説明

放射性薬液投与装置及び放射性薬液投与方法

【課題】放射性薬液の投与を精度良く行うことができる放射性薬液の投与装置及び注入方法を提供する。
【解決手段】放射性薬液をバイアル6から吸引して蓄え、蓄えた放射性薬液を投与のために排出する吸排手段45と、吸排手段45による放射性薬液の吸引と排出とを制御する制御手段35と、吸排手段45に蓄えられた放射性薬液の放射能強度を検出する第1検出ユニット37と、を備え、制御手段35は、第1検出ユニット37によって検出された放射能強度に基づいて、吸排手段45によって吸引される放射性薬液の吸引量を制御し、必要量の放射性薬液を正確に分注して投与する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性薬液を投与する投与装置及び投与方法に関する。
【背景技術】
【0002】
病院の検査室等において、半減期の短い放射性核種で標識された放射性薬液を被験者に投与する場合、取扱者の放射線被曝を防止すると共に、所定の投与量を、正確に、且つ一定速度で投与する必要がある。そこで、例えば、特許文献1に記載された分注装置が用いられている。この分注装置は、放射性薬液の収容容器及び生食の収容容器と、放射性薬液の収容容器から放射性薬液を吸引するシリンジと、被験者に放射性薬液を投与するための注射針と、各収容容器、シリンジ及び注射針などを連絡するチューブとを備えている。この分注装置では、シリンジによって放射性薬液を自動吸引し、さらに、チューブを通過する放射性薬液の放射能濃度を検出して放射性薬液の必要量を求めている。そして、この分注装置では、シリンジでの必要量の吸引が完了すると、吸引した放射性薬液をシリンジから排出し、被験者に投与していた。
【0003】
【特許文献1】特開2002−306609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の分注装置では、チューブを通過する放射性薬液の放射能濃度を検出して所定の放射能強度になるように必要量を求め、その必要量に相当する量だけシリンジなどで吸引するようにしていたため、チューブやシリンジなどの個体差の影響を受け易く、放射性薬液を投与する上での精度にばらつきが生じる虞があった。
【0005】
本発明は、以上の課題を解決することを目的としており、放射性薬液の投与を精度良く行うことができる放射性薬液の投与装置及び注入方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、放射性薬液の収容容器から必要量の放射性薬液を吸引して投与する放射性薬液投与装置において、放射性薬液を収容容器から吸引して蓄え、蓄えた放射性薬液を投与のために排出する吸排手段と、吸排手段による放射性薬液の吸引と排出とを制御する制御手段と、吸排手段に蓄えられた放射性薬液の放射能強度を検出する検出手段と、を備え、制御手段は、検出手段によって検出された放射能強度に基づいて、吸排手段によって吸引される放射性薬液の吸引量を制御することを特徴とする。
【0007】
この放射性薬液投与装置では、吸排手段によって収容容器から放射性薬液が吸引されて一時的に蓄えられる。すると、吸排手段に蓄えられている放射性薬液の放射能強度が検出手段によって直接的に検出され、制御手段は、検出された放射能強度に基づいて吸排手段の吸引量を制御する。従って、吸排手段の個体差などに影響され難くなり、投与に必要となる所定の放射能強度に対応した必要量を吸排手段によって精度良く吸引することができる。その結果として、放射性薬液の投与を精度良く行うことができる。
【0008】
さらに、吸排手段によって吸引された放射性薬液の放射能強度を検出する補助検出手段を更に備え、制御手段は、検出手段によって検出された放射線強度に加え、補助検出手段によって検出された放射能強度に基づいて、吸排手段による放射性薬液の吸引と排出とを制御すると好適である。検出手段に不具合が生じた場合、吸排手段に蓄えられている放射性薬液の放射能強度は、投与に必要となる所定の放射能強度に対して誤差が大きくなってしまう。そこで、上記構成によれば、補助検出手段によって放射能強度を検出することで、検出手段の検出精度を間接的に監視でき、放射性薬液の不適切な投与を回避することができる。
【0009】
さらに、吸排手段は、筒体内を摺動するピストンによって放射性薬液の吸引と排出とを行うシリンジを有し、検出手段は、筒体に沿って配置されていると好適である。放射性薬液は筒体内に蓄えられるので、筒体に沿って検出手段を配置することで、検出精度は向上する。
【0010】
さらに、検出手段は、複数のRIセンサを有し、複数のRIセンサは、筒体の軸線に沿って配置されていると好適である。RIセンサを筒体に近づけるほど、検出精度は高くなるが、検出できる範囲は狭くなってしまう。そこで、複数のRIセンサを筒体の軸線に沿って配置することで、RIセンサそれぞれを筒体に近づけ易くなり、筒体の軸線に沿った広い範囲での検出精度を向上できる。
