説明

改変樹状細胞

レンチウイルスの樹状細胞への感染は、未変性T細胞を分極させてTh1経路に沿って発達させる、抗原提示細胞として作用する樹状細胞の能力を損なう。この損傷は、樹状細胞に、IL−7、IL−12、およびIL−10 RNAを標的とするsiRNAをコードするベクターを含むレンチウイルスを感染させることによって回復する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本願は、2002年11月7日出願の、「樹状細胞機能の調節」(Modulation of Dendritic Cell Function.)と題する米国仮出願第60/424,602号の優先権を主張する。
連邦の援助を受けた研究に関する記載
本発明は、国立衛生研究所によって与えられた認可番号P50 HL59412の下、米国政府の支援を受けてなされた。米国政府は本発明において特定の権利を有し得る。
【0002】
技術分野
本発明は分子生物学、遺伝子治療、免疫学、およびウイルス学の分野に関連する。特には、本発明は、レンチウイルスベクター(LVs)で樹状細胞に形質導入して樹状細胞の機能を調節するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のようなLVsは動物における疾患に関連するが、外来性核酸を宿主細胞に移動させるそれらの能力は疾患を治療するように設計された遺伝子治療実験に活用されている。遺伝子治療適用に対しては、LVsは他のベクターを上回る幾つかの利点を提供する。例えば、HIVから誘導されるLVsは、分裂性および非分裂性細胞の両者に感染する能力を含めて、野生型ウイルスのものに類似する細胞侵入およびゲノム統合プロセスに従事する。分裂および非分裂細胞の両者に感染する利点は、LVsを従来のオンコレトロウイルスベクターと比較して非常に一般的な遺伝子移動媒体とする。効率的な統合、広範な宿主細胞向性および低い組織特異性は、LVsをアデノ随伴ウイルスベクターのような他のベクターよりも効率的かつ有用なものとする。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
LVsは、免疫療法およびワクチン用途において用いるため、樹状細胞(DC)への遺伝子の移動に用いられている。専門的抗原提示細胞であるDCは、活発なT細胞応答を誘導するそれらの能力のため、そのような用途において一般的である。しかしながら、以下に報告されるように、LVsで形質導入されたDCは、未変性T細胞を活性化する能力の低下を示すことが発見された。LVs形質導入の後、DCは、IL−10の上方調節およびT細胞同時刺激分子の下方調節を含めて、サイトカイン応答および表面マーカー発現の変化を示した。これらの知見と一致して、LVsで形質導入されたDCは、未変性T細胞をTh1効果細胞に分極するそれらの能力が損なわれた−免疫療法およびワクチン用途におけるLVs形質導入DCの使用を制限し得る効果。
【課題を解決するための手段】
【0005】
要約
本発明は、DC機能のLVs誘導損傷を克服するための方法および組成物の発見に関する。本発明をなすにあたり、HIV/レンチウイルス感染によって生じるDC誘導T細胞機能不全を克服するため、可溶性サイトカインおよび免疫調節因子の適用を含む一連の免疫調節の方策が研究された。レンチウイルス免疫調節性ウイルスのような免疫調節因子をDCに送達することにより、HIV(レンチウイルス)感染によって生じるDCおよびT細胞機能不全を矯正することができる。具体的には、DCに、IL−7、IL−12またはIL−10RNAを標的とするsiRNAをコードするベクターを含むレンチウイルスで感染させることにより、損傷を受けたTh1応答が回復する。この技術は、患者における治療、ワクチン接種またはベクター適用の間のDCのHIV感染に関連する免疫抑制の問題を克服するための明確な免疫療法用処方を提供する。
【0006】
したがって、本発明は、レンチウイルスから誘導される第1ヌクレオチド配列およびIL−7、IL−12、またはIL−10に特異的なsiRNAをコードする第2ヌクレオチド配列を含む核酸を特徴とする。IL−7、IL−12、およびIL−10に特異的なsiRNAからなる群より選択される作用因子をコードするヌクレオチド配列を含む精製核酸が導入されている樹状細胞(例えば、レンチウイルスが感染しているもの)も本発明内にある。
【0007】
本発明の別の側面は、樹状細胞のT細胞活性化能力を調節する方法を特徴とする。この方法は、樹状細胞と会合するIL−7、IL−10、および/またはIL−12の量を調節する工程を含む。例えば、この工程は、細胞と会合するIL−7および/またはIL−12の量の増加、および/または細胞と会合するIL−10の量の減少を含むことができる。樹状細胞と会合するサイトカインの量の調節は、細胞を可溶性サイトカインと接触させること、可溶性サイトカインを細胞から除去すること、またはサイトカインをコードする精製核酸もしくはサイトカインの発現を減少させる作用因子(例えば、siRNAもしくはアンチセンス核酸)を細胞に導入することによって達成することができる。
【0008】
ここで用いられる、「核酸」という熟語は2つ以上のヌクレオチドの鎖、例えば、RNA(リボ核酸)およびDNA(デオキシリボ核酸)を意味する。「精製」核酸分子は、核酸が天然に生じる細胞または生物体内の他の核酸配列から実質的に分離または単離されているものである(例えば、30、40、50、60、70、80、90、95、96、97、98、99、100%混入がない)。この用語は、例えば、ベクターに組み込まれている組換え核酸分子、プラスミド、ウイルス、または原核生物もしくは真核生物のゲノムを含む。精製核酸の例には、cDNAs、ゲノム核酸の断片、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)で生成される核酸、ゲノム核酸の制限酵素処理によって形成される核酸、組換え核酸、および化学的に合成された核酸分子が含まれる。
【0009】
ここで用いられる、「ベクター」という用語は、核酸および/またはウイルス粒子を輸送することができる構成要素、例えば、プラスミドまたはウイルスベクターを指す。
【0010】
特に定義されない限り、ここで用いられるすべての技術的用語は、本発明が属する技術分野における通常の技術を有するものが通常理解するものと同じ意味を有する。分子生物学の用語の通常理解される定義は、Rieger et al.,Glossary of Genetics: Classical and Molecular,5th edition,Springer−Verlag:New York,1991;およびLewin,Genes V,Oxford University Press;New York,1994に見出すことができる。ウイルス学の用語の通常理解される定義は、Granoff and Webster,Encyclopedia of Virology,2nd edition,Academic Press:San Diego,CA,1999;およびTidona and Darai,The Springer Index of Viruses,1st edition,Springer−Verlag:New York,2002に見出すことができる。微生物学の通常理解される定義は、Singleton and Sainsbury,Dictionary of Microbiology and Molecular Biology,3rd edition,John Wiley & Sons:New York,2002に見出すことができる。
