説明

放射線治療用粒子及びその製造方法

【課題】Pを多く含有しながら、球形状及び化学的耐久性が良好な放射線治療用粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】 A(Aは、希土類金属元素及びAlから選択される少なくとも一種の元素)、P及びOを主成分とする哺乳動物の放射線治療用粒子において、Pの含有量がP換算で15〜50重量%であり、長辺と短辺の比が平均で1.0〜1.1であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の癌や腫瘍等の放射線治療に際し、患部近傍に導入されて、至近距離より患部に放射線を照射する放射線治療用粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、哺乳動物の癌の放射線療法として、放射線治療用粒子を血管より癌患部近傍に導入して、癌患部近傍に留まらせ、癌患部に対して局所的に放射線(β線)を照射する治療法が行われており、この方法は、放射線により健全な組織が傷められるリスクが小さい方法として、また、体内深部の癌、特に肝臓癌の治療法として有効と認識されている。このような放射線療法に用いられる放射線治療用粒子に含まれる放射性同位元素としては、β線の放射体として64.1時間の半減期を有するY及び14.3日の半減期を有するPが有効とされている。β線は、飛程が短く局所的な照射に向いており、半減期がYより短いと治療効果が低く、Pより長いと治療後も放射線を放射し続けて正常細胞を傷める可能性がある。
【0003】
放射線治療用粒子を用いた放射線療法は、一般に、直径20〜35μm程度の球形状が良好な微小球に熱中性子線を照射してβ線の放射体とした後に、カテーテルにより血管を通じて微小球を患部に送り込んで腫瘍に対して直接放射線を照射することにより行われ、Yを含有するガラス製及びYを担持する樹脂製で球形状が良好な微小球が当該用途に用いられている。放射線治療用粒子の直径がこのように限定されているのは、微小球の直径が上記範囲より大きすぎると、微小球が患部の手前で留まり、小さすぎると患部に留まらず、患部への放射線の照射が行えないからである。
【0004】
このような放射線治療用粒子に含まれる放射性同位元素として、Yは、β線の放射体としての半減期が64.1時間と短いので、β線の放射体として14.3日の半減期を有するPを用いることが好ましい。また、放射線治療用粒子の球形状が悪い場合は、微小球が患部に均一に分散されにくく、また、その鋭敏な部分が組織を刺激する可能性があり、哺乳動物の体液中に放射性のYまたはPが溶出した場合は、体内の他の部位へ移動し健常な組織を傷める可能性がある。このため、このような放射線療法に用いられる放射線治療用粒子としては、一般に、球形状が良好なこと、及び、哺乳動物の体液中にβ線放射体であるY又はPを溶出させないよう化学的耐久性が良好なことが求められる。癌患部においては、多量の乳酸が分泌されるため、局所的には体液がpH6程度になる可能性があると言われており、体温つまり40℃程度の弱酸性環境下での良好な化学的耐久性が放射線治療用粒子には求められる。
【0005】
放射線療法に用いられる放射線治療用粒子として、特許文献1には、イットリア(Y)−アルミナ(Al)−シリカ(SiO)系のガラス(YASガラス)又はリン(P)を少量含むガラスであって、ガラス中の非放射性元素Y又はPに熱中性子線を照射してβ線放射体Y又はPに変化させたものが記載され、特許文献2には、YやYPOが記載され、非特許文献1には、YPO微小球の走査電子顕微鏡写真が掲載されている。
【特許文献1】特公平6−62439
【特許文献2】特開2000−258596
【非特許文献1】日本放射線技術学会雑誌第58巻第5号P.585〜591(2002年5月)記載の「放射性微小球による深部癌局所治療」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1には、Pの含有量がP換算で最大77.9重量%の組成物(22.1重量%MgO−77.9重量%P)の実施例が示されているが、この組成物は、球状化されておらず、また化学的耐久性も著しく低いことが示されている。球状化可能な組成物で最もPの含有量が多いものは、P換算で10重量%のものであり、この組成物の化学的耐久性は、良好であるが、哺乳動物の癌局所治療には好ましくないZrをZrO換算で12重量%含んでおり、同治療に許容できない旨が記載されている。哺乳動物の癌局所治療には好ましくない元素の含有量が少なく、球状化が可能で、かつ化学的耐久性が良好な組成物としては、53.3重量%SiO−14.9重量%Al−27.3重量%MgF−4.5重量%P組成物、及び61.4重量%SiO−2.7重量%Al−14.0重量%MgF−4.5重量%P組成物の二つが示されているが、双方共にPの含有量がP換算で4.5重量%である。
