説明

改質乾燥卵白及びその製造方法、並びに改質乾燥卵白を含有する食品

【課題】 加熱凝固時の保水性が改質され、かつ、風味等に悪影響を与えずに種々の食品に利用して優れた品質改良効果が得られる改質乾燥卵白及びその製造方法、並びに改質乾燥卵白を含有する食品を提供する。
【解決手段】 製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHが9.5以上、その導電率が7mS/cm以下であり、かつ製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である改質乾燥卵白及びその製造方法、並びに改質乾燥卵白を含有する食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱凝固時の保水性が改質され、かつ、風味等に悪影響を与えずに種々の食品に利用して優れた品質改良効果が得られる改質乾燥卵白及びその製造方法、並びに改質乾燥卵白を含有する食品に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥卵白は、生卵白に比べて長期保存が可能であり、輸送コストが低く、保管スペースも少なくてすむことから、種々の食品の原料として使用されている。この乾燥卵白は、保存中に卵タンパク質中のアミノ基と反応してメイラード反応を起こし、褐変、不快臭の発生等の品質低下が生じないように、液卵白を脱糖処理した後に、噴霧乾燥、パンドライ、凍結乾燥、真空乾燥等の種々の方法で乾燥処理されて製造されている。脱糖処理は通常、酵母、酵素、細菌等を用いて行われる。これらの脱糖処理における適正pHは弱酸性〜中性であるため、脱糖処理時には一般にクエン酸等の酸剤が添加されてpHの調整が行われる。このため、得られた乾燥卵白のpHは一般的に中性付近となる。
【0003】
また、乾燥卵白は、単に卵白原料として用いられる他に、畜肉加工食品、水産加工食品、麺類等の種々の加工食品の歩留まり向上や食感改良するための品質改良剤としても利用されている。このような用途においては、乾燥卵白を加熱凝固して得られた加熱凝固物(ゲル)の保水性が高いことが望まれており、従来より、保水性等の点から乾燥卵白の性質を改質した乾燥卵白が提案されている。
【0004】
例えば、特許第3244586号公報(特許文献1)には、脂肪酸を添加することにより、保水性やしなやかさを改質した乾燥卵白が提案されている。また、特開平11−266836号公報(特許文献2)には、炭酸ナトリウム等のアルカリ性の塩類を添加してpHを9.3以上に調整した液卵白を10分間保持した後に乾燥することにより、保水性を改質した乾燥卵白が提案されている。しかしながら、これらの技術では、添加した脂肪酸やアルカリ性の塩類により食味等の点から悪影響を与える場合がある。
【0005】
添加剤を用いない方法としては、特開2001−95473号公報(特許文献3)には、脱塩した乾燥卵白を熱蔵することにより、耐冷凍性や保水性等を改質した乾燥卵白が提案されている。この方法では、添加剤により食味等の点から悪影響を受ける場合はないものの、必ずしも満足できるほどの改質効果得られているとはいい難く、より改質された改質乾燥卵白が望まれている。
【0006】
【特許文献1】特許第3244586号公報
【特許文献2】特開平11−266836号公報
【特許文献3】特開2001−95473号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、加熱凝固時の保水性が改質され、かつ、風味等に悪影響を与えずに種々の食品に利用して優れた品質改良効果が得られる改質乾燥卵白及びその製造方法、並びに改質乾燥卵白を含有する食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
鶏卵の液卵白には二酸化炭素が溶存していることが知られている。また、液卵白を脱糖処理した後、乾燥処理する一般的な乾燥卵白の製造方法において、乾燥処理後の乾燥卵白の水戻し溶液のpHが乾燥前の液卵白のpHに比べて上昇する傾向があることが知られている。その理由は、液卵白中に溶存する二酸化炭素が乾燥処理時に放出されるため、乾燥卵白中には二酸化炭素がほとんど残存していないからであると従来考えられていた。
【0009】
これに対して、本出願人は、脱糖処理時の有機酸の添加量が少ない、あるいは、有機酸を添加しないで製造したpH9以上の乾燥卵白は、乾燥卵白中に二酸化炭素がある程度残存していること、この乾燥卵白は、適切に乾熱処理することにより乾燥卵白に含まれる二酸化炭素を散失させることができること、並びに、二酸化炭素を散失させてpHを上昇させた乾燥卵白は、アルカリ性の塩類を加えてpHを上昇させた場合に比べて、乾熱処理しても煮えが生じ難く、保水性に加えて、ゲル強度、しなやかさの点からも充分に改質でき、かつ、従来から行われているアルカリ性の塩類や脂肪酸等の添加剤を加えて保水性を改質する方法に比べて、風味等の悪影響を与えずに種々の食品に利用して優れた品質改良効果が得られることを見出し、既に出願(特願2006−242713号)を行った。
【0010】
本発明者等は、乾燥卵白の保水性の改質について更に鋭意研究を重ねた結果、前記出願に係る改質乾燥卵白の原料卵白として、脱塩した卵白を用いるならば、意外にもより優れた保水性を有するとともに、風味等に悪影響を与えずに種々の食品に利用して優れた品質改良効果が得られる改質乾燥卵白が得られることを見出し、遂に本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1) 製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHが9.5以上、その導電率が7mS/cm以下であり、かつ製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である改質乾燥卵白、
