらに必要であれば抽出物に代謝産物標準物質を10〜50μMの濃度で加えることによって同定した。13C標識実験により、代謝産物の実体をさらに確認した。代謝産物の定量は、標準的な添加方法を適用することによって[M-H]-イオンを介して達成した(Skoog and Leary, 1992)。1つの分析物のみを既知の濃度で含む標準溶液を調製した。細胞抽出物にこの標準溶液を量を増やしながら加えることにより、ピーク面積に対する濃度の線形回帰プロットを得た。
【0141】
13C分布分析
光混合栄養性および光合成従属栄養性の培養物からの13C標識試料を、13C標識の添加から0、0.33、1.5、5、20および60分後に収集した。細胞抽出物をHPLCによって分離し、MSにより、種々の中間体の複数の異なる質量アイソトポマーを同時に追跡しうると考えられるMIMモードで測定した。複数の異なる質量アイソトポマーの含有量および分布を、それらのピーク面積から算出した。
【0142】
2.結果
LC/MSによる代謝中間体の分離および同定
HPLCによる代謝中間体の分離は、MS検出の感度の改善のためだけでなく、中間体の同定および定量のためにも必須である。Hypercarb HPLCカラムは、広範囲にわたる保持時間を有する糖リン酸および関連化合物の分離のために適していた(図1A)。MSによる質量分離との組み合わせで、糖質代謝中間体の入手可能なすべての関連標準物質が明らかに分離され、20μM溶液が容易に検出された。S7PおよびSBPなどのいくつかの標準物質は市販されていなかったが、これらの化合物はその質量に基づいて細胞抽出物中で同定することができた(図1B)。
【0143】
図1Aに示されているように、種々の標準物質の保持時間は5〜25分の範囲であった。R5P(質量229、第1のピーク)およびG6P(質量259、第1のピーク)などのいくつかの標準物質はLC上でお互いに重複したが、それらはMSにより質量の違いのために区別された。その反対に、質量169(GAP、ピーク1(最も短い溶出時間);DHAP、ピーク2(より長い溶出時間))、229(R5P、ピーク1;Ru5P、ピーク2)および259(G6P、ピーク1;F6P、ピーク2)のピークは、LCにより分離されたが、MSによっては分離されなかった。LCおよび/またはMSによる化合物の明らかな分離により、これらの中心的な代謝中間体の定量が可能となった。
【0144】
この方法によって標準物質をμM濃度で検出可能なことが示されたことを受けて、シネコシスティス抽出物を分析した。MSの感度を最大限に高めるためには、イオン抑制が最小限となるように粒子状物質を試料から可能な限り除去すべきである。この理由から、LC/MS分析の前に試料を超遠心分離器にて80,000rpm(280,000g)で60分間遠心分離した。予想された通り、細胞抽出物をLC/MSによりスキャンモードで分析したところ、細胞内の多数の異なる代謝産物に対応する多くのピークが見いだされた(非提示データ)。ここで、本発明者らは中心的な糖質代謝中間体に完全に絞った。図1BはMIM MSモードで測定した糖リン酸を示しており、そこでは選択したm/z値のみをモニターした。同定されたピークには、質量167(PEP)、185(2PG、ピーク1;3PG、ピーク2)、229(R5P、ピーク1;Ru5P、ピーク2)、259(G6P、ピーク1;F6P、ピーク2)、289(S7P)、309(RuBP)および369(SBP)に対応するものが含まれた;「ピーク1」は、ピーク2に比して溶出時間がより短いもののことである。標準物質は大きなシグナルを示したものの(図1A)、m/z 169, 199、275および339に関するスキャニングではピークが見いだされなかった(図1B)。このことは、標準物質は抽出手順中に著しくは分解されなかったという観察所見と総合すれば(非提示データ)、GAP(質量167)、DHAP(質量167)、E4P(質量199)、6PG(質量275)およびFBP(質量339)は細胞内に蓄積しなかったことを指し示している。
【0145】
ピークの定量を可能にし、化合物の同定の正しさを確かめるために、試料に20μM標準物質(非提示)を加えた。その上、MS/MSモードも、化合物の指定の正しさを検証するために用いた。後者の一例は図2に提示されており、第2のMSでは、第1のMSにおける質量259の分子(G6PおよびF6Pのイオンの質量)の典型的なリン酸断片(97 m/z)を選択的にモニターすることによってピークが得られている。このモードでは、259 m/zのイオンが第1の四重極を通過し、衝突セル内で崩壊する;97 m/z断片のみを第2の四重極に通過させ、検出器によって計数する。図2に示された結果により、図1B中の2つの259 m/zピークが実際にリン酸基を含むことが検証された。他の糖リン酸ピークもMS/MSにおいてリン酸断片を生じることが確かめられた。
【0146】
細胞抽出物中のアイソトポマーの測定および定量
同定された糖リン酸のうち、特にG6P、F6P、PEP、3PG、2PGおよびS7Pはシネコシスティス抽出物のLC/MS上で一貫して顕著かつ再現性のあるMSピークを示し、これらを13C-D-グルコースまたは炭酸水素塩による細胞の標識後にアイソトポマー分布分析のために用いた。経時的なアイソトポマー標識の一例として、図3は、13C-グルコース標識の開始後の種々の時点で、光混合栄養的に増殖させた細胞から調製したシネコシスティス抽出物における3PG標識の動態を示している。13Cグルコース標識の開始時点(t=0)では、3PG分子の大多数は3つの12C炭素(質量185)を含んでいた。t=0時点での質量+1同位体の存在度は約3.6%であり、これは13Cの自然存在度に一致したが、質量187または188の3PG分子(2つまたは3つの標識された炭素を有する)の存在度は非常にわずかであった。13C-グルコースの存在下での20秒間の増殖後に、標識された3PGが出現しはじめ、1.5分の時点では、明らかな188(3つの標識された炭素)3PGピークが認められた。その後、2つの13C原子を有する3PG分子が増加しはじめ、主要な標識アイソトポマーとなった。標識されたグルコースの添加から1時間後に、3PGのアイソトポマー分布パターンには相当量のすべてのアイソトポマーが含まれ、見たところ定常状態に達した;より長いインキュベーション時間でもピークはサイズおよび比の点で大きくは変化しなかった(非提示)。
【0147】
理論的には、シグナルのLC/MSピーク面積は化合物の濃度と直線関係にあるはずである。シネコシスティス細胞抽出物における中心的な代謝中間体についての本発明者らの検出範囲の直線性を検証するために、既知の濃度の標準物質を細胞抽出物に添加した後に、G6P、3PGおよびPEP MSシグナルのピーク面積を決定した。元の抽出物におけるG6P、3PGおよびPEPの濃度がこれらの曲線から得られ(図4)、それらは横座標の負の値に対応している。S7P濃度は、標準物質が入手不能であったためにこの方式では算出できなかったが、そのピーク面積はローディングした細胞抽出物の容積と直線的に相関した。
【0148】
G6PおよびF6Pの比および標識パターン、ならびに3PGおよび2PGのそれは、今回調べたすべての実験条件下で類似しており、このことはこれらの異性体間の交換速度が非常に高いことを示唆する。データ収集および処理を単純化するために、G6PおよびF6Pを併せてG6P+F6Pの共通プールとし、3PGおよび2PGを併せて3PG+2PGの共通プールを得た。
【0149】
シネコシスティスにおける13C-標識パターンの動態
本発明者らは、このシアノバクテリアにおける中心的な代謝フラックスに関する理解を得る目的で、細胞の増殖様式(光混合栄養性と光合成従属栄養性との対比)の関数として、かつ13Cの添加後の時間の関数としての、シネコシスティス抽出物におけるG6P+F6P、3PG+2PG、PEPおよびS7Pのアイソトポマーの分布の変化を比較した。測定した中間体のアイソトポマー分布は、細胞を同じ増殖様式(光混合栄養性または光合成従属栄養性)で増殖させた場合には十分に再現性があったにもかかわらず、細胞から抽出したこれらの化合物の総濃度は実験毎に大きく異なった(表2)。抽出物において測定された濃度から、以下のパラメーターおよび仮定を用いて、細胞内での内部濃度を逆算した:(1)Shimadzu UV-160分光光度計を用いてモニターした場合、指数増殖期のシネコシスティスの培養物は1リットル当たりOD730で1011個の細胞を有する;(2)細胞の平均直径は2μmである、および(3)代謝産物の抽出効率は100%であった;冷細胞/メタノール混合物と、MSのために用いた最終抽出物とに入手可能な標準物質を添加して比較した定量により、抽出過程は著しい量的損失を引き起こさないことが示された(非提示データ)。細胞内の代謝産物の濃度の変動を引き起こしたのが何であるかは現時点では不明である;完全な制御および評価を行うことができなかったパラメーターは、化合物が冷メタノール中で細胞から抽出される効率である。
【0150】
(表2)光混合栄養性および光合成従属栄養性の増殖条件下でのシネコシスティス菌種PCC 6803における細胞内代謝中間体濃度

a データは3回の独立した実験の平均を表している。細胞内濃度は100%の抽出効率および平均半径1μmの球状細胞を仮定して算出した。
b S7PおよびSBPについては、純粋な標準物質が入手不能であったため、絶対濃度ではなく相対濃度を提示している。
c UD:検出不能。
【0151】
いずれの場合も、光混合栄養性の増殖様式下と光合成従属栄養性の増殖様式下とで比較したG6P+F6P、3PG+2PG、PEPおよびR5Pの濃度は互いに2倍以内であったが、カルビン-ベンソン-バッシャム回路に特異的な2つの化合物であるRuBPおよびSBPは、光合成従属栄養性条件下では検出不能であったものの、光混合栄養条件下では存在した。S7Pレベルは光合成従属栄養性増殖条件下で約2倍に上昇した。
【0152】
光混合栄養的に増殖させた培養物の13C-グルコースによる標識
図5では、光混合栄養的に増殖させた培養物からの抽出物におけるアイソトポマー分布が、13C-グルコースの添加後の時間の関数としてグラフ表示されている。図5を導く実際のデータは表3に列記されている。光混合栄養的に増殖させた培養物では、13C-グルコースの添加からちょうど20秒後に標識されたG6P+F6Pが全G6P+F6Pプールの約40%を占め、これはシネコシスティスにおけるグルコースの非常に迅速な取り込みおよび変換を意味する。驚くには当たらないが、この時点では完全に標識されたG6P+F6Pが最も存在度の高いアイソトポマー(265 m/z)であった。しかし、G6P+F6Pプールでは、質量が標識されていない質量よりも1、2、3または4多い分子の迅速な出現が顕著であった(標識20秒後の全プールのそれぞれ約6%)。質量+2、+3および+4のピークの迅速な出現は、易可逆性のトランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ反応を通じた、炭素の非常に急速な再分布を意味する。1つの13C原子を有するG6P+F6P分子の迅速な形成は、反応10および11を通じて部分的に標識されたG6P+F6P(例えば、1,2-13C2または3,4,5,6-13C4 G6P+F6P)の脱カルボキシル化ならびにそれに続く反応12および16を通じてのG6P+F6Pの再形成、または反応3および4を通じて部分的に標識されたG6P+F6P(例えば、3,4,5,6-13C4 G6P+F6P)の分割ならびにそれに続く標識されていないジヒドロキシアセトン3-リン酸またはグリセルアルデヒド3-リン酸分子との組換え、のいずれかに起因しうる。20分間の標識後に、標識されていないG6P+F6Pに対応するピークは全体の約15%に減少し、このことは、添加されたグルコースが利用可能である間は、モノマーへと変換される標識されていない糖ポリマーの、主要な緩衝または貯蔵が細胞内にないことを指し示している。
【0153】
(表3)光混合栄養的に増殖させたシネコシスティス菌種PCC 6803における13C-グルコース標識後のヘキソース-6-リン酸(G6P+F6P)、ホスホグリセリン酸(3PG+2PG)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、およびセドヘプツロース-7-リン酸(S7P)のアイソトポマー分布動態a

a データは3回の独立した実験の平均を表した。
b ID、アイソトポマー分布:化合物の総量に対するアイソトポマーのパーセンテージ。
SD、標準偏差。
【0154】
