説明

放射線遮蔽シート

【課題】熱放射性に優れ、電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽する用途にも応用可能な放射線遮蔽シートを提供すること。
【解決手段】放射線遮蔽シート1は、ウレタン系またはエポキシ系のエラストマ等から構成される基材2A中に、ステンレス,タングステン等の遮蔽材料からなるフィラー2Bを充填してなるシート本体2を備えている。また、シート本体2の片面には、熱放射塗料等を塗布することによって熱放射層5が形成され、シート本体2の他面には、熱伝導接着剤層7が形成されている。ICチップ等の電子部品に熱伝導接着剤層7を介して積層すれば、その電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽することができる。また、そのようにして電子部品に放射線遮蔽シート1を積層した場合、大気側に熱放射層5が配設されるので、その電子部品から伝達された熱を大気中に良好に放射することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線等の放射線を遮蔽可能な放射線遮蔽シートに関し、詳しくは、電子部品に積層することによってその電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽する用途にも応用可能な放射線遮蔽シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉛やタングステン等の高比重の金属はX線等の放射線を遮蔽する遮蔽材料として使用されている。また、この種の遮蔽材料を樹脂と混練してシート状に成形することで、放射線を遮蔽可能な放射線遮蔽シートとすることも提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許4259994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、ICチップ内の構造をX線で調べる違法行為が頻発しており、ICチップ等の電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽する要請も強まっている。ところが、この種の放射線遮蔽シートは熱放射性が十分でなく、ICチップ等の電子部品に積層して利用した場合に、その電子部品が発生する熱を十分に逃がすことができない可能性がある。そこで、本発明は、熱放射性に優れ、電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽する用途にも応用可能な放射線遮蔽シートを提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達するためになされた本発明は、ゴムまたは樹脂からなる基材中に遮蔽材料が充填された放射線遮蔽シートであって、当該放射線遮蔽シートの片面に、熱放射層が形成されたことを特徴としている。
【0006】
このように構成された本発明の放射線遮蔽シートは、ゴムまたは樹脂からなる基材中に遮蔽材料が充填されているので、X線を遮蔽することができる。また、その放射線遮蔽シートの片面には、熱放射層が形成されている。このため、その放射線遮蔽シートに伝達された熱を良好に放射することができ、電子部品に積層して利用する場合でも、上記熱放射層を当該電子部品とは反対側(例えば大気側)に配設して積層すれば、その電子部品から伝達された熱を大気等に良好に放射することができる。
【0007】
従って、本発明の放射線遮蔽シートは、電子部品の過熱を良好に抑制することができ、電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽する用途にも良好に応用することができる。更に、電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽するためには、当該電子部品が実装されたプリント配線基板全体をタングステン等からなるケースで覆ってしまうことも考えられるが、本発明のような放射線遮蔽シートを利用した場合、プリント配線基板が電子機器等の製品に搭載された後からでも、その放射線遮蔽シートを電子部品等に積層することによって対応が可能となる。
【0008】
なお、上記遮蔽材料は、上記遮蔽材料が充填された上記基材の密度が3.5g/cm3 以上となる配合量で充填されていてもよい。本願出願人は、各種実験の結果、上記遮蔽材料が充填された上記基材の密度が3.5g/cm3 以上となる配合量で上記遮蔽材料が充填されていると、それ以上遮蔽材料を充填しても放射線に対する遮蔽性がそれ程向上しないことを突き止めた。従って、このように、上記遮蔽材料が充填された上記基材の密度が3.5g/cm3 以上となる配合量で上記遮蔽材料が充填されていれば、良好に放射線を遮蔽することができる。
【0009】
