説明

放射線治療用線量分布測定装置および放射線治療用線量分布測定プログラム

【課題】放射線照射治療において、術者に治療部位への過少照射や正常組織への過剰照射を防ぎ、正確かつ安全に治療を行えるようにする。
【解決手段】放射線照射システム2は、被検体に対して治療用放射線ビームを照射し、散乱線検出システム3は、治療用放射線ビームに基づいて発生する被検体内からの散乱線を検出し散乱線データを発生する。再構成処理部503は、検出された散乱線データに基づいて、被検体内における散乱線発生密度の三次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成する。変換処理部505は、この散乱線ボリュームデータを各ボクセルの組織の組成に対応する密度を用いて吸収された放射線量の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療の際に術者に治療を支援するための情報を提供する機能を有する放射線治療用線量分布測定装置および放射線治療用線量分布測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
X線外照射治療に代表される放射線治療では、治療前に、患者画像上で照射計画(治療部位に対してどの方向から、どれだけの線量を照射するか)が立案され、これに基づいて患者への照射行われる。しかし、現在のところ実際に計画通りの位置、線量が患者に照射されているか否かを確認する手段がなく、治療部位への過少照射や正常組織への過剰照射が起こっても気づかれないのが現状である。照射前にファントムとX線検出器を用いて、計画通りの照射が行えることが確認されることもあるが、簡便に持ち運びができ、自由に位置を調整できるファントムと異なり、患者を寝台上の、照射計画どおりの位置に置くことは困難であり、これらの照射前確認は、患者への計画通りの照射を完全に保証するものではない。
【0003】
なお、本願に関連する公知文献としては、例えば次のようなものがある。
【特許文献1】特開平5−146426号公報 この特許文献が開示する技術は、X線被写体の散乱X線を検出し、被写体の断層像を得るものである。ペンシル状ビームを走査することにより被写体の3次元散乱線像を再構成して得ることが特徴である。すなわち、本技術はペンシル状ビームのみを想定しており、X線治療で用いられる、有限の幅をもったビームが通過した領域の散乱像(治療ビームによる線量の空間分布)を得るものではない。また、エネルギーの高い治療ビーム(数MeV)の被写体内での散乱は前方散乱が優位となるため、入射X線方向に検出器を配置すると散乱線と透過線の区別が難しく、散乱線の検出に補正処理を必須としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
医療過誤に対して社会的関心が高まる中、放射線治療においても、患者への過剰照射が報告され問題となった。患者のどの部位にどれだけの線量が照射されたかという、行われた医療行為の“事実”を記録することは、今後ますます重要になると予測される。また昨今、X線外照射治療の分野では、呼吸等による患者体内での腫瘍の動きに同期・追従して照射する方法や、腫瘍形状に合わせて治療X線ビームをコリメートして照射する方法など、病変部に対してより精密に照射する試みが行われつつある。これらの精密照射は、病変部に線量を集中させることを目的としている。このため、万一、治療X線ビームが照射目標から外れた場合には、正常組織に甚大な損傷を与える。そのため、照射の精密化に伴って、計画通りの照射が行われている否かを確認することが重要となる。
【0005】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたもので、その目的とするところは、放射線照射治療において、術者に治療部位への過少照射や正常組織への過剰照射を防ぎ、正確かつ安全に治療を行うことを可能とする放射線治療用線量分布測定装置および放射線治療用線量分布測定プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、次のような手段を講じている。
【0007】
本発明に係る放射線治療用線量分布測定装置は、被検体に対して治療用放射線ビームを照射する照射手段と、前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体内からの散乱線を検出し散乱線データを発生する検出手段と、前記検出された散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の三次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成する画像再構成手段と、前記散乱線ボリュームデータを各ボクセルの組織の組成に対応する密度を用いて吸収された放射線量の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する変換手段と、前記吸収線量ボリュームデータを用いて、前記被検体内における吸収線量画像を生成する画像生成手段と、前記吸収線量画像を表示する表示手段とを具備する。