3PG+2PGおよびPEPはその13C分布パターンの点では類似していたが、これらの化合物の標識はG6PおよびF6Pよりもはるかに遅かった。20秒後では、3PG+2PGおよびPEPはほとんど標識されず(図5)、これらのC3中間体の半分が少なくとも1つの標識された炭素を有するようになるまでに約5分を要した。1.5分の時点で、3PG+2PGおよびPEPに対する主要な標識ピークは、完全に標識されたG6P+F6Pに由来する、3つの炭素すべてが標識されたものであった。5分およびそれ以後の時点では、3PG+2PGおよびPEPの主要な標識ピークは2つの標識された炭素を含んでいた。3PG+2PGおよびPEPの標識パターンは以後の時点ではそれほど変化せず、13C-標識アイソトポマー分布は標識添加後約20分までに定常状態に達した。分子1つ当たり2つの13Cを有する3PG+2PGプールが優位であったことは、光混合栄養条件下では3PGのかなりの部分がカルビン-ベンソン-バッシャム回路を介して合成されて、合成された2つの3PG当たり1つの標識されていないCO2が組み入れられ、一方、そのほかの部分的に標識された3PGはトランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ反応における同位体スクランブリングによって生じたことを示唆する。
【0155】
光混合栄養条件下では、S7Pプールは迅速かつ部分的に標識され、これは3PG+2PGまたはPEPの標識パターンよりもG6P+F6P標識パターンの方に似ていた。13C-グルコースによる20秒間の標識後に、標識されていないS7Pに対応するピークは50%未満に減少し、このためS7P分子の半分以上はこの時点で1つまたは複数の13C炭素を含んでいた。20秒時点での標識されたS7P分子と標識されていないS7P分子との比は、G6P+F6Pのそれよりもさらに高かった。トランスケトラーゼ/トランスアルドラーゼ反応は標識をF6Pから直接的または間接的にS7Pおよび他の化合物に移行させるため、このことはこれらの反応の速度が非常に高いことを指し示している。これらの標識S7Pアイソトポマーのうち、標識の開始から20秒後に最も存在度の高かったものは2つの13C炭素を含んでいた。この種の分子は、完全に標識されたF6Pと標識されていないGAPが反応して2つの標識された炭素を有するキシルロース-5リン酸(X5P)が形成され、続いてX5Pの標識されていないR5Pとの反応によって2つの13Cを有するS7PおよびGAPが生じることによって形成されうる。完全に標識されたF6Pおよび標識されていないE4PのS7PおよびPGAへの直接的な変換では、S7Pに3つの13Cが生じると考えられ、これは標識開始の直後は存在度が低いことから(図5)、本発明者らの実験条件下ではトランスケトラーゼ反応を通じての分子交換の方がトランスアルドラーゼ反応を通じての分子交換よりも迅速であることが示唆される。より長い標識時間の後には、すべてのS7Pアイソトポマーがかなりの量で存在し(全体の6〜20%)、このことはS7Pにおける標識の本質的に完全なスクランブリングを指し示している。いずれにせよ、糖リン酸間の分子交換はホスホグリセリン酸への変換よりもはるかに速いように思われ、このことはグリセルアルデヒド-3-リン酸とホスホグリセリン酸との間の段階が比較的遅いことを示唆する。
【0156】
光混合栄養的に増殖させた培養物のNaH13CO3による標識
図6は光混合栄養的に増殖させた培養物の5mM NaH13CO3による標識の結果を示している;0.5mMの標識されていないグルコースも培養物に添加した。これらのデータは表4に量的に提示されている。光合成CO2固定は3PGの形成をもたらすため、炭酸水素塩に由来する13Cが3PG+2PGおよびPEPプールに最も迅速に取り込まれたことは驚くには当たらない:1つの標識13Cを有する明らかに測定可能な量の3PG+2PGおよびPEPが標識開始20秒後に示されたが、標識G6P+F6Pはこの時点ではほとんど検出されなかった(図6)。5分後には、3PG+2PGおよびPEPプールにおける分子の半分以上が少なくとも1つの13Cを含んでいた。3PGの一部はカルビン-ベンソン-バッシャム回路における反応に再び用いられるため、複数の13Cを有する3PG+2PG分子の形成が予想される。より長い標識期間の後には、3PG+2PGおよびPEPの標識パターンは大きくは変化せず、このことは、13C標識パターンが定常状態に近づき、取り込まれた標識の量が、(標識されていない)グルコースに由来するものに対して、カルビン-ベンソン-バッシャム回路を介して固定された炭素の量とほぼ等しくなることを指し示している。
【0157】
(表4)光混合栄養的に増殖させたシネコシスティス菌種PCC 6803における13C-NaHCO3標識後のヘキソース-6-リン酸(G6P+F6P)、ホスホグリセリン酸(3PG+2PG)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、およびセドヘプツロース-7-リン酸(S7P)のアイソトポマー分布動態a

a データは3回の独立した実験の平均を表した。
b ID、アイソトポマー分布:化合物の総量に対するアイソトポマーのパーセンテージ。
SD、標準偏差。
【0158】
単一の13Cを有するG6P+F6P(質量259)は標識開始からわずか1.5分後には出現しはじめたが、一方、二重標識G6P+F6Pは標識開始から5分後に相当量として存在した。13C-標識S7Pは3PG+2PGおよびPEPよりも遅く、しかしG6P+F6Pよりも速く出現した。これはS7Pがカルビン-ベンソン-バッシャム回路において(CO2固定に比して)3PGよりも後にあること、およびCO2固定による炭素を受け取るF6P+G6Pの大部分が、逆解糖作用による糖新生を介するよりはむしろ、S7Pおよび他のカルビン-ベンソン-バッシャム回路中間体を介して形成されることに合致する。
【0159】
標識炭酸水素塩の添加から1時間後でも、標識S7P分子の中で最も存在度の高いアイソトポマーは単一の13Cのみを有し、より重いアイソトポマーは質量が増えるとともに急速に減少した。これは主として、標識されていないグルコースの存在、ならびにトランスケトラーゼおよびトランスアルドラーゼにより触媒される交換の速度が高いことの帰結であり、グルコース代謝およびCO2固定の両方が光混合栄養性増殖条件下での炭素代謝に大きく寄与するという解釈を支持する。
【0160】
光合成従属栄養性に増殖させた培養物の13C-グルコースによる標識
シネコシスティスを光合成従属栄養性条件下(すなわち、グルコースなどの固定炭素供給源を伴う、PSII阻害薬アトラジンの存在下)で増殖させたところ、NaH13CO3の添加から2時間後でも3PG+2PGプールは標識されていなかったため、正味のCO2固定は無視しうる程度であった(非提示データ)。実際に、図7に示されているように、光合成従属栄養性増殖条件は、すべての中間体を13C-グルコースで迅速に標識させる点では、この試験で調べた3つの条件の中で群を抜いて最も有効であった。20秒間の標識の後に、G6P+F6Pプールの半分以上が既に標識されており、光混合栄養条件下の状況とは対照的に、完全に標識された糖リン酸が最も優勢であった。光合成従属栄養性培養物におけるG6P+F6Pのプールサイズは、光混合栄養的に増殖させた細胞からのそれと同程度であったため(表2)、光合成従属栄養性条件下ではグルコースが光混合栄養条件下よりも速く利用された。今回モニターしたすべての時点で、完全に標識されたG6P+F6Pは最も存在度が高く、このことは、光混合栄養条件下とは対照的に、CO2固定も中心的代謝における糖リン酸の他の化合物の代謝もほとんど起こらないことを指し示している。
【0161】
他の増殖条件で観察されたのと同じく、3PG+2PGおよびPEPは類似の標識パターンを有した。最も存在度の高いアイソトポマーは完全に標識された化合物であったが、2つの標識されたCを有するアイソトポマーも、特に1.5〜20分の標識時間枠では、完全に標識されたものと対比して存在度が高かった。3PG+2PGおよびPEPの標識はG6P+F6PまたはS7Pのそれよりも遅く起こり、このことは、トランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ反応を通じた素早い交換はあるものの、ホスホグリセリン酸との交換ははるかに遅いという、光混合栄養条件下でなされた観察所見の解釈をさらに強化するものである。完全に標識された3PG、2PGまたはPEPは解糖またはペントースリン酸経路によって形成されうるが、2つの13C標識のみを有するこれらの分子の形成は解糖およびペントースリン酸経路酵素の両方の寄与を必要とする。ペントースリン酸経路反応に由来する2〜5個の13C-標識された炭素を有する部分的に標識されたF6Pは、2つの13C標識された炭素を有する3PGおよび2PGを、解糖を介して生成することができる。
【0162】
光合成従属栄養性条件下での13C-グルコースによる20秒間の標識後に、標識されたS7P分子、特に2、4または7個の13C原子が組み込まれたものの合計は、標識されていないものの数を上回った。1つの13Cのみが組み込まれたS7P分子は本質的には存在しなかった。標識時間が長くなるとともに、6つの13C原子を有する分子のプールが増加し、より少数の13C原子を有するプールは時間経過とともに一般に減少したが、これは標識されていない中間体のプールの枯渇を反映している。60分間の標識の後には、S7Pの大部分が完全に標識され、一部が1つの標識されていないCを有していた。
【0163】
図5〜7に示された結果は、アイソトポマー分布パターンが増殖様式および添加された同位体の性質に依存することを指し示している。このアイソトポマー分布パターンは各条件下で非常に再現性が高く、このことは、シネコシスティスにおける中心的な糖リン酸経路を通じての代謝フラックスは特定の増殖条件に応じて明確に規定されることを指し示している。このため、中間体の測定濃度のばらつき(表2)は、同じ条件下で増殖させた複数の異なるシネコシスティス培養物の代謝能力のばらつきの大きさではなく、抽出効率のばらつきを反映している可能性が高い。
【0164】
標識レベル
中心的な代謝産物に組み込まれた標識の量の、時間の関数としてのより直接的な測定値を得るために、異なる増殖条件下でのG6P+F6P、3PG+2PG、PEPおよびS7Pにおける全炭素に対する13Cの量を時間の関数として算出した。その結果は表5にまとめられており、13Cグルコースを標識として用いた光混合栄養性条件下および光合成従属栄養性条件下の両方で、G6P+F6PおよびS7Pが3PG+2PGおよびPEPよりも迅速に標識され、一方、炭酸水素塩で標識した場合には、3炭素中間体が一次CO2固定産物(3PG)に近いため、標識は3PG+2PGおよびPEPにおける方がG6P+S7Pにおけるよりもはるかに迅速であるという、前の項で得られたより定性的な観察所見を裏づけている。標識比が同程度であることはおそらく代謝的な相互接続の迅速さを意味すると考えられる。しかし、標識されたグルコースと炭酸水素塩との比較における炭素の数について補正した場合でも、3PG+2PGおよびPEPにおける標識の量は、炭酸水素塩で標識した場合の方がグルコースで標識した場合よりも遅いように思われる。このことの理由としては、グルコースと炭酸水素塩/CO2との取り込み速度の違い、カルビン-ベンソン-バッシャム回路とグルコース代謝との速度論的な違い、および/または実験を開始した時点での標識されていない炭素プールのサイズの違いが考えられる。
【0165】
標識比を標識時間の関数としてプロットすると、標識の開始から無限時間後の各化合物の標識比(すなわち、最終的な定常状態の標識比)を、回帰分析によって外挿することができる(表5)。13C-グルコースを与えた光合成従属栄養性培養物では、糖リン酸および3炭素リン酸における炭素の90%を標識することが可能であり、これはこれらの条件下でのCO2固定の阻害に合致する:中心的な炭素代謝経路における事実上すべての炭素がグルコースに由来する。しかし、培養物を光混合栄養的に増殖させた場合には、標識されたグルコースまたは炭酸水素塩を与えるか否かにかわらず、3PG+2PGプールにおける全炭素のちょうど半分しか13C-標識されなかった(表5)。このことは、細胞を光混合栄養条件下で増殖させた場合には3PG+2PGおよびPEPレベルでの炭素の約半分が炭酸水素塩に由来し、残りの半分がグルコースに由来することを指し示している。しかし、光混合栄養条件下ではG6P+F6PおよびS7Pは、炭酸水素塩によるよりも、グルコースによってより強く標識される;このことはおそらく、これらの糖リン酸がグルコースから少数の代謝段階のみを隔てているのに過ぎない一方で、3PGはカルビン-ベンソン-バッシャム回路によるCO2固定の産物であるという事実に起因すると思われる。いずれにせよ、表5における各化合物に関する13C-グルコース+13C-炭酸水素塩標識画分の合計が定常状態の標識の90%に近づいたことは興味深く、このことはグルコース代謝およびCO2固定の経路が光混合栄養条件下では完全に補完的であることを示唆する。
