説明

放射線画像撮影用格子ユニット及び放射線画像撮影システム、並びに格子体の製造方法

【課題】格子の中央部分をX線撮影に支障を来さないように冷却する。
【解決手段】第2の格子ユニット14は、X線透過性を有する材質からなる格子基板31を含む格子体23を備えており、格子基板31には、流体状のX線吸収性格子媒体22が流動することにより、X線位相コントラスト画像撮影用の格子として機能する複数の溝34aが設けられている。X線吸収性格子媒体22は、貯留タンク26に貯留されており、循環ポンプ27により供給路24を介して格子体23に供給され、回収路25を介して貯留タンク26に回収される。貯留タンク26内のX線吸収性格子媒体22は、冷却器28により冷却される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像の撮影に用いられる放射線画像撮影用格子ユニットと、これを用いた放射線画像撮影システムと、放射線画像撮影用格子ユニットを構成する格子体の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
X線は、物体に入射したときの相互作用により強度と位相とが変化し、位相の変化が強度の変化よりも高い相互作用を示すことが知られている。このX線の性質を利用し、被検体によるX線の位相変化(角度変化)に基づいて、X線吸収能が低い被検体から高コントラストの画像(以下、位相コントラスト画像と称する)を得るX線位相イメージングの研究が盛んに行われている。
【0003】
2枚の透過型の回折格子によるタルボ干渉効果を用いて、X線位相イメージングを行なうX線画像撮影システムが考案されている(例えば、特許文献1及び非特許文献1参照)。このX線画像撮影システムは、X線源から見て、被検体の背後に第1の格子を配置し、第1格子からタルボ干渉距離だけ下流に第2の格子を配置している。第2の格子の背後には、X線を検出して画像を生成するX線画像検出器(FPD:Flat Panel Detector)が配置されている。第1の格子及び第2の格子は、一方向に延伸されたX線吸収部及びX線透過部を、延伸方向に直交する配列方向に沿って交互に配列した縞状の一次元格子である。タルボ干渉距離とは、第1の格子を通過したX線が、タルボ干渉効果によって自己像(縞画像)を形成する距離である。
【0004】
上記X線画像撮影システムでは、第1の格子の自己像と第2の格子との重ね合わせ(強度変調)により生じる縞画像を、縞走査法により検出し、被検体による縞画像の変化から被検体の位相情報を取得する。縞走査法とは、第1の格子に対して第2の格子を、第1の格子の面にほぼ平行で、かつ第1の格子の格子方向(条帯方向)にほぼ垂直な方向に、格子ピッチを等分割した走査ピッチで並進移動させながら複数回の撮影を行い、X線画像検出器で得られる各画素値の変化から、被検体で屈折したX線の角度分布(位相シフトの微分像)を取得する方法であり、この角度分布に基づいて被検体の位相コントラスト画像を得る。この縞走査法は、レーザ光を利用した撮影装置においても用いられている(例えば、非特許文献2参照)。
【0005】
第1及び第2の格子は、X線吸収部の幅及びピッチが数μmという微細な構造を要する。また、第1及び第2の格子のX線吸収部は、高いX線吸収性が求められる。特に第2の格子は、縞画像を確実に強度変調させるため、第1の格子よりも高いX線吸収性を必要とする。そのため、第1及び第2の格子のX線吸収部は、原子量の重い金(Au)で形成され、第2の格子のX線吸収部は、X線の進行方向に対して比較的大きな厚みを有すること、いわゆるアスペクト比(X線を吸収する部分における厚みを幅で除算した値)が高いことが必要とされている。
【0006】
格子は、X線の照射により温度が上昇するが、その温度上昇及び温度分布はX線の照射量及び強度分布に影響を受けるため、主に格子の中央部が周辺部に比べて高温になる。格子の温度が上昇すると、X線吸収部及びX線透過部が熱膨張してピッチが変化することがある。また、X線吸収部(例えばAu)とX線透過部(例えばSi)との熱膨張率が異なる場合、格子の温度上昇により格子に歪みが生じてしまう。格子のピッチが変化し、または格子に歪みが生じた場合、位相コントラスト画像の画質が劣化するという問題がある。
【0007】
特許文献1には、格子の温度を温度センサにより測定し、測定結果に基づいてペルチェ素子等を用いて格子の温度を制御することが記載されている。 また、特許文献2には、格子をケース体と、ケース体内に収めた液体またはガスからなる格子媒体と、ケース体に取り付けられた超音波発生器とから構成し、ケース体内の格子媒体を超音波発生器により波打つように振動させて格子として機能させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−200360号公報