【0011】
さらに、検出手段を収容すると共に、放射線の透過を遮蔽するシールド部を更に備え、シールド部には、筒体に対面する側に放射線が通過する開口が形成されていると好適である。筒体内に蓄えられている放射性薬液からの放射能強度は、シールド部の開口を通過する放射線から検出され、その他の放射線はシールド部によって遮蔽される。その結果として、筒体内に蓄えられている放射性薬液の放射能強度の検出精度が向上する。
【0012】
また、放射性薬液の収容容器から必要量の放射性薬液を吸引して投与する放射性薬液投与方法において、放射性薬液を収容容器から吸引して蓄えると共に、蓄えている放射性薬液の放射能強度を検出する検出ステップと、検出ステップで検出した放射能強度と目標値とを比較し、検出ステップで検出した放射能強度が目標値に到達した場合には、放射性薬液の吸引を停止する吸引停止ステップと、蓄えている放射性薬液を投与する投与ステップと、を含むことを特徴とする。
【0013】
この放射性薬液投与方法によれば、収容容器から吸引されて一時的に蓄えられている放射性薬液の放射能強度が直接的に検出され、検出された放射能強度が目標値に到達した場合には、放射性薬液の吸引は停止され、蓄えられている放射性薬液は投与される。従って、目標値に対応した必要量の放射性薬液を収容容器から精度良く吸引でき、放射性薬液の投与を精度良く行うことができる。
【0014】
さらに、吸引停止ステップと投与ステップとの間において、吸引停止ステップで蓄えた放射性薬液の放射能強度を再検出する再検出ステップと、再検出ステップで再検出した放射能強度と目標値とを比較し、再検出した放射能強度が目標値未満の場合には、放射性薬液を収容容器から再吸引すると共に、再吸引によって蓄えられた放射性薬液の放射能強度を検出する調整量検出ステップと、調整量検出ステップで検出した放射能強度が目標値に到達した場合には、放射性薬液の再吸引を停止する再吸引停止ステップと、を更に含むと好適である。
【0015】
放射能強度は、時間の経過に伴って減少する。従って、放射性薬液の吸引を停止してから投与を行うまでの間に、所定の待機時間を要する場合には、所定の待機時間の経過によって放射性薬液は目標値未満になってしまう可能性がある。上記方法によれば、待機時間の経過後に、放射能強度の再検出を行い、再検出した放射能強度が目標値未満の場合には、放射性薬液を収容容器から再吸引して調整を行うことが可能になり、放射性薬液の正確な投与を行い易くなる。
【0016】
さらに、吸引停止ステップと再検出ステップとの間において、目標値を新たな目標値に変更する目標値変更ステップを更に含み、調整量検出ステップでは、再検出した放射能強度と新たな目標値とを比較し、再吸引停止ステップでは、調整量検出ステップで検出した放射能強度が新たな目標値に到達した場合には、放射性薬液の再吸引を停止すると好適である。この方法によれば、目標値の変更を行うことができ、投与に必要な放射線強度を投与前に修正することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、放射性薬液の投与を精度良く行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本発明に係る放射性薬液投与装置を示す図である。図1に示されるように、放射性薬液投与装置1は、生理食塩水(又は注射用蒸留水)が入れられた生食用パック3と翼付針5とを連絡する生食ライン7と、放射性薬液が収容されたバイアル(収容容器)6と生食ライン7とを連絡する薬液ライン9と、廃液ボトル10と生食ライン7とを連絡する廃液ライン11と、を備えている。翼付針5を除く放射性薬液投与装置1の主要部は、筐体13内に収容されている。なお、バイアル6は放射線を遮蔽するシールドケース15内に収容され、更に、シールドケース15は第1遮蔽室16内に配置されている。また、薬液ライン9の主要部は第2遮蔽室17内に配置され、廃液ボトル10は第3遮蔽室18内に配置されている。
【0020】
生食ライン7は、希釈用の生理食塩水等を生食用パック3から翼付針5まで移送する第1チューブ19A、第2チューブ19B、第3チューブ19C及び第4チューブ19Dと、を備える。第1チューブ19A、第2チューブ19B、第3チューブ19C及び第4チューブ19Dは、それぞれ滅菌されたエクステンションチューブからなる。第1チューブ19Aの基端には、生食用パック3に接続された注射針20が設けられている。また、第4チューブ19Dの先端には、被験者に放射性薬液を投与するための翼付針5が設けられている。
【0021】