【0166】
(表5)13C-グルコース(G)または13C-炭酸水素塩(B)のいずれかによる標識後の、光混合栄養性(PM)および光合成従属栄養性(PH)増殖条件下でのシネコシスティス菌種PCC 6803における標識比の動態a

a 標識比は、化合物(そのすべてのアイソトポマーを含む)のすべての炭素における13C標識の総量に対するパーセンテージとして定義される。データは3回の独立した実験の平均とした。
b 最終と表示した列は定常状態における標識比を表し、これはこの表内のデータから「無限」時間での標識比へと外挿されている。
【0167】
これは、標識された炭素の供給源の添加後に13C-標識代謝中間体の分布動態を時間の関数としてモニターする、シネコシスティスにおける中心的な代謝フラックスの分析のための新たなアプローチを提供する。シネコシスティスでは、中間体の標識パターンが20秒〜1.5分の時間尺度で大きく変化したことから、中心的な代謝経路を通じてのフラックスは中間体のプールサイズに比して速かった。
【0168】
13Cグルコースを培養物に添加すると、それは細胞によって容易に取り込まれてリン酸化される。G6P+F6Pプールから分子をペントースリン酸経路もしくは解糖のために用いること、またはトランスアルドラーゼおよびトランスケトラーゼ反応を介して他の糖リン酸に変換することができる。光混合栄養性または光合成従属栄養性培養物を均一に標識された13C-グルコースで標識した場合(図5および7)、予想外であった特徴の1つは部分的に標識されたG6P+F6P分子の迅速な形成であり、これはG6P+F6Pプールと種々の数の炭素原子を有する部分的に標識された分子のプールとの間の標識の迅速なスクランブリングおよびそれによる相互変換を指し示している。G6P+F6Pプールにおける標識のスクランブリングはS7Pの標識のスクランブリングと類似しており、これはこれらの2つの種類の糖リン酸間での直接的または間接的な、しかし動態的には迅速な相互作用を示唆する。この迅速なスクランブリングの様式は多岐にわたり、各アイソトポマーは反応の組み合わせによって形成される。標識パターンの詳細な分析により、異なる増殖条件下での一般的な代謝フラックスを明らかにすることができる。特に、F6Pが関わる、トランスケトラーゼおよびトランスアルドラーゼ反応は、アイソトポマーの迅速なスクランブリングにおいて主要な役割を果たす。光混合栄養条件下での13C-グルコースの添加20秒後に3つまたは7つの標識された炭素を有するS7Pの優位性はみられなかっため、トランスアルドラーゼ反応(F6P+E4PからS7P+GAPへ、およびその反対)の速度は、トランスケトラーゼ反応のそれほど速くはないように思われる(図5)。その上、20秒間の標識後に、5つの13Cを有するS7Pアイソトポマーは少ないが、2つの13Cを有するものは多かったという事実は、Ru5PからR5Pへのフラックスが比較的少ないことを示唆する;これとは対照的に、Ru5PとX5Pとの間のフラックスは、カルビン-ベンソン-バッシャム回路およびペントースリン酸経路の自由な流れを確実にする程度にはるかに速かった。
【0169】
G6P+F6Pの光合成従属栄養性標識パターンにおいて、標識後のすべての時点で最も存在度の高かったアイソトポマーは質量+6であり、これはこれらの増殖条件下でのグルコースの迅速な流入に一致する。光混合栄養条件と同じく、G6P+F6Pの質量+2および質量+4の迅速な標識により、反応16が起こったこととそれが可逆性であることが指し示された。光混合栄養条件下での増殖と比較して、5つの標識されたCを有するG6P+F6Pアイソトポマーは20秒後時点で存在度が高く、1つの標識されたCを有するものはそうではなかった。この違いは、E4Pが光合成従属栄養性条件下で容易に標識されたことに起因する可能性が高く、これはE4Pプールがより少ないこと、またはグルコースに由来する炭素との交換がより迅速なことを示唆する。3つの標識された炭素を有するG6P+F6Pアイソトポマーは、標識されていないGAPとのトランスアルドラーゼ反応(反応15)後の標識されたS7Pに由来する可能性が最も高い。
【0170】
S7Pプール
少なくとも2つの13Cを有する完全に標識されたR5PおよびX5Pに由来する完全に標識されたS7Pアイソトポマーは、光合成従属栄養性条件下で増殖させた細胞において、標識された3PG+2PGの上昇のはるかに前である、標識の開始20秒後に既に相当量で存在しており、これはS7Pの下流の律速段階を指し示している。標識されていないR5Pと標識されたX5Pとの反応(反応14)によっておそらく形成された、2つの標識された炭素を有するS7Pアイソトポマーは一過性に過ぎず、標識の開始から1.5分後には事実上消失しており(図7)、このことはこの糖リン酸プールが迅速に標識されたことを指し示している。他の部分的に標識されたS7Pアイソトポマープール(例えば、4つまたは5つの13Cを有するアイソトポマー)の時間経過に伴う消失は、この議論をさらに裏づける。
【0171】
3PG+2PGおよびPEPプール
13C-グルコースを用いた場合、3PG+2PGピークにおける標識の量は、細胞を光混合栄養性または光合成従属栄養性条件のいずれで増殖させるかにかかわらず、1.5分の時点までは極めて少なかった(表5)。シネコシスティスにおいて、GAPプールは少なく(図1B)、3PG+2PGおよびPEPプールに生じた標識の遅れは、GAPから3PGへのフラックスが糖リン酸間のフラックスに比べて遅いことを示唆する。
【0172】
シネコシスティスには2つのGAPデヒドロゲナーゼがあり、その1つ(GAP-1)は順反応(GAPからジホスホグリセリン酸に)を触媒し、もう1つ(GAP2)は逆反応(ジホスホグリセリン酸からGAPに)を触媒するように思われる(Koksharova et al., 1998)。GAP-1をコードする遺伝子の発現は弱く(Figge et al., 2000)、このためこの段階は律速性であって糖リン酸プールからの炭素の損失を最小限にする可能性がある。実際にGAP-1が律速性であれば、ペントースリン酸経路および解糖の両方がこの段階を利用するため、これらの経路のどちらがシアノバクテリアにおける糖代謝のために最も重要であるかという問いかけ(Yang et al., 2002a)はその意義の大部分を失うであろう。糖リン酸代謝ネットワークの調節におけるGAPデヒドロゲナーゼの重要性は他の光合成系でも報告されている(Ihlenfeldt and Gibson, 1975;Tamoi et al., 2005;Wedel and Soll, 1998)。
【0173】
光混合栄養条件下では、炭素固定を介した3PGの形成(GAP-1を伴わない)が主要な経路であるように思われる。これは、RuBisCO活性はそれ自体ではシアノバクテリアにおける光合成フラックスの主要な妨げではないという考え方に適合する(Marcus et al., 2005)。図6および表5に示されているように、標識された炭酸水素塩を用いた光混合栄養条件下では、3PG+2PGおよびPEPプールの標識は糖リン酸プールよりもはるかに多く、このことは3PGからPEPへのフラックスが極めて速く、糖新生からのG6P+F6Pプールへの流入はグルコースからのその流入に比べて優位ではないことを指し示している。高い標識比からも、カルビン-ベンソン-バッシャム回路が固定CO2の再利用の点で極めて速いことが示唆される。CO2は3PG+PEPプールに対する炭素供給源の約半分を与えるため(表5)、カルビン-ベンソン-バッシャム回路により生成される3PGの3分の2は、F6Pを含む糖リン酸へと流れを逆戻りしなければならない。光混合栄養条件下では、シネコシスティスにおけるGAP-2のmRNAおよびタンパク質の発現レベルは、光合成従属栄養性条件下の約2倍に上昇した(Yang et al., 2002b)。糖新生およびグルコース利用からの流入に加えて、反応16(GAP+S7PからF6P+E4Pに)もG6P+F6Pプールの再生に関与しており、同時に消費されたS7Pが補給される。興味深いことに、RuBP再生の過程では、炭素の流れの主流は3PGからGAP、X5P、Ru5PおよびRuBPへのものであり、それらの中間体プールは、糖質代謝ネットワークの性質に起因する化学反応障壁により、G6P+F6P、E4PおよびS7Pといった他の中間体からは比較的分離されていた。
【0174】
解糖およびペントースリン酸経路
いくつかの論文により、光合成従属栄養性条件下ではG6Pの大半がペントースリン酸経路(6-ホスホグルコン酸の脱カルボキシル化を伴う)を通じて利用され、解糖を通じて代謝されるのは極めてわずかであることが示唆されている(例えば、(Pelroy et al., 1972;Yang et al., 2002a))。実際に、S7Pは光合成従属栄養性条件下で非常に迅速に完全に標識され(図7)、このことは、活性ペントースリン酸回路に一致して、すべての糖リン酸プール(E4P、X5Pなどを含む)が迅速に標識されることを指し示している。完全なS7Pの標識は光混合栄養条件下では観察されず(図5)、このことは標識されていない糖リン酸プールが著しく多く、かつおそらくはG6Pのホスホグルコン酸への変換がより少ないことを指し示している。しかし、シネコシスティスにおいて、Knowles and Plaxton(Knowles and Plaxton, 2003)は、光混合栄養性の増殖条件と光合成従属栄養性の増殖条件とを比較して、グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PDH)(および同様にホスホフルクトキナーゼ)の活性が不変のままであることを報告しており、このことは、解糖およびペントースリン酸経路反応の大部分が主として基質レベルで調節されることを示唆する。しかし、G6P+F6Pプール(表1)ならびにG6P/F6P分布(非提示データ)について、2つの増殖条件間でそれほど大きな変化はなかった。また、暗所のグルコース存在下では、G6PDH活性が10倍以上に上昇し(Kurian et al., 2006)、かつ無細胞抽出物においてRuBPおよびNADPHによってG6PDHが高度に阻害されることが報告されている(Pelroy et al., 1972;Pelroy et al., 1976)。このため、少なくとも光合成従属栄養性条件下ではペントースリン酸経路を通じての重要なフラックスが明らかであり、これは観察所見と十分に一致する。
【0175】
光混合栄養条件下では、13Cグルコースによって1つの炭素が標識されたG6P+F6Pのピークから、G6PDHが依然として機能的であることが判明したが、これらの条件下では3PG+2PGプールは迅速には標識されなかったため、このフラックスは極めて少ない可能性がある。しかし、いくつかの研究では(Shasri and Morgan, 2005;Yang et al., 2002a)、このフラックスは無視されている。光強度および無機炭素供給源を主とする増殖条件の違いはあるものの、この食い違いは彼らのデータの解釈によって生じている可能性が高い。ペントースリン酸経路およびカルビン-ベンソン-バッシャム回路は主として逆過程であるが、混合栄養性条件下でのカルビン-ベンソン-バッシャム回路の優位性からはG6PDHが依然として機能的である可能性は否定できない。本発明者のフラックスマップを以前のもの(Yang et al., 2002a)と比べたもう1つの主要な違いは、本発明者の構築した代謝ネットワークでは、DHAP、GAPおよび3PG+2PGプールを、中心的な代謝ネットワークにおける役割および13C標識測定における区別可能な挙動を理由として、別々に考慮したことであった。C13炭酸水素塩による3PG+2PGの標識パターンに基づき、光混合栄養条件下では、再利用された3PGからのG6P+F6Pの再生が必要なことが見いだされた。
【0176】
ここに提示した結果は、安定な同位体標識の経時的な直接的検出が、化合物間の代謝的接続および速度を決定するための直接的な手法を与えることを指し示している。この研究は現在のところ第一段階であり、化合物のモデル化ならびにより高感度な検出が、より詳細な分析の助けになると考えられる。さらなる標識、より高感度な代謝産物の検出を適用し、かつ突然変異分析と組み合わせることにより、さらにより詳細なインビボ代謝フラックス分析を実施することができる。この方法は、特定の固定炭素化合物を容易に取り込める微生物に対して、それらの代謝フラックスの直接的および迅速な測定のために、まだ十分に解明されていない代謝ネットワークを有する微生物さえも用いて、容易に適用することができる。
【0177】
(表6)光合成従属栄養性に増殖させたシネコシスティス菌種PCC 6803における13C-グルコース標識後のヘキソース-6-リン酸(G6P+F6P)、ホスホグリセリン酸(3PG+2PG)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、およびセドヘプツロース-7-リン酸(S7P)のアイソトポマー分布動態a

