説明

改良された銅−錫電解液及び青銅層の析出方法

本発明は、毒性成分、例えばシアニド又はチオ化合物不含の改良された銅−錫電解液に関する。さらに本発明は、消費財及び工業製品上の装飾用青銅層を、本発明の電解液を用いて析出させるための方法に関する。この電解液は、エピクロロヒドリン及びヘキサンメチレンテトラミンからなる添加剤を含み、かつ炭酸イオン又は炭酸水素イオンを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毒性成分、例えばシアニド又はチオ化合物不含の、改良されたピロリン酸塩含有銅−錫電解液に関する。さらに本発明は、本発明の電解液を用いて、消費財及び工業製品上に装飾用青銅層を析出する方法に関する。
【0002】
消費生活用製品に関する規制において定義されている消費財又は消費製品は、装飾目的及び腐蝕防止のための薄い酸化安定性金属層によって改良されている。これらの層は、機械的に安定性であるべきであり、かつ、長期に亘る使用によっても、色あせ又は摩耗現象による任意の変色を示すべきではない。ニッケルを含有する改良型合金で被覆された消費財の販売は、欧州規制EU Directive 94/27/ECによって、欧州においては2001年からもはや認められていないか、あるいは、厳しいルール下でのみ可能であり、それというのも、ニッケル及びニッケル含有金属層がアレルゲンに接触するためである。
【0003】
青銅合金は、特に、ニッケルを含有する改良型層のための代替品として確立されつつあり、かつ、これらは例えば大量生産による消費財を、電解液バレル法又はラックめっき法で安価に改良することが可能であり、これによってアレルゲン不含の所望の製品が得られる。
【0004】
エレクトロニクス産業のための青銅層の製造において、得られる層のはんだ付け性及び場合によるその機械的接着強度は、製造すべき層の重要な特性である。この領域における使用に関して、この層の外観は、一般には、その機能と比較してあまり重要ではない。その一方で、例えば消費財上の青銅層の製造に関して、得られる層の装飾的効果は、本質的に変更のない外観での層の長期耐久性と共に、重要な標的パラメータである。
【0005】
青銅層を製造するための公知方法は、シアニドを含有することにより高い毒性を有するアルカリ浴を使用する通常の方法のみならず、さらにその電解液の組成により、通常、従来技術で見出される2個の主要な群の一つとされうる種々の電気化学的方法:オルガノスルホン酸をベースとする電解液を使用する方法又は二リン酸をベースとする浴を使用する方法、を含む。本発明の目的に関して、「非毒性」とは、この用語で示された本発明による電解液が、欧州において適用される危険物及び危険性物質を取り扱う規制下で「毒性(T)」又は「極めて毒性(T)」として分類される任意の材料を含有するものではないことを意味する。
【0006】
例えば、EP1111097A2は、オルガノスルホン酸並びに錫及び銅のイオン及びさらに分散剤及び増白剤を含有するのみならず、適切な場合にはさらに抗酸化剤を含有する電解液を記載している。EP 1 408 141 A1は、青銅の電気化学的析出法を記載しており、この場合、この方法は、錫イオン及び銅イオンを含有する酸性の電解液並びにさらにアルキルスルホン酸及び芳香族の非イオン性の湿潤剤を使用する。
【0007】
DE 100 46 600 A1は、アルキルスルホン酸又はアルカノールスルホン酸と共に溶解性の錫及び銅塩及び有機硫黄化合物を含有する浴ならびにその浴を使用する方法を記載している。
【0008】
EP1146148A2は、二リン酸をベースとし、かつ1:1のモル比でのアミンとエピクロロヒドロンとの反応生成物ならびにさらにカチオン表面活性剤を含有する、シアニド不含の銅−錫電解液を記載している。アミンはヘキサメチレンテトラミンであってもよい。0.5、1.5、2.5及び3.0A/dmの電流密度を、電解析出法において使用する。
【0009】
W02004/005528 は、モル比1:0.5〜2:0.1〜5でアミン誘導体、エピクロロヒドリン及びグリシジルエーテル化合物から成る添加剤を含有する、シアニド不含のジホスホン酸−銅−錫電解液を記載している。ここで課題とするものは、増白剤層における金属の均一な析出を達成しうる電流密度の範囲のさらなる拡大を達成することである。このような析出は、添加された添加剤が前記3成分すべてからなる場合においてのみ達成することができることが明示されている。
【0010】
種々の被覆方法は、通常、被覆すべき部分の種類及び性質に応じて、電気めっき産業において通常使用される。方法は、特に、使用することができる電流密度について異なる。本質的に3種の異なるめっき法が挙げられてもよい。
