説明

放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法

本発明は、簡単に官能基化されたグルコサミン等の糖から、中性で、低分子量の99mTcでラベル化された、及び186Reでラベル化された、高い放射化学的収率の炭水化物錯体の製造方法若しくは調製方法を提供する。具体的には、上記合成は、フェロセン化合物をレニウム若しくはテクネチウムのトリカルボニル錯体へと変換するシングル・リガンド・トランスファー(SLT)若しくはダブル・リガンド・トランスファー(DLT)反応を利用している。当該フェロセン化合物は、例えば、チオ、アミノ、及びアルコールの機能を含む各種機能性基を介して糖と繋がっており、水可溶性及び比較的水に不溶な化合物の両方を含む、幅広い範囲の、放射性同位体でラベル化された糖錯体を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は、放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法、並びに該方法により得られる放射性標識化物質に関するものである。
【0002】
〔背景技術〕
放射性同位体でラベル化された炭水化物は、2−18F−フルオロ−2−デオキシ−グルコース(FDG)のポジトロンCT(PET)における造影剤としての成功によって、核医学への応用に対する関心が増しつつある。FDGの成功は、ある部分、FDGがヘキソキナーゼの基質であり、グルコース代謝を受けるため、心臓の能力(cardiac viability)及び腫瘍の両方を画像化することができるという有用性に起因している。この成功は、FDGと同様の特性及び有用性を有する、単一光子放出グルコース類似体(single-photon emitting glucose analog)が、単光子放出コンピュータ断層撮影(SPECT)として使用することができるかどうかという疑問を引き起こした。18Fの比較的短い半減期(110分)のため、加速器を備えたごく近接した化学実験室内の施設や医療施設にその使用は限定されていた。その結果、18Fの使用は、医療への応用に幅広く利用するには実用的ではないFDG法として提供されていた。
【0003】
比較すると、99mTc(恐らくSPECT用途に最も利用されている同位体)は99Mo発生器からNa99mTcOとして製造され、幅広く入手することができ、比較的安価である。テクネチウムの第三周期遷移金属類似体であるレニウムは、テクネチウムと同様の化学的性質を有し、治療的核医学に応用可能な物理的性質を有する、粒子放射する放射性同位体を含んでいる。このような理由により、FDGの生体配分(biodistribution)並びにレニウム化合物類似体の治療的潜在能力を模倣する99mTc SPECTトレーサーは特に有用かもしれない。99mTcは画像化用途に幅広く利用されているが、トレーサーを調整することに関する解決すべき厄介な1つの問題として、この同位元素をキレート若しくは有機金属結合を介して分子に取り付けなければならず、これにより研究は困難を極めている。
【0004】
幅広く利用される、99mTcのような同位元素をベースとしたSPECT類似体により、これらの物質は医学界で広く利用できるようになるだろう。Tcと同じ列の元素の中で、同位体186/188Reもまた治療方針の発展において望みがある。治療的に有用な、βを放射する放射元素としては、半減期が12時間〜5日であることが好ましい。また、1MeVβ粒子の組織への浸透の深さは、およそ5mmである。さらには、β粒子の崩壊の一部は、100〜300keVガンマ光子の放射を伴い、この放射元素の振る舞いは、都合が良いことにガンマカメラを使用することにより追跡することができる。186/188Reの上記核特性は、これらの目的とよく合致している。
【0005】
これらのことについては相当な興味が持たれており、神経学、心臓学、並びに腫瘍学における造影剤及び/又は治療剤として使用することができる放射性金属(radiometal)、炭水化物誘導体の改良が必要とされている。特に、糖−フェロセニル若しくは糖−キレート誘導体を経由した99mTc、186/188Reでラベル化された糖の合成方法の確立について興味が持たれている。
【0006】
最近、SPECTによる脳及びその他の臓器の撮像に用いられる、99mTcでラベル化された、若しくは186/188Reでラベル化された有機医薬(例えば、ステロイド、トロパン、ペプチド等)の合成について幾つか報告がなされている。これらの中で最も成功した試みは、パーキンソン病の患者の撮像に有用な、ドーパミン再摂取抑制剤である、99mTc−TRODATを作り出したことである。この化合物は、運動性疾患を観察するためのPET造影剤として用いられる、18F及び11Cでラベル化されたトロパン類似体の研究の副産物である。幾つかの総合施設の研究者は、ドーパミン作用系を観察するためのトロパンPET造影剤の開発を数年に亘って取り組んできた。99mTc類似体を合成する上記業績を進展させることにより、上記研究をSPECTを用いる医学界において幅広く利用させることができる。驚くことに、比較的高分子量である、Tc−BAT(ビス(アミノエタンチオール))金属錯体(C12OTc)のトロパン誘導体への取り付けは、受容体の薬物に対する結合能力を無効化しない。
【0007】
〔発明の簡単な説明〕
本発明は、簡単に官能基化されたグルコサミンから、中性で、低分子量の99mTcでラベル化された、及び186Reでラベル化された、高い放射化学的収率の炭水化物錯体の製造方法若しくは調製方法を提供する。
【0008】
〔実施形態の詳細な説明〕
クロム−トリカルボニル部分がステロイドの芳香族環、若しくはシクロペンタジエニルクロムトリカルボニルのペンダント基として17α位に取り付けられている、β−エストラジオール誘導体のレニウムカルボニル錯体は、エストラジオール受容体に対する高い親和性を有することが示されている。99mTcでラベル化されている、5−HT1Aセロトニン脳受容体配位子の合成もまた、分子の中性二座配位子アミン配位子(N^N’)部位のキレート化により取り付けられるテクネチウム−トリカルボニル部位により成されている。
【0009】
99mTcの医薬以外の使用としては、以下に示すように、フェロセン化合物をレニウム若しくはテクネチウム−トリカルボニル錯体へ変換する、ダブル・リガンド・トランスファー(double ligand transfer(DLT))(合成I)若しくはシングル・リガンド・トランスファー(single ligand transfer(SLT))(合成II及び合成III)を実現するための手法を使用する、シクロペンタジエニルトリカルボニル−[99mTc]−トロパン結合によるラベル化がある。
【0010】
【化1】

