説明

放熱性の優れたプリント配線板用銅張積層板およびその製造方法

【目的】 放熱性の優れた高強度のプリント配線板用銅張積層板を提供することを目的とする。
【構成】 表面の銅箔、中心部の樹脂絶縁層および重量%でCu:20〜90%、Al:0.3〜11%、Mn:0.05〜3.0%、Ti:0.005〜3.5%、Cr:0.1〜12%、Mo:0.001〜1.5%、残部主としてFeからなる鉄銅合金薄板をベースとして構成したプリント配線用銅張積層板、および上記合金を溶解、造塊後700〜1000℃で板厚1.0〜8mmの金属板に熱間圧延し、圧下率50〜95%で一次冷間圧延し、450〜1000℃で、焼鈍した後0.05〜5000℃/分の冷却速度で急冷し、圧下率5〜85%で二次冷間圧延し、150〜650℃で時効処理を施してベースを形成し、該ベース上に樹脂絶縁層と銅箔を積層してプリント配線板用銅張積層板を構成する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は放熱性の優れたプリント配線板用銅張積層板に関する。
【0002】
【従来の技術】プリント配線板用銅張積層板には従来有機系リジッド銅張積層板が最も多く使用されてきた。これに対し、重量物を搭載する場合、磁気回路の形成が必要とされる場合、高い寸法精度が要求される場合または高い放熱性が要求される場合などに金属ベース銅張積層板が普及し始めた。
【0003】特に最近は表面実装技術の進歩に伴う部品の小型化、集積回路の高集積度化が進み、基板単位面積当りの発熱量が飛躍的に増大している。このため基板の放熱対策は極めて重要な問題となっている。特にパワートランジスターを搭載するハイブリッドIC基板ではその要求が強い。そしてそのための放熱性の優れた基板材料がたとえば「最新プリント配線板技術」(1983年6月10日工調査会刊行)第48頁や「最新ハイブリッドIC技術」(1984年6月1日工調査会刊行)第257頁に記載されている。これらの基板用材料はアルミベース銅張積層板であり、以下に述べるような問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】金属ベース銅張積層板は有機系銅張積層板に比較すれば放熱性は極めて大きく、また金属の種類によってその放熱性に差がある。そして特に放熱性を問題にする場合はコストが高く、重量が大きい銅を避けてアルミニウムが多く使われるが、価格が高く強度が十分でないなどの問題がある。鉄の場合は熱伝導率が小さいほかに錆びやすいという欠点がある。したがって、より低価格で強度が高く、しかも耐食性が優れ熱伝導性が良好な材料が望まれている。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明の特徴は、表面の銅箔、中心の樹脂絶縁層およびベースの3層から構成されるプリント配線板用銅張積層板において、重量%でCu:20〜90%、Al:0.3〜11%、Mn:0.05〜3.0%、Ti:0.005〜3.5%、Cr:0.1〜12%、Mo:0.001〜1.5%および残部が主としてFeからなる組成の鉄銅合金薄板をベースとした放熱性の優れたプリント配線板用銅張積層板、および上記合金を溶解、造塊後700〜1000℃の温度範囲で板厚1.0〜8mmの金属板に熱間圧延し、次に該金属板を圧下率50〜95%で一次冷間圧延を行い、引続き450〜1000℃の温度範囲で焼鈍した後0.05〜5,000℃/分の冷却速度で急冷し、次いで圧下率5〜85%で二次冷間圧延を行い、しかる後150〜650℃の温度範囲で時効処理を施して鉄銅合金薄板を形成し、該薄板の上面に樹脂絶縁層を積層し、さらにその上面に銅箔を積層して放熱性の優れたプリント配線板用銅張積層板を製造する方法にある。
【0006】
【作用】本発明は放熱性の優れたプリント配線板用銅張積層板としてベースの金属板が具備すべき条件を種々の組合せの合金を用いて検討し、従来使用されることのなかった鉄銅クロム合金を用いれば前記各問題点が解決されることを明らかにした。
