説明

改変された細胞、細胞抽出物、およびOMVベースのワクチン

生ワクチン、弱毒生ワクチン、死ワクチン、ワクチンに用いられるタンパク質調製物、およびワクチンに用いられるOMVは、CEACAM1結合Opaを含まず、抗原性ではあるがCEACAM1に結合しないOpa改変体を最大限に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラム陰性細菌による疾患、特に、ナイセリア(Neisseria)によって引き起こされる疾患の治療または予防のための、改変された細胞、細胞抽出物、ならびにOMVベースの組成物およびその成分に関する。
【背景技術】
【0002】
顕著な数のヒトおよび動物病原体が、グラム陰性に分類される細菌内に含まれる。これらには、ナイセリア、モラクセラ(Moraxella)、キンゲラ(Kingella)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ブルセラ(Brucella)、ボルデテラ(Bordetella)、ヘモフィルス(Haemophilus)、エシェリキア(Escherichia)、クラミジア(Chlamydia)、レジオネラ(Legionella)、シュードモナス(Pseudomonas)、プロテウス(Proteus)、およびエルシニア(Yersinia)の属のメンバーが含まれる。Neisseria meningitidis(髄膜炎菌)は、髄膜炎菌性髄膜炎を引き起こす生物であり、そして世界的な健康問題で特に重要である。多くの国において、この疾患の発生は増大中である。N. meningitidisはまた、髄膜炎菌敗血症の原因ともなり、これは、症状の発症が迅速で、高死亡率であり、症例のおよそ22%が致命的である。他のグラム陰性細菌は、髄膜炎(H. influenzae(インフルエンザ菌))、ペスト(Y. pestis(ペスト菌))、胃腸炎(E. coli(大腸菌))、性病(N. gonorrhoeae(淋菌))、および院内感染(P. aeruginosa(緑膿菌))を含む種々のヒト感染症を引き起こす。
【0003】
グラム陰性細菌感染に対して、動物(特にヒト)において防御免疫を提供する広いスペクトルのワクチンを提供することが望ましい。
【0004】
ヒト病原体Neisseria meningitidisに由来する外膜小胞(OMV)は、近年、防御髄膜炎菌ワクチンのための抗原の供給源として利用されている。
【0005】
広いスペクトルの防御の達成に伴う困難性に取り組むために、研究者らは、OMVの免疫原能を増強し得る特定の抗原でOMVを「富化」することを試みた。WO-A-00/25811では、N. meningitidisから単離したOMVを異種抗原、例えば、トランスフェリン結合タンパク質(Tbp)と組み合わせているか、または遺伝子改変N. meningitidisがそのような抗原を組換え発現し、そして抗原を富化したOMVをそこから誘導している。同様のアプローチがWO-A-01/09350で採用され、この文献には、N. meningitidis、M. catarrhalis、およびH. influenzae由来のOMVを含むワクチン組成物が記載される。ある実施形態では、これらの生物は、特定の免疫原部分を過剰発現するように遺伝子改変されている。
【0006】
このようなOMVベースのワクチンに伴う困難性は、十分な防御を達成するために、ワクチンが頻繁な間隔で投与されなければならないか、または防御免疫応答を維持するように追加免疫が与えられなければならないことである。
【0007】
感染症と戦う有効な抗生物質療法が利用できるにもかかわらず、淋菌(Neisseria gonorrhoeae)は、世界的に毎年約7,800万の感染を引き起こす。淋病は、激しい炎症性応答により特徴付けられ、これは、大量の尿道または頚部の膿(主に細胞外および細胞内結合N. gonorrhoeaeと好中球とからなる)の遊離に至る。感染した男性の15%および感染した女性の80%までが、無症状である。このような状況では、感染は広がる傾向にあり、そして垂直(感染母体から新生児へ)および水平(性的パートナーへ)の両方で絶えず伝染し続ける。検出されない場合、このような感染は、重大な病的状態の供給源であり、新生児における重度の結膜炎、汎発性淋菌感染、骨盤内炎症性疾患、および卵管瘢痕化による不妊症が含まれる。
【0008】
集団内のN. gonorrhoeaeの存続は、淋病が繰り返し罹患され得るという事実により、そしてこの生物への曝露または定着が、続いて起こる感染に対する個体の感受性を減少させるという証拠はほとんどない。これは、少なくとも部分的には、淋菌表面エピトープの抗原性の変動に起因し得る。しかし、個体は、同じ血清型のN. gonorrhoeaeに再感染され得る。このことは、免疫の回避が、この病原体により使用される単なる生存ストラテジーではないことを示している。
【0009】
したがって、初回または反復する淋菌感染に対する改善されたワクチン接種を提供することが望まれる。
【0010】
ナイセリア種により発現されるコロニー混濁(Opacity)(Opa)タンパク質は、重要なビルレンス決定基である。Boultonら: Nat Immunol. 2002 Mar; 3(3): 229-36は、インビトロで、Opaタンパク質がTリンパ球活性化および増殖をどのように抑制したかを記載する。Opaタンパク質が、理想のワクチン標的として文献中に記載されている。Wiertzら(Infect Immun. 1996 Jan; 64(1): 298-304)およびDe Jongeら(Infect Immun. 2003 May; 71(5): 2331-40)は、淋菌感染に対する防御において重要として、Opa抗体を同定している。De Jongeらは、Opa抗体がどのようにしてナイセリア接着を減少したかに留意し、そしてワクチン接種においてOpaを含むことを提唱している。Schneiderら(J Infect Dis. 1995 Ju1; 172(1): 180-5)は、淋病に対するOpaベースのワクチンの使用を提唱している。Plummerら(J. Clin. Invest. 1994; 93: 1748-1755)は、Opaに対する抗体と淋菌性卵管炎の減少した危険性とを相関付け、そしてOpaベースのワクチンを促進している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、グラム陰性細菌による疾患の治療または予防に用いられる微生物、組成物、およびワクチン(OMVベースのワクチンを含む)を提供することである。本発明の特定の目的のうちの1つの目的は、髄膜炎菌性疾患および淋病に対する現行のワクチン接種に伴う問題を解決するか、または少なくとも軽減するこのようなワクチンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
したがって、本発明は、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まない微生物、組成物、ワクチン、ワクチン成分、上記を得る方法、および上記をコードする遺伝子を提供する。これらは、グラム陰性細菌により引き起こされる疾患の治療または予防での使用に適する。本発明はまた、髄膜炎菌性疾患または淋菌性疾患の治療または予防に適し、そしてCD4+ T細胞の活性化または増殖を抑制するタンパク質を実質的に含まない微生物、組成物、ワクチン、ワクチン成分、上記を得る方法、および上記をコードする遺伝子を提供する。
【0013】
微生物は、代表的には、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように選択されているか、またはCEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように改変されているグラム陰性細菌(格別には、ナイセリア)である。それらは、Opaを含まないように、またはCEACAM1を結合しないOpaを発現するように、変異により改変され得る。本発明の組成物は、そのような細菌またはそれらの免疫原性抽出物、例えば、それらのタンパク質調製物を含む。微生物またはそれらの抽出物を含むワクチンは、生細菌、弱毒生細菌、または死細菌を含み得る。本明細書中の以降では、一般に、本発明の組成物とは、他に示さない限り、微生物、組成物、ワクチン、およびワクチン成分の全てをいうこととする。
【0014】
さらに、グラム陰性細菌により引き起こされる疾患の治療または予防に用いられる、微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分を選択する方法が、本明細書中に提供される。この方法は、該微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分が、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないか否かを決定する工程を含む。
【0015】
本発明のさらなる方法は、髄膜炎菌性疾患または淋菌性疾患の治療または予防に用いられる、微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分を選択するための方法であり、これは、該微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分が、CD4+ T細胞の活性化または増殖を抑制するタンパク質を実質的に含まないか否かを決定する工程を含む。
【0016】