1.ばら材料及び大量生産部品のためのバレルめっき:
この被覆方法において、相対的に低い作動電流密度が使用される(0.05〜0.5A/dmの大きさ)
2.単一部品のためのラックめっき:
この被覆方法において、中程度の作動電流密度が使用される(0.2〜5A/dmの大きさ)
3.連続式プラントにおけるストリップ及びワイヤのための高速めっき:
このめっき分野において、極めて高い作動電流密度が使用される(5〜100A/dmの大きさ)。
【0011】
銅−錫でのめっきに関しては、最初の2種のめっき法(バレル及びラック)が最も重要である。電解液の異なる種類によって、バレルめっき(相対的に低い電流密度)又はラックめっき(中程度の電流密度)が可能である。
【0012】
前記従来技術に関して、特にラック適用に関して通常考えられる電流密度の範囲を上回る金属の均一な析出を保証し、かつさらに組成の点においてあまり複雑ではない電解液を使用する析出方法が、特に有利であると定めることができる。
【0013】
したがって本発明の課題は、これらの要件を充足する電解液及びその析出方法を提供することである。特に、電解液は、ラック適用に関して有利な電流密度であっても使用することが可能であり、かつ明るく光沢のある層を均一に析出すべきである。その組成は、従来技術に対して簡単でなければならず、それというのもこれは経済的及び環境的点において特に有利であると思われるためである。
【0014】
これらの課題及びここでは挙げられていないが従来技術から明らかな課題は、本願請求項1の特徴を有する電解液及び請求項11に記載する本発明による析出方法におけるその使用を提供することによって達成される。これらの請求項を引用する好ましい実施態様は、請求項2〜10及び12〜16で見出すことができる。
【0015】
消費財及び工業製品における装飾用青銅合金層の析出のための非毒性ピロリン酸塩含有電解液の提供は、これは、水溶性の塩の形で析出されるべき金属を含み、かつ、エピクロロヒドリンとヘキサメチレンテトラミンとの反応生成物から成る増白剤系及びさらには炭酸イオン又は炭酸水素イオンを含有するものであって、全くもって驚異的であるにもかかわらず、前記課題を有利に達成する。
【0016】
従来技術と比較して異なる組成を有する本発明による電解液は、中程度の電流密度の範囲であっても青銅合金の優れた電解めっきを得ることを可能にする。合金組成は、広い電流密度の範囲に亘っておおよそ一定に維持され、この場合、これは、特にラック適用のために特に有利であり、かつ従来技術から明らかなものではない。
【0017】
本発明の電解液は、エピクロロヒドリンとヘキサメチレンテトラミンとの反応生成物を増白剤成分として含む。本発明によれば、この添加剤は、ヘキサメチレンテトラミン及びエピクロロヒドリンの混合物又は反応生成物のみから成る。反応生成物中のヘキサメチレンテトラミン対エピクロロヒドリンのモル比は好ましくは1:>1〜10である。特に好ましくは1:1.5〜5の比であり、かつ極めて好ましくは1:2〜3の比である。1:約2.7の比が特に好ましい。このような生成物は、URSA Chemie GmbH (Cat. No.33786)から名称J146として商業的に入手可能である。
【0018】
反応生成物は、全溶液に対して0.01ml/l〜5.0m/l、より好ましくは0.1ml/l〜3.0ml/l、特に好ましくは0.5ml/l〜2.0ml/l及びさらに好ましくは1.0ml/l〜1.5m/lの量で、電解液に添加することができる。
【0019】
本発明の電解液は、一定濃度の炭酸イオン又は炭酸水素イオンを有する。これらは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の溶解性の塩の形で、特にナトリウム又はカリウムの炭酸塩又は炭酸水素塩の形で電解液に添加することができる。しかしながら、使用され、かつ析出すべき金属がさらに完全にかまたは部分的に炭酸塩又は炭酸水素塩の形で、電解液に添加される実施形態が好ましい。
【0020】
前記塩の有利な添加は、電解質中での炭酸イオン又は炭酸水素イオンの濃度を電解質1l当たり1〜50g/lに設定することを可能にする。この濃度は、特に5〜40g/lの範囲であることが好ましく、かつ特に好ましくは15〜25g/lの範囲である。
【0021】