【0011】
ここに記載されるものに類似するか、または等価である方法や物質は、本発明の実施または試験において用いることができるが、適切な方法や物質は以下に記載される。ここで言及されるすべての刊行物、特許出願、特許および他の参考文献は、それら全体の参照によって受け入れられる。矛盾する場合には、定義を含めて、本明細書が支配するだろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
詳細な説明
本発明は、DCのT細胞活性化能力のLV誘導損傷を克服するための方法および組成物を提供する。以下に記載される好ましい態様は、これらの組成物および方法の適用を説明する。それでもなお、これらの態様の記載から、本発明の他の側面は、以下に示される記載に基づいてなされ、および/または実施することができる。
【0013】
生物学的方法
従来の分子生物学の技術を含む方法がここに記載される。そのような技術は一般に当該技術において公知であり、方法論の論文、例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,vol.1−3,ed.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,2001;およびCurrent Protocols in Molecular Biology,ed.Ausubel et al.,Greene Publishing and Wiley−Interscience,New York,1992(定期的に更新)に詳細に記載されている。核酸を化学的に合成するための方法は、例えば、Beaucage and Carruthers,Tetra.Letts.22:1859−1862,1981、およびMatteucci et al.,J.Am.Chem. Soc.103:3185,1981において考察されている。核酸の化学的合成は、例えば、市販の自動オリゴヌクレオチド合成装置で行うことができる。免疫学的方法は、例えば、Current Protocols in Immunology,ed. Coligan et al.,John Wiley & Sons,New York,1991;およびMethods of Immunological Analysis,ed.Masseyeff et al.,John Wiley & Sons,New York,1992に記載されている。遺伝子移動および遺伝子治療の従来の方法を本発明において用いるために適用することもできる。例えば、Gene Therapy:Principles and Applications,ed.T.Blackenstein,Springer Verlag,1999;Gene Therapy Protocols(Methods in Molecular Medicine),ed.P.D.Robbins,Humana Press,1997;およびRetro−vectors for Human Gene Therapy,ed.C.P.Hodgson,Springer Verlag,1996を参照のこと。
【0014】
核酸/LVs
本発明は、レンチウイルスから誘導される第1ヌクレオチド配列および(例えば、LV誘導T細胞活性化損傷を克服する)DC機能調節の可能な作用因子をコードする第2ヌクレオチド配列を含む核酸を提供する。本発明の核酸は、好ましくは、LVの形態をとる。幾つかの異なる型のLVsは、天然に生じるレンチウイルス、例えば、HIV−1、HIV−2、サル免疫不全ウイルス(SIV)、ネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ウシ免疫不全ウイルス(BIV)および他のものに基づくものが含まれることが知られている。米国特許第6,207,455号を参照のこと。本発明は、HIV−1ベースのベクターを用いて記載されるが、他のレンチウイルスに由来する他のベクターもここに記載される情報を適用することによって用いることができる。多くの利点のため、HIV−1ベースのベクターには遺伝子治療適用に対する備えがあり、これらが現時点で好ましい。
【0015】
本発明のLVsは、例えば制限された宿主細胞向性を克服するため、偽型化(pseudotyped)されていてもよい。例えば、水疱性口内炎ウイルスG(VSV−G)のウイルスエンベロープで偽型化されているLVsを用いることができる。安全性を高めるため、自己不活性化(SIN)LVを用いることもできる。例えば、SIN LVsは、3’U3プロモーターを不活性化し、かつ宿主染色体への統合に重要である5’統合結合部位を除く全ての3’U3配列を欠失させることによって作製することができる。本発明のベクターの設計に特に好ましい構築体は図1に示されるpTYFである。
【0016】
DC機能の調節が可能な作用因子をコードする第2ヌクレオチド配列は、IL−7またはIL−12(両者ともLVs誘導DC損傷を克服することがここで示される)のようなサイトカインをコードするものであり得る。IL−12、IL−12+GM−CSF、およびIL−7をコードするLVsを含むレンチウイルスがDC機能の調節(例えば、レンチウイルス感染DCによる損傷Th1応答の矯正)に用いられる。好ましいLVsには、pTYF−IL−12ビ−シストロンベクター、pTYF−IL12−GM−CSFトリ−シストロンベクター、およびpTYF−IL−7が含まれる。本発明の好ましいレンチウイルスはLVs pTYF−IL−12ビ−シストロンベクター、pTYF−IL12−GM−CSFトリ−シストロンベクター、およびpTYF−IL−7を含み、かつそれらの宿主細胞向性を広範化するようにVSV−Gで偽型化されている(Chang and Gay, Current Gene Therapy 1,237−251,2001;Chang and He,Curr Opin Mol Ther 3(5),468−75,2001を参照)。
【0017】
