説明

放射線断層撮影装置

【課題】消滅γ線対の発生位置をマッピングする放射線断層撮影装置において、被検体に各種装置を装着した状態であっても被検体の体動に影響されずに鮮明な画像が取得できる放射線断層撮影装置を提供する。
【解決手段】本発明の放射線断層撮影装置は、被検体に付設される放射性のプローブホルダ6を備えている。位置情報補正部22は、消滅γ線対が検出されたときの検出器リング12に対する被検体の相対位置をプローブホルダ6の位置で認識して消滅γ線対の発生位置を示す位置情報を補正する。これにより、被検体の体動に影響されずに鮮明な画像が取得できる。また、本発明においては、放射線を利用していることから、プローブホルダ6が被検体に装着された各種装置によって視認できない場合であっても、確実に被検体の体動を監視することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被検体から照射された放射線をイメージングする放射線断層撮影装置に関し、特に、被検体の体動を考慮に入れて撮影することができる放射線断層撮影装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の放射線断層撮影装置の具体的な構成について説明する。従来の放射線断層撮影装置50は、図8に示すように被検体Mを載置する天板52と、消滅γ線対を検出する検出器リング62とを備えている。検出器リング62の開口は天板52ごと被検体Mを挿入できるようになっている。
【0003】
従来の放射線断層撮影装置50を用いて、被検体Mにおける放射性薬剤の分布を知ろうとする場合は、被検体Mが検出器リング62の開口の内部に存する位置に移動される。そして、被検体Mから放出された消滅γ線対の発生位置をイメージングして放射線断層画像が取得される。この様な放射線断層撮影装置をPET(positron emission tomography)装置と呼ぶ(特許文献1参照)。
【0004】
PET装置によって消滅γ線対を検出することによって取得されるPET画像は、被検体Mの断層画像であり、消滅γ線対の発生の強度がマッピングされたものである。このPET画像を解析することにより、体内から出射される消滅γ線対がどの程度強いものであるかを測定することができる。実際の測定方法は、PET画像において、関心領域を設定することにより、この関心領域内部でどの程度消滅γ線対が発生したかを知るというものである。関心領域内部で消滅γ線対が強く表れている部分は、放射性薬剤が多く蓄積しており、病巣となっている可能性がある。
【0005】
PET装置による消滅γ線対の検出には時間がかかる。従って、検査中に被検体Mが体動する場合がある。被検体Mが検査中に動いてしまうと、これに合わせて放射性薬剤の蓄積部も移動してしまう。すると、PET装置は、同じ蓄積部から放射された消滅γ線対を異なる位置から発生したものと誤認してしまい、断層画像が不鮮明となる。つまり、被検体Mが移動してしまうと、診断に好適な断層画像を取得することができなくなってしまう。
【0006】
この様な不都合を取り除く目的で、従来構成によれば、被検体Mの体動を観察するカメラ63が設けられている。このカメラ63は、検査中、被検体Mに付設された反射体で構成されるマーカ64の位置の変化を検出し続ける。被検体Mが体動し、被検体Mの位置が検査中にズレると、マーカ64の位置もそれに追従して移動する。すると、カメラは63は、マーカ64の移動を検出して、マーカ64が移動する様子から被検体Mの移動量と移動方向を示す移動データを取得する。PET装置は、このカメラ63の取得した被検体Mの移動データに基づいて消滅γ線対の発生位置を検出器リング62に対して相対的にズラしながら消滅放射線対の検出を続け、断層画像を取得する。このように、従来のPET装置は、マーカ64の移動を考慮しながら消滅γ線対の発生位置を決定するので、被検体Mの体動に影響されずに鮮明な断層画像を取得できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−209133号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の構成によれば次のような問題点がある。
すなわち、従来の構成によれば、被検体Mにガスマスクや、その他の装置を装着した状態で消滅γ線対の検出を行う場合に、マーカ64の移動を正確に追尾することができなくなるという問題がある。被検体Mの体動により、カメラ63から見てマーカ64が被検体Mに装着された装置に隠れてしまうと、カメラ63は、マーカ64を見失い、被検体Mの移動を知ることができなくなってしまう。すると、PET装置は被検体Mの移動の様子を知り得ない状態で断層画像を取得することになる。この様に、体動の様子が反映されない状態で取得された断層画像は不鮮明なものとなってしまう。
