説明

放射能の計測方法

【課題】実際の校正用放射線源を不要にする。
【解決手段】測定対象物と放射線検出器の仮想モデルを仮想空間内に実際の位置関係と同じ位置関係で配置する仮想モデル化工程21と、測定対象物の仮想モデルから放出される仮想放射線の発生数と検出器の仮想モデルへの仮想放射線の入射数とを関係付けて換算係数を求める工程であって、仮想計数算出工程22と換算係数算出工程23を有する換算係数設定工程と、測定対象物から放出された放射線の検出器への入射を実際に計数して計数率を求める実際計数率算出工程24と、計数率と換算係数より測定対象物の放射能を求める放射能算出工程25を有している。検出器を複数のセルの集合とすると共に測定対象物をセルに対向する部位の集合として概念し、セルの各々について計数率を求めて測定対象物の部位毎に放射能を求めた後、測定対象物全体の放射能を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射能の計測方法に関する。更に詳述すると、本発明は、実際の校正用放射線源を用いることなく換算係数を求めて放射能を計測する放射能の計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原子力施設の解体廃棄物等の測定対象物の放射能濃度や放射能表面密度を求めるには、先ず測定対象物の放射能を求める必要がある。従来の放射能の計測方法では、放射線検出器の計数から求めた計数率より放射能を算出するための換算係数を、放射能が既知である校正用放射線源を別に用意し実測して求めた換算係数との比較によって求めている。
【0003】
また、測定対象物の放射能表面密度を測定するには先ず測定対象物の表面の放射能を計測する必要があるが、表面の放射能を計測するにはγ線よりも透過性の弱いβ線を使用するのが一般的である。即ち、β線よりも透過性の強いγ線を計測の対象とした場合には、計測したγ線が測定対象物の表面から放射されたものであるのか内部から放射されたものであるのかの判別が困難であり、測定対象物の表面の放射能の測定には不適である。このため、JIS(日本工業規格)Z 4329「放射性表面汚染サーベイメータ」に規定されるサーベイメータと呼ばれる携帯式の放射線検出器又はJIS Z 4337「据置型β線用物品表面汚染モニタ」に規定される物品搬出モニタを用いてβ線を測定対象とした測定対象物の表面の放射能の計測を行っている。
【0004】
【非特許文献1】小川岩雄、基礎原子力講座2「放射線」、株式会社コロナ社、1976年11月15日、10版、242−252頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の放射能表面密度を求めるための表面放射能の測定方法では、サーベイメータを使用してβ線を計測することで表面の放射能を計測しているので、測定対象物が例えば金属細管等の場合には、細管内にサーベイメータを挿入することが出来ず、細管内周面の放射能を測定することは困難である。
【0006】
また、β線よりも透過性の強いγ線を計測の対象とした放射能の測定方法では、放射能を算出するための換算係数を、校正用放射線源を使用して実測して求めた換算係数との比較によって求めているので、測定対象物の放射能を高精度に求めるためには、測定対象物の形状や大きさに応じて最適の校正用放射線源を作成する必要があり、形状や大きさがそれぞれ異なる測定対象物の放射能計測には不向きである。例えば原子力施設の解体廃棄物等の放射能を計測する場合には、様々な形状や大きさの廃棄物が混在することから廃棄物毎に最適な校正用放射線源をそれぞれ作成するのは現実には困難であり、多量に発生する解体廃棄物の放射能計測には適用し難い。
【0007】
本発明は、現実の校正用放射線源を必要としない放射能の計測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明の放射能の計測方法は、測定対象物と放射線検出器の仮想3次元モデルを仮想3次元空間内に実際の幾何学的位置関係と同じ位置関係で配置する仮想モデル化工程と、測定対象物の仮想3次元モデルから放出される仮想放射線の発生数と放射線検出器の仮想3次元モデルへの仮想放射線の入射数とを関係付けて換算係数を求める換算係数設定工程と、測定対象物から放出された放射線の放射線検出器への入射を実際に計数して計数率を求める実際計数率算出工程と、計数率と換算係数より測定対象物の放射能を求める放射能算出工程を有するようにしている。
【0009】
ここで、放射線と物質の相互作用はある確率で発生するものであり、この現象を擬似的に再現することで実際の校正用放射線源を使用した実測を行わなくても換算係数を求めることができる。即ち、測定対象物と放射線検出器の3次元的な形状や位置関係を仮想的に再現し、これに基づいて測定対象物の仮想3次元モデルから放出される仮想放射線の発生数と放射線検出器の仮想3次元モデルへの仮想放射線の入射数とを関係付けることで換算係数を求めることが出来る。そして、求めた換算係数と実際の放射線検出器による計数より測定対象物の実際の放射能が算出される。
【0010】
この放射能の計測方法の場合、換算係数設定工程は、モンテカルロ計算手法を利用して測定対象物の仮想3次元モデルからランダムに仮想放射線を発生させると共に放射線検出器の仮想3次元モデルへの仮想放射線の入射を計数して仮想計数とする仮想計数算出工程と、仮想放射線の発生数と仮想計数より換算係数を求める換算係数算出工程を有することが好ましい。
【0011】
モンテカルロ計算手法を利用することで、測定対象物と放射線検出器の3次元的な形状や位置関係を仮想的に再現し、測定対象物の仮想3次元モデルからランダムに発生させた仮想放射線が放射線検出器の仮想3次元モデルに入射する様子をシミュレーションすることができる。この場合、測定対象物の仮想3次元モデルからの仮想放射線の発生率が当該仮想3次元モデルの放射能に相当するので、仮想放射線の発生数と放射線検出器の仮想3次元モデルにおける計数より換算係数を求めることが出来る。そして、求めた換算係数と実際の放射線検出器による計数より測定対象物の実際の放射能が算出される。