該微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分は、好ましくは、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないか、またはCEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように改変されている。好ましい方法では、ナイセリアが、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように選択されているか、または例えば、以下に詳述するような変異により、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように改変されている。
【0017】
本発明のグラム陰性細菌の集団は、1,000以上の細菌数であり、CEACAM1を結合するOpaを発現する細菌を実質的に含まない。同様に、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まない組成物が、それから得られる。
【0018】
別の実施形態では、本発明は、グラム陰性細菌外膜小胞、好ましくは、ナイセリア外膜小胞を含む組成物を提供し、該小胞は、Opaを実質的に含まない。
【0019】
小胞のOpa含有量は、好ましくは、正常ナイセリアから得られるOMVのOpa含有量と比較して少なくとも10倍減少される。正常ナイセリアの基準は、N. meningitidis K454株から得られるOMVのOpa含有量である。より格別には、Opaは、OMVの総タンパク質含有量の0.5質量%以下である。
【0020】
本発明のさらなる組成物は、外膜小胞を含み、ここで小胞は、CEACAM1に結合しないOpaタンパク質を含む。これらの小胞は、加えて、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないものであり得る。
【0021】
本発明のなおさらなる組成物は、外膜小胞を含み、ここで小胞は、抗原性であり、Opaに結合する抗体の産生を惹起し、そしてCEACAM1に結合しないタンパク質を含む。タンパク質は、Opaの変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物であり得る。
【0022】
本発明のなおさらなる組成物は、外膜小胞を含み、ここで小胞は、CEACAM1へのOpaの結合を阻害するアンタゴニストを含む。
【0023】
用語「Opa」とは、グラム陰性菌(特に、ナイセリア)のコロニー混濁関連タンパク質をいい、これは、免疫応答を調整もしくは抑制し得るか、または腫瘍増殖を阻害し得る。好ましくは、Opaタンパク質は、CEACAM1に結合し得、そしてCEACAM1の連結反応を引き起こし、結果として免疫抑制または免疫細胞の阻害を伴う。
【0024】
特定のOpaタンパク質には、Opa52およびOpa57が含まれる。ナイセリアOpaタンパク質は高度に抗原可変性であるから、Opaタンパク質は、種々のナイセリア種によって発現され得、かつCEACAM1レセプターまたは相同な非ヒトレセプターにも結合するOpaタンパク質のいずれかであり得る。Opaタンパク質としては、それらのOpaタンパク質がCEACAM1を結合することが示されている任意のナイセリア種(病原性のNeisseria gonorrhoeaeおよびNeisseria meningitidis、ならびにNeisseria lactamicaおよびNeisseria subflavaのような共生種が含まれる)によりコードされるOpaタンパク質ならびにOpaタンパク質も発現する他の共生物によりコードされるOpaタンパク質が挙げられる。
【0025】
用語「Opaタンパク質」はまた、他の細菌種由来の類似タンパク質もいう。これは、Haemophilus influenzae(インフルエンザ菌)のCEACAM1結合タンパク質を含むが、これに限定されない。ナイセリアのOpaタンパク質と同様に、H. influenzaeのP5タンパク質は、8つの膜貫通領域および4つの細胞外ループを伴うβ−バレル構造を形成すると推定される抗原可変性の外膜タンパク質である。Opaタンパク質と同様に、P5の膜貫通領域および4番目の表面露出ループは十分に保存されているが、他の表面露出ループ内の配列は可変である。また、種々のナイセリアOpaタンパク質と同様に、H. influenzae P5タンパク質は、CEACAMレセプター(CEACAM1を含む)への結合を介して、宿主細胞への付着の際に機能する。
【0026】
本発明では、本発明者らは、CEACAM1反応性Opa含有量を目的にかなって喪失しているか、または少なくとも減少する組成物を提供する。本発明者らはまた、Opaの変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物を含む組成物を提供し、該変異体、改変体、フラグメント、模倣物、および誘導体はCEACAM1を活性化しない。したがって、これらの組成物は、疾患、格別にはナイセリア疾患、より格別には髄膜炎菌性疾患および淋菌性疾患に対するワクチンの基礎を与え、患者において免疫応答および免疫記憶の発達が改善される。変異体、改変体、フラグメント、および誘導体は、CEACAM1の活性化の不利益を生じることなく、例えば、免疫抑制および/または免疫記憶の減少を生じることなく、抗Opa抗体および他の免疫応答がインビボで生成することを可能にする。
【0027】
本発明の組成物は、患者、代表的には、ヒト患者の治療において用いるためのものであり、そして本発明は、本発明の組成物を投与する工程を含む、個体の治療方法を提供する。
【0028】
本発明はまた、ワクチン接種のための組成物の製造、およびワクチン成分に関する。したがって、ワクチンとして使用される組成物の調製のため、またはワクチンの製造における本発明の方法は、
(a)グラム陰性細菌を得る工程;
(b)細菌がCEACAM1に結合するOpaタンパク質を発現するか否かを決定する工程;
(c)細菌がOpaタンパク質を発現する場合、細菌を廃棄する工程、および工程(a)から(c)を繰り返す工程;
(d)細菌がOpaタンパク質を発現しない場合、細菌を保持する工程;および
(e)工程(d)の保持された細菌を含む組成物を調製する工程
を含む。
【0029】
細菌は、好ましくは、ナイセリアである。
【0030】
細菌は、CEACAM1反応性Opaを発現しないが、非機能的Opaを生成するものであり得、そして方法は、Opaの変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物を発現する細菌を保持する工程をさらに含み得、ここで変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物は、CEACAM1に結合しない。
【0031】
Opaのこのような変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物は、細菌集団で天然に生じ得る。しかし、本発明の好ましい方法は、このようなタンパク質の生成を誘導するものであり、そして、
(a)グラム陰性細菌を得る工程;
(b)細菌で変異誘発を行う工程;
(c)細菌が、CEACAM1に結合しないOpaタンパク質の変異体もしくはフラグメントもしくは改変体もしくは誘導体もしくは模倣物を発現するか否かを決定する工程;
(d)変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物を単離する工程;
を含む。
【0032】
ナイセリア種が、相同DNA配列間の組換えを介する変異誘発に対して天然にコンピテントであり、かつ扱いやすく、そしてさらには髄膜炎菌および淋菌のゲノム配列全体が利用できることにより、変異誘発に対する適切な部位の正確な決定が可能になる。
【0033】
本発明の細菌を作出するか、または得る1つの方法は、Opa遺伝子をクローニングし、クローニングした遺伝子を発現ベクターに挿入しそしてクローニングした遺伝子を変異誘発することである。次いで、クローニングした遺伝子を発現し得、そしてその産物を(i)CEACAM1への結合および(ii)天然型Opaに結合する抗体の生成について試験し得る。次いで、所望の特性を有する産物を生成する変異遺伝子をインビトロで発現させて、本発明の変異タンパク質を獲得し得る。このタンパク質を、組成物、格別にはワクチンに組み込み得る。この技術はまた、Opaのフラグメントの生成に適している。これは、同様に、所望の特性について試験され得る。変異遺伝子は、宿主細菌、好ましくは、ナイセリアに挿入されて、天然型CEACAM1結合Opaを置換し得る。
【0034】
トランスポゾン(Tn)は、利用可能である場合、変異誘発のために広範に用いられる。これは、以下の理由による:1)トランスポゾンの両端から配列決定することにより変異部位(トランスポゾンの挿入)をマッピングすることが容易である;2)染色体に一度のみ挿入するトランスポゾンが使用され得、このことにより、単一挿入変異から生じる変異体表現型の分析が可能になる;3)既存の手順により、多数の潜在的に興味深い変異体の同時スクリーニングが可能になる。他の古典的な変異誘発法は、紫外光の使用、およびより頻繁には、変異剤の使用を含み、DNAに物理的な変更を導入して遺伝子の変異を生じる。このような方法によって導入された変異は、個々の塩基対が標的(代表的には、G:C→A:T塩基転位)であるから、Tnによって生成された変異よりもずっとランダムである。これらのアプローチを用いると、Tn変異誘発と同様に、複雑な遺伝システムを直接使用する必要性がない。しかし、相補性によって変異部位を同定するためにベクターが必要であり得る。代表的には、薬剤の用量対生存曲線を確立し、次いで集団のおよそ90%を殺傷する用量を用いて、変異が導入されていることを確実にする。より詳細なプロトコルは、EMSおよびNTG変異誘発に関する実施例に示す。