本発明の電解液において、析出すべき金属である銅及び錫、あるいは銅、錫及び亜鉛はそのイオンの形で存在する。これらは、好ましくは、ピロリン酸塩、炭酸塩、水酸化物−炭酸塩、炭酸水素塩、硫化物、硫酸塩、リン酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、酸化物−水酸化物、酸化物及びこれらの組成物から成る群から選択される、水溶性の塩の形で導入する。特に好ましくは、金属を、ピロリン酸イオン、炭酸イオン、水酸化物−炭酸イオン、酸化物−水酸化物イオン、水酸化物イオン及び炭酸水素イオンから成る群から選択されるイオンを含む塩の形で使用する実施形態である。電解液中に導入される塩の型及び量は、得られる装飾用青銅層の色に関して決定的であってもよく、かつ消費者の要求にしたがって設定することができる。析出すべき金属は、上記に示したとおり、消費財及び工業製品における装飾用青銅層の塗布のために、電解液中でイオン的に溶解した形で存在する。銅のイオン濃度は、電解質1l当たり0.2〜10g/l、好ましくは0.3〜4g/lの範囲であってもよく、錫のイオン濃度は、電解質1l当たり1.0〜20g/l、好ましくは2〜10g/lの範囲であってもよく、かつ、存在する場合には、亜鉛のイオン濃度は、電解質1l当たり1.0〜20g/l、好ましくは0〜3g/lの範囲であってもよい。消費財の改良において、析出すべき金属をピロリン酸塩、炭酸塩又は水酸化炭酸塩として導入することが好ましく、これにより生じるイオン濃度は、それぞれの場合において電解液1lに対して0.3〜4gの銅、2〜10gの錫及び0〜3gの亜鉛である。
【0022】
消費財及び工業製品における装飾用青銅層の塗布は、本発明の電解液を用いて、上記に示すように、電気化学的方法において実施する。ここで、電気化学的被覆は、連続的方法又はバッチ方法中で実施されるかどうかにかかわらず、析出すべき金属が、方法において溶液の形で不変に維持されることは重要である。これを達成するために、本発明の電解液は、錯化剤としてピロリン酸塩を含有する。
【0023】
ピロリン酸イオンの量は、当業者によって標的化された方法で調整することができる。これは、十分な範囲でおおよその意図する効果をもたらすために、電解液中の濃度が最小限の量を上廻るべきであるといった事実によって制限される。その一方で、使用すべきピロリン酸塩の量は、経済的視点により導かれる。この内容において、EP1146148及びここに記載された情報が引用されてもよい。電解液中で使用すべきピロリン酸塩の量は好ましくは50〜400g/lである。特に好ましくは、電解液1l当たり250〜350g/lの量、さらに好ましくは約300g/lの量で使用する。ピロリン酸塩は、析出すべき金属の塩成分として導入されない場合には、アルカリ金属又はアルカリ土類金属二リン酸塩として、あるいは、Hとして、アルカリ金属又はアルカリ土類金属炭酸塩/炭酸水素塩との組み合わせで使用することができる。好ましくは、Kをこの目的のために使用する。
【0024】
電解液のpHは、電気めっき用途のために要求される6〜13の範囲である。6〜12の範囲が好ましく、かつ6〜10の範囲が極めて好ましい。この方法は、特に好ましくは、約7.9〜8.1のpHで実施する。
【0025】
電解液は、析出すべき金属とは別に、錯化剤として使用されるピロリン酸塩及び使用される増白剤系、さらに増白剤として作用する有機添加剤、湿潤剤又は安定化剤を含有することができる。本発明の電解液は、さらにカチオン表面活性剤の使用を省略することができる。析出すべき装飾用青銅層の外観が特定の要求を充足する場合において、他の増白剤及び湿潤剤の添加が専ら好ましい。これらは、析出すべき金属の割合に主に依存する青銅層の色に加えて、マットな絹様のもの(matt silk)から高い光沢の間のすべての勾配における層の明るさを調整することが可能である。モノカルボン酸及びジカルボン酸、アルカンスルホン酸、ベタイン及び芳香族ニトロ化合物から成る群から選択される、1種又はそれ以上の化合物を添加することが好ましい。これらの化合物は、電解浴安定剤として作用する。特に好ましくはシュウ酸、アルカンスルホン酸、特にメタンスルホン酸又はニトロベンゼントリアゾール又はこれらの混合物を使用する。適したアルカンスルホン酸は、EP1001054中で見出すことができる。可能なカルボン酸は、たとえばクエン酸(Jordan, Manfred, Die galvanische Abscheidung von Zinn und Zinnlegierungen, Saulgau 1993, 第156頁)である。使用すべきベタインは、好ましくはW02004/005528又はJordan, Manfred (Die galvanische Abscheidung von Zinn und Zinnlegierungen, Saulgau 1993, 第156頁)中で見出すことができるものである。特に好ましくは、EP636713中に記載されたものである。これに関連して、1(3−スルホプロピル)ピリジニウムベタイン又は1−(3−スルホプロピル)−2−ビニルピリジウムベタインを使用することは極めて好ましい。他の添加剤は、文献(Jordan, Manfred, Die galvanische Abscheidung von Zinn und Zinnlegierungen, Saulgau 1993)中で見出すことができる。
