説明

放射線撮像装置、放射線撮像システム及び放射線撮像装置の製造方法

【課題】 撮像素子をシンチレータと基台とで挟んだ積層構成からなる放射線撮像装置において、撮像素子を機械的に安定な状態で撮像素子又はシンチレータの剥離を行うことが可能な放射線撮像装置を提供する。
【解決手段】 基台2と、撮像素子4と、シンチレータ6と、加熱により接着力が低下する性質を有し、基台2と撮像素子4とを固定するための第1の加熱剥離性接着部材3と、第1の加熱剥離性接着部材3と接着力が低下の温度が等しく、撮像素子4とシンチレータ6とを固定するための第2の加熱剥離性接着部材5と、を有し、基台2の単位時間当たりの熱伝達量とシンチレータ6の単位時間当たりの熱伝達量とが異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等の放射線を検出する放射線撮像装置、放射線撮像システム、放射線撮像装置の製造方法に関し、特に、医療画像診断装置、非破壊検査装置、分析装置等に用いられる放射線撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、一般的に流通している単結晶半導体ウエハは、ガラス基板に比べて小型である。そのため、単結晶半導体ウエハを用いて大面積の放射線撮像装置を形成するには、検出素子を形成した単結晶半導体ウエハを分割して複数の撮像素子チップを形成し、所望の面積となるような数の撮像素子チップを並べている。
【0003】
特許文献1には、低コスト化のため、チップ状の撮像素子を装置の一部となるベース基板に接着する前に、撮像素子の検査と、欠陥が発見された撮像素子の交換と、を行うことが記載されている。そして、検査と交換の後、撮像素子とベース基板とを接着固定することが記載されている。そして、放射線を撮像素子が感知可能な波長帯域の光に変換するシンチレータが、撮像素子のベース基板(基台)とは反対側に接着して配置されることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、液晶表示装置におけるリワークのため、液晶表示モジュールユニットとバックライトユニットの固定に用いる両面粘着シートであって、熱膨張性粒子を含有する熱剥離粘着層を用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−139569号公報
【特許文献2】特開2008−144116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら特許文献1の方法では、撮像素子とベース基板とを接着した後に、又は、撮像素子とシンチレータとを接着した後に、検査によって欠陥が発見された撮像素子又はシンチレータを交換することは難しい。例えば、複数の撮像素子を有する放射線検出装置において欠陥を有している撮像素子をベース基板から剥離する際に、欠陥を有していない撮像素子へ外力が加わることによって割れる可能性がある。また、接着剤を溶かすための溶剤によって欠陥を有していない撮像素子の特性低下が発生する可能性がある。また、ベース基板に撮像素子を接着した後になされた検査工程では撮像素子に欠陥が検知されず、シンチレータを撮像素子に接着した後になされた検査工程でなんらかの欠陥が検知された場合を鑑みる。この場合、シンチレータにのみ欠陥があると考えられるため、撮像素子からシンチレータを剥離しシンチレータを交換する必要があるが、撮像素子からベース基板を剥離する必要はない。この様に、撮像素子をシンチレータと基台とで挟んだ積層構成からなる放射線撮像装置において、シンチレータと撮像素子との間の剥離と、基台と撮像素子との間の剥離と、を同時に行わないことが望ましい場合がある。シンチレータと撮像素子との間の剥離と、基台と撮像素子との間の剥離と、が同時に行われた場合、撮像素子が何にも固定されていない機械的に不安定な状態となるため、撮像素子が剥離中に移動して何かに衝突し、撮像素子が割れる可能性がある。
【0007】
また、特許文献2は、液晶表示モジュールユニットとバックライトユニットを1対1で固定した液晶表示装置に対する単純な液晶表示モジュールユニットとバックライトユニットの間の剥離である。3以上の積層構成からなる多層構成の装置での剥離を想定していない。
【0008】
上記問題点に鑑み、本発明は、撮像素子をシンチレータと基台とで挟んだ積層構成からなる放射線撮像装置において、撮像素子を機械的に安定な状態で撮像素子又はシンチレータの剥離を行うことが可能な放射線撮像装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の放射線撮像装置は基台と、撮像素子と、シンチレータと、粒子加熱により接着力が低下する性質を有し、前記基台と前記撮像素子とを固定するための第1の加熱剥離性接着部材と、前記第1の加熱剥離性接着部材と接着力が低下する温度が等しく、前記撮像素子と前記シンチレータとを固定するための第2の加熱剥離性接着部材と、を有し、前記基台の単位時間当たりの熱伝導量と前記シンチレータの単位時間当たりの熱伝導量とが異なることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の放射線撮像システムは、前記放射線撮像装置と、前記放射線撮像装置からの信号を処理する信号処理手段と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明の放射線撮像装置の製造方法は、撮像素子を、粒子加熱により接着力が低下する性質を有する第1の加熱剥離性接着部材を介して基台と固定し、前記第1の加熱剥離性接着部材と接着力が低下する温度が等しい第2の加熱剥離性接着部材を介して前記基台とは単位時間当たりの熱伝導量が異なるシンチレータと固定する固定工程と、前記基台に固定された前記撮像素子を検査する検査工程と、を含む放射線撮像装置の製造方法であって、前記検査工程において前記撮像素子又は前記シンチレータが検査によって欠陥を有すると判断された場合、前記基台を介して前記第1の加熱剥離性接着部材を加熱すると共に前記シンチレータを介して前記第2の加熱剥離性接着部材を加熱することにより、前記基台及び前記シンチレータのうちの単位時間当たりの熱伝達量が大きい一方と前記撮像素子との間の剥離が行われ、前記基台及び前記シンチレータのうちの単位時間当たりの熱伝達量が小さい他方と前記撮像素子との間の剥離は行われない剥離工程を更に含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撮像素子をシンチレータと基台とで挟んだ積層構成からなる放射線撮像装置において、撮像素子とシンチレータとの間と撮像素子と基台との間で別々に剥離ができる。そのため、撮像素子をシンチレータと基台とで挟んだ積層構成からなる放射線撮像装置において、撮像素子を機械的に安定な状態で撮像素子又はシンチレータの剥離を行うことが可能な放射線撮像装置を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る放射線撮像装置の平面図及び断面図である。