放射能を有するRe及びTcの化学形態としては、ReO4−若しくはTcO4−のみが利用可能であるため、多くのレニウム及びテクネチウム放射性医薬品は、+5酸化状態の金属を有する無機錯体である。DLT及びSLT反応は、同位体の過レニウム酸塩及び過テクネチウム酸塩型から、(シクロペンタジエニル)トリカルボニルテクネチウム及び(シクロペンタジエニル)トリカルボニルレニウムの有機金属放射性医薬品を形成することの可能性を広げる。DLT反応は条件が厳しいため、以下(合成IV)に示すような間接的なアプローチを用いることにより、Tc若しくはReとの糖−Cp錯体の合成が達成されている。
【0011】
<間接的DLT>
【0012】
【化2】

【0013】
しかしながら、SLT反応を適用することにより、50〜70%の放射化学的収率で、以下に示すようなISOLINKボラノカルボネートキット(ISOLINK boranocarbonate kit)を用いることによりTcの糖−金属Cp誘導体を合成することが可能である。
【0014】
【化3】

【0015】
フェロセンは、そのシクロペンタジエニル環の1つ若しくは両方に、様々な各種機能を付与して合成することができる。その結果、フェロセニル−糖結合体(例えば、以下に示す12の結合を含む)を首尾よく調製することができる可能性がある。
【0016】
【化4】

【0017】
フェロセンは、糖上に存在しているチオ、アミノ、及び/又はアルコール機能性基(functionalities)を介して糖と結合している。上記糖は、有機可溶性フェロセン誘導体を生じる、完全に保護された状態であるか、水溶性結合体を生じる保護されてない状態である。
【0018】
〔金属キレートを介したTc及びRe−糖〕
シッフ塩基錯体ベースの多数の糖−金属キレートは、以前はサリチルアルデヒド若しくは3−アルデヒド−サリチル酸と、グルコサミン誘導体とから合成されていた。このような配位子を用いることにより、金属としてCu,Zn及びCoを用いた多数の錯体を形成することが可能であった。このような錯体の一般的な例を以下に示す(尚、Mは金属を表す)。
【0019】
【化5】