【0009】
被検体Mにガスマスクを装着する検査は、被検体Mの酸素代謝を診断したい場合に行われる。この様な検査を従来装置でしようとすると、被検体Mの体動により不鮮明となった断層画像しか得られない。同様の不都合は、近赤外光イメージング装置を装着した状態での検査でも発生する。
【0010】
本発明は、この様な事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、消滅放射線対の発生位置をマッピングする放射線断層撮影装置において、被検体に各種装置を装着した状態であっても被検体の体動に影響されずに鮮明な画像が取得できる放射線断層撮影装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上述の課題を解決するために次のような構成をとる。
すなわち、本発明に係る放射線断層撮影装置は、放射線検出器がリング状に配列されることによって構成される消滅放射線対を検出する検出器リングと、消滅放射線対を放射するとともに、被検体に付設された放射線発生手段と、検出器リングに対する放射線発生手段の位置を検出する発生体移動検出手段と、検出器リングから出力された検出データを基に被検体内から発生した消滅放射線対の発生位置を示す位置情報を取得する発生位置取得手段と、被検体内から発したある消滅放射線対が検出器リングに入射したときの放射線発生手段の位置を基にその消滅放射線対の位置情報を補正することにより、被検体が検出器リングに対して移動しなかったときの消滅放射線対の位置情報を取得する補正手段と、補正された位置情報を基に、消滅放射線対の発生位置が空間的にマッピングされた断層画像を取得する画像取得手段とを備えることを特徴とするものである。
【0012】
[作用・効果]本発明の放射線断層撮影装置は、被検体に付設される放射線発生手段を備えている。この放射線発生手段は、被検体の体動に応じて移動することになるので、放射線発生手段をモニタリングすれば被検体の体動を逐次監視することができる。補正手段は、消滅放射線対が検出されたときの検出器リングに対する被検体の相対位置を検出器リングに対する放射線発生手段の位置で認識する。そして、補正手段は、消滅放射線対の発生位置を示す位置情報を被検体が体動により移動しなかったときのものとする補正を行う。これにより、被検体の体動に影響されずに鮮明な画像が取得できる。また、本発明においては、放射線を発生する放射線発生手段をモニタリングすることになるので、放射線発生手段が被検体に装着された各種装置によって視認できない場合であっても、確実に被検体の体動を監視することができる。
【0013】
また、上述の放射線断層撮影装置において、放射線発生手段は、単一の平面を規定する3つの線源を有すればより望ましい。
【0014】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。放射線発生手段がある平面を規定する3つの線源を有するようにすれば、被検体の移動量のみならず移動方向も確実に知ることができる。したがって、上述の構成によればより確実に被検体の体動を正確に反映して断層画像を生成することができる。
【0015】
また、上述の放射線断層撮影装置において、線源は、消滅放射線対を生じる放射性物質が封入されたものであればより望ましい。
【0016】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。線源が消滅放射線対を生じる放射性物質が封入されたものであれば、検出器リングは被検体のイメージングと同じ原理で放射線発生手段の位置を検出することができる。
【0017】
また、上述の放射線断層撮影装置において、放射線発生手段は、被検体の頭頂部に設けられていればより望ましい。
【0018】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。放射線発生手段が被検体の頭頂部に設けられていれば、断層画像から放射線発生手段が写り込んだ部分を容易に画像処理によりトリミングして被検体が写り込んだ部分のみで構成される画像を取得することができる。
【0019】
また、上述の放射線断層撮影装置において、放射線発生手段は、近赤外光イメージング装置のプローブホルダとなっていればより望ましい。
【0020】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。近赤外光イメージング装置のプローブホルダは被検体の頭頂部を覆うように設けられるので、これを放射線発生手段として利用することができる。
【0021】