【図2】本発明の加熱剥離性接着部材を説明するための断面図、平面図、温度−膨張倍率特性図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る放射線撮像装置の製造工程を説明する図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る基台を剥離する工程を説明する図である。
【図5】本発明の第1の実施形態に係るシンチレータを剥離する工程を説明する図である。
【図6】本発明の第2の実施形態に係る放射線撮像装置の平面図及び断面図である。
【図7】本発明の第2の実施形態に係る放射線撮像装置の平面図及び断面図である。
【図8】本発明の放射線撮像装置の放射線撮像システムへの応用例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明において放射線は、放射線崩壊によって放出される粒子(光子を含む)の作るビームであるα線、β線、γ線などの他に、同程度以上のエネルギーを有するビーム、例えばX線や粒子線、宇宙線なども、含まれるものとする。また、本発明において、光は可視光や赤外線を含むものである。
【0015】
(第1の実施形態)
以下に、図1(a)〜(c)を用いて本発明の第1の実施形態を説明する。なお、図1(a)は本発明の第1の実施形態に係る放射線撮像装置の主要構成要素の平面図であり、図1(b)は図1(a)のA−A’箇所の断面図であり、図1(c)は放射線撮像装置全体の図1(a)のA−A’箇所に相当する断面の一部を拡大した断面図である。
【0016】
図1(a)、(b)に示すように、放射線撮像装置1は、基台2と、基台2上に第1の加熱剥離性接着部材3を介して固定された4つの撮像素子4と、撮像素子4上に第2の加熱剥離性接着部材5を介して固定されたシンチレータ6と、を有する。撮像素子4には、撮像素子と外部回路(不図示)との間で信号を転送するための配線基板10が固定されている。4つの撮像素子4は、各撮像素子4が接触した際の電気的機械的な影響を低減するために間隔を有して基台2上に配置されている。なお、基台2に固定された撮像素子4は4つに限定されず、撮像素子4は1つ又は複数配されていればよい。撮像素子4は、スイッチ素子とセンサ部とを有する複数の画素を有する。例えば、CMOSセンサ、CCDセンサ、非晶質シリコン(以下、a−Siと略記)を用いたPIN型やMIS型センサとTFTにより構成された画素を有するa−Siセンサ、SOI(Silicon on insulator)センサ等である。配線基板10は、フレキシブル配線板(FPC)が好適に用いられるが、リジッド配線板を用いることができる。シンチレータ6は、X線などの放射線を撮像素子4が感知可能な光に変換するシンチレータ層8を少なくとも有する。シンチレータ6は、図1(b)に示すように、シンチレータ層8を支持するための基板7と、外部からの水分や衝撃からシンチレータ層8を保護するための保護層9と、を更に有することが望ましい。基板7は、アモルファスカーボン(a−C)(熱伝導率=5〜8(W/(m・K)))やアルミ(Al)(同=237(W/(m・K)))、樹脂(同=0.1〜0.2(W/(m・K)))などが用いられる。シンチレータ層8には、X線などの放射線を撮像素子4が感知可能な光に変換するCsI:Tl(CsIの熱伝導率=1(W/(m・K)))などの柱状結晶やGOSなどの粒子状結晶が用いられる。保護層9は、ポリパラキシリレンやホットメルト樹脂などが用いられる。基台2には、Al(熱伝導率=237(W/(m・K)))を用いることができる。しかしながら、他にもガラス(同=1(W/(m・K)))、アクリルなどの樹脂(同=0.2(W/(m・K)))、各種セラミック(同=3〜170(W/(m・K)))、金属(同=15〜427(W/(m・K)))などを適宜用いることができる。なお、本発明に用いられる第1の加熱剥離性接着部材3、第2の加熱剥離性接着部材5、シンチレータ6、及び、基台2に関して、詳細な説明は後述する。
【0017】
また、図1(c)に示すように、放射線撮像装置1の周囲には、外部からの水分などの浸入を低減するために、封止部材11が基台2とシンチレータ6との間に配置されている。そして、封止部材11に囲われて、撮像素子4が封止されており、配線基板10は封止部材11を貫通して配置されている。ここで、封止部材11は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂などが用いられ、光を吸収する黒色の樹脂であることが好ましい。なぜなら撮像素子4が感知可能な波長の光を基台2が透過する場合、その光が撮像素子4に迷光として入射することを防ぎ、画質の低下を低減するためである。本実施形態の放射線撮像装置1は、配線基板10を介して撮像素子4から出力された信号の処理を行う集積回路12を含む。また、放射線撮像装置1は更に、基台2と、複数の撮像素子4と、シンチレータ6と、集積回路12を収容する筐体15を含む。封止部材11と筐体15との間には緩衝部材13が、シンチレータ6と筐体15との間には、緩衝部材14が配置されている。緩衝部材13としては、撮像素子4が感知可能な波長帯域の光を吸収する、例えば黒色の樹脂を用いることが好ましい。これにより、筐体15内の迷光が撮像素子4に入射することを低減することができ、画質の低下を低減することができる。
【0018】
