放射線検出部材の製造方法及び放射線検出装置
【課題】実施形態は、安価な平板形状のプラスチックシンチレータを使用して、ライトガイドにプラスチックシンチレータを確実かつ容易に溶着することのできる放射線検出部材の製造方法を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、放射線の入射によって蛍光を発する平板形状のプラスチックシンチレータの放射線入射面全面をマスキングして、プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布するレーザー吸収剤塗布工程S2と、棒状のライトガイドの各側面にプラスチックシンチレータをマスク面が上側となるように配置し、ライトガイドにプラスチックシンチレータをレーザー溶着する溶着工程S3と、を有する。
【解決手段】実施形態によれば、放射線の入射によって蛍光を発する平板形状のプラスチックシンチレータの放射線入射面全面をマスキングして、プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布するレーザー吸収剤塗布工程S2と、棒状のライトガイドの各側面にプラスチックシンチレータをマスク面が上側となるように配置し、ライトガイドにプラスチックシンチレータをレーザー溶着する溶着工程S3と、を有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検出部材の製造方法、及びこの製造方法により製造される放射線検出部材を備えた放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、放射能汚染の有無を検査するための主な装置としては、表面汚染サーベイメータがある。この表面汚染サーベイメータは、検査対象機器などの表面に密接させて測定し易いように、その検出部は広く平坦な構造となっている。
【0003】
一方、細管や機器などのボルト穴に対しては、これら被検出部の大きさや形状から、その内表面を直接測定することができない。そのため、被検査面が露出するように切断作業などのような多大な労力を要して測定する必要があった。
【0004】
したがって、細管や機器などのボルト穴に挿通可能とするため、棒状に形成された放射線検出部材が求められている。しかし、このような放射線検出部材では、製造に手間がかかるとともに、遮光方法やその遮光膜の強度などに問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1に記載された技術は、プラスチックシンチレータプレート上に熱転写シートを重合させた状態で加熱処理すると、熱転写シートから皮膜が剥離し、プラスチックシンチレータプレート上に貼り付けられる。上記皮膜は、保護層、アルミニウム層及び接着層を有する。そして、上記皮膜がプラスチックシンチレータプレートと接着によって一体化することで、遮光膜の強度を向上させたプラスチックシンチレータ部材を簡易に実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−147581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1に記載されたシンチレータ部材の製造方法では、接着層を介在させてプラスチックシンチレータプレート表面に皮膜を貼る構成であることから、その接着層が蛍光を吸収するため集光量が減少することになる。また、上記接着層は、数μm程度の厚みが必要と考えられ、これは放射線(α線やβ線)の透過を阻害することから、物理的に強い遮光膜が実現できる一方で、蛍光や放射線の減衰が大きくなって、放射線感度が低下すると考えられる。
【0008】
皮膜の表面強度は、鉛筆硬度で2H〜3H程度と推測され、細管切断部に生じた金属のバリなどが測定時に検出面へと接触した場合、遮光層の損傷を免れないと思われる。
【0009】
プラスチックシンチレータは、γ線の反応を抑制する目的からできるだけ薄く加工するものの、円筒形などのように加工が困難な形状にするとコストが増大するため、安価な平板形状のプラスチックシンチレータとライトガイドを組み合わせた構成がある。このプラスチックシンチレータとライトガイドの接着方法には、従来から光学接着剤が使用されている。しかしながら、この光学接着剤は、一般に粘性率が低く浸透し易いため、塗布が困難で望ましい仕上がり品質が得られにくく、さらに接着剤が硬化するには、固定状態のまま半日〜1日程度の時間を要するといった問題がある。
【0010】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、安価な平板形状のプラスチックシンチレータを使用して、ライトガイドにプラスチックシンチレータを確実かつ容易に溶着する放射線検出部材の製造方法及び放射線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態に係る放射線検出部材の製造方法は、放射線の入射によって蛍光を発する平板形状のプラスチックシンチレータの放射線入射面全面をマスキングして、前記プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布するレーザー吸収剤塗布工程と、棒状のライトガイドの各側面に前記プラスチックシンチレータをマスク面が上側となるように配置し、前記ライトガイドに前記プラスチックシンチレータをレーザー溶着する溶着工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の実施形態に係る放射線検出装置は、プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布し、棒状のライトガイドの各側面に前記プラスチックシンチレータをレーザー溶着した放射線検出部材と、前記放射線検出部材の一方の端面に光学的に接続され、前記プラスチックシンチレータから前記ライトガイド内に入射した蛍光を信号パルスに変換する光電子増倍管と、前記光電子増倍管により変換された信号パルスを増幅する信号増幅部と、前記信号増幅部により増幅した信号パルスとノイズとを弁別する波高弁別部と、前記信号増幅部により増幅した信号パルスを計数するカウンタ部と、前記カウンタ部により計数された数値情報に基づいて汚染の有無を判定処理する汚染判定処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、安価な平板形状のプラスチックシンチレータを使用して、ライトガイドにプラスチックシンチレータを確実かつ容易に溶着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る放射線検出部材の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明に係る放射線検出部材の製造方法の一実施形態においてプラスチックシンチレータの研磨加工工程を示す概略斜視図である。
【図3】一実施形態においてプラスチックシンチレータ表面にレーザー吸収剤を塗布する工程を示す概略斜視図である。
【図4】一実施形態においてプラスチックシンチレータをライトガイドに溶着する工程を示す概略斜視図である。
【図5】一実施形態においてプラスチックシンチレータをライトガイドに溶着する工程を示す概略斜視図である。
【図6】図5のVI方向矢視図である。
【図7】一実施形態においてプラスチックシンチレータの表面に蛍光反射層を直接成膜する工程を示す概略斜視図である。
【図8】一実施形態においてプラスチックシンチレータの表面に成膜した蛍光反射層の上に遮光層を成膜する工程を示す概略斜視図である。
【図9】一実施形態においてプラスチックシンチレータに接着する保護ガイドを示す斜視図である。
【図10】図9のX方向矢視図である。
【図11】一実施形態においてプラスチックシンチレータに保護ガイドを接着し、細い紐で緊締する工程を示す概略斜視図である。
【図12】図11のXII方向矢視図である。
【図13】一実施形態において放射線検出部材の先端に保護キャップを接着する工程を示す概略斜視図である。
【図14】一実施形態において遮光層、保護ガイド及び保護キャップに保護層を成膜する工程を示す概略斜視図である。
【図15】本発明に係る放射線検出部材の製造方法により製造された放射線検出部材を備える放射線検出装置の一実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る放射線検出部材の製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は、細径管やボルト穴などのような細径部に対してその内表面汚染を直接検査することができるように放射線検出部材を細径部に挿入可能な棒状に形成した例について説明する。