a データは3回の独立した実験の平均を表した。
b ID、アイソトポマー分布:化合物の総量に対するアイソトポマーのパーセンテージ。
SD、標準偏差。
【0178】
accABCDの過剰発現に向けて
脂質生合成の増加に向けての代謝エンジニアリングの第1の段階は、アセチル-CoAカルボキシラーゼ酵素の構成要素であるAccABCDを過剰発現させることである。シネコシスティス菌種PCC 6803由来のaccA、accB、accCおよびaccD遺伝子のコード領域はPCR増幅されており(図12)、シネコシスティスゲノムにおけるこれらの遺伝子の一斉発現のためのプラスミドは図13に表示されている。
【0179】
実施例3
PHB(バイオプラスチック)含有量を増加させるための改変されたシアノバクテリア
1.材料および方法
細菌株および培養条件:シネコシスティス菌種PCC 6803におけるPHB合成の生理的役割を解明するために、代謝経路が変更されており、その結果としてPHB含有量が著しく異なる一連の突然変異体をさまざまな培養条件下で比較した。3種の末端オキシダーゼ(シトクロムaa3型シトクロムcオキシダーゼ(CtaI)、推定的シトクロムbo型キノールオキシダーゼ(CtaII)、およびシトクロムbd型のキノールオキシダーゼ(Cyd))を欠く突然変異体が記載されている(Howitt et al., 1998)。光合成酸素発生および呼吸酸素消費の両方がないPS II欠如/オキシダーゼ欠如型突然変異体が、光化学系IIのCP47タンパク質をコードするpsbBのさらなる欠失によってその後に樹立された(Howitt et al., 2001)。Dr. Michael Gurevitz(Tel-Aviv University, Israel)から寄贈されたシアノラブラム(CyanoRubrum)は、元のシアノバクテリアRuBisCO遺伝子が、酸素非発生型光合成を行う生物であるロドスピリルムラブラム(Rhodospirillum rubrum)由来の対応する遺伝子によって置き換えられた突然変異体である(Amichay et al., 1992)。R.ラブラムのRuBisCOはカルボキシル化活性に対して酸素化活性が相対的に高いため、この突然変異体は高いCO2濃度下でのみ増殖しうる。Dr. Teruo Ogawa(以前はUniversity of Nagoya, Japan)から寄贈された、I型NADPH選好性デヒドロゲナーゼ(NDH-1)を欠くndhB-株も、Ci輸送障害が理由で増殖のためにCO2を多く含む空気を必要とする(Ogawa, 1991)。NADHを酸化するII型デヒドロゲナーゼ(NDH-2)を欠く菌株を、シネコシスティス菌種PCC 6803に認められる3つの対応する遺伝子(ndbA、ndbBおよびndbC)(Howitt et al., 1999)の欠失によって構築した。
【0180】
シネコシスティス菌種PCC 6803の野生型、末端オキシダーゼ欠如型、PS II欠如/オキシダーゼ欠如型およびNDH-2欠如型の突然変異体をBG-11培地中で増殖させ、30℃にて空気の気泡を通した;シアノラブラムおよびNDH-1欠如株にはCO22%に高めた空気の気泡を通した。BG-11培地は5mM TES[N-トリス(ヒドロキシメチル)メチル-2-アミノエタンスルホン酸]-NaOH(pH 8.0)で緩衝化したが、PS II欠如/オキシダーゼ欠如培養物に対しては例外として10mM TES-NaOH(pH 8.0)を添加した。PS II欠如/オキシダーゼ欠如体は光合成独立栄養的に増殖する能力を失っているため、これにはすべての条件下で培地中に5mMグルコースを添加した。指定された場合には、NaNO3をBG-11から除き、10mM NH4Clに置き換えた(「N減少」)。窒素またはリンを欠乏させた培養物は、通常のBG-11培地中で増殖させてペレット化した細胞を洗浄し、NaNO3またはK2HPO4をそれぞれ除いたBG-11中に移すことによって得た。窒素またはリンを制限する条件では、培地中の各々の供給源を元の濃度の10%に減らした。指定された場合には、グルタミン酸シンターゼ(グルタミン酸シンターゼ-グルタミン(アミド)-2-オキソグルタル酸アミノトランスフェラーゼ(GOGAT)としても知られる)の特異的阻害薬である6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン(DON)を、BG-11培地に最終濃度0.5mMで添加した。
【0181】
プレート上での増殖に関しては、1.5%(w/v)寒天および0.3%(w/v)チオ硫酸ナトリウムを添加し、遺伝子不活性化とともに導入された抗生物質耐性マーカーの存在のために特定の菌株が耐性を有している抗生物質をBG-11に補充した。用いた濃度は以下の通りである:ゼオシン20μg ml-1、カナマイシン25μg ml-1、エリスロマイシン25μg ml-1、スペクチノマイシン25μg ml-1および/またはクロラムフェニコール14μg ml-1
【0182】
別に指定した場合を除き、菌株を、50μmol光子m-2s-1の光強度で光合成独立栄養的に増殖させた。Shimadzu UV-160分光光度計を用いて、730nmで培養物の光学密度を測定することによって増殖をモニターした。指数期中期の培養物はOD730がほぼ0.5の時点で収集した;定常期培養物は7日間の増殖後に採取した。
【0183】
光学顕微鏡および電子顕微鏡:
PHB顆粒を光学顕微鏡によって観察するために、濾過滅菌したオキサジン染料ナイルブルーAの1%水溶液50μlをシネコシスティス培養物の2mlのアリコートに添加し、細胞を標準的な条件下で12時間増殖させて、その後に観察した。細胞を遠心分離によってペレット化し、BG-11培地で2回洗浄した。1%(w/v)BG-11寒天の薄層を用いて細胞を顕微鏡スライド上に固定し、直ちにカバースライドを被せた。Zeiss落射蛍光顕微鏡(Axioskop)またはLeica TCS SP2多光子共焦点レーザー走査顕微鏡により、励起を488nmとして蛍光放出を560nm〜620nmで検出する形で、スライドを検査した。細胞形態は微分干渉コントラスト(DIC)モードで、または染色後に蛍光モードでモニターした(励起フィルター:BP 450-490.ビームフィルター:FT 510.バリアーフィルター:BP 515-565)。透過型電子顕微鏡検査は本質的には以前に記載された通りに行った(Mohamed et al., 2005)。細胞をBalzers高圧冷凍器を用いて極低温固定した。凍結置換を1%グルタルアルデヒドおよび2%タンニン酸を含むアセトンを用いて-85℃で48〜72時間かけて行い、1%0sO4を含むアセトン中でさらに8時間かけて固定した。細胞をSpurrs樹脂中に包埋し、70nm厚切片を切り出した;続いてこれらの切片を酢酸ウラニルおよびクエン酸鉛で後染色した。Philips CM 12走査透過型電子顕微鏡を用いて細胞を80kVで描出した。
【0184】
PHA分析および定量:
種々の菌株の細胞内PHA含有量をガスクロマトグラフィー-質量分析(GC/MS)によって分析した。細胞培養物(200〜400ml)をOD730=0.5(指数期に相当)またはOD730>1.0(定常期に相当;7日間培養)の時点で遠心分離(10分間、3,200×g、4℃)または孔径1μmの膜を通す濾過によって収集し、細胞を水で2回洗浄した。その結果得られたペレットを液体窒素中で凍結させ、-80℃で保存して、少なくとも24時間かけて凍結乾燥させた。続いて細胞を105℃で4時間乾燥させた。乾燥細胞(10〜30mg)を1.5mlクロロホルム中にてMini-BeadBeater(商標)(Biospec Products, Bartlesville, OK)で破砕し(60秒×3回)、破砕と破砕の間に氷上で30秒間ずつインキュベーションを行った。1mlアリコートを採取し、メタノリシスのために1mlの酸性化メタノール(20%HCl v/v)と合わせた。試料およびPHB標準物質(0.1〜10mg/ml)を、Teflon被覆キャップ付きの15ml Pyrex試験管内で95℃で2.5時間加熱した。その後に、氷上で5分間インキュベーションし試料を冷却した。より高密度のクロロホルム相の0.5mlを、0.5ml H2Oを含む別の10ml Pyrexチューブに移すことにより、さらなる精製を行った。3分間激しく振盪して遠心分離した後(1,500×gを3分間)、PHBメチルエステルを含むクロロホルム相の2μlを分析用のGCカラムに注入した。
【0185】
GC/MS分析は、DB-5 MSカラム(30m×内径0.25μm、フィルム厚0.25μm)を付けたShimadzu 17-Aガスクロマトグラフ、およびデータプロセッサ(GCMSsolutionsソフトウエア;Shimadzu, Japan)とつなげたShimadzu QP5000質量分析計で行った。200℃で線速度を20〜30cm/sとし、ヘリウムを担体ガスとした。注入ポートの温度は210℃に設定し、インターフェース温度は250℃に設定した。以下のGCオーブン温度プロファイルを用いた:60℃で1分間、その後に8℃/分の温度上昇速度で160℃にし、続いて160℃での等温加熱を5分間、200℃での実行後処理(post-run)を4分間。平衡時間は60℃で2分間とした。定量精度をさらに高めるために、全イオンスキャンモードでの各々の検出の後に単イオンモニタリング(SIM)モードを用いた。
【0186】
ニコチンアミドヌクレオチドアッセイ:
各菌株におけるニコチンアミドヌクレオチドレベルを分析するために、2つの独立した方法を用いた。まず、NADおよびNADPの還元レベルを、(Zhang et al., 2000)から改変した酵素反応法によって分光光学的に決定した。約400〜500mlの液体培養物を4℃での遠心分離によって収集した。ペレットをH2Oで2回洗浄し、0.1M Tris-HCl、pH 8.0、0.01M EDTAおよび0.05%(v/v)Triton X-l00を含む1mlの抽出緩衝液中に再懸濁させた。ガラスビーズ(直径70〜100μm)の体積のおよそ半分を添加し、細胞をMini-BeadBeater(商標)で破壊した(30秒×4回、振盪の間には氷上で1分間のインキュベーション)。破壊の後は、ピリジンヌクレオチドの光分解を避けるためにすべての段階を暗所で行った。この混合物をEppendorf微量遠心分離機により14,000rpmで3分間遠心分離し、上清を新たなチューブに移した。脂質および大部分のタンパク質を除去するために、上清をクロロホルムの容積の半分で2回抽出した。340nmでの吸光度の読み取り値を、以下の4通りの条件下で取得した。総(NADPH+NADH)レベルは、20μlの抽出物を元の抽出緩衝液に添加して最終容積を1mlとすることによって決定した(A1)。0.1M Tris-HCl(pH 8.0)、0.01M MgCl2、0.05%(v/v)Triton X-100、5mMグルコース-6-リン酸および5.0IUのNADP特異的グルコース-6-リン酸デヒドロゲナーゼ(G6PD;Sigma Chemical Co.、G-4134)を含む1mlの反応混合物に別の抽出物20μlを添加して、37℃で5分間インキュベートすることにより、試料中のすべてのNADP+をNADPHに変換させた(A2)。20μlの抽出物の第3のアリコートを、0.1Mリン酸緩衝液(pH 7.6)、0.05%(v/v)Triton X-100、5mMグルタチオン(GSSG)および5.0IUのグルタチオンレダクターゼ(GR;Sigma)を含む反応混合物とともに25℃で5分間インキュベートして、すべてのNADPHをNADP+に変換させた(A3)。第4の読み取り値は、20μlの抽出物の、0.1M Tris-HCl、pH 8.0、1%(w/v)ウシ血清アルブミン、7%エタノール、5.0IUのNAD特異的アルコールデヒドロゲナーゼを含む1mlの混合物中での、NAD+をNADHに変換させる25℃での5分間の反応後に取得した(A4)。抽出物を添加する前に、すべての反応混合物を対応する温度で5分間プレインキュベートした。A1−A3は試料中のNADPHの総量に相当する;A2−A1はNADP+の総量に相当する;A3はNADHの総量に相当する;A4−A1はNAD+の総量に相当する。NAD(P)Hのモル吸光係数は6.3×103cm-1とされている(Bergmeyer, 1975)。
【0187】