この加熱剥離性接着部材は、接着剤と、熱膨張性粒子を含む発泡剤と、によって構成される。第1の加熱剥離性接着部材3は基台2と複数の撮像素子4との固定と、リペアの際に基台2と撮像素子4との間の剥離とを可能とし、撮像素子4の交換を容易にするためにするために配置されている。第2の加熱剥離性接着部材5は、複数の撮像素子4とシンチレータ6との固定と、リペアの際にシンチレータ6と撮像素子4との間の剥離とを可能とし、撮像素子4又はシンチレータ6の交換を容易にするために配置されている。第1の加熱剥離性接着部材3及び第2の加熱剥離性接着部材5は熱反応型であり、所定の温度以上の熱に反応して接着力が低下する性質を有している。そして、第1の加熱剥離性接着部材3及び第2の加熱剥離性接着部材5は接着力が低下する温度が同じである。
【0019】
第1の加熱剥離性接着部材3及び第2の加熱剥離性接着部材5は、含有する発泡剤としての熱膨張性粒子が加熱により発泡及び/又は膨張し、加熱剥離性接着部材の表面に凹凸が形成され、被着物との接着面積が減少し接着性が低下する。そのため、撮像素子4をシンチレータ6や基台2から安全に剥離することが可能である。ここで、加熱剥離性接着部材の厚さと熱膨張性粒子の大きさは、上記メカニズムが発現するように好適に設定される。
【0020】
接着剤としては、ゴム系接着剤、アクリル系接着剤、スチレン・共役ジエンブロック共重合体系接着剤、シリコーン系接着剤などの適宜なものを用いることができ、紫外線硬化型のものなども用い得る。なお接着剤は、必要に応じて架橋剤、粘着性付与剤、可塑剤、充填剤、老化防止剤などの適宜な添加剤を配合したものであってもよい。より具体的には例えば、天然ゴムや各種の合成ゴムをベースポリマーとするゴム系接着剤、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、2−エチルヘキシル基、イソオクチル基、イソノニル基、イソデシル基、ドデシル基、ラウリル基、トリデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基の如き通例、炭素数が20以下のアルキル基を有するアクリル酸やメタクリル酸の如きアクリル酸系のアルキルエステル、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、グリシジル基の如き官能基含有基を有するアクリル酸やメタクリル酸等のエステル、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、N−メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、スチレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン、ビニルエーテルなどを成分とするアクリル系ポリマーをベースポリマーとするアクリル系接着剤などがあげられる。接着剤は、被着物に対する接着強度等の使用目的に応じて適宜に選択使用され、加熱により膨張する加熱剥離性接着部材は、その接着剤に発泡剤を配合することで形成することができる。
【0021】
発泡剤としては、上記の目的を達成できる種々のものを用いることができる。従って例えば、その接着剤の接着処理温度よりも高温で発泡及び/又は膨張する発泡剤が用いられる。用い得る発泡剤の例としては、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、亜硝酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、アジド類などの分解型の無機系発泡剤があげられる。またアゾ系化合物などの有機系発泡剤も用い得る。その例としては、トリクロロモノフルオロメタンやジクロロモノフルオロメタンの如きフッ化アルカン、アゾビスイソブチロニトリルやアゾジカルボンアミド、バリウムアゾジカルボキシレートの如きアゾ系化合物、パラトルエンスルホニルヒドラジドやジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホニルヒドラジド、4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、アリルビス(スルホニルヒドラジド)の如きヒドラジン系化合物、ρ−トルイレンスルホニルセミカルバジドや4,4’−オキシビス(ベンゼンスルホニルセミカルバジド)の如きセミカルバジド系化合物、5−モルホリル−1,2,3,4−チアトリアゾールの如きトリアゾール系化合物、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミンやN,N’−ジメチル−N,N’−ジニトロソテレフタルアミドの如きN−ニトロソ系化合物、その他の低沸点化合物などがあげられる。
【0022】
さらに、イソブタン、プロパン、ペンタンの如く容易にガス化して熱膨張性を示す適宜な物質をコアセルベーション法や界面重合法等で殻形成物質内に内包させた熱膨張性粒子も発泡剤として用いることができる。用いる熱膨張性粒子の平均粒径は、5〜50μmが一般的である。しかしながら、より微細な熱膨張性粒子も使用可能である。なお、本発明の熱膨張性粒子の粒径は、ふるい分け法によって測定した試験用ふるい目開きで表したもの、沈降法によるストークス相当径で表したもの、顕微鏡法による円相当径で表したもの及び光散乱法による球相当径、並びに電気的抵抗試験方法による球相当値で表したもの、のいずれかである。また、本発明の熱膨張性粒子の平均粒径は、上記の粒径を用いたメジアン径である。
【0023】
なお熱膨張性粒子を形成する殻形成物質としては、例えば塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスルホンなどが挙げられる。ただし、本発明において殻形成物質としては、熱溶融性で熱膨張性物質の膨張によって伸びて厚さが薄くなる物質や熱膨張で破壊する物質などからなっていればよい。
【0024】
