説明

放射線検出器

【課題】放電光に起因する誤作動を防止できる放射線検出器を提供する。
【解決手段】入射射放射線のエネルギーを光に変換するシンチレータ1と、シンチレータ1が発した光を伝達するライトガイド2と、シンチレータ1をライトガイド2に光学結合する光学接着材3と、ライトガイド2から伝達された光を電子に変換して増幅する光電子増倍管4と、光電子増倍管4をライトガイド2に光学結合する光結合オイル5と、光結合オイル5の流出を防止するオイルフェンス7と、光電子増倍管4から出力される電流パルスを電圧パルスに変換する前置増幅器6と、これらを収納すると共に、外部の光を遮断する検出器ケース10と、ライトガイド2を検出器ケース10に固定するクッション材12を備え、クッション材12と接触するライトガイド2の側面に光反射層202と遮光層203を重ねて設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、原子炉施設、使用済燃料再処理施設、放射性同位元素使用施設、粒子線使用施設等の放射線管理に用いられる放射線検出器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
試料ガス中に含まれる放射性物質の濃度を測定するために用いられる放射線検出器は、測定対象の希ガスを高感度で測定するために、1壊変当たりの放射線の放出割合が高いβ線を測定対象とし、β線に対して感度を高く、かつ環境からのγ線に対して感度を低く、更に入射窓のβ線の減衰をできるだけ小さくするのが望ましい。
そのため、放射線検出器に用いられるセンサは大面積で薄く加工できるものが、また、検出器は試料ガスにセンサが接するように配置することが要求される。
このような要求を実現するセンサとして、加工性が良く、安価で容易に入手でき、かつ物理的に安定なプラスチックシンチレータが一般的に用いられている。
【0003】
これに対して、光電子増倍管はセンサ(即ち、プラスチックシンチレータ)に比べて高価であるため、センサよりも口径が小さいものが選択され、口径の違いを吸収してプラスチックシンチレータで発した光を光電子増倍管に効率良く伝達するために、光電子増倍管とセンサの間にライトガイドを介在させている。
一般的に、ライトガイドはアクリル樹脂を機械加工して整形し、側面に酸化チタン微紛を含む反射材を塗布して反射層を形成し、放射線入射面側がプラスチックシンチレータに接着剤で光学接合される。
【0004】
一方、光電子増倍管は、ガラス製で熱膨張率がライトガイドと大きく違うため、また、高価な光電子増倍管を交換できるように、光電子増倍管とライトガイドの間をシリコンオイルで光学接合される。(例えば、特許文献1:特公平1−32474号公報参照)
ライトガイドは、プラスチックシンチレータと一体で、試料ガスの圧力を受け止めて圧力バウンダリ(圧力差がある2つの領域の境界線)として機能させるために、ライトガイドと検出器ケースの間にクッション材をポッティングし、または、成型したクッション材をはめ込んでいる。
クッション材は、試料ガスの圧力変動、検出器設置環境の振動によりライトガイドとの間に摩擦を生じ、その摩擦により静電気が発生し、その電荷が放電電圧まで蓄積されると放電して放電光を発する。
【0005】
ライトガイド側面に形成された反射層は、白色で、内部を進行する光を反射させながら光電子増倍管に伝達するために設けられたものであり、外部の光も反射層で反射されて侵入しにくい。
しかし、上記放電光のような強烈な光は、その一部が反射層を透過してライトガイドの内部に侵入し、ライトガイドを経由して光電子増倍管に達して検出器を誤動作させる。
そのため、静電気防止の目的で、クッション材には体積抵抗率が1010Ω・cm以下のゴム材が使用される。
【0006】
体積抵抗率1010Ω・cm以下のゴム材は、摩擦で生成された静電気をすばやく中和させて電荷は放電電圧まで蓄積されないため、上記放電光による放射線検出器の誤動作を防止できる。
なお、上記は試料ガス中のβ線をプラスチックシンチレータで測定する場合について説明したが、他の線質の放射線および他の種類のシンチレータに対しても同様である。
【特許文献1】特公平1−32474号公報(第2図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の放射線検出器は以上のように構成されているが、ライトガイドと光電子増倍管を光学接合しているシリコンオイルから、極微量であるが経年的にシリコンオイルが蒸発してライトガイドとポッティング材の境界面に付着してシリコンオイル層が形成される。