【特許文献2】特開2007−203060号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】C. David, et al., Applied Physics Letters, Vol.81, No.17, 2002年10月,3287頁
【非特許文献2】Hector Canabal, et al., Applied Optics, Vol.37, No.26, 1998年9月,6227頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1は、格子の中央部分にペルチェ素子等の冷却手段を取り付けると撮影に支障を来すため、冷却手段は格子の端部に取り付けることしかできない。したがって、特許文献1は、格子中央部分の冷却に対する効果が低いと考えられる。また、特許文献2の格子は、ケース体内で格子媒体が移動するため、格子が局所的に高温になるのを防止できるが、格子を冷却することはできない。
【0011】
本発明は、格子の中央部分をX線撮影に支障を来さないように冷却できるようにすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の放射線画像撮影用格子ユニットは、複数の溝からなる格子部が設けられた格子基板と、格子基板に接合されて溝のそれぞれを個別の流路とする封止板とを有する格子体と、溝内に格子基板とは放射線の吸収性が異なる流体状の格子媒体を流動させる流動手段と、格子体の外部で格子媒体を冷却する冷却手段とを備えている。
【0013】
格子基板には、格子部の一端側に、複数の溝内に格子媒体を分配する第1の流路が設けられ、格子部の他端側に、複数の溝から流れ出た格子媒体を集める第2の流路が設けられている。
【0014】
流動手段は、第1の流路に一端が接続された供給路と、第2の流路に一端が接続された回収路と、供給路及び回収路の他端が接続された貯留タンクと、貯留タンク内に貯留された格子媒体を供給路、格子体、回収路及び貯留タンクの順に循環させる循環ポンプとを備えている。
【0015】
格子体は、放射線透過性を有し、格子媒体は、格子体よりも高い放射線吸収性を有する構成としてもよい。また、溝を構成する隔壁を放射線吸収材によって構成し、格子媒体は、格子基板よりも高い放射線透過性を有する構成としてもよい。更に、複数の溝の内壁に、格子媒体の流動性を向上させる流動性改善膜を設けてもよい。
【0016】
本発明のX線画像撮影システムは、上記放射線画像撮影用格子ユニットにより構成された少なくとも1つの格子ユニットと、格子ユニットに向けて放射線を放射する放射線源と、格子ユニットを介して放射線を検出し画像データを生成する放射線画像検出器と、格子ユニットの流動手段及び冷却手段を制御する制御部と、放射線画像検出器により得られる画像データに基づいて位相コントラスト画像を生成する画像処理部とを備えている。
【0017】
格子体の温度を測定する温度センサを有し、制御部は、温度センサの測定結果に基づいて、格子ユニットの冷却手段を制御してもよい。
【0018】
格子ユニットとして、放射線源と放射線画像検出器との間に対向配置された第1の格子ユニット及び第2の格子ユニットを備えていてもよい。この場合、第1の格子ユニットまたは第2の格子ユニットの格子体の一方を他方に対して所定のピッチで複数の位置に移動させる走査手段を備え、画像処理部は、各位置で放射線画像検出器により得られた複数の画像データに基づき位相コントラスト画像を生成してもよい。
【0019】
放射線源と前記第1の格子ユニットとの間に配置され、前記放射線源から照射された放射線を部分的に遮蔽して多数の線光源とする第3の格子ユニットを有し、第3の格子ユニットに、上記放射線画像撮影用格子ユニットのいずれか1つを用いてもよい。
【0020】
本発明の格子体の製造方法は、放射線透過性を有する格子基板に複数の溝を形成する工程と、格子基板に封止板を接合して各溝を封止する工程とを含んでいる。
【0021】
別の格子体の製造方法は、格子基板に複数の凹部を形成する工程と、各凹部内に放射線吸収材を充填して複数の放射線吸収部を形成する工程と、各放射線吸部の間に溝を形成する工程と、格子基板に封止板を接合して各溝を封止する工程とを含んでいる。
【0022】