【0035】
本発明の組成物(OMVベースのワクチンを含む)は、インビボでOpaに結合する防御抗体を誘導する抗原を含むことが望ましい。したがって、このような抗原を生成および同定するための本発明の方法は、代表的には、
(e)変異体もしくはフラグメントもしくは改変体もしくは誘導体に対する抗体を惹起させる工程;および
(f)抗体が、CEACAM1に結合するOpaタンパク質にも結合するか否かを決定する工程
もまた含む。
【0036】
また、本発明によって、Opaの単離された変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物が提供され、ここで変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物は、CEACAM1に結合せず、好ましくは、本明細書に記載の方法にしたがって得られる。
【0037】
OMVベースのワクチンは、現在、種々のナイセリア種由来のOMVを用いることにより、存在する。このようなワクチンは、CEACAM1に結合するOpaタンパク質を含み得るが、このワクチンの結果は、これまで認識されていなかった。本発明のさらなる実施形態では、ワクチンの製造または試験の方法が提供され、この方法は、
(a)グラム陰性細菌に対するワクチンもしくは提案されたワクチンの成分のサンプルを得る工程;および
(b)サンプルが、CEACAM1に結合するOpaタンパク質を含むか否かを決定する工程
を含む。
【0038】
したがって、新規および現存のワクチンをスクリーニングして、Opa含有量により、それらのワクチンが治療上の使用に適切となるかまたは不適切となるかを決定することが今や可能である。この情報はまた、試験および商業上の使用において、それぞれのワクチンの異なる効力を説明することを補助し得る。
【0039】
Opaの最大レベルが受容可能であり得、そしてこのため、必要に応じて、Opaタンパク質存在する場合、その質量%を、ワクチンまたはサンプル中の総タンパク質含有量の質量%によって決定する。ワクチンまたは成分は、サンプルがOpaタンパク質を含む場合、またはOpaタンパク質の質量%が所定レベル(例えば、0.5%)を上回る場合、排除され得る。
【0040】
本発明はまた、免疫記憶の刺激を改善しまたはT細胞機能(例えば、活性化および/または増殖)の阻害を減少させる、髄膜炎菌性または淋菌性疾患の治療または予防のための医薬の製造における(a)ナイセリアまたは(b)ナイセリア外膜小胞の使用を提供し、小胞は、(i)Opaを実質的に含まないか、(ii)CEACAM1に結合しないOpaタンパク質を含むか、(iii)CEACAM1に結合しないOpaの変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体を含むか、または(iv)CEACAM1へのOpaの結合を阻害するアンタゴニストを含む。
【0041】
本発明は、特に、グラム陰性細菌由来のOMVに適用される。これらの細菌は、公知のグラム染色法において脱色に耐え得ない細菌である。グラム陰性細菌は、複雑な多層細胞壁によって特徴付けられ、そしてしばしば外層多糖莢膜を保有するが(例えば、N. meningitidis)、いくつかの種では、この莢膜は存在しない(例えば、N. lactamica)。
【0042】
外膜小胞(OMV)(細胞表面突起とも呼ばれる)は、グラム陰性細菌の外膜の断片から形成されるか、または由来する小胞である。OMVは、代表的には、外膜タンパク質(OMP)、脂質、リン脂質、ペリプラズム物質、およびリポ多糖(LPS)を含む。グラム陰性細菌、格別には、N. meningitidisのような病原体はしばしば、突起形成として知られるプロセスで、ビルレント感染の間にOMVが脱落する。OMVはまた、多数の公知の化学変性プロセスを介してグラム陰性細菌から得られ得る。脂質二重層を含み、そして代表的には水性のコアを内包するリポソームが、本発明の目的のために、OMVに等価な合成物を構成するとみなされ得、そしてOMVに関して記載の本発明の実施形態は、小さな違いを考慮に入れて、リポソームを用いて実施される実施形態およびリポソームに関する実施形態に適用される。
【0043】
本明細書中で「ワクチン」とは、生物(代表的には、病原性生物)による感染に対して動物を免疫するために動物への接種に使用される薬学的もしくは治療用組成物と定義される。代表的には、ワクチンは、動物への投与の際に活性免疫を刺激し、そしてこれらまたは関連の病原性生物による感染に対してその動物を防御する、1つ以上の生物由来の1つ以上の抗原を含む。
【0044】
薬剤として処方されるワクチン組成物は、代表的には、キャリアを含む。溶液中または液体エアロゾル懸濁液中にある場合、適切なキャリアとしては、生理食塩水、スクロース溶液、または他の薬学的に受容可能な緩衝溶液が挙げられ得る。エアロゾル処方物は、代表的には、さらに界面活性剤を含む。あるいは、ワクチン組成物としては、マイクロカプセル化OMV組成物が挙げられる。このようなマイクロカプセルは、一般に、例えば、ポリラクチド−コ−グリコリド(PLG)から製造される、生体適合性ポリマーのシェルまたはコアを含む。ワクチン組成物は、例えば、投与が非経口経路を介する場合、さらにアジュバントを含み得る。適切なアジュバントとしては、水酸化アルミニウムが挙げられる。
【0045】
ワクチンは、多数の経路を介して動物に適切に投与される。例えば、非経口(例えば、筋肉内、経皮)、または他の経路を介して(例えば、鼻内、経口、局所)、または任意の他の公知の投与経路を介する。
【0046】
ある種のタンパク質は、グラム陰性細菌で組換え発現され得、そしてそれにより、細菌外膜の抗原プロフィールの富化または改変を可能にし得る。細菌供給源生物の遺伝子改変は、それにより、これらの生物から得られるOMVの抗原プロフィールの操作を可能にする。正常には細菌外膜に存在せず、そしてこのためそれに由来するOMVに存在しないタンパク質が組換え発現技術を介して導入される場合、これらの「非天然型」タンパク質およびポリペプチドは、異種抗原として記載される。WO-A-00/25811およびWO-A-01/09350の内容を、本明細書中に援用する。したがって、ワクチンが、感染または悪性反応に対してより大きな危険性を提示し得る弱毒生病原性生物または死病原性生物ではなく、むしろOMVを含むことは、本発明の実施形態の利点である。
【0047】
一般に、全てのこのような細菌は適切であると考えられるが、本発明において用いられるのに格別に適したグラム陰性種としては、以下から選択されるものが挙げられる:ナイセリア(Neisseria)、モラクセラ(Moraxella)、キンゲラ(Kingella)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ブルセラ(Brucella)、ボルデテラ(Bordetella)、ポルフィロモナス(Porphyromonas)、アクチノバシラス(Actinobacillus)、ボレリア(Borelia)、セラチア(Serratia)、カンピロバクター(Campylobacter)、ヘリコバクター(Helicobacter)、ヘモフィルス(Haemophilus)、エシェリキア(Escherichia)、レジオネラ(Legionella)、サルモネラ(Salmonella)、シュードモナス(Pseudomonas)、およびエルシニア(Yersinia)。本発明の特定の実施形態では、組成物は、ナイセリアの株由来のOMVを含む。
【0048】
細菌供給源からOMVを抽出するための適切な方法としては、デオキシコール酸抽出、Tris/HCl/EDTA抽出、および酢酸リチウム抽出が挙げられる。このような抽出を実施するためのプロトコルは、文献中により詳細に記載されている。しかし、精製および単離のために十分なOMVを放出するために細菌の細胞外膜の破壊を可能にする、事実上いかなる化学および/または物理的技術も、本発明の組成物の調製に適していることが、当業者により理解される。
【0049】
本発明のさらなる局面は、本発明の組成物を利用する、グラム陰性細菌感染に対して動物、特にヒトにワクチン接種する方法を提供する。特に、本発明は、髄膜炎菌感染に対して動物にワクチン接種する方法を提供する。また、グラム陰性細菌感染に対する動物(ヒトを含む)へのワクチン接種における本発明の組成物の使用が提供される。さらに、グラム陰性細菌感染への防御免疫を刺激するために、動物に接種するためのワクチンの製造における、本発明の組成物の使用が提供される。OMVは、粘膜投与組成物において有用である。これは、LPS毒性がより少なく、そしてLPSがアジュバントとして機能し得るからである。
【0050】
本発明のOMVは、Opaタンパク質の含有量が減少されているか、またはOpaタンパク質を全く含まない。このOpaタンパク質は、癌胎児性抗原関連細胞接着分子1(CEACAM1)を認識し、そしてインビトロでの種々の刺激に応じてJurkat CD4+ Tリンパ球の活性化および増殖の両方を抑制し、かつ同様のタイプの一次(非悪性)細胞に対して同様の効果を有する。
【0051】