誘導体化の後にNADP-NADPHおよびNAD-NADHを抽出および検出するための、Klaidmanら(1995)の方法を改変した、蛍光を利用する高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)の方法は以前に記載されている(Cooley et al., 2001)。第1に、1リットルの細胞(OD730=0.5)をペレット化し、0.06mM KOH、0.2mM KCNおよび1mMバトフェナントロリンジスルホン酸を含む混合物中に再懸濁させて1mlとした。この溶液中で、酸化型のNADおよびNADPをCNで誘導体化し、酸化型が蛍光(330nmでの励起により460nmで発光)によって還元型のそれとほぼ同等の効率で描出されるようにした(Klaidman et al., 1995)。ガラスビーズを総容積1.5mlに対して添加し、細胞を上記の通りに破壊した。不溶性物質を除去するために試料をEppendorf 5415微量遠心分離機により14,000rpmで5分間遠心分離し、脂質が確実に除去されるように上清を0.5倍容積のクロロホルムにより抽出した。試料を孔径0.45μmの微量遠心分離機用スピンフィルターを通して遠心分離し、その後にローディングを行った。酸化型および還元型のNADおよびNADPの濃度および比を、HP1100 LCをAgilent 1100蛍光検出器およびSupelco Supelcosil 5μm C18カラム(ヌクレオチドの効率的な分離用の4.6mm×250mmの分析用カラム)とともに用いた、蛍光検出を伴うHPLCによってモニターした。
【0188】
2.結果
PHA顆粒の視覚的同定:
位相差光学顕微鏡検査によるPHA顆粒の直接観察は、細菌におけるPHAに対して実行可能なスクリーニング方法として一般に用いられている(McCool et al., 1999)。しかし、シアノバクテリアに対しては、チラコイド膜ならびにシアノフィシンおよびポリリン酸などの封入体の存在のため、この方法を適用することはできない。PHA顆粒の視認性を強化するために、細胞を親油性オキサジン染料であるナイルブルーAで染色した。この染料のオキサゾン形態であるナイルピンクは、水溶液中でのナイルブルーAの自然酸化によって形成される。従来より、ナイルブルー染色は、細胞を死滅させるスライド上への細胞の熱固定と、比較的高濃度の染料による染色を含む(Ostle et al., 1982)。しかし、シアノバクテリアにおいて、この処理により、色素の存在のためにバックグラウンド蛍光が高くなる。その代わりに、生きているシアノバクテリア細胞を、0.04%(w/v;最終濃度)のナイルブルーA水溶液を指数期初期にある培養物の2mlのアリコートに添加することによって染色し、培養物をさらに12時間増殖させて、その後に試料採取を行った。対照実験により、最大0.25%(w/v)までの染料は細胞増殖速度または最大細胞密度に影響を及ぼさないことが示された(非提示データ)。顕微鏡用スライド上の寒天中に包埋された細胞は、これらの条件下で、ナイルブルー/ナイルレッドの蛍光発生量の大きな減少を伴うことなく、少なくとも3〜4時間生存することができた。
【0189】
励起されると、PHA顆粒は、シネコシスティス細胞の赤色の自己蛍光バックグラウンド上に鮮やかな橙色の点として視認される(図9)。通常のBG-11培地中での栄養バランスのとれた条件下では、定常期の後期になるまで、野生型(図9A)またはシアノラブラム株もしくはNDH-2欠如株(非提示)の細胞内に少数のPHB顆粒が検出された。しかし、PS II欠如/オキシダーゼ欠如型(図9D)、オキシダーゼ欠如型(図9E)およびNDH-1欠如型(図9F)の突然変異体の細胞内では、BG-11培地中での指数増殖期にあっても多数の顆粒が観察された。窒素供給源を元の濃度の10%に減少させた窒素制限培地に移した後に、野生型はほぼ直ちにPHAを蓄積しはじめ、定常期には細胞1個当たり平均約4個の顆粒が認められた(図9B)。塩化アンモニウムなどの還元型窒素供給源を、硝酸塩に置き換えて増殖培地に供給したところ、光合成独立栄養的に増殖させた野生型は指数増殖期にPHAを蓄積した(図9C)。アンモニウムによる硝酸塩の置換後に、培養物は正常な速度で増殖し、その正常な外観を保った。
【0190】
前の段落に提示した結果は、還元型の固定窒素供給源がPHAの蓄積を招くことを示唆しており、これはおそらく硝酸塩の還元のために用いられるNADH/NADPHに対する需要が低くなるためと思われる。しかし、それに代わる説明として、窒素の利用可能性の低下それ自体がPHA蓄積を招くことも考えられる:16.7mM硝酸塩を10mMアンモニウムによって置き換えたが、これはより高いアンモニウム濃度が有毒なためである。この可能性を検証するために、グルタミン酸シンターゼの特異的阻害薬DONを0.5mM(最終濃度)で、BG-11培地中にある指数増殖中の野生型培養物に添加した。窒素同化が阻止されると、培養物の色調はフィコビリンタンパク質の分解を反映して青緑色から黄褐色に急に変化した。しかし、DONの存在下および非存在下で、野生型で見いだされるPHA顆粒の数は非常に類似しており、細胞1つ当たり1つまたはそれ未満であった(非提示データ)。このため、窒素同化の不足それ自体がPHA蓄積を招くのではない。
【0191】
電子顕微鏡検査:
ナイルブルーAで染色される蛍光性顆粒が実際に、PHA顆粒に類似した封入体であるかを検証するために、標準的なBG-11中で増殖させて極めて少数の蛍光性顆粒が認められた指数期の野生型シネコシスティス菌種PCC 6803、ならびに他の2つの菌株(オキシダーゼ欠如型およびPS II欠如/オキシダーゼ欠如型突然変異体)およびN制限後の野生型に対して電子顕微鏡検査を行った(図10)。後者の3つの場合には、ナイルブルー染色顆粒のレベルの上昇が観察された。実際に、ナイルブルーA蛍光性顆粒の数は、透過型電子顕微鏡検査用の切片の厚さ(70nm)が、細胞を横切るz軸に沿った蛍光焦点視野の投射(600〜800nm)よりも小さいということを考慮に入れた上で、細胞内の開き空間の数と非常によく相関した。PHA顆粒は一般に、電子顕微鏡検査では電子透過性封入体として描写され(Ballard et al., 1987)、これはおそらくPHAが試料調製中に洗い流されるためと考えられる。多数の切片の調査により、通常の条件下で増殖させた野生型では、切片化した細胞の約20%しかこの種の顆粒を含まず、切片化した各細胞における顆粒の数が3つを上回ることはなかった(表7)。しかし、PS II欠如/オキシダーゼ欠如型突然変異体では、切片化した細胞の大多数が少なくとも1つの顆粒を含み、顆粒サイズは、通常の条件下で増殖させた野生型における顆粒サイズ(直径約75nm)と比べてはるかに大きかった(直径平均145nm)。切片の厚さを超える直径を有する顆粒については、試料調製中に顆粒がどのように切断されたかに応じて、顆粒直径を過小評価している可能性があることに留意されたい。窒素制限下の野生型細胞では、チラコイド構造はあまり組織化されておらず(図10D)、細胞1つ当たりの顆粒の平均数は1桁多かった。図10CおよびDに示されているように、シネコシスティスにおいて、顆粒は通常はチラコイドまたは細胞質膜に付随しては認められず、これは、PHB顆粒がチラコイド膜に非常に近接しているか取り囲まれているシネコシスティスMA19における状況、または顆粒が時に細胞質膜と密に付随して認められる、グリコーゲン生合成に欠陥のあるシネコシスティス突然変異体における状況とは対照的である。
【0192】
(表7)シネコシスティス菌株の電子顕微鏡検査用薄切片(70nm)で認められたPHA顆粒の平均数および直径

a 調査は、少なくとも50個の細胞を通過する切片に対して行った;顆粒の数は、切片化された細胞1つ当たりの平均顆粒数を表している。
b 顆粒の直径は、各菌株で算定された全顆粒に対して平均化した。
【0193】
PHAはその組成物の点でさまざまである可能性があり、これらの封入体の化学的性質を決定するためにGC/MSを用いた。それを行うためには、細胞を特定の培養段階で収集し、凍結乾燥によって乾燥させて、その後に残留水分を除去するために105℃で加熱乾燥させた。細胞を破壊した後に、材料をクロロホルム中でのメタノリシスに2.5時間にわたり供した。主なメタノリシス産物の1つ(図11A中のピーク1)の質量パターンは、3-ヒドロキシ酪酸のメチルエステルのみと一致したが(図11B)、ヒドロキシバレレートまたは他のエステルの証拠は得られなかった。観察された第2の主ピークはレブリン酸のメチルエステルと同定され(図11C)、それは後に、乾燥細胞におけるグルコースまたはグリコーゲンの存在によって導入されたアーチファクトであることが立証された(非提示データ)。これらのデータは、シネコシスティス菌種PCC 6803が産生しうる唯一のPHAはPHBホモポリエステルであることを指し示している。
【0194】
PHB含有量:
前の項で示されたように、PHBの蓄積は菌株の遺伝子型のみによって決まるのではなく、細胞増殖の段階または条件とも関係している。種々の条件および種々の菌株におけるPHB蓄積の量が表8に列記されている。PHB含有量は、乾燥細胞からのPHBの抽出およびメタノリシスの後にGC/MSによって決定し、Sigmaから購入したPHBを標準物質として用いた。PHB含有量(乾燥重量に占める割合(%))は、蛍光および電子顕微鏡検査での描出によって予想されたよりも一貫して少なかった(図9および10)。これはおそらく、PHB抽出および/またはメタノリシスが完全ではなかったためと思われる。このため、表8に列記されたPHB含有量は、PHBの量の下限を表している。しかし、抽出効率はすべての細胞および条件に関して同程度であると予想され、このため、菌株および条件の間でPHB含有量を量的に比較することは可能である。バランスのとれた栄養分を有する培地中での通常の増殖条件下では、野生型の菌株もNDH-2欠如型菌株およびシアノラブラム菌株もPHBをわずかしか合成せず、PHB含有量は0.3%またはそれ未満であった。しかし、オキシダーゼ欠如型突然変異体およびNDH-1欠如型突然変異体は、これらの条件下でPHBを1桁多く蓄積し、PS II欠如/オキシダーゼ欠如型突然変異体は、オキシダーゼ欠如型およびNDH-1欠如型の菌株よりもさらに2倍の量のPHBを蓄積した。
【0195】
(表8)さまざまな増殖条件下でのシネコシスティス菌種PCC 6803およびその突然変異体におけるPHB蓄積
列記した条件下で培養物を7日間増殖させ、その後にPHB含有量を分析した。示された結果は3回の独立した実験の平均である。

a 別に指定した場合を除き、培養物は、5mM TES-NaOH(pH 8.0)を補充したBG-11培地中で、50μmol光子m-2s-1の下で光合成独立栄養的に増殖させた。
b BG-11中の硝酸塩を1.67mMに減らした(元の濃度の10%)。
c BG-11中の硝酸塩を10mM NH4Clに置き換えた。
d BG-11に10mM酢酸ナトリウムを補充した。
e BG-11に10mM TES-NaOH(pH 8.0)緩衝液および5mMグルコースを補充した。
f 2%CO2を加えた空気による気泡を通した。
ND:測定せず。
【0196】
窒素制限条件下では、すべての菌株が高レベルのPHBを蓄積した。すなわち、量は、通常の条件下でのPS II欠如/オキシダーゼ欠如株におけるものと概ね同等であった。細胞に還元型窒素供給源をアンモニアの形態で与えた場合にも、同様の結果が得られた。
【0197】
PHBは還元型NADPおよびNAD(P)Hをアセトアセチル〜CoA還元に用いる条件下で蓄積するように思われたため、PHBはNADPを再生させる発酵産物である可能性があり、このため、微好気性条件下で増殖させたいくつかの菌株におけるPHBレベルを決定した。これらの菌株におけるPHBレベルは、通常条件下で増殖させた対照物におけるPHBレベルと同程度であり(非提示データ)、このため、PHBはシネコシスティスにおける発酵産物ではないと思われる。
【0198】
PHB経路の開始部付近の代謝産物レベルがPHB合成に影響を及ぼすか否かを明らかにするために、10mM酢酸Naを培養物に添加した。表8に示されているように、野生型細胞は4.7%ものPHBを蓄積し、このことは細胞における酢酸塩(またはそれに由来する代謝産物)のレベルがPHBレベルに大きく影響することを示唆する。
【0199】
考慮に入れるべきもう1つの要因は培養物の増殖速度であり、これは、バッチ培養では、指数期の終点での細胞1つ当たりのPHB含有量が同程度であるならば、増殖速度がより大きい菌株の方がより遅く増殖する菌株よりも多くのPHAを産生すると考えられるためである。さまざまな条件下での種々の菌株の増殖が表9で比較されている。対照条件下では、オキシダーゼ欠如株を除くすべての突然変異体が野生型よりも遅く増殖した。窒素制限条件下では、すべての菌株が倍加時間16〜21時間で増殖した。酢酸塩またはアンモニウムの存在下では、菌株は本質的には標準的なBG-11中におけるのと同じ速度で増殖した。したがって、さまざまな突然変異体およびさまざまな条件におけるPHB蓄積の大きな違いを、単に増殖速度の違いによって説明することはできない。
