説明

放射線治療装置および放射線照射方法

【課題】被検体に照射される放射線の線量の変動を低減すること。
【解決手段】荷電粒子ビームを生成する加速装置51、52と、その荷電粒子ビームが照射されることにより放射線を放射するターゲット53と、ターゲット53に流れる電流を測定するセンサ57と、その放射線の線量を測定する線量計56と、その電流とその線量とに基づいて加速装置51、52を制御する制御装置60とを備えている。被検体に照射される放射線の線量は、ターゲット53に流れる電流とともに変動し、その線量とともに変動する。このような放射線治療装置は、電流または線量の一方だけに基づいて加速装置51、52を制御することに比較して、被検体に照射される放射線の線量をより高精度に制御することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線治療装置および放射線照射方法に関し、特に、人体内部の腫瘍患部として例えば前立腺や肺などの放射線治療において、高い線量安定性を実現する放射線治療装置および放射線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
患部(腫瘍)に治療用放射線を照射することにより患者を治療する放射線治療装置が知られている。その放射線治療は、治療効果が高いことが望まれ、その治療用放射線は、その患部に所定の線量だけをより正確に照射されることが望まれ、線量の変動が小さいことが望まれている。
【0003】
米国特許第4427890号公報には、電子線をX線に変換するターゲットの電流をモニタして電子ビームのエネルギーを制御する方法が開示されている。米国特許出願公開第2007/0248214号公報には、分割型終電電極を備える透過型線量計を用いてX線線量分布を測定し、そのX線線量分布の分布変動を補正する方向に電力制御することにより、電子ビームのエネルギーを制御する方法が開示されている。
【0004】
【特許文献1】米国特許第4427890号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2007/0248214号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、被検体に照射される放射線の線量の変動を低減する放射線治療装置および放射線照射方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下に、発明を実施するための最良の形態・実施例で使用される符号を括弧付きで用いて、課題を解決するための手段を記載する。この符号は、特許請求の範囲の記載と発明を実施するための最良の形態・実施例の記載との対応を明らかにするために付加されたものであり、特許請求の範囲に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0007】
本発明による放射線治療装置は、荷電粒子ビームを生成する加速装置(51、52)と、その荷電粒子ビームが照射されることにより放射線を放射するターゲット(53)と、ターゲット(53)に流れる電流を測定するセンサ(57)と、その放射線の線量を測定する線量計(56)と、その電流とその線量とに基づいて加速装置(51、52)を制御する制御装置(60)とを備えている。被検体に照射される放射線の線量は、ターゲット(53)に流れる電流とともに変動し、その線量とともに変動する。このような放射線治療装置は、電流または線量の一方だけに基づいて加速装置(51、52)を制御することに比較して、被検体に照射される放射線の線量をより高精度に制御することができる。
【0008】
制御装置(60)は、その線量または一定時間あたりの線量をその電流で除算した商に基づいて加速装置(51、52)を制御する。被検体に照射される放射線の線量は、その商に対応している。このため、このような放射線治療装置は、被検体に照射される放射線の線量をより高精度に制御することができる。
【0009】
制御装置(60)は、その商が一定になるように加速装置(51、52)をフィードバック制御する。このような放射線治療装置は、被検体に照射される放射線の線量の変動を低減することができる。
【0010】
加速装置(51、52)は、荷電粒子を放出する電子銃(51)と、高周波電力を生成する加速管電源(59)と、その高周波電力を用いてその荷電粒子を加速してその荷電粒子ビームを生成する加速管(52)とを備えている。制御装置(60)は、その商が一定になるように加速管電源(59)を制御することが好ましい。たとえば、加速管電源(59)は、高周波電力のパルスを加速管(52)に周期的に供給し、制御装置(60)は、その商が一定になるように、高周波電力を供給する周期を更新し、または、そのパルス幅を更新する。
【0011】
加速装置(51、52)は、荷電粒子放出用電力を生成する電子銃電源(58)をさらに備えている。電子銃(51)は、その荷電粒子放出用電力を用いてその荷電粒子を放出する。電子銃電源(58)は、その荷電粒子が放出される量が一定になるように制御されることが好ましい。