本発明の利点は、本発明者らのOMVが、CEACAM1反応性Opaの存在を回避し、そしてそれにより、CEACAM1反応性Opaを含むOMVと比較して、刺激の活性化に対するリンパ球応答の改善、リンパ球死の減少、および当然の結果として、防御免疫の発達の増大を示すことである。これは、驚くべきことである。なぜなら、レセプター認識に関するナイセリアOpaタンパク質の種特異性を考慮すると、これらのヒト免疫抑制効果は、動物モデルにおいて明らかではないからである。したがって、CEACAM1結合活性を欠損しているナイセリア株が、本発明のOMVベースのヒトワクチンの開発において使用される。
【0052】
病原性および共生性のナイセリア科(Neisseriacae)は各々、大部分の例では、宿主CEACAM1により認識されるOpaタンパク質を発現し得る。本発明者らは、OMV調製物中のこのようなタンパク質の存在を示し、そしてさらに、これらの種が、免疫抑制を誘発する様式でヒトリンパ球と相互作用し得ることを示した。
【0053】
本発明者らは、N. meningitidis(Nm)、N. lactamica(Nl)、およびN. gonorrhoeae(Ng)由来のOMVに応じた顕著な差異に着目した。例えば、増殖の分析においては、Nm OMVにより媒介された阻害は、先のリンパ球活性化に依存性であったが、CEACAM1反応性Ng OMVによるチャレンジは、リンパ球予備刺激がなくても増殖を阻害した。本発明者らはまた、Nl OMV(Opaを含まないものとして本発明に従って選択した)はリンパ球増殖を誘発しなかったが、Opa-ve(または、そうでなければCEACAM1非反応性)のNg OMVは未攻撃リンパ球に比例して増殖を誘発したことを、注目すべきものと考える。
【0054】
本発明はまた、驚くべきことに、以前の研究とは異なっている。以前の研究では、インタクトな細菌(Opaを発現する)による感染は、細胞死に対して認識し得る程度の効果をほとんど有さなかった。本発明では、これらの細菌から調製した組成物(例えば、OMV)は細胞死をもたらした。
【0055】
本発明によれば、CEACAM1反応性Opaの使用を回避することは、(OMVの面において)随伴する機能を阻害し、そして全ての髄膜炎菌ワクチンの防御効力において顕著な利点を有する。市販の(髄膜炎菌)OMVワクチンは、臨床用単離株から調製され、そしてこのようなものは、圧倒的多数の場合でOpaであると思われる。さらに、発現された髄膜炎菌Opa改変体の95%より多くがCEACAM1により認識され、そしてこの結果、現行のワクチン調製物は、CEACAM1の連結反応を介して免疫抑制効果を誘発する可能性が高い。本発明にしたがって、ワクチン「親株」は、Opa発現について、および特にCEACAM1反応性種について、スクリーニングされる。このタイプの分析は、Opa(-)またはそうでなければCEACAM1非反応性の細菌単離株の選択、およびこの結果として、それらから得られるOMVに対する免疫応答における相対的な増強を可能にする。
【0056】
髄膜炎菌および淋菌はともに、真正のヒト病原体であり、そしてこれと一致して、Opa改変体は、既に言及されるように、ネズミまたは他のCEACAM1を認識しない。この結果、CEACAM媒介免疫抑制は、ワクチンの効果を評価するために代表的に用いられる動物モデルにおいては明らかでない。Opaは、重要なナイセリア病原性決定基であり、そしてこの種の排除は、OMVベースの(または他の)ワクチンの潜在免疫原性を過度に制限し得る。結果として、本発明の特定の実施形態によれば、天然型非免疫抑制性Opa、またはこの目的で改変された変異体タンパク質が、OMVベースの組成物中に含まれる。ナイセリア科(Neisseriacae)に代表的な遺伝的可変性および完全な髄膜炎菌ゲノム配列の入手性を考慮して、抗原性選択および/または遺伝子操作が、病原性ナイセリア科(Neisseriacae)に由来する最適化したOMV調製物を作出するために用いられ得る。さらに、共生種N. lactamicaの比較的無害な性質を、この種に由来するOMVにより与えられる異種防御の所見、およびおそらくはこの状況における新規異種抗原の発現の所見と共に考慮すると、非CEACAM1反応性(または、そうでなければOpe-ve)のN. lactamicaもまた、改善されたN. meningitidisワクチンに適している。
【0057】
本発明を、添付の図面を参照して、以下の実施例に例示する。
【0058】
より詳細には、図1は、インタクトな双球菌および単離された外膜小胞(OMV)を例示する走査電子顕微鏡写真を示す。N. meningitidis(A)およびN. lactamica(B)は各々、密に関連した天然に存在する膜「細胞表面突起」を有する(塗りつぶした矢印)。
【0059】
図2は、ナイセリアOMVのOpa発現パターンおよびCEACAM1結合特性を示す。(A)Opaタンパク質特異的mAbを用いてプローブした免疫ブロットであって、Nm-OMV中に免疫反応性Opa改変体が存在するが、比較のNl-OMVには存在しないこと;および同質遺伝子淋菌株に由来するOMVにおける適切なOpa表現型を示す。(B):ELISAアッセイであって、ナイセリアOMV(10μg総タンパク質)と可溶性CEACAM1-Fcとの間の相互作用を定量している。CEACAM1を認識するOMVを、黒のバーで示す。各場合において、誤差バーは、+1 SD(n=3)を示す。
【0060】
図3は、ナイセリアOMVに応じたTリンパ球の増殖を示す。Jurkat Tリンパ球を10,000U/IL2および/または1μg抗CD3εIgの存在下で培養し、次いで(A)N. meningitidis(Nm)またはN. lactamica(Nl)のいずれかに由来するOMV;または(B)所定のOpa改変体を発現するN. gonorrhoeaeを用いてチャレンジした。CEACAM1反応性OMVでのチャレンジを黒のバーとして示す。各場合において、誤差バーは、+1 SD(n=6)を示す。これらのデータの統計学的解析は、リンパ球予備刺激がある場合p<0.010の信頼区間で、および予備刺激がない場合p=0.06で、NLおよびNMデータが異なることを示している。淋菌OMVデータの同様の疑問は、Opa52チャレンジデータが、p<0.0002の信頼区間で、比較のチャレンジデータとは異なることを実証した。
【0061】
図4は、Jurkat細胞によるCD69発現のFACS分析である。整合させた細胞集団を、示したように(10,000U/IL2および/または1μg抗CD3εIgを用いて)予備刺激し、そして(A)N. meningitidis(Nm)またはN. lactamica(Nl)に由来するOMVで、または(B)所定のOpa改変体を発現するN. gonorrhoeaeに由来するOMVを用いて、チャレンジした。各場合において、誤差バーは、+1 SDを示す(n=3群の1×105事象)。統計学的解析は、NmおよびNlデータがp=0.01からp<0.0001の範囲の信頼区間で異なることを確立し、最も激しい差異は、未刺激のリンパ球またはIL-2および抗CD3εIgで予備刺激したリンパ球において明らかであった。Opa52チャレンジデータは、p=0.0037からp<0.0001の範囲の信頼区間で比較データとは異なっていた。
【0062】
図5は、淋菌OMVを用いた16時間チャレンジに応じたIL2刺激Jurkat細胞間のアポトーシス死亡率を示す。OMVチャレンジはアポトーシスの用量依存性増大を生じ、最も大きな効果は、CEACAM1と反応するOpa52 OMVを用いたチャレンジ時に生じた。Opa50 OMVを用いたチャレンジは、中間の効果を有し、そしてOpa(-) OMVを用いたチャレンジは、アポトーシスのレベルに対して最小の効果を有した。各場合において、これらのデータは、フローサイトメトリーにより調べた1×106のリンパ球を表す。データは3つの実験を表す。
【実施例】
【0063】
(実施例1)
(材料および方法)
(細胞株および組織培養技術)
Jurkat(CD4+)ヒトTリンパ球(ATCC#CRL-10915)は、以前に記載されており{Nagasawa, Howatsonら, 1981 ID:2798}、そして10%熱不活性化ウシ胎児血清および4mM GlutaMAX(Invitrogen)を添加したRPMI1640培地(Invitrogen;Burlington, Ontario)(RPMI-Gと称する)中で通常通りに維持した。細胞を5%CO2加湿空気中で37℃にて培養した。適切な場合、Jurkat細胞を、示した濃度の組換えヒトIL-2(Pharmingen;Mississauga, Ontario)を用いて48時間刺激してOMVチャレンジした。このタイプのチャレンジを、5U/ml benzonaseエンドヌクレアーゼ(Sigma;Oakville, Ontario)と1mM MgCl2および0.5mM CaCl2を含む5%(v/v)リン酸緩衝化生理食塩水(pH 7.4;PBS)(PBS/Mg/Caと称する)とを添加したRPMI-Gで実施した。いくつかの場合、T細胞レセプターを介する刺激をヒトCD3ε特異的モノクローナル抗体UCHT1(Pharmingen)への曝露により誘発し、続いてヒツジ抗マウスIgG(Sigma;3μg/ml)のFab2フラグメントを用いて架橋した。
【0064】
COS-7アフリカミドリザル腎臓細胞(ATCC#CLR-1651)を、10%熱不活性化FBS(Cansera;Etobicoke, Ontario)、100単位/mlペニシリン/ストレプトマイシン、1mm glutamax、1mMピルビン酸ナトリウム、および1mM非必須アミノ酸(Invitrogen)を添加したDMEM(Invitrogen)で、5%CO2加湿空気中で37℃にて維持した。
【0065】
(細菌株)