第1チューブ19Aと第2チューブ19Bとは、第1T字管21を介して接続されている。第1T字管21には、生理食塩水等が第1チューブ19Aに逆流してしまうのを防止するための第1逆止弁21aが設けられている。また、第2チューブ19Bと第3チューブ19Cとは、第2T字管23を介して接続されており、第2T字管23には、生理食塩水等が第2チューブ19Bに逆流してしまうのを防止するための第2逆止弁23aが設けられている。また、第3チューブ19Cと第4チューブ19Dとは、第3T字管25を介して接続されている。第4チューブ19Dの近傍には、放射性薬液が第4チューブ19Dを通過するのを検出する通過センサ26が設けられている。
【0022】
第1T字管21の分岐部には、生食シリンジ27が接続されている。生食シリンジ27には、例えば、パルスモータによるシリンジ駆動装置(図示省略)が接続されている。生食シリンジ27は、シリンジ駆動装置の駆動によって押子部が可動し、第1チューブ19A内の生理食塩水等を第2チューブ19B、第3チューブ19C及び第4チューブ19Dに押し込む。
【0023】
図1〜図3に示されるように、薬液ライン9は、バイアル6から分注された放射性薬液を移送する薬液チューブ29と、薬液チューブ29を介してバイアル6から放射性薬液を吸引し、吸引した放射性薬液を、投与のために生食ライン7に排出するRIシリンジ31と、RIシリンジ31を可動するアクチュエータ33と、アクチュエータ33の駆動制御を行う制御手段35と、を備えている。さらに、薬液ライン9は、RIシリンジ31によって吸引された放射性薬液の放射能強度を検出する第1検出ユニット(検出手段)37及び第2検出ユニット(補助検出手段)39を備えている。
【0024】
バイアル6には、PET(ポジトロン断層撮影法)に用いられるFDG(2-deoxy-18F-fluoro-glucose)などの放射性薬液が、例えば、500mCi/20ml〜1Ci/20ml程度収容されている。薬液チューブ29は、エクステンションチューブからなり、薬液チューブ29の基端部には、バイアル6内に差し込まれるカテラン針が設けられている。薬液チューブ29の先端部は、三方分岐管41の第1の管路41aに接続されている。第1の管路41aには、バイアル6への放射性薬液の逆流を防止する薬液逆止弁41bが設けられている。
【0025】
三方分岐管41の第2の管路41cは、生食ライン7の第2T字管23の分岐部に接続されている。さらに、第2の管路41cには、生理食塩水等の進入を防止する生食逆止弁41dが設けられている。
【0026】
三方分岐管41の第3の管路41fは、RIシリンジ31に接続されている。RIシリンジ31は、外筒部(筒部)31aと、外筒部31a内で摺動する押子部(ピストン部)31bと、を備える。外筒部31aの先端には、第3の管路41fに連通する吸排口31cが設けられており、基端にはフランジ31dが設けられている。外筒部31aは、ホルダ部43内に収容されている。ホルダ部43には、フランジ31dが差し込まれるように形成された保持ブラケット43aが設けられている。外筒部31aは、フランジ31dが保持ブラケット43aに保持されることで抜け止めされる。押子部31bの可動により、外筒部31a内に放射性薬液が吸引され、また、吸引された放射性薬液は排出される。
【0027】
アクチュエータ33はパルスモータなどからなり、可動ブラケット33aを有する。可動ブラケット33aには、RIシリンジ31の押子部31bが固定されている。アクチュエータ33は、可動ブラケット33aを往復動させて、押子部31bを往復動させる。RIシリンジ31及びアクチュエータ33によって吸排手段45は構成される。
【0028】
アクチュエータ33には、制御手段35が接続されている。制御手段35は、PC(Personal Computer)等が相当し、CPU(Central Processing Unit)やメモリ等のハードウェアによって構成され、アクチュエータ33に対して電気信号を送受信可能に接続されている。制御手段35は、アクチュエータ33の駆動制御を行うことで、RIシリンジ31による放射性薬液の分注のための吸引と投与のための排出とを制御する。また、制御手段35は、第1検出ユニット37及び第2検出ユニット39にも接続されており、第1検出ユニット37または第2検出ユニット39から出力される出力値を受信可能である。
【0029】
RIシリンジ31を保持するホルダ部43の外側には、RIシリンジ31の外筒部31aに沿うように第1検出ユニット37と第2検出ユニット39とが設けられている。第1検出ユニット37と第2検出ユニット39とは、RIシリンジ31を挟むようにして対向配置されている。第1検出ユニット37は、RIシリンジ31による放射性薬液の吸引量を決定するために設けられており、第2検出ユニット39は、第1検出ユニット37を監視して投与を行うか否かを決定するために設けられている。
【0030】