複数の溝の内壁に、格子媒体の流動性を向上させる流動性改善膜を形成する工程を含んでいてもよい。また、溝の形成時に、複数の溝内に格子媒体を分配する第1の流路と、複数の溝から流れ出た格子媒体を集める第2の流路とを形成してもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の放射線画像撮影用格子ユニットによれば、格子体内を流動する格子媒体を冷却することにより、格子体の中央部が極端に高温になるのを抑え、冷却することができる。これにより、格子体の熱膨張によって溝のピッチずれや格子体に歪みが生じるのを抑えることができる。また、本発明の放射線画像撮影システムによれば、熱膨張によるピッチずれや歪みが生じない格子ユニットを使用することができるので、高画質な位相コントラスト画像を撮影することができる。更に、本発明の格子体の製造方法によれば、格子媒体が流動可能な格子体を比較的簡単に、また精度よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明のX線画像撮影システムの構成を模式的に示す概略図である。
【図2】第1実施形態の第2の格子ユニットの構成を模式的に示す概略図である。
【図3】第1実施形態の格子体の構成を示す分解斜視図である。
【図4】第1実施形態の格子体の格子部の構造を示す断面図である。
【図5】溝内に流動性改善膜を設けた格子体の構造を示す断面図である。
【図6】第1実施形態の格子体の製造手順を示す断面図である。
【図7】第2実施形態の第2の格子ユニットの構成を模式的に示す概略図である。
【図8】第2実施形態の格子体の構成を示す分解斜視図である。
【図9】第2実施形態の格子体の製造手順を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
図1に示すように、X線画像撮影システム10は、X線照射方向であるz方向に沿って配置されたX線源11、線源格子ユニット12、第1の格子ユニット13、第2の格子ユニット14及びX線画像検出器15と、走査機構16、画像処理部17、コンソール18及びシステム制御部19を備えている。
【0026】
X線源11は、例えば、回転陽極型のX線管と、X線の照射野を制限するコリメータとを有し、被検体Hにコーンビーム状のX線を放射する。X線画像検出器15は、例えば、半導体回路を用いたフラットパネル検出器(FPD:Flat Panel Detector)であり、第2の格子ユニット14の背後に配置されている。X線画像検出器15には、X線画像検出器15により検出された画像データから位相コントラスト画像を生成する画像処理部17が接続されている。
【0027】
コンソール18は、位相コントラスト画像と吸収画像とのいずれの撮影を行うかの撮影種別の選択や、撮影開始指示の入力等を可能とする操作部や、撮影により得られた画像を表示する表示部を備える。システム制御部19は、コンソール18の操作部の入力信号に応じて、X線画像撮影システム10の各部を統括的に制御する。
【0028】
線源格子ユニット12、第1の格子ユニット13及び第2の格子ユニット14は、それぞれX線を吸収する格子を備えており、z方向においてX線源11に対向配置されている。線源格子ユニット12と第1の格子ユニット13との間には、被検体Hが配置可能な間隔が設けられている。また、第1の格子ユニット13と第2の格子ユニット14との距離は、最小のタルボ干渉距離以下とされている。すなわち、本実施形態のX線画像撮影システム10は、タルボ干渉効果を用いず、X線を投影することによって位相コントラスト画像を撮影する。
【0029】
走査機構16は、位相コントラスト画像の撮影時に、第2の格子ユニット14の格子ピッチを等分割(例えば、5分割)した走査ピッチで、格子ピッチ方向(x方向)に並進移動させる機構である。
【0030】
第2の格子ユニット14の構成を説明する。図2は、第2の格子ユニット14をX線画像検出器15側から見た正面図である。第2の格子ユニット14は、X線吸収性格子媒体(以下、吸収媒体と省略する)22、格子体23、供給路24、回収路25、貯留タンク26、循環ポンプ27、冷却器28及び温度センサ29を備えている。
【0031】
吸収媒体22は、X線吸収性を有する流体からなり、例えば常温で液体(例えば、融点が0°C以下)である。吸収媒体22としては、水銀(Hg)や、X線吸収性の微粒子が分散された液体(例えば、金コロイド粒子を水や有機溶剤に分散させた金コロイド溶液)が用いられる。
【0032】
図3に示すように、格子体23は、X線透過性を有する材質によって形成された格子基板31及び封止板32から構成されている。格子基板31の一方の面の凹部内には、格子部34、第1の集合流路である供給側集合流路35、及び第2の集合流路である回収側集合流路36が設けられている。格子部34は、z方向及びx方向と直交するy方向に延伸した溝34aが、x方向に所定のピッチで配設されてなる。各溝34aの一端には、供給側集合流路35が接続されており、他端には回収側集合流路36が接続されている。供給側集合流路35には、供給路24が接続されている。また、回収側集合流路36には、回収路25が接続されている。
【0033】