また、上述の放射線断層撮影装置において、頭部検査用であればより望ましい。
【0022】
[作用・効果]上述の構成は、本発明のより具体的な構成を示したものとなっている。本発明を頭部検査用とすれば、頭頂部に放射線発生手段を設けるだけで本発明の効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の放射線断層撮影装置は、被検体に付設される放射線発生手段を備えている。補正手段は、消滅放射線対が検出されたときの検出器リングに対する被検体の相対位置を検出器リングに対する放射線発生手段の位置で認識して消滅放射線対の発生位置を示す位置情報を補正する。これにより、被検体の体動に影響されずに鮮明な画像が取得できる。また、本発明においては、放射線発生手段が被検体に装着された各種装置によって視認できない場合であっても、確実に被検体の体動を監視することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。
【図2】実施例1に係るプローブホルダの構成を説明する斜視図である。
【図3】実施例1に係るプローブホルダの構成を説明する平面図である。
【図4】実施例1に係るコイン線源の構成を説明する斜視図である。
【図5】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明するフローチャートである。
【図6】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図7】実施例1に係る放射線断層撮影装置の動作を説明する模式図である。
【図8】従来構成の放射線断層撮影装置の構成を説明する断面図である。
【実施例1】
【0025】
以下、本発明に係る放射線断層撮影装置の実施例を図面を参照しながら説明する。実施例1におけるγ線は、本発明の放射線の一例である。
【0026】
<放射線断層撮影装置の構成>
図1は、実施例1に係る放射線断層撮影装置の構成を説明する機能ブロック図である。実施例1に係る放射線断層撮影装置9は、被検体Mを載置する天板10と、天板10をその長手方向(z方向)から導入させる開口を有するガントリ11と、ガントリ11の内部に設けられた天板10をz方向に導入させるリング状の検出器リング12とを備えている。検出器リング12に設けられた開口は、z方向(天板10の長手方向、被検体Mの体軸方向)に伸びた円筒形となっている。したがって、検出器リング12自身もz方向に延伸している。ガントリ11は、被検体Mの頭部が収納できる程度の大きさの開口が設けられている。この開口に被検体Mの頭部が挿入されることになる。従って、放射線断層撮影装置9は、頭部検査用となっている。
【0027】
天板10は、ガントリ11(検出器リング12)の開口をz方向から貫通するように設けられているとともに、z方向に沿って進退自在となっている。この様な天板10の摺動は、天板移動機構15によって実現される。天板移動機構15は、天板移動制御部16によって制御される。天板移動制御部16は、天板移動機構15を制御する天板移動制御手段である。天板10は、その全域が検出器リング12の外側に位置している位置から摺動して、検出器リング12の開口にその一方側から導入される。なお、天板10を固定した状態でガントリ11を移動させることにより、被検体Mを検出器リング12に導入してもよい。この場合、ガントリ11を移動させる移動機構とこれを制御する移動制御部とが必要となる。
【0028】
ガントリ11の内部には、被検体Mから放射される消滅γ線対を検出する検出器リング12が備えられている。この検出器リング12は、被検体Mの体軸方向に伸びた筒状である。リング状の吸収体13a,13bは、検出器リング12の中心軸方向(z方向)の両端を覆うように設けられている。吸収体13a,13bは、γ線を透過しにくい部材で生成されており、検出器リング12の外部から内部にγ線が入射するのを防いでいる。吸収体13a,13bは、被検体Mの断層画像の撮影に邪魔となる検出器リング12の外部で生じたγ線を除去する目的で設けられている。この吸収体13a,13bの内径は、検出器リング12の内径よりも小さくなっている。
【0029】
クロック19は、検出器リング12にシリアルナンバーとなっている時刻情報を送出する。検出器リング12から出力される検出データは、γ線をどの時点で検出されたかという時刻情報が付与され、後述の同時計数部20に入力されることになる。同時計数部20は、本発明の発生位置取得手段に相当する。
【0030】