【0012】
加速装置(51、52)は、荷電粒子放出用電力を生成する電子銃電源(58)と、その荷電粒子放出用電力を用いて荷電粒子を放出する電子銃(51)と、その荷電粒子を加速してその荷電粒子ビームを生成する加速管(52)とを備えている。制御装置(60)は、その商が一定になるように電子銃電源(58)を制御することが好ましい。
【0013】
加速装置(51、52)は、高周波電力を生成する加速管電源(59)をさらに備えている。加速管(52)は、その高周波電力を用いてその荷電粒子を加速してその荷電粒子ビームを生成する。加速管電源(59)は、その高周波電力が一定になるように制御されることが好ましい。
【0014】
加速管電源(59)は、その高周波電力の電圧を一定にするde−Qing回路(71)を備えていることが好ましい。de−Qing回路(71)は、その高周波電力を伝送する導波管に設けられる充電チョークコイル(73)と、充電チョークコイル(73)の二次巻線(75)と、その高周波電力の電圧を測定する電圧計(74)と、その電圧が所定の値を超えたときに、二次巻線(75)に流れる電流を変更するスイッチ(77)とを備えている。
【0015】
電子銃電源(58)は、カソードヒート電力を生成する。このとき、電子銃(51)は、そのカソードヒート電力によりその荷電粒子を放出するカソード(61)を備えている。すなわち、電子銃電源(58)は、そのカソードヒート電力が更新するように制御されることが好ましい。
【0016】
電子銃電源(58)は、グリッド電圧を生成する。電子銃(51)は、その荷電粒子を放出するカソード(61)と、そのグリッド電圧が印加されてその荷電粒子を加速するグリッド(62)とを備えている。すなわち、電子銃電源(58)は、そのグリッド電圧が更新するように制御されることが好ましい。
【0017】
本発明による放射線照射方法は、加速装置(51、52)により生成される荷電粒子ビームが照射されることにより放射線を放射するターゲット(53)に流れる電流を測定するステップと、その放射線の線量を測定するステップと、その電流とその線量とに基づいて加速装置(51、52)を制御するステップとを備えている。被検体に照射される放射線の線量は、ターゲット(53)に流れる電流とともに変動し、その線量とともに変動する。このような放射線照射方法によれば、被検体に照射される放射線の線量は、電流または線量の一方だけに基づいて加速装置(51、52)が制御されることに比較して、より高精度に制御することができる。
【0018】
加速装置(51、52)は、その線量をその電流で除算した商に基づいて制御される。被検体に照射される放射線の線量は、その商に対応している。このため、このような放射線照射方法によれば、被検体に照射される放射線の線量は、より高精度に制御されることができる。
【0019】
加速装置(51、52)は、その商が一定になるようにフィードバック制御される。このような放射線照射方法によれば、被検体に照射される放射線の線量の変動は、低減される。
【0020】
加速装置(51、52)は、荷電粒子を放出する電子銃(51)と、高周波電力を生成する加速管電源(59)と、その高周波電力を用いてその荷電粒子を加速してその荷電粒子ビームを生成する加速管(52)とを備えている。加速管電源(59)は、その商が一定になるように制御される。ことが好ましい。たとえば、加速管電源(59)は、高周波電力のパルスを加速管(52)に周期的に供給し、その商が一定になるように、高周波電力を供給する周期が更新され、または、そのパルス幅が更新される。
【0021】
加速装置(51、52)は、荷電粒子放出用電力を生成する電子銃電源(58)をさらに備えている。電子銃(51)は、その荷電粒子放出用電力を用いてその荷電粒子を放出する。電子銃電源(58)は、その荷電粒子が放出される量が一定になるように制御されることが好ましい。
【0022】
加速装置(51、52)は、荷電粒子放出用電力を生成する電子銃電源(58)と、その荷電粒子放出用電力を用いて荷電粒子を放出する電子銃(51)と、その荷電粒子を加速してその荷電粒子ビームを生成する加速管(52)とを備えている。電子銃電源(58)は、その商が一定になるように制御されることが好ましい。
【0023】
加速装置(51、52)は、高周波電力を生成する加速管電源(59)をさらに備えている。加速管(52)は、その高周波電力を用いてその荷電粒子を加速してその荷電粒子ビームを生成する。加速管電源(59)は、その高周波電力が一定になるように制御されることが好ましい。
【0024】
電子銃電源(58)は、カソードヒート電力を生成する。電子銃(51)は、そのカソードヒート電力によりその荷電粒子を放出するカソード(61)を備えている。すなわち、電子銃電源(58)は、カソードヒート電力が更新するように制御されることが好ましい。
【0025】