封止板32は、格子部34、供給側集合流路35、及び回収側集合流路36を覆うように格子基板31に接着剤等により接合される。封止板32は、格子基板31と同様に、シリコン等の平板状のX線透過性基板からなる。図4に示すように、封止板32は、格子部34の各溝34aの上部をそれぞれ封止し、溝34aのそれぞれを吸収媒体22の流路とする。
【0034】
格子基板31及び封止板32の材質には、X線吸収性が低くかつ強度を有し、加工し易いことが必要である。このような特性を満たす材質として、例えばシリコン(Si)が望ましいが、GaAs、Geまたは石英等を用いてもよい。
【0035】
格子部34は、供給路24から供給側集合流路35を介して溝34aに吸収媒体22が充填されることにより、吸収型格子として機能する。x方向に関する溝34aの幅は、2〜20μm程度であり、溝34aの配列ピッチは、幅の約2倍である。これに対して、X線画像検出器15のx方向及びy方向への画素サイズは、150μm程度である。また、溝34aのz方向の厚みは、X線源11から放射されるコーンビーム状のX線のケラレを考慮して、100〜200μm程度となっている。なお、図2、3には、溝34aを数本のみ示しているが、実際には、格子部34には多数の溝34aが形成されている。
【0036】
格子体23内を吸収媒体22が流れやすくするために、図5に示すように、溝34aの側面及び底面に金属(例えば、Au)等からなる流動性改善膜38を形成してもよい。流動性改善膜38は、例えば、蒸着等によって形成することができる。
【0037】
吸収媒体22は、貯留タンク26内に貯留されており、供給路24に設けられた循環ポンプ27によって貯留タンク26から汲み上げられて格子体23内を流動し、回収路25を介して再び貯留タンク26に貯留される。貯留タンク26は、例えば熱伝導性の高い金属等によって形成されている。貯留タンク26の外周には、貯留タンク26を介して、貯留タンク26内の吸収媒体22を冷却する冷却器28が配置されている。冷却器28としては、例えばペルチェ素子等が用いられる。
【0038】
格子体23には、X線画像撮影時に格子体23の温度を測定する温度センサ29が取り付けられている。温度センサ29により測定された格子体23の温度は、X線画像撮影システム10の全体を制御するシステム制御部19に入力される。システム制御部19は、温度センサ29から入力された格子体23の測定温度に基づいて冷却器28を制御し、熱膨張によって格子体23の溝34aの間隔が変化したり、あるいは格子体23に歪みが生じないように、格子体23の温度を調整する。
【0039】
次に、格子体23の製造方法について説明する。図6(A)に示すように、最初の工程では、格子基板31の一方の面に、一般的なフォトリソグラフィ技術を用いてエッチングマスク40が形成される。このエッチングマスク40は、y方向に延伸されかつx方向に沿って所定ピッチで配置された複数のライン状パターンと、上記供給側集合流路35及び回収側集合流路36の反転パターンとからなる。
【0040】
図6(B)に示すように、次の工程では、エッチングマスク40を利用して格子基板31がドライエッチングされ、複数の溝34a含む格子部34と、供給側集合流路35及び回収側集合流路36とが形成される。このドライエッチングには、アスペクト比の高い溝34aの形成が可能な深堀用のドライエッチングが用いられる。深堀用のドライエッチングには、例えば、エッチングと保護膜の成膜とを交互に繰り返して行うボッシュプロセス等が用いられる。
【0041】
図6(C)に示すように、次の工程では、格子基板31からエッチングマスク40が除去され、このエッチングマスク40が除去された面に、X線透過性を有する接着剤によって封止板32が接合され、格子部34、供給側集合流路35及び回収側集合流路36が封止される。なお、格子基板31と封止板32との接合には、直接接合等のその他の接合手法を用いてもよい。
【0042】
線源格子ユニット12及び第1の格子ユニット13は、第2の格子ユニット14と同様に、吸収媒体、格子体、供給路、回収路、貯留タンク、循環ポンプ、冷却機、温度センサ等から構成されている。線源格子ユニット12及び第1の格子ユニット13の格子体は、第2の格子ユニット14の格子体23と同様に、y方向に延伸されx方向に沿って交互に配列された複数の溝からなる格子部を備えており、この格子部内に吸収媒体を流すことによって吸収型格子を構成している。このように、線源格子ユニット12及び第1の格子ユニット13は、格子体の溝のx方向の幅及びピッチと、z方向の厚さ等が異なる以外は第2の格子ユニット14と同様の構成であるため、詳しい説明は省略する。また、線源格子ユニット12及び第1の格子ユニット13は、第2の格子ユニット14と同様に製造されるため、詳しい説明は省略する。
【0043】