【0020】
近年の取り組みにより、二座及び三座配位子系で配位するfac-[99mTc/Re−(CO)部位の適用により、炭水化物を99mTc及びRe同位体によりラベル化することができることが実証されている。
【0021】
我々のアプローチは、グルコースに、その後行われる反応によって放射性同位体99mTc若しくは186/188Reと結合する、ペンダントキレート配位子を取り付けるものである。あるいは、金属キレートを機能させた後に、グルコースに取り付けることも可能である。FDGの特性を模倣するため、グルコース分子の特性におけるトレーサー基の効果は最小限度に抑えることが絶対に必要である。99mTcでラベル化された現存するグルコース誘導体は、イオンであるか、それとも比較的高い分子量(すなわち、2つのグルコール部位を有している)であるため、この基準は満たさない。多目的に使える低原子価のfac-{M(CO)}コア(M=99mTc若しくは186Re)は、これらの取り組みにより用いられていた。表面配位した(facially coordinated)カルボニル配位子は、Tc+1の酸化状態を安定化させるため、Tc及びReの他の中間の酸化状態を安定化することを要求する、複雑な(多くの場合、大環状の)多座構造は除外される。単一なN及びOドナーを有する中性の錯体の中で、fac-{M(CO)コアは、生物系で有利である中程度の親油性を有している。
【0022】
グルコサミン(2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース)は、アミンが潜在的な配位箇所として、並びに更なる機能化のための有効なターゲットとして作用するため、グルコシル配位子のための非常に魅力的な骨格である。更には、文献の中で、Nを機能化したグルコサミンは、GLUTs(グルコーストランスポーター)及びヘキソキナーゼ(機能性基が大きい場合であっても、FDGsの代謝と最も密接に結びついた酵素)は活性を示すことが示唆され、立証されている。
【0023】
全ての溶媒及び化学物質(Fisher,Aldrich)は、試薬グレードを用い、明記しないとき以外は更なる精製は行っていない。HL
【化6】

及び[NEt[Re(CO)Br]を、従来公知の手法に従って調製した。H及び13C NMRスペクトルは、Bruker AV−400により、400.132及び100.623MHzでそれぞれ記録した。調製した該化合物のケミカルシフトの帰属を下記表1に示す。
【0024】
<HL及び[(L)Re(CO)]のα−アノマーについてのH及び13C{H}NMRデータ(DMSO−d)(δ(ppm))>
【0025】
【表1】

【0026】
質量スペクトル(+イオン)は、MacromassLCT(エレクトロスプレーイオン化、ESI)を用い、希薄メタノール溶液により求めた。元素分析は、Carlo Erba分析機器を用い、ブリティッシュ・コロンビア大学化学科で行われた。HPLC分液は、K-2501 absorption detector、Kapintek radiometric well counter、Synergi 4μm C-18 Hydro-RP analytical column(寸法:250´4.6mm)を備えた、Knauer Wellchrom K-1001 HPLCにより行った。HPLCの溶媒は、0.1%トリフルオロ酢酸水溶液(溶媒A)及びアセトニトリル(溶媒B)からなる。サンプルは、リニアグラジエント法(30分間で100%溶媒Aから100%溶媒B)により分析を行った。このHPLC分析の結果は図1に示す。
【0027】
〔N−(2’−ヒドロキシベンジル)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース(HL)の合成〕
N−(2’−ヒドロキシベンジル)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース(HL)は、次のようにして合成した。HL(1.00g、3.53mmol)をメタノール(60mL)に溶解させ、10%Pd/C w/w(50mg)を該溶液に加え、反応混合物を作製した。この反応混合物を、加圧H雰囲気下(50bar)で24時間攪拌を行い、その後、濾過で清澄化させ、溶媒をエバポレートさせることにより、以下に示すHL(0.98g、98%)を得た。C1319NO・HOの計算値は、C, 51.48; H, 6.98; N, 4.62であり、分析値はC, 51.50; H, 6.81; N, 4.60であり、計算値とよく合致していた。
【0028】
【化7】