(2) (1)記載の改質乾燥卵白を含有する食品、
(3) 液卵白を脱塩処理して脱塩液卵白を製する工程、乾燥後のpHが9以上となるように前記脱塩液卵白を乾燥処理して乾燥卵白を製する工程及び前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程を含む改質乾燥卵白の製造方法、
(4) 前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程によって、該乾燥卵白のpHを上昇させる(3)記載の改質乾燥卵白の製造方法、
(5) 前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程が、該乾燥卵白を、該乾燥卵白から雰囲気中に放出される二酸化炭素を除去しながら、乾熱処理する工程である(3)又は(4)記載の改質乾燥卵白の製造方法。
(6) 前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程において、製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下となるように乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる(3)乃至(5)のいずれかに記載の改質乾燥卵白の製造方法、
(7) 前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程において、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHが9.5以上となるように乾燥卵白のpHを上昇させる(3)乃至(6)のいずれかに記載の改質乾燥卵白の製造方法、
(8) 液卵白を脱塩処理して脱塩液卵白を製する工程において、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液の導電率が7mS/cm以下となるように液卵白を脱塩処理する(3)乃至(7)のいずれかに記載の改質乾燥卵白の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0012】
上記改質乾燥卵白は、添加剤を用いずに加熱凝固時の保水性が改質されている。また、上記改質乾燥卵白は、添加剤を使用していないため、風味等に悪影響を与えずに種々の加工食品に利用して優れた品質改良効果を奏することができる。したがって、これら加工食品の需要を拡大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明を詳細に説明する。なお、本発明において「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ意味する。
【0014】
本発明において、「乾燥卵白」とは、液卵白を噴霧乾燥、パンドライ、凍結乾燥、真空乾燥等の種々の方法で乾燥して得られた卵白をいう。
【0015】
本発明の改質乾燥卵白は、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHが9.5以上、その導電率が7mS/cm以下であり、かつ製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下であることを特徴とする。ここで、前記製品とは本発明においては改質乾燥卵白をいうものとする。
【0016】
製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度は、本発明の改質乾燥卵白に含まれる二酸化炭素の量を反映する。したがって、前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が高いほど、本発明の改質乾燥卵白に含まれる二酸化炭素の量が多いといえる。
【0017】
具体的には、前記バイアル瓶中の二酸化炭素の濃度は、製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃の恒温機で24時間保存した後、恒温機から取り出して1分以内に前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度を二酸化炭素濃度計(PBI-Dansensor社製 Check Point O2/CO2)で測定される。
【0018】
製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存することにより、改質乾燥卵白から二酸化炭素を充分に放出させることができる。そのため、製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間以上保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度は、同条件にて24時間以上保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度とほとんど変わらない。したがって、前記条件で測定した前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度は、本発明の改質乾燥卵白に含まれる二酸化炭素の量を反映するといえることから、前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度を本発明の改質乾燥卵白に含まれる二酸化炭素量の指標として用いることができる。
【0019】
一方、本発明において、前記製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHとは、品温20℃の当該水溶液をpHメーター(商品名「MP225」、メトラー・トレド社製)で測定したpH値をいう。また、前記製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液の導電率とは、品温20℃の当該水溶液を導電率計(商品名「Model SC82 パーソナルSCメータ」、横河電機(株)製)で測定した導電率の測定値をいう。導電率は卵白の脱塩の程度を反映し、通常の生卵白の導電率が8〜9mS/cm程度であることから、前記値よりも数値が低い程、より脱塩されていることを示す。