次に、X線画像撮影システム10の作用について説明する。X線源11から放射されたX線は、線源格子ユニット12の格子体によって部分的に遮蔽されることにより、x方向に関する実効的な焦点サイズが縮小され、x方向に多数の線光源(分散光源)が形成される。線源格子ユニット12により形成された多数の線光源のX線は、被検体Hを通過することにより位相差が生じ、このX線が第1の格子ユニット13の格子体を通過することにより、被検体Hの屈折率と透過光路長とから決定される被検体Hの透過位相情報を反映した縞画像(第1の周期パターン像)が形成される。各線光源の縞画像は、第2の格子ユニット14に投影され、格子体23の位置で一致する(重なり合う)ので、X線強度を低下させずに、位相コントラスト画像の画質を向上させることができる。
【0044】
縞画像は、第2の格子ユニット14により強度変調される。強度変調された縞画像(第2の周期パターン像)は、例えば、縞走査法により検出される。縞走査法とは、第1の格子ユニット13に対し、第2の格子ユニット14を走査機構16によって、X線焦点を中心として格子面に沿った方向に格子ピッチを等分割(例えば、5分割)した走査ピッチで並進移動させながら、X線源11から被検体HにX線を照射して複数回の撮影を行なってX線画像検出器15により検出し、画像処理部17により、X線画像検出器15の各画素の画素データの位相のズレ量(被検体Hがある場合とない場合とでの位相のズレ量)から位相微分像(被検体で屈折したX線の角度分布に対応)を取得する方法である。
【0045】
画像処理部17は、位相微分像を上記の縞走査方向に沿って積分することにより、被検体Hの位相コントラスト画像を生成する。画像処理部17により生成された位相コントラスト画像は、コンソール18の表示部に表示される。なお、縞走査法を用いた位相コントラスト画像の詳しい生成方法については、特許第4445397号公報等を参照されたい。
【0046】
以上のように行なわれるX線撮影中、システム制御部19は、各格子ユニット12〜14の温度センサ29により格子体23の温度を測定し、その測定結果に基づいて循環ポンプ27及び冷却器28を制御し、吸収媒体22を冷却している。これにより、格子体23の中央部の温度上昇を抑えることができるので、格子基板31の熱膨張による溝34aのピッチずれや、格子体23の歪みの発生を抑えることができる。これにより、本実施形態の線源格子ユニット12、第1の格子ユニット13及び第2の格子ユニット14を用いたX線画像撮影システム10では、位相コントラスト画像の画質を向上させることができる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。なお、第1の実施形態と同じ構成については、同符号を用いて詳しい説明は省略する。図7において、第2実施形態に係る第2の格子ユニット50は、X線透過性格子媒体(以下、透過媒体と省略する)51、格子体52、供給路24、回収路25、貯留タンク26、循環ポンプ27、冷却器28及び温度センサ29を備えている。
【0048】
透過媒体51は、X線透過性を有する流体からなり、例えば常温で液体(例えば、融点が0°C以下)または気体である。透過媒体51としては、フッ素系の溶媒や、水、油等の液体、空気等の気体が用いられる。
【0049】
図8に示すように、格子体52は、X線透過性を有する材質によって形成された格子基板54及び封止板32から構成されている。格子基板54の一方の面の凹部内には、格子部55、第1の集合流路である供給側集合流路35、及び第2の集合流路である回収側集合流路36が設けられている。
【0050】
格子部55は、z方向及びx方向と直交するy方向に延伸されかつx方向に所定ピッチで配設された複数のX線吸収部56と、X線吸収部56の間に設けられた複数の溝57とからなる。X線吸収部56は、高いX線吸収性を有する材質からなり、例えば金、白金、銀、鉛等が用いられる。各溝57の一端は、供給側集合流路35に接続されており、他端は回収側集合流路36に接続されている。図9(E)に示すように、封止板32は、格子部55の各溝57の上部をそれぞれ封止し、溝57のそれぞれを透過媒体51の流路としている。
【0051】
次に、格子体52の製造方法について説明する。図9(A)に示すように、格子基板54は、X線透過性基板60と、X線透過性基板60に接合された支持基板61と、X線透過性基板60と支持基板61との間に設けられたシーズ層62とからなる。
【0052】
X線透過性基板60の材質には、第1実施形態の格子基板31と同様に、SiまたはGaAs、Ge、あるいは石英等が用いられる。支持基板61は、X線透過性基板60を補強するための基板であり、X線透過性基板60を支持可能な強度と、高いX線透過性とを有する材質により構成されている。支持基板61の材質には、例えば、ガラス、カーボン、アクリル、アルミ、チタン等が用いられる。なお、X線透過性基板60のみで十分な剛性が得られるのであれば、支持基板61は省略してもよい。