【0012】
また、本発明の放射能の計測方法は、換算係数設定工程を、測定対象物と放射線検出器との間に存在する媒質の厚さ、当該媒質の減衰係数、当該媒質のビルドアップ係数、及び測定対象物と放射線検出器との間の距離に基づいて近似的に算出した媒質を通過する前後の放射線の数の相関関係より換算係数を求めるものにすることも出来る。
【0013】
例えば放射線の遮蔽を検討する場合には点減衰核コードを用いて遮へい計算を行う。この点減衰核コードでは、ある媒質を通過した後の放射線の数Iを、当該媒質通過前の放射線の数I、当該媒質の厚さd、当該媒質の減衰係数μ、当該媒質のビルドアップ係数B、放射線源と評価点との距離rの関係式である数式1より近似的に求めている。
【0014】
〈数1〉
I=(1/(4πr))IBe−μd
即ち、媒質の減衰係数μ、媒質のビルドアップ係数Bは媒質の種類に応じて定まるものであり、また、厚さdは測定対象物の形態や放射能汚染の位置等に応じて定まるものであり、放射線源と評価点との距離rがわかっていれば上述の関係式からIとIの関係を近似的に導くとこができ、このIとIの関係から換算係数を求めることができる。即ち、Iが測定対象物の仮想3次元モデルから放出される仮想放射線の発生数に対応し、Iが放射線検出器の仮想3次元モデルへの仮想放射線の入射数に対応し、I/Iが換算係数となる。そして、求めた換算係数と実際の放射線検出器による計数より測定対象物の実際の放射能が算出される。
【0015】
また、測定対象の放射能濃度や表面密度が均一であることが明らかな場合には1つのセルから成る放射線検出器による検出で十分であるが、放射能濃度や放射能表面密度が均一ではなく各所に偏在している場合、均一分布を仮定して求めた換算係数では誤差が大きくなるため、偏在状況(偏在の分布)を考慮して換算係数を求めることが好ましい。特に測定対象物の放射能レベルが低い場合等には、放射線検出器を測定対象物に近づけて測定を行う必要があり、この様な場合には放射能の偏在状況が換算係数の値に大きく影響する。偏在の分布を知るためには放射線検出器を小さい複数の検出器(セル)の集合体とする、即ち放射線検出器の1つ1つをセルとして当該セルを集合させて1つの大きな放射線検出器とすることが有効である。そして、測定対象物を放射線検出器のセルに対応した部位に分けて考え、部位毎にセルの各々について換算係数を求めることで、この換算係数が偏在の分布を考慮したものとなる。この様にして求めた換算係数によって測定対象物の部位毎の放射能を求め、各部位の放射能の総和によって測定対象物全体の放射能を求める。また、多数のセルによって放射線をたくさん検出する部位を特定し、各セルの計数情報から特定対象物の部位別に放射能濃度等を推定することが可能になる。
【0016】
そこで、本発明の放射能の計測方法は、放射線検出器を複数のセルの集合とすると共に測定対象物をセルに対向する部位の集合として概念し、仮想モデル化工程では放射線検出器を複数のセルの集合体として仮想3次元モデル化すると共に測定対象物を部位の集合体として仮想3次元モデル化し、測定対象物の仮想3次元モデルの部位毎に換算係数設定工程を行って当該部位毎にセルの各々について換算係数を求めると共に、放射線検出器のセル毎に実際計数率算出工程を行ってセルの各々について計数率を求め、放射能算出工程を行って測定対象物の部位毎に放射能を求めた後、各部位の放射能より測定対象物全体の放射能を求めるようにしている。
【0017】
この場合、セル毎の仮想計数を求めることによって、放射能が偏在していても高精度な評価が可能となる。
【0018】
なお、以下の放射能の計測装置としても良い。即ち、放射能の計測装置は、測定対象物から放出される放射線を計数する放射線検出器と、測定対象物の表面の三次元的空間座標を取込みこれを利用して測定対象物と放射線検出器の幾何学的な位置関係を仮想的に再現する3次元モデル化手段と、仮想的に再現された測定対象物の3次元モデルから放出される仮想放射線の発生数と仮想的に再現された放射線検出器の3次元モデルへの入射数とを関係付けて換算係数を求める換算係数設定手段と、放射線検出器による実際の計数率と換算係数とにより測定対象物の実際の放射能を算出する放射能算出手段を備えるようにしている。
【0019】
したがって、3次元モデル化手段によって擬似的に再現された測定対象物と放射線検出器の仮想3次元モデルを利用して、換算係数設定手段が仮想放射線の発生数と放射線検出器の仮想3次元モデルへの入力数を関係付けて換算係数を求める。この様にして求めた換算係数と実測された放射線検出器の計数率より放射能算出手段が測定対象物の実際の放射能を求める。
【0020】
この放射能計測装置の場合、換算係数設定手段は、3次元モンテカルロ計算コードを利用して測定対象物の3次元モデルからランダムに仮想放射線を発生させて仮想的に再現された放射線検出器の3次元モデルへの入射を擬似的に再現するシミュレーション手段と、仮想放射線の発生数と放射線検出器の3次元モデルへの仮想放射線の入射の計数とにより換算係数を算出する換算係数算出手段とを有することが好ましい。
【0021】
また、放射能の計測装置は、換算係数設定手段が、測定対象物と放射線検出器との間に存在する媒質の厚さ、当該媒質の減衰係数、当該媒質のビルドアップ係数、及び測定対象物と放射線検出器との間の距離に基づいて近似的に算出した媒質を通過する前後の放射線の数の相関関係より換算係数を算出するものであっても良い。
【0022】
これらの放射能の計測装置によると、実際の校正用放射線源を使用しなくても換算係数を求めて測定対象物の放射能を高精度に且つ迅速に計測することができ、特に様々な形状や大きさの測定対象物を多量に処理するのに適した計測装置を実現できる。特に、モンテカルロ計算コードを利用して換算係数を求める場合には、実際の放射線の放出現象をシミュレーションしているので、実際の現象に即した換算係数を求めることができる。また、点減衰核コードを用いて求めたIとIの関係より換算係数を求める場合には、計算量が少なくてすむので短時間で換算係数を算出することができる。