電子銃電源(58)は、グリッド電圧を生成する。電子銃(51)は、その荷電粒子を放出するカソード(61)と、そのグリッド電圧を用いてその荷電粒子を加速するグリッド(62)とを備えている。すなわち、電子銃電源(58)は、グリッド電圧が更新するように制御されることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明による放射線治療装置および放射線照射方法は、被検体に照射される放射線の線量の変動が低減される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
図面を参照して、本発明による放射線治療装置の実施の形態を記載する。その放射線治療装置3は、図1に示されているように、旋回駆動装置11とOリング12と走行ガントリ14と首振り機構15と照射ヘッド16とを備えている。旋回駆動装置11は、回転軸17を中心に回転可能にOリング12を土台に支持し、図示されていない放射線治療装置制御装置により制御されて回転軸17を中心にOリング12を回転させ、土台に対するOリング12の旋回角を出力する。回転軸17は、鉛直方向に平行である。Oリング12は、回転軸18を中心とするリング状に形成され、回転軸18を中心に回転可能に走行ガントリ14を支持している。回転軸18は、鉛直方向に垂直であり、回転軸17に含まれるアイソセンタ19を通る。回転軸18は、さらに、Oリング12に対して固定され、すなわち、Oリング12とともに回転軸17を中心に回転する。走行ガントリ14は、回転軸18を中心とするリング状に形成され、Oリング12のリングと同心円になるように配置されている。放射線治療装置3は、さらに、図示されていない走行駆動装置を備えている。その走行駆動装置は、その放射線治療装置制御装置により制御されて回転軸18を中心に走行ガントリ14を回転させ、Oリング12に対する走行ガントリ14の走行角を出力する。
【0028】
首振り機構15は、走行ガントリ14のリングの内側に固定され、照射ヘッド16が走行ガントリ14の内側に配置されるように、照射ヘッド16を走行ガントリ14に支持している。首振り機構15は、パン軸21およびチルト軸22を有している。パン軸21は、走行ガントリ14に対して固定され、回転軸18に交差しないで回転軸18に平行である。チルト軸22は、パン軸21に直交している。首振り機構15は、その放射線治療装置制御装置により制御されて、パン軸21を中心に照射ヘッド16を回転させ、チルト軸22を中心に照射ヘッド16を回転させる。
【0029】
照射ヘッド16は、その放射線治療装置制御装置により制御されて、治療用放射線23を放射する。治療用放射線23は、パン軸21とチルト軸22とが交差する交点を通る直線に概ね沿って放射される。治療用放射線23は、一様強度分布を持つように形成されている。治療用放射線23は、さらに、一部が遮蔽されて治療用放射線23が患者に照射されるときの照射野の形状が制御されている。
【0030】
治療用放射線23は、このように照射ヘッド16が走行ガントリ14に支持されることにより、首振り機構15で照射ヘッド16がアイソセンタ19に向かうように一旦調整されると、旋回駆動装置11によりOリング12が回転し、または、その走行駆動装置により走行ガントリ14が回転しても、常に概ねアイソセンタ19を通る。即ち、走行・旋回を行うことで任意方向からアイソセンタ19に向けて治療用放射線23の照射が可能になる。
【0031】
放射線治療装置3は、さらに、複数のイメージャシステムを備えている。すなわち、放射線治療装置3は、診断用X線源24、25とセンサアレイ32、33とを備えている。診断用X線源24は、走行ガントリ14に支持されている。診断用X線源24は、走行ガントリ14のリングの内側に配置され、アイソセンタ19から診断用X線源24を結ぶ線分とアイソセンタ19から照射ヘッド16を結ぶ線分とがなす角が鋭角になるような位置に配置されている。診断用X線源24は、その放射線治療装置制御装置により制御されてアイソセンタ19に向けて診断用X線35を放射する。診断用X線35は、診断用X線源24が有する1点から放射され、その1点を頂点とする円錐状のコーンビームである。診断用X線源25は、走行ガントリ14に支持されている。診断用X線源25は、走行ガントリ14のリングの内側に配置され、アイソセンタ19から診断用X線源25を結ぶ線分とアイソセンタ19から照射ヘッド16を結ぶ線分とがなす角が鋭角になるような位置に配置されている。診断用X線源25は、その放射線治療装置制御装置により制御されてアイソセンタ19に向けて診断用X線36を放射する。診断用X線36は、診断用X線源25が有する1点から放射され、その1点を頂点とする円錐状のコーンビームである。
【0032】