【0016】
(一実施形態)
図1は本発明に係る放射線検出部材の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の放射線検出部材の製造方法は、順に研磨加工工程S1、レーザー吸収剤塗布工程S2、溶着工程S3、蛍光反射層形成工程S4、樹脂層形成工程S5、保護ガイド接着工程S6、キャップ接着工程S7、及び保護層形成工程S8を有する。
【0018】
本実施形態のプラスチックシンチレータは、β線の検出を目的としており、バックグラウンド線種の一つであるγ線の反応確率を抑制するため、薄く加工する必要がある。その厚みは通常0.1mm〜0.4mmで、好ましくは0.2mmである。
【0019】
また、プラスチックシンチレータの表面には、製造過程で生じたと考えられる数μm程度から10μmを超えるような複数の突起物が存在している。この状態で、シンチレータの表面に積層薄膜を直接形成すると、その積層薄膜から突起物が突き出した状態となり、この部分がピンホールとなって遮光することができないことがある。この突起物は本発明者らの実験により、純水や中性洗剤などによる洗浄やエアーの吹付けなどでは除去することができないことが判明している。
【0020】
次に、上記各工程を図面に基づいて具体的に説明する。
【0021】
(研磨加工工程S1)
そこで先ずは、研磨加工工程S1でプラスチックシンチレータ表面の突起物を除去しなければならない。
【0022】
図2は本発明に係る放射線検出部材の製造方法の一実施形態においてプラスチックシンチレータの研磨加工工程を示す概略斜視図である。
【0023】
図2に示すように、研磨加工工程S1は、放射線の入射によって蛍光を発する長尺平板形状のプラスチックシンチレータ1の放射線入射面全面を研磨加工する工程である。
【0024】
具体的には、研磨加工工程S1では、図2に示すようにプラスチックシンチレータ1と、プラスチックシンチレータ保護板2と、バフ部材3と、このバフ部材3を回転駆動させるためのバフ部材回転機4と、図示しない研磨剤とが使用される。
【0025】
プラスチックシンチレータ1は、薄く加工され、外部から加えられる力に対して脆くなっているため、プラスチックシンチレータ保護板2の上に固定する。このプラスチックシンチレータ保護板2は、例えば清潔で平坦なガラス板を使用し、その上に大きめ(例えば一辺200mmの正方形)のプラスチックシンチレータ1を載置する。このプラスチックシンチレータ1は、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)を含む合成樹脂から成形されている。
【0026】
ここで、プラスチックシンチレータ1の裏側に水などが浸透しないようにプラスチックシンチレータ1の端部全体をシールテープ(例えば、住友スリーエム社製のカートンテープ)で固定することが望ましい。このカートンテープは、例えばポリプロピレンフィルムのベースとゴム系粘着剤を組み合わせたテープである。
【0027】
また、本実施形態による放射線検出部材の製造に係る作業環境は、できるだけ埃の少ないことが必要であり、好ましくはISOクラス6(クラス1000:米国連邦規格)以下の作業環境である。
【0028】
バフ部材3とバフ部材回転機4は、例えば住友スリーエム社製のフォームバフィングパッド13258や13257などと、バフィングサンダー9025を使用することができる。
【0029】
また、上記研磨剤は、例えばシリコン系潤滑液を含有しない住友スリーエム社のポリッシュエクストラファイン(商品名)などを使用することができる。因みに、上記シリコン系潤滑液を含有していると、プラスチックシンチレータ1が研磨剤を弾いてしまい、研磨加工が困難になるからである。
【0030】
次に、研磨加工工程S1についてより具体的に説明する。
【0031】
まず、バフ部材回転機4にバフ部材3を装着し、研磨剤を100cm2あたり、2〜4g程度を目安にバフ部材3に付着させて、このバフ部材3をプラスチックシンチレータ1の表面に軽く押し当ててバフ部材回転機4を駆動させる。研磨加工時間の目安は、1箇所(バフの面サイズ相当)あたり20秒〜60秒程度とすることで、プラスチックシンチレータ1の表面の突起物を除去する効果が得られ、かつプラスチックシンチレータ1に深い傷が生じにくい。
【0032】
また、プラスチックシンチレータ1の表面の突起物を除去しにくい場合は、例えばバフ部材3の硬さの異なるものを2種類用意しておき、初めに硬めの方のバフ部材(例えば、住友スリーエム社製のフォームバフィングパッド13258(商品名))を用いて突起物の除去を目的とした研磨加工を行い、続いて柔らかめの方のバフ部材(例えば、住友スリーエム社製のフォームバフィングパッド13257(商品名))を用いて傷を軽減するための研磨加工を行うことで、突起物を除去するとともに、傷の抑制も可能となるため効果的である。
【0033】
そして、研磨加工後は、プラスチックシンチレータ1の表面を洗浄処理する。研磨剤に含まれる砥粒は、プラスチックシンチレータ1の表面に強く密着している場合があり、洗浄後に砥粒が残った状態であると、この残った砥粒が新たな突起物となってしまう可能性がある。
【0034】
このため、砥粒を除去するには、中性洗剤で砥粒を浮かせて純水などで洗い流す方法が効果的である。上記中性洗剤には、プラスチックシンチレータ1への物性的影響を考慮し、非イオン性の界面活性剤を選択することが好ましく、さらに水に界面活性剤を0.5〜1wt%程度含有させて使用することが好ましい。洗浄後は、清潔なエアーで表面の水分を吹き飛ばしてから乾燥させることが好ましい。
【0035】
(レーザー吸収剤塗布工程S2)
図3は一実施形態においてプラスチックシンチレータ表面にレーザー吸収剤を塗布する工程を示す概略斜視図である。
【0036】
図3に示すように、レーザー吸収剤塗布工程S2は、プラスチックシンチレータ1の放射線入射面全面をマスキングして、プラスチックシンチレータ1の表面にレーザー吸収剤7を塗布する工程である。
【0037】
具体的には、図3に示すようにレーザー吸収剤塗布工程S2は、先ずプラスチックシンチレータ1を使用する大きさに切断加工して、研磨加工した面を下にしてマスク部材5の上に並べて載置する。このマスク部材5は、清潔で吸湿性を有するケプラー布などを用いることが好ましい。
【0038】
この状態で、霧吹き容器6にレーザー吸収剤7を入れてプラスチックシンチレータ1の表面に噴射させながら塗布する。
【0039】
ここで、プラスチックシンチレータ1の蛍光波長は、約420nm前後であるから、紫外線レーザーの吸収剤は、プラスチックシンチレータ1の蛍光を吸収してしまうことから適用することができない。よって、プラスチックシンチレータ1に塗布するレーザー吸収剤7は、蛍光の減衰が生じない赤外線吸収剤(例えば、Gentex社のクリアウェルド(登録商標)など)を使用することができる。このクリアウェルド(登録商標)は、塗布後数秒(7秒程度)で乾燥し、赤外線吸収剤の成分だけがプラスチックシンチレータ1の表面に残留する。そのため、赤外線吸収剤は、プラスチックシンチレータ1をマスク部材5上から直ぐに移動させることができるので扱い易い。
【0040】
因みに、従来では、光学接着剤を用いてプラスチックシンチレータ1をライトガイド8に接着している。その光学接着剤は、一般に粘性率が低く浸透し易いため、塗布が困難で仕上がり品質が得られにくく、さらに接着剤を硬化には固定状態のまま半日〜1日程度の時間を要する。
【0041】
(溶着工程S3)
図4及び図5は一実施形態においてプラスチックシンチレータをライトガイドに溶着する工程を示す概略斜視図である。図6は図5のVI方向矢視図である。なお、図4〜図6では、溶着工程S3におけるライトガイドを分かり易くするため、太径に形成しているが、実際には、その径の数分の一程度の径である。
【0042】
図4〜図6に示すように、溶着工程S3は、多角柱(四角柱)形状を成し、長尺の各側面が平坦面である棒状のライトガイド8の各側面にプラスチックシンチレータ1をマスク面が上側となるようにそれぞれ配置し、ライトガイド8にプラスチックシンチレータ1をレーザーにより溶着する工程である。
【0043】
具体的には、図4〜図6に示すようにライトガイド8は、例えば波長変換材(Wavelength Shifting Bar)を使用することができる。プラスチックシンチレータ1から波長変換材であるライトガイド8内に入射した蛍光は、プラスチックシンチレータ1の蛍光を吸収して、より長波長の蛍光をその内部で再発光する。その再発光した蛍光は、その多くが全反射成分と成り得るため、長尺の棒状放射線検出部材に適用し易い。
【0044】