【0020】
本発明の改質乾燥卵白は、前記pH及び導電率がそれぞれ9.5以上及び7mS/cm以下であり、かつ前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下であることにより、保水性が改質されている。より詳しくは、本発明の改質乾燥卵白は、後述するように前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下であることにより、二酸化炭素の含有量が低く、これによりpHが9.5以上とされている。そして、このように高pHであって、脱塩されていることにより、本発明の改質乾燥卵白は、保水性が改質されている。
【0021】
また、本発明の改質乾燥卵白は二酸化炭素を吸収しにくいため、大気中に常温保存しても二酸化炭素の吸収によってpHが低下して、保水性が失われたりすることがない。
【0022】
本発明の改質乾燥卵白におけるpHの好ましい範囲は9.5〜10.9である。本発明の改質乾燥卵白はアルカリ剤を含まないか、あるいは含有するアルカリ剤が少量であるため、後述するように二酸化炭素を除去しながら乾熱処理しても、pHは10.9以下に留まる。なお、食品工業的に大量生産する観点からは、前記pHまで上昇した乾燥卵白を安定して製造するには、後述する乾熱処理条件を煮え等が発生しないように微調整しながら行う必要があり製造コストがかかって経済的でないことから、本発明の改質乾燥卵白のpHは好ましくは10.7以下、より好ましくは10.5以下である。また、本発明の改質乾燥卵白において、改質効果がより得られ易いことから、pHは好ましくは9.5以上であり、より好ましくは9.9以上、さらに好ましくは10.0以上である。
【0023】
また、本発明の改質乾燥卵白における導電率の好ましい範囲は1〜7mS/cmである。脱塩処理により導電率を1mS/cmより小さくするには、改質効果に比べて製造コストが高く経済的でない。また、本発明の改質乾燥卵白において、改質効果がより得られ易いことから、導電率は好ましくは6mS/cm以下であり、より好ましくは5mS/cm以下である。
【0024】
本発明の改質乾燥卵白は、上述のように添加剤を用いずに保水性の点から改質されていることから、種々の食品に利用することにより風味等の悪影響を与えずに優れた品質改良効果が得られる。具体的には、本発明の改質乾燥卵白は保水性が高いことから、種々の食品において、食感改良効果や歩留まり向上効果が得られる。また、例えば、冷凍食品の冷凍変性防止効果や麺類の茹で伸び防止効果等が得られる。
【0025】
本発明の改質乾燥卵白を利用する食品としては、ハム、ソーセージ、シュウマイ等の畜肉加工食品、かまぼこ、ちくわ、魚肉ソーセージ等の水産加工食品、中華麺、うどん、蕎麦等の麺類、カスタードクリーム、タマゴサラダ、スクランブルエッグ、卵焼き、オムレツ、茶碗蒸し、プリン等の卵加工食品、マヨネーズ、タルタルソース等の酸性水中油型乳化食品(pH3〜4.5)、カルボナーラソース、コーンスープ等のソース類、ケーキ、クッキー等の焼き菓子、パン、フラワーペースト、お好み焼き、たこ焼き等が挙げられる。更に、これらの冷凍食品や、アイスクリーム、ソフトクリーム等の冷菓が挙げられる。
【0026】
本発明の改質乾燥卵白の食品への配合量は、食品の種類によって適宜選択すべきであるが、通常好ましくは0.01〜10%、より好ましくは0.05〜5%である。前記値より改質乾燥卵白の配合量が少ないと、上述の本発明の改質乾燥卵白を配合したときの品質改良効果を奏し難く、一方、前記値より配合量を多くしたとしても、配合量に応じた効果が期待し難く経済的でない。
【0027】
次に、本発明の改質乾燥卵白の製造方法について説明する。
【0028】
本発明の改質乾燥卵白の製造方法は、液卵白を脱塩処理して脱塩液卵白を製する工程、乾燥後のpHが9以上となるように前記脱塩液卵白を乾燥処理して乾燥卵白を製する工程及び前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程を含むことを特徴とする。以下、工程順に説明する。
【0029】
<脱塩液卵白を製する工程>
まず、原料として用いる液卵白を用意する。液卵白としては、例えば、卵を割卵して卵黄と分離した生液卵白、これにろ過、殺菌、冷凍、濃縮等の処理を施したものの他、卵白中の成分を除去する処理、例えば、糖分を除去する脱糖処理やリゾチームを除去する処理を行なったもの等を用いることができる。これらの液卵白の中でも、本発明においては、後述する乾熱処理中に卵タンパク質中のアミノ基と反応してメイラード反応を起こし、褐変、不快臭の発生等の品質の低下を防止することができる点で、脱糖処理を行った液卵白を用いるのが好ましい。脱糖処理は、酵母、酵素、細菌等を用いて常法により行えばよく、中でも、不揮発性の酸が産出され難く、乾燥後の乾燥卵白のpHを高く調整し易い点から、酵母を用い、具体的には、液卵白中の遊離の糖含有率が好ましくは0.1%以下となるように行うことが好ましい。なお、脱糖処理は後述する乾燥処理工程の前に行えばその時期に特に制限は無く、例えば、後述する脱塩処理の後に行ってもよい。
【0030】
次に、前記液卵白を脱塩処理する。本発明において、脱塩処理とは、液卵白の溶液中でイオンとして解離する無機塩類を除去する処理のことをいい、前記無機塩類としては、例えばナトリウムイオン、カルシウムイオンなどの陽イオン、塩素イオンなどの陰イオンが挙げられる。脱塩処理の方法としては、特に制限は無く、常法により、例えば、電気透析法、限外濾過法、逆浸透膜法、イオン交換樹脂を用いる方法、セルロース膜などの半透膜を用いた透析法等によって行うことができる。