また、第2の加熱剥離性接着部材5は、シンチレータ6が発光する光を撮像素子4が感知する必要があるため光透過性を有する。シンチレータ6からの光が可視光の場合は、可視光の透過率が高いことが必要であり、特にシンチレータ層8の最大の発光量を示す波長において透過率が90%以上であることが好ましい。また、第2の加熱剥離性接着部材5の厚みは、厚くなるほど画像の明りょうさを示す鮮鋭度(MTF)が低下するため、200μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、さらには画素ピッチより小さいことが好ましい。ただし、接着力も必要であるため、実用的には1μm以上50μm以下が好ましい。また、第2の加熱剥離性接着部材5に含まれる熱膨張性粒子の平均粒径は、画素ピッチPよりも小さいことが望ましい。熱膨張性粒子の平均粒径が撮像素子4の画素ピッチPより小さいと、熱膨張性粒子によって散乱した光は大きくは広がらない。そのため、得られる画像の鮮鋭度(MTF)の低下を抑制することができる。ここで、撮像素子4は光電変換素子とスイッチ素子とを含む画素が行列状に複数配置されたものであり、複数の画素が配置されるピッチが画素ピッチPである。
【0025】
図2(a),(b)は、使用前の第1又は第2の加熱剥離性接着部材の断面図である。図2(a)に示されるように、第1の加熱剥離性接着部材3は、両表面がセパレータ31、32で覆われており、使用に際してセパレータ31及び32を剥離する。第2の加熱剥離性接着部材5も同様に、図2(b)に示されるように、両表面がセパレータ51、52で覆われており、使用に際してセパレータ51及び52を剥離する。
【0026】
次に、図2(c)を用いて本発明の加熱剥離性接着部材の加熱による接着力低下のメカニズムを説明する。なお、ここでは熱膨張性粒子を用いた加熱剥離性接着部材を例に説明しており、図2(c)の左側は加熱前の加熱剥離性接着部材の平面図であり、右側は加熱後の加熱剥離性接着部材の平面図である。加熱前の第1の加熱剥離性接着部材3の表面に比べて加熱後では、多数の大きな凹凸が発生し、接着力が低下した加熱剥離性接着部材30となる。なお、第2の加熱剥離性接着部材5も同様である。
【0027】
次に、図2(d)を用いて第1及び第2の加熱剥離性接着部材に含まれる熱膨張性粒子の温度に対する膨張倍率の特性を説明する。ここで、図2(d)のSは熱膨張性粒子の体積膨張が開始する温度(膨張開始温度)であり、Mは熱膨張性粒子の体積が最大となる温度(最大膨張温度)である。すなわち、第1の加熱剥離性接着部材3と第2の加熱剥離性接着部材5は、膨張開始温度及び/又は最大膨張温度が同じ熱膨張性粒子を有しているものである。ただし、発泡剤として熱膨張性粒子を使用しなかったものについては、発泡剤の膨張開始温度が等しく、且つ、発泡剤の材料及び接着剤の構成が等しいものであればよい。つまり、本発明の第1の加熱剥離型接着部材3と第2の加熱剥離型接着部材5は、接着力が低下する温度が等しいものである。ここでは、代表的な例として、熱膨張性粒子を有する加熱剥離性接着部材の、加熱による接着力低下のメカニズムを以下に説明する。
【0028】
熱膨張性粒子を加熱していくと、まず殻形成物質の軟化が開始し、同時に内包されているガス化が容易な物質が発泡を始め内圧が上がり、粒子が膨張する状態になる。この時の温度が膨張開始温度Sである。最大の体積に膨張した時は内圧と殻形成物質の張力・外圧が釣り合って膨張状態が保持される。この時の温度が最大膨張温度Mである。更に加熱を続けると、薄くなった殻形成物質を発泡により発生したガスが透過拡散するため内圧よりも殻形成物質の張力と外圧が勝るために収縮が起きる。このような熱膨張性粒子を加熱剥離性接着部材に使用することにより、接着剤中の熱膨張性粒子が加熱によって膨張し、図2(d)を用いて説明したように、表面に凹凸が形成され、被着物との接着面積が減少し接着性が低下する。
【0029】
なお、第1の加熱剥離性接着部材3と第2の加熱剥離性接着部材5は、加熱により接着力が低下する温度が等しいものである。ここで、加熱により接着力が低下する温度が等しいとは、剥離される対象物に同じ方向で同じ力が加えられた状態で対象物が被着物から剥離される温度が第1の加熱剥離性接着部材3と第2の加熱剥離性接着部材5とで等しいことを指す。例えば、日本工業規格 JIS Z0237で規定される剥離試験方法において、対象物が被着物から剥離される温度が第1の加熱剥離性接着部材3と第2の加熱剥離性接着部材5とで等しいことを指す。なお、第1の加熱剥離性接着部材3と第2の加熱剥離性接着部材5の加熱により接着力が低下する温度は、シンチレータ6の特性が変化する温度以下であることが好ましい。このシンチレータ6の特性が変化する温度とは、シンチレータ層8の活性化温度、基板7のガラス転移点、保護層9のガラス転移点のうちの最も低い温度である。
【0030】
本発明では、第1及び第2の加熱剥離性接着部材と接するシンチレータ6及び基台2の単位時間当たりの熱伝達量が重要となる。ここで、単位時間当たりの熱伝達量とは、単位時間あたりに伝達する熱量である。熱伝導率をk(J/s・m・K)、部材の両端の温度差をΔT(K)、部材の厚さをL(m)、被熱伝達部材との接触面積をS(m)、加熱の時間をt(s)、とすると、熱量Qt(J)は以下の式で示される。
Qt=k×S×ΔT×t/L ・・・・式(1)
【0031】
ここで、対象物体である基台2及びシンチレータ6の両端の温度差ΔTは等しいと仮定でき、また加熱の時間tも等しいと仮定できるため、単位時間当たりの熱伝達量Qは、以下の式で示される。
Q=k×S/L ・・・式(2)
【0032】
そのため、シンチレータ6や基台2を構成する部材同士が接している面積が概略同じと仮定すると、各部材の単位時間当たりの熱伝達量は、各部材の熱伝導率をその部材の厚さで除算した値で規定できる。
【0033】
例えば、基板7として、熱伝導率が5(W/(m・K))で厚さが1mmのa−Cを用いると、単位時間当たりの基板7の熱伝達量は、5,000(J)となる。同様に、シンチレータ層8として、厚さが0.55mmのCsI:Tlを用いると、単位時間当たりのシンチレータ層の熱伝達量は、1,818(J)となる。また、保護層9として、厚さが0.0024mmのポリパラキシリレンを用いると、基板7との接触する部分とシンチレータ層8との接触する部分があるため、厚さは計0.0048mmとなり、単位時間当たりの保護層9の熱伝達量は、4,167(J)となる。従って、シンチレータ6全体の単位時間当たりの熱伝達量は、10,985(J)となる。
