説明

放射性塩素の分離方法及び放射性塩素の測定方法

【課題】放射性廃棄物から放射性塩素のみを効率良く分離し、測定する新規な方法を提供する。
【解決手段】放射性廃棄物と硝酸銀とを混合して塩化銀を生成し、次いで、この塩化銀を溶解するとともに還元処理を施す。その後、得られた溶液をろ過することによりアンチモンを分離し、放射性塩素を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性廃棄物から放射性塩素を分離し、さらには測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
種々の放射性廃棄物の安全な廃棄方法を検討するためには、それら廃棄物に含有される核種の同定、定量が必要となる。それら核種のうち、放射性塩素(以下、“Cl-36”という場合がある)は半減期が30万年と長く、水への溶解性も高いため、被ばくに関わる重要な核種のひとつであり、廃棄方法検討のためには廃棄物に含有されるCl-36の同定、定量が必要である。
【0003】
一方で、これら放射性廃棄物にはCl-36以外の多種多様な核種が含有されており、β核種であるCl-36を測定する場合、夾雑核種による影響でCl-36のβ線スペクトルが得られない。このことから、Cl-36を精度よく分析するためには、その他の核種と分離する手法が必要である。
【0004】
従来、陽イオン交換により陽イオン核種を除去した溶液に硝酸銀溶液を添加することで、塩化銀沈殿を生成させ、回収した沈殿についてCl-36分析を実施してきた(特許文献1)。しかしながら、このような従来の手法では、Cl-36以外の核種、特に放射性アンチモンが塩化銀沈殿に残留する傾向があり、精度よくCl-36を測定することが困難であった。
【特許文献1】特開2002−131482号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、放射性廃棄物から放射性塩素のみを効率良く分離し、測定する新規な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべく、本発明の一態様は、少なくとも放射性アンチモン及び放射性塩素を含む放射性廃棄物から放射性塩素を分離する方法であって、前記放射性廃棄物と硝酸銀とを混合して塩化銀を生成するステップと、前記塩化銀を溶解するとともに還元処理を施すステップと、得られた溶液をろ過することによりアンチモンを分離し、前記放射性塩素を得るステップと、を具えることを特徴とする、放射性塩素の分離方法に関する。
【0007】
また、本発明の一態様は、少なくとも放射性アンチモン及び放射性塩素を含む放射性廃棄物から放射性塩素を分離して測定する方法であって、前記放射性廃棄物と硝酸銀とを混合して塩化銀を生成するステップと、前記塩化銀を溶解するとともに還元処理を施すステップと、得られた溶液をろ過することによりアンチモンを分離し、前記放射性塩素を得るステップと、前記放射性塩素から発せられる放射線を計測するステップと、を具えることを特徴とする、放射性塩素の測定方法に関する。
【0008】
本発明では、放射性廃液等の放射性廃棄物に硝酸銀を投入し、塩化銀(廃液の場合は塩化銀沈澱物)を生成し、前記塩化銀(沈殿物)を例えば以下に示すようなアンモニア溶液で溶解し、さらに例えば以下に示すようなヒドラジンなどの還元剤で還元処理を施すようにしている。したがって、得られた溶液中にはアンチモンが分離して存在するようになるので、前記溶液をろ過することによってアンチモンを除去し、放射性塩素のみを分離することができるようになる。
【0009】
結果として、前記放射性塩素から発せられる放射線を計測することによって、前記放射性塩素の計測を行うことができる。
【0010】
なお、本発明の一例においては、前記放射性廃棄物中に、前記放射性廃棄物の内部に含まれる、前記放射性アンチモンを除く放射性陽イオン核種と同元素の非放射性キャリアを添加するとともに、陽イオン交換樹脂中を通過させて、前記放射性廃棄物から前記放射性陽イオン核種を分離するステップを設ける。これによって、前記放射性廃棄物中に含まれる余分な放射性陽イオン核種を分離除去することができ、後の放射性アンチモンの分離除去をより効率的に行うことができる。
【0011】