【0008】
本発明に係る放射線治療支援プログラムは、コンピュータに、被検体に対して照射された治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体内からの散乱線を検出することで散乱線データを発生させる検出機能と、前記検出された複数の位置についての散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の三次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成させる画像再構成機能と、前記散乱線ボリュームデータを各ボクセルの組織の組成に対応する密度を用いて吸収された放射線量の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する変換機能と、前記吸収線量ボリュームデータを用いて、前記被検体内における吸収線量画像を生成させる画像生成機能と、前記吸収線量画像を表示させる表示機能とを実行させるものである。
【発明の効果】
【0009】
以上本発明によれば、放射線照射治療において、術者に治療部位への過少照射や正常組織への過剰照射を防ぎ、正確かつ安全に治療を行うことを可能とする放射線治療用線量分布測定装置および放射線治療用線量分布測定プログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面に従って説明する。なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0011】
[原理と方法]
本実施形態に係る放射線治療システムは、被検体に対して照射した放射線に基づく当該被検体からの散乱線を計測し、これに基づいて被検体のどの部位に、どれだけの線量が照射されたかを客観的に示す情報を取得するものである。その原理と方法は、次の様である。
【0012】
図1は、本放射線治療システムの治療用放射線に基づく被検体からの散乱線計測の原理、方法を説明するための図である。
【0013】
外照射X線照射による治療効果は、主として患者体内で起こるX線の散乱によってもたらされる。すなわち、治療X線ビームが患者体内の電子によって散乱される際、エネルギーを受け取った電子は組織内を飛行したのち、停止する。このとき、電子は停止するまでに、組織内の分子をラジカル化し、細胞内のDNAに損傷を与える。そして、損傷を受け、修復することができなかった細胞は最終的に死に至る。これがX線照射による治療効果である。反跳電子が多く発生すればするほど組織を構成する細胞が死に至る確率が高くなるため、治療効果は、散乱反応が起こる回数に比例する。
【0014】
上述から、組織内で起こった散乱の回数が分かれば、治療効果(=組織がどれだけ損傷を受けたか)を知ることができる。そして起こった散乱の回数は、散乱線の数を測定することで知ることができる。散乱されたX線の多くは、電子に進行方向を変えられた後、患者体外に出てくるため、患者体外に設置したX線検出器で測定することができる。
【0015】
本実施形態の第1の実施例に係る放射線治療システムでは、治療X線ビームに対して特定の角度をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出する。コンプトン散乱で、どの角度に、どれだけX線が散乱されるかは理論的に分かるため、ある角度での散乱線を検出できれば、他の角度への散乱線の数も推定できる。さらに、患者体内の、散乱の起こった場所の分布を3次元的に得るために、照射中に検出器を回転させ、すべての方向から散乱線の測定を行う(例えば、図4参照)。その後、再構成処理を行い、被検体内部の散乱線の発生分布を3次元的に画像化する。
【0016】
また、本実施形態の第2の実施例に係る放射線治療システムでは、治療X線ビームに対して所定の角度(散乱角)をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出し、この検出を照射部から照射される治療用X線ビームの軸と検出器の検出面とのなす角を維持しつつ治療用X線ビームと検出面とを移動させながら実行することで、被検体内の3次元領域をスキャンする。得られた所定の散乱角に関する3次元散乱線データを用いて、散乱線ボリュームデータを再構成すると共に、当該散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換し、吸収線量画像を生成する。
【0017】
[構成]
図2は、本実施形態に係る放射線治療システム1のブロック構成図を示している。同図に示すように、本放射線治療システム1は、放射線照射システム2、散乱線検出システム3、データ取得制御部4、データ処理システム5、表示部6、記憶部7、操作部8、ネットワークI/F9を具備している。放射線照射システム2及び散乱線検出システム3は架台(ガントリ)に設置され、架台を移動、回転させることで、被検体に対して任意の位置に配置することができる。また、データ取得制御部4、データ処理システム5、表示部6、記憶部7、操作部8、ネットワークI/F9は、例えば放射線治療システム1の本体(筐体)に設置される。