また、上記基材は、ウレタン系またはエポキシ系のエラストマで、上記遮蔽材料は、ステンレスまたはタングステンのフィラーであってもよい。鉛なども放射線を遮蔽することが知られているが、環境問題等を考えると、鉛よりもステンレスやタングステンを利用するのが好ましい。また、このステンレスやタングステンのフィラーは、ウレタン系またはエポキシ系のエラストマに良好に充填できることが分かった。
【0010】
そこで、このように、上記基材をウレタン系またはエポキシ系のエラストマとし、上記遮蔽材料をステンレスまたはタングステンのフィラーとした場合、環境問題が生じ難い。また、この場合、非常に高価なステンレスやタングステンをフィラーとして基材中に分散させることでその使用量を節約することができ、放射線遮蔽シートの製造コストも低減することができる。また、この場合、厚さ200μm以下のシート状に加工することも容易で、電子部品等に一層良好に利用することができる。
【0011】
また、上記熱放射層が形成された側と反対側の面に、熱伝導接着剤層が形成されてもよい。この場合、その熱伝導接着剤層を介して自動実装機用のキャリアテープ等に貼着してテーピング化することにより、リフロー半田付けによってIC基板と確実に接着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明が適用された放射線遮蔽シートの構成を模式的に表す断面図である。
【図2】そのシートのシート本体製造用コータの構成を模式的に表す説明図である。
【図3】上記シート本体の配合とX線透過率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を図面と共に説明する。図1は、本発明が適用された放射線遮蔽シート1の構成を表す模式的に表す断面図である。図1に示すように、放射線遮蔽シート1は、ウレタン系またはエポキシ系のエラストマ等から構成される基材2A中に、ステンレス,タングステン等の遮蔽材料からなるフィラー2Bを充填してなるシート本体2を備えている。また、シート本体2の片面には、熱放射塗料等を塗布することによって熱放射層5が形成され、シート本体2の他面には、熱伝導接着剤層7が形成されている。
【0014】
なお、熱放射塗料としては、例えば、オキツモ製「CT−100W」(商品名)等を0.005mm程度にコーティングして使用することができ、熱伝導接着剤層7としては、例えばアクリル系の接着剤にアルミナ等の熱伝導フィラーを充填したものを0.05mm程度にコーティングして使用することができる。また、本実施の形態の放射線遮蔽シート1は、厚さ200μm以下で、かつ、ICチップ等の電子部品にそのまま搭載可能な矩形のシート状に切断されている。更に、熱伝導接着剤層7の表面(シート本体2と反対側の面)には、剥離紙を貼着しておいてもよく、その熱伝導接着剤層7を介して自動実装機用のキャリアテープ等に直接貼着されてもよい。
【0015】
次に、このような放射線遮蔽シート1の製造方法について説明する。図2は、シート本体2を製造するためのコータ50の構成を模式的に表す説明図である。ホッパ51には一対のローラ52,52が対向配置され、そのホッパ51には、前述の基材2Aとフィラー2Bとをハイブリッドミキサ等によって攪拌・脱泡を行って混練した材料20が挿入される。また、一方のローラ52の表面にはドラム53に巻回されたセパレータ91がローラ54を介して供給され、他方のローラ52の表面にはドラム55に巻回されたセパレータ92がローラ56を介して供給される。このため、材料20は、セパレータ91,92に挟まれた状態でローラ52,52の間に挿入され、シート状に成形される。
【0016】
シート状に成形された材料20は、オーブン57を通過することによって乾燥され、こうして得られたシート本体2は一対のローラ58,58によって更に搬送されてドラム59に巻き取られる。こうしてドラム59に巻き取られたシート本体2は、ICチップ等の電子部品にそのまま搭載可能な矩形のシート状に切断された後、前述の熱放射塗料等を塗布することで熱放射層5を形成されると共に熱伝導接着剤層7を形成されて、放射線遮蔽シート1とされる。
【0017】
次に、材料20の配合を種々に変更して、得られたシート本体2のX線透過率の変化を調べた。各配合を表1に示す。なお、表1におけるウレタンとしては、パンデックス社製の「GC−911A」(商品名)を主剤として、「GC−911B−30」(商品名)を架橋剤として、それぞれ使用した。また、エポキシとしては、ペルノックス社製「ME−113」(商品名)を主剤として、「XH−1859−2」(商品名)を架橋剤として、それぞれ使用した。フィラー2Bとしては、平均粒径22〜25μmのステンレスまたは平均粒径3.15μmのタングステンを使用した。
【0018】
また、X線透過率の測定は、0.1mmの厚さに成形したシート本体2に対して、堀場製作所製「XGT−1000WR」(商品名)を用い、エネルギ分散型蛍光X線分析法にて行った。また、測定条件は、X線管として50kV/1mAのRhターゲットを使用し、銅ブロック全面にシート本体2を配置したときの銅の検出強度を比較してX線透過率を算出した。更に、比較例として、日本タングステン製のタングステンシートのX線透過率も測定した。
【0019】
【表1】