但し、ライトガイド8内で再発光した蛍光が全反射条件を満たしてライトガイド8内に捕獲することができるかは、ライトガイド8とその外周囲の物質の持つ屈折率差で決まる臨界角(スネルの法則)に依存する。より多くの蛍光を全反射させるには、ライトガイド8の外周囲物質の屈折率ができるだけ小さいことが必要である。この場合、外周部の物質は、空気層(屈折率1.00)であることが好ましく、具体的にはライトガイド8とプラスチックシンチレータ1の表面同士を全て溶着せずに、ライトガイド8とプラスチックシンチレータ1との間に空気層が介在することができる状態を作り出すことが好ましい。
【0045】
そのため、図4に示すように溶着方法は、ライトガイド8の各側面に、適切な大きさに切断加工したプラスチックシンチレータ1を研磨加工面が上側となるように載置する。
【0046】
そして、図5に示すようにレーザー装置9(例えば、YAGレーザーなど)で点溶着する。このレーザー溶着は、材料の表面を汚さずにスポット溶着(直径1mm程度)することができる。これに対し、光学接着剤では、材料の表面を汚さずに接着することが困難であった。この溶着点10は、プラスチックシンチレータ1の軸方向の中央を回避して、できるだけプラスチックシンチレータ1の端部に沿って行うことが好ましい。プラスチックシンチレータ1の端部は、その下側となるライトガイド8の形状にも依存するものの、蛍光の散乱が生じやすく、その部位に溶着点10を設けることでライトガイド8内の蛍光全反射を阻害しにくくなる。
【0047】
この溶着方法によれば、図6に示すようにライトガイド8とプラスチックシンチレータ1との間に空気層11を介在させることができる。
【0048】
(蛍光反射層形成工程S4)
図7は一実施形態においてプラスチックシンチレータの表面に蛍光反射層を直接成膜する工程を示す概略斜視図である。
【0049】
図7に示すように、蛍光反射層形成工程S4は、ライトガイド8を周方向に回転させながらプラスチックシンチレータ1の表面とライトガイド8の先端面に蛍光反射層15を蒸着形成する工程である。
【0050】
放射線の入射によってプラスチックシンチレータ1の内部で発光した蛍光は、等方的角度に一様に広がる。このため、放射線入射方向(上側方向)に放出される蛍光成分を反射させてライトガイド8方向(下側方向)に導くことで、蛍光量が増加する。
【0051】
また、ライトガイド8内で再発光し、全反射条件を満たせずに外に放出された蛍光についても同様に反射させることで、蛍光の減少を抑制することができる。蛍光の反射効果を高めるには、図7に示すようにプラスチックシンチレータ1の表面に蛍光反射層15を直接形成することが好ましい。
【0052】
すなわち、図7に示すように蛍光反射層15を成膜するには、プラスチックシンチレータ1をその側面に溶着したライトガイド8と、ライトガイド8を周方向に回転させる回転装置12と、スパッタリング装置13と、ターゲット14とが主に用いられる。スパッタリング装置13は、図示しないがスパッタリングに必要な機能が全て備わっているものとする。ここで、蛍光反射層15の材料であるターゲット14は、アルミニウムを使用することができる。
【0053】
プラスチックシンチレータ1の表面に蛍光反射層15を直接成膜するには、回転装置12によりライトガイド8を周方向に回転させながら、スパッタリング装置13を用いてプラスチックシンチレータ1の表面とライトガイド8の先端面にアルミニウムの蛍光反射層15を成膜する。
【0054】
スパッタリング装置13を使用してプラスチックシンチレータ1の表面にアルミニウムを成膜する場合、成膜時間に応じてプラスチックシンチレータ1に熱応力が生じて変形する可能性がある。
【0055】
これを防止するには、成膜温度を40℃以下に保つことが望ましい。アルミニウムの膜厚は、通常0.07μm〜0.5μmで、望ましくは0.18μmである。また、スパッタリング装置13を使用して、プラスチックシンチレータ1の表面に図示しないが例えば二酸化ケイ素(SiO2)を成膜後、アルミニウムを成膜すると二酸化ケイ素がバインダーの効果を奏してプラスチックシンチレータ1とアルミニウムとの接着性を高めることができる。二酸化ケイ素の成膜厚さは、通常10nm〜100nmで、望ましくは30nmである。
【0056】
(樹脂層形成工程S5)
図8は一実施形態においてプラスチックシンチレータの表面に成膜した蛍光反射層の上に遮光層を成膜する工程を示す概略斜視図である。
【0057】
図8に示すように、樹脂層形成工程S5は、蛍光反射層15の表面上に遮光機能を有する色素を含有した遮光層18を形成する工程である。
【0058】
ところで、アルミニウムの蒸着膜には、不純物などの影響により確率的にピンホールが生じる可能性がある。このピンホールを塞ぐには、アルミニウムの蒸着膜表面に、自然光などを遮光する機能を有した色素を含有する遮光層18を設けることが好ましい。
【0059】
遮光層18を成膜する方法は、回転装置12に蛍光反射層15を形成済みのライトガイド8を装着し、このライトガイド8を周方向に回転させながら、UV(紫外線)硬化樹脂溶液16を入れた霧吹き容器6から、ライトガイド8の表面にUV硬化樹脂溶液16を塗布する。
【0060】
このUV硬化樹脂溶液16を塗布した後、乾燥工程を介してUV光源装置17からUV光を照射してUV硬化樹脂を硬化させることで、遮光層18が形成される。これにより、物理的に強い遮光膜を形成することができる。ここで、色素を含有する遮光層18の材料としては、例えばカーボンブラックを重量比15%程度含有したUV硬化樹脂を使用することができる。カーボンブラック以外には、例えばチタンブラックを用いることができる。遮光層18の膜厚は、通常1μm〜5μmで、好ましくは2〜3μmである。
【0061】
(保護ガイド接着工程S6)
図9は一実施形態においてプラスチックシンチレータに接着する保護ガイドを示す斜視図である。図10は図9のX方向矢視図である。図11は一実施形態においてプラスチックシンチレータに保護ガイドを接着し、細い紐で緊締する工程を示す概略斜視図である。図12は図11のXII方向矢視図である。
【0062】
図9及び図10に示すように、保護ガイド接着工程S6は、プラスチックシンチレータ1の継ぎ目部位の数に応じて、その継ぎ目部位に被せるようにライトガイド8の軸方向に沿って保護ガイド19を接着する工程である。
【0063】
ところで、ライトガイド8の軸方向に沿ってプラスチックシンチレータ1の端部同士が隣り合う部位は、隙間によって遮光されておらず、また強度も弱い状態となっている。このため、遮光するとともに、強度を確保するため、この隙間部分の上に保護ガイド19を被せることが好ましい。
【0064】
図9及び図10に示すように、保護ガイド19を接着するには、保護ガイド19に遮光機能を有する上述したカーボンブラックなどの色素を含有した遮光性接着剤20を塗布して、プラスチックシンチレータ1の幅方向の端部同士が隣り合う継ぎ目部位に被せて接着する。
【0065】
保護ガイド19は、上記継ぎ目部位を遮光するとともに、その遮光状態を維持し、さらに放射線検出部材自身を保護するため、測定対象である細管内やボルト穴内に挿入した際に、内部で放射線検出部材を周方向に回転させても、引っ掛かるなどの障害が生じないように、その表面は円形状であることが好ましい。
【0066】
保護ガイド19は、例えばライトガイド8の径方向断面が四角形であれば、直線丸棒に1/4の削り込みを入れて、その削り込み部分に遮光性接着剤20を適量塗布した後、上記継ぎ目部位に被せて接着すればよい。
【0067】
また、保護ガイド19の材質は、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウムなどの金属、または合成樹脂などを使用することができる。遮光性接着剤20には、例えばセメダイン株式会社製のセメダインスーパーXブラック(商品名)などを使用することができる。
【0068】
さらに、図11及び図12に示すように、保護ガイド19が遮光層18から剥離しないように、保護ガイド19の長手方向両端部の2箇所を緊締紐21で周方向に緊締することが好ましい。このため、保護ガイド19の端部2箇所の表面には緊締し易いように削り込みを形成しておくことが好ましい。なお、緊締紐21には、例えばアラミド繊維から成る細い紐が用いられる。この材料を使用することにより、劣化しにくく、かつ一旦緊締した緊締紐21が緩みにくくなる。
【0069】
(キャップ接着工程S7)
図13は一実施形態において放射線検出部材の先端に保護キャップを接着する工程を示す概略斜視図である。
【0070】
図13に示すように、キャップ接着工程S7は、遮光層18を形成したライトガイド8の先端面に遮光性を有し先端が球面に形成された保護キャップ22をライトガイド8の先端部位に被せて接着する工程である。