ここに記載される実験において用いられるウイルスベクター(および対応するウイルス)は、MLVベースおよびSINレンチウイルス(HIV−1)ベースのベクターである。図1は、LVs pTYF−CD80、pTYF−CD86、pTYF−Flt3−L、pTYF−IL−7、pTYF−CD40L、pTYF−IL−12、およびpTYF−IL−12/GMCSFの構造を示す。SIN LVsをクローニングするための出発プラスミドはpTYF、セントラルポリプリン配列(cPPT)を特徴とするSINベクターである。cPPT配列の封入はウイルスベクターの活性を約3倍高めることが示されている。SIN LVsは、3’短縮末端反復配列(LTR)の後ろに挿入された、3’ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(bGHpA)も含む。これらのSIN LVsは幾つかのサイトカインをコードし、これにはIL−12、IL−12プラスGM−CSFおよびIL−7の他に、免疫調節分子、例えば、CD80またはCD86(Liang and Sha,Curr.Opin.Immunol.14:384−390、2002;およびCarreno and Collins,Aanu.Rev.Immunol 20:29−53,2002)およびFlt3−Lが含まれる。ウイルスベクター内に含まれるヒトサイトカインcDNA配列は、RT−PCRにより、ヒト末梢血リンパ球から(CD80、CD86、GM−CSF、IL−12およびIL−7)またはヒト腫瘍細胞(Flt3−リガンドに関してTE671細胞)から増幅される。IL−12遺伝子は2つの成分、IL−12AおよびIL−12Bを有する。DC機能の調節において用いるには、両IL−12成分のcDNAsを、これら2つのcDNAの間にリボソーム内部進入部位(IRES)を伴って、ビ−シストロンベクターに同時にクローン化する。pTYF−IL−12−GMCSFベクターについては、2つの異なるIRES要素をIL−12B/IL−12AおよびIL−12A/GM−CSF cDNAsの間に配置してトリ−シストロン発現ベクターを産生する。ウイルスベクター内の遺伝子はあらゆる適切なプロモーター(例えば、強力プロモーター、例えば、ヒト伸長因子1アルファ、EF1a)の制御の下に置くことができる。pTYFベクターの構築については、Zaiss et al.,J.Virology 76:7209−7219;およびChang et al.,Gene Therapy 6:715−728を参照のこと。MLVベクター(および対応するウイルス)は、Zaiss et al.,J.Virol.76:7209−7219,2002に記載されるように構築した。
【0018】
組換えLVsおよびビリオンの構築は、Buchschacher et al.,Blood 95:2499−2504,2000;Chang et al.,Gene Therapy 6:715−728,1999;Emery et al.,PNAS 97:9150−9155,2000;Naldini et al.,Science 272:263−267,1996;Paillard et al.,9:767−768,1998;Sharma et al.,PNAS 93:11842−11847,1996;Reiser et al.,PNAS 93:15266−15271,1996;およびChinnasamy et al.,Blood 96:1309−1316,2000において考察されている。SINベクターの設計は、Miyoshi et al.,J.Virol.72:8150−8157,1998;Zufferey et al.,J.Virol.72:9873−9880,1998;Iwakuma et al.,Virology 261:120−132,1999;Mangeot et al.,J.Virol.74:8307−8315,2000;および Schnell et al.,Hum.Gene Ther.11:439−447,2000に記載されている。
【0019】
樹状細胞
本発明は、免疫調節性作用因子、例えば、IL−7、IL−12、またはIL−10に特異的なsiRNAをコードするヌクレオチド配列を有する精製核酸が導入されているDCを提供する。用いることができるDCには、哺乳動物DC、例えば、マウス、ラット、モルモット、非ヒト霊長類(例えば、チンパンジーおよび他のサル(ape および monkey)種)、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、およびヒトから誘導されるものが含まれる。DCは、哺乳動物被検体内のもの(すなわち、イン・ビボ)であっても、イン・ビトロ培養物中のもの(例えば、被検体への生体外送達のためにイン・ビトロで培養されるもの)であってもよい。本発明によるDCは、免疫調節性作用因子、例えば、IL−7、IL−12、またはIL−10に特異的なsiRNAをコードするヌクレオチド配列を有する精製核酸を含む。好ましいDCにおいては、この核酸が発現し、ポリペプチドまたはRNAを生じる。
【0020】
DCはあらゆる適切な供給源から得ることができ、これには皮膚、脾臓、骨髄、もしくは他のリンパ系器官、リンパ節、または血液が含まれる。好ましくは、DCは、本発明における使用のため、血液または骨髄から得られる。典型的には、DCは、外来性顆粒球−マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)およびインターロイキン−4での刺激の後、骨髄および末梢血単核細胞(PBMC)から得られる。骨髄細胞からDCを得る方法およびDCを培養する方法は、Inaba et al.,J.Exp.Med.176:1693−1702,1992;および Bai et al.,Int.J.Oncol.20:247−253,2002に記載されている。造血性前駆細胞(Mollah et al.,J.Invest.Dermatol.120:256−265,2003)および単球(Nouri−Shirazi and Guinet Transplantation 74:1035−1044,2002)からDCを培養するための方法も当該技術分野において公知である。DCを産生するための大規模単球濃縮手順の一例がPullarkat et al.(J.Immunol.Methods 267:173−183,2002)に記載されている。DCは、蛍光標示式細胞分取(FACS)分析においてDC特異的マーカーを用いて、異種細胞試料から単離することができる(Thomas and Lipsky J.Immunol.153:4016−4028,1994;Canque et al.,Blood 88:4215−4228,1996;Wang et al.,Blood 95:2337−2345,2000)。未成熟DCは、同時刺激分子、CD80/86、CD40の低レベル発現;T細胞活性を誘導する能力の低さ;IL−12p70を産生する能力のなさ;および調節性もしくは反応不顕性T細胞を誘導する可能性を特徴とする。これと比較して、成熟DCはIL−12p70を産生し、高レベルのMHCクラスII抗原、CD80/86、およびCD40、IL−12p70産生を発現する。単離DCだけではなくDCを含む細胞の集団も、DCの成長および増殖を許容するあらゆる適切なイン・ビトロ培養法を用いて、培養することができる。
【0021】
DC機能の調節