【0018】
[放射線照射システム]
放射線照射システム2は、電力供給部201、照射部203、タイミング制御部205、ガントリ制御部207を有している。
【0019】
電力供給部201は、データ取得制御部4からの制御に従って照射部203に電力を供給する。
【0020】
照射部203は、例えば線形加速器(ライナック)等の機構を有する放射線照射装置である。当該照射部203では、加速管の一端に設けられた電子銃により、陰極から放射された熱電子は数100keVになるまで加速される。次に、クライストロンで発生したマイクロ波は導波管を使って加速管まで導かれ、そこでこの熱電子は数MeVのエネルギーに達するまで加速される。この加速された熱電子は磁石によってその方向を変えられ、透過型ターゲットに衝突する。このとき制動放射により、数MeVのエネルギーのX線が発生する。照射部203は、コリメータによってこのX線を所定の形状(例えば、円錐形状、或いは薄い平面形状)に成形し、寝台上に配置された被検体の三次元領域に照射する。
【0021】
タイミング制御部205は、データ取得制御部4からの制御に従って所定のタイミングで照射部203に電力が供給されるように、電力供給部201を制御する。
【0022】
ガントリ制御部207は、例えば操作部8やデータ取得制御部4からの制御指示に従って、ガントリの移動位置・回転位置を制御する。
【0023】
[散乱線検出システム]
散乱線検出システム3は、検出器301、コリメータ303、移動機構部305、位置検出部307を有している。
【0024】
検出器301は、数100keVのX線を検出できる半導体検出器や、イメージング・プレート等であり、被検体に対して照射した放射線に基づく当該被検体からの散乱線を検出する。この検出器の好ましいサイズ、照射ビーム軸に対する配置角度、画素数等については、後述する。
【0025】
コリメータ303は、特定の方向に来た散乱線のみを選択的に検出するための絞り装置である。
【0026】
移動機構部305は、照射部203の照射ビーム軸に対する検出器301の検出面の角度(すなわち、照射ビーム軸と検出器301の検出面の法線との角度)、放射線ビーム軸を中心とした検出器301の回転角、被検体と検出器301の検出面との距離等を制御するために、検出器301の位置や角度を移動させるための移動機構部である。
【0027】
位置検出部307は、検出器301の位置を検出するためのエンコーダである。
【0028】
[データ取得制御部]
データ取得制御部4は、放射線治療時における散乱線計測に関する総合的な制御を行う。例えば、データ取得制御部4は、放射線照射システム2のタイミング制御部205からの信号を得て、散乱線検出システム3に対して散乱線計測開始トリガーや検出データの伝送トリガーを送信する等、放射線照射、散乱線計測、データ処理、画像表示、ネットワーク通信等について、本放射線治療システム1を静的又は動的に制御する。また、データ取得制御部4は、必要に応じて、ネットワークを介して放射線治療計画装置から受け取った治療計画に基づいて、各照射の照射時間に合わせてスキャン時間を最適化する。
【0029】
データ処理システム5は、補正処理部501、再構成処理部503、変換処理部505、画像処理部507を有している。
【0030】
補正処理部501は、必要に応じてデータのキャリブレーション処理やノイズを除去するための補正処理等を行う。当該補正処理501が実行する補正処理の内容については、後で詳しく説明する。
【0031】
再構成処理部503は、散乱線検出システム3において検出された散乱線画像データと各散乱線画像データを検出した位置を示す位置情報とを用いて画像再構成処理を実行し、散乱イベント回数(散乱発生回数)の密度の三次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを取得する。再構成法式としては、例えば、コリメータの方向がスキャン軸と直交していればコンピュータ断層撮影(CT:Computerized Tomography)の再構成手法を、一方直交していなければ、断層撮影の再構成手法を用いる。
【0032】
変換処理部505は、画像再構成処理によって得られた三次元画像データを、吸収された放射線量(吸収線量)の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する。
【0033】
画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成する。また、吸収線量画像をフュージョン(Fusion)して表示する場合には、画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて画像合成処理を行う。
【0034】
[表示部、記憶部、操作部、ネットワークI/F]
表示部6は、吸収線量画像データを用いて吸収線量画像を所定の形態で表示する。例えば、表示部6は、必要に応じて、吸収線量画像を計画画像や照射直前、照射中に得た画像とフュージョンして表示を行う。