【0071】
図13に示すように、保護キャップ22は、保護ガイド19を含めて先端部に被せて接着する。その接着剤は、前述したセメダイン株式会社製のセメダインスーパーXブラック(商品名)などを使用することができる。保護キャップ22の材質は、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウムなどの金属、または樹脂などを使用することができる。
【0072】
このように本実施形態では、ライトガイド8の先端面に保護キャップ22を被せて接着するキャップ接着工程S7を有することにより、放射線検出部材の先端を保護するとともに、放射線検出部材を細径管やボルト穴などのような細径部に挿入し易くなる。
【0073】
(保護層形成工程S8)
図14は一実施形態において遮光層、保護ガイド及び保護キャップに保護層を成膜する工程を示す概略斜視図である。
【0074】
保護層形成工程S8は、遮光層18、保護ガイド19及び保護キャップ22の表面に保護層を形成する工程である。
【0075】
図14に示すように、保護層は、例えばDLC(diamond‐like carbon)を使用することができる。このDLCは、炭素の同素体から成る非晶質(アモルファス)の硬質膜であり、硬質、潤滑性、耐摩耗性、化学的安定性、及び表面平滑性が見込まれるため、DLCを適用することで、壊れにくい放射線検出部材を実現することができる。
【0076】
DLCを成膜するには、例えばプラズマイオン注入成膜装置23を使用することが好ましい。プラズマイオン注入成膜装置23は、予めライトガイド8の蛍光取出し面にDLCが成膜されないようにDLCマスク24を設けておくことで、プラスチックシンチレータ1に熱応力が生じない40℃以下の温度で放射線検出部材の表面全体にDLCの成膜が可能である。DLCの膜厚は、通常0.1μm〜1.0μmであって、望ましくは0.3〜0.5μmである。
【0077】
このように本実施形態によれば、放射線の入射によって蛍光を発する平板形状のプラスチックシンチレータ1の放射線入射面全面をマスキングして、プラスチックシンチレータ1の表面にレーザー吸収剤7を塗布し、各側面が平坦面に形成された棒状のライトガイド8の各側面にプラスチックシンチレータ1をマスク面が上側となるように配置し、ライトガイド8にプラスチックシンチレータ1をレーザー溶着することにより、安価な平板形状のプラスチックシンチレータ1を使用して、ライトガイド8にプラスチックシンチレータ1を確実かつ容易に溶着することができる。
【0078】
また、本実施形態によれば、プラスチックシンチレータ1の表面に蛍光反射層15、遮光層18、及び強靭な保護層とから成る積層薄膜を直接形成することにより、放射線(α線やβ線)及び蛍光の吸収を抑制することができる。
【0079】
さらに、本実施形態によれば、プラスチックシンチレータ1を、ポリエチレンナフタレートを含む合成樹脂から成形したことにより、耐熱性及び強度が高くなる。
【0080】
(放射線検出装置の一実施形態)
図15は本発明に係る放射線検出部材の製造方法により製造された放射線検出部材を備える放射線検出装置の一実施形態を示すブロック図である。
【0081】
上述した一連の工程を経て製造された放射線検出部材33を備えた放射線検出装置は、図15に示すように光電子増倍管26、信号増幅部27、ディスクリ(波高弁別)部28、カウンタ部29、表示部31及び高圧電源部32を備える。
【0082】
光電子増倍管26は、遮光ケース25の内部において放射線検出部材33の一方の端面に光学的に接続され、プラスチックシンチレータ1からライトガイド8内に入射した蛍光を信号パルスに変換する。
【0083】
信号増幅部27は、光電子増倍管26により変換された信号パルスを増幅する。ディスクリ(波高弁別)部28は、信号増幅部27により増幅した信号パルスとノイズとを弁別する。カウンタ部29は、増幅した信号パルスの数を数える。汚染判定処理部30は、カウンタ部により計数された数値情報に基づいて汚染の有無を判定処理する。表示部31は、汚染判定処理部30の判定結果を表示する。高圧電源部32は、光電子増倍管26に高電圧を印加するためのものである。
【0084】
このように本実施形態の放射線検出装置によれば、放射線検出部材33がプラスチックシンチレータ1の表面にレーザー吸収剤7を塗布し、棒状のライトガイド8の各側面にプラスチックシンチレータ1をレーザー溶着したことにより、安価な平板形状のプラスチックシンチレータ1を使用して、ライトガイド8にプラスチックシンチレータ1を確実かつ容易に溶着することができる放射線検出部材を備えた放射線検出装置を提供可能である。
【0085】
以上のように本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0086】
例えば、上記実施形態では、ライトガイド8を直方体に形成した例について説明したが、これ以外の多角柱又は多角錐など断面多角形のものであればよい。
【符号の説明】
【0087】
1…プラスチックシンチレータ、2…プラスチックシンチレータ保護板、3…バフ部材、4…バフ部材回転機、5…マスク部材、6…霧吹き容器、7…レーザー吸収剤、8…ライトガイド、9…レーザー装置、10…溶着点、11…空気層、12…回転装置、13…スパッタリング装置、14…ターゲット、15…蛍光反射層、16…UV硬化樹脂溶液、17…UV光源装置、18…遮光層、19…保護ガイド、20…遮光性接着剤、21…緊締紐、22…保護キャップ、23…プラズマイオン注入成膜装置、24…DLCマスク、25…遮光ケース、26…光電子増倍管、27…信号増幅部、28…ディスクリ部、29…カウンタ部、30…汚染判定処理部、31…表示部、32…高圧電源部、33…放射線検出部材
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、放射線検出部材の製造方法、及びこの製造方法により製造される放射線検出部材を備えた放射線検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、放射能汚染の有無を検査するための主な装置としては、表面汚染サーベイメータがある。この表面汚染サーベイメータは、検査対象機器などの表面に密接させて測定し易いように、その検出部は広く平坦な構造となっている。
【0003】
一方、細管や機器などのボルト穴に対しては、これら被検出部の大きさや形状から、その内表面を直接測定することができない。そのため、被検査面が露出するように切断作業などのような多大な労力を要して測定する必要があった。
【0004】
したがって、細管や機器などのボルト穴に挿通可能とするため、棒状に形成された放射線検出部材が求められている。しかし、このような放射線検出部材では、製造に手間がかかるとともに、遮光方法やその遮光膜の強度などに問題があった。
【0005】
そこで、特許文献1に記載された技術は、プラスチックシンチレータプレート上に熱転写シートを重合させた状態で加熱処理すると、熱転写シートから皮膜が剥離し、プラスチックシンチレータプレート上に貼り付けられる。上記皮膜は、保護層、アルミニウム層及び接着層を有する。そして、上記皮膜がプラスチックシンチレータプレートと接着によって一体化することで、遮光膜の強度を向上させたプラスチックシンチレータ部材を簡易に実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−147581号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1に記載されたシンチレータ部材の製造方法では、接着層を介在させてプラスチックシンチレータプレート表面に皮膜を貼る構成であることから、その接着層が蛍光を吸収するため集光量が減少することになる。また、上記接着層は、数μm程度の厚みが必要と考えられ、これは放射線(α線やβ線)の透過を阻害することから、物理的に強い遮光膜が実現できる一方で、蛍光や放射線の減衰が大きくなって、放射線感度が低下すると考えられる。
【0008】
皮膜の表面強度は、鉛筆硬度で2H〜3H程度と推測され、細管切断部に生じた金属のバリなどが測定時に検出面へと接触した場合、遮光層の損傷を免れないと思われる。
【0009】
プラスチックシンチレータは、γ線の反応を抑制する目的からできるだけ薄く加工するものの、円筒形などのように加工が困難な形状にするとコストが増大するため、安価な平板形状のプラスチックシンチレータとライトガイドを組み合わせた構成がある。このプラスチックシンチレータとライトガイドの接着方法には、従来から光学接着剤が使用されている。しかしながら、この光学接着剤は、一般に粘性率が低く浸透し易いため、塗布が困難で望ましい仕上がり品質が得られにくく、さらに接着剤が硬化するには、固定状態のまま半日〜1日程度の時間を要するといった問題がある。