Neisseria meningitidis K454単離株およびNeisseria lactamica Y92 1009単離株をMeningococcal Reference Unit, Manchester, UKから入手した。N. gonorrhoeae MS11株の特異的Opa改変体を構成的に発現する淋菌株は、以前に記載されており、そしてT. F. Meyer博士(Max-Planck-Institut fur Infektionsbiologie, Berlin, Germany)の好意により入手した。MS11 N279株(これは、ピリンを発現せず、そしてこの株の唯一のHSPGレセプター特異的Opa改変体をコードするOpaC30遺伝子座に欠失を有する)のバックグラウンドでOpa改変体を発現させた。N. meningitidisおよびN. lactamicaをMueller Hinton Agar(Difco Labs; West Molesey, Surrey, UK)上で凍結ストックから増殖させ、そしてN. gonorrhoeae株を1%(v/v)IsoVitaleXTM富化(BBLTM;Becton Dickinson, Cockeysville, MD)を添加したGC寒天(Difco;Oakville, Ontario)上で凍結ストックから増殖させた。全ての細菌株を5%CO2加湿空気中で37℃にて培養し、そして毎日継代培養し、双眼顕微鏡を用いてOpa表現型をモニタリングした。Opa発現および改変型をSDS-PAGE(10%)により通常通りに確認し、解離したタンパク質をクマシーブリリアントブルーを用いて染色するか、またはOpa特異的モノクローナル抗体4B12/C11を用いた免疫ブロット分析に供した。このモノクローナル抗体は、全ての公知のOpa改変体と反応し、そしてM. Achtman博士(Max-Planck-Insitut fur Infektionsbiologie, Berlin, Germany)の好意により提供された。
【0066】
(OMVの調製および物理学的特徴づけ)
N. meningitidis単離株およびN. lactamica単離株からOMVを調製した。終夜液体培養物をフランツ培地で調製し、そして1000×gでの遠心分離によりペレット化した。細菌を0.15M NaCl、0.05M Tris-HCl、0.01M EDTA(pH 7.5)を含有するOMV緩衝液中に再懸濁した。次いで、細菌懸濁液を56℃に30分間加熱し、そして次いで、得られた抽出物を25,000×gにて20分間の遠心分離によって清澄化した。回収した上清を約100,000×gにて2時間遠心分離した。最終のOMV含有ペレットを2回洗浄し、PBS中に再懸濁し、そして-80℃にて保存した。
【0067】
淋菌OMVを、所定のOpa表現型を有する組換え淋菌株から調製した。細菌を固形培地上で(上記のように)終夜継代させ、そしてほぼ定常期の液体培養物を、10mM LiCl、1mM MgCl、2mM CaCl、50mM Hepes、1% D-グルコース(pH 7.2)を含有する改変脳心臓浸出物(Difco)中に調製し、迅速に振盪しながら5%CO2加湿空気中で37℃にて培養した。その後、迅速に振盪しながら40℃にてさらに2時間、インキュベーションを続けた。細菌を1000×gにて20分間の遠心分離により取り出し、そして0.05%(w:v)サルコシル(Bioshop Canada, Inc;Burlington, Ontario)および0.05%デオキシコール酸ナトリウム(w:v)(Bioshop Canada, Inc)を含有するPBS中で再懸濁した。再懸濁した細胞を、穏やかに混合しながら56℃にて30分間インキュベートし、次いで氷上で冷却した。次いで、細菌懸濁液をWheatonホモジナイザーを用いることにより抽出し、次いで氷上で超音波処理した(5×10秒パルス)。抽出物を25,000×gにて20分間の遠心分離により清澄化し、そして得られた上清を100,000×gにて2時間遠心分離した。最終ペレット(これは、OMVを含む)を2回洗浄し、PBS中に再懸濁し、0.22μmシリンジフィルタから押し出し、そして-80℃にて保存した。OMVの殺菌性を、GC寒天上に接種し、そして上記のようにインキュベートすることにより試験した。OMVのサイズ分布を、走査電子顕微鏡(N. lactamicaおよびN. meningitidisのOMV)または比較FACS分析(淋菌OMV)のいずれかにより決定した。相対表面積の概算値を、S=4πr(ここでSは球体の表面積を表し、そしてrはその球体の半径を表す)の関係式に基づいて算定した。
【0068】
(CEACAM1-Fc融合タンパク質の構築および発現)
ヒトIgG1のFc部分に融合したCEACAM1アミノ末端ドメインをコードする発現ベクターを、O. Mandelboim博士およびG. Markel博士(Hadassah Medical School, Jerusalem, Israel)の好意により提供された。組換えCEACAM1-Fcタンパク質をFuGENE6試薬(Roche Molecular Biochemicals, Indianapolis, Indiana, USA)を用いて製造者の仕様書に従って一過的にトランスフェクトしたCOS-7細胞で発現させた。細胞培養上清をトランスフェクションの48〜72時間後に回収し、そして4℃にて1000×gで20分間の遠心分離により清澄化した。次いで、清澄化した上清を真空駆動ディスポーザブル濾過システム(Stericup 0.22μm, Millipore;Nepean, Ontario)を用いて濾過し、そして10kDaカットオフポリエーテルスルホン限外濾過濃縮器(Millipore)を用いて濃縮した。次いで、融合タンパク質をプロテインA-セファロース(Sigma)を用いて精製した。このマトリックスからの溶出を0.2Mグリシン/HCl(pH 2.5)を用いて実施し、アリコートを100μlの1M Tris(pH 9.0)を含有する採集管に直接回収し、サンプルを中和した。精製した溶出液を4℃にてPBSに対して透析し、次いで、Ultrafree Biomax遠心濾過器(Millipore)を用いて1mL未満にまで濃縮した。CEACAM1-Fc融合体のレセプター機能および特異性を、特異的Opaタンパク質改変体を保有する同質遺伝子淋菌株との関連により評価した。
【0069】
(Opaレセプター特異性の決定)
Opa改変体とCEACAM1との間の相互作用をELISAにより特徴付けた。まず、各OMV調製物のタンパク質含有量をBCAアッセイ系(Pierce Chemical Company, Rockford, Illinois)を用いて決定し、そして等量の総タンパク質を含有するサンプルを96ウェルマイクロタイタープレート(Corning Corporation;Midland Michigan, USA)上に固定化した。各OMVを三重系列倍加希釈に供し、次いで、標準濃度のCEACAM1-Fc融合タンパク質に曝露させた。結合したタンパク質を、プロテインA結合セイヨウワサビペルオキシダーゼを用いて検出し、そしてOPD比色系(Sigma)を用いて可視化した。OPD関連シグナルを450nmでの分光光度分析により定量した。
【0070】
(血球計算分析)
Jurkat活性化を、十分に特徴付けられたT細胞活性化マーカーCD69の発現を定量することにより評価した。上記のように細胞を感染および/またはチャレンジし、そして16時間後、サンプルを、アロフィコシアニン(Pharmacia;Mississauga, Ontario)に結合した抗ヒトCD69モノクローナル抗体(クローンFN50)を用いてプローブした。次いで、細胞をパラホルムアルデヒド(3.7%)中で固定し、そしてCD69関連蛍光をFACScaliburフローサイトメーター(Becton Dickinson, Oakville, Ontario)を用いて評価した。Annexin-V-FLUOS/ヨウ化プロピジウム染色キット(Boehringer Mannheim, Laval, Quebec)を用いて細胞死を特徴付けおよび定量し、それにより、フローサイトメトリーによる生存集団、アポトーシス集団、および壊死集団を相対比較した。
【0071】
(リンパ球増殖の分析)
Jurkat細胞の密度を釣り合わせた並行培養物を、示した濃度でOMVを用いて、RPMI-G+5%PBS/Mg/Ca中でチャレンジした。ゲンタマイシン(100μg/ml;Bioshop)を感染の開始から2時間後に添加し、そして続くインキュベーション期間を通して維持し、細菌過増殖を防いだ。いくつかの細胞を10,00U組換えヒトIL-2(Pharmingen)の存在下で培養し、そしてT細胞レセプターを介する刺激を、1μg/mlマウス抗ヒトCD3εIgG(クローンUCHT1;Pharmingen)への曝露により誘発した。Jurkat増殖を、感染72時間後に、Levy二重血球計数器を用いて直接計数することにより評価した。各場合において、標準化した計数パターンを用いて増殖を評価し、そして各サンプルについて6視野程度を計数した。
【0072】
(結果)
ナイセリアOMVにより提示されるOpaタンパク質。ナイセリア種(Neisseria sp.)は、外膜小胞(OMV)または「細胞表面突起」を天然に過剰生産し、膨出し、そして放出する(図1A−B)。N. meningitidisから得たOMV(Nm-OMV)およびN. lactamicaから得たOMV(Nl-OMV)は、現在、髄膜炎菌性疾患に対する防御を提供するワクチンとしての効力について評価中である。十分に規定されたOpa改変体を発現するN. gonorrhoeaeの同質遺伝子株からも、OMVを調製した。これらの株には、透明(Opa)N302株、ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)レセプター特異的Opa50発現N303、およびCEACAM特異的Opa52発現N309が含まれる。淋菌OMV(Ng-OMV)は、比較フローサイトメトリー分析により決定したように、ワクチン調製物中のものと同様の大きさであった(データは示さず)。