シリコンオイル層が形成されると、ポンプ起動/停止に伴う試料ガスの脈動でライトガイドとシリコンオイルが摩擦され、また、ポッティング材とシリコンオイルが摩擦され、それぞれの境界面で静電気が発生するようになる。
静電気によって発生する強烈な放電光の一部は、反射層を透過してライトガイド内部に侵入して光電子増倍管に到達して放射線検出器が誤動作するため、シリコンオイルに起因する静電気対策が課題であった。
【0008】
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ライトガイドと光電子増倍管を光学接合しているシリコンオイルに起因して生じる静電気により放電が発生しても、放電光が光電子増倍管に進入することによる誤作動を確実に防止できる信頼性の高い放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係わる放射線検出器は、入射する放射線のエネルギーを吸収して光に変換するシンチレータと、該シンチレータが発した光を直進または反射させて伝達するライトガイドと、上記シンチレータを上記ライトガイドに光学結合する光学接着材と、上記ライトガイドから伝達された光を電子に変換して増幅する光電子増倍管と、該光電子増倍管を上記ライトガイドに光学結合する光結合オイルと、該光結合オイルの流出を防止するオイルフェンスと、上記光電子増倍管から出力される電流パルスを電圧パルスに変換する前置増幅器と、上記シンチレータ、上記ライトガイド、上記光学接着材、上記光電子増倍管、上記光結合オイルおよび上記オイルフェンスを収納すると共に、外部の光を遮断する検出器ケースと、上記ライトガイドを上記検出器ケースに固定するクッション材を備え、
上記クッション材と接触する上記ライトガイドの側面に、光を反射する反射層と光を遮断する遮光層を重ねて設けたものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明による放射線検出器は、クッション材と接触するライトガイドの側面に、光を反射する反射層と光を遮断する遮光層を重ねて設けているので、ライトガイドと光電子増倍管を光学接合しているシリコンオイルに起因して生じる静電気によって放電が発生しても、発生した放電光を光電子増倍管に進入させないので、放電光による誤作動を確実に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態例について説明する。
なお、各図間において、同一符合は、同一あるいは相当のものであることを表す。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による放射線検出器の構成を示す断面図である。
図において、プラスチックシンチレータ1は、入射した放射線のエネルギーを吸収して、光に変換する。
略円錐台をしたライトガイド2は、光を伝達する光伝達ブロック201と、該光伝達ブロック201の側面に密着して(重ねて)設けられた反射層(光反射層)202と、該反射層202に密着して(重ねて)設けられた遮光層203から構成されている。
そして、光伝達ブロック201の面積の大きい面はプラスチックシンチレータ1に接着剤(光学接着剤)3で光学接合され、プラスチックシンチレータ1の光を光伝達ブロック201で直進させて、反射層202で反射させて伝達する。
【0012】
反射層202は、透明接着剤に酸化チタン微紛を練りこんだもので、乾燥すると白色の層を形成し、酸化チタン微紛で光が反射される。
光電子増倍管4は、ライトガイド2にシリコンオイル5で光学接合され、ライトガイド2から伝達された光を電子に変換増幅し、前置増幅器6は光電子増倍管4から出力される電流パルスを電圧パルスに変換する。
ライトガイド2の光電子増倍管4側の首の部位には、例えば硬質ゴムを加工したオイルフェンス7が接着剤8で取り付けられ、シリコンオイル5の流出を防止している。
電磁シールド9は、外部の電磁界および電磁ノイズの影響を受けないように光電子増倍管4を保護する。