【0023】
また、先の放射能の計測装置において、放射線検出器は複数のセルの集合であり、3次元モデル化手段は放射線検出器を複数のセルの集合体として仮想3次元モデル化すると共に測定対象物をセルに対向する部位の集合体として仮想3次元モデル化し、換算係数設定手段は測定対象物の部位毎に放射線検出器のセル各々について換算係数を求め、放射能算出手段は測定対象物の部位毎に放射能を求めると共に、各部位の放射能より測定対象物全体の放射能を求めるようにしても良い。
【0024】
したがって、測定対象物の部位毎に放射線検出器のセル各々について換算係数が求められ、これらの換算係数と実測された放射線検出器のセル各々の計数率より測定対象物の部位毎の放射能が求められ、さらに測定対象物全体の放射能が求められる。
【0025】
また、上述の放射能の計測方法・計測装置を利用して放射能濃度、放射能表面密度を計測するようにしても良い。
【0026】
放射能濃度の計測方法は、測定対象物の重量又は体積を測定する重量又は体積測定工程と、前述のいずれかの放射能の計測方法により求めた放射能を重量又は体積で除して放射能濃度を求める放射能濃度算出工程とを有するようにしている。
【0027】
放射能濃度は測定対象物の放射能を重量又は体積で除することで求めることが出来る。したがって、前述のいずれかの放射能計測方法により求めた測定対象物の放射能を重量又は体積測定工程で測定した重量又は体積で除することで放射能濃度を求めることができる。
【0028】
依って、この放射能濃度の計測方法によると、様々な形状や大きさの測定対象物の放射能濃度を高精度且つ迅速に計測することができるので、将来の原子炉廃止措置により大量に発生することが予想される解体廃棄物の放射能レベルに応じた区分評価を迅速かつ合理的に行うことができる。
【0029】
また、放射能濃度の計測装置は、前述のいずれかの放射能計測装置と、測定対象物の重量又は体積を測定する重量又は体積測定手段と、求めた測定対象物の放射能を重量又は体積で除して放射能濃度を算出する放射能濃度算出手段とを備えるようにしている。
【0030】
放射能濃度は測定対象物の放射能を重量又は体積で除することで求めることが出来る。したがって、前述のいずれかの放射能計測装置で測定対象物の放射能を、重量又は体積測定手段によって測定対象物の重量又は体積をそれぞれ求め、放射能濃度算出手段で放射能を重量又は体積で除することで放射能濃度を求めることができる。
【0031】
依って、この放射能濃度の計測装置によると、前述の放射能濃度計測方法の実施に好適な装置を提供することができる。即ち、様々な形状や大きさの測定対象物の放射能濃度を高精度且つ迅速に計測することができ、将来の原子炉廃止措置により大量に発生することが予想される解体廃棄物の放射能レベルに応じた区分評価を迅速かつ合理的に行うことができる。
【0032】
また、放射能表面密度の計測方法は、測定対象物の表面積を測定する表面積測定工程と、前述のいずれかの放射能計測方法により求めた放射能を表面積で除して放射能表面密度を求める放射能表面密度算出工程を有するものである。
【0033】
放射能表面密度は測定対象物の放射能を表面積で除することで求めることが出来る。したがって、前述のいずれかの放射能計測方法により求めた測定対象物の放射能を表面積測定工程で測定した測定対象物の表面積で除することで放射能表面密度を求めることができる。
【0034】
依って、この放射能表面密度の計測方法によると、様々な形状や大きさの測定対象物の放射能表面密度を高精度且つ迅速に計測することができるので、将来の原子炉廃止措置により大量に発生することが予想される解体廃棄物の放射能レベルに応じた区分評価を迅速かつ合理的に行うことができる。また、サーベイメータを挿入できないような口径の小さい配管内部等の放射能表面密度を高精度かつ迅速に計測することができる。
【0035】
さらに、放射能表面密度の計測装置は、前述のいずれかの放射能計測装置と、測定対象物の表面積を測定する表面積測定手段と、求めた測定対象物の放射能を表面積で除して放射能表面密度を算出する放射能表面密度算出手段を備えるものである。
【0036】
放射能表面密度は測定対象物の放射能を表面積で除することで求めることが出来る。したがって、前述のいずれかの放射能計測装置で測定対象物の放射能を、表面積測定手段によって測定対象物の表面積をそれぞれ求め、放射能表面密度算出手段で放射能を表面積で除することで放射能表面密度を求めることができる。
【0037】
依って、この放射能表面密度の計測装置によると、放射能表面密度の計測方法の実施に好適な装置を提供することができる。即ち、様々な形状や大きさの測定対象物の放射能表面密度を高精度且つ迅速に計測することができ、将来の原子炉廃止措置により大量に発生することが予想される解体廃棄物の放射能レベルに応じた区分評価を迅速かつ合理的に行うことができる。また、サーベイメータを挿入できないような口径の小さい配管内部等の放射能表面密度を高精度かつ迅速に計測することができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明の放射能計測方法によると、実際の校正用放射線源を使用しなくても換算係数を求めて測定対象物の放射能を高精度に且つ迅速に計測することができるので、様々な形状や大きさの測定対象物の放射能計測を多量かつ迅速に処理することができる。特に、モンテカルロ計算手法を利用して換算係数を求める場合には、実際の放射線の放出現象をシミュレーションしているので、実際の現象に即した換算係数を求めることができる。また、点減衰核コードを用いて求めたIとIの関係より換算係数を求める場合には、モンテカルロ計算手法の場合に比べて測定精度が劣っても計算量が少なくなるので短時間で換算係数を算出することができる。
【0039】
また、セル毎の仮想計数を求めることによって、放射能が偏在していても高精度な評価が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の構成を図面に示す最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0041】