【0031】
前記脱塩処理は、導電率が7mS/cm以下、好ましくは6mS/cm以下、より好ましくは5mS/cm以下となるように行えばよい。液卵白の導電率は、後述する乾燥処理前後でほぼ変化がないことから、このように脱塩処理することにより、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液の導電率が7mS/cm以下、好ましくは6mS/cm以下、より好ましくは5mS/cm以下とした保水性に優れた改質乾燥卵白を得ることができる。
【0032】
<乾燥卵白を製する工程>
続いて、前記脱塩液卵白を乾燥処理するが、本発明の改質乾燥卵白の製造方法においては、乾燥処理後の乾燥卵白のpHを9以上、好ましくは9.5以上、より好ましくは9.7以上とする。
【0033】
一般に、液卵白を酵母脱糖、酵素脱糖等の方法で脱糖処理する際には、これら酵母や酵素の適正pHが弱酸性〜中性であることから、有機酸等の酸剤を添加して液卵白のpHを中性程度とする。そのため、得られる乾燥卵白もpHが7前後となる。
【0034】
これに対して、本発明の改質乾燥卵白の製造方法においては、前記脱糖処理の際に有機酸等の酸剤を添加しないか、またはごくわずかの添加に抑えることにより、乾燥処理後の乾燥卵白のpHを9以上、好ましくは9.5以上、より好ましくは9.7以上に調整する。具体的には、用いる液卵白のpH、脱塩の程度、乾燥処理方法等にもよるが、有機酸等の酸剤を添加せずに酵母で脱糖処理をした場合、pH9.6〜10.0程度の乾燥卵白を得ることができる。また、本発明においては、乾燥処理後の乾燥卵白のpHが高いほうが改質効果を得易いことから、有機酸等の酸剤を添加しない方が好ましいが、脱糖処理効率を上げる等の目的のために、例えば、酸剤としてクエン酸等の有機酸を用いる場合は、脱糖の際の有機酸添加量を液卵白1kgに対して好ましくは1000mg以下、より好ましくは500mg以下、さらに好ましくは200mg以下、特に好ましくは100mg以下とする。
【0035】
また、乾燥前の液卵白のpHに比べて、乾燥後の乾燥卵白のpHはやや上昇する傾向がある。例えば、乾燥条件にもよるが、通常の噴霧乾燥条件である150〜200℃の熱風で乾燥した場合、pHが1〜3程度高くなるので、これを考慮して、乾燥処理後の乾燥卵白のpHを前記範囲に調整すればよい。
【0036】
なお、本実施形態に係る改質乾燥卵白の製造方法においては、乾燥卵白のpHを前記特定範囲に調整するために、リン酸三ナトリウム等の少量のアルカリ剤を添加してもよいが、食品に添加した場合に風味や物性の点で悪影響を与える場合があり、また、このような乾燥卵白は、アルカリ剤に由来する塩類により後述する乾熱処理中にタンパク質が熱変性
して不溶化するいわゆる煮えが生じ易くなる。したがって、本実施形態に係る改質乾燥卵白の製造方法においては、アルカリ剤の添加量は乾燥前の液卵白1kgに対して好ましくは300mg以下、より好ましくは150mg以下、さらに好ましくは50mg以下である。
【0037】
乾燥処理の方法は、特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、パンドライ、凍結乾燥、真空乾燥等の種々の方法により常法に準じて水分含量が4〜12%程度となるまで乾燥処理すればよい。乾燥卵白の水分含量は、赤外線水分計((株)ケツト科学研究所、FD−600)によって測定することができる。
【0038】
以上のように、pHが9以上となるように乾燥処理した乾燥卵白は、二酸化炭素含有量が高いのに対し、前記範囲よりもpHが低い場合は、二酸化炭素含有量が低い。これは、一般的な方法に準じて、有機酸等の酸剤を添加して脱糖処理された液卵白を乾燥処理して得られたpHが7程度の乾燥卵白は、乾燥処理時に卵白中に溶存する二酸化炭素が放出されやすく、当該乾燥卵白中には二酸化炭素がほとんど残存していないためであると推察される。
【0039】
本発明の改質乾燥卵白の製造方法は、pH9以上となるように乾燥処理した脱塩乾燥卵白を後述するように乾熱処理することにより、二酸化炭素を散失させてpHを上昇させ、保水性等を改質することができる。一方、pHが7程度の乾燥卵白は、加熱しても二酸化炭素をほとんど放出しないことから、乾燥卵白を乾熱処理して二酸化炭素を散失させpHを上昇させることにより保水性等を改質する本発明の改質乾燥卵白の製造方法を応用することが困難である。
【0040】
<二酸化炭素を散失させる工程>
本発明の改質乾燥卵白の製造方法においては、上述の乾燥卵白を製する工程により得られた乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程を有する。ここで、乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させるとは、乾燥卵白中の二酸化炭素を雰囲気中に放出させた後、この二酸化炭素を除去することをいう。本発明においては、この乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程において、乾燥卵白のpHを上昇させることができ、好ましくは乾燥卵白のpHを9.5以上にすることができる。また、この工程において、製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下となるように乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させることができる。
【0041】
前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程としては、具体的には、乾燥卵白を、当該乾燥卵白から雰囲気中に放出される二酸化炭素を除去しながら、乾熱処理する工程である。つまり、本発明においては、乾熱処理により二酸化炭素を雰囲気中に放出させた後、この雰囲気中の二酸化炭素を除去することにより、乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させることができる。