【0007】合金の化学組成の限定理由は以下の通りである。銅は熱伝導性を向上させ放熱性を高めるためには含有量が高いほど好ましいが、用途上強度の要求が強い場合には鉄の含有量を高めることが望ましい。銅含有量が20重量%未満では良好な放熱性が得られないのでこれを下限とする。また上限を90重量%とするのは、鉄単独または鉄およびクロムの含有量が10重量%未満では組織の微細化に有効に働く鉄または鉄クロム富化相の量および分布が不十分になり、本合金特有の強度と放熱性の組合せが得られなくなるからである。
【0008】次に、Alを0.3〜11重量%に規定するのは、0.3重量%未満では熱間加工性向上への効果が少なく11重量%超では熱間加工性向上への効果が飽和する上に導電性の低下が大きくなるからである。さらにMnはAlとの複合効果で熱間加工性を向上させ、0.05重量%未満では効果が少なく、3重量%超では効果が飽和するため、0.05〜3重量%の範囲に規定する。
【0009】またTiを0.005〜3.5重量%に規定するのは0.005重量%未満では導電性向上への効果が少なく、3.5重量%超では導電性への効果が飽和する上に鋳造、冷間加工などの製造性を阻害するからである。Crを0.1〜12重量%、またMoを0.001〜1.5重量%にそれぞれ規定するのはプリント配線用銅張積層板として隙間腐食性を半田、Agメッキ性を劣化させずに、CrとMoの複合効果で向上させるためであり、Moの含有量が0.001重量%未満では隙間腐食性への効果が少なく、1.5重量%超では隙間腐食性への効果が飽和する上にコストが大きくなる。なおCr含有量をFe含有量に対して重量比で5.5〜13.5重量%に規定すると、素材の耐食性を前記Moとの複合効果によってより一層向上することができる。すなわち5.5重量%未満ではその効果が不十分で、また13.5重量%を超えても耐食性への効果が飽和する上に半田メッキ性などを劣化させるのでこの範囲にする。
【0010】また、鋳造組織制御や強度向上、加工性、耐食性などの改善の必要に応じてさらに、Si、Ni、Zn、Sn、Nb、Zr、P、La、Ce、Y、V、Ca、Be、MgおよびHfの一種または二種以上を合計で0.005〜8重量%、C及びBの1種又は2種を合計で0.0005〜2重量%添加する。それ以外は原料、溶製およびその後の工程で不可避的に混入される不純物元素とする。
【0011】本発明のベースを製造する方法として造塊(連続鋳造も含む)−熱延−冷延−焼鈍という工程をとる。前記成分の合金を溶解後、インゴットまたはスラブに製造し、次いで後700〜1000℃の温度範囲で所望の板厚に熱間圧延し、引続いて、圧下率50〜95%の一次冷間圧延を行う。これは銅張積層板に必要な板厚を得ることと、50%以上の圧延を実施することでその後の焼鈍処理による加工性の付与を行うためである。上記焼鈍方法は一次冷間圧延で蓄積した加工歪みによって再結晶を生じさせ、異方性の小さい材料を得るための条件として、0.05〜5000℃/min の加熱速度、450〜950℃の保持温度、および0.05〜5000℃/min の冷却速度が適している。
【0012】次に二次冷間圧延を5〜85%で行う。5%未満では時効析出に必要な転位密度が不足し、85%を超えると加工性が劣化する。さらに必要により700〜1000℃の温度範囲で溶体化処理し、その後急冷を行う。この温度は溶体化効果とCuの融点の関係より規定する。上記溶体化処理は上記焼鈍方法の条件の内、該溶体化処理条件に合致しない場合に行うのが好ましい。
【0013】上記の二次冷間圧延に引続いて150〜650℃の温度範囲で時効処理を行う。このようにしてベース用の鉄銅合金薄板を製造したあと、樹脂絶縁層と銅箔を積層する。樹脂は通常使用されているエポキシ樹脂をはじめ、BT樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリブタディエン樹脂などの耐熱熱硬化性樹脂のいずれでもよい。また、電気的特性が良好なポリサルフォン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリ四弗化エチレンなどの耐熱性熱可塑性樹脂を用いて銅張積層板を製造することもできる。そして放熱性をさらに高めるために樹脂層のなかに良熱伝導性の無機質フィラーを添加すると効果が大きい。
【0014】また、銅箔の積層は電解法または圧延法で行う。
【0015】
【実施例】表1,2に本発明の成分要件を満たす合金A〜FとS〜IIと、比較材G〜Rの化学成分を示す。
【0016】
【表1】