センサアレイ32は、走行ガントリ14に支持されている。センサアレイ32は、診断用X線源24により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した診断用X線35を受光して、その被写体の透過画像を生成する。センサアレイ33は、走行ガントリ14に支持されている。センサアレイ33は、診断用X線源25により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した診断用X線36を受光して、その被写体の透過画像を生成する。センサアレイ32、33としては、FPD(Flat Panel Detector)、X線II(Image Intensifier)が例示される。
【0033】
このようなイメージャシステムによれば、センサアレイ32、33により得た画像信号に基づき、アイソセンタ19を中心とする透過画像を生成することができる。
【0034】
放射線治療装置3は、さらに、センサアレイ31を備えている。センサアレイ31は、センサアレイ31と照射ヘッド16とを結ぶ線分がアイソセンタ19を通るように配置されて、走行ガントリ14のリングの内側に固定されている。センサアレイ31は、照射ヘッド16により放射されてアイソセンタ19の周辺の被写体を透過した治療用放射線23を受光して、その被写体の透過画像を生成する。センサアレイ31としては、FPD(Flat Panel Detector)、X線II(Image Intensifier)が例示される。
【0035】
放射線治療装置3は、さらに、カウチ41とカウチ駆動装置42とを備えている。カウチ41は、放射線治療装置3により治療される患者43が横臥することに利用される。カウチ41は、図示されていない固定具を備えている。その固定具は、その患者が動かないように、その患者をカウチ41に固定する。カウチ駆動装置42は、カウチ41を土台に支持し、その放射線治療装置制御装置により制御されてカウチ41を移動させる。
【0036】
図2は、照射ヘッド16を示している。照射ヘッド16は、電子銃51と加速管52とX線ターゲット53とフラットニングフィルタ54とマルチリーフコリメータ55とを備えている。電子銃51は、カソード61とグリッド62とを備えている。カソード61は、供給される電力を用いて加熱され、電子が飛び出しやすい状態になる。グリッド62は、カソード61に対して正の電圧が印加され、カソード61から放出される電子を加速管52に放出する。加速管52は、供給される高周波電力を用いて電子銃51により放出される電子を加速して電子ビームを生成し、その電子ビームをX線ターゲット53に照射する。X線ターゲット53は、高原子番号物質から形成されている。その高原子番号物質としては、タングステン、タングステン合金、金、タンタルが例示される。X線ターゲット53は、加速管52により生成された電子ビームが照射された際の制動放射により放射線(X線)を生成する。その放射線は、X線ターゲット53が内部に有する点である仮想的点線源を通る直線に概ね沿って放射される。フラットニングフィルタ54は、アルミニウム等から形成され、概ね円錐形の突起が形成される板に形成されている。フラットニングフィルタ54は、その突起がX線ターゲット53の側に面するように配置される。フラットニングフィルタ54は、X線ターゲット53から放射される放射線が本フラットニングフィルタを通過した後に、その放射方向に垂直である平面の所定領域におけるその放射線の線量が概ね一様に分布するように形成されている。マルチリーフコリメータ55は、その放射線治療装置制御装置により制御されて、フラットニングフィルタ54を透過した放射線の一部を遮蔽して治療用放射線23が患者に照射されるときの照射野の形状を制御する。
【0037】
放射線治療装置3は、さらに、透過型線量計56とセンサ57と電子銃電源58とクライストロン59と制御装置60とを備えている。透過型線量計56とセンサ57と電子銃電源58とクライストロン59とは、制御装置60と情報伝達可能に、電線を介して制御装置60に接続されている。透過型線量計56は、フラットニングフィルタ54を透過した放射線が透過するように配置されている。透過型線量計56は、X線により電離するガス媒体と、高電圧が印加される電極と、そのガス媒体と電極とを内部に配置する容器とを備えている。透過型線量計56は、その電極を流れる電流に基づいて、透過した放射線の線量を測定し、その線量を制御装置60に出力する。透過型線量計56は、透過した放射線の線量を測定し、その線量を制御装置60に出力する。センサ57は、加速管52により生成された電子ビームがX線ターゲット53に照射されたときにX線ターゲット53に流れる電流を測定し、その電流を制御装置60に出力する。電子銃電源58は、電子銃51に接続されている。電子銃電源58は、制御装置60に制御されて、所定の電力を電子銃51のカソード61に供給し、所定の電圧を電子銃51のグリッド62に印加する。クライストロン59は、導波管を介して加速管52に接続されている。クライストロン59は、制御装置60に制御されて、その導波管を介して高周波電力を加速管52に供給する。その高周波電力は、周期的なパルスから形成されている。そのパルスは、マイクロ波から形成されている。なお、クライストロン59は、他の高周波源に置換することができる。その高周波源としては、マグネトロン、多極管が例示される。