【0042】
乾熱処理の温度は、二酸化炭素の放出量が多い点で、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは60℃以上、特に好ましくは70℃以上である。一方、乾熱処理の温度があまり高すぎると、乾燥卵白から二酸化炭素が充分に放出される前に、前記乾燥卵白中のタンパク質が変性して、不溶化してしまういわゆる煮えが生じ易い。このため、乾熱処理の温度は好ましくは120℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下である。
【0043】
したがって、乾熱処理の温度は上述の理由により、45〜120℃が好ましい。45〜120℃で乾熱処理することにより、前記乾燥卵白中のタンパク質の変性を防ぎつつ、前記乾燥卵白中の二酸化炭素を効率的に放出させることができる。また、乾熱処理の温度は50〜120℃がより好ましく、60〜100℃がさらに好ましく、70〜100℃が特に好ましく、70〜90℃が最も好ましい。
【0044】
このような乾燥卵白中からの二酸化炭素の放出は、35℃程度の雰囲気温度下に放置するだけではほとんど認められず、上述の特定温度以上で乾熱処理することにより初めて認められることから、乾燥卵白に含まれる二酸化炭素は、何らかの形でタンパク質と結合した状態で存在していると考えられる。
【0045】
上述したように、特定温度以上で乾燥卵白を乾熱処理して当該乾燥卵白中の二酸化炭素が散失したかどうかは、乾熱処理前後の乾燥卵白の一部をサンプリングして、下記測定方法によりそれぞれ測定した値を比較することにより判断できる。
【0046】
例えば、前記pH9以上となるように乾燥処理した乾燥卵白25gを、本発明の二酸化炭素を除去しながら行う乾熱処理を施さずに、250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度は通常、2〜5%程度となる。
【0047】
これに対して、本発明の改質乾燥卵白の製造方法においては、上記乾燥卵白を二酸化炭素を除去しながら乾熱処理することにより、同様に測定された前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度を1%以下(より好ましくは0.8%以下)にすることができる。
【0048】
二酸化炭素を除去しながら行う乾熱処理によって二酸化炭素を散失させることにより、乾燥卵白のpHは通常、0.01〜1程度上昇する。このため、乾熱処理後の乾燥卵白のpHを9.5以上、好ましくは9.9以上、より好ましくは10.0以上となるように二酸化炭素を散失させるのが好ましい。上述したように有機酸等の酸剤を添加せずに単に脱糖処理及び脱塩処理して乾燥卵白を製造しても、得られる乾燥卵白のpHは、用いる液卵白のpH、脱塩の程度、乾燥処理方法等にもよるが、通常10.0以下に留まるが、本発明によれば、乾熱処理後の乾燥卵白中の二酸化炭素を上述のように散失させることにより、アルカリ剤を添加しなくても乾燥卵白のpHを10.1以上とすることができる。
【0049】
上述のpH9以上の乾燥卵白を45℃以上で乾熱処理して放出された二酸化炭素は、二酸化炭素の濃度が大気よりも高い雰囲気下、例えば、乾熱処理後の雰囲気下(乾燥卵白から放出された二酸化炭素を含む雰囲気下)において、当該雰囲気温度が前記温度より下がると、再び乾燥卵白に吸収される傾向がある。
【0050】
このため、本発明の改質乾燥卵白の製造方法では、二酸化炭素を除去しながら乾熱処理する。二酸化炭素を除去しながら乾熱処理する方法としては、乾燥卵白から放出された二酸化炭素を換気により除去しながら行う方法や、乾燥卵白から放出された二酸化炭素を二酸化炭素吸収剤に吸収させながら行う方法が挙げられ、具体的には、例えば、以下の第1〜第3の方法が挙げられる。
【0051】
第1の方法は、乾燥卵白をバットなどの平坦な容器に厚さが1mmから10cm程度に広げ、当該容器を加熱空気が換気されている恒温機、乾燥機、熱蔵庫等に保存する方法である。第1の方法によれば、後述する第2の方法と比較して、比較的短時間で二酸化炭素を散失することができる。
【0052】
第1の方法において、乾燥卵白から二酸化炭素を短時間で散失させるためには、乾熱処理温度を上げる必要がある。この場合、二酸化炭素が充分に散失される前に乾燥卵白が煮えやすく、一方、換気量を増やすと、空気の流れにより乾燥卵白が庫内で舞い上がることがある。また、乾燥卵白から二酸化炭素は徐々に放出されるため、あまり乾熱処理時間が短くても乾燥卵白に含まれる二酸化炭素を充分に散失させ難い傾向がある。このため、第1の方法においては、乾熱処理温度と換気量を調節して、少なくとも好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上かけて、乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させることが好ましい。
【0053】
第2の方法は、乾燥卵白を二酸化炭素透過性がある容器に容器詰めし、当該容器を加熱空気が換気されている恒温機、乾燥機、熱蔵庫等に保存する方法である。第2の方法は衛生管理上好ましい。第2の方法では、例えば好ましくは20〜80μm厚(より好ましくは30〜70μm厚)のポリエチレンフィルムからなるパウチに封入し、パウチの外表面の大部分が換気されている加熱空気に接触した状態で乾熱処理することができる。パウチの厚さが前記範囲よりも厚い場合、二酸化炭素の透過が充分に行われないことがあり、一方、パウチの厚さが前記範囲よりも薄い場合、強度が不十分で作業性が悪くなることがある。
【0054】
ここで、「パウチの外表面の大部分」とは、パウチの外表面の70%以上をいうものとし、好ましくは80%以上である。
【0055】
