説明

改良型銅フタロシアニン顔料製剤

本発明は、(a)ベータ相の銅フタロシアニン色素を含有した顔料製剤であって、顔料粒子の平均粒径d50が40〜80nmであり、平均長さ対幅比が2.0:1以下であること、および(b)CPCが銅フタロシアニンの残基、nが1〜4.0の数値、mが0.5〜4.0の数値、Katがアルカリ金属群からのいずれか一つのカチオンまたはH、oが0〜3.5の数値で、ただし、n=m+oであり、R、R、R、Rが同一または異なっている、C〜C20のアルキル、C〜C20のアルケニル、C〜C20のシクロアルキル、C〜C20のシクロアルケニルまたはC〜Cのアルキルフェニルを意味し、場合によっては前記各残基がヒドロキシおよび/またはハロゲンによって置換されているとしたときに、銅フタロシアニン顔料の重量を基準として1〜30重量%の、式(II)で表わされる顔料分散剤を含むことを特徴とする、顔料製剤に関する。式中、本顔料製剤は、極めて高い粘度安定性を特徴として、それにより特に、水性、溶剤ベース型およびUV硬化型のインクジェットインクに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットインク用、特に溶剤ベース型およびUV硬化型のインクジェットインク用の改良型シアン系着色料に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットインクには、着色料として顔料が使用されることがますます増えている。顔料は、可溶性染料に比べると、インク中に微小固形粒子として分散し、それにより明らかに優れた耐光堅牢度、溶剤安定性および温度安定性を示すという長所を有している。特に、ベータ型銅フタロシアニン顔料(C.I.ピグメントブルー15:3および15:4)をベースとするシアン系着色料は、最高の耐光安定性、溶剤安定性および温度安定性を示すものの1つなので、最も頻繁に使用されるシアン系着色料である。
【0003】
ますます高速化するインクジェット印刷方法、微小化する液滴サイズおよびインクジェットインクへの品質要求度の高まりにより、改良型の銅フタロシアニン顔料製剤が必要になっている。特に重要な観点は、流動性および飛沫飛散の改良である。それらにとっては、インク粘度の安定性が決定的なパラメータである。粘度はできる限り低い値でなければならないだけでなく、剪断速度に依存しないことも必要である。その上、この粘度がインクの長期保管後でも変わりなく維持されることが重要であるが、そこでは、とりわけ、温度変動に対する不感性が重要となる。そうすることによってのみ、インクの長期保管後も、なおも同じ品質での印刷が可能であることが保証される。
【0004】
特に銅フタロシアニン顔料がインクの安定性に大きく影響することは公知である。したがって、ピグメントブルー15をベースとするインクは、40℃以上の温度で1週間保管した後、粘度安定性が然るべきエージングテスト法により測定されるようになっている。
【0005】
国際特許出願公開第2004052997号(特許文献1)に印刷インク用のフタロシアニン顔料製剤の記述があるが、しかし、それはインクジェットインクに要求される粘度安定性に達しないものである。
【0006】
欧州特許出願公開第1073695号(特許文献2)には油性印刷インクおよびグラビア印刷インク用のフタロシアニン顔料製剤が開示されているが、これも同様に、インクジェットインクに対する高い要求項目を満たしていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際特許出願公開第2004052997号
【特許文献2】欧州特許出願公開第1073695号
【特許文献3】ドイツ特許出願公開第2432564号
【特許文献4】欧州特許第1061419号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Electrostatics 1999、 Inst. Phys. Conf. Ser. No. 163、285頁、Streaming Current Charge versus Tribo Charge、 R. Baur、 H-T. Macholdt、 E. Michel
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
新型インク系向けには、従来のシアン系顔料では、高まってきたインク安定性への要求にもはや十分には対応し得ない。したがって、様々な剪断速度に亘って粘度安定性を示すだけでなく、極緩慢な剪断速度の場合にも、インクのより高温下での長期保管後にも、とりわけ低粘度を示す、ピグメントブルー15をベースとするシアン系顔料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