【0026】
本発明の電解液は、毒性(T)又は極めて毒性(T)として分類される危険性物質不含である。シアニド、チオ尿素誘導体及びチオール誘導体は存在しない。本発明による非毒性の電解液は、消費財及び工業製品における装飾用青銅層の電気化学的適用に特に適している。バレル、ラック、ベルト又は連続輸送型めっきプラントにおいて使用することができる。しかしながら、ラック法において使用することが好ましい(introductory explanation and "Praktische Galvanotechnik", Eugen G. Leutze Verlag 1997 第74頁以降参照)。
【0027】
さらに本発明は、消費財及び工業製品における装飾用青銅合金層の電気化学的適用のための電解析出法を提案し、この場合、この方法は、被覆すべき基体を、本発明による電解液中に浸漬するものである。ここで、前記に示された電解液の好ましい実施態様は、ここで示された方法において同様に適用する。
【0028】
本発明による方法は、当業者がその一般的知識に基づいて選択しうる温度で実施することができる。電解中で、電解浴が維持される20〜60℃の範囲が好ましい。より好ましくは、30〜50℃の範囲で選択する。方法は、特に好ましくは約40℃の温度で実施する。
【0029】
合金組成物の析出が、広範囲の電流密度の範囲に亘って顕著に変更されることはないことは、本発明の重要な利点である。これはさらにラック適用のために相対的に高い電流密度であっても、十分に均一である表面の質を生じる。析出が0.2A/dm〜5A/dmの範囲で実施される場合には、特定かつ好ましい金属間相Cu/Snの金属組成(η+δ相;Ref.: E. Raub, F. Sautter; DerAufbau galvanischer Legierungsniederschlage XII, Metalloberflache 11., 1957 number 8)を得ることが可能である。析出中の電流密度は、好ましくは0.5A/dm〜2A/dm、特に好ましくは0.75A/dm〜1.8A/dmである。
【0030】
本発明の非毒性電解液を使用する場合には、種々の陽極を使用することが可能である。溶解性又は不溶性の陽極は双方ともに適しており、例えば溶解性及び不溶性の陽極の組合せである。適した陽極として、電解銅、含リン銅、錫、錫−銅合金、亜鉛−銅合金及び亜鉛−錫−銅合金から成る群から選択される材料から成る陽極を使用することが好ましい。これらの材料から成る種々の適した陽極の組み合わせ及びさらには溶解性の錫陽極と不溶性の陽極との組合せは特に好ましい。
【0031】
不溶性の陽極として、白金チタン、グラファイト、イリジウム−遷移金属混合酸化物及び特殊な炭素材料("ダイヤモンド状炭素"、DLC)から成る群から選択される材料から成る陽極又はこれら陽極の組合せを使用することは好ましい。イリジウム−ルテニウム混合酸化物、イリジウム−ルテニウム−チタン混合酸化物又はイリジウム−タンタル混合酸化物からなる混合酸化物陽極が特に好ましい。他の材料は、Cobley, A.J.ら(The use of insoluble Anodes in Acid Sulphate Copper Electrodeposition Solutions, Trans IMF, 2001,79(3),第113頁及び第114頁)中で見出すことができる。
【0032】
不溶性の陽極を使用する場合には、方法の特に好ましい実施態様は、装飾用青銅層と一緒に提供され、かつ陰極を示す基体が、不溶性陽極とイオン交換膜によって分離されており、それによって陰極領域及び陽極領域が形成される場合に得られる。このような場合において、陰極領域のみが本発明の非毒性電解液で充填される。陽極領域は、好ましくは電解塩のみ、たとえばピロリン酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、炭酸水素カリウム又はこれらの混合物のみを含有する水性溶液を含む。このような配置は、被覆方法において悪影響を示す錫(II)イオンから錫(IV)イオンへの陽極酸化を防止する。イオン交換膜として、カチオン又はアニオン交換膜を使用することも可能である。50〜200/μmの厚さを有するナフィオンから成る膜を使用することは好ましい。