本発明はDC機能を調節するための方法も提供する。DCは未変性Tヘルパー細胞を刺激し、異なる免疫応答を仲介するIFN−ガンマ−産生Th1またはIL−4−産生Th2効果細胞のいずれかに分化させる。Th応答の歪みはLVsでのDCの形質導入から、およびレンチウイルスでの感染によって生じる。特には、レンチウイルス形質導入およびレンチウイルス感染DCがTh1応答の損傷およびIL−4−産生Th2応答の増強に向かう未変性Th細胞の分化を促す。本発明の組成物および方法は、DCにサイトカイン(例えば、免疫原)を提供することによってDCの免疫賦活能力を改善する(例えば、Th1応答を回復する)のに用いることができる。適切なサイトカインの例にはIL−12およびIL−7が含まれる。Th1応答を増強する他のサイトカインも本発明において用いることができる。
【0022】
DC機能(例えば、Th1応答を回復する)を調節するため、DC細胞を、レンチウイルスから誘導されるヌクレオチド配列およびレンチウイルスから誘導されない少なくとも1つの導入遺伝子を含む精製核酸を含有するLVと接触させる。この導入遺伝子は、Th1応答を増強するいかなるサイトカインであってもよく、これにはIL−12およびIL−7が含まれる。
【0023】
DC機能の調節の一例においては、DCを、IL−12、IL−12プラスGM−CSFおよびIL−7をコードするベクターを含むレンチウイルスに感染させる。この例においては、未成熟DCをMock(293T上清)、TYF−PLAP、TYF−IL−12、TYF−IL12−GM−CSF、またはTYF−IL−7に感染させる。LPS(80ng/ml)プラスTNF−アルファ(20u/ml)で24時間成熟させた後、DCを収穫し、未変性CD4 T細胞と共に1:20のDC/T比で同時培養する。同時培養の5日後、T細胞をIL−2(25u/ml)の存在下でさらに7日間増殖させる。Brefeldin Aの存在下でイオノマイシンおよびPMAでの再刺激の6時間後に細胞内IFN−ガンマおよびIL−4染色することにより、Thi、Th2およびTh0集団を測定する。免疫調節性分子、例えば、IL−12、IL−12+GM−CSF、およびIL−7をコードするLVsは、レンチウイルス感染DCによる損傷Th1応答を有効に矯正する。
【0024】
被検体における免疫応答の調節
被検体における免疫応答を増加および減少させるための組成物および方法は、多くの異なる障害を治療するための様々なDCベースの免疫療法策において用いることができる。成熟DCは、T細胞応答を開始する(例えば、細胞毒性Tリンパ球の誘導)ための組織化リンパ組織への抗原輸送に有効に介在する、鍵となる抗原提示細胞集団である。DCの正常機能はT細胞に抗原を提示することであり、次にそれはその抗原源を特異的に認識して最終的に排除する。DCは、癌および感染性疾患のための治療用および予防用ワクチンの両者として用いられる。そのようなワクチンは、強力な細胞性免疫応答を誘発するように設計される。DC生物学、DCへの遺伝子移動、およびDC免疫療法は、Lundqvist and Pisa,Med.Oncol.19:197−211,2002;Herrera and Perez−Oteyza,Rev.Clin.Esp.202:552−554,2002;および Onaitis et al.,Surg.Oncol.Clin.N.Am.11:645−660,2002において概説されている。
【0025】
細胞毒性および1型ヘルパー(Th1)細胞応答の誘導は慢性感染性疾患または癌を標的とするワクチンにとって非常に望ましい(P.Moingeon,J.Biotechnol.98:189−198,2002)。Th1細胞およびそれらの作用を上方調節するインターロイキンを発現する改変DCは病原に対する耐性を高めるのに用いることができる(J.W.Hadden,Int.J.Immunopharmacol.16:703−710,1994)。HTV感染の治療には、例えば、DCは、HIV特異的免疫が開始および増強されるように、生体外および生体内の両者で標的される(Piguet and Blauvelt J.Invest.Dermatol.119:365−369,2002)。
【0026】
HIV治療に加えて、本発明の改変DCは、癌免疫治療において用いることができる。第2のリンパ系器官および休止している未変性T細胞に腫瘍抗原を提示するように操作されているDCは腫瘍特異的T細胞の産生に有用である(A.F.Ochsenbein Cancer Gene Ther.9:1043−1055,2002)。例えば、ミエローマ関連抗原を発現するように改変されたDCは複数のミエローマの抗癌療法として有用である(Buchler and Hajek Med. Oncol. 19:213−218, 2002)。特定のサイトカインまたはケモカインを発現するDCは、実質的に改善された成熟状態、イン・ビボで第2のリンパ系器官に移動する能力、およびイン・ビボで腫瘍特異的T細胞応答を刺激して腫瘍免疫を誘導する能力を提示することが示されている。したがって、サイトカインを発現するように改変されているDCは、腫瘍免疫の誘導に有用であり、腫瘍抗原を発現するように改変されているDCと組み合わせて用いられる。癌免疫療法におけるDCの治療上の役割は、Lemoli et al.,Haematologica 87:62−66,2002;A.F.Ochsenbein,Cancer Gene Ther.9:1043−1055,2002;Zhang et al.,Biother.Radiopharm.17:601−619,2002;Di Nicola et al.,Cytokines Cell Mol.Ther.4:265−273,1998;D.Avigan,Blood Rev.13:51−64,1999、およびSyme et al.,J.Hematother.Stem Cell Res.10:601−608,2001において概説されている。
【0027】
DCベースのワクチン方策の一例においては、免疫源をコードするLVは、DCの改変に用いられ、これはその免疫源の発現および休止している未変性T細胞へのその提示が生じる。そのような抗原提示策は単独で、または、広範な免疫応答を誘発するため、組み合わせて混合免疫化療法の一部として用いることができる。患者へのDCの送達を含む免疫化の異なる方策が、Onaitis et al.,Surg.Oncol.Clin.N.Am.11:645−660,2002に記載されている。
【0028】
改変DCは、自己免疫障害(例えば、関節炎、喘息、アトピー性皮膚炎)を治療するためのT細胞(Th1および/またはTh2)応答の調節に用いることもできる。Th1およびTh2細胞のバランスは多くの自己免疫障害において重要なものである。Th1細胞活性は関節リウマチおよびインシュリン依存性糖尿病の患者の関節において優勢であり、それに対してTh2細胞優勢応答は、アトピー性障害(例えば、アレルギー)、器官特異的自己免疫疾患(1型糖尿病および甲状腺疾患)、クローン病、同種移植拒絶(例えば、急性腎臓同種移植拒絶)、および幾つかの説明されていない再発性流産の病因に関与する(Allergy Asthma Immunol.85:9−18,2000)。同種移植拒絶は、宿主免疫系が同種非自己抗原を検出したときに生じる。同種移植拒絶を予防または治療するため、改変DCを組織特異的抗原に対する寛容性の誘導に用いることができる(B.Arnold Transpl.Immunol.10:109−114,2002)。免疫抑制性分子を発現するDCも同種移植拒絶の治療として用いることができる(Lu and Thomson Transplantation 73:S19−22,2002)。
