放射線検出器
【課題】ポジトロン核種の位置を感度よく検出でき腫瘍等の診断を迅速に行えるコンパクトな放射線検出器を提供する。
【解決手段】本発明の放射線検出器は、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする。
【解決手段】本発明の放射線検出器は、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポジトロン核種の位置を感度よく検出でき腫瘍等の診断を迅速に行えるコンパクトな放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
医学診断の分野では、放射性同位体を被検体(患者)に投与し、体内の放射性同位体の分布を測定して画像表示するPET(Positron
Emission Tomography)装置が用いられている。放射性同位体のなかには、崩壊するときにポジトロン(陽電子)を放出する性質を有するポジトロン核種がある。人工的に製造される核種で、PETでは炭素11C、窒素13N、酸素15O、フッ素18Fなどが用いられることが多い。ポジトロンは放出されるとすぐに電子と衝突して消滅するが、同時に、2本の消滅ガンマ線(511keV)を互いに180°反対方向に放射する。
【0003】
このPETではRI(Radio
Isotope)の中で、ポジトロンを放出する核種を用い標識放射性薬剤へと合成して生体内へ投与する。この投与されたRIは、ポジトロンを放出し、消滅γ線を正反対方向へ2本生体外に放射する。PET装置は一般に、この消滅γ線を、対向して配置した多数のシンチレータで受け、シンチレータの発する光を光検出器で電気信号に変換する。この際、この2本の消滅γ線をPET装置で同時計測することで、生体内でのRI分布を撮像する。同時計測できるときは、対向するγ線検出器を結ぶ線上にポジトロン核種が存在することになり、γ線源であるポジトロン核種の位置や範囲を比較的精度よく測定できるからである。そして、RIの生体内挙動を計測することにより、血流・代謝などの生理機能、病態の情報を画像化する。
血流・代謝などの生理機能を求めるには、PET画像を定量化する必要がある。定量化する方法として、コンパートメントモデルを用いた解析法がある。コンパートメントモデルの入力には、組織中の放射能濃度と組織に流入する血液中のRI濃度が必要である。そのため、PET装置で組織のRI分布画像を測定すると共に、動脈血液中のRI濃度を高精度で連続測定することが不可欠である。動脈血液中のRI濃度を連続的に測定するシステム(以下、血中RI濃度連続測定システムという。)に用いられている検出器としては、γ線を直接検出する検出器、コインシデンス型検出器、2種類の異なるシンチレータを用いたホスウィッチ型検出器の3つに分類されている。なお、放射線を利用して生体器官を診断するものとして、例えば特許文献1が知られている。
【0004】
【特許文献1】特表平11−511239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
γ線を直接検出する検出器の構成例について、図1を参照して説明する。このγ線を直接検出する検出器は、薄いシンチレータと光電子増倍管(PMT:Photo
Multiplier Tube)を組み合わせて、チューブ中を流れる血液が含むポジトロンを検出するものである。ポジトロンは透過力が低いため薄いシンチレータでも検出され、チューブ中のRIから放出されるポジトロンにより発せられる消滅γ線やRIを投与された被験体からの消滅γ線は、検出器に入射したとしてもそのほとんどは検出器を透過することとなる。検出器で消滅γ線が検出されても閾値を消滅γ線のエネルギーである511keVに設定し、閾値以下の信号を除去することで消滅γ線とポジトロンを弁別できることとなる。しかし一方で、511keV以下のエネルギーのポジトロンもノイズとして除去されるためこの検出器は低エネルギーのポジトロンの感度が低い欠点を有するといった問題がある。
【0006】
次に、従来のコインシデンス型検出器の構成例について、図2を参照して説明する。コインシデンス型検出器では、2本の消滅γ線を同時計測してポジトロンの検出を行う。コインシデンス型検出器は、消滅γ線を同時計測するため、低エネルギーのポジトロンおよび血液を通すチューブなどの遮蔽物があっても測定可能である。対抗する方向に放出される2本の消滅γ線を同時計測するには、シンチレータを含む検出器が2本必要となる。消滅γ線は透過力が強いため、シンチレータのサイズを大きくする必要がある。また、検出器を周囲のノイズから遮蔽するための鉛が必要となる。このように、コインシデンス型検出器は、2本の検出器および検出器を覆う鉛が必要であるため、検出器本体のサイズと重量が非常に大きくなるといった欠点を有する。検出器の大きさと重量の問題は、動脈血液中のRI濃度を被験者の近傍で測定する観点からは好ましいものではない。
【0007】
そして、従来のホスウィッチ型検出器の構成例について、図3を参照して説明する。このホスウィッチ型検出器は、チューブ内から放出されたポジトロンをプラスチックシンチレータで、ポジトロンから放出される消滅γ線をBGOシンチレータでそれぞれ検出するものである。ポジトロンの検出は、プラスチックシンチレータとBGOシンチレータの信号の同時計数を取ることで行う。同時計数をとるためバックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することが可能となる。しかしながら、このホスウィッチ型検出器は消滅γ線を検出する必要があることから、シンチレータのサイズは大きくしなければならず、検出器のサイズを小さくすることができないといった問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、ポジトロン核種の位置を感度よく検出でき腫瘍等の診断を迅速に行えるコンパクトな放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器が提供される。
【0010】
シンチレータが、発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされることにより、光検出器から得られるパルス波形スペクトラムを用いた信号弁別手段を備えることにより、ポジトロンと消滅γ線の同時計数や消滅γ線のエネルギーを閾値とした信号弁別を行わずにノイズとなるγ線の除去が可能となる。従って、ポジトロンを高感度で検出することができる。
第1層シンチレータではポジトロンを止め、ポジトロンが持っていた運動エネルギーを光に変換し発光する現象(シンチレーション)を起こす。その際、ポジトロンは近傍の電子と結合し消滅する。消滅時に対向する2本の消滅γ線を放出することとなる。消滅γ線は透過力が強く、大部分はシンチレータで検出されずに透過するが、透過しなかった消滅γ線およびバックグラウンドとなるγ線は、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出されることとなる。第1層シンチレータと第2層シンチレータの信号弁別は、パルス波形スペクトラムを用いている。
また、第1層シンチレータの厚みを0.1〜1.0mmと薄くしているのは、ポジトロンの最大飛程距離を考慮したものである。
また、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算とは、具体的には、第1層シンチレータの計数値から第2層シンチレータの計数値を減算するものである。
【0011】
次に、本発明の第2の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器が提供される。
【0012】
ここで、第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造を2組対向配置する際に、第1層シンチレータと第2層シンチレータは入れ子になるように設置する。すなわち、対向する際、第1層シンチレータ同士が向かい合うように配置する。これにより、ノイズとなるバックグラウンドγ線は検出器外側のどの方向から入射しても、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出される数がほぼ等しくなるため、第1層シンチレータの計数から第2層シンチレータの計数を差し引くことでポジトロンによる計数を精度よく求めることができる。
【0013】
次に、本発明の第3の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きくされ、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器が提供される。
第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きい構成とすることにより、第2層シンチレータにおける統計変動を小さくでき、γ線を感度よく検出できる。