【0007】
また、特許文献2記載の酸化物結晶99重量%以上からなる微小球は、Y微小球の場合、Yの含有量は多いものの、YASガラス微小球と同様に、Yはその半減期が64.1時間と短いため、治療効果が限定的である。また、YPO微小球の場合、非特許文献1に示されるFig.9によれば、球形度、表面の平滑性共に悪いことが明らかで、平滑性に劣る箇所がその周囲の組織を刺激し、また処置されるべき部位に放射線治療用粒子が均一に分散されることを阻害するため、実用性に問題がある可能性が高いと思われる。
【0008】
そこで、本発明は、Pを多く含有しながら、球形状及び化学的耐久性が良好な放射線治療用粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の目的を達成するため、本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、Pの含有量をP換算で15〜50重量%とし、長辺と短辺の比を平均で1.0〜1.1である放射線治療用粒子を得ることができることを見出した。すなわち、本発明は、A(Aは、希土類金属元素及びAlから選択される少なくとも一種の元素)、P及びOを主成分とする中性子線の照射によって放射化可能な哺乳動物の放射線治療用粒子において、Pの含有量がP換算で15〜50重量%であり、長辺と短辺の比が平均で1.0〜1.1であることを特徴とする放射線治療用粒子である。また、本発明は、 A、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記非晶質相を形成させる工程を経て放射線治療用粒子を得ることを特徴とする放射線治療用粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明によれば、Pを多く含有しながら、球形状及び化学的耐久性が良好な放射線治療用粒子及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に係る放射線治療用粒子は、前記A、P及びOを主成分とする非晶質相を含有しても良く、またPを含有するA結晶相及びAPO結晶相のいずれか一以上を含有しても良い。前記非晶質相を含有する場合、非晶質相を主相としても良い。すなわち、本発明に係る放射線治療用粒子は、(a)前記非晶質相のみから構成されたもの、(b)前記非晶質相中に前記結晶質相が存在するもの、及び(c)前記結晶質相のみから構成されたものという三態様がある。
【0012】
本発明に係る放射線治療用粒子において、A、P及びOを主成分とするとは、A、P及びOの非結晶化や結晶化を妨げない範囲でA、P及びO以外の他の成分を微量に含ませても良いという趣旨であり、例えばA、P及びOが95重量%以上であることを意味する。また、非晶質相を主相とするとは、結晶質相を微量に含ませても良いという趣旨であり、例えば、非晶質相が95重量%以上であることを意味し、非晶質相のみから構成される場合、及び非晶質相中に結晶質相が存在する場合が含まれる。さらに、本発明に係る放射線治療用粒子において、長辺とは、球状粒子の最も長い直径をいい、短辺とは、球状粒子の最も短い直径をいう。長辺と短辺の比の測定は、例えばレーザ顕微鏡を用いて行うことができる。本発明に係る球状粒子においては、レーザ顕微鏡を用いて、50個の球状粒子の測定を行い、その平均値を算出したものである。
【0013】
本発明に係る放射線治療用粒子において、(a)前記非晶質相のみから構成されたものは、A、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記非晶質相を形成せることによって得ることができ、(c)前記結晶質相のみから構成されたものは、A、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記A、P及びOを主成分とする非晶質相を主相とする球状粒子を得た後、該非晶質相を主相とする球状粒子を加熱することにより前記非晶質相を全て結晶化させることによって得ることができる。(b)前記非晶質相中に前記結晶質相が存在するものは、溶融粒子の溶融や凝固の条件を調整することにより、A、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記非晶質相を形成せることによって得ることができ、またA、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記A、P及びOを主成分とする非晶質相を主相とする球状粒子を得た後、該非晶質相を主相とする球状粒子を条件を調整しながら加熱することにより前記非晶質相の少なくとも一部を結晶化させることによって得ることができる。
