説明

改良された洗濯耐久性のために架橋結合剤系を含む局所適用銀系仕上げ剤を有する布地

局所的に適用された銀イオン処理(例えば、リン酸ジルコニウム、ガラス及び/又はゼオライトなどのイオン交換化合物)を有する布地についての、洗濯耐久性及び変色レベルの改良が提供される。このような固体化合物は、一般に変色を受けやすく、その固形性の故に、通常は局所表面適用から脱落しやすい。本発明の処理は、銀イオンの上塗り又は銀イオン抗菌化合物と混合された染浴混合物の成分として、ある種のポリウレタン結合剤の存在を必要とする。加えて、ある種のハロゲン化金属添加剤(好ましくは、実質的にナトリウムイオンを含まない)を、そのような銀イオン含有組成物に典型的な変色を防止するために使用する。その結果、洗濯耐久性、変色レベル又は両方を、標準的な洗濯及び乾燥を実質的な回数行った後に、本発明の処理が認識できる割合で減退せず、処理物の色が適用当初と実質的に同程度残っているように、改良することができる。特定の処理方法、更に処理された布地も本発明に包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所的に適用された銀イオン処理(例えば、リン酸ジルコニウム、ガラス及び/又はゼオライトなどのイオン交換化合物)を有する布地について、洗濯耐久性及び変色レベルを改良することに関する。このような固体化合物は、一般に変色を受けやすく、その固形性の故に、通常は局所表面適用から脱落しやすい。本発明の処理は、銀イオンの上塗り又は銀イオン抗菌化合物と混合された染浴混合物の成分として、ある種のポリウレタン結合剤の存在を必要とする。加えて、ある種のハロゲン化金属添加剤(好ましくは、実質的にナトリウムイオンを含まない)を、そのような銀イオン含有組成物に典型的な変色を防止するために使用する。その結果、洗濯耐久性、変色レベル又は両方を、標準的な洗濯及び乾燥を実質的な回数行った後に、本発明の処理が認識できる割合で減退せず、処理物の色が適用当初と実質的に同程度残っているように、改良することができる。特定の処理方法、更に処理された布地も本発明に包含される。
【背景技術】
【0002】
近年、潜在する日常的暴露から細菌汚染が生じる危険性に対して、相当な注意が払われている。そのような関心の注目すべき例には、ファーストフード店で十分に加熱されていない牛肉中に発見された菌株 Eschericia coli による食中毒;十分に加熱されずかつ洗浄されていない鶏肉製品からの Salmonella 汚染が引き起こす疾病;及びStaphylococcus aureus、Klebsiella pneumoniae、酵母及び他の単細胞微生物に起因する病気及び皮膚感染症の致命的な結果が含まれる。この分野での消費者のそのような関心が高まるにつれ、製造業者は、種々の家庭製品及び物品に抗菌剤を配合し始めている。例えば、あるブランドのポリプロピレン製まな板、液体石鹸などはすべて抗菌化合物を含んでいる。そのような物品における最も一般的な抗菌剤はトリクロサンである。液体又は重合体媒体にこのような化合物を配合することは比較的簡単であるが、繊維製品や繊維の表面を含む他の基材にはうまく使用できないことが分かっている。
【0003】
繊維製品表面、特に服飾用布地、及びフィルム表面に、効果的で耐久性があり長続きする抗菌特性を与えることが長年の間求められていた。このような材料に適用するは、特に洗濯耐久性が必要な場合には、トリクロサンでは非常に困難である(トリクロサンはそのような表面から容易に洗い流される)。更に、トリクロサンは、抗菌化合物としては有効であることが明らかにされているが、そのような化合物中に塩素及び塩化物が存在すると、皮膚に刺激を与えるので、繊維、フィルム及び服飾用の繊維製品に用いることは非常に望ましくない。加えて、トリクロサンと一緒に共押出されたアクリル及び/又はアセテート繊維からなる市販繊維製品がある(例えば、Celanese はそのようなアセテート布地をMicrosafeTMの商品名で販売し、Acordis は、そのようなアクリル繊維をAmicorTMの商品名で販売している)。しかしながら、そのような適用は、このような種類の繊維に限定され、とりわけポリエステル、ポリアミド、綿、スパンデックスなどの布地では機能しない。更には、この共押出法は非常に経費がかかる。
【0004】