【0053】
シーズ層62は、例えば、AuまたはNi、もしくはAl、Ti、Cr、Cu、Ag、Ta、W、Pb、Pd、Pt等からなる金属膜、あるいはそれらの合金からなる金属膜から構成するのが好ましい。また、シーズ層62は、X線透過性基板60と支持基板61との一方に設けられていてもよいし、両方に設けられていてもよい。シーズ層62は、数μm程度の厚さであるため、Au等のX線吸収性の高い材質を用いた場合でもX線透過性に影響しない。
【0054】
図9(B)に示すように、次の工程では、第1実施形態と同様に、X線透過性基板60に複数の凹部64が形成される。この凹部64は、X線透過性基板60の一方の面に、一般的なフォトリソグラフィ技術を用いてエッチングマスク(図示せず)が形成され、このエッチングマスクを介してドライエッチングが施されることにより形成される。
【0055】
図9(C)に示すように、次の工程では、電解メッキにより凹部64内に金などのX線吸収材が充填され、X線吸収部56が形成される。この電解メッキでは、シーズ層62に電流端子が接続された状態で、格子基板54がメッキ液中に浸漬される。格子基板54と対向させた位置には、もう一方の電極(陽極)が用意され、この問に電流が流されてメッキ液中の金属イオンがパターン加工されたX線透過性基板60に析出されることにより、凹部64内に金が埋め込まれる。なお、凹部64に対するX線吸収材の充填は、電解メッキに限定されるものではなく、例えば、ペースト状、コロイド状のX線吸収材を充填してもよく、この場合にはシーズ層62は不要である。
【0056】
図9(D)に示すように、次の工程では、X線吸収部56と、上記供給側集合流路35及び回収側集合流路36の反転パターンからなるエッチングマスク(図示せず)とを介してX線透過性基板60にドライエッチングが施される。これにより、X線吸収部56の間に複数の溝57が設けられた格子部55と、供給側集合流路35及び回収側集合流路36が形成される。同図(E)に示すように、次の工程では、格子基板54に封止板32が接合され、各溝57が封止される。
【0057】
本実施形態の第2の格子ユニット50は、供給路24から供給側集合流路35を介して溝57に透過媒体51が充填されることにより、格子体52により吸収型格子が構成される。透過媒体51は、第1実施形態の吸収媒体22と同様に、循環ポンプ27により循環され、貯留タンク26内に貯留されているときに冷却器28によって冷却されるので、格子体52の温度が極端に上昇するのを抑えることができる。これにより、格子体52の熱膨張によるX線吸収部56のピッチずれや、格子体52の歪みの発生を抑えることができる。
【0058】
なお、上記各実施形態では、走査機構によって第2の格子ユニットを並進移動させる構成としたが、第2の格子ユニットを移動させてもよい。また、格子ユニット全体ではなく、格子体のみを移動させてもよい。この場合には、供給路及び回収路をゴム等のフレキシブル性を有する材質で構成するとよい。
【0059】
また、上記各実施形態では、線源格子ユニット12、第1の格子ユニット13及び第2の格子ユニット14に本発明の格子ユニットを用いたが、X線源11との距離が近く、最も高温になりやすい線源格子ユニット12にのみ本発明の格子ユニットを用いてもよい。
【0060】
また、上記実施形態では、一方向に延伸されかつ延伸方向に直交する配列方向に沿って交互に配置されたX線吸収部及びX線透過部を有する縞状の一次元格子を例に説明したが、本発明は、X線吸収部及びX線透過部が2方向に配列された二次元格子にも適用が可能である。さらに、上記実施形態では、被検体HをX線源と第1の格子ユニットとの間に配置しているが、被検体Hを第1の格子ユニットと第2の格子ユニットとの間に配置した場合にも同様に位相コントラスト画像の生成が可能である。また、線源格子ユニットを備えたX線画像撮影システムについて説明したが、本発明は、線源格子ユニットを使用しないX線画像撮影システムにも適用可能である。また、上記各実施形態は、矛盾しない範囲で相互に組み合わせることが可能である。
【0061】
上記実施形態は、第1及び第2の格子ユニットを、そのX線透過部を通過したX線を線形的に投影するように構成しているが、本発明はこの構成に限定されるものではなく、第1及び第2の格子ユニットでX線を回折することにより、いわゆるタルボ干渉効果が生じる構成(国際公開WO2004/058070号公報等に記載の構成)としてもよい。この場合には、第1及び第2の格子ユニット間の距離をタルボ干渉距離に設定する必要がある。また、第1の格子ユニットの種類を、吸収型格子ではなく、比較的アスペクト比が低い位相型格子にすることも可能である。
【0062】