また、放射性アンチモンはベータ崩壊して娘核種である放射性テルル(Te)に変換するようになるので、上記キャリアとしてテルルを用いることにより、上記娘核種を効果的に除去することができ、上記同様に後の放射性アンチモンの分離除去をより効率的に行うことができる。
【発明の効果】
【0012】
以上説明したように、本発明によれば、放射性廃棄物から放射性塩素のみを効率良く分離し、測定する新規な方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について説明する。
【0014】
(放射性塩素の分離方法)
最初に、本発明の放射性塩素の分離方法について説明する。図1は、前記分離方法を実施するための装置の概略構成を示す図である。
【0015】
図1に示す分離装置10は、放射性廃棄物(廃液)を貯留するための第1のタンク11と、タンク11内に貯留された放射性廃棄物を移送するポンプ12と、イオン交換樹脂が充填されたイオン交換樹脂脱塩装置13と、ろ過装置としての中空糸膜フィルタ14と、このフィルタ14によってろ過されたろ液を貯留するための第2のタンク15とを具えている。
【0016】
最初に、第1のタンク11内に、例えば原子炉プラントから生じた放射性廃液(廃棄物)を貯留する。この際、第1のタンク11内に必要に応じてキャリアを添加する。このキャリアは、放射性アンチモン(Sb)を分離する前に、前記放射性廃液中に含まれる放射性陽イオン核種を予め除去するためのものであり、除去しようとする放射性陽イオン核種と同元素の非放射性キャリアを添加する。
【0017】
例えば、上記放射性廃棄物中には、放射性コバルト(Co)、放射性セシウム(Cs)、放射性ニッケル(Ni)及び放射性ストロンチウム(Sr)等が含まれる場合が多いので、上記キャリアとしては、非放射性のコバルト、セシウム、ニッケル、ストロンチウム等を用いる。
【0018】
また、上記放射性廃棄物中に含まれるアンチモンはベータ崩壊して娘核種であるテルル(Te)に転換する。この場合は、上記非放射性のキャリアとしてテルルを添加し、娘核種である放射性テルルを予め除去する。
【0019】
なお、上記放射性陽イオン核種の除去は、上述のようにして非放射性のキャリアを上記放射性廃液中に添加した後、ポンプ12によってイオン交換樹脂脱塩装置13に移送し、かかる装置13内におけるイオン交換を利用して除去する。
【0020】
このようなイオン交換を利用した放射性陽イオン核種の除去は、本発明の必須の要件ではない。しかしながら、かかる除去操作を実施することによって、以下に示す操作に基づいて、目的とする放射性塩素のみを効率良く分離することができる。
【0021】
なお、イオン交換樹脂脱塩装置13内には、粒子状のイオン交換樹脂が充填されているような構成でも良いし、多数のイオン交換樹脂膜が配列されたような構成でも良い。
【0022】
次いで、イオン交換によって上記放射性コバルトあるいは娘核種である放射性テルル等が除去された後の廃液は、中空糸膜フィルタ14を通過させることによって夾雑物質を除去し、第2のタンク15内に貯留される。
【0023】
その後、第2のタンク15内に硝酸銀溶液を投入し、塩化銀の沈殿物を得る。次いで、第2のタンク15内に、例えば所定濃度に調整されたアンモニア水を投入して前記沈殿物を溶解した後、所定の還元剤を投入して前記沈殿物中に含まれていた放射性アンチモン(イオン)を還元する。
【0024】
なお、上記還元剤としては、ヒドラジン、アスコルビン酸、二酸化硫黄及び亜硝酸からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらの還元剤を用いることにより、上記放射性アンチモンの還元を簡易かつ効率的に行うことができる。
【0025】
その後、第2のタンク15内の廃液を図示しないフィルタを用いてろ過し、アンチモンのみを除去して、放射性塩素(Cl-36)を含む溶液を得る。なお、上述した工程のフローチャートを図2に示した。この際、破線で示した箇所は、上述した説明からも明らかなように、本発明の必須の構成要素ではない。
【0026】
(放射性塩素の測定方法)
放射性塩素の測定も、基本的には、上述した放射性塩素を分離した後、前記放射性塩素を含むろ液から発せられる放射線を計測することによって実施することができる。但し、ろ液の全体から発せられる放射線は、単位面積当たりで換算した場合に微弱であることから、前記放射性塩素を高精度に計測することは困難である。
【0027】