また、乾燥卵白が封入されたパウチを複数作製して乾熱処理を行う場合、二酸化炭素を透過しやすくするために、各パウチ間にスペースが設けられた状態で各パウチを配置するのが好ましい。具体的には、例えば、乾燥卵白10〜20kgがそれぞれ封入された複数の包装体を、金網でできた棚に重ねずに並べて、容器の外表面の大部分が換気されている加熱空気に接触した状態で乾熱処理する方法などが挙げられる。
【0056】
第3の方法は、乾燥卵白から放出される二酸化炭素を二酸化炭素吸収剤に吸収させながら乾熱処理する方法である。第3の方法は、乾燥卵白から放出された二酸化炭素を効率的に除去でき、上述した第1または第2の方法と組み合わせて行うこともできる。
【0057】
例えば、二酸化炭素吸収剤を乾燥卵白と同一包材内に封入して乾熱処理する方法、あるいは、乾燥卵白が封入された包材が二酸化炭素透過性の高い包材である場合、その外側に二酸化炭素吸収剤を配置させて乾熱処理を行う方法が挙げられる。
【0058】
二酸化炭素吸収剤の使用量が多いほど、乾燥卵白から放出された二酸化炭素を速やかに吸収させることができる。具体的には、乾熱処理温度等にもよるが、10kgの乾燥卵白に対して2000〜6000mLの吸収能を有する二酸化炭素吸収剤を使用すればよい。
【0059】
上記乾熱処理は、乾燥卵白中の二酸化炭素が充分に散失し、乾燥卵白のpHが9.5以上、前記測定法によるバイアル瓶中二酸化炭素の濃度が1%以下となるように行えばよいが、食品工業的に大量生産する観点からは、乾熱処理温度や乾燥卵白から雰囲気中に放出される二酸化炭素の除去速度等を調節し、少なくとも好ましくは1日以上、より好ましくは2日以上かけて乾熱処理すると乾燥卵白全体をバラつきなく安定した品質に改質し易い。また、乾熱処理は二酸化炭素が充分に放出されるまで行えばよく必要以上に長期間行うことは経済的でないため、乾熱処理時間は、好ましくは30日以下、より好ましくは14日以以下である。
【0060】
以上の製造方法により、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHが9.5以上、その導電率が7mS/cm以下であり、かつ製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である本発明の改質乾燥卵白を得ることができる。
【0061】
以下、本発明について、実施例、比較例並びに試験例に基づき具体的に説明する。なお、本発明は、これらに限定するものではない。
【実施例】
【0062】
[実施例1]
殻付卵を割卵分離して得られた液卵白10kgをUF膜(KOCK社製XL−1000 S4−HFK−131−VSV、Water Flux:110LMH)を用いて質量が5kgとなるように濃縮しながら脱塩処理した後、パン用酵母を濃縮液卵白に対して0.2%添加し35℃で4時間脱糖処理を行った。次に、この脱塩濃縮液卵白を170℃で噴霧乾燥し脱塩乾燥卵白(pH9.8、導電率4.2mS/cm、水分含量7%)を得た。この脱塩乾燥卵白1kgと二酸化炭素吸収剤(二酸化炭素吸収能500mL、三菱ガス化学(株)製、商品名「エージレスC−500PS」)をアルミ袋(層構成と厚さは、外側からPET12μm、ナイロン15μm、アルミ7μm、CPP70μm)に充填密封した後、この包装体を75℃の恒温機に保存して75℃、2日間の乾熱処理を行い、実施例1の改質乾燥卵白を得た。
【0063】
[実施例2]
実施例1と同様にしてUF膜を用いて濃縮しながら脱塩処理及び脱糖処理を行い脱塩濃縮液卵白を得た後、噴霧乾燥して脱塩乾燥卵白(pH9.8、導電率4.2mS/cm、水分含量7%)を得た。この脱塩乾燥卵白を10kgずつ厚み60μmのポリエチレン袋に充填密封し、これらの包装体を、庫内の加熱空気が換気されている庫内温度75℃の恒温機に保存して75℃、3日間の乾熱処理を行い、実施例2の改質乾燥卵白を得た。なお、乾熱処理する際には、包装体を熱蔵庫内の金網でできた棚に一袋ずつ重ねずに並べ、各包装体の外表面の80%程度が庫内の加熱空気に接触した状態で乾熱処理した。
【0064】
[実施例3]
殻付卵を割卵分離して得られた液卵白5kgにパン用酵母を濃縮液卵白に対して0.2%添加し35℃で4時間脱糖処理を行った。次に、この脱糖液卵白とイオン交換樹脂(陰イオン交換樹脂と陽イオン交換樹脂とを2:1の割合で混合したもの、陰イオン交換樹脂:三菱化学(株)製「ダイヤイオンSK1BH」、陽イオン交換樹脂:三菱化学(株)製「ダイヤイオンSA10AOH」)を撹拌タンクに投入して1時間撹拌混合して脱塩処理した後、イオン交換樹脂をフィルターで取り除き脱塩液卵白を得た。次に、この脱塩液卵白を実施例1と同様にして噴霧乾燥し脱塩乾燥卵白(pH9.6、導電率3.1mS/cm、水分含量7%)を得た。この脱塩乾燥卵白1kgと二酸化炭素吸収剤(実施例1で用いたものと同じ)をアルミ袋(実施例1で用いたものと同じ)に充填密封した後、この包装体を65℃の恒温機に保存して65℃、2日間の乾熱処理を行い、実施例3の改質乾燥卵白を得た。
【0065】
[比較例1]
実施例2において、脱塩処理を行わない以外は実施例1と同様の方法で製して、比較例1の乾燥卵白を得た。
【0066】
[比較例2]
実施例1において、乾熱処理を行わない以外は実施例1と同様の方法で製して、比較例2の乾燥卵白を得た。
【0067】
[比較例3]
実施例1において、25℃の恒温機で25℃、3日間の乾熱処理を行った以外は、実施例1と同様の方法で製して、比較例3の乾燥卵白を得た。
【0068】
[比較例4]
実施例1において、アルミ袋に二酸化炭素吸収剤を封入しないで乾熱処理を行った以外は実施例1と同様の方法で製して、比較例4の乾燥卵白を得た。
【0069】
[比較例5]