【0029】
〔トリカルボニル(N−(2’−ヒドロキシベンジル)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース)レニウム(I)(ReL(CO))の合成〕
以下に示す、トリカルボニル(N−(2’−ヒドロキシベンジル)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース)レニウム(I)(ReL(CO))は、[NEt[Re(CO)Br](200mg、0.26mmol)、HL(74mg、0.26mmol)及び酢酸ナトリウム三水和物(40mg、0.32mmol)を水(7mL)に溶解させ、攪拌下で2時間かけて50℃に加熱した。溶媒を減圧下で除去し、残留物をCHCl(10mL)に30分かけて溶解させた。静置させた状態でのデカンテーションにより、茶色の残留物を回収した。この残留物をカラムクロマトグラフィー(シリカ、5:1CHCl:CHOH)により精製し、灰色がかった白色粉末(58mg、0.10mmol、40%)を得た。以下に分析結果を示す。
【0030】
ESI-MS: 556, 554 ([M + H]+), 578, 576 ([M + Na]+)
1618NORe・HOの計算値は、C, 33.57; H, 3.52; N, 2.45であり、分析値はC, 33.55; H, 3.53; N, 2.75であり、計算値とよく合致している。
【0031】
【化8】

【0032】
〔放射性同位体でのラベル化〕
99mTc(CO)(HO)を、「Isolink」ボラノカルボネートキット("Isolink" boranocarbonate kit)(Mallinckrodt Inc.)を用いて、Na[99mTcO](1mL、100MBq)の生理食塩水溶液から調製した。レニウムは、より高い化学的不活性及びより低い酸化還元電位を有するため、[186Re(CO)(HO)はテクネチウムで用いたキットによる調製法は利用できなかった。[186Re(CO)(HO)は、Na[186ReO](0.5mL、100MBq)の生理食塩水溶液に、85%HPO4.5μLを加えた後、この溶液を、COで10分間フラッシング(flushed)したボラン・アンモニア錯体3mgに加えることにより調製した。この混合物を60℃で15分間加熱し、室温まで冷却した。ラベル化は、上記最終的に得られた溶液(0.5mL)と1mMHLのPBS溶液(pH7.4、1mL)とを混合し、75℃で30分間定温放置することにより行われた。
【0033】
〔安定性評価〕
[(L99mTc(CO)(HO)](100μL、10MBq、HL中1mM)を、1mMヒスチジン若しくは1mMシステインのPBS溶液900μLに加えた。この溶液を37℃で定温放置させ、1,4,24時間後にそれぞれサンプリングを行い、HPLC分析を行った。ヒスチジンのラベル化は、[99mTc(CO)(HO)を含む溶液を1mMヒスチジンPBS溶液(pH7.4、1mL)を加え、75℃で30分間定温放置することにより行った。HPLC分析により、放射性同位体で単一にラベル化された(single radiolabeled)生成物が形成していることが確認された。
【0034】
グルコサミンとサリチルアルデヒドとを縮合させることにより形成するシッフ塩基は、99mTc(V)を含む遷移金属の配位子として従来より研究されている。[M(CO)(HO)(Mは、99mTc若しくは186Re)の「放射性同位体でラベル化されていない(cold)」代用物として、出発物質[NEt[Re(CO)Br]を用いて、我々は、[(L)Re(CO)]錯体(ESIMS(+)により観測)を合成した。しかしながら、イミンと該錯体とは、加水分解に対して不安定であり、水性での放射性同位体のラベル化には不適当であることがわかった。このような加水分解の問題を避けるため、我々は、HLを、より加水分解に対して強固な、アミンフェノールHL(N−(2’−ヒドロキシベンジル)−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコース、スキーム1)に還元した。HLの触媒的水素化により、HLが、その後の放射性同位体でのラベル化の研究に用いることができる純度で、98%の収率で得られた。水中での、HLの[NEt[Re(CO)Br]及びNaOAcとの反応により、[(L)Re(CO)]が、カラムクロマトグラフィーによる精製後で40%の収率で得られた。分子イオンは、ESIMSにより[((L)Re(CO))+H]として確認された。そして、バルクサンプルでの構造は、元素分析で確認した。H NMRスペクトル(CDOD)で観測されるアノマー比(α/β)は、1.9(HL)から、1.1(錯体)へ変化を示した。これは、錯体形成により、2つのアノマー間の熱力学的安定性の差が減少したことを示唆している。