銀含有無機殺微生物剤が最近開発され、非常に多種の異なる基材中及び表面上での抗菌剤として使用されている。特に、そのような殺微生物剤は、特開平11−124729号公報に記載されているように、選択的かつ永続的に抗菌特性を発揮するようなある種の布地を得るために、溶融紡糸合成繊維に配合される。更に、そのような特定の殺微生物剤を布地及び糸の表面に適用する試みがなされているが、耐久性の観点からほとんど成功していない。そのような化合物による局所的な処理は、布地又は糸基材上の耐久性ある仕上げ又は被覆としては、これまで成功裏に行われたことはなかった。そのような銀系剤は優れた耐久性抗菌特性を与えるが、永続的な洗濯耐久性がある銀系抗菌繊維製品を提供する従来技術では、これまでは、上記方法が唯一のものであった。しかしながら、そのような溶融紡糸繊維は、銀系化合物の繊維内部から表面への移行特性に関連して十分な抗菌活性を提供するには大量の化合物が必要であるので、製造するには高価である。繊維製品及びフィルム用途には、特に対象繊維製品及びフィルムの仕上げ後に、局所被覆も望ましい。そのような局所被覆により、対象糸の物理的性質を変えることなく糸により大きい汎用性を与えるために、織り、編みなどの前又は後に繊維製品の個々の繊維の処理が可能である。しかしながら、そのような被覆は、とりわけ服飾用布地については、機能的に許容できるように洗濯耐久性であることが証明されなければならない。加えて、ある問題を避けるために、そのような金属化処理は対象布地、糸及び/又はフィルム表面で非導電性であることが非常に望ましい。金属及び金属イオンの存在により、そのような洗濯耐久性非導電性被覆は、これまで得られていない。そのような改良は、繊維製品、糸及びフィルム分野で重要な進歩をもたらすことになるであろう。抗菌活性は、本発明の金属処理布地、糸又はフィルムの1つの望ましい特性ではあるが、本発明の物品に必要な性質ではない。臭気抑制、保温、独特の着色性、低下した変色性、改良された糸及び/又は布強度、鋭利な端部に対する耐性などが、個別に又は総合的に、本発明により処理された糸、布地又はフィルムの使用者にもたらされる性質である。
【0005】
銀イオン系化合物の局所適用は、銀イオン自体の酸化により、審美的に不快な変色を呈する。典型的に、色調の変化(黄色から灰色ないし黒色)が、大気条件に暴露した際又は後に顕著になる。従って、そのような局所適用の改良に対する要求がなお存在する。これまで、変色に伴う問題は認識されていたが、改善できなかった。
【特許文献1】特開平11−124729号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、繊維製品を洗濯耐久性が非常に高い抗菌性銀イオン含有処理剤により効果的に処理する簡単な方法を提供することである。本発明の別の目的は、洗濯耐久性が高く、実質的に非変色性であり、皮膚に刺激を与えず、抗菌及び/又は臭気制御特性を与える、審美上魅力的な金属イオン処理繊維製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
従って、本発明は、一部が仕上げ剤で被覆された表面を有する非導電性布地であって、該仕上げ剤は、少なくとも1種の銀イオン含有化合物、結合剤並びに少なくとも1種のハライド含有化合物を含んでおり、該ハライド含有化合物は、存在するハライドイオン量及び存在する銀イオン量のモル比として測定して5:1〜1:10の範囲で存在し、該仕上げ剤は実質的にアルカリ金属イオン(例えば、好ましくはナトリウムイオン)を含まない布地を包含する。
【0008】
また、本発明は、一部が非導電性仕上げ剤で被覆された表面を有する布地であって、該仕上げ剤は、少なくとも1種の銀イオン含有化合物、並びに結合剤を含み、該処理布地は、人工汗比較試験により測定して、利用できる銀イオンの少なくとも1000ppbの初期量に対して少なくとも50%の銀イオン放出保持水準を示し、該銀イオン放出保持水準は、AATCC Test Method 130-1981の一部としての洗濯方法に従って少なくとも20回洗濯した後に測定した値である布地を包含する。
【0009】
更に本発明は、一部が仕上げ剤で被覆された表面を有する布地であって、該仕上げ剤は、少なくとも1種の銀イオン含有化合物及び結合剤を含み、該銀イオン含有化合物のハライドイオンに対するモル比は少なくとも1:1であり、該仕上げ剤は、実質的にナトリウムイオンを含んでいない布地を包含する。
【0010】