【0034】
一方、基台2として、例えば厚さが2mmのAlを用いると、単位時間当たりの基台2の熱伝達量は、118,500(J)となる。つまり、シンチレータ6の単位時間当たりの熱伝達量は、基台2の単位時間当たりの熱伝達量の約1/10以下と大きく異なっている。
【0035】
また、例えば、基台2として厚さを2mmのガラスを用いると、単位時間当たりの基台2の熱伝達量は、500(J)となる。つまり、シンチレータ6の単位時間当たりの熱伝達量は、基台2の単位時間当たりの熱伝達量の10倍以上と大きく異なっている。
【0036】
これらのような場合、恒温槽で基台2側とシンチレータ6側から同時に加熱されると、第1の加熱剥離性接着部材3に伝導される熱量と第2の加熱剥離性接着部材5に伝導される熱量に大きな差が生じる。伝導される熱量に大きな差があれば、加熱により接着力が低下する温度が等しい第1の加熱剥離性接着部材3と第2の加熱剥離性接着部材5との間で、それぞれの接着力が剥離可能な接着力以下に低下するタイミングが異なる。そのため、シンチレータ6と撮像素子4との間の剥離と、基台2と撮像素子4との間の剥離と、が別々に行われることとなる。それにより、撮像素子4が基台2及びシンチレータ6の一方から剥離された状態でも、基台2及びシンチレータ6の他方には固定されているため、撮像素子4が機械的に安定した状態で撮像素子4を交換する作業ができる。それにより、剥離中に撮像素子が何にも固定されていない機械的に不安定な状態となり、それによって剥離作業中に撮像素子が移動して何かに衝突して機械的に破壊されることが防止できる。このことは、撮像素子4が複数設けられている場合、特に好適である。また、シンチレータ6のみに欠陥があった場合には、撮像素子4から基台2を剥離することなくシンチレータ6のみを剥離することが可能になる。そのため、撮像素子4をシンチレータ6と基台2とで挟んだ放射線撮像装置において、撮像素子4が機械的に安定な状態で撮像素子4又はシンチレータ6の剥離を行うことが可能となる。
【0037】
次に、本発明で行われる撮像素子4の剥離を行う剥離工程を説明する。ここでは、基板7にa−C(単位時間当たりの熱伝達量=5,000(J))を用い、基台2にAl(同=118,500(J))を用いた形態で説明する。なお、本実施形態では、第1及び第2の加熱剥離性接着部材として、日東電工(株)製、商品名「リバアルファNo.3193MS」を用いた。
【0038】
まず、剥離する必要が生じた撮像素子4を含む放射線撮像装置を、恒温槽に投入し加熱する。恒温槽内では、シンチレータ6及び基台2には、撮像素子4に垂直で撮像素子から離れる方向に、同じ力がかけられている。Alからなる基台2は、a−Cからなる基板7を有するシンチレータ6よりも単位時間当たりの熱伝達量が大きく、熱は基台2を経て第1の加熱剥離性接着部材3に伝わり、図2(d)の膨張開始温度Sで膨張を開始し、第1の加熱剥離性接着部材3の接着力の低下が開始する。更に第1の加熱剥離性接着剤3に熱がかけられ、第1の加熱剥離性接着部材3の接着力が最も低下する最大膨張温度Mに到達する。基台2にかけられる力によって、膨張開始温度Sよりも高い温度で第1の加熱剥離性接着部材3の接着力が低下して、基台2と撮像素子4との間の剥離が行われる。この場合、シンチレータ6の単位時間当たりの熱伝達量は、基台2の単位時間当たりの熱伝達量を1とした時に、1/10以下の値で有ることが好ましい。ここで、熱はシンチレータ6を経て第2の加熱剥離性接着部材5にも伝わるが、シンチレータ6の単位時間当たりの熱伝達量が基台2の単位時間当たりの熱伝達量に比べて小さい。そのため、第1の加熱剥離性接着部材3が膨張開始温度S又は最大膨張温度Mに到達した時、第2の加熱剥離性接着部材5は膨張開始温度S又は最大膨張温度Mにまだ到達していない。そのため、第2の加熱剥離性接着部材5は第1の加熱剥離性接着部材3に比べて接着力が低下しておらず、シンチレータ6と撮像素子4との間の剥離は行われていない。
【0039】
その後、シンチレータ6と第2の加熱剥離性接着部材5と撮像素子4とが積層された形態で、第2の加熱剥離性接着部材5を加熱する。この時、撮像素子4のシンチレータ6とは反対側面を搬送手段21で吸着し、基板7面よりホットプレート等で加熱してもよい。また、恒温槽を用いる場合では、一度室温に戻した後に加熱してもよく、また、先の加熱と連続して更なる加熱を行ってもよい。熱はシンチレータ6を経て第2の加熱剥離性接着部材5に伝わり、図2(d)の膨張開始温度Sで膨張を開始し、第2の加熱剥離性接着部材5の接着力の低下が開始する。更に第2の加熱剥離性接着剤5に熱がかけられ、第2の加熱剥離性接着部材5は接着力が最も低下する最大膨張温度Mに到達する。シンチレータ6にかけられる力によって、膨張開始温度Sよりも高い温度で第2の加熱剥離性接着部材5の接着力が低下して、シンチレータ6と撮像素子4との間の剥離が行われる。
【0040】
このように、本発明では、接着力の低下する温度が等しい第1の加熱剥離性接着部材3と第2の加熱剥離性接着部材を用いて、撮像素子4に単位時間当たりの熱伝達量が異なる基台2とシンチレータ6とが接着される。そのため、基台2の第1の加熱剥離性接着部材3側の表面が、第1の加熱剥離性接着部材3が接着力の低下する温度に到達するタイミングと、シンチレータ6の第2の加熱剥離性接着部材5側の表面が、第2の加熱剥離性接着部材5が接着力の低下する温度に到達するタイミングと、が異なる。それにより、基台2を介して第1の加熱剥離性接着部材3を加熱すると共にシンチレータ6を介して第2の加熱剥離性接着部材5を加熱することにより、基台2と撮像素子4との間の剥離と、シンチレータ6と撮像素子4との間の剥離とを別々に行うことができる。撮像素子4が基台2及びシンチレータ6の一方から剥離された状態でも、基台2及びシンチレータ6の他方には固定されているため、撮像素子4が機械的に安定した状態で撮像素子4を交換する作業ができる。このことは、複数の撮像素子4のうちの少なくとも一つが欠陥を有する撮像素子である場合に好適である。
【0041】
また、基板7にa−C(単位時間当たりの熱伝達量=5,000(J))を用い、基台2にガラス(同=500(J))を用いた形態を説明する。なお、本実施形態では、第1及び第2の加熱剥離性接着部材として、日東電工(株)製、商品名「リバアルファNo.3193MS」を用いた。