【0029】
改変DCは、さらに、微生物病原体(例えば、ウイルス、細菌、真菌、原生動物、およびぜん虫)に対する免疫応答の誘導に用いることができる。例えば、微生物病原体から誘導されるペプチド抗原を発現するようにDCを改変することができる。そのようなDCによる抗原の提示はその病原体に対する活発な免疫応答を刺激し得る。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の具体的な例によってさらに説明する。これらの例は説明のためだけに提供されるものであり、いかなる意味においても本発明の範囲または内容を制限するものと解釈されるべきではない。
【0031】
(実施例1)−材料および方法
単球誘導樹状細胞の産生。末梢血単核細胞(PBMC)を、従来記載されるように(Chang and Zhang,Virology 211:157−169,1995)、健常ドナーのバフィーコート(Civitan Blood Center、Gainesville、FL、USA)から Ficoll−Hypaque(Sigma−Aldrich、USA)における勾配密度遠心によって単離した。DCをPBMCから、Thumerら(J.Immunol.Methods 223:1−15,1999)に従い、以下の改変を施して調製した。第0日に、ウェル当たり500万個のPBMCを12ウェル培養プレート内の血清非含有AIM−V培地に播種した。37℃で1時間インキュベートした後、非接着細胞を穏やかに洗い流し、残留する接着単球細胞をAIM−V培地において第1日までさらに培養した。緩やかに接着する細胞を乱さないように培養培地を慎重に除去し、組換えヒトGM−CSF(560u/ml、Research Diagnostic Inc.Flandes NJ)およびIL−4(25ng/ml、R&D Systems)を含有する新たなAIM−V培地(ウェル当たり1ml)を添加して細胞を37℃、CO5%下、インキュベーター内で培養した。第3日に、GM−CSF(560u/ml)およびIL−4(25ng/ml)を含有する1mlの新鮮なAIM−V培地を培養物に添加した。第5日に、非接着細胞を穏やかなピペット処理によって収穫した。洗浄後、DCを後に使用するために凍結するか、または直ちに使用した。
【0032】
未成熟DCのレンチウイルス形質導入およびDC成熟。第5日に、未成熟DCを、GM−CSF(560u/ml)およびIL−4(25ng/ml)を補足した200ulの培地を収容する24ウェルプレートにおいて、ウェル当たり5×10で平板培養した。DCの形質導入は、濃縮LVsを細胞に50−100の感染効率(MOI)で添加することによって行った。それらの細胞を30分毎に穏やかに振盪しながら37℃で2時間インキュベートした後、1mlのDC培地を添加し、その培養物をウイルスベクターと共にさらに12時間インキュベートした。リポ多糖(LPS)を最終濃度80ng/mlで、且つTNF−アルファを最終濃度20u/mlで、DC培養物に24時間添加することによって、DC成熟を誘導した。2mMのEDTAを含有するAIM−V培地と共に37℃、CO5%下、インキュベーター内で20分間インキュベートした後、成熟DCを収穫した。細胞を3回洗浄し、次の実験に用いた。
【0033】
抗体染色およびフローサイトメトリー。フローサイトメトリーによって細胞表面マーカーの発現を分析するため、DCを正常マウス血清と共に10分間、次いで、HLA−ABC(Tul49、マウスIgG2a、FITC標識、Caltag Laboratories)、HLA−DR(TU36、マウスIgG2b、FITC標識、Caltag Laboratories)、CD1a(HI49、マウスIgG1k、APC標識、Becton Dickinson)、CD80(L307.4、マウスIgG1k、Cychrome標識、Becton Dickinson)、CD86(RMMP−2、ラットIgG2a、FITC標識、Caltag Laboratories)、ICAM−1(15.2、FITC標識、Calbiochem)、DC−SIGN(eB−h209、ラットIgG2a,k、APC標識、eBioscience)、CD11c(B1y−6、マウスIgG1、PE標識、Becton Dickinson)、CD40(5C3、マウスIgG1,k、Cy−chrome標識、Becton Dickinson)、CD123(マウスIgG1、k、PE標識、Becton Dickinson)、CD83(HB15e、マウスIgG1,k、R−PE標識、Becton Dickinson)を含む、蛍光色素結合抗ヒトモノクローナル抗体と共に30分間インキュベートした。対応するイソ型対照抗体も各染色条件に含めた。2回の洗浄の後、細胞をPBS中1%のパラホルムアルデヒドに再懸濁させて固定し、FACSCaliburフローサイトメーターおよびCELLQUESTプログラム(Becton Dickinson)を用いて分析した。前方および測方光散乱特性によって生細胞を通過させ、陽性細胞のパーセンテージおよび集団の平均蛍光強度(MFI)を記録した。
【0034】
RNAの単離、標識およびアレー・ハイブリダイゼーション。レトロウイルスまたはアデノウイルスベクターに感染させた後、細胞を収穫してTrizole(Invitrogen/Life Technologies、Carlsbad、california)で溶解した。製造者のプロトコル(Clontech)に従い、全RNAを単離して標識し、Atlas Arrayフィルターへのハイブリダイゼーションの準備を行った。ハイブリダイゼーションは15ugの標識cDNA産生物を用いて一晩行った。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の後、アレーフィルターを、phosphorimager(Storm 486、Molecular Dynamics)を用いて走査し、Clontech Atlas Array 画像解析ソフトウェアを用いて定量的に解析した。
【0035】
IL−4、IL−10およびIL−12の半定量および定量RT−PCR分析。DCをLVsで形質導入し、上述のように成熟させた。Tri−reagentを用いて全RNAを精製した。半定量RT−PCRについては、標準一工程RT−PCR(Promega)を、ヒトIL−4、IL−10およびIL−12のプライマー並びにヒトGAPDHの対照プライマーを用いて行った。定量RT−PCR分析については、DCの全RNAをTrireagentキットを用いて単離し、オリゴ−dTおよびAMV逆転写酵素を用いて第1鎖cDNAに転写し、かつリアルタイムRT−PCRをABI−Prism 7000 PCRサイクラー(Applied Biosystems、Foster City、CA)で行った。IL−12p40、IL−10、GAPDHの確証済みPCRプライマーおよびTaqMan MGBプローブ(6FAM標識)はABIから購入した。PCR混合物は製造者の使用説明書(StratageneおよびABI)に従って調製し、サーマルサイクラーの条件は以下の通りであった:1×95℃ 10分、40−50サイクル変性(95℃ 15秒)および一体化したアニーリング/伸長(60℃ 1分)。試料のサイクル閾値を、連続希釈した標準と比較することにより相対的定量を行った。