【0200】
(表9)さまざまな培養条件下で増殖させたシネコシスティス菌種PCC 6803の野生型および突然変異体の倍加時間
示されたデータは少なくとも3回の独立した測定の平均である。

a 別に指定した場合を除き、培養物は、5mM TES-NaOH(pH 8.0)を補充したBG-11培地中で、50μmol光子m-2s-1の下で光合成独立栄養的に増殖させた。
b BG-11中の硝酸塩を1.67mMに減らした(元の濃度の10%)。
c BG-11中の硝酸塩を10mM NH4Clに置き換えた。
d BG-11に10mM酢酸ナトリウムを補充した。
e BG-11に10mM TES-NaOH(pH 8.0)緩衝液および5mMグルコースを補充した。
f 2%CO2を加えた空気による気泡を通した。
ND:測定せず。
【0201】
酸化還元補因子レベル:
ここまでの結果は、PHB蓄積が、添加した酢酸塩の存在を含む、特定の条件下で起こることを指し示すように思われる。PHB合成のために重要な、考えられるもう1つの要因は細胞内でのNADPHレベルであり、これはNADPHがPHB合成のために用いられるため、および高いNADP還元レベルはTCA回路におけるイソクエン酸デヒドロゲナーゼを阻害すると思われ(Cooley et al., 2000)、このため高い酢酸塩レベルを招く可能性があるためである。PHB蓄積と細胞の酸化還元状態との関係を明らかにするために、細胞質の酸化還元状態の指標として、還元型/酸化型ニコチンアミドヌクレオチドのレベルを測定して比較した。NADPH/NADPレベルおよびNADH/NADレベルを、特定の処理後の340nmでの分光光度検出、および蛍光検出を伴うHPLCという2つの独立した方法を用いて決定した。分光光度法は迅速であるが完全には特異的でない可能性があり、一方、HPLC方法は遅い(それ故にアーチファクト相互作用が起こる時間が増す)ものの、より特異的である。その結果得られた2組のデータは同等であり、その差は20%未満であった(非提示データ);このため、ここにはHPLCデータのみを提示している(表10)。これらの決定に関して、培養物はすべて指数期中期に収集し、30分以内に抽出した上で以降の実験に用いた。
【0202】
(表10)BG-11中、ならびに窒素制限条件および還元型窒素(NH4Cl)条件下で増殖させた、指数期にあるさまざまな菌株における、定常状態ピリジンヌクレオチドレベルおよび還元型/全補因子の比(濃度はμM/OD730

a 別に指定した場合を除き、培養物は、5mM TES-NaOH(pH 8.0)を補充したBG-11培地中で、50μmol光子m-2s-1の下で光合成独立栄養的に増殖させた。
b BG-11中の硝酸塩を1.67mMに減らした(元の濃度の10%)。
c BG-11中の硝酸塩を10mM NH4Clに置き換えた。
d BG-11に10mM酢酸ナトリウムを補充した。
e BG-11に10mM TES-NaOH(pH 8.0)緩衝液および5mMグルコースを補充した。
f 2%CO2を加えた空気による気泡を通した。FR:完全に還元
ND:測定せず。
【0203】
異なるシネコシスティス菌種PCC 6803株の間でのNAD(H)およびNADP(H)の総量には最大で約10倍の違いがあった。しかし、各菌株については、異なる培地中で増殖させた場合のNAD(H)およびNADP(H)の量は最大でも3倍〜4倍の違いに過ぎなかった(表10)。すべての菌株におけるNAD(H)レベルは比較的低く、データ中の標準偏差はそれに対応して大きかったものの、NADPプールのサイズは大きく、異なる菌株間で最大10倍の違いがあった(表10)。以前の観察所見に一致して(Cooley et al., 2001)、NADおよびNADPの還元状態は菌株に大きく依存した。NADはNDH-2欠如株では完全に還元されており、他の菌株ではNADの35〜70%が還元されていた。NDH-1欠如型突然変異体ではNADP(H)プールの事実上すべてが還元されていたのに対し、オキシダーゼ欠如型突然変異体ではNADPの40〜70%が還元されていた。これとは対照的に、野生型、シアノラブラム株およびNDH-2欠如型突然変異体ではNADPプールはむしろ酸化されていた。このため、後者のパラメーター(NADP還元状態)は、PHB蓄積のレベルと相関するように思われる。
【0204】
NADP還元状態とPHB蓄積の量との間の相関についてさらに調べるために、NADPおよびNADのレベルならびに還元状態を、野生型ならびにオキシダーゼ欠如型およびPS II欠如/オキシダーゼ欠如型の突然変異体において、固定窒素制限および還元型窒素供給源(アンモニア)の存在の関数として決定した。硝酸塩レベルを制限した、またはアンモニアの存在下にあるBG-11培地では、NADH/NAD(全)比はアンモニアの存在下または硝酸塩の量の制限下でそれほど変化しなかったが、これらの条件下で検査した3つの菌株では、NADPH/NADP(全)比は野生型における5〜6倍に増大し、オキシダーゼ欠如型およびPS II欠如/オキシダーゼ欠如型突然変異体における高い還元レベルに匹敵するレベルとなった(表10)。
【0205】
表4に報告した結果を表2に列記したPHB含有量データと比較すると、すべての場合で、高いNADPH/NADP(全)比は、シネコシスティス菌種PCC 6803におけるPHB含有量の多さと相関した。このような相関はNADH/NAD(全)比およびPHB蓄積については明らかではなかった。
【0206】
参考文献
以下の参考文献は、それらが、本明細書中に記載したものを補足する例示的な手順上またはその他の詳細を提供する範囲において、参照により明確に本明細書に組み入れられる。
米国特許第4,413,058号
米国特許第4,242,455号
米国特許第4,350,765号
米国特許第4,458,066号
米国特許第4,683,202号
米国特許第5,220,007号
米国特許第5,221,605号
米国特許第5,238,808号
米国特許第5,284,760号
米国特許第5,322,783号
米国特許第5,354,670号
米国特許第5,366,878号
米国特許第5,380,721号
米国特許第5,384,253号
米国特許第5,389,514号
米国特許第5,538,877号
米国特許第5,538,880号
米国特許第5,550,318号
米国特許第5,563,055号
米国特許第5,580,859号
米国特許第5,589,466号
米国特許第5,610,042号
米国特許第5,635,377号
米国特許第5,656,610号
米国特許第5,702,932号
米国特許第5,736,524号
米国特許第5,780,448号
米国特許第5,789,166号
米国特許第5,789,215号
米国特許第5,798,208号
米国特許第5,830,650号
米国特許第5,945,100号
米国特許第5,981,274号
米国特許第5,994,624号
米国特許出願公開第2002/0042111号
米国特許出願公開第2002/0072109号







【特許請求の範囲】
【請求項1】
発現が変更されたおよび/または遺伝子産物の機能が変えられた、1つまたは複数の関心対象の遺伝子を含む、改変された光合成独立栄養細菌であって、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現が変更されていない光合成独立栄養細菌における1つまたは複数の産物の量に比して、その細菌における脂肪酸、脂質カロテノイド、他のイソプレノイド、糖質、タンパク質、バイオガスまたはそれらの組み合わせからなる群より選択される1つまたは複数の産物の産生の増加がもたらされる、改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項2】
少なくとも1つの関心対象の遺伝子の発現が、変更され、かつ改変されていない細菌における遺伝子の発現に比して上方制御される、請求項1記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項3】
少なくとも1つの関心対象の遺伝子の発現が、変更され、かつ改変されていない細菌における遺伝子の発現に比して下方制御される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項4】
少なくとも1つの関心対象の遺伝子の発現が、改変されていない細菌の内因性遺伝子の発現の変更を介して変更される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項5】
少なくとも1つの内因性遺伝子の発現および/またはその遺伝子産物の機能が、遺伝子の欠失、遺伝子の突然変異、または遺伝子の制御配列の改変を介して変更される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項6】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、その発現および/または遺伝子産物の機能が突然変異によって変更された少なくとも1つの遺伝子を含む、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項7】
少なくとも1つの関心対象の遺伝子の発現および/またはその遺伝子産物の機能が、改変されていない細菌に対するトランスジェニック配列の付加によって変更されている、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項8】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、少なくとも1つの導入遺伝子を含む、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項9】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、その発現が変更され、かつ/またはその遺伝子産物の機能が変えられる、少なくとも2つの遺伝子を含む、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項10】
二酸化炭素を取り込んで固定する、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項11】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の、発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌による二酸化炭素の取り込みおよび固定の量に比して、二酸化炭素の取り込みおよび固定が増加しているとしてさらに定義される、請求項10記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項12】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の、発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌による脂質産生の量に比して、1つまたは複数の脂質の産生が増加しているとしてさらに定義される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項13】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の、発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌の脂質含有量に比して、脂質含有量が増加しているとしてさらに定義される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項14】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、プラスチド中で小胞を誘導するタンパク質1(vesicle-inducing protein in plastids 1)(VIPP1)の遺伝子、pspA遺伝子、yidC/oxaI相同体、プラストグロブリン(plastoglobulin)遺伝子、アセチル-CoAカルボキシラーゼ遺伝子、トランスアセチラーゼ遺伝子、デサチュラーゼ遺伝子、PEPカルボキシラーゼ遺伝子、クエン酸シンターゼ遺伝子、脂肪酸生合成遺伝子、プロテアーゼ遺伝子、グリコーゲン、ポリヒドロキシ酪酸またはシアノフィシンの生合成または分解に関与する遺伝子、ホスファチジン酸ホスファターゼ遺伝子、およびアシルトランスフェラーゼ遺伝子からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項15】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、sll0336、sll0728、sll1568、sll1848、slr2060、sll0617、slr1471、sll1463、slr0228、slr1024、slr1390、slr1604、slr0156、slr1641、slr0542、slr0165、slr0435、sll0053、slr2023、slr1511、sll1069、slr1332、slr0886、sll1605、slr1051、slr1176、slr1188、slr1024、sll1568、slr1829、slr1830、slr2001、slr2002、slr1350、sll1441、sll0541、sll0262、sll0920、sll0401、sll0534、sll0545、slr0348、sll1556、slr1254、slr0940、slr1293、sll0254、およびsll1468遺伝子、ならびにそれらの相同体からなる群より選択される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項16】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌によるカロテノイド産生の量に比して、1つまたは複数のカロテノイドの産生が増加しているとしてさらに定義される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項17】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌のカロテノイド含有量に比して、カロテノイド含有量が増加しているとしてさらに定義される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項18】