第1検出ユニット37は、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cを備えている。RI(Radioisotope)とは、放射線を出して他の種類の原子核に変化(壊変)する同位体であり、第1RIセンサ47Aは、1秒当たりの壊変数(Bq)、すなわち放射能強度を検出し、電気信号として出力するセンサである。第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cも同様である。第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cは、RIシリンジ31の外筒部31a内に蓄えられた放射性薬液の放射能強度をそれぞれ独立して検出する。
【0031】
第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cは、それぞれ外筒部31aに近づけるほど、検出精度は高くなるが、正確に検出できる範囲は狭くなってしまう。そこで、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cは、外筒部31aの軸線Lに沿って縦に並んでおり、第1RIセンサ47Aは先端寄り、第2RIセンサ47Bは中央、第3RIセンサ47Cは基端寄りに配置されている。このような配置により、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cそれぞれを外筒部31aに近づけ易くなり、外筒部31aの軸線Lに沿った広い範囲での検出精度を向上できる。以下、図4及び図5を参照して具体的に説明する。
【0032】
図4は、放射能強度100(MBq)に対応した所定の液量をRIシリンジ31で吸引した場合において、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cによってそれぞれ独立して検出した際の出力値(mV)及び平均値(mV)を示す表である。さらに、図4では、放射能強度100(MBq)に対応した所定の液量として、0.2(ml)、1.1(ml)、2.1(ml)、3(ml)、4(ml)、5(ml)を示している。
【0033】
図5は、図4に対応したグラフであり、横軸に液量(ml)、縦軸に出力値(mV)が示されている。さらに、図5の(a)は第1RIセンサ47Aの検出結果、(b)は第2RIセンサ47Bの検出結果、(c)は第3RIセンサ47Cの検出結果、(d)は各液量に対して第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cで検出された各出力値(mV)の平均値を示すグラフである。
【0034】
図4及び図5(a)に示されるように、放射性薬液の液量が0.2(ml)で100(MBq)になる場合には、放射能濃度は非常に濃く、第1RIセンサ47Aでの出力値は50(mV)になっている。しかしながら、放射性薬液の放射能濃度が薄くなって液量が多くなると、第1RIセンサ47Aでの出力値は低下しており、例えば、放射性薬液の液量が5(ml)の場合には、出力値は26(mV)になっている。このように、第1RIセンサ47A単体で検出しようとした場合には、放射性薬液の液量に応じて出力値にばらつきが生じてしまう。同様に、第2RIセンサ47B(図5(b)参照)では、100(MBq)になる液量が3(ml)で場合の出力値が43(mV)で最も大きく、液量が0.2(ml)の場合の出力値が34(mV)で最も小さい。また、第3RIセンサ47C(図5(c)参照)では、100(MBq)になる液量が5(ml)の場合の出力値が34(mV)で最も大きく、0.2(ml)の場合の出力値が15(mV)で最も小さい。このように、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B、第3RIセンサ47Cそれぞれ単体では、同じ100(MBq)の放射能強度となる液量であっても、液量によって出力値にばらつきが生じてしまう。
【0035】
一方で、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B、第3RIセンサ47Cにおける0.2(ml)の各出力値の平均値は、33.0(mV)である。同様に、1.1(ml)の各出力値の平均値は、34.0(mV)、2.1(ml)の各出力値の平均値は、34.7(mV)、3(ml)の各出力値の平均値は、35.0(mV)、4(ml)の各出力値の平均値は、34.7(mV)、5(ml)の各出力値の平均値は、34.7(mV)である。このように第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B、第3RIセンサ47Cの各出力値の平均値では、液量によるばらつきはほとんど無くなって放射性薬液の液量に影響されなくなり、放射能強度の検出精度を向上させることができる。その結果として、外筒部31aの軸線に沿った広い範囲での検出精度を向上できる。
【0036】