驚くべきことに、平均長さ対幅比が2.0:1以下、好ましくは1.6:1〜1.9:1である粒子形態を持ち、一次粒径分布がd50値として≦80nm、好ましくはd50値として60〜75nmで、表面電荷が−2.5〜−3.5C/gであるベータ型銅フタロシアニン顔料製剤は、特に溶剤ベース型インクにおいてもUV硬化型インクにおいても、大幅に向上した粘度および粘度安定性を有していることが、今や明らかになった。
【0011】
本発明に基づく顔料製剤が、同等の粒径分布を示すが表面電荷は同じでない他の銅フタロシアニン製剤と比較して、あるいは表面電荷は確かに同じであるが同等の粒径および粒子形状は有していない銅フタロシアニン製剤と比較して、様々な剪断速度で著しく劣る粘度を示し、見劣りする粘度安定性を有していることは新たな事実で驚きである。上記の表面電荷、顔料粒子のサイズおよび形状が組み合わされた場合に限り、適用時に改良された特性がもたらされることになる。
【0012】
下記の式(II)で表わされる特殊な顔料添加剤が、銅フタロシアニン顔料に所期の表面電荷を付与することが判明した。
【0013】
したがって本発明の対象は、
(a)平均粒径d50が40〜80nm、好ましくは50〜75nmで、顔料粒子の平均長さ対幅比が2.0:1以下、好ましくは1.6:1〜1.9:1であることを特徴とするベータ相の銅フタロシアニン色素、および
(b)銅フタロシアニン色素の重量を基準として1〜30重量%、好ましくは5〜20重量%の次式(II)で表わされる顔料分散剤
を含む顔料製剤である。
【0014】
【化1】

式中、
CPCは、銅フタロシアニンの残基、
nは、1〜4.0、好ましくは1〜2.0の数値、
mは、0.5〜4.0、好ましくは0.7〜2.0の数値、
Katは、例えばLi、Na、KまたはHなどアルカリ金属群からのいずれか一つのカチオン、
oは、0〜3.5の数値、ただし、n=m+oであり、
、R、R、Rは、同一または異なっている、C〜C20のアルキル、C〜C20のアルケニル、C〜C20のシクロアルキル、C〜C20のシクロアルケニルまたはC〜Cのアルキルフェニル、ただしこれらの残基は、場合によってはヒドロキシおよび/またはハロゲンによって置換される
を意味する。
【0015】
ベータ相の銅フタロシアニン色素とは、特にC.I.ピグメントブルー15:3および15:4であると解釈されるものである。
【0016】
残基CPCは、好ましくは次式(I)で表わされる残基を意味する。
【0017】
【化2】

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、UV硬化型インク系の分散物粘度特性と剪断速度の関係を示す。
【図2】図2は、UV硬化型インクの粘度特性と保管期間の関係を示す。
【図3】図3は、溶剤系の分散粘度特性と剪断速度の関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい実施形態では、残基
、R、Rが、C〜Cのアルキル、および
が、C12〜C20のアルキル、C12〜C20のアルケニル、C〜C20のシクロアルキル、C〜C20のシクロアルケニルまたはベンジル、ただしこれらの残基は、場合によってはヒドロキシおよび/またはハロゲン、例えばF、Cl、Br、特にFまたはClなどによって置換される
を意味する。
【0020】
さらに別の好ましい実施形態では、残基
、Rが、C〜Cのアルキル、および
、Rが、C〜C20のアルキル、C〜C20のアルケニル、C〜C20のシクロアルキル、C〜C20のシクロアルケニルまたはベンジル、ただしこれらの残基は、場合によってはヒドロキシおよび/またはハロゲン、例えばF、Cl、Br、特にFまたはClなどによって置換される
を意味する。
【0021】
特に好ましい実施形態では、残基
、R、Rはメチル、および
はC14〜C20のアルキルまたはC14〜C20のアルケニル
を意味する。
【0022】
さらに別の特に好ましい実施形態では、残基
、Rはメチル、および
、Rはベンジル、C〜C20のアルキルまたはC〜C20のアルケニル
を意味する。
【0023】
好ましい残基Nの例は、トリメチルヘキシル−、トリメチルオクチル−、トリメチルデシル−、トリメチルセシル−、トリメチルラウリル−、トリメチルステアリル−、ジステアリルジメチル−、ジメチルステアリルベンジル−アンモニウムである。
【0024】
銅フタロシアニン粗製顔料を、有機溶剤の存在下で結晶性無機塩とのソルトニーディング(Salzknetung)にかけ、このソルトニーディングの前、途中および/または後に式(II)の顔料分散剤を添加する工程を特徴とする、本発明に基づく顔料製剤の調製方法も本発明の対象である。
【0025】
結晶性無機塩としては、例えば、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウムまたは塩化ナトリウムが検討の対象になるが、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムおよび塩化カリウムが好ましい。