【0035】
記憶部7は、照射する放射線ビームの軸を中心として検出器301を回転させながら散乱線データを取得(スキャン)するための所定のスキャンシーケンス、補正処理、画像再構成処理、変換処理、表示処理等を実行するための制御プログラムや、治療計画を当該システムで表示、編集するための専用プログラム、当該放射線治療用線量分布測定装置1によって取得された散乱線ボリュームデータ、吸収線量ボリュームデータ、吸収線量画像データ、X線コンピュータ断層撮影装置等の他のモダリティによって取得された画像データ等を記憶する。また、記憶部7には、CT値-密度変換テーブル701が記憶される。CT値-密度変換テーブル701は、変換処理に用いられるもので、内容の詳細については後述する。当該記憶部7に記憶されているデータは、ネットワークI/F90を経由して外部装置へ転送することも可能となっている。
【0036】
操作部8は、オペレータからの各種指示、条件、関心領域(ROI)の設定指示、種々の画質条件設定指示等を装置本体11にとりこむための各種スイッチ、ボタン、トラックボール13s、マウス13c、キーボード13d等を有している。
【0037】
ネットワークI/F9は、当該放射線治療用線量分布測定装置1によって得られた吸収線量画像データ等をネットワーク経由で他の装置に転送し、また、例えば放射線治療計画装置において作成された治療計画等をネットワーク経由で取得する。
【0038】
(吸収線量画像データの生成方法)
(第1の実施例)
次に、第1の実施例に係る放射線治療システム1を用いた吸収線量画像データの生成方法について説明する。本実施例に係る放射線治療システムでは、治療X線ビームに対して特定の角度をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出する。さらに、患者体内の、散乱の起こった場所の分布を3次元的に得るために、照射中に検出器を回転させ、すべての方向から散乱線の測定を行う(例えば、図4参照)。その後、再構成処理を行い、被検体内部の散乱線の発生分布を3次元的に画像化する。
【0039】
図3は、本実施例に係る吸収線量画像データの生成処理を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理内容について説明する。
【0040】
[被検体の配置等:ステップS1a]
まず、データ取得制御部4は、例えばネットワークを介して当該被検体に関する治療計画情報を取得し、表示部6に表示する。術者は、表示された治療計画に従って寝台上に被検体を配置すると共に、操作部8を介して、放射線照射時間の設定、1回転の中で散乱線計測を行う回数や計測する角度の設定など、スキャンシーケンスの選択等を行う(ステップS1a)。なお、放射線照射時間の設定等については、取得した治療計画情報に基づいて、自動的に行うようにしてもよい。
【0041】
[放射線照射/多方向における散乱線画像データの取得:ステップS2a]
図4は、本放射線治療システム1の散乱線の測定形態を示した図である。同図に示すように、放射線照射システム2は被検体に対して、三次元領域を照射するための治療用放射線を所定のタイミングで発生する。また、散乱線検出システム3は、当該照射放射線に基づいて被検体外に出てくる散乱線を照射される放射線ビームの軸を中心とした複数の回転角において検出する(ステップS2a)。例えば、ある1つの方向から3分間照射が行える場合、1方向につき10秒ずつ、18方向のデータを収集する。このとき、18方向はビーム軸を中心として等角度間隔であることが好ましい。検出器301が各方向で検出した散乱線のカウント数及び位置検出部307で計測した散乱線検出時における検出器301の位置情報は、データ処理システム5に伝送される。
【0042】
なお、本実施例では、検出器301の配置角度を、散乱角θが120°≦θ≦165°の範囲のいずれか(例えば、155°)である後方散乱線を検出するように、検出器301の配置角度を設定するものとする。
【0043】
また、上記の例において、例えば2Gyの照射が3方向から行われる場合、1方向あたりのカウント数は、1.24×105× 1/3≒4×104[counts/cm2]である。1方向あたり180秒で照射されるとして10秒間測定すると、4×104×10/180=2×103[counts/cm2]となるが、S/N比に問題はない。
【0044】
また、散乱線の検出は、少なくとも2つ以上の方向が必要であるが、現実にはできる限り多くの方向において検出することが好ましい。また、各検出位置は、照射ビームの軸を中心として等角度間隔に配置されていることが好ましい。
【0045】
[前処理(補正処理等):ステップS3a]
収集されたデータは、検出器設置角度方向に散乱されたX線のみカウントしている。しかし実際には、X線はあらゆる方向への散乱が起こっている。データ処理システム5の補正処理部501は、検出器のカウント値を補正し、所定の計算しきに従って、すべての方向への散乱数を取得する(ステップS3a)。