【0014】
次に、本発明の第4の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きくされ、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器が提供される。
第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きい構成とすることにより、第2層シンチレータにおける統計変動を小さくでき、γ線を感度よく検出できる。
また、第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置されることにより、第2層シンチレータの同時計数をとることで、バックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することができ、ポジトロンおよびγ線の計数値の感度を高くできる。
【0015】
次に、本発明の第5の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされ、第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第3層シンチレータの厚みが第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされ、第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、第3層シンチレータでγ線を検出することを特徴とする放射線検出器が提供される。
3層構造としたのは、本発明の第1の観点の如く、第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得でき、また、本発明の第3の観点と同様、第3層シンチレータにおける統計変動を小さくでき、γ線を感度よく検出できることとしたものである。
【0016】
次に、本発明の第6の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第3層シンチレータの厚みが第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされ、第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、第3層シンチレータでγ線を検出することを特徴とする放射線検出器が提供される。
3層構造とされたものが2組対向配置された構成とすることにより、ノイズとなるバックグラウンドγ線は検出器外側のどの方向から入射しても、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出される数がほぼ等しくなるため、第1層シンチレータの計数から第2層シンチレータの計数を差し引くことでポジトロンによる計数を精度よく求めることができる。
【0017】
上記の本発明の第6の観点の放射線検出器において、対向配置された2組の第1層シンチレータから第3層シンチレータの同時計数をとり、バックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することにより、ポジトロンおよびγ線の計数値の感度を高くすることが好ましい態様である。
【0018】
ここで、上記の第1層シンチレータ、第2層シンチレータ、ならびに第3層シンチレータは、Ce濃度の異なるGSOシンチレータであることが好ましい態様である。
【0019】
また、上記の信号弁別手段は、光検出器から得られるパルス波形スペクトラムのカウント値のピーク時間を弁別するための所定の閾値時間を設定して弁別することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の放射線検出器は、ポジトロン核種の位置を感度よく検出でき腫瘍等の診断を迅速に行える効果を有する。また、放射線検出器のサイズをコンパクトにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の放射線検出器の実施例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施例に示した具体的な用途に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
実施例1の放射線検出器の検出原理を図4に示す。本発明の放射線検出器は、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、光検出器から得られるパルス波形スペクトラムを用いた信号弁別手段を備えている。第1層シンチレータと第2層シンチレータは、それぞれCe濃度が0.5%(発光減衰時間60ns)、1.5%(発光減衰時間35ns)のGSOシンチレータで構成される。そして、このGSOシンチレータとプリズムとPMTから構成される。ここで、第1層シンチレータを内側に、第2層シンチレータを外側にし、二組用意し対向するように設置している。
【0023】
そして、チューブはこの対向したGSOシンチレータ間に設置する。設置したチューブ内のRIから放出されたポジトロンは、まず第1層シンチレータであるGSOシンチレータに入射する。第1層シンチレータのGSOシンチレータではポジトロンを止め、ポジトロンが持っていた運動エネルギーを光に変換し発光する現象(シンチレーション)が生じる。その際、ポジトロンは近傍の電子と結合し消滅する。消滅時に対向する2本の消滅γ線を放出する。消滅γ線は透過力が強く、また大部分はGSOシンチレータで検出されずに透過する。透過しなかった消滅γ線およびバックグラウンドとなるγ線は、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出される。また、信号弁別手段は、第1層シンチレータと第2層シンチレータのGSOシンチレータのCe濃度の違いによる発光減衰時間の違いを用いている。図4に示されるように、シンチレータは入れ子になるように設置しているため、ノイズとなるバックグラウンドγ線は検出器外側のどの方向から入射しても、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出される数が、ほぼ等しくなる。そのため、第1層シンチレータで検出される計数から第2層シンチレータで検出される計数を差し引くことにより、ポジトロンによる計数を求めることとしている。下記数式は、ポジトロンによる計数を求めるための式である。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、C1は、図4の第1層シンチレータで検出された計数であり、C2は第2層シンチレータで検出された計数であり。また、CγTubeはチューブ内のポジトロンから発生した消滅γ線による計数、CγBGはバックグラウンドからのγ 線による計数である。ポジトロンの計数Cposiは、第1層シンチレータの計数から第2層シンチレータの計数を差し引くことで計算される。
以上より開発したポジトロン検出器はポジトロンと消滅γ線の同時計数や消滅γ 線のエネルギーを閾値とした信号弁別を行わずにノイズとなるγ 線の除去が可能となる。これにより、ポジトロンを高感度で検出することが可能となるのである。
【0026】
また、信号弁別は、GSOシンチレータのCe濃度の変化による発光減衰時間の変化を利用している。実施例1の放射線検出器に用いたGSOシンチレータの濃度と発光減衰時間を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
第1層シンチレータのGSOシンチレータは、Ce濃度が1.5mol%、発光減衰時間が35ns、第2層シンチレータはCe濃度が0.5mol%,発光減衰時間が60nsである。信号弁別の方法について、図5を参照して説明する。
信号弁別は、まずそれぞれの信号に対して120nsの範囲で部分積分を行う。その後、発光減衰時間に対して十分長い時間(300ns)の範囲で全積分を行う。ここで、信号弁別のための定数PSD(PulseShape Distribution)は、下記数式で定義している。
【0029】
【数2】
【0030】
ここで、PIはそれぞれの信号における部分積分値,FIは全積分値となる。信号弁別はPSDを横軸に、縦軸にカウントを取ったパルス波形スペクトラムを利用する。パルス波形スペクトラムの一例を図6に示す。PSDは、上記数式や図5のグラフ値より、発光減衰時間が短いと大きく、長いと小さくなる傾向となる。そのため、図6では左側のピークが0.5mol%のGSOシンチレータ,右側のピークが1.5mol%のGSOシンチレータによる信号となる。信号弁別はこの二つのピークの間に閾値を設定することで行うこととしている。
【0031】