【0035】
溶解性の理由で、完全なNMRによる研究は、DMSO−d溶液(表1に反映)中で行った。錯体のH NMRスペクトル(DMSO−d)は、高度に入り組んでいるが、HLと比較した場合における芳香族共鳴のシフト化及びブロード化は、フェノールの「腕」が、要望どおり、{Re(CO)}部位の結合と関連していることを示している。各アノマーにおけるメチンプロトンシグナルの2つのダブレットへの分裂は、メチンプロトンが錯体の構造において非等価であることを示唆している。配位子においてN及びOのドナー原子は、環中のメチン部分に組み込まれており、2つのプロトンをジアステレオトピック化学の環境下で強固に保持している。糖C1プロトン由来のシグナルは、両アノマーにおけるHLとの比較において、低磁場シフトしていた。糖C2プロトン由来のシグナルも、明確に分離しており、両アノマーにおけるHLとの比較において、僅かに低磁場シフトしていた。また、スペクトル中の小さい無関係なピークにより、少なくとも1つの他のマイナーな種が存在していることも示唆される。
【0036】
一夜、CDOD若しくはDMSO−d溶液中での状態を保持させた場合、錯体のサンプルは、目に見えるように茶色となり、ピークの比較強度は増加した。これらの現象は、分解生成物により生じていることが示唆される。上記シグナルは、錯形成していないHLの化学シフトとは関連していない。マイナーな種は、錯体のHPLCにおけるUV/可視分光法によっても検出され、時間と共に、より大きくなる。錯体の13C{H}NMRスペクトル(d−DMSO)では、α−アノマーについては完全に帰属され、β−アノマーについては部分的に帰属することができた(上記表1中に反映)。
【0037】
Reカルボニルは、対称性の欠如により予期されるように、3つの鋭い共鳴を196ppm〜198ppmに示した。両アノマーにおいて、フェノールCO及びCHリンカー由来のピークは、HLのこれら値と比べて、大きく低磁場にシフトしていた。このことから、ReはフェノールのOとグルコサミンのNの両方と結合していることが明確に示唆される。
【0038】
両アノマーのC1及びC2シグナルは、錯体形成により高磁場シフトしており、ヘキソース骨格における幾つかの僅かな構造変化が反映されていると推定される。これにより、α−アノマーの不安定化を生じさせ、HLと比較したアノマー比の変化を生じさせる。α−アノマーにおけるC3シグナルは7.4ppm低磁場シフトしており、C3グルコサミン水酸基は、予測される溶媒分子の環境中でのRe中心と結合していることが示唆される。不運なことに、β−アノマーのC3は、DMSO溶液中での該アノマーの濃度が低いため、帰属することができなかった。
【0039】
DMSOは水若しくはメタノールよりも極性が低いため、通常、好ましくない、β−アノマーにおいて存在する双極子モーメントを安定化させることができない。C1の立体化学が、C3水酸基のReに配位する傾向に依存した幾何学上の複数の結果を生じることは想像できないため、両アノマーは、同様の三座の方法によりReと結合していると予測される。HPLCにより測定した、HLの[99mTc(CO)(HO)及び[186Re(CO)(HO)によるラベル化は、それぞれ95±2%及び94±3%平均放射化学的収率で行われた(図1参照)。放射性同位体でラベル化された錯体の同一性は、放射性同位体でラベル化された生成物を、信頼のおける「放射性同位体でラベル化されていない(cold)」Re錯体(t=17.9分)と共に注入することにより、[(L99mTc(CO)](t=17.9分)及び[(L186Re(CO)](t=18.2分)として確認された。
【0040】
そして、99mTc錯体の見込まれる生体内での安定性の予備的な評価として、システイン/ヒスチジンによる挑戦的実験を実施した。典型的な試験として、放射性同位体でラベル化された錯体を、1mMシステイン若しくは1mMヒスチジンのどちらか一方を含む、水性のリン酸緩衝溶液(pH7.4)中、37℃で定温放置させ、1、4及び24時間後にそれぞれサンプリングした(以下の表3〜7に反映)。HPLC分析により、短期間ではあるが、上記錯体はシステイン若しくはヒスチジン溶液中で安定であることが示された(4時間では、30%未満の上記錯体は変化なく残存していた)。ヒスチジンを用いた挑戦的実験の主要な分解生成物として、ヒスチジンでラベル化された[99mTc(CO)(HO)が確認された。
【0041】
<1mMシステイン若しくはヒスチジン中での、37℃、1、4及び24時間後における[(L99mTc(CO)]の残存率(%)>
【0042】
【表2】