【0046】
[画像再構成処理:ステップS4a]
データ処理システム5の再構成処理部503は、多方向の投影データを用いて画像再構成処理を実行し、散乱線ボリュームデータを取得する(ステップS4a)。このとき、検出器301の回転軸とコリメータの方向が直交しており、180度(+α)以上の角度範囲で画像を撮影する場合はCTの再構成方法を用いればよいが、その他の場合は断層撮影の再構成方法を用いる。断層撮影の手法として、例えば投影画像にフィルタ処理を適用した後バックプロジェクション処理を行うfiltered backprojection法を用いる。filterの構成方法としては古典的なShepp-Logan filterや、特願2006−284325, 特願2007−269447に開示されているフィルタを用いる。特に、特願2006−284325, 特願2007−269447に記載されている方法を用いれば、物理的意味が明確な散乱源分布画像を生成することができる。
【0047】
検出器画像にフィルタ処理を施し、バックプロジェクションを行って得られる画像は、単位体積あたりの散乱線発生密度(単位体積あたりの散乱回数)である。上記の再構成処理の全ステップ(各種補正処理、フィルタ処理、バックプロジェクション処理)をとおして、治療用放射線が被検体を通過する近傍での散乱線発生密度の3次元分布(散乱線ボリュームデータ)を取得することができる。
【0048】
[変換処理:ステップS5a]
データ処理システム5の変換処理部505は、ボクセル(voxel)ごとに算出された単位体積あたりの散乱回数nを、吸収線量に換算することで、散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量(吸収線量)の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する(ステップS5a)。この処理の詳細については後述する。
【0049】
[吸収線量画像データの生成/画像データの表示:ステップS6a、S7a]
画像処理部507は、被検体CT画像の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成し、例えばCT画像と合成する(ステップS6a)。表示部6は、所定の形態にて吸収線量画像を表示する(ステップS7a)。
【0050】
(第2の実施例)
次に、第2の実施例に係る放射線治療システム1を用いた吸収線量画像データの生成方法について説明する。本実施例に係る放射線治療システムでは、治療X線ビームに対して所定の角度(散乱角)をなす位置にコリメータを備えた検出器を設置し、その方向に来た散乱線のみを選択的に検出し、この検出を照射部から照射される治療用X線ビームの軸と検出器の検出面とのなす角を維持しつつ治療用X線ビームと検出面とを移動させながら実行することで、被検体内の3次元領域をスキャンする。得られた所定の散乱角に関する3次元散乱線データを用いて、散乱線ボリュームデータを再構成すると共に、当該散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換し、吸収線量画像を生成する。
【0051】
図5は、本実施例に係る吸収線量画像データの生成処理を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。以下、各ステップの処理内容について説明する。
【0052】
[被検体の配置等:ステップS1b]
まず、第1の実施例と同様に、被検体の配置等が実行される(ステップS1b)。
【0053】
[放射線照射(散乱線データの取得):ステップS2b]
図6は、本放射線治療システム1の散乱線の測定形態の一例を示した図である。同図に示すように、放射線照射システム2は、被検体に対して薄い平面状に整形されたX線ビームB2を所定のタイミングで照射し、散乱線検出システム3は、当該照射放射線に基づいて被検体外に出てくる所定の散乱角の散乱線を検出する。また、データ取得制御部4は、照射部203から照射される治療用のX線ビームB2の軸と検出器301の視線方向とのなす角を維持しながらX線ビームB2による励起断面を移動させ、当該被検体内の3次元領域を走査(スキャン)するように、ガントリ制御部207或いは移動機構部305を制御する(ステップS2b)。この治療用のX線ビームB2を用いた3次元領域のスキャンにより、X線ビームB2の平面に対応する複数の二次元散乱線データからなる3次元散乱線データが取得される。
【0054】
なお、図6は、散乱線の測定形態の一例である。従って、本実施例に係る散乱線の測定形態は、当該例に拘泥されない。例えば、図7に示すように、検出器301の検出面(及びコリメータ303の開口面)を、治療用放射線ビームの照射方向に対する検出面のなす角度を一定に保ちながら、治療用放射線ビームの軸の位置の移動に連動して移動させることによっても、複数の二次元散乱線データからなる3次元散乱線データを取得することができる。
【0055】
[前処理(補正処理等):ステップS3b]