【0026】
有機溶剤としては、例えばケトン、エステル、アミド、スルホン、スルホキシド、ニトロ化合物、モノ−、ビス−またはトリス−ヒドロキシ−C〜C12−アルカンであり、これらはC〜Cのアルキルおよび1個または複数個のヒドロキシ基で置換することができる。特に好ましいのは、C〜Cのアルキレングリコールのモノマー、オリゴマーおよびポリマー、例えば、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロプレングリコールモノエチルエーテル、液状のポリエチレングリコールおよびポリプロピレングリコール、N−メチルピロリドン、そのほかさらにトリアセチン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、エチル−メチル−ケトン、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール、ブチルアセテート、ニトロメタン、ジメチルスルホキシドおよびスルホランをベースとする水と混合可能な高沸点有機溶剤である。
【0027】
無機塩と銅フタロシアニンとの重量比は、好ましくは(2〜8):1、特に(5〜7):1である。有機溶剤と無機塩との重量比は、好ましくは(1ml:6g)〜(3ml:7g)である。有機溶剤と無機塩/銅フタロシアニン総和量との重量比は、好ましくは(1ml:2.5g)〜(1ml:7.5g)である。
【0028】
ニーディング工程の間の温度は、40〜140℃、好ましくは80〜120℃であるとよい。ニーディング時間は、好適には4〜12時間、好ましくは6〜8時間である。
【0029】
ソルトニーディングの後、無機塩および有機溶剤を水洗によって除去し、そうして得た顔料組成物を通常の方法に従って乾燥させると好適である。
【0030】
場合により、ソルトニーディングに続き溶剤処理を行う。溶剤処理は水中または有機溶剤中で行うことができる。有機溶剤を使用する場合、この有機溶剤は、好ましくは、1〜10個のC原子を持つアルコール群、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソ−ブタノール、tert.−ブタノールなどのブタノール;n−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールなどのペンタノール;2−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−3−ペンタノール、2−メチル−2−ヘキサノール、3−エチル−3−ペンタノールなどのヘキサノール;2,4,4−トリメチル−2−ペンタノール、シクロヘキサノールなどのオクタノール;またはエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ソルビトールなどのグリコールまたはグリセリン;ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールなどのポリグリコール;メチルイソブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンまたはジオキサンなどのエーテル;エチレングリコールまたはプロピレングリコールのモノアルキルエーテルなどのグリコールエーテル、または、例えばブチルグリコールまたはメトキシブタノールなどの、アルキルをメチル、エチル、プロピルおよびブチルにより置換することができるジエチレングリコールモノアルキルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、特に平均モル質量が350〜550g/molであるポリエチレングリコールモノメチルエーテル、およびポリエチレングリコールジメチルエーテル、特に平均モル質量が250〜500g/molであるポリエチレングリコールジメチルエーテル;アセトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンまたはシクロヘキサノンなどのケトン;1個または2個のケト基を含み、1個または複数個のヒドロキシ基がC〜Cのアルキル残基でエーテル化されていてもよい、またはC〜Cのアルキルカルボニル残基でエステル化されていてもよいモノ−、ビス−またはトリス−ヒドロキシ−C〜C12−アルカン化合物;ジメチルホルムアミドなどの脂肪族酸アミド;またはN−メチルピロリドンなどの環式カルボン酸アミド、または、ベンゼン、またはアルキル、アルコキシ、ニトロ、シアノまたはハロゲンで置換されたベンゼン、例えばトルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、アニソール、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、ベンゾニトリルまたはブロムベンゼンなどの芳香族炭化水素、またはフェノール、クレゾール、例えばo−ニトロフェノールなどのニトロフェノールなど、その他の置換芳香族化合物、ならびにこれら有機溶剤の混合物の中からのものであるとよい。