実施例1と同様にUF膜を用いて濃縮しながら脱塩処理を行った後に脱糖処理を行い脱塩濃縮液卵白を得た。得られた脱塩濃縮液卵白5kgに10%クエン酸溶液175gを添加した。このクエン酸を添加した脱塩濃縮液卵白を実施例1と同様にして、噴霧乾燥し脱塩乾燥卵白(pH7.3、導電率4.1mS/cm、水分含量7%)を得た。この脱塩乾燥卵白1kgと二酸化炭素吸収剤(実施例1で用いたものと同じ)をアルミ袋(実施例1で用いたものと同じ)に充填密封した後、この包装体を75℃の恒温機に保存して75℃、2日間の乾熱処理を行い、比較例5の乾燥卵白を得た。
【0070】
[試験例1]
実施例1〜3並びに比較例1〜5で得られた各乾燥卵白のpH、導電率及び二酸化炭素濃度を上述の実施形態に記載した方法でそれぞれ測定した。更に、以下の方法で各乾燥卵白を清水に溶解させた水溶液を加熱凝固させ、得られた加熱凝固物の離水率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0071】
<離水率の測定方法>
(a)1質量部の乾燥卵白に対して、7質量部の清水を加えて溶解し、折径60mmのナイロン製のケーシングに充填して80℃で40分間加熱して加熱凝固物を製する。
(b)加熱凝固物を5℃で24時間保存する。
(c)保存後の加熱凝固物を室温(20℃)に3時間放置して品温20℃にする。
(d)加熱凝固物をケーシングから取り出して、長さ方向に対して直角に厚さ3cmにカットする。
(e)110mm径のろ紙(定性ろ紙No.2)5枚を重ねた上にカットした加熱凝固物を、カットした面のいずれか片方が底面となるようにのせ、更に、樹脂製のプリンカップ(口径6cm、深さ5cm)を口部を下にして加熱凝固物に被せて覆い、加熱凝固物表面が乾燥し難いようにした上で1時間室温に放置する。放置前後の加熱凝固物の質量変化から下記式により離水率を求める。
【0072】
【数1】

【0073】
【表1】

【0074】
表1に示すように、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHが9.5以上、その導電率が7mS/cm以下であり、かつ製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である実施例1〜3の改質乾燥卵白は、そうでない比較例1〜4の乾燥卵白に比べて加熱凝固物の離水率が明らかに少なく、保水性に優れていることが理解できる。
【0075】
[試験例2]
本試験例においては、乾熱処理前の乾燥卵白のpHを検討するために以下の試験を行った。
【0076】
実施例1と同様にUF膜を用いて濃縮しながら脱塩処理を行った後に脱糖処理を行い脱塩濃縮液卵白を得た。この脱塩濃縮液卵白5kgに10%クエン酸溶液をそれぞれ0、125、175gずつ添加した。これらのクエン酸を添加した脱塩濃縮液卵白を実施例1と同様にして、噴霧乾燥し各脱塩乾燥卵白(水分含量7%)を得た。これら得られた各乾燥卵白のpH、導電率及び二酸化炭素濃度を上述の実施形態に記載した方法でそれぞれ測定した。
【0077】
次に、これらの脱塩乾燥卵白1kgと二酸化炭素吸収剤(実施例1で用いたものと同じ)をアルミ袋(実施例1で用いたものと同じ)に充填密封した後、これらの包装体を75℃の恒温機に保存して75℃、2日間の乾熱処理を行い、各場合における乾熱処理後の乾燥卵白のpH、導電率及び二酸化炭素濃度を同様に測定した。更に、試験例1と同様の方法で各乾燥卵白を清水に溶解させた水溶液を加熱凝固して得た加熱凝固物の離水率を測定した。結果を表2に示す。
【0078】
【表2】

【0079】
表2に示すように、乾熱処理前のpHが9以上である乾燥卵白は、乾熱処理前のpHが9未満である乾燥卵白に比べて、二酸化炭素濃度が顕著に高く、二酸化炭素含有量が多いことが理解できる。更に、乾熱処理前のpHが9以上である乾燥卵白は、二酸化炭素を除去しながら乾熱処理することにより、二酸化炭素含有量が大幅に低下してpHが上昇するのに対し、乾熱処理前のpHが9未満である乾燥卵白は、二酸化炭素を除去しながら乾熱処理しても、二酸化炭素含有量があまり変わらずpHもほとんど変化しないことが理解できる。
【0080】
[試験例3]
本試験例においては、乾燥卵白の導電率を検討するために以下の試験を行った。
【0081】
実施例1と同様にUF膜を用いて濃縮しながら脱塩処理を行った後に脱糖処理を行い脱塩濃縮液卵白を得た。また、殻付卵を割卵分離して得られた液卵白にパン用酵母を液卵白に対して0.2%を添加し35℃で4時間脱糖処理を行い脱糖された液卵白を得た。これら脱塩濃縮液卵白と脱糖された液卵白を表3に示す割合で混合して、4種類の液卵白を得た。
【0082】
【表3】

【0083】
得られた4種類の液卵白を実施例1と同様にして、噴霧乾燥し各乾燥卵白(水分含量7%)を得た。これら得られた各乾燥卵白のpH、導電率及び二酸化炭素濃度を上述の実施形態に記載した方法でそれぞれ測定した。
【0084】
次に、これらの各乾燥卵白1kgと二酸化炭素吸収剤(実施例1で用いたものと同じ)をアルミ袋(実施例1で用いたものと同じ)に充填密封した後、これらの包装体を75℃の恒温機に保存して75℃、2日間の乾熱処理を行い、各場合における乾熱処理後の乾燥卵白のpH、導電率及び二酸化炭素濃度を同様に測定した。更に、試験例1と同様の方法で各乾燥卵白を清水に溶解させた水溶液を加熱凝固して得た加熱凝固物の離水率を測定した。結果を表4に示す。
【0085】
【表4】

【0086】
表4に示すように、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液の導電率が7mS/cm以下の改質乾燥卵白は、そうでない乾燥卵白に比べて、加熱凝固物の離水率が明らかに少なく、保水性に優れていることが理解できる。中でも、導電率が6mS/cm以下である改質乾燥卵白は、保水性がより優れていて好ましかった。
【0087】
[試験例4]
本試験例においては、乾熱処理時間を検討するために以下の試験を行った。
【0088】