【0036】
未変性CD4 T細胞の調製。CD4 T細胞単離Rosetteカクテル(StemCell Technologies)を用いる陰性選択により、CD4 T細胞をPBMCから製造者の使用説明書に従って調製した。簡潔に述べると、無菌200ml Falcon遠心管において、45mlバフィーコート(約5×10PBMC)を2.25ml CD4 T細胞濃縮Rosetteカクテルと共に25℃で25分間インキュベートした。その後、2%FBSを含有する45mLのPBSを添加してバフィーコートを希釈した。穏やかに混合した後、30mlの希釈バフィーコートを50ml Falcon管内の15mL Ficoll Hypaqueの頂部に移して層を形成させ、1,200gで25分間遠心した。非ロゼット化細胞をFicoll界面で収穫してPBS(2%FBS)で2回洗浄し、カウントして将来的な使用のために液体窒素中に分割単位で凍結保存した。単離CD4 T細胞の純度は一貫して95%を上回った。CD4CD45RA未変性T細胞は、CD45RO細胞の陰性選択に基づき、MACS(Miltenyi Biotec)磁気アフィニティカラムを用いて製造者の使用説明書に従って精製した。
【0037】
Th機能のイン・ビトロ誘導および細胞内サイトカイン染色。イン・ビトロDC:T細胞同時培養法は、Caron G,et al.(J.Immunol,167;3682−3686,2001)に従った。簡潔に述べると、精製未変性CD4 T細胞を同種成熟DCと共に異なる比(20:1ないし10:1)で血清非含有AIM−V培地において同時培養した。第5日に50u/mlのrhIL−2を添加し、培養物を増殖させて3週間まで毎日rhIL−2含有ATM−V培地を供給した。第12日の後、静止状態のT細胞を洗浄し、PMA(10ng/mlまたは0.0162uM)およびイオノマイシン(1ug/ml、Sigma−Aldrich)で5時間再刺激した。培養の最後の2.5時間にBrefeldin A(1.5ug/ml)を添加した。その後、細胞を固定し、透過化し、FITC標識抗−IFN−γおよびPE標識抗−IL−4mAb(PharMingen)で染色し、FACSCaliburフローサイトメーター(BD Biosciences)において分析した。
【0038】
DC介在混合リンパ球反応(MLR)。ウェル当たり10,000細胞ないしウェル当たり313細胞の、DCの連続希釈を1×10同種CD4 T細胞と共に96ウェルU底プレートにおいて合計200ulで5日間培養した。T細胞の増殖を、20ulのCellTiter96溶液を製造者の使用説明書(Promega)に従って各ウェルに添加することにより監視し、490nmでのOD読み取り値を得た。
【0039】
LVs構築および産生。プラスミド構築。この研究に用いられるオンコレトロウイルス(MLV)およびLVs(HIV−1およびHIV−1 SIN)は、従来記載される通りに構築した(Zais et al.,J.Virol.76:7209−7219,2002)。すべてのHIV−1 SINベクター(pTY)は、3’短縮末端反復配列(LTR)の後ろに挿入された3’ウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル(bGHpA)を有する。NotI消化pHEFを、UF Powell Gene Therapy CenterのVector Coreから入手したヒト化eGFP構築体から誘導されたNotI消化eGFP断片とライゲートすることにより、強化緑色蛍光タンパク質(eGFP)発現プラスミド、pHEFeGFPを構築した。pTVdl.EFeGFPに由来するeGFP断片(XhoI−EcoRI)をpTYEFnlacZに挿入し、核lacZ(nlacZ)遺伝子を置換することによってpTYEFeGFPを作製した。pTVdl.EFnlacZのnlacZ断片(XhoI−EcoRI)をpHEFeGFPから単離されたeGFP断片(XhoI−EcoRI)で置換することにより、pTVdl.EFeGFPを産生した。MLV gag−pol構築体はpcDNA3.1/Zeo(+)(Invitrogen)に基づくもので、サイトメガロウイルス最初期プロモーターがヒト伸長因子1α(EF1α)プロモーターで置換されていた。サイトカイン遺伝子またはT細胞同時刺激遺伝子を発現するレンチウイルスベクターは、これらの遺伝子をコードするcDNAをpTYF−EF形質導入ベクター内の上記のようにEF1αプロモーターの後ろに挿入することによって構築した。
【0040】
(実施例2)−結果
ウイルス形質導入後の細胞性応答のcDNAマイクロアレー分析。ウイルス形質導入に対する細胞応答を、HIV−1(LVs)、Moloneyマウス白血病ウイルス(MLV)およびアデノウイルス(Ad)ベクターを含む異なるウイルスベクターを一次ヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)において比較することによって分析した。HIV−1およびMLVベクターの両者はDNA同時形質移入によって調製され、従来記載されるように(Chang and Gay, Current Gene Therapy,1:237−251,2001;Zaiss et al、前出)、ウイルス遺伝子はベクターゲノム内に含まれていなかった。Adベクターは、アデノウイルス遺伝子の大部分を含むElA欠失ベクター系に基づくものであった(Graham and Prevec,Manipulation of adenovirus vectors,Vol.7,Chapter 11,pp.109−128,1991)。HUVECは少継代(<5)で維持し、2−3の感染効率(moi)で形質導入した。細胞および導入遺伝子のパッケージ化から生じる可変性を最少化するため、この研究において用いられる3種類全てのウイルスベクターは、lacZレポーター遺伝子を担持し、かつ293細胞において産生された。HUVECの細胞性応答は、1,176ヒトcDNA、9つのハウスキーピング対照cDNAおよび陰性対照を各々含む、4つのClontech Human Atlas Array 1.2ブロットの組を用いて研究した。
【0041】