【0014】
(b)前記非晶質相中に前記結晶質相が存在するものを得る場合の溶融粒子の溶融及び凝固の条件の調整は、例えば、溶融温度を低くすることや、溶融粒子が冷媒に投入される際の溶融粒子の温度を低くすることによって、非晶質相中に前記結晶質相が存在するものが得られやすくなる。一方、融点が高い組成、共晶組成から大きくずれる組成等の場合に、溶融時の温度や、溶融粒子が冷媒に投入される際の溶融粒子の温度を高くすることによって、(a)前記非晶質相のみから構成されたものが得られやすくなる。
【0015】
本発明に係る放射線治療用粒子が、(a)前記非晶質相のみから構成されたものである場合、最も球状性が良好な微小球が得られ、(c)前記結晶質相のみから構成されたものである場合、最も化学的耐久性が良好な微小球が得られ、(b)前記非晶質相中に前記結晶質相が存在するものである場合、その中間的な性質を有する。本発明に係る放射線治療用粒子は、使用される環境及び目的に応じて、その性質が考慮された上で使い分けることができる。本発明に係る放射線治療用粒子におけるPを含有するA結晶相には、通常のX線回折によるチャート図によってはAとの判別が困難なAPOの化学式で表される化合物及びこの組成比に近い組成比の化合物が含まれ、Pを含有するA結晶相がAPOの化学式で表される化合物である場合、化学的耐久性が最も良好である。YPO結晶相には、通常のX線回折によるチャート図によってはYPOとの判別が困難なY19の化学式で表される化合物及びこの組成比に近い組成比の化合物が含まれる。
【0016】
また、本発明に係る放射線治療用粒子において、Aは、Al又はYであることが好ましく、Alの場合、最も球形状が良好な微小球が得られ、Yの場合、中性子線の照射によりP以外でYが最も長い半減期を有するβ線の放射体になるために、最も大きな治療効果が期待できる。
【0017】
本発明に係る放射線治療用粒子は、粒径が1〜100μmであることが好ましく、20〜35μmであることがより好ましい。粒径が、この範囲より大きい場合、患部の手前で微小球が留まり患部まで届かないことが起こり得るし、この範囲より小さい場合、毛細血管を突き抜けて微小球が患部に留まらないことが起こり得る。粒径の調整は、篩による分級によって行うことができる。
【0018】
本発明に係る放射線治療用粒子の製造方法は、上述のようにA、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記非晶質相を形成させて放射線治療用粒子を得る工程を有するが、A、P及びOを主成分とする溶融粒子とは、その構成成分が溶融状態を保った状態で球状化されたものである。このような溶融粒子は、例えば、フレーム法、アトマイズ法及びスピンディスク法によって得ることができ、特にフレーム法によることが好ましい。フレーム法は、一粒一粒が構成成分からなる粒子を融点以上の温度の高温域を通過させる方法であり、例えば、組成調製された粒子を化学炎又は熱プラズマ中に投入し溶融させ溶融状態の球状粒子を得る方法である。アトマイズ法は、坩堝等の中で構成成分からなる原料を溶融させて坩堝に開けられた吐出口より融液を噴出させる方法であり、スピンディスク法は、高速で回転するディスク上に融液を溶融状態を保った状態で衝突させる方法である。
【0019】
フレーム法は、スプレードライヤー等により粉末状の原料を造粒した粒子、及び原料を焼結又は溶融凝固させたバルク材料を粉砕し、所望の粒度分布になるように、調整した粒子等を用いることができ、その粒子をその凝集を抑制しながら化学炎又は熱プラズマ中に投入し、化学炎又は熱プラズマ中で溶融させることによって行われる。
【0020】
また、フレーム法は、原料のコロイド液や有機金属重合体等の所望の組成比の元素を含む液状の前駆物質などを用いることができ、その液状原料を、ノズル等を用いて化学炎又は熱プラズマ中に噴霧し、化学炎又は熱プラズマ中で溶剤又は分散媒を蒸発させた上で溶融させることによって行われる。ノズルと化学炎又は熱プラズマの間に低温の加熱域を設け、液状原料中の溶剤又は分散媒を蒸発させた上で、化学炎又は熱プラズマ中に投入することもできる。