次に、実施例1の放射線検出器の構成を図7に示す。実施例1の放射線検出器で使用しているGSOシンチレータの大きさは、検出面が20mm×10mm,厚さが0.5mmである。シンチレータの厚さはポジトロンの飛程距離に関する下記数式3より算出している。
【0032】
【数3】
【0033】
ここで、Emaxはポジトロンの最大エネルギー(MeV),Rはポジトロンの最大飛程距離,dは対象となる物質の密度(g/cm3)である。Emaxは、PETで使用されているポジトロンの中で一番高いエネルギーを持つ82Rb(最大エネルギー:3.37MeV)を対象としている。シンチレータの厚さは、最大飛程距離より厚ければ問題ないが、厚すぎた場合にバックグラウンドのγ線を検出する確率が高くなるため、実施例1の放射線検出器では、第1層シンチレータと第2層シンチレータの各層の厚さは0.5mmにしている。
【0034】
実施例1の放射線検出器では、GSOシンチレータ間の溝の幅は3mmに設定している。これは、チューブの配置を考慮したためである。また実施例1の放射線検出器では、第1層シンチレータと第2層シンチレータで構成される2層のGSOシンチレータ二組、プリズム、ライトガイド、PMT(浜松ホトニクス社製:R−7600−U)をそれぞれ光学結合している。この光学結合には、シリコンゴム(信越シリコーン社製:KE420)を用いている。検出部分は、反射材として高反射膜フィルムおよびテフロン(登録商標)製のテープを用いている。かかる構成の実施例1の放射線検出器は、検出器のサイズが25mm×25mm×60mmとコンパクトであり、手のひらに載せることも可能で、従来よりも取扱いの利便性が向上できている。
【0035】
また、PMTは光に敏感であることから、外部からの光が入射するとその入射光はPMTにより検出されるため、測定値の誤差要因となる。実施例1の放射線検出器では、検出器の遮光を行い外部からの光を防ぐため、検出器の遮光には反射材として用いている高反射膜フィルムおよびテフロン(登録商標)製のテープの他に絶縁も兼ねて黒のビニールテープを用いている。
【0036】
測定時には、ポジトロンのほかにバックグラウンドノイズであるγ線も入射する。このγ線の入射を軽減するため検出器を収納する収納容器を設けている。この収納容器の材質はγ線の遮蔽性能と目標とするサイズの兼ね合いからタングステン合金を用いている。実施例1の放射線検出器は、検出器と収納容器を含めた大きさは40mm×40mm×80mm,重量は約1.5kgとなり、コンパクトで取扱いが容易な手のひらサイズの放射線検出器である。
【0037】
実施例1の放射線検出器の動作確認を行うため、γ線とF−18を用いて動作確認を実施した結果を以下に説明する。動作確認に用いた放射線源は、γ線(511keV),F−18(最大エネルギー:633keV,平均エネルギー:242keV)である。F−18は、チューブに注入し検出器内部に設置し測定を行っている。γ線とF−18を用いて動作確認を実施した結果をそれぞれ図8と図9に示す。図8(1)と図9(1)はエネルギースペクトラムであり、図8(2)と図9(2)は波形弁別スペクトラムである。波形弁別スペクトラムにおいて、横軸は波形弁別に用いる定数(PSD)に比例しているチャンネルである。右側のピークが第1層シンチレータ,左側のピークがと第2層シンチレータによる信号を示している。この2つのピーク間に閾値を設定することで信号の弁別を行っている。縦軸は、それぞれのチャンネルにおけるカウントとなる。同様にエネルギースペクトラムにおいて、横軸はエネルギーに比例するチャンネルであり、縦軸はチャンネルごとのカウントとなる。図9(1)はポジトロンから放出される消滅γ線の光電ピークが確認できている。
【0038】
次に、実施例1の放射線検出器の感度について説明する。感度は検出器の性能を表す重要な要素である。検出器の感度が高いと採血する量を少なくすることができるからである。ポジトロン線源として、F−18(最大エネルギー:662keV)とC−11(最大エネルギー:968keV)を用いている。F−18とC−11をそれぞれチューブに密封する。チューブ中の放射能は予めウェルカウンタを用いて計測している。ポジトロン検出器の検出面中央に線源が位置するようにチューブを配置して、ウェルカウンタにより得られた結果およびポジトロン検出器で得られた結果を用いて感度を算出した。算出結果を下記表2にF−18およびC−11で測定したポジトロン検出器の感度を示す。感度は、表2に示すように、F−18(Paper 0.1mm thickness)で18.2%,F−18(SP−10 Tube)で7.7%,C−11(SP−10 Tube)で24.0%であった。
【0039】
【表2】
【0040】
次に、実施例1の放射線検出器の計数率特性について説明する。計数率特性は検出器の測定できるポジトロンを検出できる放射能の限界を示す要素である。計数率特性がよければ高濃度のポジトロンを測定することができることとなる。ポジトロン検出器の計数率特性を得るため、C−11およびF−18を用いて計数率を測定した。ポジトロンはC−11およびF−18を用い、同様にチューブ内に密封した。チューブは検出器上部の溝に設置して計数率特性を測定した。C−11およびF−18の測定結果をそれぞれ図10(1)、図10(2)に示す。F−18は半減期が109分であるが、図10(1)においても約110分でカウントが半減していることが確認できる。同様に、C−11においても半減期20.9分に対して、図10(2)において約20分でカウントが半減していることがわかる。
また計数率は、約100kcpsまで直線性を示していることがわかる。これは臨床PET測定時の動脈血中RI濃度を想定する場合に、十分な計数率の値であることがわかる。従って、実施例1の放射線検出器は、血中RI濃度連続測定に使用可能であると判断できることになる。
【0041】
次に、実施例1の放射線検出器のバックグランド除去性能について説明する。バックグラウンドノイズから受ける影響は検出器にとって重要な要素である。バックグラウンドノイズから受ける影響が大きい場合検出器の検出精度に問題が生じる。外部にバックグラウンドノイズ発生源を配置し消滅γ線からポジトロン検出器が受ける影響を測定した。まず、0.18MBqのF−18をチューブに密封し、ポジトロン線源として検出器に設置し実験を行うこととした。バックグラウンド線源は、4.44MBqのF−18を注入した容器を用いている。初めにバックグラウンド線源を検出器から離した状態で測定を行い、その後バックグラウンド線源を図11中の1〜5の位置に設置して測定した。測定結果を図12に示す。ここで、図12中の番号はそれぞれ図11の番号と対応している.ポジトロンのカウントは第1層シンチレータと第2層シンチレータのカウントの差である。バックグラウンド線源を隣接した状態と離した状態でポジトロンのカウントの変化を調べたところ3%以下であった。これらの結果より、実施例1の放射線検出器は約25倍のバックグラウンドノイズがあるとしても正常に測定できると判断できる。
【0042】
次に、実施例1の放射線検出器の動作確認実験の結果を説明する。実験は、ラットを用いた実際の環境で行うこととした。実験の構成図を図13に示す。薬剤はF−18−EDGを用いた。まずラットの動脈に注射針を挿入し、チューブ内に血液を導入した。ラットの静脈に薬剤を注入し、30分間測定を行った。ウェルカウンタで得られた結果を図14に示す。カウントが極端に低くなっている部分は、血液がチューブ内で固まらないように生理食塩水でチューブ内を押し流した。
なお、ポジトロン検出器で得られた結果と手動時の結果は約5%差であった。
【0043】
以上説明したように、実施例1の放射線検出器によれば、2層のGSOシンチレータを対向する方向に設置することで、ポジトロンと消滅γ線の同時計数や消滅γ線のエネルギーを閾値とした信号弁別を行わずにノイズとなるγ線を除去でき、ポジトロンのみを検出することが可能である。また、検出器のサイズは収納容器を含めたサイズも手のひらに搭載できる程度のコンパクト性を有し、更に、感度や計数率特性においても従来品を凌駕するものである。
参考までに、従来のポジトロンの放射線検出器と性能を比較すると、検出器のサイズにおいてはコインシデンス型,ホスウィッチ型の従来の検出器と比較して約半分のサイズを実現している。また、感度はF−18およびC−11においてもコインシデンス型,ホスウィッチ型と比較して十分高い感度を得ることができた。計数率特性はコインシデンス型が40kcps,ホスウィッチ型が10kcpsまで測定可能であるのに対し、開発した検出器では100kcpsまで測定可能である。
【実施例2】
【0044】
前述の実施例1は、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータの厚みが0.5mmであり、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とした。