検出器ケース10は、組み込まれたプラスチックシンチレータ1、ライトガイド2、接着剤3、光電子増倍管4、シリコンオイル5、前置増幅器6、オイルフェンス7、接着剤8および電磁シールド9を収納して、外部からの光の進入を遮断すると共に、外部の電磁ノイズの影響を受けないように光電子増倍管4および前置増幅器6を保護する。
なお、前置増幅器6は検出器ケース10には収納せず、検出器ケース10の外部に配置してもよい。
【0013】
ライトガイド2は、Oリング11で封止されて検出器ケース10に取り付けられる。
ライトガイド2は、検出器ケース10との間にクッション材12がはめ込まれて固定されており、測定対象ガスに対して圧力バウンダリとして機能する。
シリコンオイル5は、経年的に極微量が蒸発してライトガイド2とクッション材12の両方の境界面にそれぞれ付着し、時間をかけて付着面積が拡大すると共に薄膜状となる。
測定対象ガスの圧力は、プラスチックシンチレータ1を介してライトガイド2に伝達され、ライトガイド2からクッション材12へ伝達されて、最終的に検出器ケース10が受け止める。
【0014】
ポンプ(図示せず)を起動および停止することにより測定対象ガスに発生した圧力変動や放射線検出器が設置された場所の振動は、ライトガイド2に伝達されて、ライトガイド2とそこに付着したシリコンオイル5の間に摩擦を生じ、また、クッション材12とそこに付着したシリコンオイル5の間に摩擦を生じ、それぞれ摩擦により発生した静電気が放電して放電光が発生することがあるが、ライトガイド2の側面の遮光層203は放電光を遮断する。
遮光層203は、摩擦により剥離しないように、また、放電光を確実に遮断するため、接着力の強い黒色塗料が選定される。
【0015】
以上説明したように、本実施の形態による放射線検出器は、入射する放射線のエネルギーを吸収して光に変換するシンチレータ1と、該シンチレータ1が発した光を直進または反射させて伝達するライトガイド2と、シンチレータ1をライトガイド2に光学結合する光学接着材3と、ライトガイド2から伝達された光を電子に変換して増幅する光電子増倍管4と、該光電子増倍管4をライトガイド2に光学結合する光結合オイル(シリコンオイル)5と、該光結合オイル5の流出を防止するオイルフェンス7と、光電子増倍管4から出力される電流パルスを電圧パルスに変換する前置増幅器6と、シンチレータ1、ライトガイド2、光学接着材3、光電子増倍管4、光結合オイル5およびオイルフェンス7を収納すると共に、外部の光を遮断する検出器ケース10と、ライトガイド2を検出器ケース10に固定するクッション材12を備え、クッション材12と接触するライトガイド2の側面に、光を反射する反射層202と光を遮断する遮光層203を重ねて設けている。
【0016】
このように、本実施の形態による放射線検出器は、クッション材と接触するライトガイドの側面に、光を反射する反射層と光を遮断する遮光層を重ねて設けているので、ライトガイドと光電子増倍管を光学接合しているシリコンオイルに起因して生じる静電気によって放電が発生しても、発生した放電光を光電子増倍管に進入させない構造としているので、放電光による誤作動を確実に防止でき、放射線検出の高信頼化を図ることができる。また、放電光による誤作動を防止するので、長寿命化も図れる。
【0017】
実施の形態2.
前述した実施の形態1では、ライトガイド2の光を伝達する光伝達ブロック201の側面に反射層202を密着して(重ねて)設け、反射層202の上に光層203を密着して(重ねて)設けたが、本実施の形態によるライトガイド2は、図2に示すように、実施の形態1における反射層202と遮光層203の代わりに鏡面光沢を有する金属層204を設けたものである。
なお、鏡面光沢を有する金属層204は、蒸着または無電界メッキで形成することができる。
クッション材12と接触するライトガイド2の側面が鏡面光沢を有する金属層204で構成されることにより、実施の形態1と同様にシリコンオイル5に起因する摩擦静電気の放電光を鏡面光沢を有する金属層204が遮断し、放射線検出器が誤動作することがなくなる。
従って、信頼性の高い放射線検出器を提供できると共に、シンチレータ1が発した光は効率良く反射してライトガイド2内を伝達するため、ライトガイ2の集光効率を高まり、結果としてS/N比を向上できる効果を奏する。
更に、反射層202と遮光層203の代わりに鏡面光沢を有する金属層204を設けているので、製作工程が簡略化され、コスト低減も図れる。
【0018】
実施の形態3.