表1の測定結果を、シート本体2の密度を横軸にして表したものが図3である。図3に一点鎖線で示すように、フィラー2Bがステンレスの場合は、基材2Aに関わらず、シート本体2の密度が2.5g/cm3 以上となる配合量で充填されるとX線透過率は1%未満となり、それ以上フィラー2Bを充填しても放射線に対する遮蔽性がそれ程向上しないことが分かった。また、図3に点線で示すように、フィラー2Bがタングステンの場合は、基材2Aに関わらず、シート本体2の密度が3.5g/cm3 以上となる配合量で充填されるとX線透過率は1%未満となり、それ以上フィラー2Bを充填しても放射線に対する遮蔽性がそれ程向上しないことが分かった。
【0020】
このため、フィラー2Bがステンレスの場合は上記密度が2.5g/cm3 以上となる配合量で、上記フィラー2Bがタングステンの場合は上記密度が3.5g/cm3 以上となる配合量で充填されていれば、良好に放射線を遮蔽することができる。更に、フィラーとしては、上記以外にも種々の高比重金属が考えられるが、上記密度が3.5g/cm3 以上となる配合量で充填されていれば、良好に放射線を遮蔽することができるものと推定される。但し、ステンレスまたはタングステンをフィラー2Bとして使用した場合、鉛を使用した場合のような環境問題も生じ難い。しかも、非常に高価なステンレスやタングステンをフィラー2Bとして基材2A中に分散させることで、比較例に比べてその使用量を節約することができ、放射線遮蔽シート1の製造コストも低減することができる。
【0021】
一方、電子部品への積層を想定した場合、絶縁性を確保するためにも、軽量化するためにも、基材2Aに更に熱伝導性フィラーを充填して電子部品の過熱を一層良好に抑制するためにも、フィラー2Bの配合量は少ない方が好ましい。このため、上記密度の上限値は、例えば4.5g/cm3 、好ましくは4.0g/cm3 程度に設定するのが望ましいと推定される。
【0022】
このように放射線遮蔽シート1は、上記のように良好にX線を遮蔽することができる。このため、ICチップ等の電子部品に熱伝導接着剤層7を介して積層すれば、その電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽することにより、内部構造をX線で調べるなどの違法行為を抑制することができる。また、そのようにして電子部品に放射線遮蔽シート1を積層した場合、大気側に熱放射層5が配設されるので、その電子部品から伝達された熱を大気中に良好に放射することができる。従って、電子部品の過熱も良好に抑制することができる。更に、電子部品に向けて照射されたX線を遮蔽するためには、当該電子部品が実装されたプリント配線基板全体をタングステン等からなるケースで覆ってしまうことも考えられるが、このような放射線遮蔽シート1を利用した場合、プリント配線基板が電子機器等の製品に搭載された後からでも、その放射線遮蔽シート1を電子部品等に積層することによって対応が可能となる。
【0023】
しかも、放射線遮蔽シート1は厚さ200μm以下のシート状に加工することも容易で、電子部品等に一層良好に利用することができる。更に、比較例のタングステンシートに比べてフレキシブルなため加工性,作業性に優れており、上記のように熱伝導接着剤層7を設けたことによりリフロー半田付け工程にも対応可能である。
【0024】
なお、本発明は上記実施の形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、基材としては、ウレタン樹脂,エポキシ樹脂の他、アクリル樹脂,シリコーンゴム,フッ素樹脂等を使用することもできる。
【符号の説明】
【0025】
1…放射線遮蔽シート 2…シート本体 2A…基材
2B…フィラー 5…熱放射層 7…熱伝導接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムまたは樹脂からなる基材中に遮蔽材料が充填された放射線遮蔽シートであって、
当該放射線遮蔽シートの片面に、熱放射層が形成されたことを特徴とする放射線遮蔽シート。
【請求項2】
上記遮蔽材料は、上記遮蔽材料が充填された上記基材の密度が3.5g/cm3 以上となる配合量で充填されたことを特徴とする請求項1記載の放射線遮蔽シート。
【請求項3】
上記基材は、ウレタン系またはエポキシ系のエラストマで、
上記遮蔽材料は、ステンレスまたはタングステンのフィラーであることを特徴とする請求項1または2記載の放射線遮蔽シート。
【請求項4】
上記熱放射層が形成された側と反対側の面に、熱伝導接着剤層が形成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の放射線遮蔽シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−99791(P2011−99791A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255575(P2009−255575)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】