説明

放射線増感剤

【課題】放射線増感剤の提供。
【解決手段】下記式(I):


(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)で示されるピラゾロン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む放射線増感剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌や白血病などの悪性疾患の治療法の一つとして、放射線療法が使用されている。また近年においては、放射線抵抗性腫瘍の治療において、放射線の作用を増強する放射線増感剤を併用されることもある。悪性腫瘍の放射線治療においては、放射線に対して抵抗性を示す細胞の存在は、腫瘍再発の原因となっている。従って、放射線に対する感度を増大させる作用を有し、生体に対して安全性が高い放射線増感剤の開発が要望されている。
【0003】
一方、下記式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特許文献1参照)、過酸化脂質生成抑制作用(特許文献2参照)、抗潰瘍作用(特許文献3参照)、及び血糖上昇抑制作用(特許文献4参照)等が知られている。
【0004】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(非特許文献1;非特許文献2参照)。このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。
【0005】
【特許文献1】特公平5−31523号公報
【特許文献2】特公平5−35128号公報
【特許文献3】特開平3−215425号公報
【特許文献4】特開平3−215426号公報
【非特許文献1】Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997
【非特許文献2】Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新規な放射線増感剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として、式(I)で示されるピラゾロン誘導体を用いて、放射線増感効果についてヒト白血病細胞株MOLT-4を用いて検討した。その結果、上記ピラゾロン誘導体の投与により、放射線増感効果を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I):
【化2】

(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、放射線増感剤が提供される。
【0009】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の放射線増強剤は、ピラゾロン誘導体の血漿中濃度が0mg/mlを超えて2.0mg/ml以下となるように投与される。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の放射線増強剤は、放射線照射の標的細胞におけるピラゾロン誘導体の細胞内濃度が0mg/mlを超えて2.0mg/ml以下となるように投与される。
【0010】
本発明の好ましい態様によれば、本発明の放射線増感剤は、放射線療法と併用される。
本発明の好ましい態様によれば、式(I)で示されるピラゾロン誘導体は、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである。
本発明の好ましい態様によれば、本発明の放射線増感剤は、白血病の治療のために用いる。
【0011】
本発明のさらに別の局面によれば、上記式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の治療及び/又は予防有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、放射線に対する感度を増大する方法が提供される。
【0012】
本発明のさらに別の側面によれば、放射線増感剤の製造のための式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明による放射線増感剤は、放射線に対する感度を効果的に増大することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明による放射線増感剤は、本明細書に定義する式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を含む。
【0015】
本発明で用いる式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I')又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の放射線増感剤の有効成分としては、下記の式(I')又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0016】
【化3】