カロテノイドが、β-カロテン、ゼアキサンチン、ミキソキサントフィル、ミキソール(myxol)、エキネノン(echinenone)、およびそれらの生合成中間体からなる群より選択される、請求項16および17のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項19】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、slr0348、sll1556、slr1254、slr0940、slr1293、sll0254、およびsll1468遺伝子、ならびにそれらの相同体からなる群より選択される、請求項16および17のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項20】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌によるイソプレノイド産生の量に比して、1つまたは複数の他のイソプレノイドの産生が増加しているとしてさらに定義される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項21】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌のイソプレノイド含有量に比して、イソプレノイド含有量が増加しているとしてさらに定義される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項22】
1つまたは複数の他のイソプレノイドが、イソプレン、トコフェロール、およびそれらの生合成中間体からなる群より選択される、請求項20および21のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項23】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、植物由来のイソプレンシンターゼ遺伝子、トコフェロール生合成遺伝子、ならびにそれらの相同体からなる群より選択される、請求項20および21のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項24】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌による糖質産生の量に比して、1つまたは複数の糖質の産生が増加しているとしてさらに定義される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項25】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能が変更されていない光合成独立栄養細菌の糖質含有量に比して、糖質含有量が増加しているとしてさらに定義される、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項26】
糖質が、単糖、二糖、オリゴ糖、および多糖からなる群より選択される、請求項25記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項27】
糖質が、グルコース、ガラクトース、およびフルクトースからなる群より選択される単糖である、請求項25および26のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項28】
糖質が、単糖リン酸、キシルロース-5-リン酸、リブロース-5-リン酸、リボース-5-リン酸、フルクトース-6-リン酸、グルコース-6-リン酸、セドヘプツロース-7-リン酸、エリトロース-4-リン酸、セドヘプツロース-二リン酸、およびフルクトース-二リン酸からなる群より選択される、請求項25および26のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項29】
糖質がスクロースである、請求項25および26のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項30】
糖質が、フルクト-オリゴ糖およびマンナン-オリゴ糖からなる群より選択されるオリゴ糖である、請求項25および26のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項31】
糖質が、グリコーゲンおよびその誘導体からなる群より選択される多糖である、請求項25および26のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項32】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、グリコーゲンシンセターゼもしくはグリコーゲン分枝酵素をコードする遺伝子、または中心的な炭素代謝に関与する遺伝子を含む、請求項25〜31のいずれか記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項33】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、構成的プロモーターと機能的に連結された少なくとも1つの遺伝子を含む、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項34】
構成的プロモーターが、psbDII、psbA3、およびpsbA2からなる群より選択される、請求項33記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項35】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子が、誘導性プロモーターと機能的に連結された少なくとも1つの遺伝子を含む、前記請求項のいずれか一項記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項36】
誘導性プロモーターが、nirA、isiAB、petE、nrsRS、nrsBACD、およびndhF3からなる群より選択される、請求項35記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項37】
シアノバクテリア、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、ヘリオバクテリア、アシドバクテリア、紅色硫黄細菌、または紅色非硫黄細菌である、請求項1記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項38】
シアノバクテリアである、請求項37記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項39】
シアノバクテリアがシネコシスティス(Synechocystis)である、請求項38記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項40】
シアノバクテリアがシネコシスティス菌種PCC 6803である、請求項39記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項41】
シアノバクテリアがテルモシネココッカス(Thermosynechococcus)である、請求項38記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項42】
シアノバクテリアがテルモシネココッカスエロンガタス(Thermosynechococcus elongatus)菌種BP-1である、請求項41記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項43】
シアノバクテリアが、クロオコッカス目(Chroococcale)、ネンジュモ目(Nostocale)、ユレモ目(Oscillatoriale)、プレウロカプサ目(Pleurocapsale)、原核緑色植物(Prochlorophyte)またはスティゴネマ目(Stigonematale)である、請求項38記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項44】
目がクロオコッカス目であり、かつ種が、アファノカプサ(Aphanocapsa)、アファノテーケ(Aphanothece)、カマエシフォン(Chamaesiphon)、クロオコッカス(Chroococcus)、クロコスフェラ(Crocosphaera)、シアノバクテリア(Cyanobacterium)、シアノビウム(Cyanobium)、シアノテーケ(Cyanothece)、ダクティロコッコプシス(Dactylococcopsis)、グロエオバクター(Gloeobacter)、グロエオカプサ(Gloeocapsa)、グロエオテーケ(Gloeothece)、エウハロテーケ(Euhalothece)、ハロテーケ(Halothece)、ヨハネスバプティスチア(Johannesbaptistia)、メリスモペディア(Merismopedia)、ミクロキスティス(Microcystis)、ラブドデルマ(Rhabdoderma)、シネココッカス(Synechococcus)およびシネコシスティス(Synechocystis)、およびテルモシネココッカス(Thermosynechococcus)からなる群より選択される、請求項43記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項45】
目がネンジュモ目であり、かつ種が、コレオデスミウム(Coleodesmium)、フレミエラ(Fremyella)、ミクロケーテ(Microchaete)、レキシア(Rexia)、スピリレスティス(Spirirestis)、トリポスリックス(Tolypothrix)、アナベナ(Anabaena)、アナベノプシス(Anabaenopsis)、アファニゾメノン(Aphanizomenon)、アウロシラ(Aulosira)、シアノスピラ(Cyanospira)、シリンドロスペルモプシス(Cylindrospermopsis)、シリンドロスペルムム(Cylindrospermum)、ノデュラリア(Nodularia)、ネンジュモ(Nostoc)、リケリア(Richelia)、カロスリックス(Calothrix)、グロエオトリキア(Gloeotrichia)、およびスキトネマ(Scytonema)からなる群より選択される、請求項43記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項46】