【0031】
好ましい溶剤は、C〜Cのアルコール、特にメタノール、エタノール、n−プロパノールおよびイソプロパノール、イソブタノール、n−およびtert.−ブタノール、およびtert.−アミルアルコール、C〜Cのケトン、特にアセトン、メチルエチルケトンまたはジエチルケトン;テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコール、ジエチレングリコールまたはエチレングリコールのC〜Cのアルキルエーテル、特に2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、ブチルグリコール、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、シクロヘキサン、ジアセトンアルコールまたはメチルシクロへキサンである。
【0032】
溶剤はさらに水、酸またはアルカリ液を含んでいてもよい。
【0033】
溶剤処理は水中で行うのが特に好ましい。
【0034】
溶剤処理は、30〜200℃、好ましくは60〜100℃の温度で1〜8時間行われると好適である。
【0035】
式(II)の分散剤は、ソルトニーディングの前および/または間、または溶剤処理の前および/または間に、銅フタロシアニン顔料へ一度に、または数回に分けて添加されるとよい。
【0036】
式(II)の分散剤自体は、式(III)で表わされる銅フタロシアニン−スルホン酸から調製されるとよい。
CPC−(SO[Kat] (III)
ここで、CPC、Kat、nおよびoが上記の意味を持つ。
【0037】
また、式(II)の分散剤自体は、式(IV)で表わされるアンモニウム化合物から調製されてもよい。
【化3】

ここで、R、R、RおよびRが上記の意味を持ち、かつAがCr、Br、OH、酢酸塩またはギ酸塩を意味する。
【0038】
式(II)の顔料分散剤は、例えば式(III)のスルホン酸(塩)および式(IV)のアンモニウム塩を、ソルトニーディングの前および/または間、または溶剤処理の前および/または間に添加することにより、現場で調製することも可能である。
【0039】
本発明に基づく顔料製剤は、銅フタロシアニン顔料および式(II)の添加剤のほか、さらに慣用の助剤または添加物、例えば界面活性剤、非色素性の分散剤、フィラー、沈殿防止剤、樹脂、ワックス、消泡剤、粉立ち防止剤、増量剤、帯電防止剤、防腐剤、乾燥遅延剤、レオロジー制御剤、湿潤剤、抗酸化剤、UV吸収剤、シェーディング染料および耐光安定剤を、顔料製剤の総重量に対して、好ましくは0.1〜25重量%、特に0.5〜15重量%の量で含むことができる。
【0040】
本発明に基づく顔料製剤では、特に水性、UV硬化型および溶剤ベース型のインク中で使用される場合には、ピグメントブルー15をベースとする従来型顔料に対し、明白な改善が見られることになる。
【0041】
そこでは、一方では、ピグメントブルー15をベースとする既存顔料に比べて明らかに優る粘度安定性が達成され、他方では、より低い初期粘度が実現されることが判明した。これらのパラメータは、インクの流動特性、可能な液滴サイズに決定的な影響を与え、それにより、解像度にも、また印刷速度にも、決定的な影響を与えることになる。以上のほか、インクの老化時にも、これらのパラメータが受けた変動幅が、従来型のブルー15系顔料をベースとするインクの場合より明らかに小さいことも示された。
【0042】
この特性は、60℃で28日間保管後のインクでさえも、つまり、標準テスト(40℃、1週間)より明らかに苛酷な条件下でさえも実証された。
【0043】
本発明に基づく顔料製剤は、特に、シアン色記録液の調製に適している。これらは、水性または非水性のインクジェット印刷法に基づいて、ならびにマイクロエマルジョンに基づいて、またはホットメルト法に従って、あるいはほかにもそれ以外の複製法、筆記法、描画法、マーキング法、刻印法、記録法または印刷法を対象とした場合、ならびに電子写真用のトナーや現像剤、およびカラーフィルタを対象とした場合にも、その本来の効果を奏することができる。
【0044】
記録液完成品は、一般的には、本発明に基づく顔料製剤を合計で0.1〜50重量%、水を0〜99重量%、および有機溶剤および/または保湿剤を0.5〜99.5重量%含んでいる。好ましい実施形態では、記録液は、顔料製剤を0.5〜15重量%、水を35〜75重量%、および有機溶剤および/または保湿剤を10〜50重量%含んでおり、別の好ましい実施形態では、顔料製剤を0.5〜15重量%、水を0〜20重量%、および有機溶剤および/または保湿剤を70〜99.5重量%含んでいる。
【0045】