データ処理システム5の補正処理部501は、減弱補正を含む前処理を実行し、投影データを取得する(ステップS3b)。ここで、減弱補正とは、治療用放射線や散乱線が被検体内を伝播することに起因する信号減弱に関する補正処理である。
【0056】
[画像再構成処理:ステップS4b]
データ処理システム5の再構成処理部503は、取得された投影データを用いて画像再構成処理を実行し、散乱線ボリュームデータを取得する(ステップS4b)。
【0057】
[変換処理:ステップS5b]
データ処理システム5の変換処理部505は、第1の実施例と同様に、散乱線ボリュームデータを吸収された放射線量(吸収線量)の3次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する(ステップS5b)。この処理の詳細については後述する。
【0058】
[吸収線量画像データの生成/画像データの表示:ステップS6b、S7b]
画像処理部507は、吸収線量ボリュームデータ等を用いて、被検体の所定部位に関する吸収された放射線量(吸収線量)の分布を示す吸収線量画像データを生成し、例えばフュージョン表示するためにCT画像と合成する(ステップS6b)。表示部6は、所定の形態にて吸収線量画像を表示する(ステップS7b)。
【0059】
ここで、上記ステップS5a及びステップS5bにおける変換処理の詳細について説明する。
【0060】
図8に示すように、人体組織が均質な水から構成されていると仮定した場合、密度の差が大きな物質が近接している場合には、吸収線量を過小評価する恐れがある。つまり、空気を含む肺や管腔臓器、骨など、均質な水とは密度が異なる組織での吸収線量を正しく計算することができない。そこで、本実施形態では、被検体を撮像して得られたCT画像を利用してvoxelごとに組織の組成(成分とその成分に含まれる量の割合)に対応する密度を算出し、より正確な吸収線量を求めるようにする。
【0061】
図9は、変換処理の手順を示したフローチャートである。以下、各ステップの処理内容について説明する。
[CT画像の読み込み:ステップS1c]
データ処理システム5は、患者のCT画像を読み込む。このCT画像は、最終的に吸収線量分布と対比させて表示するCT画像であり、治療中の患者の状態を正しく表した画像が望ましい。例えば、治療直前に、治療中と同じ体位で撮影されたCT画像(例えば、Linac一体型CTと呼ばれる装置で撮影できる。)を用いる。
【0062】
[CT画像voxelの質量密度の算出:ステップS2c]
変換処理部505は、CT画像の各voxelのCT値を質量密度に換算する。この処理は次のように行う。まず、CT値を相対電子密度に変換する。ここで、相対電子密度とは、ある物質の電子密度と水の電子密度との比である。CT値と相対電子密度ρの関係は、ファントムを用いて計測することができ、例えば次のような関係が知られている(S J THOMAS, Relative electron density calibration of CT scanners for radiotherapy treatment planning, The British Journal of Radiology, August 1999)。ここで、HUはHounsfield UnitでCT値である。
【数1】

【0063】
上式を用いることにより、CT画像voxelの相対電子密度が分かる。なお、上式は120〜140keVの管電圧で撮影されたデータに基づいているため、この他の管電圧で撮影されたCT画像を用いる場合は、別途ファントムによる計測を実施し、CT値と相対電子密度の変換式を求める必要がある。
【0064】
さらに、相対電子密度から質量密度への換算を行う。人体の構成元素は、原子番号20番以下の元素が99%以上を占める。図10に示すように、このような比較的原子番号の小さな範囲では、原子番号、すなわち原子が有する電子数と原子量はほぼ比例関係にあり、人体中の電子密度と質量密度も同様の関係があるとみなすことができる。そのため、相対電子密度が2.0(水の電子密度の2倍)であるvoxelでは、質量密度も水の2倍の2.0[g/cm3]などとみなすことができる。
【0065】
上述の近似的な換算によって、ほぼ正しい質量密度を得ることができる。ここで、下記の文献値と比較して確認しておく。
脂肪の相対電子密度は、0.96g/cm3(文献値)であるため、上記方法によれば、質量密度は0.96g/cm3と換算される(質量密度の文献値:0.94g/cm3)。
また、筋肉の相対電子密度は、1.05g/cm3(文献値)であるため、上記方法によれば、質量密度は1.05g/cm3と換算される(質量密度の文献値:1.06g/cm3)。
相対電子密度の出典:松田幸広ら、放射線治療計画CTにおけるCT値-電子密度変換方法に関する調査、日本放射線技術学会雑誌、63(8),888-,2007
質量密度の出典1:日本水泳連盟、シンクロ委員会オフィシャルサイト、<URL:http://synchrocafe.ijiss.jp/modules/smartsection/item.php?itemid=43>