図1に本発明の放射能計測方法の一実施形態を、図2に当該放射能計測方法を実施する放射能計測装置の実施形態の一例を示す。この計測装置は、測定対象物18から放出される放射線例えばγ線を計数する放射線検出器1と、測定対象物18の表面形状を測定し三次元的空間座標として取込む3次元形状計測装置11と、この3次元形状計測装置11で得られた測定対象物の表面の三次元的空間座標データを利用して測定対象物18と放射線検出器1の幾何学的な位置関係(図3A参照)を仮想的に再現する(図3B参照)3次元モデル化手段2と、仮想的に再現された測定対象物18の3次元モデル16からランダムに仮想放射線例えば仮想γ線を発生させて仮想的に再現された放射線検出器1の3次元モデル17への入射を擬似的に再現するシミュレーション手段3と、仮想放射線の発生数と放射線検出器1の3次元モデル17への仮想放射線の入射の計数とにより換算係数を算出する換算係数算出手段4と、放射線検出器1による実際の計数率と換算係数により測定対象物18の実際の放射能を算出する放射能算出手段5を備える。即ち、本実施形態では、仮想的に再現された測定対象物18の3次元モデル16から放出される仮想放射線の発生数と仮想的に再現された放射線検出器1の3次元モデル17への入射数とを関係付けて換算係数を求める換算係数設定手段をシミュレーション手段3と換算係数算出手段4とによって構成している。
【0042】
尚、本実施形態では、少なくとも1つのCPUやMPUなどの演算処理装置6と、データの入出力を行うインターフェース7と、プログラムやデータを記憶するメモリ8を備えるコンピュータ9と所定の制御ないし演算プログラムによって、3次元モデル化手段2、シミュレーション手段3、換算係数算出手段4及び放射能算出手段5を実現している。即ち、演算処理装置6は、メモリ8に記憶されたOS等の制御プログラム、放射能計測方法などの手順を規定したプログラム及び所要データ等により、上記3次元モデル化手段2、シミュレーション手段3、換算係数算出手段4及び放射能算出手段5を実現している。また、コンピュータ9には、例えばCRTディスプレイやプリンター等の出力装置10が接続されている。
【0043】
3次元形状計測装置11としては、例えば測定対象物18の表面の空間座標を点群データとして検出し3次元形状を計測するものが本実施形態では使われている。この3次元形状計測装置11は、非接触式の3次元レーザースキャナで、レーザー光を測定対象物18に当てて表面を走査させると共にその散乱光を集光レンズによりCCDへ結像させ、CCD結像位置をカウンター値として入力し、三角測量の原理にて距離データに変換するものである。レーザー投光部と受光部の光軸をガルバノミラーで高速に走査することにより、多ポイントの点群データを得ることができる。この3次元形状計測装置11によって測定された測定対象物18の3次元座標は、コンピュータ9にインターフェース7を介して入力される。具体的には、例えば、パルステック工業株式会社製「3次元スキャナーTDS3100」を用いて測定対象物18の表面の空間座標を高速に検出し3次元的空間座標データとして得ることができる。
【0044】
放射線検出器1としては、例えばγ線を計測するプラスチックシンチレーション検出器が使用可能で、測定対象物18の上下に平行に配置される。この放射線検出器1による計数データはインターフェース7を介してコンピュータ9に入力される。
【0045】
次に、放射能の計測方法について説明する。この放射能の測定方法は、測定対象物の表面の三次元的空間座標を取込みこれを利用して測定対象物18と放射線検出器1の仮想3次元モデル16,17を仮想3次元空間内に実際の幾何学的位置関係と同じ位置関係で配置する仮想モデル化工程21と、測定対象物18の仮想3次元モデル16からランダムに仮想放射線例えばγ線を発生させると共に放射線検出器1の仮想3次元モデル17への仮想放射線の入射を計数して仮想計数とする仮想計数算出工程22と、仮想放射線の発生数と仮想計数より換算係数を求める換算係数算出工程23と、測定対象物18から放出された放射線例えばγ線の放射線検出器1への入射を実際に計数して計数率を求める実際計数率算出工程24と、当該計数率と換算係数より測定対象物18の放射能を求める放射能算出工程25とから成る。即ち、本実施形態では、測定対象物18の仮想3次元モデル16から放出される仮想放射線の発生数と放射線検出器1の仮想3次元モデル17への仮想放射線の入射数とを関係付けて換算係数を求める換算係数設定工程を、仮想計数算出工程22と換算係数算出工程23より構成している。
【0046】
本実施形態では、測定対象物18から放射線が放出されて放射線検出器1に計数される現象を、図2に示す計測装置のコンピュータ9上で実施される3次元モンテカルロ計算手法を利用してシミュレーションすることで換算係数を求めている。そのため仮想モデル化工程21では、実際計数率算出工程24で実際に放射線検出器1を使用して測定対象物18から放射される放射線を計数する場合の放射線検出器1と測定対象物18の形状並びにこれらの幾何学的な位置関係を3次元モンテカルロ計算コードに適したフォーマットで表現する所謂3次元モデル化を行っている。即ち、仮想モデル化工程21では、先ず3次元形状計測装置11によって放射線検出器1と測定対象物18の3次元的な形状並びにこれらの位置関係を計測し、これらの3次元座標データを3次元モデル化手段2に入力し、例えば図3Bに概念的に示すように測定対象物18と放射線検出器1の3次元モデル16,17を仮想的3次元空間に仮想的に再現し、実際の位置関係と同じ位置関係で配置する。そして、このように配置したものを3次元モンテカルロ計算コードのフォーマットで表現し、入力ファイルを形成する(3次元モデル化)。この入力ファイルには、少なくとも測定対象物18の形態、放射線検出器1の形態、その他の空間の媒質の形態についてのデータが記録される。測定対象物18の形態としては、例えば3次元形状、放射能汚染の分布(表面のみの汚染か、それとも内部まで均一に汚染されているか等)、発生させるγ線のエネルギー等である。放射線検出器1の形態としては、例えば3次元形状、組成、密度等である。その他の空間の媒質の形態としては、例えば真空か空気が存在するか、鉛遮蔽が存在するか否か等である。