本実施例2の放射線検出器は、実施例1の放射線検出器と異なり、2層構造のシンチレータが2組対向配置される。実施例2の放射線検出器の構成図を図15に示す。本実施例2の放射線検出器は、ハンディータイプとして取扱いの利便性がよく、例えばFDG(腫瘍)ガイド下の手術用プローブとして好適に使用できる。
【実施例3】
【0045】
次に、実施例3の放射線検出器について図16を参照しながら説明する。図16に示されるように、実施例3の放射線検出器は、実施例1の放射線検出器と異なり、第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きくされている。第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きい構成とすることにより、第2層シンチレータにおける統計変動を小さくでき、γ線を感度よく検出できる。
すなわち、ポジトロンは、第1層シンチレータの計数値から第2層シンチレータの計数値に所定の係数を掛けたものを減算することにより求められる(ポジトロン
= 第1層シンチレータ − 第2層シンチレータ×α)。ここで、係数αは、第2層シンチレータの厚みにより決定される。
【実施例4】
【0046】
次に、実施例4の放射線検出器について図17を参照しながら説明する。図17に示されるように、実施例4の放射線検出器は、実施例1の放射線検出器と異なり、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.5mmであり、第3層シンチレータの厚みが第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされた構成とされている。かかる3層構造の構成により、第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、第3層シンチレータでγ線を検出する。
また、対向配置された2組の第1層シンチレータから第3層シンチレータの同時計数をとり、バックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することにしている。これにより、ポジトロンおよびγ線の計数値の感度を向上できる。
【0047】
なお、上述のように本発明の好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、血中RI濃度連続測定システムに用いられている検出器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来のγ線を直接検出する検出器の構成例図
【図2】従来のコインシデンス型検出器の構成例図
【図3】従来のホスウィッチ型検出器の構成例図
【図4】実施例1の放射線検出器の検出原理図
【図5】実施例1の放射線検出器の信号弁別の方法の説明図
【図6】パルス波形スペクトラムの一例
【図7】実施例1の放射線検出器の構成図
【図8】γ線を用いて動作確認を実施した結果を示す図
【図9】F−18を用いて動作確認を実施した結果を示す図
【図10】C−11およびF−18を用いて計数率測定を行った結果を示す図
【図11】実施例1の放射線検出器のバックグランド除去性能実験の説明図
【図12】実施例1の放射線検出器のバックグランド除去性能実験結果を示す図
【図13】ラットを用いた動作確認試験の構成図
【図14】ウェルカウンタで得られた結果
【図15】実施例2の放射線検出器の構成図
【図16】実施例3の放射線検出器の構成図
【図17】実施例4の放射線検出器の構成図
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポジトロン核種の位置を感度よく検出でき腫瘍等の診断を迅速に行えるコンパクトな放射線検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
医学診断の分野では、放射性同位体を被検体(患者)に投与し、体内の放射性同位体の分布を測定して画像表示するPET(Positron
Emission Tomography)装置が用いられている。放射性同位体のなかには、崩壊するときにポジトロン(陽電子)を放出する性質を有するポジトロン核種がある。人工的に製造される核種で、PETでは炭素11C、窒素13N、酸素15O、フッ素18Fなどが用いられることが多い。ポジトロンは放出されるとすぐに電子と衝突して消滅するが、同時に、2本の消滅ガンマ線(511keV)を互いに180°反対方向に放射する。
【0003】
このPETではRI(Radio
Isotope)の中で、ポジトロンを放出する核種を用い標識放射性薬剤へと合成して生体内へ投与する。この投与されたRIは、ポジトロンを放出し、消滅γ線を正反対方向へ2本生体外に放射する。PET装置は一般に、この消滅γ線を、対向して配置した多数のシンチレータで受け、シンチレータの発する光を光検出器で電気信号に変換する。この際、この2本の消滅γ線をPET装置で同時計測することで、生体内でのRI分布を撮像する。同時計測できるときは、対向するγ線検出器を結ぶ線上にポジトロン核種が存在することになり、γ線源であるポジトロン核種の位置や範囲を比較的精度よく測定できるからである。そして、RIの生体内挙動を計測することにより、血流・代謝などの生理機能、病態の情報を画像化する。
血流・代謝などの生理機能を求めるには、PET画像を定量化する必要がある。定量化する方法として、コンパートメントモデルを用いた解析法がある。コンパートメントモデルの入力には、組織中の放射能濃度と組織に流入する血液中のRI濃度が必要である。そのため、PET装置で組織のRI分布画像を測定すると共に、動脈血液中のRI濃度を高精度で連続測定することが不可欠である。動脈血液中のRI濃度を連続的に測定するシステム(以下、血中RI濃度連続測定システムという。)に用いられている検出器としては、γ線を直接検出する検出器、コインシデンス型検出器、2種類の異なるシンチレータを用いたホスウィッチ型検出器の3つに分類されている。なお、放射線を利用して生体器官を診断するものとして、例えば特許文献1が知られている。
【0004】
【特許文献1】特表平11−511239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
γ線を直接検出する検出器の構成例について、図1を参照して説明する。このγ線を直接検出する検出器は、薄いシンチレータと光電子増倍管(PMT:Photo
Multiplier Tube)を組み合わせて、チューブ中を流れる血液が含むポジトロンを検出するものである。ポジトロンは透過力が低いため薄いシンチレータでも検出され、チューブ中のRIから放出されるポジトロンにより発せられる消滅γ線やRIを投与された被験体からの消滅γ線は、検出器に入射したとしてもそのほとんどは検出器を透過することとなる。検出器で消滅γ線が検出されても閾値を消滅γ線のエネルギーである511keVに設定し、閾値以下の信号を除去することで消滅γ線とポジトロンを弁別できることとなる。しかし一方で、511keV以下のエネルギーのポジトロンもノイズとして除去されるためこの検出器は低エネルギーのポジトロンの感度が低い欠点を有するといった問題がある。
【0006】
次に、従来のコインシデンス型検出器の構成例について、図2を参照して説明する。コインシデンス型検出器では、2本の消滅γ線を同時計測してポジトロンの検出を行う。コインシデンス型検出器は、消滅γ線を同時計測するため、低エネルギーのポジトロンおよび血液を通すチューブなどの遮蔽物があっても測定可能である。対抗する方向に放出される2本の消滅γ線を同時計測するには、シンチレータを含む検出器が2本必要となる。消滅γ線は透過力が強いため、シンチレータのサイズを大きくする必要がある。また、検出器を周囲のノイズから遮蔽するための鉛が必要となる。このように、コインシデンス型検出器は、2本の検出器および検出器を覆う鉛が必要であるため、検出器本体のサイズと重量が非常に大きくなるといった欠点を有する。検出器の大きさと重量の問題は、動脈血液中のRI濃度を被験者の近傍で測定する観点からは好ましいものではない。
【0007】
そして、従来のホスウィッチ型検出器の構成例について、図3を参照して説明する。このホスウィッチ型検出器は、チューブ内から放出されたポジトロンをプラスチックシンチレータで、ポジトロンから放出される消滅γ線をBGOシンチレータでそれぞれ検出するものである。ポジトロンの検出は、プラスチックシンチレータとBGOシンチレータの信号の同時計数を取ることで行う。同時計数をとるためバックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することが可能となる。しかしながら、このホスウィッチ型検出器は消滅γ線を検出する必要があることから、シンチレータのサイズは大きくしなければならず、検出器のサイズを小さくすることができないといった問題がある。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、ポジトロン核種の位置を感度よく検出でき腫瘍等の診断を迅速に行えるコンパクトな放射線検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器が提供される。