また、本発明は、一部が非導電性仕上げ剤で被覆された表面を有する布地であって、該仕上げ剤は、少なくとも1種の銀イオン含有化合物及び結合剤を含み、該布地は、AATCC Test Method 130-1981の一部としての洗濯方法に従って少なくとも20回洗濯した後に測定して、少なくとも50%の色安定率を示す布地を包含する。
【0011】
上記の洗濯耐久性試験は標準的なものであり、当業者ならよく理解できるように、本発明で必須又は限定的なものであることを意図していない。この試験方法は、そのような方法で10回洗濯した場合に、本発明の処理基材が認識し得る量の導電性金属仕上げ剤を失わない基準を与える。
【0012】
いずれの従来技術にも、そのような特定の処理基材又はそれを製造する方法は、開示されておらず、利用されておらず、提案されてもいない。最も近い従来技術は、商品名X-STATICTM として市販されている製品であり、これは、銀被覆で無電解メッキされた繊維物品である。そのような布地は、高導電性であり、静電気放電に使用される。また別の技術では、被覆は、除去可能な銀粉末仕上げとして種々の表面に存在する。上記日本特許公開公報(クラレ)は、溶融紡糸繊維技術により配合された銀系化合物を含む繊維に限定される。本発明のような洗濯耐久性を有する局所処理物は、どこにも記載されておらず、示唆もされていなかった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明においては、基材としてあらゆる布地が使用できる。即ち、天然繊維(綿、ウールなど)又は合成繊維(ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなど)により対象基材を構成することができ、これら繊維は、単独で、合成繊維と天然繊維の組み合わせ又は混合物として、又は両者のブレンドとして使用できる。合成繊維の場合、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンなど)、ハロゲン化ポリマー(ポリ塩化ビニルなど)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート)、ポリエステル/ポリエーテル、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6など)、ポリウレタン、更にホモポリマーのみならず、これらモノマーの任意の組み合わせのコポリマー又はターポリマーなどを本発明において使用できるが、これらに限定されるものではない。ナイロン6、ナイロン6,6、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレート(ポリエステル)が特に好ましい。
【0014】
加えて、対象布地は、任意の数の異なるフィルムにより被覆されていてよい。そのようなフィルムは以下で詳細に説明する。更に、基材は、使用者に別の審美的外観を与えるように、任意の種類の着色剤(例えば、ポリ(オキシアルキレン化)着色剤、及び顔料、染料などにより、染色又は着色することができる。他の添加剤、例えば帯電防止剤、増白剤、核剤、酸化防止剤、UV安定剤、充填剤、パーマネントプレス仕上げ剤、柔軟剤、滑剤、硬化促進剤などが、対象布地又は糸の内部又は表面に存在していてよい。本発明の布地の所望及び補充仕上げ剤として特に好ましいのは、布地の湿潤性及び洗濯性を改良する防汚剤である。好ましい防汚剤には、ポリエステルの表面に親水性を与えるものが含まれる。そのような改質表面によれば、吸い上げられた湿気により着用者に改善された快適さを与える。本発明において好ましいとされる防汚剤は、米国特許第3377249号、同第3540835号、同第3563795号、同第3574620号、同第3598641号、同第3620826号、同第3632420号、同第3649165号、同第3650801号、同第3652212号、同第3660010号、同第3676052号、同第3690942号、同第3897206号、同第3981807号、同第3625754号、同第4014857号、同第4073993号、同第4090844号、同第4131550号、同第4164392号、同第4168954号、同第4207071号、同第4290765号、同第4068035号、同第4427557号及び同第4937277号に開示されている。これら特許は、ここに引用して組み込まれる。加えて、他の使用可能な添加剤及び/又は仕上げ剤には、撥水性フッ素化炭化水素及びそれらの誘導体、シリコーン、ワックス並びに他の同様の撥水材料が含まれる。