同時計数部20には、検出器リング12から出力された検出データが送られてきている。検出器リング12に同時に入射した2つのγ線は、被検体内の放射性薬剤に起因する消滅γ線対である。同時計数部20は、検出器リング12を構成するシンチレータ結晶のうちの2つの組み合わせ毎に消滅γ線対が検出された回数をカウントし、この結果を位置情報補正部22に送出する。なお、同時計数部20による検出データの同時性の判断は、クロック19によって検出データに付与された時刻情報が用いられる。
【0031】
また、同時計数部20による同時計数は、上記のクロック19による時刻情報を用いず、放射線を検出した時点に発生させるパルス信号を用いてAND回路で判定するような、アナログ式の計数であっても構わない。
【0032】
ホルダ移動検出部21は、検出器リング12に対するプローブホルダ6の位置を検出する目的で設けられている。位置情報補正部22は、検出器リング12に対するプローブホルダ6の位置に基づいて被検体内から発した消滅γ線対の位置情報を補正する目的で設けられている。この具体的な動作は後述のものとする。プローブホルダ6は、本発明の放射線発生手段に相当し、位置情報補正部22は、本発明の補正手段に相当する。ホルダ移動検出部21は、本発明の発生体移動検出手段に相当する。
【0033】
画像生成部23は、同時計数部20が出力する各種データを用いて放射性薬剤の分布を示す断層画像Dを生成する目的で設けられている。トリミング部24は、断層画像Dに写り込んだ後述のコイン線源5の像を画像処理によりトリミングする目的で設けられている。画像生成部23は、本発明の画像取得手段に相当する。
【0034】
近赤外光イメージング装置42に関係する各部について説明する。図2に示す近赤外光発生部7は、近赤外光を発生する光源であり、被検体Mの頭頂部に設けられた送光プローブ6cに近赤外光を供給する。近赤外光発生部7と送光プローブ6cとは、光ファイバーケーブルで接続されている。
【0035】
近赤外光受光部8は、近赤外光を測定する計測器であり、被検体Mの頭頂部に設けられた受光プローブ6dからの近赤外光を検出する。近赤外光受光部8と受光プローブ6dとは、光ファイバーケーブルで接続されている。
【0036】
プローブホルダ6は、被検体Mの頭頂部を覆うように付設されて設けられている。このプローブホルダ6は、図3に示すように、プローブの差し込み口6aがマトリックス状に設けられた可撓性のシートとなっている。各差し込み口6aには、これを囲むようにリング状の弾性体6bが設けられている。プローブを差し込み口6aに差し込むと、プローブは弾性体6bに当接することになる。
【0037】
プローブホルダ6にプローブを差し込んで、被検体Mに装着した状態を示したのが図2である。プローブホルダ6の差し込み口6aには、送光プローブ6cまたは受光プローブ6dのいずれかが差し込まれる。なお、プローブホルダ6を被検体Mに装着すると、可撓性のプローブホルダ6は、被検体Mの頭頂部の形状に倣って変形する。したがって、プローブホルダ6に差し込まれた各プローブは、図2のように被検体Mの頭頂部から放射状に伸びるような概観となる。プローブホルダ6にはベルトBが設けられており、このベルトBを被検体Mの顎に掛けることにより、被検体Mにプローブホルダ6を固定する。
【0038】
近赤外光イメージング装置42の動作について簡単に説明する。近赤外光発生部7において近赤外光が発生すると、近赤外光は光ファイバーケーブルを通じて送光プローブ6cに送られる。送光プローブ6cは、被検体Mの頭頂部に向けて近赤外光を射出する。この近赤外光は、被検体Mの内部で散乱する。
【0039】
受光プローブ6dは、被検体Mの頭頂部で散乱した近赤外光を受光させ、この近赤外光を光ファイバーケーブルを通じて近赤外光受光部8に送出する。近赤外光受光部8は、散乱近赤外光の増減から被検体Mの頭頂部における血中の酸素化ヘモグロビンの分布を示す分布図を生成し、これを近赤外光イメージング装置42が有する表示部に表示する。
【0040】
なお、本発明におけるプローブホルダ6には、図3に示すように、消滅γ線対を発生する3つのコイン線源5が設けられている。3つのコイン線源5は、マトリックス状に配列された差し込み口6aの間に設けられている。しかも、3つコイン線源5は、プローブホルダ6において一直線上に並ばない位置に設けられている。したがって、コイン線源5はある定まった平面上に属していることになる。コイン線源5は、本発明の線源に相当する。
【0041】
コイン線源5は、図4に示すように、円盤状のプラスチック製で、内部に消滅γ線対を生じる放射性物質で構成される点線源が封入されている。コイン線源5は、円形となっている底面でプローブホルダ6に接着されている。したがって、実施例1のプローブホルダ6は、消滅γ線対を発生する放射線発生手段となっている。
【0042】