【0010】
シンチレータが、発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされることにより、光検出器から得られるパルス波形スペクトラムを用いた信号弁別手段を備えることにより、ポジトロンと消滅γ線の同時計数や消滅γ線のエネルギーを閾値とした信号弁別を行わずにノイズとなるγ線の除去が可能となる。従って、ポジトロンを高感度で検出することができる。
第1層シンチレータではポジトロンを止め、ポジトロンが持っていた運動エネルギーを光に変換し発光する現象(シンチレーション)を起こす。その際、ポジトロンは近傍の電子と結合し消滅する。消滅時に対向する2本の消滅γ線を放出することとなる。消滅γ線は透過力が強く、大部分はシンチレータで検出されずに透過するが、透過しなかった消滅γ線およびバックグラウンドとなるγ線は、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出されることとなる。第1層シンチレータと第2層シンチレータの信号弁別は、パルス波形スペクトラムを用いている。
また、第1層シンチレータの厚みを0.1〜1.0mmと薄くしているのは、ポジトロンの最大飛程距離を考慮したものである。
また、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算とは、具体的には、第1層シンチレータの計数値から第2層シンチレータの計数値を減算するものである。
【0011】
次に、本発明の第2の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器が提供される。
【0012】
ここで、第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造を2組対向配置する際に、第1層シンチレータと第2層シンチレータは入れ子になるように設置する。すなわち、対向する際、第1層シンチレータ同士が向かい合うように配置する。これにより、ノイズとなるバックグラウンドγ線は検出器外側のどの方向から入射しても、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出される数がほぼ等しくなるため、第1層シンチレータの計数から第2層シンチレータの計数を差し引くことでポジトロンによる計数を精度よく求めることができる。
【0013】
次に、本発明の第3の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きくされ、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器が提供される。
第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きい構成とすることにより、第2層シンチレータにおける統計変動を小さくでき、γ線を感度よく検出できる。
【0014】
次に、本発明の第4の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きくされ、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器が提供される。
第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きい構成とすることにより、第2層シンチレータにおける統計変動を小さくでき、γ線を感度よく検出できる。
また、第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置されることにより、第2層シンチレータの同時計数をとることで、バックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することができ、ポジトロンおよびγ線の計数値の感度を高くできる。
【0015】
次に、本発明の第5の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされ、第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第3層シンチレータの厚みが第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされ、第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、第3層シンチレータでγ線を検出することを特徴とする放射線検出器が提供される。
3層構造としたのは、本発明の第1の観点の如く、第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得でき、また、本発明の第3の観点と同様、第3層シンチレータにおける統計変動を小さくでき、γ線を感度よく検出できることとしたものである。
【0016】
次に、本発明の第6の観点の放射線検出器からは、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、第3層シンチレータの厚みが第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされ、第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、第3層シンチレータでγ線を検出することを特徴とする放射線検出器が提供される。
3層構造とされたものが2組対向配置された構成とすることにより、ノイズとなるバックグラウンドγ線は検出器外側のどの方向から入射しても、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出される数がほぼ等しくなるため、第1層シンチレータの計数から第2層シンチレータの計数を差し引くことでポジトロンによる計数を精度よく求めることができる。
【0017】
上記の本発明の第6の観点の放射線検出器において、対向配置された2組の第1層シンチレータから第3層シンチレータの同時計数をとり、バックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することにより、ポジトロンおよびγ線の計数値の感度を高くすることが好ましい態様である。
【0018】
ここで、上記の第1層シンチレータ、第2層シンチレータ、ならびに第3層シンチレータは、Ce濃度の異なるGSOシンチレータであることが好ましい態様である。
【0019】
また、上記の信号弁別手段は、光検出器から得られるパルス波形スペクトラムのカウント値のピーク時間を弁別するための所定の閾値時間を設定して弁別することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の放射線検出器は、ポジトロン核種の位置を感度よく検出でき腫瘍等の診断を迅速に行える効果を有する。また、放射線検出器のサイズをコンパクトにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、図面を参照しつつ、本発明の放射線検出器の実施例を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施例に示した具体的な用途に限定されるものではない。
【実施例1】
【0022】
実施例1の放射線検出器の検出原理を図4に示す。本発明の放射線検出器は、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、光検出器から得られるパルス波形スペクトラムを用いた信号弁別手段を備えている。第1層シンチレータと第2層シンチレータは、それぞれCe濃度が0.5%(発光減衰時間60ns)、1.5%(発光減衰時間35ns)のGSOシンチレータで構成される。そして、このGSOシンチレータとプリズムとPMTから構成される。ここで、第1層シンチレータを内側に、第2層シンチレータを外側にし、二組用意し対向するように設置している。
【0023】