【0047】
なお、測定対象物18の形状等が毎回変わっても、放射線検出器1の3次元形状に関するデータ及び放射能検出器1と測定対象物18が載置されるテーブル等の基準面との距離・位置関係は変わらないため、3次元形状計測装置11による放射線検出器1の計測を毎回行う必要はなく、先にあるいは予め入力されている3次元データを利用して毎回計測・入力する手間を省くことができる。この場合、3次元形状のデータ取得及び入力の時間を短縮できる。
【0048】
次に、仮想計数算出工程22では、3次元モンテカルロ計算手法を利用して、測定対象物18の仮想3次元モデル16から仮想的な放射線をランダムに発生させ、発生させた仮想放射線のうち放射線検出器1の仮想3次元モデル17に入射したものをカウントして計数を求める。即ち、γ線は、放射性物質から等方的(等しい確率であらゆる方向)に放出され、かつ放出されたγ線は物質を透過したり衝突したり、吸収されて新しいエネルギーのγ線に分かれたりする。このγ線と物質の相互作用はある確率で発生するものであり、この現象を近似して数学的なモデルで表すことが出来る。3次元モンテカルロ計算コードでは、シミュレーション手段3によってコンピュータ9上で測定対象物18の仮想3次元モデル16から等方的即ち等しい確率であらゆる方向に放出されるγ線を上述の数学的モデルを用いて追跡することができる。したがって、測定対象物18から放出されたγ線が離れた場所に設置された放射線検出器1の中に、どれだけ入射するかの確率(検出効率に近い値)を計算によって求めることができる。シミュレーション手段3としてのコンピュータ9の演算処理装置6は、3次元モンテカルロ計算コードにより測定対象物18から放射線が放出される様子をシミュレーションして放射線検出器1による計数を擬似的に求める。なお、3次元モンテカルロ計算コードとしては、例えば米国ロスアラモス国立研究所で開発された公開コードであるMCNPコードの使用が可能である。
【0049】
次いで、換算係数算出工程23では、コンピュータ9の演算処理装置6に実現される換算係数算出手段4において、仮想的に発生させたγ線の数と検出器モデル17で計数された計数値の比より換算係数を求める。いま、測定対象物18の仮想3次元モデル16からA個のγ線を発生させたところ放射線検出器1の仮想3次元モデル17にB個のγ線が入射したとすると、即ち仮想計数がBであるとすると換算係数はA/Bとなる。
【0050】
次の実際計数率算出工程24では、放射線検出器1により測定対象物18から実際に放出されたγ線を計測して計数率を求める。このとき、放射線検出器1と測定対象物18の位置関係は、コンピュータ9上に仮想的に再現した位置関係と同じにしておく。そして、放射能算出工程25において、求めた計数率に換算係数を乗じて測定対象物18の放射能を算出する。いま、実際に求めた計数率がCであったとすると、C×A/B/(測定対象の放射性物質のγ線の放出率)により測定対象物18の放射能が求められる。この演算は、演算処理装置6に実現される放射能算出手段5において行われる。
【0051】
この様に、本発明の放射能の計測方法及び計測装置では、3次元モンテカルロ計算手法を使用して換算係数を求めることができるので、測定対象物18に応じて作成しなければならない校正用放射線源を用いることなく測定対象物18の放射能を迅速かつ高精度に計測することができる。
【0052】
次に、放射能濃度の計測方法及び計測装置について説明する。
【0053】
図4に本発明の放射能濃度計測方法の一実施形態を、図5に放射能濃度計測方法を実施する放射能濃度計測装置の実施形態の一例を示す。この放射能濃度計測装置は、図2の放射能計測装置に重量又は体積測定手段13と放射能濃度算出手段12の機能を付加したものである。
【0054】
放射能濃度算出手段12は、放射能算出手段5によって求めた測定対象物18の放射能を重量又は体積で除して放射能濃度を算出するもので、本実施形態では例えばコンピュータ9の演算処理装置6が測定対象物18の放射能を重量又は体積で除する演算処理を行わせるプログラムによって放射能算出手段5を実現する。また、重量又は体積測定手段13は、測定対象物18の重量又は体積を測定するもので、本実施形態では測定対象物18の重量を測定する計量器である。この計量器13による測定結果はインターフェース7を介してコンピュータ9の放射能濃度算出手段12に入力される。
【0055】
このような計測装置によって実施される放射能濃度計測方法は、前述の放射能計測方法に測定対象物18の重量又は体積を測定する重量又は体積測定工程31と、上述の放射能の計測方法により求めた放射能を重量又は体積で除して放射能濃度を求める放射能濃度算出工程33を含むものである。
【0056】
例えば、重量によって放射能濃度を求める場合を例に説明すると、先ず放射能計測に先立って重量又は体積測定工程31で測定対象物18の重量を計量器13によって測定しコンピュータ9上の放射能濃度算出手段12に入力する。その後、放射能計測ルーチン32において図1の方法を実施して測定対象物18の放射能を計測する。そして、放射能濃度算出手段12において、放射能算出手段5で求めた放射能を計量器13で求めた重量で除して放射能濃度を算出する(放射能濃度算出工程33)。例えば、測定対象物18の重量がD、放射能がEとすると、放射能濃度はE/Dによって求められる。そして、求められた放射能濃度は出力装置10に出力され、任意の形態で表示ないし印刷される。
【0057】