【0015】
特定の処理剤は、少なくとも1種の銀イオン含有化合物、又は異なる種類のそのような化合物の混合物を含まなければならない。用語「銀イオン含有化合物」は、イオン交換樹脂、ゼオライト又は置換されていることがあるガラス物質(他のアニオン種が存在すると結合されていた特定の金属イオンを放出する)を包含する。本発明において好ましい銀イオン含有化合物は、Milliken & Companyから商品名ALPHASANTMとして入手できる抗菌性リン酸銀ジルコニウムである。本発明において好ましい他の銀イオン含有抗菌剤は、Sinanenから商品名ZEOMICTM AJとして入手できる銀置換ゼオライト、またはIshizuka Glass から商品名IONPURETM として入手できる銀ガラスであり、これらは好ましい成分に加えてまたは代替品として利用され得る。一般に、このような金属化合物の添加量は、特定の処理組成物全質量の約0.01〜40質量%であり、より好ましくは約0.05〜約30質量%、最も好ましくは約0.1〜約30質量%である。この金属化合物は、好ましくは約0.01〜0.5%owf、より好ましくは約0.1〜2%owf、最も好ましくは約1.0%owfの割合で存在する。必要な結合剤、均展剤、接着剤、増粘剤などを含む処理剤自体は、約0.01〜10%owfの量で基材に加えられる。特に興味があるのは、汚れ再付着防止ポリマー、例えばある種のエトキシル化ポリエステルPD-92及びDA-50(共にMilliken & Company から販売)、又はMileaseTM(Clariant から販売)である。
【0016】
結合剤は、ある態様では任意成分であるが、本発明の糸に非常に有益な耐久性を与える。好ましくは、この成分は、ポリウレタン系結合剤であるが、他の種類の結合剤、例えばパーマネントプレス系樹脂又はアクリル系樹脂も、変色防止のために特にハライドイオン添加剤と組み合わせて、使用することができる。本質的に、このような樹脂は、対象糸及び/又は布地表面に銀を結合することにより、耐洗濯色落ち性を与え、ポリウレタンが、洗濯耐久性試験に関して全体として最良の性能を発揮する。
【0017】
選択される基材は、布地に使用される典型的な起源の個々の繊維又は糸からなる、あらゆる布地であり、繊維には、天然繊維(綿、ウール、ラミー、麻、亜麻(リンネル)など)、合成繊維(ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、アラミド、アセテート、レーヨン、アクリルなど)、及び無機繊維(ガラスファイバ、ボロンファイバなど)が含まれる。糸又は繊維は、どのようなデニールであってもよく、マルチフィラメント又はモノフィラメントのいずれでもよく、仮撚り又は撚りされていてよく、あるいは撚り、溶融などにより複数デニール繊維又はフィラメントを一本の糸にしてもよい。対象布地は、あらゆるブレンドを含む上記の同じ種類の糸で製造してよい。そのような布地は、標準的な構造、例えば編物、織物又は不織布であってよい。本発明の布地は、適当な用途、例えば衣服、室内装飾品、寝具、布巾、タオル、手袋、敷物、フロアマット、カーテン、家庭用リンネル製品(テーブル掛け)、バー・ランナー(カウンター用敷物)、布製バッグ、天幕(日よけ)、乗り物カバー、テントなどに使用できるが、これらに限定されない。本発明の布地は、被覆、プリント、着色、染色されていてよい。
【0018】
銀イオン含有化合物、例えば、好ましい化合物としてのALPHASANTM、ZEOMICTM、又はIONPURETMを用いる好ましい方法では(もちろん銀イオンを供給する同様の化合物を用いることができるが)、このような化合物は対象布地又はフィルム表面に配置され、結合剤樹脂により保護される。あるいは、銀イオン含有化合物は、染浴中で結合剤と混合され、この浴に、高温(即ち、約50℃以上)で対象布地を浸漬する。
【0019】