また、上記実施形態では、第2の格子ユニットにより強度変調された縞画像を縞走査法によって検出して位相コントラスト画像を生成しているが、1回の撮影によって位相コントラスト画像を生成するX線画像撮影システムも知られている。例えば、国際公開WO2010/050483号公報に記載されているX線画像撮影システムでは、第1及び第2の格子ユニットにより生成されたモアレをX線画像検出器により検出し、この検出されたモアレの強度分布をフーリエ変換することによって空間周波数スペクトルを取得し、この空間周波数スペクトルからキャリア周波数に対応したスペクトルを分離して逆フーリエ変換を行なうことにより微分位相像を得ている。このようなX線画像撮影システムの第1及び第2の格子ユニットの少なくとも一方に、本発明の格子ユニットを用いてもよい。
【0063】
また、1回の撮影により位相コントラスト画像を生成するX線画像撮影システムには、強度変調手段として、第2の格子ユニットの代わりに、X線を電荷に変換する変換層と、変換層により生成された電荷を収集する電荷収集電極とを備えた直接変換型のX線画像検出器を用いたものがある。このX線画像撮影システムは、例えば、各画素の電荷収集電極が、第1の格子ユニットで形成された縞画像の周期パターンとほぼ一致する周期で配列された線状電極を互いに電気的に接続してなる線状電極群が、互いに位相が異なるように配置されたものであり、各線状電極群を個別に制御して電荷を収集することにより、1度の撮影により複数の縞画像を取得し、この複数の縞画像に基づいて位相コントラスト画像を生成している(特開2009−133823号公報等に記載の構成)。このようなX線画像撮影システムの第1の格子ユニットに、本発明の格子ユニットを用いてもよい。
【0064】
また、1回の撮影により位相コントラスト画像を生成する別のX線画像撮影システムとして、第1及び第2の格子ユニットを、X線吸収部及びX線透過部の延伸方向が相対的に所定の角度だけ傾くように配置し、この傾きにより上記延伸方向に生じるモアレ周期の区間を分割して撮影することにより、第1及び第2の格子ユニットの相対位置が異なる複数の縞画像を取得し、これらの複数の縞画像から位相コントラスト画像を生成することも可能である。このようなX線画像撮影システムの第1及び第2の格子ユニットの少なくとも一方に、本発明の格子ユニットを用いてもよい。
【0065】
また、光読取型のX線画像検出器を用いることにより、第2の格子ユニットを省略したX線画像撮影システムが考えられる。このシステムでは、第1の格子ユニットによって形成された周期パターン像を透過する第1の電極層と、第1の電極層を透過した周期パターン像の照射を受けて電荷を発生する光導電層と、光導電層において発生した電荷を蓄積する電荷蓄積層と、読取光を透過する線状電極が多数配列された第2の電極層とがこの順に積層され、読取光によって走査されることによって各線状電極に対応する画素毎の画像信号が読み出される光読取型のX線画像検出器を強度変調手段として用いており、電荷蓄積層を線状電極の配列ピッチよりも細かいピッチで格子状に形成することにより、電荷蓄積層を第2の格子ユニットとして機能させることができる。このようなX線画像撮影システムの第1の格子ユニットに、本発明の格子ユニットを用いてもよい。
【0066】
以上で説明した実施形態は、医療診断用の放射線画像撮影システムのほか、工業用や、非破壊検査等のその他の放射線撮影システムに適用することが可能である。また、本発明は、X線撮影において散乱線を除去する散乱線除去用格子ユニットにも適用可能である。更に、本発明は、放射線として、X線以外にガンマ線等を用いることも可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 X線画像撮影システム
11 X線源
12 線源格子ユニット
13 第1の格子ユニット
14、50 第2の格子ユニット
15 X線画像検出器
18 走査機構
22 X線吸収性格子媒体
23、52 格子体
24 供給路
25 回収路
26 貯留タンク
27 循環ポンプ
28 冷却部
29 温度センサ
31、54 格子基板
32 封止板
34、55 格子部
34a、57 溝
35 供給側集合流路
36 回収側集合流路
38 流動性改善膜
20 グリッド基板
21 支持基板
24 X線吸収部
25 X線透過部
27 穴
29 絶縁層
32 凹部
51 X線透過性格子媒体
56 X線吸収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の溝からなる格子部が設けられた格子基板と、前記格子基板に接合されて前記溝のそれぞれを個別の流路とする封止板とを有する格子体と、
前記溝内に、前記格子基板とは放射線の吸収性が異なる流体状の格子媒体を流動させる流動手段と、
前記格子体の外部で前記格子媒体を冷却する冷却手段と、