【0038】
制御装置60は、コンピュータであり、図示されていないCPUと記憶装置と入力装置と出力装置とインターフェースとを備えている。そのCPUは、制御装置60にインストールされるコンピュータプログラムを実行して、その記憶装置と入力装置と出力装置とインターフェースとを制御する。その記憶装置は、そのコンピュータプログラムを記録し、そのCPUにより生成される情報を一時的に記録する。その入力装置は、ユーザーに操作されることにより情報を生成し、その情報をそのCPUに出力する。その入力装置としては、キーボードが例示される。その出力装置は、そのCPUにより生成される情報をユーザーに認識可能に出力する。その出力装置としては、ディスプレイが例示される。そのインターフェースは、制御装置60に接続される外部機器により生成される情報をそのCPUに出力し、そのCPUにより生成された情報をその外部機器に出力する。その外部機器は、透過型線量計56とセンサ57と電子銃電源58とクライストロン59とを含んでいる。
【0039】
放射線治療装置3は、さらに、図3に示されているように、de−Qing回路71と充電要素72とを備えている。充電要素72は、クライストロン59を加速管52に接続する導波管の途中に設けられている。充電要素72は、コンデンサに形成されている。de−Qing回路71は、充電チョークコイル73と電圧モニタ74と二次巻線75と抵抗器76とサイリスタ77とを備えている。充電チョークコイル73は、その導波管の途中に設けられ、クライストロン59と充電要素72との間に設けられている。充電チョークコイル73は、インダクタンス素子に形成されている。電圧モニタ74は、充電チョークコイル73とde−Qing回路71との間のノードの電圧を測定し、その電圧が所定の電圧を超えたときに、電気信号を出力する。二次巻線75と抵抗器76とサイリスタ77とは、閉回路を形成している。二次巻線75は、充電チョークコイル73の二次巻線である。サイリスタ77は、電圧モニタ74により電気信号が出力されているときにその閉回路を閉じ、電圧モニタ74により電気信号が出力されていないときにその閉回路を開放する。このとき、de−Qing回路71は、クライストロン59から加速管52に伝送される高周波電力の電圧が所定の電圧を超えたときに、充電チョークコイル73のインダクタンスが変化し、その高周波電力が加速管52に供給されることが防止される。
【0040】
このようなde−Qing回路71と充電要素72とによれば、クライストロン59から加速管52に伝送される高周波電力の電圧は、一定になる。このため、電子銃51により放出された電子を加速管52が加速するための電圧は、アナログ的に一定に制御されて、加速管52が電子銃51により放出された電子に与えられるエネルギーは、一定になる。
【0041】
制御装置60にインストールされているコンピュータプログラムは、図4に示されているように、ターゲット電流収集部81と線量収集部82と制御量算出部83と制御部84とを含んでいる。ターゲット電流収集部81は、センサ57を用いて、ターゲット53に流れる電流を測定し、その電流をセンサ57から収集する。線量収集部82は、透過型線量計56を用いて、透過型線量計56を透過する放射線の線量を測定し、その線量を透過型線量計56から収集する。制御量算出部83は、ターゲット電流収集部81により収集された電流と線量収集部82により収集された線量とに基づいて制御量を算出する。その制御量は、その電流をその線量で除算した商を示している。制御部84は、制御量算出部83により算出された制御量が所定の値に一定になるように、電子銃電源58をフィードバック制御する。すなわち、制御部84は、制御量算出部83により算出された制御量が所定の値に一定になるように、電子銃電源58を制御して電子銃51のカソード61に供給される電力を更新する。
【0042】
本発明による放射線照射方法の実施の形態は、放射線治療装置3を用いて実行される。ユーザは、まず、治療計画を作成する。その治療計画は、患者43の患部に治療用放射線23を照射する照射角度と、その各照射角度から照射する治療用放射線23の線量および性状とを示している。ユーザは、放射線治療装置3のカウチ41に患者43を固定する。放射線治療装置3の放射線治療装置制御装置は、その治療計画により示される照射角度で治療用放射線23が患者43に照射されるように、旋回駆動装置11と走行駆動装置とカウチ駆動装置42とを用いて、照射ヘッド16と患者43とを位置合わせする。
【0043】