質量密度の出典2:日本水泳連盟、シンクロ一貫指導教書、2002
なお、必要に応じて、上記得られたCT値と質量密度との対応関係をテーブル化し、CT値−密度変換テーブル701として記憶部7に記憶しておくとよい。
【0066】
[CT画像-線量分布画像の位置合わせ:ステップS3c]
画像処理部507で、CT画像と線量分布画像のvoxelを対応付けるため、両画像の位置合わせを行う。治療直前に、治療中と同じ体位で撮影されたCT画像や治療計画作成時のCT画像を利用する場合は、照射中心を原点とする照射装置座標系での位置が既知であるため、本処理は容易に実施できる。
【0067】
[線量分布画像voxelの質量密度の算出:ステップS4c]
次に、線量分布画像の各voxelの質量密度を、対応するCT画像voxelの質量密度値から算出する。両画像のvoxelサイズは一般的には異なる。多くの場合、線量分布画像のvoxelサイズはCT画像のvoxelサイズより大きいという関係が成り立つ(CT画像は1mm以下のvoxelサイズで撮影可能であるが、線量分布画像をこれよりも小さなvoxelサイズで得ようとすると精度が落ちてしまうため、実際上困難である)。この場合は平均値を求めればよい。さらに、両画像の位置関係次第では、ある線量分布画像voxelに包含されるCT画像voxelが非整数個になる場合が考えられる。線量分布画像中のj番目のvoxelに、一部またはすべてが包含されるCT画像中のvoxelがl個あり、それぞれのvoxelが包含される体積割合がν(i=1,2,…,l)、質量密度がρ(i=1,2,…,l)であるとき、線量分布画像中のj番目のvoxelの質量密度ρDoseは、下記式により算出される。
【数2】

【0068】
[吸収線量[Gy]の算出:ステップS5c]
線量分布画像のj番目のvoxelの吸収線量D[Gy]=[J/kg]は、吸収エネルギーEab,j[J]、質量密度ρDose[g/cm3]、およびvoxelの体積ν[cm3]を用いると、次式で算出できる。
【数3】

【0069】
以上述べたように上記実施形態では、放射線照射システム2は、被検体に対して治療用放射線ビームを照射し、散乱線検出システム3は、治療用放射線ビームに基づいて発生する被検体内からの散乱線を検出し散乱線データを発生する。再構成処理部503は、検出された散乱線データに基づいて、被検体内における散乱線発生密度の三次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成する。変換処理部505は、この散乱線ボリュームデータを各ボクセルの組織の組成に対応する密度を用いて吸収された放射線量の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換するようにする。
【0070】
人体組織を均質な水とみなして吸収線量分布画像を作成すると、密度の差が大きな物質が近接している場合に、線量を過小評価する恐れがある。これに対し、本実施形態によれば、特に肺野の腫瘍など、密度が大きく異なる組織が隣接している症例においても、正確な線量評価を行えるメリットがある。これにより、治療計画通りに放射線治療が行われているか否かを的確に判断することができ、放射線の治療部位に対する過少照射やその周辺の正常部位に対する過剰照射等を防ぐことができる。その結果、放射線治療の効果を向上、被検体への余分な被曝量の低減を実現することができ、放射線治療の安全性および質の向上に寄与することができる。
【0071】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。例えば、本実施形態に係る各機能は、当該処理を実行するプログラムをワークステーション等のコンピュータにインストールし、これらをメモリ上で展開することによっても実現することができる。このとき、コンピュータに当該手法を実行させることのできるプログラムは、磁気ディスク(フロッピー(登録商標)ディスク、ハードディスクなど)、光ディスク(CD−ROM、DVDなど)、半導体メモリなどの記録媒体に格納して頒布することも可能である。
【0072】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0073】
以上本発明によれば、放射線照射治療において、実際に患者のどの部位に、どれだけの線量が照射されたかを実際に計測し、その結果を所定の形態で提供することで、病変部への過剰照射や正常組織への過剰照射を防ぐことを可能とする放射線治療用線量分布測定装置および放射線治療用線量分布測定プログラムを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】図1は、本放射線治療システムの治療用放射線に基づく被検体からの散乱線計測の原理、方法を説明するための図である。
【図2】図2は、本実施形態に係る放射線治療システムのブロック構成図を示している。
【図3】図3は、本放射線治療システムの動作を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。