洗濯耐久性の観点から、銀イオン含有化合物が布地表面に付着する能力を理解した上での初期の試みを通じて、このような方法が開発された。従って、ALPHASANTMの試料は、最初に染浴から対象ポリエステル布表面に適用された。処理された布地は、優れた対数殺菌率特性を示したが、通常の洗濯方法(例えば、AATCC Test Method 130-1981)により洗濯すると、抗菌活性は劇的に低下した。このような有望な初期の結果から、対象布地表面で望ましい銀イオン含有化合物を結合剤樹脂と混合し又は結合剤樹脂により被覆保護する本発明の洗濯耐久性抗菌処理が誘導された。初期の段階では、適切な結合剤樹脂は、非イオン性パーマネントプレス加工結合剤(即ち、商品名PermafreshTM としてSequa から販売されている架橋イミダゾリジノンを含む架橋接着促進化合物であるが、これに限定されない)、又は弱アニオン性結合剤(Rohm & Haas から販売されているRhoplexTM TR3082 のようなアクリル樹脂)からなる群から選択できると考えられていた。メラミンホルムアミド、メラミンウレア、エトキシル化ポリエステル(例えば、Rhodia から販売されているLubril QCXTM)などを含む他の非イオン性樹脂及び弱アニオン性樹脂も可能性があった。しかしながら、そのように処理された布地の洗濯耐久性は(少なくとも銀イオン保持性の点で)、限界があることが分かった。この種の適用にはより優れた耐久性が必要であると判断された。そこで、これら従来技術の比較処理剤を、種々の他の種類と比較した。最終的に、ある種のポリウレタン結合剤(例えば、Crompton Corporation から販売のWitcobondTM)及びアクリル結合剤(例えば、BFGoodrich から販売のHystretchTM)が、対象布地表面への固体銀イオン含有化合物の接着に対する最も優れた総合洗濯耐久性を実現することが発見された。これは、以下で詳細に説明する。
【0020】
特に局所適用方法において、金属系粒子処理に望ましい洗濯耐久性を与える為に、好ましくは、銀イオン化合物(好ましくはALPHASANTM)の初期適用に続いて、ポリウレタン系結合剤の薄い被覆を形成する。そのようなポリウレタン系結合剤を用いると、処理された布地の抗菌特性が、標準的な洗濯を10回以上も行った後でも、非常に有効なまま残存している。
【0021】
上記結合剤樹脂保護被覆と比べて効果は劣るが可能であり、洗濯耐久性のある抗菌性金属処理布地表面を供給するための許容できる方法は、銀イオン含有化合物/ポリウレタン系結合剤樹脂を染浴混合物から適用する方法である。そのような組み合わせの使用は、抗菌活性の観点からは、他の被覆よりも有効性は劣るが、許容できる抗菌効果を有する洗濯耐久性処理が得られる。実際に、この化合物/樹脂混合物は、噴霧、浸漬、パジングなどにより適用できる。
【0022】
変色に関しては、銀イオン局所処理により、大気条件への暴露の後に、黄変、褐変、灰色化が生じ、場合によっては黒色化が生じることが認められた。銀イオンは通常遊離アニオンと非常に反応しやすく、銀イオンと反応する多くのアニオンは発色するので、銀イオンが遊離アニオン種、特に染浴液中のアニオン種と相互反応した際の問題となる発色を完全に防止できなくても抑制する方法が必要とされていた。そこで、自体非変色性で、結合剤及び/又は銀イオン化合物と有害な反応を行わず、(特定の理論に拘束されるものではないが)銀イオンと無色の塩を形成するような方法で反応できる添加剤を含めることが非常に望ましいと考えられた。例えばハロゲン化金属(例えば塩化マグネシウム)又はハロゲン化水素酸(例えばHCl)からのハライドイオンは、そのような結果を与えるが、明らかに(銀イオンと同じ価数を有し、ハライドイオンとの反応では銀イオンと競争する)ナトリウムイオンの存在は避けるべきである。何故なら、そのような成分は、無色のハロゲン化銀の生成を阻害し、銀イオンが望ましくないアニオンとその後に反応する能力を残すからである。
【0023】
即ち、そのような1価ナトリウムイオン(場合により、他の1価アルカリ金属イオン、例えばカリウム、セシウム及びリチウムのイオン)が存在すると、変色を所望水準まで低下させることができない。一般に、仕上げ剤組成物、特に溶媒(水など)にナトリウムイオンが1000ppm又はそれ以上存在すると、本発明の局所処理物の変色防止には有害である。従って、この臨界量は、本発明における「実質的にナトリウムイオンを含まない」という表現に包含される。更に、2価又は3価(及びある種の1価)金属ハロゲン化物は、仕上げ剤組成物中に十分な量で存在するなら、ナトリウムイオンの効果を弱める。従って、より多量のナトリウムイオン又は他のアルカリ金属イオンが仕上げ剤組成物中に存在すると、より多量の金属ハロゲン化物(例えば、塩化マグネシウム)により、変色を適切に防止できる程度に拮抗することができる。