【0017】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0018】
1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0019】
1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0020】
1及びR2の定義における炭素数3〜5のアルキレン基としては、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、メチルトリメチレン基、エチルトリメチレン基、ジメチルトリメチレン基、メチルテトラメチレン基等が挙げられる。
【0021】
2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0022】
2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0023】
3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0024】
本発明の放射線増感剤の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
3,3',4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0029】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0030】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0031】
本発明の放射線増感剤の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等のアミンとの塩が挙げられる。この他、生理的に許容されるものであれば塩の種類は特に限定されることはない。
【0032】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0033】
本発明の放射線増感剤の投与量は特に限定されないが、通常は、有効成分である式(I)で示される化合物の重量として一般に経静脈投与で一日あたり0.1mg/kg体重〜1g/kg体重程度である。また別の観点からは、有効成分である式(I)の血漿中濃度が0mg/mlを超えて2.0mg/ml以下、又は放射線照射の標的細胞における有効成分である式(I)の細胞内濃度が0mg/mlを超えて2.0mg/ml以下となるように投与されることが望ましい。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0034】
エダラボンを2.4mg/mlから3mg/mlの濃度で投与した場合には、細胞の生存率が上昇し、放射線防護効果が認められたが、0.15mg/mlから1.8mg/mlで投与した場合には細胞の生存率は低下し、エダラボンに放射線増感効果があると考えられた。0.15mg/mlから1.8mg/mlという濃度は実際の臨床的に用いられている血中濃度と比べると、高い濃度と考えられる。第I相臨床試験では、1.5mg/kgのエダラボンを40分間かけて点滴静注したときの最高血中濃度は、3.06073±0.23688μg/mlと報告されている(Shibata, H.,他、(1998) Phase I clinical study of MCI-186 (edaravone, 3-methyl-1-phenyl-2-pyrazolin-5-one) in healthy volunteers: Safety and pharmacokinetics of single and multiple administrations. Jpn. J. Clin. Pharmacol. Ther. 29: 863-876)。なお、エダラボンの効果は血中濃度よりは細胞内濃度に依存すると考えられるので、血中濃度は低くても、細胞内で本明細書の実施例におけるMOLT-4と同じ濃度を達成することができれば、放射線増感効果が達成されると考えられる。
【0035】
本発明の放射線増感剤としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0036】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤等を用いることができる。
【0037】
本発明の放射線増感剤の投与にあたっては非経口投与又は経口投与のいずれも用いることができるが、非経口投与であることが望ましい。
【0038】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、生理食塩水を用いることができる。
【0039】
本発明の放射線増感剤の形態は点滴剤を調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の放射線増感剤において上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0040】
本発明の放射線増感剤の投与経路は、静脈内に注射投与することができる。
【0041】
本発明の放射線増感剤は、放射線照射に先立って投与しておくこともできるし、また、放射線照射と同時に投与してもよいし、放射線照射後に投与することもできる。
【0042】
本発明の放射線増感剤の投与対象は、放射線療法を受ける患者である。放射線療法の対象となる疾患は特に限定されないが、例えば、白血病、リンパ腫、ガン腫又は肉腫などの悪性疾患を挙げることができ、白血病であることが好ましい。即ち、本発明の放射線増感剤は、放射線療法と組み合わせて使用することにより、悪性の治療、又は悪性腫瘍の再発または転移の予防のために使用することができる。また、本発明の放射線増感剤を癌の放射線療法と組み合わせて使用する場合は、さらに化学療法剤を併用することができる可能性もある。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0044】
試験例1:
(A)材料と方法
(1)細胞
細胞はヒト白血病細胞株MOLT-4を用いた。MOLT-4は培地RPMI1640(SIGMA, St. Louis MO)に5%FBS(fetal bovine serum, Hyclone)と抗生物質(ペニシリン/ストレプトマイシン、100単位/ml)を混合したものを用いて、5%二酸化炭素と95%大気の混合気体で、適度な湿度を保ち、37°Cで培養された。
【0045】
(2)薬剤
エダラボンは三菱ウェルファーマ社(東京)から入手した。エダラボン52.5mgを2M水酸化ナトリウム水溶液192.5μlに溶解し、蒸留水1.05mlを加えた後、塩酸を用いてpHを8.8に調製し、生理食塩水を用いて最終濃度を30mg/mlに調製したものを用いた。
【0046】
(3)放射線照射
放射線照射は島津製作所社のPantak HF 350を用いて行った。200keV、20mAで、1.35〜1.40Gy/分の線量率で、0.5mmCu、1mmAlのフィルターを用いて照射を行った。
【0047】
(4)色素排除試験
照射やエダラボンにより処理した細胞培養液100μlをエッペンドルフチューブに入れ、1%エリスロシンのPBS(phosphor buffered saline)溶液を25μl加え、2分後に顕微鏡下で細胞を観察した。細胞の生存率は以下の計算式を用いて計算した。