そして、チューブはこの対向したGSOシンチレータ間に設置する。設置したチューブ内のRIから放出されたポジトロンは、まず第1層シンチレータであるGSOシンチレータに入射する。第1層シンチレータのGSOシンチレータではポジトロンを止め、ポジトロンが持っていた運動エネルギーを光に変換し発光する現象(シンチレーション)が生じる。その際、ポジトロンは近傍の電子と結合し消滅する。消滅時に対向する2本の消滅γ線を放出する。消滅γ線は透過力が強く、また大部分はGSOシンチレータで検出されずに透過する。透過しなかった消滅γ線およびバックグラウンドとなるγ線は、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出される。また、信号弁別手段は、第1層シンチレータと第2層シンチレータのGSOシンチレータのCe濃度の違いによる発光減衰時間の違いを用いている。図4に示されるように、シンチレータは入れ子になるように設置しているため、ノイズとなるバックグラウンドγ線は検出器外側のどの方向から入射しても、第1層シンチレータと第2層シンチレータで検出される数が、ほぼ等しくなる。そのため、第1層シンチレータで検出される計数から第2層シンチレータで検出される計数を差し引くことにより、ポジトロンによる計数を求めることとしている。下記数式は、ポジトロンによる計数を求めるための式である。
【0024】
【数1】
【0025】
ここで、C1は、図4の第1層シンチレータで検出された計数であり、C2は第2層シンチレータで検出された計数であり。また、CγTubeはチューブ内のポジトロンから発生した消滅γ線による計数、CγBGはバックグラウンドからのγ 線による計数である。ポジトロンの計数Cposiは、第1層シンチレータの計数から第2層シンチレータの計数を差し引くことで計算される。
以上より開発したポジトロン検出器はポジトロンと消滅γ線の同時計数や消滅γ 線のエネルギーを閾値とした信号弁別を行わずにノイズとなるγ 線の除去が可能となる。これにより、ポジトロンを高感度で検出することが可能となるのである。
【0026】
また、信号弁別は、GSOシンチレータのCe濃度の変化による発光減衰時間の変化を利用している。実施例1の放射線検出器に用いたGSOシンチレータの濃度と発光減衰時間を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
第1層シンチレータのGSOシンチレータは、Ce濃度が1.5mol%、発光減衰時間が35ns、第2層シンチレータはCe濃度が0.5mol%,発光減衰時間が60nsである。信号弁別の方法について、図5を参照して説明する。
信号弁別は、まずそれぞれの信号に対して120nsの範囲で部分積分を行う。その後、発光減衰時間に対して十分長い時間(300ns)の範囲で全積分を行う。ここで、信号弁別のための定数PSD(PulseShape Distribution)は、下記数式で定義している。
【0029】
【数2】
【0030】
ここで、PIはそれぞれの信号における部分積分値,FIは全積分値となる。信号弁別はPSDを横軸に、縦軸にカウントを取ったパルス波形スペクトラムを利用する。パルス波形スペクトラムの一例を図6に示す。PSDは、上記数式や図5のグラフ値より、発光減衰時間が短いと大きく、長いと小さくなる傾向となる。そのため、図6では左側のピークが0.5mol%のGSOシンチレータ,右側のピークが1.5mol%のGSOシンチレータによる信号となる。信号弁別はこの二つのピークの間に閾値を設定することで行うこととしている。
【0031】
次に、実施例1の放射線検出器の構成を図7に示す。実施例1の放射線検出器で使用しているGSOシンチレータの大きさは、検出面が20mm×10mm,厚さが0.5mmである。シンチレータの厚さはポジトロンの飛程距離に関する下記数式3より算出している。
【0032】
【数3】
【0033】
ここで、Emaxはポジトロンの最大エネルギー(MeV),Rはポジトロンの最大飛程距離,dは対象となる物質の密度(g/cm3)である。Emaxは、PETで使用されているポジトロンの中で一番高いエネルギーを持つ82Rb(最大エネルギー:3.37MeV)を対象としている。シンチレータの厚さは、最大飛程距離より厚ければ問題ないが、厚すぎた場合にバックグラウンドのγ線を検出する確率が高くなるため、実施例1の放射線検出器では、第1層シンチレータと第2層シンチレータの各層の厚さは0.5mmにしている。
【0034】
実施例1の放射線検出器では、GSOシンチレータ間の溝の幅は3mmに設定している。これは、チューブの配置を考慮したためである。また実施例1の放射線検出器では、第1層シンチレータと第2層シンチレータで構成される2層のGSOシンチレータ二組、プリズム、ライトガイド、PMT(浜松ホトニクス社製:R−7600−U)をそれぞれ光学結合している。この光学結合には、シリコンゴム(信越シリコーン社製:KE420)を用いている。検出部分は、反射材として高反射膜フィルムおよびテフロン(登録商標)製のテープを用いている。かかる構成の実施例1の放射線検出器は、検出器のサイズが25mm×25mm×60mmとコンパクトであり、手のひらに載せることも可能で、従来よりも取扱いの利便性が向上できている。
【0035】
また、PMTは光に敏感であることから、外部からの光が入射するとその入射光はPMTにより検出されるため、測定値の誤差要因となる。実施例1の放射線検出器では、検出器の遮光を行い外部からの光を防ぐため、検出器の遮光には反射材として用いている高反射膜フィルムおよびテフロン(登録商標)製のテープの他に絶縁も兼ねて黒のビニールテープを用いている。
【0036】
測定時には、ポジトロンのほかにバックグラウンドノイズであるγ線も入射する。このγ線の入射を軽減するため検出器を収納する収納容器を設けている。この収納容器の材質はγ線の遮蔽性能と目標とするサイズの兼ね合いからタングステン合金を用いている。実施例1の放射線検出器は、検出器と収納容器を含めた大きさは40mm×40mm×80mm,重量は約1.5kgとなり、コンパクトで取扱いが容易な手のひらサイズの放射線検出器である。
【0037】
実施例1の放射線検出器の動作確認を行うため、γ線とF−18を用いて動作確認を実施した結果を以下に説明する。動作確認に用いた放射線源は、γ線(511keV),F−18(最大エネルギー:633keV,平均エネルギー:242keV)である。F−18は、チューブに注入し検出器内部に設置し測定を行っている。γ線とF−18を用いて動作確認を実施した結果をそれぞれ図8と図9に示す。図8(1)と図9(1)はエネルギースペクトラムであり、図8(2)と図9(2)は波形弁別スペクトラムである。波形弁別スペクトラムにおいて、横軸は波形弁別に用いる定数(PSD)に比例しているチャンネルである。右側のピークが第1層シンチレータ,左側のピークがと第2層シンチレータによる信号を示している。この2つのピーク間に閾値を設定することで信号の弁別を行っている。縦軸は、それぞれのチャンネルにおけるカウントとなる。同様にエネルギースペクトラムにおいて、横軸はエネルギーに比例するチャンネルであり、縦軸はチャンネルごとのカウントとなる。図9(1)はポジトロンから放出される消滅γ線の光電ピークが確認できている。
【0038】
次に、実施例1の放射線検出器の感度について説明する。感度は検出器の性能を表す重要な要素である。検出器の感度が高いと採血する量を少なくすることができるからである。ポジトロン線源として、F−18(最大エネルギー:662keV)とC−11(最大エネルギー:968keV)を用いている。F−18とC−11をそれぞれチューブに密封する。チューブ中の放射能は予めウェルカウンタを用いて計測している。ポジトロン検出器の検出面中央に線源が位置するようにチューブを配置して、ウェルカウンタにより得られた結果およびポジトロン検出器で得られた結果を用いて感度を算出した。算出結果を下記表2にF−18およびC−11で測定したポジトロン検出器の感度を示す。感度は、表2に示すように、F−18(Paper 0.1mm thickness)で18.2%,F−18(SP−10 Tube)で7.7%,C−11(SP−10 Tube)で24.0%であった。
【0039】
【表2】
【0040】
次に、実施例1の放射線検出器の計数率特性について説明する。計数率特性は検出器の測定できるポジトロンを検出できる放射能の限界を示す要素である。計数率特性がよければ高濃度のポジトロンを測定することができることとなる。ポジトロン検出器の計数率特性を得るため、C−11およびF−18を用いて計数率を測定した。ポジトロンはC−11およびF−18を用い、同様にチューブ内に密封した。チューブは検出器上部の溝に設置して計数率特性を測定した。C−11およびF−18の測定結果をそれぞれ図10(1)、図10(2)に示す。F−18は半減期が109分であるが、図10(1)においても約110分でカウントが半減していることが確認できる。同様に、C−11においても半減期20.9分に対して、図10(2)において約20分でカウントが半減していることがわかる。
また計数率は、約100kcpsまで直線性を示していることがわかる。これは臨床PET測定時の動脈血中RI濃度を想定する場合に、十分な計数率の値であることがわかる。従って、実施例1の放射線検出器は、血中RI濃度連続測定に使用可能であると判断できることになる。
【0041】