さらに、本発明に基づく記録液は、そのほかにも慣用の添加物、例えば防腐剤、カチオン性、アニオン性または非イオン性の界面活性を示す物質(界面活性剤および湿潤剤)および、例えばポリビニルアルコール、セルロース誘導体などの粘度調整用の媒体、または接着強度および耐磨耗強度を高めるためのフィルムバインダまたは結合剤としての水溶性の天然樹脂または合成樹脂を含んでいてもよい。
【0046】
本発明に基づく顔料製剤およびそれより製造されたインクジェットインクは、他の着色料、例えば無機または有機の顔料および/または染料でシェーディングされたものであってもよい。その場合それらは、着色料として顔料および/または染料を含む、イエロー、マゼンタ、シアンおよびブラックのインクで構成されるインクセットで使用されることになる。さらに、それらは、追加として1色または複数色の装飾カラー(スポットカラー)、例えばオレンジ、グリーン、ブルーおよび/または特殊色(ゴールド、シルバー)を含むインクセットで使用することもできる。
【0047】
その場合好ましいのは、ブラック調製物が、着色料として好ましくはカーボンブラック、特にガスカーボンブラックまたはファーネスブラックを含み;シアン調製物が、フタロシアニン顔料群からの、場合によりピグメントブルー16、ピグメントブルー56、ピグメントブルー60またはピグメントブルー61を用いてシェーディングされた、本発明に基づく顔料製剤の1種または複数種を含み;マゼンタ調製物が、好ましくはモノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、β−ナフトール顔料、ナフトールAS顔料、レーキ化したアゾ顔料、金属錯体顔料、ベンズイミダゾロン顔料、アンサンスロン顔料、アンスラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、ペリレン系、チオインジゴ顔料、トリアリールカルボニウム顔料、またはジケトピロロピロール顔料の群からのいずれか一つの顔料、特にカラーインデックス顔料のピグメントレッド2、ピグメントレッド3、ピグメントレッド4、ピグメントレッド5、ピグメントレッド9、ピグメントレッド12、ピグメントレッド14、ピグメントレッド38、ピグメントレッド48:2、ピグメントレッド48:3、ピグメントレッド48:4、ピグメントレッド53:1、ピグメントレッド57:1、ピグメントレッド112、ピグメントレッド122、ピグメントレッド144、ピグメントレッド146、ピグメントレッド147、ピグメントレッド149、ピグメントレッド168、ピグメントレッド169、ピグメントレッド170、ピグメントレッド175、ピグメントレッド176、ピグメントレッド177、ピグメントレッド179、ピグメントレッド181、ピグメントレッド184、ピグメントレッド185、ピグメントレッド187、ピグメントレッド188、ピグメントレッド207、ピグメントレッド208、ピグメントレッド209、ピグメントレッド210、ピグメントレッド214、ピグメントレッド242、ピグメントレッド247、ピグメントレッド253、ピグメントレッド254、ピグメントレッド255、ピグメントレッド256、ピグメントレッド257、ピグメントレッド262、ピグメントレッド263、ピグメントレッド264、ピグメントレッド266、ピグメントレッド269、ピグメントレッド270、ピグメントレッド272、ピグメントレッド274、ピグメントバイオレット19、ピグメントバイオレット23またはピグメントバイオレット32を含み;イエロー調製物が、好ましくは、モノアゾ顔料、ジスアゾ顔料、ベンズイミダゾリン顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料またはペリノン顔料の群からのいずれか一つの顔料、特にカラーインデックス顔料のピグメントイエロー1、ピグメントイエロー3、ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー14、ピグメントイエロー16、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー73、ピグメントイエロー74、ピグメントイエロー81、ピグメントイエロー83、ピグメントイエロー87、ピグメントイエロー97、ピグメントイエロー111、ピグメントイエロー120、ピグメントイエロー126、ピグメントイエロー127、ピグメントイエロー128、ピグメントイエロー139、ピグメントイエロー150、ピグメントイエロー151、ピグメントイエロー154、ピグメントイエロー155、ピグメントイエロー173、ピグメントイエロー174、ピグメントイエロー175、ピグメントイエロー176、ピグメントイエロー180、ピグメントイエロー181、ピグメントイエロー191、ピグメントイエロー194、ピグメントイエロー196、ピグメントイエロー213またはピグメントイエロー219を含み;オレンジ調製物が、ジスアゾ顔料、β−ナフトール顔料、ナフトールAS顔料、ベンズイミダゾロン顔料またはペリノン顔料の群からのいずれか一つの顔料、特にカラーインデックス顔料のピグメントオレンジ5、ピグメントオレンジ13、ピグメントオレンジ34、ピグメントオレンジ36、ピグメントオレンジ38、ピグメントオレンジ43、ピグメントオレンジ62、ピグメントオレンジ68、ピグメントオレンジ70、ピグメントオレンジ71、ピグメントオレンジ72、ピグメントオレンジ73、ピグメントオレンジ74またはピグメントオレンジ81を含み;グリーン調製物が、好ましくはフタロシアニン顔料群からのいずれか一つの顔料、特にカラーインデックス顔料のピグメントグリーン7またはピグメントグリーン36を含む、印刷インクのセットである。