【0010】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、安価な平板形状のプラスチックシンチレータを使用して、ライトガイドにプラスチックシンチレータを確実かつ容易に溶着する放射線検出部材の製造方法及び放射線検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明の実施形態に係る放射線検出部材の製造方法は、放射線の入射によって蛍光を発する平板形状のプラスチックシンチレータの放射線入射面全面をマスキングして、前記プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布するレーザー吸収剤塗布工程と、棒状のライトガイドの各側面に前記プラスチックシンチレータをマスク面が上側となるように配置し、前記ライトガイドに前記プラスチックシンチレータをレーザー溶着する溶着工程と、を有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の実施形態に係る放射線検出装置は、プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布し、棒状のライトガイドの各側面に前記プラスチックシンチレータをレーザー溶着した放射線検出部材と、前記放射線検出部材の一方の端面に光学的に接続され、前記プラスチックシンチレータから前記ライトガイド内に入射した蛍光を信号パルスに変換する光電子増倍管と、前記光電子増倍管により変換された信号パルスを増幅する信号増幅部と、前記信号増幅部により増幅した信号パルスとノイズとを弁別する波高弁別部と、前記信号増幅部により増幅した信号パルスを計数するカウンタ部と、前記カウンタ部により計数された数値情報に基づいて汚染の有無を判定処理する汚染判定処理部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の実施形態によれば、安価な平板形状のプラスチックシンチレータを使用して、ライトガイドにプラスチックシンチレータを確実かつ容易に溶着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る放射線検出部材の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【図2】本発明に係る放射線検出部材の製造方法の一実施形態においてプラスチックシンチレータの研磨加工工程を示す概略斜視図である。
【図3】一実施形態においてプラスチックシンチレータ表面にレーザー吸収剤を塗布する工程を示す概略斜視図である。
【図4】一実施形態においてプラスチックシンチレータをライトガイドに溶着する工程を示す概略斜視図である。
【図5】一実施形態においてプラスチックシンチレータをライトガイドに溶着する工程を示す概略斜視図である。
【図6】図5のVI方向矢視図である。
【図7】一実施形態においてプラスチックシンチレータの表面に蛍光反射層を直接成膜する工程を示す概略斜視図である。
【図8】一実施形態においてプラスチックシンチレータの表面に成膜した蛍光反射層の上に遮光層を成膜する工程を示す概略斜視図である。
【図9】一実施形態においてプラスチックシンチレータに接着する保護ガイドを示す斜視図である。
【図10】図9のX方向矢視図である。
【図11】一実施形態においてプラスチックシンチレータに保護ガイドを接着し、細い紐で緊締する工程を示す概略斜視図である。
【図12】図11のXII方向矢視図である。
【図13】一実施形態において放射線検出部材の先端に保護キャップを接着する工程を示す概略斜視図である。
【図14】一実施形態において遮光層、保護ガイド及び保護キャップに保護層を成膜する工程を示す概略斜視図である。
【図15】本発明に係る放射線検出部材の製造方法により製造された放射線検出部材を備える放射線検出装置の一実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る放射線検出部材の製造方法の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態は、細径管やボルト穴などのような細径部に対してその内表面汚染を直接検査することができるように放射線検出部材を細径部に挿入可能な棒状に形成した例について説明する。
【0016】
(一実施形態)
図1は本発明に係る放射線検出部材の製造方法の一実施形態を示す工程図である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の放射線検出部材の製造方法は、順に研磨加工工程S1、レーザー吸収剤塗布工程S2、溶着工程S3、蛍光反射層形成工程S4、樹脂層形成工程S5、保護ガイド接着工程S6、キャップ接着工程S7、及び保護層形成工程S8を有する。
【0018】
本実施形態のプラスチックシンチレータは、β線の検出を目的としており、バックグラウンド線種の一つであるγ線の反応確率を抑制するため、薄く加工する必要がある。その厚みは通常0.1mm〜0.4mmで、好ましくは0.2mmである。
【0019】
また、プラスチックシンチレータの表面には、製造過程で生じたと考えられる数μm程度から10μmを超えるような複数の突起物が存在している。この状態で、シンチレータの表面に積層薄膜を直接形成すると、その積層薄膜から突起物が突き出した状態となり、この部分がピンホールとなって遮光することができないことがある。この突起物は本発明者らの実験により、純水や中性洗剤などによる洗浄やエアーの吹付けなどでは除去することができないことが判明している。
【0020】
次に、上記各工程を図面に基づいて具体的に説明する。
【0021】
(研磨加工工程S1)
そこで先ずは、研磨加工工程S1でプラスチックシンチレータ表面の突起物を除去しなければならない。
【0022】
図2は本発明に係る放射線検出部材の製造方法の一実施形態においてプラスチックシンチレータの研磨加工工程を示す概略斜視図である。
【0023】
図2に示すように、研磨加工工程S1は、放射線の入射によって蛍光を発する長尺平板形状のプラスチックシンチレータ1の放射線入射面全面を研磨加工する工程である。
【0024】
具体的には、研磨加工工程S1では、図2に示すようにプラスチックシンチレータ1と、プラスチックシンチレータ保護板2と、バフ部材3と、このバフ部材3を回転駆動させるためのバフ部材回転機4と、図示しない研磨剤とが使用される。
【0025】
プラスチックシンチレータ1は、薄く加工され、外部から加えられる力に対して脆くなっているため、プラスチックシンチレータ保護板2の上に固定する。このプラスチックシンチレータ保護板2は、例えば清潔で平坦なガラス板を使用し、その上に大きめ(例えば一辺200mmの正方形)のプラスチックシンチレータ1を載置する。このプラスチックシンチレータ1は、例えばポリエチレンナフタレート(PEN)を含む合成樹脂から成形されている。
【0026】
ここで、プラスチックシンチレータ1の裏側に水などが浸透しないようにプラスチックシンチレータ1の端部全体をシールテープ(例えば、住友スリーエム社製のカートンテープ)で固定することが望ましい。このカートンテープは、例えばポリプロピレンフィルムのベースとゴム系粘着剤を組み合わせたテープである。
【0027】
また、本実施形態による放射線検出部材の製造に係る作業環境は、できるだけ埃の少ないことが必要であり、好ましくはISOクラス6(クラス1000:米国連邦規格)以下の作業環境である。
【0028】
バフ部材3とバフ部材回転機4は、例えば住友スリーエム社製のフォームバフィングパッド13258や13257などと、バフィングサンダー9025を使用することができる。
【0029】
また、上記研磨剤は、例えばシリコン系潤滑液を含有しない住友スリーエム社のポリッシュエクストラファイン(商品名)などを使用することができる。因みに、上記シリコン系潤滑液を含有していると、プラスチックシンチレータ1が研磨剤を弾いてしまい、研磨加工が困難になるからである。
【0030】
次に、研磨加工工程S1についてより具体的に説明する。
【0031】
まず、バフ部材回転機4にバフ部材3を装着し、研磨剤を100cm2あたり、2〜4g程度を目安にバフ部材3に付着させて、このバフ部材3をプラスチックシンチレータ1の表面に軽く押し当ててバフ部材回転機4を駆動させる。研磨加工時間の目安は、1箇所(バフの面サイズ相当)あたり20秒〜60秒程度とすることで、プラスチックシンチレータ1の表面の突起物を除去する効果が得られ、かつプラスチックシンチレータ1に深い傷が生じにくい。