次いで、その放射線治療装置制御装置は、追尾動作と照射動作とを繰り返して実行する。その追尾動作では、その放射線治療装置制御装置は、放射線治療装置3のイメージャシステムにより撮像された画像に基づいて患部位置を算出する。その放射線治療装置制御装置は、治療用放射線23がその患部位置を透過するように首振り機構15を用いて照射ヘッド16を駆動する。その照射動作では、その放射線治療装置制御装置は、その追尾動作により照射ヘッド16が移動した直後に照射ヘッド16を用いて治療用放射線23をその患部に照射する。
【0044】
制御装置60は、その照射動作を実行している最中に、ターゲット53に流れる電流をセンサ57から収集し、透過型線量計56を透過する放射線の線量を透過型線量計56から収集する。制御装置60は、その収集された電流と線量とに基づいて制御量を算出する。その制御量は、その電流をその線量で除算した商を示している。制御装置60は、その算出された制御量が所定の値に一定になるように、電子銃電源58をフィードバック制御して電子銃51のカソード61に供給される電力を更新する。
【0045】
ターゲット53から発生するX線の線量RX−rayは、ターゲット53に衝突する電子ビームの単位時間当たりの電荷量(電流)Sに比例し、かつ、その衝突する電子ビームのエネルギー分布EebによりX線のエネルギー分布と生成空間分布とが変化することが知られている。すなわち、次式(1):
X−ray=k×S×f(Eeb)・・・(1)
が成立することが知られている。ここで、kは、定数を示し、f(Eeb)は、ターゲット53に固有である関数を示し、エネルギー分布Eebの電子ビームがターゲット53に衝突してときのX線発生割合を示している。透過型線量計56により測定される線量Sは、次式:
=k×RX−ray×f(EX−ray)・・・(2)
により表現されることが知られている。ここで、kは、定数を示し、EX−rayは、ターゲット53から発生するX線のX線エネルギー分布を示し、f(EX−ray)は、透過型線量計56に固有である関数を示し、X線エネルギー分布EX−rayのX線が透過型線量計56に照射されたときの透過型線量計56のガス媒体が電離する電離割合を示している。(1)式と(2)式とは、次式:
(Eeb)×f(Ex−ray)=1/(k×k)×S/S・・・(3)
が成立することを示している。患者43の体内の患部へのX線吸収線量Doseは、透過型線量計56により測定される線量SとX線のエネルギー分布EX−rayに依存することが知られ、次式:
Dose=k×S×f(EX−ray)・・・(4)
が成立することを示している。ここで、kは、定数を示し、f(EX−ray)は、患者43に固有である関数を示し、X線エネルギー分布EX−rayのX線が患者43に照射されたときの患者43に吸収される割合を示している。
【0046】
(3)式と(4)式とは、電流Sを線量Sで除算した商S/Sが一定になるように制御することにより患者43の体内の患部へのX線吸収線量Doseが一定になることを示し、放射線治療装置3により生成される治療用放射線23の患者43の体内の患部に吸収されるX線吸収線量が一定になることを示している。換言すれば、X線吸収線量Doseは、電流Sと線量Sとの両方が一定であれば一定であり、電流Sと線量Sとがそれぞれ変動していても、商S/Sが一定であれば一定である。すなわち、放射線治療装置3は、治療用放射線23の患者43の体内の患部に吸収されるX線吸収線量の変動が小さく、このため、その患部に所定の線量だけをより正確に照射することができる。
【0047】
図5は、本発明による放射線治療装置の比較例により生成された治療用放射線の10cm深さ吸収線量の変動を示している。その比較例の放射線治療装置は、既述の実施の形態における放射線治療装置3の制御装置60が他の制御装置に置換されている。その制御装置は、透過型線量計56により測定された線量が一定になるように、クライストロン59により生成される高周波電力のパルスのパルス幅が制御されている。10cm深さ吸収線量は、一般に、人体に吸収されるX線の吸収線量に対応し、その測定方法は、周知である。その変動86は、その放射線治療装置が配置される環境の状態の変化により治療用放射線の線量が変化し、その治療用放射線の10cm深さ吸収線量のばらつき(標準偏差)が比較的大きいことを示している。
【0048】
図5は、さらに、本発明による放射線治療装置3より生成された治療用放射線の10cm深さ吸収線量の変動を示している。その変動87は、変動86に比較して、その10cm深さ吸収線量のばらつきが小さいことを示している。すなわち、変動87は、その比較例に比較して、本発明による放射線治療装置3が患者43の患部に所定の線量だけをより正確に照射することができることを示している。
【0049】