なお、重量に代えて体積によって放射能濃度を求める場合には、重量又は体積測定手段13として測定対象物18の体積を測定できる体積測定手段を使用する。この場合の体積測定手段は、例えば3次元形状計測装置11により測定した測定対象物18の3次元形状データに基づいて体積を求めるものであり、通常コンピュータ9の演算処理装置6を体積測定手段として機能させる。このようにして求めた測定対象物18の体積がFであるとすると、放射能濃度算出工程33ではE/Fを計算して放射能濃度を求める。
【0058】
この様に、本発明の放射能濃度の計測方法及び計測装置では、測定対象物18毎に異なった校正用放射線源を用いることなく測定対象物18の放射能を計測しているので、迅速かつ高精度に、しかも様々な形状や大きさの測定対象物18に対しても的確に測定対象物18の放射能濃度を計測することができる。
【0059】
次に放射能表面密度の計測方法及び計測装置について説明する。
【0060】
図6に本発明の放射能表面密度計測方法の一実施形態を、図7にこの放射能表面密度計測方法を実施する計測装置の一実施形態をそれぞれ示す。この放射能表面密度計測装置は、例えば図2の放射能計測装置に表面積測定手段14と放射能表面密度算出手段15の機能を付加したものである。
【0061】
放射能表面密度算出手段15は、放射能算出手段5によって求めた測定対象物18の放射能を表面積で除して放射能表面密度を算出するもので、本実施形態では例えばコンピュータ9の演算処理装置6をプログラムで放射能表面密度算出手段15として機能させることにより実現する。また、表面積測定手段14は、例えば3次元形状計測装置11により測定した測定対象物18の形状データから表面積を求めるもので、本実施形態では、例えばコンピュータ9の演算処理装置6が所定のプログラムに基づいた演算を行うことで表面積を求める表面積測定手段14として機能させることにより実現している。
【0062】
このような放射能表面密度計測装置によって実施される放射能表面密度計測方法は、前述の放射能計測方法に、測定対象物18の表面積を測定する表面積測定工程42と、上述の放射能の測定方法により求めた放射能を表面積で除して放射能表面密度を求める放射能表面密度算出工程43を含むものである。
【0063】
この放射能表面密度計測方法について具体的に説明すると、先ず、放射能計測ルーチン41において図1の放射能計測方法を実施して測定対象物18の放射能を計測する。この場合、図1の仮想計数算出工程22において測定対象物18の仮想3次元モデル16の表面から放射線例えばγ線を仮想的に発生させるようにする。即ち、測定対象物18の表面汚染をシミュレーションする。そして、次の表面積測定工程42では、コンピュータ9の演算処理装置6と所定の演算プログラムが実現する表面積測定手段14において、測定対象物18の3次元形状に関するデータに基づいて測定対象物18の表面積を算出する。その後、放射能表面密度算出工程43において、測定対象物18の表面汚染に関する放射能を測定対象物18の表面積で除して放射能表面密度を算出する。いま、測定対象物18の表面積がGであったとすると、放射能表面密度はE/Gによって求められる。そして求めた放射能表面密度は出力装置10に出力され、任意の形態で表示ないし印刷される。
【0064】
なお、この放射能表面密度計測方法では、測定対象物18の放射能を求めた後に測定対象物18の表面積を求めるようにしているが、即ち放射能計測ルーチン41の実行後に表面積測定工程42を実行するようにしているが、測定対象物18の放射能を求めるために仮想モデル化工程21において測定対象物18の3次元形状を計測した段階で、即ち放射能計測ルーチン41で実行する仮想モデル化工程21において測定対象物18の表面積を求めるようにしても良い。
【0065】
この様に、本発明の放射能表面密度の計測方法及び計測装置では、測定対象物18に応じた校正用放射線源を用いることなく測定対象物18の放射能を計測しているので、迅速かつ高精度に、しかも様々な形状や大きさの測定対象物18に対しても的確に測定対象物18の放射能表面密度を計測することができる。また、測定対象物18から放出されるγ線を対象にして放射能表面密度の計測を行うので、β線を対象にして放射能表面密度の計測を行う場合と違って、サーベイメータの挿入が不可能な例えば細管の内周面の放射能表面密度を高精度に計測することができる。
【0066】
図8に、上述の放射能濃度計測方法及び放射能表面密度計測方法を使用して、例えば原子炉廃止措置で発生する解体廃棄物の放射能レベルを検認するシステムの概念の一例を示す。
【0067】
原子炉の廃止措置を行うことで、様々の形状、大きさ、放射能レベル等の解体廃棄物51(測定対象物18)が多量に発生する。これらの放射性廃棄物51は形状測定部52に搬送されて3次元形状計測装置11によって3次元形状が測定される。次の放射線・重量測定部53には放射線検出器1及び計量器13が設置されており、形状測定が行われた放射性廃棄物51の重量を測定すると共に放射性廃棄物51から放出される放射線を計数し、放射能濃度と表面密度が求められる。そして、検認部54で放射能濃度と放射能表面密度についての検認が行われた後、それぞれのレベルに応じて各解体廃棄物51が適切に処分・再利用される。このようにして解体廃棄物51の放射能レベルを検認することで、多量の解体廃棄物51を迅速に検認することが可能になり、将来の原子炉廃止措置により多量に発生することが予想される解体廃棄物51の処理処分・再利用に良好に対応することが可能となる。
【0068】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述のようにして放射能の計測を行っても良いが、本発明ではさらに以下のようにして放射能の計測を行っている。即ち、3次元モンテカルロ計算コードによるシミュレーションによって測定対象物18の3次元モデル16から放出された仮想γ線を放射線検出器1の3次元モデル17で計数する場合に、上下の3次元モデル17をそれぞれ多数のセルの集合体として、各セル毎に仮想γ線の入射を計数するようにしても良い。
【0069】