【0042】
まず、放射線撮像装置を、恒温槽に投入し加熱する。恒温槽内では、シンチレータ6及び基台2には、撮像素子4に垂直で撮像素子から離れる方向に、同じ力がかけられている。a−Cからなる基板7を有するシンチレータ6は、ガラスを用いた基台2よりも単位時間当たりの熱伝達量が大きく、熱はシンチレータ6を経て第2の加熱剥離性接着部材5に伝わり、図2(d)の膨張開始温度Sで膨張を開始し、第2の加熱剥離性接着部材5の接着力の低下が開始する。更に第2の加熱剥離性接着剤5に熱がかけられ、第2の加熱剥離性接着部材5は接着力が最も低下する最大膨張温度Mに到達する。シンチレータ6にかけられる力によって、膨張開始温度Sよりも高い温度で第2の加熱剥離性接着部材5の接着力が低下して、シンチレータ6と撮像素子4との間の剥離が行われる。ここで、熱は基台2を経て第1の加熱剥離性接着部材3にも伝わるが、基台2の単位時間当たりの熱伝達量がシンチレータ6の単位時間当たりの熱伝達量に比べて小さい。そのため、第2の加熱剥離性接着部材5が膨張開始温度S又は最大膨張温度Mに到達した時、第1の加熱剥離性接着部材3は膨張開始温度S又は最大膨張温度Mにまだ到達していない。そのため、第1の加熱剥離性接着部材3は第2の加熱剥離性接着部材5に比べて接着力が低下しておらず、基台2と撮像素子4との間の剥離は行われていない。この場合、シンチレータ6の単位時間当たりの熱伝達量は、基台2の単位時間当たりの熱伝達量を1とした時に、10倍以上の値で有ることが好ましい。なお、このような剥離は、シンチレータ6が欠陥を有する場合に好適である。
【0043】
次に、図3を用いて放射線撮像装置1の製造方法を説明する。ここでは、基板7にa−C(単位時間当たりの熱伝達量=5,000(J))を用い、基台2にAl(同=118,500(J))を用いた形態で説明する。
【0044】
まず、図3(a)に示す吸着工程を行う。撮像素子4は、各撮像素子4の配置が乱れないように吸引によってステージ20に吸着されている。吸着工程では、ステージ20上に配置された撮像素子4を搬送手段21によって吸着する。
【0045】
次に、図3(b)に示す第1の固定工程を行う。ステージ22上に基台2が置かれている。搬送手段21に吸着された撮像素子4に第1の加熱剥離性接着部材3を配置する。第1の加熱剥離型接着層3は、図2(a)に示された状態からセパレータ31及び32を剥離して撮像素子4に配置される。第1の加熱剥離性接着部材3を介して、基台2に撮像素子4が固定される。ここでは第1の加熱剥離性接着部材3を撮像素子4側に配置しているが、基台2側に配置しても良い。ただし、複数の撮像素子を用いる形態においては、撮像素子4それぞれに対応して第1の加熱剥離性接着部材3を分割して撮像素子4側に配置した場合、複数の撮像素子4の夫々に対して別々に剥離を行うことも可能となり、より好ましい。なお、本明細書における「固定」とは、基台2又はシンチレータ6と撮像素子4との間に第1又は第2の加熱剥離性接着部材3のみが配置されて基台2又はシンチレータ6と撮像素子4が接着される構成に限定されるものではない。そのような構成に加え、他の材料が更に間に配置されて基台2又はシンチレータ6と撮像素子4とが第1又は第2の加熱剥離性接着部材3に加えて他の材料を介して接着される構成をも含むとものとする。この第1の固定工程が複数の撮像素子4毎に行われ、第1の加熱剥離性接着部材3によって基台2に複数の撮像素子4が固定される。
【0046】
次に、図3(c)に示す第1の検査工程を行う。第1の検査工程では、基台2に固定された複数の撮像素子4に可視光を照射してプローブ23から信号を読み取って検査を行う。この工程で、ある撮像素子4に欠陥が発見されると、第1の加熱剥離性接着部材3を加熱して欠陥を有する撮像素子を交換する。「欠陥を有する撮像素子」とは、実装中の静電気或いは異物の巻込み、またその他の原因で、その動作や取得画像が許容範囲外となる撮像素子を含む。
【0047】
次に、図3(d)に示す第2の固定工程を行う。シンチレータ6に第2の加熱剥離性接着部材5を配置する。第2の加熱剥離性接着部材5は、図2(b)に示された状態からセパレータ51及び52を剥離してシンチレータ6に配置される。第2の加熱剥離性接着部材5を介して、基台2に固定された複数の撮像素子4にシンチレータ6が固定される。ここでは第2の加熱剥離性接着部材5をシンチレータ6側に配置しているが、複数の撮像素子4側に配置して良い。特に、複数の撮像素子を用いる形態においては、撮像素子4それぞれに対応して第2の加熱剥離性接着部材5を分割して撮像素子4側に配置した場合、複数の撮像素子4の夫々に対して別々に剥離を行うことも可能となり、より好ましい。なお、第1の加熱剥離性接着部材3と第2の加熱剥離性接着部材5は、同じ材料を使用しているため、第2の加熱剥離性接着部材5の膨張開始温度は、第1の加熱剥離性接着部材3の膨張開始温度と同じである。
【0048】
次に、図3(e)に示す第2の検査工程を行う。第2の検査工程では、基台2と複数の撮像素子4とシンチレータ6とが固定された状態で、シンチレータ6に放射線を照射してプローブ23から信号を読み取って検査を行う。この時点で欠陥を有する撮像素子4か否を確認し、欠陥を有する撮像素子4と判断されれば当該撮像素子4を交換するために基台2と撮像素子4との間の剥離を行う。さらに、シンチレータ6の検査も行われる。シンチレータ6の欠陥による画質への影響があると判断されればシンチレータ6を交換するために撮像素子4とシンチレータ6との間の剥離を行う。基台2やシンチレータ6と撮像素子4との間の剥離を行う剥離工程は図4及び図5を用いて後で説明する。
【0049】
第2の検査工程で撮像素子4及びシンチレータ6の欠陥が確認されなかった場合、図3(f)に示す封止工程を行う。この封止工程では、少なくとも複数の撮像素子4の周囲を封止部材11によって封止する。この封止工程で配線基板10は封止部材11によって固定されるため、配線基板10は封止部材11を貫通した状態となる。樹脂11による封止によって、基台2とシンチレータ6が複数の撮像素子4と容易に剥離しない構造となり、放射線撮像装置1の強度が向上する。また、外部からシンチレータ6や撮像素子4及び各界面への水分や不純物の浸入を低減することが可能な構成となり、放射線撮像装置1の信頼性が向上する。