【0073】
等価量の各OMV(タンパク質含有量により決定)を、SDS-PAGEにより総体的に特徴付けた(データは示さず)。ナイセリア外膜タンパク質の相および抗原可変性{Nassif, Pujolら, 1999 ID: 2839}と一致して、種々の調製物間で相当の変化が見られた(データは示さず)。全ての公知のOpa改変体と交差反応するOpa特異的モノクローナル抗体(mAb)を用いてプローブした免疫ブロットは、Nm-OMVにおいて単一のOpa改変体の存在を示し、一方、Nl-OMV調製物には何も見られなかった(図2A)。適切なOpa表現型が、組換え淋菌株に由来するOMVにおいて確認された(図2A)。したがって、非CEACAM1反応性Opaを含むOMVおよびOpa非含有Nl-OMVを本発明に適しているとして選択し、そしてOpa含有Nm-OMVと比較した。発現されたときに、Opa改変体が比較可能な濃度で存在した。これは、単位OMVタンパク質あたりのOpaタンパク質の密度に関して大きな差異がないことを示している。
【0074】
等量のOMVを、ELISAアッセイで可溶性CEACAM1-Fc融合タンパク質に曝露した。この分析は、Opa+ Nm-OMVおよびOpa52発現淋菌由来のOMVが、可溶性CEACAM1-Fc融合体を、Nl-OMV(Opaタンパク質を欠く)または透明(Opa-)もしくはOpa50発現淋菌のいずれかに由来するOMVのいずれよりも、有意に(p<0.0001)大きなレベルで結合することを示した。これは、淋菌Opa52のCEACAM1特異的結合機能をOMV調製物において維持したことを示し、そしてNm-OMVに存在するOpaタンパク質改変体がCEACAM1を認識することを実証した。レセプター認識における差異は有意に維持され、OMVタンパク質濃度は0.1μg/mlから10μg/mlの範囲であった(図3およびデータは示さず)。
【0075】
CEACAM特異的OMVはリンパ球活性化を阻害する。以前に、本発明者らは、CEACAM1特異的Opa改変体を発現する淋菌が、刺激の活性化に応じてCD4+ T細胞増殖を抑制することを観察した。Nm-OMVがOpa表現型(図2A)およびCEACAM1結合(図2B)に関してNl-OMVとは異なる場合、本発明者らは、これらの標準のワクチン調製物に対するリンパ球応答に差異があるか否かを試験した。阻害効果の程度は、CEACAM1結合Opa改変体の存在によって決定され、そしてさらに、リンパ球に適用した刺激のタイプによって影響された。Nl-OMVおよびNm-OMVを未刺激のJurkat CD4+ T細胞に与えたとき、細胞培養増殖における小さな差異(p<0.06)が見られた。しかし、リンパ球を、OMVチャレンジ前にサイトカインIL-2および/またはT細胞レセプター連結を用いて刺激した場合、Opaに関連した差異は有意に増大した(p<0.01)(図3A)。この阻害効果を与えるのにCEACAM1結合が十分であることを確認するために、本発明者らは、所定のOpa改変体を発現する同質遺伝子淋菌株に由来するOMVの効果を、異なったレセプター特異性と比較した。Nl-OMVまたはNm-OMVを用いたチャレンジ後に観察された効果に対して、OpaまたはOpa50含有OMVのいずれかを用いたチャレンジは、一次CD4+ Tリンパ球の増殖を刺激した。これは、チャレンジ種として(OMVではなく)インタクトな細菌を用いてなされた以前の所見と一致している。しかし、Opa52発現OMVは、Jurkat細胞増殖を強力に抑制した(図3B)。このことは、このCEACAM1特異的Opa改変体が、この背景においてそのレセプター結合機能および共同阻害機能の両方を保持することを確証する。
【0076】
減少したリンパ球増殖が、集団全体の中で細胞分裂速度が遅くなること、および/または分裂するように刺激されている細胞の割合が減少することから生じ得た。種々のOMV調製物の存在下で活性化されるようになる細胞の割合を決定するために、本発明者らは、Jurkat T細胞による活性化マーカーCD69の発現を定量した。密度を釣り合わせた並行リンパ球集団を予備刺激し、次いで、種々のOMV調製物でチャレンジした。CEACAM1反応性OMVへの曝露は、CD69を発現するリンパ球の割合を一貫して減少した(図4AおよびB)。これらの2つのワクチン調製物の場合、Nm-OMVに応じて活性化したJurkat細胞の数は、Nl-OMVで観察されたよりも一貫して低く、そしてOMVに曝露していない並行サンプルに匹敵する(未刺激かつ抗CD3ε含有サンプル)か、または低かった(抗CD3ε含有サンプル)(図4A)。淋菌OMVでのチャレンジ(図4B)は、一貫した細胞活性化パターンを示した。ここでは、試験した全ての条件において、CEACAM特異的Opa52を含有するOMVの存在が、減少した細胞活性化と一致した。しかし、この場合、活性化のレベルは、(レセプター特異性に関わらず)Opa OMVへの曝露により最低限に減少したが、全ての場合において、CEACAM1反応性OMVへの曝露によって、より有意に阻害された(p<0.001)。
【0077】
ナイセリアOMVはJurkat細胞においてアポトーシスを誘発する。細胞死に対するOpaタンパク質発現の影響を定量し、そして直接比較するために、本発明者らは、種々の希釈の淋菌OMVに曝露したJurkat細胞培養物においてアポトーシスおよび壊死をモニタリングした(図5)。細胞壊死はチャレンジ条件に関わらず一貫して5%を下回ったが(データは示さず)、本発明者らは、3つの全てのOMV調製物に応じたアポトーシスの用量依存性増大を観察した。Opaタンパク質を含有するOMVに応じて、アポトーシスは明らかに高かった。このことは、細胞死の大部分がリンパ球表面へのOMVの付着と相関することを示唆する。Opa52含有OMVは、Opa50を含有するものよりもより大きなアポトーシスを誘発した。このことは、この効果のいくらかの部分が、レセプター特異的効果によって決定されたことを示している。これらの結果は、インタクトな淋菌をチャレンジ種として使用した結果とは対照的である。なぜなら、本発明者らは、透明(Opa)、Opa50、またはOpa52発現細菌による感染に応じて、アポトーシスまたは壊死のいずれの有意な誘発も観察しなかったからである。
【0078】
(実施例2)
(EMS変異誘発プロトコル)
プロトコルは以下の通りである:
N. meningitidisを、600nmでの光学密度(OD600)が0.7になるまでフランツ培地中で増殖させる。6mlを15mlコニカルチューブに移す;2,000gで5分間遠沈させる。
【0079】
細胞を10mlのエチルメタンスルホン酸(EMS)変異誘発緩衝液で2回洗浄する。
【0080】
洗浄した細胞ペレットを12mlのEMS変異誘発緩衝液中に再懸濁する。
【0081】
細胞懸濁液を15mlコニカルチューブ中に4つの2.4mlアリコートに分配する。換気フード内で、62.5μlのEMS(Sigmaカタログ番号M0880)を、調製した細胞懸濁液の各アリコートに添加し、そして徹底的にボルテックスする(EMSが溶液に入り込むまでしばらくかかる)。
【0082】
37℃にて0、1、1.25、および1.5時間サンプルをインキュベートする。これらは、それぞれ約100、80、50、および20%の生存を与える。
【0083】
サンプルを処理するために、10mlのEMS停止溶液を添加する;細胞を遠沈させる;10mlのEMS停止溶液で1回洗浄する;細胞を10mlの培地で1回洗浄する;2.5mlの培地中に洗浄したペレットを再懸濁させる;そして細胞懸濁液を4℃にて保存する。
【0084】
変異誘発したサンプルの生存細胞力価を決定するために、B070に設定したBraun Sonic U超音波処理機で各サンプルを5回超音波処理する。系列希釈し、そして選択培地上に三連に播種する。プレートを37℃にてインキュベートする。
【0085】
単一のコロニーについての変異誘発細胞をプレートから取り出すために、超音波処理した各サンプルを5mm孔フィルタに通す。この濾過工程は、良好な単一細胞懸濁液を得るために必要である;しかし、総細胞の約95%が、細胞塊の除去によって、濾過の間に失われる。濾過したサンプルを系列希釈し、そして選択培地上に広げる。プレートを37℃にてインキュベートする。
【0086】
CEACAM1非反応性Opaタンパク質を発現する細菌についてコロニーをスクリーニングする。続いて、天然型のCEACAM1反応性Opaを結合する抗体を誘導するこのようなOpaタンパク質についてスクリーニングする。
【0087】
(EMS変異誘発緩衝液)
4.23ml 1M NaH2PO4
5.77ml 1M Na2HPO4
0.5ml 20% Tween 80
H20を添加して100mlとする。
【0088】
(EMS停止溶液)
5%チオ硫酸ナトリウム、0.1% Tween 80、滅菌濾過済み、100ml(新鮮なものを作成する)。
【0089】
(実施例3)
(NTG変異誘発)
プロトコルは以下の通りである:
N. meningitidisを、600nmでの光学密度(OD600)が0.8になるまでフランツ培地中で増殖させる。50mlを50mlコニカルチューブに移す;2,000gで15分間遠沈させる。
【0090】
上清を捨て、そしてペレットを5mlの培地中に再懸濁する。