【0032】
また、プラスチックシンチレータ1の表面の突起物を除去しにくい場合は、例えばバフ部材3の硬さの異なるものを2種類用意しておき、初めに硬めの方のバフ部材(例えば、住友スリーエム社製のフォームバフィングパッド13258(商品名))を用いて突起物の除去を目的とした研磨加工を行い、続いて柔らかめの方のバフ部材(例えば、住友スリーエム社製のフォームバフィングパッド13257(商品名))を用いて傷を軽減するための研磨加工を行うことで、突起物を除去するとともに、傷の抑制も可能となるため効果的である。
【0033】
そして、研磨加工後は、プラスチックシンチレータ1の表面を洗浄処理する。研磨剤に含まれる砥粒は、プラスチックシンチレータ1の表面に強く密着している場合があり、洗浄後に砥粒が残った状態であると、この残った砥粒が新たな突起物となってしまう可能性がある。
【0034】
このため、砥粒を除去するには、中性洗剤で砥粒を浮かせて純水などで洗い流す方法が効果的である。上記中性洗剤には、プラスチックシンチレータ1への物性的影響を考慮し、非イオン性の界面活性剤を選択することが好ましく、さらに水に界面活性剤を0.5〜1wt%程度含有させて使用することが好ましい。洗浄後は、清潔なエアーで表面の水分を吹き飛ばしてから乾燥させることが好ましい。
【0035】
(レーザー吸収剤塗布工程S2)
図3は一実施形態においてプラスチックシンチレータ表面にレーザー吸収剤を塗布する工程を示す概略斜視図である。
【0036】
図3に示すように、レーザー吸収剤塗布工程S2は、プラスチックシンチレータ1の放射線入射面全面をマスキングして、プラスチックシンチレータ1の表面にレーザー吸収剤7を塗布する工程である。
【0037】
具体的には、図3に示すようにレーザー吸収剤塗布工程S2は、先ずプラスチックシンチレータ1を使用する大きさに切断加工して、研磨加工した面を下にしてマスク部材5の上に並べて載置する。このマスク部材5は、清潔で吸湿性を有するケプラー布などを用いることが好ましい。
【0038】
この状態で、霧吹き容器6にレーザー吸収剤7を入れてプラスチックシンチレータ1の表面に噴射させながら塗布する。
【0039】
ここで、プラスチックシンチレータ1の蛍光波長は、約420nm前後であるから、紫外線レーザーの吸収剤は、プラスチックシンチレータ1の蛍光を吸収してしまうことから適用することができない。よって、プラスチックシンチレータ1に塗布するレーザー吸収剤7は、蛍光の減衰が生じない赤外線吸収剤(例えば、Gentex社のクリアウェルド(登録商標)など)を使用することができる。このクリアウェルド(登録商標)は、塗布後数秒(7秒程度)で乾燥し、赤外線吸収剤の成分だけがプラスチックシンチレータ1の表面に残留する。そのため、赤外線吸収剤は、プラスチックシンチレータ1をマスク部材5上から直ぐに移動させることができるので扱い易い。
【0040】
因みに、従来では、光学接着剤を用いてプラスチックシンチレータ1をライトガイド8に接着している。その光学接着剤は、一般に粘性率が低く浸透し易いため、塗布が困難で仕上がり品質が得られにくく、さらに接着剤を硬化には固定状態のまま半日〜1日程度の時間を要する。
【0041】
(溶着工程S3)
図4及び図5は一実施形態においてプラスチックシンチレータをライトガイドに溶着する工程を示す概略斜視図である。図6は図5のVI方向矢視図である。なお、図4〜図6では、溶着工程S3におけるライトガイドを分かり易くするため、太径に形成しているが、実際には、その径の数分の一程度の径である。
【0042】
図4〜図6に示すように、溶着工程S3は、多角柱(四角柱)形状を成し、長尺の各側面が平坦面である棒状のライトガイド8の各側面にプラスチックシンチレータ1をマスク面が上側となるようにそれぞれ配置し、ライトガイド8にプラスチックシンチレータ1をレーザーにより溶着する工程である。
【0043】
具体的には、図4〜図6に示すようにライトガイド8は、例えば波長変換材(Wavelength Shifting Bar)を使用することができる。プラスチックシンチレータ1から波長変換材であるライトガイド8内に入射した蛍光は、プラスチックシンチレータ1の蛍光を吸収して、より長波長の蛍光をその内部で再発光する。その再発光した蛍光は、その多くが全反射成分と成り得るため、長尺の棒状放射線検出部材に適用し易い。
【0044】
但し、ライトガイド8内で再発光した蛍光が全反射条件を満たしてライトガイド8内に捕獲することができるかは、ライトガイド8とその外周囲の物質の持つ屈折率差で決まる臨界角(スネルの法則)に依存する。より多くの蛍光を全反射させるには、ライトガイド8の外周囲物質の屈折率ができるだけ小さいことが必要である。この場合、外周部の物質は、空気層(屈折率1.00)であることが好ましく、具体的にはライトガイド8とプラスチックシンチレータ1の表面同士を全て溶着せずに、ライトガイド8とプラスチックシンチレータ1との間に空気層が介在することができる状態を作り出すことが好ましい。
【0045】
そのため、図4に示すように溶着方法は、ライトガイド8の各側面に、適切な大きさに切断加工したプラスチックシンチレータ1を研磨加工面が上側となるように載置する。
【0046】
そして、図5に示すようにレーザー装置9(例えば、YAGレーザーなど)で点溶着する。このレーザー溶着は、材料の表面を汚さずにスポット溶着(直径1mm程度)することができる。これに対し、光学接着剤では、材料の表面を汚さずに接着することが困難であった。この溶着点10は、プラスチックシンチレータ1の軸方向の中央を回避して、できるだけプラスチックシンチレータ1の端部に沿って行うことが好ましい。プラスチックシンチレータ1の端部は、その下側となるライトガイド8の形状にも依存するものの、蛍光の散乱が生じやすく、その部位に溶着点10を設けることでライトガイド8内の蛍光全反射を阻害しにくくなる。
【0047】
この溶着方法によれば、図6に示すようにライトガイド8とプラスチックシンチレータ1との間に空気層11を介在させることができる。
【0048】
(蛍光反射層形成工程S4)
図7は一実施形態においてプラスチックシンチレータの表面に蛍光反射層を直接成膜する工程を示す概略斜視図である。
【0049】
図7に示すように、蛍光反射層形成工程S4は、ライトガイド8を周方向に回転させながらプラスチックシンチレータ1の表面とライトガイド8の先端面に蛍光反射層15を蒸着形成する工程である。
【0050】
放射線の入射によってプラスチックシンチレータ1の内部で発光した蛍光は、等方的角度に一様に広がる。このため、放射線入射方向(上側方向)に放出される蛍光成分を反射させてライトガイド8方向(下側方向)に導くことで、蛍光量が増加する。
【0051】
また、ライトガイド8内で再発光し、全反射条件を満たせずに外に放出された蛍光についても同様に反射させることで、蛍光の減少を抑制することができる。蛍光の反射効果を高めるには、図7に示すようにプラスチックシンチレータ1の表面に蛍光反射層15を直接形成することが好ましい。
【0052】
すなわち、図7に示すように蛍光反射層15を成膜するには、プラスチックシンチレータ1をその側面に溶着したライトガイド8と、ライトガイド8を周方向に回転させる回転装置12と、スパッタリング装置13と、ターゲット14とが主に用いられる。スパッタリング装置13は、図示しないがスパッタリングに必要な機能が全て備わっているものとする。ここで、蛍光反射層15の材料であるターゲット14は、アルミニウムを使用することができる。
【0053】
プラスチックシンチレータ1の表面に蛍光反射層15を直接成膜するには、回転装置12によりライトガイド8を周方向に回転させながら、スパッタリング装置13を用いてプラスチックシンチレータ1の表面とライトガイド8の先端面にアルミニウムの蛍光反射層15を成膜する。
【0054】
スパッタリング装置13を使用してプラスチックシンチレータ1の表面にアルミニウムを成膜する場合、成膜時間に応じてプラスチックシンチレータ1に熱応力が生じて変形する可能性がある。
【0055】
これを防止するには、成膜温度を40℃以下に保つことが望ましい。アルミニウムの膜厚は、通常0.07μm〜0.5μmで、望ましくは0.18μmである。また、スパッタリング装置13を使用して、プラスチックシンチレータ1の表面に図示しないが例えば二酸化ケイ素(SiO2)を成膜後、アルミニウムを成膜すると二酸化ケイ素がバインダーの効果を奏してプラスチックシンチレータ1とアルミニウムとの接着性を高めることができる。二酸化ケイ素の成膜厚さは、通常10nm〜100nmで、望ましくは30nmである。
【0056】
(樹脂層形成工程S5)
図8は一実施形態においてプラスチックシンチレータの表面に成膜した蛍光反射層の上に遮光層を成膜する工程を示す概略斜視図である。