【0043】
上記錯体の不安定性は、ドナー原子(特に第二級アミノ基及び炭水化物の水酸基)の比較的弱い結合能力によるかもしれない。錯体の安定性を高める変更について考えると、思いがけない上記三座結合により、我々は、三座配位子、及びソフトな{M(CO)}中心との高い親和性を有する結合基を含む三座配位子について意図的に研究することを教えられた。
【0044】
上記不安定性の問題を解決するために、グルコサミン−ジピコリルアミン結合体を以下に示すように開発した。
【0045】
【化9】

【0046】
このジピコリルアミン誘導体は、以下に示すように99mTc及び186Reの両方と安定な錯体を形成した。
【0047】
【化10】

【0048】
これら化合物は、システイン/ヒスチジンによる挑戦的実験を24時間行った場合であっても、ほとんど変化を示さず、これら錯体の安定性が高いことを示唆している。異なる長さのスペーサー鎖(arms)を有する他の三座炭水化物配位子もまた下記に示すように開発した。
【0049】
〔リンカーの合成〕
【0050】
【化11】

反応条件:(i)ベンズアルデヒド,NaBH(OAc),DCE若しくはFmoc−Cl,NaHCO,ジオキサン若しくはBocO,EtN,DCM;(ii)SO−ピリジン錯体,EtN,DMSO,若しくはデス−マーチン・ペルヨージナン(Dess-Martin periodinane),DCM
【0051】
【化12】

反応条件:ベンズアルデヒド,NaBH(OAc),DCE若しくはFmoc−Cl,NaHCO,ジオキサン若しくはBocO,EtN,DCM
【0052】
〔糖前駆体の合成〕
【化13】

反応条件:(i)3a/3b/3c,NaBH(OAc),MeOH;(ii)H,Pd(OH),EtOH若しくはTFA,DCM若しくはピペリジン,DMF;(iii)5a/5b/5c,DCC,HOBT,DMF
【0053】
〔配位子の合成〕
【化14】

反応条件:(i)2−ピリジンカルボキサルデヒド/1−ベンジル−2−イミダゾールカルボキサルデヒド/1−メチル−2−イミダゾール−カルボキサルデヒド/イミダゾールカルボキサルデヒド/サリチルアルデヒド/17/18/19/20,NaBH(OAc),MeOH;(ii)2−ピリジン−カルボキサルデヒド/1−ベンジル−2−イミダゾールカルボキサルデヒド/1−メチル−2−イミダゾール−カルボキサルデヒド/イミダゾール−2−カルボキサルデヒド/サリチルアルデヒド/17/18/19/20/3b−1,NaBH(OAc),MeOH若しくはBrCHCOEt,NaCO,CHCN;(iii)a.KOH,HO;b.ピペリジン,DMF(3b−1誘導体)
【0054】
【化15】