実施例2と同様にしてUF膜を用いて濃縮しながら脱塩処理を行った後に脱糖処理を行い、更に、噴霧乾燥して脱塩乾燥卵白(pH9.8、導電率4.2mS/cm、水分含量7%)を得た。次に、この乾燥卵白を1kgずつ厚み60μmのポリエチレン袋に充填密封した後、75℃の恒温機に包装体の外表面の70%程度が加熱空気に接触した状態となるように静置保存して、定期的に恒温機内の加熱空気を換気しながらそれぞれ0、3、14、21日間の乾熱処理を行い、各場合における乾熱処理後の乾燥卵白のpH、導電率及び二酸化炭素濃度を同様に測定した。更に、試験例1と同様の方法で各乾燥卵白を清水に溶解させた水溶液を加熱凝固して得た加熱凝固物の離水率を測定した。結果を表5に示す。
【0089】
【表5】

【0090】
表5に示すように、乾熱処理時間が3日間、14日間、21日間と長くなるにつれて、より保水性が改質されることが理解できる。
【0091】
[試験例5](クリームコロッケ用冷凍食品の製造)
実施例2で得られた改質乾燥卵白を配合した冷凍クリームコロッケを以下のように製造した。すなわち、まず、撹拌装置付きのニーダーに牛乳78.5部、小麦粉10部、バター10部、改質乾燥卵白1部及び食塩0.5部を加えて撹拌しながら加熱してクリームコロッケの中種を得た。次に、得られたクリームコロッケの中種を25gずつ−40℃にて急速凍結した後、溶けないように注意しながらバッター液及びパン粉を表面に付け、再度、−40℃にて急速凍結しクリームコロッケ用冷凍食品を得た。得られたクリームコロッケ用冷凍食品を−20℃で1週間保管した後165℃で5分間油ちょうしてクリームコロッケを得た。また、比較として前記乾燥卵白を配合しない他は同様にして対照品のクリームコロッケを得た。
【0092】
得られたクリームコロッケを食したところ、実施例2の改質乾燥卵白を配合したクリームコロッケは、無添加の対照品のクリームコロッケに比べて、なめらかな冷凍前の食感が維持されていて好ましい食味であった。
【0093】
[試験例6](ハムの製造)
実施例2で得られた改質乾燥卵白を配合したハムを以下のように製造した。すなわち、まず、ミキサーに清水76.96部、改質乾燥卵白10部、食塩4部、デキストリン4部、上白糖3部、リン酸塩1部、発色剤0.04部、香辛料0.5部及びグルタミン酸ナトリウム0.5部を入れ、略均一となるように撹拌混合してピックル液を得た。次に、得られたピックル液60部及び豚挽肉100部を脱気ミキサーで充分に撹拌混合した後、折径60mmのナイロン製のケーシングに充填して70℃で40分間加熱してハムを得た。また、比較として前記乾燥卵白を配合しない他は同様にして対照品のハムを得た。
【0094】
得られたハムを一晩保存した後に食したところ、無添加の対照品のハムがややパサついた食感であったの対し、実施例2で得られた改質乾燥卵白を配合したハムはパサついておらず好ましい食味であった。
【0095】
[試験例7](中華麺の製造)
実施例2で得られた改質乾燥卵白を配合した中華麺を以下のように製造した。すなわち、まず、小麦粉(準強力粉)100部、食塩2部、かんすい1.5部、改質乾燥卵白2部及び清水35部を用意した。次に、麺用ミキサーに、小麦粉及び改質乾燥卵白を投入して充分に撹拌して粉体混合した後、更に撹拌しながら、食塩及びかんすいを清水に溶解した練り水をすこしずつ添加して均一になるまで充分に混捏して生地を得た。続いて、得られた生地を製麺機を用い、厚さ1mmに圧延した後、♯24角の切り刃により切り出して中華麺を得た。また、比較として前記乾燥卵白を配合しない他は同様にして対照品の中華麺を得た。
【0096】
これを90℃の湯で3分間茹でた後、65℃のスープに浸して更に5分間放置した後に食したところ、無添加の対照品の中華麺がやや茹で伸びしていたの対し、実施例2で得られた改質乾燥卵白を配合した中華麺は茹で伸びが防止されて好ましい食味であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHが9.5以上、その導電率が7mS/cm以下であり、かつ製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下である改質乾燥卵白。
【請求項2】
請求項1記載の改質乾燥卵白を含有する食品。
【請求項3】
液卵白を脱塩処理して脱塩液卵白を製する工程、乾燥後のpHが9以上となるように前記脱塩液卵白を乾燥処理して乾燥卵白を製する工程及び前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程を含む改質乾燥卵白の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程によって、該乾燥卵白のpHを上昇させる請求項3記載の改質乾燥卵白の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程が、該乾燥卵白を、該乾燥卵白から雰囲気中に放出される二酸化炭素を除去しながら、乾熱処理する工程である請求項3又は4記載の改質乾燥卵白の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程において、製品25gを250mL容量のバイアル瓶に密封して75℃で24時間保存した後の前記バイアル瓶内の二酸化炭素濃度が1%以下となるように乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる請求項3乃至5のいずれかに記載の改質乾燥卵白の製造方法。
【請求項7】
前記乾燥卵白中の二酸化炭素を散失させる工程において、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液のpHが9.5以上となるように乾燥卵白のpHを上昇させる請求項3乃至6のいずれかに記載の改質乾燥卵白の製造方法。
【請求項8】
液卵白を脱塩処理して脱塩液卵白を製する工程において、製品1部に対して7部の清水を加えて溶解した水溶液の導電率が7mS/cm以下となるように液卵白を脱塩処理する請求項3乃至7のいずれかに記載の改質乾燥卵白の製造方法。