放射線断層撮影装置9は、各部を統括的に制御する主制御部41と、放射線断層画像を表示する表示部36とを備えている。この主制御部41は、CPUによって構成され、各種のプログラムを実行することにより、各部16,19,20,21,22,23,24を実現している。なお、上述の各部はそれらを担当する制御装置に分割されて実現されてもよい。操作卓35は、術者の指示を入力させるためのものである。記憶部37は、放射線断層撮影装置9が断層画像Dを生成するまでに必要な設定値、検出データを記憶するものである。
【0043】
<放射線断層撮影装置の動作>
次に、実施例1に係る放射線断層撮影装置9の動作について説明する。放射線断層撮影装置9を用いて被検体Mの頭部の診断を行うには、図5に示すように、被検体Mが天板10に載置され(載置ステップS1),被検体Mの頭部から放射される消滅γ線対の検出が開始される(検出開始ステップS2)。そして、プローブホルダ6に設置されたコイン線源5の移動が検出され(線源移動検出ステップS3),消滅γ線対の位置情報が補正される(補正ステップS4)。最後に、補正された位置情報を基に断層画像が生成される(画像生成ステップS5)。以降、これらの各ステップについて順を追って説明する。
【0044】
<載置ステップS1>
まず、被検体Mに放射性薬剤が注射される。この時点から所定の時間が経過した時点で、被検体Mが天板10に載置され、被検体Mの頭部が検出器リング12に挿入される。図1は、この動作が終了した時点を示している。
【0045】
<検出開始ステップS2>
術者が操作卓35を通じて、消滅γ線対の検出の指示を与えると、検出器リング12は、同時計数部20に検出データの送出を開始する。このとき送出された検出データは、γ線の検出器リング12における入射位置、エネルギーデータ、および入射時間が関連したデータセットとなっている。同時計数部20は、消滅γ線対が検出される事象である同時イベントを計数する。
【0046】
消滅γ線対の発生位置を示す位置情報について説明する。同時計数部20は、図6に示すように、検出器リング12の2つの位置R1,R2に同時に2つのγ線が入射したときに、この位置R1,R2を結ぶ線を特定し、LOR(Line Of Response)を算出する。このLORの直線上のいずれかに消滅γ線対が発生した消滅点Pが存在していることにある。このLORが消滅γ線対の発生位置を示す位置情報となっている。
【0047】
<線源移動検出ステップS3>
同時計数部20が出力したLORなどの各データは、ホルダ移動検出部21に送られる。ホルダ移動検出部21は、同時計数部20から出力された位置情報を基に、検出器リング12に対するプローブホルダ6の位置の経時的な位置の変化を検出する。具体的には、ホルダ移動検出部21は、プローブホルダ6に配置された3つのコイン線源5の空間的な位置関係を逐次算出する。この際、消滅γ線対は、コイン線源5以外にも被検体内部からも発生しているので、ホルダ移動検出部21は、同時計数部20が出力した位置情報のうちコイン線源5に関するものを選択して使用する構成になっている。具体的には、ホルダ移動検出部21は、検出器リング12が視野内で最も強く消滅γ線対を検出した3カ所についてのLORをコイン線源5に関するものとしてプローブホルダ6の位置を検出する。コイン線源5には、被検体内から発生する消滅γ線対の発生量よりも多くの消滅γ線対を発生するような放射性物質が封入されている。したがって、ホルダ移動検出部21は、確実にコイン線源5の位置を知ることができるようになっている。
【0048】
<補正ステップS4>
位置情報補正部22には、同時計数部20が出力した被検体内から発した消滅γ線対に関するLORと、ホルダ移動検出部21が出力したプローブホルダ6の移動に関するデータとが送られてきている。位置情報補正部22は、被検体内から発したある消滅γ線対が検出器リング12に入射したときに検出されたプローブホルダ6の位置を基に、その消滅γ線対が検出されたときの検出器リング12に対する被検体Mの相対位置を認識して、その消滅γ線対の位置情報を補正することにより、被検体Mが体動により移動しなかったときの消滅γ線対の位置情報を取得する。
【0049】
位置情報補正部22の動作を具体的に説明する。図7(a)は、検査開始時点で取得されたLORを示している。このLORに関する消滅γ線対が検出器リング12に検出された時点における3つのコイン線源5(正確には、内部に封入された放射性物質)の位置は検出器リング12により知ることができる。そのときのコイン線源5の位置は、図7(a)に示されている。3つのコイン線源5で規定される平面をFとする。
【0050】