【0033】
同様に、ラック適用の典型的な電流密度は、通常のピロリン酸塩含有電解液により達成することができる。しかしながら金属は、視覚的に欠陥のない品質では析出されない。このような電解液は、(ラック操作のための慣用の範囲において)暗くしまむらのある析出層を形成する傾向がある。
【0034】
本発明の電解液が使用される場合にのみ、明るくかつ輝きのある層の析出が、ラック適用に関して慣用の全電流密度の範囲に亘って可能である。暗いしまむらの形成は、ほぼ抑制される。
【0035】
したがって、本発明の電解液及び本発明による方法は、ヘキサメチレンテトラミン及びエピクロロヒドリンから形成される添加剤と、電解液中の炭酸イオン又は炭酸水素イオンの存在との組み合わせにおいて使用することによって区別される。合金組成及び析出層の明度は、ラック適用のための理想的な方法で調整する。ラック適用において、中程度の電流密度の範囲は重要である。添加剤の組合せは、第一に、合金組成を、広範囲の電流密度に亘って相対的に高い電流密度でおおよそ一定に(40〜70質量%、好ましくは50〜60質量%の銅及び60〜30質量%、好ましくは50〜40質量%の錫を含有する青銅合金が有利である)維持することを可能にし、かつ、第二に、十分な明度及び輝きを有する層を得ることを可能にする。この添加剤の組合せなしでの望ましい合金組成は、工業的実施において使いものにならない極めて狭い電流密度でのみ得られる。層の光沢及び明度は、主要な実際の適用において添加剤の組合せなしでは不十分である。本発明による電解液を用いてのこれらの利点の達成は、従来技術からは明らかではない。
【0036】
例:
試験板のめっき:
基体:0.5及び0.75dm真鍮板
被覆:
種々の電流密度(0.5、1.0、1.5及び2.0A/dm)での0.5〜2μmの銅−錫:
試験の設定:
電解液例のために示された成分を、マグネットスターラー及び製品の可動部を備えた5lガラスビーカー中で4lの蒸留水中に溶解した。被覆すべき製品は引き続いて示された条件下で処理した。
【0037】
電解液例
白色青銅(white bronze)のラック塗布のための電解液は、以下の組成を有していてもよい:
電解液例1
300g/lのピロリン酸カリウム、
20ml/lのメタンスルホン酸(70%)、
20g/lの炭酸カリウム、
5.21g/lの炭酸銅(II)、
8.66g/lのピロリン酸錫、
5.55g/lのピロリン酸亜鉛、
1.25ml/lのヘキサメチレンテトラミンとエピクロロヒドリンとの反応生成物、
温度:40℃
pH:7.4
電解液例2
300g/lのピロリン酸カリウム、
20ml/lのメタンスルホン酸、
20g/lの炭酸カリウム、
5.21g/lの炭酸銅(II)、
8.66g/lのピロリン酸錫、
5.55g/lのピロリン酸亜鉛、
0.125ml/lの反応生成物(J146)、
温度:40℃
pH:8.0
電解液例3
100g/lのピロリン酸カリウム、
50ml/lのメタンスルホン酸、
50g/lの炭酸カリウム、
2.0g/lの硫酸銅、
2.0g/lの硫酸錫、
5.0ml/lの反応生成物(J146)、
pH:9.0
温度:30℃
電解液例4
160g/lのピロリン酸カリウム、
20ml/lのメタンスルホン酸、
5g/lの炭酸ナトリウム、
4g/lの水酸化物炭酸銅、
5g/lのピロリン酸錫、
0.5ml/lのヘキサメチレンテトラミンとエピクロリヒドリンとの反応生成物、
pH:7.5
温度:45℃
電解液例5
200g/lのピロリン酸カリウム、
30ml/lのエタンスルホン酸、
50g/lのクエン酸、
5g/lの炭酸水素カリウム、
3g/lの硫酸銅、
15g/lの硫酸錫、
1ml/lのヘキサメチレンテトラミンとエピクロロヒドリンとの反応生成物、
温度:45℃
pH:8.5
【0038】
層の評価を、
a)視覚的外観
b)光沢及び明度の測定
c)合金組成の測定(銅含量が高ければ高いほど、層はより暗くなる)
d)変色試験、腐食試験
によって実施した。
【0039】
結果:
a)視覚的外観:
析出層は均一な輝き及び明度を有していた。
b)明色値(L* 値;CIE LAB法による測定;http://www.cielab.de/)
【表1】

c)合金組成
【表2】

【0040】