【0050】
次に、図4を用いて、基台2から複数の撮像素子4を剥離する工程を説明する。なお、ここでは、複数の撮像素子4に欠陥を有する撮像素子が含まれていた場合を説明する。まず、図4(a)に示すように、放射線撮像装置を、恒温槽に投入し加熱する。恒温槽内では、シンチレータ6及び基台2には、撮像素子4に垂直で撮像素子から離れる方向に、同じ力がかけられている。熱は基台2を経て第1の加熱剥離性接着部材3に伝わり、図2(d)の膨張開始温度Sで膨張を開始し、第1の加熱剥離性接着部材3の接着力の低下が開始する。更に第1の加熱剥離性接着剤3に熱がかけられ、第1の加熱剥離性接着部材3の接着力が最も低下する最大膨張温度Mに到達し、図4(b)に示すように第1の加熱剥離性接着部材3が接着力の低下した加熱剥離性接着部材30となる。基台2にかけられる力によって、膨張開始温度Sよりも高い温度で第1の加熱剥離性接着部材3の接着力が低下し、基台2と複数の撮像素子4の間の剥離が行われる。ここで、熱はシンチレータ6を経て第2の加熱剥離性接着部材5にも伝わるが、シンチレータ6の単位時間当たりの熱伝達量が基台2の単位時間当たりの熱伝達量に比べて小さい。そのため、第1の加熱剥離性接着部材3が膨張開始温度S又は最大膨張温度Mに到達した時、第2の加熱剥離性接着部材5は膨張開始温度S又は最大膨張温度Mにまだ到達していない。そのため、第2の加熱剥離性接着部材5は第1の加熱剥離性接着部材3に比べて接着力が低下しておらず、シンチレータ6と撮像素子4との間の剥離は行われていない。
【0051】
次に、図5を用いて、シンチレータ6から複数の撮像素子4を剥離する工程を説明する。なお、この剥離する工程は、まず、図5(a)に示すように、複数の撮像素子4をそれぞれ搬送手段21によって固定し、シンチレータ6側から加熱する。ここでは、シンチレータ6側から赤外線を照射している。熱はシンチレータ6を経て第2の加熱剥離性接着部材5に伝わり、図5(d)の膨張開始温度Sで膨張を開始する。更に第2の加熱剥離性接着剤5に熱がかけられ、第2の加熱剥離性接着部材5は接着力が最も低下する最大膨張温度Mに到達する。この時、図5(b)に示すように第2の加熱剥離性接着部材5が接着力の低下した加熱剥離性接着部材50となる。シンチレータ6にかけられる力によって、膨張開始温度Sよりも高い温度で第2の加熱剥離性接着部材5の接着力が低下して、シンチレータ6と撮像素子4との間の剥離が行われるなお、ここでは赤外線を照射してシンチレータ6側から加熱して剥離する工程を説明したが、本発明はそれに限定されるものではない。先に用いた恒温槽でそのまま加熱を続けて、シンチレータ6と撮像素子4との間の剥離を行ってもよい。
【0052】
以上のように、本発明によれば撮像素子4をシンチレータ6と基台2とで挟んだ放射線撮像装置において、撮像素子4が機械的に安定な状態で撮像素子4又はシンチレータ6の剥離を行うことが可能となる。また、加熱剥離性接着部材として接着剤に熱膨張性粒子が配合されたものを用いた場合には、撮像素子4を取り外した基台の表面は接着剤の残渣が少ないため、新たな撮像素子の基台への固定が容易になる。
【0053】
(第2の実施形態)
次に、図6を用いて第2の実施形態の放射線撮像装置を説明する。なお、第1の実施形態と同じ要件には同じ番号を付与し、同じ要件及び同じ工程については詳細な説明は省略する。なお、図6(a)は第2の実施形態の放射線撮像装置の主要構成要素の平面図であり、図6(b)は図6(a)のA−A’箇所の断面図であり、図6(c)は放射線撮像装置全体の図6(a)のA−A’箇所に相当する断面の一部を拡大した断面図である。
【0054】
本実施形態で第1の実施形態と異なる箇所は、第1の加熱剥離性接着部材3と基台2との間に、熱伝達量を制御するための樹脂層16を備えた点である。これは、基台2の表面を、熱伝達量を制御するための樹脂層16としたものとみることができ、つまり、基台2と樹脂層16とを合わせて基台とみなすことができる。ここで、樹脂層16は、熱吸収する塗料または、熱吸収するシート状の材料を用いている。熱吸収する塗料の材料としては、熱伝導率が高い材料が良く、カーボンナノチューブや金属等の熱伝導率が15(W/(m・K))以上のものが含まれている事が好ましい。この熱伝導率が高い材料をアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の高分子に分散させ、スクリーン印刷等により撮像素子4の基台2側の面に塗布し、乾燥させる。熱吸収するシート状の材料としては、高機能シリコーンゲルシートや、高熱伝導性シリコーンゴムシートを用いる事が出来る。この場合、熱吸収するシート材料は、撮像素子4側の面に接着機能が有るものが好ましい。また、この樹脂層16は、断熱する塗料、または、断熱するシート状の材料を用いたものでもよい。断熱する材料としては、熱伝導率が低い材料が良く、高分子材料のアクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等の熱伝導率が0.2(W/(m・K))以下のものが好ましい。断熱するシートの材料は、ポリオレフィン系樹脂シート、アクリルシート、ゴムシート、ナイロン等の熱伝導率が0.2(W/(m・K))以下の材料を用いる事が出来る。この場合、断熱するシート材料は、撮像素子4側面に接着機能が有るものが好ましい。
【0055】
これにより、基台2とシンチレータ6との間の単位時間当たりの熱伝達量の差をより大きくすることができるため、第1の加熱剥離性接着部材3による剥離と、第2の加熱剥離性接着部材5による剥離と、を確実に分けて行うことができる。
【0056】
また、塗布する領域や基台2との接触面積を制御することにより、樹脂層16の単位時間当たりの熱伝達量は所望の値に制御される。そして、図7に示すように、複数の撮像素子4の夫々に対応して樹脂層16a,bを分割して設けている。そして、複数の撮像素子4のうち、所定の撮像素子4と基台2との間と、異なる撮像素子4と基台2との間とで、熱伝達量が異なるように樹脂層16a,bを配置する。このようにすることで、複数の撮像素子4を基台2から所望の順番で剥離することが可能となり、安全かつ効率良く基台2から複数の撮像素子4を剥離することが可能となる。なお、このような場合、第1の加熱剥離性接着部材3は複数の撮像素子4にそれぞれ対応して複数設けられていることが望ましい。なお、図7(a)は第2の実施形態の他の例の放射線撮像装置の主要構成要素の平面図であり、図7(b)は図7(a)のA−A’箇所の断面図である。