したがって、好ましくは、前記ろ液中に硝酸銀溶液を入れて再度塩化銀の沈殿物を得、この沈殿物を回収した後、前記沈殿物から発せられる放射線を計測する。これによって比較的高強度の放射線を計測することができ、前記放射性塩素を高精度に計測することができる。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
放射性コバルト(Co-60)、及び放射性アンチモン(Sb-125)を含有する溶液中に微量に含有される放射性塩素(Cl-36)の分離及び測定を実施した。なお、放射性塩素(Cl-36)の分離及び測定に関しては、図1に示すような装置を用いて実施した。
【0029】
最初に、試験溶液10gを図1に示すような第1のタンク11内に入れ、コバルト及びアンチモンのキャリアを1mg添加し、イオン交換樹脂に通液することで放射性コバルトを除去した。その後、上記試験溶液をフィルタリングした後、図1に示すような第2のタンク15に入れ、硝酸銀溶液を投入し、塩化銀沈殿物を得た。
【0030】
この塩化銀沈殿物を低バックグラウンドβ線測定器で放射線計測したところ、図3に示すようなβ線スペクトルが確認された。図4に示した放射性塩素のスペクトルとの比較から、前記塩化銀沈澱物には放射性アンチモンが残留していることが確認できた。
【0031】
次いで、前記塩化沈殿物中に、アンモニア水(28%NH3aq)を10ml入れて前記塩化銀沈澱物を溶解し、ヒドラジン(0.98%NH2NH2溶液)を5ml添加することによよって、前記試験溶液中に存在する放射性アンチモン(イオン)を還元した。その後、前記試験溶液をろ過することによってアンチモンを除去し、放射性塩素のみを含むろ液を得た。
【0032】
次いで、前記ろ液中に硝酸銀溶液を投入し、塩化銀沈殿を再度生成、回収し、低バックグラウンドβ線測定器で放射線計測したところ、図5に示した放射性塩素のスペクトルが得られ、アンチモンが除去されていることを確認した。
【0033】
(実施例2)
中性子照射したジルコニウム合金をフッ硝酸により溶解して試験溶液を作製し、この試験溶液中の放射性塩素の分離及び測定を実施した。
【0034】
最初に、上記試験溶液10gに対してコバルト及びセシウムのキャリアをそれぞれ1mg添加し、その後、陽イオン交換樹脂(ダウエックス 50WX8)に通液し、硝酸銀溶液を投入し、塩化銀沈殿物を得た。この時のγ線スペクトル(測定時間:3000sec)を図6に示す。図6に示すように、この段階では前記塩化銀沈殿物中に放射性アンチモンが残存しているのが分かる。
【0035】
次いで、アンモニア水(28%NH3aq)を10ml入れて前記塩化銀沈澱物を溶解し、ヒドラジン(0.98%NH2NH2溶液)を5ml添加することによって、前記試験溶液中に存在する放射性アンチモン(イオン)を還元した。その後、前記試験溶液をろ過することによってアンチモンを除去し、放射性塩素のみを含むろ液を得た。
【0036】
次いで、前記ろ液中に硝酸銀溶液を投入し、塩化銀沈殿を再度生成、回収し、γ線測定器で放射線計測したところ、図7に示した放射性塩素のスペクトルが得られ、アンチモンが除去されていることを確認した。
【0037】
以上、本発明を上記具体例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいて、あらゆる変形や変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の放射性塩素の分離方法を実施するための分離装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】本発明の放射性塩素の分離方法の工程を示すフローチャートである。
【図3】実施例における塩化銀沈殿物のβ線スペクトルを示すグラフである。
【図4】放射性塩素のβスペクトルを示すグラフである。
【図5】実施例における放射性塩素のβ線スペクトルを示すグラフである。
【図6】実施例における塩化銀沈殿物のγ線スペクトルを示すグラフである。
【図7】実施例における放射性塩素のβ線スペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0039】
10 放射性塩素の分離装置
11 第1のタンク
12 ポンプ
13 イオン交換樹脂脱塩装置
14 中空糸膜フィルタ