【0024】
更に、ハライドアニオン(例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン、最も好ましくは塩素イオン)と組み合わされた全ての他の金属イオン(2価イオン、3価イオンなど、好ましくはマグネシウムのような2価イオン)、及び酸(HCl、HBrなど)は、本発明において変色を防止するための可能な添加剤である。塩素イオンの量(濃度)は、銀イオン含有化合物中の利用可能な遊離銀イオンに対するモル比で測定されるべきである。1:10〜5:1(塩素イオン対銀イオン)の範囲の比が適切な活性に適合し、好ましい範囲は、1:2〜約2.5:1である。やはり、仕上げ剤組成物中のアルカリ金属イオンの過剰量の影響を弱めるために、銀イオンに対するモル比でより多量の金属ハロゲン化物を加えることができる。
以下において、本発明の布地処理(洗濯耐久性、非変色性、又は両方を有する)の好ましい態様を詳細に説明する。
【0025】
下記の実施例により更に本発明を具体的に説明するが、実施例は、特許請求の範囲において規定されている本発明を限定するものと理解してはならない。実施例中の全ての「部」及び「%」は、特記しないかぎり質量に基づく。
【0026】
まず、ALPHASANTM(Milliken & Company 販売の銀系イオン交換化合物)の溶液を、染浴により対象布地に局所適用するために、調製した。溶液は、実施例及び比較例において、以下の組成であった。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
【表8】

【0035】
以下の試験において、処理を行っていない対照布地も用いた。
【0036】
次に、これら溶液を試料布地(「真」白色(true white))に、パッド及びニップロールを用いて、含浸量約85〜90%owfとなるように適用した。布地上への活性化合物AlphasanTMの付着量は、約1.0%owfであった。被覆した試料布地、対照布地及び比較布地について、ほとんどの場合ある回数の洗濯の前及び後に、種々の異なる特性を分析した。下記の各洗濯試験において、布地は、標準的な家庭用洗濯機(Sears KenmoreTM Heavy Duty, Super Capacity)を用い、温度制御器を105±5°Fにセットして、AATCC Test Method 130-1981 に従って洗濯した。すすぎ温度は冷温(70±5°F)に設定した。標準サイクル(10分洗濯サイクル;28分全サイクル)で中程度の洗濯物量に対して、TideTM粉末洗剤約100gを使用した。試料布地を取り出し、標準的な家庭用乾燥機により、綿設定で10分間乾燥した。上記で製造した布地のいずれも、導電性は示さなかった。
【0037】
洗濯耐久性に関し、実施例1−3の試料のイオン放出を、生物液試験(人工汗試験)により標準的な洗濯20回の後に試験した。
【0038】
人工汗試験
この試験では、所望の機能(例えば、臭気制御又は低減の為の抗菌活性など)を発揮するために基材から自由に解離して、洗濯済み又は未洗濯試料上で機能する活性金属イオンの量を測定し、放出され得る活性成分、この場合は銀イオンの耐久性を観察する。試験は、試料(本件の場合、4インチ×4インチの寸法の布地試料)を、試料に所望の機能を発揮させる為に試料を暴露する液の代表例である溶液に接触させることを含む。即ち、この試験では、試料布地を、(最初に有効数字4桁で秤量した後)AATCC Test Method 15-1994の溶液に従った人体臭気コントロール標準物に暴露した。暴露は、本質的に、人工標準液を10倍に希釈した液に8時間浸漬して行った。暴露時間後、試料を乾燥し、再度秤量した。質量の減少は、標準液中の臭い発生微生物を殺菌するために銀イオン活性成分が放出されたことを表していた。計算結果は、試料布地の質量に対する活性成分量(ppm)で報告されている。実施例1及びある種の比較布地(Aは、繊維あたり180ppmのALPHASANTMと共押出しした繊維を含む布地;Bは、繊維あたり60ppmのZEOMICTMと共押出しした繊維を含む布地;Cは、8000ppmの銀をその上に有する導電性布地X-STATICTM)についての結果は以下の通りである:
【0039】
【表9】

【0040】