【0091】
1mlの細胞を個々の15ml丸底チューブ(Falconカタログ番号2059)に分配し、そしてニトロソグアニジン(NTG)を0〜1,000mg/mlの最終濃度範囲になるように添加する。
【0092】
細胞懸濁液を、1時間振盪しながら37℃にてインキュベートする。
【0093】
各アリコートの細胞を10mlの培地で2回洗浄し、そして最終的に1mlの培地中にペレットを再懸濁する。
【0094】
各反応の系列希釈を行い、そして二連で播種し、殺菌曲線の決定のためのコロニー計数を得る。
【0095】
上記条件で90%殺傷を生じるNTG濃度で変異誘発を繰り返す。
【0096】
CEACAM1非反応性Opaタンパク質を発現する細菌についてコロニーをスクリーニングする。続いて、天然型のCEACAM1反応性Opaを結合する抗体を誘導するこのようなOpaタンパク質についてスクリーニングする。
【0097】
(実施例4)
(Opaノックアウト変異体の生成)
N. meningitidisに存在する3つまたは4つのOpa対立遺伝子(または他のナイセリアおよび/または他の細菌での同様の対立遺伝子)からのOpaタンパク質改変体の発現を変異させる多くの技術が存在する。簡潔には、Opaペプチド自体をコードする領域に隣接した非コード領域中の高度に保存された領域によって、Opa対立遺伝子をクローニングする。このようにしてクローニングした遺伝子を、適切なプラスミドベクターに挿入し、そしてトランスポゾン挿入または他の標準的な分子生物学技術のいずれかを用いて変異誘発する(適切な技術は、Sambrook, FritschおよびManiatis, 1989、Cornelissenら, 1992;CornelissenおよびSparling 1996、およびBoultonら, 2000に記載されている)。
【0098】
(実施例5)
(CEACAM1に結合しないOpaのフラグメントの生成)
Opaを天然生物(すなわち、ナイセリア種(Neisseria sp.))の環境で発現させるか、または単一のクローニングした組換えOpa改変体を異種環境で過剰発現させる。いずれの場合でも、インタクトなOpaを、標準的な生化学技術および/または生物物理学技術(アフィニティークロマトグラフィーおよび/または選択濾過および/またはゲル浸透クロマトグラフィーおよび/またはイオン交換クロマトグラフィーを含む)を用いて、細菌全細胞溶解物から、精製した細菌膜から、または封入体から精製する。
【0099】
次いで、精製したOpaを、トリプシン、キモトリプシン、スブチリシン、および/または他のタンパク質分解酵素を用いるタンパク質分解消化および/または他の化学処理によって分画する。このようにして生成したOpaフラグメントを、本明細書中に記載のCEACAM1 N末端-Fc融合タンパク質を用いてアフィニティークロマトグラフィーによって、CEACAM1結合がないことについて(すなわち、この融合タンパク質に結合できないタンパク質フラグメントの選択によって)選択する。このタイプのフラグメントを、アジュバント調製物の存在下で、そして必要に応じて適切なキャリアタンパク質に結合して、適切な動物系で抗原として使用する。このようにして調製した血清を、ウェスタンブロット分析、および/または全細胞ドットブロット、および/または血球計算分析、および/または他の反応性アッセイにより、インタクトなOpa改変体に対して試験する。あるいは、オーバーラップOpa特異的ペプチドのアレイを、標準技術(Gausepohlら, 1992)を用いて新規合成するか、そうでなければOpaの特異的領域をコードするクローニングした組換え核酸配列から発現させる。いずれの場合でも、(いずれかまたは両方の技術を用いて)生成したペプチドを、本発明者らが以前に規定した方法に従って、CEACAM1結合についてスクリーニングし、続いて、記載のように抗原として使用し得る。
【0100】
(実施例6)
(非CEACAM1反応性Opa改変体の生成)
いくつかの天然に存在する淋菌Opa改変体は、CEACAM1結合活性を有さず(Gray-Owenら, 1997)、そして免疫調整効果の点から評価されている。4つの天然に存在する髄膜炎菌Opa改変体のうち少なくとも1つの改変体は、同様に、CEACAM1結合活性がないこと(Meutznerら, 2000)、およびさらに、共生性ナイセリア種(Neisseria sp.)は、CEACAM1を認識しないOpa改変体を発現すること(Toleman, AhoおよびVirji, 2001)も確立されている。
【0101】
所定の細菌培養物をOpa発現およびCEACAM1反応性(またはその不在)についてスクリーニングし、そしてその結果を使用して、非CEACAM1反応性である表現型を選択する。Opa発現は相可変性であり、したがって、この選択プロセスは、通常通りに実施されることが好ましい。スクリーニングは、OMV精製前に適切に実施される。これはまた、グラム陰性細菌からのOMV調製物に対しても実施され得る。
【0102】
あるいは、所定の表現型およびレセプター特異性の単一のOpaを発現し得る細菌(好ましくはナイセリア株)を構築する。これは、細菌染色体において、非機能的(すなわち、変異した)Opa対立遺伝子を天然型(すなわち、変異していない)配列と置換することにより達成される。あるいは、Opaを、いくつかの十分に特徴付けられた細菌遺伝子調節系の1つと連結してクローニングする;次いで、Opa発現を培養条件の操作によって制御する。
【0103】
したがって、本発明は、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まない微生物、組成物、ワクチン、ワクチン成分、上記を得る方法、および上記をコードする遺伝子を提供する。これらは、グラム陰性細菌(特に、ナイセリア)により引き起こされる疾患の治療または予防での使用に適する。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】インタクトな双球菌および単離された外膜小胞(OMV)を示す走査電子顕微鏡写真である。
【図2】ナイセリアOMVのOpa発現パターンおよびCEACAM1結合特性を示す。
【図3】ナイセリアOMVに応じたTリンパ球の増殖を示す。
【図4】Jurkat細胞によるCD69発現のFACS分析である。
【図5】淋菌OMVを用いた16時間チャレンジに応じたIL2刺激Jurkat細胞間のアポトーシス死亡率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラム陰性細菌により引き起こされる疾患の治療または予防に用いられる、微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分を選択する方法であって、該微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分が、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないか否かを決定する工程を含む、方法。
【請求項2】
前記微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分が、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように選択されているか、またはCEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように改変されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記グラム陰性細菌が、ナイセリア(Neisseria)、モラクセラ(Moraxella)、キンゲラ(Kingella)、アシネトバクター(Acinetobacter)、ブルセラ(Brucella)、ボルデテラ(Bordetella)、ポルフィロモナス(Porphyromonas)、アクチノバシラス(Actinobacillus)、ボレリア(Borelia)、セラチア(Serratia)、カンピロバクター(Campylobacter)、ヘリコバクター(Helicobacter)、ヘモフィルス(Haemophilus)、エシェリキア(Escherichia)、レジオネラ(Legionella)、サルモネラ(Salmonella)、シュードモナス(Pseudomonas)、およびエルシニア(Yersinia)から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記微生物が、ナイセリアである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
髄膜炎菌性疾患または淋菌性疾患の治療または予防に用いられる、微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分を選択する方法であって、該微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分が、CD4+ T細胞の活性化または増殖を抑制するタンパク質を実質的に含まないか否かを決定する工程を含む、方法。
【請求項6】