15 第2のタンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも放射性アンチモン及び放射性塩素を含む放射性廃棄物から放射性塩素を分離する方法であって、
前記放射性廃棄物と硝酸銀とを混合して塩化銀を生成するステップと、
前記塩化銀を溶解するとともに還元処理を施すステップと、
得られた溶液をろ過することによりアンチモンを分離し、前記放射性塩素を得るステップと、
を具えることを特徴とする、放射性塩素の分離方法。
【請求項2】
前記塩化銀の溶解は、アンモニア溶液を用いて行うことを特徴とする、請求項1に記載の放射性塩素の分離方法。
【請求項3】
前記還元処理は、ヒドラジン、アスコルビン酸、二酸化硫黄及び亜硝酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の還元剤を用いて実施することを特徴とする、請求項1又2に記載の放射性塩素の分離方法。
【請求項4】
前記放射性廃棄物中に、前記放射性廃棄物の内部に含まれる放射性陽イオン核種と同元素の非放射性キャリアを添加するとともに、陽イオン交換樹脂中を通過させて、前記放射性廃棄物から前記放射性陽イオン核種を分離するステップを具えることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載の放射性塩素の分離方法。
【請求項5】
前記放射性陽イオン核種は、放射性コバルト、放射性セシウム、放射性ニッケル及び放射性ストロンチウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項4に記載の放射性塩素の分離方法。
【請求項6】
前記キャリアはテルル(Te)であって、前記放射性陽イオン核種は前記放射性アンチモンの娘各種である放射性テルルであることを特徴とする、請求項5又は6に記載の放射性塩素の分離方法。
【請求項7】
少なくとも放射性アンチモン及び放射性塩素を含む放射性廃棄物から放射性塩素を分離して測定する方法であって、
前記放射性廃棄物と硝酸銀とを混合して塩化銀を生成するステップと、
前記塩化銀を溶解するとともに還元処理を施すステップと、
得られた溶液をろ過することによりアンチモンを分離し、前記放射性塩素を得るステップと、
前記放射性塩素から発せられる放射線を計測するステップと、
を具えることを特徴とする、放射性塩素の測定方法。
【請求項8】
前記塩化銀の溶解は、アンモニア溶液を用いて行うことを特徴とする、請求項1に記載の放射性塩素の測定方法。
【請求項9】
前記還元処理は、ヒドラジン、アスコルビン酸、二酸化硫黄及び亜硝酸からなる群より選ばれる少なくとも一種の還元剤を用いて実施することを特徴とする、請求項7又8に記載の放射性塩素の測定方法。
【請求項10】
前記放射性廃棄物中に、前記放射性廃棄物の内部に含まれる、前記放射性アンチモンを除く放射性陽イオン核種と同元素の非放射性キャリアを添加するとともに、陽イオン交換樹脂中を通過させて、前記放射性廃棄物から前記放射性陽イオン核種を分離するステップを具えることを特徴とする、請求項7〜9のいずれか一に記載の放射性塩素の測定方法。
【請求項11】
前記放射性陽イオン核種は、放射性コバルト、放射性セシウム、放射性ニッケル及び放射性ストロンチウムからなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項10に記載の放射性塩素の測定方法。
【請求項12】
前記キャリアはテルルであって、前記放射性陽イオン核種は前記放射性アンチモンの娘各種である放射性テルルであることを特徴とする、請求項10又は11に記載の放射性塩素の測定方法。
【請求項13】
前記ろ過することによってアンチモンを分離した後のろ液中に硝酸銀を混合させて、前記放射性塩素を含む塩化銀を生成し、前記塩化銀から発せられる放射線を計測するステップを具えることを特徴とする、請求項7〜12のいずれか一に記載の放射性塩素の測定方法。
【請求項14】
前記ろ液中に硝酸銀を混合させる以前に、前記ろ液を0.1μm〜0.45μmの孔径を有するろ過フィルタ中を通過させるステップを具えることを特徴とする、請求項13に記載の放射性塩素の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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