HUVECをmock(対照293上清)、LVs、MLVおよびAdベクターで形質導入した。感染の24時間後に全ポリARNAを収穫し、逆転写酵素によって32P−dATPで標識して、4つの同一のClontech Atlas Human Array 1.2 cDNAブロットにハイブリダイズさせた。それらの結果をClontech AtlasImage 1.5ソフトウェアおよび対比較を用いて解析した。上方または下方調節された遺伝子を、2倍を上回るか、または10,000シグナル強度を上回るあらゆる登録された変化からソフトウェアを用いて任意に決定し、視認比較によって確認した。これらの結果をClontechによって任意に設定された6つの遺伝子プール群にまとめた:細胞サイクルおよび癌遺伝子、シグナル伝達、アポトーシスおよびGTPase、転写および表面シグナル伝達、接着−受容体−ケモカイン、並びにストレス応答−インターロイキン−インターフェロン。下記表1を参照のこと。LVsはMLVおよびAdベクターよりも転写および表面シグナル伝達遺伝子を強化するものと思われ、かつ、興味深いことに、免疫抑制性サイトカインであるIL−10が、MLVおよびLVs形質導入の後に上方調節された。
【0042】
表1.HUVECにおける遺伝子発現に対するウイルス形質導入の効果。6種類の任意に定義された機能的遺伝子を、上方調節(↑)、下方調節(↓)または不変(−)で示される遺伝子発現における変化の重なりと共に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
LVs形質導入後のDC表面マーカー発現の分析。異なる抗体およびフローサイトメトリーを用いるLVs形質導入後のDC上の表面マーカー発現。末梢血単球(PBM)誘導未成熟DCを、mock(対照293上清)、空のLVs粒子(ウイルスゲノムなしにHIV−1キャプシドおよびVSV−Gエンベロープを含む粒子)、LVs、およびMLVを含むベクターで形質導入した。ベクター粒子内に存在するウイルスタンパク質がDC表現型の変化を誘導するかどうかを見るため、空のLVsも試験した。LPSプラスTNF−αで24時間処理した後、DCを抗体染色およびフローサイトメトリーのために収穫した、これらの結果を表2にまとめる。試験した表面分子のうち、CD1a、CD80、CD86、ICAM−1およびDC−SIGNは、LVs形質導入後に下方調節されたが、空のLVsまたはMLVを用いたときにはされなかった。PLAPまたはCreレポーター遺伝子を担持する異なるLVsの調製品を試験したとき、同じ結果が得られた。
【0045】
【表2】


結果はフローサイトメトリー後の幾何平均蛍光として示される。アスタリスク(*)はスチューデントt検定による差の有意性を示す(P<0.05、**P<0.01、***P<0.001)。
【0046】
LVs形質導入損傷DC介在Th1免疫。ヒトDCおよび未変性T細胞を用いるイン・ビトロDC機能アッセイを行った。DCをPBMから培養においてGM−CSFおよびIL−4で産生し、PBM誘導第5日(d5)DCを、PLAPレポーター遺伝子を担持するLVsで感染させた。感染したDCをPLAP活性について第7日に分析した。この条件下で、90%を上回るDCが、moi〜30−80においてLVsで形質導入された。IL−10の発現がLVs感染後のDCにおいて影響を受けるかどうかをみるため、第5日DCをLVsで感染させ、そのDCを第6日にLPSで処理し、翌日にIL−10の発現について、抗−IL−10モノクローナル抗体およびフローサイトメトリーを用いる細胞内サイトカイン染色(ICCS)によって分析した。HUVECのLVs形質導入と同様に、DCにおけるIL−10の上方調節がLVs感染後に観察された。
【0047】
LVs感染後のDCの機能をさらに特徴付けるため、未変性CD4 T細胞を末梢血単核細胞(PBMC)から精製し、TNF−αおよびLPS誘導成熟後の同種PBM誘導DCと共に同時培養した。第5日にこれらのDCにLVsまたはMLVを感染させ、誘導して成熟させ、未変性CD4 T細胞と共に同時培養した。これらのT細胞を増殖させ、DCプライミングの後に7日にわたって休止させた。Th応答を分析するため、休止T細胞を第7日および第9日にイオノマイシンおよびPMAとの同時培養の後に再活性化し、上述のようにIFN−γおよびIL−4に対する抗体を用いる細胞内染色(ICCS)を施した。これらの結果は、IFN−γ産生Th1細胞集団が、対照についての第7日の72%および第9日の75%から、LVs形質導入DCについての第7日の27%および第9日の22%まで劇的に減少し、これに対してTh2集団は不変のままであったことを示した。同様ではあるが著しさでは劣る効果がMLV形質導入DCについて観察された。
【0048】
免疫調節性遺伝子をコードするLVsによるDC免疫の改変。ヒトCD80およびCD86のcDNAを図1に示されるようにLVsにクローン化した。DCを、レポーター遺伝子(LV−PLAP)、CD80 cDNA(LV−CD80)またはCD86 cDNA(LV−CD86)を担持するLVsで形質導入し、12時間後にLPSおよびTNF−αで処理した。形質導入DCを、CD80およびCD86の発現について、抗−CD80および抗−CD86抗体を用いるフローサイトメトリーによってLVs形質導入の36時間後に分析した。CD80およびCD86発現の両者とも、LV−PLAP感染の後、CD80については41%から35%に、CD86については61%から49%に減少した。しかしながら、CD80およびCD86の発現は、CD80(35%から44%)およびCD86(49%から76%)をコードするLVsでの形質導入の後に、それぞれ、上方調節された。
【0049】
他の実験においては、mock、LVs−PLAP、LVs−PLAPプラスLVs−CD80またはLVs−PLAPプラスLVs−CD86で形質導入したDCを未変性CD4 T細胞と共に同時培養した。8日後、T細胞を再活性化し、上述のように抗−IL−4および−IFN−γ抗体を用いてICCSおよびフローサイトメトリーによって分析した。それらの結果は、LVs形質導入の後、Th1集団が24%から13%に減少したことを示し、この損傷はDCにおけるCD80およびCD86の上方調節によっては矯正することができなかった(それぞれ、13%から12%および13%)。
【0050】
他の実験においては、可溶性IL−12および/またはFLをDC培養に補足することによってDCのTh1活性化機能を強化できるどうかを研究し、ここで、これらのサイトカインはウイルス形質導入およびDC:T細胞同時培養を通して個別に、または一緒にDC培養に添加された。同時培養したT細胞を、Th分析のため、第6日および第7日に再活性化した。IL−4およびINF−α ICCSによるT細胞の第6日および第7日分析の両者の結果は、LVs感染後のTh1応答の損傷を確認した(それぞれ、37.5%および20%から15.6%および10%)。しかしながら、外来性IL−12のみの補足はTh1応答の損傷を部分的に矯正し(それぞれ、15.6%および10%から、IL−12単独について19.1%および11.7%、IL−12+FLについて18.7%および13.2%)、FL単独には効果がなかった(それぞれ、15.6%および10.0%から14.6%および8.8%)。より高濃度の可溶性IL−12を用いる他の実験においては、Th1応答の損傷は完全に矯正された。
【0051】