また、図4で示されるように、100(MBq)の放射能強度の場合における各液量に対応した出力値の総平均は、34.3(mV)になり、標準偏差は0.7である。本実施形態において、100(MBq)の放射能強度を被験者へ投与する場合には、出力値の総平均である34.3(mV)が目標値として設定される。なお、被験者へ投与する放射能強度が高くなると、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B、第3RIセンサ47Cの各出力値も高くなるために目標値として設定する出力値は高くなり、被験者へ投与する放射能強度が低くなると、目標値として設定する出力値は低くなる。
【0037】
図2及び図3に示されるように、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cは、鉛製の第1シールド室(シールド部)49に収容されている。第1シールド室49には、ホルダ部43を挟んで外筒部31aに対面する側に放射線が通過する第1開口49aが形成されている。外筒部31a内に蓄えられている放射性薬液からの放射能強度は、第1シールド室49の第1開口49aを通過する放射線から検出される。また、その他の放射線は第1シールド室49によって遮蔽される。その結果として、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cには、ノイズとなる放射線が入り難くなり、外筒部31a内に蓄えられている放射性薬液からの放射能強度の検出精度が向上する。なお、第1シールド室49の形状や壁部の肉厚は、適宜に決定することができる。例えば、放射性薬液が流動する薬液チューブ29に近い第1RIセンサ47Aの周囲の肉厚を、他の第2RIセンサ47Bや第3RIセンサ47Cの周囲よりも厚くし、ノイズが入り難くするようにすることもできる。
【0038】
第2検出ユニット39は、外筒部31aの軸線Lに沿って配置された第4RIセンサ47D、第5RIセンサ47E及び第6RIセンサ47Fを備えている。第4RIセンサ47D、第5RIセンサ47E及び第6RIセンサ47Fは、鉛製の第2シールド室51に収容されている。第2シールド室51には、ホルダ部43を挟んで外筒部31aに対面する側に放射線が通過する第2開口51aが形成されている。第4RIセンサ47D、第5RIセンサ47E及び第6RIセンサ47Fは、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cと同様の構成であるため説明を省略する。また、第2シールド室51は、第1シールド室49と同様の構成であるため説明を省略する。
【0039】
図1に示されるように、廃液ライン11は、エクステンションチューブからなる廃液チューブ53を備え、廃液チューブ53は、廃液管55を介して廃液ボトル10に接続されている。廃液チューブ53及び生食ライン7の第4チューブ19Dには、それぞれ第1ピンチバルブ56A及び第2ピンチバルブ56Bが設けられている。放射性薬液の投与時には、第1ピンチバルブ56Aが開いて第2ピンチバルブ56Bが閉じ、放射性薬液の廃棄時には、第1ピンチバルブ56Aが閉じて第2ピンチバルブ56Bが開く。
【0040】
次に、放射性薬液投与装置1を用いた放射性薬液投与方法について図6または図7を参照して説明する。図6は、第1投与処理の手順を示すフローチャートであり、ステップをSとして略記している。図7は、第2投与処理の手順を示すフローチャートであり、ステップをSとして略記している。最初に、図6を参照して第1投与処理の手順に沿った放射性薬液投与方法について説明する。
【0041】
図6に示されるように、第1投与処理を開始すると、まず準備処理を行い、生食ライン7の第1チューブ19A、第2チューブ19B、第3チューブ19C及び第4チューブ19Dを生理食塩水で満たし、薬液ライン9の薬液チューブ29を放射性薬液で満たした状態にする(ステップ1)。
【0042】
次に、取扱者は、図示しない操作手段を操作し、被験者に投与する放射能強度を目標値して設定入力する。操作手段を介して入力されたデータは制御手段35に入力され、制御手段35は、目標値をメモリに格納する(ステップ2)。
【0043】
その後、制御手段35は、アクチュエータ33を駆動し、RIシリンジ31による放射性薬液の吸引を開始して放射性薬液を外筒部31a内に蓄える(ステップ3)。また、第1検出ユニット37は、RIシリンジ31の外筒部31a内に蓄えられている放射性薬液の放射能強度を検出する(ステップ4)。ステップ4では、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cはそれぞれ独立して放射能強度を検出し、出力値を制御手段35に入力する。制御手段35は、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cの各出力値の平均値を演算する。ステップ3及びステップ4は、検出ステップに相当する。
【0044】