本発明による放射線治療装置の実施の他の形態は、既述の実施の形態における制御装置60の制御部84が他の制御部に置換されている。その制御部は、制御量算出部83により算出された制御量が所定の値に一定になるように、電子銃電源58をフィードバック制御して、電子銃51のグリッド62に印加される電圧を更新する。このような放射線治療装置は、既述の実施の形態における放射線治療装置3と同様にして、治療用放射線23の患者43の体内の患部に吸収されるX線吸収線量の変動が小さく、その患部に所定の線量だけをより正確に照射することができる。なお、制御部は、制御量算出部83により算出された制御量が所定の値に一定になるように、電子銃電源58をフィードバック制御して、電子銃51のカソード61に供給される電力とグリッド62に印加される電圧との両方を更新するもできる。このような放射線治療装置も、既述の実施の形態における放射線治療装置3と同様にして、治療用放射線23の患者43の体内の患部に吸収されるX線吸収線量の変動が小さく、その患部に所定の線量だけをより正確に照射することができる。
【0050】
本発明による放射線治療装置の実施の他の形態は、既述の実施の形態における制御装置60の制御部84が他の制御部に置換されている。その制御部は、制御量算出部83により算出された制御量が所定の値に一定になるように、クライストロン59をフィードバック制御して、加速管52に供給される高周波電力のパルスのパルス幅を更新する。その制御部は、さらに、電子銃51のカソード61に一定の電力を供給するように、かつ、電子銃51のグリッド62に一定の電圧を印加するように、電子銃電源58を制御する。このような放射線治療装置は、既述の実施の形態における放射線治療装置3と同様にして、治療用放射線23の患者43の体内の患部に吸収されるX線吸収線量の変動が小さく、その患部に所定の線量だけをより正確に照射することができる。
【0051】
なお、その制御部は、センサ57により測定された電流が一定になるように、電子銃電源58をフィードバック制御して、電子銃51のカソード61に供給される電力を更新し、または、電子銃51のグリッド62に印加される電圧を更新することもできる。さらに、放射線治療装置は、電子銃51のカソード61とグリッド62との間に流れる電流を測定するセンサをさらに備え、このとき、その制御部は、そのセンサにより測定された電流が一定になるように、電子銃電源58をフィードバック制御して、電子銃51のカソード61に供給される電力を更新し、または、電子銃51のグリッド62に印加される電圧を更新することもできる。このような場合であっても、既述の実施の形態における放射線治療装置3と同様にして、治療用放射線23の患者43の体内の患部に吸収されるX線吸収線量の変動が小さく、その患部に所定の線量だけをより正確に照射することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】図1は、本発明による放射線治療装置の実施の形態を示す斜視図である。
【図2】図2は、照射ヘッドを示し、放射線治療装置が備える他の機器を示す斜視図である。
【図3】図3は、de−Qing回路と充電要素とを示す回路図である。
【図4】図4は、制御装置を示すブロック図である。
【図5】図5は、本発明による放射線治療装置の比較例により生成された治療用放射線の10cm深さ吸収線量の変動を示し、本発明による放射線治療装置より生成された治療用放射線の10cm深さ吸収線量の変動を示すグラフである。
【符号の説明】
【0053】
3 :放射線治療装置
11:旋回駆動装置
12:Oリング
14:走行ガントリ
15:首振り機構
16:照射ヘッド
17:回転軸
18:回転軸
19:アイソセンタ
21:パン軸
22:チルト軸
23:治療用放射線
24:診断用X線源
25:診断用X線源
31:センサアレイ
32:センサアレイ
33:センサアレイ
35:診断用X線
36:診断用X線
41:カウチ
42:カウチ駆動装置
43:患者
51:電子銃
52:加速管
53:ターゲット
54:フラットニングフィルタ
55:マルチリーフコリメータ
56:透過型線量計
57:センサ
58:電子銃電源
59:クライストロン
60:制御装置
61:カソード
62:グリッド
71:de−Qing回路
72:充電要素
73:充電チョークコイル
74:電圧モニタ
75:二次巻線
76:抵抗器
77:サイリスタ
81:ターゲット電流収集部
82:線量収集部
83:制御量算出部
84:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを生成する加速装置と、
前記荷電粒子ビームが照射されることにより放射線を放射するターゲットと、
前記ターゲットに流れる電流を測定するセンサと、
前記放射線の線量を測定する線量計と、
前記電流と前記線量とに基づいて前記加速装置を制御する制御装置
とを具備する放射線治療装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御装置は、前記線量または一定時間あたりの線量を前記電流で除算した商に基づいて前記加速装置を制御する
放射線治療装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記制御装置は、前記商が一定になるように前記加速装置をフィードバック制御する