次に、実施例1の放射線検出器のバックグランド除去性能について説明する。バックグラウンドノイズから受ける影響は検出器にとって重要な要素である。バックグラウンドノイズから受ける影響が大きい場合検出器の検出精度に問題が生じる。外部にバックグラウンドノイズ発生源を配置し消滅γ線からポジトロン検出器が受ける影響を測定した。まず、0.18MBqのF−18をチューブに密封し、ポジトロン線源として検出器に設置し実験を行うこととした。バックグラウンド線源は、4.44MBqのF−18を注入した容器を用いている。初めにバックグラウンド線源を検出器から離した状態で測定を行い、その後バックグラウンド線源を図11中の1〜5の位置に設置して測定した。測定結果を図12に示す。ここで、図12中の番号はそれぞれ図11の番号と対応している.ポジトロンのカウントは第1層シンチレータと第2層シンチレータのカウントの差である。バックグラウンド線源を隣接した状態と離した状態でポジトロンのカウントの変化を調べたところ3%以下であった。これらの結果より、実施例1の放射線検出器は約25倍のバックグラウンドノイズがあるとしても正常に測定できると判断できる。
【0042】
次に、実施例1の放射線検出器の動作確認実験の結果を説明する。実験は、ラットを用いた実際の環境で行うこととした。実験の構成図を図13に示す。薬剤はF−18−EDGを用いた。まずラットの動脈に注射針を挿入し、チューブ内に血液を導入した。ラットの静脈に薬剤を注入し、30分間測定を行った。ウェルカウンタで得られた結果を図14に示す。カウントが極端に低くなっている部分は、血液がチューブ内で固まらないように生理食塩水でチューブ内を押し流した。
なお、ポジトロン検出器で得られた結果と手動時の結果は約5%差であった。
【0043】
以上説明したように、実施例1の放射線検出器によれば、2層のGSOシンチレータを対向する方向に設置することで、ポジトロンと消滅γ線の同時計数や消滅γ線のエネルギーを閾値とした信号弁別を行わずにノイズとなるγ線を除去でき、ポジトロンのみを検出することが可能である。また、検出器のサイズは収納容器を含めたサイズも手のひらに搭載できる程度のコンパクト性を有し、更に、感度や計数率特性においても従来品を凌駕するものである。
参考までに、従来のポジトロンの放射線検出器と性能を比較すると、検出器のサイズにおいてはコインシデンス型,ホスウィッチ型の従来の検出器と比較して約半分のサイズを実現している。また、感度はF−18およびC−11においてもコインシデンス型,ホスウィッチ型と比較して十分高い感度を得ることができた。計数率特性はコインシデンス型が40kcps,ホスウィッチ型が10kcpsまで測定可能であるのに対し、開発した検出器では100kcpsまで測定可能である。
【実施例2】
【0044】
前述の実施例1は、放射線の入射によって発光するシンチレータと、シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータの厚みが0.5mmであり、第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とした。
本実施例2の放射線検出器は、実施例1の放射線検出器と異なり、2層構造のシンチレータが2組対向配置される。実施例2の放射線検出器の構成図を図15に示す。本実施例2の放射線検出器は、ハンディータイプとして取扱いの利便性がよく、例えばFDG(腫瘍)ガイド下の手術用プローブとして好適に使用できる。
【実施例3】
【0045】
次に、実施例3の放射線検出器について図16を参照しながら説明する。図16に示されるように、実施例3の放射線検出器は、実施例1の放射線検出器と異なり、第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きくされている。第2層シンチレータの厚みが第1層シンチレータの厚みよりも大きい構成とすることにより、第2層シンチレータにおける統計変動を小さくでき、γ線を感度よく検出できる。
すなわち、ポジトロンは、第1層シンチレータの計数値から第2層シンチレータの計数値に所定の係数を掛けたものを減算することにより求められる(ポジトロン
= 第1層シンチレータ − 第2層シンチレータ×α)。ここで、係数αは、第2層シンチレータの厚みにより決定される。
【実施例4】
【0046】
次に、実施例4の放射線検出器について図17を参照しながら説明する。図17に示されるように、実施例4の放射線検出器は、実施例1の放射線検出器と異なり、シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされたものが2組対向配置され、第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.5mmであり、第3層シンチレータの厚みが第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされた構成とされている。かかる3層構造の構成により、第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、第1層シンチレータの計数値と第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、第3層シンチレータでγ線を検出する。
また、対向配置された2組の第1層シンチレータから第3層シンチレータの同時計数をとり、バックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することにしている。これにより、ポジトロンおよびγ線の計数値の感度を向上できる。
【0047】
なお、上述のように本発明の好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、血中RI濃度連続測定システムに用いられている検出器として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】従来のγ線を直接検出する検出器の構成例図
【図2】従来のコインシデンス型検出器の構成例図
【図3】従来のホスウィッチ型検出器の構成例図
【図4】実施例1の放射線検出器の検出原理図
【図5】実施例1の放射線検出器の信号弁別の方法の説明図
【図6】パルス波形スペクトラムの一例
【図7】実施例1の放射線検出器の構成図
【図8】γ線を用いて動作確認を実施した結果を示す図
【図9】F−18を用いて動作確認を実施した結果を示す図
【図10】C−11およびF−18を用いて計数率測定を行った結果を示す図
【図11】実施例1の放射線検出器のバックグランド除去性能実験の説明図
【図12】実施例1の放射線検出器のバックグランド除去性能実験結果を示す図
【図13】ラットを用いた動作確認試験の構成図
【図14】ウェルカウンタで得られた結果
【図15】実施例2の放射線検出器の構成図
【図16】実施例3の放射線検出器の構成図
【図17】実施例4の放射線検出器の構成図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、前記第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、前記第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、前記第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、前記第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項3】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、前記第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第2層シンチレータの厚みが前記第1層シンチレータの厚みよりも大きくされ、前記第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、前記第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項4】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、前記第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第2層シンチレータの厚みが前記第1層シンチレータの厚みよりも大きくされ、前記第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、前記第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項5】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされ、前記第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第3層シンチレータの厚みが前記第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされ、前記第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、前記第3層シンチレータでγ線を検出することを特徴とする放射線検出器。