【0048】
インクセットは、上記に加えさらに、好ましくは、C.I.アシッドイエロー3、C.I.フードイエロー3、C.I.アシッドイエロー17およびC.I.アシッドイエロー23;C.I.ダイレクトイエロー86、C.I.ダイレクトイエロー28、C.I.ダイレクトイエロー51、C.I.ダイレクトイエロー98およびC.I.ダイレクトイエロー132、;C.I.リアクティブイエロー37;C.I.ダイレクトレッド1、C.I.ダイレクトレッド11、C.I.ダイレクトレッド37、C.I.ダイレクトレッド62、C.I.ダイレクトレッド75、C.I.ダイレクトレッド81、C.I.ダイレクトレッド87、C.I.ダイレクトレッド89、C.I.ダイレクトレッド95およびC.I.ダイレクトレッド227;C.I.アシッドレッド1、C.I.アシッドレッド8、C.I.アシッドレッド18、C.I.アシッドレッド52、C.I.アシッドレッド80、C.I.アシッドレッド81、C.I.アシッドレッド82、C.I.アシッドレッド87、C.I.アシッドレッド94、C.I.アシッドレッド115、C.I.アシッドレッド131、C.I.アシッドレッド144、C.I.アシッドレッド152、C.I.アシッドレッド154、C.I.アシッドレッド186、C.I.アシッドレッド245、C.I.アシッドレッド249およびC.I.アシッドレッド289;C.I.リアクティブレッド21、C.I.リアクティブレッド22、C.I.リアクティブレッド23、C.I.リアクティブレッド35、C.I.リアクティブレッド63、C.I.リアクティブレッド106、C.I.リアクティブレッド107、C.I.リアクティブレッド112、C.I.リアクティブレッド113、C.I.リアクティブレッド114、C.I.リアクティブレッド126、C.I.リアクティブレッド127、C.I.リアクティブレッド128、C.I.リアクティブレッド129、C.I.リアクティブレッド130、C.I.リアクティブレッド131、C.I.リアクティブレッド137、C.I.リアクティブレッド160、C.I.リアクティブレッド161、C.I.リアクティブレッド174およびC.I.リアクティブレッド180、C.I.アシッドバイオレット48、C.I.アシッドバイオレット54、C.I.アシッドバイオレット66、C.I.アシッドバイオレット126、C.I.アシッドブルー1、C.I.アシッドブルー9、C.I.アシッドブルー80、C.I.アシッドブルー93、C.I.アシッドブルー93:1、C.I.アシッドブルー182、C.I.ダイレクトブルー86、C.I.ダイレクトブルー199、C.I.アシッドグリーン1、C.I.アシッドグリーン16、C.I.アシッドグリーン25、C.I.アシッドグリーン81、C.I.リアクティブグリーン12、C.I.アシッドブラウン126、C.I.アシッドブラウン237、C.I.アシッドブラウン289、C.I.アシッドブラック194、C.I.サルファーブラック1、C.I.サルファーブラック2、C.I.ソルベント・サルファーブラック1、C.I.リアクティブブラック5、C.I.リアクティブブラック31、C.I.リアクティブブラック8の群からの、複数のシェーディング染料を含むことができるが、その際に上述の反応性の染料は、部分的または完全に加水分解された態様で存在することができる。
【0049】
以下の例では、部は重量部、パーセントは重量パーセントを意味している。
【実施例】
【0050】
例1(比較例):ソルトニーディング、フタルイミドメチレン−CuPc系分散剤
容量1lの実験室用混練機(Werner & Pfleiderer社)に粗製銅フタロシアニン75g(例えば、ドイツ特許出願公開第2432564号(特許文献3)の例1に従って調製)、NaCl375g、フタルイミドメチル−銅フタロシアニン(欧州特許第1061419号(特許文献4)、例1に準じて調製)3.75g、およびジエチレングリコール100mlを充填した。ニーディング時間は8時間、ニーディング温度は約95℃である。ニーディング終了後には混練物を容量6lのフラスコに移し入れ、希塩酸(5重量%)を4000ml加えて室温で2時間撹拌する。続いて、懸濁液を濾別して、プレスケーキを水洗いし、熱対流炉内にて80℃で16時間乾燥させ、IKA社製のミルを用いて粉末化する。表1に記載された物理データを持つ銅フタロシアニン製剤が76g得られる。