【0055】
【表3】

【表4】

【表5】

【表6】

【表7】

原料:全ての溶剤及び試薬は、一般に認められているものを使用した。1(n=1〜5,7及び8)、2b(n=1,2及び5)、2c(n=1〜5)、4(n=0〜7,9及び10)、5b/5c(n=2〜7及び10)の化合物は、市販されている(Acros,Aldrich,TCI,Fluka)。化合物2a、2b、2c、3a、3b、3cは、文献(White, J.D.;Hansen, J. D, J.Org.Chem., 2005, 70, 1963-1977)に従って、5aは、文献(Breitenmoser, R.A.; Heimgartner, H., Helv.Chim. Acta 2001, 84, 786-796)に従って、調整した。尚、上記文献の内容は、そっくりそのまま本願明細書に組み込まれる。上記既知化合物6(Silva, 1999)、17(Lim, 2005)、18及び20(Chang, C. J. et al., Inorg. Chem. (2004), 43, 6774-6779及びChang, C. J., Jaworski, J. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. (2004)101, 1129-1134)、並びに19(Nolan, E. et al., J. Inorg. Chem.(2004), 43, 2624-2635)は、対応する各文献の記載に従って調整した。当然ではあるが、当業者であれば、これら化合物及びこれらに関係する化合物を実現するための、付加的な合成及び/又は調整技術を構築することができるであろう。
【0056】
〔実験〕
〔2aの調製の基本手順〕
エタノールアミンの1,2−ジクロロエタン溶液に、ベンズアルデヒドを加え、窒素下、周囲温度で攪拌する。そして、トリアセトキシボロハイドライドナトリウムを加え、上記反応物を一定期間更に攪拌させる。上記反応物を、NaCO水溶液を加えることによりクエンチし、分離し、その後、CHClにより水相から反応物を抽出する。混ぜ合わせた有機抽出物を食塩水で洗い、MgSOで乾燥させる。得られた溶液をロータリーエバポレーターで乾燥させ、カラムクロマトグラフィーにより2aを分離する。
【0057】
〔2bの調製の基本手順〕
エタノールアミン及びNaHCOを含む1,4−ジオキサン溶液に、Fmoc−Clを加え、窒素下、周囲温度で攪拌する。上記反応物を一定期間攪拌させ、生じた固体を濾過し、濾液をロータリーエバポレーターにより濃縮し乾燥させ、カラムクロマトグラフィーにより2bを分離する。
【0058】
〔2cの調製の基本手順〕
エタノールアミン及びEtNを含むCHCl溶液に、BocOを加え、窒素下、周囲温度で攪拌する。上記反応物を一定期間攪拌させ、ロータリーエバポレーターにより乾燥させる。得られたオイルを、CHClにより移し取り、NaCO水溶液、食塩水で洗浄し、MgSOで乾燥させる。溶媒を減圧下で除去し、カラムクロマトグラフィーにより2cを分離する。
【0059】
〔7の調製の基本手順〕
純度を高めた、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−グルコサミン6(6・HClをNaCO水溶液に溶解させ、CHClで抽出し、エバポレーターで乾燥させることにより調整)に、新しく調製した3aを加える。得られた溶液を窒素下、周囲温度で攪拌させた後、NaBH(OAc)を加える。上記反応溶液をNaCO水溶液を加えることによりクエンチし、得られた混合物を分離する。更には、CHClにより水相から反応物を抽出する。混ぜ合わせた有機抽出物を食塩水で洗い、MgSOで乾燥させる。得られた溶液をロータリーエバポレーターで乾燥させ、カラムクロマトグラフィーにより7aを単離する。
【0060】
〔9の調製の基本手順〕
Ar下、冷却した、5aのCHCl溶液に、DCC、HOBTのDMF溶液をこの順で加える。一定期間定温を保持した後、純度を高めた、1,3,4,6−テトラ−O−アセチル−2−デオキシ−グルコサミン6を加える。その後、反応物を室温まで暖め、更に一定期間攪拌させる。固体状の副生成物は濾過により除去し、濾液を減圧下で濃縮し、カラムクロマトグラフィーにより9aを分離する。
【0061】
〔7a/9aからの8/10の調製の基本手順〕
7aのメタノール溶液に、Pd(OH)を加える。Hによる還元を1atmで行う。反応混合物を、メタノールにより洗浄した、セライトの詰め物により濾過し、溶媒をロータリーエバポレートし、8が得られる。
【0062】
〔7b/9bからの8/10の調製の基本手順〕
7bをCHClに溶解し、TFAを加える。得られた溶液を、窒素下、周囲温度で一定期間攪拌する。得られた溶液をロータリーエバポレーターにより乾燥させ、得られた残渣をCHClで移し取り、NaHCO水溶液、食塩水で洗浄し、MgSOで乾燥させる。溶媒のエバポレートの後、カラムクロマトグラフィーにより8を単離する。
【0063】
〔7c/9cからの8/10の調製の基本手順〕
7cをDMFに溶解し、ピペリジンを加える。得られた溶液を、窒素下、周囲温度で短期間攪拌し、ロータリーエバポレーターにより乾燥させる。そして、カラムクロマトグラフィーにより8を単離する。
【0064】
〔8/10からの11/12の調製の基本手順〕