前記微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分が、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように選択されているか、またはCEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように改変されている、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分が、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まない、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物が、ナイセリアである、請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記ナイセリアが、CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように選択されているか、またはCEACAM1を結合するOpaを実質的に含まないように改変されている、請求項4または8に記載の方法。
【請求項10】
前記ナイセリアが変異により改変されている、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかの項の記載に従って得られる微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分。
【請求項12】
1,000以上の数であり、CEACAM1を結合するOpaを発現する細菌を実質的に含まない、グラム陰性細菌の集団。
【請求項13】
ナイセリア外膜小胞を含む組成物であって、該小胞が、Opaを実質的に含まない、組成物。
【請求項14】
前記小胞のOpa含有量が、正常ナイセリアから得られるOMVのOpa含有量と比較して少なくとも10倍減少している、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
OpaがOMVの総タンパク質含有量の1質量%以下である、請求項13または14に記載の組成物。
【請求項16】
薬学的に受容可能なキャリアをさらに含む、請求項13から15のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項17】
ワクチン接種のための、請求項13から16のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項18】
ナイセリア外膜小胞を含む組成物であって、該小胞が、CEACAM1に結合しないOpaタンパク質を含む、組成物。
【請求項19】
CEACAM1を結合するOpaを実質的に含まない、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
ナイセリア外膜小胞を含む組成物であって、該小胞が、
抗原性であり、
Opaに結合する抗体の産生を惹起し、そして
CEACAM1に結合しない
タンパク質を含む、組成物。
【請求項21】
前記タンパク質がOpaの変異体もしくはフラグメントもしくは改変体もしくは誘導体もしくは模倣物である、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
ナイセリア外膜小胞を含む組成物であって、該小胞が、CEACAM1へのOpaの結合を阻害するアンタゴニストを含む、組成物。
【請求項23】
ワクチンとして使用する組成物またはワクチンの製造に使用する組成物を調製する方法であって、
(a)グラム陰性細菌を得る工程;
(b)該細菌がCEACAM1に結合するOpaタンパク質を発現するか否かを決定する工程;
(c)該細菌が該Opaタンパク質を発現する場合、該細菌を廃棄する工程、および工程(a)から(c)を繰り返す工程;
(d)該細菌が該Opaタンパク質を発現しない場合、該細菌を保持する工程;および
(e)工程(d)の該保持された細菌を含む組成物を調製する工程
を含む、方法。
【請求項24】
前記細菌が、ナイセリアである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
Opaの変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体を発現する細菌を保持する工程を含み、ここで該変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体がCEACAM1に結合しない、請求項23または24に記載の方法。
【請求項26】
前記保持された細菌から外膜小胞を調製する工程を含む、請求項23から25のいずれかの項に記載の方法。
【請求項27】
Opaの変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物を得る方法であって、
(a)グラム陰性細菌を得る工程;
(b)該細菌で変異誘発を行う工程;
(c)該細菌が、CEACAM1に結合しないOpaタンパク質の変異体もしくはフラグメントもしくは改変体もしくは誘導体もしくは模倣物を発現するか否かを決定する工程;
(d)該変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体もしくは模倣物を単離する工程;
を含む、方法。
【請求項28】
前記細菌が、ナイセリアである、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
請求項27または28に記載の方法であって、さらに
(e)前記変異体もしくはフラグメントもしくは改変体もしくは誘導体もしくは模倣物に対する抗体を惹起させる工程;および
(f)該抗体が、CEACAM1に結合するOpaタンパク質にも結合するか否かを決定する工程を含む、方法。
【請求項30】
Opaの変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体であって、CEACAM1に結合しない、変異体もしくは改変体もしくはフラグメントもしくは誘導体。
【請求項31】
疾患の治療または予防の方法であって、請求項11に記載の微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分、または請求項12に記載のグラム陰性細菌の集団、または請求項13から22のいずれかの項に記載の組成物を投与する工程を含む、方法。
【請求項32】
請求項11に記載の微生物、組成物、ワクチン、もしくはワクチン成分、または請求項12に記載のグラム陰性細菌の集団、または請求項13から22のいずれかの項に記載の組成物を含む、ワクチン。
【請求項33】
ワクチンの製造または試験の方法であって、
(a)グラム陰性細菌に対するワクチンサンプルもしくは提案されたワクチンの成分のサンプルを得る工程;および
(b)該サンプルが、CEACAM1に結合するOpaタンパク質を含むか否かを決定する工程
を含む、方法。
【請求項34】
請求項33に記載の方法であって、さらに
(c)存在する場合、前記Opaタンパク質の質量%を、前記ワクチンまたは前記サンプル中の総タンパク質含有量の質量%により決定する工程
を含む、方法。
【請求項35】
請求項33または34に記載の方法であって、
(d)前記サンプルが前記Opaタンパク質を含む場合、または前記Opaタンパク質の質量%が所定レベルを上回る場合、前記ワクチンまたは前記成分を排除する工程
を含む、方法。
【請求項36】
免疫記憶の刺激を改善しまたはT細胞機能の阻害を減少させることにより髄膜炎菌性疾患を治療または予防するための医薬の製造におけるナイセリア外膜小胞の使用であって、該小胞が、(i)Opaを実質的に含まないか、(ii)CEACAM1に結合しないOpaタンパク質を含むか、(iii)CEACAM1に結合しないOpaの変異体もしくはフラグメントもしくは誘導体を含むか、または(iv)CEACAM1へのOpaの結合を阻害するアンタゴニストを含む、使用。
【請求項37】
変異誘発したOpa遺伝子を得る方法であって、(a)Opa遺伝子をクローニングする工程、(b)該クローニングした遺伝子を発現ベクターに挿入する工程、および(c)該クローニングした遺伝子を変異誘発する工程を含む、方法。
【請求項38】
(c)から得られる前記遺伝子からタンパク質を発現させる工程、該タンパク質を単離する工程、ならびに(i)CEACAM1への結合および/または(ii)天然型Opaに結合する抗体の生成について該タンパク質を試験する工程をさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
請求項37または38に記載の方法に従って得られるタンパク質を含む組成物。
【請求項40】
タンパク質をコードする遺伝子であって、(a)該タンパク質がCEACAM1に結合せず、そして(b)該タンパク質に対する抗体が天然型Opaを結合する、遺伝子。
【請求項41】
請求項37の記載に従って得られた遺伝子または請求項38の記載に従って得られたタンパク質。
【請求項42】
請求項40または41に記載の遺伝子を含むベクター。
【請求項43】
請求項40または41に記載の遺伝子を含む細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−508537(P2007−508537A)
【公表日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530598(P2006−530598)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【国際出願番号】PCT/GB2004/004274
【国際公開番号】WO2005/035733
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(503191210)ヘルス プロテクション エージェンシー (19)
【Fターム(参考)】