制御手段35は、ステップ4で演算した平均値と予め格納されている目標値とを比較し(ステップ5)、平均値が目標値に到達するまでステップ3及びステップ4を繰り返し実行し、RIシリンジ31による吸引量を制御する。制御手段35は、平均値が目標値に到達したと判定する場合には、アクチュエータ33に指示してRIシリンジ31による吸引を停止させる(ステップ6)。ステップ5及びステップ6は、吸引停止ステップに相当する。
【0045】
次に、第2検出ユニット39の第4RIセンサ47D、第5RIセンサ47E及び第6RIセンサ47Fは、RIシリンジ31の外筒部31a内に蓄えられている放射性薬液の放射能強度を検出(再検出)し、出力値を制御手段35に入力する。制御手段35は、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cの各出力値の平均値を演算する(ステップ7)。
【0046】
次に、制御手段35は、演算した平均値と予め格納されている目標値とを比較し(ステップ8)、平均値が目標値の所定の誤差範囲外である場合には、RIシリンジ31で蓄えられている放射性薬液を廃棄するために、RIシリンジ31から放射性薬液を排出させる(ステップ11)。一方で、平均値が目標値の所定の誤差範囲内である場合には、外筒部31a内に蓄えられている放射性薬液をRIシリンジ31から排出し(ステップ9)、さらに、生食シリンジ27から生理食塩水を排出して被験者への投与を行う(ステップ10)。ステップ9及びステップ10は、投与ステップに相当する。
【0047】
第1検出ユニット37に不具合が生じた場合、RIシリンジ31に蓄えられている放射性薬液の放射能強度は、投与に必要となる所定の放射能強度に対して誤差が大きくなってしまう。上記第1投与処理では、第2検出ユニット39によって放射性薬液の放射能強度を検出することで、第1検出ユニット37の検出精度を間接的に監視しており、放射性薬液の不適切な投与を回避している。
【0048】
次に、図7を参照して第2投与処理の手順に沿った放射性薬液投与方法について説明する。図7に示されるように、第2投与処理を開始すると、第1投与処理と同様に、準備処理(ステップ21)、目標値設定入力(ステップ22)、RIシリンジ31による放射性薬液の吸引(ステップ23)、RIシリンジ31に蓄えられている放射性薬液の放射能強度の検出(ステップ24)を行う。ステップ23及びステップ24は、検出ステップに相当する。
【0049】
次に、制御手段35は、第1投与処理と同様に、ステップ24で演算した平均値と予め格納されている目標値とを比較し(ステップ25)、平均値が目標値に到達するまでステップ23及びステップ24を繰り返し実行し、RIシリンジ31による吸引量を制御する。制御手段35は、平均値が目標値に到達したと判定する場合には、アクチュエータ33に指示してRIシリンジ31による吸引を停止させる(ステップ26)。ステップ25及びステップ26は、吸引停止ステップに相当する。
【0050】
その後、制御手段35は、必要に応じて目標値の設定変更を受け付ける(ステップ27)。取扱者は、例えば、最初の設定入力が誤りであった場合には、図示しない操作手段を操作し、新たな目標値を設定入力して目標値の修正を行う。制御手段35は、新たな目標値が入力された場合には、既に格納されている目標値を新たな目標値に更新する。なお、目標値の設定変更を行わない場合、取扱者は、操作手段を操作して変更無しを示す操作を実行する。ステップ27は、目標値変更ステップに相当する。
【0051】
続いて、被験者に投与する直前に、第2検出ユニット39の第4RIセンサ47D、第5RIセンサ47E及び第6RIセンサ47Fは、RIシリンジ31の外筒部31a内に蓄えられている放射性薬液の放射能強度を検出(再検出)し、出力値を制御手段35に入力する。制御手段35は、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cの各出力値の平均値を演算する(ステップ28)。ステップ28は、再検出ステップに相当する。
【0052】
次に、制御手段35は、ステップ28で演算した平均値と予め格納されている目標値とを比較し(ステップ29)、平均値が目標値未満である場合には、アクチュエータ33に指示してRIシリンジ31により再吸引を行わせる(ステップ30)。また、第1検出ユニット37は、再吸引によってRIシリンジ31の外筒部31a内に蓄えられている放射性薬液の放射能強度を検出し、出力値を制御手段35に入力する。制御手段35は、第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cの各出力値の平均値を演算する(ステップ31)。ステップ29、ステップ30及びステップ31は、調整量検出ステップに相当する。
【0053】
次に、制御手段35は、ステップ31で演算した平均値と予め格納されている目標値とを比較し(ステップ32)、平均値が目標値に到達するまでステップ30及びステップ31を繰り返し実行する。制御手段35は、平均値が目標値に到達したと判定する場合には、アクチュエータ33に指示してRIシリンジ31による再吸引を停止させる(ステップ33)。ステップ33は、再吸引停止ステップに相当する。