【0057】
図8に示すように、樹脂層形成工程S5は、蛍光反射層15の表面上に遮光機能を有する色素を含有した遮光層18を形成する工程である。
【0058】
ところで、アルミニウムの蒸着膜には、不純物などの影響により確率的にピンホールが生じる可能性がある。このピンホールを塞ぐには、アルミニウムの蒸着膜表面に、自然光などを遮光する機能を有した色素を含有する遮光層18を設けることが好ましい。
【0059】
遮光層18を成膜する方法は、回転装置12に蛍光反射層15を形成済みのライトガイド8を装着し、このライトガイド8を周方向に回転させながら、UV(紫外線)硬化樹脂溶液16を入れた霧吹き容器6から、ライトガイド8の表面にUV硬化樹脂溶液16を塗布する。
【0060】
このUV硬化樹脂溶液16を塗布した後、乾燥工程を介してUV光源装置17からUV光を照射してUV硬化樹脂を硬化させることで、遮光層18が形成される。これにより、物理的に強い遮光膜を形成することができる。ここで、色素を含有する遮光層18の材料としては、例えばカーボンブラックを重量比15%程度含有したUV硬化樹脂を使用することができる。カーボンブラック以外には、例えばチタンブラックを用いることができる。遮光層18の膜厚は、通常1μm〜5μmで、好ましくは2〜3μmである。
【0061】
(保護ガイド接着工程S6)
図9は一実施形態においてプラスチックシンチレータに接着する保護ガイドを示す斜視図である。図10は図9のX方向矢視図である。図11は一実施形態においてプラスチックシンチレータに保護ガイドを接着し、細い紐で緊締する工程を示す概略斜視図である。図12は図11のXII方向矢視図である。
【0062】
図9及び図10に示すように、保護ガイド接着工程S6は、プラスチックシンチレータ1の継ぎ目部位の数に応じて、その継ぎ目部位に被せるようにライトガイド8の軸方向に沿って保護ガイド19を接着する工程である。
【0063】
ところで、ライトガイド8の軸方向に沿ってプラスチックシンチレータ1の端部同士が隣り合う部位は、隙間によって遮光されておらず、また強度も弱い状態となっている。このため、遮光するとともに、強度を確保するため、この隙間部分の上に保護ガイド19を被せることが好ましい。
【0064】
図9及び図10に示すように、保護ガイド19を接着するには、保護ガイド19に遮光機能を有する上述したカーボンブラックなどの色素を含有した遮光性接着剤20を塗布して、プラスチックシンチレータ1の幅方向の端部同士が隣り合う継ぎ目部位に被せて接着する。
【0065】
保護ガイド19は、上記継ぎ目部位を遮光するとともに、その遮光状態を維持し、さらに放射線検出部材自身を保護するため、測定対象である細管内やボルト穴内に挿入した際に、内部で放射線検出部材を周方向に回転させても、引っ掛かるなどの障害が生じないように、その表面は円形状であることが好ましい。
【0066】
保護ガイド19は、例えばライトガイド8の径方向断面が四角形であれば、直線丸棒に1/4の削り込みを入れて、その削り込み部分に遮光性接着剤20を適量塗布した後、上記継ぎ目部位に被せて接着すればよい。
【0067】
また、保護ガイド19の材質は、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウムなどの金属、または合成樹脂などを使用することができる。遮光性接着剤20には、例えばセメダイン株式会社製のセメダインスーパーXブラック(商品名)などを使用することができる。
【0068】
さらに、図11及び図12に示すように、保護ガイド19が遮光層18から剥離しないように、保護ガイド19の長手方向両端部の2箇所を緊締紐21で周方向に緊締することが好ましい。このため、保護ガイド19の端部2箇所の表面には緊締し易いように削り込みを形成しておくことが好ましい。なお、緊締紐21には、例えばアラミド繊維から成る細い紐が用いられる。この材料を使用することにより、劣化しにくく、かつ一旦緊締した緊締紐21が緩みにくくなる。
【0069】
(キャップ接着工程S7)
図13は一実施形態において放射線検出部材の先端に保護キャップを接着する工程を示す概略斜視図である。
【0070】
図13に示すように、キャップ接着工程S7は、遮光層18を形成したライトガイド8の先端面に遮光性を有し先端が球面に形成された保護キャップ22をライトガイド8の先端部位に被せて接着する工程である。
【0071】
図13に示すように、保護キャップ22は、保護ガイド19を含めて先端部に被せて接着する。その接着剤は、前述したセメダイン株式会社製のセメダインスーパーXブラック(商品名)などを使用することができる。保護キャップ22の材質は、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウムなどの金属、または樹脂などを使用することができる。
【0072】
このように本実施形態では、ライトガイド8の先端面に保護キャップ22を被せて接着するキャップ接着工程S7を有することにより、放射線検出部材の先端を保護するとともに、放射線検出部材を細径管やボルト穴などのような細径部に挿入し易くなる。
【0073】
(保護層形成工程S8)
図14は一実施形態において遮光層、保護ガイド及び保護キャップに保護層を成膜する工程を示す概略斜視図である。
【0074】
保護層形成工程S8は、遮光層18、保護ガイド19及び保護キャップ22の表面に保護層を形成する工程である。
【0075】
図14に示すように、保護層は、例えばDLC(diamond‐like carbon)を使用することができる。このDLCは、炭素の同素体から成る非晶質(アモルファス)の硬質膜であり、硬質、潤滑性、耐摩耗性、化学的安定性、及び表面平滑性が見込まれるため、DLCを適用することで、壊れにくい放射線検出部材を実現することができる。
【0076】
DLCを成膜するには、例えばプラズマイオン注入成膜装置23を使用することが好ましい。プラズマイオン注入成膜装置23は、予めライトガイド8の蛍光取出し面にDLCが成膜されないようにDLCマスク24を設けておくことで、プラスチックシンチレータ1に熱応力が生じない40℃以下の温度で放射線検出部材の表面全体にDLCの成膜が可能である。DLCの膜厚は、通常0.1μm〜1.0μmであって、望ましくは0.3〜0.5μmである。
【0077】
このように本実施形態によれば、放射線の入射によって蛍光を発する平板形状のプラスチックシンチレータ1の放射線入射面全面をマスキングして、プラスチックシンチレータ1の表面にレーザー吸収剤7を塗布し、各側面が平坦面に形成された棒状のライトガイド8の各側面にプラスチックシンチレータ1をマスク面が上側となるように配置し、ライトガイド8にプラスチックシンチレータ1をレーザー溶着することにより、安価な平板形状のプラスチックシンチレータ1を使用して、ライトガイド8にプラスチックシンチレータ1を確実かつ容易に溶着することができる。
【0078】
また、本実施形態によれば、プラスチックシンチレータ1の表面に蛍光反射層15、遮光層18、及び強靭な保護層とから成る積層薄膜を直接形成することにより、放射線(α線やβ線)及び蛍光の吸収を抑制することができる。
【0079】
さらに、本実施形態によれば、プラスチックシンチレータ1を、ポリエチレンナフタレートを含む合成樹脂から成形したことにより、耐熱性及び強度が高くなる。
【0080】
(放射線検出装置の一実施形態)
図15は本発明に係る放射線検出部材の製造方法により製造された放射線検出部材を備える放射線検出装置の一実施形態を示すブロック図である。
【0081】
上述した一連の工程を経て製造された放射線検出部材33を備えた放射線検出装置は、図15に示すように光電子増倍管26、信号増幅部27、ディスクリ(波高弁別)部28、カウンタ部29、表示部31及び高圧電源部32を備える。
【0082】
光電子増倍管26は、遮光ケース25の内部において放射線検出部材33の一方の端面に光学的に接続され、プラスチックシンチレータ1からライトガイド8内に入射した蛍光を信号パルスに変換する。
【0083】
信号増幅部27は、光電子増倍管26により変換された信号パルスを増幅する。ディスクリ(波高弁別)部28は、信号増幅部27により増幅した信号パルスとノイズとを弁別する。カウンタ部29は、増幅した信号パルスの数を数える。汚染判定処理部30は、カウンタ部により計数された数値情報に基づいて汚染の有無を判定処理する。表示部31は、汚染判定処理部30の判定結果を表示する。高圧電源部32は、光電子増倍管26に高電圧を印加するためのものである。
【0084】