層のより高い銅含量は、被覆のより暗色を生じ、かつ十分でない変色挙動を生じる傾向がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出すべき金属を水溶性の塩の形で含む、消費財及び工業製品上の装飾用青銅合金層を析出させるための非毒性ピロリン酸塩含有電解液において、この電解溶液が、エピクロロヒドリンとヘキサメチレンテトラミンとの反応生成物から成る増白剤系及びさらに炭酸イオン又は炭酸水素イオンを含む、前記電解液。
【請求項2】
反応生成物が、ヘキサメチレンテトラミン対エピクロロヒドリンのモル比1:>1〜10を有する、請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
反応生成物を、電解液1l当たり0.01〜5ml/lの量で使用する、請求項1及び/又は2に記載の電解液。
【請求項4】
炭酸イオン又は炭酸水素イオンが、電解液1l当たり1〜50g/lの量で存在する、請求項1から3までの1項以上に記載の電解液。
【請求項5】
電解液が、析出すべき金属として銅及び錫であるか、あるいは、銅、錫及び亜鉛を含有する、請求項1から4までの1項以上に記載の電解液。
【請求項6】
析出すべき金属の水溶性の塩が、ピロリン酸塩、炭酸塩、水酸化物−炭酸塩、炭酸水素塩、硫化物、硫酸塩、リン酸塩、亜硝酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、酸化物−水酸化物、酸化物及びこれらの組合せから成る群から選択される、請求項1から5までの1項以上に記載の電解液。
【請求項7】
析出すべき金属が、イオン的に溶解された形で存在し、その際、銅のイオン濃度は電解液1l当たり0.2〜10g/lの範囲であり、錫のイオン濃度は電解液1l当たり1.0〜20g/lの範囲であり、かつ、存在する場合には亜鉛のイオン濃度は電解液1l当たり1.0〜20g/lの範囲である、請求項1から6までの1項以上に記載の電解液。
【請求項8】
電解液中のピロリン酸塩の量が50〜400g/lである、請求項1から7までの1項以上に記載の電解液。
【請求項9】
電解液のpHが6〜13の範囲である、請求項1から8までの1項以上に記載の電解液。
【請求項10】
モノカルボン酸及びジカルボン酸、アルカンスルホン酸、ベタイン及び芳香族ニトロ化合物から成る群から選択される安定化作用を有する1種又はそれ以上の化合物が存在する、請求項1から9までの1項以上に記載の電解液。
【請求項11】
消費財及び工業製品上に装飾用青銅合金層を電気化学的に塗布するための電着方法において、被覆すべき基体を、請求項1から10までの1項以上に記載の電解液中に浸漬する、前記方法。
【請求項12】
電解液を20〜60℃の温度範囲に維持する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
電流密度を0.2〜5A/dmの範囲に調節する、請求項11及び/又は12に記載の方法。
【請求項14】
電解銅、含リン銅、錫、錫−銅合金、亜鉛−銅合金及び亜鉛−錫−銅合金から成る群から選択される材料から成る溶解性陽極又はこれら陽極の組合せを使用する、請求項11から13までの1項以上に記載の方法。
【請求項15】
白金チタン、グラファイト、イリジウム−遷移金属混合酸化物及び特殊炭素材料("ダイヤモンド状炭素"、DLC)から成る群から選択される材料から成る不溶性陽極又はこれら陽極の組合せを使用する、請求項11から14までの1項以上に記載の方法。
【請求項16】
陰極及び不溶性陽極が、イオン交換膜により互いに分離されており陰極領域及び陽極領域を形成し、かつ、陰極領域のみが非毒性の電解液を含有し、それによってSn2+からSn4+への陽極酸化が抑制されている、請求項11から15までの1項以上に記載の方法。

【公表番号】特表2011−520037(P2011−520037A)
【公表日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−507800(P2011−507800)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【国際出願番号】PCT/EP2009/002323
【国際公開番号】WO2009/135572
【国際公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(507237679)ユミコア ガルヴァノテヒニク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (10)
【氏名又は名称原語表記】Umicore Galvanotechnik GmbH
【住所又は居所原語表記】Klarenbergstrasse 53−79, 73525 Schwaebisch Gmuend, Germany
【Fターム(参考)】