【0017】
【表2】


【0018】上記成分の合金A〜IIを溶解後、連続鋳造方法で板厚150mmのスラブを形成し、950℃の温度で板厚3mmの金属板に熱間圧延した。次いで該金属板を圧下率80%で一次冷間圧延を行い、900℃の温度で2分間保持したのち100℃/分の冷却速度で窒素ガスで急冷する焼鈍処理を施し、圧下率5%で二次冷間圧延後、550℃、360分間保持の時効処理を施してベースを形成した。このベース上にポリイミド樹脂とエポキシ樹脂を塗布し、この樹脂層の上にさらに電解法によって銅箔を積層した。
【0019】表3,4にガラス布エポキシ基銅張積層板(FR−4グレード)、鋼板およびアルミ板ベース銅張積層板と上記合金A〜IIをベースとした銅張積層板の特性値を示す。この中で、放熱性は基板の上に発熱素子をはんだづけして通電したときの単位入熱当りの温度上昇量によって評価した。これから、本発明はいずれもアルミ板ベース積層板に匹敵する放熱性を有していることが明らかである。また、その他の銅張積層板の特性においても既存のものに遜色のない結果を示している。
【0020】
【表3】


【0021】
【表4】


【0022】
【発明の効果】本発明は放熱性に優れたプリント配線板用銅張積層板であって、従来の金属ベース銅張積層板に比べ高強度で放熱性が優れたものを経済的に提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 表面の銅箔、中心の樹脂絶縁層およびベースの3層から構成されるプリント配線板用銅張積層板において、重量%でCu:20〜90%、Al:0.3〜11%、Mn:0.05〜3.0%、Ti:0.005〜3.5%、Cr:0.1〜12%、Mo:0.001〜1.5%および残部が主としてFeからなる組成の鉄銅合金薄板をベースとしたことを特徴とする放熱性の優れたプリント配線板用銅張積層板。
【請求項2】 Fe含有量に対するCr含有量の比が5.5〜13.5%である請求項1記載のプリント配線板用銅張積層板。
【請求項3】 合金成分として、さらにZr、Si、Ni、Zn、Sn、Nb、P、La、Ce、Y、V、Ca、Be、MgおよびHfの1種または2種以上を合計で0.005〜8重量%、CおよびBの1種または2種を合計で0.005〜2重量%含有する請求項1記載のプリント配線用銅張積層板。
【請求項4】 有効量の請求項1,2または3に記載の合金を溶解、造塊後700〜1000℃の温度範囲で板厚1.0〜8mmの金属板に熱間圧延し、次に該金属板を圧下率50〜95%で一次冷間圧延を行い、引続き450〜1000℃の温度範囲で焼鈍した後0.05〜5,000℃/分の冷却速度で急冷し、次いで圧下率5〜85%で二次冷間圧延を行い、しかる後150〜650℃の温度範囲で時効処理を施して鉄銅合金薄板を形成し、該薄板の上面に樹脂絶縁層を積層し、さらにその上面に銅箔を積層したことを特徴とする放熱性の優れたプリント配線板用銅張積層板の製造方法。

【公開番号】特開平6−104543
【公開日】平成6年(1994)4月15日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−253062
【出願日】平成4年(1992)9月22日
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)