以上のとおり、本発明の実施例では、20回の選択後に活性銀イオンの86%以上が保持されていたが、比較例では、利用できる銀イオンが非常に少ないか(B)、80%未満の保持率であるか(3例とも、A及びCでは50%未満の保持率)、又は事実上導電性であった(C)。
【0041】
局所適用のための新規結合剤系の有効性を示す別の指標は、ある回数の洗濯後の局所仕上げ剤の抗菌活性測定である。銀イオン系仕上げ剤は、優れた抗菌活性を示し、それにより、とりわけ望ましい臭気制御、殺菌などの利点を有することができる。好ましくは、有効な仕上げ剤保持(銀イオン放出保持)は、上記のような洗濯を少なくとも10回、好ましくはそれ以上行った後にAATCC Test Method 130-1981 に従って24時間露出により試験して、試料布地が、Staphylococcus aureus に対して少なくとも1.5,好ましくは2.0超、より好ましくは3.0超の対数殺菌率、Klebsiella pneumoniae に対して少なくとも1.5,好ましくは2.0超、より好ましくは3.0超の対数殺菌率を示す場合に、有効である。上記実施例1−3についての結果を以下に示す。
【0042】
【表10】

【0043】
以上の通り、本発明の仕上げ剤では、表面上の銀イオン保持率は非常に優れていた。
【0044】
色の耐光性
布地の変色性に関し、実施例4−7について、試料を以下の式で評価する耐光性試験により分析した:
【数1】

式中、ΔEは、初期ラテックス被覆時の布地と記載量の紫外線暴露後の布地との間の色の差を表し、L、a及びbは、色座標を表す。Lは染色布地の明度・暗度の指標であり、aは染色布地の赤味又は緑味の指標であり、bは染色布地の黄味又は青味の指標である。ΔEが小さいほど、耐光性が優れており、従って色の変化度合いが小さい。即ち、この場合、試料布地の変色が小さい。実施例4−7について、「真」白色布地(初期値L93.93、a=2.10、b=−10.68を有する)での測定は以下の通りであった。The Engineering Society for Advancing Mobility Land Sea Air and Space Textile Test method SAE J-1885, "(R) Accelerated Exposure of Automotive Interior Trim Components Using a Controlled Irradiance Water Cooled Xenon-Arc Apparatus" に従って、225kJキセノン光源に、特定の量(キロジュール)で暴露。
【0045】
【表11】

【0046】
【表12】

【0047】
【表13】

【0048】
時間経過に対する変色を(「真」白色布地についての理論E値と比較して)適切に計算するために、これらの値を上記式に代入し、本発明の仕上げ布地の色の耐光性を評価した。結果は以下のとおりである。
【0049】
【表14】

【0050】
これらの最終値は、対照のΔE値で本発明及び比較例のΔE値を割ることによってパーセントに換算し、色安定率として表した。計算結果は以下のとおりである。
【0051】
【表15】

【0052】
少なくとも50%の色安定率が許容できる水準であるが、これまでは達成できなかった。明らかに、より高い色安定率が、ハライドイオンの存在を利用した場合、より好ましい。本発明の仕上げ剤については、少なくとも55%、より好ましくは少なくとも60%、さらに好ましくは少なくとも75%、一層好ましくは少なくとも85%の色安定率(最も好ましくはそれ以上の色安定率)が望ましい。いずれにしても、上記の水準は、非常に優れており、本発明の仕上げ剤が有効な抗菌水準を達成するのみならず、変色の可能性、特に経時的な変色の可能性をかなりの洗濯の後にさえ顕著に防止するという性能を有することを示している。
【0053】
本発明には多くの代替態様及び変更があり、それらも、特許請求の範囲に記載された本発明の思想及び範囲に包含されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一部が非導電性仕上げ剤で被覆された表面を有する布地であって、該仕上げ剤は、リン酸銀ジルコニウム、銀ゼオライト、銀ガラス及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の銀イオン含有化合物、並びに少なくとも1種の結合剤を含んでおり、該被覆布地は、人工汗比較試験により測定して、利用できる銀イオンの少なくとも1000ppbの初期量に対して少なくとも50%の銀イオン放出保持水準を示し、該銀イオン放出保持水準は、AATCC Test Method 130-1981の一部としての洗濯方法に従って少なくとも20回洗濯した後に測定した値である布地。