【0021】
フレーム法において、化学炎の発生源としては、2400℃以上の高温が得られれば良く、例えば、酸素−アセチレンの混合ガスや、それに水素を加えた混合ガス等が高温を得やすいことから好適に用いられる。また、熱プラズマの発生源としては、酸素、窒素、アルゴン、炭酸ガス及びこれらの混合ガス、並びに水が用いられ、ガスが用いられる場合、誘導結合方式のプラズマ装置が用いられるが、水が用いられることが好ましい。
【0022】
アトマイズ法又はスピンディスク法の場合、原料としては、粉体、成形体、焼結体及び凝固体のいずれでも良く、また、これらの二つ以上が組み合わせたものでも良い。これら原料をその融点より高い融点を有する坩堝、例えば、Mo、W、Ta、Ir、Pt製等の坩堝、又は水などによって冷却が施されたCu製の坩堝等に収容した後、溶融させる。溶融方法は、原料をその融点以上の温度に加熱することが可能な方法であれば、いかなる方法でも良く、例えば、高周波、プラズマ、レーザ、電子ビーム、光又は赤外線等を用いることができる。原料の溶融は、原料が蒸発又は分解せず、且つ坩堝が著しく消耗しない雰囲気で行われることが好ましい。大気中、不活性ガス中、真空中等、原料と用いられる坩堝の材質に応じて、最適な雰囲気が選択される。
【0023】
アトマイズ法は、ガス圧等を用いて坩堝底部等にあけられた細孔より融液を噴出させることによって球状の溶融粒子を形成することができる。スピンディスク法は、坩堝を傾転させる、アトマイズ法の場合と同様にガス圧等を用いて坩堝底部等にあけられた細孔より融液を噴出させるなどによって、回転するディスクに融液を衝突させて、球状の溶融粒子を形成することができる。
【0024】
A、P及びOを主成分とする溶融粒子は、例えば、A及びAPOから得ることができるが、溶融した際に酸化物になるものであれば良く、水酸化物や炭酸塩などであっても良い。
【0025】
次に、球状の溶融粒子を冷却して非晶質相を形成させるが、この冷却工程は、例えば、球状の溶融粒子を冷媒に投入して急冷凝固することによって行うことができる。A、P及びOを主成分とする溶融粒子であれば、液体冷媒による急冷によって非平衡状態での凝固が可能になり、この球状粒子は、溶融時の原子構造がほぼ維持された状態で凝固されるために、凝固収縮が極めて小さく、球形状が良好な球状粒子が得られやすい。また、冷媒による急冷を用いることによって、凝固前の粒子同士の接触を抑制し、良好な球形状を作ることができる。冷媒としては、非可燃性の媒体が好ましく、例えば、ヘリウムガス、水、液体窒素、液体アルゴン等を用いることができる。得られた非晶質相からなる球状粒子の長辺と短辺の比を平均で1.0〜1.1に調整しても良い。当該非晶質球状粒子は、液体冷媒による急冷によって溶融時の原子構造がほぼ維持された状態で凝固されたものであり、凝固収縮が極めて小さく、球形状が良好な球状粒子が得られる。
【0026】
次に、本発明に係る放射線治療用粒子の製造方法において(b)前記非晶質相中に前記結晶質相が存在するもの及び(c)前記結晶質相のみから構成されたものを得る場合、非晶質相を含む球状粒子を加熱して結晶質相を析出させたり、結晶性を向上させることにより、その一部又は全部を結晶化させるが、この際の加熱温度は、900℃以上であることが好ましく、1000〜1700℃であることがさらに好ましい。加熱処理の温度、時間、昇温速度等を適宜選択することにより、構造を制御することができ、目的に応じた構造の球状粒子を製造することができる。例えば、融点に近い温度での加熱による結晶質相の析出や結晶性の向上を図る場合には、結晶相が粗大化して良好な球形状を維持できなくなることを抑制するために、大きな昇温速度及び短い加熱時間が選択される。
【0027】
球状粒子の加熱方法は、球状粒子を900℃以上融点以下の温度で加熱することが可能な方法であれば特に限定されず、抵抗加熱、サセプターを用いた高周波誘導加熱、レーザ加熱、電子ビーム加熱、光加熱、赤外線加熱等いかなる方式を用いても良い。
【0028】
一般的に、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム等のセラミックス製、又は、モリブデン、タンタル、白金、イリジウム等の高融点金属製の坩堝等に微小球を収容して坩堝ごと加熱を行う方法、微小球を所定の温度勾配と均熱領域が設けられた前記坩堝と同様の素材からなる管状炉中を移動させながら加熱を行う方法、又は、微小球を、所定の温度勾配と均熱領域が設けられた前記坩堝と同様の素材からなる縦型管状炉中を落下させながら加熱を行う方法等が採用される。