を備えたことを特徴とする放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項2】
前記格子基板には、前記格子部の一端側に、前記複数の溝内に前記格子媒体を分配する第1の流路が設けられ、前記格子部の他端側に、前記複数の溝から流れ出た前記格子媒体を集める第2の流路が設けられていることを特徴とする請求項1記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項3】
前記流動手段は、前記第1の流路に一端が接続された供給路と、前記第2の流路に一端が接続された回収路と、前記供給路及び前記回収路の他端が接続された貯留タンクと、前記貯留タンク内に貯留された前記格子媒体を前記供給路、前記格子体、前記回収路及び前記貯留タンクの順に循環させる循環ポンプと、を含むことを特徴とする請求項2記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項4】
前記格子体は、放射線透過性を有し、前記格子媒体は、前記格子体よりも高い放射線吸収性を有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項5】
前記溝を構成する隔壁を放射線吸収材によって構成し、前記格子媒体は、前記格子基板よりも高い放射線透過性を有することを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項6】
前記複数の溝の内壁に、前記格子媒体の流動性を向上させる流動性改善膜を設けたことを特徴とする請求項1〜5いずれか記載の放射線画像撮影用格子ユニット。
【請求項7】
請求項1から6いずれか1項に記載の放射線画像撮影用格子ユニットにより構成された少なくとも1つの格子ユニットと、
前記格子ユニットに向けて放射線を放射する放射線源と、
前記格子ユニットを介して放射線を検出し画像データを生成する放射線画像検出器と、
前記格子ユニットの前記流動手段及び前記冷却手段を制御する制御部と、
前記放射線画像検出器により得られる画像データに基づいて位相コントラスト画像を生成する画像処理部と、
を備えることを特徴とする放射線画像撮影システム。
【請求項8】
前記格子体の温度を測定する温度センサを有し、前記制御部は、前記温度センサの測定結果に基づいて、前記格子ユニットの前記冷却手段を制御することを特徴とする請求項7記載の放射線画像撮影システム。
【請求項9】
前記格子ユニットとして、前記放射線源と前記放射線画像検出器との間に対向配置された第1の格子ユニット及び第2の格子ユニットを備えることを特徴とする請求項7または8記載の放射線画像撮影システム。
【請求項10】
前記第1の格子ユニットまたは前記第2の格子ユニットの前記格子体の一方を他方に対して所定のピッチで複数の位置に移動させる走査手段を備え、
前記画像処理部は、前記各位置で前記放射線画像検出器により得られた複数の画像データに基づき位相コントラスト画像を生成することを特徴とする請求項9記載の放射線画像撮影システム。
【請求項11】
前記放射線源と前記第1の格子ユニットとの間に配置され、前記放射線源から照射された放射線を部分的に遮蔽して多数の線光源とする第3の格子ユニットを有し、前記第3の格子ユニットに、請求項1〜6いずれか記載の放射線画像撮影用格子ユニットを用いたことを特徴とする請求項7〜10いずれか記載の放射線画像撮影システム。
【請求項12】
放射線透過性を有する格子基板に複数の溝を形成する工程と、
前記格子基板に封止板を接合し、前記各溝を封止する工程とを、
を含むことを特徴とする格子体の製造方法。
【請求項13】
格子基板に複数の凹部を形成する工程と、
前記各凹部内に放射線吸収材を充填して複数の放射線吸収部を形成する工程と、
前記各放射線吸部の間に溝を形成する工程と、
前記格子基板に封止板を接合し、前記各溝を封止する工程とを、
を含むことを特徴とする格子体の製造方法。
【請求項14】
前記複数の溝の内壁に、前記格子媒体の流動性を向上させる流動性改善膜を形成する工程を含むことを特徴とする請求項12または13記載の格子体の製造方法。
【請求項15】
前記溝の形成時に、前記複数の溝内に前記格子媒体を分配する第1の流路と、前記複数の溝から流れ出た前記格子媒体を集める第2の流路とを形成することを特徴とする請求項12〜14いずれか記載の格子体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−149982(P2012−149982A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8590(P2011−8590)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】