図7(b)は、検査開始からしばらく時間が経過した後に取得されたLORを示している。このLORが取得される時には、被検体Mが体動により動いており、検出器リング12と被検体Mの位置関係が検査開始時点の図7(a)と比べて変化している。検出器リング12から見て被検体Mが移動したということは、被検体Mから放射される消滅γ線対の発生位置もこれに伴って移動したことになる。いま、図7(b)におけるLORの位置・方向は、被検体Mから見て図7(a)のLORと同一のものとなっているものとする。ところが、検出器リング12から見ると、この2つのLORは、被検体Mの体動の影響により、互いに位置・方向が異なるものとなってしまっている。この様に、被検体内の同一位置を示すLORが体動により同一の方向を示さなくなるので、後に取得される断層画像は、像がボケた不鮮明なものとなってしまう。
【0051】
位置情報補正部22は、被検体Mの体動に応じてLORを補正する。この補正には、コイン線源5の位置が参照される。コイン線源5は、被検体Mの頭頂部に結びつけられたプローブホルダ6に配置されていることからすれば、被検体Mの体動に追従するように移動することになる。コイン線源5は、体動に合わせて図7(a)の位置から図7(b)の位置まで移動したとする。すると、検出器リング12は、コイン線源5の位置を検出することにより、被検体Mの頭部の位置を逐次検出できることになる。図7(b)に関するLORが検出器リング12で検出された時点でのコイン線源5の位置は、図7(b)に示されている。
【0052】
位置情報補正部22が行うLORの補正について具体的に説明する。図7(c)は、LORを位置情報補正部22が補正する様子を示している。図7(b)で示したLORおよび平面Fは、図7(c)においては、破線で示している。位置情報補正部22は、破線の平面Fを規定するコイン線源5の位置を実線に示す検査開始時点におけるコイン線源5の位置まで移動させる。そして、このコイン線源5の移動の際、コイン線源5と相対位置を保った状態で破線のLORを実線のLORまで仮想的に移動させる。この様にして移動されたLORは、被検体Mが体動により移動しなかったときの消滅γ線対の位置情報となっている。従って、補正後のLORは、検出器リング12に対する位置・方向が図7(a)におけるLORのものと一致することになる。この様に、位置情報補正部22は、コイン線源5の位置を基にこのコイン線源5を検出した時点におけるLORを補正する。
【0053】
コイン線源5がプローブホルダ6において、ある平面を規定するように配置されている理由について説明する。3つのコイン線源5のうちの2つを直線で結んでいくと、3つのコイン線源5は、ある三角形の頂点に位置し、1列に配列してはいない。仮に3つのコイン線源5がある直線に沿って1列に設けられていたとする。この状態で被検体Mがその直線を軸に回動するように移動したとすると、被検体Mが検出器リング12に対して移動しているにも関わらず、コイン線源5の位置は変動しないことになる。つまり、3つのコイン線源5をプローブホルダ6に直列に配置したのでは被検体Mの体動を検出器リング12が検出できない場合が発生する。本実施例によれば、コイン線源5が単一の平面を規定するようにプローブホルダ6に配置されているので、被検体Mがどのような動き方をしても、コイン線源5は必ず移動することになる。これによって、検出器リング12は、被検体Mの体動を確実に検出することができる。
【0054】
コイン線源5が被検体Mの頭頂部に設けられている理由について説明する。コイン線源5は、被検体内と比べて強い放射線を放射するので、断層画像Dにおいて目立つ。したがって、コイン線源5は、断層画像Dの端部に現れるようにする方がコイン線源5によって被検体内の断層像が乱されないので診断に都合がよい。コイン線源5を被検体Mの頭頂部に設ければ、コイン線源5は確実に断層画像Dの端部に現れるので、断層画像Dは、より診断に適したものとなるのである。また、トリミング部24による画像処理にとっても断層画像Dの端部をトリミングすればよいので都合がよい。
【0055】
<画像生成ステップS5>
補正後のLORは、画像生成部23に送られる。画像生成部23は、補正後のLORを基に放射性薬剤の分布を示す消滅γ線対の発生位置が空間的にマッピングされた断層画像Dを生成する。トリミング部24は、断層画像Dの端部に写り込んだコイン線源5の像を画像処理でトリミングする。画像処理後の断層画像Dが表示部36に表示されて検査は終了となる。
【0056】