重要なサイトカインの強化された内在性発現でDCを操作するため、FL、IL−7、CD40L、ビ−シストロン性IL−12、およびトリ−シストロン性IL−12/GM−CSFを含む異なるサイトカインをコードするLVsを構築して試験した(図1)。DCを、レポーター遺伝子のみを担持するLVsで形質導入し、または異なるサイトカインを発現するLVsと共に同時形質導入した。LVs形質導入DCのTh機能は、DC:T細胞同時培養アッセイによって研究し、12日後にT細胞を上述のように再活性化してICCSおよびフローサイトメトリーによって分析した。それらの結果は、LVsレポーターベクター形質導入単独がTh1発生の減少を導くことを示した(54.6%から37.7%)。しかしながら、ビシストロン性IL−12、トリシストロン性IL−12/GM−CSF、およびIL−7をコードするLVsとのDCの同時形質導入は、それぞれ37.7%から56.2%、56.2%および50.7%に、Th1応答を有効に増強した。他の免疫調節性遺伝子、例えば、FL、GM−CSF、またはCD40LをコードするLVsは、いかなる矯正効果をも示さなかった。
【0052】
IL−10を標的とする小妨害性RNAを発現するLVsによるDC機能の調節。IL−10を標的とする小妨害性RNAをコードするLVsを構築した。IL−10 mRNAにおける2つの領域をRNA妨害標的部位に選択した(図2)。siRNA発現カセットをヒトH1 polIIIプロモーターによって駆動させ、LVsに逆方向にクローン化した。このLV−siRNAベクターは、力価測定を可能にするためのpolIII siRNAに隣接したnlacZレポーター遺伝子を持っている。DCをレポーターLVsおよびIL−10を標的とするLVs−siRNAで同時形質導入した後、IL−10の発現について上述のようにLPS処理およびICCSの後に分析した。これらの結果もまた、LVs形質導入単独は、IL−10の発現を上方調節し、それに対してIL−10を標的とするLV−siRNAとの同時形質導入は、IL−10の発現を下方調節した。次に、これら2つのIL−10 LVs−siRNA構築体をLVs−同時形質導入およびDC:T同時培養Th1機能アッセイにおいてLVs−IL−7と比較した。同時培養未変性T細胞を活性化し、20日間休止させた後、再活性化およびThサイトカイン分析を行った。IL−4およびIFN−γ ICCSの結果は、IL−10 LVs−siRNAベクターが両者ともTh1応答を増強し、#2 IL−10 LVs−siRNAがLV−IL−7に匹敵するか、もしくはそれを上回るレベルのTh1応答の増強を示すことを立証した。これは、別のTh1サイトカインTNFα ICCSの分析でさらに検証された。
【0053】
他の態様
本発明をそれらの詳細な説明と共に記載したが、上述の記載は説明を目的とするものであり、添付の請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するものではないことは理解されるべきである。例えば、LV誘導DC損傷を克服する作用因子は、非レンチウイルス法を用いて、例えば、他のウイルスベクターまたは非ベクターベースの方法を用いて標的DCに導入することができる。他の態様、利点、および変形は以下の請求の範囲内にある。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明において用いられる様々なベクター構築体を示す高度に模式化された図である。
【図2】IL−10 RNAに特異的なsiRNAを示す高度に模式化された図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レンチウイルスから誘導される第1ヌクレオチド配列およびT細胞を活性化する樹状細胞の能力を調節することができる作用因子をコードする第2ヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項2】
第2ヌクレオチド配列がIL−7をコードする請求項1の核酸。
【請求項3】
第2ヌクレオチド配列がIL−12をコードする請求項1の核酸。
【請求項4】
第2ヌクレオチド配列がsiRNAをコードする請求項1の核酸。
【請求項5】
siRNAがIL−10に特異的である請求項4の核酸。
【請求項6】
核酸がレンチウイルスベクター内に含まれる請求項1の核酸。
【請求項7】
レンチウイルスベクターがビリオン内に含まれる請求項6の核酸。
【請求項8】
精製核酸の導入されている樹状細胞であって、該精製核酸はT細胞を活性化する樹状細胞の能力を調節することができる作用因子をコードするヌクレオチド配列を含む樹状細胞。
【請求項9】
細胞がレンチウイルスベクターを含む請求項8の樹状細胞。
【請求項10】
ヌクレオチド配列がIL−7をコードする請求項8の樹状細胞。
【請求項11】
ヌクレオチド配列がIL−12をコードする請求項8の樹状細胞。
【請求項12】
ヌクレオチド配列がsiRNAをコードする請求項8の樹状細胞。
【請求項13】
siRNAがIL−10に特異的である請求項12の樹状細胞。
【請求項14】
レンチウイルスベクターが、IL−7、IL−12、およびIL−10に特異的なsiRNAからなる群より選択される作用因子をコードするヌクレオチド配列を含む請求項9の樹状細胞。
【請求項15】
樹状細胞のT細胞活性化能力を調節するための方法であって、樹状細胞と会合する少なくとも1種類のサイトカインの量を調節する工程を含む方法。
【請求項16】
少なくとも1種類のサイトカインがIL−7、IL−10、およびIL−12からなる群より選択される請求項15の方法。
【請求項17】
細胞と会合するIL−7の量が増加される請求項16の方法。
【請求項18】
細胞と会合するIL−12の量が増加される請求項16の方法。
【請求項19】
細胞と会合するIL−10の量が減少される請求項16の方法。
【請求項20】
樹状細胞と会合する少なくとも1種類のサイトカインの量を調節する工程が、細胞を可溶性サイトカインと接触させることを含む請求項15の方法。
【請求項21】
樹状細胞と会合する少なくとも1種類のサイトカインの量を調節する工程が、IL−7、IL−12、およびIL−10に特異的なsiRNAからなる群より選択される作用因子をコードするヌクレオチド配列を含む精製核酸を樹状細胞に導入することを含む請求項15の方法。
【請求項22】
レンチウイルスから誘導される第1ヌクレオチド配列およびsiRNAをコードする第2ヌクレオチド配列を含む核酸。
【請求項23】
樹状細胞における遺伝子の発現を調節するための方法であって、レンチウイルスから誘導される第1ヌクレオチド配列およびsiRNAをコードする第2ヌクレオチド配列を含む核酸を樹状細胞に導入する工程を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公表番号】特表2006−505280(P2006−505280A)
【公表日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−551842(P2004−551842)
【出願日】平成15年11月7日(2003.11.7)
【国際出願番号】PCT/US2003/035482
【国際公開番号】WO2004/044147
【国際公開日】平成16年5月27日(2004.5.27)
【出願人】(505166306)
【Fターム(参考)】