目がユレモ目であり、かつ種が、アルスロスピラ(Arthrospira)、ゲイトレリネマ(Geitlerinema)、ハロミクロネマ(Halomicronema)、ハロスピルリナ(Halospirulina)、カタグニメネ(Katagnymene)、レプトリンビャ(Leptolyngbya)、リムノスリックス(Limnothrix)、リンビャ(Lyngbya)、ミクロコレウス(Microcoleus)、ユレモ(Oscillatoria)、フォルミディウム(Phormidium)、プランクトトリコイデス(Planktothricoides)、プランクトスリックス(Planktothrix)、プレクトネマ(Plectonema)、リムノスリックス(Limnothrix)、シュードアナベナ(Pseudanabaena)、スキゾスリックス(Schizothrix)、スピルリナ(Spirulina)、シンプロカ(Symploca)、トリコデスミウム(Trichodesmium)、およびチコネマ(Tychonema)からなる群より選択される、請求項43記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項47】
目がプレウロカプサ目であり、かつ種が、クロオコッキディオプシス(Chroococcidiopsis)、デルモカルパ(Dermocarpa)、デルモカルペラ(Dermocarpella)、ミクソサルキナ(Myxosarcina)、プレウロカプサ(Pleurocapsa)、スタニエリア(Stanieria)、およびキセノコッカス(Xenococcus)からなる群より選択される、請求項43記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項48】
目が原核緑色植物であり、かつ種が、プロクロロン(Prochloron)、プロクロロコッカス(Prochlorococcus)、およびプロクロロスリックス(Prochlorothrix)からなる群より選択される、請求項43記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項49】
目がスティゴネマ目であり、かつ種が、カプソシラ(Capsosira)、クロログロエオプシス(Chlorogloeopsis)、フィッシェレラ(Fischerella)、ハパロシフォン(Hapalosiphon)、マスチゴクラドプシス(Mastigocladopsis)、マスチゴクラドゥス(Mastigocladus)、ノストクホプシス(Nostochopsis)、スティゴネマ(Stigonema)、シンフィオネマ(Symphyonema)、シンフィオネモプシス(Symphyonemopsis)、ウメザキア(Umezakia)、およびウェスティエロプシス(Westiellopsis)からなる群より選択される、請求項43記載の改変された光合成独立栄養細菌。
【請求項50】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能を変更して、光合成独立栄養細菌における、1つもしくは複数の産物または1つもしくは複数の関心対象の遺伝子の産生の増加をもたらす段階を含む、光合成独立栄養細菌からの所望の産物の産生を増加させる方法であって、
該変更が、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現が変更されていない光合成独立栄養細菌によって産生される産物の量に比して、1つまたは複数の産物の産生の増加をもたらす、方法。
【請求項51】
所望の産物を増加した量で産生させるのに適した条件下で、光合成独立栄養細菌を増殖させる段階をさらに含む、請求項50記載の方法。
【請求項52】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能の変更が、少なくとも2つの遺伝子の発現または機能の変更を含む、請求項50および51のいずれか一項記載の方法。
【請求項53】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能の変更が、下方制御による少なくとも1つの遺伝子の発現の変更を含む、請求項50〜52のいずれか一項記載の方法。
【請求項54】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能の変更が、少なくとも1つの導入遺伝子の発現の変更を含む、請求項50〜53のいずれか一項記載の方法。
【請求項55】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能の変更が、突然変異による少なくとも1つの遺伝子の発現の変更を含む、請求項50〜54のいずれか一項記載の方法。
【請求項56】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能の変更が、上方制御による少なくとも1つの遺伝子の発現の変更を含む、請求項50〜55のいずれか一項記載の方法。
【請求項57】
光合成独立栄養細菌が二酸化炭素を取り込んで固定する、請求項50〜56のいずれか一項記載の方法。
【請求項58】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現および/または遺伝子産物の機能の変更が、1つまたは複数の関心対象の遺伝子の発現が変更されていない光合成独立栄養細菌による二酸化炭素の取り込みおよび固定の量に比して、二酸化炭素の取り込みおよび固定を増加させる、請求項50〜57のいずれか一項記載の方法。
【請求項59】
所望の産物が1つまたは複数の脂質を含む、請求項50〜58のいずれか一項記載の方法。
【請求項60】
1つまたは複数の脂質をバイオ燃料へと加工する段階をさらに含む、請求項59記載の方法。
【請求項61】
バイオ燃料がバイオディーゼルである、請求項60記載の方法。
【請求項62】
所望の産物が1つまたは複数の糖質を含む、請求項50〜58のいずれか一項記載の方法。
【請求項63】
1つまたは複数の糖質をバイオ燃料へと加工する段階をさらに含む、請求項62記載の方法。
【請求項64】
バイオ燃料がアルコールまたはガスである、請求項63記載の方法。
【請求項65】
バイオ燃料が、メタノール、エタノール、プロパノール、およびブタノールからなる群より選択されるアルコールである、請求項64記載の方法。
【請求項66】
バイオ燃料が、水素、イソプレン、メタン、エタン、プロパン、およびブタンからなる群より選択されるガスである、請求項64記載の方法。
【請求項67】
1つまたは複数の糖質をバイオプラスチックへと加工する段階をさらに含む、請求項62記載の方法。
【請求項68】
バイオプラスチックが、ポリ乳酸、ポリ-3-ヒドロキシ酪酸、またはポリ-3-ヒドロキシアルカノアートを含む、請求項67記載の方法。
【請求項69】
所望の産物が1つまたは複数のカロテノイドを含む、請求項50〜58のいずれか一項記載の方法。
【請求項70】
カロテノイドが、β-カロテン、ゼアキサンチン、ミキソキサントフィル、ミキソール、エキネノン、およびそれらの生合成中間体からなる群より選択される、請求項69記載の方法。
【請求項71】
所望の産物が、1つまたは複数のシアノフィシンまたは関連化合物もしくは誘導体を含む、請求項50〜58のいずれか一項記載の方法。
【請求項72】
光合成独立栄養細菌によって産生された余分な副産物を、バイオプラスチック、バイオ燃料、動物飼料添加物または有機肥料のうち1つまたは複数へと加工する段階をさらに含む、請求項50〜71のいずれか一項記載の方法。
【請求項73】
適した増殖条件が、光合成独立栄養細菌に二酸化炭素の供給源を与えることを含む、請求項50〜72のいずれか一項記載の方法。
【請求項74】
二酸化炭素の供給源が排煙(flue gas)から供給される、請求項73記載の方法。
【請求項75】
光合成独立栄養細菌に与えられる二酸化炭素の量が、排煙の総体積の0.03〜5.0%である、請求項73および74のいずれか一項記載の方法。
【請求項76】
適した増殖条件が、光合成独立栄養細菌に窒素の供給源を与えることを含む、請求項50〜75のいずれか一項記載の方法。
【請求項77】
固定窒素の供給源が、地下水、アンモニア、または硝酸塩から供給される、請求項76記載の方法。
【請求項78】
光合成独立栄養細菌に与えられる窒素の量が0.03〜5.0mMである、請求項76および77のいずれか一項記載の方法。
【請求項79】
適した増殖条件が、光合成独立栄養細菌を10〜55℃の温度範囲で増殖させることを含む、請求項50〜78のいずれか一項記載の方法。
【請求項80】
適した増殖条件が、光合成独立栄養細菌を日光に曝すことを含む、請求項50〜79のいずれか一項記載の方法。
【請求項81】
光合成独立栄養細菌が、シアノバクテリア、緑色硫黄細菌、緑色非硫黄細菌、ヘリオバクテリア、光合成アシドバクテリア、紅色硫黄細菌、または紅色非硫黄細菌である、請求項50〜80のいずれか一項記載の方法。
【請求項82】
光合成独立栄養細菌がシアノバクテリアである、請求項81記載の方法。
【請求項83】
シアノバクテリアがシネコシスティスである、請求項82記載の方法。
【請求項84】
シアノバクテリアがシネコシスティス菌種PCC 6803である、請求項83記載の方法。
【請求項85】
シアノバクテリアがテルモシネココッカスである、請求項82記載の方法。
【請求項86】
シアノバクテリアがテルモシネココッカスエロンガタス菌種BP-1である、請求項85記載の方法。
【請求項87】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子のうち少なくとも1つが、構成的プロモーターと機能的に連結されている、請求項50〜86のいずれか記載の方法。
【請求項88】
構成的プロモーターが、psbDII、psbA3、およびpsbA2からなる群より選択される、請求項87記載の方法。
【請求項89】
1つまたは複数の関心対象の遺伝子のうち少なくとも1つが、誘導性プロモーターと機能的に連結されている、請求項50〜88のいずれか一項記載の方法。
【請求項90】
誘導性プロモーターが、nirA、isiAB、petE、nrsRS、nrsBACD、およびndhF3からなる群より選択される、請求項89記載の方法。
【請求項91】
以下の段階を含む、1つまたは複数の所望の産物を光合成独立栄養細菌から産生させる方法:
(i)請求項1〜49のいずれか一項記載の、および/または請求項50〜90のいずれか一項記載の方法によって作製された、改変された光合成独立栄養細菌を入手する段階;ならびに
(ii)所望の産物を産生させるのに適した条件下で、光合成独立栄養細菌を増殖させる段階。
【請求項92】
所望の産物を単離する段階をさらに含む、請求項91記載の方法。
【請求項93】
1つまたは複数の所望の産物が、脂質、糖質、カロテノイド、別のイソプレノイド、タンパク質、またはそれらの混合物である、請求項91および92のいずれか一項記載の方法。
【請求項94】
1つまたは複数の所望の産物が、有機溶媒を用いた抽出、水もしくはCO2などの超臨界の無害な溶媒を用いた抽出、または二相分配による抽出によって単離される、請求項91〜93のいずれか一項記載の方法。
【請求項95】
1つまたは複数の所望の産物を、バイオ燃料、バイオプラスチック、カロテノイド、動物飼料、または肥料のうち1つまたは複数へと加工する段階をさらに含む、請求項91〜94のいずれか一項記載の方法。
【請求項96】
(i)二酸化炭素を取り込んで固定することができる、請求項1〜49のいずれか一項記載の、および/または請求項50〜90のいずれか一項記載の方法によって作製された、改変された光合成独立栄養細菌を入手する段階;
(ii)光合成独立栄養細菌を、二酸化炭素を取り込んで固定するのに適した条件下で増殖させる段階;ならびに
(iii)二酸化炭素の供給源を改変された光合成独立栄養細菌に与える段階
を含む、二酸化炭素を固定する方法であって、
供給源からの二酸化炭素の少なくとも一部分が、改変された光合成独立栄養細菌によって固定される、方法。
【請求項97】
二酸化炭素の供給源が排煙であり、排煙中の二酸化炭素の少なくとも一部分が、改変された光合成独立栄養細菌によって固定される、請求項96記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公表番号】特表2010−507369(P2010−507369A)
【公表日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−533577(P2009−533577)
【出願日】平成19年10月19日(2007.10.19)
【国際出願番号】PCT/US2007/082000
【国際公開番号】WO2008/130437
【国際公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TEFLON
2.PYREX
【出願人】(509110714)アリゾナ ボード オブ リージェンツ フォー アンド オン ビハーフ オブ アリゾナ ステイト ユニバーシティ (6)
【Fターム(参考)】