8aの1,2−ジクロロエタン溶液に、2−ピリジンカルボキサルデヒドを加える。得られた溶液を、窒素下、周囲温度で短期間攪拌し、その後、NaBH(OAc)を加える。反応物をNaCO水溶液でクエンチし、CHClにより抽出し、混ぜ合わせた抽出物を食塩水で洗い、MgSOで乾燥させる。得られた溶液をロータリーエバポレーターで乾燥させ、カラムクロマトグラフィーにより11aの粗生成物を分離する。
【0065】
〔11/12からの13/14の調製の基本手順〕
11aの1,2−ジクロロメタン溶液にサリチルアルデヒドを加える。得られた溶液を、窒素下、周囲温度で短期間攪拌し、その後、NaBH(OAc)を加える。反応物をNaCO水溶液でクエンチし、CHClにより抽出し、混ぜ合わせた抽出物を食塩水で洗い、MgSOで乾燥させる。得られた溶液をロータリーエバポレーターで乾燥させ、カラムクロマトグラフィーにより13eの粗生成物を分離する。
【0066】
〔13/14からの15/16の調製の基本手順〕
13eのメタノール溶液に、1M KOHを加える。得られた溶液を、窒素下、周囲温度で一定期間攪拌する。反応混合物を1M HClで中和し、減圧下で乾燥させる。得られた残渣を水で移し取り、REXYN(H)をパスさせる。溶媒をエバポレートすることにより、15eが得られる。
【0067】
要約すれば、中性で、低分子量の99mTcでラベル化された、及び186Reでラベル化された炭水化物錯体は、簡単に官能基化されたグルコサミンから、高い放射化学的収率で得られる。HLは、62/64Cu及び67/68Gaの配位子として試験中であり、99mTc及び186/188Reの、炭水化物を含む他の配位子は研究中である。
【0068】
多くの参考文献では、以前より主張されている暫定的な利用について特定している。現在の開示内容では、合成に関する知識の観点から、このような化合物を合成する分野における当業者によって左右される、分離及びキャラクタリゼーションの方法は、当業者が本発明を実施する上で十分であると信じるが、上記各文献の内容は、そっくりそのまま本願明細書に組み込まれる。思っているほど進歩していない通常の技量のレベルの範囲で、今後、本願発明を実施する上で必要不可欠と考えられるかもしれない上記文献中に開示された物質等は、新規物質を採用することなく、上述した本願での利用に組み込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】代表的生成物の分析は、0.1%トリフルオロ酢酸水溶液(溶媒A)及びアセトニトリル(溶媒B)からなる溶媒を用いHPLCにより実施した。サンプルは、リニアグラジエント法(30分かけて100%溶媒Aから100%溶媒B)により分析を行った。HPLC分析の結果を図1に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖前駆体を合成する工程と、
キレート配位子を合成する工程と、
上記糖前駆体とキレート配位子とを反応させ、糖−金属錯体を形成する工程と、
上記糖−金属錯体を放射性同位体によりラベル化させ、放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体を得る工程とを含む、放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法。
【請求項2】
上記放射性同位体が99mTc若しくはRe同位体からなる群より選択される、請求項1に記載の放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法。
【請求項3】
上記糖−金属錯体が二座若しくは三座配位子系を含む、請求項1に記載の放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法。
【請求項4】
上記キレート配位子が鉄(Fe)を含む、請求項1に記載の放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法。
【請求項5】
上記キレート配位子がフェロセンである、請求項1に記載の放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法。
【請求項6】
放射性同位体でラベル化された上記糖−金属錯体が水溶性である、請求項1に記載の放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法。
【請求項7】
放射性同位体でラベル化された上記糖−金属錯体が水不溶性である、請求項1に記載の放射性同位体でラベル化された糖−金属錯体の合成方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−512360(P2008−512360A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−529307(P2007−529307)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【国際出願番号】PCT/CA2005/001361
【国際公開番号】WO2006/026855
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(506315697)トライアンフ,オペレーティング アズ ア ジョイント ヴェンチャー バイ ザ ガバナーズ オブ ザ ユニバーシティ オブ アルバータ,ザ ユニバーシティ オブ ブリティッシュ コロンビア,カールトン  (8)
【Fターム(参考)】