【0057】
(第3の実施形態)
図8を用いて、本発明に係わる放射線撮像装置の放射線撮像システムへの応用例を説明する。X線チューブ(放射線源)6050で発生したX線6060は患者あるいは被験者6061の胸部6062を透過し、シンチレータ6と撮像素子4を含む本発明の放射線撮像装置6040に入射する。この入射したX線には患者6061の体内部の情報が含まれている。X線の入射に対応してシンチレータ6は発光し、これを光電変換して、電気的情報を得る。この情報はデジタル信号に変換され信号処理手段となるイメージプロセッサ6070により画像処理され制御室の表示手段となるディスプレイ6080で観察できる。なお、放射線撮像システムは、放射線撮像装置と、放射線撮像装置からの信号を処理する信号処理手段とを少なくとも有する。
【0058】
また、この情報は電話回線6090等の伝送処理手段により遠隔地へ転送でき、別の場所のドクタールームなど表示手段となるディスプレイ6081に表示もしくは光ディスク等の記録手段に保存することができ、遠隔地の医師が診断することも可能である。また記録手段となるフィルムプロセッサ6100により記録媒体となるフィルム6110に記録することもできる。また記録手段となるレーザプリンタによって紙に印刷することもできる。
【符号の説明】
【0059】
1 放射線撮像装置
2 基台
3 第1の加熱剥離性接着部材
4 撮像素子
5 第2の加熱剥離性接着部材
6 シンチレータ
7 基板
8 シンチレータ層
9 保護層
10 回路基板
11 樹脂
12 集積回路
13 緩衝部材
14 緩衝部材
15 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台と、
撮像素子と、
シンチレータと、
加熱により接着力が低下する性質を有し、前記基台と前記撮像素子とを固定するための第1の加熱剥離性接着部材と、
前記第1の加熱剥離性接着部材と接着力が低下する温度が等しく、前記撮像素子と前記シンチレータとを固定するための第2の加熱剥離性接着部材と、を有し、
前記基台の単位時間当たりの熱伝達量と前記シンチレータの単位時間当たりの熱伝達量とが異なることを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項2】
前記第1の加熱剥離性接着部材及び前記第2の加熱剥離性接着部材は、接着剤と、該接着剤に配合された発泡剤と、を有することを特徴とする放射線撮像装置。
【請求項3】
前記シンチレータの単位時間当たりの熱伝達量は、前記基台の単位時間当たりの熱伝達量を1とした時に、1/10以下、又は、10倍以上の値になることを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線撮像装置。
【請求項4】
前記基台は、熱伝達量を制御するための樹脂層を有し、前記樹脂層は前記撮像素子に接する基台2の表面を構成することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項5】
前記第1の加熱剥離性接着部材により複数の前記撮像素子が前記基台に固定されており、
前記樹脂層は、複数の前記撮像素子の夫々に対応して分割して設けられており、
複数の前記撮像素子のうち、所定の撮像素子と分割された前記樹脂層のうち前記所定の撮像素子に対応する樹脂層との間と、前記所定の撮像素子と異なる撮像素子と分割された前記樹脂層のうち前記異なる撮像素子に対応する樹脂層との間と、で熱伝達量が異なることを特徴とする請求項4に記載の放射線撮像装置。
【請求項6】
前記所定の撮像素子と前記所定の撮像素子に対応する樹脂層との間と、前記異なる撮像素子と前記異なる撮像素子に対応する樹脂層との間と、で接触面積が異なることを特徴とする請求項5に記載の放射線撮像装置。
【請求項7】
前記第1の加熱剥離性接着部材は、複数の前記撮像素子のそれぞれに対応して複数設けられていることを特徴とする請求項5又は6に記載の放射線撮像装置。
【請求項8】
前記第2の加熱剥離性接着部材は、前記シンチレータからの光を透過する光透過性を有することを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の放射線撮像装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の放射線撮像装置と、
前記放射線撮像装置からの信号を処理する信号処理手段と、を有する放射線撮像システム。
【請求項10】
撮像素子を、加熱により接着力が低下する性質を有する第1の加熱剥離性接着部材を介して基台と固定し、前記第1の加熱剥離性接着部材と接着力が低下する温度が等しい第2の加熱剥離性接着部材を介して前記基台とは単位時間当たりの熱伝達量が異なるシンチレータと固定する固定工程と、
前記基台及び前記シンチレータに固定された前記撮像素子を検査する検査工程と、
を含む放射線撮像装置の製造方法であって、
前記検査工程において前記撮像素子が検査によって欠陥を有すると判断された場合、前記基台を介して前記第1の加熱剥離性接着部材を加熱すると共に前記シンチレータを介して前記第2の加熱剥離性接着部材を加熱することにより、前記基台及び前記シンチレータのうちの単位時間当たりの熱伝達量が大きい一方と前記撮像素子との間の剥離が行われ、前記基台及び前記シンチレータのうちの単位時間当たりの熱伝達量が小さい他方と前記撮像素子との間の剥離は行われない剥離工程を更に含むことを特徴とする放射線撮像装置の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−145474(P2012−145474A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−4650(P2011−4650)
【出願日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】