【請求項2】
該銀イオン放出保持水準は少なくとも80%である請求項1に記載の布地。
【請求項3】
該少なくとも1種の結合剤はポリウレタン結合剤である請求項1に記載の布地。
【請求項4】
該少なくとも1種の結合剤はアクリル結合剤である請求項1に記載の布地。
【請求項5】
一部が非導電性仕上げ剤で被覆された表面を有する布地であって、該仕上げ剤は、リン酸銀ジルコニウム、銀ゼオライト、銀ガラス及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の銀イオン含有化合物、並びに少なくとも1種の結合剤を含んでおり、該被覆布地は、AATCC Test Method 130-1981 の一部としての洗濯方法に従った洗濯を少なくとも20回行った後にAATCC Test Method 100-1993 に従って24時間露出した後に測定して、Staphylococcus aureus に対して少なくとも1.1の対数殺菌率を示す布地。
【請求項6】
該少なくとも1種の結合剤はポリウレタン結合剤である請求項5に記載の布地。
【請求項7】
該少なくとも1種の結合剤はアクリル結合剤である請求項5に記載の布地。
【請求項8】
一部が非導電性仕上げ剤で被覆された表面を有する布地であって、該仕上げ剤は、リン酸銀ジルコニウム、銀ゼオライト、銀ガラス及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の銀イオン含有化合物、並びに少なくとも1種の結合剤を含んでおり、該被覆布地は、AATCC Test Method 130-1981 の一部としての洗濯方法に従った洗濯を少なくとも20回行った後にAATCC Test Method 100-1993 に従って24時間露出した後に測定して、Klebsiella pneumoniae に対して少なくとも1.4の対数殺菌率を示す布地。
【請求項9】
該少なくとも1種の結合剤はポリウレタン結合剤である請求項8に記載の布地。
【請求項10】
該少なくとも1種の結合剤はアクリル結合剤である請求項8に記載の布地。
【請求項11】
一部が仕上げ剤で被覆された表面を有する布地であって、該仕上げ剤は、リン酸銀ジルコニウム、銀ゼオライト、銀ガラス及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の銀イオン含有化合物、少なくとも1種のポリウレタン結合剤、少なくとも1種のアクリル結合剤及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の欠乏剤、並びに少なくとも1種のハライド含有化合物を含んでおり、ハライドイオン対銀イオンのモル比は1:10〜5:1の範囲にあり、該仕上げ剤は実質的にアルカリ金属イオンを含まない布地。
【請求項12】
一部が仕上げ剤で被覆された表面を有する布地であって、該仕上げ剤は、リン酸銀ジルコニウム、銀ゼオライト、銀ガラス及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の銀イオン含有化合物、少なくとも1種のポリウレタン結合剤、少なくとも1種のアクリル結合剤及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の結合剤、並びに少なくとも1種のハライド含有化合物を含んでおり、ハライドイオン対銀イオンのモル比は1:10〜5:1の範囲にあり、該仕上げ剤は実質的にナトリウムイオンを含まない布地。


【公表番号】特表2006−508276(P2006−508276A)
【公表日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−557143(P2004−557143)
【出願日】平成15年10月20日(2003.10.20)
【国際出願番号】PCT/US2003/033257
【国際公開番号】WO2004/050962
【国際公開日】平成16年6月17日(2004.6.17)
【出願人】(500524682)ミリケン・アンド・カンパニー (23)
【Fターム(参考)】