【0054】
次に、制御手段35は、アクチュエータ33に指示して外筒部31a内に蓄えられている放射性薬液を排出させる(ステップ34)。さらに、生食シリンジ27から生理食塩水が排出されて被験者への投与が行われる(ステップ35)。ステップ34及びステップ35は、投与ステップに相当する。
【0055】
放射性薬液の放射能強度は、時間の経過に伴って小さくなる。従って、RIシリンジ31による放射性薬液の吸引を停止してから被験者に投与するまでの所定時間の経過により、放射性薬液の放射能強度が目標値未満になってしまう可能性がある。第2投与処理では、被験者に投与する直前に第2検出ユニット39において放射能濃度を検出しており(ステップ28)、検出値の平均値が目標値未満であった場合には、RIシリンジ31による再吸引(ステップ30)が行われ、放射能強度の微調整が行われる。その結果として、第2投与処理では、時間の経過に伴って放射性薬液の放射能強度が低下した場合であっても、放射能強度の微調整を行うことができるために、放射性薬液を廃棄して吸引し直す場合に比べて無駄が無く、効率的に放射性薬液の投与が可能になる。
【0056】
以上の放射性薬液投与装置1では、RIシリンジ31によってバイアル6から放射性薬液が吸引されて一時的に蓄えられる。すると、RIシリンジ31に蓄えられている放射性薬液の放射能強度が第1検出ユニット37によって直接的に検出され、検出された放射能強度に基づいて制御手段35によってRIシリンジ31の吸引量が制御される。従って、RIシリンジ31の個体差などに影響され難くなり、投与に必要となる所定の放射能強度に対応した必要量を吸排手段45によって精度良く吸引することができる。その結果として、放射性薬液の投与を精度良く行うことができる。
【0057】
特に、RIシリンジ31は所定位置に固定されており、第1検出ユニット37及び第2検出ユニット39は、RIシリンジ31に蓄えられた放射性薬液の放射能強度を検出する。その結果として、第1検出ユニット37及び第2検出ユニット39は、例えば、フレキシブルなチューブを流動する放射性薬液の放射能強度を検出する場合に比べて、安定した検出が可能である。
【0058】
さらに、第1検出ユニット37の第1RIセンサ47A、第2RIセンサ47B及び第3RIセンサ47Cは、RIシリンジ31の外筒部31aに沿って集約され、第2検出ユニット39の第4RIセンサ47D、第5RIセンサ47E及び第6RIセンサ47Fも同様に、RIシリンジ31の外筒部31aに沿って集約されている。その結果として、分散して配置されている場合に比べて、局所的な遮蔽が可能であり、小型化、軽量化に有効である。
【0059】
さらに、第2検出ユニット39は、第1検出ユニット37と同様に、RIシリンジ31の外筒部31aの近傍に配置されており、第1検出ユニット37の出力値に基づく放射性薬液の吸引停止に合わせて、第2検出ユニット39による確認のための放射性薬液の放射能強度の検出が可能である。その結果として、吸引停止から投与までの時間の短縮化に有効である。
【0060】
さらに、第1検出ユニット37と第2検出ユニット39とは、RIシリンジ31を挟むようにして外筒部31aに対して同距離離れた位置に設けられているため、較正を同時に行い易い。
【0061】
さらに、上記の第1投与処理または第2投与処理に基づく放射性薬液投与方法によれば、バイアル6から吸引されて一時的に蓄えられている放射性薬液の放射能強度が直接的に検出され、検出された放射能強度が目標値に到達した場合には、放射性薬液の吸引は停止され、蓄えられている放射性薬液は投与される。従って、目標値に対応した必要量の放射性薬液をバイアル6から精度良く吸引でき、放射性薬液の投与を精度良く行うことができる。
【0062】
本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、検出手段または補助検出手段のRIセンサは、3個に限定されず、3個未満または4個以上であってもよい。特に、RIセンサの検出範囲が、RIシリンジの外筒部の長手方向全域をカバーできる程度に大きい場合などは1個であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明に係る放射性薬液投与装置を模式的に示す図である。
【図2】RIシリンジ、第1検出ユニット及び第2検出ユニットを示す断面図である。
【図3】図2のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】放射性薬液の液量と、第1RIセンサ、第2RIセンサ及び第3RIセンサで検出した出力値とを対応させた表を示す図である。
【図5】図4に対応したグラフであり、(a)は第1RIセンサの検出結果、(b)は第2RIセンサの検出結果、(c)は第3RIセンサの検出結果、(d)は第1〜第3RIセンサで検出された出力値の平均を示す図である。