【0051】
例2(比較例):振動粉砕、CuPc−スルホン酸系分散剤
鉄棒が取り付けられた回転振動の原理で作動する振動ミルの中で、粗製銅フタロシアニン(欧州特許第1061419号(特許文献4)、例1に準じて調製)を粉砕する。粉砕媒体の充填率は75%である。被粉砕物の充填率は80%である。粉砕時間は90分である。被粉砕物は4倍量の5重量%の硫酸中にて90℃で2時間撹拌し、その懸濁液を吸引して、プレスケーキを無塩状態に洗浄する。この水性プレスケーキの固形物含有量は33重量%である。
【0052】
続いての溶剤処理:上記のように調製したプレスケーキの303gを、53重量%の苛性ソーダ240g、イソブタノール240gの中でスラリー化させ、次に銅フタロシアニン−スルホン酸(スルホン化度、約1.5)を3g加える。混合物を均質化して、135℃、加圧下で3時間撹拌する。続いて、イソブタノールを分留し、溶剤の留出量を水で置換する。懸濁液を濾別し、プレスケーキを中性洗浄の後に乾燥させる。表1に記載された物理データを持つ銅フタロシアニン製剤が102g得られる。
【0053】
例3
容量1lの実験室用混練機(Werner & Pfleiderer社)に粗製銅フタロシアニン75g(例えば、ドイツ出願公開第2432564号(特許文献3)の例1に従って製造)、NaCl375gおよびジエチレングリコール100mlを満たした。ニーディング時間は8時間、ニーディング温度は約95℃である。ニーディング終了後には混練物を容量6lのフラスコに移し入れ、希塩酸(5重量%)を4000ml加えて室温で2時間撹拌する。続いて、懸濁液を濾別して、プレスケーキを水洗いする。そのようにして得られた顔料濾過ケーキを水800mL中でスラリー化させ、銅フタロシアニン−スルホン酸(スルホン化度:約1.5)6.5gおよび塩化セチルトリメチルアンモニウム1.60g(0.005mol)と共に80℃で2時間撹拌する。懸濁液を濾別した後で洗浄し、熱対流炉内にて80℃で16時間乾燥させ、IKA社製のミルで粉末化する。表1に記載された物理データを持つ銅フタロシアニン製剤が83g得られる。
【0054】
例4
塩化セチルトリメチルアンモニウムの代わりに塩化ステアリルトリメチルアンモニウム1.67g(0.005mol)を使用することを唯一の相違点として、例3に準じて銅フタロシアニン製剤を調製する。
【0055】
例5
塩化セチルトリメチルアンモニウムの代わりに塩化ジステアリルジメチルアンモニウム2.86g(0.005mol)を使用することを唯一の相違点として、例3に準じて銅フタロシアニン製剤を調製する。
【0056】
例6
塩化セチルトリメチルアンモニウムの代わりに塩化ステアリルベンジルジメチルアンモニウム1.63g(0.005mol)を使用することを唯一の相違点として、例3に準じて銅フタロシアニン組成物を製造する。
【0057】
【表1】

【0058】
粒径分布については、一連の電子顕微鏡写真を使用する。一次粒子を視覚的に特定する。各一次粒子の面積を、グラフィックタブレットを使って決定する。その面積から、これと同じ面積の円の直径を求める。そのように算出した等価直径の頻度分布を求め、これらの頻度を体積等価直径に換算し、粒径分布として表わす。d50値は、その粒径よりも小さい粒子の個数が全粒子の50%であるという等価直径を表わす。
【0059】
顔料の電荷測定は、「Electrostatics 1999、 Inst. Phys. Conf. Ser. No. 163、285頁、Streaming Current Charge versus Tribo Charge、 R. Baur、 H-T. Macholdt、 E. Michel」(非特許文献1)に従って行う。その結果として、表1のとおり、電荷を顔料1グラムあたりクーロンで表記する。
【0060】
適用例1:UV硬化型インクジェットインク用の分散物
例1、2または3からの顔料製剤それぞれ20g、アクリレート系オリゴマー混合物78g、ポリマー分散助剤1gおよび安定剤1gにより顔料濃縮物を調製し、ペイントシェーカーにより分散化させる。
【0061】
そのようにして得た分散物について、様々な剪断速度での粘度特性を測定する。
【0062】
本発明に基づく、例3に従った顔料製剤の分散では、初期粘度が低くて、剪断に依存した粘度変化率が僅かである、粘度特性を得る(グラフ1)。
【0063】
適用例2:UV硬化型インクジェットインク
適用例1からの濃縮物15gを、それぞれアクリレートモノマー76.6g、光開始剤混合物8gおよび湿潤剤0.4gと混合してインクを調製する。
【0064】
そのようにして得たインクを60℃の高温で保管する。粘度開始時および7、14、21、28日後に測定する。
【0065】