【図4】図4は、本放射線治療システムの散乱線の測定形態の一例を示した図である。
【図5】図5は、本放射線治療システムの動作を含む放射線治療時における処理の流れを示したフローチャートである。
【図6】図6は、本放射線治療システムの散乱線の測定形態の一例を示した図である。
【図7】図7は、本放射線治療システムの散乱線の測定形態を別の例を示した図である。
【図8】図8は、ボクセル内の組織密度の概念を示した図である。
【図9】図9は、変換処理の手順を示したフローチャートである。
【図10】図10は、原子番号と原子量の関係を示した図である。
【符号の説明】
【0075】
1…放射線治療システム、2…放射線照射システム、3…散乱線検出システム、4…データ取得制御部、5…データ処理システム、6…表示部、7…記憶部、8…操作部、9…ネットワークI/F、201…電力供給部、203…照射部、205…タイミング制御部、207…ガントリ制御部、301…検出器、303…コリメータ、305…移動機構部、307…位置検出部、501…補正処理部、503…再構成処理部、505…変換処理部、507…画像処理部、701…CT値−密度変換テーブル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に対して治療用放射線ビームを照射する照射手段と、
前記治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体内からの散乱線を検出し散乱線データを発生する検出手段と、
前記検出された散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の三次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成する画像再構成手段と、
前記散乱線ボリュームデータを各ボクセルの組織の組成に対応する密度を用いて吸収された放射線量の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換する変換手段と、
前記吸収線量ボリュームデータを用いて、前記被検体内における吸収線量画像を生成する画像生成手段と、
前記吸収線量画像を表示する表示手段と
を具備することを特徴とする放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項2】
前記変換手段は、前記被検体を撮像して得られる形態画像をもとに前記各ボクセルの密度を算出することを特徴とする請求項1記載の放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項3】
前記形態画像はコンピュータ断層(CT:Computerized Tomography)画像であり、前記密度はCT値により算出されることを特徴とする請求項2記載の放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項4】
前記変換手段は、前記散乱線ボリュームデータのボクセルの密度を、対応する前記形態画像の少なくとも1つのボクセルの密度を平均して算出することを特徴とする請求項2記載の放射線治療用線量分布測定装置。
【請求項5】
コンピュータに、
被検体に対して照射された治療用放射線ビームに基づいて発生する前記被検体内からの散乱線を検出することで散乱線データを発生させる検出機能と、
前記検出された複数の位置についての散乱線データに基づいて、前記被検体内における散乱線発生密度の三次元的分布を示す散乱線ボリュームデータを再構成させる画像再構成機能と、
前記散乱線ボリュームデータを各ボクセルの組織の組成に対応する密度を用いて吸収された放射線量の三次元分布を示す吸収線量ボリュームデータに変換させる変換機能と、
前記吸収線量ボリュームデータを用いて、前記被検体内における吸収線量画像を生成させる画像生成機能と、
前記吸収線量画像を表示させる表示機能と
を実行させることを特徴とする放射線治療用線量分布測定プログラム。
【請求項6】
前記変換機能は、前記被検体を撮像して得られる形態画像をもとに前記各ボクセルの密度を算出させることを特徴とする請求項5記載の放射線治療用線量分布測定プログラム。
【請求項7】
前記形態画像はコンピュータ断層(CT:Computerized Tomography)画像であり、前記密度はCT値により算出されることを特徴とする請求項6記載の放射線治療用線量分布測定プログラム。
【請求項8】
前記変換機能は、前記散乱線ボリュームデータのボクセルの密度を、対応する前記形態画像の少なくとも1つのボクセルの密度を平均して算出させることを特徴とする請求項6記載の放射線治療用線量分布測定プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−183468(P2009−183468A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26733(P2008−26733)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】