【図6】第1投与処理の手順を示すフローチャートである。
【図7】第2投与処理の手順を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0064】
1…放射性薬液投与装置、6…バイアル(収容容器)、31…RIシリンジ(シリンジ)、31a…外筒部(筒部)、31b…押子部(ピストン部)、35…制御手段、37…第1検出ユニット(検出手段)、39…第2検出ユニット(補助検出手段)、45…吸排手段、47A…第1RIセンサ、47B…第2RIセンサ、47C…第3RIセンサ、47D…第4RIセンサ、47E…第5RIセンサ、47F…第6RIセンサ、49…第1シールド室(シールド部)、49a…第1開口(開口)、L…軸線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性薬液の収容容器から必要量の前記放射性薬液を吸引して投与する放射性薬液投与装置において、
前記放射性薬液を前記収容容器から吸引して蓄え、蓄えた前記放射性薬液を投与のために排出する吸排手段と、
前記吸排手段による前記放射性薬液の吸引と排出とを制御する制御手段と、
前記吸排手段に蓄えられた前記放射性薬液の放射能強度を検出する検出手段と、を備え、
前記制御手段は、前記検出手段によって検出された前記放射能強度に基づいて、前記吸排手段によって吸引される前記放射性薬液の吸引量を制御することを特徴とする放射性薬液投与装置。
【請求項2】
前記吸排手段によって吸引された前記放射性薬液の放射能強度を検出する補助検出手段を更に備え、
前記制御手段は、
前記検出手段によって検出された前記放射線強度に加え、前記補助検出手段によって検出された前記放射能強度に基づいて、前記吸排手段による前記放射性薬液の吸引と排出とを制御することを特徴とする請求項1記載の放射性薬液投与装置。
【請求項3】
前記吸排手段は、
筒体内を摺動するピストンによって前記放射性薬液の吸引と排出とを行うシリンジを有し、
前記検出手段は、
前記筒体に沿って配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の放射性薬液投与装置。
【請求項4】
前記検出手段は、複数のRIセンサを有し、
複数の前記RIセンサは、前記筒体の軸線に沿って配置されていることを特徴とする請求項3記載の放射性薬液投与装置。
【請求項5】
前記検出手段を収容すると共に、放射線の透過を遮蔽するシールド部を更に備え、
前記シールド部には、前記筒体に対面する側に前記放射線が通過する開口が形成されている事を特徴とする請求項3または4記載の放射性薬液投与装置。
【請求項6】
放射性薬液の収容容器から必要量の前記放射性薬液を吸引して投与する放射性薬液投与方法において、
前記放射性薬液を前記収容容器から吸引して蓄えると共に、蓄えている前記放射性薬液の放射能強度を検出する検出ステップと、
前記検出ステップで検出した前記放射能強度と目標値とを比較し、前記検出ステップで検出した前記放射能強度が前記目標値に到達した場合には、前記放射性薬液の吸引を停止する吸引停止ステップと、
蓄えている前記放射性薬液を投与する投与ステップと、
を含むことを特徴とする放射性薬液投与方法。
【請求項7】
前記吸引停止ステップと前記投与ステップとの間において、
前記吸引停止ステップで蓄えた前記放射性薬液の放射能強度を再検出する再検出ステップと、
前記再検出ステップで再検出した前記放射能強度と前記目標値とを比較し、再検出した前記放射能強度が前記目標値未満の場合には、前記放射性薬液を前記収容容器から再吸引すると共に、再吸引によって蓄えられた前記放射性薬液の放射能強度を検出する調整量検出ステップと、
前記調整量検出ステップで検出した前記放射能強度が前記目標値に到達した場合には、前記放射性薬液の再吸引を停止する再吸引停止ステップと、
を更に含むことを特徴とする請求項6記載の放射性薬液投与方法。
【請求項8】
前記吸引停止ステップと前記再検出ステップとの間において、
前記目標値を新たな目標値に変更する目標値変更ステップを更に含み、
前記調整量検出ステップでは、再検出した前記放射能強度と前記新たな目標値とを比較し、
前記再吸引停止ステップでは、前記調整量検出ステップで検出した前記放射能強度が前記新たな目標値に到達した場合には、前記放射性薬液の再吸引を停止することを特徴とする請求項7記載の放射性薬液投与方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−302092(P2008−302092A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−153243(P2007−153243)
【出願日】平成19年6月8日(2007.6.8)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】