放射線治療装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記加速装置は、
荷電粒子を放出する電子銃と、
高周波電力を生成する加速管電源と、
前記高周波電力を用いて前記荷電粒子を加速して前記荷電粒子ビームを生成する加速管とを備え、
前記制御装置は、前記商が一定になるように前記加速管電源を制御する
放射線治療装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記加速装置は、荷電粒子放出用電力を生成する電子銃電源を更に備え、
前記電子銃は、前記荷電粒子放出用電力を用いて前記荷電粒子を放出し、
前記電子銃電源は、前記荷電粒子が放出される量が一定になるように制御される
放射線治療装置。
【請求項6】
請求項3において、
前記加速装置は、
荷電粒子放出用電力を生成する電子銃電源と、
前記荷電粒子放出用電力を用いて荷電粒子を放出する電子銃と、
前記荷電粒子を加速して前記荷電粒子ビームを生成する加速管とを備え、
前記制御装置は、前記商が一定になるように前記電子銃電源を制御する
放射線治療装置。
【請求項7】
請求項6において、
前記加速装置は、高周波電力を生成する加速管電源を更に備え、
前記加速管は、前記高周波電力を用いて前記荷電粒子を加速して前記荷電粒子ビームを生成し、
前記加速管電源は、前記高周波電力が一定になるように制御される
放射線治療装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記加速管電源は、前記高周波電力の電圧を一定にするde−Qing回路を備える
放射線治療装置。
【請求項9】
請求項6において、
前記電子銃電源は、カソードヒート電力を生成する機能を有し、
前記電子銃は、前記カソードヒート電力により前記荷電粒子を放出するカソードを備える
放射線治療装置。
【請求項10】
請求項6において、
前記電子銃電源は、グリッド電圧を生成する機能を有し、
前記電子銃は、
前記荷電粒子を放出するカソードと、
前記グリッド電圧を用いて前記荷電粒子を加速するグリッドとを備える
放射線治療装置。
【請求項11】
加速装置により生成される荷電粒子ビームが照射されることにより放射線を放射するターゲットに流れる電流を測定するステップと、
前記放射線の線量を測定するステップと、
前記電流と前記線量とに基づいて前記加速装置を制御するステップ
とを具備する放射線照射方法。
【請求項12】
請求項11において、
前記加速装置は、前記線量または一定時間あたりの線量を前記電流で除算した商に基づいて制御される
放射線照射方法。
【請求項13】
請求項12において、
前記加速装置は、前記商が一定になるようにフィードバック制御される
放射線照射方法。
【請求項14】
請求項13において、
前記加速装置は、
荷電粒子を放出する電子銃と、
高周波電力を生成する加速管電源と、
前記高周波電力を用いて前記荷電粒子を加速して前記荷電粒子ビームを生成する加速管とを備え、
前記加速管電源は、前記商が一定になるように制御される
放射線照射方法。
【請求項15】
請求項14において、
前記加速装置は、荷電粒子放出用電力を生成する電子銃電源を更に備え、
前記電子銃は、前記荷電粒子放出用電力を用いて前記荷電粒子を放出し、
前記電子銃電源は、前記荷電粒子が放出される量が一定になるように制御される
放射線照射方法。
【請求項16】
請求項13において、
前記加速装置は、
荷電粒子放出用電力を生成する電子銃電源と、
前記荷電粒子放出用電力を用いて荷電粒子を放出する電子銃と、
前記荷電粒子を加速して前記荷電粒子ビームを生成する加速管とを備え、
前記電子銃電源は、前記商が一定になるように制御される
放射線照射方法。
【請求項17】
請求項16において、
前記加速装置は、高周波電力を生成する加速管電源を更に備え、
前記加速管は、前記高周波電力を用いて前記荷電粒子を加速して前記荷電粒子ビームを生成し、
前記加速管電源は、前記高周波電力が一定になるように制御される
放射線照射方法。
【請求項18】
請求項16において、
前記電子銃電源は、カソードヒート電力を生成する機能を有し、
前記電子銃は、前記カソードヒート電力により前記荷電粒子を放出するカソードを備える
放射線照射方法。
【請求項19】
請求項16において、
前記電子銃電源は、グリッド電圧を生成する機能を有し、
前記電子銃は、
前記荷電粒子を放出するカソードと、
前記グリッド電圧を用いて前記荷電粒子を加速するグリッドとを備える
放射線照射方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−35863(P2010−35863A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−203155(P2008−203155)
【出願日】平成20年8月6日(2008.8.6)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】