このように本実施形態の放射線検出装置によれば、放射線検出部材33がプラスチックシンチレータ1の表面にレーザー吸収剤7を塗布し、棒状のライトガイド8の各側面にプラスチックシンチレータ1をレーザー溶着したことにより、安価な平板形状のプラスチックシンチレータ1を使用して、ライトガイド8にプラスチックシンチレータ1を確実かつ容易に溶着することができる放射線検出部材を備えた放射線検出装置を提供可能である。
【0085】
以上のように本発明の実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0086】
例えば、上記実施形態では、ライトガイド8を直方体に形成した例について説明したが、これ以外の多角柱又は多角錐など断面多角形のものであればよい。
【符号の説明】
【0087】
1…プラスチックシンチレータ、2…プラスチックシンチレータ保護板、3…バフ部材、4…バフ部材回転機、5…マスク部材、6…霧吹き容器、7…レーザー吸収剤、8…ライトガイド、9…レーザー装置、10…溶着点、11…空気層、12…回転装置、13…スパッタリング装置、14…ターゲット、15…蛍光反射層、16…UV硬化樹脂溶液、17…UV光源装置、18…遮光層、19…保護ガイド、20…遮光性接着剤、21…緊締紐、22…保護キャップ、23…プラズマイオン注入成膜装置、24…DLCマスク、25…遮光ケース、26…光電子増倍管、27…信号増幅部、28…ディスクリ部、29…カウンタ部、30…汚染判定処理部、31…表示部、32…高圧電源部、33…放射線検出部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線の入射によって蛍光を発する平板形状のプラスチックシンチレータの放射線入射面全面をマスキングして、前記プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布するレーザー吸収剤塗布工程と、
棒状のライトガイドの各側面に前記プラスチックシンチレータをマスク面が上側となるように配置し、前記ライトガイドに前記プラスチックシンチレータをレーザー溶着する溶着工程と、
を有することを特徴とする放射線検出部材の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー吸収材は、赤外線吸収材であることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出部材の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー吸収剤塗布工程の前に、前記プラスチックシンチレータの放射線入射面全域を研磨加工する研磨加工工程と、
前記溶着工程の後に、前記ライトガイドを周方向に回転させながら前記プラスチックシンチレータの表面及び前記ライトガイドの先端面に蛍光反射層を蒸着形成する蛍光反射層形成工程と、
前記蛍光反射層の上に遮光機能を有する色素を含有した樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記プラスチックシンチレータの継ぎ目部位の数に応じて、前記継ぎ目部位に被せるように前記ライトガイドの軸方向に沿って保護ガイドを接着する保護ガイド接着工程と、
前記蛍光反射層を形成した前記ライトガイドの先端面に遮光性を有し先端が球面に形成されたキャップを前記ガイド板の先端部位に被せて接着するキャップ接着工程と、
前記蛍光反射層、前記保護ガイド及び前記キャップの表面に保護層を形成する保護層形成工程と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出部材の製造方法。
【請求項4】
前記溶着工程において、前記ライトガイドに前記プラスチックシンチレータを部分的に溶着し、前記ライトガイドと前記プラスチックシンチレータとの間に空気層を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の放射線検出部材の製造方法。
【請求項5】
前記プラスチックシンチレータは、ポリエチレンナフタレートを含む合成樹脂から成形されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の放射線検出部材の製造方法。
【請求項6】
プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布し、棒状のライトガイドの各側面に前記プラスチックシンチレータをレーザー溶着した放射線検出部材と、
前記放射線検出部材の一方の端面に光学的に接続され、前記プラスチックシンチレータから前記ライトガイド内に入射した蛍光を信号パルスに変換する光電子増倍管と、
前記光電子増倍管により変換された信号パルスを増幅する信号増幅部と、
前記信号増幅部により増幅した信号パルスとノイズとを弁別する波高弁別部と、
前記信号増幅部により増幅した信号パルスを計数するカウンタ部と、
前記カウンタ部により計数された数値情報に基づいて汚染の有無を判定処理する汚染判定処理部と、
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【請求項1】
放射線の入射によって蛍光を発する平板形状のプラスチックシンチレータの放射線入射面全面をマスキングして、前記プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布するレーザー吸収剤塗布工程と、
棒状のライトガイドの各側面に前記プラスチックシンチレータをマスク面が上側となるように配置し、前記ライトガイドに前記プラスチックシンチレータをレーザー溶着する溶着工程と、
を有することを特徴とする放射線検出部材の製造方法。
【請求項2】
前記レーザー吸収材は、赤外線吸収材であることを特徴とする請求項1に記載の放射線検出部材の製造方法。
【請求項3】
前記レーザー吸収剤塗布工程の前に、前記プラスチックシンチレータの放射線入射面全域を研磨加工する研磨加工工程と、
前記溶着工程の後に、前記ライトガイドを周方向に回転させながら前記プラスチックシンチレータの表面及び前記ライトガイドの先端面に蛍光反射層を蒸着形成する蛍光反射層形成工程と、
前記蛍光反射層の上に遮光機能を有する色素を含有した樹脂層を形成する樹脂層形成工程と、
前記プラスチックシンチレータの継ぎ目部位の数に応じて、前記継ぎ目部位に被せるように前記ライトガイドの軸方向に沿って保護ガイドを接着する保護ガイド接着工程と、
前記蛍光反射層を形成した前記ライトガイドの先端面に遮光性を有し先端が球面に形成されたキャップを前記ガイド板の先端部位に被せて接着するキャップ接着工程と、
前記蛍光反射層、前記保護ガイド及び前記キャップの表面に保護層を形成する保護層形成工程と、
を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の放射線検出部材の製造方法。
【請求項4】
前記溶着工程において、前記ライトガイドに前記プラスチックシンチレータを部分的に溶着し、前記ライトガイドと前記プラスチックシンチレータとの間に空気層を形成したことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載の放射線検出部材の製造方法。
【請求項5】
前記プラスチックシンチレータは、ポリエチレンナフタレートを含む合成樹脂から成形されていることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載の放射線検出部材の製造方法。
【請求項6】
プラスチックシンチレータの表面にレーザー吸収剤を塗布し、棒状のライトガイドの各側面に前記プラスチックシンチレータをレーザー溶着した放射線検出部材と、
前記放射線検出部材の一方の端面に光学的に接続され、前記プラスチックシンチレータから前記ライトガイド内に入射した蛍光を信号パルスに変換する光電子増倍管と、
前記光電子増倍管により変換された信号パルスを増幅する信号増幅部と、
前記信号増幅部により増幅した信号パルスとノイズとを弁別する波高弁別部と、
前記信号増幅部により増幅した信号パルスを計数するカウンタ部と、
前記カウンタ部により計数された数値情報に基づいて汚染の有無を判定処理する汚染判定処理部と、
を備えることを特徴とする放射線検出装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2013−72682(P2013−72682A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−210461(P2011−210461)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】
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