即ち、放射線検出器を複数のセルの集合とすると共に測定対象物をセルに対向する部位の集合として概念し、仮想モデル化工程では放射線検出器を複数のセルの集合体として仮想3次元モデル化すると共に測定対象物を部位の集合体として仮想3次元モデル化し、測定対象物の仮想3次元モデルの部位毎に換算係数設定工程を行って当該部位毎にセルの各々について換算係数を求めると共に、放射線検出器のセル毎に実際計数率算出工程を行ってセルの各々について計数率を求め、放射能算出工程を行って測定対象物の部位毎に放射能を求めた後、各部位の放射能より測定対象物全体の放射能を求めるようにしても良い。
【0070】
具体的にその一例を説明すると、例えば図9に示すように放射線検出器1を4つのセル1aの集合体として構成した場合、この放射線検出器1の上に載せて測定する測定対象物18をセル1aに対向する部位18aの集合として概念する。そして、各部位18aの中では放射能濃度や放射能表面密度は均一であると仮定し、シミュレーションを行って3次元モデルの各部位毎にセルの各々について換算係数を求める。
【0071】
先ず最初に、3次元モデル16の第1の部位から放出された放射線が3次元モデル17の第1〜第4のセルに計数される時の計数効率(換算係数)を測定対象物18の形状を測定した結果をもとに、3次元モンテカルロ計算コードで求める。この結果が例えば、第1のセルで計数される時の効率(換算係数)が0.4、第2のセルで計数される時の効率(換算係数)が0.15、第3のセルで計数される時の効率(換算係数)が0.15、第4のセルで計数される時の効率(換算係数)が0.07であったとする。
【0072】
同様にして、3次元モデル16の第2〜第4の部位から放出された放射線が3次元モデル17の第1〜第4のセルに計数される時の換算係数を測定対象物18の形状を測定した結果をもとに、3次元モンテカルロ計算コードで求める。これらの結果が表1に示す値であったとする。
【0073】
【表1】

【0074】
一方、放射線検出器1のセル1aの実際の計数は、第1のセル1aが100、第2のセル1aが50、第3のセル1aが50、第4のセル1aが40であったとする。
【0075】
以上の結果を行列で表すと、部位18a別の放射能R1〜R4と放射線検出器1の4つのセル1aでの計数率の関係は、数式2のようになる。なお、第1の部位18aの放射能をR1,第2の部位18aの放射能をR2,第3の部位18aの放射能をR3,第4の部位18aの放射能をR4とする。
【0076】
【数2】

【0077】
この様にして第1〜第4の部位18aの放射能R1〜R4を求めた後、これらの放射能R1〜R4の総和を求める。上述の例では、数式3となることから、測定対象物18全体の放射能は308.3Bqとなる。
【0078】
〈数3〉
測定対象物18全体の放射能=R1+R2+R3+R4
=225.1+18.7+19.8+44.7=308.3
【0079】
放射能濃度や放射能表面密度が均一ではなく各所に偏在している場合、均一分布を仮定して求めた換算係数では誤差が大きくなる。特に、測定対象物18の放射能レベルが低い場合には放射能検出器1を測定対象物18に近づけて測定を行う必要があり、放射能検出器1を測定対象物18に近づけて測定する場合には放射能の偏在が換算係数の値に大きく影響する。しかしながら、上述の様にすることで、偏在状況(偏在の分布)を考慮して換算係数を求めることができ、測定対象物18の放射能が偏在していても、放射能濃度や放射能表面密度の高精度な評価が可能になる。
【0080】
上述の具体例では、放射線検出器1を4つのセル1aの集合としていたが、セル1aの数は4つに限るものではない。セル1aの数を増やすことで測定対象物18の放射能の分布をより詳細に評価できるようになる。
【0081】
この様な方法を実施する放射能の計測装置は、例えば図2に示す放射能の計測装置において、放射線検出器1は複数のセルの集合であり、3次元モデル化手段2は放射線検出器1を複数のセルの集合体として仮想3次元モデル化すると共に測定対象物をセルに対向する部位の集合体として仮想3次元モデル化し、換算係数設定手段は測定対象物の部位毎に放射線検出器のセル各々について換算係数を求め、放射能算出手段5は測定対象物の部位毎に放射能を求めると共に、各部位の放射能より測定対象物全体の放射能を求めるように構成したものである。
【0082】
また、上述の説明では、3次元モンテカルロ計算コードを使用したシミュレーションを行って換算係数を求めているが、換算係数を設定する方法としてはこれに限られるものではない。例えば、点減衰核コードとよばれる遮へい計算用のコードを使用して換算係数を求めるようにしても良い。
【0083】
即ち、換算係数設定工程において、測定対象物と放射線検出器との間に存在する媒質の厚さ、当該媒質の減衰係数、当該媒質のビルドアップ係数、及び測定対象物と放射線検出器との間の距離に基づいて近似的に算出した媒質通過前後の放射線の数の相関関係より換算係数を求めるようにした放射能の計測方法であっても良い。
【0084】
具体的に説明すると、測定対象物18から放出された放射線が測定対象物18と放射線検出器1との間に存在する媒質を通過する場合、その通過前後の放射線の数の関係は、次の数式4で近似的に求めることができる。
【0085】
〈数4〉
I=(1/(4πr))IBe−μd
【0086】
ここで、Iはある媒質を通過した後の放射線の数、Iはある媒質を通過する前に発生する放射線の数、μは減衰係数(cm−1)、dは測定対象物18の放射線が通過する部分の厚さ(cm)、Bはビルドアップ係数、rは測定対象物と放射線検出器1の距離である。減衰係数μとビルドアップ係数Bは媒質の種類に応じて定まる値、厚さdは測定対象物18の形態や放射能汚染の位置等に応じて定まる値である。また、距離rは仮想モデル工程21において形成した仮想3次元モデル16,17の位置関係に基づいて求めることができる。尚、この仮想3次元モデル16,17の位置関係に基づいて厚さdを求めるようにしても良い。放射線の遮蔽計算に用いる点減衰核法では、上述の式を利用して計算を行っている。
【0087】