【0029】
球状粒子の加熱処理は、大気中、不活性ガス中、還元性ガス中、炭化水素ガス中、真空中などいかなる雰囲気で行われても良いが、用いられる坩堝及び加熱方式等により制限を受ける場合がある。
【0030】
得られた放射線治療用粒子は、篩等により分級され、また、必要に応じて有機溶剤、酸及び/又は超純水により洗浄される。また、微小球表面を化学的に安定化させるために高温の酸素共存下で熱処理が施されることもある。
【実施例】
【0031】
実施例1
次に、本発明に係る放射線治療用粒子の実施例1を以下のように得た。すなわち、原料としてY粉末(信越化学工業社性UUタイプ)及びYPO粉末(信越化学工業社製)を用い、Y粉末及びYPO粉末をモル比で前者から37:63の割合(Pを22.5重量%を含有する計算)とし、水を用いた湿式ボールミルによって混合し、スプレードライヤーを用いて得られたスラリーを造粒乾燥して平均粒径30μmの顆粒状の粒子を得た。得られた顆粒状の粒子を、酸素及びアセチレンの混合ガスの燃焼により形成された火炎中に、混合ガスの噴出方向と平行に供給し、火炎中で溶融球状化した後、火炎先端から200mmの位置の火炎を流水中へ入射させることで溶融粒子を流水中へ投入し凝固させることによって、実施例1に係る放射線治療用粒子を得た。
【0032】
得られた実施例1に係る放射線治療用粒子は、平均粒径25μmであり、レーザ顕微鏡を用いて長辺と短辺の比を測定したところ、平均で1.02であった。この実施例1に係る放射線治療用粒子は、Cu−Kα線を用いたX線回折、透過電子顕微鏡観察及び透過電子顕微鏡に設置された半導体X線検出器による特性X線の分析により、Y、P及びOからなる非晶質相から構成されていることがわかった。
【0033】
実施例1に係る放射線治療用粒子を、ナイロン製の篩によって分級し、直径が20〜30μmの微小球を得た。得られた微小球を0.1NのHClにて洗浄し、次いでイオンを含まない超純水で洗浄し乾燥した後、空気中800℃で熱処理して、再度、0.1NのHClにて洗浄し、次いで金属イオンを含まない超純水で洗浄し乾燥し微小球表面に付着した不純物を除去して化学的耐久性を評価した。
【0034】
40℃に保たれたpH6の緩衝生理食塩水10ml中にこの微小球0.1gを30日間浸漬して、緩衝生理食塩水中のY及びPの濃度を高周波誘導結合プラズマ発光分光法(ICP)により分析して、Y及びPの溶出量を調べた。溶出したY及びPの量を微小球に含まれるY及びPの量で除した値でそれぞれ0.02%及び0.04%であった。
【0035】
実施例2
次に、本発明に係る放射線治療用粒子の実施例2を以下のように得た。すなわち、流水中へ入射する火炎の位置を火炎先端から150mmに変更した以外は実施例1と同様の方法にて溶融粒子の凝固を行うことによって実施例2に係る放射線治療用粒子を得た。
【0036】
得られた実施例2に係る放射線治療用粒子の代表的な電子顕微鏡写真を図1に示す。実施例2に係る放射線治療用粒子の平均粒径は25μmであり、レーザ顕微鏡を用いて長辺と短辺の比を測定したところ、平均で1.04であった。実施例2に係る放射線治療用粒子は、Cu−Kα線を用いたX線回折、透過電子顕微鏡観察及び透過電子顕微鏡に設置された半導体X線検出器による特性X線の分析により、Yに対して33%程度のPを含むY相を含有するY、P及びOからなる非晶質相から構成されていることがわかった。
【0037】
実施例2に係る放射線治療用粒子を実施例1と同様の方法で調整して実施例1と同様の方法で化学的耐久性を評価したところ、溶出したY及びPの量を微小球に含まれるY及びPの量で除した値でそれぞれ0.01%及び0.02%であった。
【0038】
実施例3
次に、本発明に係る放射線治療用粒子の実施例3を以下のように得た。実施例2で得られた、Yに対して33%程度のPを含むY相を含有するY、P及びOからなる非晶質相から構成されている放射線治療用粒子をAl製坩堝に収容して、空気中1400℃で2時間の加熱を施した。
【0039】
得られた実施例3に係る放射線治療用粒子の平均粒径は23μmであり、レーザ顕微鏡を用いて長辺と短辺の比を測定したところ、平均で1.06であった。実施例3に係る放射線治療用粒子は、Cu−Kα線を用いたX線回折、透過電子顕微鏡観察及び透過電子顕微鏡に設置された半導体X線検出器による特性X線の分析により、Yに対して33%程度のPを含むY相及びYPO相から構成されていることがわかった。