本発明に基づく顔料製剤を含むインクでは、上記の高温保管中に有意な変化を一切呈さない、安定した粘度が得られる(グラフ2)。
【0066】
適用例3:溶剤ベースのインクジェットインク用の分散物
例1、2または3に基づく顔料製剤それぞれ12g、PVC/PVAc−コポリマー13.2gおよびDowanol(登録商標)PMA74.8gにより顔料濃縮物を調製し、ペイントシェーカーにより分散させる。
【0067】
そのようにして得た分散物について、様々な剪断速度での粘度特性を算出する。
【0068】
本発明に基づく、例3に従った顔料製剤の分散では、初期粘度が低くて、剪断に依存した粘度変化率が僅かである、粘度特性を得る(グラフ3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料製剤であって、
(a)ベータ相の銅フタロシアニン色素を含み、顔料製剤において、
顔料粒子の平均粒径d50が40〜80nmであり、平均長さ対幅比が2.0:1以下であること、および、
(b)銅フタロシアニン色素の重量を基準として1〜30重量%の、次式(II)
【化1】

(式中、
CPCは、銅フタロシアニンの残基、
nは、1〜4.0の数値、
mは、0.5〜4.0の数値、
Katは、アルカリ金属群からのいずれか一つのカチオンまたはH
oは、0〜3.5の数値で、ただし、n=m+oであり;
、R、R、Rは、同一でも異なっていても良く、C〜C20のアルキル、C〜C20のアルケニル、C〜C20のシクロアルキル、C〜C20のシクロアルケニルまたはC〜Cのアルキルフェニル、ただし、前記各残基は場合によってはヒドロキシおよび/またはハロゲンによって置換されている
を意味する)
で表わされる顔料分散剤を含むことを特徴とする、顔料製剤。
【請求項2】
、R、RがC〜Cのアルキル、および
が、C12〜C20のアルキル、C12〜C20のアルケニル、C〜C20のシクロアルキル、C〜C20のシクロアルケニルまたはベンジル、ただし前記各残基は場合によってはヒドロキシおよび/またはハロゲンによって置換されている
を意味することを特徴とする、請求項1に記載の顔料製剤。
【請求項3】
、Rが、C〜Cのアルキル、および
、Rが、C〜C20のアルキル、C〜C20のアルケニル、C〜C20のシクロアルキル、C〜C20のシクロアルケニルまたはベンジル、ただし前記各残基が場合によってはヒドロキシおよび/またはハロゲンによって置換されている
を意味することを特徴とする、請求項1または2に記載の顔料製剤。
【請求項4】
、R、Rが、メチル、および
が、C14〜C20のアルキルまたはC14〜C20のアルケニル
を意味することを特徴とする、請求項1または2に記載の顔料製剤。
【請求項5】
平均粒径d50が50〜75nmであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一つに記載の顔料製剤。
【請求項6】
顔料粒子の平均長さ対幅比が1.6:1〜1.9:1であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一つに記載の顔料製剤。
【請求項7】
前記式(II)で表わされる顔料分散剤の含有量が、前記銅フタロシアニン色素の重量を基準として5〜20重量%であることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一つに記載の顔料製剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一つに記載の顔料製剤の調整方法において、
銅フタロシアニン粗製顔料を、有機溶剤の存在下で結晶性無機塩とのソルトニーディングにかけ、前記ソルトニーディングの前、間および/または後に、前記式(II)で表わされる顔料分散剤を添加する工程を特徴とする、方法。
【請求項9】
請求項1から7のいずれか一つに記載の顔料製剤の使用であって、インクジェットインク、電子写真トナー、現像剤およびカラーフィルタの着色への使用。
【請求項10】
溶剤を含有したインクジェットインクおよびUV硬化型インクジェットインクの着色への、請求項9に記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−522093(P2011−522093A)
【公表日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−511991(P2011−511991)
【出願日】平成21年5月2日(2009.5.2)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003170
【国際公開番号】WO2009/146768
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(398056207)クラリアント・ファイナンス・(ビーブイアイ)・リミテッド (182)
【Fターム(参考)】