上述の式によりIとIの関係がわかるので、換算係数算出工程では換算係数を求めることができる。即ち、Iが測定対象物18の仮想3次元モデル16から放出される仮想放射線の発生数に対応し、Iが放射線検出器1の仮想3次元モデル17への仮想放射線の入射数に対応し、I/Iが換算係数となる。そして、換算係数を求めた後は、上述の場合と同様の手順で測定対象物の放射能を求め、放射能濃度や放射能表面密度を求める。この放射能の計測方法では、計測された放射能は近似的な値ではあるが、計算量が少なくてすむので短時間で簡単に放射能を求めることができる。
【0088】
この方法を実施する放射能の計測装置は、図10に示すように、測定対象物18から放出される放射線を計数する放射線検出器1と、測定対象物18と放射線検出器1との間に存在する媒質の厚さ、当該媒質の減衰係数、当該媒質のビルドアップ係数、及び測定対象物18と放射線検出器1との間の距離に基づいて近似的に算出した媒質通過前後の放射線の数の相関関係より換算係数を算出する換算係数設定手段19と、放射線検出器1による実際の計数率と換算係数とにより測定対象物の実際の放射能を算出する放射能算出手段5を備えて構成される。そして、例えば図10の計測装置に図5に示す重量又は体積測定手段13と放射能濃度算出手段12の機能を付加することで、放射能濃度計測装置が構成される。さらに、例えば図10の計測装置に図7に示す表面積測定手段14と放射能表面密度算出手段15の機能を付加することで、放射能表面密度計測装置が構成される。
【0089】
また、点減衰核コードを使用してシミュレーションを行い換算係数を求める場合であっても、3次元モンテカルロ計算コードを使用してシミュレーションを行い換算係数を求める場合と同様に、上下の3次元モデル17をそれぞれ多数のセルの集合体として、各セル毎に仮想γ線の入射を計数するようにしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】本発明の放射能の計測方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【図2】本発明の放射能の計測装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図3】放射線検出器と測定対象物の位置関係を示す概念図で、(A)は実際の幾何学的位置関係を示す概念図、(B)は仮想的に3次元モデル化した位置関係を示す概念図である。
【図4】本発明の放射能濃度の計測方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【図5】本発明の放射能濃度の計測装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図6】本発明の放射能表面密度の計測方法の実施形態の一例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の放射能表面密度の計測装置の実施形態の一例を示す概略構成図である。
【図8】原子炉廃止措置で発生する解体廃棄物の放射能レベルを検認するシステムの概念図である。
【図9】複数のセル(放射線検出器)の集合からなる放射線検出器の概念図である。
【図10】本発明の放射能の計測装置の実施形態の他の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0091】
1 放射線検出器
2 3次元モデル化手段
3 シミュレーション手段
4 換算係数算出手段
5 放射能算出手段
12 放射能濃度算出手段
13 計量器(重量又は体積測定手段)
14 表面積測定手段
15 放射能表面密度算出手段
16 測定対象物の3次元モデル
17 放射線検出器の3次元モデル
18 測定対象物
21 仮想モデル化工程
22 仮想計数算出工程
23 換算係数算出工程
24 実際計数率算出工程
25 放射能算出工程
31 重量又は体積測定工程
33 放射能濃度算出工程
42 表面積測定工程
43 放射能表面密度算出工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象物と放射線検出器の仮想3次元モデルを仮想3次元空間内に実際の幾何学的位置関係と同じ位置関係で配置する仮想モデル化工程と、前記測定対象物の仮想3次元モデルから放出される仮想放射線の発生数と前記放射線検出器の仮想3次元モデルへの前記仮想放射線の入射数とを関係付けて換算係数を求める換算係数設定工程と、前記測定対象物から放出された放射線の前記放射線検出器への入射を実際に計数して計数率を求める実際計数率算出工程と、当該計数率と前記換算係数より前記測定対象物の放射能を求める放射能算出工程を有し、前記放射線検出器を複数のセルの集合とすると共に前記測定対象物を前記セルに対向する部位の集合として概念し、前記仮想モデル化工程では前記放射線検出器を複数のセルの集合体として仮想3次元モデル化すると共に前記測定対象物を前記部位の集合体として仮想3次元モデル化し、前記測定対象物の仮想3次元モデルの部位毎に前記換算係数設定工程を行って当該部位毎に前記セルの各々について換算係数を求めると共に、前記放射線検出器のセル毎に前記実際計数率算出工程を行って前記セルの各々について計数率を求め、前記放射能算出工程を行って前記測定対象物の部位毎に放射能を求めた後、各部位の放射能より前記測定対象物全体の放射能を求めることを特徴とする放射能の計測方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−84478(P2006−84478A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−310800(P2005−310800)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【分割の表示】特願2000−604241(P2000−604241)の分割
【原出願日】平成11年11月15日(1999.11.15)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】