以上のように、実施例1の放射線断層撮影装置は、被検体Mに付設される放射性のプローブホルダ6を備えている。このプローブホルダ6は、被検体Mの体動に応じて移動することになるので、プローブホルダ6をモニタリングすれば被検体Mの体動を逐次監視することができる。位置情報補正部22は、消滅γ線対が検出されたときの検出器リング12に対する被検体Mの相対位置を検出器リング12に対するプローブホルダ6の位置で認識する。そして、位置情報補正部22は、消滅γ線対の発生位置を示す位置情報(LOR)を被検体Mが体動により移動しなかったときのものとする補正を行う。これにより、被検体Mの体動に影響されずに鮮明な画像が取得できる。また、実施例1においては、消滅γ線対を発生するプローブホルダ6をモニタリングすることになるので、プローブホルダ6が被検体Mに装着された各種装置によって視認できない場合であっても、確実に被検体Mの体動を監視することができる。
【0057】
また、上述のように、プローブホルダ6が単一の平面を規定する3つのコイン線源5を有するようにすれば、被検体Mの移動量のみならず移動方向も確実に知ることができる。したがって、上述の構成によればより確実に被検体Mの体動を正確に反映して断層画像Dを生成することができる。
【0058】
上述のように、コイン線源5が消滅γ線対を生じる放射性物質が封入されたものであれば、検出器リング12は被検体Mのイメージングと同じ原理でプローブホルダ6の位置を検出することができる。
【0059】
そして上述のように、プローブホルダ6が被検体Mの頭頂部に設けられていれば、断層画像Dからプローブホルダ6が写り込んだ部分を容易に画像処理によりトリミングして被検体Mが写り込んだ部分のみで構成される画像を取得することができる。
【0060】
本発明は、上述の構成に限られず、下記のように変形実施することができる。
【0061】
(1)本発明は、頭部検診用に限定されずに、被検体Mの全身を診断する検査の全般に応用することができる。
【0062】
(2)本発明のコイン線源5は、必ずしもプローブホルダ6に配置される必要はなく、専用の固定具によって被検体Mに付設されるようにしてもよい。付設の場所も被検体Mの頭頂部に限られることはない。
【符号の説明】
【0063】
5 コイン線源(線源)
6 プローブホルダ(放射線発生手段)
12 検出器リング
20 同時計数部(発生位置取得手段)
21 ホルダ移動検出部(発生体移動検出手段)
22 位置情報補正部(補正手段)
23 画像生成部(画像取得手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線検出器がリング状に配列されることによって構成される消滅放射線対を検出する検出器リングと、
消滅放射線対を放射するとともに、被検体に付設された放射線発生手段と、
前記検出器リングに対する前記放射線発生手段の位置を検出する発生体移動検出手段と、
前記検出器リングから出力された検出データを基に被検体内から発生した消滅放射線対の発生位置を示す位置情報を取得する発生位置取得手段と、
被検体内から発したある消滅放射線対が前記検出器リングに入射したときの前記放射線発生手段の位置を基にその消滅放射線対の位置情報を補正することにより、被検体が前記検出器リングに対して移動しなかったときの消滅放射線対の位置情報を取得する補正手段と、
補正された前記位置情報を基に、消滅放射線対の発生位置が空間的にマッピングされた断層画像を取得する画像取得手段とを備えることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項2】
請求項1に記載の放射線断層撮影装置において、
前記放射線発生手段は、単一の平面を規定する3つの線源を有することを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項3】
請求項2に記載の放射線断層撮影装置において、
前記線源は、消滅放射線対を生じる放射性物質が封入されたものであることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
前記放射線発生手段は、前記被検体の頭頂部に設けられていることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
前記放射線発生手段は、近赤外光イメージング装置のプローブホルダとなっていることを特徴とする放射線断層撮影装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の放射線断層撮影装置において、
頭部検査用であることを特徴とする放射線断層撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−63204(P2012−63204A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−206671(P2010−206671)
【出願日】平成22年9月15日(2010.9.15)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】