【請求項6】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされたものが2組対向配置され、前記第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第3層シンチレータの厚みが前記第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされ、前記第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、前記第3層シンチレータでγ線を検出することを特徴とする放射線検出器。
【請求項7】
対向配置された2組の前記第1層シンチレータから第3層シンチレータの同時計数をとり、バックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することにより、ポジトロンおよびγ線の計数値の感度を高くすることを特徴とする請求項6に記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記信号弁別手段は、前記光検出器から得られるパルス波形スペクトラムのカウント値のピーク時間を弁別するための所定の閾値を設定して弁別することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記第1層シンチレータおよび前記第2層シンチレータは、Ce濃度の異なるGSOシンチレータであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の放射線検出器。
【請求項10】
前記第1層シンチレータと前記第2層シンチレータおよび前記第3層シンチレータは、Ce濃度の異なるGSOシンチレータであることを特徴とする請求項5又は6に記載の放射線検出器。
【請求項1】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、前記第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、前記第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項2】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、前記第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、前記第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項3】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされ、前記第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第2層シンチレータの厚みが前記第1層シンチレータの厚みよりも大きくされ、前記第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、前記第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項4】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータの2層構造とされたものが2組対向配置され、前記第1層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第2層シンチレータの厚みが前記第1層シンチレータの厚みよりも大きくされ、前記第1層シンチレータでポジトロンおよびγ線を検出し、前記第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を得ることを特徴とする放射線検出器。
【請求項5】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされ、前記第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第3層シンチレータの厚みが前記第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされ、前記第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、前記第3層シンチレータでγ線を検出することを特徴とする放射線検出器。
【請求項6】
放射線の入射によって発光するシンチレータと、前記シンチレータと光学的に結合された光検出器とを備えたシンチレーション検出器において、前記シンチレータは発光減衰時間の異なる第1層シンチレータと第2層シンチレータと第3層シンチレータの3層構造とされたものが2組対向配置され、前記第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みが0.1〜1.0mmであり、前記第3層シンチレータの厚みが前記第1層シンチレータおよび第2層シンチレータの厚みよりも大きくされ、前記第1層シンチレータでポジトロンとγ線を検出し、第2層シンチレータでγ線を検出し、前記第1層シンチレータの計数値と前記第2層シンチレータの計数値との演算によりポジトロンの計数値を取得し、前記第3層シンチレータでγ線を検出することを特徴とする放射線検出器。
【請求項7】
対向配置された2組の前記第1層シンチレータから第3層シンチレータの同時計数をとり、バックグラウンドノイズとなる消滅γ線を除去することにより、ポジトロンおよびγ線の計数値の感度を高くすることを特徴とする請求項6に記載の放射線検出器。
【請求項8】
前記信号弁別手段は、前記光検出器から得られるパルス波形スペクトラムのカウント値のピーク時間を弁別するための所定の閾値を設定して弁別することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の放射線検出器。
【請求項9】
前記第1層シンチレータおよび前記第2層シンチレータは、Ce濃度の異なるGSOシンチレータであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の放射線検出器。
【請求項10】
前記第1層シンチレータと前記第2層シンチレータおよび前記第3層シンチレータは、Ce濃度の異なるGSOシンチレータであることを特徴とする請求項5又は6に記載の放射線検出器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2009−264985(P2009−264985A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−116462(P2008−116462)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月26日 インターネットアドレス「http://isw3.naist.jp/IS/Curriculum/07/Seminar/bin/seminarlist2.cgi/0710263」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月27日 IEEE発行の「IEEE NUCLEAR SCIENCE SYMPOSIUM and MEDICAL IMAGING CONFERENCE」に発表
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月26日 インターネットアドレス「http://isw3.naist.jp/IS/Curriculum/07/Seminar/bin/seminarlist2.cgi/0710263」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年10月27日 IEEE発行の「IEEE NUCLEAR SCIENCE SYMPOSIUM and MEDICAL IMAGING CONFERENCE」に発表
【出願人】(504143441)国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学 (226)
【Fターム(参考)】
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