【0040】
実施例3に係る放射線治療用粒子を実施例1と同様の方法で調整して実施例1と同様の方法で化学的耐久性を評価したところ、溶出したY及びPの量を微小球に含まれるY及びPの量で除した値でそれぞれ0.01%及び0.01%であった。
【0041】
実施例4
次に、本発明に係る放射線治療用粒子の実施例3を以下のように得た。すなわち、原料としてモル比で36:64の割合のAl粉末(住友化学工業社製AKP−30)及びAlPO粉末(和光純薬製)を用いた以外は実施例2と同様の方法によって実施例4に係る放射線治療用粒子を得た。
【0042】
得られた実施例3に係る放射線治療用粒子は、平均粒径25μmであり、レーザ顕微鏡を用いて長辺と短辺の比を測定したところ、平均で1.02であった。この微小球は、Cu−Kα線を用いたX線回折、透過電子顕微鏡観察及び透過電子顕微鏡に設置された半導体X線検出器による特性X線の分析により、Alに対して33%程度のPを含むAl相を含有するAl、P及びOからなる非晶質相から構成されていることがわかった。
【0043】
実施例3に係る放射線治療用粒子を実施例1と同様の方法で調整して実施例1と同様の方法で化学的耐久性を評価したところ、溶出したPの量を微小球に含まれるPの量で除した値で0.02%であった。
【0044】
比較例1
次に、溶融粒子を空気中で凝固させた以外は実施例1と同様の方法によって、比較例1に係る放射線治療用粒子を得た。得られた比較例1に係る放射線治療用粒子は、平均粒径25μmであり、レーザ顕微鏡を用いて長辺と短辺の比を測定したところ、平均で1.38であり、表面の凹凸は大きく、多面体形状の微小球も確認された。比較例1に係る放射線治療用粒子は、Cu−Kα線を用いたX線回折、透過電子顕微鏡観察及び透過電子顕微鏡に設置された半導体X線検出器による特性X線の分析により、Yに対して33%程度のPを含むY相及びYPO相から構成されていることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】実施例2に係る放射線治療用粒子の代表的な走査電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
A(Aは、希土類金属元素及びAlから選択される少なくとも一種の元素)、P及びOを主成分とする哺乳動物の放射線治療用粒子において、
Pの含有量がP換算で15〜50重量%であり、長辺と短辺の比が平均で1.0〜1.1であることを特徴とする放射線治療用粒子。
【請求項2】
前記A、P及びOを主成分とする非晶質相を含有することを特徴とする請求項1記載の放射線治療用粒子。
【請求項3】
Pを含有するA結晶相及びAPO結晶相のいずれか一以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の放射線治療用粒子。
【請求項4】
A、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記非晶質相を形成せたことを特徴とする請求項2記載の放射線治療用粒子。
【請求項5】
A、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記A、P及びOを主成分とする非晶質相を主相とする球状粒子を得た後、該非晶質相を主相とする球状粒子を加熱することにより前記非晶質相の少なくとも一部を結晶化させたことを特徴とする請求項3記載の放射線治療用粒子。
【請求項6】
前記AがAl又はYであることを特徴とする請求項1乃至5いずれか記載の放射線治療用粒子。
【請求項7】
A、P及びOを主成分とする溶融粒子を冷却凝固して前記非晶質相を形成させる工程を経て請求項1記載の放射線治療用粒子を得ることを特徴とする放射線治療用粒子の製造方法。
【請求項8】
前記非晶質相を加熱することにより前記非晶質相の少なくとも一部を結晶化させる工程を有することを特徴とする請求項7記載の放射線治療用粒子の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−215257(P2009−215257A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62529(P2008−62529)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】