前述の実施の形態1および実施の形態2では、ライトガイド2において光電子増倍管4側の首の部位に、硬質ゴム等を加工したオイルフェンス7を接着剤8で取り付けてシリコンオイル5の流出を防止しているが、本実施の形態では、図3に示すようにライトガイド2の光電子増倍管4側の首の部位をオイルフェンス状に加工してシリコンオイル5の流出を防止するようにしたものである。
ライトガイド2にオイルフェンスを一体で加工成型することにより、オイル漏れを確実に防止できるため、信頼性が向上すると共に、オイルフェンス7の接着作業およびその検査が不要となるためにコスト削減できる効果を奏する。
【0019】
実施の形態4.
前述の実施の形態1〜3では、光電子増倍管4はライトガイド2にシリコンオイル5で光学接合され、オイルフェンス7またはライトガイド2を加工してオイルフェンスを設けることによりシリコンオイル5の流出を防止しているが、本実施の形態では、図4に示す放射線検出器の断面図のように、シリコンオイル5の代わりに透明ゲル状結合剤13を使用し、オイルフェンスをなくしたものである。
なお、透明ゲル状結合剤13として好適な、光透過性および振動吸収性に優れたポッティング剤が市販されている。
以上のように、本実施の形態では、光結合オイルであるシリコンオイル5に代えて透明ゲル状結合剤13を使用することにより、シリコンオイル5に混入している気泡を除去するための脱泡工程をなくすことができ、製造コストを大幅に低減できると共に、放射線検出器の取り付け姿勢の制限をなくすことができる効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0020】
この発明は、静電気によって生じる放電光に起因る誤作動を防止できる信頼性の高い放射線検出器の実現に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施の形態1による放射線検出器の構成を示す断面図である。
【図2】実施の形態2におけるライトガイドの構成を示す断面図である。
【図3】実施の形態3による放射線検出器の構成を示す断面図である。
【図4】実施の形態4による放射線検出器の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 プラスチックシンチレータ
2 ライトガイド
201 光伝達ブロック 202 反射層
203 遮光層 204 鏡面光沢を有する金属層
3 光学接着剤
4 光電子増倍管
5 光結合オイル(シリコンオイル)
6 前置増幅器
7 オイルフェンス
8 接着剤
9 電磁シールド
10 検出器ケース
11 Oリング
12 クッション材
13 透明ゲル状結合剤



【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射する放射線のエネルギーを吸収して光に変換するシンチレータと、該シンチレータが発した光を直進または反射させて伝達するライトガイドと、上記シンチレータを上記ライトガイドに光学結合する光学接着材と、上記ライトガイドから伝達された光を電子に変換して増幅する光電子増倍管と、該光電子増倍管を上記ライトガイドに光学結合する光結合オイルと、該光結合オイルの流出を防止するオイルフェンスと、上記光電子増倍管から出力される電流パルスを電圧パルスに変換する前置増幅器と、上記シンチレータ、上記ライトガイド、上記光学接着材、上記光電子増倍管、上記光結合オイルおよび上記オイルフェンスを収納すると共に、外部の光を遮断する検出器ケースと、上記ライトガイドを上記検出器ケースに固定するクッション材を備え、
上記クッション材と接触する上記ライトガイドの側面に、光を反射する反射層と光を遮断する遮光層を重ねて設けたことを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
上記反射層と遮光層に代えて、上記ライトガイド側面に鏡面光沢を有する金属層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項3】
上記ライトガイドと上記オイルフェンスが一体成型されていることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出器。
【請求項4】
上記光結合オイルに代えて、透明ゲル状結合剤を使用したことを特徴とする請求項1または2に記載の放射線検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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