生存率(%)=(染色されていない細胞数)/(全細胞数) × 100
【0048】
(5)フリーラジカルの解析
Molecular Probes社のchloromethyl-2',7'- dichlorodihydro-fluorescein diacetate (CM-H2-DCFDA)を、細胞透過性のフリーラジカル検出試薬として用いた。RPMI1640で培養されている細胞を1,000rpmで5分間遠心し、上清をアスピレーターで除き、約37℃に温めたPBSに50μgのCM-H2-DCFDAを20μlの99.5%エタノールに溶かしたものを加えて約5μg/mlの濃度としたもので懸濁した。続いて、各群によって、エダラボン投与や照射を行った。45〜60分そのまま暗所で培養後、再び1,000rpmで5分間遠心し、上清をアスピレーターで除去後、37℃に温めたPBSで懸濁した。この細胞懸濁液において、CM-H2-DCFDAの蛍光をEPICSフローサイトメーター (XL System II, Beckman Coulter) で、励起波長492-495nm、発光波長517-527nmで検出した。
【0049】
(6)統計学的解析
すべての実験は少なくとも3回繰り返して行った。結果は(平均)±(標準誤差) で表した。すべての実験結果は標準的な統計学的方法で、Microsoft Excel 2000などを用いて解析された。統計学的解析はStudent t-testを用いて行った。p値が0.05以下の場合を統計学的有意とした。
【0050】
(B)結果
(1)エダラボンの放射線防護効果と放射線増感効果
エダラボンを2Gy照射5分前に投与し、エダラボンの濃度を変えて、色素排除試験にて細胞の生存率を確かめた。結果を図1に示す。エダラボンを2.4mg/mlから3mg/mlの濃度で投与して照射した場合には、照射単独の時に比べて、細胞の生存率は有意に上昇していた(p<0.05)が、0.15mg/mlから1.8mg/mlで投与したときには、細胞の生存率は有意に減少した(p<0.05)(図1(A))。2.1mg/mlの濃度の時には、細胞の生存率はやや上昇したが、有意な差ではなかった(p=0.10)。6mg/mlで投与した場合には、エダラボンの毒性により、細胞の生存率は有意に減少した(図1(A)及び(B))。
【0051】
(2)照射4時間後にエダラボンを投与しても放射線増感効果あり
エダラボンの投与のタイミングによる増感効果の違いを調べるために、照射5分前だけでなく、4時間後にエダラボンを投与した場合の細胞生存率も色素排除試験にて調べた。結果を図2に示す。照射4時間後に投与した場合にも、照射5分前に投与した場合とほぼ同等に、照射単独と比べて有意に細胞生存率が低下し(p<0.05)、放射線増感効果があることが分かった。
【0052】
(3)増感効果のある濃度でもフリーラジカルの産生は抑えている
エダラボンの増感効果の機序を探るために、CM-H2-DCFDA試薬を用いてフリーラジカルの間接的測定を行った。結果を図3に示す。照射単独の時に比べて、増感濃度である0.75mg/mlでエダラボンを投与したときも、防護濃度である3mg/mlでエダラボンを投与したときも、有意にフリーラジカルの産生を抑えていることが分かった(p<0.05)。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1は、エダラボン濃度と細胞生存率を示す。(A)エダラボンを様々な濃度で投与して、5分後に2Gy放射線照射を行い、20時間後に色素排除試験にて細胞生存率を調べた。(B)エダラボンを様々な濃度で投与して、20時間後に色素排除試験を行い、エダラボンの毒性を調べた。
【図2】図2は、エダラボン投与タイミングと細胞生存率を示す。エダラボン0.75mg/mlを2Gy照射の5分前または4時間後に投与して、照射20時間後に色素排除試験を行った。
【図3】図3は、CM-H2-DCFDAによるフリーラジカルの測定の結果を示す。フローサイトメトリーにてフリーラジカルを測定した。Xは、20Gyの照射単独、XE(0.75,-5)は、0.75mg/mlのエダラボンを投与し、その5分後に20Gy照射を行ったもの、XE(3,-5)は、3mg/mlのエダラボンを投与し、その5分後に20Gy照射を行ったもの。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、R1は、水素原子、アリール基、炭素数1〜5のアルキル基又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基を表し;R2は、水素原子、アリールオキシ基、アリールメルカプト基、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基を表し;あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレン基を表し;R3は、水素原子、炭素数1〜5のアルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、ベンジル基、ナフチル基、フェニル基、又は炭素数1〜5のアルキル基、炭素数1〜5のアルコキシ基、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基、炭素数1〜4のアルキルアミノ基、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基、ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、カルボキシル基、シアノ基、水酸基、ニトロ基、アミノ基及びアセトアミド基からなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニル基を表す。)
で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、放射線増感剤。
【請求項2】
ピラゾロン誘導体の血漿中濃度が0mg/mlを超えて2.0mg/ml以下となるように投与される、請求項1に記載のピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、放射線増強剤。
【請求項3】
放射線照射の標的細胞におけるピラゾロン誘導体の細胞内濃度が0mg/mlを超えて2.0mg/ml以下となるように投与される、請求項1に記載のピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、放射線増強剤。
【請求項4】
放射線療法と併用される、請求項1〜3のいずれかに記載の放射線増感剤。
【請求項5】
式(I)で示されるピラゾロン誘導体が3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである、請求項1〜4のいずれかに記載の放射線増感剤。
【請求項6】
白血病の治療のために用いる請求項1〜5のいずれかに記載の放射線増強剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−214346(P2008−214346A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−29893(P2008−29893)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【Fターム(参考)】